説明

仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法

【課題】仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法を提供する。
【解決手段】仕上塗材に対する測定から得られる当該仕上塗材の厚さdとCO2拡散係数Dfを用い、下記式(2)により仕上塗材の中性化抵抗値Rを求めて、中性化深さxを予測する。


A:コンクリートの中性化速度係数(既知)t:材齢


c:コンクリートのCO2拡散係数(既知)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背景技術のように、仕上塗材を施したコンクリート試験体を用意し、これを扱って劣化処理および中性化促進試験を施工し、さらに試験体の中性化深さを実測するという煩雑な作業を行うことなく、より簡便に実施することが可能な仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法として、特許文献1が知られている。特許文献1は、仕上塗材の全塗厚に仕上塗材中に含まれる樹脂成分の割合を乗じたものである樹脂塗膜厚さの異なる各種仕上塗材を施した各コンクリート試験体を用意し、この各試験体に各仕上塗材の材齢に相当する劣化を与えた後、この劣化を与えた各試験体に対し各材齢に相当する中性化促進試験を行って各材齢及び各樹脂塗膜厚さでの中性化深さを測定する工程と、測定した中性化深さに基づき、下記の式(A)により各材齢及び各樹脂塗膜厚さでの中性化抵抗を求出する工程と、求出した中性化抵抗に基づき、単位樹脂塗膜厚さ当たりの中性化抵抗と材齢の関係を直線近似式で表しておく工程と、中性化深さを予測すべきコンクリート構造物の仕上塗材の樹脂塗膜厚と材齢を測定する工程と、測定された仕上塗材の樹脂塗膜厚と材齢とから上記直線近似式に基づいて中性化抵抗を求める工程と、求められた中性化抵抗を基に下記式(A)によりコンクリート構造物の中性化深さを予測するコンクリート構造物の中性化深さの予測方法である。
【0003】
【数3】

【0004】
上記式(A)において、C:中性化深さ(mm)、t:材齢、A0:仕上げなしの場合のコンクリート構造物の中性化速度係数、R:中性化抵抗である。
【0005】
特許文献1では少なくとも、(イ)各種仕上塗材を施した各コンクリート試験体を用意する、(ロ)各試験体に各仕上塗材の材齢tに相当する劣化を与える、(ハ)劣化を与えた各試験体に対し各材齢tに相当する中性化促進試験を行う、(ニ)中性化促進試験を行った各試験体に対し、各材齢t及び各樹脂塗膜厚さでの中性化深さCを測定する、(ホ)測定した中性化深さCに基づき、式(A)により各材齢t及び各樹脂塗膜厚さでの中性化抵抗Rを求出する、ようにしていた。
【特許文献1】特許第4039992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1にあっては、中性化抵抗Rを求めるにあたり、試験体に対し中性化促進試験を実施し、実際に試験体の中性化深さCを測定し、これを式(A)に算入するようにしていた。このため、仕上塗材を施したコンクリートの試験体を用意する必要があった。またこの試験体を扱って、劣化処理を行う必要があった。さらに、これら試験体に対し、大掛かりな中性化促進試験を行う必要があった。さらに、その後、中性化深さCを実測する作業も必要であった。以上のことから、中性化抵抗Rを求める作業が極めて煩雑なものであった。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、背景技術のように、仕上塗材を施したコンクリート試験体を用意し、これを扱って劣化処理および中性化促進試験を施工し、さらに試験体の中性化深さを実測するという煩雑な作業を行うことなく、より簡便に実施することが可能な仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法は、下記式(1)により、仕上塗材が施されたコンクリートの中性化深さxを予測する方法において、上記仕上塗材に対する測定から得られる当該仕上塗材の厚さdとCO2拡散係数Dfを用い、下記式(2)により仕上塗材の中性化抵抗値Rを求めて、上記中性化深さxを予測することを特徴とする仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法。
【0009】
【数4】

