説明

会合性ポリマー(polymeresassociatifs)を用いてアルキッドポリマーを水に分散させる方法と、得られた組成物と、それを含む水溶性ペイント

会合性疎水基を有するポリマーを用いてアルキド樹脂を水中に分散させる方法。得られた組成物、処方を使用して、界面活性剤または溶剤を使用せずに、水-ベースのアルキド塗料を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキド樹脂とそれを含むアルキドペイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
「アルキドペイント」という用語は有機酸とポリオールとの反応で得られるポリエステルまたはシアネート基とポリオールとの縮合で得られるウレタン−アルキドとして公知のアルキドのペイントを意味する。本明細書でアルキド「樹脂」および「ポリマー」という用語は同じものを意味する。歴史的にはアルキド塗料は1950年代から有機溶媒の存在下で製造され、今日の水をベースにしたペイントは後で開発されたものである。
【0003】
しかし、水をベースにしたアルキド塗料の製造の可能性は早くから考えられ、消費者からは有機溶媒を含まない製品に対するニーズが期待されていた。この課題は1980年代から特許文献1(米国特許第4 497 933号明細書)に記載されている。この特許には溶剤を完全に含まない水−ベースのペイントの製造方法が記載され、酸基を15〜40mg KOH/g樹脂の量で含み、OH基の含有量の高い特定アルキド樹脂を使用する。しかし、この方法は極めて制限された方法であり、その定義から、全ての種類のアルキド樹脂に適用することはできない。
【0004】
次に、当業者は界面活性剤および/または有機溶媒(溶剤ベースのペイントの組成より少ない量で使用)を使用する方法を開発した。これらの成分の役割は水の存在下でアルキド樹脂を可溶化して水−ベースのアルキド塗料を製造できるようにすることにある。しかし、ペイント中に溶剤および界面活性剤が存在すると「従来の」水−ベースのペイントで共通して使用されているレオロジ改質剤の効果が悪くなる。この増粘剤(epaississants)は所望のレオロジーカル特性を与えるためには水−ベースのアルキド樹脂塗料で必須のものである。
【0005】
さらに、溶剤および揮発性有機化合物(VOC)に対する国際的な規制、特にヨーロッパの規制はますます厳しくなっていることは非特許文献1の「デコ・ペイント用の水ベースの溶剤を含まないアルキドエマルションの利点」に記載されている。
【0006】
従って、環境問題の観点から有機溶媒ベースのペイントの使用は適していない、さちに、溶剤が存在するとユーザは安全で満足な条件下で作業をすることができない(引火または中毒の危険またはアレルギの危険)。
【0007】
従って、一般的特性が任意のアルキドペイントに適用でき、水−ベースのペイントで伝統的に使用されているレオロジ改質剤の使用に適した、溶剤および界面活性剤を含まない、水溶性媒体中でアルキド樹脂ペイントを製造する新しい方法を開発する必要がある。
【0008】
本発明者はこの開発に従事し、上記ペイントの製造方法の開発に成功した。本発明方法はアルキド樹脂を可溶化する独特な方法である。
【0009】
アルキド樹脂は最初に「アソシアティブ(associative)(会合性、結合性)として知られる特性を有する特定の末端疎水性基を有するアクリルポリマーによって水中へ分散される。この会合性ポリマーが十分に高いpH(6以上)で中和されると上記疎水基間にアソシアティブ(会合性、結合性)相互作用(associative interactions)」が生じ、この相互作用がアルキド樹脂分子に対して全溶媒和ケージであるフィールドを区画(demarcate)する。この溶媒和ケージによってアルキドポリマー分子は「カプセル化」として知られる機構によって水中に分散できるようになる。この種のポリマーは英語でHASE「hydrophobically altered soluble alkaline emulsion、疎水変性可溶性アルカリエマルション) とよばれる。これは化学的にはそれを構成するモノマー:第1モノマーは(メタ)アクリル酸ベース、第2モノマーはこの酸のエステル、第3モノマーはアソシアティブ(associative)(会合性、結合性)疎水性モノマーで定義される。
【0010】
本発明者の利点の一つはこれらポリマーを使用する水の構造化現象を同定し、使用することに成功したことであり、この手段を用いてカプセル化法でアルキド樹脂を分散させることができる。我々が知る限り、ペイント用途(特許文献2〜4参照)またはコンクリートの分野(本出願の出願日では未公開の特許文献5参照)でのこれらポリマーの使用は新規な使用である。
【0011】
