説明

伝動ベルト

【課題】補強布に含有させる摩耗改質材が少量としつつ耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】伝動ベルト10は、ベルト本体11のプーリ接触面が補強布13で被覆されている。補強布13は、布本体のプーリ接触側表面に粒状の摩耗改質材を含む表面ゴム層が設けられていると共に、表面ゴム層に含まれる摩耗改質材の布本体の糸間への埋没を規制する埋没規制手段が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト本体のプーリ接触面が補強布で被覆された伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
歯付ベルトのプーリ接触面の耐摩耗性を向上させる技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、歯部側表面を被覆する補強布に摩耗改質材を含ませた歯付ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3547403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された歯付ベルトにおいて、耐摩耗性を向上させるためには、相当量の摩耗改質材を含有させる必要がある。そのため高価なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂を摩耗改質材として用いたような場合、材料コストが非常に高額となってしまう。
【0006】
本発明の課題は、補強布に含有させる摩耗改質材が少量としつつ耐摩耗性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ベルト本体のプーリ接触面が補強布で被覆された伝動ベルトであって、
上記補強布は、布本体のプーリ接触側表面に粒状の摩耗改質材を含む表面ゴム層が設けられていると共に、該表面ゴム層に含まれる摩耗改質材の該布本体の糸間への埋没を規制する埋没規制手段が構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、補強布に表面ゴム層に含まれる摩耗改質材の布本体の糸間への埋没を規制する埋没規制手段が構成されているので、布本体に埋没して耐摩耗性の向上に寄与しない摩耗改質材を少なくすることができ、結果として、補強布に含有させる摩耗改質材が少量であっても十分に耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】歯付ベルトの斜視図である。
【図2】実施形態1の補強布の断面図である。
【図3】実施形態1の補強布の変形例の断面図である。
【図4】実施形態2の補強布の断面図である。
【図5】ベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係る歯付ベルト10(伝動ベルト)を示す。この実施形態1に係る歯付ベルト10は、例えば、自動車のOHC駆動用途、射出成形機用途などの一般産業用途等に用いられるものである。
【0012】
実施形態1に係る歯付ベルト10は、ベルト外形を構成するゴム製のエンドレスの歯付ベルト本体11を有する。歯付ベルト本体11は、ベルト外周側の横長平帯状の背ゴム部とベルト内周側に一定間隔をおいて設けられた複数の歯ゴム部とが一体になった構成を有する。歯付ベルト本体11は、背ゴム部のベルト内周側に、ベルト長さ方向に延びると共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように心線12が埋設されている。歯付ベルト本体11は、歯ゴム部を有するベルト内周側表面、つまり、プーリ接触面が補強布13で被覆されており、そして、ベルト内周側における補強布13で被覆された背ゴム部が歯底部に及び補強布13で被覆された歯ゴム部が歯部にそれぞれ構成されている。
【0013】
歯付ベルト本体11は、原料ゴムに配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋したゴム組成物で構成されている。
【0014】
歯付ベルト本体11を構成するゴム組成物の原料ゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)等が挙げられる。原料ゴムは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0015】
配合剤としては、例えば、カーボンブラックやシリカや短繊維等の補強材、加工助剤、老化防止剤、加硫促進剤、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、可塑剤、充填材等が挙げられる。各配合剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0016】
心線12は、糸本体に接着処理が施されたもので構成されている。
【0017】
心線12を構成する糸本体の繊維材料としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維などの無機繊維;アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ナイロン繊維、ポリケトン繊維などの有機繊維等が挙げられる。糸本体は、単一種の繊維材料で形成されていてもよく、また、複数種の繊維材料で形成されていてもよい。
【0018】
