説明

会合ユニット作製用リンカーペプチド

【課題】目的タンパク質について、より効果的に結晶を作製するために必要な方法を提供することを課題とする。具体的には、ウイルスキャプシドタンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを用いて結晶を作製するために必要な方法を提供する。
【解決手段】ウイルスキャプシドタンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを作製するためのリンカーについて、グリシン(G)−グリシン(G)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列を一単位とし、当該一単位のアミノ酸配列を2〜6個含むリンカーペプチドを用いることで、より効果的に会合ユニットを作製しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを作製するためのリンカーに関する。さらには、会合ユニット及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト・ゲノムプロジェクトの結果、人間の遺伝子はおよそ3万種類であることが判明し、これら3万種類の遺伝子から得られるタンパク質の構造と機能を理解しコントロールすることは、医療・医薬品開発を推進していくものであり、すべての疾病・疾患に対する治療が可能になることを意味する。疾患に関わるタンパク質の立体構造が明らかになれば、その触媒部位の特定が可能となり、その立体構造情報をベースとした医薬品の開発が可能となる。現在までに、タンパク質立体構造解析の主たる方法として、Distance Geometry法に基づくNMRによるもの、極低温電子線回折法に基づく電子顕微鏡によるもの、タンパク質の結晶を作製し、この回折現象を利用したX線結晶構造解析法などがある。この中で、X線結晶構造解析法による解析数は他の2つの方法と比べて最も多い。
【0003】
現在までに、クローニングされたタンパク質のうち10%程度しか結晶構造解析に至っていない。これは、結晶化条件がそのタンパク質の表面構造に強く依存しており、しかも、すべてのタンパク質で異なっているため、タンパク質ごとに新たな結晶化条件を探索しなければならないことによる。温度、タンパク質濃度、沈殿剤の種類、pH、精製条件などさまざまな因子が結晶化に影響を与えるので、一種のタンパク質の結晶化条件を検討するのに数千から数万におよぶ実験を行わねばならない。
【0004】
ウイルスのキャプシドはウイルスの外殻を構成するものであり、ウイルス侵入、脱コート、複製に重要な役割を有するとされる。かかるキャプシドのX線結晶構造解析は以前から数多くなされている。バクテリオファージ、植物ウイルスをはじめ、動物ウイルスでもポリオウイルス、アデノウイルス、B型肝炎ウイルスなどが解析されており、その立体構造情報(原子座標)は公開データベースであるプロテインデータバンク(Protein Data Bank:PDB)に登録、公開されている。
【0005】
ウイルスのキャプシドタンパク質を利用して、ターゲットとなりうるタンパク質の結晶化に導く方法は、いくつか開示されている。例えば、ウイルスのキャプシドタンパク質とターゲットとなりうるタンパク質を含む会合ユニットを作製し、1種若しくは2種以上の会合ユニットが複数個会合した会合体を含む結晶について開示がある(特許文献1)。ここでは、ターゲットとなりうるタンパク質を解析目的分子とし、会合体の内部に配置されていることを特徴とする。係る解析目的分子は、キャプシドタンパク質内で、リンカーを介して結合していてもよいことが開示されており、リンカーの種類としてペプチドであってもよいことが示されている。しかしながら、リンカーとして使用しうるペプチドについて、どのような長さのペプチドであって、どのような配列のペプチドが好ましいかについての情報は一切示されていない。
【0006】
他では、ウイルスのキャプシドタンパク質とターゲットとなりうるタンパク質を含む会合ユニットについて、スペーサー(即ち、リンカー)を介して、会合ユニットと解析目的分子が結合している結晶について開示がある(特許文献2)。ここでは、リンカーとして、実施例においてグリシン−セリン−セリンの3種のアミノ酸残基の繰り返し構造からなるものが示されている。しかしながら、より効果的な会合ユニットやその製造方法の開発が望まれている。
【0007】
さらに、ウイルスのキャプシドタンパク質を利用したウイルス様粒子について開示がある(特許文献3)。ここでは、膜内在性ウイルスキャプシドを用いた、膜タンパク質の結晶化方法が開示されている。しかしながら、係る方法に適用可能なターゲットタンパク質はウイルスの膜構造内に埋め込むことができる膜タンパク質のみである。その他のタンパク質として、例えば、酵素の大部分を占める水溶性タンパク質にも適用可能な方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−83786号公報
【特許文献2】特開2006−230350号公報