さらに、本発明の方法そのものがオリジナルなものである。すなわち、ホスト分子、例えばシクロデキストリン分子(マイクロ化したオイルのカプセル化法を用いる特許文献6参照)を用いたり、界面重合(グリース状物質の存在下でのウレタン−エピクロルヒドリン−アミン混合物を重合する特許文献7参照)または一つの(メタ)アクリル酸モノマーと一つのアクリル酸エステルモノマーとをベースにしたカルボキシル化されたポリマー(この場合、カプセル化現象は単にpHを関数としたポリマーの溶解性だけで制御される。この種のポリマーはEudragit(登録商標)、Kollicoat(登録商標)またはEastacryl 3OD(登録商標)の名称で市販されている)を使用する「従来の」カプセル化法とは区別される方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4 497 933号明細書
【特許文献2】フランス特許第FR 2693 203号公報
【特許文献3】フランス特許第FR 2 872 815号公報
【特許文献4】フランス特許第FR 2 633 930号公報
【特許文献5】フランス特許出願第FR 07 00086号
【特許文献6】日本特許第JP 2001 354515号公報
【特許文献7】米国特許第3754062号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Sbomik Prispevku −Mezinarodni Konference −Naterovich Homtach - 37th - Cz. Rep., 22-24 May 2006, 92−104
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、アルキド樹脂を可溶化する独特な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の対象は下記(a)〜(c)の段階を有することを特徴とする少なくとも一種のアルキド樹脂を水中に分散させる方法にある:
(a) 下記(1)〜(3):
(1)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸モノマー、
(2)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、
(3)少なくとも一種のアソシアティブ(会合性、結合性)疎水性モノマー
から成る少なくとも一種のアソシアティブ(会合性、結合性)ポリマーと、少なくとも一種のアルキド樹脂と、水とを混合し、
(b) 段階(a)で得られた混合物のpH値を6以上、好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上に調節し、
(c) 必要に応じて、段階(b)で得られた混合物のpH値を6以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下に調整する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
具体的には上記構成要素(樹脂、水、会合性ポリマー (polymeres associateifs))を撹拌下に反応装置に導入する。導入の順序は当業者が適宜選択でき、特にカプセル化される樹脂の水への溶解度性応じて選択される。
第1の実施例では、各構成要素(水、アルキド樹脂、会合ポリマー)をブレンディングし、pH値を6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上に調節して処方(組成物)を完成する。
【0017】
この第1の実施例では、本発明方法の酸化段階(c)は実行しない。
【0018】
本発明の第2の実施例では、段階(b)ではpH値を6以下に下げる。それによって媒体の沈殿が起こり、会合性ポリマーの構造自体が壊れる。アルキド樹脂分子から成る粒子の水中分散物が形成され、それが会合性ポリマーの構造中に閉じ込められる。この分散物はアルキド樹脂の水中への完全な可溶化にも好都合である。上記2つの実施例で本発明に単一性を与える技術上の関連はアルキド樹脂、水および会合性ポリマーの3つの基本成分の存在にある。
【0019】
第2の実施例では本発明方法は段階(c)を使用する。
【0020】
本発明方法の他の特徴は、段階(b)でのpHが無機または有機の塩基によって調節される点にある。
【0021】
本発明方法のさらに他の特徴は、段階(c)でのpHがやや強い酸または強酸によって調節される点にある。
【0022】
本発明方法のさらに他の特徴は、段階(a)の混合物が全重量に対して乾燥重量で0.1%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、より好ましくは0.1%〜5%の会合性ポリマーを含む点にある。
【0023】
本発明方法のさらに他の特徴は、段階(a)の混合物が全重量に対して乾燥重量で少なくとも5%、好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%の少なくとも一種のアルキド樹脂を含み且つ少なくとも一種のアルキド樹脂の最大値が70重量%である点にある。
【0024】
