説明

仮撚り紡績糸およびそれらを用いた編織物

【課題】布帛形成後に染色加工での芯成分溶出除去という特殊かつ理想的な中空構造形成法に加え、実質的に無撚りである紡績糸を用いることで空気層を持たせることにより、軽量性、保温性、抗ピル性を同時に満足するための新規な紡績糸とそれからなる編織物を提供すること。
【解決手段】鞘成分がポリアミド、芯成分がポリエステルからなるとともに、繊度が0.5〜7.0dtexの範囲にあり、強度が2.0cN/dtex〜7.0cN/dtexである芯鞘型複合短繊維を20重量%以上含む紡績糸であって、かつ実質的に無撚りであることを特徴とする紡績糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性、軽量性などの特性に優れたポリアミドとポリエステルの芯鞘型複合短繊維から構成された実質的に無撚りの紡績糸およびそれらからなる織物、あるいは編物(以下、これらを総称して「織編物」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維は、優れた強さ、イージーケア性などの面から幅広い分野で使われている。これら合成繊維、特にフィラメントには冷たい感触があり、冬期アウター素材としては不向きであるため、空気層を多く含ませる多くの方法が採られている。
【0003】
例えば、フィラメントにおいては糸にループ加工を施して嵩高にしたり、織物構造的には多層構造にすることにより、保温性能を高める手法が採用されている。
【0004】
一方、スパン織編物についてはこれまでポリエステル繊維が主に使われていたが、ポリエステル独特のドライ感、カサカサ感があることから、近年は、新しい質感、すなわちソフトでしっとり感を持つ風合いや、物理特性としては強力の高さなどの点からナイロンスパン織編物が見直されてきている。
【0005】
以上のような背景から、ナイロンスパン織編物は、スキー、スノーボード、カジュアルスポーツなどのスポーツ衣料、防寒衣料用途に多く用いられている。
【0006】
しかし、これらの多くは、寒冷期に用いられるために、素材自体が地厚になる、あるいは重ね着するなど、着用時に重くなるといった欠点が生じる。
【0007】
このような問題を解決するための一つの手段としては、糸を中空構造にすることが考えられる。
【0008】
しかしながら、通常のポリアミド繊維は溶融紡糸により製造されるため、ポリエステル繊維とは異なり高中空構造になりにくく、また、ポリマー自体のモジュラスが低いことから、紡績工程、製織工程、染色工程などを通過する際に中空構造がつぶれてしまうという問題があり、後加工工程における問題点を解決するために、鞘成分として耐アルカリ性のポリマーを用い、芯成分としてポリエステルを用いた芯鞘複合繊維からなる布帛をアルカリ処理して芯成分であるポリエステルを溶出し中空部を設ける方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、この方法は、得られた中空繊維を通常の紡績方法によってリング紡績糸にした場合、短繊維束に実撚りが付与されているため繊維間の空隙が少なく、保温性に富んだ布帛とはなり難いという問題がある。
【0010】
また、ナイロン短繊維からなる紡績糸を使用したテキスタイルは該繊維が有する物性、すなわち強度が高いことが逆に作用し、ポリエステル同様、衣料着用時、布帛表面に摩擦を受け毛羽が絡み毛玉に成長し、いわゆるピリングが発生し、衣料の外観を著しく損なう欠点も有している。
【0011】
これら諸問題を鑑みて、リング糸の収縮特性などの問題もあり、空気紡績糸がより好ましい。また、双糸加工品であってもこれら問題点を解決し得るが、加工コスト高騰の問題もあり、あまり好ましくない。
【特許文献1】特開平7−278947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述のような従来技術では得ることのできなかった快適性に優れ、かつ保温性と軽量性、抗ピル性に優れていてソフトでしっとり感のある独特な風合いを有する紡績糸および織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、
(1)単繊維繊度が0.5〜7.0dtexの範囲にあり、少なくとも熱可塑性合成繊維を含む短繊維束に仮撚り加工を施した紡績糸であって、実質的に無撚り構造であることを特徴とする紡績糸。
【0014】
(2)鞘成分がポリアミド、芯成分がポリエステルからなるとともに、繊度が0.5〜7.0dtexの範囲にあり、強度が2.0cN/dtex〜7.0cN/dtexである芯鞘型複合短繊維を20重量%以上含む紡績糸であって、かつ実質的に無撚りであることを特徴とする紡績糸。