【特許文献3】特開2009−125005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、目的タンパク質について、より効果的に結晶を作製するために必要な方法を提供することを課題とする。具体的には、ウイルスキャプシドタンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを用いて結晶を作製するために必要な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、ウイルスキャプシドタンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを作製するためのリンカー構造に着目し、鋭意検討を重ねた結果、グリシン(G)−グリシン(G)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列を一単位とし、当該一単位のアミノ酸配列を2〜6個含むリンカーペプチドを用いることで、より効果的に会合ユニットを作製しうることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを作製するためのリンカーであって、グリシン(G)−グリシン(G)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列を一単位としたときに、一単位のアミノ酸配列を2〜6個含むことを特徴とする、リンカーペプチド。
2.ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と、前項1に記載のリンカーペプチドと目的タンパク質を含む融合タンパク質からなる会合ユニット。
3.ウイルスのキャプシドタンパク質が、ヘパドナウイルス科ウイルスのキャプシドタンパク質である、前項2に記載の会合ユニット。
4.ヘパドナウイルス科ウイルスが、B型肝炎ウイルスである、前項3に記載の会合ユニット。
5.目的タンパク質が、球状タンパク質(水溶性タンパク質であっても、可溶化剤等を用いて水溶性をもたせたタンパク質でもかまわないが、ウイルス様粒子内に配置させるため、形状が長い繊維状を呈するものは取り扱えない)である、前項2〜4のいずれか1に記載の会合ユニット。
6.前項2〜5のいずれか1に記載の会合ユニットが自己集積して構成される、目的タンパク質を含むウイルス様粒子。
7.ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質をコードする遺伝子、目的タンパク質をコードする遺伝子、及び前項1に記載のリンカーペプチドをコードする遺伝子を含む、前項2〜5のいずれか1に記載の会合ユニットを作製するためのベクター。
8.前項7に記載のベクターを用い、遺伝子組み換えの手法によりウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と目的タンパク質含む融合タンパク質を発現させる工程を含む、前項2〜5のいずれか1に記載の会合ユニットの作製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリンカーペプチドを用いて、ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と、目的タンパク質を含む融合タンパク質を作製することで、会合ユニットが形成され、当該会合ユニットが自己集積することで、ウイルス様粒子を形成しうることが確認された。また、当該ウイルス粒子より、結晶化可能なことが確認された。
【0013】
本発明のリンカーペプチドを用いることで、球状タンパク質や結晶化が困難であったタンパク質についても、ウイルスキャプシドに通常適用しうる結晶化条件において結晶化可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の会合ユニットの概念図である。
【図2】本発明の会合ユニットが自己集積することによる会合体(ウイルス様粒子)の概念図である。
【図3】本発明のウイルス様粒子の結晶概念図である。
【図4】本発明の会合ユニットに含まれる融合タンパク質作製用のベクターの概念図である。(実施例1)
【図5】本発明の会合ユニットに含まれる融合タンパク質の概念図である。(実施例1)
【図6】本発明の融合タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。(実施例1)
【図7】各種類のリンカーペプチドを用いて融合タンパク質を発現させたときの発現タンパク質の分子量を示す図である。フラクション1〜20は図上部に示す蔗糖密度5〜30%に対応する。(実施例1)
【図8】各種類のリンカーペプチドを用いて融合タンパク質を発現させたときの、各フラクション画分における発現効率ならびにウイルス様粒子形成効率を示す図である。図7と同様に、フラクション1〜20は蔗糖密度5〜30%に対応する。フラクション1〜5は、比重の小さい、ウイルス様粒子を形成できないサンプルに相当する。フラクション15〜18は比重の大きい、ウイルス様粒子を形成したサンプルに相当する。ただし、(m,n)=(3,3)はピークが1つなので、単一の粒子(T=4)を形成しているが、(m,n)=(3,6)はピークが2つあるので2種類の粒子(T=3, T=4)が形成している。(実施例1)
【図9】本発明のリンカーペプチドを用いて作製した会合体について、超遠心分離により分離精製したものについて蛍光発色を示す写真図である。(実験例1)
【図10】本発明のリンカーペプチドを用いて作製した会合体を原子間力顕微鏡により観察した図である。(実験例2)
【図11】本発明のリンカーペプチド又は比較例のリンカーペプチドを用いて融合タンパク質を発現させたときの、各フラクション画分における発現効率及びウイルス様粒子形成効率を示す図である。(比較例1)
【図12】比較例のリンカーペプチドを用いて作製した会合体について、超遠心分離により分離精製したものについて蛍光発色を示す写真図である。(比較実験例1)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、「ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質」と「目的タンパク質」の複合体を含む会合ユニットを作製するためのリンカーペプチドに関する。さらには、会合ユニット及び会合ユニットの作製方法に関する。
【0016】
