説明

付着防止コーティングを備えた調理器具

本発明は、付着防止コーティングで被覆された金属支持体を含む調理器具に関し、前記コーティングは、調理器具の少なくとも内側表面を形成するように設計され、かつ少なくとも1つの層を含み、前記層は、フッ素樹脂を単独で、または少なくとも200℃の温度に耐える第2の耐熱性樹脂と混合された状態で含む。前記少なくとも1つの層は、1つまたは複数の前記樹脂の焼結温度よりも高い温度に耐え、かつ抗菌性を有する無機化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着防止コーティングを備えた、フライパン、ソースパン、シチュー鍋などの調理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
この付着防止コーティングは、優れた付着防止性を有するものであり、食品が付着してしまう危険をほぼ最小限に抑えながら食品を調理できるように、また、使用後の調理器具の洗浄が最適かつ容易となるように、今日、調理器具の少なくとも内側表面を形成するものである。
【0003】
かかる付着防止コーティングは、一般に、少なくとも200℃の温度に耐える耐熱性樹脂をベースとした少なくとも1つの層を含み、この耐熱性樹脂は、通常、フッ素樹脂を、単独で、または少なくとも200℃に耐える1つまたは複数の他の耐熱性樹脂と混合された状態で含む。
【0004】
このフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルとの共重合体(PFA)、またはテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)、またはこれらのフッ素樹脂の混合物であってよい。
【0005】
少なくとも200℃に耐える他の耐熱性樹脂は、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはシリコーンであってよい。
【0006】
しかし、この種の付着防止コーティングを家庭で完全に洗浄しても、微生物、特に細菌、とりわけバクテリアの成長がこうした付着防止コーティングの少なくとも表面で見受けられる。
【0007】
微生物の成長、および微生物のその後の増殖は、フッ素樹脂ベースのコーティングが多孔質であることで説明される。実際に、微生物は、洗浄中に除去しきれなかった食物残滓、および/または汚れから発生するおそれがあり、こうした食物残滓や汚れは、コーティングの多孔質内に留まることになる。
【0008】
調理器具を繰返し使用する間に、コーティングが摩耗し、また、特にその表面に引っ掻き傷が生じるため、微生物の成長はさらに増長される。実際に、引っ掻き傷によって、微生物が発生し得る箇所がさらに増加することになる。
【0009】
少なくとも150℃の高温で調理することによって、こうした微生物をほとんど除去できることが認識されているとしても、食品を低温で加熱する場合、またはこうした食品を低温または室温で、調理器具内に直接保存する場合には、そのような訳にはいかない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、調理器具の、1つまたは複数のフッ素樹脂をベースとした付着防止コーティング内での微生物発生の問題の解決策を見出すことである。しかし、食品を保存、加熱、さらには調理するといった調理器具の使用状態にかかわらず、この解決策によって前記付着防止コーティングの付着防止性が失われることはない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による調理器具は、付着防止コーティングで被覆された金属支持体を含み、このコーティングは、調理器具の少なくとも内側表面を形成し、かつ少なくとも1つの層を含み、前記層は、フッ素樹脂を単独で、または少なくとも200℃の温度に耐える第2の耐熱性樹脂と混合された状態で含むものである。
【0012】
本発明によれば、前記少なくとも1つの層は、1つまたは複数の樹脂の焼結温度を上回る温度に耐える無機化合物を含み、かつ付着防止コーティング上に存在し得る微生物と無機化合物との直接接触、またはこの化合物によって拡散される前記無機物のイオンとの接触、またはこうした接触の組合せによる抗菌性を有する。
【0013】
本発明による無機化合物を用いると、かかる付着防止コーティングを作製するために従来より使用されている組成を基本的に変えずに、付着防止コーティングに求められる抗菌性を与えることが可能となる。
【0014】
実際に、この無機化合物は、強化充填剤または顔料などの他の任意の無機充填剤と同様に振舞うものであり、コーティングを形成する1つまたは複数の樹脂によってもたらされる付着防止性を変化させることはない。
特に、付着防止コーティングのこの新規な組成物によって、調理器具を作製する方法に問題が生じることはない。
【0015】
