説明

伝導性フィルムの後処理方法およびこれを用いた伝導性フィルム

【課題】 透過率および電気伝導度を向上させるために伝導性フィルムを酸溶液で後処理する方法、およびこれを用いた伝導性フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の伝導性フィルムの後処理方法は、(A)ベース部材を提供する段階と、(B)前記ベース部材に伝導性高分子組成物をコートおよび乾燥させて伝導性フィルムを得る段階と、(C)前記伝導性フィルムを酸溶液で後処理する段階とを含んでなる。本発明によれば、伝導性フィルムを酸溶液で浸漬法またはスプレー法によって酸化させる後処理を施すことにより、伝導性高分子のバンドギャップが小さくなり、伝導性フィルムの透過率および電気伝導度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導性フィルムの後処理方法およびこれを用いた伝導性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル技術を用いるコンピュータの発達に伴い、コンピュータの補助装置も一緒に開発されており、パーソナルコンピュータや携帯用転送装置、その他の個人専用情報処理装置などは、キーボードやマウスなどの様々な入力装置(Input Device)を用いてテキスト処理およびグラフィック処理を行う。
【0003】
ところが、情報化社会の急速な進行に伴ってコンピュータの用途が益々拡大する趨勢にあるので、現在、入力装置の役割を担当するキーボードおよびマウスのみでは効率的な製品の駆動が難しいという問題点がある。よって、簡単で誤操作が少ないうえ、誰でも容易に情報の入力が可能な機器の必要性が高まっている。
【0004】
また、入力装置に関する技術は、一般な機能を充足させるという水準を超え、高信頼性、耐久性、革新性、設計および加工関連技術などに関心が移っている。このような目的を達成するために、テキストやグラフィックなどの情報の入力が可能な入力装置としてタッチパネル(Touch Panel)が開発された。
【0005】
このようなタッチパネルは、電子手帳、液晶表示装置(LCD、Liquid Crystal Display Device)、PDP(Plasma Display Panel)、El(Electroluminescence)などの平板ディスプレイ装置、およびCRT(Cathode Ray Tube)といった画像表示装置の表示面に設置され、ユーザーが画像表示装置を見ながら所望の情報を選択するようにするのに用いられる道具である。
【0006】
タッチパネルの種類は、抵抗膜方式(Resistive Type)、静電容量方式(Capacitive Type)、電磁気方式(Electro-Magnetic Type) 、SAW方式(Surface Acoustic Wave Type)、およびインフラレッド方式(Infrared Type)に区分される。このような各種方式のタッチパネルは、信号増幅の問題、解像度の差異、設計および加工技術の難易度、光学的特性、電気的特性、機械的特性、耐環境特性、入力特性、耐久性および経済性を考慮して電子製品に採用されるが、現在最も広範囲な分野で使用する方式は抵抗膜方式のタッチパネルと静電容量方式のタッチパネルである。
【0007】
抵抗膜方式のタッチパネルの場合は、上/下部透明電極膜がスペーサによって離隔し、押圧によって互いに接触できるように配置された形態である。上部透明膜の形成されている上部伝導性フィルムが手指やペンなどの入力手段によって押圧されるときに上/下部透明電極膜が通電し、その位置の抵抗値変化による電圧変化を制御部で認知して接触座標を認識する方式として、デジタル抵抗膜方式とアナログ抵抗膜方式がある。
【0008】
静電容量方式のタッチパネルの場合は、第1透明電極の形成された上部伝導性フィルムと第2透明電極の形成された下部伝導性フィルムとが互いに離隔し、第1透明電極と第2透明電極とが接触しないように絶縁材が挿入される。また、上部伝導性フィルムと下部伝導性フィルムには、透明電極に連結された電極配線が形成される。電極配線は、入力手段がタッチスクリーンに接触することにより、第1透明電極と第2透明電極における静電容量の変化を制御部へ伝達する。
【0009】
従来では、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を用いて透明電極を形成したが、現在、これを代替するための物質として伝導性高分子に関する研究が盛んに行われている。伝導性高分子は、ITOに比べて柔軟性に優れるうえ、コーティング工程が単純であるという利点がある。このような利点により、伝導性高分子は、タッチパネルだけでなく、次世代技術であるフレキシブルディスプレイ(Flexible display)の核心的要素として注目を浴びている。