本発明において、「ウイルスのキャプシドタンパク質」とは、キャプソメアと同様の意味で用いられる。キャプシド(capsid)は、ウイルスゲノムを取り囲むタンパク質の殻をいい、キャプソメアによって構成されている。本発明のキャプシドタンパク質は、任意のウイルス由来であってよい。由来ウイルスとしては、球状ウイルスが好ましく、ウイルスの種類としては、例えばヘパドナウイルス科、アデノウイルス科、フラビウイルス科、オルソミクソウイルス科、レトロウイルス科、ヘルペスウイルス科などに分類されるウイルスが挙げられる。特に好ましくは、ヘパドナウイルス科ウイルスであり、最も好ましくはヘパドナウイルス科ウイルスに属するB型肝炎ウイルスである。
【0017】
多くのウイルスについて、キャプシドタンパク質は、そのアミノ酸及びそれをコードする核酸配列が既知で、かつ遺伝子工学的手法で作製可能である。特に、ヘパドナウイルス科ウイルス由来のキャプシドタンパク質は、大腸菌等を用いた遺伝子工学的手法で容易に作製、精製可能であり、内部に何も含まれない状態でも安定で強固な構造を有する。また、ヘパドナウイルス科ウイルスの外殻は、脂質膜を含む外側のエンベロープと内側のコアの2重のキャプシドで構成されている。特に、内側のコアキャプシドは、安定な会合体を形成することが知られている。中でも、B型肝炎ウイルスのコアタンパク質(HBcAg)は、自発的に会合体を形成させる条件が既知である。したがって、本発明において、ウイルスのキャプシドタンパク質は、B型肝炎ウイルス由来が特に好適である。本発明の会合体を結晶化させるためには、キャプシド構造の結晶化条件が既知のものが好適であり、結晶構造解析可能なものを用いるのが好適である。例えば既に結晶構造解析され、その原子座標がPDB(プロテインデータバンク)に登録され公開されているキャプシドを構成するキャプシドタンパク質は、本発明に適用可能である。例えばHBcAgは、結晶化条件が既知で、既に結晶構造解析され、その原子座標がPDBに登録され公開されており、本発明において好適に用いることができる。
【0018】
本発明のキャプシドタンパク質の「変異体タンパク質」とは、既知のキャプシドタンパク質を構成するアミノ酸配列を基準としたときに、1〜複数個のアミノ酸残基が、置換、欠失又は付加されていてもよいことを意味する。係る変異体タンパク質であっても、ウイルスのキャプシド構造を形成しうるものであれば、特に限定されない。
【0019】
本発明において、「目的タンパク質」とは、本発明の会合ユニットが自己集積して形成されるキャプシド構造の内部に配置される所望のタンパク質をいう。例えば解析対象タンパク質であってもよいし、当該会合体の内部に配置することで、会合体を新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)の手段として使用する場合には、DDSによって送達したいタンパク質であってもよい。そのようなタンパク質として、球状タンパク質が挙げられる。球状タンパク質は、疎水性、親水性のアミノ酸がバランスよく含まれている。例えば、酵素、抗体、転写因子などのタンパク質が挙げられる。目的タンパク質の大きさは、当該キャプシド構造内に配置可能な大きさであればよく特に限定されない。キャプシド構造の大きさ、例えばB型肝炎ウイルスのHBcAg(T=4)会合体の内径は、X線結晶構造解析の結果、約11.2nm、内側の表面積は約1576nm2であることが知られている(Samantha A. Wynne et al.: Molecular Cell, The crystal structure of the human hepatitis B virus capsid, Vol.3, p.771-780 (1999)、図1)。このB型肝炎ウイルスキャプシドの会合体はHBcAgのダイマーが1つの会合ユニットとなり、全部で120個の会合ユニットで形成されている。このため本発明の1会合ユニットあたりの会合体内側の表面積は約13.2nm2である。従って、断面積が13.2nm2より小さい目的タンパク質は、HBcAg(T=4)会合体に結合させることができると判断される。
【0020】
本発明の「リンカーペプチド」は、「目的タンパク質」がキャプシド構造の内部に配置されるように、「ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質」に「目的タンパク質」を結合させる目的で用いられる。即ち、「ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質」と「目的タンパク質」の複合体を含む会合ユニットを作製するために用いられる。本発明のリンカーペプチドは、グリシン(G)−グリシン(G)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列を一単位としたときに、当該一単位のアミノ酸配列(以下単に「GGS」という場合もある。)を2〜6個、好ましくは3〜6個含むことを特徴とする。グリシンは側鎖のない疎水性のアミノ酸であり、他のアミノ酸に比べて柔軟性が高い。一方、セリンは水溶性のアミノ酸である。柔軟性及び適度な親水性を確保するために検討した結果、GGSを一単位のアミノ酸配列とすることが効果的であると判断された。当該一単位のアミノ酸配列を2〜6個含むリンカーペプチドとするのは、立体構造を維持する会合ユニットやキャプシド構造を有する会合体を作製するために選択され、あまり短いリンカーペプチドでは発現効率及びウイルス様粒子形成効率が低く、長いリンカーペプチドではキャプシド構造を形成するのが困難、かつ、目的タンパク質をキャプシド内部に固定困難であるからである。
【0021】
本発明のリンカーペプチドは、複合体形成において、以下の態様に示すように少なくとも一箇所又は二箇所において使用することができる。目的タンパク質がキャプシド構造の内部に配置され、固定可能であれば、以下の態様に限定されずリンカーペプチドはさらに多くの箇所において使用することができる。