本発明方法では、会合性ポリマーの(メタ)アクリル酸エステルモノマーはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルおよびこれらの混合物の中から選択されるのが好ましい。
【0025】
本発明方法の他の特徴は、会合性ポリマー (polymeres associateifs) の会合性疎水性モノマーが下記一般式(1)を有する点にある:
【0026】

【0027】
(ここで、
m、n、p、qは整数で、m、n、pは150以下、qは0以上で、m、n、pの中の少なくとも一つの整数はゼロではなく、
Rは少なくとも一つの重合可能なビニル基を有し、
1とR2は水素原子またはアルキルを表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
R'は、少なくとも6個かつ最大で36個の炭素原子、好ましくは少なくとも16個かつ最大で24個の炭素原子、より好ましくは少なくとも18個かつ最大で22個の炭素原子を有する疎水性基である)
【0028】
本発明方法のさらに他の特徴は、アルキド樹脂がポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタン-ポリエステル樹脂およびこそれらの混合物の中から選択される点にある。
【0029】
本発明の別の対象は、本発明方法で得られる水-ベースの処方(組成物)にある。この水-ベースの処方(組成物)は水と、少なくとも一種のアルキド樹脂と、下記(1)〜(3)から成る少なくとも一種の会合性ポリマーとを含む点に特徴がある:
(1)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸モノマー、
(2)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、
(3)少なくとも一種の会合性疎水性モノマー。
【0030】
第1の実施例では水-ベースの処方(組成物)が段階(c)の沈殿を実行しない本発明方法によって得られる。その特徴もpHを6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上にする点にある。
【0031】
第2の実施例では水-ベースの処方(組成物)が段階(c)の沈殿を実行する本発明方法によって得られる。その特徴はpHを6以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下にする点にある。
【0032】
上記の水-ベースの処方(組成物)の他の特徴は無機または有機の塩基をさらに含む点にある。
【0033】
段階(e)の沈殿を実行する本発明方法によって得られる第2の実施例の水-ベースの処方(組成物)の特徴はやや強い酸または強酸を含む点にある。
【0034】
上記水-ベースの処方(組成物)の他の特徴は、全重量に対して乾燥重量で0.1%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、より好ましくは0.1%〜5%の会合性ポリマーを含む点にある。
【0035】
上記水-ベースの処方(組成物)のさらに他の特徴は、全重量に対して乾燥重量で少なくとも5%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも35%の少なくとも一種のアルキド樹脂を含み且つアルキド樹脂の最大含有量は70重量%である点にある。
【0036】
上記水-ベースの処方(組成物)のさらに他の特徴は、会合性ポリマーの(メタ)アクリル酸エステルモノマーがアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルおよびこれらの混合物の中から選択される点にある。
【0037】
上記水-ベースの処方(組成物)のさらに他の特徴は、会合性ポリマーの会合性疎水性モノマーが下記一般式(1)を有する点にある:
【0038】

【0039】
(ここで、
m、n、p、qは整数で、m、n、pは150以下、qは0以上で、m、n、pの中の少なくとも一つの整数はゼロではなく、
Rは少なくとも一つの重合可能なビニル基を有し、
1とR2は水素原子またはアルキルを表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
R'は、少なくとも6個かつ最大で36個の炭素原子、好ましくは少なくとも16個かつ最大で24個の炭素原子、より好ましくは少なくとも18個かつ最大で22個の炭素原子を有する疎水性基である)
【0040】
上記水-ベースの処方(組成物)のさらに他の特徴は、アルキド樹脂がポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタン-ポリエステル樹脂およびこれらの混合物の中から選択される点にある。
【0041】
本発明のさらに別の対象は、上記の水-ベースの処方(組成物)のペイント、ラッカー、ニスまたは木材防腐剤の製造での使用にある。具体的には、当業者はこれらの生成物をペイント、ラッカー、ニスまたは木材防腐剤組成物で伝統的に使用されている種々の添加剤を混合して製造することができる。
【0042】
