説明

伝搬損失推定方法、プログラム及び伝搬損失推定装置

【課題】建物上の伝搬経路における伝搬損失の推定に要する計算量を削減すること。
【解決手段】送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定し、送信機に最も近い建物の壁面のうち送信機に最も近い壁面と、受信機に最も近い建物の壁面のうち受信機に最も近い壁面と、を判定し、二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて送信機から受信機までの建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周辺に位置する建物の高さよりも低いアンテナを有する送信機と受信機との間の伝搬損失を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルラーシステムや無線LAN(Local Area Network)など、様々な無線通信システムがマイクロ波帯の周波数を利用している。これらのシステムの普及により、周波数資源の逼迫が問題となっている。今後、これらのシステムの設置がさらに増加してくると、限りある周波数資源を有効に利用するために、システム間で互いに生じる干渉を考慮したシステム設計が必要となる。そのためには、基地局や端末局における干渉検討を行うために、多様なアンテナ設置環境においてマイクロ波の伝搬特性を推定することが必要となる。
【0003】
端末局同士のように、周囲の建物よりも送受信機のアンテナ高が低い環境での伝搬損失モデルとして、ITU−R(Radio communication Sector of International Telecommunication Union)勧告P.1411の伝搬損失推定式がある。この伝搬損失モデルでは、都市部のようなストリートマイクロセル環境が想定されている。ストリートマイクロセル環境とは、建物密度と建物高(建物の高さ)とが高く、道路がビルに隙間なく囲まれた環境である。図7は、ITU−R勧告P.1411の伝搬損失推定式で想定されている地理的環境を示す図である。分岐点91に続く道路の上に送信機BSと受信機MSとが位置している。伝搬損失推定式を用いることにより、送信機BSが送信する電波を受信機MSにおいて受信した場合の伝搬損失を推定することが可能である。
【0004】
上記のモデルでは、建物密度が高いため、建物と建物との間の伝搬する経路や建物の上を越えて伝搬する経路は考慮されない。そのため、上記のモデルでは、道路に沿った伝搬経路の伝搬損失が推定される。一方、住宅地環境では考慮される経路が異なる(非特許文献2参照)。図8は、住宅地環境における伝搬損失推定式で想定されている地理的環境を示す図である。住宅地では、都市部に比べて建物密度が小さい。したがって、住宅地においては建物間隔が大きい。そのため、道路に沿った伝搬経路(実線)の伝搬損失に加え、建物と建物との間を伝搬する経路(破線)の伝搬損失も推定される。
【0005】
都市部や住宅地における従来技術の伝搬損失推定式では、建物の上を伝搬する経路(以下、「建物上の伝搬経路」という。)ではなく、建物高より低い伝搬経路の伝搬損失が推定される。しかし、実際の環境では、電波は送信機から放射状に射出されるため、建物上の伝搬経路が存在する。そこで、このような建物上の伝搬経路の伝搬損失を推定し、建物高より低い伝搬経路の伝搬損失と足し合わせることで、推定精度の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rec.ITU-R P.1411-5,” Propagation data and prediction methods for the planning of short-range outdoor radiocommunication systems and radio local area networks in the frequency range 300MHz to 100GHz,” ITU-R Recommendations, vol.4, P Series, ITU, Geneva (2009)
【非特許文献2】佐々木, 山田, 北, 杉山, “住宅地低層-低層環境における端末間干渉評価のための伝搬損モデル, ” 信学技報, A・P2010-142(2010-01)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術による建物上の伝搬経路における伝搬損失の推定方法では以下のような問題があった。図9は、従来技術の問題点を示す図である。図9の環境では、周囲の建物よりも送信機Tx及び受信機Rxのアンテナ高が低い。図9において、左から右方向に伸びる各矢印は、建物上の伝搬経路を示す。建物上の伝搬経路では、送信機Txと受信機Rxとの間に位置する各建物(B1〜B5)の屋上面における多重反射や、各建物の屋根における多重回折が発生する。そのため、伝搬損失の推定は非常に複雑となり、計算量が増大する。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、建物上の伝搬経路における伝搬損失の推定に要する計算量を削減できる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定するステップと、前記送信機に最も近い建物の壁面のうち前記送信機に最も近い壁面と、前記受信機に最も近い建物の壁面のうち前記受信機に最も近い壁面と、を判定するステップと、前記二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて前記送信機から前記受信機までの前記建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定するステップと、を有する伝搬損失推定方法である。