1)キャプシドタンパク質−リンカーペプチド−目的タンパク質
2)キャプシドタンパク質−リンカーペプチド(A)−目的タンパク質−リンカーペプチド(B)−キャプシドタンパク質 (図1参照)
【0022】
上記2)の態様においてリンカーペプチド(A)及びリンカーペプチド(B)については、当該一単位のアミノ酸配列について各々独立して2〜6、好ましくは3〜6の繰り返し数から選択される繰り返し構造とすることができ、最も好ましくは各々3の繰り返し数からなる構造のリンカーペプチドである。
【0023】
一方、背景技術の欄で示した特許文献2では、グリシン(G)−セリン(S)−セリン(S)を一単位のアミノ酸配列(GSS)とし、繰り返し構造を有するリンカーペプチド(スペーサー)が開示されている。ここでは、上記2)の態様の構成におけるリンカーペプチド(A)についての繰り返し数は1であり、リンカーペプチド(B)についての繰り返し数は2、4、6、8、10、12から選択され、特に6、8、10の場合に、目的タンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むウイルス様粒子サンプルの形成能率が良いことが示されている(特許文献2:段落番号0056〜0058)。したがって、本願発明のリンカーペプチドは、特許文献2に記載のリンカーペプチドとは、アミノ酸配列の構成も長さも異なり、効果も異なるものである。
【0024】
本発明において、「会合ユニット」とは「ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質」と「目的タンパク質」の複合体を含み、これらのタンパク質を結合させるための「リンカーペプチド」を含む融合タンパク質からなる(図1参照)。
【0025】
上述の当該会合ユニットが会合することで、本発明のウイルスのキャプシド構造を有するウイルス様粒子(会合体)が形成される(図2参照)。なお、本明細書における「会合」とは、複数の「会合ユニット」が互いに集積することを意味し、「会合体」とは「会合」した「会合ユニット」の自己集積体を示し、ウイルス様粒子を意味する。本発明においては、2種類以上の「会合ユニット」が複数個互いに結合した自己集積体も「会合体」ということができる。
【0026】
会合ユニットにおける融合タンパク質、即ち「キャプシドタンパク質」と「リンカーペプチド」と「目的タンパク質」の融合タンパク質の作製は、それぞれを構成するタンパク質を融合させる慣用の技術によって作製することができる。通常、タンパク質をコードしたDNAの前後又は途中に、タンパク質若しくはペプチドをコードするDNAを挿入し、そのDNAを用いて、遺伝子操作により融合タンパク質を作製することができるが、他の方法、例えば化学合成によっても融合タンパク質を作製してもよい。
【0027】
キャプシドタンパク質をコードするDNAは、ウイルスに感染した患者、動物、細胞、微生物からPCR法により単離することができる。例えば、B型肝炎ウイルスのHBcAgの場合、慢性活動性B型肝炎感染患者の血清から抽出したcDNAライブラリーから、例えば文献(Antoine Touze, et al., J. Clinical Microbiology, Baculovirus Expression of Chimeric Hepatitis B Virus Core Particles with Hepatitis E Virus Epitopes and Their Use in a Hepatitis E Immunoassay, 37, p.438-441(1999))に記載のプライマーを用いて、PCR法により単離することができる。B型肝炎ウイルス以外のウイルスのキャプシドタンパク質遺伝子も同様の方法で単離することができる。単離に必要なプライマーは各ウイルスの遺伝子の配列情報を使って設計することができる。ウイルスのDNA及びアミノ酸配列情報は、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)のゲノムデータベースに登録されているものを活用することができる。
【0028】
目的タンパク質は、どのような手段で入手してもよい。例えば、化学合成、動植物や微生物などの目的タンパク質を含む検体からの単離・抽出、目的タンパク質をコードする遺伝子を用いた遺伝子組み換えの手法によるタンパク質の生成などが挙げられる。また、目的タンパク質をコードする遺伝子を用いて、本発明の会合ユニットに含まれる融合タンパク質の作製と同時に作製することもできる。
【0029】
遺伝子組み換えの手法により目的タンパク質、又は目的タンパク質を含む融合タンパク質を作製する場合は、当該目的タンパク質又は当該融合タンパク質をコードする遺伝子についてcDNAを作製し、適切なプライマーを用いて、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)等の手法により遺伝子を増幅し、PCR産物について自体公知の方法に従い、発現ベクターに組み込ませることができる。PCR法の場合は、用いたプライマーに、予め特定の制限酵素で切断される配列(制限酵素サイト)を組み込んでおけば、発現ベクターの作製はより容易になる。発現ベクターの種類は当該ベクターを組み込ませる予定の宿主の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0030】
上記で作製した発現ベクターを大腸菌などの微生物、植物体、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞又はトランスジェニック動物などの宿主に感染又はリポソームなどとともに取り込ませて、形質転換させ、タンパク質を発現させることができる。また、宿主を用いることなく、無細胞タンパク質発現系を用いて作製することもできる。無細胞タンパク質発現キットは、例えばロッシュリサーチ社から販売されており、タンパク質を簡便かつ短時間で作製することができ、有用な手段の一つである。
