説明

付着物質分析装置および付着物質分析方法

【課題】この発明は、被検体表面全体の付着物質を非破壊で分析する分析装置および分析方法を提案することを目的とする。
【解決手段】表面に農薬のある農作物100を加熱する温風ヒータ11と、加熱によって前記農薬がガス化したガスを吸引する吸引ポンプ23と、吸引された前記ガスを噴射する高温ガス噴射装置と、噴射された前記ガスに、複数種の波長のレーザビームを照射するレーザビーム照射装置と、前記レーザビームと前記ガスとの衝突によってガスに含まれる分子がイオン化した波長を検知する検知手段と、検知した波長データに基づいて前記付着物質を特定するレーザ分析部分25とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば農作物の表面に残留している農薬のような付着物質を分析する分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、食品衛生法や農薬取締法によって食品中に残留する農薬の許容限度量が定められているため、農作物を出荷するためには、農作物の農薬の残留量を試験によって求める必要がある。また、農薬の残留量を求めるための試験として、112種類の公定法と呼ばれる試験方法が定められている。しかし、この公定法はいずれも、粉砕した被検体(農作物)を多量の有機溶媒で、複数種含まれる残留農薬を1種類ずつ分離する前処理を行った後に、それぞれの残留量を求める試験法である。したがって、試験結果を得るためにかなりの時間と費用がかかっていた。このような状況において、公定法に代わる試験を行う分析装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の分析装置は、GC−MS装置を用い、複数種の農薬を一度に分析するスクリーングを1次と2次との2回行う分析装置である。詳述すると、粉砕した被検体(農作物)を多量の有機溶媒で試料化し、少量の試料で高感度な検出ができるSIMモードで1次スクリーングを行う。1次スクリーングにおいて、農薬が残留していることが検出された場合、増量させた試料を濃縮した濃縮試料を、マススペクトルを求めるスキャンモードで2次スクリーングを行う。これにより、求められたマススペクトルと予め標品を測定したマススペクトルとの比較して残留農薬の残留量を求めるものである。
【0004】
上記分析装置は、複数種の農薬を一度に分析するスクリーングを行うこと、また、濃縮を必要としないSIMモードで1次スクリーングを行い、農薬が残留していると1次スクリーングで検出された被検体のみを、濃縮して2次スクリーングを行うため、従来の公定法のいずれよりも効率的に残留農薬を試験できるため、有用であると考えられる。しかし、上記分析装置による試験においても、公定法と同様に、被検体を試料化するために粉砕する必要があり、出荷する農作物全てから一部分を切り取り粉砕することを現実的でなく、全数検査をすることはできなかった。また、従来の公定法より効率化されているものの、被検体を試料化するために粉砕する前処理のための手間を省くことはできないため、利用者の十分な満足を得られる試験方法ではなかった。
【0005】
また、被検体を破壊せずに赤外線分光光度計を用いる分析方法も提案されている(特許文献2参照)。
この分析方法は、残留濃度が既知である農作物の表面の赤外線吸収スペクトルデータを赤外線分光光度計で予め採取し、残留濃度が未知である農作物の表面の赤外線吸収スペクトルを予め採取した残留濃度が既知である赤外線吸収スペクトルデータと比較することで残留濃度を検出する分析方法である。
【0006】
この分析方法は、上述した公定法や、1次スクリーングと2次スクリーングと行う上記分析装置による試験法と異なり、前処理の必要がなく、試験の効率化を図れる試験法である。また、非破壊で検査できるため全数検査に用いることもできると考えられる。しかし、この分析方法は、赤外線を照射して得られた赤外線吸収スペクトルから残留農薬量を分析するため、例えば、赤外線が照射された部分に残留農薬が存しない場合は、他の部分に多くの残留農薬が存したとしても、農薬は残留していないと判断されるため、その農作物表面全体に残留する農薬の残留量を基準とする上記許容限度量の試験方法としては現実的ではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−213567号公報
