説明

代替療法を最適化し、薬局方を全体的な嗜癖の治療に拡大適用するための新規な薬剤組成物

本発明は、生活必需品の分野、そして更に具体的には治療分野に関する。更に具体的には、直接プロドーパミン作用を有する、ドーパミン作動性受容体、特にD1、D2及びD3受容体の部分的又は完全なリガンドと、間接プロドーパミン作動性生成物よりなる2種の薬物の組合せの形の、経口、非経口又は経皮投与用薬剤組成物の形の、嗜癖性薬物の摂取者が禁断に戻るための薬剤組成物に関する。本発明はまた、合法又は非合法薬物への種々の形の嗜癖と闘うための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活必需品の分野、そして更に具体的には治療分野に関する。
【0002】
本発明は更に具体的には、嗜癖性薬物の摂取者が禁断に戻るのを強力に助け、そして正常な社会及び/又は職業活動に復帰するよう導くための、薬剤組成物に関する。
【0003】
嗜癖(又は依存症)は、依存者が充分に認識している、健康、家族、職業生活などに及ぼす有害な帰結にも関わらず、この依存症を引き起こす生成物を強迫的に探し求めることを特徴とする、行動障害として定義することができる。
【0004】
この行動制御の消失は、反復摂取の結果として出現するが、ヘロイン及びオピエートの場合には、これらの物質の乱用から嗜癖への移行は、非常に短期であることもある。これは、各個人に固有の一定数の遺伝的及び環境的パラメーターに依存する。
【0005】
この依存は、オピオイド受容体の、具体的にはμ型の(Mattesら Nature, 1996, 383, 819-823)、更に具体的には辺縁系を形成する脳構造(腹側被蓋野、側坐核、扁桃体、前頭前皮質など)におけるそれらの過剰で反復した刺激による。変化は徐々にニューロンの機能をたどるが、このため、この依存が維持され、そして特に、非常に強力かつ非常に長期にわたる、この物質の作用の名残が誘導される。
【0006】
これらの作用は、摂取者の鎮静、多幸感又は緊張感の低下を特徴とする。更には、「ラッシュ(rush)」として知られている、「オルガスム」の快楽作用が存在し、そしてこれは、例えば、ヘロインの注射の結果として起こる。この物質及びオピオイド、又はコカインのような他の高度嗜癖性薬物の作用は、習慣化すると、神経制御系の興奮過剰をもたらし、反転効果、即ち、不安、不快などが生じる。この反転効果は、特に薬物の摂取の停止中に出現する:これが、非常に苦しく、そして多くの場合に短命であり、度重なる再発を起こす「離脱症候群」である。
【0007】
依存者を彼の薬物の「とりこにする(hook)」このような非常に苦痛に満ちた状態を軽減する方法の1つは、恍惚の「ラッシュ」状態を回避し、そして嗜癖をもたらす主要な行動障害の原因を治療することにより、患者を落ち着かせようと務めることである。
【0008】
最も目覚ましい成功は、ヘロイン、又は他の嗜癖性オピオイドを、オピオイド受容体を刺激することもできるが、さほど強力でなく、そして異なる理由で刺激できる物質で代替することによって得られている。これらの幾つかについては、このオピオイド物質による脳の長期のゆっくりした浸透をもたらすものは、薬物動態の問題である。結果として、受容体は、ヘロインにより刺激されるように強力には決して刺激されないが、患者が、欠乏及び「物質」を得るための制御できない衝動(渇望)に苦しまないくらいには充分に刺激される。これは、完全なアゴニストのメタドンの場合であり、このメタドンは、米国では1964年からヘロイン代替療法として使用されており、そして1973年にFDAにより承認された。次第に使用が増加している別の物質は、ブプレノルフィンであるが、これは、長時間作用性のμオピオイド受容体の部分的アゴニストである。結果として、ブプレノルフィンは、高用量であっても前述の「ラッシュ」を引き起こすことができない。
【0009】
これらの代替療法は、注目に値する結果を挙げているが、重大な欠陥がある。これらは、しばしば嗜癖行動を相対的に軽減するのみである。代償療法は、医学界にヘロイン依存症の薬物治療の認識と考察をもたらした。これらの貢献は、フランスのみならず全世界で議論の余地がない。
【0010】
先行技術(US 2005/014,786、US 2005/171,110、US 2005/080,087、WO 2005/016,286)は既に、アンタゴニスト型のカンナビノイドCB−CB受容体に及ぼす特異的作用を記述していたが、一方で本特許出願は、D、D及び/又はDドーパミン作動性受容体の直接及び間接同時アゴニスト調節を記述している。
【0011】
この概念は、本発明では、メタドン又はブプレノルフィンであってよい、ドーパミン作動性アゴニストのオピオイド物質が、麻酔薬が作用するのと同じ受容体に同じように作用するため、先行文献の概念とは充分に異なる。代償療法とは異なり、かつ前述の文献に提唱された意見(それによると、生成物は、カンナビノイドの麻酔作用とは反対の様式で作用する)に反して、本発明の組成物は、むしろナロキソンと同じように作用する。本発明は、アンタゴニスト作用よりもむしろ、関与する受容体の調節並びに特定の潜在的及び動態的刺激から出発する治療適用を見い出すべきである。
【0012】
具体的には、参考文献のUS 2005/01476A1に記述される発明は、正確には嗜癖の治療ではないが、この分野では大麻の使用は大きな問題であるから、統合失調症から不安に至る範囲のより広い精神病治療(この中に嗜癖の治療にふさわしい場があるかもしれない)として考えるべきである。しかし、特異性の欠如は、嗜癖の可能な治療法として任意の向精神剤の記述を許すが、特異性は、乱用の原因である分子及び薬物のアゴニスト作用(ブロッキング剤)を求めて、大部分は証明されていない。言い換えれば、先行文献は、主として疾患の症候を扱っており、そしてこのことは、先行文献(US 2005/171,110)の著者らによって裏付けられる:カンナビノイド受容体モジュレーターは、物質の乱用又は嗜癖障害を軽減又は改善することができる。このようなわけで、カンナビノイド受容体モジュレーターと嗜癖障害を治療するために使用される医薬との組合せは、用量低下をもたらすか、又は一般的な嗜癖関連障害の治療の効果を改善しうる。
【0013】
よって本発明は、場合により種々の精神病応用に使用されるが、何よりも嗜癖を治療することを目的とした、治療の確定した組合せである。このことは、本発明の種々の化合物が、他の既に使用されている医薬に加えられることを意味するのでなく、これら2種の分子の特定の組合せが、事前に又は別の既知の診断によって精神病と確定できなかった患者の集団に対して、個々に投与した一方又はもう一方よりも、うまく作用することを意味する。
【0014】
本発明には、鎮静状態が出現するまで用量を増加させる他の方法とは対照的に、現在の治療維持スキームを修飾する成果がある。本治療法の原理は、本質的に維持療法に可能な限り低いが必要な用量を与える、第2の分子を導入することにある。
