説明

伝動ベルト

【課題】伝動ベルトにおいて、低温下での圧縮ゴム層のクラックの発生を抑止する。
【解決手段】伝動ベルトBは、ベルト幅方向にピッチを形成するように螺旋状に設けられた心線16が埋設された接着ゴム層11と、接着ゴム層11のベルト内周側に設けられた圧縮ゴム層12とと有し、圧縮ゴム層がプーリ接触部を構成するものである。圧縮ゴム層12は、有機過酸化物により架橋された架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上のエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト幅方向にピッチを形成するように螺旋状に設けられた心線が埋設された接着ゴム層とそのベルト内周側に設けられた圧縮ゴム層とを有し、その圧縮ゴム層がプーリ接触部を構成する伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機駆動用ベルトとしてVリブドベルトが一般に広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、接着ゴム層と圧縮ゴム層からなる動力伝動用ベルトにおいて、少なくとも圧縮ゴム層としてエチレン−α−オレフィンエラストマーに短繊維を配合したゴム組成物を使用し、そのエチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量を53〜75質量%にし、短繊維の長さを0.5〜4.0mmの範囲内とすることが開示されている。そして、これにより、耐屈曲疲労性が改善され、また、耐熱性、耐寒性、耐摩耗性に優れると共に圧延性や伝達性にも優れる動力伝動用ベルトが得られると記載されている。
【特許文献1】特開2004−190686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、伝動ベルトにおいて、低温下での圧縮ゴム層のクラックの発生を抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成する本発明は、ベルト方向にピッチを形成するように螺旋状に設けられた心線が埋設された接着ゴム層と、該接着ゴム層のベルト内周側に設けられた圧縮ゴム層と、を有し、該圧縮ゴム層がプーリ接触部を構成する伝動ベルトであって、
上記圧縮ゴム層は、有機過酸化物で架橋された架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上のエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で形成されていることを特徴とする。
【0006】
上記の構成によれば、架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上のエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で圧縮ゴム層が形成されているので、ベースポリマーであるエチレン−α−オレフィンエラストマーの分子が拘束されて分子運動が規制され、そのため、低温下においてもベースポリマーの分子の整列による結晶化が生じにくく、柔軟性を保つことができ、結果としてクラックの発生が抑制され、優れた耐寒性を得ることができる。
【0007】
本発明の伝動ベルトは、該圧縮ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物に、流動点が−20℃以下の可塑剤が添加されているものであることが好ましい。
【0008】
上記の構成によれば、流動点が−20℃以下の流動性のよい可塑剤がベースポリマーの分子間に介在することとなるので、圧縮ゴム層の柔軟性の保持性能が高められ、より優れた耐寒性を得ることができる。
【0009】
本発明の伝動ベルトは、上記圧縮ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物に、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して短繊維40質量部以下が配合されているものであってもよい。
【0010】
上記の構成によれば、耐熱性及び耐寒性を低下させることなく、短繊維による摩擦係数の低減に伴うベルト走行時における低い発音性及び優れた耐摩擦性を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成によれば、架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上のエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で圧縮ゴム層が形成されているので、その柔軟性を保つことができ、結果としてクラックの発生が抑制され、優れた耐寒性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係るVリブドベルトBを示す。このVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置に用いられるものであり、ベルト周長700〜3000mm、ベルト幅10〜36mm、及びベルト厚さ4.0〜5.0mmに形成されている。
【0014】
このVリブドベルトBは、ベルト外周側の接着ゴム層11とベルト内周側の圧縮ゴム層12との二重層に構成されたVリブドベルト本体10を備えており、そのVリブドベルト本体10のベルト外周側表面に補強布17が貼設されている。また、接着ゴム層11には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられた心線16が埋設されている。
【0015】
接着ゴム層11は、断面横長矩形の帯状に構成され、例えば、厚さ1.0〜2.5mmに形成されている。接着ゴム層11は、ゴム成分に種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。接着ゴム層11を構成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。これらのうち、環境に対する配慮や耐摩耗性、耐クラック性などの性能の観点から、エチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラックなどの補強材、充填材等が挙げられる。なお、接着ゴム層11を形成するゴム組成物は、ゴム成分に配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたものである。