本発明のさらに他の対象は、本発明の水-ベースのアルキド樹脂処方を含むペイント、ラッカー、ニスおよび木材防腐剤にある。
【実施例】
【0043】
実施例1および実施例2は本発明で使用するモノマーの製造方法と、(このモノマーから)本発明で使用可能な水溶性の会合性ポリマーを製造する方法と示す。
【0044】
実施例1
本発明モノマーの合成
方法aメタクリレートモノマーの合成
1リットルの反応装置に下記を入れた:
(1)25モルのエチレンオキサイドを含む400グラムの濃縮ベヘン酸アルコール(behenic alcohol)
(2)0.0994グラムのアロ-オシメン(alloocimene)、
(3)43.75グラムの無水メタアクリル酸
得られた混合物を82℃±2℃に加熱し、この温度での3時間加熱を続ける。次いで、得られたマクロモノマーを396gのメタアクリル酸で希釈して室温で液体の溶液を得る。
【0045】
方法bウレタンモノマーの合成
第1段階でエルレンマイヤーフラスコ中に下記から成るプレ凝縮物を得る:
(1)13.726グラムのジイソシアナート・トルエン、
(2)36.1グラムのアクリル酸エチル、
(3)0.077グラムのアロ-オシメン、
(4)0.198グラムのジブチル錫ジラウレート
次に、滴下漏斗に10.257グラムのエチレングリコールメタクリレートと、10グラムのアクリル酸エチルを秤量する。この漏斗の内容物を上記エルレンマイヤーフラスコ中に35℃の温度で20分かけて注入し、さらに30分間反応させる。
第2段階で、1,000mlの反応装置中に25モルのエチレンオキサイドと132グラムの濃縮トリスチリルフェノールを秤量し、65℃で溶融状態を維持し、縮合させる。
次いで、プレ凝縮物を65℃で20分かけてアルコール中に注入し、65℃でさらに2時間加熱する。最後に、得られた混合物を15.5グラムのアクリル酸エチルと84.6グラムの交換水(bipermuted water)で希釈して室温で液体を得る。
【0046】
方法cヘミマレエート(hemimaleate)モノマーの合成
1リットルの反応装置中に下記を入れた:
(1)25モルのエチレンオキサイドと400グラムの32個の炭素原子を有する分岐した濃縮したアルコール、
(2)0.0994グラムのアロ-オシメン、
(3)25.3グラムの無水マレイン酸。
得られた混合物を82℃±2℃まで加熱し、この温度での3時間加熱を続ける。次いで、得られたマクロモノマーを425gのメタアクリル酸で希釈して室温で液体の溶液を得る。
【0047】
実施例2
会合性水溶性ポリマーの合成
方法A
1リットルの反応装置中に、280グラムの交換水と、3.89グラムのドデシル硫酸ナトリウムとを秤量し、82℃±2℃に加熱する。
この間にビーカー中に下記を秤量してプレエマルションを作る:
(1)112.4グラムの交換水、
(2)2.1グラムのドデシル硫酸ナトリウム、
(3)80.6グラムのメタアクリル酸、
(4)146.1グラムのアクリル酸エチル、
(5)55.6グラムの方法aで説明したマクロモノマー溶液。
【0048】
第1の触媒用に10グラムの交換水に希釈した0.85グラムの過硫酸アンモニウムを秤量し、第2の触媒用に10グラムの交換水に希釈した0.085グラムのメタ重亜硫酸ナトリウムを秤量する。反応装置(pied de cuve)の温度が上がった時に上記の2つの触媒を加え、76℃±2℃で2時間重合させ、それと同時に上記プレエマルションを添加する。ポンプを20グラムの交換水で洗浄し、76℃±2℃で1時間加熱する。最後に室温まで冷やし、得られたポリマーを濾過する。
【0049】
方法B
1リットルの反応装置に、280グラムの交換水と、3.89グラムのドデシル硫酸ナトリウムとを秤量する。反応装置を82℃±2℃に加熱する。
この間にビーカー中に下記を秤量し、プレエマルションを調製する:
(1)334グラムの交換水、
(2)3.89グラムのドデシル硫酸ナトリウム、
(3)0.92グラムのドデシルメルカプタン、
(4)80.6グラムのメタアクリル酸、
(5)160.55グラムのアクリル酸エチル、
(6)60.4グラムの方法bに記載のメタアクリルウレタン溶液。
第1の触媒用に10グラムの交換水り中に希釈した0.33グラムの過硫酸アンモニウムを秤量し、第2の触媒用に10グラムの交換水中に希釈した0.28グラムのメタ重亜硫酸ナトリウムを秤量する。反応装置(pied de cuve)の温度が上がった時に上記の2つの触媒を加え、84℃±2℃で2時間重合させ、それと同時に上記プレエマルションを添加する。ポンプを20グラムの交換水で洗浄し、84℃±2℃で1時間加熱する。最後に室温まで冷やし、得られたポリマーを濾過する。
【0050】
方法C
方法Bと同じであるが、この方法では最初の秤量時にドデシルメルカプタを使用しない点が相違する。
【0051】
方法D
方法Aと同じであるが、この方法では最初の秤量時に0.9グラムのドデシルメルカプタンをビーカーに入れる点が相違する。
【0052】
実施例3