糸本体の構造としては、例えば、片撚り糸、諸撚り糸、ラング撚り糸、コアヤーンなどの撚り糸、組紐等が挙げられる。撚り糸の心線12は、単一糸が螺旋を形成するように設けられていてもよく、また、S撚り糸及びZ撚り糸の一対が二重螺旋を形成するように設けられていてもよい。
【0019】
糸本体に施される接着処理は、例えば、糸本体をレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(RFL水溶液)に浸漬した後に加熱する処理、及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる処理である。
【0020】
図2は補強布13を示す。
【0021】
補強布13は、布本体14に接着処理が施されたもので構成されている。補強布13の厚さは例えば0.6〜1.6mmである。
【0022】
補強布13を構成する布本体14の繊維材料としては、例えば、綿、麻などの天然繊維;6,6−ナイロンや4,6−ナイロンや6−ナイロン等のナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、PBO繊維などの化学繊維等が挙げられる。布本体14は、単一種の繊維材料で形成されていてもよく、また、複数種の繊維材料で形成されていてもよい。
【0023】
布本体14の構造としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織などの織布、編物、不織布等が挙げられる。布本体14は、織布では経糸及び緯糸の糸密度が例えば50〜200本/5cmである。
【0024】
織布又は編物の布本体14を構成する糸は、紡績糸或いはフィラメント糸であって、太さが例えば44〜940dtexである。織布の布本体14を構成する糸は、経糸及び緯糸が同一であってもよく、また、異なっていてもよい。織布の布本体14は、経糸及び緯糸のうち一方がベルト長さ方向に及び他方がベルト幅方向になるように用いられた場合、良好な歯部形成性を得るべくベルト長さ方向に伸性を有することが望ましいという観点から、ベルト長さ方向の糸が例えばスパンデックス糸の周りにナイロン糸が巻き付けられたウーリー加工糸で構成されていることが好ましい。
【0025】
布本体14に施される接着処理は、例えば、布本体14を接着剤に浸漬した後に加熱する処理、接着剤に浸漬した後に乾燥させる処理、及び表面に接着剤をコートした後に乾燥させる処理である。
【0026】
補強布13は、上記接着処理により、布本体14を構成する糸表面を被覆するようにRFL層及び含浸ゴム層が設けられ、また、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように接着ゴム層15が設けられていると共に、布本体14のプーリ接触側表面を被覆するように下地ゴム層16(粒子埋没ブロック層)及び表面ゴム層17が設けられている。なお、下地ゴム層16は、図3に示すように、布本体14を構成する糸間の間隙を封じるようにその間隙に入り込んでいてもよい。
【0027】
RFL層は、RFの樹脂成分とLによるゴム成分との混合物で構成されている。
【0028】
Lとしては、例えば、ビニルピリジンラテックス(VP)、スチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、ニトリルブタジエンゴムラテックス(NBR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体(X−NBR)ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3−ジクロロブタジエン重合体ラテックス(2,3−DCB)等が挙げられる。Lは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0029】
含浸ゴム層、接着ゴム層15、下地ゴム層16、及び表面ゴム層17は、いずれも原料ゴムに配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が架橋したゴム組成物で構成されている。
【0030】
これらの原料ゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)等が挙げられる。原料ゴムは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0031】
配合剤としては、例えば、カーボンブラックやシリカや短繊維等の補強材、加工助剤、老化防止剤、加硫促進剤、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、可塑剤、充填材等が挙げられる。各配合剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0032】
表面ゴム層17を構成するゴム組成物には粒状の摩耗改質材18が含まれており、摩耗改質材18は架橋した表面ゴム層17に固定化されて脱落が規制されている。一方、下地ゴム層16を構成するゴム組成物には表面ゴム層17に含まれる摩耗改質材18が含まれていない。
【0033】
