説明

伝動ベルト

【課題】幅広い温度域で摺動性を発現できる伝動ベルトを提供する。
【解決手段】ベルトの長手方向に延びて心線3が埋設された伝動ベルト1において、少なくともプーリとの接触部を、ポリウレタン及びトリグリセリドを主成分とする融点50〜80℃の油脂類を含む樹脂組成物で形成する。前記油脂類は硬化油であってもよい。前記油脂類のヨウ素価は30以下であってもよい。さらに、前記油脂類は、トリグリセリドであってもよい。前記ポリウレタンはウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物であり、前記油脂類の割合は前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して10質量部未満であってもよい。本発明の伝動ベルト1は、自転車用歯付ベルトであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高負荷走行時の摺動性(特に高温での摺動性)及び耐久性に優れたポリウレタン製伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自転車や工作機械などに用いられるベルト伝動システムでは、伝動ベルトとして、プーリと噛み合わせるための歯部を有する歯付ベルトが使用される。この歯付ベルトは、高負荷が掛かる伝動システムでは、プーリとの噛み合い時の摩擦により騒音が発生したり、運転の早期に歯欠け現象が起こり易い。そこで、歯付ベルトとプーリとの間の摺動性を改善するための試みが行われている。
【0003】
特開2001−263427号公報(特許文献1)には、ポリウレタンエラストマーからなるベルト本体が内表面に一定のピッチの間隔をおいて歯部を有すると共に、埋設した抗張体を有する歯付伝動ベルトにおいて、ポリウレタンエラストマーが潤滑剤を含み、70〜80度のJISA硬度を有し、更に、歯面の動摩擦係数が0.5以下である歯付き伝動ベルトが開示されている。この文献には、潤滑剤として、天然又は合成の脂肪酸グリセライドが例示され、中でも融点が45〜48℃の牛脂が好ましいと記載されている。実施例では、ウレタンプレポリマー100重量部に対して、融点45℃の牛脂10重量部及び可塑剤10重量部が配合されている。
【0004】
特開2008−144965号公報(特許文献2)には、長手方向に沿って所定間隔で配置した複数のポリウレタンエラストマーを基材とした歯部と、ポリウレタンエラストマーを基材とした背部と、歯部又は背部に埋設された心線を有する歯付ベルトにおいて、前記背部及び歯部を形成するポリウレタンエラストマーのポリオール成分がポリエーテルポリオールであり、前記背部の硬度が歯部の硬度よりも低く、前記歯部が滑剤を含むポリウレタンエラストマーである歯付ベルトが開示されている。この文献には、滑剤として、融点40〜80℃のワックスが例示され、中でも飽和脂肪酸を多く含むトリグリセリドであり、融点30〜38℃のラードが好ましいと記載されている。実施例では、歯部が形成される層において、ウレタンプレポリマー100重量部に対して、ラード10重量部及び可塑剤20重量部が配合されている。
【0005】
しかし、これらの伝動ベルトでは、常温での摺動性は優れるものの、高負荷で長期間走行され、ベルトが50℃程度に加熱された場合には、潤滑剤や滑剤の融点が低いため、潤滑剤や滑剤が融解して流失し、摺動性が低下する。そのため、これらの伝動ベルトは、高負荷で長期間走行した場合には、摺動性の低下により、歯欠けなどが発生し易く、耐久性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−263427号公報(特許請求の範囲、段落[0016]、実施例)
【特許文献2】特開2008−144965号公報(請求項1、段落[0017]〜[0019]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、幅広い温度域で高い摺動性を発現できる伝動ベルトを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、高負荷走行させても、潤滑剤が流失せず、適度に滲み出る伝動ベルトを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、高負荷走行で長期間に亘り使用しても、歯付ベルトにおける歯欠けなどが抑制され、耐久性に優れる伝動ベルトを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、少量であっても高い摺動性を発現できる伝動ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ベルトの長手方向に延びて心線が埋設された伝動ベルトにおいて、少なくともプーリとの接触部を、ポリウレタン及びトリグリセリドを主成分とする融点50〜80℃の油脂類を含む樹脂組成物で形成することにより、幅広い温度域で摺動性を向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の伝動ベルトは、ベルトの長手方向に延びて心線が埋設された伝動ベルトであって、少なくともプーリとの接触部が、ポリウレタン及びトリグリセリドを主成分とする融点50〜80℃の油脂類を含む樹脂組成物で形成されている。