説明

仮設トイレ

【課題】上下水道が利用できず、かつ、頻繁なメンテナンスが出来ない環境にも、容易に運搬して運用することができる水洗式のコンパクトな仮設トイレを提供する。
【解決手段】便器と、前記便器に供給する洗浄水を蓄える洗浄水タンクと、前記便器から排出された汚水を蓄える汚水タンクと、汚水タンク内で汚水が気化した水蒸気を含む気体から水分を分離する蒸水分離器と、汚水タンクの上方から蒸水分離器へ気体を誘導する排気管と、蒸水分離器で分離された水分を洗浄水タンクに供給する蒸留水用配管とを有する仮設トイレとする。上記汚水タンクのみで、汚水の貯留と、微生物による汚物の分解と、汚水の気化とを行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外部からの水の追加供給無しに運用できる水洗トイレに関する。
【背景技術】
【0002】
人間が存在する場所を衛生的に保つためには必ずトイレが必要である。また、トイレは、人間の存在密度が高くなり、なおかつ文化的な生活を維持しようとすると、単純な自然界への投棄では済まなくなり、水洗トイレが必要不可欠なものとなる。しかし、都市部から離れた地域では、下水道を通すための経済的負担が大きいため、微生物により汚物を分解する浄化槽が一般的に用いられている。さらに、上水道を引くことが難しい場所でも水洗トイレを運用するため、汚水を洗浄水として再利用する方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、便器から集めた糞尿を破砕する流動式便槽と、その破砕した糞尿を蒸発させる蒸発釜を有し、そこから送られてくる蒸気の脱臭を行う二つの脱臭管と濾過槽とを備え、蒸気を濾過槽に通して水分を回収する加熱蒸発式トイレ装置が記載されている。流動式便槽は糞尿を大規模に回転させて柔らかくし、蒸発釜では供給された釜を空にするまで加熱が行われる。細かく砕かれた糞尿は加熱により、残留物が残らないようになる(特許文献1[0015])。また、多段階の脱臭機構を持ち、悪臭に悩まされることが無いようになっている。
【0004】
特許文献2には、汚水を生物分解する生物分解槽と、その処理水を固液分離する濾過槽と、濾過水を脱色処理する脱色槽とを有し、脱色槽で処理した水を洗浄水として利用し、脱色槽からのオーバーフロー水を生物分解槽に戻す循環式水洗トイレシステムが記載されている。これは濾過水の一部を蒸発させる蒸発槽を有しており、蒸発した水は凝縮して生物分解槽に戻すものとなっている(特許文献2図1、2)。濾過槽、生物分解槽、蒸発槽にはそれぞれブロワーが直結され、各所に圧縮空気を供給する(引用文献2[0020]等)。また、生物分解槽から濾過槽への汲み上げには電気制御されたポンプが設けられており、上下のフロートスイッチに連動して細かく水位を調整できるようになっている(同[0021]〜[0024])。大規模なシステムであり、トイレに限らず、工業排水の処理にも用いることができる大規模なシステムである(同[0064])。
【0005】
また、特許文献3には、大用水洗装置と、小用水洗装置とを分けた仮設トイレユニットの例が記載されている。大用については土木現場などの仮設する現場では利用が少ないことに着目して、生物分解によって対処することで、くみ取りが必要な間隔を長くすることができる(特許文献3[0010])。一方、小用については、汚水を曝気する曝気槽と、曝気下汚水を加熱装置により加熱して蒸散させることで、尿中の蒸発乾固分が微量残るのみとし、年一回程度の点検整備だけで済むようにしている(同[0009])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−336195号公報
【特許文献2】特開2005−131536号公報