【0010】
本発明の一態様は、上述した伝搬損失推定方法であって、前記送信機から前記受信機に至る道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における第二伝搬損失を推定するステップと、前記第一伝搬損失及び前記第二伝搬損失に基づいて、前記送信機から前記受信機までの伝搬損失を算出するステップと、をさらに有する。
【0011】
本発明の一態様は、送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定するステップと、前記送信機に最も近い建物の壁面のうち前記送信機に最も近い壁面と、前記受信機に最も近い建物の壁面のうち前記受信機に最も近い壁面と、を判定するステップと、前記二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて前記送信機から前記受信機までの前記建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定するステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0012】
本発明の一態様は、送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定する建物判定部と、前記送信機に最も近い建物の壁面のうち前記送信機に最も近い壁面と、前記受信機に最も近い建物の壁面のうち前記受信機に最も近い壁面と、を判定し、前記二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて前記送信機から前記受信機までの前記建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定する推定部と、を備える伝搬損失推定装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、建物上の伝搬経路における伝搬損失の推定に要する計算量を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを推定する処理の概略を示す図である。
【図2】伝搬損失推定装置の機能構成を表す概略ブロック図である。
【図3】建物上の伝搬経路における伝搬損失Lの推定方法の概略を示す図である。
【図4】伝搬損失推定装置による伝搬損失の推定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】伝搬損失推定装置による建物上の伝搬損失の推定結果、従来技術の伝搬損失推定法を用いた推定結果、実際の伝搬損失の測定結果、を示す図である。
【図6】送受信機間の距離に対する、アンテナ高4mにおける伝搬損失推定装置の推定誤差を示す図である。
【図7】ITU−R勧告P.1411の伝搬損失推定式で想定されている地理的環境を示す図である。
【図8】住宅地環境における伝搬損失推定式で想定されている地理的環境を示す図である。
【図9】従来技術の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<概略>
まず、本発明の実施形態である伝搬損失推定装置100の処理の概略について説明する。伝搬損失推定装置100は、送信機Txから送信された電波が受信機Rxに到達するまでの伝搬損失を推定する。伝搬損失推定装置100は、送信機Txから受信機Rxに至る道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lと、送信機Txから受信機Rxまでの直線上に位置する建物の上を経由する伝搬経路(以下、「建物上の伝搬経路」という。)における伝搬損失Lと、を算出する。そして、伝搬損失推定装置100は、二つの伝搬損失LとLとを加算することによって、送信機Txから受信機Rxまでの伝搬経路における伝搬損失Lを算出する。
【0016】
伝搬損失推定装置100は、道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lを推定する際には、従来の推定技術を用いる。一方、伝搬損失推定装置100は、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを推定する際には、以下のような処理を行う。
【0017】
図1は、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを推定する処理の概略を示す図である。図1の例では、送信機Txと受信機Rxとを結ぶ直線上には5つの建物B1、B2、B3、B4、B5が建っている。伝搬損失推定装置100は、送信機Txと受信機Rxとを結ぶ直線上に位置する複数の建物のうち、送信機Txに最も近い建物B1と、受信機Rxに最も近い建物B5とに基づいて、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを推定する。このように、伝搬損失を推定するための対象となる建物として、これらの建物(図1のB1及びB5)のみに限定することによって、ダブルナイフエッジ回折損モデルを適用することが可能となる。そのため、多重反射や多重回折に係る計算を省略できる。したがって、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lの推定に要する計算量を削減できる。
【0018】
また、送信機Txに最も近い建物B1及び受信機Rxに最も近い建物B5よりも高い建物(図1の建物B4)がその間に存在する場合においても、伝搬損失の推定精度への影響はほとんど無い。その理由は、建物上の伝搬経路では多数の建物による反射波が足し合わされるためである。そのため、上記のように計算量を削減することのみならず、その推定精度の低下も抑えることができる。
【0019】
<詳細>
次に、伝搬損失推定装置100の詳細について説明する。