【特許文献2】特開平 8−170941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、被検体表面全体の付着物質を非破壊で分析する分析装置および分析方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、表面に付着物質のある被検体を加熱する加熱手段と、加熱によって前記付着物質がガス化したガスを吸引する吸引手段と、吸引された前記ガスを噴射するガス噴射手段と、噴射された前記ガスに、複数種の波長のレーザビームを照射するレーザビーム照射装置と、前記レーザビームと前記ガスとの衝突によってガスに含まれる分子がイオン化した波長を検知する検知手段と、検知した波長データに基づいて前記付着物質を特定する付着物質特定手段とを備えた付着物質分析装置であることを特徴とする。
【0010】
前記被検体は、野菜や果物等の農作物、あるいは固形の食品等であることを含む。
前記付着物質は、農薬、有害物質、あるいは無害物質等であることを含む。
これにより、非破壊で被検体の付着物質を特定することができる。また、表面全体に付着している付着物質を加熱によりガス化して、ガス化した付着物質からその物質を特定するため、被検体表面全体の付着物質を特定することできる。
【0011】
この発明の態様として、分子がイオン化した前記分子イオンの飛行時間に基づく飛行時間型質量データを検知する飛行時間型質量検知手段と、飛行時間型質量データ及び前記波長データと付着物質の付着量を示す定量分析データとを予め対応付けた対応データを記憶する対応データ記憶手段と、前記飛行時間型質量検知手段によって検知された飛行時間型質量データ及び前記波長データから前記対応データに基づいて、前記被検体の付着物質の付着量を示す定量化データを算出する定量化データ算出手段と、算出結果を出力する算出結果出力手段とを備えることができる。
前記定量分析データとは、公定法あるいはそれに準ずる試験法によって求まった質量データであることを含む。
前記定量化データとは、対応データに基づいて換算された質量データであることを含む。
これにより、非破壊で、被検体表面全体の付着物質の付着量を検出することができる。
【0012】
また、この発明の態様として、前記吸着ガスの一部から抽出物を抽出する抽出手段と、該抽出物を定量分析計で前記定量分析データを分析する定量分析手段とを備えることができる。
【0013】
前記抽出手段は、抽出公定法による抽出手段、超臨界抽出法による抽出手段、あるいは精製及び濃縮して抽出する抽出手段等であることを含む。
前記定量分析計は、ガスクロマトグラフ・質量分析計、液体クロマトグラフ・質量分析計あるいは、ゲルクロマトグラフ・質量分析計等であることを含む。
【0014】
これにより、公定法に準ずる定量分析によって、付着物の付着量を示す定量化データの基となる定量分析データを得ることができる。
【0015】
また、この発明の態様として、前記付着物質の付着量の良否を判定する閾値データを登録する閾値登録手段と、前記定量化データと前記閾値データとを比較する閾値比較手段と、比較結果を出力する比較結果出力手段とを備えることができる。
前記閾値データとは、例えば、上述した残留農薬の許容限度量に対応する定量化データであることを含む。
これにより、付着物の付着量が閾値データ以上であるか否かを出力することができる。したがって、例えば、閾値データを残留農薬の許容限度量に対応する定量化データで設定した場合、被検体の残留農薬量が許容限度量以内であるか否かを出力することができる。
【0016】
また、この発明は、表面に付着物質のある被検体を加熱する加熱工程と、該加熱によって前記付着物質がガス化したガスを吸引する吸引工程と、吸引された前記ガスを噴射するガス噴射工程と、噴射された前記ガスに、複数種の波長のレーザビームを照射するレーザビーム照射工程と、前記レーザビームと前記ガスとの衝突によってガスに含まれる分子がイオン化した波長を検知する検知工程と、検知した波長データに基づいて前記付着物質を特定する付着物質特定工程とを有する付着物質分析方法であることを含む。
これにより、非破壊で被検体の付着物質を特定することができる。また、表面全体に付着している付着物質を加熱によりガス化して、ガス化した付着物質からその物質を特定するため、被検体表面全体の付着物質を特定することできる。
【0017】
