代謝物質モニタリング方法、散乱体濃度測定方法、及び代謝物質モニタリング装置
【課題】微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングする。
【解決手段】代謝物質モニタリング方法は、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する近赤外光の波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。
【解決手段】代謝物質モニタリング方法は、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する近赤外光の波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を含む試料に近赤外光を照射して当該試料の特性を測定する代謝物質モニタリング方法、散乱体濃度測定方法、及び代謝物質モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理に於いて、処理がどの時点でどの程度進んでいるかを知る事は、処理の最適化にとって重要である。廃水処理施設における合理的な運転とは、最小限の運転コストで,要求される処理水質を安定的に維持する運転である。これを実現するためには、処理すべき汚濁負荷を的確に把握し必要となる動力や薬剤を必要最小限に制御する方法や、処理結果である処理水質を監視することにより、要求される水質を維持できなかった場合に動力や薬剤の投入量を増加させる処理制御技術が有効である。しかし、廃水処理施設において処理を強化することは、一般的には運転コストの増大に繋がるために、運転管理の合理化が望まれる。
【0003】
適切な解析を行い、環境条件の適切な制御を行うことで、ほとんどの有機廃水は生物学的処理により処理することができる。生物学的処理の一般的な方法である活性汚泥法による好気的処理は、有機性の汚水中で微生物を連続的に培養し、汚水中の浮遊物や溶解性物質を吸着・酸化・同化させるものである。活性汚泥の能力は経験的に微生物の代謝過程に基づいて変化することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
廃水処理の分野では、廃水に含まれる金属や、有機化合物、フロックの濃度を分析することで、処理量の制御が行われおり、これまでに、この分析技術として、近赤外を用いた方法がある。例えば、200〜2500nmの波長範囲の可視、紫外光および近赤外を用いて、吸光度スペクトルまたは発光スペクトルの計測値をもとに、ケモメトリックス演算を利用することにより、廃水中の含有成分と濃度を分析する技術(特許文献1)が知られている。この技術は、200〜2500nmの波長範囲で連続した波長又は複数の波長で生物処理プラントにおける廃水の吸光度スペクトルまたは発光スペクトルを計測する。そして、このスペクトルデータにケモメトリックス演算を適用することより廃水の含有成分を同定し濃度を演算する。
【0005】
また、汚泥濃度を正確かつ連続的に測定し、その測定値を指標として、薬品注入や、脱水、焼却など汚泥処理プロセスの効率を高めることが重要である。これまで、可視光を使用した透過光測定法、散乱光測定法などを利用し濁度計を用いて濁度が測定されてきたが、試料の着色により、正確に計測できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−136208号公報(2004年5月13日公開)
【特許文献2】特開2004−177122号公報(2004年6月24日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】社団法人日本下水道協会,エアレーションタンクの微生物−検鏡と培養の手引き−、pp. 1-21
【非特許文献2】J.-N. Phue, S. B. Noronha, R. Hattacharyya, A. J. Wolfe and J. Shiloach: Glucose metabolism at high density growth of E. coli B and E. coli K: differences in metabolic pathways are responsible for efficient glucose utilization in E. coli B as determined by microarrays and Northern blot analysis” Biotechnology and Bioengineering, Vol. 90, pp. 805-820 (2005)
【非特許文献3】J. W. Hall, B. McNeil, M. J. Rollins, I. Draper, B. G. Thompson and G. Macaloney: Near-Infrared spectroscopic determination of acetate, ammonium, biomass, and glycerol in an industrial Eschericha coli fermentation, Applied Spectroscopy, Vol. 50, No. 1, pp. 102-108 (1996)
【非特許文献4】粟津邦男,長塩尚之,石井克典:赤外分光分析による微生物中間生成代謝物の推定に関する基礎的検討,環境システム計測制御学会誌,Vol. 15, No.2, 3, pp. 5-7 (2010)
【非特許文献5】高橋力也,小山幸治,安村和晃,川北省一,鈴木昌治,米山平:バルキング活性汚泥による乳酸,酢酸,プロピオン酸および酪酸の生成,醗酵工学会誌,Vol. 68, No. 1, pp. 17-23 (1990)
【非特許文献6】宗宮功,岸本直之,小野芳郎,西本聡:散乱スペクトル分析による水質の連続分析,水環境学会誌, Vol. 19,No. 1, pp.47-55 (1996)
【非特許文献7】宮田純,中原啓介:廃水処理プラントにおけるオンサイト水質モニタリング技術,JFE技報, No. 13, pp. 59-64 (2006)
【非特許文献8】本多典広,寺田隆哉,南條卓也,石井克典,粟津邦男:Inverse Monte Carlo法による光線力学療法前後の腫瘍組織の光学特性の算出,日本レーザー医学会誌,Vol. 31, No.2, pp. 115-121 (2010)
【非特許文献9】L.-H. Wang, S.L. Jacques and L.-Q. Zheng: Monte Carlo modeling of photon transport in multi-layered tissues. Computer Methods and Programs in Biomedicine, Vol. 47, pp.131-146 (1995)
【非特許文献10】V. V. Tuchin: Tissue Optics, SPIE Press, pp. 132-142, (2007)
【非特許文献11】F. J. Trueba and C. L. Woldringh: Changes in cell diameter during the division cycle of Escherichia coli, Journal of Bacteriology, Vol. 142, No. 3, pp. 869-878 (1980)
【非特許文献12】B. Alince and P. Lepoutre: Light-scattering of coatings formed from polystyrene pigment particles, Journal of Colloid and Interface Science, Vol. 76, No. 1, pp. 182-187 (1980)
【非特許文献13】T. Burger, J. Kuhn, R. Caps and J. Fricke: Quantitative determination of the scattering and absorption coefficients from diffuse reflectance and transmittance measurements: Application to Pharmaceutical Powders, Applied Spectroscopy, Vol. 51, No. 3, pp. 309-317 (1997)
【非特許文献14】T. Srinorakutara: Determination of yeast cell wall thickness and cell diameter using new methods, Journal of Fermentation and Bioengineering, Vol. 86, No. 3, 253-260 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記活性汚泥法等の生物学的処理に於いては、これまで主に「処理性能」に着目し、有機物・窒素・リン等の挙動把握・解析が行われている。しかしながら、微生物の代謝過程における資化・代謝により生じた物質にはあまり注目されていない。多段の反応層等の場合、資化・代謝された物質の挙動を知る事は、「処理性能」および「省エネ」の観点から重要であると考えられる。
【0009】
また、試料の着色や濁度などの光学的特徴は、それぞれ、光の吸収のしやすさを表す吸収係数μa[mm−1]、散乱のしやすさを表す換算散乱係数μs’[mm−1]等の光学特性値で記述する事ができる。だが、これまで、光学特性値に着目し、汚泥の吸収係数μa、換算散乱係数μs’を計測し濁度を計測した例はない。
【0010】
本発明の目的は、微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングすることができる代謝物質モニタリング方法及び代謝物質モニタリング装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、微生物からなる散乱体の濃度を近赤外光により測定することができる散乱体濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る代謝物質モニタリング方法は、微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射工程と、前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定工程とを包含し、前記測定工程は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする。
【0013】
この特徴により、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。このため、活性汚泥の能力を変化させる微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングすることができる。
【0014】
本明細書において、「近赤外光」とは、赤外光のうち、750nm以上3000nm以下の波長を有する光を意味するものとする。
【0015】
本発明に係る代謝物質モニタリング方法では、前記代謝物質は、酢酸塩を含み、前記対応する波長は、2255nmを中心とする帯域の波長であることが好ましい。
【0016】
上記構成により、2255nmを中心とする帯域の波長における吸光度の経時変化を測定して、グルコースを資化した大腸菌が生成する酢酸塩をモニタリングすることができる。
【0017】
本発明に係る散乱体濃度測定方法は、微生物からなる散乱体を含む散乱体液に近赤外光を照射する照射工程と、前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記散乱体の粒子径に対応する前記近赤外光の波長における前記散乱体液の換算散乱係数を算出し、前記換算散乱係数に基づいて前記散乱体の濃度を測定することを特徴とする。
【0018】
この特徴により、散乱体の粒子径に対応する前記近赤外光の波長における前記散乱体液の換算散乱係数を算出し、前記換算散乱係数に基づいて前記散乱体の濃度を測定する。このため、微生物からなる散乱体の濃度を近赤外光により測定することができる。