【0015】
先行文献は、正規の現行の治療法に加えうる治療法を記載している。これらは、2種の特定の成分の組合せを介して、個々に投与される一方又はもう一方の成分で得られる効果よりも、より良い治療効果を得ることを保証しうる治療法として記載されてはいない。
【0016】
ハロペリドール又はオランザピンのような抗ドーパミン作動性医薬を従来の抗精神病医薬と併用することができるという先行文献とは対照的に、所定のドーパミン作動系に及ぼす二重の作用によって精神病の診断に相当する薬物中毒者を治療することができるという事実を、本発明が詳述するのはこのためである。
【0017】
本発明は、直接及び間接の同時作用に由来するその効力を描くが、その効果は、まさにドーパミン作動性ニューロンに及ぼす作用である。
【0018】
文献WO 2004/100,992(ファイザー(Pfizer))は、「新世代」型の抗精神病治療、例えば、該文献の著者らが、そこにベンゾジアゼピン又はGABA作動性モジュレーターのいずれかを加える、従来の抗精神病剤での治療を改善するための、新規な成分を記述している。
【0019】
該文献は、中毒者の治療又は嗜癖の治療のいずれも記載してはおらず、精神病の治療における改善だけを記載している。
【0020】
アゴニスト及びドーパミン作動性アンタゴニストは一緒に加えられるが、アゴニスト+別のアゴニストは加えられない治療原理が、ここには記載されているが、ブプレノルフィンとメタドンのいずれもが、先行文献の著者らが記載した分子の推定網羅的リストには取り上げられていない。
【0021】
文献WO 2005/181,071は、標準治療法に抵抗性の鬱病が、モノアミンの伝達に関する新規な仮説に起因すると考えられる、鬱病の治療における改善を得るための新しい手法を記述している。該文献は、中毒者の治療又は嗜癖の治療のいずれも記載してはおらず、精神病の治療における改善だけを記載している。この発明者は、ドーパミン作動性アンタゴニスト+SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の組合せ又は気分調節薬+SSRIのいずれかを頼みにしている。よってこの治療原理は、このような原理の記述は全くないものの、アゴニストとアンタゴニストの併用である。
【0022】
更に正確には、2種の活性成分のいずれもが、ドーパミン作動系の直接アゴニストではない。具体的には、著者らは、2つのうち一方(SSRI)には間接アゴニストを使用しているが、これは、非常に遅いか、又は遅延したドーパミン作動性アゴニストである。これは、本特許出願の主題である系から、この系を決定的に変性及び分化させることに貢献している。特に、ブプレノルフィンとメタドンのいずれもが、文献US 2005/181,071に与えられたドーパミン作動性アゴニスト分子の推定網羅的リストにドーパミン作動性アゴニストとして列挙されていない。
【0023】
要約すれば、本発明は、カンナビノイド受容体(CB1及びCB2)に及ぼす効果に関するものではない。更に本発明は、2つの反作用(アゴニスト又はアンタゴニスト)に関するものではなく、本質的には何よりも2つの同時アゴニスト作用に関する。これらの同時作用により生じる安定なドーパミン作用は、ここから生じるはずである。このような結果を得るために、直接及び間接アクチベーターの組合せが使用される。「直接作用」は、投与された分子がドーパミン作動性ニューロン上の反応(これは、阻害でも刺激の反応でもよい)を直接活性化する作用を意味する。「間接作用」は、神経修飾物質が活性化され、そしてこれが、二次的に(又はその結果として)ドーパミン作動性ニューロンを刺激することを意味する。
【0024】
よって本発明の1つの主題は、精神病応用については場合により控えられるかもしれないが、嗜癖という現象には特に合致する、治療法の充分に確定した組合せである。このことは、問題の分子が、他の既に使用されているものに加えられることを意味するのでなく、特許請求される2種の分子の特定の組合せが、事前に又は他の既知の診断法について精神病と確定できなかった患者の集団に対して、個々に投与した一方又はもう一方よりも、うまく作用することを意味する。
【0025】
本発明の目的は、代償療法の現行の治療法(OST維持)を修飾することである(他の人はやっていない):通常の原理は、鎮静状態が出現するまで用量を増加させることにある。本手法では、代償療法を、可能な限り低いが必要な用量レベルに設定するために、第2の分子を導入することが好ましい。
【0026】
これらの治療手段及び神経科学の発展は、嗜癖の広範な分野における知識を拡大している。
【0027】
こうした事情にも関わらず、何十万もの患者のケースで、代償療法の過程で現れる持続性障害は、これらの効果の限界を示している。薬物から距離を置くことは比較的容易であるが、薬物に抵抗することはより困難である。
【0028】
このような分野の研究の発展は、これまで、嗜癖を引き起こしうる他の生成物に置き換えられる治療法に関して、正確な適応を何ら提供していない。しかし、これら全ての生成物は、3つの基本の系(オピオイド、GABA作動系及びドーパミン作動系)に作用すること、及びこれら全ては、結局のところドーパミン作動性伝達の増大を引き起こすことが知られている。
【0029】
本特許出願において、本発明は、依存症患者に同時に2種の直接及び間接プロドーパミン作動性分子を使用することが重要であるという原理に基づいてきた。この特定の調節により、安定に近いニューロンの状況に徐々に戻すことができ、嗜癖期間の化合物の反復摂取により無秩序になっていた系の回復を助ける。これは、オピエート代償療法に有効であろうが、またサプリメントとしても有効であろう。
【0030】
本特許出願の主題である発明は、大方の予想に反して、特にD2及び/又はD3型の、プロドーパミン作用を持つドーパミン作動性受容体リガンド(本明細書では以降、直接プロドーパミン作動剤と呼ぶ)と、ドーパミン作動性受容体に直接作用しないがドーパミンの放出を間接的に修飾する、プロドーパミン作動薬と称してもよい第2の化合物(メタドン、ブプレノルフィン、LAM(左旋性−アルファ−アセチルメタドール)を含むオピオイド、又はオピオイド受容体に作用するこの特性を有すると主張される他の全ての物質など)(本明細書では以降、間接プロドーパミン作動剤と呼ぶ)との組合せによる、ヘロイン及びオピオイド、更にはそれほどではないが、精神刺激薬(例えば、コカイン)に依存症の個人の治療が、嗜癖性物質を強迫的に探すに至る内面の精神的緊張の状態に急速な改善をもたらすという点にある。
【0031】
よって、2種の物質(直接プロドーパミン作動薬と間接プロドーパミン作動薬)の投与中、この組合せは、少なくとも治療の第1週には抗嗜癖効果をもたらすことができる。
【0032】
この知見は、充分に説明されることがないが、実験的臨床試験の成果である。
【0033】