この発明の態様として、分子がイオン化した前記分子イオンの飛行時間に基づく飛行時間型質量データを検知する飛行時間型質量検知工程と、飛行時間型質量データ及び前記波長データと付着物質の付着量を示す定量分析データとを予め対応付けた対応データを記憶する対応データ記憶工程と、前記飛行時間型質量検知工程によって検知された飛行時間型質量データ及び前記波長データから前記対応データに基づいて、前記被検体の付着物質の付着量を示す定量化データを算出する定量化データ算出工程と、算出結果を出力する算出結果出力工程とを有することができる。
これにより、非破壊で、被検体表面全体の付着物質の付着量を検出することができる。
【0018】
また、この発明の態様として、前記吸着ガスの一部から抽出物を抽出する抽出工程と、該抽出物を定量分析計で前記定量分析データを分析する定量分析工程とを有することができる。
これにより、公定法に準ずる定量分析によって、付着物の付着量を示す定量化データの基となる定量分析データを得ることができる。
【0019】
また、この発明の態様として、前記付着物質の付着量の良否を判定する閾値データを登録する閾値登録工程と、前記定量化データと前記閾値データとを比較する閾値比較工程と、比較結果を出力する比較結果出力工程とを有することができる。
【0020】
これにより、付着物の付着量が閾値データ以上であるか否かを出力することができる。したがって、例えば、閾値データを残留農薬の許容限度量に対応する定量化データに設定した場合、被検体の残留農薬量が許容限度量以内であるか否かを出力することができる。
【0021】
また、この発明の態様として、前記閾値データを越える前記定量化データを有する被検体を加熱する第2加熱工程と、該加熱によって前記付着物質がガス化したガスを吸引する第2吸引工程と、前記ガスから抽出物を抽出する第2抽出工程と、該抽出物を定量分析計で前記被検体の付着物質の付着量を示す定量分析データを分析する第2定量分析工程とを有することができる。
【0022】
これにより、公定法に準ずる定量分析によって、閾値比較工程において前記閾値データを越える前記定量化データを有する被検体の付着量を示す定量分析データを得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明により、被検体表面全体の付着物質を非破壊で分析する分析装置および分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は残留農薬分析装置1のブロック図を示す。
残留農薬分析装置1は、レーザ測定装置2と、定量分析装置3とで構成されており、それぞれは制御装置4と接続されている。
【0025】
制御装置4はコンピュータであり、CPUとROMとRAMで構成される制御装置、ハードディスク等の記憶装置、CD−ROMドライブやFDドライブ等の記憶媒体(CD−ROMやFD等)を読取る記憶媒体読取装置、または記憶媒体読書き装置、マウスやキーボード等の入力装置、ならびにCRTや液晶画面等で構成する表示装置41等を備えている。
【0026】
なお、記憶装置(例えばハードディスク)には、残留農薬分析装置1の各装置を制御する制御プログラムや、各データを登録する登録プログラムや、後述する波長スペクトルデータと定量分析データとの対応から波長スペクトルデータを定量分析データに換算する近傍式を算出する近傍式算出プログラムや、波長スペクトルデータと前記近傍式に基づいて、前記被検体の付着物質の付着量を示す定量化データを算出する定量化データ算出プログラムや、定量化データと閾値データとを比較する比較プログラム等を格納している。
また、制御装置4は、農薬毎の近傍式等の定量化対応データや、食品衛生法あるいは農薬取締法で定められた農作物に含まれる農薬量の許容限度量データを格納するデータベース(DB)42を接続している。
【0027】
レーザ測定装置2は、農作物100の収容を許容する圧力容器10と、圧力容器10内部を温風で加熱する温風ヒータ11と、圧力容器10内部のガス(気体)を吸引する吸引ポンプ23と、吸引ポンプ23で吸引されたガスを吸着材に吸着するトラップ部分24と、トラップ部分24で吸着されたガスにレーザ光線を照射して分析するレーザ分析部分25とをこの順で配して構成している。なお、圧力容器10と温風ヒータ11との間には温風ヒータ11の温風の圧力容器10内部への送気を調整する温風バルブ12を配し、圧力容器10と吸引ポンプ23との間には吸引ポンプ23の吸引量を調整する吸引バルブ21と吸引ポンプ23の吸引圧力を監視する圧力計22を配している。
【0028】
圧力容器10は、内部に農作物100を出し入れするための耐圧扉を備え、閉塞状態においては吸引ポンプ23による吸引圧力に耐える耐圧構造で構成している。