【0019】
本発明に係る散乱体濃度測定方法では、前記微生物は、大腸菌を含み、前記粒子径に対応する近赤外光の波長は、1200nmを中心とする帯域の波長であることが好ましい。
【0020】
上記構成により、大腸菌の粒子径に対応する1200nmを中心とする帯域の波長に基づいて大腸菌の濃度を測定することができる。
【0021】
本発明に係る散乱体濃度測定方法は、第1微生物からなる第1散乱体と、前記第1微生物の第1粒子径よりも大きい第2粒子径を有する第2微生物からなる第2散乱体とを含む散乱体液に近赤外光を照射する照射工程と、前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記第1及び第2散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記第1散乱体の第1粒子径に対応する前記近赤外光の第1波長における前記散乱体液の第1換算散乱係数を算出し、前記第1換算散乱係数に基づいて前記第1散乱体の濃度を測定し、前記第2散乱体の第2粒子径に対応する前記近赤外光の第2波長における前記散乱体液の第2換算散乱係数を算出し、前記第2換算散乱係数に基づいて前記第2散乱体の濃度を測定することを特徴とする。
【0022】
この特徴により、前記照射された近赤外光に基づいて、前記第1散乱体の第1粒子径に対応する前記近赤外光の第1波長における前記散乱体液の第1換算散乱係数を算出し、前記第1換算散乱係数に基づいて前記第1散乱体の濃度を測定し、前記第2散乱体の第2粒子径に対応する前記近赤外光の第2波長における前記散乱体液の第2換算散乱係数を算出し、前記第2換算散乱係数に基づいて前記第2散乱体の濃度を測定する。このため、第1散乱体及び第2散乱体の構成比を概算することができる。
【0023】
本発明に係る代謝物質モニタリング装置は、微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射手段と、前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定手段とを備え、前記測定手段は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする。
【0024】
この特徴により、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。このため、活性汚泥の能力を変化させる微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングする代謝物質モニタリング装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る代謝物質モニタリング方法は、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。このため、活性汚泥の能力を変化させる微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングすることができる。
【0026】
本発明に係る散乱体濃度測定方法は、散乱体の粒子径に対応する近赤外光の波長に基づいて散乱体の濃度を測定する。このため、微生物からなる散乱体の濃度を近赤外光により測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1に係る代謝物質モニタリング装置の構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態2に係る散乱体濃度測定装置の構成を示す模式図である。
【図3】実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】図3に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。
【図6】図4に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例1に係るGGを添加培養した培養液における波長2260nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液における波長2260nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図11】実施例1に係る波長2260nmでの吸光度と波長9700nmでの吸光度の逆数との関係を示すグラフである。
【図12】実施例2に係る大腸菌濃度毎の吸収係数スペクトルを示すグラフである。
【図13】実施例2に係る大腸菌濃度毎の換算散乱係数スペクトルを示すグラフである。
【図14】実施例2に係る大腸菌濃度と換算散乱係数との関係を示すグラフである。
【図15】実施例3に係る大腸菌濃度と酵母菌濃度との比率毎の換算散乱係数スペクトルを示すグラフである。
【図16】実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における大腸菌濃度の検量線を示すグラフである。
【図17】実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における酵母菌濃度の検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態では、微生物の資化・代謝により生じる物質と活性汚泥中の微生物との動的把握を簡便に行うことができる分析手法の確立を目的として、近赤外吸収分光分析、および近赤外波長において独自に開発した光学特性算出装置を用いた光学特性値の計測を検討した。本実施の形態では、大腸菌と模擬廃水とを用いた生物処理系を用いて、近赤外吸収分光分析法を活用した反応水中の動的変化の把握、および光学特性値算出法を活用した大腸菌液中の大腸菌濃度の定量的評価を試みたので、以下説明する。
【0029】
(実施の形態1)
(代謝物質モニタリング装置1の構成)
図1は、実施の形態1に係る代謝物質モニタリング装置1の構成を示す模式図である。代謝物質モニタリング装置1は、代謝物質モニタリング方法を実行する装置であり、近赤外光照射部2を備えている。近赤外光照射部2は、試料4に近赤外光を照射する。
【0030】
試料4は、微生物と、この微生物により資化される資化物質と、この微生物が生成する代謝物質とを含んでいる。この微生物は、例えば、大腸菌であり、資化物質は、例えば、グルコースである。代謝物質は、例えば、酢酸塩である。
【0031】
代謝物質モニタリング装置1には、近赤外光測定部3が設けられている。近赤外光測定部3は、試料4により反射された近赤外光の試料4に対する吸光度を測定する。具体的には、近赤外光測定部3は、試料4のグルコースを資化した大腸菌が生成する酢酸塩に対応する2255nmを中心とする帯域の波長における吸光度の経時変化を測定して酢酸塩をモニタリングする。
【0032】
試料4に含まれる微生物は、大腸菌以外のバクテリアであってもよく、また、酵母菌、カビ等の真菌であってもよい。また、資化物質は、グルコースの他、ガラクトースとグルコースとが結合したラクトース(乳糖)、ガラクトース、グルタミン酸、スキムミルク、蛋白質であってもよい。そして、代謝物質は、酢酸塩の他、ピルビン酸でもよい。
【0033】
実施の形態1では、試料4により反射された近赤外光の試料4に対する吸光度を測定する例を示すが、本発明はこれに限定されない。試料4を透過した近赤外光の吸光度を測定するように構成してもよい。
【0034】
(実施の形態2)
(散乱体濃度測定装置5の構成)
図2は、実施の形態2に係る散乱体濃度測定装置5の構成を示す模式図である。散乱体濃度測定装置5は、散乱体濃度測定方法を実行する装置であり、近赤外光照射部6を備えている。近赤外光照射部6は、散乱体液8に近赤外光を照射する。
【0035】
散乱体液8は、微生物からなる散乱体を含む。この微生物は、例えば、大腸菌である。大腸菌の粒子径は、約1000nmである。
【0036】
散乱体濃度測定装置5には、近赤外光測定部7が設けられている。近赤外光測定部7は、散乱体液8に照射された近赤外光に基づいて散乱体の濃度を測定する。具体的には、近赤外光測定部7は、散乱体である大腸菌の粒子径に対応する近赤外光の波長に基づいて散乱体の濃度を測定する。例えば、近赤外光測定部7は、大腸菌の粒子径である約1000nmに対応する1200nmを中心とする帯域の近赤外光の波長における散乱体液の換算散乱係数μs’を算出し、この換算散乱係数μs’に基づいて大腸菌の濃度を測定する。
【0037】
実施の形態2では、散乱体液8により反射された近赤外光の波長に基づいて散乱体液の換算散乱係数μs’を算出する例を示すが、本発明はこれに限定されない。散乱体液8を透過した近赤外光により換算散乱係数μs’を算出するように構成してもよい。
【0038】
散乱体液8に含まれる微生物は、大腸菌以外のバクテリアであってもよく、また、酵母菌、カビ等の真菌であってもよい。
【0039】
散乱体液8は、大腸菌と酵母菌とを含んでいても良い。酵母菌の粒子径は、大腸菌よりも大きい5000nm〜10000nmである。この場合、近赤外光照射部6は、この大腸菌と酵母菌とを含む散乱体液8に近赤外光を照射する。そして、近赤外光測定部7は、照射された近赤外光に基づいて、近赤外光の1200nmを中心とする帯域の波長における散乱体液の換算散乱係数μs’を算出し、換算散乱係数μs’に基づいて大腸菌の濃度を測定する。次に、近赤外光測定部7は、近赤外光の2255nmを中心とする帯域の波長における散乱体液の換算散乱係数μs’を算出し、換算散乱係数μs’に基づいて酵母菌の濃度を測定する。
【実施例1】
【0040】
実施の形態1で前述した代謝物質モニタリング方法の実施例を説明すると以下のとおりである。
【0041】
(試料の構成)
(前培養・種菌)
普通ブイヨン(ダイゴ製)培地100mLを50mLずつ、2つの坂口フラスコに入れ、蒸気滅菌(121℃、15分)し、冷却後、事前に培養しておいた大腸菌(Escherichia coli、NBRC3301)を1白金耳、植菌し、30℃で30時間振盪培養を行った。
【0042】
(集菌・種菌)
遠心分離(10000r.p.m.15分)を2回繰り返し集菌した。菌ペレットを滅菌したリン酸緩衝液(0.01M、pH7.0)で懸濁し、全体で約50mLに調整した液を大腸菌液とした。大腸菌液の光学特性値を算出する為に、遠心分離(4000r.p.m.15分)を行い、上記濃度より12倍に濃縮し、その後、段階希釈により6.3倍の濃度に調整した。
【0043】
(植菌)
予め、蒸気滅菌(121℃、15分)を行ったBOD標準液(グルコース3410mgとグルタミン酸3410mgとを1Lの純水に溶解させたものを5000mg/Lとした、以下「GG」と略記)3mLと、14100mg/Lのスキムミルク溶液3mLとに種菌液を1mLずつ添加した混合液を遠沈管にいれ、22℃で振盪培養を行った。
【0044】
(前培養・種菌)
植菌した培養液を24時間後までサンプリングし吸光度計測用の試料とした。
【0045】
(近赤外吸光度計測)
スライドガラス間に厚み1mmのスペーサーを挟み作成したサンプルホルダーに培養液をいれたものを測定試料とした。近赤外波長1000nm〜2500nmにおいて試料の吸光度を計測する為に、光源としてハロゲンランプ(HL−200−HP、Ocean Optics)を使用した。光源の光は、コア直径1000μmのマルチモードファイバー(CUSTOM−PATCH−2243142、Ocean Optics)を用いて導光し、ファイバーを通過後、コリメータレンズで擬似平行化した後、試料に照射した。
【0046】
試料を透過した光はレンズで集光され、マルチモードファイバーを用いて受光器まで導光した。受光器には近赤外分光器(NIR256−2.5、Ocean Optics)を用いた。測定条件は、透過法、測定面積4.4mmφ、波長分解能約7.5〜25.0nm、積算回数100回にて測定を行った。ここで、ハロゲンランプは、図1で前述した近赤外光照射部2に相当し、受光器(近赤外分光器)は。図1の近赤外光測定部3に相当する。
【0047】
(近赤外吸分光分析結果)
図3は、実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。図4は、実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【0048】