【0016】
圧縮ゴム層12は、プーリ接触部分を構成する複数のVリブ13がベルト内周側に垂下するように設けられている。これらの複数のVリブ13は、各々がベルト長さ方向に延びる断面略逆三角形の突条に形成されていると共に、ベルト幅方向に並設されている。各Vリブ13は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmに形成されている。また、リブ数は、例えば、3〜6個である(図1では、リブ数が6)。
【0017】
圧縮ゴム層12は、ベースポリマーであるエチレン−α−オレフィンエラストマーに種々の配合剤が配合されたエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で形成されている。圧縮ゴム層12を構成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物のベースポリマーのエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)等が挙げられる。配合剤としては、例えば、有機過酸化物(架橋剤)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、カーボンブラックなどの補強材、充填材、超高分子量ポリエチレン粒子(重量平均分子量100万以上)、短繊維14等が挙げられる。可塑剤としては、ベースポリマーの分子間に介在し、柔軟性の保持性能を高め、優れた耐寒性を得ることができる観点から、流動点が−20℃以下のものが好ましい。
【0018】
圧縮ゴム層12を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物は、ゴム成分に配合剤が配合されて混練された未架橋エチレン−α−オレフィンエラストマー組成物を加熱及び加圧して有機過酸化物により架橋させたものであり、架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上である。このエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物の架橋網目鎖濃度は架橋剤として使用する有機過酸化物の添加量によって制御することができる。なお、架橋剤として硫黄を併用してもよい。また、架橋網目鎖濃度は、厚さ1mmのゴム片を溶媒(例えば、ベンゼン等)に十分な時間(例えば、48時間)浸漬した後、膨潤による体積を確認し、下記式に基づいて算出される。
【0019】
【数1】

【0020】
圧縮ゴム層12を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物には短繊維14が配合されているが、その短繊維14は、ベルト幅方向に配向するように設けられている。短繊維14のうち一部分は、プーリ接触表面、つまり、Vリブ13表面に露出している。Vリブ13表面に露出した短繊維14は、Vリブ13表面から突出していてもよい。
【0021】
短繊維14としては、例えば、ナイロン短繊維、ビニロン短繊維、アラミド短繊維、ポリエステル短繊維、綿短繊維等が挙げられる。
【0022】
短繊維14は、例えば、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(以下「RFL水溶液」という。)等に浸漬した後に加熱する接着処理が施された長繊維を長さ方向に沿って所定長に切断して製造される。短繊維14は、例えば、長さが0.2〜5.0mmであり、3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。短繊維14は、例えば、繊維径が10〜50μmである。
【0023】
短繊維14は、ゴム成分100質量部に対する配合量が40質量部以下であることが好ましい。それにより耐熱性及び耐寒性を低下させることなく、短繊維14による摩擦係数の低減に伴うベルト走行時における低い発音性及び優れた耐摩擦性を得ることができる。
【0024】
接着ゴム層11と圧縮ゴム層12とは、別々のゴム組成物で形成されていても、また、全く同じゴム組成物で形成されていてもいずれでもよい。
【0025】
補強布17は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸で形成された平織、綾織、朱子織等に製織した織布17’で構成されている。補強布17は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理及び/又はVリブドベルト本体10側となる表面にゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理が施されている。なお、補強布17の代わりにベルト外周側表面部分がゴム組成物で構成されていてもよい。また、補強布17は、編物で構成されていてもよい。
【0026】
心線16は、ポリエステル繊維(PET)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN)、アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸16’で構成されている。心線16は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。
【0027】
次に、上記VリブドベルトBの製造方法を図2に基づいて説明する。
【0028】
VリブドベルトBの製造では、外周にベルト背面を所定形状に形成する成形面を有する内金型と、内周にベルト内側を所定形状に形成する成形面を有するゴムスリーブとが用いられる。
【0029】
まず、内金型の外周を補強布17となる織布17’で被覆した後、その上に、接着ゴム層11の外側部分11bを形成するための未架橋ゴムシート11b’を巻き付ける。
【0030】