したがって、全く従来通りの方式で、無機化合物を、少なくともフッ素樹脂を含む層の組成物に、乾燥状態で、または水性分散体として導入することができる。それにより、フッ素樹脂と無機化合物とを含む均質な層が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による調理器具は、少なくとも1つの層で形成された付着防止コーティングを含む。この層は、フッ素樹脂だけでなく、抗菌性を有する無機化合物も含む。フッ素樹脂は、付着防止コーティングの組成物に現在使用されている、PTFE、PFA、およびFEPを含む群から選択された少なくとも1つの化合物を含むことができる。
【0017】
さらに、この層はまた、少なくとも200℃の温度に耐え、かつPAI、PES、PPS、PEK、PEEK、およびシリコーンを含む群から選択された少なくとも1つの化合物を含む第2の耐熱性樹脂を含むことができる。
【0018】
この無機化合物は、付着防止コーティングに用いられる樹脂の焼結温度を上回る温度に耐えるように選択されるので、その抗菌性は、焼結ステップ後だけでなく、後に、使用者が食品を調理する作業の間もそのまま保持される。この化合物は、400〜420℃程度の調理または焼結温度で10分間は少なくとも耐えられなければならない。
【0019】
本発明の範囲で使用される無機化合物はまた、繰返し使用される洗浄剤、ならびに食器洗浄機の様々な洗浄サイクルにも耐えることができるものでなければならないことを明記しておく。
【0020】
さらに、この無機化合物は、付着防止コーティングを形成する層の表面だけでなく、その内部全体に亘って存在するので、このコーティングの抗菌作用は、コーティングが摩耗し、かつ/または、引っ掻き傷が生じた場合でも維持される。実際に、付着防止コーティング層の多孔質内に存在し得る微生物は、抗菌性無機化合物、および/または、その化合物が拡散し得るイオンと必然的に接触することになる。
【0021】
当然ながら、本発明の範囲に含まれる無機化合物は、食品の使用に適合したものでなければならない。
【0022】
本発明の有利な態様では、無機化合物は、銀イオンを塩析することが可能な化合物である。
実際に、銀の抗菌性および殺菌性は周知であり、特に、医療環境や洗浄に使用されている。
【0023】
しかし、銀を含むものなどの無機化合物の食品産業分野における使用は、これまで、こうした材料からなる容器、またはこうした材料によって覆われる容器にしか企図されなかったが、これらは調理用ではなく食卓用であり、いずれにしろ、銀の抗菌性を利用するものではなかった。また、水を「飲料用」と表示するには、10μg/L未満の銀しか含んではならないと規定する規制条項も参照されたい。かかる低い許容値のために、当業者は、調理器具で加熱される食品分野に、銀などの無機化合物を用いることをこれまで思い留まってきたことは明らかである。
【0024】
したがって、銀などの無機化合物を、その抗菌性のために、食品を加熱または調理するために使用する調理器具の付着防止コーティングの組成物に使用することが企図されることは、決してなかった。
【0025】
こうした先入観を克服しようと、本発明者は、この事実にもかかわらず、銀を含む無機化合物を、食品の加熱および/または調理を使用目的とした器具の付着防止コーティングを形成する層の組成物に使用したのである。本発明者は、かかるコーティングで被覆された調理器具が使用者に有毒とならないように、極く僅かな含有量で試験を実施したが、このことは、さらに、経済的にも利点となることは明白である。
【0026】
驚くべきことに、本発明者は、無機化合物の含有量がこれほど微量であったにもかかわらず、微生物の減少に関して、特に、付着防止コーティングを形成する前記少なくとも1つの層が、焼結後、0.1〜0.2重量%の銀を含む場合、非常に良好な結果が得られることを知ることができた。
【0027】
特に、本発明の目的を満たす第1の抗菌性無機化合物は、式AgNa(1−x−y)Zr(POを満たすリン酸ジルコニウムである。
上式を満たすかかる無機化合物としては、特に、Milliken社の商標AlphaSan(商標)として販売されているものを挙げることができる。このAlphaSan(商標)化合物は、99%を超える純度レベル、ならびに1,000℃を上回る耐熱性を有する白色粉末である。
【0028】
現在、黒色でフレーク状の外観である最終コーティングを、できるだけ薄く最小限に抑えるには、10重量%の銀を含んだ式AgNa(1−x−y)Zr(POの無機化合物を使用することが好ましいであろう。この無機化合物は、今日、製品番号RC2000として販売されている。
【0029】
また、本発明の目的を満たす第2の抗菌性無機化合物は、中央コア、例えば銀層で被覆された二酸化チタンで形成された複合化合物によって形成される。
かかる無機化合物の例としては、Du Pont社の商標MicroFree(商標)として販売されているものを挙げることができる。
【0030】
上述のように単一の層しか含まない付着防止コーティングの場合、抗菌性を備えた無機化合物を組み込むことができる。
【0031】
したがって、抗菌性を有する付着防止層の作製は、単一のステップで、フッ素樹脂と抗菌性無機化合物とを含む均質な層を付着させることによって実施することができ、この無機化合物の粒子は、層の厚さ全体にわたって一様に分散することになる。
