説明

伝動ベルト

【課題】従来の寿命を確保した上でアウトガスが少なく且つ耐熱性に優れた伝動ベルトを提供する。
【解決手段】真空高温下で使用される搬送ロボット用の伝動ベルトであって、フッ素ゴムであるゴム組成物100重量部に対して、FT法により製造されたカーボン20〜80重量部を配合させてなるゴム加硫物により成型されている。ゴム組成物100重量部に対して、内添型接着剤4〜24重量部を配合させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体や液晶ディスプレイの搬送ロボット、特にこのロボットに使用される伝動ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶ディスプレイ製造プロセスにおいては、成膜、スパッタリング、エッチングなど種々の真空処理が行われる。この種の真空処理装置では真空室内で例えば半導体ウエハを搬送する搬送装置が必要となるが、この搬送用ロボットの各構成部品は真空高温下で耐え得る構造とすることに加え、発塵やアウトガスを発生しにくい材質、構造とすることが要求される(例えば、特許文献1。)。
【0003】
ところで、これまでの搬送ロボットの伝動ベルトではクロロプレンゴムや熱可塑性ウレタンベルトを使用していたため、上記のようなプロセスに使用した場合には次に示すような問題が発生した。
(クロロプレンゴムベルトの場合)
このベルトでは、老化防止剤及び可塑剤を使用しているため時間の経過に伴いアウトガスが発生し、真空室の真空度が所定に到達しないと共に、半導体ウエハの汚染を引き起こすという問題が生じる。
(熱可塑性ウレタンベルトの場合)
このベルトは耐熱性を有していないので、温度が80℃以上に達する(真空室内の温度は100℃以上に達する)ようなところではベルト自体が軟化して使用できないという問題が生じる。
【0004】
近年、真空高温下で使用される搬送ロボットを取り扱う業界では、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れた伝動ベルトが開発されることを待ち望んでおり、さらに、従来の寿命を確保した上で、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れた伝動ベルトが開発されることを待ち望んでいる。
【特許文献1】特開平9−131680
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明では、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れた伝動ベルトを提供することを課題とする。
【0006】
また、この発明では、従来の寿命を確保した上で、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れた伝動ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔請求項1記載の発明〕
この発明は、真空高温下で使用される搬送ロボット用の伝動ベルトであって、フッ素ゴムであるゴム組成物100重量部に対して、FT法により製造されたカーボン20〜80重量部を配合させてなるゴム加硫物により成型されている。
〔請求項2記載の発明〕
この発明の伝動ベルトは、上記請求項1記載の発明に関し、ゴム組成物100重量部に対して、内添型接着剤4〜24重量部を配合させてある。
【発明の効果】
【0008】
この発明の伝動ベルトによると、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れているので、真空高温下で使用される搬送用ロボットに適用することができる。
【0009】
また、この発明の動力伝達ベルトによると、従来の寿命を確保した上で、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れているので、真空高温下で使用される搬送用ロボットに適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下にこの発明の伝動ベルトを実施するための最良の形態としての実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1はこの発明の実施例の伝動ベルトBの断面図を示している。
(この伝動ベルトBの基本的構成と、成型方法の概略説明について)
この伝動ベルトBは、図1に示すように、板状のベルト本体1の片面長手方向に沿って歯部2と歯底部3が交互に一体成形され、前記歯部2及び歯底部3の形成面が帆布4で被覆されていると共に、ベルト本体1内にベルト長手方向に延びる複数の心線5が埋設されるようにして構成されている。
【0012】
また、前記伝動ベルトBは、例えば加硫缶を使用して成型され、具体的には、歯形成溝を有する円筒状の金型の外周面に、(1)帆布4となる帆布用ジャケット、(2)ベルト本体1の一部、歯部2及び歯底部3ベルト本体1となるゴム板、(3)心 線5、(4) ベルト本体1の一部となるゴム板、の順番で巻回し、加熱状態を維持しながらシェルバッグにより外部から金型に向かって加圧するようにして成型されてなる。なお、この製造方法は周知技術であるので特に詳述しない。
【0013】
(ベルト本体1、歯部2及び歯底部3について)
このベルト本体1、歯部2と歯底部3は、フッ素ゴムであるゴム組成物(FKMポリマー)100重量部に対して以下のa〜eが配合されたもので構成されている。
【0014】
a.FTカーボン :40重量部
b.酸化亜鉛 :5重量部
c.トリアリルイソシアヌレート :2重量部
d.内添型接着剤 :4重量部
e.パーオキサイド(粉末加硫剤) :3重量部
「フッ素ゴムに関する内容」
一般名称はフッ化ビニリデン−4フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系共重合ゴムであり、高い耐熱性及び耐油性を有するものである。例えば、DuPont株式会社の「Viton VTR8500(商品名)」等が使用できる。なお、このゴム組成物の硬さは常温でDURO85〜95Aの範囲であることが好ましい。
「FTカーボンに関する内容」
