説明

伝導性促進剤としてのマレイミド化合物の金属塩

【課題】 伝導性、特にその導電性が可使時間またはレオロジーを損なうことなく改良された導電性樹脂組成物を提供すること。半導体パケッジング産業内における用途、特に高レベルの導電性を要求する用途に商業的に適した導電性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 樹脂、導電性充填剤及びマレイミド酸の金属塩を含有する導電性組成物。該マレイミド酸の金属塩は、例えば、(i)1モル当量の無水マレイン酸を1モル当量のアミノ酸と反応させてアミド酸を形成し;(ii)該アミド酸を脱水してマレイミド酸を形成し;そして(iii)該マレイミド酸をその金属塩へ変換させることにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は導電性樹脂組成物、特にマレイミド化合物の金属塩を含む導電性樹脂組成物に関する。
【0002】
発明の背景
導電性充填剤は樹脂組成物を熱的または電気的に伝導性にするために樹脂組成物へ添加される。導電性樹脂組成物は、幅広い用途を有する。例えば、回路構成材料を回路版へ、或いは半導体ダイをリードフレイムへ付着させる場合のソルダー代替物;例えば迷走電流または静電気を運び去る導電性塗料としての遮蔽;例えば重合体肉厚被膜インクまたは導電性アンテナ用のRFIDインクのような導電性インク;タンタルコンデンサ;または例えば、熱放散用のケイ素ゲルまたはグリース等としての熱的界面材料等の幅広い用途を有する。
【0003】
特に、導電性樹脂組成物は半導体ダイまたはチップを基板へ付着させるための接着剤として用いることができる。用途によっては、例えば電力集積回路(power integrated circuit)において、或いはソルダーの代替物としての該ダイと該基板間の高度の導電性を要求するものでは、高められた伝導性が必要である。こうするための明らかな方法は、該樹脂組成物中の該導電性充填剤の充填量を増やすことであり、或いはより導電性の充填剤を利用することである。しかし、これらのどの方法も該組成物のレオロジーまたは他の性能特性に影響を与えるものである。
【0004】
発明の概要
本発明者は、カルボン酸官能性及びマレイミド官能性の双方を含有する化合物の金属塩(以下“マレイミド酸の金属塩”と言及する)を樹脂及び導電性充填剤を含有する組成物へ添加すると、該組成物の伝導性、特にその導電性が可使時間またはレオロジーを損なうことなく改良されることを見出した。従って、この改良された導電性樹脂組成物は半導体パケッジング産業内における用途、特に高レベルの導電性を要求する用途に商業的に適している。
【0005】
発明の詳細な記述
本発明は樹脂、導電性充填剤及びマレイミドの金属塩を含有する導電性組成物に関する。本明細書及び請求の範囲において用いられるマレイミド酸の金属塩はマレイミド部分を含む有機酸をその酸の金属塩へ変換させることにより得られる化合物を意味するものとする。該組成物へ該金属塩を添加すると有意に伝導性が改良される。この態様において、該金属塩は該導電性組成物が利用されている装置の操作から発生する熱により活性化される。
【0006】
別の態様において、該組成物は硬化性樹脂、該樹脂用の硬化剤、導電性充填剤及びマレイミド酸の金属塩を含有する。この技術は、縮合、付加及び電子供与体/電子受容体反応により硬化する化学作用に用いることができる。この態様において、該マレイミド酸の金属塩は反応熱により、或いは該反応を開始するための供給熱により活性化される。
【0007】
本発明のマレイミド酸の金属塩は(i) 1モル当量の無水マレイン酸を1モル当量のアミノ酸と反応させてアミド酸を形成し;(ii) 該アミド酸を脱水して(先に定義されている)マレイミド酸を形成し;そして (iii) 該マレイミド酸をその金属塩に転換させることにより製造される。
【0008】