次いで、その上に、心線16となる撚り糸16’を螺旋状に巻き付けた後、その上に、接着ゴム層11の内側部分11aを形成するための未架橋ゴムシート11a’を巻き付け、さらにその上に、圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシート12’を巻き付ける。このとき、圧縮ゴム層12を形成するための未架橋ゴムシート12’として、巻付方向に直交する方向に配向した短繊維14が配合されたものを用いる。
【0031】
しかる後、内金型上の成形体にゴムスリーブを被せてそれを成形釜にセットし、内金型を高熱の水蒸気などにより加熱すると共に、高圧をかけてゴムスリーブを半径方向内方に押圧する。このとき、ゴム成分が流動すると共に架橋反応が進行し、加えて、撚り糸16’及び織布17’のゴムへの接着反応も進行する。そして、これによって、筒状のベルトスラブ(ベルト本体前駆体)が成形される。
【0032】
そして、内金型からベルトスラブを取り外し、それを長さ方向に数個に分割した後、それぞれの外周を研磨切削してVリブ13、つまり、プーリ接触部分を形成する。このとき、プーリ接触表面に露出する短繊維14は、プーリ接触表面、つまり、Vリブ13表面から突出した形態となっていてもよい。
【0033】
最後に、分割されて外周にVリブ13が形成されたベルトスラブを所定幅に幅切りし、それぞれの表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが得られる。
【0034】
次に、上記VリブドベルトBを用いた自動車のエンジンルームに設けられる補機駆動ベルト伝動装置30について説明する。
【0035】
図3は、その補機駆動ベルト伝動装置30のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置30は、4つのリブプーリ及び2つのフラットプーリの6つのプーリに巻き掛けられたサーペンタインドライブ方式のものである。
【0036】
この補機駆動ベルト伝動装置30のレイアウトは、最上位置のパワーステアリングプーリ31、そのパワーステアリングプーリ31の下方に配置されたACジェネレータプーリ32、パワーステアリングプーリ31の左下方に配置された平プーリのテンショナプーリ33と、そのテンショナプーリ33の下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ34と、テンショナプーリ33の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ35と、そのクランクシャフトプーリ35の右下方に配置されたエアコンプーリ36とにより構成されている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ33及びウォーターポンププーリ34以外は全てリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、Vリブ13側が接触するようにパワーステアリングプーリ31に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ33に巻き掛けられた後、Vリブ13側が接触するようにクランクシャフトプーリ35及びエアコンプーリ36に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ34に巻き掛けられ、そして、Vリブ13側が接触するようにACジェネレータプーリ32に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ31に戻るように設けられている。
【0037】
以上のような構成のVリブドベルトBによれば、架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上のエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で圧縮ゴム層12が形成されているので、そのベースポリマーであるエチレン−α−オレフィンエラストマーの分子が拘束されて分子運動が規制され、そのため、低温下においてもベースポリマーの分子の整列による結晶化が生じにくく、柔軟性を保つことができ、結果としてクラックの発生が抑制され、優れた耐寒性を得ることができる。
【0038】
本実施形態ではVリブドベルトBとしたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト幅方向にピッチを形成するように螺旋状に設けられた心線が埋設された接着ゴム層とそのベルト内周側に設けられた圧縮ゴム層とを有し、圧縮ゴム層がプーリ接触部を構成する伝動ベルトであればよい。
【実施例】
【0039】
Vリブドベルトについて行った試験評価について説明する。
【0040】
(試験評価用ベルト)
以下の実施例1〜11及び比較例1〜3のVリブドベルトを作成した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0041】
<実施例1>
EPDM(デュポンダウエラストマー社製 商品名:ノーデルIP4640)100質量部に対して、カーボンブラック(東海カーボン社製 商品名:シースト3)55質量部、可塑剤A(ジャパンエナジー社製 商品名:EPT750、流動点−5℃)14質量部、有機過酸化物(日本油脂社製 商品名:パークミルD)3.5質量部、共架橋剤(精工化学社製 商品名:ハイクロスM−P)1.5質量部、ナイロン短繊維(繊維長3mm)22質量部、及び綿短繊維5質量部を配合した未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例1とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.80×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−38.0℃であった。
【0042】
なお、接着ゴム層をEPDMのゴム組成物、補強布をナイロン繊維製の織布、心線をポリエチレンナフタレート繊維(PEN)製の撚り糸でそれぞれ構成し、ベルト周長を1000mm、ベルト幅を10.68mm及びベルト厚さを4.3mmとし、そして、リブ数を3個とした。
【0043】
<実施例2>
可塑剤Aの代わりに可塑剤B(日本サン石油社製 商品名:サンセン480、流動点−20℃)8質量部を配合したことを除いて実施例1と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例2とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.50×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−38.2℃であった。
