説明

仮撚加工機

【課題】錘間でのパッケージ径のバラツキが少ない、仮撚加工機を提供する。
【解決手段】延伸仮撚加工機100は、糸Yを供給する給糸部102と、この給糸部102から供給された糸Yを仮撚する糸加工処理部103と、この糸加工処理部103で仮撚された上記の糸Yを巻き取って巻取パッケージPとする巻取部104と、を含む錘105を複数備えて構成される。前記糸加工処理部103は上記糸Yを仮撚するためのベルト式仮撚装置111を含む。このベルト式仮撚装置111は、一対の基準ベルト1及び可動ベルト2を相互に交差及び圧接させた状態で走行させることで糸Yをニップしながら撚りを付与するように構成される。基準ベルト1が巻き掛けられる駆動プーリ10には、該駆動プーリ10と共回ると共に上記糸Yの張力を利用した摩擦接触によって上記糸Yを加撚する、フリクションディスク49が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮撚加工機に係り、詳しくは、錘間でのパッケージ径のバラツキを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特開2002−266179号公報)や特許文献2(特開昭58−23924号公報)、特許文献3(特開平2−99627号公報)に開示される仮撚加工機には、走行する糸を仮撚するベルト式仮撚装置が備えられている。
【0003】
このベルト式仮撚装置は、走行する糸をニップしながら加撚するので糸の撚り数の安定に優れるが、錘間で、ベルト式仮撚装置よりも下流側における糸の張力(以下、解撚張力と称する。)を均一とするのが困難であり、この結果、錘間でのパッケージ径が不均一となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、錘間でのパッケージ径のバラツキが少ない、仮撚加工機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本願の発明者は、鋭意研究の末、上記の錘間での解撚張力のバラツキの主たる原因は一対の無端ベルト間の接圧であることを見出した。具体的には、一対の無端ベルト間の接圧を高く設定すると、その分、上記の錘間での解撚張力のバラツキが大きくなる傾向になっていた。しかし、所定の撚り数を確保するためには、マージンを含んだ十分な加撚トルクが必要であり、このため、一対の無端ベルト間の接圧を高く設定するのは不可避であった。本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、そこで、本願の発明者は、上記の知見を踏まえ、以下の発明を完成させた。
【0006】
本願発明の観点によれば、以下のように構成される、仮撚加工機が提供される。即ち、仮撚加工機は、糸を供給する給糸部と、この給糸部から供給された糸を仮撚する加工部と、この加工部で仮撚された上記の糸を巻き取ってパッケージとする巻取部と、を含む錘を複数備えて構成される。前記加工部は上記糸を仮撚するための仮撚装置を含む。この仮撚装置は、一対の無端ベルトを相互に交差及び圧接させた状態で走行させることで糸をニップしながら撚りを付与するように構成される。前記無端ベルトが巻き掛けられるプーリには、該プーリと共回ると共に上記糸の張力を利用した摩擦接触によって上記糸を加撚する、加撚部が設けられる。以上の構成によれば、走行する上記糸を仮撚するのに必要となる加撚トルクを、上記一対の無端ベルトによるニップに加えて前記加撚部との摩擦接触で確保できるので、上記一対の無端ベルト間の接圧を、必要となる加撚トルクを確保しつつも下げることができる。従って、上記錘間での解撚張力のバラツキを抑えることができ、もって、錘間でのパッケージ径のバラツキを少なくすることができる。また、上記加撚部を前記プーリと共回りする構成としたので、前記加撚部を回転させる新たな機構を省略することができる。
【0007】
なお、上記特許文献3には、ツイスターベルトのプーリの軸に共回りディスクを設けて糸に補助撚りを加える構成が開示されているが、錘間での上記パッケージ径のバラツキを低減しようとする技術的思想は一切開示されておらず、また、そのような知見は他の文献にも一切記載されていない。
【0008】
