説明

伝熱板の製造方法

【課題】摩擦攪拌によって形成され平坦性の高い伝熱板を製造することができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ベース部材2の表面Za側に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管20を挿入する熱媒体用管挿入工程と、蓋溝に蓋板10を挿入する蓋溝閉塞工程と、蓋溝の側壁と蓋板10の側面との突合部に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、接合工程により形成されたベース部材2の裏面Zb側に凸となる反りを、ベース部材2の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱交換器や加熱機器あるいは冷却機器などに用いられる伝熱板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換、加熱あるいは冷却すべき対象物に接触し又は近接して配置される伝熱板は、その本体であるベース部材に、例えば高温液や冷却水などの熱媒体を循環させる凹溝を備えている。かかる伝熱板の製造方法は、例えば、特許文献1に記載された方法が知られている。図20は、特許文献1に係る伝熱板の製造方法によって形成された伝熱板を示した断面図である。
【0003】
特許文献1に係る伝熱板100は、表面に開口する断面視矩形の蓋溝106と蓋溝106の底面に開口する凹溝108とを有するベース部材102と、凹溝108に挿入される熱媒体用管116と、蓋溝106に挿入される蓋板110と、を備えている。伝熱板100は、蓋溝106における両側壁と蓋板110の両側面とが突き合わされたそれぞれの突合部J,Jに沿って摩擦攪拌接合を行って一体成形されている。これにより、伝熱板100の突合部J,Jには、摩擦攪拌によって塑性化された塑性化領域W,Wがそれぞれ形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−314115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる伝熱板の製造方法によって形成された伝熱板100は、ベース部材102の表面から摩擦攪拌を行うため、熱収縮によって塑性化領域W,Wが縮むと、伝熱板が反って撓んでしまうという問題があった。
このような観点から、本発明は、平坦性の高い伝熱板を製造することができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材の表面側に開口する凹溝の周囲に形成された蓋溝に、蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材の表面側に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入する熱媒体用管挿入工程と、前記蓋溝に蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
かかる製造方法によれば、矯正工程において前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを矯正し、伝熱板の平坦性を高めることができる。また、塑性化領域に残留する内部応力を除去して伝熱板の反りをより解消することができる。
【0008】
また、前記接合工程において、前記熱媒体用管の周囲に形成された空隙部に、摩擦熱によって流動化された塑性流動材を流入させることが好ましい。かかる製造方法によれば、伝熱板の内部に形成される空隙部を小さくすることができるため、水密性及び気密性の高い伝熱板を製造することができる。
【0009】
また、本発明に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材の表面側に開口する凹溝に蓋板を挿入する蓋板挿入工程と、前記凹溝に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材の表面側に開口する凹溝に、熱媒体用管を挿入する熱媒体用管挿入工程と、前記凹溝に蓋板を挿入する蓋板挿入工程と、前記凹溝に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかる製造方法によれば、矯正工程において前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを矯正し、伝熱板の平坦性を高めることができる。また、塑性化領域に残留する内部応力を除去して伝熱板の反りをより解消することができる。
【0011】
また、前記接合工程では、前記接合用回転ツールの押圧力によって前記蓋板が前記熱媒体用管の上部を押圧するとともに、前記蓋板の少なくとも上部と前記ベース部材とを摩擦攪拌することが好ましい。