摩耗改質材18の材質としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFE)樹脂、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(PFA)樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)樹脂などのフッ素樹脂、重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキル−ビニールエーテル)共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。摩耗改質材18は、これらのうち、耐摩耗性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及び分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であることが好ましい。摩耗改質材18は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0034】
摩耗改質材18の粒子径は、適当な耐摩耗性発現の観点から、1〜500μmであることが好ましい。また、摩耗改質材18は、摩耗改質材18の布本体14の糸間への埋没を規制する観点から、布本体14を構成する糸間の間隙を通過不能であることが好ましい。具体的には、このことは、粒子径の摩耗改質材18が理論的に算出される布本体14を構成する糸間の間隙を通過不能であることを意味する。ここで、粒子径とは、ふるい分け法によって測定した試験用ふるいの目開きで表したもの、沈降法によるストークス相当径で表したもの、及び光散乱法による球相当径、並びに電気抵抗試験方法による球相当値で表したもののいずれかである。
【0035】
摩耗改質材18の含有量は、低材料コスト化及び適当な耐摩耗性発現の観点から、原料ゴム100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、30〜90質量部であることがより好ましく、40〜80質量部であることがさらに好ましい。
【0036】
この実施形態1に係る歯付ベルト10によれば、布本体14と表面ゴム層17との間に下地ゴム層16が設けられ、そして、それによって補強布13に表面ゴム層17に含まれる摩耗改質材18の布本体14の糸間への埋没を規制しているので、布本体14に埋没して耐摩耗性の向上に寄与しない摩耗改質材18を少なくすることができ、結果として、補強布13に含有させる摩耗改質材18が少量であっても十分に耐摩耗性を向上させることができる。
【0037】
実施形態1に係る歯付ベルト10の製造方法について説明する。
【0038】
<ベルト材料準備工程>
−未架橋ゴムシート−
ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練しながら原料ゴムに各配合剤を配合して、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形して未架橋ゴムシートを作製準備する。
【0039】
−心線−
糸本体をRFL水溶液に浸漬して加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬して乾燥させる接着処理を行って心線12を作製準備する。
【0040】
−補強布−
布本体14をRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理、及び表面に高粘度のゴム糊をコートした後に乾燥させる接着処理を行って補強布13を作製準備する。
【0041】
具体的には、まず、布本体14をRFL水溶液に浸漬してロールで絞った後に加熱炉で加熱する。このとき、布本体14を構成する糸表面を被覆するようにRFL層が付着する。なお、この処理を複数回繰り返してもよい。
【0042】
RFL水溶液は、例えば、R/F質量比が1/0.8〜1/2、RF/L質量比が1/5〜1/20、及び固形分濃度が5〜20質量%である。布本体14のRFL水溶液への浸漬時間は例えば1〜20秒である。布本体14の加熱炉内での加熱温度は例えば140〜180℃及び加熱時間は例えば3〜5分である。RFL層の付着量(目付)は布本体14の質量に対して例えば5〜40質量%である。
【0043】
次に、布本体14を含振ゴム用のゴム糊に浸漬してロールで絞った後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14を構成する糸表面を被覆するように含浸ゴム層が付着する。なお、この処理を複数回繰り返してもよい。
【0044】
ゴム糊は、未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が例えば5〜20質量%である。布本体14のゴム糊への浸漬時間は例えば1〜20秒である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。含浸ゴム層の付着量(目付)は例えば50〜200g/mである。
【0045】
なお、上記RFL処理及び上記ゴム糊処理は、両方行ってもよく、また逆に、両方行わなくてもよく、さらに、いずれか一方だけを行ってもよい。
【0046】
次いで、布本体14の歯付ベルト本体11側表面にナイフコーター等により接着ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように接着ゴム層15が付着する。
【0047】
ゴム糊は、未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が例えば20〜45質量%である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。接着ゴム層15は、付着量(目付)が例えば60〜240g/mである。
【0048】
続いて、布本体14のプーリ接触側表面にナイフコーター等により下地ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように下地ゴム層16が付着する。