上記の仮撚加工機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記加撚部の摩擦接触部の外径は、前記プーリの外径に前記無端ベルトの厚みを加えて得られる値以上に設定される。以上の構成によれば、前記一対の無端ベルトが交差する部分である交差部と前記加撚部の間の区間における前記糸の糸道を、前記交差部内における前記糸の糸道と略一直線とすることが可能となる。そして、このように略一直線な糸道を採用した場合は、前記交差部の下流側終端における前記無端ベルトの偏摩耗が回避される。
【0009】
上記の仮撚加工機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記加撚部には、外周縁を有する解撚部が設けられる。この解撚部は、前記加撚部と共回りするように構成される。この解撚部の外周縁の外径は、前記加撚部の摩擦接触部の外径以上に設定される。前記加撚部よりも下流側の前記糸の糸道は、前記解撚部の外周縁との接触により屈曲される。以上の構成によれば、前記解撚部の外周縁における周速が、前記加撚部の摩擦接触部における前記糸の周速を上回るので、前記加撚部で付与された前記糸の撚りを、前記解撚部の外周縁に至るまで維持することができ、もって、前記糸の解撚ポイントが前記解撚部の外周縁上に固定される。また、前記解撚部の外周縁における外径が前記加撚部の摩擦接触部よりも外周側へ突出する構成により、前記糸の糸道の、前記解撚部の外周縁における屈曲の角度が過大となることを回避できる。
【0010】
上記の仮撚加工機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記解撚部の外周縁における前記糸の糸道の屈曲を強めるように前記糸をガイドする屈曲ガイドが設けられる。以上の構成によれば、前記解撚部の外周縁における前記糸の糸道の屈曲が強まるので、この屈曲により実現される前記糸の解撚ポイントの安定が一層高いレベルで実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の概略構成図である。
【0012】
本実施形態において延伸仮撚加工機100は、給糸パッケージ101の糸Yを供給する給糸部102と、この給糸部102から供給される糸Yに対して延伸仮撚加工処理を施す糸加工処理部103(加工部)と、糸加工処理部103により延伸仮撚加工処理が施された糸Yを巻き取って所定径の巻取パッケージPを形成する巻取部104と、を含んで構成される錘105を複数で備える。複数の錘105は、本図の紙面垂直方向に並設される。延伸仮撚加工機100をコンパクトとすることを目的として、図1に示されるように、給糸部102や巻取部104は上下に重ねて配される。
【0013】
給糸パッケージ101は、複数の錘105で共通のクリールスタンド106のペグ107に保持される。
【0014】
糸加工処理部103は、糸Yの走行方向に沿って順に、第一フィードローラ108と、一次ヒータ109と、冷却器110と、ベルト式仮撚装置111と、第二フィードローラ114と、インタレースノズル115と、二次ヒータ116と、第三フィードローラ117と、を備えて構成される。
【0015】
第一フィードローラ108と第二フィードローラ114の間で糸Yが延伸されるように、第二フィードローラ114の糸送り速度は、第一フィードローラ108の糸送り速度と比較して大きく設定される。一方、第二フィードローラ114と第三フィードローラ117の間で糸Yが弛緩されるように、第三フィードローラ117の糸送り速度は、第二フィードローラ114の糸送り速度と比較して小さく設定される。
【0016】
ベルト式仮撚装置111は、一対の無端ベルトを相互に交差及び圧接させた状態で走行させることで、走行する糸Yをニップしながら撚りを付与するものであって、この糸Yに付与された撚りはベルト式仮撚装置111から糸Yの走行方向上流側へ向かって第一フィードローラ108に至るまで伝播する。糸Yは、延伸されつつ撚りが付与された状態で一次ヒータ109で熱セットされた後、冷却器110で冷却され、ベルト式仮撚装置111を通過する際に解撚される。この延伸仮撚加工処理が施された糸Yには、インタレースノズル115において適宜に交絡部が形成されることで、加撚糸と同程度の集束性が付与される。その後、糸Yは、弛緩された状態で二次ヒータ116において所定の熱処理が施され、巻取部104において巻取パッケージPとして巻き取られる。
【0017】
次に、ベルト式仮撚装置111について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るベルト式仮撚装置の側面図である。図3は、図2の3−3線矢視断面図である。図4は、ベルト式仮撚装置内における糸道の概略図である。
【0018】