【0012】
かかる製造方法によれば、蓋板が熱媒体用管を押圧しながら摩擦攪拌を行うことにより、熱媒体用管の周囲に形成される空隙部を小さくすることができるため、水密性及び気密性の高い伝熱板を製造することができる。
【0013】
また、前記矯正工程では、前記ベース部材を押圧するプレス矯正、前記ベース部材上でロール部材を回転させるロール矯正又は前記ベース部材をハンマーなどの衝打具で衝打する衝打矯正を行うことにより、前記反りを矯正することが好ましい。また、矯正工程を行う際に、前記ベース部材の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記ベース部材の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りをプレス矯正、衝打矯正又はロール矯正を行うことが好ましい。
【0014】
かかる製造方法によれば、ベース部材が裏面側に凸の状態から表面側に凸の状態になるように強制的に押圧力が加わって、ベース部材が、反りとは反対側に強制的に撓ませられるため反りを矯正することができる。また、補助部材を配置することで、プレス矯正、ロール矯正又は衝打矯正の作業性を高めることができる。
【0015】
また、前記各補助部材は、前記ベース部材よりも硬度が低い材料を用いていることが好ましい。かかる製造方法によれば、プレス矯正、ロール矯正又は衝打矯正で押圧する際に、ベース部材を傷つけることなく矯正することができる。
【0016】
また、前記焼鈍工程では、前記熱媒体用管の内部にヒーターを配置しておき、前記矯正工程後に前記ヒーターに通電して、前記伝熱板を焼鈍することが好ましい。かかる製造方法によれば、塑性化領域に残留する内部応力を除去して伝熱板の反りをより解消することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る伝熱板の製造方法によれば、平坦性の高い伝熱板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は斜視図、(b)は、(a)のI−I線断面図である。
【図2】第一実施形態に係る伝熱板を示した図であって、(a)は分解斜視図、(b)は分解断面図である。
【図3】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法を示した断面図であって、(a)は溝形成工程、(b)は熱媒体用管挿入工程、(c)は蓋溝閉塞工程を示す。
【図4】接合用回転ツールを示した側面図である。
【図5】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、接合工程を行う前を示した斜視図である。
【図6】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、接合工程を段階的に示した平面図である。
【図7】第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、接合工程を行った後を示した図であって、(a)は斜視図、(b)は地点c及び地点fを結ぶ線の断面図である。
【図8】第一実施形態に係るプレス矯正の準備段階を示した斜視図である。
【図9】第一実施形態に係るプレス矯正を示した側面図であって、(a)はプレス前、(b)はプレス中を示した図である。
【図10】第一実施形態に係るプレス矯正の押圧位置を示した平面図である。
【図11】第一実施形態に係るロール矯正を示した図であって、(a)は斜視図、(b)はプレス前を示した側面図、(c)はプレス中を示した側面図である。
【図12】第二実施形態に係る伝熱板を示した断面図である。
【図13】第三実施形態に係る伝熱板を示した断面図である。
【図14】第四実施形態に係る伝熱板を示した斜視図である。
【図15】第四実施形態に係る伝熱板を示した分解斜視図である。
【図16】第四実施形態に係る伝熱板を示した分解断面図である。
【図17】第四実施形態に係る伝熱板の製造方法において、(a)は接合工程を示した斜視図、(b)は、(a)のII-II線断面図である。
【図18】第四実施形態に係る伝熱板の製造方法において、接合工程を行った後を示した図であって、(a)は斜視図、(b)は地点c及び地点fを結ぶ線の断面図である。
【図19】第五実施形態に係る伝熱板の製造方法を示した断面図である。
【図20】特許文献1に係る伝熱板の製造方法によって形成された伝熱板を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、本実施形態に係る製造方法によって製造された伝熱板1について説明する。本実施形態においては、伝熱板1をヒートプレートとして用いる場合を例にして説明する。