【0049】
ゴム糊は、摩耗改質材18を含有しない未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が例えば20〜45質量%である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。下地ゴム層16は、付着量(目付)が例えば30〜160g/mである。
【0050】
そして、布本体14のプーリ接触側表面の下地ゴム層16の上にナイフコーター等によりさらに表面ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように表面ゴム層17が付着する。
【0051】
ゴム糊は、摩耗改質材18を含有する未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が例えば20〜45質量%である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。表面ゴム層17は、付着量(目付)が例えば160〜500g/mである。また、この処理を2〜3回繰り返すことによって狙いの付着量にしてもよい
なお、布本体14をRFL水溶液に浸漬して加熱する処理の前に、布本体14をエポキシ樹脂溶液或いはイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する処理を施してもよい。
【0052】
<ベルト成形工程>
補強布13を表面ゴム層17が内側となるように筒状に形成し、その筒状の補強布13を金型表面に歯部形成溝を有する円筒状金型に被せ、その上に心線12を螺旋状に巻き付け、さらにその上に未架橋ゴムシートを所定回数巻き付ける。
【0053】
続いて、上記ベルト材料をセットした円筒状金型を加硫釜に入れ、所定時間、加熱及び加圧する。このとき、未架橋ゴムが流動して歯付ベルト本体11を構成し、また、心線12及び補強布13が歯付ベルト本体11に接着し、そして、全体としてゴムが架橋して円筒状のスラブが形成される。ここで、加熱温度は例えば150〜200℃、加熱圧力は例えば5〜20MPa、及び加工時間は例えば10〜30分である。
【0054】
そして、加硫釜から円筒状金型を取り出してスラブを取り外し、その背面を研磨して厚さを均等にした後、所定幅に輪切りすることにより歯付ベルト10が得られる。
【0055】
(実施形態2)
実施形態2に係る歯付ベルト10は外観構成が実施形態1と同一であるので、実施形態2に係る歯付ベルト10について図1に基づいて説明する。この実施形態2に係る歯付ベルト10も、例えば、自動車のOHC駆動用途、射出成形機用途などの一般産業用途等に用いられるものである。
【0056】
図4は補強布13を示す。
【0057】
実施形態2に係る歯付ベルト10では、補強布13は、布本体14に接着処理が施されたもので構成されている。補強布13の厚さは例えば0.6〜1.6mmである。
【0058】
補強布13を構成する布本体14の繊維材料としては、例えば、綿、麻などの天然繊維;6,6−ナイロンや4,6−ナイロンや6−ナイロン等のナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、PBO繊維等の化学繊維等が挙げられる。布本体14は、単一種の繊維材料で形成されていてもよく、また、複数種の繊維材料で形成されていてもよい。
【0059】
布本体14の構造としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織などの織布、編物、不織布等が挙げられる。布本体14は、織布では経糸及び緯糸の糸密度が例えば50〜200本/5cmであり、糸間の間隙の内径が例えば5〜100μmである。
【0060】
織布又は編物の布本体14を構成する糸は、太さが例えば44〜940dtexである。織布の布本体14を構成する糸は、経糸及び緯糸が同一であってもよく、また、異なっていてもよい。織布の布本体14は、経糸及び緯糸のうち一方がベルト長さ方向に及び他方がベルト幅方向になるように用いられた場合、良好な歯部形成性を得るべくベルト長さ方向に伸性を有することが望ましいという観点から、ベルト長さ方向の糸が例えばウーリー加工糸やスパンデックス糸の周りにナイロン糸が巻き付けられたカバーリング糸で構成されていることが好ましい。
【0061】
布本体14に施される接着処理は、例えば、布本体14を接着剤に浸漬した後に加熱する処理、接着剤に浸漬した後に乾燥させる処理、及び表面に接着剤をコートした後に乾燥させる処理である。
【0062】
補強布13は、上記接着処理により、布本体14を構成する糸表面を被覆するようにRFL層若しくは含浸ゴム層、又はそれらの両方が設けられており、また、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように接着ゴム層15が設けられていると共に、プーリ接触側表面を被覆するように表面ゴム層17が設けられている。
【0063】
RFL層は、RFの樹脂成分とLによるゴム成分との混合物で構成されている。
【0064】
Lとしては、例えば、ビニルピリジンラテックス(VP)、スチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)、クロロプレンゴムラテックス(CR)、ニトリルブタジエンゴムラテックス(NBR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンメタクリル酸三元共重合体(X−NBR)ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス(CSM)、2,3−ジクロロブタジエン重合体ラテックス(2,3−DCB)等が挙げられる。Lは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0065】