この実施例では媒体の沈殿段階を実行してアルキド樹脂を分散させる本発明方法を示す。さらに、得られる水-ベースのペイント処方と、ペイント製造、特に従来の増粘剤(epaississants)の存在下でペイント組成物の製造の実施例とを示す。
【0053】
テスト1a
このテストでは会合性疎水性ポリマーの存在下でアルキド樹脂の水−ベースの処方を製造する方法を示す。
先ず最初に、下記のものから成る、乾燥重量で30%の水性分散液の形をした16.5グラムの疎水性会合ポリマーを秤量する(各モノマーの重量%で表示):
a)37.4%のメタアクリル酸、
b)54.3%のアクリル酸エチル、
c)8.3%の式(I)のモノマー(式(I)で、m=p=0、n=25、q=1、Rはメタクリレート基、R1およびR2は同一で、水素を表し、R’は16個の炭素原子を有する分枝アルキル基(ヘキシルデシル)である)
【0054】
182グラムの水に、150グラムのアルキド樹脂(CRAY VALLEY社からSynolac(登録商標)6868 WD75の名称で市販の樹脂。溶剤を含む)とを導入する。得られた混合物に16.5グラムの上記の会合性疎水性ポリマーを導入する。最後に、水酸化ナトリウムを使用して混合物のpH値を8.5に調節する。クリーム状の混合物が形成されるのが観測される。それから4%リン酸溶液を使用してpHを5.8に下げる。水性媒質中に樹脂の液体分散物が得られる。
この分散物の寸法をMALVERN社から市販のZetasizer(登録商標)ナノS90を用いて動的散乱よって求め、1,400 mnの平均値が得られた。
【0055】
テスト1b
このテストでは、テスト1aで得られた水-ベースの処方を用いて水-ベースのアルキドペイントを製造する本発明の製造方法を示す。
先ず最初に、[表1]に示す各成分を混合して上記ペイントを作る。
【0056】
【表1】

【0057】
このペイントに対して当業者に周知の方法を使用して種々のレオロジーカルな測定を実施した(初期および24時間後の温度は25℃)。粘度はICI粘度と、Stormer粘度およびブルックフィールド粘度とを10rpmおよび100rpm求めた。得られた値は[表2]に示す。これらの値は直ちに簡単に使用可能なペイントの典型的なレオロジ材料値に対応する。すなわち、沈降または大きな相分離がない安定したポットライフを有し、塗布具(ローラまたはブラシ)へのチャージ性に優れ、塗装品質(ブラシ、ローラ、吹付け)に優れている。t=0とt=24時間との間の粘度変化は大抵の水−ベースペイントで見られる典型的なものである。
【0058】
【表2】

【0059】
テスト1−c
300グラムのテスト1bで作ったペイントに、10グラムのCOATEX社から市販の会合性増粘剤(Coapur(登録商標)XS22またはCoapur(登録商標)2025を加えて水-ベースのペイントにした。t=0でテスト1bと同じレオロジー測定を行った。結果は[表3]に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
[表3]は、標準的な水−ベースペイントで使用されている増粘剤が本発明の水-ベースのアルキド塗料でも効果的に増粘できることを示している。このことはアルキド樹脂を水中に完全に分散させることができるということ、最終的に水-ベースのアルキド塗料が得られるということを明確に示している。さらに、こうして水中に可溶化されたアルキド樹脂は、水相用に疎水性変性した増粘剤との間にいわゆる会合性の相互作用を生じさせる能力(ポテンシャル)を有しており、ペイントの主たる塗布特性(充填性、塗布速度の制御、耐投射性、流動性)を制御できる。この相互作用の効率は特にStormer粘度およびICI粘度の増加によって定量化できる。
【0062】
実施例4
テスト2a
このテストでは会合性疎水性ポリマーの存在下で、溶剤無しに、アルキド樹脂の水-ベース処方を製造する方法を示す。
先ず最初に、機械的攪拌器、加熱装置および蒸留装置を備えた1リットルの反応装置中に、下記から成る、乾燥重量で30%の水性分散液の形をした16.5グラムの会合性疎水性ポリマーを計量する(各モノマーの重量%で表示):
a)37.4%のメタアクリル酸、
b)54.3%のアクリル酸エチル、
c)8.3%の式(I)のモノマー(式(I)で、m=p=0、n=25、q=1、Rはメタアクリレート基、R1およびR2は同一で、水素を表し、R’は16個の炭素原子を有する分岐アルキル基(ヘキシルデシル基)である)
【0063】
182グラムの水中にCRAY VALLEY社からSynolac(登録商標)6868 WD75の名称で市販のアルキド樹脂の150グラムを導入した。得られた混合物中に16.5グラムの上記の会合性疎水性ポリマーを導入した。混合物の温度が100℃に達するまで大気圧で48mlの水と40mlの有機溶媒とを蒸留した。最後に、水酸化ナトリウムを使用して混合物のpH値を8.5に調節し、約15分間撹拌した。クリーム状の混合物が形成されるのが観測される。それから4%リン酸溶液を使用してpHを5.8に下げる。水溶媒質中に液体の樹脂分散物が得られる。