【0031】
本発明の会合ユニットには、ウイルス由来のキャプシドタンパク質を含むため、ウイルスの種類によって当該会合ユニットが会合体を形成しうる特定の会合条件を用いて、会合体を形成させることができる。例えば、B型肝炎ウイルス由来の場合は、会合ユニットであるHBcAgを大腸菌体内に大量かつ高濃度に発現させることによって、HBcAg会合体形成を誘導させることができる。また、会合体がバクテリオファージMS2のキャプシドである場合には、19塩基からなる特定の配列を含んだRNAと結合させ、そのRNAとの結合により、強制的に会合体を形成させることができる。
【0032】
これまで、結晶構造解析が報告されているウイルスのキャプシドについては、会合体の形成を誘導させるための条件がそれらの結晶化又は結晶構造解析を報告した文献によって明らかにされているので、その条件を利用して会合体を形成させることができる。
【0033】
目的タンパク質を含む会合ユニットを作製し、会合体を形成させるためには、ウイルス様粒子の内部に目的タンパク質を立体障害なく配置させる必要がある。ヘパドナウイルス科B型肝炎ウイルスのキャプシドタンパク質を含む会合ユニットを作製する場合、キャプシドタンパク質はホモダイマーを形成し、目的タンパク質をその間にリンカーペプチドにより連結することにより挿入するのが好適である(図1参照)。B型肝炎ウイルス由来の場合はHBcAgタンパク質2分子と目的タンパク質1分子で会合ユニットが構成される。これにより、目的タンパク質は、ウイルス様粒子内部で互いに空間的な障害を回避することができ、かつ、ウイルス様粒子内部で等価な位置に配置できる。B型肝炎ウイルスキャプシド(T=4)の場合は、このような会合ユニットが120個会合し、均一な会合体であるウイルス様粒子が形成されると考えられる。
【0034】
以上のように設計され、作製された会合ユニットを会合させ、会合体を形成させる。当然会合体は会合ユニットに比べ、大きくかつ高分子量である。係る大きさや分子量の違いを利用して、例えば公知の精製法であるゲルクロマトグラフィー等の分子ふるいや遠心操作で会合体を形成しないものや不純物を取り除くことで、会合体は容易に精製することができる。例えば、HBcAg会合体の場合、蔗糖密度勾配法を用いた遠心操作で容易に精製することができる。また、蔗糖密度勾配法では会合状態の異なるHBcAg(T=4)会合体とHBcAg(T=3)会合体とを分離することができる。
【0035】
会合体間の相互作用、すなわち非共有結合性の分子間相互作用を通じて、会合体は結晶化させることができる。会合体間の相互作用が異なれば、その結晶化条件も異なったものになってしまう。本発明で用いられる会合体は、会合体間の相互作用に影響を与えない、すなわち会合体表面の形状、電荷状態に影響を与えることのない様に会合体内部に目的タンパク質を配置させた会合体である。そのため、この会合体は、目的タンパク質を結合させていない会合体と同様の会合体間の相互作用を通じて、同様の結晶化条件で結晶化することができる。
【0036】
具体的には、目的タンパク質を含む会合体の結晶の調製は以下の手順で進めることができる。得られた会合体は、目的タンパク質を含まない会合体と同等の条件下で、一般的なタンパク質結晶化法を利用して結晶化することができる。例えば、目的タンパク質を含むHBcAg会合体の場合、目的タンパク質を含まないHBcAg会合体と同等の結晶化条件(Samantha A. Wynne et al., Molecular Cell, The crystal structure of the human hepatitis B virus capsid., Vol.3, p.771-780 (1999))により、最も一般的に利用されているハンギングドロップ蒸気拡散法を用い結晶化することができる。他にも、例えば目的タンパク質を含むバクテリオファージφX174キャプシドの場合、既に報告されている目的タンパク質を含まない会合体の結晶化条件(Terje Dokland et al., Nature, Structure of a viral procapsid with molecular scaffolding, Vol.389, p.308-313(1997))と同等の結晶化条件により、結晶化することができる。他のウイルスキャプシドで既に結晶構造解析が報告されている会合体については、その結晶化条件を用いて本発明の会合体について同様の結晶化条件で結晶化することができる。結晶化された会合体の概念図は、図3を参照されたい。
【0037】
結晶化したタンパク質の立体構造を解析する方法としては、X線回折、中性子線回折、電子線回折いずれの方法を用いても解析することができるが、X線回折を用いた結晶構造解析が最も一般的である。通常のX線回折装置を用いてもよいが、例えば、複数の波長の異なる高輝度X線を同時に照射することができるSPring-8等の放射光実験施設のビームラインを利用して解析することにより、短時間でかつ精度のよい回折データ及び立体構造座標を得ることができる。HBcAg会合体等は結晶構造解析の対象としては比較的大きな粒子である。そのため、放射光実験設備のビームラインとしては、ベンディングマグネット(Bending Magnet)方式のビームラインよりもアンジュレーター方式のビームラインの方が、ウイルス様粒子結晶の回折データ収集に適している。
【0038】
通常、タンパク質等の生体高分子のX線結晶構造解析においては、解析対象の立体構造が未知である場合、位相問題を解決するために重原子同型置換体結晶を作成する必要がある。しかし、本発明の結晶の場合、例えば目的タンパク質を内包するHBcAg会合体結晶の場合、HBcAg会合体の結晶解析で用いた位相及び原子座標をそのまま利用することができる。