含浸ゴム層、接着ゴム層15、及び表面ゴム層17は、いずれも原料ゴムに配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が架橋したゴム組成物で構成されている。
【0066】
これらの原料ゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPR)やエチレンプロピレンジエンモノマーゴム(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)等が挙げられる。原料ゴムは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0067】
配合剤としては、例えば、カーボンブラックやシリカや短繊維等の補強材、加工助剤、老化防止剤、加硫促進剤、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、可塑剤、充填材等が挙げられる。各配合剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0068】
表面ゴム層17を構成するゴム組成物には粒状の摩耗改質材18が含まれており、摩耗改質材18は架橋した表面ゴム層17に固定化されて脱落が規制されている。
【0069】
摩耗改質材18の材質としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFE)樹脂、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(PFA)樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)樹脂などのフッ素樹脂、重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキル−ビニールエーテル)共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。摩耗改質材18は、これらのうち、耐摩耗性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及び重量平均分子量100万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であることが好ましい。摩耗改質材18は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。
【0070】
摩耗改質材18の粒子径は、摩耗改質材18が布本体14を構成する糸間の間隙を通過不能な大きさであり、80〜500μmであることが好ましく、100〜350μmであることがより好ましい。
【0071】
摩耗改質材18の含有量は、低材料コスト化及び適当な耐摩耗性発現の観点から、原料ゴム100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、30〜90質量部であることがより好ましく、40〜80質量部であることがさらに好ましい。
【0072】
この実施形態2に係る歯付ベルト10によれば、摩耗改質材18が布本体14を構成する糸間の間隙を通過不能であり、そして、それによって補強布13に表面ゴム層17に含まれる摩耗改質材18の布本体14の糸間への埋没を規制しているので、布本体14に埋没して耐摩耗性の向上に寄与しない摩耗改質材18を少なくすることができ、結果として、補強布13に含有させる摩耗改質材18が少量であっても十分に耐摩耗性を向上させることができる。
【0073】
実施形態2に係る歯付ベルト10の製造方法について説明する。
【0074】
ベルト材料準備工程では、補強布13の準備において、まず、布本体14をRFL水溶液に浸漬してロールで絞った後に加熱炉で加熱する。このとき、布本体14を構成する糸表面を被覆するようにRFL層が付着する。なお、この処理を複数回繰り返してもよい。
【0075】
RFL水溶液は、例えば、R/F質量比が1/0.8〜1/2、RF/L質量比が1/5〜1/20、及び固形分濃度が5〜25質量%である。布本体14のRFL水溶液への浸漬時間は例えば1〜20秒である。布本体14の加熱炉内での加熱温度は例えば140〜180℃及び加熱時間は例えば3〜5分である。RFL層の付着量(目付)は布本体14の質量に対して例えば5〜40質量%である。
【0076】
次に、布本体14を含浸ゴム用のゴム糊に浸漬してロールで絞った後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14を構成する糸表面を被覆するように含浸ゴム層が付着する。なお、この処理を複数回繰り返してもよい。
【0077】
ゴム糊は、未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が例えば5〜20質量%である。布本体14のゴム糊への浸漬時間は例えば1〜20秒である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。含浸ゴム層の付着量(目付)は例えば50〜200g/mである。
【0078】
なお、上記RFL処理及び上記ゴム糊処理は、両方行ってもよく、また逆に、両方行わなくてもよく、さらに、いずれか一方だけを行ってもよい。