【特許文献3】特開2006−328786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のトイレシステムは、脱臭や脱色などを徹底できる代わりに装置が大規模になる。また、特許文献1に記載の装置は脱臭管と濾過槽の洗浄や交換等が必要不可欠であると考えられ、メンテナンスの頻度が高くなると考えられる。特許文献2のトイレシステムも、槽が複数に分かれて各所の水位を調整するものであり、構造上、トイレ本体よりもバックの処理部分の方が大きくなることが避けられない。またメンテナンスすべき箇所も多い。このため、どちらも設置及び管理には手間がかかり、気軽に設置できるものではない。従って、河川敷やキャンプ場、山中の遊歩道といった長期間に亘ってメンテナンスが行えずに放置せざるを得ないような環境での利用ではなく、管理容易な箇所への導入が想定された用途である。このため、仮設トイレへの適用は、保管、運搬、運用のいずれの点からも現実的ではない。また、土木建築現場など人が多くいるところであっても、重量とスペースの関係から、設置場所が制限されることとなる。
【0008】
一方、特許文献3に記載の仮設トイレは、大小の分離が前提であるため、想定される利用者の大半が男性のみである環境でしか発明の効果を発揮できず、多数の女性が利用する場合には、メンテナンスの必要頻度は上がってしまう。また、使用後の水は蒸発させてしまうため、洗浄水の外部補給が必須であり、上水道を引けないところでは使えないという問題があった。
【0009】
そこでこの発明は、上下水道が利用できず、かつ、頻繁なメンテナンスが出来ない環境にも、容易に運搬して運用することができる水洗式のコンパクトな仮設トイレを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、便器と、前記便器に供給する洗浄水を蓄える洗浄水タンクと、前記便器から排出された汚水を蓄えて微生物により汚物の分解を行う汚水タンクと、汚水タンク内で汚水が気化した水蒸気を含む気体から水分を分離する蒸水分離器と、汚水タンクの上方から蒸水分離器へ気体を誘導する排気管と、蒸水分離器で分離された水分を洗浄水タンクに供給する蒸留水用配管を有する仮設トイレにより、上記の課題を解決したものである。
【0011】
まず、便器の洗浄に用いた水を蒸発させて回収し再利用するにあたっては、蒸発させて回収することができる水分量は、汚水に含まれる水の80%程度で限界となる。それ以上の水分は、回収しきることができず、大気中へ放出せざるを得ない。これだけでは、この発明にかかる仮設トイレが保持する水分量は徐々に低下することになる。しかし、実は、人間がトイレを使用する行為そのものが、外部から仮設トイレの系への水分の供給の役目も果たしうる。この発明はこの点に着目し、一定以上の収率で水分を回収できれば、外部からの上水道や給水車による水の供給無しに運用可能とした点を、主な特徴の一つとしている。
【0012】
さらに、汚水を蓄えて生物による分解を行う生物分解槽としての役割と、汚水の水分を蒸発させる蒸発槽としての役割を、一つの汚水タンクで行った点も特徴である。これにより、特許文献1及び2と比べて装置を単純化することができ、障害が起こりにくく、かつ小さなものとすることができる。生物による分解を良好に進行させるには、汚水タンクが25℃以上であることが好ましい。このような分解を行わせる槽であれば、徐々に水分は蒸発していくので、別途蒸発のための釜や炉を設けて過剰な加熱を行わなくても、揮散する水分を十分に集めれば、蒸留工程としての利用が可能である。さらに、上記汚水タンクはそれだけの蒸発を行えるだけの量の水を常時蓄えておくことができるので、系全体の水量を十分に維持するための貯留槽としての役割も果たすことになる。
【0013】
なお、微生物による分解反応のため、自発的な熱も発生するが、汚水タンクを暖めるヒーターを取り付けてもよい。また、好気性細菌による分解反応を勧めるとともに、汚水中の塊を滞留させずに攪拌するために、汚水タンクの底部に気体を送り込んで曝気させてもよい。
