説明

仮撚加工糸およびそれを用いた織編物

【課題】常圧カチオン可染性ポリエステル繊維は、適度な膨らみとスチレッチ性を有し、優れた低環境負荷性能、常圧カチオン染色性、耐光堅牢性を有するポリエステル仮撚加工糸およびそれからなる織編物、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分およびアジピン酸成分を共重合成分として用いて重合されたポリエステルに、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3ppm以上、10ppm以下の割合で含有されてなり、糸表面温度が170℃時の動摩擦係数(糸−鏡面)μdが0.5以上、2.0以下、伸縮復元率(CR)が10%以上、30%以下、乾熱収縮率(TR)が1%以上、10%以下であることを特徴とする常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルを主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分及びアジピン酸成分を含むポリエステルを用いた常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維の高機能化が望まれており、例えばポリエステル組成を改質することにより染色性を向上させる手法が多く検討されてきた。
例えば、アンチモン触媒の存在下、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを2〜3モル%、アジピン酸のエチレングリコールジエステルを3〜6モル%共重合させることにより、常圧可染性や塩基染料染色性に優れたポリエステルの製造方法が知られている(特許文献1)。
また、アンチモン触媒の存在下、金属スルホネート基含有のエステル形成成分を0.4〜1.8モル%、アジピン酸成分を3〜17モル%共重合させることにより、染色性、堅牢性に優れたポリエステルの製造方法が提案されている(特許文献2、3)。
また、アンチモン触媒の存在下、脂肪族ジカルボン酸成分を10〜20モル%共重合させることで、常圧で分散染料により染色可能なポリエステル繊維の製造方法が知られている(特許文献4)。
しかしながらこれらの方法はアンチモン触媒を用いており、アンチモンに起因した紡糸時の口金汚れが見られ、糸切れが多発するなど操業性が安定しないばかりか、環境汚染への影響が懸念される。
【0003】
また、チタン化合物とともに特定のリン化合物を添加することで、ポリエステルの耐熱性や色調を向上させる検討がなされてきた。例えば、チタン化合物を用いた場合に、色調の低下が改善されたポリエステルに関する方法が明示されている(特許文献5)。
しかしながら、この文献にはイソフタル酸等の共重合ポリエステルの例示があるのみであり、また、リン化合物として5価のリン化合物に関する例示があるのみで、チタン化合物を用いた際のポリエステルの色調や耐熱性改善に関する課題提言はみられない。
さらに、捲縮付与の手段として、特許文献6において、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸成分を含むポリエステルに130℃未満の仮撚温度にて仮撚加工する方法が開示されている。しかし、この方法では、仮撚温度、撚り数が低いため、得られた仮撚糸には捲縮が足りず、最終製品の品位が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−34022
【特許文献2】特開平8−269820
【特許文献3】特開平11−93020
【特許文献4】特開平10−204723
【特許文献5】特開2002−179781
【特許文献6】登録4263561
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、適度な膨らみとストレッチ性を有し、かつ環境負荷が軽減された常圧におけるカチオン染色性や耐光堅牢度に優れた仮撚加工糸およびそれを用いた織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題を解決すべく、以下の構成を有する。
(1) 5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分およびアジピン酸成分を共重合成分として用いて重合されたポリエステルに、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3ppm以上、10ppm以下の割合で含有されてなり、糸表面温度が170℃時の動摩擦係数(糸−鏡面)μdが0.5以上、2.0以下、伸縮復元率(CR)が10%以上、30%以下、乾熱収縮率(TR)が1%以上、10%以下であることを特徴とする常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸。