前記油脂類は硬化油であってもよい。前記油脂類のヨウ素価が30以下であってもよい。さらに、前記油脂類は、トリグリセリドであってもよい。前記ポリウレタンはウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物であり、前記油脂類の割合は前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して10質量部未満であってもよい。本発明の伝動ベルトは、ベルト本体の少なくとも一方の面に、前記長手方向に所定の間隔をおいて形成され、かつプーリと噛み合わせるための複数の歯部を有する歯付ベルト(特に自転車用歯付ベルト)であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ベルトの長手方向に延びて心線が埋設された伝動ベルトにおいて、少なくともプーリとの接触部が、ポリウレタン及びトリグリセリドを主成分とする融点50〜80℃の油脂類を含む樹脂組成物で形成されているため、幅広い温度域(例えば、室温から50℃程度の温度域)で高い摺動性を発現できる。また、油脂類が適度な融点を有しているため、高負荷走行させても、潤滑剤が流失せず、適度に滲み出るため、高負荷走行で長期間に亘り使用しても、歯付ベルトにおける歯欠けなどが抑制され、耐久性に優れる。さらに、油脂類として、特定の硬化油を使用することにより、少量であっても高い摺動性を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の歯付ベルトの一例を示す部分概略斜視図である。
【図2】図2は、実施例1及び比較例1のベルトの耐久性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の伝動ベルトは、ベルトの長手方向に延びて心線が埋設された伝動ベルトである。この伝動ベルトは、少なくともプーリとの接触が、ポリウレタン及びトリグリセリドを主成分とする融点50〜80℃の油脂類を含む樹脂組成物で形成されている。
【0016】
(ポリウレタン)
ポリウレタン(又はウレタンエラストマー)は、特に限定されず、慣用のポリウレタンが利用できるが、成形性などの点から、ウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物(二液硬化型ポリウレタン)であってもよい。
【0017】
ウレタンプレポリマーとしては、硬化剤で硬化可能なプレポリマーであればよく、慣用のプレポリマーを利用できるが、末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(例えば、末端に2個以上のイソシアネート基を有するプレポリマー)が汎用される。
【0018】
末端にイソシアネート基を有するプレポリマーは、ポリオール類に対して過剰量のポリイソシアネート類を反応させて得られたポリウレタンプレポリマーであってもよい。
【0019】
ポリオール類としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリル系ポリマーポリオールなどが挙げられる。これらのポリオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオール類のうち、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールが汎用され、柔軟性や耐水性などの点から、ポリテトラメチレングリコールエーテルなどのポリエーテルジオールが好ましい。
【0020】
ポリイソシアネート類には、例えば、脂肪族ポリイソシアネート[プロピレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などの脂肪族ジイソシアネートや、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネートなどの脂肪族トリイソシアネート]、脂環族ポリイソシアネート[シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ビス(イソシアナトフェニル)メタンなどの脂環族ジイソシアネートや、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの脂環族トリイソシアネートなど]、芳香族ポリイソシアネート[フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)、トルイジンジイソシアネート(TODI)、1,3−ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどの芳香族ジイソシアネートなど]などが含まれる。