依存症の個人の全身状態の改善とは、それによって、嗜癖の特徴である、強迫行動の根本原因の探求を非常に迅速に確立できることである。
【0034】
よって本発明の1つの主題は、具体的には、離脱を促進するための、同時又は逐次投与されることが意図された、好ましくはキットの形の、2種の医薬の組合せを含む薬剤組成物であって、経口、非経口又は経皮投与用の薬剤組成物の形の、2種のアゴニスト:1種は特にD1、D2及びD3受容体に作用する直接プロドーパミン作動剤、そしてもう一方は、オピオイド代替品を含む間接プロドーパミン作動剤(ドーパミンの放出を調節することができる)の組合せよりなる組成物である。
【0035】
ドーパミン作動性アゴニストは、好ましくはD1、D2又はD2/D3型のアゴニストである。
【0036】
ドーパミン作動性アゴニストの中で、最も広く使用される分子は、下記である:
− アミスルプリド(amisulpride)(プロドーパミン作動用量で)、
− リスペリドン、
− オランザピン。
【0037】
スルピリド、メトクロプラミド、又は更にオランザピン若しくはハロペリドールのような、他のドーパミンアンタゴニスト物質もまた使用することができる。
【0038】
間接プロドーパミン作動性アゴニストは、弱く多幸活性を表すだけか、かつ/又は限られた嗜癖効果を表すだけの、オピオイド受容体に又は同受容体中に結合することができるか又はできない物質として定義することができる。これに関連して、メタドン、ブプレノルフィン、LAMとして知られている生成物、ナロルフィン(nallorphan)、ナルトレキサート(naltrexate)、レバロルファン、及び一般的には、このような特性を有するとして報告されている任意の物質を挙げることができる。またコカエチレン(cocaethylene)も同様である。
【0039】
よって本発明は、単一の確定した薬剤組成物の形で同時に、又は該活性成分のそれぞれを分離した形で含むキットの形(よってこれらは、可変の用量で、又は種々のリズムで、又は種々の順序で、又は種々の形で投与することができる)で、このような組合せを投与することにある。
【0040】
よって2種の活性成分の組合せは、2種の同じ剤形で、例えば、素錠、ゼラチンカプセル剤、糖衣錠若しくは滴剤として、又は異なる剤形で、例えば、異なる色のゼラチンカプセル剤若しくは異なる組成の溶質の滴剤として投与することができる。
【0041】
活性成分の濃度もまた、治療必要性、治療法の追求及び副作用の出現の関数として、高用量から低用量にわたり変化しうる。
【0042】
統合失調症の感情若しくは認知症状の治療に、自閉症の治療に、又は神経弛緩薬が誘導した遅発性ジスキネジアの治療に、アミスルプリド又はその塩、そして特にS−(−)−アミスルプリドを使用することは、既に知られている慣行である(PCT/EP99/05325)。特許PCT/EP99/05325はまた、他の詳細な記載なく、S−(−)−アミスルプリドを「薬物嗜癖」に対抗するために使用できることに言及している。
【0043】
アミスルプリドは、抗アポモルヒネ物質として特許US 4,401,822に記載されているベンズアミド系の多くの代表化合物の1つである。ラセミ体又はエナンチオマーとして純粋な[S(−)]型のアミスルプリドの合成は、その塩の合成と一緒に、特許出願PCT/EP99/05325に記載されている。
【0044】
アミスルプリドは、薬理学では、辺縁系D2受容体から[H]−ラクロプリドを追い出すものとして記述されている。その中枢作用の結果として、アミスルプリドは、とりわけ既知の抗精神病神経弛緩性生成物よりも、現れる錐体外路症候群などのような副作用が少ないことにより、統合失調症に罹患している個人の場合には抗精神病薬として考えやすい。
【0045】
よってアミスルプリドは、既知の医薬であるが、これまでは他の神経精神病の適応症に使用されてきた医薬である。
【0046】
本組合せの主題である医薬の効果は、迅速に現れ、そして既に前臨床試験において、含浸効果を考慮に入れた好ましい効果が指摘されている。
【0047】
本発明の薬剤組成物に照らして投与される用量は、望まれる効果、嗜癖薬物への依存症の存在期間の長さ及び要求嗜癖に対する行動の強さの関数として変えられよう。
【0048】
直接プロドーパミン作動性物質の用量は、単位摂取あたり1mg〜600mgの範囲であろう。間接プロドーパミン作動性化合物の用量は、単位摂取あたり0.2mg〜2000mg、そして好ましくは単位摂取あたり0.2mg〜300mgの範囲であろう。
【0049】
本発明の1つの好ましい実施態様において、この組合せは、単位摂取あたり、25mg〜500mgの活性成分を含む直接プロドーパミン作動性化合物の錠剤と、0.2mg〜500mgの用量の間接プロドーパミン作動性物質の錠剤とから形成される。直接プロドーパミン作動性化合物は、好ましくはアミスルプリドである。間接プロドーパミン作動性物質は、好ましくはメタドン、ブプレノルフィン、LAMとして知られている生成物、ナロルフィン、ナルトレキサート、レバロルファン及びコカエチレンから選択される。
【0050】
特に有用な別の実施態様は、例えば、2瓶の固体又は液体調剤(瓶の一方は、直接プロドーパミン作動性物質の溶液を含み、もう一方の瓶は間接プロドーパミン作動性物質の溶液又は懸濁液、例えば、メタドンの水性懸濁液又はシロップを含む)を含むキットの形で提示される。
【0051】
本発明の組合せの別の実施態様では、複合剤形、特に2種の活性成分を含み、よって同時投与を達成する乾燥剤形が製造される。剤形の一方の部分に直接プロドーパミン作動性物質を含み、そしてもう一方の部分に、間接プロドーパミン作動性物質を含む、二層コート素錠又は二核糖衣錠が、こうして想定される。分割錠もまた、投与が容易な剤形である。
【0052】
注射剤形もまた調製される。この剤形では、組合せの2種の活性成分の同時投与が可能である。この剤形は、持続作用を持つ貯蔵剤形を調製するのに特に正当化される。持続効果を持つ経皮剤形もまた想定される。
【0053】
また、遊離型の、又は物理的複合型の、又は化学的複合型の、例えば、ポリカルボン酸との、若しくは酸性樹脂との複塩の、活性成分のそれぞれの確定用量を含む、固定の組合せを調製することも可能である。これらの組合せは、臨床試験中に固定する必要があるが、製品の広範な販売及び好ましい業績の生産を目標とするならば、あまり使用しやすいものにはならないだろう。
【0054】
通常の用法用量は、一般に低用量のプロドーパミン作動性医薬を用いること、そして次に「プラトー」効果が得られるまで徐々に用量を増加させることにある。
【0055】
アミスルプリドの場合には、単回の摂取を50〜400mgとして、1日用量は50〜500mgの範囲であろう。
【0056】
リスペリドンの場合には、用量は1日に1〜4mgの範囲であろう。
【0057】