【0010】
但し、このような伝導性高分子を用いてベース部材に透明電極をパターニングする場合、伝導性高分子固有の青色によりタッチパネルの透過率が低下するという問題点が発生した。
【0011】
また、タッチスクリーンやディスプレイなどの小型化・高集積化の趨勢により、透明電極の電気伝導度は非常に重要な要素であるので、ITOを伝導性高分子で代替する際に伝導性高分子の相対的に低い電気伝導度が問題となった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、その目的は、透過率と電気伝導度を向上させるために伝導性フィルムを酸溶液で後処理する方法、およびこれを用いた伝導性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、(A)ベース部材を提供する段階と、(B)前記ベース部材に伝導性高分子組成物をコートおよび乾燥させて伝導性フィルムを得る段階と、(C)前記伝導性フィルムを酸溶液で後処理する段階とを含んでなる、伝導性フィルムの後処理方法を提供する。
ここで、前記後処理する段階は浸漬法またはスプレー法によって行われることを特徴とする。
また、前記後処理する段階は5分〜70分間行われることを特徴とする。
また、前記酸溶液の濃度は0.5〜3モラール濃度であることを特徴とする。
また、前記酸溶液は塩酸(HCl)、硫酸(HSO)または硝酸(HNO)溶液であることを特徴とする。
【0014】
また、前記伝導性高分子組成物はポリチオフェン系伝導性高分子、ポリピロール系伝導性高分子、ポリフェニレン系伝導性高分子、ポリアニリン系伝導性高分子およびポリアセチレン系伝導性高分子のいずれか一つを含むことを特徴とする。
また、前記ポリチオフェン系伝導性高分子はポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)であることを特徴とする。
本発明の他の観点によれば、前記伝導性フィルムの後処理方法によって後処理され、面抵抗値が500Ω/□以下である伝導性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、伝導性フィルムを酸溶液で後処理して伝導性高分子を酸化させることにより、伝導性フィルムの透過率および電気伝導度が向上する。
また、本発明によれば、面抵抗値500Ω/□以下の伝導性フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的、特定の利点および新規の特徴は添付図面に連関する以下の詳細な説明と好適な実施例からさらに明白になるであろう。
【0017】
これに先立ち、本明細書および請求の範囲に使用された用語または単語は、通常的かつ辞典的な意味で解釈されてはならず、発明者が自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。なお、本発明を説明するにおいて、関連した公知の技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を無駄に乱すおそれがあると判断される場合、その詳細な説明は省略する。
以下、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る伝導性フィルムの後処理方法は、(A)ベース部材を提供する段階と、(B)前記ベース部材に伝導性高分子組成物をコートおよび乾燥させて伝導性フィルムを得る段階と、(C)前記伝導性フィルムを酸溶液で後処理する段階とを含んでなる。本発明は、酸溶液で伝導性フィルムを後処理することにより、伝導性フィルムの透過率および電気伝導度を高めることができる。次に、伝導性フィルムの後処理工程順に詳細に説明する。
【0019】
まず、ベース部材を準備する。ベース部材は、支持力、およびディスプレイで提供する画像を使用者が認識し得るようにする透明性を備えなければならない。前述した支持力と透明性を考慮するとき、ベース部材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、環状オレフィン共重合体(COC)、TAC(Triacetylcellulose)フィルム、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)フィルム、ポリイミド(polyimide、PI)フィルム、ポリスチレン(polystyrene、PS)、二軸延伸ポリスチレン(Kレジン含有BOPS(biaxially oriented PS))、ガラスまたは強化ガラスなどで形成することが好ましいが、これに限定されない。
次に、ベース部材に伝導性高分子組成物をコートおよび乾燥させて伝導性フィルムを製造する。
【0020】