近赤外分光法では、吸光度のピーク位置を検出するための手法として2次微分を取ることが一般的である。2次微分を取る事によりピークが急峻に現れ、尚且つ重なりあったピークの位置の検出も可能になる。そこで、各培養液を測定し得られたスペクトルを2次微分したスペクトルをそれぞれ図5及び図6に示す。
【0049】
図5は、図3に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。図6は、図4に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。
【0050】
図5における曲線A1は、GGを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルの2次微分スペクトルを示し、曲線A2は、添加0.5時間後の2次微分スペクトルを示す。曲線A3は添加4時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線A4は添加12時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線A5は添加24時間後の2次微分スペクトルを示す。
【0051】
同様に、図6における曲線B1は、スキムミルクを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルの2次微分スペクトルを示し、曲線B2は、添加0.5時間後の2次微分スペクトルを示す。曲線B3は添加4時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線B4は添加12時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線B5は添加24時間後の2次微分スペクトルを示す。
【0052】
図5及び図6に示すように両スペクトルの波長約2250nm付近において2次微分吸光度は大きく異なる。図5に示すGGを添加した試料の2次微分吸光度は添加0.5時間後以降,経過時間とともに増加した。また、図6に示すスキムミルクを添加した試料の2次微分吸光度は、添加4時間後以降から12時間後まで,経過時間とともに増加した。
【0053】
波長2250nm付近のGGおよびスキムミルク添加後の吸光度の増加分を計算する為に、波長2218〜2321nmにて、GGおよびスキムミルク添加後0.5時間から24時間の培養液の各吸光度値から,添加0時間後の吸光度値を減算した。得られたGGおよびスキムミルク添加後の培養液の吸収スペクトルをそれぞれ図7及び図8に示す。
【0054】
図7は、実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。図8は、実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。
【0055】
図7における曲線C1は、GGを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルを示し、曲線C2は、添加0.5時間後の減算した吸収スペクトルを示す。曲線C3は添加5時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線C4は添加12時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線C5は添加24時間後の減算した吸収スペクトルを示す。
【0056】
同様に、図8における曲線D1は、スキムミルクを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルを示し、曲線D2は、添加0.5時間後の減算した吸収スペクトルを示す。曲線D3は添加5時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線D4は添加12時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線D5は添加24時間後の減算した吸収スペクトルを示す。
【0057】
図7及び図8に示すように、GGおよびスキムミルクを添加した場合ともに経過時間とともに波長2255nmを中心とする吸収帯の値が増加した。
【0058】
(波長2255nm付近における近赤外吸収分光分析)
波長2255nm付近にて、GGおよびスキムミルクを混合後、時間経過に伴う吸収帯の増加が認められた。嫌気状態において、大腸菌がグルコースを資化することで、酢酸塩が生じることが報告されている(非特許文献2)。Hallらは,大腸菌を用いた実験にて、波長2260nmの吸収帯が酢酸塩由来であることを報告している(非特許文献3)。今回の実験では、植菌後、振盪培養を行っていた際、遠沈管の蓋を閉めていたために、遠沈管内が嫌気状態になった可能性がある。
【0059】
以上より、本研究で観測された反応時間に伴う波長2255nmの吸収帯の増加は、大腸菌がグルコース等を資化することにより生じる酢酸塩由来であると考えられた。
【0060】
本発明者らは、全有機炭素(TOC)の経時的減少に伴う、糖類等の赤外吸収が消長することを報告している(非特許文献4)。そこで、実施例1で得られた波長2255nmの吸光度と、過去にTOC濃度と相関が得られた赤外波長9700nm(9.7μm)の吸光度との関連性を検討した。
【0061】
赤外波長9700nm(9.7μm)のデータは過去に報告した値を参考にした(非特許文献4)。ただし、参考にした実験データは実施例1と試料濃度の条件が異なることを特記する。試料濃度は本実施例と異なるものの、大腸菌が資化・代謝することによるTOC濃度の変化は同様の傾向があるため、実験データを参考資料として用いた。
【0062】
GGおよびスキムミルクを添加した後の波長2255nmと波長9700nm(9.7μm)における吸光度の経時変化をそれぞれ図9及び図10に示す。
【0063】
図9は、実施例1に係るGGを添加培養した培養液における波長2260nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。図10は、実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液における波長2200nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。
【0064】
図9に示すように,GGを添加後、時間経過とともにTOCと相関のある波長9700nm(9.7μm)の吸光度(吸収)は指数関数的に減少し(非特許文献4)、一方、酢酸塩由来と考えられる波長2255nmの吸光度(吸収)は増加する傾向が得られた。また、図10に示すようにスキムミルクを添加後、時間経化とともに、波長9700nm(9.7μm)の吸光度(吸収)は指数関数的に減少し、波長2255nmの吸光度(吸収)は増加する傾向が得られ、この変化はGGを添加した際と同様の傾向であった。
【0065】
ここで,波長9700nm(9.7μm)の吸光度の変化と波長2255nmの吸光度の変化とに相関があるかどうか検討した。図11は、実施例1に係る波長2260nmでの吸光度と波長9700nmでの吸光度の逆数との関係を示すグラフであり、波長9700nm(9.7μm)の吸光度の逆数を縦軸にとり,波長2255nmの吸光度を横軸にとり作成した。
【0066】
図11に示すように、TOC濃度の減少に相関のある波長9700nmの吸光度と、微生物が資化し生じた酢酸塩由来と考えられる波長2255nmの吸光度の増加には相関が得られた。高橋らは、活性汚泥のバルキングが酢酸塩などの有機塩と関係していると報告しており(非特許文献5)、本手法で計測可能であった酢酸塩由来の吸収をモニタリングすることで、活性汚泥のバルキングを防ぐためのツールになる可能性が得られた。今後は、好機状態の場合に、活性汚泥より資化・代謝され生じる物質が近赤外波長域で検出可能かどうかを検討する必要がある。
【0067】
これまで、廃水中の浮遊性固形汚濁物質を、レイリー散乱光を測定することによりモニタリングすることができることは、宗宮らにより報告されている(非特許文献6)。また、宮田らは蛍光分析法が廃水処理プラント運用のためのモニタリング技術として活用できることを報告している(非特許文献7)。
【0068】
本発明者らは、赤外分光分析が生物過程処理によるモニタリングにおいて有効であると報告した(非特許文献4)。赤外分光分析法を用いる場合、測定前に前処理として、試料を乾燥させる必要がある。しかし、今回用いた近赤外波長は、赤外波長に比して、水の吸収が弱い波長域であり、試料への光の侵達度が数mmオーダーである。そのため、近赤外分光分析法は、前処理を必要とせずに測定対象を迅速に計測できる簡便な方法である。また、本実験結果より、近赤外分光分析法は,資化・代謝された物質の同定が可能であることが示唆された。
【0069】
今後、活性汚泥などから廃水処理過程で生じた物質を測定し、近赤外波長域がモニタリング技術として有力な手法であるか検討する。本手法で用いられている近赤外波長は、紫外・可視光よりも光の散乱による検出光へのノイズの影響が小さく、シグナルの検出が妨害されにくいと考えられる。活性汚泥を測定する際に、濁度の増加に伴うシグナルの鈍化がどの程度計測結果に影響するかを検討する必要があると考えられる。
【0070】
(まとめ)
実施例1では、廃水処理に於いて処理がどの時点でどの程度進んでいるか知る為に、近赤外分光分析法により、微生物が資化・代謝し生じた物質のモニタリングに着目し本発明を実施した。波長2260nm付近の長波長側の分光分析を行うことにより、GGおよびスキムミルク添加後の培養時間の増加に伴い、資化・代謝された酢酸塩の増加を観測することができた。以上より、本発明は、近赤外分光分析を活用し、廃水処理中の資化・代謝により生じた物質を観測することで廃水処理の過程をモニタリングするための技術となることができる。
【実施例2】
【0071】
実施の形態2で前述した散乱体濃度測定方法の実施例を説明すると以下のとおりである。
【0072】
(試料の構成)
実施例2の培養液は、実施例1で使用した培養液と同じ培養液を使用した。
【0073】
(光学特性値の算出)
スライドガラス(S1112、松浪硝子工業株式会社)間に厚み0.2mmのスペーサーを挟み、作成したサンプルホルダーに培養液を入れたものを測定試料とした。大腸菌液の光学特性値は双積分球光学系とinverse Monte Carlo法とを組み合わせた光学特性算出装置を用いて算出した(非特許文献8)。
【0074】
光源にはハロゲンランプ(LS−H150IR−FBC、株式会社住田光学ガラス)を用いた。光源からの光を、レンズを用いて集光し、二つの積分球(CSTM−3P−GPS−033−SL、Labsphere)の間に設置した試料に照射し拡散反射率Rdと透過率Ttを計測した。拡散反射率Rdおよび透過率Ttは、コア直径1000μmのマルチモードファイバー(CUSTOM−PATCH−2243142、Ocean Optics)を用いて導光され、ファイバーを通過後、受光器まで導光した。受光器には近赤外分光器(NIR256−2.5、Ocean Optics)を用いた。測定条件は、波長840〜2632nm、波長分解能約7.5〜25.0nm、積算回数200回にて測定を行った。測定した拡散反射率Rdおよび透過率Ttから、Wangらにより作成されたMonte Carloシミュレーション(非特許文献9)を用いて独自に開発したinverse Monte Carlo法により、光学特性値である吸収係数μaおよび換算散乱係数μs’を算出した。
【0075】
(光学特性値算出結果)
図12は、実施例2に係る大腸菌濃度毎の吸収係数μaスペクトルを示すグラフである。図13は、実施例2に係る大腸菌濃度毎の換算散乱係数μs’スペクトルを示すグラフである。
【0076】
図12に大腸菌濃度毎の吸収係数μaスペクトルを示す。波長1000nm〜1300nmにおいて吸収係数μaは、大腸菌の濃度の増加とともに増加した。また、図13に大腸菌濃度毎の換算散乱係数μs’スペクトルを示す。波長1000nm〜1400nmにおいて、換算散乱係数μs’は大腸菌の濃度の増加とともに増加した。そこで、波長1200nmにおける大腸菌液の換算散乱係数μs’と大腸菌液の濃度との相関を検討した。