【0020】
伝熱板1は、図1の(a)及び(b)に示すように、平面視矩形の板厚のベース部材2と、ベース部材2の内部に埋設される熱媒体用管20と、ベース部材2に凹設された溝に配置された蓋板10と、を主に備えている。ベース部材2と蓋板10との突合部J1,J2は、それぞれ摩擦攪拌によって接合されている。かかる伝熱板1は、熱媒体用管20に挿通された図示しないマイクロヒーター等で加熱して使用される。
【0021】
ベース部材2は、熱媒体用管20に流れる熱媒体の熱を外部に伝達させる役割、あるいは、外部の熱を熱媒体用管20に流れる熱媒体に伝達させる役割を果たすものである。ベース部材2は、図2の(a)及び(b)に示すように、平面視正方形を呈する直方体であって、本実施形態では、厚みが30mm〜120mmのものを用いる。ベース部材2は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。ベース部材2の表面Zaには、蓋溝6が凹設されており、蓋溝6の底面6cの中央には、蓋溝6よりも幅狭の凹溝8が凹設されている。
【0022】
蓋溝6は、図2の(a)及び(b)に示すように、蓋板10が配置される部分であって、平面視略馬蹄状に一定の幅及び深さで連続して形成されている。蓋溝6は、断面視矩形を呈し、蓋溝6の底面6cから垂直に立ち上がる側壁6a,6bを備えている。
【0023】
凹溝8は、熱媒体用管20が挿入される部分であって、蓋溝6の底面6cの中央部分に、蓋溝6の全長に亘って形成されている。凹溝8は、上方が開口した断面視U字状の溝であって、下端には断面視半円形状の底面7が形成されている。凹溝8の開口部分の幅A及び凹溝8の深さCは、熱媒体用管20の外径Bと略同等に形成されている。また、蓋溝6の幅E及び深さGは、蓋板10の幅及び厚みと略同等に形成されている。
【0024】
熱媒体用管20は、図2の(a)及び(b)に示すように、断面視円形の中空部18を有する円筒管である。熱媒体用管20は、本実施形態では銅からなり、平面視略馬蹄状を呈する。熱媒体用管20の外径Bは、凹溝8の幅A及び凹溝8の深さCと略同等に形成されているため、熱媒体用管20及び蓋板10をベース部材2に配置すると、熱媒体用管20の下半部と凹溝8の底面7とが面接触するとともに、熱媒体用管20の上端が、蓋板10の下面12と接触する。
熱媒体用管20には、本実施形態においては、マイクロヒーターを挿通するが、他にも例えば、冷却水、冷却ガス、高温液、あるいは高温ガスなどの熱媒体を循環させて、熱媒体の熱をベース部材2及び蓋板10に、あるいは、ベース部材2及び蓋板10の熱を熱媒体に伝達させてもよい。
【0025】
なお、本実施形態においては、熱媒体用管20は、断面視円形としたが、断面視角形であってもよい。また、熱媒体用管20は、本実施形態においては、銅管を用いているが、他の材料の管を用いてもよい。また、熱媒体用管20は、必ずしも設ける必要は無く、凹溝8に直接熱媒体を流入させてもよい。
【0026】
蓋板10は、図2の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2の蓋溝6の断面と略同じ矩形断面を形成する上面11、下面12、側面13a及び側面13bを有し、平面視略馬蹄状で形成されている。蓋板10は、本実施形態では、ベース部材2と同様の組成で形成されている。蓋板10の厚みは、蓋溝6の深さGと略同等に形成されている。また、蓋板10の幅は、蓋溝6の幅Eと略同等に形成されているため、蓋板10を蓋溝6に配置すると、蓋板10の側面13a,13bは、蓋溝6の側壁6a,6bとそれぞれ面接触するか又は微細な隙間をあけて対向する。
【0027】
また、本実施形態においては、凹溝8と熱媒体用管20の下半部を面接触させ、かつ、熱媒体用管20の上端と蓋板10の下面12とを接触させたが、これに限定されるものではない。即ち、凹溝8の幅A及び深さCを、熱媒体用管20の外径Bよりも大きく形成してもよい。また、蓋溝6、凹溝8、蓋板10及び熱媒体用管20は、本実施形態では、平面視略馬蹄状を呈するように形成したがこれに限定されるものではなく、伝熱板1の用途に応じて適宜設計すればよい。
【0028】
次に、伝熱板1の製造方法について説明する。
本実施形態に係る伝熱板1の製造方法は、(1)溝形成工程、(2)熱媒体用管挿入工程、(3)蓋溝閉塞工程、(4)接合工程、(5)矯正工程、(6)焼鈍工程を含むものである。
【0029】
(1)溝形成工程
溝形成工程では、図3の(a)に示すように、ベース部材2の表面Zaに、所定の幅及び深さで蓋溝6及び凹溝8を形成する。溝形成工程は、例えば、公知のエンドミル等を用いて、切削加工により行う。
【0030】
(2)熱媒体用管挿入工程
熱媒体用管挿入工程では、図3の(b)に示すように、溝形成工程で形成された凹溝8に熱媒体用管20を挿入する。
