説明

仕口部材とこれを用いた仕口構造、並びに鉄骨建築物

【課題】 建築物全体の強度を一層高めるために、より正確かつ強固な仕口構造を提供すること
【解決手段】 鉄骨柱に対して鉄骨梁を固定する為の仕口部材であって、タイコ部材を含む筒状の鋼材と、当該筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起すると共に筒状の鋼材の軸方向に延伸するガゼットプレートと、同じく当該筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起して前記ガゼットプレートに直交する向きに延伸する支持プレートとからなる仕口部材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組立て車庫や物置などとして利用可能な鉄骨建築物に関し、特に出入り口となる間口幅を広く確保しながらも、強度を高めた鉄骨建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車庫やガレージには車両の出入り口となる開口部(間口)が設けられており、この開口部が大きければ車両の出入りが容易になり、また車両を並列駐車させておくことが可能になる。そして車両を間口に直交する向きに並べることにより、車両の入れ替えなしに出入りが可能になることから、望ましいものとなる。
【0003】
一方、車庫の間口が大きくなれば、その分、梁の強度も上げることが必要になる。そこで従来では、耐震性を高めるために柱や梁の断面(柱や梁が延びる方向に対する横断面)を大きくすることで、その開口部を補強したり、柱を多く設置したりすることで耐震性や強度を高めることが行われていた。
【0004】
例えば特許文献1(特開2009−121171号公報)では、補強部材を設けて開口部を補強して耐震性を高めるにもかかわらず、その補強部材によって開口部の有効性が失われることのない建物が提案されている。この特許文献に開示されている建物は、屋内外を連通する開口部と、該開口部の幅方向の両側で鉛直方向に立設された柱材と、該柱材の間に架設され、各柱材に連結された梁材と、を備えた建物において、前記開口部の周辺領域に配置され、地震等により建物が振動すると前記開口部に出現して当該開口部を補強する開口部補強手段を設けたことを特徴とする建物が提案されている。
【0005】
また特許文献2(特開平6−294229号公報)では、剛性が高く、かつ間口幅が広い車庫ユニットが提案されている。この車庫ユニットは、骨組構造体からなる車庫ユニットにおいて、床梁と柱と屋根梁とからなる左右の壁組部と、屋根梁からなり左右の壁組部の上端部間に架け渡される屋根組部とを有し、左側壁組部を構成している柱の上端寄り中間部と、右側壁組部を構成している柱の上端寄り中間部との間に補助梁を架け渡してなる車庫ユニットとなっている。このような構成の車庫ユニットでは、車庫側方からの水平力に対し、車庫間口面に位置する左右の柱と屋根梁と補助梁とが四角枠組を構成して剛性を向上し得るものとなり、左右の柱の下端部に張出し梁を設けていないので、広い車庫間口幅を確保でき、更に、補助梁は左右の柱の上端寄り中間部に接合され、車庫天井寄りに位置するものであるから、車庫スペースを狭くする虞れがないものとなっている。
【0006】
さらに鋼材を用いて車庫やガレージなどの建築物を製造する場合、その仕口構造は建築物自体の強度を高める上で重要である。このような鉄骨造の柱と梁を接合する仕口構造は、従前においても種々考案、発明されているが、特に特許文献3(特公平1−23616号公報)では、柱の壁面と接合する基版の左右両側にそれぞれフランジを設け、これら両側のフランジ部及び基版の背部に梁のフランジと重合する水平張出板を突設し、この水平張出板に梁のフランジを接合するためのボルト孔を設けると共に、両側のフランジ部にも隣接する接合金物との連結用ボルト孔を設けてなる接合金物により、柱と梁を接合する方法が提案されている。
【0007】