図2に示されるように、ベルト式仮撚装置111は、基準側のベルトとしての基準ベルト1と、可動側のベルトとしての可動ベルト2と、を備え、前記の基準ベルト1及び可動ベルト2を走行させつつ互いに近接させることで、前記の基準ベルト1及び可動ベルト2に挟まれながら走行する糸Yに対して撚りを付与する。即ち、ベルト式仮撚装置111は、基準ベルト1を含む基準ベルトユニット3と、可動ベルト2を含む可動ベルトユニット4と、を備える。これら基準ベルトユニット3・可動ベルトユニット4は互いに概ね対称の構造とされるので、以下、主として、可動ベルトユニット4の構造を詳細に説明する。
【0019】
可動ベルトユニット4は、延伸仮撚加工機100本体に対して固定されるユニットベース5と、このユニットベース5に対して摺動可能な可動ベルト支持体6と、前記の可動ベルト2と、から構成される。可動ベルト支持体6は、ユニットベース5内に収容される駆動部7と、この駆動部7から突設されるプーリ駆動軸収容筒8と、このプーリ駆動軸収容筒8の先端に配され、該プーリ駆動軸収容筒8内に収容される図略の駆動シャフトによって回転駆動される駆動プーリ10と、この駆動プーリ10と対を成し、駆動プーリ10と共に可動ベルト2が掛けられる従動プーリ11と、これら駆動プーリ10及び従動プーリ11に掛けられる可動ベルト2に対して所定の張力を付与するための張力付与部12と、を主たる構成として備える。張力付与部12は、従動プーリ11を回転可能に支持する従動プーリ支持体9と、上記のプーリ駆動軸収容筒8と、の間に介挿される略示の圧縮コイルスプリング13を含んで構成される。
【0020】
本実施形態において駆動プーリ10と従動プーリ11に掛けられる可動ベルト2は、可撓性を有する無端ベルトであって、そのベルト幅は概ね8〜12[mm]とされる。前記のプーリ駆動軸収容筒8は概ね基準ベルトユニット3へ向かって延在し、可動ベルトユニット4によって支持される可動ベルト2が、基準ベルトユニット3に支持される基準ベルト1と接触可能に構成される。基準ベルト1と可動ベルト2が糸Yを挟むとき、本図に示されるように、可動ベルト2に対して対向する基準ベルト1の部分としての基準ベルト対向面1aと、基準ベルト1に対して対向する可動ベルト2の部分としての可動ベルト対向面2aと、は略平行とされる。そして、本実施形態において可動ベルト2は、基準ベルト対向面1aと、可動ベルト対向面2aと、の平行な関係を維持しながら基準ベルト1に対して進退可能に構成される。即ち、可動ベルト2を支持する可動ベルト支持体6の駆動部7は、ユニットベース5内において、可動ベルト対向面2aに対して垂直な方向へ摺動するように構成される。
【0021】
図3に示されるように、ユニットベース5には上記の可動ベルト対向面2aに対して垂直な方向に沿う略示のガイドシャフト15が挿設され、このガイドシャフト15と図示しないリニアブッシングを介して、駆動部7はユニットベース5に対して連結される。この構成で、可動ベルト2は、基準ベルト対向面1aと、可動ベルト対向面2aと、の平行な関係を維持しながら基準ベルト1に対して進退可能とされる。加えて、上記の駆動部7には上記のガイドシャフト15の挿設方向と平行に延びるキー溝16が刻設され、このキー溝16内に収容されるキー17がユニットベース5に設けられ、このキー溝16及びキー17の存在により、ガイドシャフト15まわりの駆動部7の回転が規制されるようになっている。前記のプーリ駆動軸収容筒8は、本図に示されるように駆動部7に対して嵌入され、駆動プーリ10に連結される駆動シャフト9はプーリ駆動軸収容筒8に対して略同軸の関係とされる。
【0022】
ユニットベース5には、基準ベルト1に対して近接する方向Aへ可動ベルト2を付勢する可動ベルト近接付勢部18(可動ベルト近接付勢手段)と、基準ベルト1から離反する方向Bへ可動ベルト2を付勢する可動ベルト離反付勢部19と、基準ベルト1から離反する方向Bへ可動ベルト2を移動させる可動ベルト移動部20(可動ベルト移動手段)と、が設けられる。
【0023】