間接プロドーパミン作動性生成物、そして特にメタドンの投与は、1回の投与あたり5〜120mgの範囲であろう。ブプレノルフィン、硫酸モルヒネ又はナロルフィンの用量は、比例して概略同等量であろう。
【0058】
本発明の組合せの2種の成分の投与の順序は、決定要因ではなく、治療必要性により調節することができる。最初に間接プロドーパミン作動性物質を投与し、そして次に直接プロドーパミン作動性生成物を投与することを確保するのが好ましいと考えられる。他方では、直接プロドーパミン作動性生成物を最初に投与し、次に間接プロドーパミン作動性生成物を投与することも可能である。いずれの場合にも、2種の活性成分の投与は同時にするのがより便利である。
【0059】
本発明の主題はまた、例えば、50〜500mgのアミスルプリドと0.2〜30mgの間接プロドーパミン作動性生成物を薬剤学的に許容しうる非毒性不活性賦形剤又はビヒクル中に含む、直接プロドーパミン作動性生成物又はその塩と、間接プロドーパミン作動性生成物又はその塩との組合せから構成される薬剤組成物である。用量は、最初に増加させ、次に閾値効果に到達したら、プロドーパミン作動性生成物の一方及び/又はもう一方の用量を低下させることにより調節する。間接プロドーパミン作動性生成物は、ナルトレキソン、ナロルフィン及びブプレノルフィンから選択される(好ましくはブプレノルフィン)。
【0060】
本発明の別の主題は、第1の薬剤学的に適切な用量の直接ドーパミン作動性物質、例えば、塩基の形で、又は塩の形で、ラセミ体で、又はエナンチオマーの形で、100〜400mgの用量のアミスルプリド、及び単回摂取あたり5〜200mgのメタドンを含む、第2の薬剤学的に適切な用量のメタドンを含む、キットの製造にある。
【0061】
本発明の別の主題は、リスペリドンの用量が、単位摂取あたり1〜4mgであるような、リスペリドンと、ナロルフィン、メタドン、ブプレノルフィン及びナロルファン(nallorphan)から選択される間接プロドーパミン作動剤との組合せから構成される薬剤組成物の製造にある。
【0062】
本発明はまた、ラセミ体又は光学活性形の、及び遊離形又は鉱酸若しくは有機酸による塩化形のスルピリドと、ブプレノルフィンとの組合せよりなる抗嗜癖医薬に関する。
【0063】
本発明の別の実施態様では、本薬剤組成物はまた、神経弛緩剤、例えば、フェノチアジンを含んでもよい。
【0064】
本発明の組合せは、医薬による個人の一定の含浸を確保するために、1日に1回又は2回、例外的には1日に3回の割合で投与することが意図されている。
【0065】
詳細が添付文書に与えられる薬理試験及び臨床試験によって、本発明の組合せの効力が証明されている。
【0066】
本発明はまた、合法又は非合法薬物に対する種々の形の嗜癖と闘う方法に関し、この方法は、合法又は非合法薬物に対する嗜癖の現象を表している個人に、充分かつ有効量の直接ドーパミン作動性アゴニストと間接プロドーパミン作動性アゴニストとの組合せを、単一の又は別々の剤形で同時に、あるいはバッチ形式で(最初に間接プロドーパミン作動性化合物を所定の剤形で、続いて直接ドーパミン作動性アゴニストを別の剤形で投与することによる)、例えば、キットの形で投与することにある。
【0067】
上述の方法は、オピエート、例えば、ヘロインに対する嗜癖と闘うのに特に適している。また、嗜癖を引き起こす活性成分、例えば、アンフェタミン及びその誘導体、アルコール、コカイン並びにNMDAの利用又は乱用と闘うことにも、利用されている。
【0068】
実験セクション
本試験の具体的な目的:
1. 低用量のアミスルプリド(直接プロドーパミン作用)とブプレノルフィン(間接プロドーパミン作用)の組合せの使用によって、長期投与後のモルヒネに対する行動感作を軽減できることを証明すること;
2. 徐放可能な処方中の間接プロドーパミン作動性化合物を使用することの優位性を証明すること。
【0069】
1. オピエート及びオピオイド系
1.1 オピオイド受容体
オピオイド受容体の活性化は、多種多様な生理学的及び薬理学的反応を引き起こす。具体的には、オピオイド系は、特にストレス、疼痛、気分、心臓血管機能、及び食物摂取の調節に関係している(Vaccarinoら, 2000)。
【0070】
高比放射能の放射標識リガンドの使用によって、哺乳動物の中枢神経系において、立体特異的で可飽和性かつ高親和性の受容体が発見できた。外因性オピエートに対するこれらの特異的な膜結合部位は、3つのチームによって証明された(Simonら, 1973;Terenius, 1973;PertとSnyder, 1973)。更に最近、この受容体は、クローン化されて3つのタイプ:δ、μ及びκがあることが明らかになった(Kiefferら, 1992;Chenら, 1993;Yasudaら, 1993)。これらの配列に依存して、明らかにオピオイド受容体は、ヘテロ三量体Gタンパク質を結合する7回膜貫通型受容体の大ファミリーに属すると考えられる(Dohlmanら, 1987)。これらの受容体は、ヒトで60%の配列相同性を持ち、最も保存されている配列は、膜貫通ドメイン及び細胞内ループである。更には、これらは中枢神経系において異なる分布をしている。μオピオイド受容体は、中枢神経系全体に広く存在し、基底核、辺縁系構造、視床核のような幾つかの領域、及び痛覚に重要な領域では非常に高濃度である。デルタ及びカッパ受容体は、分布がより少なく、そして特に、前者では腹側及び背側線条体に、そして後者では背側線条体及び視索前野に存在している(Mansourら, 1988)。
【0071】
オピオイド受容体に関連する情報伝達カスケードは、種々の組織、細胞型又はニューロン調製物で広く研究されている。これら3種の受容体は、多くのエフェクターを調節するGi/Goタンパク質に結合していることが証明されている。具体的には、オピオイド受容体は、アデニル酸シクラーゼ活性を阻害し(Sharmaら, 1977)、これにより細胞内cAMPのレベルを低下させ、カルシウム伝導性を低下させ(Heschelerら, 1987;Surprenantら, 1990)、カリウムチャネルを刺激して(Northら, 1987)、細胞内カルシウムのレベルを上昇させる(Jinら, 1992)。更に最近、これらの受容体が、MAP−キナーゼ経路を活性化することにより、分裂促進シグナルを生成できることが証明されている(Fukadaら, 1996)。
【0072】
1.2 内因性オピオイドペプチド
オピオイド受容体の内因性リガンドは、エンドモルフィン類である(Hughesら, 1975)。これらは、他の神経伝達物質と共存しているニューロンの刺激の結果として、高密度コアを持つ大きな小胞から、シナプス間隙に放出される神経ペプチドである。エンドモルフィン類は、独特な前駆体から誘導され、中枢神経系の種々の集団のニューロンに不均一に存在する。プロオピオメラノコルチン(又はPOMC)からは、β−エンドルフィン及び関連ペプチド類が生じ、プロエンケファリンAは、エンケファリン類(Met−及びLeu−エンケファリン)及び類似ペプチド類の供給源であり、そしてプロダイノルフィンからは、ネオ−エンドルフィン類及びダイノルフィンが生じる(Akilら, 1998)。