(2) 5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分およびアジピン酸成分を共重合成分として用いて重合されたポリエステルに、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3ppm以上、10ppm以下含むポリエステルマルチフィラメントを用いた仮撚加工糸の製造方法であって、仮撚加工時の加撚部ヒータの出口における糸条温度A(℃)が次式(1)を満たし、かつ仮撚数Bが次式(2)を満たすことを特徴とする上記(1)に記載の常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸の製造方法。
【0007】
(1)130≦ A ≦190 ここで、Aは温度(℃)を指す。
【0008】
(2)28000/D1/2≦ B ≦ 33000/D1/2
ここで、Bは撚り数(T/m)、Dは糸の繊度(デシテックス)を指す。
(3) 上記(1)に記載のポリエステル仮撚加工糸を用いた織編物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル繊維は、適度な膨らみとスチレッチ性を有し、優れた低環境負荷性能、常圧カチオン染色性、耐光堅牢性を有するポリエステル仮撚加工糸およびそれからなる織編物、並びにその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で用いる延伸同時仮撚加工機の一実施態様を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の仮撚加工糸およびそれを用いた織編物を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0012】
本発明における常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸は、共重合成分として5−ナトリウムイソフタル酸成分と、アジピン酸成分を含有し、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有していることが必要である。
【0013】
5−ナトリウムイソフタル酸成分は、カチオン染料に対する染着座席を有する。良好なカチオン可染性を付与するために、全酸成分中に2.0〜5.5モル%含むことが好ましい。さらに好ましくは2.0〜3.0モル%である。2.0モル%より少ないと、得られるポリエステルの色調や耐熱性は良好であり、そのポリエステルを用いた繊維のタフネスおよび耐光堅牢度は良好であるが、カチオン染料染色性が不足する。5.5モル%より多いと、得られるポリエステルの耐熱性が劣り、そのポリエステルを用いた繊維のタフネスや色調が劣ったり、耐光堅牢度も悪くなる傾向がある。
【0014】
アジピン酸成分はポリエチレンテレフタレートの結晶性に乱れをもたらし、非結晶部の配向を低下させることにより、繊維内部への染料の浸透を容易にし、常圧での染色性を向上させる。
全酸性分中にアジピン酸成分を3.0〜6.0モル%含むことが常圧染色性を有するために好ましい。さらに好ましくは4.0〜5.5モル%である。3.0モル%より少ないと、得られるポリエステルの色調や耐熱性は良好であり、そのポリエステルを用いた繊維は耐光堅牢度に優れるが、そのポリエステルを用いた繊維のカチオン染料染色性が不足する場合がある。6.0モル%より多いと得られるポリエステルの耐熱性が劣るため、そのポリエステルを用いた繊維はタフネスや色調が劣り、耐光堅牢度も悪くなる傾向がある。
【0015】
アジピン酸成分としては、アジピン酸もしくはアジピン酸のエステル形成誘導体が用いられる。例えば、アジピン酸形成誘導体としては、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル、エチレングリコールエステル等、公知のアジピン酸形成誘導体を用いることができる。原料調達が容易という点から、アジピン酸やアジピン酸ジメチルが好ましい。
【0016】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸は、イソフタル酸成分およびアジピン酸成分を共重合成分として含むため、非晶部の配向が小さい。そのため、通常の加撚−熱セット−解撚といった連続仮撚加工法では、糸がヒータ部を通過し、加熱される際に、摩擦によりヒータから糸が弾ける現象が見られ、いわゆる「ヒータジャンピング」の原因となり、糸切れ、糸の熱履歴にバラツキが生じる、品位ムラが生じるという問題を生じる。
これに対し、本発明では仮撚加工での動摩擦係数を軽減させるために、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有する。さらに好ましくは4〜8ppmである。3ppmより少ないと、重合反応活性が不足し反応が遅延してしまい、また非晶部の配向を増大させる効果が十分に得られないため、糸の動摩擦係数が大きくなり、仮撚では「ヒータジャンピング」が発生し、安定した仮撚加工糸を得ることができない。一方、10ppmより多く含有させると、非晶部の配向を増加させ、糸の動摩擦係数を減少させる効果があるが、重合反応の活性は良好になり過ぎて、高活性のため、得られるポリエステルの色調や耐熱性が悪化し、そのポリエステルを用いた繊維も黄味となるばかりか、タフネスも劣る。