また特許文献4(特開平8−177121号公報)では、鉄骨造の柱と梁の仕口構造に於いて、高力ボルトを電動レンチで締めつけるのに支障がなく、重量のある接合部が工場で施工できる、接合金物と柱のメタルタッチによる組立精度の不安を解消する、中低層建造物から高層建造物まで適用出来る鉄骨造の柱と梁の仕口構造を提供するべく、鉄骨柱とH形断面の梁を接合する場合、梁のフランジを接合しようとする柱の部位に、八角形の水平ダイアフラムを設け、梁のウエブを接合しようとする柱の部位に、ブラケットを設け、前記水平ダイアフラムにH形断面の梁のフランジを、前記柱に設けたブラケットに前記H形断面の梁のウエブを接合してなることを特徴とした鉄骨造に於ける柱と梁の仕口構造を主旨とするが、この構成のバリエーションは種々ある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−121171号公報
【特許文献2】特開平6−294229号公報
【特許文献3】特公平1−23616号公報
【特許文献4】特開平8−177121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、鉄骨構造物における仕口構造については種々検討されているが、未だに鉄骨柱にブラケットを溶接し、これに鉄骨梁を、スプライスプレートを添えてボルトで締結することにより行われているのが実情である。このような従前の方法では、現場での施工性から一定の寸法公差を設定しなければならず、これが建築物全体の歪みや変形を生じさせてしまい、強度上の問題を招来していた。
【0010】
そこで本発明は、建築物全体の強度を一層高めるために、より正確かつ強固な仕口構造を構成する仕口部材と、これを使用した鉄骨建築物を提供することを第1の課題とする。
【0011】
また、車両の出入りを容易にする上では、間口は広く、しかも壁面側以外には柱が存在しないことが望ましい。しかしながら、これを実現するためには、少なからず梁の強度が要求され、その結果、梁が大きくなってしまい、必要以上に屋根高が高くなってしまうことになる。また、太い梁を使用した場合であっても、梁が存在する水平面上の空間は、所謂デッドスペースとなってしまい、屋内空間の無駄が生じていた。
【0012】
そこで本発明では、広い間口を確保した上で、十分な強度とし、更に屋内における空間の無駄を極力減じることのできる鉄骨建築物を提供することを第2の課題とする。
【0013】
また、車庫の間口を広くし、柱を減じた場合には、積雪地帯などにおいては屋根に降り積もった雪の重みで変形してしまうことも考えられる。特に降り積もった雪は、車庫の軒先側に垂れ下がるように降り積もることから、軒先側の剛性を高める必要がある。
【0014】
そこで本発明は、積雪時における加重配分を考慮したうえで、全体の高さを低く抑えながらも間口の高さを十分に確保し、更に十分な強度を確保した鉄骨建築物を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、鉄骨柱にブラケットを溶接し、これにスプライスプレートで鉄骨梁を固定するといった従前の方法を根本的に見直し、新規な仕口部材を使用した仕口構造とすることにより、より正確かつ強固な建築物を提供するものである。
【0016】
即ち、本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決するために、鉄骨柱に対して鉄骨梁を固定する為の仕口部材であって、タイコ部材を含む筒状の鋼材と、当該筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起すると共に筒状の鋼材の軸方向に延伸するガゼットプレートと、同じく当該筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起して前記ガゼットプレートに直交する向きに延伸する支持プレートとからなる仕口部材を提供する。
【0017】
かかる仕口部材においては、鉄骨梁を支持プレートで受け、受けた鉄骨梁を支持プレートやガゼットプレートにボルト(望ましくは高力ボルト)で締結することにより、確実に、所定の場所に鉄骨梁を連結することができる。この時、従前における鋼材は、ブラケットなどを介して鉄骨柱に連結されることから、結果として鉄骨柱に対して正確に鉄骨梁を固定することができ、しかも両者の一体化は強固なものとなることから、この仕口部材を使用した建築物自体の強度を高めることができる。