【0073】
1.3 エンケファリン分解酵素及びこれらの酵素の合成インヒビター
エンケファリン類は、その放出後の寿命が非常に短い(1分未満)。この短さは、標準的な神経メディエーターの多くについては、再取り込み系のためではなく、その酵素的分解によるものである。Met−エンケファリン(Tyr−Gly−Gly−Phe−Met)及びLeu−エンケファリン(Tyr−Gly−Gly−Phe−Leu)は、当初はエンケファリナーゼとして知られていたが、中性エンドペプチダーゼ(NEP)と同一であることがその後証明されているペプチダーゼでのGly−Phe結合の、及びアミノペプチダーゼN(APN)でのTyr−Gly結合での切断によって急速に加水分解される(Roques, 1986)。これらの2つの酵素は、同じ群の亜鉛メタロペプチダーゼに属する。
【0074】
エンケファリンの寿命を延ばすために、そしてその作用を引き延ばすために、これらの酵素の多くのインヒビターが合成されている(Roques, 1993)。しかし、酵素分解から内因性オピオイドペプチドを完全に保護するためには、NEPだけでなくAPNも阻害することが必要である(Bourgoinら, 1986)。
【0075】
RB101(これは、血液脳関門を通り抜けることができる分子である(Fourni-Zaluskiら, 1992)が、また経口の生物学的利用能が低い)を含む、数通りの混合エンケファリンインヒビターが開発されている(Roques, 1986)。
【0076】
エンケファリン異化インヒビターは、エンケファリンの放出に影響を及ぼすことなく、その細胞外濃度を上昇させる(Daugeら, 1996;Bourgoinら, 1986;Waksmanら, 1985)。これらの分子の利点は、非常に高用量であってさえ、モルヒネに匹敵する強力な薬理学的反応を決して誘導せず(Ruiz-Gayoら, 1992;Abbadieら, 1994)、よってオピエートの標準的副作用(便秘、口腔の乾燥、掻痒、生理不順、そして更に深刻には、胃腸疾患及び呼吸器抑制)が無いことである。
【0077】
1.4 オピエート
最も長い間知られており、そして医療において使用される、外因性オピオイド受容体リガンドは、インディアン・ポピー(ケシ)から誘導されるアルカロイドのモルヒネである。
【0078】
他の物質は、モルヒネと同じ薬理学的特徴を有する。代謝されてモルヒネになるヘロイン(ジアセチルモルヒネ、ジアモルヒネ)は、結核の治療において1898年に医療に導入された。現今では、この物質は、オルガスム反応である「ハイ」を生み出す脳内に急速に浸透するため、薬物中毒者に非常に好まれている。
【0079】
他のオピエートアゴニストは、今や代替療法において使用されている:これは、メタドン及びブプレノルフィンの場合である。メタドンは、モルヒネのような合成オピエートであり、μ受容体の好ましいアゴニストである。
【0080】
DAMGO及びDPDPEのような他の合成オピオイドは、それぞれμ及びδ受容体の選択的リガンドとして、実験薬理学において従来から使用されている(Handaら, 1981;Mosbergら, 1983)。
【0081】
別の種類の外因性オピオイド受容体リガンド:オピオイドアンタゴニストが存在する。とりわけ、ナロキソンに言及することができるが、これは、急性アヘン中毒の処置において治療的に使用されている。この分子は、μ及びδの2つの受容体に同じ親和性で結合する。別の既知のアンタゴニストは、ナルトリンドール(naltrindole)であり、これは、非常に強い親和性でδ受容体に結合する(Fangら, 1991)。これは実験薬理学において広く使用されている。
【0082】
2. 嗜癖
2.1 導入:依存症又は嗜癖
WHOの定義では、依存症/嗜癖は、ある生成物の摂取が、以前には最重要であった他の行動よりも大きな要求になる症候群である。依存症は、薬物の摂取の反復により確立し、抑えきれない薬物への欲求を特徴とし、そしてこのため、薬物を強迫的に探し求めさせる。依存症は、2つの様相:身体及び精神を持つ。
【0083】
身体要素は、離脱症候群(例外的なケースは別として、これは直面する疼痛の強さにも関わらず、致命的ではない)に特異的な疼痛に直面する脅威で、薬物中毒者に薬物を摂取することを強いる。これは数日後には消失しうる。精神要素は、薬物中毒者の再開する願望であり、補強/報酬系による脳の強い刺激に関わっており、そして薬物嗜癖における多くの再発の原因である。これは数年間持続しうる。
【0084】
2.2 オピエート依存症及び耐性
耐性は、ある物質に対する身体の適応の過程であり、これは、該物質の作用の漸進的減衰により反映され、そして同じ作用を得るために用量を増加させる必要性を引き起こす。動物において、耐性は、薬物の反復投与によって、それにより誘導される行動効果の低下をもたらす。
【0085】
モルヒネのような外因性リガンドによるオピオイド系の慢性活性化は、薬物の強迫的探索を特徴とする依存症の確立を招く。動物では、特にラットでは、多くの実験モデルによって、オピエートの行動効果を証明することができている。自己投与又は条件付け場所嗜好性のような手法によって、ヘロイン及びモルヒネの強化効果を証明している(McBrideら, 1999)が、この効果には、主としてμオピオイド受容体が介在しているようである(Matthesら, 1996)。
【0086】
2.3 離脱
薬物の摂取の突然の遮断は、薬物中毒者では、身体及び精神症候により顕在化する。オピエートからの離脱は、とりわけ、高血圧及び痙攣性腹痛により顕在化するが、また快感消失及び不快気分も同様である。
【0087】
動物では、オピエートからの離脱は、オピオイドアンタゴニストのナロキソンの投与によってもたらすことができる。次にモルヒネ依存症ラットにおいて、幾つかの行動変化が観察される:毛づくろい、咀嚼、まばたきの増加、また下痢や減量。
【0088】
2.4 嗜癖の理論(RobinsonとBerridge)
嗜癖に関して幾つかの説が仮定されている。その1つは、喜びに内在する系と欲望の原因である系との間の解離の仮説を提唱する。即ち、1番目のものは、報償による快楽の喜びを引き起こし、そしてオピオイド系に内在すると考えられる。2番目のものは、動機づけと報償の探索(欲求)に介入し、そして中脳辺縁系ドーパミン作動性ニューロンを関与させると考えられる。強迫行動の増加は、後者のニューロンの感作のためであると考えられる(Robinson-Berridge理論;RobinsonとBerridge, 2001を参照のこと)。
【0089】
ドーパミン作動系は、多くの伝達物質、インヒビター又はアクチベーターの影響下にある。また、多くのカテコールアミン作動系、セロトニン作動系、グルタミン酸作動系、GABA作動系、コリン作動系及びペプチド作動系は、アヘン依存症において重要な変化を受けることが証明されている(Nietoら, 2002、Ammon-Treiberら, 2005)。