【0079】
次いで、布本体14の歯付ベルト本体11側表面にナイフコーター等により接着ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように接着ゴム層15が付着する。
【0080】
ゴム糊は、未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が例えば20〜45質量%である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。接着ゴム層15は、付着量(目付)が例えば30〜160g/mである。
【0081】
続いて、布本体14のプーリ接触側表面上にナイフコーター等により表面ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥炉で乾燥させる。このとき、布本体14の歯付ベルト本体11側表面を被覆するように表面ゴム層17が付着する。但し、表面ゴム層17に含まれる摩耗改質材18は、布本体14を構成する糸間の間隙を通過不能であるので、布本体14の糸間への埋没が規制される。
【0082】
ゴム糊は、摩耗改質材18を含有する未架橋ゴム組成物を例えばトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶剤に溶解させたものであり、固形分濃度が20〜45質量%である。布本体14の乾燥炉内での加熱温度は例えば60〜120℃及び加熱時間は例えば3〜10分である。表面ゴム層17は、付着量(目付)が例えば160〜500g/mである。
【0083】
そして、ベルト成形工程では、ベルト材料をセットした円筒状金型を加硫釜に入れ、所定時間、加熱及び加圧する。このとき、表面ゴム層17が布本体14を構成する糸間の間隙に流入した場合でも、摩耗改質材18は、布本体14を構成する糸間の間隙を通過不能であるので、布本体14の糸間への埋没が規制される。
【0084】
その他の構成は実施形態1と同一である。
【0085】
(その他の実施形態)
上記実施形態1及び2では、ベルト本体が歯付ベルト本体11である歯付ベルト10としたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト本体のプーリ接触面が補強布13で被覆された伝動ベルトであれば、Vベルトや平ベルトであってもよい。
【0086】
上記実施形態1及び2では、接着ゴム層15、下地ゴム層16、及び表面ゴム層17の形成を接着処理により行う構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、カレンダー加工、ラッピング加工、或いはラミネート加工によりゴムシートを積層することによって行う構成であってもよい。
【0087】
上記実施形態1では、下地ゴム層16により粒子埋没ブロック層を構成したが、特にこれに限定されるものではなく、布本体14を構成する糸間の間隙を封じるように間隙に一部又は全部が入り込んだゴム層或いはRFL層により粒子埋没ブロック層を構成してもよい。
【実施例】
【0088】
(試験評価1)
<歯付ベルト>
以下の実施例1及び2並びに比較例1及び2の歯付ベルトを作製した。それぞれの構成については表1にも示す。
【0089】
【表1】

【0090】
−実施例1−
糸径が0.16μmである235dtexの6,6ナイロン繊維の糸を経糸、及び糸径が0.23μmである470dtexの6,6ナイロン繊維の糸を用いたウーリー加工糸を緯糸とし、経糸の密度が174本/5cm及び緯糸の密度が132本/5cmである2/2綾織りの織布を布本体として準備した(表2参照)。この布本体では、経糸間の間隔が理論上53μm及び緯糸間の間隔が理論上8μmである。従って、一対の経糸及び一対の緯糸で形成される間隙は53μm×8μmのスリット状である。
【0091】
【表2】

【0092】
また、表面ゴム用のゴム糊として、クロロプレンゴム(昭和電工社製、商品名:ショウプレンGRT)を原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラックFEF(東海カーボン社製、商品名:シーストSO)20質量部、シリカ(トクヤマ社製 商品名:トクシールGU)15質量部、ステアリン酸(ニチユ社製、商品名:ビーズステアリン酸つばき)1.5質量部、老化防止剤(川口化学工業社製、商品名:アンテージNBC−F)5質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:酸化亜鉛2種)6質量部、酸化マグネシウム(神島化学工業社製、商品名:スターマグH)8質量部、加硫促進剤(三新化学工業社製、商品名:サンセラーDM−G)3質量部、及び超高分子量ポリエチレン粒子(三井化学社製、商品名:ミペロンXM220、平均粒子径35μm、重量平均分子量200万)50質量部を配合して混練した未架橋ゴム組成物を、固形分濃度が30質量%となるようにトルエンに溶解させたものを準備した。
【0093】
さらに、RFL水溶液、各々、クロロプレンゴムを原料ゴムとした含浸ゴム用のゴム糊、接着ゴム用のゴム糊、及び超高分子量ポリエチレン粒子等の摩耗改質材を含まない下地ゴム用のゴム糊を準備した。
【0094】