【0077】
図14は、実施例2に係る大腸菌濃度と波長1200nmにおける大腸菌液の換算散乱係数μs’との関係を示すグラフである。大腸菌液の換算散乱係数μs’と大腸菌の濃度とは、線形近似で良い相関が得られた(相関係数R=0.9以上)。
【0078】
(大腸菌液の換算散乱係数μS’)
波長1200nm付近にて、大腸菌液内の大腸菌の濃度と大腸菌液の換算散乱係数μs’には高い相関(R≧0.9)が得られた。一般的に光は、光の波長と散乱体の大きさとが一致する際、よく散乱される(非特許文献10)。また、大腸菌の大きさは、およそ1000nm程度である(非特許文献11)。
【0079】
以上より、大腸菌液の換算散乱係数μS’が大腸菌液の大腸菌の濃度と相関が得られた理由として、測定に用いた波長1200nmが大腸菌の大きさとほぼ等しかった為に、波長1200nmの光が大腸菌に散乱された結果、大腸菌液内の大腸菌の濃度と大腸菌液の換算散乱係数μS’に相関が得られたと考えられた。この結果は、計測対象とする物質の粒子径が近赤外域における波長と近い場合、近赤外波長を用いることで、物質の濁度を定量的に計測できる可能性を示唆している。
【0080】
一方、散乱体を含む測定対象の換算散乱係数μS’の大きさは散乱体の大きさやその濃度に依存することが知られている(非特許文献10)。Alinceら(非特許文献12)やBurgerら(非特許文献13)により、粒子径の異なる散乱媒体の換算散乱係数μS’を算出した結果、換算散乱係数μS’スペクトルの値やスペクトルパターンは粒子径により異なるということが報告されている。活性汚泥中には、大腸菌等の浮遊細菌、酵母等の浮遊真菌や、菌類の集合体であるフロックなどが存在する。酵母等の大きさはおよそ5000〜10000nmである(非特許文献14)。また、フロックは、菌類の集合体であることから大腸菌や酵母よりもさらに大きな粒子径の散乱体となる。その為、活性汚泥の換算散乱係数μS’スペクトルを算出することにより、活性汚泥中の菌の構成比などを概算できる可能性がある。
【0081】
実施例2の散乱体濃度測定方法によれば、可視光よりも波長の長い近赤外光を散乱体液に深さ数mmオーダーまで打ち込み、一旦、散乱体液の中を通って返ってきた近赤外光に基づいて、散乱体の濃度を測定することができる。このため、可視光を散乱体液に透過させて濁度を測定する従来の濁度計のように、可視光を透過させるためにガラス窓で挟んだ測定用サンプルを作成する必要がなく、測定対象を迅速且つ簡便に測定することができる。
【0082】
(まとめ)
実施例2では、廃水処理に於いて処理がどの時点でどの程度進んでいるか知る為に,光学特性値算出装置(図2に示す近赤外光測定部7に相当する)により、大腸菌の濃度の定量に着目し本発明を実施した。波長1200nmの短波長側の分光分析を行うことにより、大腸菌液の換算散乱係数μS’を用いて大腸菌液内の大腸菌の濃度を測定可能であることが実証された。以上より、本発明は、近赤外分光分析を活用し、大腸菌の濃度を測定することで廃水処理の過程をモニタリングするための技術となることができる。
【実施例3】
【0083】
前述した実施例2では、大腸菌溶液を測定対象とし、換算散乱係数μS’を用いて大腸菌液内の大腸菌の濃度を測定したが、実施例3では、大腸菌と酵母菌との混合液を測定対象とし、換算散乱係数μS’を用いて混合液内の大腸菌の濃度及び酵母菌の濃度を測定する。
【0084】
(大腸菌濃度と酵母菌濃度との比率毎の換算散乱係数スペクトル)
図15は、実施例3に係る大腸菌濃度と酵母菌濃度との体積分率毎の換算散乱係数μS’のスペクトルを示すグラフである。横軸は、大腸菌と酵母菌との混合液に照射した近赤外光の波長を示しており、縦軸は、換算散乱係数μS’を示している。
【0085】
図15に示すグラフは、大腸菌と酵母菌との体積分率が、0:10、1:9、2:8、…、9:1、10:0の11種類の混合溶液の測定結果を示している。
【0086】
このグラフ中の線L1は、大腸菌と酵母菌との体積分率が、0:10である混合溶液の測定結果を示している。線L2は体積分率が1:9である混合溶液の測定結果を示しており、線L3は体積分率が2:8である混合溶液の測定結果を示している。線L4は体積分率が3:7の混合溶液の測定結果であり、線L5は体積分率が4:6の混合溶液の測定結果である。線L6は体積分率が5:5の混合溶液の測定結果であり、線L7は体積分率が6:4の混合溶液の測定結果であり、線L8は体積分率が7:3の混合溶液の測定結果である。線L9は体積分率が8:2の混合溶液の測定結果であり、線L10は体積分率が9:1の混合溶液の測定結果であり、線L11は体積分率が10:0の混合溶液の測定結果である。
【0087】
図15に示すこれら線L1〜線L11の測定結果は、近赤外光の波長1100〜1300nmにおいて、大腸菌の体積分率の増加とともに換算散乱係数μs´も増加したことを示している。
【0088】
(大腸菌濃度の検量線)
図16は、実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における大腸菌濃度の検量線を示すグラフである。横軸は、調整した大腸菌濃度の体積分率を示しており、縦軸は、大腸菌の体積分率の予測値を示している。
【0089】
図16の横軸の調整した大腸菌濃度の体積分率の0〜10の値は、図15の大腸菌と酵母菌との体積分率を示す0:10、1:9、2:8、…、9:1、10:0の11種類の溶液に対応する実測値を表している。即ち、これらの値は、0.0000、1.0000、2.0000、…、9.0000、10.0000である。
【0090】
縦軸の大腸菌の体積分率の予測値は、図15に示す大腸菌と酵母との混合液における換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、部分的最小2乗回帰分析に基づいて算出した大腸菌の体積分率の予測値である。
【0091】
換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から大腸菌の体積分率の予測値を算出する具体的方法は、以下のとおりである。まず、予測変数Xと応答変数Yとのデータセットを作成する。そして、予測変数Xと応答変数Yとを用いたデータセット(X、Y)により直交化信号補正(Orthogonal signal correction:OSC)を実行し、補正後のデータセット(X´、Y)を生成する。次に、部分的最小2乗回帰分析により主成分数を求める。そして、最適な検量線を得るための主成分数(因子数)を決定する。その後、最適な主成分数を選択した時の大腸菌の体積分率の予測値を得る。
【0092】
そして、調整した大腸菌濃度の体積分率と大腸菌の体積分率の予測値とをグラフにプロットすると、図16に示す検量線が得られる。この検量線によって、大腸菌と酵母との混合溶液における換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、混合溶液における大腸菌の体積分率を求めることが可能となる。
【0093】
(酵母菌濃度の検量線)
図17は、実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における酵母菌濃度の検量線を示すグラフである。横軸は、調整した酵母菌濃度の体積分率を示しており、縦軸は、酵母菌の体積分率の予測値を示している。
【0094】
図17の横軸の調整した酵母菌濃度の体積分率の0〜10の値は、図15の大腸菌と酵母菌との体積分率を示す10:0、9:1、…、2:8、1:9、0:10の溶液に対応する実測値を表している。
【0095】
縦軸の酵母菌の体積分率の予測値は、図15に示す大腸菌と酵母との混合液における波長1100nm〜1300nmでの換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、部分的最小2乗回帰分析に基づいて算出した酵母菌の体積分率の予測値である。
【0096】
具体的には、大腸菌の体積分率を求める場合と同様に、予測変数Xと応答変数Yとのデータセットを作成する。そして、予測変数Xと応答変数Yとを用いたデータセット(X、Y)により直交化信号補正(Orthogonal signal correction:OSC)を実行し、補正後のデータセット(X´、Y)を生成する。次に、部分的最小2乗回帰分析により主成分を求める。そして、最適な検量線を得るための主成分数(因子数)を決定する。その後、最適な主成分数を選択した時の酵母菌の体積分率の予測値を得る。
【0097】
調整した酵母菌濃度の体積分率と酵母菌の体積分率の予測値とをグラフにプロットすると、図17に示す検量線が得られる。この検量線によって、大腸菌と酵母との混合溶液における換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、混合溶液における酵母菌の体積分率を求めることが可能となる。
【0098】
(付記事項)
本発明は上述した各実施形態及び各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、微生物を含む試料に近赤外光を照射して当該試料の特性を測定する代謝物質モニタリング方法、散乱体濃度測定方法、及び代謝物質モニタリング装置に利用することができる。
【0100】
また、本発明は、廃水処理過程のモニタリングの他、広く、近赤外光を用いた生物代謝系のモニタリングに適用することができる。例えば、海水の汚濁状況の測定、土石流が流れた川の水質測定、湖の濁度、透明度の測定にも利用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 代謝物質モニタリング装置
2 近赤外光照射部(照射手段)
3 近赤外光測定部(測定手段)
4 試料
5 散乱体濃度測定装置
6 近赤外光照射部(照射手段)
7 近赤外光測定部(測定手段)
8 散乱体液
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を含む試料に近赤外光を照射して当該試料の特性を測定する代謝物質モニタリング方法、散乱体濃度測定方法、及び代謝物質モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理に於いて、処理がどの時点でどの程度進んでいるかを知る事は、処理の最適化にとって重要である。廃水処理施設における合理的な運転とは、最小限の運転コストで,要求される処理水質を安定的に維持する運転である。これを実現するためには、処理すべき汚濁負荷を的確に把握し必要となる動力や薬剤を必要最小限に制御する方法や、処理結果である処理水質を監視することにより、要求される水質を維持できなかった場合に動力や薬剤の投入量を増加させる処理制御技術が有効である。しかし、廃水処理施設において処理を強化することは、一般的には運転コストの増大に繋がるために、運転管理の合理化が望まれる。
【0003】
適切な解析を行い、環境条件の適切な制御を行うことで、ほとんどの有機廃水は生物学的処理により処理することができる。生物学的処理の一般的な方法である活性汚泥法による好気的処理は、有機性の汚水中で微生物を連続的に培養し、汚水中の浮遊物や溶解性物質を吸着・酸化・同化させるものである。活性汚泥の能力は経験的に微生物の代謝過程に基づいて変化することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
廃水処理の分野では、廃水に含まれる金属や、有機化合物、フロックの濃度を分析することで、処理量の制御が行われおり、これまでに、この分析技術として、近赤外を用いた方法がある。例えば、200〜2500nmの波長範囲の可視、紫外光および近赤外を用いて、吸光度スペクトルまたは発光スペクトルの計測値をもとに、ケモメトリックス演算を利用することにより、廃水中の含有成分と濃度を分析する技術(特許文献1)が知られている。この技術は、200〜2500nmの波長範囲で連続した波長又は複数の波長で生物処理プラントにおける廃水の吸光度スペクトルまたは発光スペクトルを計測する。そして、このスペクトルデータにケモメトリックス演算を適用することより廃水の含有成分を同定し濃度を演算する。
【0005】