この可動ベルト近接付勢部18は、本実施形態において空気圧式に構成されることで、可動ベルト2に対して付与する付勢力を増減可能に構成される。可動ベルト近接付勢部18は、具体的には、図略の圧縮空気供給装置に接続されるエア供給口21と、エア供給口21を介して供給される圧縮空気によって駆動される図略のベロフラムを内蔵する可動ベルト近接付勢部本体22と、このベロフラムの動作に連動する出力ロッド23と、から構成される。この出力ロッド23は、ガイドシャフト15の挿設方向と平行となるように配され、エア供給口21を介して可動ベルト近接付勢部本体22に圧縮空気が供給されると駆動部7に形成されるロッド当接面7aに当接し、圧縮空気によりベロフラムを介して出力ロッド23に作用される圧力が駆動部7に伝達されるように構成される。この可動ベルト近接付勢部18は、駆動部7に伝達される上記圧力(エアー圧)が、基準ベルト1に対して近接する方向Aへ可動ベルト2を付勢するのに供されるように構成される。即ち、可動ベルト2から基準ベルト1を望む方向と、可動ベルト近接付勢部本体22から出力ロッド23乃至ロッド当接面7aを望む方向と、は同じの方向である。
【0024】
上記の可動ベルト離反付勢部19は、本実施形態においてバネ式に構成され、具体的には、ガイドシャフト15の挿設方向と平行な方向に摺動可能な態様でユニットベース5に支持されるバネ収容体24と、このバネ収容体24と駆動部7の間に介設される圧縮コイルスプリング25と、バネ収容体24をガイドシャフト15の挿設方向と平行な方向に進退移動させるネジ式偏心カム26と、から構成される。上記のバネ収容体24と圧縮コイルスプリング25と駆動部7は、バネ収容体24と駆動部7の間に介設される圧縮コイルスプリング25の自己弾性復元力が可動ベルト2を基準ベルト1から離反させる方向Bへ付勢するのに供されるように配置される。従って、可動ベルト近接付勢部18によって可動ベルト2に対して付与される付勢力と、可動ベルト離反付勢部19によって可動ベルト2に対して付与される付勢力と、は反対の方向に作用するように構成される。ネジ式偏心カム26は、バネ収容体24をガイドシャフト15の挿設方向と平行な方向に進退移動させることで、可動ベルト離反付勢部19によって可動ベルト2に対して付与される付勢力を調節するためのものである。
【0025】
上記の可動ベルト移動部20は、本実施形態においてカム駆動式に構成され、具体的には、ガイドシャフト15の挿設方向と平行な方向に摺動可能な態様でユニットベース5に支持される進出ロッド27と、先端に進出ロッド27と係合する切欠部を有し、この進出ロッド27を進出させるための、カム式ノブ28と、から構成される。このカム式ノブ28による進出ロッド27の進出方向は、可動ベルト2が基準ベルト1から離反する方向と同一の方向に設定され、進出ロッド27がカム式ノブ28との係合により進出すると、進出ロッド27が駆動部7に対して当接し、当該駆動部7を介して可動ベルト2が基準ベルト1から離反するように構成される。カム式ノブ28による進出ロッド27の進出が解除されたときに進出ロッド27が駆動部7から離反する方向へ短時間で退避するよう、進出ロッド27とユニットベース5の間に圧縮コイルスプリング29が介設される。
【0026】
図2に示されるように、基準ベルトユニット3の駆動プーリ10には、該駆動プーリ10と共回ると共に上記糸Yの張力を利用した摩擦接触によって上記糸Yを加撚する、フリクションディスク49(加撚部)が図示しないボルトなどの締結手段によって連結固定される。このフリクションディスク49は、ステンレスやセラミックなどの剛体の外周にウレタンなどの摩擦材を着設して構成される。上記の糸Yは、フリクションディスク49の外周と摩擦接触する。この摩擦接触が行われる部分である摩擦接触部は、フリクションディスク49の外周のうちフリクションディスク49の軸方向中央近傍に該当する。図4において破線で示されるように、フリクションディスク49の上記摩擦接触部の外径D1は、駆動プーリ10の外径に基準ベルト1の厚みを二回、加えて得られる値以上に設定される。換言すれば、フリクションディスク49は、駆動プーリ10に掛けられた基準ベルト1よりも外周側へ突出する(はみ出る)。上記のフリクションディスク49は、基準ベルト1及び可動ベルト2から若干離間して配置される。
【0027】
図2及び図4に示されるように、上記のフリクションディスク49には、外周縁50aを有する解撚ディスク50(解撚部)が図示しないボルトなどの締結手段によって連結固定される。即ち、基準ベルトユニット3の駆動プーリ10には、フリクションディスク49と解撚ディスク50がこの順で連結固定される。この解撚ディスク50は、例えば、ステンレスやセラミックなどの剛体とされ、フリクションディスク49に対して固定されることで、駆動プーリ10及びフリクションディスク49と共回りする。換言すれば、解撚ディスク50は積極回転するようになっている。そして、この解撚ディスク50の外周縁50aの外径D2は、フリクションディスク49の摩擦接触部の外径D1以上に設定される。換言すれば、上記解撚ディスク50の外周縁50aの外径D2は、図4に示されるように、解撚ディスク50の外周縁50aがフリクションディスク49の摩擦接触部よりも更に外周側に突出する(はみ出る)ように設定される。この構成で、フリクションディスク49と摩擦接触して追撚された糸Yの糸道は、本図に示されるように、解撚ディスク50の外周縁50aとの接触により屈曲されるようになっている。なお、この接触は、本図に示されるように、解撚ディスク50の外周縁50aに沿ったかたちの線接触ではなく、糸Yと外周縁50aが交差することを特徴とする点接触となる。