そして、布本体をRFL水溶液に浸漬した後に加熱し、次に、布本体を含振ゴム用のゴム糊に浸漬した後に乾燥させ、次いで、布本体の歯付ベルト本体側表面に接着ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥させ、続いて、布本体のプーリ接触側表面に下地ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥させ、そして、布本体のプーリ接触側表面の下地ゴム層の上にさらに表面ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥させて補強布を調製した。表面ゴム層の付着量は224g/mであった。
【0095】
また、クロロプレンゴムを原料ゴムとした歯付ベルト本体形成用の未架橋ゴムシート及びガラス繊維の心線を調製した。
【0096】
以上の未架橋ゴムシート、心線、及び補強布を用いて上記実施形態と同様にして歯付ベルトを作製し、これを実施例1とした。
【0097】
なお、実施例1の歯付ベルトは、ベルト周長が840mm、及びベルト厚さが4.89mmであり、歯部の歯形が円弧歯形、歯数が105、歯幅が19mm、歯高さが2.89mm、及び配設ピッチが8mmであった。
【0098】
−実施例2−
表面ゴム用のゴム糊として、超高分子量ポリエチレン粒子の代わりにPTFE粒子(AGC社製、商品名:ルブリカントL173J、平均粒子径7μm)を原料ゴム100質量部に対して50質量部配合したものを用いたことを除いて実施例1と同様に歯付ベルトを作製し、これを実施例2とした。
【0099】
−比較例1−
表面ゴム用のゴム糊として、超高分子量ポリエチレン粒子を配合していないものを用いたことを除いて実施例1と同様に歯付ベルトを作製し、これを比較例1とした。
【0100】
−比較例2−
下地ゴム用のゴム糊による接着処理を施さず、補強布に下地ゴム層を設けていないことを除いて実施例2と同一構成歯付ベルトを作製し、これを比較例2とした。
【0101】
<試験評価方法>
図5は負荷耐久試験用のベルト走行試験機50のプーリレイアウトを示す。
【0102】
このベルト走行試験機50は、正面視において、大径の歯数が42の従動歯付プーリ51と、その右側方に設けられた小径の歯数が21の駆動歯付プーリ52と、それらの中間であって従動歯付プーリ51のやや右斜め下方に設けられたプーリ径52mmのアイドラ平プーリ53とを備え、また、従動歯付プーリ51及び駆動歯付プーリ52が、それらに掛け渡した歯付ベルト10が水平となるように位置付けられている。また、駆動歯付プーリ52は、歯付ベルト10に対してデッドウエイトを負荷できるように側方に可動に設けられている。
【0103】
実施例1及び2並びに比較例1及び2のそれぞれについて、従動歯付プーリ51及び駆動歯付プーリ52に歯部を噛合させると共にアイドラ平プーリ53がベルト背面に当接するように巻き掛けた後、従動歯付プーリ51に29.4Nmの負荷トルクを負荷し且つ216Nのベルト張力が負荷されるように駆動歯付プーリ52にデッドウェイトを負荷し、雰囲気温度100℃の下で駆動歯付プーリ52を6000rpmの回転数で時計回りに回転させてベルト走行させた。そして、補強布の摩耗による歯欠け破損が生じるまでの走行時間を測定し、比較例1の走行時間を100とし、それぞれの走行時間の相対値を算出した。
【0104】
<試験評価結果>
表1に試験結果を示す。
【0105】
表1に示すように、補強布の摩耗による破損が生じるまでの走行時間は、比較例1を100として、実施例1が145、実施例2が144、及び比較例2が124であった。
【0106】
実施例1及び2は、比較例1に対して、著しく耐摩耗性が高いことが分かる。
【0107】
また、実施例2と比較例2とではPTFE粒子の配合量を同一としているが、前者の方が耐摩耗性の高いことが分かる。これは、比較例2では、PTFE粒子がプーリ接触面よりも補強布の布本体の内部に多く存在してしまい、PTFE粒子による耐摩耗性改質効果が少ないためであると考えられる。一方、実施例2では、下地ゴム層の存在によりPTFE粒子がプーリ接触面に効率よく存在し、それによって耐摩耗性効果が十分に発揮されたものと考えられる。
【0108】
(試験評価2)
<歯付ベルト>
以下の実施例3並びに比較例3及び4の歯付ベルトを作製した。それぞれの構成については表3にも示す。
【0109】
【表3】

【0110】
−実施例3−
実施例1で用いたのと同一の織布を布本体として準備した。この布本体では、経糸間の間隔が理論上53μm及び緯糸間の間隔が理論上8μmである。従って、一対の経糸及び一対の緯糸で形成される間隙は53μm×8μmのスリット状である。
【0111】
また、表面ゴム用のゴム糊として、クロロプレンゴム(昭和電工社製、商品名:ショウプレンGRT)を原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対して、カーボンブラックFEF(東海カーボン社製、商品名:シーストSO)20質量部、シリカ(トクヤマ社製 商品名:トクシールGU)15質量部、ステアリン酸(ニチユ社製、商品名:ビーズステアリン酸つばき)1.5質量部、老化防止剤(川口化学工業社製、商品名:アンテージNBC−F)5質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:酸化亜鉛2種)6質量部、酸化マグネシウム(神島化学工業社製、商品名:スターマグH)8質量部、加硫促進剤(三新化学工業社製、商品名:サンセラーDM−G)3質量部、及び超高分子量ポリエチレン粒子(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S、平均粒子径120μm、重量平均分子量200万)50質量部を配合して混練した未架橋ゴム組成物を、固形分濃度が30質量%となるようにトルエンに溶解させたものを準備した。
【0112】