【0015】
(3)短繊維の芯成分/鞘成分の複合割合(重量%)が25/75〜60/40の範囲にあることを特徴とする前記(2)に記載の紡績糸。
【0016】
(4)捲縮率(CR)が30%以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の紡績糸。
【0017】
(5)前記(2)〜(4)のいずれかに記載の紡績糸を20重量%以上含み、かつアルカリ処理により芯成分のポリエステルが溶出されてなることを特徴とする織編物。
【0018】
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の紡績糸を用いて構成されたことを特徴とする衣料。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって中空ナイロン短繊維を用いた実質的に無撚りである仮撚り紡績糸からなる編織物において、従来技術では得られなかった軽量性、保温性、抗ピル性を兼ね備え、しかもナイロンスパン独特のしなやかな風合いも兼ね備え、ソフトストレッチ、光沢感付与等多くの機能を備えた新規ナイロンスパン編織物を提供することができる。
【0020】
本発明にかかるスパン編織物は、その軽量性・保温性を兼ね備えた特徴から、冬期の肌着、スポーツ、アウトドア、カジュアル用途などに好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明は、単繊維繊度が0.5〜7.0dtexの範囲にあり、少なくとも熱可塑性の合成繊維を含む短繊維束に仮撚り加工を施した紡績糸であって、仮撚捲縮を有し、実質的に無撚り構造であることを特徴とする紡績糸である。上記単繊維束には、熱可塑性の合成繊維の他に、再生繊維、あるいは天然繊維などが混紡されていてもよい。
【0023】
また、本発明は、芯成分がポリエステルと鞘成分がポリアミドの芯鞘型複合原綿を実質的に無撚りである仮撚り紡績糸とし布帛を形成した後、染色加工にて加熱アルカリ処理を行い、芯部のポリエステルを溶出して中空構造を形成することにより、芯鞘型複合原綿の中空部、および紡績糸を構成する短繊維束間に熱伝導率の小さい空気層が存在することによって、単位面積当たりの織編物の重さ(目付)が軽く、軽量でかつ保温性、抗ピル性、ソフトストレッチ、光沢感、ソフト風合いに優れた織編物を実現したものである。
【0024】
さらには、本発明の織編物において、その単位当たり面積の重さ(目付)が軽く、かつ保温性を示すCLO値が0.75以上であることが重要である。
【0025】
一般に、衣服は保温性が高いときのファクターとして考えられることは、その素材自体の熱伝導率が低いこと、その布帛の厚みが大きい、すなわち、空気層を多く含むことなどが挙げられる。したがって、保温性を高めるためには目付が大きくなるように布帛設計をすればよい。しかし、それでは、軽量性が全く損なわれる。
【0026】
本発明にかかる紡績糸からなる織編物は軽量感・軽量さを実現した上で、保温性を表すCLO値が0.55以上、さらには0.60以上の高い値を呈するものである。該CLO値が0.55以上とは、冬期下での軽い運動時に必要といわれる保温性を満足するものである。
【0027】
ナイロン短繊維100%の紡績糸を使用した編成品でインナー、アウター用途では、表面タッチ、風合い、W/W(ウオッシュ アンド ウエア)性、物性面等で高いポテンシャルを持つ商品が具現化でき、市場からの要望も強い。ただし、唯一の欠点として製品着用時のピル発生により品位が低下する問題があり、市場に多く出回っていないのが現状である。
【0028】
短繊維の物性を低下させた態様、すなわち強度を下げたポリエステル短繊維からなる紡績糸を抗ピル素材として展開しているニット商品は存在するが、これらは着用開始後数週間でピリングが発生する。しかし、さらに着用を継続し、長期間経過すると形成されたピルが脱落することで抗ピル性をうたっているものもある。しかしながら、消費者は短期間着用でピルが発生する商品に対して決して満足しているものではなく、短期間、長期間着用にかかわらずピルが発生しないことを要求している。本発明の紡績糸を使用した編成品については上記要望を満たすものである。
【0029】
本発明における実質的に無撚の紡績糸としては、短繊維原綿を用いて紡績工程にて、例えば、特開2002−227042号公報に示されるような空気精紡機を用いて得られる紡績糸を対象とする。
【0030】