温風ヒータ11は、農作物100の表面に残留している農薬物がガス化(気化)する程度まで温風によって圧力容器10内部を加熱できる加熱能力を有する。
【0029】
吸引ポンプ23は、温風ヒータ11の温風によってガス化された農薬物が充満している圧力容器10内部のガスを−100〜200mmHg程度の負圧によって吸引するポンプであり、吸引したガスをトラップ部分24に送気することができる。
【0030】
なお、吸引バルブ21は、温風バルブ12が開放され温風ヒータ11から圧力容器10内部に温風が送気されている状態においては閉塞し、農作物100の残留農薬がガス化する所定の温度に達し、温風ヒータ11に送気が停止し、温風バルブ12が閉塞した後の吸引ポンプ23の吸引開始とともに開放される。また、吸引ポンプ23の吸引圧力は圧力計22によって監視しているため、吸引圧力が所定圧力に達していない場合は、開度を適宜調整することで吸引ポンプ23の吸引圧力を調整することができる。
トラップ部分24は、アルミナ等で構成される吸着材が内部に充填され、吸引ポンプ23から送気されたガスを吸着することができ、該吸着材を出し入れすることができる。
【0031】
レーザ分析部分25は、レーザイオン化質量分析装置(株式会社IDX製:以下「RIMMPA−TOFMS」という)を用いており、該RIMMPA−TOFMSは、RIMMPA部と飛行型質量分析器(以下「TOF−MS」という)とで構成している。
まず、前記RIMMPA部に備えたチャンバ部にレーザビーム照射装置が2色のレーザ光を照射し、照射されたレーザ光を前記チャンバ内に設置した多面鏡部を入射させる。該多面鏡部に入射された前記レーザ光は多面鏡によって複数回反射し、中央で収束する。このレーザ光の中央の収束部分に、さらに高温(例えば、120度)に加熱したトラップ部分24で吸着されたガスを高温ガス噴射装置が噴射し、該ガス中の前記レーザ光の波長に対応する農薬物質をイオン化することができる。このとき、前記レーザビーム照射装置が前記レーザ光の波長を変化させて照射することによって、それぞれの波長に対応する農薬物質をイオン化することができる。したがって、その変化させた波長のうち、対応する農薬物質がイオン化した波長を検知することで、農薬物質を特定することができる。
【0032】
さらに、上記イオン化した農薬物質の分子は、イオンビームとなりTOF−MSで分子毎の質量の違いよる飛行時間を検知し、その農薬物質を特定することができる。
上記構成により、レーザ分析部分25は、農薬物質の波長データと飛行時間データから波長スペクトルデータを検出することができ、この農薬物質の波長スペクトルデータを制御装置4に送信することができる。
【0033】
定量分析装置3は、上記圧力容器10と、温風ヒータ11と、温風バルブ12とをレーザ測定装置2と共用し、圧力容器10内部のガス(気体)を吸引する吸引ポンプ33と、吸引ポンプ33で吸引されたガスを吸着材に吸着するトラップ部分34と、トラップ部分34で吸着されたガスから対象物を抽出する抽出部分35と、該抽出部分35で抽出された抽出物を定量分析する定量分析部分36をこの順で配して構成している。なお、圧力容器10と吸引ポンプ33との間には、吸引ポンプ33の吸引量を調整する吸引吸引バルブ31と吸引ポンプ33の吸引圧力を監視する圧力計32を配している。
【0034】
吸引ポンプ33は、温風ヒータ11の温風によってガス化された農薬物が充満している圧力容器10内部のガスを負圧によって吸引するポンプであり、吸引したガスをトラップ部分34に送気することができる。なお、吸引バルブ31は、温風バルブ12が開放され温風ヒータ11から圧力容器10内部に温風が送気されている状態においては閉塞し、農作物100の残留農薬がガス化する所定の温度に達し、温風ヒータ11に送気が停止し、温風バルブ12が閉塞した後の吸引ポンプ33の吸引開始とともに開放される。また、吸引ポンプ33の吸引圧力は圧力計32によって監視しているため、吸引ポンプ23の吸引圧力を調整することができる。
【0035】
トラップ部分34は、アルミナ等で構成される吸着材が内部に充填され、吸引ポンプ33から送気されたガスを吸着することができ、該吸着材を出し入れすることができる。
抽出部分35は、ガスを吸着した前記吸着材から農薬成分を超臨界流体で抽出する超臨界抽出装置で構成している。上記超臨界流体は温度及び圧力を調整した超臨界状態の二酸化炭素を用いている。抽出部分35内部に備えた抽出反応機において、前記超臨界流体に前記吸着材に含有する農薬成分が溶解し、抽出部分35内部の分離器で農薬成分が溶解した超臨界流体の圧力を低下させることで、二酸化炭素と農薬成分とを分離することができ、抽出部分35は、前記分離器で二酸化炭素から分離した農薬成分を、定量分析部分36に送出することができる。