A:コンクリートの中性化速度係数(既知)
t:材齢
【0010】
【数5】

c:コンクリートのCO2拡散係数(既知)
【0011】
前記仕上塗材の前記厚さdが、樹脂塗膜厚さであることを特徴とする。
【0012】
前記仕上塗材のCO2拡散係数Dfは、前記材齢tに相当する劣化を与えたときの値であることを特徴とする。
【0013】
所定厚さの前記仕上塗材の試験体を作成し、該試験体に前記材齢tに相当する劣化を与え、その後、濃度の異なるCO2雰囲気の間に上記試験体を設置し、CO2が時間経過に伴って該試験体を透過することによるCO2雰囲気の濃度変化を測定し、これら濃度変化と経過時間から上記仕上塗材のCO2拡散係数Dfを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法にあっては、背景技術のように、仕上塗材を施したコンクリート試験体を用意し、これを扱って劣化処理および中性化促進試験を施工し、さらに試験体の中性化深さを実測するという煩雑な作業を行うことなく、より簡便に、仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[1] 理論的検討による、仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測式の導出について
【0017】
二酸化炭素は、仕上塗材および中性化したコンクリート中を、フィックの第一法則に従って拡散していくと仮定して、以下の検討を行った。図1には、仕上塗材が施されたコンクリートの中性化進行のモデル図が示されている。材齢tにコンクリートの表面から深さxの位置まで中性化が進行した定常状態において、深さ方向に直角な面を面積Sとすると、Δt時間当たりに仕上塗材を拡散してコンクリート表層部に達する二酸化炭素の量ΔCO2は、下記式(3)で、また、Δt時間当たりに中性化したコンクリート中を拡散して深さxに達する二酸化炭素の量ΔCO2は、下記式(4)で表される。そして、中性化領域を拡散してきた二酸化炭素が、厚さΔxの境界領域に存在するCa(OH)2と瞬時に反応してCaCO3になるときに消費される二酸化炭素の量ΔCO2は、下記式(5)で表される。
【0018】
【数6】

ここに、
o:仕上塗材表面のCO2濃度
C’:コンクリート表面のCO2濃度
f:仕上塗材のCO2拡散係数
c:コンクリートのCO2拡散係数
d :仕上塗材の厚さ
x :中性化深さ
t :材齢
S :面積
H :コンクリートの単位体積あたりのCa(OH)2
Δx:境界領域の厚さ
Δt:微小時間
【0019】
式(3)〜式(5)より、C’,Sを消去して整理すると、下記式(6)が得られる。
【0020】
【数7】

【0021】
Δt→0とすれば、下記の微分方程式(式(7))が得られる。
【0022】
【数8】

【0023】
式(7)の両辺を積分して整理すると、下記式(8)が得られる。
【0024】
【数9】

ここで、
【0025】
【数10】

【0026】
とすると、中性化深さxの予測式は、下記式(1)によって表される。
【0027】
【数11】

ここに、Aはコンクリートの中性化速度係数、Rは中性化抵抗値である。
【0028】
図1のモデルから検討した上記式(1)より、仕上塗材が施されたコンクリートの中性化深さxは、理論的にも中性化期間(材齢:t)との間に√t則が成り立ち、拡散理論からも仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さxは式(1)で表すことが可能であることが分かった。この式(1)は、背景技術で述べた式(A)と合致する。従って、図1のモデルおよびこれより式(1)を導いた理論的検討は、妥当である。
【0029】
[2] [1]の理論的検討に基づく、仕上塗材の中性化抵抗値Rの算出式の導出について
【0030】
式(1)の中性化抵抗値Rは、上記[1]で当該式(1)を導出する際の中間式である、式(9)および式(10)より、CO,Hを消去して整理することで、下記式(2)で表される。
【0031】
【数12】