また、汚泥濃度を正確かつ連続的に測定し、その測定値を指標として、薬品注入や、脱水、焼却など汚泥処理プロセスの効率を高めることが重要である。これまで、可視光を使用した透過光測定法、散乱光測定法などを利用し濁度計を用いて濁度が測定されてきたが、試料の着色により、正確に計測できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−136208号公報(2004年5月13日公開)
【特許文献2】特開2004−177122号公報(2004年6月24日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】社団法人日本下水道協会,エアレーションタンクの微生物−検鏡と培養の手引き−、pp. 1-21
【非特許文献2】J.-N. Phue, S. B. Noronha, R. Hattacharyya, A. J. Wolfe and J. Shiloach: Glucose metabolism at high density growth of E. coli B and E. coli K: differences in metabolic pathways are responsible for efficient glucose utilization in E. coli B as determined by microarrays and Northern blot analysis” Biotechnology and Bioengineering, Vol. 90, pp. 805-820 (2005)
【非特許文献3】J. W. Hall, B. McNeil, M. J. Rollins, I. Draper, B. G. Thompson and G. Macaloney: Near-Infrared spectroscopic determination of acetate, ammonium, biomass, and glycerol in an industrial Eschericha coli fermentation, Applied Spectroscopy, Vol. 50, No. 1, pp. 102-108 (1996)
【非特許文献4】粟津邦男,長塩尚之,石井克典:赤外分光分析による微生物中間生成代謝物の推定に関する基礎的検討,環境システム計測制御学会誌,Vol. 15, No.2, 3, pp. 5-7 (2010)
【非特許文献5】高橋力也,小山幸治,安村和晃,川北省一,鈴木昌治,米山平:バルキング活性汚泥による乳酸,酢酸,プロピオン酸および酪酸の生成,醗酵工学会誌,Vol. 68, No. 1, pp. 17-23 (1990)
【非特許文献6】宗宮功,岸本直之,小野芳郎,西本聡:散乱スペクトル分析による水質の連続分析,水環境学会誌, Vol. 19,No. 1, pp.47-55 (1996)
【非特許文献7】宮田純,中原啓介:廃水処理プラントにおけるオンサイト水質モニタリング技術,JFE技報, No. 13, pp. 59-64 (2006)
【非特許文献8】本多典広,寺田隆哉,南條卓也,石井克典,粟津邦男:Inverse Monte Carlo法による光線力学療法前後の腫瘍組織の光学特性の算出,日本レーザー医学会誌,Vol. 31, No.2, pp. 115-121 (2010)
【非特許文献9】L.-H. Wang, S.L. Jacques and L.-Q. Zheng: Monte Carlo modeling of photon transport in multi-layered tissues. Computer Methods and Programs in Biomedicine, Vol. 47, pp.131-146 (1995)
【非特許文献10】V. V. Tuchin: Tissue Optics, SPIE Press, pp. 132-142, (2007)
【非特許文献11】F. J. Trueba and C. L. Woldringh: Changes in cell diameter during the division cycle of Escherichia coli, Journal of Bacteriology, Vol. 142, No. 3, pp. 869-878 (1980)
【非特許文献12】B. Alince and P. Lepoutre: Light-scattering of coatings formed from polystyrene pigment particles, Journal of Colloid and Interface Science, Vol. 76, No. 1, pp. 182-187 (1980)
【非特許文献13】T. Burger, J. Kuhn, R. Caps and J. Fricke: Quantitative determination of the scattering and absorption coefficients from diffuse reflectance and transmittance measurements: Application to Pharmaceutical Powders, Applied Spectroscopy, Vol. 51, No. 3, pp. 309-317 (1997)
【非特許文献14】T. Srinorakutara: Determination of yeast cell wall thickness and cell diameter using new methods, Journal of Fermentation and Bioengineering, Vol. 86, No. 3, 253-260 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記活性汚泥法等の生物学的処理に於いては、これまで主に「処理性能」に着目し、有機物・窒素・リン等の挙動把握・解析が行われている。しかしながら、微生物の代謝過程における資化・代謝により生じた物質にはあまり注目されていない。多段の反応層等の場合、資化・代謝された物質の挙動を知る事は、「処理性能」および「省エネ」の観点から重要であると考えられる。
【0009】
また、試料の着色や濁度などの光学的特徴は、それぞれ、光の吸収のしやすさを表す吸収係数μa[mm−1]、散乱のしやすさを表す換算散乱係数μs’[mm−1]等の光学特性値で記述する事ができる。だが、これまで、光学特性値に着目し、汚泥の吸収係数μa、換算散乱係数μs’を計測し濁度を計測した例はない。
【0010】
本発明の目的は、微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングすることができる代謝物質モニタリング方法及び代謝物質モニタリング装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、微生物からなる散乱体の濃度を近赤外光により測定することができる散乱体濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る代謝物質モニタリング方法は、微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射工程と、前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定工程とを包含し、前記測定工程は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする。
【0013】
この特徴により、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。このため、活性汚泥の能力を変化させる微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングすることができる。
【0014】
本明細書において、「近赤外光」とは、赤外光のうち、750nm以上3000nm以下の波長を有する光を意味するものとする。
【0015】
本発明に係る代謝物質モニタリング方法では、前記代謝物質は、酢酸塩を含み、前記対応する波長は、2255nmを中心とする帯域の波長であることが好ましい。
【0016】
上記構成により、2255nmを中心とする帯域の波長における吸光度の経時変化を測定して、グルコースを資化した大腸菌が生成する酢酸塩をモニタリングすることができる。
【0017】
本発明に係る散乱体濃度測定方法は、微生物からなる散乱体を含む散乱体液に近赤外光を照射する照射工程と、前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記散乱体の粒子径に対応する前記近赤外光の波長における前記散乱体液の換算散乱係数を算出し、前記換算散乱係数に基づいて前記散乱体の濃度を測定することを特徴とする。
【0018】
この特徴により、散乱体の粒子径に対応する前記近赤外光の波長における前記散乱体液の換算散乱係数を算出し、前記換算散乱係数に基づいて前記散乱体の濃度を測定する。このため、微生物からなる散乱体の濃度を近赤外光により測定することができる。
【0019】
本発明に係る散乱体濃度測定方法では、前記微生物は、大腸菌を含み、前記粒子径に対応する近赤外光の波長は、1200nmを中心とする帯域の波長であることが好ましい。
【0020】
上記構成により、大腸菌の粒子径に対応する1200nmを中心とする帯域の波長に基づいて大腸菌の濃度を測定することができる。
【0021】
本発明に係る散乱体濃度測定方法は、第1微生物からなる第1散乱体と、前記第1微生物の第1粒子径よりも大きい第2粒子径を有する第2微生物からなる第2散乱体とを含む散乱体液に近赤外光を照射する照射工程と、前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記第1及び第2散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記第1散乱体の第1粒子径に対応する前記近赤外光の第1波長における前記散乱体液の第1換算散乱係数を算出し、前記第1換算散乱係数に基づいて前記第1散乱体の濃度を測定し、前記第2散乱体の第2粒子径に対応する前記近赤外光の第2波長における前記散乱体液の第2換算散乱係数を算出し、前記第2換算散乱係数に基づいて前記第2散乱体の濃度を測定することを特徴とする。
【0022】
この特徴により、前記照射された近赤外光に基づいて、前記第1散乱体の第1粒子径に対応する前記近赤外光の第1波長における前記散乱体液の第1換算散乱係数を算出し、前記第1換算散乱係数に基づいて前記第1散乱体の濃度を測定し、前記第2散乱体の第2粒子径に対応する前記近赤外光の第2波長における前記散乱体液の第2換算散乱係数を算出し、前記第2換算散乱係数に基づいて前記第2散乱体の濃度を測定する。このため、第1散乱体及び第2散乱体の構成比を概算することができる。
【0023】
本発明に係る代謝物質モニタリング装置は、微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射手段と、前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定手段とを備え、前記測定手段は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする。
【0024】
この特徴により、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。このため、活性汚泥の能力を変化させる微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングする代謝物質モニタリング装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る代謝物質モニタリング方法は、資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における吸光度の経時変化を測定して代謝物質をモニタリングする。このため、活性汚泥の能力を変化させる微生物の資化・代謝過程により生じた代謝物質をモニタリングすることができる。
【0026】