【0031】
(3)蓋溝閉塞工程
蓋溝閉塞工程では、図3の(c)に示すように、蓋溝6に蓋板10を配置して、蓋溝6を閉塞する。ここで、蓋溝6と蓋板10との突き合わせ面において、蓋溝6と蓋板10の内縁とで突き合わされた部分を突合部J1とし、蓋溝6と蓋板10の外縁とで突き合わされた部分を突合部J2とする。
【0032】
(4)接合工程
接合工程では、突合部J1,J2に沿って、接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う。接合工程は、本実施形態では、突合部J1を摩擦攪拌する第一接合工程と、突合部J2を摩擦攪拌する第二接合工程とを含む。
【0033】
ここで、本実施形態における接合工程の際に用いる接合用回転ツールFについて詳細に説明する。
接合用回転ツールFは、図4に示すように、工具鋼などベース部材2よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。接合用回転ツールFの寸法・形状は、ベース部材2の材質や厚さ等に応じて設定すればよい。
【0034】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。
【0035】
ここで、図4に示すベース部材2の厚みtは、攪拌ピンF2の長さLの3倍以上であることが好ましい。また、ベース部材2の厚みtは、ショルダ部F1の外径Xの1.5倍以上であることが好ましい。かかる設定によれば、接合用回転ツールFの大きさに対して、ベース部材2の厚みを十分に確保することができるため、摩擦攪拌を行う際に発生する反りを低減することができる。
【0036】
第一接合工程では、図5、図6の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2と蓋板10との突合部J1に沿って、摩擦攪拌を行う。
まず、ベース部材2の表面Zaの任意の位置に開始位置SM1を設定し、接合用回転ツールFの攪拌ピンF2をベース部材2に押し込む(押圧する)。開始位置SM1は、本実施形態では、ベース部材2の外縁の近傍であり、かつ、突合部J1の近傍に設定する。接合用回転ツールFのショルダ部F1の一部がベース部材2の表面Zaに接触したら、突合部J1の始点s1に向かって接合用回転ツールFを相対移動させる。そして、図6の(a)に示すように、始点s1に達したら、接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま突合部J1に沿って移動させる。
【0037】
接合用回転ツールFが突合部J1の終点e1に達したら、接合用回転ツールFをそのまま開始位置SM1側に移動させて、任意の位置に設定した終了位置EM1で接合用回転ツールFを離脱させる。
なお、開始位置SM1、始点s1、終了位置EM1及び終点e1は、本実施形態の位置に限定するものではないが、ベース部材2の外縁の近傍であり、かつ、突合部J1の近傍であることが好ましい。
【0038】
次に、第二接合工程では、図6の(b)及び(c)に示すように、ベース部材2と蓋板10との突合部J2に沿って、摩擦攪拌を行う。
まず、ベース部材2の表面Zaの任意の地点hに開始位置SM2を設定し、接合用回転ツールFの攪拌ピンF2をベース部材2に押し込む(押圧する)。接合用回転ツールFのショルダ部F1の一部がベース部材2の表面Zaに接触したら、突合部J2の始点s2に向かって接合用回転ツールFを相対移動させる。そして、始点s2に達したら、接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま突合部J2に沿って移動させる。
【0039】
接合用回転ツールFが突合部J2の終点e2に達したら、接合用回転ツールFをそのまま地点f側に移動させて、地点fに設定した終了位置EM2で接合用回転ツールFを離脱させる。
なお、開始位置SM2及び終了位置EM2は、本実施形態の位置に限定するものではないが、ベース部材2の外縁の隅部であることが好ましい。これにより、終了位置EM2に抜け穴が残存する場合は、隅部を切削加工して除去することができる。
【0040】
図6の(c)に示すように、本接合工程によって、突合部J1及び突合部J2に沿って表面塑性化領域W1(W1a,W1b)が形成される。これにより、熱媒体用管20がベース部材2及び蓋板10によって密閉される。また、図1の(b)に示すように、本実施形態では、表面塑性化領域W1の深さが、蓋溝6の側壁6a,6b(図2の(b)参照)の深さと略同等に形成されているため、突合部J1及び突合部J2の深さ方向の全体を摩擦攪拌することができる。これにより、伝熱板1の気密性を高めることができる。なお、塑性化領域とは、接合用回転ツールFの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、接合用回転ツールFが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