【0032】
すなわち、中性化抵抗値Rは、コンクリートの中性化速度係数AとCO2拡散係数Dc、および仕上塗材の厚さdおよびCO2拡散係数Dfから求めることができる。
【0033】
[3] [2]の仕上塗材の中性化抵抗値Rの算出式の検証について
【0034】
仕上塗材のCO2拡散係数Dfを測定し、測定対象の仕上塗材の厚さd、コンクリートのCO2拡散係数Dc(コンクリート種別ごとに既知:別途実測してもよい)、並びにコンクリートの中性化速度係数A(コンクリート種別ごとに既知:別途実測してもよい)を用いて、[2]で得た上記式(2)より中性化抵抗の理論値Rを求め、既往の促進中性化試験から得られている中性化抵抗の実験値との比較検討を行い、[1]の拡散理論による中性化進行モデルの理論的検討、並びにそれより得られた[2]の式(2)が妥当であることが、以下の検証により判明した。
【0035】
[3−1] 検証のための測定方法
[A] CO2拡散係数測定装置
今回、仕上塗材の二酸化炭素の拡散係数Dfを測定するための装置を新たに考案し、製作した。装置の概要を図2に示す。装置の仕様、測定条件を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
測定装置1は、一定濃度の二酸化炭素養生槽(外装チャンバ)2内に、測定対象の試験体(基板)3を取り付けて密閉したチャンバ(測定チャンバ)4を設置し、その測定チャンバ4内の二酸化炭素濃度の時間変化を測定するものである。外装チャンバ2の二酸化炭素濃度は、使用するCO2ガスボンベ5の濃度(N2ベースでCO23000ppm)と外装チャンバ2の容量から一定濃度が維持できる2300ppmに設定した。ガスボンベ5からは外装チャンバ2へ、ガスを一定(100ml/min)供給する。外装チャンバ2内には、内部濃度の管理用として、CO2濃度計6を設ける。
【0038】
測定チャンバ4内の二酸化炭素の濃度は、屋外と同程度の濃度範囲である500ppmから600ppmまでを対象とした。測定チャンバ4内のガスを循環させる経路7を設け、この経路7の途中に、測定チャンバ4内の濃度測定用としてCO2濃度計8を設ける。これにより、濃度の異なるCO2雰囲気の間に設置された試験体3を、CO2が時間経過に伴って透過することによるCO2雰囲気の濃度変化が測定される。
【0039】
仕上塗材を施す下地は、仕上塗材からCO2拡散係数Dfを直接得るため、透気性が仕上塗材より極めて大きく、仕上塗材の施工に不具合がなく、かつ、仕上塗材の促進劣化環境下において不具合が生じないことが必要条件となる。そこで、図3に示すように、仕上塗材9の下地には透気性の大きいメッキシート10を用いた。メッキシート10単体では剛性が乏しいため、開口部11を設けたアクリル板12にメッキシート10を貼り付けて仕上塗材9を施し、それを試験体(基板)3とした。
【0040】
上記測定の適否を検証するため、コンクリートのCO2拡散係数Dcも測定した。コンクリートのCO2拡散係数Dcについては、これまで実施されてきた実験で、コンクリート表層部をモルタル板で模擬しているため、この測定でも、コンクリート表層部を模擬したモルタル板で行った。コンクリートCO2拡散係数Dcの測定も、モルタル板を測定チャンバに直接取り付けて行った。
【0041】
測定チャンバ内の気密性については、開口部を設けていないアクリル板を測定チャンバに取り付けて事前確認を行った。
【0042】
[B] 試験体
[a] 仕上塗材
仕上塗材の種類と仕上塗材に与える化学的劣化の水準を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
仕上塗材は、これまで実施されてきた実験で使用されたことのあるものと同じとし、複層塗材(AT)、防水形外装薄塗材(SE)、防水形複層塗材(ET)の3種類とした。仕上塗材には、中性化の抑制効果に対して大きく影響を及ぼす化学的劣化を与えることとし、仕上塗材を施して、7日間20℃気中養生した後、キセノンウェザーメータを用いて劣化を行った。キセノンアーク照射時間は1500時間と3000時間とし、同一条件の試験体数は各2体とした。なお、これまで実施されてきた実験では、化学的劣化にサンシャインウェザーメータが使用されているが、JIS A 6909の改定により耐候性試験に用いる試験装置がサンシャインウェザーメータからキセノンウェザーメータ(JIS A 6909:2003)に変更されたため、本測定では、キセノンウェザーメータを使用した。
【0045】
仕上塗材の平均塗膜厚さと、塗膜のうち仕上塗材に含まれる樹脂質量分に相当する塗膜厚さ(以下、樹脂塗膜厚さという)を表3に示す。各仕上塗材の塗膜厚さdについては、これまで実施されてきた実験の場合と同様に、標準塗りの1/2とし、複層塗材(AT)の主材も省略した。
【0046】
【表3】