本発明における紡績糸は、芯鞘複合繊維の短繊維原綿からなるものであり、その鞘成分はポリアミド系ポリマー、芯成分はポリエステル系ポリマーで構成されているものが好ましい。
【0031】
本発明において、鞘部を構成するポリアミドとしては、ポリヘキサメチレナジパミド(ナイロン66)やポリε−カプラミド(ナイロン6)からなるポリアミドが好適であるが、セバシン酸、イソフタル酸、パラキシレンギアミドなどを構成成分とするポリアミドあるいはこれらの共重合ポリアミド等を用いても良い。
【0032】
また、芯成分を構成するポリエステルとしては、染色加工工程にてアルカリ処理を行い溶出除去する関係上、易溶性ポリマーであることが重要である。
【0033】
かかる易溶性ポリエステルとしては、例えば、スルフォン化芳香族ジカルボン酸変性ポリエステルであり、スルフォン基を有する化合物がポリエステルの連鎖または末端の一部に含まれた変性されたポリエステルを用いることができるものである。より具体的には、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレート、あるいはこれらを主成分とする共重合ポリエステルなどにスルフォン化芳香族ジカルボン酸、あるいはその塩を共重合させてなる変性されたポリエステルなどを用いることが好ましいものである。
【0034】
スルフォン化芳香族ジカルボン酸の代表的なものとしては、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸ジメチルが挙げられ、本発明でも好ましいものとして使用することができる。その共重合は、テレフタル酸に対し3.0モル〜10モル重量%の範囲であることが好ましい。この共重合が低すぎると所望の効果が十分に得られ難い場合があり、逆に多すぎると変性ポリエステルの結晶構造が乱れ機械的特性の大幅な低下を招くことになる場合があり好ましくない。
【0035】
鞘部と芯部の複合割合(重量%)は、軽量性、保温性などの特性及び風合い面から重要である。その芯鞘複合割合は、芯:鞘=25:75〜60:40の範囲であることが好ましい。より好ましくは、芯:鞘=30:70〜50:50の範囲内である。
【0036】
芯鞘複合割合の大小は、紡績および製織工程ではさほど問題にならないが、染色加工工程でアルカリ処理によってポリエステル成分を溶出し繊維に中空構造を形成するものであり、芯成分の比率が大きい。すなわち、中空率が大きくなれば軽量性は向上するものの、布帛の状態で物理的な力が加われば容易に中空構造は変形する傾向となる。一般に、該変形した部分は、扁平状を呈し、所望の機能・特性を発揮することができない方向となる。かかる点から、芯成分の比率は60%以下が好ましいものである。逆に、芯成分の比率が小さければ中空構造は変形し難くなるが、所望の機能・特性を発揮することが難しい方向となる。芯成分の比率の好ましい下限値に関して、芯成分比率が小さすぎる場合、芯成分を溶出除去させる工程中において鞘部内を薬液が浸透して分解物を除去するに長時間を要することになるので、この点から芯鞘成分比率は、芯:鞘=25:75〜60:40の範囲であるのが好ましい。より好ましくは芯:鞘=30:70〜50:50の範囲内である。
【0037】
複合繊維(原綿)の繊維断面形状は、特に限定されるものではないが、同心円状の芯鞘複合原綿が代表的であり生産上好ましいが、芯鞘が相対的に偏心しているものや、全体が三角状、もしくは四角形状などの多角形状や楕円形状のものなどであってもよい。また、芯が、単一の芯でなく多芯状のものでも良い。
【0038】
紡績糸の捲縮率(CR)(%)は、風合い、光沢面から重要であり、数値が高いほど捲縮数が多いことを示し、光沢が感じられないことを示す。
【0039】
本発明の仮撚り紡績糸においては、捲縮率(CR)は30%以下であることが好ましく、光沢感、風合いに非常に優位にあり、数値が高いと嫌なダル感や所望の風合いが得られないため好ましくない。かかる仮撚り紡績糸の捲縮率(CR)は0.1〜30%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは5〜30%の範囲内であり、さらに好ましくは10〜25%の範囲内である。
【0040】
次に本発明の紡績糸の糸構造について説明する。
【0041】
本発明の紡績糸においては、中空短繊維による膨らみ感、ソフト感を得るために、紡績糸自体が実質的に無撚りであることが重要である。
【0042】
