説明

伝動ベルト用帆布、これを用いた伝動ベルト、及び伝動ベルト用帆布の製造方法

【課題】 伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部に関し、背面プーリ上で異音や振動を生ずることなく、また一定走行後にも帆布の剥離を生ずることなく、同時に帆布の継ぎ合わせ部においてジョイント強度が高く、かつ継ぎ合わせ部でクラックを生じにくい構造を有する帆布を提供する。
【解決手段】 綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された伝動ベルト用帆布であって、複数枚の帆布を長尺となるように継ぎ合わされてなり、該継ぎ合わせ部において、相隣る両帆布は互いの熱可塑性合成繊維が溶着し、かつ互いの綿繊維が糸の形状を保ちつつ係わり合っていることを特徴とする伝動ベルト用帆布を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト用帆布、これを用いた伝動ベルト、及び伝動ベルト用帆布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用補機駆動に用いられるVリブドベルト等の伝動ベルトには、その背面材料として繊維の織物、編み物を使用するのが一般的である。かかるベルトのサイズ(周長)は任意であり、故に帆布の長さも適宜に調節する必要がある。これまで、伝動ベルトに一般的に用いられている綿、または綿−ポリエステル混紡帆布は、バイヤスカットした2枚の帆布の端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントするか、あるいは2枚の帆布の端面を突き合わせ状態にし、ミシン糸で縫い合わせてジョイントして形成していた。しかし前者は、帆布ラップ部がラップしてない部位との間につくる段差により、背面プーリ上で異音や振動が発生するという問題があった。また後者は、走行中の帆布の継ぎ合わせ部が背面プーリとの接触を繰り返すことによりミシン糸が摩耗し、切断するため、一定走行後は帆布がジョイントされていない状態となり、帆布の剥離の問題があった。
【0003】
このような点を顧慮して、ベルトの背面に被着させる伝動ベルト用帆布としてレゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理を施した帆布を重ね合わせ、その端部を超音波振動により熱圧着させながら、その近傍を溶融切断して所定周長の円筒状帆布を得る方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開第2003−97648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理を施しただけの帆布を用いた上記方法では、帆布の繊維同士が溶着されないので、帆布の継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が非常に低いという問題がある。
【0005】
この点、ジョイント強度を確保するために、ナイロン帆布等、100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着を行うことが考えられている。しかしこの方法では継ぎ合わせ部が完全に溶着してしまうため、ウーリーナイロン糸が本来有する伸び効果がほとんど減殺されてしまい、伝動ベルトの一定走行後には帆布の継ぎ合わせ部においてクラックを生じる確率が高くなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部に関し、背面プーリ上で異音や振動を生ずることなく、また一定走行後にも帆布の剥離を生ずることなく、同時に帆布の継ぎ合わせ部においてジョイント強度が高く、かつ継ぎ合わせ部でクラックを生じにくい構造を有する帆布を提供することにある。また、このような帆布を背面帆布として用いた伝動ベルトを提供することにある。さらに、上記のごとき伝動ベルト用帆布の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記目的を達成するために、綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成した帆布を用い、以下のような発明を行った。
【0008】
すなわち、請求項1に係わる発明は、