【0090】
更には、内因性オピオイド系は、嗜癖行動において重要な役割を演じる。即ち、多くの研究は、ミュー型のオピオイド受容体をコードする遺伝子をもはや発現しない遺伝子改変マウスが、オピエートだけでなく、アルコール、カンナビノイド及びコカインにも、もはや依存症を起こさないことを証明している(Beckerら, 2002;Matthesら, 1996)。更には、D2ドーパミン作動性受容体をコードする遺伝子をもはや発現しないマウス(これらは、モルヒネに対する強い欲求を起こすことができないマウスである)(Maldonadoら, 1997)では、これらが、非常に高レベルのプレプロエンケファリン(エンケファリン(内因性オピオイドペプチド)の前駆体)を発現することが観察されている(Baikら, 1995)。
【0091】
3. ドーパミン作動系及びアミスルプリド
3.1 ドーパミン作動系
ドーパミンは、2つの分類の受容体:「D1様」及び「D2様」に作用する。D1様受容体(D1及びD5)は、Gsを介してアデニル酸シクラーゼに結合して、cAMPの産生を可能にし、そしてこれが、プロテインキナーゼAに依存する多くの代謝反応を引き起こす。D2様受容体(D2、D3及びD4)は、Gi/oに結合して、cAMPの合成を阻害するが、これは、特に過分極Kチャネルの開口を促進する。
【0092】
ドーパミン作動性ニューロンは、細胞群内で組織化され、これらは高度に分枝して、脳の幾つかの構造を神経支配する。中脳と間脳の接合部に局在する2つの主要なドーパミン作動性群は、黒質線条体系(A8及びA9で示される)及び中間皮質辺縁系(A10群)である。
【0093】
ニューロンA8及びA9は、黒質(中脳の腹外側部)から生じ、線条体に突き出る。これらは、運動機能を調節するのに必須の役割を演じる。これらの黒質線条体ニューロンの分解は、パーキンソン病の原因である(Germanら, 1989)。
【0094】
ドーパミン作動性A10(DA−A10)ニューロンの細胞体は、腹側被蓋野(VTA)に局在する(Oadesら, 1987)。これらは、辺縁系の全ての構造:側坐核、嗅結節、小脳扁桃、中隔、海馬及び前頭皮質に投射する。これらは、直接又は間接に全身からの情報を交換しているが、特に小脳扁桃(感情的知覚におけるこれの役割が知られている)及び海馬(このドーパミン作動性経路の活性化から生じる感覚を記憶する)とは盛んである。極端に単純化すれば、これらは、脳のコンサートにおいて、特に気分、刺激の快楽的価値(喜び)、覚醒状態、注意、認識活動及び記憶に関して組織化する役割を有すると言えよう。統合失調症、躁病発現、せん妄の噴出及び子供の運動過剰症の生産的顕在化は、これらのニューロンの活動亢進に関係していると考えられる。他方では、統合失調症(無快感症、引きこもり)及びある種の鬱状態の不充分な顕在化は、これらの活動低下に相当するだろう。特に側坐核の領域における、A10ドーパミン作動性ニューロンの活動のどのような増大も、喜びの感覚に関係している。
【0095】
神経毒の6−ヒドロキシドーパミンの脳内注射により、A10ドーパミン作動性ニューロンを特異的に破壊することができる。細胞体の領域(腹側被蓋野の中)への、又はこれらが投射する領域(側坐核)への、この生成物の注射は、不可逆的にこれらのニューロンを破壊する。A10ドーパミンニューロンのこのような病変は、強度の快感消失の状態を生み出すことが証明されている。更に、コカイン、アンフェタミン及びニコチンの精神刺激効果はもはや存在せず、齧歯類ではこれらの薬物により生じた場所嗜好性が無くなる(欲求効果の消失)。最後には、A10野のドーパミンニューロンが破壊された動物は、もはやこれらの薬物を自己投与しない(強化効果の消失)。更に具体的には、これは、これらの欲求及び強化効果に関与する、ドーパミンが放出される側坐核のドーパミン作用の終点であることが証明されている(Fibigerら, 1987;Zitoら, 1985;Shimuraら, 2002)。
【0096】
ここまで見てきたものに反して、ノルアドレナリン又はセロトニンニューロンの特異的病変は、これらの物質の嗜癖能力を減衰しない(Fletcherら, 1999)。
【0097】
ドーパミンニューロンは、主として2つの中脳核に集合する。1つは、腹側被蓋又は腹側被蓋野(VTA、又は中脳野A10)であり、これの軸索投射は、皮質(特にその前部)、辺縁系(特に中隔及び扁桃体)及び基底核(被殻及び側坐核)を神経支配する。これらの線維の大部分は正中終脳小束(median telencephalic fascicle)(MTF)を通り抜け、認識−感情情報の処理に関与している。
【0098】
実際は、このニューロンケーブルは強化/報償系に属しており、そしてこの系は、種の又は個人の生存に必須の行動中に喜び(快楽的活動)を喚起するために、非常に強い脳刺激を生み出す。薬物により迂回されるのは、この動機づけ回路である。即ち、喜びを生み出すことにより、薬物は、薬物使用が生存行動に取って代わった強迫行動に個人を駆り立てる。
【0099】
他のドーパミン作動性核は、軸索を線条体(尾状核及び被殻)に投射して、移動運動の制御に関係している黒質(substantia nigra)(黒質(locus niger)又は中脳野A9)である。線条体におけるドーパミンの放出のレベルを修飾する薬物は、運動機能を破壊する。
【0100】
3.2 ドーパミン依存機序
モルヒネの投与は、黒質及びVTAにおけるドーパミン作動性ニューロンの活動を刺激し、そして尾状核−被殻への、及び側坐核へのドーパミンの放出を増加させる(MatthewsとGerman, 1984;Spangelら, 1990;Di ChiaraとNorth, 1992)。
【0101】
この増加は、オピオイドの間接作用のためであることは一般に認められている。具体的には、黒質網様体及びVTAに局在するGABA作動性介在ニューロンの表面に存在するμ受容体の活性化は、ドーパミン作動性ニューロンでのこれらの介在ニューロンにより発揮される阻害を除去すると考えられている(JohnsonとNorth, 1992;BontempiとSharp, 1997)。
【0102】
3.3 アミスルプリド、使用される用量の関数としてのプロ−又はアンチ−抗ドーパミン作用
アミスルプリドは、ベンズアミドに化学的に関連した分子である。低用量で、アミスルプリドは、前頭皮質のD2及びD3シナプス前受容体に及ぼすアンタゴニスト効果を有する(正味の効果:促進)。対照的に、高用量で使用されるアミスルプリドは、辺縁系のシナプス後D2及びD3受容体を阻害する(正味の効果:妨害)。更に、線条体には低い活性しか持たないため、錐体外路効果はない(Perraultら, 1996)。これら全ての要因により、この分子は、不定型の抗精神病薬となっており、現今は統合失調症の陽性及び陰性症状の治療において使用されている。