【0036】
なお、抽出部分35は上記超臨界抽出装置に限定されず、従来の公定法に定められた抽出装置であってもよく、また精製・濃縮によって抽出する抽出装置であってもよい。
【0037】
定量分析部分36は、ガスクロマトグラフ(以下「GC」という)と、質量分析計(以下「MS」という)とを連結させたガスクロマトグラフ・質量分析計(以下「GC−MS」という)で構成している。
GCは、複数の農薬成分を含有するガスを成分毎に分離する装置であり、詳述すると、試料となる上記ガスが内部を通過する際に、吸着性及び化学結合性の差によって、各成分の通過時間が異なることを利用して成分毎に分離する装置である。
【0038】
MSは、高真空中でガス化状態の分子に、電気エネルギーを与えることで分子を電荷の帯びた分子イオンを形成し、この分子イオンに電場をかけることで質量差に応じて分離する分子イオンの質量(m)と電荷(z)の比(m/z)を記録してマススペクトルを算出し、この質量を求める装置である。
【0039】
したがって、定量分析部分36は、抽出部分35から送出された農薬成分をGCで成分毎に分離し、MSでこの質量を求めることができる。この成分毎の質量を求める分析を定量分析という。
また、定量分析部分36は、上記定量分析結果を制御装置4に送信することができる。なお、GC−MSの代わりに、液体クロマトグラフ・質量分析計やゲルクロマトグラフ・質量分析計を用いてもよい。
【0040】
制御装置4は、レーザ分析部分25から送信された農薬物質の波長スペクトルデータのスペクトル面積と、定量分析部分36から送信された上記定量分析結果とを対応させて、上記波長スペクトルデータを成分毎の質量に換算する近傍式を近傍式算出プログラムによって作成する。また、制御装置4は、定量化データ算出プログラムにより、新たに得た波長スペクトルデータを前記近傍式に基づいて、農薬物質の残留量を示す定量化データを算出する。さらに、上記比較プログラム等によって、上記定量化データと登録された閾値データとを比較し、比較結果を表示装置41に出力する。
なお、吸引バルブ31、圧力計32、吸引ポンプ33ならびにトラップ部分34のそれぞれは、レーザ測定装置2の吸引バルブ21、圧力計22、吸引ポンプ23ならびにトラップ部分24と共用する構成であってもよい。
【0041】
次に、このような構成の残留農薬分析装置1を使用した残留農薬分析方法について、それぞれの分析のフロー図を示す図2〜図5と共に、説明する。
この残留農薬分析方法は、図2に示すように、準備モードと検査モードから構成されている。前記準備モードは、残留農薬分析装置1を用いて上記制御装置4の近傍式算出プログラム等によって近傍式や上記定量化データによる閾値データを登録するために、本検査の前に予め残留農薬分析装置1を用いて、複数の波長スペクトルデータと定量分析データとを採取し、近傍式および閾値データを登録するモードである。
【0042】
前記検査モードは、残留農薬分析装置1を用いて、農作物100(図1)の波長スペクトルデータを検出し、それを制御装置4の定量化データ算出プログラムで、上記準備モードで登録した近傍式を用いて定量化データを算出し、さらに、上記比較プログラムで閾値データと比較する検査モードである。
【0043】
この残留農薬分析方法が開始されると、まず、準備モードか否かが判定され、準備モードである場合(ステップs1:Yes)は、準備処理が行われ(ステップs2)、そうでない場合(ステップs1:No)は、検査処理が行われる(ステップs3)。
以下において、それぞれのモードについて説明する。
まず、準備モードについて図3とともに説明する。
【0044】
準備モードである場合、残留農薬分析装置1は準備処理を行う。この準備処理は、まず圧力容器10に農作物100を投入し、農作物100を温風ヒータ11で加熱する(ステップt1)。このとき、農作物100の種類やその種類に用いられる農薬の種類によって異なるが、圧力容器10内部を加熱することによって、およそ所定温度(例えば50〜100℃程度)まで農作物100を加熱する。このとき、図示しない圧力容器10内部の温度を検出する温度計を確認しながら温風バルブ12によって加熱調整を行う。
【0045】