ここで、本発明でいう実質的に無撚である紡績糸とは、短繊維成分の平均繊維長をLsとした場合、4.0T/Ls以下の実撚りがかかっているもの、または無撚状のものである。撚り数が4.0T/Ls以下の場合には、撚りトルクの作用による撚り戻りの発生がないので、実質的に無撚構造糸ということができる。
【0043】
すなわち、実質的に無撚り構造糸であれば染色工程にてアルカリ処理され、短繊維の芯成分が溶出され中空構造を形成した後も、一般的なリング精紡機によって得られる実撚り糸のような撚りトルクによる短繊維束間の拘束がなく、本発明の紡績糸の比較的内側に存在する芯成分の短繊維束が撚トルクのない状態、つまりフリーな状態であるため、短繊維の中空部だけでなく、短繊維束間に空気層がより多く存在する(繊維間空隙の増大)ことによって、本発明の紡績糸で構成されている織編物は、より軽量でかつ保温性に優れたものとなる。
【0044】
無撚構造糸は一般的な空気精紡によって得られるが、繊維間空隙の増大を考慮すると比較的内側に存在する芯成分の無撚り短繊維束に対し、比較的外側に位置する鞘成分の短繊維束が一定間隔に巻き付いていることがより好ましい。
【0045】
さらには、本発明に用いる空気精紡機は、紡速を変化させることで糸形態を変化させることができ、紡出条件として紡速が遅くなるほど紡績糸の芯成分の比率が増し糸結束がより安定するが、逆に布帛にした際の粗硬感が強く、糸結束が増すことで短繊維束間の空隙が少なくなり、本発明の目的とする保温性の点からは好ましくない。逆に紡速が早い場合、短繊維束間の空隙は増し風合いもソフトとなり、保温性の点からも好ましいが、糸強力の低下、またピリングの原因となる毛羽が増加することから、紡速は220m/分〜350m/分であることが好ましい。
【0046】
上述にて得られた紡績糸を、さらに加工糸の工程であるピン仮撚り工程を通過させ、ブレリア加工方式にてヒーター加工も施すことにより、より紡績糸自体が真円に近づき、紡績糸に光沢感を付与させることができる。また、ヒーターを通過することによって、紡績糸の毛羽が収縮し他の毛羽との干渉が生じなくなり、高い抗ピル性を発揮させることとなる。さらには、紡績糸自体も乾熱収縮を発現させるために紡績糸特有の斑も緩和され、よりフィラメント糸に近い紡績糸を得ることが可能である。
【0047】
また、ピン仮撚りを施すことによって、紡績糸の糸条を整え繊維束を均等にすることによって紡績糸本来の風合い、光沢感を施すこともでき、紡績糸自体の糸強力も20%以上向上させることができる。
【0048】
次に、本発明に用いた仮撚り機の仮撚り加工工程では、仮撚り数により毛羽を大幅に減少させることができ、さらには、ヒーター温度を高温にすることによっても毛羽減少に継がる。しかしながら、ヒーター温度を高温にし過ぎたり、撚り数を過剰に掛けすぎると紡績糸本来の風合いが損なわれ、ビリも発生し好ましくない。逆に甘撚り、ヒーターを低温にすると仮撚りによる機能を付与することができないことから、2ndヒーター温度を調整するなど適正な条件を設定することが必要である。
【0049】
上述のことから、仮撚り加工工程での仮撚り数は500〜2,000t/mの範囲にあり、より好ましくは800〜1,200t/mの範囲である。
【0050】
ヒーター温度については、80〜250℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは150〜210℃の範囲内にあることである。また、2ndヒーターをも150〜210℃の範囲内で調整を施すと、トルクが減少し毛羽数も原糸対比半数以下に大幅に減少させることができる。
【0051】
次に、本発明の紡績糸を構成する短繊維の繊度は0.5〜7.0デシテックス(dtex)の範囲にあるものである。さらには0.6〜3.0デシテックスの範囲にあることがより好ましい。短繊維の繊度が0.5デシテックス未満の細繊度になると紡績カード工程にてネップが発生するなど紡績糸の品位を損ねる原因となる。反面7.0デシテックスを超えると紡績糸の芯成分の短繊維束と鞘成分の短繊維束との絡合性不良となり番手設定に制約が生じ、さらには製品の風合いが硬くなる等の欠点が生じ、製品の用途に制約を受けることになる。
【0052】
また、本発明の紡績糸を構成する短繊維の強度は2.0cN/dtex〜7.0cN/dtexであることが好ましい。2.0cN/dtex未満であると紡績、製織、染色工程における工程通過性が不調になる問題が発生するなど、製品の強度劣化による実着用時に問題が生じる。逆に7.0cN/dtex以上になると、衣料着用時、布帛表面に摩擦を受け短繊維同士が絡み毛玉に成長し、ピリングとなった際、短繊維の強度が強過ぎるため毛玉が脱落し難く、結果的に本発明の目的である抗ピリング性が得られにくい。以上の理由により、短繊維の強度は上述の好ましい範囲にあるものである。