【0017】
本発明では、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分およびアジピン酸成分が共重合されたポリエステルに、可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3〜10ppm含有させることで、糸表面温度が170℃時の動摩擦係数(糸−鏡面)μdが0.5以上、2.0以下のポリエステルマルチフィラメントが得られた。
【0018】
動摩擦係数μdは0.5未満では、摩擦が低いため、十分の加撚張力が得られず、目標となる捲縮が得られない。一方、2.0を超えた場合は、仮撚加工での「ヒータジャンピング」が発生してしまい、安定した仮撚加工糸を得ることができない。
【0019】
本発明のポリエステルに可溶なチタン化合物としては、多価アルコール、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、含窒素カルボン酸から選ばれる少なくとも1種のチタン錯体が好ましく用いられ、得られるポリエステルの色調や耐熱性の観点から好ましい。
【0020】
多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、マンニトール等が挙げられる。多価カルボン酸として、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。含窒素カルボン酸として、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等が挙げられる。これらのチタン化合物は単独で用いても、併用して用いても良い。なお本発明でいうチタン化合物として、繊維等で一般的に使用される酸化チタンはポリエステルに可溶ではないため除外される。
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸は、伸縮復元率(CR)が10〜30%、乾熱収縮率(TR)が1〜5%を満たすことが重要である。
本発明の仮撚加工糸は後述する測定方法に基づく伸縮復元率(CR)が10〜30%である。伸縮復元率CR(%)が10%以上の仮撚糸にすることで、織編物にしたときに高い嵩高性およびストレッチ性を付与することができる。一方、伸縮復元率CR(%)が30%を越えると、織物にした時に風合いが粗硬化するとともに、表面品位が悪化する。したがって、織物にしたときに高品位の布帛表面としつつ、仮撚糸としての嵩高性やストレッチ性を付与するためには、伸縮復元率CR(%)を10〜30%とする。
本発明における伸縮復元率CR(%)とは、以下の測定方法で測定した値をいう。
すなわち、捲縮糸をカセ取りし、90℃水中で20分間フリー処理し、24時間風乾する。次に、水中(25℃)で初荷重0.0018cN/dtex(2mgf/d)をかけ、2分間後のカセ長L1を測定する。次に、水中(25℃)で上記初荷重0.0018cN/dtexを除き、0.09cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重に交換し、2分後のかせ長L0を測定する。そして下式によりCR(%)を計算する。
CR(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
本発明の仮撚加工糸は、後述する測定方法に基づく乾熱収縮率(TR)が1〜10%である。1〜10%を満たすことで、ソフトで精緻感ある織編物を得ることができる。TR<1%では織編物に精緻感を付与することができず、また、TR>10%では、収縮が強すぎて、織編物としての粗硬感が強くなってしまう。
本発明における乾熱収縮率(TR)とは、以下の測定方法で測定した値を言う。
試料をカセ取りし、荷重1.67mgf/d下で長さを測定し原長L2とする。次に、L2を測定したカセに荷重1.67mgf/dを付けた状態で150℃の雰囲気中で10分間処理し、10分間風乾した後、荷重100mgf/d下でカセ長を測定しL3とする。そして、以下の式により、150℃乾熱収縮率TR(%)を計算する。
乾熱収縮率TR(%)=[(L3−L2)/L3]×100(%)
本発明における常圧カチオン可染ポリエステル仮撚加工糸を構成する繊維の断面形状は、丸断面の他、扁平、三角、中空などの異形断面であってもよい。仮撚時の摩擦係数を減らす観点から、丸断面が好ましい。
次に、仮撚加工に用いられる好ましい装置を図1に示す。図1に示す装置には必要に応じて各種ガイド、張力制御装置、流体処理装置、給油装置などを配置すればよい。
1は原糸パッケージ、2はフィードローラー、3は糸ガイド、4は第1ヒータ(加撚部)、5は冷却プレート、6は摩擦仮撚型ベルトユニット、7はフィードローラー、8は第2ヒータ、9はデリベリローラー、10は巻き取りローラー、11は仮撚加工糸パッケージを示す。
本発明の仮撚糸の製造方法は、加撚部ヒータ温度A(℃)と仮撚数B(T/m)が式(1)、(2)を満たす製造方法であり、これにより本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸、すなわち、伸縮復元率が10〜30%、乾熱収縮率が1〜10%である仮撚加工糸を製造することができる。