【0047】
[b] モルタル板
モルタル板の形状は70×150mm、厚さは5mmとした。モルタル板は厚さが薄くブリージングの影響を大きく受けてモルタル板全体の平均の水セメント比が小さくなるため、水セメント比60%のコンクリートの圧縮強度、細孔径分布とほぼ同等となるよう、モルタル板の水セメント比は68%とした。
【0048】
モルタル板の試験体数は2体とし、打ち込み後材齢4週まで標準水中養生し、その後温度20±2℃、相対湿度60±5%で養生した。CO2拡散係数測定前に、温度20±2℃、相対湿度60±5%、CO2濃度5±0.2%の条件下で26週間促進中性化を行い、全断面を中性化させた。
【0049】
[C] 化学的劣化方法について
キセノンウェザーメータの仕様等を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
キセノンアーク照射による仕上塗材の劣化程度を確認するため、仕上塗材の色差と光沢を照射250時間毎に測定した。色差は測色色差計を用いて、Lab法により、L***表色系からΔE*abを求めた。測定は3点行い、3点の平均値から色差を求めた。光沢は光沢計を用いて60°鏡面光沢度を5点測定し平均値から光沢を求めた。
【0052】
[3−2] 測定結果
[A] 仕上塗材の化学的劣化
化学的劣化における仕上塗材の色差の推移と、光沢保持率の推移を図4および図5に示す。色差は照射時間が長くなるとともに増加し、光沢保持率においては複層塗材(AT、ET)では照射1500時間以降の変化は緩慢となったが、いずれの仕上塗材においてもキセノンアーク照射により減少する傾向がみられ、仕上塗材が劣化していることがうかがえた。
【0053】
[B] 測定結果に基づくCO2拡散係数の算出
材齢tに相当する劣化を与えた試験体である仕上塗材およびモルタル板のCO2拡散係数Df,Dcは、下記式(11)により算出することができる。すなわち、濃度変化と経過時間から試験体のCO2拡散係数D(Df、Dc)が算出される。
【0054】
【数13】