FTカーボンは補強剤として使用されるものである。
【0015】
従来フッ素ゴムに配合されていたSRF法により製造されたカーボンブラック(SRFカーボン)の平均粒子径(60〜90nm)に比べて、大きな平均粒子径(90〜210nm)であるFT法により製造されたカーボンブラック(FTカーボン)を配合することにより内部発熱が減少して伝動ベルトの耐熱性が向上する。
【0016】
また、平均粒子径が大きいため分散性がよく、フッ素ゴムに大量に充填することができて、時間が経過してもアウトガスとしての効果もある。
「酸化亜鉛に関する内容」
酸化亜鉛は、加硫促進助剤として使用されるが、FTカーボンと同様に補強剤としての効果も有する。
「トリアリルイソシアヌレートに関する内容」
トリアリルイソシアヌレートは加硫助剤として使用される。
【0017】
このトリアリルイソシアヌレートとしては、例えば日本化成株式会社のTAIC(商品名)を用いることができる。
「内添型接着剤に関する内容」
内添型接着剤は、ベルト本体1と心線5との接着、及び歯部2及び歯底部3の形成面と帆布4との接着を向上させるものであり、具体的にはマレイン酸変性液状ポリブタジエン(例えば、RICON RESINS株式社の「Ricobond173IHS(商品名)」)が採用できる。その他、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリブタジエン、アクリル酸変性液状ポリブタジエン、ウレタン変性液状ポリブタジエン、カルボン変性液状ポリブタジエン、マレイン酸変性液状ポリイソプレン等を使用することができる。
「パーオキサイドに関する内容」
パーオキサイドは加硫剤として使用され、例えば、日本油脂株式会社の「ペロキシモンF−40(商品名)」を使用できる。
(帆布4について)
帆布4は、アラミド(ナイロン、ウレタン含有)により構成されており、RFL処理してなるものであるが、ラテックスとしてカルボキシル化変性水添NBRを採用している。したがって、この帆布4はフッ素ゴムとの接着性が良好になっている。
(心線5について)
この心線5は、撚りをかける前にRFL処理して成るフィラメント弾性係数が80〜110GPaの高強度ガラス心線であり、その後のオーバーコート処理はエポキシ系処理剤(金属酸化物含有)とフェノール樹脂系処理剤を混合したもので行っている。したがって、この心線5はフッ素ゴムとの接着性が良好になっている。その他スチール心線やアラミド心線も使用できる。さらに、高い応答性や停止精度が要求される場合は心線を構成する素材の弾性率が200〜300GPaのカーボン心線も使用できる。
(この伝動ベルトBの優れた効果について)
この伝動ベルトBは、上記のような構成であるから次の効果を奏する。
(1)この伝動ベルトBは、本体1、歯部2及び歯底部3は、ゴム組成物をフッ素ゴムとしているので、耐熱性に優れており、150℃という高温下であってもベルト自体が劣化することはなく使用可能である。
(2)この伝動ベルトBにおける本体1、歯部2及び歯底部3は、フッ素ゴムであるゴム組成物に、FTカーボン(補強剤)、酸化亜鉛(加硫促進助剤)、トリアリルイソシアヌレート(液体加硫助剤)等を配合したものであり、半導体や液晶ディスプレイの製造において、影響度が大きいアウトガス(シロキサン、ヘキサン、シリカ)が発生しない。帆布4及び心線5についても、その構成からすると、半導体や液晶ディスプレイの製造において、影響度が大きいアウトガスは発生しない。
【0018】
この伝動ベルトBを使用した場合、真空室の真空度合いの低下を招きにくい。
【0019】
(3) 本体1、歯部2及び歯底部3を構成するゴム組成物をフッ素ゴムとしているから帆布4及び心線5との接着は良好ではないと考えられるが、この実施例ではフッ素ゴムに内添型接着剤を配合することにより帆布4及び心線5との接着性を高めている。
【0020】
また、帆布4は、RFL処理に使用する処理液中のラテックスを、カルボキシル化変性水添NBRを採用しているから、当該帆布4はフッ素ゴムとの接着性が良好になっている。
【0021】
更に、この心線5では、RFL処理後のオーバーコート処理に、エポキシ系処理剤(金属酸化物含有)とフェノール樹脂系処理剤を混合しもので行っているから、当該心線5はフッ素ゴムとの接着性が良好になっている。
【0022】
したがって、本体1、歯部2及び歯底部3、帆布4、心線5相互の接着性は優れており、伝動ベルトBとしての機能を十分に発揮でき、ベルト寿命も十分になる。
(4) 撚りをかける前にRFL処理して成るガラス心線
この伝動ベルトBでは、心線5は高強度ガラス心線であるから、位置決め精度が優れたものとなる。
【0023】
(5)上記(1)〜(4)に示したことから、
この伝動ベルトによると、従来の寿命を確保した上で、アウトガスが少なく且つ耐熱性に優れ、更に寸法安定性に優れているので、真空高温下で高い位置決め精度が要求される搬送用ロボットに適用することができることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例の伝動ベルトBの断面図。
【符号の説明】
【0025】
B 伝動ベルト
1 ベルト本体
2 歯部
3 歯底部
4 帆布
5 心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空高温下で使用される搬送ロボット用の伝動ベルトであって、フッ素ゴムであるゴム組成物100重量部に対して、FT法により製造されたカーボン20〜80重量部を配合させてなるゴム加硫物により成型されたことを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
ゴム組成物100重量部に対して、内添型接着剤4〜24重量部を配合させてあることを特徴とする伝動ベルト。

【図1】
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【公開番号】特開2007−40363(P2007−40363A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223760(P2005−223760)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】