【0041】
ここで、図7は、本実施形態の接合工程後を示した伝熱板1の斜視図である。伝熱板1は、接合工程によって表面塑性化領域W1が形成される。表面塑性化領域W1は、熱収縮によって縮むため、伝熱板1の表面Za側において、ベース部材2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、伝熱板1は表面Za側が凹となるように(裏面Zb側に凸となるように)、撓んでしまう可能性がある。特に、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jのうち、伝熱板1の四隅に係る地点a,c,f,hにおいては、その反りの影響が顕著に現れる傾向がある。なお、地点jは、伝熱板1の中心地点を示し、地点b,d,e,gは、ベース部材2の各辺の中間地点を示す。また、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jに対応する裏面Zbの各点を地点a’〜j’とする。また、伝熱板1の地点aから地点f方向を縦方向、地点aから地点c方向を横方向とする。
【0042】
(5)矯正工程
矯正工程では、伝熱板1(ベース部材2)の裏面Zbから、ベース部材2の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させて、前記した接合工程により形成された伝熱板1の反りを矯正する。矯正工程では、以下に記すプレス矯正、衝打矯正及びロール矯正の三種類の方法からいずれか一以上の方法を選択して行えばよい。まず、プレス矯正について説明する。
【0043】
(5-1)プレス矯正
前記した接合工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、図8に示すように、伝熱板1の裏面Zbが上方を向くように裏返し、裏面Zbの中心地点j’(図7の(b)参照)に板状の第一補助部材T1を配置する。さらに、伝熱板1の表面Za側の四隅に、板状の第二補助部材T2,T2及び第三補助部材T3,T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、プレス矯正を行う際の当て材又は台座となる部材であるとともに、伝熱板1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0044】
各補助部材を配置したら、図9の(a)及び(b)に示すように、公知のプレス装置Pを用いて、伝熱板1の裏面Zbから押圧する。即ち、第一補助部材T1にプレス装置PのポンチPaを押し当て、所定の押圧力で押圧する。プレス装置Pによって伝熱板1に圧力が加えられると、図9の(a)及び(b)に示すように、第一補助部材T1が伝熱板1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が伝熱板1の両端側を上側に押すため、伝熱板1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0045】
プレス装置の押圧力は、伝熱板1の厚みや材料によって適宜設定すればよいが、図9の(b)に示すように、伝熱板1の表面Za側が下に凸となって、表面Zaに引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態では、図10に示すように、中心地点j’だけでなく伝熱板1の裏面Zbの地点b’、地点d’、地点e’及び地点g’付近に対しても押圧を行う。即ち、伝熱板1の裏面Zbにかかる各辺の中間地点である地点b’、地点d’、地点e’及び地点g’を含んだ位置H2〜H5に第一補助部材T1を配置して、プレス装置Pによって押圧を行う。これにより、伝熱板1をバランスよく矯正でき、平坦性をより高めることができる。
【0047】
なお、プレスする位置は、本実施形態では5箇所に設定したが、これに限定されるものではなく、接合工程によって生じる伝熱板1の反りに応じて適宜設定すればよい。
【0048】
(5-2)衝打矯正
次に、衝打矯正について説明する。衝打矯正については、プレス矯正と近似するため、
具体的な図示は省略する。衝打矯正とは、例えばハンマーなどの衝打具を用いて伝熱板に発生した反りを矯正することをいう。衝打矯正は、プレス装置Pに替えてハンマーなどの衝打具で伝熱板1を衝打する点を除いては、プレス矯正と略同等である。
【0049】