【0014】
また、25〜30℃程度の環境、特に28〜30℃程度の環境で人間の糞尿を適切に微生物分解すると、実際には臭いはそれほど強いものとはならない。また、汚水タンクから気化した水蒸気を含む気体を一旦浄水分離器でトラップし、水分を分離した残りの気体が外気へ放出されることになるので、直接外気へ拡散させる特許文献3の仮設トイレよりも生じる臭いは大幅に削減されたものとなる。さらに、このような仮設トイレを設置する箇所は、恒常的に人間が生活する場所ではないため、この発明にかかる仮設トイレで生じるわずかの臭気では周辺に籠もることもなく、微風があれば不快と感じる程度以上に蓄積されずに拡散されることがほとんどである。
【0015】
さらに、蒸水分離器や水洗のためのポンプ、ヒーター、曝気装置などの電力を賄うために、太陽電池を設けるとともに、太陽電池により発電した電力を蓄える電池を設けておくと、電線すら引く必要なく、完全に独立しての運用が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明にかかる仮設トイレにより、上下水道を引くことが難しい箇所にも、外部からの意図的な水の補給を必要とせずに、水洗トイレを設置することができる。設置後はメンテナンスの手間がほとんどかからずに済む。ただし、必要に応じて雨水や給水による水の補給を制限するものではなく、一時的に大量の使用があったときに供給してもよい。
【0017】
具体的には、河川敷、キャンプ場、山間部の山道、海の家といった、上下水道から外れやすい箇所で有用に用いることができる。また、土木建築の現場など、一般的に仮設トイレを設置している箇所であれば問題なく設置でき、水道を引くといった余分な手間をかけることなく運用でき、不要になった際には、道管を外すといった余分な手間をかけることなく、速やかに撤去、運搬することができるため、使用後に他の場所へ転用することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施形態にかかる仮設トイレの外観図
【図2】第一の実施形態にかかる仮設トイレの概念化した垂直断面図
【図3】第一の実施形態にかかる仮設トイレのタンク付近の水平断面図
【図4】第一の実施形態にかかる仮設トイレのフロー図
【図5】第一の実施形態で用いる便器体の上方から見た図
【図6】第一の実施形態にかかる仮設トイレの配線図
【図7】第二の実施形態にかかる仮設トイレの概念化した垂直断面図
【図8】第二の実施形態にかかる仮設トイレの水平断面図
【図9】第二の実施形態にかかる仮設トイレのフロー図
【図10】雨水貯留槽を有する実施形態の概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明について、具体的な実施形態を示して詳細に説明する。
まず、第一の実施形態にかかる仮設トイレについて、図1〜6を用いて説明する。
図1は、第一の実施形態にかかる仮設トイレのトイレユニット100の外観図である。利用者が入るトイレブース101と、制御機械等が入る制御ブース102とに分かれており、基部103はトイレブース101の前面に突き出ており、階段状となって登れるようになっている。登ったところには扉105が設けてあり、図示しないが扉105を開けてところに踊り場を設けた上で、後述する洗浄水タンクを含む便器体104が床面に取り付けてある。
【0020】
図2は第一の実施形態にかかる仮設トイレのトイレユニット100の垂直断面図であり、図3は一部を模式化した水平断面図である。また、図4は、このトイレにおける水の流れと構造物の関係を示す。これらにおける水の流れを順に説明する。
【0021】