【0028】
更に、解撚ディスク50の下流側には、図2に示されるように、走行する糸Yに対して従動回転する断面略V字状の屈曲ガイド51が設けられる。この屈曲ガイド51は、上記解撚ディスク50の外周縁50aにおける上記糸Yの糸道の屈曲を強める。即ち、図4に示されるように、基準ベルト1と可動ベルト2によってニップされて送糸された糸Yは、若干の走行を経て、フリクションディスク49との摩擦により更に加撚され、その後、解撚ディスク50の外周縁50a上で屈曲され、更に若干の走行を経て、屈曲ガイド51によって上記屈曲の略反対の方向へ屈曲される。
【0029】
次に、本実施形態に係るベルト式仮撚装置111の作動について説明する。
【0030】
先ず、基準ベルト1と可動ベルト2の間に、加撚対象としての糸Yの太さよりも十分大きな間隙が存在しており、この糸Yは、図2に示される太線矢印で示される方向へ走行しているものとする。
【0031】
<加撚の開始>
この状態で、糸Yに対する加撚を開始するには、先ず、図示しないモータによって駆動プーリ10を所定の回転数で回転させて、可動ベルト2を所定速度で走行させた状態とする。この可動ベルト2の走行方向は本図において太線矢印で示される方向である。基準ベルトユニット3についても同様とする。
【0032】
次に、図3に示される可動ベルト近接付勢部18に所定圧力の圧縮空気を導入して出力ロッド23を進出させる。これにより、出力ロッド23が駆動部7のロッド当接面7aに当接し、出力ロッド23が可動ベルト近接付勢部本体22から受ける圧力が駆動部7に伝達されることで、駆動部7は、可動ベルト離反付勢部19に属する圧縮コイルスプリング25の自己弾性復元力に抗するかたちで、ガイドシャフト15の挿設方向に沿って摺動し、もって、可動ベルト2が基準ベルト1に対して近接する。やがて、可動ベルト2が糸Yに対して当接すると、出力ロッド23が可動ベルト近接付勢部本体22から受ける圧力が、糸Yに対する可動ベルト2の接圧(糸Yに対する基準ベルト1の接圧)に変換される。
【0033】
基準ベルト1及び可動ベルト2の走行方向は、何れも、糸Yに対して所定の角度を有しており、もって、基準ベルト1及び可動ベルト2の走行は、糸Yを送出する機能と、糸Yに対して加撚トルクを付与する機能と、を発揮するようになっている。
【0034】
<加撚の停止:1>
上記の状態で、糸Yに対する加撚を停止するときは、先ず、可動ベルト近接付勢部18に対する圧縮空気の供給を停止すると共に、既に可動ベルト近接付勢部18に対して供給された圧縮空気を抜くことで、可動ベルト近接付勢部18によって駆動部7に対して付与される付勢力を消失させる。すると、糸Yに対する可動ベルト2の接圧が消失されると共に、可動ベルト離反付勢部19によって駆動部7に対して付与される付勢力により駆動部7は可動ベルト2を基準ベルト1から離反させる方向へ移動(退避)し、基準ベルト1と可動ベルト2の間に糸Yの太さと比較して十分大きな間隙が生成され、もって、糸Yに対する加撚が停止する。
【0035】
<加撚の停止:2>
例えば基準ベルト1や可動ベルト2を交換するときは、カム式ノブ28を適宜回転させておくとよい。これによれば、進出ロッド27がカム式ノブ28との係合により進出し、駆動部7が、可動ベルト2が基準ベルト1から離反する方向へ移動(退避)し、基準ベルト1と可動ベルト2の間に十分大きな間隙が生成されるからである。付言ならば、可動ベルト近接付勢部18によって駆動部7に対して付勢力が付与されているときは、ガイドシャフト15の挿設方向に沿った駆動部7の進退は、択一的に、進出ロッド27の進出量か、それとも圧縮コイルスプリング25によって駆動部7に対して付与される付勢力に支配されることとなる。一方、可動ベルト近接付勢部18によって駆動部7に対して付勢力が付与されていないときは、ガイドシャフト15の挿設方向に沿った駆動部7の進退は、圧縮コイルスプリング25によって駆動部7に対して付与される付勢力に支配されることとなる。