【0021】
これらのポリイソシアネート類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリイソシアネート類のうち、HDIなどの脂肪族ジイソシアネート、IPDIなどの脂環族ジイソシアネート、XDIなどの芳香脂肪族ジイソシアネート、MDIやTDIなどの芳香族ジイソシアネートが汎用され、機械的特性などの点から、TDIなどの芳香族ポリイソシアネートが特に好ましい。
【0022】
硬化剤としては、慣用の硬化剤であるポリオール類やポリアミン類を利用でき、プレポリマーの種類に応じて選択できるが、反応性などの点から、ポリアミン類が好ましい。
【0023】
ポリアミン類としては、例えば、脂肪族ジアミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミンなど)、脂環族ジアミン(例えば、1,4−シクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミンなど)、芳香族ジアミン(例えば、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジクロロ−4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、フェニレンジアミンなど)、芳香脂肪族ジアミン(例えば、m−キシリレンジアミンなど)、トリアミン(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなど)などが挙げられる。
【0024】
これらのポリアミン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリアミン類のうち、反応性及び機械的特性などの点から、MOCAなどの芳香族ポリアミン類が特に好ましい。
【0025】
前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とは、通常、イソシアネート基と活性水素原子(例えば、アミノ基)が略当量となる割合(イソシアネート基/活性水素原子=0.8/1〜1.2/1程度)で組み合わせて用いられる。硬化剤の割合は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、例えば、1〜50質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは5〜20質量部程度である。
【0026】
(油脂類)
本発明では、油脂類として、融点50〜80℃の油脂類を用いる。このような融点を有する油脂類を用いることにより、使用時にベルト本体の温度が約50℃程度まで上昇した際、融点50℃以上の油脂類は部分的に流動することにより、ベルトの表面にブリードアウトし(ベルト表面に滲み出し)、ブリードアウトした油脂類は、ベルトの表面で潤滑層を形成する。形成された潤滑油は、その一部がベルトから剥離しても、大部分がプーリ表面に移行して残存するため、ベルトとプーリ間の摺動性が維持され、ベルトの長寿命化が可能となる。さらに、本発明では、高温時の摺動性だけでなく、室温程度でも摺動性を向上できる。
【0027】
油脂類の融点としては、50〜80℃であればよいが、好ましくは50〜75℃、さらに好ましくは50〜72℃(特に51〜70℃)程度である。融点が50℃未満であると、ブリードアウトした油脂類は既に完全に融解しているため、ベルト表面に潤滑層を形成することなく、早期に流失し、摺動性が低下する。一方、融点が80℃を超えると、ベルト本体の温度が50℃でも部分的流動化が発生しない。そのため、ベルト表面にブリードアウトせず、潤滑層が形成されないため、摺動性が低下する。
【0028】
油脂類としては、トリグリセリドが主成分であればよく、ブリードアウト性の点から、イソシアネート基と反応性を有するヒドロキシル基を有するモノグリセリド及びジグリセリドを実質的に含有しないトリグリセリドが好ましい。
【0029】
油脂類を構成する脂肪酸には、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が含まれる。飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸などの直鎖又は分岐鎖飽和C8−24脂肪酸などが挙げられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ガトレン酸、アラキドン酸、エルカ酸などの直鎖又は分岐鎖不飽和C8−24脂肪酸などが挙げられる。
【0030】