まず、トイレ利用後に便器18を洗浄する洗浄水は、中央上部に便器18を据えた便器体104の中に設けられた洗浄水タンク11に蓄えられたものである。一方、便器体104の右手前には、フットポンプ室12が設けられ、洗浄水タンク11とは完全に仕切られている。この中にはフットポンプ13が設けられ、便器体104の手前に向かってこのフットポンプ13を作動させるためのフットペダルスイッチ14が突き出ている。このフットペダルスイッチ14を押し込むと、フットポンプ室12から洗浄水タンク11へ向かって伸びるポンプ吸水管15を通じて、フットポンプ13が洗浄水を吸い上げ、ポンプ送水管16へと送り込む。送り込まれた洗浄水は、便器洗浄ノズル17から、便器18内に射出される。便器洗浄ノズル17の射出角度は、射出された洗浄水がすぐに落下するのではなく、便器上を循環して、少量の水で便器全体を洗浄できるように調整してある。この配置を図5により示す。図5は便器体104を上方から見た図である。
【0022】
また、フットペダルスイッチ14の押し込みにより、洗浄水の射出とともに、便器18の底部に設けた便器底蓋21が開く。糞尿とともに便器18内を洗浄した洗浄水が便器18の真下に設けられた汚物受タンク22に落下する。この汚物受タンク22は上記の洗浄水タンク11と区切られて設けられている。図2中のAは便器18から落ちてきた汚水である。落下後は便器底蓋21が閉まり、臭いが汚物受タンク22から上昇していくことを防ぐ。一方、汚水Aは汚水排水管23を通じて、基部103内に設けた汚水タンク24へと落下する。このため、汚物受タンク22における汚水Aの残留は少ない。
【0023】
この汚水タンク24内で、汚水Bは含有する微生物によって有機物の分解を行うとともに、徐々に水分を蒸発させていく。これにより生じた気化蒸気Cを含む空気は、汚水タンク24から上方へ延びる排気管31を通じて、制御ブース102内に設けたエアー加圧ポンプ32に供給される。エアー加圧ポンプ32は加圧により飽和水蒸気量を低下させて、大気に含まれている気化蒸気Cを結露させる。このように結露した大気から、蒸水分離器33で水分を分離する。分離された水分は、蒸水用配管34を通じて、洗浄水タンク11へ戻り、洗浄水Dとして再度利用可能となる。
【0024】
一方、気化蒸気Cを分離して水分の大半を失った乾燥排気Eは、排気筒35を通じてトイレユニット100の上方に設けた排気ファン36により外部へ排気される。
【0025】
上記の蒸水分離器33の具体的な装置としては、一般的な除湿装置、エアーコンプレッサーによる冷却方式、サイクロン方式のドライセパレーターなどの類を用いることができる。また、シリカゲルなどの水分を吸着可能な多孔質粒子を有し、水分を吸着するとともに、加熱により吸着した水分を別途放出させるものが挙げられるが、特にこれに限定されるものではなく、水分を空気と分離して取り出せるものであれば実用可能である。ただし、この発明の特徴上、比較的コンパクトで、消費電力の少ないものが好ましい。
【0026】
この仮設トイレが有する水分の大半は上記の汚水タンク24に集まっている。この汚水タンク24は基部103のほぼ全体を占めており、大気と触れ合う水面面積を十分に広くしたものとなっている。このような構造とすることにより、汚水タンク24は、過度に蒸発を促進させる加熱程度の加熱を行わなくても、自然気化によりある程度の量の水分が蒸発できるようになっている。同時に、ここに大量の水を集めていることで、微生物による分解を行うための容積も十分に確保することができる。このため、この汚水タンク24一つで、微生物分解槽と蒸発槽と水分貯留槽とを兼ねた働きをすることができ、この発明にかかる仮設トイレの体積圧縮を実現し、仮設トイレとして有用なものとしている。
【0027】
また、ほとんどの仮設トイレは、昼間又は夜間の一方に主として使用され、他方の比較的使用されない時間帯が存在する。繁用時間帯に使用されたことで汚水タンク24に蓄積された分の水分は、非繁用時間帯での蒸発と蒸水分離によって、洗浄水タンク11に戻され、昼間の使用に備えることができる。
【0028】
さらに、汚水タンク24は、微生物による有機物の分解を促進させるための機構を有している。その機構を図6とともに説明する。