【0018】
そこで本発明では、上記本発明にかかる仕口部材を用いて形成された仕口構造を提供する。かかる仕口構造は、前記仕口部材における筒状の鋼材の下端にブラケットが設けられると共に、当該ブラケットは鉄骨柱の上端に一体化されており、前記仕口部材における支持プレート上には鉄骨梁が載っていると共に、当該鉄骨梁は、少なくとも当該支持プレートと一体化されている仕口構造である。
【0019】
かかる仕口構造において、筒状の鋼材の上に屋根材が設けられる場合などにおいては、当該筒状の鋼材の上端にはエンドプレートが設けられることが望ましい。その際、当該筒状の鋼材内にボルトやナットを設ける必要がある場合には、当該エンドプレートには、作業者が筒状の鋼材内に手を入れられる程度の開口を設けておくことが望ましい。
【0020】
そして本発明では、前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、鉄骨柱と鉄骨梁とを具備する鉄骨建築物であって、当該鉄骨柱と鉄骨梁とは、上記仕口構造を採用して一体化している鉄骨建築物を提供する。
【0021】
かかる鉄骨建築物は、正確に隙間なく鉄骨柱と鉄骨梁とを結合することが可能であることから、建築物全体に歪みが発生する可能性は減じられ、その結果、強度が増し、変形しにくく、強度の高い鉄骨建築物が実現する。
【0022】
また、特に組立て車庫として利用される鉄骨建築物である場合、車両の駐車台数を確保し、さらに車両の止めやすさを追及して間口を広くしたとすると、長年の使用により間口幅の中央付近が垂れ下がることことから、上記本発明の鉄骨建築物において、ハンチ材により鉄骨梁を部分的に補強することが望ましい。
【0023】
よって、本発明は上記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明は屋内外を連通する間口部と、該間口部の幅方向の両側で鉛直方向に立設された鉄骨柱と、該鉄骨柱の間に架設されて各鉄骨柱に連結された鉄骨梁とを備えた鉄骨建築物において、当該鉄骨梁の下面の長さ方向中央部分には、当該鉄骨梁に沿って延伸する板状、棒状または柱状であって、且つ間口幅の30%以上、80%未満の長さを有するハンチ材が、当該鉄骨梁の下面に添うように設けてなる鉄骨建築物を提供するものである。
【0024】
鉄骨建築物が特に組立て車庫である場合、当該車庫に対する車両の出し入れを容易にするためには、間口部分に柱が存在しないことが望ましい。また柱を設けないで間口幅中央付近における屋根の垂れ下がりを阻止するためには、鉄骨梁自体の強度を上げることが望ましい。しかしながら、梁の強度を上げるために太い鉄骨梁を使用したのでは、今度は間口の高さが十分ではなく、荷物を積載したトラックなどの入庫が困難になってしまう。
【0025】
そこで本発明では、鉄骨梁の中央部分だけをハンチ材により補強して、中央部分が垂れ下がることを抑止し、その上で鉄骨建築物の両側は十分な間口高を確保することで、荷物を積載した車両など、社交の高い車両であっても進入可能な鉄骨建築物(特に組立て車庫)にしたものである。
【0026】
このようなハンチ材の長さを間口幅の30%以上、80%未満とすることにより、少なくとも鉄骨梁の中央部分30%以上は補強されることになり、またハンチ材が設けられていない領域、すなわち間口の高さの上限が鉄骨梁までである領域を間口の両側に10%程度以上に確保することができる。これにより、間口の両側には、ハンチ材によりさえぎられない領域が確保されていることから、車両の入庫に際して、間口高さを最大限に利用することが可能になる。例えば、車庫として利用される鉄骨建築物の間口が車両3台分入庫可能な幅(約8m)である場合には、当該ハンチ材の長さを約2.5m以上に設定することが望ましく、このように形成することにより、3台のうち、両側2台分の収納スペースはハンチ材による高さ制限を受けない鉄骨建築物(特に組立て車庫)が完成する。また、車庫として利用される鉄骨建築物の間口が車両2台分入庫可能な幅(約5m)である場合には、当該ハンチ材の長さを約1.5m以上に設定することにより、収納される車両幅の半分以上はハンチ材による高さ制限を受けないようにすることができる。