【0044】
<実施例3>
可塑剤Aの代わりに可塑剤C(日本サン石油社製 商品名:サンセン410、流動点−45℃)8質量部を配合したことを除いて実施例1と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例3とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が7.30×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.9℃であった。
【0045】
<実施例4>
さらに老化防止剤224(大内新興化学工業社製 商品名:ノクラック224)0.5質量部、老化防止剤MB(大内新興化学工業社製 商品名:ノクラックMB)1質量部、及び老化防止剤CD(大内新興化学工業社製 商品名:ノクラックCD)1質量部を配合したことを除いて実施例3と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例4とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が7.10×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.5℃であった。
【0046】
<実施例5>
カーボンブラックの配合量を62質量部及び可塑剤Cの配合量を16質量部としたことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例5とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.80×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−40.3℃であった。
【0047】
<実施例6>
カーボンブラックの配合量を47質量部、有機過酸化物の配合量を4.5質量部、及び共架橋剤の配合量を2.2質量部としたことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例6とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が7.60×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.9℃であった。
【0048】
<実施例7>
カーボンブラックの配合量を50質量部、ナイロン短繊維の配合量を30質量部、及び綿短繊維の配合量を10質量部としたことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例7とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.30×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.2℃であった。
【0049】
<実施例8>
ナイロン短繊維の配合量を7質量部、及び綿短繊維の配合量を20質量部としたことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例8とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.25×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.5℃であった。
【0050】
<実施例9>
綿短繊維を配合していないことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例9とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.21×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.7℃であった。
【0051】
<実施例10>
ナイロン短繊維の配合量を10質量部とし、綿短繊維を配合していないことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例10とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.32×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−39.8℃であった。
【0052】
<実施例11>
ナイロン短繊維の配合量を5質量部とし、綿短繊維を配合していないことを除いて実施例4と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを実施例11とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が6.30×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−40.2℃であった。
【0053】
<比較例1>
有機過酸化物及び共架橋剤の代わりに硫黄(鶴見化学工業社製 商品名:オイル硫黄)1.6質量部、架橋促進剤MSA(大内新興化学工業社製 商品名:ノクセラーMSA)1.2質量部、及び架橋促進剤EM−2(三新化学工業社製 商品名:サンセラーEM−2)2.8質量部を配合したことを除いて実施例1と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを比較例1とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が4.40×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−35.8℃であった。
【0054】
<比較例2>
カーボンブラックの配合量を50質量部、及び可塑剤Aの配合量を5質量部としたことを除いて比較例1と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを比較例2とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が4.10×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−35.7℃であった。