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された伝動ベルト用帆布であって、
複数枚の帆布を長尺となるように継ぎ合わされてなり、
該継ぎ合わせ部において、相隣る両帆布は互いの熱可塑性合成繊維が溶着し、かつ互いの綿繊維が糸の形状を保ちつつ係わり合っていることを特徴とする伝動ベルト用帆布である。
【0009】
上記発明の場合、綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用いるので、2枚の帆布の継ぎ合わせ部において、互いの熱可塑性合成繊維同士が溶着する一方、綿繊維は糸の形状を保ちつつ熱可塑性合成繊維の溶着部に入り込み、相手方帆布の綿繊維と係わり合っているという構造の伝動ベルト用帆布を創出しうる。かかる構造によれば、熱可塑性合成繊維が溶着することによって繊維そのものがジョイントするので、帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるという利点と、熱可塑性合成繊維の溶着部においても綿繊維が糸の形状を保っているので、帆布継ぎ合わせ部における相応の伸び効果を維持できるという利点とを併せ持つことが可能になる。
【0010】
請求項2に係わる発明は、
請求項1に記載の伝動ベルト用帆布において、
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡比率につき、熱可塑性合成繊維が20%以上85%以下であることを特徴とする伝動ベルト用帆布である。
【0011】
上記構成の伝動ベルト用帆布とすることにより、帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度と伸び効果との相関関係につき効用が最大化された状態を創出することが可能となる。
【0012】
請求項3に係わる発明は、
請求項1または請求項2に記載の伝動ベルト用帆布が背面帆布として用いられている伝動ベルトである。
【0013】
上記構成の伝動ベルトによれば、帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高く、かつ該継ぎ合わせ部で伸び効果を維持している帆布を背面帆布とした伝動ベルトを提供できるので、伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部における耐クラック性が高まり、故に伝動ベルトの耐久走行時間を長くすることが可能となる。
【0014】
請求項4に係わる発明は、
伝動ベルト用帆布を製造する方法であって、
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸によって形成した帆布をバイアス状にカットして複数枚のバイアスカット帆布を作成する工程と、
該バイアスカット帆布2枚を、それぞれの非カット側端部同士が揃うように、かつ帆布表面同士、ないしは裏面同士が接するように重ね合わせる工程と、
揃えた非カット側端部に沿って互いの熱可塑性合成繊維を溶着させる工程と、
重ね合わせていた上記バイアスカット帆布を開いて1枚の結合帆布とする工程と、
上記溶着部における余り部を切断除去する工程とを備え、
上記各工程を繰り返すことにより上記バイアスカット帆布を複数枚連結して長尺帆布を得ることを特徴とする伝動ベルト用帆布の製造方法である。
【0015】
上記方法によれば、請求項1の発明と同様の構造の伝動ベルト用帆布を創出しうるので、熱可塑性合成繊維が溶着することによって繊維そのものがジョイントし、継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるという利点と、熱可塑性合成繊維の溶着部においても綿繊維が糸の形状を保っているので、帆布継ぎ合わせ部における相応の伸び効果を維持できるという利点とを併せ持つことが可能になる。
【0016】
また、伝動ベルトの形状が所定周長の筒状となるような伝動ベルトを形成する場合にも、筒状帆布を形成するのに付随して必要となる継ぎ合わせ部を、上記したものと同様に、相隣る両帆布の互いの熱可塑性合成繊維を溶着させ、かつ該溶着部において互いの綿繊維が糸の形状を保ちつつ係わり合うように形成することにより、上述した作用効果、すなわち、継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるという利点と、継ぎ合わせ部で相応の伸び効果を維持できるという利点とを併せ持つという作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係わる伝動ベルト用帆布、またこれを用いた伝動ベルト、及び当該伝動ベルト用帆布の製造方法が有する効果として以下の三点を挙げることができる。