【0027】
そして上記鉄骨建築物においては、前記ハンチ材の長さ方向両側が、楔状又は傾斜面を湾曲させた楔状に形成されていることが望ましい。即ち、ハンチ材は全体として鉄骨梁に添設され、その長さ方向両側は間口正面から見た高さを減じる向きに直線状または曲線状に傾斜して形成されることが望ましい。車両の間口に沿って配設される鉄骨梁に対する曲げ応力は長さ方向の中央部分に集中することから、この部分を補強するとともに、間口の左右両側においては、徐々に当該応力を減衰できるようにしたものである。そしてハンチ材をこのように形成した場合には、仕口構造を構成するガゼットプレートの下側が、楔状又は傾斜面を湾曲させた楔状に形成されていることが望ましい。ガゼットプレートの下方と、ハンチ材の長さ方向の両側を徐々に薄く形成することにより、楔状又は傾斜面を湾曲させた楔状が向かい合うことになり、見た目において意匠的な効果を発現させることが可能になる為である。
【0028】
そして上記本発明にかかる鉄骨建築物では、鉄骨梁の上面に、間口の開口する向きに凹凸が出現する折板からなる屋根材が設けられることが望ましい。屋根材として折板を使用することにより、積雪など屋根に対する加重を鉄骨梁に伝えることができ、間口に沿って延伸する鉄骨梁によって屋根材を確実に保持することができるためである。そして、このように設けた折板においては、正面側、即ち間口から見た時にも折板の凹凸が見えないように、当該屋根材の側面を包囲して鼻隠材を設けることが望ましい。そしてかかる当該鼻隠材は縦断面形状が弓状であって、高さ方向中央部分に内側に向かう凹部が形成されていることが望ましい。このような形状の鼻隠部材を使用することにより、鼻隠部材の厚さ(板厚)方向に対する曲げ強度を高めることができる。即ち、弓形に形成することにより、ある程度の曲げ強度が得られ、更に高さ方向の中央付近を、鼻隠部材の長さ方向に、内側に凹ませることにより、より強い曲げ強度を確保することができる。また鼻隠部材をこのような形状に形成することにより、鼻隠部材の延伸方向に溝が形成され、全体として意匠上の創作性も向上することができる。
【0029】
そして、上記本発明にかかる鉄骨建築物を構成する鉄骨柱や鉄骨梁などは、H鋼、L字鋼、溝形鋼、I形鋼、平鋼、鉄パイプなどを使用することができ、特に鉄骨梁には、H鋼、溝形鋼、I形鋼などを使用することができる。
【0030】
また本発明にかかる仕口部材、仕口構造およびこれを用いた鉄骨建築物は、特に柱と梁、壁、屋根などでつられた、自動車を収める為の車庫(ガレージ)である場合に、より有効に作用効果を奏することができ、柱と梁と屋根とで構成される簡易な建築物であるカーポートにおいても有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、タイコ部材等のような筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起するガゼットプレートを当該登場の鋼材の軸方向に延伸するように設け、更にこのガゼットプレートに直交する向きに延伸する支持プレートを設けた仕口部材が提供され、その結果、より正確かつ強固な仕口構造が実現し、建築物全体の強度を一層高めることができる。
【0032】
また、鉄骨梁の下面に、間口幅の30%以上、80%未満の長さを有するハンチ材を一体化することにより、十分に広い間口幅を確保しながらも、必要以上に屋根高が高くなってしまったり、梁が存在する水平面上の空間がデッドスペースになったりする事態をなくして、十分な強度を確保した鉄骨建築物が実現する。
【0033】
さらに、屋根材の側面を包囲する鼻隠材を、縦断面形状が弓状であって、高さ方向中央部分に内側に向かう凹部が形成されたものとすることにより、この鼻隠材自体の歪みや変形も解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施の形態にかかる組立て車庫を示す(A)正面図、(B)背面図