まず、制御ブース102にブロアーポンプ41を設けてある。このブロアーポンプ41から、汚水タンク24の底面全体をまんべんなくカバーするように配されたブロアー散気管42へ、曝気用の空気が供給される。ブロアー散気管42は、下方にいくつもの噴出孔を有しており、汚水タンク24の底部から汚水を攪拌するように曝気を行う。これにより、汚水B中に酸素を供給するとともに、底部に有機固形物が残留、固化することを防いで、有機固形物を細かくして、有機固形物の分解を早めることができる。
【0029】
また、汚水タンク24には、汚水B内に漬かり、汚水B全体をまんべんなく加熱できるように分岐したヒーター43が配されている。このヒーター43により加熱することで、気温が低下して微生物の活動が低下する冬場であっても、現実的な処理時間で有機物の分解を進行させることができる。また、このヒーター43によって加えた熱が外部に拡散しないように、汚水タンク24はその内壁又は壁材内部に設けた断熱材44で覆われている。
【0030】
ただし、過熱しすぎると微生物の分解をかえって阻害してしまい、また、汚水Bの蒸発が過度に進行して蒸水分離器33の処理能力を超えてしまう場合がある。このため、ヒーター43による加熱は、条件値による電子制御可能な制御装置51によって制御される。具体的には、汚水タンク24の槽内で汚水Bに少なくとも一部が漬かるように取り付けた温度センサ53で汚水Bの温度を検知し、この検知した温度に合わせて、温調器52がヒーター43の出力を調整する。具体的には、温度センサ53で汚水Bの温度が25〜30℃程度に設定された加熱限界温度以上である場合には、ヒーター43による加熱を停止し、温度が設定値未満になったときに加熱を再開するようにする。これにより、一年中に亘ってほぼ一定の能力で有機物分解を行うことができ、この発明にかかる仮設トイレの運用を安定させることができる。特に、汚水Bの温度が28〜30℃であると、微生物分解が最も有効に作用し、臭いも少なくなるので望ましい。
【0031】
なお、上記制御装置51は、ブロアーポンプ41の出力をも制御する。恒常的に曝気を続けてもよいし、間欠的に曝気を行ってもよい。電力に余裕がある場合には、恒常的に曝気しておくと、汚水タンク24の底部に有機固形物が蓄積しにくく、微生物に酸素を安定して供給できるので好ましい。一方、電力を節約する場合には、何分間か曝気して、何分間か曝気を停止することを繰り返すようにする。
【0032】
この他に汚水タンク24内には、汚水Bの水位が一定以上になった時にスイッチを入れる、又はスイッチを切ることができるフロート水位センサ61が設けられている。このスイッチは、扉105の周囲の利用者がわかりやすい箇所に取り付けられた使用禁止表示器62と連動する。すなわち、汚水タンク24内の汚水Bが一定の高さ以上になり、収容能力の限界に達した場合には、使用禁止表示器62の表示を切り替えて、使用不可能である旨を示すようにする。具体的には、使用禁止である旨を電灯表示したり、使用可能である旨の電灯表示を消したり、使用「可」と「否」の表示を機械的に切り替えたり、「可」と「否」とを示す青と赤とのランプを交互に点灯させたりする。
【0033】
なお、汚水タンク24の背部には、上記の使用禁止表示器62の表示にも拘わらず利用が続けられて汚水タンク24がオーバーフローしうる状態に陥った際などに、外部に汚水Bを抜き出し可能とするためのオーバーフロー用ドレーン64が設けてある。
【0034】
一方、上記のフロート水位センサ61の検知する水位が下がりすぎた場合には、制御装51はその事態を検知して、ヒーター43,エアー加圧ポンプ32,蒸水分離機33の電源を落とす。これにより、蒸発による汚水タンク24が乾ききってしまうことを防ぎ、同時に、外部に水蒸気が排出されることを防ぐ。
【0035】