さらに、RFL水溶液、各々、クロロプレンゴムを原料ゴムとした含浸ゴム用のゴム糊、及び接着ゴム用のゴム糊を準備した。
【0113】
そして、布本体をRFL水溶液に浸漬した後に加熱し、次に、布本体を含振ゴム用のゴム糊に浸漬した後に乾燥させ、次いで、布本体の歯付ベルト本体側表面に接着ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥させ、そして、布本体のプーリ接触側表面上に表面ゴム用のゴム糊を塗布した後に乾燥させて補強布を調製した。表面ゴム層の付着量は112g/mであった。
【0114】
また、クロロプレンゴムを原料ゴムとした歯付ベルト本体形成用の未架橋ゴムシート及びガラス繊維の心線を調製した。
【0115】
以上の未架橋ゴムシート、心線、及び補強布を用いて上記実施形態と同様にして歯付ベルトを作製し、これを実施例3とした。
【0116】
なお、実施例3の歯付ベルトは、ベルト周長が840mm、及びベルト厚さが4.89mmであり、歯部の歯形が円弧歯形、歯数が105、歯幅が19mm、歯高さが2.89mm、及び配設ピッチが8mmであった。
【0117】
−比較例3−
表面ゴム用のゴム糊として、超高分子量ポリエチレン粒子を配合していないものを用いたことを除いて実施例3と同様に歯付ベルトを作製し、これを比較例3とした。
【0118】
−比較例4−
表面ゴム用のゴム糊として、超高分子量ポリエチレン粒子の代わりにPTFE粒子(AGC社製、商品名:ルブリカントL173J、平均粒子径7μm)を原料ゴム100質量部に対して50質量部配合したものを用いたことを除いて実施例3と同様に歯付ベルトを作製し、これを比較例4とした。
【0119】
<試験評価方法>
実施例3並びに比較例3及び4のそれぞれについて、上記試験評価1と同様のベルト走行試験を行い、そして、補強布の摩耗による歯欠け破損が生じるまでの走行時間を測定し、比較例3の走行時間を100とし、それぞれの走行時間の相対値を算出した。
【0120】
<試験評価結果>
表3に試験結果を示す。
【0121】
表3に示すように、補強布の摩耗による破損が生じるまでの走行時間は、比較例3を100として、実施例3が151及び比較例4が108であった。
【0122】
実施例3は、比較例3に対して、著しく耐摩耗性が高いことが分かる。
【0123】
また、実施例3と比較例4とでは摩耗改質材の配合量を同一としているが、前者の方が耐摩耗性の高いことが分かる。これは、比較例4では、PTFE粒子の平均粒子径が7μmと非常に小さく、そのためにPTFE粒子が布本体を構成する糸間の間隙を通過可能あって、プーリ接触面よりも補強布の布本体の内部に多く存在してしまい、PTFE粒子による耐摩耗性改質効果が少ないためであると考えられる。一方、実施例3では、超高分子量ポリエチレン粒子の平均粒子径が120μmと非常に大きく、そのために超高分子量ポリエチレン粒子が布本体を構成する糸間の間隙を通過不能あって、超高分子量ポリエチレン粒子がプーリ接触面に効率よく存在し、それによって耐摩耗性効果が十分に発揮されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明はベルト本体のプーリ接触面が補強布で被覆された伝動ベルトについて有用である。
【符号の説明】
【0125】
10 歯付ベルト
11 歯付ベルト本体
12 心線
13 補強布
14 布本体
15 接着ゴム層
16 下地ゴム層
17 表面ゴム層
18 摩耗改質材
50 ベルト走行試験機
51 従動歯付プーリ
52 駆動歯付プーリ
53 アイドラ平プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト本体のプーリ接触面が補強布で被覆された伝動ベルトであって、
上記補強布は、布本体のプーリ接触側表面に粒状の摩耗改質材を含む表面ゴム層が設けられていると共に、該表面ゴム層に含まれる摩耗改質材の該布本体の糸間への埋没を規制する埋没規制手段が構成されている伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
上記埋没規制手段は、上記布本体と上記表面ゴム層との間に設けられた粒子埋没ブロック層で構成されている伝動ベルト。
【請求項3】
請求項2に記載された伝動ベルトにおいて、
上記粒子埋没ブロック層は、上記布本体を構成する糸間の間隙を封じるように該間隙に入り込んでいる伝動ベルト。
【請求項4】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
上記埋没規制手段は、上記摩耗改質材が上記布本体を構成する糸間の間隙を通過不能に構成されていることである伝動ベルト。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
上記摩耗改質材は、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン樹脂又はフッ素樹脂で構成されている伝動ベルト。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
上記ベルト本体が歯付ベルト本体である伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255739(P2010−255739A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106248(P2009−106248)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)