【図2】本実施の形態にかかる組立て車庫に使用する仕口部材の、(A)正面図、(B)背面図、(C)左側面図、(D)右側面図、(E)平面図、(F)底面図
【図3】図2の仕口部材を用いた仕口構造を示す(A)分解図、(B)側面図
【図4】他の例における仕口構造を示す分解図
【図5】図1における5−5'要部断面図
【図6】鉄骨梁の下に設けられるハンチ材を示す斜視図
【図7】鼻隠材の設置状態を示す要部透視図
【図8】図1に示した組立て車庫において鼻隠材を外した状態を示す正面図
【図9】(A)図1に示した組立て車庫の右側面図、(B)図1に示した組立て車庫の鼻隠材を外した状態における右側面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の1つの実施の形態を説明する。特に本実施の形態では、鉄骨建築物として組立て車庫10の例を示しており、図1は本実施の形態にかかる組立て車庫10を示す(A)正面図、(B)背面図であり、図2は本実施の形態にかかる組立て車庫10に使用する仕口部材20であり、(A)正面図、(B)背面図、(C)左側面図、(D)右側面図、(E)平面図、(F)底面図であり、図3は図2の仕口部材20を用いた仕口構造を示す(A)分解図、(B)側面図であり、図4は他の例における仕口構造を示す分解図であり、図5は図1における5−5'要部断面図であり、図6は鉄骨梁30の下に設けられるハンチ材32を示す斜視図であり、図7は鼻隠材43の設置状態を示す要部透視図であり、図8は図1に示した組立て車庫10において鼻隠材43を外した状態を示す正面図であり、図9は(A)図1に示した組立て車庫10の右側面図、(B)図1に示した組立て車庫10の鼻隠材43を外した状態における右側面図をそれぞれ示している。なお、図1に示す組立て車庫の平面図と底面図は、他の図面から容易に理解でき、また重量物であるため省略している。
【0036】
図1及び9に示すように、この実施の形態に示す組立て車庫10は、特に車両を縦に3台駐車可能な間口幅で形成されており、図1(A)及び(B)に示すように、組立て車庫10の正面(間口)および背面の左右両側には、それぞれ鉄骨柱12を立設している。この鉄骨柱12は、本実施の形態では土中に埋設したベース11に設置しているが、このベース11は必ずしも組立て車庫10を構成するものではない。この鉄骨柱12としては、特に角形鋼管を使用するのが望ましいが、必ずしもこれに限ることなく、円形鋼管、H鋼、溝形鋼、あるいはリップ溝形鋼などを使用してもよい。
【0037】
そして、この組立て車庫10の各鉄骨柱12の上端には、本実施の形態にかかる仕口部材20を設け、この仕口部材20の間に鉄骨梁30を連結している。また、鉄骨梁30の左右略中央には、当該鉄骨梁30の変形を阻止するべく、斜面を湾曲させた略逆向き台形のハンチ材32を設置している。そして前後の鉄骨梁30の上には、折板からなる屋根材41を桁行き方向に架設しており、当該屋根材41の前後左右側面を包囲して鼻隠材43を設けている。以下、これらの構成を各図面を参照しながら具体的に説明する。
【0038】
図2は仕口部材20を示す6面図であり、この仕口部材20は鉄骨柱12の上端にダイヤフラム14などを介して設置され、鉄骨梁30を接合するためのものとして機能する部材である。特にこの実施の形態に示す仕口部材20は、角形鋼管を用いて形成されたタイコ部材13(鉄骨コラムとも称される)の側面に、当該タイコ部材13の長さ方向に沿って延伸するガゼットプレート15を突出させて設けており、更にこのガゼットプレート15に直交する向きに延伸する支持プレート16を突出させて設けている。このガゼットプレート15の延伸方向(上下方向)の何れの場所に支持プレート16を設けるかについては、当該支持プレート16で支持する鉄骨梁30の高さによって適宜設定することができる。本実施の形態においては、図2の正面と右側面にこのガゼットプレート15および支持プレート16を設けているが、これは当該仕口部材20を設置する鉄骨柱12が、組立て車庫10の四隅のいずれの位置の鉄骨柱12かによって変わることになる。図2に示すこの実施の形態において、正面に設けられる支持プレート16は、ガゼットプレート15の高さ方向の略中央に直交する向きで水平に設けられており、一方で側面に設けられる支持プレート16は、ガゼットプレート15の高さ方向の上方寄りに直交する向きで水平に設けられている。特に、このガゼットプレート15の下方は、曲線状に切り欠いて形成されている。これは組立て車庫10における全体意匠を考慮したものであり、直線状に斜めに切り欠いても良い。なお、この支持プレート16とガゼットプレート15とは、タイコ部材13に対して溶接などにより一体化することができる。また、支持プレート16とガゼットプレート15には、鉄骨梁30をボルトで締結するための孔17が設けられている。