これらの脂肪酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの脂肪酸のうち、パルミチン酸やステアリン酸などの直鎖又は分岐鎖飽和C12−24脂肪酸が汎用され、ステアリン酸などの直鎖飽和C16−18脂肪酸を主成分としてもよい。さらに、これらの脂肪酸は、ブリードアウト性の点から、ヒドロキシル基やアミノ基などのイソシアネート基との反応性基を実質的に有していない脂肪酸が好ましい。
【0031】
トリグリセリドで構成された油脂類としては、天然油脂が汎用される。天然油脂としては、植物油(綿実油、あまに油、ひまし油、紅花油、大豆油、米油、トウモロコシ油、ゴマ油、向日葵油、米糖油、アサミ油、菜種油、落花生油、やし油、パーム油、カポック油、扁桃油、オリーブ油、トール油、えの油、きり油など)、動物油(牛脂、豚脂、羊脂、山羊脂、馬脂、鯨油、鶏脂、七面鳥脂など)、魚油(ニシン油、カレイ油、タラ油、シタビラメ油、ハリバ油、コイ油、マス油、ナマズ油など)などが挙げられる。これらの天然油脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの天然油脂のうち、融点を50〜80℃に調整し易い点から、大豆油や菜種油などの植物油、牛脂などの動物油が好ましい。
【0032】
これらの油脂類は、融点を50〜80℃に調整するため、水添された硬化油であるのが好ましい。さらに、前記油脂類は、低いヨウ素価を有するのが好ましく、具体的には、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定)に準拠した方法で測定したヨウ素価が50以下であってもよく、例えば、30以下(例えば、0.1〜30)、好ましくは0.2〜25、さらに好ましくは0.3〜10(特に0.5〜5)程度である。
【0033】
硬化油としては、例えば、植物油(大豆硬化油、大豆極度硬化油、菜種硬化油、菜種極度硬化油など)、動物油(牛脂硬化油、牛脂極度硬化油、豚脂硬化油、豚脂極度硬化油、馬脂硬化油、馬脂極度硬化油、鯨油硬化油、鯨油極度硬化油など)などが挙げられる。これらの硬化油のうち、牛脂硬化油又は牛脂極度硬化油、大豆硬化油又は大豆極度硬化油、菜種硬化油又は菜種極度硬化油などが汎用される。
【0034】
油脂類の割合は、ポリウレタン100質量部に対して1〜10質量部程度の範囲から選択でき、例えば、1.5〜8質量部、好ましくは2〜6質量部、さらに好ましくは3〜5質量部程度である。
【0035】
さらに、ポリウレタンがウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物である場合、油脂類の割合は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して1〜10質量部程度の範囲から選択できるが、本発明では、油脂類の割合が10質量部未満であっても摺動性を発現でき、例えば、1〜8質量部、好ましくは2〜7質量部、さらに好ましくは3〜6質量部程度であってもよい。
【0036】
(他の添加剤)
前記樹脂組成物は、慣用の添加剤、例えば、安定剤(耐候安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤など)、充填剤、可塑剤、滑剤、着色剤、溶媒などを含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤のうち、本発明の歯付ベルトは、前記油脂類の配合により高い摺動性を有するため、滑剤や可塑剤を配合しない組成物であっても、ベルトの耐久性を向上できる。そのため、前記樹脂組成物は、滑剤や可塑剤(特に可塑剤)を実質的に含有しなくてもよい。滑剤や可塑剤などの添加剤を含有する場合、添加剤の割合は、ポリウレタン100質量部に対して30質量部以下、好ましくは1〜20質量部、さらに好ましくは3〜15質量部程度である。
【0037】
(伝動ベルトの構造及び製造方法)
本発明の伝動ベルトのベルト本体には、走行の安定性及びベルト強度などの点から、ベルトの長手方向に沿って延びて心線(通常、複数の心線)が埋設されている。
【0038】
心線(抗張体)としては、通常、マルチフィラメント糸の撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜1mm、さらに好ましくは0.7〜0.8mm程度である。
【0039】
複数の心線は、ベルトの幅方向に所定の間隔(又はピッチ)をおいて(又は等間隔で)埋設されていてもよい。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、心線の径に応じて、例えば、0.5〜2mm、好ましくは0.8〜1.5mm程度であってもよい。
【0040】
心線を構成する繊維としては、特に制限されず、低伸度高強度の点から、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用される。