【0053】
紡績糸に占める上述の中空短繊維は100%で使用することが、本発明の本来の狙いである保温性、軽量感などの特性を十分に発揮する上でより効果的であるが、布帛の風合いをコントロールするため紡績糸に使用する中空短繊維以外に、綿、レーヨン、ウール、麻の天然繊維、ポリエステル、アクリル、他ナイロン、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成繊維等を混紡したものでも良い。軽量感、保温性の点から中空短繊維の紡績糸に占める割合はアルカリ処理前重量で40重量%以上であることが好ましい。
【0054】
本発明の紡績糸を交編、交織して使用する場合においても、軽量感、保温性を満足させるためには織編物重量に対し、本発明の紡績糸を少なくとも20重量%以上含むことが好ましい。通常の編成、製織工程にて布帛にした後、染色加工工程において行われる芯部の変性ポリエステルなどポリエステル成分を溶出除去するためのアルカリ処理には、薬剤として苛性アルカリ、例えば、苛性ソーダ、苛性カリなどを用いればよい。その処理条件は、芯鞘複合比率や布帛を構成する該原綿の混用比率などによっても相違するが、一般的には苛性アルカリ濃度は10〜80g/リットル、処理温度は80〜120℃の条件を用いればよい。染色はポリアミド染着のための通常用いられる染料及び染色条件を採用すればよい。
【0055】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【実施例】
【0056】
以下に本発明で用いた評価方法につき具体的に説明する。
[保温性(CLO値)]
50cm×50cm試験片を2枚採取する。ASTM保温性試験器を用い、熱板温度40℃の熱板に試験片を取り付けて60分間放置する。測定時間放置後の積算電力計の通電時間(秒)、及び測定器の外気温度(℃)を読みとる。試験片を取り付けない状態の積算電力計の通電時間(秒)を読みとる。上記で求めた試験片を取り付けないときの通電時間(秒)、試験片を取り付けたときの通電時間(秒)及び外気温度から次式によりCLO値を求め2枚の平均値で表す。
【0057】
CLO値=(6.54×(40−t))/a/0.18
ここで
a:試験片を取り付けたときの通電時間(sec/hr)
t:測定機の示す外気温度(℃)
このCLO値は布帛の保温性を指標する一般的な数値であり、値が大きいほど保温性に優れることを示している。
【0058】
目安として、21℃、50%RH以下、気流5cm/secの室内環境下での安静状態にある人体皮膚温度を維持できる布帛の保温性(熱抵抗)がCLO値1.0として表される。
[目付]
25cm×25cmの布帛試験片を採取し、平衡水準率以下となるまで十分に乾燥後、20℃、65%RHの室内に24時間放置し、水準平衡とした後に、その試験片の重量を測定する。得られた試験片の重量を1m2あたりに換算し、布帛片2枚についての平均値で表す。
[捲縮率(CR)%]
ラップリールにて10回のカセを巻き取り60℃×20min温水中にて熱処理を施し、処理完了後、濾紙で温水を全部吸い上げその後、24HR放置する。
【0059】
熱処理完了後、試料を糸に吊し、初荷重2.0mg/dtexと定荷重1.0g/dtexとを加えた状態で、水を入れたメスシリンダーに投入し、2分経過後の糸長をlとし、時間経過後に定荷重のみを水中で取り外し更に2分経過後の糸長をl1とする。
【0060】
捲縮率(CR)(%)=[(l−l1)/l1]×100
[軽量感]
同一サイズの肌着に縫製し、着用軽量感を官能評価した。
【0061】
○:明確に軽量感あり
△:やや軽量感あり
×:軽量感なし
[ICIピル判定(5hr)]
抗ピル性能をモデル的に評価するものでピル発生の程度を1〜5級にランク付けし、数字が少ないほどピリング発生が少ないことを示す。
JIS L1076(A法)に準ずる。
[風合い]
織物の風合いを下記官能評価した。
【0062】
○:張り、腰、ソフト感良好
△:張り、腰、ソフト感やや良好
×:張り、腰、ソフト感不良
(実施例1)
芯成分に5−ナトリウムスルフォイソフタル酸ジメチルを8.0モル%共重合したポリエステルを用い、鞘成分にナイロン66を用いて、芯鞘複合原綿(重量%)を芯:鞘=50:50として、紡糸速度1300m/分で紡糸した後、3.0倍で通常の延伸を行い、捲縮付与後、カットして、単繊維繊度1.7dtex、繊維長38mm、強度2.7cN/dtexの芯鞘複合原綿を得た。
【0063】