ここに、
D:試験体のCO2拡散係数(mm2/s)
ΔCO2:経過時間(材齢)tに測定チャンバ内に流入したCO2の量(g)
out:外装チャンバ内のCO2濃度(g/mm3
in:測定チャンバ内のCO2濃度(g/mm3
h:試験体の厚さ(mm)
A:試験体の面積(mm2
t:経過時間(材齢)(s)
【0055】
[a] 仕上塗材のCO2拡散係数Df
各仕上塗材毎のキセノンアーク照射時間と測定チャンバ内の濃度500ppmから600ppmまでの変化時間の関係を図6に示す。いずれの仕上塗材も照射時間が長いほど濃度変化に要する時間は短くなった。仕上塗材の種類の比較では、劣化なしにおいては防水形外装薄塗材(SE)が最も長く、次いで防水形複層塗材(ET)、複層塗材(AT)の順であった。照射3000時間では防水形外装薄塗材(SE)と防水形複層塗材(ET)はほぼ同等で、これらよりも複層塗材(AT)は濃度変化に要する時間は短かった。これは、複層塗材(AT)は総塗膜厚さが最も薄いことによると考えられる。
【0056】
上記式(11)を用いたCO2拡散係数Dfの算出結果として、キセノンアーク照射時間と総塗膜厚さから求めたCO2拡散係数Dfとの関係を図7に、樹脂塗膜厚さから求めたCO2拡散係数Dfとの関係を図8に示す。複層塗材(AT)、伸長形複層塗材主材仕上形(防水形外装薄塗材(SE)に相当)および伸長形複層塗材(防水形複層塗材(ET)に相当)のCO2拡散係数Dfについては、1.0〜60×10-7cm2/sとの報告がなされている。総塗膜厚さから求めた本測定に基づく算出結果の範囲は、劣化させた試験体を含め、2.1〜33.7×10-7cm2/sであり、報告されている範囲と同程度の範囲にあることが認められた。
【0057】
CO2拡散係数Dfは照射時間が長いほど概ね大きくなる傾向がみられた。すなわち、仕上塗材のCO2拡散係数Dfは、仕上塗材の劣化が進むほど大きくなる。樹脂塗膜厚さから求めたCO2拡散係数Dfは、総塗膜厚さから求めたCO2拡散係数Dfよりも各仕上塗材の差は小さくなる傾向であった。CO2拡散係数Dfについて、仕上塗材の種類にかかわらず、樹脂塗膜厚さで一様に評価できると考えられる。
【0058】
[b] モルタル板のCO2拡散係数Dc
測定チャンバ内の濃度500ppmから600ppmまでの変化時間およびCO2拡散係数Dcの算出結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
モルタルのCO2拡散係数Dcについては、1.5×10-4cm2/sとの報告がなされている。本測定に基づく算出結果は、ほぼ同等であることが認められた。
【0061】
[c] 測定結果に基づく中性化抵抗値Rの評価
上記測定による測定結果から算出された仕上塗材およびモルタル板のCO2拡散係数Df、Dcの算出結果を用いて、式(2)から、中性化抵抗値Rを算出した。当該中性化抵抗値Rと、既往の促進中性化試験から得られている中性化抵抗の実験値との比較を図9に示す。図9において、式(2)によるものを「中性化抵抗理論値」といい、促進中性化試験によるものを「中性化抵抗実験値」という。これら値が一致する傾き「1」の一次関数に隣接してプロットできていることが分かる。
【0062】
中性化抵抗理論値の計算には、樹脂塗膜厚さdを用い、コンクリートの中性化速度係数Aには、促進中性化試験より得られた既知の値を用いた。中性化抵抗実験値は、サンシャインウェザーメータにより劣化させた仕上塗材で覆ったコンクリートの促進中性化試験の結果から、式(1)を用いて、逆算したものである。なお、促進中性化試験において中性化深さxが極めて小さいものは除外した。
【0063】
図9から、中性化抵抗値は、10〜15√週以下の範囲において、理論値が実験値と一致する傾向にあることを検証できた。一方、15√週を超える中性化抵抗値が大きい範囲においては、理論値と実験値に差がみられる。
【0064】
ここで、中性化抵抗値と中性化深さの関係を図10に示す。中性化抵抗値は、中性化率が小さいほど、数値変化が大きくなる特性を有している。中性化率とは、「仕上塗材の無いコンクリートの中性化深さに対する、仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの比」をいう。中性化抵抗値が大きい、すなわち、仕上塗材が施されていないコンクリートの中性化に比べて、仕上塗材が施されたコンクリートの中性化深さが小さい場合、このとき実験値から中性化抵抗値を算出すると、中性化抵抗値は、仕上塗材が施されたコンクリートの僅かな中性化の変動で、大きく数値が変動する。中性化抵抗の実験値は、中性化抵抗の大きい範囲において変動が生じやすく、そのため、理論値との差が生じたと考えられる。
【0065】
中性化抵抗値が小さいほど、中性化進行への影響が大きくなるため、仕上塗材を施したコンクリートの中性化進行を予測する上では、中性化抵抗値が小さい範囲での予測精度が重要である。
【0066】
データの変動が小さい、すなわち、データの信頼性が大きいと考えられる中性化抵抗値が小さい範囲の10〜15√週以下において、上記図1のモデルの検討より、上記測定に基づいて算出した仕上塗材のCO2拡散係数Dfの値から上記式(2)より得た中性化抵抗値Rは、従来の促進中性化試験で得られた中性化抵抗値と一致するので、仮定した上記の中性化進行モデルが立証された。また、上記測定により求めた仕上塗材のCO2拡散係数Dfから、仕上塗材を施したコンクリートの中性化進行を予測することができる。
【0067】
本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法は、仕上塗材の二酸化炭素の拡散性に着目し、本願発明者が提示した拡散理論に基づく仕上塗材を施したコンクリートの中性化進行モデルと、当該モデルに基づく理論式の導出過程で得られた仕上塗材の拡散係数と中性化抵抗値との関係式(式(2))に基づくものである。
【0068】
二酸化炭素の拡散が定常状態の場合、仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さxは、中性化期間との間に√t則が成立するとの前提で、既知のコンクリートの中性化速度係数A、既知のコンクリートのCO2拡散係数Dc、仕上塗材のCO2拡散係数Dfおよび仕上塗材の塗膜厚さdとから求めることができる中性化抵抗値Rにより、予測することができる。