図2は、伝搬損失推定装置100の機能構成を表す概略ブロック図である。伝搬損失推定装置100は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、推定プログラムを実行する。伝搬損失推定装置100は、推定プログラムの実行によって、入力部101、地図情報記憶部102、建物判定部103、推定部104、出力部105を備える装置として機能する。なお、伝搬損失推定装置100の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。推定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。推定プログラムは、電気通信回線を介して送信されても良い。
【0020】
入力部101は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、タブレット等)、ボタン、タッチパネル等の既存の入力装置を用いて構成される。入力部101は、種々のデータや指示を伝搬損失推定装置100に入力する際に操作者によって操作される。例えば、送信機Txの位置、受信機Rxの位置が入力部101を介して伝搬損失推定装置100に入力される。この入力により、伝搬損失推定装置100は送信機Tx及び受信機Rxそれぞれの位置を取得する。
【0021】
地図情報記憶部102は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。地図情報記憶部102は、伝搬損失の推定を行う対象となる領域の道路の形状や建物の位置及び高さなどに関する情報(地図データベース)を記憶する。
建物判定部103は、地図情報記憶部102に記憶される地図データベースに基づいて、送信機Txと受信機Rxとの間の直線上に位置する建物のうち、送信機Txに最も近い建物(以下、「送信機側建物」という。)と、受信機Rxに最も近い建物(以下、「受信機側建物」という。)と、を判定する。
【0022】
推定部104は、建物判定部103による判定結果に従って、ダブルナイフエッジ回折損モデルを用いて、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを算出する。また、推定部104は、従来の手法を用いて、送信機Txから受信機Rxに至る道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lを算出する。伝搬損失Lの推定処理と、伝搬損失Lの推定処理については、それぞれ後述する。
出力部105は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置を用いて構成される。出力部105は、推定部104による推定結果を表す画像や文字を表示する。
【0023】
次に、推定部104の処理の詳細について説明する。図3は、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lの推定方法の概略を示す図である。図3において、建物B1が送信機側建物であり、建物B5が受信機側建物である。推定部104は、送信機側建物の壁面のうち送信機Txに最も近い壁面(以下、「送信機側壁面」という。)の位置に、送信機側建物と同じ高さのエッジ(以下、「送信機側エッジ」という。)Teを設定する。また、推定部104は、受信機側建物の壁面のうち受信機Rxに最も近い壁面(以下、「受信機側壁面」という。)の位置に、受信機側建物と同じ高さのエッジ(以下、「受信機側エッジ」という。)Reを設定する。推定部104は、送信機側エッジTe及び受信機側エッジReに基づいて、ダブルナイフエッジ回折損モデルを用いて伝搬損失を推定する。ダブルナイフエッジ回折損モデルは、例えば下記文献などに記載されている技術であり、以下に示す式1〜式8によって表される。Rec.ITU-R P.526-11,” Propagation by diffraction,” ITU-R Recommendations, vol.11, P Series, ITU, Geneva (2009)。
【0024】
図3において、hTxとhRxとは、それぞれ送信機Txのアンテナ高と受信機Rxのアンテナ高とを表す。hbTxとhbRxとは、それぞれ送信機側建物の高さと、受信機側建物の高とを示す。a、b、cは、それぞれ送信機Txから送信機側壁面までの距離、送信機側壁面から受信機側壁面までの距離、受信機側壁面から受信機Rxまでの距離を示す。送信機Txから放射されて受信機Rxに到達する電波の波長をλとする。推定部104は、送信機Txと受信機Rxとの間の建物上の伝搬損失Lを、下記の式(ダブルナイフエッジ回折損モデル)を用いて推定する。
【0025】
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【0026】
次に、道路に沿った伝搬経路における伝搬損失Lの推定方法について説明する。以下の説明では、具体的な例として、推定部104がITU−R勧告P.1411に従って伝搬損失Lを算出する。推定部104は、受信機Rxの位置が、送信機Txの位置から分岐点を曲がらずに到達可能であるか否かに応じて、異なる伝搬損失推定式を使用する。推定部104は、以下の各値が入力されることによって、推定を行う。波長(λ)、送信機Txのアンテナ高(hb)、受信機Rxのアンテナ高(hm)、送受信機間の距離(d)、送信機Txから分岐点までの距離(x1)、受信機Rxから分岐点までの距離(x2)、送信機Txのある道路の幅(w1)、受信機Rxのある道路の幅(w2)。
【0027】
(1)受信機が分岐点を曲がらずに到達可能な位置に存在する場合
以下の式9〜式11を用いて算出されるLLoS,mが、伝搬損失Lの値である。推定部104は、以下の式9〜式11を用いて伝搬損失Lの値を推定する。
【0028】
【数9】