【0039】
図3は、上記図2に示した仕口部材20を使用した仕口構造を示しており、この図に示すように煮、上記の仕口部材20は、鉄骨柱12の上端に溶接などによって設置されるダイヤフラム14の上に溶接などによって一体化されることになる。そしてこの仕口部材20の上に、更に鉄骨柱12を連結しない場合には、その上端にはエンドプレート18が溶接されることになる。そして、鉄骨柱12と一体化された仕口部材20には、鉄骨梁30が接続されることになるが、当該鉄骨梁30は支持プレート16の上に載せられた状態で、支持プレート16とガゼットプレート15に対してボルトにより締結される。これにより、鉄骨柱12と鉄骨梁30とは正確かつ強固に一体化されることになる。例えば、図1に示すように車両を3台収容可能な梁間間隔の組立て車庫において、その公差を2mm程度にすることができる。
【0040】
この図3においては、鉄骨梁30として溝形鋼が使用されているが、更に図4に示すようにH鋼を鉄骨梁30に使用することもできる。但し、H鋼を使用した場合には、そのフランジ部分の幅を十分に確保するのが困難であり、当該フランジ部をボルトで締結するだけで固定一体化するのは、作業上および強度上において工夫の余地がある。
【0041】
そこで、鉄骨梁30としてH鋼を使用する場合には、図4に示すように、ガゼットプレート15を遍心した位置に設けることが望ましい。図4においては、ガゼットプレート15を図面の奥側に変身させて手前側に広い面積を確保している。そしてH鋼の端面には平面プレート19をH鋼に溶接し、この平面プレート19をタイコ部材13に螺着することが望ましい。但し、このようにしてH鋼からなる鉄骨梁30をタイコ部材13に螺着する場合には、タイコ部材13内においてボルト又はナットの締結作業が必要になる。そこでこの実施の形態では、平面プレート19に、作業者がタイコ部材13内に手を入れる事ができる程度の開口21を設けている。
【0042】
図5は、上記のようにして鉄骨柱12の間に設けられた鉄骨梁30の下面に対するハンチ材32の設置状態を示す、図1の5−5'要部断面図である。この図に示すように、このハンチ材32も溝形鋼を用いて形成されており、両者はボルトにより、あるいは溶接によって一体化することができる。また、この図5に示すように、鉄骨梁30の上には、折板からなる屋根材41を設けており、この屋根材41の周面には鼻隠材43を設けている。
【0043】
図6は上記したハンチ材32を示す斜視図であり、本実施の形態におけるハンチ材32は、下面を長さ方向両端側に向かって放物線状乃至は曲線状に迫り上げるようにして、その高さを減じて形成しており、これが前記したガゼットプレート15の下側の曲線と向かい合うことで、組立て車庫10全体の意匠効果を高めている。なお、このようにハンチ材32の長さ方向両側に向かって薄くなるように形成していることで、鉄骨梁30の中央付近に発生する変形の為の応力を分散させ、これにより鉄骨梁30の一部に応力が集中する事態をなくすことができる。
【0044】
図7は前記図6に示したように、屋根材41の周りを囲む鼻隠材43の取り付け状態を示している。この実施の形態では、折れ板の尾根部分に、当該尾根と同じ向きに延伸するアングル22を固定し、このアングル22の先端に、更に当該アングル22に対して直交する四角柱の固定部材23を取り付け一体化する。この上下方向に立てて設置された固定部材23は弓状に湾曲している鼻隠材43の中に保持されており、当該鼻隠材43と固定部材23とは嵌め合い又は溶接などによって固定されている。これにより、この鼻隠材43は固定部材23およびアングル22を介して屋根材41に一体化されている。特に、この図7に示す鼻隠材43は、その高さ方向の中央付近に、当該鼻隠材43の長さ方向に沿う溝が形成されており、この溝によって厚さ方向への変形を阻止することができる。