【0055】
<比較例3>
共架橋剤を配合せず、代わりに硫黄1.1質量部を配合し、有機過酸化物の配合量を2.1質量部としたことを除いて実施例3と同一の未架橋ゴム組成物を用いて圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを成形し、これを比較例3とした。圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、架橋網目鎖濃度が3.40×10−4mol/ml、tanδピーク温度が−36.1℃であった。
【0056】
(試験評価方法)
<低温衝撃脆化>
実施例1〜11及び比較例1〜3のそれぞれについて、圧縮ゴム層を形成する未架橋ゴム組成物からゴムシートをプレス成形した後、そこから試験片を切り出し、JIS K6301に準じて低温衝撃脆化試験を行い、低温衝撃脆化温度を計算した。
【0057】
<耐熱ベルト走行試験>
図4は、試験評価で用いたベルト試験走行機40のプーリレイアウトを示す。
【0058】
このベルト走行試験機40は、上下に配設されたプーリ径120mmの大径のリブプーリ(上側が従動プーリ、下側が駆動プーリ)41、42と、それらの上下方向中間の左方に配されたプーリ径80mmのアイドラプーリ43と、同じく大径のリブプーリ41、42の上下方向中間の右方に配されたプーリ径55mmの小径のリブプーリ44と、からなる。アイドラプーリ43は、ベルト外側にベルト巻き付け角度が90°となるように、小径のリブプーリ44は、ベルト内側にベルト巻き付け角度が90°となるように、それぞれ位置付けられている。
【0059】
実施例1〜11及び比較例1〜3のそれぞれについて、3つのリブプーリ41,42,44及びアイドラプーリ43に巻き掛けると共に、490Nのセットウェイトが負荷されるように小径のリブプーリ44を側方に引っ張り、雰囲気温度85℃の下で駆動プーリである下側のリブプーリ42を回転数4800rpmで回転させた。そして、ベルトが破損するまでの時間を計測し、その時間を耐熱ベルト寿命とした。
【0060】
(試験評価結果)
表1は試験評価結果を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
これによれば、架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上である実施例1〜11と、架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/mlよりも低い比較例1〜3とを比較すると、前者の方が後者よりも低温衝撃脆化温度が低く、耐寒性が優れることが分かる。また、架橋剤として有機過酸化物のみを用いた実施例4と、架橋剤として有機過酸化物と硫黄を用いた比較例3とを比較すると、前者は後者より架橋網目鎖濃度が高くなることが分かる。
【0063】
可塑剤の種類が異なる実施例1〜3を比較すると、可塑剤の流動点が低い程、低温衝撃脆化温度が低く、耐寒性が優れることが分かる。この試験評価結果によれば、可塑剤の流動点は−20℃以下であることが好ましい。
【0064】
老化防止剤を配合していない実施例3と老化防止剤を配合した実施例4を比較すると、前者よりも後者の方が、耐熱ベルト寿命が長いことが分かる。
【0065】
短繊維の種類及び配合量を変量した実施例7〜11を比較すると、短繊維の配合量が少ない程、低温衝撃脆化温度が低く、耐寒性が優れることが分かる。
【0066】
短繊維の配合量が多い実施例7は、それよりも短繊維の配合量の少ない実施例4〜6に比べて、耐熱ベルト寿命が短いことが分かる。耐熱性の観点から、この試験評価結果によれば、短繊維の配合量は40質量部以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施形態に係るVリブドベルトの斜視図である。
【図2】Vリブドベルトの使用材料(a)及び全体構成(b)を併せて示す図である。
【図3】実施形態の補機駆動用ベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す図である。
【図4】耐熱モータリングテストのベルト試験走行機の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
B Vリブドベルト
11 接着ゴム層
12 圧縮ゴム層
14 短繊維
16 心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト幅方向にピッチを形成するように螺旋状に設けられた心線が埋設された接着ゴム層と、該接着ゴム層のベルト内周側に設けられた圧縮ゴム層と、を有し、該圧縮ゴム層がプーリ接触部を構成する伝動ベルトであって、
上記圧縮ゴム層は、有機過酸化物により架橋された架橋網目鎖濃度が5.0×10−4mol/ml以上のエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物で形成されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物には、流動点が−20℃以下の可塑剤が添加されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項3】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴム層を形成するエチレン−α−オレフィンエラストマー組成物には、エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して短繊維40質量部以下が配合されていることを特徴とする伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−299756(P2009−299756A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153893(P2008−153893)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】