【数10】

【数11】

【0029】
(2)受信機が分岐点を曲がらずには到達できない位置に存在する場合
以下の式12〜式14を用いて算出されるLNLoS2が、伝搬損失Lの値である。推定部104は、以下の式12〜式14を用いて伝搬損失Lの値を推定する。
【0030】
【数12】

【数13】

【数14】

【0031】
ここで、dcorner=30[m], β=6、住宅地環境においてLcorner=30[dB]、市街地環境においてLcorner=20[dB]である。
また、伝搬損失Lの推定方法としては、非特許文献2の手法も使用することができる。住宅地環境においては、道路に沿った伝搬経路および建物と建物の間との間を伝搬する経路が支配的となり、非特許文献2の手法を用いることでより精度良く伝搬損失推定を行うことができる。
【0032】
図4は、伝搬損失推定装置100による伝搬損失の推定処理の流れを示すフローチャートである。まず、入力部101を介して送信機Tx及び受信機Rxの位置が入力される。建物判定部103及び推定部104は、地図情報記憶部102から地図データベースを読み込む(ステップS101)。次に、建物判定部103は、地図データベースを用いて、送信機Txと受信機Rxとの間に建物があるか否かを判定する(ステップS102)。送信機Txと受信機Rxとの間に建物がある場合(ステップS102−YES)、建物判定部103は、送信機側建物と受信機側建物を判定する(ステップS103)。
【0033】
次に、推定部104は、送信機側建物の建物高(hbTx)、受信機側建物の建物高(hbRx)、送信機Txから送信機側壁面までの距離(a)、送信機側壁面から受信機側壁面までの距離(b)、受信機側壁面から受信機Rxまでの距離(c)、の各値を地図データベースから抽出する(ステップS104)。抽出される各値が、ダブルナイフエッジ回折損モデルにおけるパラメータとなる。
【0034】
次に、推定部104は、抽出した各パラメータ及び送信機Txのアンテナ高(hTx)、受信機のアンテナ高(hRx)を用い、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて建物上の伝搬経路(屋根越え伝搬損)の伝搬損失Lを計算する(ステップS105)。また、推定部104は、道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lを計算する(ステップS107)。推定部104は、建物上の伝搬経路の伝搬損失Lと道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lとを、以下の式15によって足し合わせることで、全体の伝搬損失Lを計算する(ステップS108)。
【0035】
【数15】