続いてこの芯鞘複合原綿100%を用い、通常の紡績方法を用いて2.36g/mの太さのスライバーを作成した。このスライバーをローラー方式のドラフト機構を有する空気精紡機に仕掛け、空気精紡機のドラフト率を120倍に設定して、紡速を220m/分として綿式番手30sの紡績糸を得た。紡績性は良好であり、糸切れもなかった。
【0064】
なお、用いた空気精紡機の糸形成部は中空のエアーノズルを有し、エアーノズル内の旋回気流によって、鞘部の無撚り芯鞘短繊維束に鞘部の芯鞘短繊維束が一定間隔で結束することで実質的に無撚りである紡績糸を形成する機構となるものである。
【0065】
さらに、加工糸を製造するピン仮撚り機を用い上記紡績糸を紡糸速度100m/min、オーバーフィード3%、仮撚り数1,000t/m、1stヒーター200℃−2ndヒーター180℃にて仮撚り加工した。仮撚り加工性は良好であり、風綿発生量も少なく安定した紡糸が得られた。
【0066】
この無撚紡績糸を用いて、28Gシングル丸編機で天竺編地を編成した。
【0067】
次にこの編地を染色工程において、精練、リラックス後、苛性ソーダ水溶液50g/lの濃度とし、処理温度110℃、処理時間60分、液流染色機を用いて芯のポリエステル成分の溶出除去を行った。
【0068】
引き続き、通常のナイロン染色100℃、45分で染色を行い、仕上げ後の目付が145g/mの編地を得た。
【0069】
(実施例2)
芯成分に5−ナトリウムスルフォイソフタル酸ジメチルを8.0モル%共重合したポリエステルと鞘成分にナイロン66を用いて、芯鞘複合原綿(重量%)を芯:鞘=30:70とした以外は、実施例1と同様にして紡績、仮撚り加工、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0070】
(実施例3)
ナイロン66を100%、すなわち芯鞘複合とはせず、紡糸速度1300m/分で紡糸した後3.0倍で通常の延伸を行い、捲縮付与後カットして、単繊維繊度1.7dtex×繊維長38mmの原綿を得た。
その後、実施例1と同様にして紡績、仮撚り加工、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の芯鞘複合原綿100%を用いて、通常の紡績方法を用いて4.1g/mの太さのスライバーを作成し、粗紡工程を経た後、通常のリング精紡機を用いて綿式番手30sの紡績糸を得た。
【0072】
その後、実施例1と同様にして、仮撚り加工、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0073】
(実施例4)
ポリエステル100%原綿を、2.36g/mの太さのスライバーを作成した後、実施例1と同様にして紡績、仮撚り加工、編成、染色工程にて布帛を作成した。
【0074】
以上5点のスパン編物について評価した結果を表1に示した。
【0075】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.5〜7.0dtexの範囲にあり、少なくとも熱可塑性合成繊維を含む短繊維束に仮撚り加工を施した紡績糸であって、実質的に無撚り構造であることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
鞘成分がポリアミド、芯成分がポリエステルからなるとともに、繊度が0.5〜7.0dtexの範囲にあり、強度が2.0cN/dtex〜7.0cN/dtexである芯鞘型複合短繊維を20重量%以上含む紡績糸であって、かつ実質的に無撚りであることを特徴とする紡績糸。
【請求項3】
短繊維の芯成分/鞘成分の複合割合(重量%)が25/75〜60/40の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の紡績糸。
【請求項4】
捲縮率(CR)が30%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の紡績糸を20重量%以上含み、かつアルカリ処理により芯成分のポリエステルが溶出されてなることを特徴とする織編物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の紡績糸を用いて構成されたことを特徴とする衣料。

【公開番号】特開2006−249624(P2006−249624A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70517(P2005−70517)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】