【0018】
第一に、継ぎ合わせる2枚の帆布の各端部をラップさせて重ね継ぎによりジョイントするわけではなく、各帆布の端面を突き合わせたのと同等の状態を創出してジョイントするので、帆布ラップ部がラップしてない部位との間につくる段差により背面プーリ上で異音や振動が発生するという問題が生じない。
【0019】
第二に、2枚の帆布の各端面を突き合わせ、ミシン糸で縫い合わせてジョイントするわけではなく、帆布の熱可塑性合成繊維同士を溶着させることによりミシン糸を用いずにジョイントするので、ミシン糸が摩耗、切断して一定走行後に帆布が剥離するという問題が生じない。
【0020】
第三に、上記した通り、綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された帆布を用い、熱可塑性合成繊維が溶着することによって繊維そのものがジョイントするから、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理を施しただけの綿帆布を用いた場合と比較して帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度が高くなるし、また同時に、熱可塑性合成繊維の溶着部のなかに綿繊維が糸の形状を保ちつつ入り込むことにより溶着した熱可塑性合成繊維を介して互いの綿繊維が接着しており、帆布継ぎ合わせ部において相応の伸び効果を維持できるため、ナイロン帆布等、100%合成繊維により形成した帆布を用いて溶着する場合と比較して帆布継ぎ合わせ部でクラックを生じにくい。
【0021】
とりわけ、請求項2に係わる発明の構成の場合、帆布継ぎ合わせ部におけるジョイント強度と伸び効果との相関関係につき、効用が最大化された状態を創出することが可能となり、伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部における耐クラック性も最大限に向上させることができる。
【0022】
また、請求項3に係わる発明によれば、伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部における耐クラック性が高まったことにより、耐久走行時間の長い伝動ベルトを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係わる伝動ベルト用帆布、これを用いた伝動ベルト、及び伝動ベルト用帆布の製造方法の実施例を図面を用いて具体的に説明する。
【0024】
<構造>
まず、本発明に係わる伝動ベルト用帆布、及びこれ用いた伝動ベルトとして、図1に示すVリブドベルト1を例に挙げつつ、その構造を説明する。
【0025】
符号1はVリブドベルト本体を示し、このVリブドベルト1は、ベルト長手方向に延びる心線2が埋設された接着ゴム層3と、ベルト本体の底面においてベルト長手方向へ互いに平行に延びる複数のリブ部4,4,・・・と、ベルト本体の背面を一体に被う、綿−ポリエステル混紡糸7により形成した背面帆布5とを備えている。
【0026】
ここで、背面帆布5にはレゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理が施されており、帆布継ぎ合わせ部6においてレゾルシン−ホルマリン−ラテックス及びポリエステルが溶着することによって2枚の背面帆布5,5がジョイントしている。
【0027】
また、図2は、上記継ぎ合わせ部6をミクロに見た場合において、ジョイントする2枚の背面帆布5,5を織成する綿−ポリエステル混紡糸7,7の綿繊維7a,7a同士が、帆布継ぎ合わせ部6において互いに係わり合っている状態を観念的に示す説明図である。本図ではポリエステル繊維を明示的に描いていないが、ポリエステル繊維は背面帆布5,5の継ぎ合わせ部6の範囲において熱溶着している(符号8)。そして綿繊維7a,7a,・・・は、継ぎ合わせ部6において密に隙間なく溶着したポリエステルの中に糸の形状を保ちつつ埋没しており、故にそれぞれの綿繊維7a,7a,・・・同士は溶着したポリエステルを介して(一部接触しながら)互いに接着している。