また、汚水タンク24の上方でトイレブース101の床面に、吸気口63が設けてある。これはエアー加圧ポンプ32により汚水タンク24内の空気が吸引される分、汚水タンク24内に空気を入れる口が必要となるために設けてある。この吸気口63の大きさは、エアー加圧ポンプ32による減圧によって、吸気口63から汚水タンク24内の臭気がトイレブース101内に上ってくることを抑制できる程度である。
【0036】
この仮設トイレが使用する電力は、図のように電線から供給されるものでもよいし、別途設けた太陽電池パネル(図示せず)により全て賄うものでもよい。太陽電池パネルを用いる場合、雨天時、夜間にもブロアーポンプ41やヒーター43等を稼働できるように、鉛蓄電池などからなる充電池(図示せず)を有している必要がある。このような充電池を用いる場合、残存電力量とヒーター43及びブロアーポンプ41の使用電力量とを対比し、充電量が不足すると判断される条件に合致した場合には一時的にブロアーポンプ41による曝気を停止するようにしてもよい。このような制御は上記の制御装置51により行う。
【0037】
次に、第二の実施形態について、図7〜9を用いて説明する。図7は第二の実施形態にかかる仮設トイレの概念化した垂直断面図である。図8は第二の実施形態にかかる仮設トイレの便器体104’付近の概念化した水平断面図である。図9は第二の実施形態にかかる仮設トイレのフロー図である。この実施形態は、第一の実施形態においてトイレユニット100の基部103に設けていた汚水タンク24を、拡張した制御ブース102に格納したものである。汚水タンク24の容積を大きくすることができるので、第一の実施形態に比べて許容処理量を多くすることができる。一方で、大きくしたとしても主に必要となるのはその汚水タンク24一つであり、蒸発槽と微生物分解槽と貯留槽とをそれぞれ容易するよりも十分にコンパクトなユニットとすることができる効果は失われない。
【0038】
この第二の実施形態における、第一の実施形態と比較した際の他の変更点は以下の通りである。まず、汚水タンク24が便器18の下方ではなく、汚水タンク24への注ぎ口が便器18の位置よりも上にあるため、排出された汚水を引き上げるための汚物送水ポンプ73を有する。これは便器18の中心に空けた便器落口74と直結する箇所に設けてある。すなわち、第一の実施形態において汚物受タンク22が設けてある箇所に、代わりに設けてある。この汚物送水ポンプ73を、十分に圧力を発揮させるように駆動させるのは、人力では困難であり、基本的に電力駆動である。
【0039】
その電力駆動である汚物送水ポンプ73は、常時駆動しているのではなく、便器18洗浄の際にのみ駆動する。このため、便器18に供給する洗浄水も、洗浄水タンク11内に設けた電気駆動の吸水用ポンプ72によってポンプ吸水管15へ供給される。
【0040】
上記の吸水用ポンプ72と汚物送水ポンプ73とは、トイレブース101内に設けられたスイッチボタン71への入力によって作動するようにする。すなわち、利用者がトイレ利用後にスイッチボタン71を押すと、吸水用ポンプ72が駆動して便器洗浄ノズル17から洗浄水が射出される。これにより便器18内に残っていた汚物を便器落口へ落下させる。またスイッチボタン71を押すのと同時、又は数秒程度の時間をおいて、汚物送水ポンプ73が駆動し、落下してきた汚水を汚水排水管23へ圧力をかけて送り込み、汚水タンク24に到達させる。このようなスイッチボタン71への入力による駆動の制御は、制御装置51により行うようにすると、装置を増やすことなく制御可能なので好ましい。
【0041】
また、蒸水分離器33にはコンプレッサー75が併設されている。これは、第一の実施形態に比べて汚水タンク24が大きく水面が広い分、供給される空気が含む水蒸気量も多いため、より徹底して圧力をかけ、十分に結露させて水分を回収することが望ましいためである。
【0042】