【0041】
本発明の伝動ベルトは、少なくともプーリとの接触部が前記樹脂組成物で形成されていればよく、例えば、伝動ベルト全体が前記樹脂組成物で形成されていてもよく、伝動ベルトが複数の層が積層された積層構造を有する場合、プーリとの接触部を有する層のみを前記樹脂組成物で形成してもよい。
【0042】
本発明の伝動ベルトは、摺動性に優れ、プーリとの摩擦抵抗を低減できるため、プーリとの噛み合い時の摩擦による騒音の発生や歯欠け現象が起こり易い歯付ベルトに適している。本発明の歯付ベルトは、ベルト本体の少なくとも一方の面に、前記長手方向に所定の間隔をおいて形成され、かつプーリと噛み合わせるための複数の歯部を有する歯付ベルトであってもよい。
【0043】
図1は、本発明の歯付ベルトの一例を示す部分概略斜視図である。この図では、歯付ベルトは、ベルト本体1の一方の面に、ベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の歯部2を有しており、この歯部2の長手方向における断面形状は台形である。さらに、前記ベルト本体1には、ベルトの長手方向に延びる複数の心線3がベルトの幅方向に所定の間隔をおいて埋設されている。
【0044】
歯付ベルトの形状は、図1の形状に限定されず、ベルト本体の少なくとも一方の面に、ベルトの長手方向に所定の間隔をおいて形成され、かつ歯状プーリと嵌合可能な複数の歯部又は凸部を有していればよい。凸部の断面形状(ベルトの長手方向又は幅方向の断面形状)としては、前記台形に限定されず、歯状プーリの形態などに応じて、例えば、円形、楕円形、多角形(三角形、四角形(矩形など)など)などが例示できる。隣り合う凸部の間隔は、歯状プーリの形態などに応じて、例えば、1〜10mm、好ましくは2〜8mm程度である。
【0045】
伝動ベルトが前記積層構造である場合、ベルト本体は、プーリとの接触部を有する層と同種又は異種のポリウレタンの他、慣用のゴム成分、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、これらのゴムの組合せなどで形成されていてもよい。
【0046】
本発明の伝動ベルトは、50℃程度に加熱されても摺動性に優れるため、高負荷伝動機器部材などに利用される歯付ベルトに有用であり、特に、自転車用歯付ベルトとして有用である。
【0047】
さらに、本発明の伝動ベルトは、布帛などで形成された補強層を備えていてもよい。
【0048】
伝動ベルトの製造方法としては、特に限定されず、慣用の方法を利用でき、例えば、歯付ベルトの場合、歯型に対応する複数の溝部が軸方向に延在する外周面を有する内型と、円筒状の外型を組み合わせた金型を用いて製造してもよい。詳細には、内型に抗張体を巻き付けた後、外型に挿入し、金型を80〜120℃(例えば、90〜110℃)程度に予熱し、内型と外型との間に樹脂組成物を充填してもよい。さらに、樹脂組成物を充填した金型組立体を3000〜5000rpm(例えば、3500〜4500rpm)程度で回転させながら、100〜130℃(例えば、110〜120℃)程度に加熱することにより、樹脂組成物を硬化させてベルトスリーブを得ることができる。得られたベルトスリーブは、所定の幅に輪切りして、本発明の歯付ベルトが得られる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における歯付ベルトの各評価項目の評価方法、使用した油脂類の詳細は以下の通りである。
【0050】
[ヨウ素価]
基準油脂分析試験法(日本油化学会制定)に準拠して測定した。
【0051】
[ブリードアウト性]
得られた歯付ベルトを25℃の環境で7日間放置し、その歯部表面における油脂の滲み出しの程度(ブリードアウト性)を、以下の基準で目視により観察した。なお、ラードを用いた比較例1のブリードアウト性を基準として評価とした。
【0052】
5:滲み出し量が比較例1よりもかなり多い
4:滲み出し量が比較例1よりも多い
3:比較例1と同等の滲み出し量がある
2:滲み出し量が比較例1よりも少ない
1:滲み出しがない。
【0053】
[摺動性]
得られた歯付ベルトについて、25℃及び50℃における歯部表面の摺動性を、以下の基準で触覚により評価した。なお、ラードを用いた比較例1の25℃における摺動性を基準として評価とした。
【0054】
5:摺動性が比較例1よりもかなり高い
4:摺動性が比較例1よりも高い
3:25℃における比較例1の摺動性と同等である
2:摺動性が比較例1よりも低い
1:粘着性がある。
【0055】
[油脂類]
牛脂硬化油:日油(株)製、融点54℃
牛脂極度硬化油:日油(株)製、融点60℃
大豆極度硬化油:横関油脂工業(株)製、融点68℃
菜種極度硬化油:横関油脂工業(株)製、融点69℃
ラード(豚脂):日油(株)製、融点40℃
やし油:花王(株)製、融点−20℃
ソルビタントリステアレート:花王(株)製、融点56℃