【0069】
仕上塗材のCO2拡散係数Dfは、上記測定方法に基づいて、式(11)から求めることができ、これにより、仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さを予測することができる。
【0070】
以上説明したように、本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法にあっては、設定される仕上塗材の厚さdとCO2拡散係数Dfのみを測定し、これを式(2)に算入して中性化抵抗値Rを求めることができるので、中性化深さxを簡単に予測することができる。すなわち、中性化進行の理論モデルから式(2)を特定したことで、仕上塗材単独の劣化試験を行って、主としてそのCO2拡散係数Dfを測定すればよく、予測作業を容易化することができる。従って、背景技術のように、仕上塗材を施したコンクリート試験体を用意し、これを扱って劣化処理および中性化促進試験を施工し、さらに試験体の中性化深さを実測するという煩雑な作業を行うことなく、より簡便に仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さを予測することができる。
【0071】
本発明によれば、新設のコンクリート構造物の経年による中性化深さを予測して長期での補修計画を立てたり、既存のコンクリート構造物の中性化の状態を予測して補修を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法の好適な一実施形態における仕上塗材が施されたコンクリートの中性化進行のモデル図である。
【図2】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法に使用される拡散係数測定装置の一例を示す概略図である。
【図3】図2の測定装置に適用される試験体を示す概略平面図である。
【図4】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法で適用される化学的劣化の一例における仕上塗材の色差の推移を示すグラフ図である。
【図5】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法で適用される化学的劣化の一例における仕上塗材の光沢保持率の推移を示すグラフ図である。
【図6】図2の測定装置で行った仕上塗材における照射時間と濃度変化時間の関係を示すグラフ図である。
【図7】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法の好適な一実施形態における式(11)により、照射時間と仕上塗材の総塗膜厚さから求めたCO2拡散係数との関係を示すグラフ図である。
【図8】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法の好適な一実施形態における式(11)により、照射時間と仕上塗材の樹脂塗膜厚さから求めたCO2拡散係数との関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明にかかる仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法の好適な一実施形態における式(2)から求めた中性化抵抗理論値と既往の促進中性化試験で得られている中性化抵抗実験値との比較を示すグラフ図である。
【図10】中性化抵抗値と中性化深さ(中性化率)との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0073】
1 CO2拡散係数測定装置
2 二酸化炭素養生槽(外装チャンバ)
3 試験体(基板)
4 チャンバ(測定チャンバ)
5 ガスボンベ
6 CO2濃度計
7 経路
8 CO2濃度計
9 仕上塗材
10 メッキシート
11 開口部
12 アクリル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)により、仕上塗材が施されたコンクリートの中性化深さxを予測する方法において、
上記仕上塗材に対する測定から得られる当該仕上塗材の厚さdとCO2拡散係数Dfを用い、下記式(2)により仕上塗材の中性化抵抗値Rを求めて、上記中性化深さxを予測することを特徴とする仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法。
【数1】

A:コンクリートの中性化速度係数(既知)
t:材齢
【数2】

c:コンクリートのCO2拡散係数(既知)
【請求項2】
前記仕上塗材の前記厚さdが、樹脂塗膜厚さであることを特徴とする請求項1に記載の仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法。
【請求項3】
前記仕上塗材のCO2拡散係数Dfは、前記材齢tに相当する劣化を与えたときの値であることを特徴とする請求項1または2に記載の仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法。
【請求項4】
所定厚さの前記仕上塗材の試験体を作成し、該試験体に前記材齢tに相当する劣化を与え、その後、濃度の異なるCO2雰囲気の間に上記試験体を設置し、CO2が時間経過に伴って該試験体を透過することによるCO2雰囲気の濃度変化を測定し、これら濃度変化と経過時間から上記仕上塗材のCO2拡散係数Dfを算出することを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載の仕上塗材を施したコンクリートの中性化深さの予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−32362(P2010−32362A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194835(P2008−194835)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】