本発明に係る散乱体濃度測定方法は、散乱体の粒子径に対応する近赤外光の波長に基づいて散乱体の濃度を測定する。このため、微生物からなる散乱体の濃度を近赤外光により測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1に係る代謝物質モニタリング装置の構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態2に係る散乱体濃度測定装置の構成を示す模式図である。
【図3】実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】図3に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。
【図6】図4に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例1に係るGGを添加培養した培養液における波長2260nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液における波長2260nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図11】実施例1に係る波長2260nmでの吸光度と波長9700nmでの吸光度の逆数との関係を示すグラフである。
【図12】実施例2に係る大腸菌濃度毎の吸収係数スペクトルを示すグラフである。
【図13】実施例2に係る大腸菌濃度毎の換算散乱係数スペクトルを示すグラフである。
【図14】実施例2に係る大腸菌濃度と換算散乱係数との関係を示すグラフである。
【図15】実施例3に係る大腸菌濃度と酵母菌濃度との比率毎の換算散乱係数スペクトルを示すグラフである。
【図16】実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における大腸菌濃度の検量線を示すグラフである。
【図17】実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における酵母菌濃度の検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態では、微生物の資化・代謝により生じる物質と活性汚泥中の微生物との動的把握を簡便に行うことができる分析手法の確立を目的として、近赤外吸収分光分析、および近赤外波長において独自に開発した光学特性算出装置を用いた光学特性値の計測を検討した。本実施の形態では、大腸菌と模擬廃水とを用いた生物処理系を用いて、近赤外吸収分光分析法を活用した反応水中の動的変化の把握、および光学特性値算出法を活用した大腸菌液中の大腸菌濃度の定量的評価を試みたので、以下説明する。
【0029】
(実施の形態1)
(代謝物質モニタリング装置1の構成)
図1は、実施の形態1に係る代謝物質モニタリング装置1の構成を示す模式図である。代謝物質モニタリング装置1は、代謝物質モニタリング方法を実行する装置であり、近赤外光照射部2を備えている。近赤外光照射部2は、試料4に近赤外光を照射する。
【0030】
試料4は、微生物と、この微生物により資化される資化物質と、この微生物が生成する代謝物質とを含んでいる。この微生物は、例えば、大腸菌であり、資化物質は、例えば、グルコースである。代謝物質は、例えば、酢酸塩である。
【0031】
代謝物質モニタリング装置1には、近赤外光測定部3が設けられている。近赤外光測定部3は、試料4により反射された近赤外光の試料4に対する吸光度を測定する。具体的には、近赤外光測定部3は、試料4のグルコースを資化した大腸菌が生成する酢酸塩に対応する2255nmを中心とする帯域の波長における吸光度の経時変化を測定して酢酸塩をモニタリングする。
【0032】
試料4に含まれる微生物は、大腸菌以外のバクテリアであってもよく、また、酵母菌、カビ等の真菌であってもよい。また、資化物質は、グルコースの他、ガラクトースとグルコースとが結合したラクトース(乳糖)、ガラクトース、グルタミン酸、スキムミルク、蛋白質であってもよい。そして、代謝物質は、酢酸塩の他、ピルビン酸でもよい。
【0033】
実施の形態1では、試料4により反射された近赤外光の試料4に対する吸光度を測定する例を示すが、本発明はこれに限定されない。試料4を透過した近赤外光の吸光度を測定するように構成してもよい。
【0034】
(実施の形態2)
(散乱体濃度測定装置5の構成)
図2は、実施の形態2に係る散乱体濃度測定装置5の構成を示す模式図である。散乱体濃度測定装置5は、散乱体濃度測定方法を実行する装置であり、近赤外光照射部6を備えている。近赤外光照射部6は、散乱体液8に近赤外光を照射する。
【0035】
散乱体液8は、微生物からなる散乱体を含む。この微生物は、例えば、大腸菌である。大腸菌の粒子径は、約1000nmである。
【0036】
散乱体濃度測定装置5には、近赤外光測定部7が設けられている。近赤外光測定部7は、散乱体液8に照射された近赤外光に基づいて散乱体の濃度を測定する。具体的には、近赤外光測定部7は、散乱体である大腸菌の粒子径に対応する近赤外光の波長に基づいて散乱体の濃度を測定する。例えば、近赤外光測定部7は、大腸菌の粒子径である約1000nmに対応する1200nmを中心とする帯域の近赤外光の波長における散乱体液の換算散乱係数μs’を算出し、この換算散乱係数μs’に基づいて大腸菌の濃度を測定する。
【0037】
実施の形態2では、散乱体液8により反射された近赤外光の波長に基づいて散乱体液の換算散乱係数μs’を算出する例を示すが、本発明はこれに限定されない。散乱体液8を透過した近赤外光により換算散乱係数μs’を算出するように構成してもよい。
【0038】
散乱体液8に含まれる微生物は、大腸菌以外のバクテリアであってもよく、また、酵母菌、カビ等の真菌であってもよい。
【0039】
散乱体液8は、大腸菌と酵母菌とを含んでいても良い。酵母菌の粒子径は、大腸菌よりも大きい5000nm〜10000nmである。この場合、近赤外光照射部6は、この大腸菌と酵母菌とを含む散乱体液8に近赤外光を照射する。そして、近赤外光測定部7は、照射された近赤外光に基づいて、近赤外光の1200nmを中心とする帯域の波長における散乱体液の換算散乱係数μs’を算出し、換算散乱係数μs’に基づいて大腸菌の濃度を測定する。次に、近赤外光測定部7は、近赤外光の2255nmを中心とする帯域の波長における散乱体液の換算散乱係数μs’を算出し、換算散乱係数μs’に基づいて酵母菌の濃度を測定する。
【実施例1】
【0040】
実施の形態1で前述した代謝物質モニタリング方法の実施例を説明すると以下のとおりである。
【0041】
(試料の構成)
(前培養・種菌)
普通ブイヨン(ダイゴ製)培地100mLを50mLずつ、2つの坂口フラスコに入れ、蒸気滅菌(121℃、15分)し、冷却後、事前に培養しておいた大腸菌(Escherichia coli、NBRC3301)を1白金耳、植菌し、30℃で30時間振盪培養を行った。
【0042】
(集菌・種菌)
遠心分離(10000r.p.m.15分)を2回繰り返し集菌した。菌ペレットを滅菌したリン酸緩衝液(0.01M、pH7.0)で懸濁し、全体で約50mLに調整した液を大腸菌液とした。大腸菌液の光学特性値を算出する為に、遠心分離(4000r.p.m.15分)を行い、上記濃度より12倍に濃縮し、その後、段階希釈により6.3倍の濃度に調整した。
【0043】
(植菌)
予め、蒸気滅菌(121℃、15分)を行ったBOD標準液(グルコース3410mgとグルタミン酸3410mgとを1Lの純水に溶解させたものを5000mg/Lとした、以下「GG」と略記)3mLと、14100mg/Lのスキムミルク溶液3mLとに種菌液を1mLずつ添加した混合液を遠沈管にいれ、22℃で振盪培養を行った。
【0044】
(前培養・種菌)
植菌した培養液を24時間後までサンプリングし吸光度計測用の試料とした。
【0045】
(近赤外吸光度計測)
スライドガラス間に厚み1mmのスペーサーを挟み作成したサンプルホルダーに培養液をいれたものを測定試料とした。近赤外波長1000nm〜2500nmにおいて試料の吸光度を計測する為に、光源としてハロゲンランプ(HL−200−HP、Ocean Optics)を使用した。光源の光は、コア直径1000μmのマルチモードファイバー(CUSTOM−PATCH−2243142、Ocean Optics)を用いて導光し、ファイバーを通過後、コリメータレンズで擬似平行化した後、試料に照射した。
【0046】
試料を透過した光はレンズで集光され、マルチモードファイバーを用いて受光器まで導光した。受光器には近赤外分光器(NIR256−2.5、Ocean Optics)を用いた。測定条件は、透過法、測定面積4.4mmφ、波長分解能約7.5〜25.0nm、積算回数100回にて測定を行った。ここで、ハロゲンランプは、図1で前述した近赤外光照射部2に相当し、受光器(近赤外分光器)は。図1の近赤外光測定部3に相当する。
【0047】
(近赤外吸分光分析結果)
図3は、実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。図4は、実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【0048】
近赤外分光法では、吸光度のピーク位置を検出するための手法として2次微分を取ることが一般的である。2次微分を取る事によりピークが急峻に現れ、尚且つ重なりあったピークの位置の検出も可能になる。そこで、各培養液を測定し得られたスペクトルを2次微分したスペクトルをそれぞれ図5及び図6に示す。
【0049】
図5は、図3に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。図6は、図4に示すグラフを2次微分したスペクトルを示すグラフである。
【0050】
図5における曲線A1は、GGを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルの2次微分スペクトルを示し、曲線A2は、添加0.5時間後の2次微分スペクトルを示す。曲線A3は添加4時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線A4は添加12時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線A5は添加24時間後の2次微分スペクトルを示す。
【0051】
同様に、図6における曲線B1は、スキムミルクを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルの2次微分スペクトルを示し、曲線B2は、添加0.5時間後の2次微分スペクトルを示す。曲線B3は添加4時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線B4は添加12時間後の2次微分スペクトルを示し、曲線B5は添加24時間後の2次微分スペクトルを示す。
【0052】
図5及び図6に示すように両スペクトルの波長約2250nm付近において2次微分吸光度は大きく異なる。図5に示すGGを添加した試料の2次微分吸光度は添加0.5時間後以降,経過時間とともに増加した。また、図6に示すスキムミルクを添加した試料の2次微分吸光度は、添加4時間後以降から12時間後まで,経過時間とともに増加した。
【0053】
波長2250nm付近のGGおよびスキムミルク添加後の吸光度の増加分を計算する為に、波長2218〜2321nmにて、GGおよびスキムミルク添加後0.5時間から24時間の培養液の各吸光度値から,添加0時間後の吸光度値を減算した。得られたGGおよびスキムミルク添加後の培養液の吸収スペクトルをそれぞれ図7及び図8に示す。
【0054】
図7は、実施例1に係るGGを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。図8は、実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液の近赤外線吸収スペクトルの経過時間に伴う増大値のスペクトルを示すグラフである。
【0055】