ひまし硬化油:豊国製油(株)製、融点87℃。
【0056】
実施例1〜4及び比較例1〜4
ウレタンプレポリマーとして、TDI末端ポリテトラメチレングリコールエーテル(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネート4095」)100質量部に、硬化剤としてMOCA(イハラケミカル工業(株)製「キュアミンMT」)10質量部及び表1に示す油脂類5質量部を配合し、樹脂組成物を調製した。
【0057】
歯型(S8M)に対応する複数の溝部が軸方向に延在する外周面を有する内型に、心線(アラミド心線、線径0.7mm)を、スピニングピッチ1.0mmで巻き付けた後、円筒状の外型に挿入した。このようにして組み合わせた金型を100℃に加熱した後、得られた樹脂組成物を金型に充填し、4000rpm程度で回転させながら、120℃に加熱することにより、樹脂組成物を硬化させてベルトスリーブを得た。得られたベルトスリーブは、所定の幅に輪切りし、歯部の幅14mm、歯ピッチ8mm、周長1272mmの歯付ベルトを得た。得られた歯付ベルトの評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果から明らかなように、実施例の歯付ベルトでは、ブリードアウト性に優れ、25℃及び50℃のいずれにおいても摺動性を示している。これに対して、比較例の歯付ベルトでは摺動性充分でない。
【0060】
特に、比較例4の結果から明らかなように、通常、融点の高い油脂を用いると、滲み出しがなくなり、摺動性が低下する。これに対して、実施例の歯付ベルトでは、25℃及び50℃のいずれにおいても、比較例の歯付ベルトよりも高い摺動性を示している。
【0061】
さらに、実施例1と比較例1で得られた歯付ベルトを駆動プーリと従動プーリ(共に24歯)に掛け回し、従動プーリに負荷を掛けた状態で駆動プーリを3600rpmで駆動し、歯欠けが発生するまでの屈曲回数でベルトの耐久性を評価した。評価結果を図2に示す。図2の結果から明らかなように、実施例1の歯付ベルトは、比較例1の歯付ベルトに比べて、1.5〜2倍程度の寿命の延長が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の伝動ベルトは、例えば、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトとして利用してもよいが、歯付ベルトとして好適に利用できる。
【0063】
また、本発明の伝動ベルトは、各種機器の伝動ベルトに利用でき、OA(オフィス・オートメーション)機器、家電機器などの低負荷伝動機器の伝動ベルトなどに利用できるが、高温での耐久性に優れる点から、印刷機械、自動販売機、工作機械、自転車などの高負荷伝動機器部材などに利用される歯付ベルトとして好適に利用でき、特に、自転車用歯付ベルトとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1…ベルト本体
2…歯部
3…心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの長手方向に延びて心線が埋設された伝動ベルトであって、少なくともプーリとの接触部が、ポリウレタン及びトリグリセリドを主成分とする融点50〜80℃の油脂類を含む樹脂組成物で形成されている伝動ベルト。
【請求項2】
油脂類が硬化油である請求項1記載の伝動ベルト。
【請求項3】
油脂類のヨウ素価が30以下である請求項1又は2記載の伝動ベルト。
【請求項4】
油脂類がトリグリセリドである請求項1〜3のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項5】
ポリウレタンがウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物であり、油脂類の割合が前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して10質量部未満である請求項1〜4のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項6】
ベルト本体の少なくとも一方の面に、前記長手方向に所定の間隔をおいて形成され、かつプーリと噛み合わせるための複数の歯部を有する歯付ベルトである請求項1〜5のいずれかに記載の伝動ベルト。
【請求項7】
自転車用歯付ベルトである請求項1〜6のいずれかに記載の伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251586(P2012−251586A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123698(P2011−123698)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】