上記加熱工程において、農作物100が所定温度で所定時間(例えば2.5分間)加熱した後、温風バルブ12を閉じ、吸引バルブ21及び吸引バルブ31を開いて、吸引ポンプ23及び吸引ポンプ33で、圧力容器10内部に充満しているガスを所定の圧力で吸引する(ステップt2)。このときの吸引圧力は、農薬の種類によって異なるが、およそ−100〜−200mmHgの負圧で吸引する。この吸引圧力は、圧力計22および圧力計32で吸引圧力を確認しながら、吸引バルブ21及び吸引バルブ31の開度によって調整することもできるし、吸引ポンプ23及び吸引ポンプ33の吸引圧力自体を調整することもできる。
上記吸引工程で吸引されたガスをトラップ部分24及びトラップ部分34に充填した吸着材に吸着させる(ステップt3)。このとき上記吸着材は、農薬の種類によって異なるが例えば、本実施例においてはアルミナを用いている。
【0046】
続いて、ガス吸着工程でガスを吸着した吸着材からそのガスに含まれる農薬成分の分析をレーザ分析部分25で行う(ステップt4)。この分析工程によって、レーザ分析部分25は、農薬成分の波長スペクトルデータを検出し、制御装置4に送信する。なお、この分析工程と並行して、前記ガス吸着工程でガスを吸着した吸着材から農薬成分を抽出部分35で抽出し(ステップt5)、その抽出物の定量分析データを定量分析部分36で検出し(ステップt6)、制御装置4にその定量分析データを送信する。
【0047】
レーザ分析部分25からの波長スペクトルデータと、定量分析部分36からの定量分析データとを受信した制御装置4は、上記それぞれのデータを対応付けながらDB42に登録する(ステップt7)。これを繰り返し、波長スペクトルデータと、定量分析データとの対応付けによる近傍式の算出ができる程度まで上記工程を繰り返す(ステップt8:No)。なお、近傍式が算出できる程度に各データが登録されれば(ステップt8:Yes)、上記近傍式算出プログラムによって、上記波長スペクトルデータを成分毎の質量(定量化データ)に換算する、例えば一次関数のような近傍式を作成する(ステップt9)。また、DB42に格納された上記農薬量の許容限度量データに基づいて定量化データに対応する閾値データを設定登録し(ステップt10)、この準備処理は完了する。なお、上記繰り返し回数を増加させ、各データ数が多ければ多いほど、それぞれのデータがより近似する近傍式を算出することができる。
【0048】
次に、図4及び図5に示す検査モードについて説明する。
この検査モードにおいては、最初残留農薬分析装置1のレーザ測定装置2を用いて、上記準備モードのステップt1〜t4までと同様に、加熱工程(ステップu1)、ガス吸引工程(ステップu2)、ガス吸着工程(ステップu3)、及び分析工程(ステップu4)を行い、農作物100の波長スペクトルデータをレーザ分析部分25から制御装置4へ送信する。
【0049】
レーザ分析部分25から農作物100の波長スペクトルデータを受信した制御装置4は、上記準備モードで算出した近傍式を用い、前記定量化データ算出プログラムによって前記農作物100の残留農薬の残留量を示す定量化データを算出し(ステップu5)、この算出された定量化データと、DB42に登録した閾値データとを前記比較プログラムによって比較する(ステップu6)。
【0050】
比較結果が上記閾値データを超えていない場合(ステップu7:Yes)は、農作物100の残留農薬量が前記許容限度量を超えていないため、農作物100は合格品であることを表示装置41に出力するとともに、合格した前記定量化データをDB42に登録して(ステップu8)、この検査モードは完了する。
【0051】
しかし、上記比較工程において、前記定量化データが前記閾値データを越えていると前記比較プログラムによって判断された場合(ステップu7:No)、農作物100の残留農薬量が前記許容限度量を超えている蓋然性が高いと判断される。したがって、前記定量化データが前記閾値データを越えていると判断された農作物100を定量分析装置3で定量分析を行う。このときの定量分析は、上記準備モードのステップt1〜t3、t5及びt6までと同様に、加熱工程(ステップu10)、ガス吸引工程(ステップu11)、ガス吸着工程(ステップu12)、抽出工程(ステップu13)、及び定量分析工程(ステップu14)を行い、農作物100の定量分析データを定量分析部分36から制御装置4へ送信する。
【0052】
定量分析部分36から定量分析データを受信した制御装置4は、DB42に登録した前記許容限度量と前記定量分析データとを比較し(ステップu15)、前記定量分析データが前記許容限度量を超えない場合(ステップu16:Yes)は、農作物100の残留農薬量が前記許容限度量を超えていないため、農作物100は合格品であることを表示装置41に出力するとともに、合格した前記定量分析データをDB42に登録して(ステップu17)、この検査モードを完了する。