図7における曲線C1は、GGを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルを示し、曲線C2は、添加0.5時間後の減算した吸収スペクトルを示す。曲線C3は添加5時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線C4は添加12時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線C5は添加24時間後の減算した吸収スペクトルを示す。
【0056】
同様に、図8における曲線D1は、スキムミルクを試料に添加したときの近赤外線吸収スペクトルを示し、曲線D2は、添加0.5時間後の減算した吸収スペクトルを示す。曲線D3は添加5時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線D4は添加12時間後の減算した吸収スペクトルを示し、曲線D5は添加24時間後の減算した吸収スペクトルを示す。
【0057】
図7及び図8に示すように、GGおよびスキムミルクを添加した場合ともに経過時間とともに波長2255nmを中心とする吸収帯の値が増加した。
【0058】
(波長2255nm付近における近赤外吸収分光分析)
波長2255nm付近にて、GGおよびスキムミルクを混合後、時間経過に伴う吸収帯の増加が認められた。嫌気状態において、大腸菌がグルコースを資化することで、酢酸塩が生じることが報告されている(非特許文献2)。Hallらは,大腸菌を用いた実験にて、波長2260nmの吸収帯が酢酸塩由来であることを報告している(非特許文献3)。今回の実験では、植菌後、振盪培養を行っていた際、遠沈管の蓋を閉めていたために、遠沈管内が嫌気状態になった可能性がある。
【0059】
以上より、本研究で観測された反応時間に伴う波長2255nmの吸収帯の増加は、大腸菌がグルコース等を資化することにより生じる酢酸塩由来であると考えられた。
【0060】
本発明者らは、全有機炭素(TOC)の経時的減少に伴う、糖類等の赤外吸収が消長することを報告している(非特許文献4)。そこで、実施例1で得られた波長2255nmの吸光度と、過去にTOC濃度と相関が得られた赤外波長9700nm(9.7μm)の吸光度との関連性を検討した。
【0061】
赤外波長9700nm(9.7μm)のデータは過去に報告した値を参考にした(非特許文献4)。ただし、参考にした実験データは実施例1と試料濃度の条件が異なることを特記する。試料濃度は本実施例と異なるものの、大腸菌が資化・代謝することによるTOC濃度の変化は同様の傾向があるため、実験データを参考資料として用いた。
【0062】
GGおよびスキムミルクを添加した後の波長2255nmと波長9700nm(9.7μm)における吸光度の経時変化をそれぞれ図9及び図10に示す。
【0063】
図9は、実施例1に係るGGを添加培養した培養液における波長2260nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。図10は、実施例1に係るスキムミルクを添加培養した培養液における波長2200nm及び波長9700nmにおける吸光度の経時変化を示すグラフである。
【0064】
図9に示すように,GGを添加後、時間経過とともにTOCと相関のある波長9700nm(9.7μm)の吸光度(吸収)は指数関数的に減少し(非特許文献4)、一方、酢酸塩由来と考えられる波長2255nmの吸光度(吸収)は増加する傾向が得られた。また、図10に示すようにスキムミルクを添加後、時間経化とともに、波長9700nm(9.7μm)の吸光度(吸収)は指数関数的に減少し、波長2255nmの吸光度(吸収)は増加する傾向が得られ、この変化はGGを添加した際と同様の傾向であった。
【0065】
ここで,波長9700nm(9.7μm)の吸光度の変化と波長2255nmの吸光度の変化とに相関があるかどうか検討した。図11は、実施例1に係る波長2260nmでの吸光度と波長9700nmでの吸光度の逆数との関係を示すグラフであり、波長9700nm(9.7μm)の吸光度の逆数を縦軸にとり,波長2255nmの吸光度を横軸にとり作成した。
【0066】
図11に示すように、TOC濃度の減少に相関のある波長9700nmの吸光度と、微生物が資化し生じた酢酸塩由来と考えられる波長2255nmの吸光度の増加には相関が得られた。高橋らは、活性汚泥のバルキングが酢酸塩などの有機塩と関係していると報告しており(非特許文献5)、本手法で計測可能であった酢酸塩由来の吸収をモニタリングすることで、活性汚泥のバルキングを防ぐためのツールになる可能性が得られた。今後は、好機状態の場合に、活性汚泥より資化・代謝され生じる物質が近赤外波長域で検出可能かどうかを検討する必要がある。
【0067】
これまで、廃水中の浮遊性固形汚濁物質を、レイリー散乱光を測定することによりモニタリングすることができることは、宗宮らにより報告されている(非特許文献6)。また、宮田らは蛍光分析法が廃水処理プラント運用のためのモニタリング技術として活用できることを報告している(非特許文献7)。
【0068】
本発明者らは、赤外分光分析が生物過程処理によるモニタリングにおいて有効であると報告した(非特許文献4)。赤外分光分析法を用いる場合、測定前に前処理として、試料を乾燥させる必要がある。しかし、今回用いた近赤外波長は、赤外波長に比して、水の吸収が弱い波長域であり、試料への光の侵達度が数mmオーダーである。そのため、近赤外分光分析法は、前処理を必要とせずに測定対象を迅速に計測できる簡便な方法である。また、本実験結果より、近赤外分光分析法は,資化・代謝された物質の同定が可能であることが示唆された。
【0069】
今後、活性汚泥などから廃水処理過程で生じた物質を測定し、近赤外波長域がモニタリング技術として有力な手法であるか検討する。本手法で用いられている近赤外波長は、紫外・可視光よりも光の散乱による検出光へのノイズの影響が小さく、シグナルの検出が妨害されにくいと考えられる。活性汚泥を測定する際に、濁度の増加に伴うシグナルの鈍化がどの程度計測結果に影響するかを検討する必要があると考えられる。
【0070】
(まとめ)
実施例1では、廃水処理に於いて処理がどの時点でどの程度進んでいるか知る為に、近赤外分光分析法により、微生物が資化・代謝し生じた物質のモニタリングに着目し本発明を実施した。波長2260nm付近の長波長側の分光分析を行うことにより、GGおよびスキムミルク添加後の培養時間の増加に伴い、資化・代謝された酢酸塩の増加を観測することができた。以上より、本発明は、近赤外分光分析を活用し、廃水処理中の資化・代謝により生じた物質を観測することで廃水処理の過程をモニタリングするための技術となることができる。
【実施例2】
【0071】
実施の形態2で前述した散乱体濃度測定方法の実施例を説明すると以下のとおりである。
【0072】
(試料の構成)
実施例2の培養液は、実施例1で使用した培養液と同じ培養液を使用した。
【0073】
(光学特性値の算出)
スライドガラス(S1112、松浪硝子工業株式会社)間に厚み0.2mmのスペーサーを挟み、作成したサンプルホルダーに培養液を入れたものを測定試料とした。大腸菌液の光学特性値は双積分球光学系とinverse Monte Carlo法とを組み合わせた光学特性算出装置を用いて算出した(非特許文献8)。
【0074】
光源にはハロゲンランプ(LS−H150IR−FBC、株式会社住田光学ガラス)を用いた。光源からの光を、レンズを用いて集光し、二つの積分球(CSTM−3P−GPS−033−SL、Labsphere)の間に設置した試料に照射し拡散反射率Rdと透過率Ttを計測した。拡散反射率Rdおよび透過率Ttは、コア直径1000μmのマルチモードファイバー(CUSTOM−PATCH−2243142、Ocean Optics)を用いて導光され、ファイバーを通過後、受光器まで導光した。受光器には近赤外分光器(NIR256−2.5、Ocean Optics)を用いた。測定条件は、波長840〜2632nm、波長分解能約7.5〜25.0nm、積算回数200回にて測定を行った。測定した拡散反射率Rdおよび透過率Ttから、Wangらにより作成されたMonte Carloシミュレーション(非特許文献9)を用いて独自に開発したinverse Monte Carlo法により、光学特性値である吸収係数μaおよび換算散乱係数μs’を算出した。
【0075】
(光学特性値算出結果)
図12は、実施例2に係る大腸菌濃度毎の吸収係数μaスペクトルを示すグラフである。図13は、実施例2に係る大腸菌濃度毎の換算散乱係数μs’スペクトルを示すグラフである。
【0076】
図12に大腸菌濃度毎の吸収係数μaスペクトルを示す。波長1000nm〜1300nmにおいて吸収係数μaは、大腸菌の濃度の増加とともに増加した。また、図13に大腸菌濃度毎の換算散乱係数μs’スペクトルを示す。波長1000nm〜1400nmにおいて、換算散乱係数μs’は大腸菌の濃度の増加とともに増加した。そこで、波長1200nmにおける大腸菌液の換算散乱係数μs’と大腸菌液の濃度との相関を検討した。
【0077】
図14は、実施例2に係る大腸菌濃度と波長1200nmにおける大腸菌液の換算散乱係数μs’との関係を示すグラフである。大腸菌液の換算散乱係数μs’と大腸菌の濃度とは、線形近似で良い相関が得られた(相関係数R=0.9以上)。
【0078】
(大腸菌液の換算散乱係数μS’)
波長1200nm付近にて、大腸菌液内の大腸菌の濃度と大腸菌液の換算散乱係数μs’には高い相関(R≧0.9)が得られた。一般的に光は、光の波長と散乱体の大きさとが一致する際、よく散乱される(非特許文献10)。また、大腸菌の大きさは、およそ1000nm程度である(非特許文献11)。
【0079】
以上より、大腸菌液の換算散乱係数μS’が大腸菌液の大腸菌の濃度と相関が得られた理由として、測定に用いた波長1200nmが大腸菌の大きさとほぼ等しかった為に、波長1200nmの光が大腸菌に散乱された結果、大腸菌液内の大腸菌の濃度と大腸菌液の換算散乱係数μS’に相関が得られたと考えられた。この結果は、計測対象とする物質の粒子径が近赤外域における波長と近い場合、近赤外波長を用いることで、物質の濁度を定量的に計測できる可能性を示唆している。
【0080】
一方、散乱体を含む測定対象の換算散乱係数μS’の大きさは散乱体の大きさやその濃度に依存することが知られている(非特許文献10)。Alinceら(非特許文献12)やBurgerら(非特許文献13)により、粒子径の異なる散乱媒体の換算散乱係数μS’を算出した結果、換算散乱係数μS’スペクトルの値やスペクトルパターンは粒子径により異なるということが報告されている。活性汚泥中には、大腸菌等の浮遊細菌、酵母等の浮遊真菌や、菌類の集合体であるフロックなどが存在する。酵母等の大きさはおよそ5000〜10000nmである(非特許文献14)。また、フロックは、菌類の集合体であることから大腸菌や酵母よりもさらに大きな粒子径の散乱体となる。その為、活性汚泥の換算散乱係数μS’スペクトルを算出することにより、活性汚泥中の菌の構成比などを概算できる可能性がある。
【0081】
実施例2の散乱体濃度測定方法によれば、可視光よりも波長の長い近赤外光を散乱体液に深さ数mmオーダーまで打ち込み、一旦、散乱体液の中を通って返ってきた近赤外光に基づいて、散乱体の濃度を測定することができる。このため、可視光を散乱体液に透過させて濁度を測定する従来の濁度計のように、可視光を透過させるためにガラス窓で挟んだ測定用サンプルを作成する必要がなく、測定対象を迅速且つ簡便に測定することができる。
【0082】
(まとめ)
実施例2では、廃水処理に於いて処理がどの時点でどの程度進んでいるか知る為に,光学特性値算出装置(図2に示す近赤外光測定部7に相当する)により、大腸菌の濃度の定量に着目し本発明を実施した。波長1200nmの短波長側の分光分析を行うことにより、大腸菌液の換算散乱係数μS’を用いて大腸菌液内の大腸菌の濃度を測定可能であることが実証された。以上より、本発明は、近赤外分光分析を活用し、大腸菌の濃度を測定することで廃水処理の過程をモニタリングするための技術となることができる。
【実施例3】
【0083】
前述した実施例2では、大腸菌溶液を測定対象とし、換算散乱係数μS’を用いて大腸菌液内の大腸菌の濃度を測定したが、実施例3では、大腸菌と酵母菌との混合液を測定対象とし、換算散乱係数μS’を用いて混合液内の大腸菌の濃度及び酵母菌の濃度を測定する。
【0084】