【0028】
<製造方法>
次に、本発明に係わる伝動ベルト用帆布の製造方法を図3を用いて説明する。
【0029】
まず、綿−ポリエステル混紡糸7を、縦糸と横糸とが交差角度90°となるように織成し、かつその表面一体にレゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理が施された平織りの帆布5aを用意し、これを図外のバイアスカッターを用いて縦糸が帆布幅方向に対して45°となるようにバイアス状にカットして複数枚のバイアスカット帆布5b,5b,・・・を作成する。
【0030】
そうして得られたバイアスカット帆布2枚5b,5bを、それぞれの非カット側端部の一方同士が揃うようにしながら、かつ帆布表面同士が接するように重ね合わせ、この揃えた非カット側端部に沿って一定幅で直線に高周波振動を加え、互いのバイアスカット帆布5b,5bのレゾルシン−ホルマリン−ラテックス及びポリエステル繊維を熱溶着させる。次に重ね合わせていた上記バイアスカット帆布5b,5bを開いて1枚の結合帆布とし、溶着部における余り部5cを切断除去して帆布継ぎ合わせ部6aを平らに仕上げる。以下このバイアスカット帆布5b,5bを結合させる手順を繰り返すことにより1枚の長尺バイアス帆布5dを得る。なお、重ね合わせていた上記バイアスカット帆布5b,5bを開く前に溶着部における余り部5cを切断除去してもよい。
【0031】
次に、上記方法で得られた長尺バイアス帆布5d,5dを2枚上下に揃えて重ね合わせ、図外の自動送り機を用いて定寸カットし、円筒状のVリブドベルト用帆布12を得る。
【0032】
この工程を図4を用いて詳述すると以下のようになる。すなわち、上下に揃えて重ね合わせた2枚の長尺バイアス帆布5d,5dの所定の箇所で、ホーン部9及び受け治具10を用いて帆布幅方向へ垂直に高周波振動を加え、上下の長尺バイアス帆布5d,5dのレゾルシン−ホルマリン−ラテックス及びポリエステル繊維を互いに熱溶着させつつ、同時にその溶着部略中央を帆布幅方向へ切断して行き、溶融切断部11を得る。ここで、溶融切断部11は、この部位において上下に重ね合わせた2枚の長尺バイアス帆布5d,5d同士をジョイントしながら、かつ幅方向へ切断して形成されている。このことは、重ね合わせていた2枚の長尺バイアス帆布5d,5dを、切り離されて対となった長尺帆布ごとに開いたときに、ちょうど溶融切断部11において、切断した帆布の端面同士を溶着したのと同様の状態を形成していることを意味し、従って溶融切断部11は図3に示す継ぎ合わせ部6bを形成していることになる。この溶融切断部11を、上下に揃えて重ね合わせた2枚の長尺バイアス帆布5d,5dの帆布長手方向に所定の間隔を置いた2カ所において形成することにより、円筒状のVリブドベルト用帆布12を得ることができる。なお、長尺バイアス帆布を作成する場合と同様に、継ぎ合わせ部6bを平らに仕上げる必要がある場合は、溶着部の余り部を切断除去するものとする。
【0033】
<クラック耐久テスト>
まず、図5は本発明に係わる伝動ベルト用帆布に関するクラック耐久テストをどのようにして行ったのかを示す説明図である。すなわち、背面帆布5を被着させた円筒状のVリブドベルト1を、駆動プーリ13及び従動プーリ14,14に掛け渡し、背面プーリ15,15にて75kgfのテンションをかけた状態で走行させている状態を示す。
【0034】
本クラック耐久テストは、この状態でVリブドベルト1を走行させたときに、背面帆布の継ぎ合わせ部6がクラックを生じる(より詳しく言えば、継ぎ合わせ部6において生じたクラックが心線2層にまで到達する)までの走行時間が、背面帆布の素材の種類によってどのように変じるのかをみたものである。その結果を図6、図7、図8に示す。
【0035】
まず、図6は、各素材の背面帆布の継ぎ合わせ部におけるジョイント強度と伸び率(帆布縦糸方向で強度測定時の破断伸び測定)、さらに継ぎ合わせ部にクラックが生じるまでの走行時間の3点を数値で示したものである。
【0036】