【0053】
しかし、上記定量分析データ判定工程で、前記定量分析データが前記許容限度量を超えていると判断された場合(ステップu16:No)は、農作物100の残留農薬量が前記許容限度量を超えているため、農作物100は不合格品として認定し(ステップu18)、その旨を表示装置41に出力してこの検査モードを完了する。
【0054】
この様にして、利用者は、残留農薬分析装置1を用いる残留農薬分析方法において、まず様々な種類の農作物100の様々な種類の農薬に対するレーザ測定装置2で求められる波長スペクトルを、定量分析装置3で求められる定量分析データとの対応付けによって近傍式を求め、検査モードにおけるレーザ測定装置2による農作物100の波長スペクトルから定量化データを算出することができる。
【0055】
したがって、定量分析装置3だけや、上述した公定法で定量分析を行って農作物100に残留する残留農薬量を検出する試験方法に比べてはるかに効率の良い分析を行うことができる。例えば、公定法により複数種含まれる農薬成分のそれぞれの残留を検出するためには、前処理を含めて1検体あたり10日程度必要であったが、残留農薬分析装置1を用いた残留農薬分析方法によれば、1検体あたり10分程度で検出することができる。
【0056】
また、残留農薬分析装置1を用いた残留農薬分析方法の場合、被検体である農作物100の試料作成のための粉砕を必要としないため、残留農薬分析を行った農作物100を廃棄することなく使用できる。したがって、残留農薬分析にかかるコストを低減できるとともに、残留農薬分析装置1を用いた残留農薬分析方法による全数検査を実施することもできる。
【0057】
さらに、残留農薬分析方法の検査モードにおいて、レーザ測定装置2による波長スペクトルに基づいて近傍式で求めた定量化データと閾値データとの比較で定量化データが閾値データを越えた場合にのみ、定量分析装置3で定量化分析するため、正確な定量分析結果によって農作物100の不合格判定を行うことができ、より正確な合否判定を行うことができる。
【0058】
なお、準備モードで採取した波長スペクトルデータと定量分析データとの近傍式を算出せずとも、そのままの波長スペクトルデータに対応する定量分析データとの対応付けをそのままDB42に登録し、検査モードで検出した波長スペクトルデータに対応する定量分析データを検索して、定量化データを算出してもよい。
【0059】
また、残留農薬分析装置1は、残留農薬分析方法において、レーザ測定装置2と定量分析装置3とで構成するように説明したが、レーザ測定装置2のみを用いて、農作物100の残留農薬量を波長スペクトルデータで判断してもよい。
【0060】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の付着物質分析装置は、残留農薬分析装置1に対応し、
以下同様に
被検体は、農作物100に対応し、
加熱手段は、温風ヒータ11に対応し、
吸引手段は、吸引ポンプ23及び吸引ポンプ33に対応し、
付着物質特定手段は、レーザ分析部分25に対応し、
対応データ記憶手段は、DB42に対応し、
算出結果出力手段は、表示装置41に対応し、
抽出手段は、抽出部分35に対応し、
定量分析手段は、定量分析部分36に対応し、
比較結果出力手段は、表示装置41に対応し、
加熱工程は、ステップt1及びステップu1に対応し、
吸引工程は、ステップt2及びステップu2に対応し、
付着物質特定工程は、ステップt4及びステップu4に対応し、
定量化データ算出工程はステップu5に対応し、
抽出工程は、ステップt5に対応し、
定量分析工程は、ステップt6に対応し、
閾値登録工程は、ステップt10に対応し、
閾値比較工程は、ステップu6に対応し、
比較結果出力工程は、ステップu9に対応し、
第2加熱工程は、ステップu10に対応し、
第2吸引工程は、ステップu11に対応し、
第2抽出工程は、ステップu13に対応し、
第2定量分析工程は、ステップu14に対応し、
付着物質は、農薬に対応し、
ガス噴射手段は高温ガス噴射装置に対応し、
対応データは、近傍式に対応し、
定量分析計は、ガスクロマトグラフ・質量分析計に対応し、
飛行時間型質量検知手段は、TOF−MSに対応し、
飛行時間型質量データ及び前記波長データは、波長スペクトルに対応し、
定量化データ算出手段は、定量化データ算出プログラムに対応し、