伝導性高分子組成物は、溶媒に伝導性高分子が溶解された溶液をいい、その他の添加剤、例えばバインダー、ドーパント、分散安定剤および界面活性剤などが混合されてもよい。
【0021】
伝導性高分子は、炭素原子一つ当たり一つのπ電子を有する電気伝導性を帯びる高分子であって、一般に約10,000以上の分子量を有する。伝導性高分子は、既存の透明電極として一般に採用されているITO(Indium Tin Oxide)に比べて軽量であると同時に柔軟性が高い薄膜を得ることができるという利点がある。このような伝導性高分子はポリチオフェン系、ポリピロール系、ポリフェニレン系、ポリアニリン系またはポリアセチレン系であってもよい。
【0022】
この際、好ましくは、ポリチオフェン系伝導性高分子はポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)である。具体的に、(株)H.C.スタルク社のClevious P製品を使用する。前記ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)は、ドーパントとしてポリスチレンスルホネート(PSS)がドープされている水によく溶ける性質を示し、熱的安定性に非常に優れる。また、前記ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)は、水に対する最適分散性を保つために、PEDOTおよびPSS固形分濃度が1.0〜1.5重量%の範囲に調整されている。前記PEDOTは、さらに水、アルコールまたは誘電定数の大きい溶媒とよく混合されるので、前記溶媒と希釈して容易にコートすることができ、コート膜を形成したときにもその他の伝導性高分子たるポリアニリン系、ポリピロール系などと比較して優れた透明度を示す。
【0023】
伝導性高分子組成物をベース部材にコートする際に、乾式工程または湿式工程を用いることができる。乾式工程としてはスパッタリング(Sputtering)、蒸着(Evaporation)などがあり、湿式工程としてはディップコーティング(Dip coating)、スピンコーティング(Spin Coating)、ロールコーティング(Roll coating)、スプレーコーティング(Spray coating)などがある。
【0024】
前記伝導性高分子組成物のコートされたベース部材を熱風乾燥、真空乾燥または紫外線(IR)乾燥させることにより、ベース部材に固定された形状の透明電極が形成される。
【0025】
次に、伝導性フィルムを酸溶液で後処理する。伝導性フィルムを酸溶液で後処理して伝導性高分子を酸化させることにより、伝導性フィルムの電気伝導度および透過率が向上する。伝導性高分子のバンド構造における電子に占有された最も高いエネルギーバンド(価電子帯)の頂上から、最も低い空のバンド(伝導帯)の底までの間のエネルギー準位およびそのエネルギー差をバンドギャップというが、酸溶液で後処理するとき、このようなバンドギャップが小さくなる。よって、少ないエネルギーのみでも電子の移動が起こり得るため、伝導性フィルムの電気伝導度が向上する。また、バンドギャップが小さくなって可視光線領域の吸収率が減少するので、伝導性フィルムの透過率が向上する。
【0026】
この際、伝導性フィルムを酸溶液で浸漬法またはスプレー法によって後処理することができる。酸溶液に伝導性フィルムを一定の時間浸漬する浸漬法や、スプレー装置によって伝導性フィルムに酸溶液を塗布するスプレー法は、その方式が単純であり、別途の装置が不要であるという利点がある。このような後処理は5分〜70分間行う。好ましくは20分〜50分間酸溶液で後処理する。後処理時間は酸溶液の濃度によって異なる。
【0027】
酸溶液は塩酸(HCl)、硫酸(HSO)または硝酸(HNO)などの溶液上でH+イオンを出す物質であってもよい。また、酸溶液は、電子対を受け入れることのできる物質であって、AlBrなどのルイス酸(Lewis acid)であってもよい。但し、これに限定されず、酸溶液は伝導性高分子を酸化させることが可能な全ての物質を含む。
【0028】
この際、酸溶液の濃度は0.5〜3モラール濃度であり、好ましくは0.8〜2モラール濃度である。酸溶液の濃度が0.5モラール濃度未満であれば、酸溶液による伝導性高分子の酸化反応が微弱であり、酸溶液の濃度が3モラール濃度超過であれば、酸溶液による伝導性フィルムが損傷するおそれがある。
【0029】
本発明に係る伝導性フィルムは、伝導性高分子組成物をベース部材にコートおよび乾燥させた後、これを酸溶液で後処理することにより得ることができる。前記後処理方法によって処理された伝導性フィルムは、面抵抗値が500Ω/□以下であって、電気伝導度に優れるという利点を持つ。また、88.1%以上の優れた透過率を有する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。