この分散物の寸法をMALVERN社からZetasizer(登録商標)ナノS90の名称で市販の動的散乱装置を用いて求めた。1,200mnの平均値が得られた。
【0064】
テスト2b
このテストてはテスト2aで得られた水-ベースの処方を用いて、本発明の方法で水-ベースのアルキドペイントを製造する方法を示す。
具体的には[表4]に示す各成分を混合してペイントを製造する。
【0065】
【表4】

【0066】
得られたペイントに対して上記と同じレオロジー測定を実施した。結果は[表5]に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
使い易い塗布可能なペイントの特性値が得られた。このペイントは十分に安定したポットライフを有し、沈降または過剰に相分離せず、塗布具(ローラ、ブラシ)の充填性に優れ、塗布品質(ブラシ、ローラ、吹付け)に優れている。
【0069】
テスト2c
337グラムのテスト2bで得られたペイントに、9グラムのCOATEX社から市販の水-ベースのペイント用の増粘剤、Coapur(登録商標)XS 22)を加えた。テスト2bと同じ方法でt=0でのレオロジーを測定した。結果は[表6]に示した。
【0070】
【表6】

【0071】
[表6]の結果は水-ベースのアルキド塗料で通常使用されている増粘剤によって本発明のは水-ベースのペイントが効果的に増粘できるということを示している。このことはアルキド樹脂を水中に完全に分散させることができるということを証明しており、それによって最終的に水-ベースのアルキド塗料が得られるということを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の段階を有することを特徴とする少なくとも一種のアルキド樹脂を水中に分散させる方法:
(a) 下記(1)〜(3):
(1)(メタ)アクリル酸である少なくとも一種のモノマー、
(2)(メタ)アクリル酸エステルある少なくとも一種のモノマー、
(3)少なくとも一種の会合性「アソシアティブ、associative、結合性」疎水性モノマー、
から成る少なくとも一種の会合性ポリマーと、少なくとも一種のアルキド樹脂および水とを混合し、
(b) 段階(a)で得られた混合物のpH値を6以上、好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上に調節し、
(c) 必要に応じて、pH値を6以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下に調整して、段階(b)で得られた混合物を沈殿させる。
【請求項2】
段階(c)を実行する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(b)で無機または有機の塩基を用いてpH値を調節する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階(c)でpH値をやや強い酸または強酸を用いて調節する請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階(a)の混合物中で全重量に対して乾燥重量で0.1%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、より好ましくは0.1%〜5%が会合性ポリマーである請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
段階(a)の混合物中で全重量に対して乾燥重量で少なくとも5%、好ましくは少なくとも20%、さちに好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくはが少なくとも35%が一種のアルキド樹脂であり、少なくとも一種のアルキド樹脂は70重量%以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
会合性ポリマーの(メタ)アクリル酸エステルモノマーがアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸メチルおよびこれらの混合物の中から選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
会合性ポリマーの会合性疎水性モノマーが下記一般式(I)を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法:

(ここで、
m、n、p、qは整数で、m、n、pは150以下、qは0以上で、m、n、pの中の少なくとも一つの整数はゼロではなく、
Rは少なくとも一つの重合可能なビニル基を有し、
1とR2は水素原子またはアルキルを表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
R'は、少なくとも6個かつ最大で36個の炭素原子、好ましくは少なくとも16個かつ最大で24個の炭素原子、より好ましくは少なくとも18個かつ最大で22個の炭素原子を有する疎水性基である)
【請求項9】