【0039】
結晶構造解析の結果得られた目的タンパク質の原子座標を用いることによって、目的タンパク質に結合又は作用する分子を設計することができる。また、目的タンパク質が複合体である場合は、複合体を形成している分子間の相互作用を解析することによって、より容易に分子設計することができる。
【0040】
代表的な分子設計の手法として、例えば、A)対話式の分子モデリングシステムを利用しコンピューターグラフィックス上に目的タンパク質を表示し視覚的に解析し設計する方法、B)目的タンパク質の結合部位にフィットする分子を自動的に作成するプログラムを使う方法、C)化合物データベース中の個々の化合物を目的タンパク質の結合部位に自動的にフィットさせてうまくフィットする化合物を見つけだす、in silicoスクリーニング方法、などが挙げられる。これらの手法やそれ以外の手法を単独若しくは適宜組み合わせて使用することで分子設計することができる。
【0041】
本発明の方法によれば、目的タンパク質又は目的タンパク質を含む融合タンパク質について同じ条件での結晶の作製が可能であるため、それらの解析結果からより容易かつ精密に分子設計することができる。例えば、ある酵素とその酵素に対する酵素阻害活性の強さが異なる一連の阻害剤との複合体を解析することによって、阻害剤の活性の強弱が酵素・阻害剤間のどの相互作用の有無や強弱で生じているかを理解することができる。その結果、より活性の強い阻害剤を設計することができる。さらに、阻害剤の分子構造中で活性発現に寄与している部分と寄与していない部分とを特定できるため、活性を弱めることなく阻害剤の物性や経口吸収性・代謝安定性・毒性などを改善するための分子設計も可能である。また、これら阻害剤と別の酵素との複合体の解析を行えば、一方をより選択的に阻害する阻害剤を設計することができる。酵素阻害剤に限らず、複数の複合体結晶の解析結果を用いることで、より精度の高い分子設計が可能となる。
【実施例】
【0042】
本発明の理解を深めるために、以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは、いうまでもない。
【0043】
(実施例1)緑色蛍光タンパク質(GFP)を目的タンパク質とし、HBcAgをキャプシドタンパク質としたときの会合ユニットの作製
本実施例において、会合ユニットの構成を以下とした。本実施例におけるリンカーペプチドは、グリシン(G)−グリシン(G)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列(GGS)を一単位とした。
キャプシドタンパク質(HBcAg)−リンカーペプチド(GGS)m−目的タンパク質(GFP)−リンカーペプチド(GGS)n−キャプシドタンパク質(HBcAg)
(m:n=1:12、3:12、3:3、3:6)
【0044】
HBcAgをコードする遺伝子、オワンクラゲ由来緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、及び上記各リンカーペプチドをコードする遺伝子、並びに発現ベクターを材料とし、制限酵素及びDNAポリメラーゼを用いて、上記いずれかの組み合わせからなるリンカーペプチドを含む融合タンパク質発現用ベクターを構築した(図4参照)。
【0045】
発現ベクター(pET28a(+):Novagen社製)のマルチクローニングサイトの5'側にHBcAgの1〜149番アミノ酸をコードする遺伝子(配列番号1)を導入し、3'側に、上記と同じく配列表の配列番号1に示す塩基配列からなる遺伝子1を導入した。二つのHBcAgの間に、リンカーペプチドをコードする遺伝子及びGFPをコードする遺伝子を、必要な単位、適切な順序で発現しうるよう、導入した。GFP遺伝子はClontech社製の遺伝子を用いた。HBcAg遺伝子は、慢性活動性B型肝炎患者の血清より作製したcDNAライブラリーを用いて、クローニングして得た遺伝子を用いた。
【0046】
(発現ベクター作製用挿入遺伝子の各塩基配列)
1)HBcAgの1〜149番アミノ酸をコードする遺伝子(配列番号1)
ATGGATATCGATCCTTATAAAGAATTTGGAGCTACTGTGGAGTTACTCTCGTTTTTGCCTTCTGACTTCTTTCCTTCCGTCAGAGATCTCCTAGACACCGCCTCAGCTCTGTATCGAGAAGCCTTAGAGTCTCCTGAGCATTGCTCACCTCACCATACTGCACTCAGGCAAGCCATTCTCTGCTGGGGGGAATTGATGACTCTAGCTACCTGGGTGGGTAATAATTTGGAAGATCCAGCATCCAGGGATCTAGTAGTCAATTATGTTAATACTAACATGGGTTTAAAGATCAGGCAACTATTGTGGTTTCATATATCTTGCCTTACTTTTGGAAGAGAGACTGTACTTGAATATTTGGTCTCTTTCGGAGTGTGGATTCGCACTCCTCCAGCCTATAGACCACCAAATGCCCCTATCTTATCAACACTTCCGGAGACTACTGTTGTT
【0047】
2)GFPをコードする遺伝子(配列番号2)
ATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCGGGGTGGTGCCCATCCTGGTCGAGCTGGACGGCGACGTAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGGCGATGCCACCTACGGCAAGCTGACCCTGAAGTTCATCTGCACCACCGGCAAGCTGCCCGTGCCCTGGCCCACCCTCGTGACCACCCTGACCTACGGCGTGCAGTGCTTCAGCCGCTACCCCGACCACATGAAGCAGCACGACTTCTTCAAGTCCGCCATGCCCGAAGGCTACGTCCAGGAGCGCACCATCTTCTTCAAGGACGACGGCAACTACAAGACCCGCGCCGAGGTGAAGTTCGAGGGCGACACCCTGGTGAACCGCATCGAGCTGAAGGGCATCGACTTCAAGGAGGACGGCAACATCCTGGGGCACAAGCTGGAGTACAACTACAACAGCCACAACGTCTATATCATGGCCGACAAGCAGAAGAACGGCATCAAGGTGAACTTCAAGATCCGCCACAACATCGAGGACGGCAGCGTGCAGCTCGCCGACCACTACCAGCAGAACACCCCCATCGGCGACGGCCCCGTGCTGCTGCCCGACAACCACTACCTGAGCACCCAGTCCGCCCTGAGCAAAGACCCCAACGAGAAGCGCGATCACATGGTCCTGCTGGAGTTCGTGACCGCCGCCGGGATCACTCTCGGCATGGACGAGCTGTACAAG
【0048】
3)リンカーペプチドをコードする遺伝子(配列番号3〜8)
(配列番号3)GGT GGC AGC:(GGS)m m=1
(配列番号4)GGT GGC AGC GGC GGC AGC GGC GGA TCC:(GGS)m m=3
(配列番号5)GGT GGC AGC GGC GGC AGC GGC GGA TCC GGT GGT AGC GGT GGC AGC GGT GGT AGC :(GGS)m m=6
(配列番号6)GGT GGC AGC GGC GGC AGC GGC GGT TCC GGC GGC TCC GGT GGC AGC GGC GGA TCC GGT GGT AGC GGT GGC AGC GGT GGT AGC GGC GGC AGC GGC GGC AGC GGT GGC AGC:(GGS)m m=12
(配列番号7)GGT GGC TCT:(GGS)n n=1
(配列番号8)GGT GGC TCT GGG GGG AGC GGT GGG AGC:(GGS)n n=3
【0049】
上記作製した融合タンパク質の発現用ベクターを大腸菌RosettaTM 2(DE3)(Novagen社製)に組み込み、OD600 = 0.5 〜0.6になるまで数時間培養し、IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)を使ってさらに16時間発現誘導した。20分間4,000rpmで遠心操作し集菌した。このように菌体内に高濃度の融合タンパク質を発現させた。融合タンパク質の概念図は、図5を参照されたい。また、上記のリンカーペプチドについて、GGSの繰り返し数が、m=3及びn=3のときの融合タンパク質を構成するアミノ酸配列(配列番号9)を図6に示した。
【0050】
Tris塩酸緩衝液にて菌を懸濁し、超音波破砕(5秒破砕、5秒静置)を5分間繰り返した。さらに、30分間15,000rpmで遠心操作をして、細胞片を取り除いた。遠心操作後の上澄みに硫酸アンモニウムを濃度20%になるように加え、発現した融合タンパク質を沈殿させた。沈殿物(ペレット)をNPI-10 緩衝液(リン酸緩衝液pH 8.0, 150mM NaCl, 10mM イミダゾール)に再溶解させ、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーによる精製を行った後、透析(Tris塩酸緩衝液pH7.5, 300mM NaCl)により、上記NPI緩衝液成分の除去を行った。この過程で会合ユニットは自己集積を終了していると考え、これを蔗糖密度勾配法(30〜5%)により分取した。分取した各画分に含まれるサンプルの分子量をSDS-PAGEにより調べ、会合体ユニットを確認した(図7)。
【0051】
上記の結果、リンカーペプチドがGGSの繰り返し数がm=3及びn=3のときに、最も効果的に発現しうることが確認された(図8)。
【0052】
(実験例1)
GGSの繰り返し数がm=3及びn=3のときのリンカーペプチドを用いて、実施例1により作製したウイルス様粒子について、蔗糖密度勾配法(30〜5%)により超遠心分離を行い、分離精製したところ、遠心管の蔗糖密度の高い部分において蛍光発色が認められた(図9)。
【0053】
(実施例2)結晶化
GGSの繰り返し数がm=3及びn=3のときのリンカーペプチドを用いて、実施例1により作製したウイルス様粒子について、結晶化を行った。結晶化方法は、文献 Adam Zlotnick et al., Acta Cryst. (1999) D55, 717-720 ならびに S. A. Wynne et al., Acta Cryst. (1999) D55, 557-560 に従い、通常のハンギングドロップ蒸気拡散法を適用した。サンプル濃度を10mg/ml(50mM HEPES pH 7.5, 100 mM KCl)とし、リザーバー緩衝液として100mM NaHCO3 pH 9.5, 100mM NaCl, 250-350 mM KCl, 9.0-9.5% PEG-MME, 10% 2-propanolを用いた。サンプル溶液とリザーバー溶液を1:1に混ぜドロップレットとして用いた。19 ℃のインキュベーターに保存したところ、1〜2週間で、径10μm程度の微結晶を得ることができた。
【0054】
得られたウイルス様粒子を、米国Veeco社製原子間力顕微鏡(Nanoscope IV)を用いて観察した。結晶解析 (pdb=1QGT)より、ウイルスキャプシド内が空洞のヒトB型肝炎ウイルスキャプシド(T=4)の直径は35nmであるが、本発明のウイルス様粒子の平均直径を算出した結果も、約35nmであった。ヒトB型肝炎ウイルスは、T=3およびT=4の2種類の直径の異なる粒子を形成することが知られているが、本方法で作製されたウイルス様粒子は、通常のヒトB型肝炎ウイルスキャプシド(T=4)と同様のウイルス様粒子(T=4)が得られたことが、確認された(図10)。