衝打矯正では、プレス矯正と同様に補助部材を配置した後、図9及び図10を参照するように、伝熱板1の裏面Zbから例えばプラスチックハンマー等の衝打具で伝熱板1を衝打する。伝熱板1を衝打すると、伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる(図9の(b)参照)。これにより、伝熱板1の反りを矯正して平坦にすることができる。また、プレス矯正と同様に、必要に応じて伝熱板1の裏面Zbの位置H2〜H5を衝打することで、伝熱板1をバランスよく矯正することができる。
【0050】
衝打矯正は、プレス矯正と比べると、プレス装置等を準備する手間が省けるため、作業を容易に行うことができる。また、衝打矯正は、作業が容易であるため伝熱板1が小さい場合や薄い場合に有効である。なお、衝打矯正を終了した後は、衝打により発生したバリを除去することが好ましい。また、衝打具は、伝熱板1を衝打可能なものであれば、特に種類を問わないが、例えばプラスチックハンマーが好ましい。
【0051】
(5-3)ロール矯正
次に、ロール矯正について説明する。前記した接合工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、伝熱板1の裏面Zbが上方を向くように裏返し、裏面Zbの中心地点j’を含んで縦方向と平行になるように長板形状の第一補助部材T1を配置する。さらに、伝熱板1の表面Za側の縁部において縦方向と平行になるように、長板形状の第二補助部材T2及び第三補助部材T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。
【0052】
そして、第一補助部材T1の上側に、第一補助部材T1と直交するようにロールR1を配置し、第二補助部材T2,T3の下側に第二補助部材T2及び第三補助部材T3と直交するようにロールR2を配置する。つまり、伝熱板1は、図11の(b)に示すように、上側に凸の状態でロールR1,R2の間に配置され、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を介してロールR1,R2に狭持される。
【0053】
第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、ロール矯正を行う際の当て材であるとともに、伝熱板1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。
【0054】
ここで、ロールR1,R2が互いに近づいて伝熱板1に圧力を加えると、図11の(b)及び(c)に示すように、第一補助部材T1が伝熱板1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が伝熱板1の両端側を上側に押すため、伝熱板1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは伝熱板1の表面Za側に引張応力を発生させるため、伝熱板1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0055】
また、図11の(a)に示すように、ロールR1が矢印α方向に回転するとともに、ロールR2が矢印β方向に回転すると、ロールR1,R2は伝熱板1に対して矢印γ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。また、ロールR1が矢印β方向に回転するとともにロールR2が矢印α方向に回転すると、ロールR1,R2は伝熱板1に対して矢印δ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。
【0056】
したがって、伝熱板1に作用する曲げモーメントの位置が、その相対的な移動に伴って遷移していくため、伝熱板1の全体が強制的に下側に凸に撓まされる。そのため、この相対的な移動を繰り返して往復動させることによって、反りを矯正していくことが可能になる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、伝熱板1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0057】
また、伝熱板1の縦方向にロールR1,R2を回転させて矯正工程を行なった後、横方向にロールR1,R2を回転させてもよい。即ち、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を横方向と平行になるように配置するとともに、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3に対して直交するようにロールR1,R2を配置する。そして、ロールR1,R2を横方向に往復動させる。これにより、伝熱板1をバランスよく矯正することができる。
【0058】
また、ここでは、伝熱板1の裏面Zbを上にして、歪矯正工程を行うものとして説明したが、裏返さずに表面Zaを上にして歪矯正工程を行うようにしてもよい。この場合、前記した各構成部品は、表裏対称に表れるため、説明を省略する。