適当なアミノ酸は脂肪族または芳香族のもので、例えば、グリシン、アラニン、2-アミノイソ酪酸、バリン、tert-ロイシン、ノルバリン、2-アミノ-4-ペンテン酸、イソロイシン、ロイシン、ノルロイシン、β-アラニン、5-アミノ吉草酸、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノカプリル酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、2-フェニルグリシン、2,2’-ジフェニルグリシン、フェニルアラニン、α-メチル-DL-フェニルアラニン及びホモフェニルアラニン等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0009】
該無水マレイン酸をアセトニトリル等の有機溶媒に溶解させ、この溶液を1モル当量の該アミノ酸へ添加する。得られた混合物を一般的には約3時間室温で白色結晶が形成されるまで反応させる。この白色結晶を濾別し、冷有機溶媒(アセトニトリル)で洗浄し、そして乾燥して該アミド酸付加体を製造する。このアミド酸付加体を塩基、一般的にはトリエチルアミンとトルエン等の溶媒中で混合する。得られた混合物を130℃で2時間加熱して該アミド酸を脱水してそのマレイミド環を形成する。該溶媒を蒸発させ、充分な2M 塩酸を添加してpH 2とする。次いで生成物を酢酸エチルで抽出して、例えば硫酸マグネシウムで乾燥させ、続いて該溶媒を蒸発させる。
【0010】
上記反応からの該生成物はマレイミド及びカルボン酸官能性の双方を含む化合物(以下“マレイミド酸”として言及される)である。該マレイミド及びカルボン酸官能性を分離する該 (脂肪族または芳香族) 炭化水素部分は、該化合物を作るために用いた出発アミノ酸の誘導体であることは当業者により理解されよう。
【0011】
該マレイミド酸からの金属塩への変換は公知の技術であって、本実施例で開示した方法により達成される。一般に、該カルボン酸官能性のこの変換は、該マレイミド酸を金属硝酸塩またはハロンゲン化物と結合させることにより行われる。
【0012】
該マレイミド酸を10℃以下で水と混合し、そして充分な塩基、例えば水酸化アンモニウム(アッセイ 28乃至30%)を添加してそのpHを約7.0へ上げる。化学量論量の金属硝酸塩またはハロンゲン化物の溶液を調製し、反応温度を10℃以下に保ちながら、短時間(例えば5分間)で該反応スラリーへ添加する。該反応をその温度に保ち、数時間、一般的には2乃至3時間混合し、その後得られた混合物を室温へもどし、更に室温で12時間混合する。
【0013】
該マレイミドの金属塩である沈殿生成物を濾別し、(3回)水で、次に(3回)アセトンで洗浄し、そして真空オーブン中約45℃で48時間乾燥する。
【0014】
該マレイミド酸の酸官能基との配位に適する金属元素はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、水銀(Hg)、アルミニウム(Al)及び錫(Sn)からなる群から選ばれる。これらの金属の硝酸またはハロゲン化物塩は該マレイミド酸との反応に好ましい塩である。
【0015】
該マレイミドの金属塩は、一般に、選ばれた樹脂組成物への配合用微粉へ粉細できる固体物質である。該金属塩は該組成物中に該組成物の0.05重量%乃至10重量%の充填量で存在することとなる。1態様においては、該充填量は0.1重量%乃至0.5重量%前後である。
【0016】
これらの組成物での使用に適した典型的な樹脂は、フェノール系、エポキシ、アクリレート、マレイミド、ポリイミド、ポリウレタン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリエステル、シリコーン、ベンゾオキサジン、オキセタン、チオエン、オキサゾリン、ニトロン、ビニルエーテル、スチレン系及びケイ皮酸系を含む。特定な樹脂の選択は本発明にとっては重要なことではなく、使用者が最終使用用途に合う硬化及び接着性能で該樹脂を選択することができる。樹脂のこのような性能特性は当業者には知られていることであろう。
【0017】