【0036】
<接圧の調整>
ところで、糸Yに対する加撚の際に、可動ベルト近接付勢部18に対して所定圧力の圧縮空気を供給することで発生する、糸Yに対する可動ベルト2の接圧(糸Yに対する基準ベルト1の接圧)を調整するには、ネジ式偏心カム26を何れかの方向に回転させればよい。即ち、糸Yに対する加撚の際は、可動ベルト近接付勢部18によって駆動部7に対して付与される付勢力が、糸Yに対する可動ベルト2の接圧と、可動ベルト離反付勢部19によって駆動部7に対して付与される付勢力と、の合力と等しくなっているので、この関係において、ネジ式偏心カム26を何れかの方向に回転させると、可動ベルト離反付勢部19によって駆動部7に対して付与される付勢力が増減し、相対的に、糸Yに対する可動ベルト2の接圧が変化するからである。全体(例えば1機台240錘)の接圧調整(糸の種類により)は、空気圧力を変えることにより全錘一斉に行う。ネジ式偏心カム26による調整は、一斉に行われる上記の調整後、接圧力を測定し、この接圧力が各錘でバラついたときに調整するために使用される。
【0037】
<フリクションディスク49の作用>
図4に示されるように、基準ベルト1と可動ベルト2によって加撚トルクが付与された糸Yは、若干の走行を経て、高速で回転するフリクションディスク49の摩擦接触部と接触する。このフリクションディスク49との接触によって、糸Yは、糸道が若干屈曲されると共に、更なる加撚トルクが付与される。このように、上記実施形態では、糸Yを仮撚するために必要な加撚トルクが、基準ベルト1及び可動ベルト2と、フリクションディスク49と、によって分担されるようになっている。従って、従来は、十分な加撚トルクが確保されるよう、基準ベルト1と可動ベルト2間の接圧を若干のマージンを見込んで例えば200グラムなどの高いレベルとしていたところ、この加撚トルクの一部をフリクションディスク49に負担させることで、該接圧を例えば150グラム程度の低いレベルに落とすことが許容されるようになる。そして、このように接圧を問題なく落とすことができるので、高い接圧に起因する錘間での解撚張力のバラツキを低減でき、もって、錘間でのパッケージ径の均一化として結実する。
【0038】
<解撚ディスク50の作用>
次に、図5及び図6に基づいて、上記の解撚ディスク50の作用を詳細に説明する。図5は、解撚張力T2が低い場合の解撚ポイントを示す図である。図6は、解撚張力T2が高い場合の解撚ポイントを示す図である。なお、図5及び図6において、前述の交差部R内に存在する糸Yは通常の状態においては見ることができないが、解撚ポイントの位置を説明するためにあえて基準ベルト1の手前側に描いた。また、図2に示されるように、糸Yは、本来であれば図5及び図6においてフリクションディスク49及び解撚ディスク50の奥側を走行するところ、説明の便宜上、あえて、フリクションディスク49及び解撚ディスク50の手前側に描いている。
【0039】
図5(a)及び図6(a)は、実施例1として、図2の構成から解撚ディスク50と屈曲ガイド51を省略した構成である。図5(b)及び図6(b)は、実施例2として、図2の構成に相当する。
【0040】
さて、解撚張力T2が低い場合は、図5(a)に示されるように、解撚ポイントはフリクションディスク49を通過した直後となる。しかし、解撚張力T2が高い場合は、図6(a)に示されるように、解撚ポイントが遡上してフリクションディスク49を越え、基準ベルト1と可動ベルト2の交差部Rに至ってしまい、この結果、解撚された上記糸Yがフリクションディスク49の外周面と擦れ合って毛羽立ちが発生してしまう場合がある。これに対し、上記解撚ディスク50を含む上記実施形態の構成では、図5(b)及び図6(b)に示されるように、解撚張力T2の高低に拘わらず、解撚ポイントが常に解撚ディスク50(具体的には外周縁50a)上に固定される。従って、解撚ポイントが遡上してフリクションディスク49を乗り越えてしまうことがないので、毛羽立ちの発生を抑制できる。
【0041】
更には、上記の解撚ディスク50は高速で回転しており、加えて、屈曲ガイド51の存在により解撚ディスク50による上記糸Yの解撚側の糸道の屈曲が強められているので、上記糸Yの解撚ポイントの安定が一層高いレベルで実現される。
【0042】