【0021】
(1)130≦ A ≦190 ここで、Aは温度(℃)を指す。
【0022】
(2)28000/D1/2≦ B ≦ 33000/D1/2
ここで、Bは撚り数(T/m)、Dは糸の繊度(デシテックス)を指す。
仮撚温度、即ち加撚部ヒータ温度は130℃〜190℃の範囲である。加撚部ヒータの温度を130℃よりも低い場合には、ヒータ制御にバラツキが出る一方、捲縮が十分に付与されない問題がある。また、190℃より高い場合には仮撚糸の強度が極端に低下し、また、加撚張力も低下し、生産性が低下するので好ましくない。よって、加撚部ヒータ温度は、140℃〜180℃がより好ましい。なお、ヒータ出口における糸条温度は、ヒータ出口直後の糸条に非接触温度計を用いて測定した値をいう。
仮撚係数Bについて、28000/D1/2以上で仮撚することにより高い伸縮を持つ加工糸となる。仮撚係数Bが28000/D1/2を下回る場合には、糸条に十分な捲縮を付与することができず、5%以上の伸縮復元率が得られないので好ましくない。一方、33000/D1/2より高い場合には、カチオン糸特有の高摩擦が顕在化され、ヒータから糸が飛び出し、仮撚加工が不安定となってしまうため、好ましくない。
仮撚加工方法としては、一般に用いられるピンタイプ、フリクションディスクタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等、いかなる方法によるものでもよい。この中で、高速、低コストの加工性の観点から、ニップベルトのタイプが最も好ましい。さらに、ヒータは接触式に使用する場合、特に指定がないが、カチオン糸の摩擦を抑えて、仮撚時の「ヒータジャンピング」を防止する観点から、深い溝を選択する方が良好である。具体的にはヒータ溝の深さは5mm以上であれば、撚り数33000/D1/2以下とすることができる。
また、加撚部ヒータが非接触式であると、擦過抵抗による糸切れを抑制できるため、より好ましい。非接触ヒータを加撚部ヒータに用いた場合は、ヒータ温度は150〜350℃であることが好ましい。加撚部ヒータ温度を150℃以上にすることで、本発明の捲縮糸の捲縮特性(CR)と乾熱収縮率(TR)を同時に満足させることができる。一方350℃以下にすることで、糸切れせずに安定して仮撚加工を行うことができる。よって、非接触式の場合ヒータ温度は160〜330℃がより好ましく、170〜300℃であればさらに好ましい。
また、仮撚糸のトルクを軽減し、次の高次工程の通過性を向上させるため、加撚部ヒータによる1次仮撚を施した後、2次ヒータによる熱セットを行うことも好ましい。2月ヒータの温度設定は、1次ヒータ温度より20〜60℃低く設定するとよい。
また、本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸は布帛として好ましく用いられ、布帛としては、織物、編物および不織布等の様々な繊維構造体をとることができる。また他の原料を用いた繊維を用いても良い。例えば、絹や綿等の天然繊維やレーヨンやアセテート等の再生繊維と混繊したり、交織や交編したものが挙げられる。また、シャツやブルゾンやパンツのような衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット等のインテリア用途や車両内装用途、産業資材等にも好適に用いることができる。
【0023】
織編物としては織組織や編組織になんら制限は無く、織物の場合には平組織、斜文組織、朱子組織やそれらの応用組織、編物の場合には平編み、リブ編み、パール編み等の横編組織や、トリコット編み、アトラス編みなどの経編等、通常用いられる織編組織を採用することができ、その使用用途に関してもなんら制限されるものではない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.伸縮復元率(CR)
捲縮糸をカセ取りし、90℃水中で20分間フリー処理し、24時間風乾した。次に、室温(25℃)の水中で初荷重0.0018cN/dtex(2mgf/d)をかけ、2分間後のカセ長L1を測定した。次に、室温(25℃)の水中で上記初荷重0.0018cN/dtexを除き、0.09cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重に交換し、2分後のかせ長L0を測定した。
そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
B.140℃乾熱収縮率(TR)
乾熱収縮率(%)=[(L2−L3)/L2]×100(%)
L2:試料をカセ取りし、荷重0.09cN/dtex下で測定した原長。
L3:L2を測定したカセを荷重フリーの状態で140℃の雰囲気中で30分間処理し、24時間風乾した後、荷重0.09cN/dtex下で測定したカセ長。
C.強度および伸度