各帆布を構成する縦糸と横糸は、ともに295dtexの2本撚りで、幅5cmにおける打ち込み本数は80本とし、帆布の厚みはそれぞれ0.7mmとした。またそれぞれ、原反に対する質量比が13%ないし15%のレゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理を施し、継ぎ合わせ部は周波数20khzで加振して溶着している。そして、各帆布のサンプル長は250mmで、ジョイント強度測定における引っ張り速度は500mm/minとした。綿−ポリエステル混紡糸で形成した帆布は、テスト条件を合わせるためにバイアス加工を施さず、縦糸が帆布幅方向に対して90°となるように継ぎ合わせ加工した状態で縦糸方向に強度測定し、他方ナイロン帆布は横糸ナイロン糸を用いた2/2綾織り帆布を横糸に平行に継ぎ合わせ、縦糸方向で強度測定した。
【0037】
この図6から、ジョイント強度、伸び率ともに、綿のみを用いた帆布をミシンにより継ぎ合わせたものが最も優れているということができるが、この綿のみを用いた帆布では継ぎ合わせ部にミシン糸を用いているため、ベルトの走行に伴い背面プーリ上でミシン糸が摩耗し、切断するという問題があり、それに起因してクラック耐久力が低い。従ってクラックが生じるまでの走行時間は、綿/ポリエステル比が40%/60%である素材の背面帆布の場合と比較して半分以下の数値となっていることがわかる。クラックが生じるまでの走行時間からみて、綿/ポリエステル比が60%/40%ないし40%/60%である素材の背面帆布が最も優れていると結論づけることが可能である。また逆に、綿あるいはポリエステルの含有比率がどちらかへ偏った場合は十分なクラック耐久力を示さないことも読みとれる。
【0038】
図7は図6における各素材の背面帆布のジョイント強度及び伸び率を参考のためにグラフ化したものである。ここではクラックが生じるまでの走行時間は示されていない。
【0039】
図8は図6における各素材のクラックが生じるまでの走行時間をグラフ化して示しており、特に綿−ポリエステル混紡糸で形成した帆布について綿/ポリエステル比の変化に応じて耐クラック走行時間がどのように変じるかを明示したものである。この図8からも、上記した通り、綿/ポリエステル比が60%/40%ないし40%/60%であるときに帆布継ぎ合わせ部においてクラックが生じるまでの走行時間は最も長くなるということができる。
【0040】
以上のテストから、綿/ポリエステル比がおよそ50%/50%の時に、走行中の帆布のクラック寿命は最も優れるということができる。これは次のような事情によるものと考えられる。
【0041】
すなわち、綿含有比率が増大するとともにポリエステル含有比率が減少し、従って帆布継ぎ合わせ部における溶着部分の体積が減るためジョイント強度が弱くなり、早期破損につながる。また逆にポリエステル含有比率が増加すると、溶着部分の体積が増えるため帆布のジョイント強度は高くなるが、他方綿含有比率が減少するため帆布継ぎ合わせ部における伸び率が低下して割れやすくなり、同様に早期破損してしまう。
【0042】
ジョイント強度及び伸び率という両方の観点からみて最も適当な綿/ポリエステル比がおよそ50%/50%の時であるということである。
【0043】
<作用効果>
本来Vリブドベルトに用いられる背面帆布材料は、周方向への柔軟性を付与するためにバイヤス加工されており、周方向に対し各糸は規定の角度を持っている。従ってバイヤス加工により周方向への柔軟性を有するが、ジョイント部はポリエステル成分が溶着されているため、ほとんど伸びを持たない。よってナイロン、ポリエステルなどの合成繊維は走行中に帆布継ぎ合わせ部の早期破損を引き起こす。
【0044】
綿帆布は、繊維自体が溶着しないためジョイント強度が非常に弱く、走行初期から帆布継ぎ合わせ部が破損してしまう。またミシンによる継ぎ合わせでは、ジョイント強度は高いが、ベルトの走行に伴いミシン糸が摩耗、切断し、継ぎ合わせ部においてクラックが発生する。
【0045】
以上の素材の帆布に比較して、綿−ポリエステル混紡帆布は、ポリエステル成分が高周波加振時に溶着し、物理的に合成繊維を介してジョイントしている。ここで、合成繊維は溶着時に溶けてしまうため、繊維に糸の形状がなくなり、伸びをほとんど維持しないが、綿繊維はポリエステル成分の溶着部のなかに糸の形状を保ちつつ埋没しているため、糸そのものの持つ伸びを維持している(図2参照)。よって綿/ポリエステル比が約50%/50%の時に帆布は必要なジョイント強度と伸びを有しており、帆布継ぎ合わせ部における耐クラック性が最も向上する。
【0046】
なお、上記実施例では、伝動ベルトがVリブドベルトである場合を示したが、帆布を被着させる伝動ベルトであればその種類を問わず、本発明を適用することができる。