次に、上記の解撚ディスク50の技術的効果を確認するための試験について説明する。下記表1において、実施例Aとあるのは図5(a)に示される構成に解撚ディスク50を付加した構成に関し、実施例Bとあるのは図5(a)に示される構成に関する。下記表1において、試験No.1〜3の糸種は75den/144fであって、糸速は600m/minである。試験No.4〜6の糸種は150den/288fであって、糸速は600m/minである。表中、「解撚張力T2 gr」とあるのは、ベルト式仮撚装置111よりも下流側の糸Yの張力を意味し、単位のgrはグラムを意味する。「B.F/1000m」とあるのは、1000mあたりの毛羽数を意味する。
【0043】
【表1】

【0044】
上記表1の比較例によれば、解撚張力T2が高いと毛羽の発生が顕著であることが判る。そして、上記の解撚ディスク50を採用した実施例Aでは、解撚張力T2の大小に拘わらず実施例Bと比較して毛羽数が略半数近くに抑えられたことが判る。毛羽は一般に解撚ポイントの位置が安定しないときに発生することから、上記実施例Aでは、他ならぬ、解撚ポイントが安定して固定されたからだと考えられる。
【0045】
(まとめ)
以上説明したように上記実施形態において延伸仮撚加工機100は、以下のように構成される。即ち、延伸仮撚加工機100は、糸Yを供給する給糸部102と、この給糸部102から供給された糸Yを仮撚する糸加工処理部103と、この糸加工処理部103で仮撚された上記の糸Yを巻き取って巻取パッケージPとする巻取部104と、を含む錘105を複数備えて構成される。前記糸加工処理部103は上記糸Yを仮撚するためのベルト式仮撚装置111を含む。このベルト式仮撚装置111は、一対の基準ベルト1及び可動ベルト2を相互に交差及び圧接させた状態で走行させることで糸Yをニップしながら撚りを付与するように構成される。基準ベルト1が巻き掛けられる駆動プーリ10には、該駆動プーリ10と共回ると共に上記糸Yの張力を利用した摩擦接触によって上記糸Yを加撚する、フリクションディスク49が設けられる。以上の構成によれば、走行する上記糸Yを仮撚するのに必要となる加撚トルクを、上記一対の基準ベルト1及び可動ベルト2によるニップに加えて前記フリクションディスク49との摩擦接触で確保できるので、上記一対の基準ベルト1・可動ベルト2間の接圧を、必要となる加撚トルクを確保しつつも下げることができる。従って、上記錘105間での解撚張力のバラツキを抑えることができ、もって、錘105間でのパッケージ径のバラツキを少なくすることができる。また、上記フリクションディスク49を前記駆動プーリ10と共回りする構成としたので、前記フリクションディスク49を回転させる新たな機構を省略することができる。
【0046】
上記の延伸仮撚加工機100は、更に、以下のように構成される。即ち、フリクションディスク49の摩擦接触部の外径D1は、駆動プーリ10の外径に基準ベルト1の厚みを加えて得られる値以上に設定される。以上の構成によれば、一対の基準ベルト1が交差する部分である交差部Rとフリクションディスク49の間の区間における前記糸Yの糸道を、前記交差部R内における前記糸Yの糸道と略一直線とすることが可能となる。そして、このように略一直線な糸道を採用した場合は、前記交差部Rの下流側終端における基準ベルト1及び可動ベルト2の偏摩耗が回避される。
【0047】
上記の延伸仮撚加工機100は、更に、以下のように構成される。即ち、フリクションディスク49には、外周縁50aを有する解撚ディスク50が設けられる。この解撚ディスク50は、フリクションディスク49と共回りするように構成される。この解撚ディスク50の外周縁50aの外径D2は、フリクションディスク49の摩擦接触部の外径D1以上に設定される。フリクションディスク49よりも下流側の前記糸Yの糸道は、解撚ディスク50の外周縁50aとの接触により屈曲される。以上の構成によれば、解撚ディスク50の外周縁50aにおける周速が、フリクションディスク49の摩擦接触部における前記糸Yの周速を上回るので、フリクションディスク49で付与された前記糸Yの撚りを、解撚ディスク50の外周縁50aに至るまで維持することができ、もって、前記糸Yの解撚ポイントが前記解撚ディスク50の外周縁50a上に固定される。また、前記解撚ディスク50の外周縁50aにおける外径D2がフリクションディスク49の摩擦接触部よりも外周側へ突出する構成により、前記糸Yの糸道の、前記解撚ディスク50の外周縁50aにおける屈曲の角度が過大となることを回避できる。
【0048】