【0103】
材料と方法
1. 動物と処置
本試験に使用する動物は、実験開始時に体重約20gのOF1系のオスのマウスである(チャールズ・リバー(Charles River)、フランス)。1日の照明サイクル(07:30h;17:30h)を1年を通じて一定にした環境でマウスを飼育し、温度を約22℃に維持する。マウスには水と飼料を自由に摂らせ、実験は、動物実験における倫理に関する国際的な規定にしたがい実施する。
【0104】
2. 方法
2.1 移動運動活性の測定
マウスを遮音プラスチックケージ(255cm×205cm)に個別に入れて、5ルクスの光強度に曝露する。マウスの運動は、光電池により60分間捕捉して、コンピュータに記録する。実験は、生成物の注射直後に開始する。本試験において、「自発運動活性」という用語は、マウスの水平運動のみを考慮に入れる。
【0105】
2.2 行動感作:
嗜癖に関して幾つかの説が仮定されている。その1つは、喜びに内在する系と欲望の原因である系との間の解離の仮説を提唱する。即ち、1番目のものは、報償による喜びを引き起こし、そしてオピオイド系に内在すると考えられる。2番目のものは、動機づけと報償の探索(欲求)に介入し、そして中脳辺縁系ドーパミン作動性ニューロンを関与させると考えられる。強迫行動の増加は、後者のニューロンの感作のためであると考えられる(Robinson-Berridge理論)。移動運動活性は、幅広い要因に影響される。しかし、移動運動に及ぼす薬物の刺激効果と動機づけに及ぼす効果の間には一定の類似点が存在するが、このことは、薬物の投与後に観察される移動運動活性化は、動機づけに由来することを示唆している。
【0106】
3. 統計解析
実施される全ての行動試験に一因子(処理)分散分析(ANOVA)を使用し、ANOVAでp<0.05であれば、続いてスチューデント・ニューマン・クールズ(Student-Newman-Keuls)検定を行う。全ての場合に、有意性はp<0.05であれば許容される。
【0107】
結果
1. 使用されるアミスルプリドの用量の決定
ドーパミン作動性アンタゴニスト活性を与えられた分子は、移動運動活性を低下させる。アミスルプリドが、マウスにおいてドーパミン作動性アンタゴニスト活性(即ち、D2及びD3シナプス後受容体に及ぼす効果であって、D2及びD3自己受容体に及ぼす効果ではない)を有する用量を決定するために、この性質を利用する。試験される用量は、0.5mg/kg、2mg/kg、10mg/kg、20mg/kg及び50mg/kgである。
【0108】
移動運動活性の低下は、10mg/kg以上で有意である。他方では、低用量(0.5mg/kg)で移動運動亢進が観察される。よって、プロドーパミン作動性反応が生じるこの用量を残りの実験のために選択する。
【0109】
2. アミスルプリド及びブプレノルフィンの組合せは、モルヒネでの前処理後の行動感作を縮小することができる
使用される実験プロトコールは、下記のやり方で説明することができる:
【0110】
【化1】

【0111】
アミスルプリド(AMS)の用量:0.5mg/kg
ブプレノルフィン(Bup)の用量:0.1mg/kg
【0112】
得られる結果は以下を示す(グラフIを参照のこと):
1. D1からD7までモルヒネで長期に処理したマウスは、食塩水で長期に処理したマウスに比較してD15には行動感作を示す。
2. D8とD14の間の単独投与のアミスルプリド又はブプレノルフィンでの処理の導入によって、この行動感作を縮小することはできない。
3. D8とD14の間のアミスルプリド+ブプレノルフィンでの処理の導入によって、この行動感作を有意に縮小(p<0.05)することができる。興味深いことには、対照群との有意な差はもはや無い。
【0113】
3. 徐放可能な処方中にプロドーパミン作動性化合物を使用することの優位性の証明:
生理食塩水中のコカインの反復投与により、行動感作が引き起こされるが、それは非常に急速に現れる。数日の離脱期間後に、コカインの新しい注射を行うが、結果は、マウスがなおもこの感作を発現することを示す。これが、コカエチレンのような、コカインの生物学的利用能の幅が広がった形に対する興味を駆り立てる理由である。この性質は、これを適切なガレヌス製剤中に入れることにより増強することができる。
【0114】
即ち、コカエチレンは、油性溶液中に入れたが、これは、この生成物の徐放を可能にすることが記載されている。
【0115】
使用されるプロトコールは、下記のやり方で例示することができる:
【0116】
【化2】

【0117】
マウスをコカイン(20mg/kg、腹腔内)で6日間処理する。マウスの移動運動活性は、D1、D3及びD6に腹腔内注射の直後に1時間測定する。次に、マウスを6日間離脱させ、次いでD13に食塩水、コカイン(20mg/kg、腹腔内)又はコカエチレン(20mg/kg、腹腔内)の注射を反復し、マウスの移動運動活性を1時間再測定する。
【0118】
興味深いことには、エマルション中のコカエチレンによる長期処理後には、行動感作が観察されないが、文献では、コカエチレンが生理食塩水中の溶液中にあるとき、行動感作を記述している(Prinssenら, 1996)。このことから明らかに、非常に大きなピーク効果を可能にする投与の様式と同様に、適切な薬物動態により、ドーパミン作動系は、それを感作することなく、効率的に刺激できることが確かめられた。
【0119】
更には、コカインで前処理されたマウスは、この生成物が再注射されると、行動感作を発現するが、エマルション中のコカエチレンが注射されると、この行動を全然発現しないことが明らかになった。よってこの結果は、この製剤処方中のコカエチレンが、ヒトの多幸感に結びつけられる何の行動も引き起こさないが、しかし同時に、コカエチレンの投与後に移動運動活性の増大が観察される(感作なし)ため、ドーパミン作動系を活性化することを示していると考えられる(グラフIIを参照のこと)。
【0120】
グラフIは、10mg/kgの用量のモルヒネの注射後、D15のマウスの移動運動活性の変動を示す。マウスには、スキームにより、D1からD7までモルヒネ又は生理食塩水のいずれかを、D8からD14まで生理食塩水、又はブプレノルフィン、アミスルプリド、ブプレノルフィン+アミスルプリドのいずれかを投与した:
【0121】
【化3】

【0122】
グラフIIは、1時間にわたって測定した移動運動活性の全体的なレベルを示す。マウスを、コカイン(20mg/kg、腹腔内)又は生理食塩水で6日間処理した。次に、マウスを6日間離脱させ、次いでコカイン(20mg/kg、腹腔内)、コカエチレン(20mg/kg、腹腔内)又は食塩水の注射を反復した。**p<0.01
【0123】
【表1】







【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】図1は、全群にモルヒネの注射後のD15のマウスの移動運動活性の測定結果である。