【0055】
(比較例1)発現効率及びウイルス様粒子の自己集積効率の確認
本比較例において、会合ユニットの構成を以下とした。本比較例におけるリンカーペプチドは、グリシン(G)−セリン(S)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列を一単位とした。
キャプシドタンパク質(HBcAg)−リンカーペプチド(GSS)m−目的タンパク質(GFP)−リンカーペプチド(GSS)n−キャプシドタンパク質(HBcAg)
【0056】
GSSの繰り返し数がm=1及びn=5のリンカーペプチドを用いた他は、実施例1と同手法により融合タンパク質を発現させたときの発現効率及びウイルス様粒子の自己集積効率を確認した。本発明の融合タンパク質は、GGSの繰り返し数がm=3及びn=3のときのリンカーペプチドを用いて作製した。比較例のGSSのリンカーペプチドを用いたサンプルは、6Lの大量培養タンクを用いて発現させた。一方本発明のGGSリンカーペプチドを用いたサンプルは通常の1Lの培養タンクを用いて発現させた。その結果、本発明のリンカーペプチドを用いるほうが、発現効率およびウイルス様粒子形成効率が優れていた(図11)。
【0057】
(比較実験例1)超遠心分離による精製
比較例1で大量発現させた融合タンパク質について、実験例1と同手法により蔗糖密度勾配法(30〜5%)により超遠心分離を行い、分離精製した。その結果、遠心管の上部において蛍光発色が認められた(図12)。つまり本比較例1で得た会合体に含まれるGFPが、実施例1で得た会合体と比べて、遠心管の比重の小さい箇所で蛍光を発色していることから、比較例1で作製した融合タンパク質(会合ユニット)はウイルス様粒子を形成しにくいことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上詳述したように、本発明のリンカーペプチドを用いて、ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と、目的タンパク質を含む融合タンパク質を作製することで、会合ユニットが形成され、当該会合ユニットが自己集積することで、ウイルス様粒子を形成しうることが確認された。また、当該ウイルス様粒子より、結晶化可能なことが確認された。
【0059】
本発明のリンカーペプチドを用いることで、水溶性タンパク質や結晶化が困難であったタンパク質についても、ウイルスキャプシドに通常適用しうる結晶化条件において結晶化可能であることが確認された。
【0060】
このように、従来結晶化が困難又は不可能であったタンパク質について、容易に結晶化を達成できるようになれば、疾患に関わるタンパク質の立体構造を明らかにすることができ、その触媒部位の特定が可能となる。そして、その立体構造情報をベースとした医薬品の開発が可能となり、産業上非常に有意である。
【符号の説明】
【0061】
1 キャプシドタンパク質
2 目的タンパク質
3 リンカーペプチド(A)
3’ リンカーペプチド(B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と目的タンパク質の複合体を含む会合ユニットを作製するためのリンカーであって、グリシン(G)−グリシン(G)−セリン(S)の3残基からなるアミノ酸配列を一単位としたときに、一単位のアミノ酸配列を2〜6個含むことを特徴とする、リンカーペプチド。
【請求項2】
ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と、請求項1に記載のリンカーペプチドと目的タンパク質を含む融合タンパク質からなる会合ユニット。
【請求項3】
ウイルスのキャプシドタンパク質が、ヘパドナウイルス科ウイルスのキャプシドタンパク質である、請求項2に記載の会合ユニット。
【請求項4】
ヘパドナウイルス科ウイルスが、B型肝炎ウイルスである、請求項3に記載の会合ユニット。
【請求項5】
目的タンパク質が、球状タンパク質である、請求項2〜4のいずれか1に記載の会合ユニット。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1に記載の会合ユニットが自己集積して構成される、目的タンパク質を含むウイルス様粒子。
【請求項7】
ウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質をコードする遺伝子、目的タンパク質をコードする遺伝子、及び請求項1に記載のリンカーペプチドをコードする遺伝子を含む、請求項2〜5のいずれか1に記載の会合ユニット作製用のベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを用い、遺伝子組み換えの手法によりウイルスのキャプシドタンパク質若しくはその変異体タンパク質と目的タンパク質含む融合タンパク質を発現させる工程を含む、請求項2〜5のいずれか1に記載の会合ユニットの作製方法。

【図8】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−125190(P2012−125190A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279906(P2010−279906)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第48回日本生物物理学会年会 主催者名 日本生物物理学会 会長 片岡 幹雄 開催日 平成22年(2010年)9月20日〜22日
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【Fターム(参考)】