閾値登録手段は、登録プログラムに対応し、
閾値比較手段は、比較プログラムに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】残留農薬分析装置のブロック図。
【図2】残留農薬分析方法のフロー図。
【図3】準備モードのフロー図。
【図4】検査モードのフロー図。
【図5】検査モードのフロー図
【符号の説明】
【0062】
1…残留農薬分析装置
11…温風ヒータ
23…吸引ポンプ
25…レーザ分析部分
33…吸引ポンプ
35…抽出部分
36…定量分析部分
41…表示装置
42…DB
100…農作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に付着物質のある被検体を加熱する加熱手段と、加熱によって前記付着物質がガス化したガスを吸引する吸引手段と、吸引された前記ガスを噴射するガス噴射手段と、噴射された前記ガスに、複数種の波長のレーザビームを照射するレーザビーム照射装置と、前記レーザビームと前記ガスとの衝突によってガスに含まれる分子がイオン化した波長を検知する検知手段と、検知した波長データに基づいて前記付着物質を特定する付着物質特定手段とを備えた
付着物質分析装置。
【請求項2】
分子がイオン化した前記分子イオンの飛行時間に基づく飛行時間型質量データを検知する飛行時間型質量検知手段と、飛行時間型質量データ及び前記波長データと付着物質の付着量を示す定量分析データとを予め対応付けた対応データを記憶する対応データ記憶手段と、前記飛行時間型質量検知手段によって検知された飛行時間型質量データ及び前記波長データから前記対応データに基づいて、前記被検体の付着物質の付着量を示す定量化データを算出する定量化データ算出手段と、算出結果を出力する算出結果出力手段とを備えた
請求項1に記載の付着物質分析装置。
【請求項3】
前記吸着ガスの一部から抽出物を抽出する抽出手段と、該抽出物を定量分析計で前記定量分析データを分析する定量分析手段とを備えた
請求項2に記載の付着物質分析装置。
【請求項4】
前記付着物質の付着量の良否を判定する閾値データを登録する閾値登録手段と、前記定量化データと前記閾値データとを比較する閾値比較手段と、比較結果を出力する比較結果出力手段とを備えた
請求項3に記載の付着物質分析装置。
【請求項5】
表面に付着物質のある被検体を加熱する加熱工程と、該加熱によって前記付着物質がガス化したガスを吸引する吸引工程と、吸引された前記ガスを噴射するガス噴射工程と、噴射された前記ガスに、複数種の波長のレーザビームを照射するレーザビーム照射工程と、前記レーザビームと前記ガスとの衝突によってガスに含まれる分子がイオン化した波長を検知する検知工程と、検知した波長データに基づいて前記付着物質を特定する付着物質特定工程とを有する
付着物質分析方法。
【請求項6】
分子がイオン化した前記分子イオンの飛行時間に基づく飛行時間型質量データを検知する飛行時間型質量検知工程と、飛行時間型質量データ及び前記波長データと付着物質の付着量を示す定量分析データとを予め対応付けた対応データを記憶する対応データ記憶工程と、前記飛行時間型質量検知工程によって検知された飛行時間型質量データ及び前記波長データから前記対応データに基づいて、前記被検体の付着物質の付着量を示す定量化データを算出する定量化データ算出工程と、算出結果を出力する算出結果出力工程とを備えた
請求項5に記載の付着物質分析方法。
【請求項7】
前記吸着ガスの一部から抽出物を抽出する抽出工程と、該抽出物を定量分析計で前記定量分析データを分析する定量分析工程とを有する
請求項6に記載の付着物質分析方法。
【請求項8】
前記付着物質の付着量の良否を判定する閾値データを登録する閾値登録工程と、前記定量化データと前記閾値データとを比較する閾値比較工程と、比較結果を出力する比較結果出力工程とを有する
請求項7に記載の付着物質分析方法。
【請求項9】
前記閾値データを越える前記定量化データを有する被検体を加熱する第2加熱工程と、該加熱によって前記付着物質がガス化したガスを吸引する第2吸引工程と、前記ガスから抽出物を抽出する第2抽出工程と、該抽出物を定量分析計で前記被検体の付着物質の付着量を示す定量分析データを分析する第2定量分析工程とを有する
請求項8に記載の付着物質分析方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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