JIS L1013の化学繊維フィラメント糸試験方法(1998年)に準じて測定した。なお、つかみ間隔は200mm、引張速度は200mm/分として荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度とした。なお、測定時の温度は室温下(25℃)で実施した。
【0025】
D.ヨリ数
浅野機器(株)製の検撚機を用いて測定した。
【0026】
E.動摩擦係数
英光産業(株)製メータを用い、糸を熱プレート或いは熱ピンにて170℃まで余熱した後、試料を55m/分を走行させ、金属(鏡面)との動摩擦係数を算出した。
動摩擦係数(μ): μ=(1/π)×log(T/T
ここで、TとTは金属ピンを通過させる時の張力であり、Tはピンに入る前の張力で(通常:15gに固定)、Tは55m/minの速度でピンを通過させたときの張力である。
F.風合い(精緻感)の評価
実施例、比較例に記載の方法で得た織物の精緻感を触感(きめの細かさ)と見た目(表面のきれいさ)により官能評価した。
この際、従来品である比較例3の織物を標準として、以下の基準で4段階評価を行ない、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:極めて精緻感がある、
○ :やや精緻感がある、
△ :標準織物と同等の風合い、
× :精緻感がない(きめが粗く、表面がきたない)。
【0027】
G.風合い(ソフト感)の評価
実施例、比較例に記載の方法で得た織物のソフトさを触感により官能評価した。この際、従来品である比較例3の織物を標準として、以下の基準で4段階評価を行ない、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:極めてソフトな風合い、
○ :ややソフトな風合い、
△ :標準織物と同等の風合い、
× :堅い風合い。
【0028】
H.風合い(発色性)の評価
実施例、比較例に記載の方法で得た織物の発色性を、見た目により官能評価した。この際、従来品である比較例3の織物を標準として、以下の基準で4段階評価を行ない、10人のパネラーの評価結果を平均して判定した。
○○:極めて発色性が良い、
○ :やや発色性が良い、
△ :標準織物と同等の発色性、
× :発色性が悪い。
実施例1
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル(以下、SIPMと称す)成分の酸性分における共重合量を2.4モル%、アジピン酸ジメチル(以下、DMAと称す)成分の(3)成分における共重合量を5.1モル%としたポリエステル、Ti−乳酸触媒をチタン元素換算で5ppm、ポリエチレンテレフタレートポリマーのチップを、メルターにて溶融した後、計量した丸型紡糸口金から吐出し、2600m/分の速度で巻き取り、90dtex、48フィラメントの丸断面の常圧カチオン可染糸を得た。その糸の動摩擦係数は前述した方法で測定した結果、1.1であった。
続いて、図1に示すベルトニップに備えた延伸同時仮撚機を用いて、加工速度400m/分、仮撚延伸倍率1.6、撚数3000T/m、第1ヒータ温度170℃、引き続き第2ヒータ温度120℃、リセット率4.6%にて弛緩熱処理した後、デリベリローラー出口のOF率を4.6%として56デシテックス、48フィラメントの捲縮糸を巻き取った。糸掛け性、工程通過性は良好であり、糸切れは発生しなかった。
また、得られた捲縮糸の特性について評価した結果を表1に示す。捲縮特性を示す伸縮復元率(CR)は25%、乾熱収縮率(TR)4%で良好な仮撚加工糸(捲縮糸)56T−48が得られた。
得られた仮撚加工糸を、経糸および緯糸に使用してタテ密度145(本/2.54cm)、ヨコ密度95(本/2.54cm)の平織物を製織し、95℃の熱水で精練した後、160℃で乾熱セットを行い、次いでカチオン染料Kayacryl(日本化薬(株)製)を用いて、湿熱95℃で染色、乾熱150℃で仕上げセットを行った。
得られた織物特性について評価した結果を表1に示す。実施例1では得られた織物は精緻感に優れ、ソフト感、発色性が良好なものであった。
実施例2
Ti−乳酸の含有量以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。実施例2で得られた織物は精緻感に優れ、ソフト感、発色性が良好なものであった。
実施例3
Ti−乳酸の含有量以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。実施例3で得られた織物は精緻感に優れ、ソフト感、発色性が良好なものであった。
実施例4
仮撚温度(1H)以外F実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。実施例4で得られた加工糸の捲縮は若干低いが、得られた織物は、精緻感、ソフト感、発色性において、良好で遜色しないレベルであった。
実施例5
仮撚温度(1H)以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。実施例5で得られた加工糸の捲縮は若干高いが、得られた織物は、精緻感に優れ、ソフト感、発色性が良好で遜色しないレベルであった。
実施例6