【0045】
本実施の形態にかかる組立て車庫10では、上記のように屋根材41の周りを取り囲むように鼻隠材43が設けられているが、これを外した状態においては、図8に示すように、折れ板の端面に生じる凹凸は、組立て車庫10の間口に向かうように設置される。このように折れ板を設置することにより、桁行き方向に耐力が高まり、これを鉄骨梁30が保持することから、強固な組立て車庫10が実現する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明にかかる仕口部材および仕口構造は鉄骨を用いて構築される様々な建築物に利用することができ、当該建築物の強度を大幅に高めることができるようになる。また、この仕口部材は作業現場における施工を要せず、工場などにおいて製造可能であることから現場での施工性が大幅に向上する。
【符号の説明】
【0047】
10 車庫
11 ベース
12 鉄骨柱
13 タイコ部材
14 ダイヤフラム
15 ガゼットプレート
16 支持プレート
17 孔
18 エンドプレート
19 平面プレート
20 仕口部材
21 開口
22 アングル
23 固定部材
30 鉄骨梁
32 ハンチ材
41 屋根材
43 鼻隠材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱に対して鉄骨梁を固定する為の仕口部材であって、
タイコ部材を含む筒状の鋼材と、
当該筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起すると共に筒状の鋼材の軸方向に延伸するガゼットプレートと、
同じく当該筒状の鋼材の外周面から放射方向に突起して前記ガゼットプレートに直交する向きに延伸する支持プレートと、
からなることを特徴とする、仕口部材。
【請求項2】
請求項1に記載の仕口部材を用いて形成された仕口構造であって、
前記仕口部材における筒状の鋼材の下端にブラケットが設けられると共に、当該ブラケットは鉄骨柱の上端に一体化されており、
前記仕口部材における支持プレート上には鉄骨梁が載っていると共に、当該鉄骨梁は、少なくとも当該支持プレートと一体化されていることを特徴とする、仕口構造。
【請求項3】
鉄骨柱と鉄骨梁とを具備する鉄骨建築物であって、
当該鉄骨柱と鉄骨梁とは、請求項2に記載の仕口構造で一体化されていることを特徴とする、鉄骨建築物。
【請求項4】
屋内外を連通する間口部と、該間口部の幅方向の両側で鉛直方向に立設された鉄骨柱と、該鉄骨柱の間に架設されて各鉄骨柱に連結された鉄骨梁とを備えており、
当該鉄骨梁の下面の長さ方向中央部分には、当該梁材に沿って延伸する板状、棒状または柱状であって、且つ間口幅の30%以上、80%未満の長さを有するハンチ材が、当該鉄骨梁の下面に添うように設けられている、請求項3に記載の鉄骨建築物。
【請求項5】
前記建築物における仕口構造を構成するガゼットプレートの下側は、楔状又は傾斜面を湾曲させた楔状に形成されており、且つ、
前記ハンチ材の長さ方向両側は、楔状又は傾斜面を湾曲させた楔状に形成されている、請求項3又は4に記載の鉄骨建築物。
【請求項6】
更に鉄骨梁の上面には、間口の開口する向きに凹凸が出現する折板からなる屋根材が設けられると共に、当該屋根材の側面を包囲して鼻隠材が設けられており、
当該鼻隠材は縦断面形状が弓状であって、高さ方向中央部分に内側に向かう凹部が形成されている、請求項3〜5の何れか一項に記載の鉄骨建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−167462(P2012−167462A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28024(P2011−28024)
【出願日】平成23年2月13日(2011.2.13)
【出願人】(511038536)株式会社平山設備工業 (2)
【Fターム(参考)】