該樹脂組成物はまた導電性充填剤を含む。本明細書及び請求の範囲において用語“導電性充填剤”は (a) 粒子、フレークまたは粉体状及びそれらの任意の組合せの金属と(b)フレークまたは粉体状及びそれらの任意の組合せの非導電性充填剤であって、金属表面が被覆されているものを含むものと見做す。粒子、フレークまたは粉体の大きさ及び形状は本発明にとっては重要ではない。一般的には、該導電性充填剤の充填密度を最適にするためにフレークと粉体の組合せが用いられる。典型的には、該充填剤は20重量%乃至95重量%の量で存在することになる。1つの態様において、充填剤は銀充填剤であり、70重量%乃至90重量%の量で存在する。
【0018】
適当な導電性充填剤は金属性であり、金、銀、銅、コバルト、銀被覆黒鉛、銅合金、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、銀被覆銅、白金またはパラジウムの銀合金、青銅または黄銅合金を含む。本明細書で開示されているパラメーター内の特定の最終使用用途のための充填剤組成物の選択は当業者の専門技術の範囲に属するものであり、改良された伝導性を得るためには重要ではない。
【0019】
実施例
実施例1:マレイミドカプロン酸(2.1モル)/硝酸銅(II)2.5水和物(ヘミペンタハイドレート)(1.0モル)の調製
【0020】
【化1】

【0021】
出発物質であるマレイミドカプロン酸
【0022】
【化2】

【0023】
を以下のごとくして調製した。すなわち、1モル当量の無水マレイン酸のアセトニトリル溶液を1モル当量の6-アミノカプロン酸の酢酸溶液に加えた。該混合物を室温で3時間反応させた。生成した白色結晶を濾別し、冷アセトニトリルで洗浄し、そして乾燥してそのアミド酸付加体を製造した。アミド酸をトルエン中のトリエチルアミンと混合し、その混合物を2時間130℃へ加熱した。反応水はディーンスタークトラップで集めた。該有機溶媒を蒸発させ、そして十分な2M塩酸を加えてpHを2にした。酢酸エチルでの抽出、硫酸マグネシウムでの乾燥、それに続く該溶媒の蒸発により、6-マレイミドカプロン酸(MCA)を得た。
【0024】
6-マレイミドカプロン酸(MCA)(76.83 g、0.3641モル)と100 mLの水を機械的混合機、温度計及びpHプローブを備えた1リットルの4口丸底フラスコ中で混合させた。該反応物は撹拌下で60℃へ加熱すると相分離した。水酸化アンモニウム(アッセイ 28乃至30%)を添加してそのpHを2.53から約7.0(〜7.0)までへ上げた。添加中、反応温度は60℃乃至70℃に維持し、そして反応物は均一な透明暗銅色になった。37℃へ冷却すると、該反応物は濁り、油状になり(oiling out)始めた。水50 mLを加えてその不透明な反応を少し透明にした。そのpHが約7.25に達するまで水酸化アンモニウムの添加を続け、そのpHで反応は不透明な金色の混合物であった。該反応物を氷浴中で冷却してスラリーとした。
【0025】
一方では、硝酸銅(II)2.5水和物(Aldrich、223395、98%) (50.00 g、0.2150モル)の50 mL水溶液を用意した。この塩は容易に溶解して透明な暗青色の溶液となった。反応温度を10℃以下に保ちながら、該硝酸銅(II)2.5水和物溶液をこの反応スラリーへ27分間にわたって添加した。それと分かる発熱量は観察されなかった。次いで水(200 mL)を添加してその濃厚な青緑色の反応混合物を希釈した。該氷浴を取り除き、該反応物を一晩混合した。
【0026】
14時間後に反応固体は透明な青色液体中で暗青緑色の非晶質の塊を形成した。該液をデカントし、そして該固体を3回水で洗浄した。この水洗に続き300 mLのアセトンを該固体へ添加した。これは該塊を砕く効果があった。この青色アセトンをデカントし、そしてこの工程を500 mLのアセトンで繰り返した。この洗浄で該混合物を30分間撹拌して充分に分散させた。次いで、薄青緑色の固体を該混合物から濾別して薄青色の濾液を残した。このアセトン洗浄を更に2回繰り返した。最後のアセトン洗浄液は透明無色であった。反応生成物は薄い青緑の粉末であって、真空オーブン中45℃で1晩乾燥した。
【0027】
実施例2:マレイミドプロピオン酸(2.1モル)/硝酸銅(II)2.5水和物(1.0モル)の調製
【0028】
【化3】

【0029】