アルキド樹脂がポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタン-ポリエステル樹脂およびこれらの混合物の中から選択される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法で得られることを特徴とする水−ベースの組成物。
【請求項11】
水と、少なくとも一種のアルキド樹脂と、下記(1)〜(3):
(1)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸モノマー、
(2)少なくとも一種の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、
(3)少なくとも一種の会合性疎水性モノマー。
から成る少なくとも一種の会合性ポリマーとを含ことを特徴とする水-ベースの組成物。
【請求項12】
pHが6以上、好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上である請求項11に記載の水-ベースの組成物。
【請求項13】
pHが6以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下である請求項11に記載の水-ベースの組成物。
【請求項14】
無機または有機の塩基をさらに含む請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
やや強い酸または強酸をさらに含む請求項11〜14のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物。
【請求項16】
全重量に対して乾燥重量で0.1%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、より好ましくは0.1%〜5%の会合性ポリマーを含む請求項11〜15のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物。
【請求項17】
全重量に対して乾燥重量で少なくとも5%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも35%の少なくとも一種のアルキド樹脂を含み、この少なくとも一種のアルキドは最大で70重量%である請求項11〜16のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物。
【請求項18】
会合性ポリマー中の(メタ)アクリル酸エステルモノマーがアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルおよびこれらの混合物の中から選択される請求項11〜17のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物。
【請求項19】
会合性ポリマーの会合性疎水性モノマーが下記一般式(I)を有する請求項11〜18のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物:

(ここで、
m、n、p、qは整数で、m、n、pは150以下、qは0以上で、m、n、pの中の少なくとも一つの整数はゼロではなく、
Rは少なくとも一つの重合可能なビニル基を有し、
1とR2は水素原子またはアルキルを表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
R'は、少なくとも6個かつ最大で36個の炭素原子、好ましくは少なくとも16個かつ最大で24個の炭素原子、より好ましくは少なくとも18個かつ最大で22個の炭素原子を有する疎水性基である)
【請求項20】
アルキド樹脂がポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタン−ポリエステル樹脂およびこれらの混合物の中から選択される請求項11〜19のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物。
【請求項21】
請求項11〜20のいずれか一項に記載の水-ベースの組成物の、ペイント、ラッカー、ニスまたは木材防腐剤の製造での使用。
【請求項22】
請求項21に記載の水-ベースの組成物の使用で得られるペイント、ラッカー、ニスおよび木材防腐剤。

【公表番号】特表2011−517467(P2011−517467A)
【公表日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500302(P2011−500302)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【国際出願番号】PCT/IB2009/000408
【国際公開番号】WO2009/115880
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(398051154)コアテツクス・エス・アー・エス (35)
【Fターム(参考)】