これら第二の実施形態においてそれぞれ設けられた構成要素は、第一の実施形態において用いてもよい。例えば、第一の実施形態においてコンプレッサー75を取り付けてもよい。また、スイッチボタン71により吸水用ポンプ72を駆動させる機構を第一の実施形態に取り付けてもよい。この場合、便器底蓋21はスイッチボタン71への入力に従って一時的に開くようにする。
【0043】
さらに、この発明は上記の実施形態にかかる仮設トイレを単体で運用するだけでなく、複数のユニットを連結して運用するものでもよい。また、便器18の数、すなわちトイレブース101の数と汚水タンク24の数とは必ずしも一致していなくてもよい。第一の実施形態にかかる仮設トイレを複数連結するにあたって、汚水タンク24を連結、共有するものとしてもよい。また、第二の実施形態にかかる仮設トイレでは、汚水タンク24の処理能力を高くできるので、(トイレブース101の数):(汚水タンク24の数)=1:1〜4:1程度での運用が可能である。これらの連結したトイレブース101と制御ブース102を、まとめて一つのトイレユニットとしてもよい。いずれの場合も、汚水タンク24のみで、蒸発槽、生物分解槽、貯留槽を兼ねて構造をコンパクトにしている本発明の効果を発揮しうる。
【0044】
また、上記のトイレユニットには、男子小便用便器を併設してもよい。この場合、複数の男子小便用便器を含むトイレブースを設けてもよい。さらに、図のような和式便器に限らず、洋式便器とすることに特に制限はない。
【0045】
便器における水の射出方法は、上記図の通りに限られるものではない。所謂軽水洗便器仕様である場合、一回の利用当たりの洗浄水の使用量は400〜500ccで済む。一方、より洗浄力の高いシャトレ水洗便器を用いた場合にはその倍程度の使用量となる。これにより、処理能力にも2倍程度の差が生じる。
【0046】
さらに、ヒーター43は、上記実施形態のように汚水タンク24の中に配する以外に、汚水タンク24の外周に配して内部を暖めるようにすることもできる。このように配することで、外部からのメンテナンスが容易になる。ただし、熱効率の点からは、ヒーター43を内部に配し、汚水タンク24に断熱材を仕込む方が効率がよい。
【0047】
さらにまた、この発明は必要に応じて外部からの水の補給を受けるようにしてもよい。特に、この発明にかかる仮設トイレを設置する環境で、上水道から分離されている場合であっても、屋外であれば雨水をそのまま給水に利用することができる。このような雨水を用いた供給機構を設けた、上記の第一の実施形態の応用例である概略図を図10に示す。なお、図10では図をわかりやすくするため、雨水に関連しない要素を一部省略している。
【0048】
トイレユニット100のトイレブース101の屋根に、上方が開放された雨水貯留槽106を設ける。槽底には雨水排出口81が設けてあり、下方へ向かう雨水供給管82へ通じて、槽内に溜まった雨水を送り込む。雨水供給管82の途中には雨水調整弁83が設けてあり、弁の先には洗浄水タンク11に雨水を供給する雨水供給口84が設けてある。一方、洗浄水タンク11内には、水位が一定の高さ以上であるか否かを検知できる洗浄水内フロート85が設けてある。洗浄水の水位が上がりすぎたときには、制御装置51を通じて雨水調整弁83を絞り、逆に洗浄水の水位が下がりすぎたときには制御装置51を通じて雨水調整弁83を開く。
【0049】
ただし、このような雨水による供給や、一時的に過剰な使用がされた際の補填として別途洗浄水が供給されたような場合は、トイレユニット100全体が有する水の総量が増えたことになる。このため、フロート水位センサ61と洗浄水内フロート85とのオンオフを判断材料として、制御装置51は蒸水分離機33から洗浄水タンク11へ循環する水の量を減らし、外部への水の排出量を一時的に増やして、全体の水量を適量に保つようにする。
【実施例】
【0050】