【0036】
そして、出力部105が、推定部104による推定結果を出力し(ステップS109)、処理を終了する。
【0037】
一方、送信機Txと受信機Rxとの間に建物が無い場合(ステップS102−NO)、建物上の伝搬経路は存在しない。そのため、推定部104は、建物上の伝搬経路の伝搬損失Lに無限大を代入する(ステップS106)。また、推定部104は、道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lを計算する(ステップS107)。推定部104は、建物上の伝搬経路の伝搬損失Lと道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lとを、上記式15によって足し合わせることで、全体の伝搬損失Lを計算する(ステップS108)。そして、出力部105が、推定部104による推定結果を出力し(ステップS109)、処理を終了する。
【0038】
以上のように構成された伝搬損失推定装置100では、送信機Txと受信機Rxとの間に3つ以上の建物が存在したとしても、存在する全ての建物の高さを推定処理において用いず、送信機側建物及び受信機側建物を用いる。そして、伝搬損失推定装置100は、上記二つの建物の高さに基づいてダブルナイフエッジ回折損モデルを用いることによって建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを推定する。そのため、建物上の伝搬経路における伝搬損失Lを推定する際の計算量を大幅に削減することが可能となる。また、以下に示すように、伝搬損失推定装置100は、伝搬損失の推定結果の精度の低下を抑えることができる。
【0039】
図5は、周波数2.1975GHzの電波を用いた場合の、伝搬損失推定装置100による建物上の伝搬損失の推定結果と、従来技術の伝搬損失推定法を用いた推定結果と、実際の伝搬損失の測定結果と、を示す図である。実線(Over-roof propagation model)は、伝搬損失推定装置100による建物上の伝搬損失の推定結果を表す。破線で表される直線(Conv)は、非特許文献2に記載の従来技術の伝搬損失推定法を用いた道路に沿った伝搬経路および建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失推定結果を表す。点線で表される波形(Meas)は、実際の伝搬損失の測定結果を表す。
【0040】
送受信機間の直線距離dはそれぞれ112m、1137mである。d=112mの場合、6m以下の低アンテナ高においては、従来技術の推定結果が測定結果を精度良く表している。これに対し、d=1137mの場合、アンテナ高4mでは伝搬損失推定装置100による推定結果が推定誤差0.6dBとなっており、測定結果を精度良く表している。このように、特に送受信機間の距離が大きい場合、伝搬損失推定装置100は精度良く伝搬損失を推定する。
【0041】
図6は、送受信機間の距離に対する、アンテナ高4mにおける伝搬損失推定装置100の推定誤差を示す図である。送受信機間の距離が比較的小さい場合は、建物高より低い伝搬経路が支配的となる。そのため、送受信機間の距離が180m以下においては、推定誤差が10dB以上と大きい。一方、送受信機間の距離が大きくなるに従い、建物上の伝搬経路が支配的になる。そのため、送受信機間の距離が大きくなるに従い伝搬損失推定装置100の推定精度が向上する。特に、送受信機間距離が800m以上においては、推定誤差が1dB以下となる。以上のように、伝搬損失推定装置100は、計算量を削減しつつ、建物上の伝搬経路の伝搬損失を精度良く推定できる。
【0042】
<変形例>
地図情報記憶部102は、予め地図情報を記憶していなくとも良い。その場合、入力部101を介して地図情報のデータが伝搬損失推定装置100に入力され、入力された地図情報を地図情報記憶部102が記憶しても良い。この場合の入力部101は、地図情報のデータを入力可能となるように構成される。例えば、入力部101は、有線通信や無線通信によるデータの受信を行うように構成されても良いし、CD−ROM等の記録媒体からデータを読み出すように構成されても良い。
【0043】
送信機Txと受信機Rxとが設置されている場合について説明したが、送信機Txと受信機Rxとはいずれも固定的に設置されている必要は無く、その位置が移動可能に構成されていても良い。
伝搬損失Lは、送信機Txから受信機Rxに至る道路に沿った伝搬経路と、建物と建物との間を伝搬する経路との双方の経路における伝搬損失として算出されても良い。すなわち、推定部104は、道路に沿った伝搬経路および建物と建物との間を伝搬する経路における伝搬損失Lを計算しても良い。
上述した伝搬損失推定装置100が行う推定処理は、必ずしもコンピュータによって実行される必要は無く、人間が行っても良い。この場合にも、同様の効果を得ることが可能となる。
【0044】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0045】
100…伝搬損失推定装置, 101…入力部(取得部), 102…地図情報記憶部, 103…建物判定部, 104…推定部, 105…出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定するステップと、
前記送信機に最も近い建物の壁面のうち前記送信機に最も近い壁面と、前記受信機に最も近い建物の壁面のうち前記受信機に最も近い壁面と、を判定するステップと、
前記二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて前記送信機から前記受信機までの前記建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定するステップと、
を有する伝搬損失推定方法。
【請求項2】
前記送信機から前記受信機に至る道路に沿った伝搬経路又は建物と建物との間を伝搬する経路における第二伝搬損失を推定するステップと、
前記第一伝搬損失及び前記第二伝搬損失に基づいて、前記送信機から前記受信機までの伝搬損失を算出するステップと、
をさらに有する請求項1に記載の伝搬損失推定方法。
【請求項3】
送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定するステップと、
前記送信機に最も近い建物の壁面のうち前記送信機に最も近い壁面と、前記受信機に最も近い建物の壁面のうち前記受信機に最も近い壁面と、を判定するステップと、
前記二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて前記送信機から前記受信機までの前記建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項4】
送信機と受信機との間の直線上に位置する建物のうち、送信機に最も近い建物と受信機に最も近い建物を判定する建物判定部と、
前記送信機に最も近い建物の壁面のうち前記送信機に最も近い壁面と、前記受信機に最も近い建物の壁面のうち前記受信機に最も近い壁面と、を判定し、前記二つの壁面の位置に、それぞれの建物の高さを有するエッジが存在するとの想定の下で、ダブルナイフエッジ回折損モデルに基づいて前記送信機から前記受信機までの前記建物の上を伝搬する経路における第一伝搬損失を推定する推定部と、
を備える伝搬損失推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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