【0047】
また、帆布の素材として綿−ポリエステル混紡糸により形成した帆布を示したが、綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸で形成したものであればその種類は問わない。
【0048】
さらに、綿−ポリエステル混紡糸により形成した帆布の場合、帆布継ぎ合わせ部を形成する際にポリエステルを溶着させるために加振する高周波は10khzないし30khzであることが好ましいが、選択した熱可塑性合成繊維の種類に応じて適当な振動数の高周波を選ぶものとする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係わる伝動ベルト用帆布を用いて形成された伝動ベルトの構造を示す斜視図。
【図2】本発明に係わる伝動ベルト用帆布の継ぎ合わせ部において、相隣る帆布を織成する綿−ポリエステル混紡糸の綿繊維同士が互いに係わり合っている状態を示す説明図。
【図3】本発明に係わる伝動ベルト用帆布の製造方法を示す説明図。
【図4】円筒状のVリブドベルト用帆布を得る方法を示す説明図。
【図5】本発明に係わる伝動ベルト用帆布に関するクラック耐久テストをどのように行ったのかを示す説明図。
【図6】本発明に係わる伝動ベルト用帆布に関するクラック耐久テストの結果を数値で表した図表。
【図7】本発明に係わる伝動ベルト用帆布に関するクラック耐久テストの結果を示すグラフ図。
【図8】本発明に係わる伝動ベルト用帆布に関するクラック耐久テストの結果を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0050】
1 Vリブドベルト
2 心線
3 接着ゴム層
4 リブ部
5 背面帆布
5a 平織りの帆布
5b バイアスカット帆布
5c 余り部
5d 長尺バイアス帆布
6 帆布継ぎ合わせ部
6a 2枚のバイアスカット帆布5b,5bをジョイントした継ぎ合わせ部
6b 長尺バイアス帆布から円筒状の帆布を得るためにジョイントした継ぎ合わせ部
7 綿−ポリエステル混紡糸
7a 綿繊維
8 ポリエステル繊維溶着部
9 ホーン部
10 受け治具
11 溶融切断部
12 円筒状のVリブドベルト用帆布
13 駆動プーリ
14 従動プーリ
15 背面プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸により形成された伝動ベルト用帆布であって、
複数枚の帆布を長尺となるように継ぎ合わされてなり、
該継ぎ合わせ部において、相隣る両帆布は互いの熱可塑性合成繊維が溶着し、かつ互いの綿繊維が糸の形状を保ちつつ係わり合っていることを特徴とする伝動ベルト用帆布。
【請求項2】
請求項1に記載の伝動ベルト用帆布において、
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡比率につき、熱可塑性合成繊維が20%以上85%以下であることを特徴とする伝動ベルト用帆布。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の伝動ベルト用帆布が背面帆布として用いられている伝動ベルト。
【請求項4】
伝動ベルト用帆布を製造する方法であって、
綿繊維と熱可塑性合成繊維との混紡糸によって形成した帆布をバイアス状にカットして複数枚のバイアスカット帆布を作成する工程と、
該バイアスカット帆布2枚を、それぞれの非カット側端部同士が揃うように、かつ帆布表面同士、ないしは裏面同士が接するように重ね合わせる工程と、
揃えた非カット側端部に沿って互いの熱可塑性合成繊維を溶着させる工程と、
重ね合わせていた上記バイアスカット帆布を開いて1枚の結合帆布とする工程と、
上記溶着部における余り部を切断除去する工程とを備え、
上記各工程を繰り返すことにより上記バイアスカット帆布を複数枚連結して長尺帆布を得ることを特徴とする伝動ベルト用帆布の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−125426(P2006−125426A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310650(P2004−310650)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】