(大腸菌濃度と酵母菌濃度との比率毎の換算散乱係数スペクトル)
図15は、実施例3に係る大腸菌濃度と酵母菌濃度との体積分率毎の換算散乱係数μS’のスペクトルを示すグラフである。横軸は、大腸菌と酵母菌との混合液に照射した近赤外光の波長を示しており、縦軸は、換算散乱係数μS’を示している。
【0085】
図15に示すグラフは、大腸菌と酵母菌との体積分率が、0:10、1:9、2:8、…、9:1、10:0の11種類の混合溶液の測定結果を示している。
【0086】
このグラフ中の線L1は、大腸菌と酵母菌との体積分率が、0:10である混合溶液の測定結果を示している。線L2は体積分率が1:9である混合溶液の測定結果を示しており、線L3は体積分率が2:8である混合溶液の測定結果を示している。線L4は体積分率が3:7の混合溶液の測定結果であり、線L5は体積分率が4:6の混合溶液の測定結果である。線L6は体積分率が5:5の混合溶液の測定結果であり、線L7は体積分率が6:4の混合溶液の測定結果であり、線L8は体積分率が7:3の混合溶液の測定結果である。線L9は体積分率が8:2の混合溶液の測定結果であり、線L10は体積分率が9:1の混合溶液の測定結果であり、線L11は体積分率が10:0の混合溶液の測定結果である。
【0087】
図15に示すこれら線L1〜線L11の測定結果は、近赤外光の波長1100〜1300nmにおいて、大腸菌の体積分率の増加とともに換算散乱係数μs´も増加したことを示している。
【0088】
(大腸菌濃度の検量線)
図16は、実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における大腸菌濃度の検量線を示すグラフである。横軸は、調整した大腸菌濃度の体積分率を示しており、縦軸は、大腸菌の体積分率の予測値を示している。
【0089】
図16の横軸の調整した大腸菌濃度の体積分率の0〜10の値は、図15の大腸菌と酵母菌との体積分率を示す0:10、1:9、2:8、…、9:1、10:0の11種類の溶液に対応する実測値を表している。即ち、これらの値は、0.0000、1.0000、2.0000、…、9.0000、10.0000である。
【0090】
縦軸の大腸菌の体積分率の予測値は、図15に示す大腸菌と酵母との混合液における換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、部分的最小2乗回帰分析に基づいて算出した大腸菌の体積分率の予測値である。
【0091】
換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から大腸菌の体積分率の予測値を算出する具体的方法は、以下のとおりである。まず、予測変数Xと応答変数Yとのデータセットを作成する。そして、予測変数Xと応答変数Yとを用いたデータセット(X、Y)により直交化信号補正(Orthogonal signal correction:OSC)を実行し、補正後のデータセット(X´、Y)を生成する。次に、部分的最小2乗回帰分析により主成分数を求める。そして、最適な検量線を得るための主成分数(因子数)を決定する。その後、最適な主成分数を選択した時の大腸菌の体積分率の予測値を得る。
【0092】
そして、調整した大腸菌濃度の体積分率と大腸菌の体積分率の予測値とをグラフにプロットすると、図16に示す検量線が得られる。この検量線によって、大腸菌と酵母との混合溶液における換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、混合溶液における大腸菌の体積分率を求めることが可能となる。
【0093】
(酵母菌濃度の検量線)
図17は、実施例3に係る大腸菌と酵母との混合溶液における酵母菌濃度の検量線を示すグラフである。横軸は、調整した酵母菌濃度の体積分率を示しており、縦軸は、酵母菌の体積分率の予測値を示している。
【0094】
図17の横軸の調整した酵母菌濃度の体積分率の0〜10の値は、図15の大腸菌と酵母菌との体積分率を示す10:0、9:1、…、2:8、1:9、0:10の溶液に対応する実測値を表している。
【0095】
縦軸の酵母菌の体積分率の予測値は、図15に示す大腸菌と酵母との混合液における波長1100nm〜1300nmでの換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、部分的最小2乗回帰分析に基づいて算出した酵母菌の体積分率の予測値である。
【0096】
具体的には、大腸菌の体積分率を求める場合と同様に、予測変数Xと応答変数Yとのデータセットを作成する。そして、予測変数Xと応答変数Yとを用いたデータセット(X、Y)により直交化信号補正(Orthogonal signal correction:OSC)を実行し、補正後のデータセット(X´、Y)を生成する。次に、部分的最小2乗回帰分析により主成分を求める。そして、最適な検量線を得るための主成分数(因子数)を決定する。その後、最適な主成分数を選択した時の酵母菌の体積分率の予測値を得る。
【0097】
調整した酵母菌濃度の体積分率と酵母菌の体積分率の予測値とをグラフにプロットすると、図17に示す検量線が得られる。この検量線によって、大腸菌と酵母との混合溶液における換算散乱係数スペクトルμS’の測定結果から、混合溶液における酵母菌の体積分率を求めることが可能となる。
【0098】
(付記事項)
本発明は上述した各実施形態及び各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、微生物を含む試料に近赤外光を照射して当該試料の特性を測定する代謝物質モニタリング方法、散乱体濃度測定方法、及び代謝物質モニタリング装置に利用することができる。
【0100】
また、本発明は、廃水処理過程のモニタリングの他、広く、近赤外光を用いた生物代謝系のモニタリングに適用することができる。例えば、海水の汚濁状況の測定、土石流が流れた川の水質測定、湖の濁度、透明度の測定にも利用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 代謝物質モニタリング装置
2 近赤外光照射部(照射手段)
3 近赤外光測定部(測定手段)
4 試料
5 散乱体濃度測定装置
6 近赤外光照射部(照射手段)
7 近赤外光測定部(測定手段)
8 散乱体液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射工程と、
前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定工程とを包含し、
前記測定工程は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする代謝物質モニタリング方法。
【請求項2】
前記代謝物質は、酢酸塩を含み、
前記対応する波長は、2255nmを中心とする帯域の波長である請求項1記載の代謝物質モニタリング方法。
【請求項3】
微生物からなる散乱体を含む散乱体液に赤外光を照射する照射工程と、
前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、
前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記散乱体の粒子径に対応する前記近赤外光の波長における前記散乱体液の換算散乱係数を算出し、前記換算散乱係数に基づいて前記散乱体の濃度を測定することを特徴とする散乱体濃度測定方法。
【請求項4】
前記微生物は、大腸菌を含み、
前記粒子径に対応する近赤外光の波長は、1200nmを中心とする帯域の波長である請求項3記載の散乱体濃度測定方法。
【請求項5】
第1微生物からなる第1散乱体と、前記第1微生物の第1粒子径よりも大きい第2粒子径を有する第2微生物からなる第2散乱体とを含む散乱体液に近赤外光を照射する照射工程と、
前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記第1及び第2散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、
前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記第1散乱体の第1粒子径に対応する前記近赤外光の第1波長における前記散乱体液の第1換算散乱係数を算出し、前記第1換算散乱係数に基づいて前記第1散乱体の濃度を測定し、前記第2散乱体の第2粒子径に対応する前記近赤外光の第2波長における前記散乱体液の第2換算散乱係数を算出し、前記第2換算散乱係数に基づいて前記第2散乱体の濃度を測定することを特徴とする散乱体濃度測定方法。
【請求項6】
微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射手段と、
前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定手段とを備え、
前記測定手段は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする代謝物質モニタリング装置。
【請求項1】
微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射工程と、
前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定工程とを包含し、
前記測定工程は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする代謝物質モニタリング方法。
【請求項2】
前記代謝物質は、酢酸塩を含み、
前記対応する波長は、2255nmを中心とする帯域の波長である請求項1記載の代謝物質モニタリング方法。
【請求項3】
微生物からなる散乱体を含む散乱体液に赤外光を照射する照射工程と、
前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、
前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記散乱体の粒子径に対応する前記近赤外光の波長における前記散乱体液の換算散乱係数を算出し、前記換算散乱係数に基づいて前記散乱体の濃度を測定することを特徴とする散乱体濃度測定方法。
【請求項4】
前記微生物は、大腸菌を含み、
前記粒子径に対応する近赤外光の波長は、1200nmを中心とする帯域の波長である請求項3記載の散乱体濃度測定方法。
【請求項5】
第1微生物からなる第1散乱体と、前記第1微生物の第1粒子径よりも大きい第2粒子径を有する第2微生物からなる第2散乱体とを含む散乱体液に近赤外光を照射する照射工程と、
前記散乱体液に照射された近赤外光に基づいて前記第1及び第2散乱体の濃度を測定する測定工程とを包含し、
前記測定工程は、前記照射された近赤外光に基づいて、前記第1散乱体の第1粒子径に対応する前記近赤外光の第1波長における前記散乱体液の第1換算散乱係数を算出し、前記第1換算散乱係数に基づいて前記第1散乱体の濃度を測定し、前記第2散乱体の第2粒子径に対応する前記近赤外光の第2波長における前記散乱体液の第2換算散乱係数を算出し、前記第2換算散乱係数に基づいて前記第2散乱体の濃度を測定することを特徴とする散乱体濃度測定方法。
【請求項6】
微生物と、前記微生物により資化される資化物質と、前記微生物が生成する代謝物質とを含む試料に近赤外光を照射する照射手段と、
前記試料を透過し、または前記試料により反射された近赤外光の前記試料に対する吸光度を測定する測定手段とを備え、
前記測定手段は、前記資化物質を資化した微生物が生成する代謝物質に対応する波長における前記吸光度の経時変化を測定して前記代謝物質をモニタリングすることを特徴とする代謝物質モニタリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−101111(P2013−101111A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230235(P2012−230235)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
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