【図2】図2は、1時間にわたって測定した移動運動活性の全体的なレベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D1、D2及び/又はD3受容体のリガンドである、プロドーパミン作用を持つ直接ドーパミン作動性受容体アゴニスト化合物と、部分的又は完全な間接プロドーパミン作動性生成物との組合せから構成され、同時又は逐次に使用することが意図される2種の医薬の組合せである、新規な薬剤組成物であって、この直接ドーパミン作動性受容体アゴニスト化合物が、特に、アミスルプリド、リスペリドン、スルピリド、メトクロプラミド、ハロペリドール及びオランザピンから選択されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
プロドーパミン作用を持つ直接ドーパミン作動性受容体アゴニスト化合物が、二次的セロトニン作動性成分をも有する分子、例えば、オランザピンである、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項3】
プロドーパミン作用を持つ直接ドーパミン作動性受容体アゴニスト化合物が、光学分割型のアミスルプリド、そして特にS−(−)−アミスルプリドである、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項4】
間接プロドーパミン作動性生成物が、メタドン、ブプレノルフィン、LAMとして知られている生成物、ナロルフィン、ナルトレキサート、コカエチレン及びレバロルファンから選択される、オピオイド受容体にか又はドーパミン作動系を間接的に興奮させることができる系に結合できる物質である、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項5】
神経弛緩薬をも含む、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項6】
直接プロドーパミン作動薬と、間接プロドーパミン作動性生成物との組合せが、特定の組成を有する、単一の確定した薬剤組成物の形である、前請求項のいずれか1項記載の薬剤組成物。
【請求項7】
直接プロドーパミン作動薬と間接プロドーパミン作動性生成物との組合せが、それぞれの活性成分を別の形で含むキットの形である、請求項1〜6のいずれか1項記載の薬剤組成物。
【請求項8】
2種の活性成分の組合せが、2つの同一の製剤の形である、前請求項のいずれか1項記載の薬剤組成物。
【請求項9】
2種の活性成分の組合せが、2つの異なる製剤の形である、前請求項のいずれか1項記載の薬剤組成物。
【請求項10】
間接プロドーパミン作動性物質の用量が、単回の摂取あたり0.2〜2000mgの範囲である、前請求項のいずれか1項記載の薬剤組成物。
【請求項11】
間接プロドーパミン作動性物質の用量が、0.2mg〜300mgの範囲である、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項12】
単回の摂取あたりのラセミ体アミスルプリド又はS(−)異性体の形のアミスルプリドの用量が、50mg〜400mgの範囲である、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項13】
25mg〜500mgの用量のアミスルプリドの錠剤と、単回の摂取あたり0.2〜500mgの用量のナロルフィン、メタゾン、ブプレノルフィン、LAMとして知られている生成物、ナルトレキサート、コカエチレン及びレバロルファンから選択される間接プロドーパミン作動性物質の錠剤から形成されることを特徴とする、請求項1及び請求項12記載の薬剤組成物。
【請求項14】
一方は直接プロドーパミン作動性物質の固体又は液体製剤、そしてもう一方は間接プロドーパミン作動性物質の液体製剤の、2本の瓶を含むキットの形であることを特徴とする、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項15】
単回の摂取あたり100〜400mgのアミスルプリドと5mg〜200mgのメタドンを含むことを特徴とする、ラセミ体又はエナンチオマーとして純粋な形のアミスルプリド又はその塩と、メタドンとの組合せよりなる、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項16】
50mg〜500mgの用量の、塩基型又は塩型の、ラセミ体又はエナンチオマー型の、第1の薬剤学的に適切な用量のアミスルプリドと、単回の摂取あたり0.2〜30mgを含む、第2の薬剤学的に適切な用量のブプレノルフィンを含む、キットの形である、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項17】
1〜4mgのリスペリドンを含むことを特徴とする、リスペリドンと、ナロルフィン、メタドン、ブプレノルフィン及びナロルファンから選択される間接プロドーパミン作動薬との組合せよりなる、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項18】
単回の摂取あたり50〜500mgのアミスルプリドと、0.2〜30mgのブプレノルフィン又はナルトレキソン又はナロルフィンを含むことを特徴とする、アミスルプリドと、ブプレノルフィン、ナルトレキソン又はナロルフィンとの組合せよりなる、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項19】
1日に1〜3回の割合で投与することが意図される、請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項20】
合法又は非合法薬物への種々の形の嗜癖の予防又は治療用の、好ましくはキットの形の医薬の製造のための、前記と同義の直接プロドーパミン作用を持つ物質と、前記と同義の間接プロドーパミン作動性物質を含む、薬剤組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−526833(P2009−526833A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554881(P2008−554881)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000390
【国際公開番号】WO2007/093909
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(507147149)トリマラン・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】TRIMARAN LIMITED
【Fターム(参考)】