マレイミドプロピオン酸(61.58 g、0.3641モル)と100 mLの水を機械的混合機、温度計及びpHプローブを備えた1リットルの4口丸底フラスコ中で混合させた。該反応は撹拌下で60℃へ加熱すると僅かにもやのかかった金色の溶液となった。該反応液を室温へ冷却する間に硝酸銅(II)2.5水和物(Aldrich、223395、98%) (50.00 g、50 mLの水中0.2150モル)を用意した。
【0030】
水酸化アンモニウム(アッセイ 28乃至30%)を添加してそのpHを2.31から約7.0までへ上げた。添加中、反応温度は44℃へ上がり、反応物はかなり透明な(fairly clear)橙赤色になった。25℃へ冷却すると、そのpHは6.64であった。この温度で反応物は濁り、桃色の固体がその溶液から沈殿した。水50 mLを加え、そして水酸化アンモニウムの添加を続けてそのpHを約7.32へ上げた。反応物を氷浴で冷却してスラリーとした。反応温度を10℃以下に保ちながら、該硝酸銅(II)2.5水和物溶液をこの反応スラリーへ5分間にわたって添加した。それと分かる発熱量は観察されなかった。反応物を冷却しながら2時間混合した。次いで該氷浴を取り除き、得られたきれいな暗青緑色の混合物を一晩混合した。
【0031】
14時間後に反応物は中粘度の青緑色の混合物であった。この青緑色の反応液を濾別し、青空色の固体を30分間300 mLの水と混合し、次いで濾過した。この水洗を更に2回繰り返した。この洗浄に続き300 mLのアセトンを該固体へ添加した。得られた混合物を30分間撹拌し、次いで濾過した。このアセトン洗浄を更に2回繰り返した。最後のアセトン洗浄液は透明無色であった。反応生成物は薄い緑青色の粉末であって、真空オーブン中45℃で2晩乾燥した。この反応から28 gの収量が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、導電性充填剤及びマレイミド酸の金属塩を含有する導電性組成物。
【請求項2】
該マレイミド酸の金属塩が、
(i) 1モル当量の無水マレイン酸を1モル当量のアミノ酸と反応させてアミド酸を形成し;
(ii) 該アミド酸を脱水してマレイミド酸を形成し;そして
(iii) 該マレイミド酸をその金属塩へ変換させること
により形成された、請求項1の導電性組成物。
【請求項3】
該アミノ酸が、グリシン、アラニン、2-アミノイソ酪酸、バリン、tert-ロイシン、ノルバリン、2-アミノ- 4-ペンテン酸、イソロイシン、ロイシン、ノルロイシン、β-アラニン、5-アミノ吉草酸、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノカプリル酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、2-フェニルグリシン、2,2’-ジフェニルグリシン、フェニルアラニン、α-メチル-DL-フェニルアラニン及びホモフェニルアラニンからなる群より選ばれる、請求項2の導電性組成物。
【請求項4】
該マレイミド酸の金属塩が、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、水銀(Hg)、アルミニウム(Al)及び錫(Sn)からなる群より選ばれる金属元素の塩から誘導される、請求項2の導電性組成物。
【請求項5】
該マレイミド金属塩が該組成物中に該組成物の0.05重量%乃至10重量%の充填量で存在することとなる、請求項1の導電性組成物。
【請求項6】
該樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、チオエン樹脂、オキサゾリン樹脂、ニトロン樹脂、ビニルエーテル樹脂、スチレン樹脂及びケイ皮酸樹脂からなる群より選ばれる、請求項1の導電性組成物。

【公開番号】特開2007−2245(P2007−2245A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170102(P2006−170102)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(590000824)ナショナル スターチ アンド ケミカル インベストメント ホールディング コーポレイション (112)
【Fターム(参考)】