上記の延伸仮撚加工機100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記解撚ディスク50の外周縁50aにおける前記糸Yの糸道の屈曲を強めるように前記糸Yをガイドする屈曲ガイド51が設けられる。以上の構成によれば、前記解撚ディスク50の外周縁50aにおける前記糸Yの糸道の屈曲が強まるので、この屈曲により実現される前記糸Yの解撚ポイントの安定が一層高いレベルで実現される。
【0049】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0050】
図7は、図2に類似する図であって、本発明の変形例を示す図である。本図に示されるように、解撚ディスク50の外周縁50aと、フリクションディスク49と、の間の間隙は、解撚ディスク50の外周縁50aの径や、糸Yの糸道のレイアウトとの兼ね合いなどを総合的に考慮して自由に設定することができる。
【0051】
図8は、図2に類似する図であって、本発明の他の変形例を示す図である。本図に示されるように、前述の解撚ディスク50や屈曲ガイド51を省略する構成も考えられる。
【0052】
また、図2に示されるフリクションディスク49と解撚ディスク50とを上記実施形態のように別体にすることに代えて、一体的に構成してもよい。
【0053】
最後に、基準ベルト1と可動ベルト2の間を通過した糸Yの糸道を、図9を参照しつつ簡単に説明する。図9は、糸の糸道の屈曲の様子をイメージした図である。図9に示されるように、基準ベルト1と可動ベルト2の間を通過した糸Yは、先ず、フリクションディスク49に接触しつつ斜めに横断し、更に、解撚ディスク50に接触して屈曲走行するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る延伸仮撚加工機の概略構成図
【図2】本発明の一実施形態に係るベルト式仮撚装置の側面図
【図3】図2の3−3線矢視断面図
【図4】ベルト式仮撚装置内における糸道の概略図
【図5】解撚張力T2が低い場合の解撚ポイントを示す図
【図6】解撚張力T2が高い場合の解撚ポイントを示す図
【図7】図2に類似する図であって、本発明の変形例を示す図
【図8】図2に類似する図であって、本発明の他の変形例を示す図
【図9】糸の糸道の屈曲の様子をイメージした図
【符号の説明】
【0055】
1 基準ベルト
2 可動ベルト
10 駆動プーリ
11 従動プーリ
49 フリクションディスク
50 解撚ディスク
50a 外周縁
111 ベルト式仮撚装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を供給する給糸部と、この給糸部から供給された糸を仮撚する加工部と、この加工部で仮撚された上記の糸を巻き取ってパッケージとする巻取部と、を含む錘を複数備えて構成される仮撚加工機であって、
前記加工部は上記糸を仮撚するための仮撚装置を含み、
この仮撚装置は、一対の無端ベルトを相互に交差及び圧接させた状態で走行させることで糸をニップしながら撚りを付与するように構成され、
前記無端ベルトが巻き掛けられるプーリには、該プーリと共回ると共に上記糸の張力を利用した摩擦接触によって上記糸を加撚する、加撚部が設けられる、
ことを特徴とする、仮撚加工機。
【請求項2】
請求項1に記載の仮撚加工機であって、
前記加撚部の摩擦接触部の外径は、前記プーリの外径に前記無端ベルトの厚みを加えて得られる値以上に設定される、
ことを特徴とする、仮撚加工機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の仮撚加工機であって、
前記加撚部には、外周縁を有する解撚部が設けられ、
この解撚部は、前記加撚部と共回りするように構成され、
この解撚部の外周縁の外径は、前記加撚部の摩擦接触部の外径以上に設定され、
前記加撚部よりも下流側の前記糸の糸道は、前記解撚部の外周縁との接触により屈曲される、
ことを特徴とする、仮撚加工機。
【請求項4】
請求項3に記載の仮撚加工機であって、
前記解撚部の外周縁における前記糸の糸道の屈曲を強めるように前記糸をガイドする屈曲ガイドが設けられる、
ことを特徴とする、仮撚加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−65355(P2010−65355A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234267(P2008−234267)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】