【0032】
しかし、調理器具の付着防止コーティングは、通常、少なくとも1つの主接合層と、少なくとも1つの仕上げ層とを含み、これらの主接合層と仕上げ層とは、少なくとも200℃の温度に耐える耐熱性樹脂と混合可能なフッ素樹脂をベースとしている。
【0033】
上で先に述べたフッ素樹脂(PTFE、PFA、およびFEP)ならびに少なくとも200℃の温度に耐える耐熱性樹脂(PAI、PES、PPS、PEK、PEEK、およびシリコーン)の例を参照されたい。
【0034】
したがって、少なくとも1つの主接合層が無機化合物を含むコーティング、または少なくとも1つの仕上げ層が無機化合物を含むコーティングさえも企図することは十分可能である。少なくとも1つの主接合層と、少なくとも1つの仕上げ層との組成物に、抗菌性を備えた無機化合物を導入することによって、その他の組合せも企図することができる。
【0035】
無機化合物が、1つまたは複数の仕上げ層ではなく、主接合層に組み込まれる場合、最終的な付着防止コーティングの色に関しては、無機化合物の影響はかなり限定されるが、この付着防止コーティングは、無機化合物の抗菌性を保持することになる。
【0036】
したがって、本発明による、無機化合物を含む付着防止コーティングは、付着防止コーティングで被覆される既知のどんな調理器具にも適用することができる。
その例としては、ソースパン、フライパン、ケーキパン、グリル・プレート、フライ鍋、圧力鍋、さらにはシチュー鍋を特に挙げることができるが、これらに限定される訳ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着防止コーティングで被覆された金属支持体を含む調理器具において、前記コーティングが、前記調理器具の少なくとも内側表面を形成するようになされ、かつ少なくとも1つの層を含み、前記層が、フッ素樹脂を単独で、または少なくとも200℃の温度に耐える第2の耐熱性樹脂と混合された状態で含む調理器具であって、前記少なくとも1つの層が、前記1つまたは複数の樹脂の焼結温度を上回る温度に耐え、かつ抗菌性を有する無機化合物を含むことを特徴とする、調理器具。
【請求項2】
前記無機化合物が、銀イオンを塩析することが可能な化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の調理器具。
【請求項3】
前記少なくとも1つの層が、焼結後に、0.1乃至0.2重量%の銀を含むことを特徴とする、請求項2に記載の調理器具。
【請求項4】
前記無機化合物が、式AgNa(1−x−y)Zr(POを満たすリン酸ジルコニウムであることを特徴とする、請求項2または3に記載の調理器具。
【請求項5】
式AgNa(1−x−y)Zr(POの前記無機化合物が、10重量%の銀を含むことを特徴とする、請求項4に記載の調理器具。
【請求項6】
前記無機化合物が、中央コア、例えば銀層で被覆された二酸化チタンで形成されることを特徴とする、請求項2または3に記載の調理器具。
【請求項7】
前記付着防止コーティングが、フッ素樹脂をベースとした、少なくとも1つの主接合層と少なくとも仕上げ層とを含み、少なくとも1つの主接合層が、前記無機化合物を含むことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の調理器具。
【請求項8】
前記付着防止コーティングが、フッ素樹脂をベースとした、少なくとも1つの主接合層と少なくとも1つの仕上げ層とを含み、前記少なくとも1つの仕上げ層が、前記無機化合物を含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の調理器具。
【請求項9】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルとの共重合体(PFA)、およびテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)を含む群から選択された少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の調理器具。
【請求項10】
少なくとも200℃の温度に耐える前記第2の耐熱性樹脂が、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、およびシリコーンを含む群から選択された少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の調理器具。

【公表番号】特表2008−510548(P2008−510548A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528924(P2007−528924)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002136
【国際公開番号】WO2006/024799
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(506324219)
【Fターム(参考)】