(実施例1)
【0031】
まず、i−プロパンを有機溶媒にバインダーとしてアクリルバインダー、伝導性高分子としてポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)水溶液をそれぞれ仕込み、約1時間混合して伝導性高分子組成物を製造した。この際、伝導性高分子組成物の組成比はi−プロパノール60%、アクリルバインダー5%、PEDOT/PSS35%である。製造した伝導性高分子組成物をベース部材上にスピンコートした後、約100℃で5分間乾燥させて伝導性フィルムを製造した。前記伝導性フィルムを0.5モラール濃度のHCl溶液に30分間浸漬して後処理を施す。

(実施例2)
伝導性フィルムを1モラール濃度のHCl溶液に30分間浸漬して後処理を施す以外は、実施例1と同様にして行う。

(実施例3)
伝導性フィルムを2モラール濃度のHCl溶液に30分間浸漬して後処理を施す以外は、実施例1と同様にして行う。

(実施例4)
伝導性フィルムを3モラール濃度のHCl溶液に30分間浸漬して後処理を施す以外は、実施例1と同様にして行う。

(比較例1)
実施例1と同様にして行うが、PEDOT/PSS伝導性フィルムをHCl溶液で後処理していない。

(試験例)
【0032】
実施例1〜実施例4の酸溶液で後処理された伝導性フィルムおよび比較例の伝導性フィルムの面抵抗値と透過率を測定した。面抵抗値の測定は三菱化学株式会社のLoresta EP MCP−T360を使用した。透過率の測定にはミノルタ社のCM−3500dを使用した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の実験データ結果値から分かるように、本発明に係る後処理された伝導性フィルムは、酸溶液で後処理していない場合(比較例)より面抵抗が低いため、電気伝導度に優れるうえ、透過率が向上した。この際、酸溶液の濃度を0.8〜2モラール濃度にして後処理を施した方が優れた電気伝導度および透過率の向上効果を示す。
【0035】
以上、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明したが、これは本発明を具体的に説明するためのものに過ぎず、本発明による伝導性フィルムの後処理方法およびこれを用いた伝導性フィルムはこれに限定されないのは言うまでもない。本発明の技術的思想内で、当該分野における通常の知識を有する者によって多様な変形及び改良が可能であることは明白であろう。本発明の単純な変形ないし変更はいずれも本発明の範疇内に属するもので、本発明の具体的な保護範囲は特許請求範囲によって明らかになるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベース部材を提供する段階と、
(B)前記ベース部材に伝導性高分子組成物をコートおよび乾燥させて伝導性フィルムを得る段階と、
(C)前記伝導性フィルムを酸溶液で後処理する段階と、を含んでなることを特徴とする、伝導性フィルムの後処理方法。
【請求項2】
前記後処理する段階が浸漬法またはスプレー法によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の伝導性フィルムの後処理方法。
【請求項3】
前記後処理する段階が5分〜70分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の伝導性フィルムの後処理方法。
【請求項4】
前記酸溶液の濃度が0.5〜3モラール濃度であることを特徴とする、請求項1に記載の伝導性フィルムの後処理方法。
【請求項5】
前記酸溶液が塩酸(HCl)、硫酸(HSO)または硝酸(HNO)溶液のいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の伝導性フィルムの後処理方法。
【請求項6】
前記伝導性高分子組成物は、ポリチオフェン系伝導性高分子、ポリピロール系伝導性高分子、ポリフェニレン系伝導性高分子、ポリアニリン系伝導性高分子およびポリアセチレン系伝導性高分子のいずれか一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の伝導性フィルの後処理処理方法
【請求項7】
前記ポリチオフェン系伝導性高分子がポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)であることを特徴とする、請求項6に記載の伝導性フィルムの後処理方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の伝導性フィルムの後処理方法によって後処理され、面抵抗値が500Ω/□以下であることを特徴とする、伝導性フィルム。

【公開番号】特開2012−139674(P2012−139674A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268815(P2011−268815)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】