仮撚数(T/m)以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表1に示す。実施例5で得られた加工糸の捲縮は若干高いが、得られた織物は、精緻感に優れ、ソフト感、発色性が良好で遜色しないレベルであった。
比較例1
Ti−乳酸の含有量以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表2に示す。Ti−乳酸の含有量は2PPMと少ないため、動摩擦係数(μd)は2.5と高くなり、仮撚加工時のヒータジャンピングが発生し、糸切れもあり加工性は悪い結果となった。また、得られた織物は、収縮が強すぎて、硬い風合いとなった。
比較例2
Ti−乳酸の含有量以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表2に示す。Ti−乳酸の含有量は11PPMと多いため、動摩擦係数(μd)は0.3と低い結果となったが、仮撚加工時の張力が出ずに、捲縮が低い結果であった。そのため、得られた織物はきめが粗く、精緻感に欠けたものであった。
比較例3
仮撚温度(1H)以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。加撚部ヒータの設定温度は120℃と低いため、仮撚糸物性では捲縮復元率(CR)、乾熱収縮率とも低い結果であった。そのため、得られた織物はきめが粗く、精緻感に欠けたものであった。
比較例4
仮撚温度(1H)以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。加撚部ヒータの設定温度は200℃と高いため、仮撚途中に仮撚糸の強度が低下し、糸切れもあり加工性は悪い結果となった。一方、仮撚糸物性では捲縮復元率(CR)、乾熱収縮率(TR)とも高い結果であった。そのため、得られた織物は収縮が強すぎて、硬い風合いとなった。
比較例5
撚数(T/m)以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表2に示す。仮撚数が3000T/mと低いため、加工糸の捲縮が6%と低い値となり、さらに得られた織物はきめが粗く、精緻感に欠けたものであった。
比較例6
撚数(T/m)以外は実施例1と同様に紡糸、仮撚加工、製織加工を行った。仮撚糸物性と織物について評価した結果を表2に示す。仮撚数が4900T/mと高いため、仮撚加工時のヒータジャンピングが発生し、糸切れもあり加工性は悪い結果となった。そのため、得られた織物は、収縮が強すぎて、硬い風合いとなった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【符号の説明】
【0031】
1 :原糸パッケージ
2 :フィードローラー
3 :糸ガイド
4 :第1ヒータ(加撚部)
5 :冷却プレート
6 :摩擦仮撚型ベルトユニット
7 :フィードローラー
8 :第2ヒータ
9 :デリベリローラー
10:巻き取りローラー
11:仮撚加工糸パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分およびアジピン酸成分を共重合成分として用いて重合されたポリエステルに、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3ppm以上、10ppm以下の割合で含有されてなり、糸表面温度が170℃時の動摩擦係数(糸−鏡面)μdが0.5以上、2.0以下、伸縮復元率(CR)が10%以上、30%以下、乾熱収縮率(TR)が1%以上、10%以下であることを特徴とする常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸。
【請求項2】
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル成分およびアジピン酸成分を共重合成分として用いて重合されたポリエステルに、ポリエステルに可溶なチタン化合物をチタン元素換算で3ppm以上、10ppm以下含むポリエステルマルチフィラメントを用いた仮撚加工糸の製造方法であって、仮撚加工時の加撚部ヒータの出口における糸条温度A(℃)が次式(1)を満たし、かつ仮撚数Bが次式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の常圧カチオン可染性ポリエステル仮撚加工糸の製造方法。
(1)130≦ A ≦190 ここで、Aは温度(℃)を指す。
(2)28000/D1/2≦ B ≦ 33000/D1/2
ここで、Bは撚り数(T/m)、Dは糸の繊度(デシテックス)を指す。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル仮撚加工糸を用いた織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40422(P2013−40422A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178850(P2011−178850)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】