以下、上記の第一の実施形態と第二の実施形態を用いた際の、具体的な水量について記載する。まず、第一の実施形態の場合について記載する。一回の利用当たりの洗浄水の使用量は500ccとした。また、汚水タンク24内の水の量は400リットルとした。これを一日あたり60回程度、一週間に亘って利用したところ、一日あたりの汚水タンク24への平均流入量は40リットルであり、容量40リットルである洗浄水タンク11への循環量は30リットルとなった。汚水タンク24に流入した汚水に対する洗浄水としてのリサイクル率は75%であったが、利用期間中にトイレユニット100が有する水の総量はほとんど変化しなかった。
【0051】
次に、第二の実施形態の場合について記載する。一回の利用当たりの洗浄水の使用量は同様に500ccとした。また、汚水タンク24内の水の量は600リットルとした。この汚水タンク24に二つのトイレブース101を併設して、一週間利用したところ、洗浄水タンク11への一日あたりの循環量を300リットルとなったが、利用期間中にトイレユニット100が有する水の総量はほとんど変化しなかった。
【符号の説明】
【0052】
11 洗浄水タンク
12 フットポンプ室
13 フットポンプ
14 フットペダルスイッチ
15 ポンプ吸水管
16 ポンプ送水管
17 便器洗浄ノズル
18 便器
21 便器底蓋
22 汚物受タンク
23 汚水排水管
24 汚水タンク
31 排気管
32 エアー加圧ポンプ
33 蒸水分離器
34 蒸水用配管
35 排気筒
36 排気ファン
41 ブロアーポンプ
42 ブロアー散気管
43 ヒーター
44 断熱材
51 制御装置
52 温調器
53 温度センサ
61 フロート水位センサ
62 使用禁止表示器
63 吸気口
64 オーバーフロー用ドレーン
71 スイッチボタン
72 吸水用ポンプ
73 汚物送水ポンプ
74 便器落口
75 コンプレッサー
81 雨水排出口
82 雨水供給管
83 雨水調整弁
84 雨水供給口
85 洗浄水内フロート
100 トイレユニット
101 トイレブース
102 制御ブース
103 基部
104,104’ 便器体
105 扉
106 雨水貯留槽
A 汚水
B 汚水
C 気化蒸気
D 洗浄水
E 乾燥排気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器と、前記便器に供給する洗浄水を蓄える洗浄水タンクと、前記便器から排出された汚水を蓄える汚水タンクと、汚水タンク内で汚水が気化した水蒸気を含む気体から水分を分離する蒸水分離器と、汚水タンクの上方から蒸水分離器へ気体を誘導する排気管と、蒸水分離器で分離された水分を洗浄水タンクに供給する蒸留水用配管とを有し、
上記汚水タンクのみで、汚水の貯留と、微生物による汚物の分解と、汚水の気化とを行う仮設トイレ。
【請求項2】
上記汚水タンク内に、内部の汚水を攪拌させるように気体を放出可能であるブロアー散気管を有する、請求項1に記載の仮設トイレ。
【請求項3】
上記汚水タンクに、蓄えられた汚水を加熱可能なヒーターを有する、請求項1又は2に記載の仮設トイレ。
【請求項4】
上記ヒーターは汚水の温度を25℃以上30℃以下に加熱可能であり、汚水が予め設定した加熱限界温度以上になると加熱を停止する制御装置を有する請求項3に記載の仮設トイレ。
【請求項5】
上記汚水タンク内に、汚水の水位が予め定めた高さ以上になった際にスイッチを切り替えるフロート水位センサを有し、上記の水位が上記の高さ以上になった際には、トイレ外部に設けた使用禁止表示器の表示を切り替えて使用禁止の旨を外部に対して表示する、請求項1乃至4のいずれかに記載の仮設トイレ。
【請求項6】
トイレ内で必要とする電力を全て賄う太陽電池パネルと、発電した電力を蓄える電池とを有する請求項1乃至5のいずれかに記載の仮説トイレ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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