【0059】
(6)焼鈍工程
焼鈍工程では、伝熱板1を焼鈍することにより、伝熱板1の内部応力を除去する。本実施形態では、熱媒体用管20に、例えば、マイクロヒーターを通電させて焼鈍を行う。これにより、伝熱板1の内部応力を除去することができ、伝熱板1の使用時の変形を防止することができる。
【0060】
以上説明した第一実施形態に係る伝熱板の製造方法によれば、接合工程による熱収縮によって伝熱板1が撓んでしまったとしても、伝熱板1の表面Za側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることにより、裏面Zb側に凸となる反りを矯正することができるため、伝熱板1の平坦性を高めることができる。また、伝熱板1よりも硬度の低い第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を用いることで、伝熱板1を傷つけることなく矯正作業を行うことができる。
【0061】
[第二実施形態]
第二実施形態に係る伝熱板の製造方法は、図12に示すように、伝熱板21において、熱媒体用管20の周囲に形成される空隙部22に塑性流動材が流入されている点で第一実施形態と相違する。即ち、図1の(b)に示すように、第一実施形態においては、接合工程で摩擦攪拌を行ったとしても、熱媒体用管20の周囲に空隙が形成されてしまう。そこで、第二実施形態に示すように、熱媒体用管20の周囲に形成された空隙部22に塑性流動材を流入させて、当該空隙部22を埋めてもよい。なお、第一実施形態と共通する部分は説明を省略する。
【0062】
即ち、伝熱板21に係る蓋溝6及び蓋板10は、第一実施形態よりも幅狭に形成されている。そして、接合工程では、接合用回転ツールFを熱媒体用管20に近接させるように摩擦攪拌を行い、金属部材を塑性流動化させた塑性流動材を空隙部22に流入させる。これにより、熱媒体用管20の周囲に形成される空隙部22が塑性流動材(金属部材)で埋まるため、伝熱板21の熱交換効率を高めることができる。
【0063】
このようにして形成された伝熱板21に対しても、前記したようにプレス矯正、衝打矯正又はロール矯正を行うことにより、伝熱板21に生じる反りを矯正することができる。なお、空隙部22に塑性流動材をどの程度流動させるかは、接合用回転ツールFの大きさや押込み量、蓋溝6及び蓋板10の形状に応じて適宜設定すればよい。
【0064】
[第三実施形態]
第三実施形態に係る伝熱板の製造方法は、図13に示すように、伝熱板31において、熱媒体用管が挿入されていない点で第一実施形態と相違する。このように、熱媒体用管を設けなくても、凹溝8に直接熱媒体を流入させてもよい。
このようにして形成された伝熱板31に対しても、前記したようにプレス矯正、衝打矯正又はロール矯正を行うことにより、伝熱板31に生じる反りを矯正することができる。
【0065】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。前記した第一実施形態においては、蓋板10の両側面に沿ってそれぞれ摩擦攪拌を行うことで、表面塑性化領域W1,W1のように、二条の塑性化領域が形成されるようにして伝熱板を形成したが、第四実施形態のように、蓋板の幅を小さく設定して、一条の塑性化領域のみが形成されるようにして伝熱板を形成してもよい。
【0066】
第四実施形態に係る伝熱板の製造方法は、図14に示すように、伝熱板41において、平面視正方形の板厚のベース部材2と、ベース部材2に凹設された溝に挿入された熱媒体用管20と、ベース部材2に凹設された溝に挿入された蓋板42と、を主に備えている。蓋板42の上面は、一条の摩擦攪拌によって接合されている。
【0067】
図15及び図16に示すように、ベース部材2の表面Zaには、ベース部材2の一方の側面Zcから対向する他方の側面Zdまで連続して形成された凹溝43が形成されている。凹溝43は、熱媒体用管20及び蓋板42が挿入される部分である。凹溝43は、断面視U字状、平面視蛇行状を呈するように形成されている。図16に示すように、凹溝43の側壁43a,43b間の幅A’は、熱媒体用管20の外径と略同等に形成されている。また、凹溝43の幅A’は、接合用回転ツールFのショルダ部F1の外径Xよりも小さく形成されている。凹溝43の深さは、深さC’で形成されている。
【0068】
熱媒体用管20は、凹溝43に挿入される管であって、ベース部材2の一方の側面Zcから他方の側面Zdまで貫通して形成されている。熱媒体用管20は、平面視蛇行状を呈し、凹溝43の平面視形状と略同等の形状を呈する。
【0069】
蓋板42は、図15及び図16に示すように、断面視矩形、平面視蛇行状を呈する部材であって凹溝43に挿入される部材である。蓋板42は、側面42a,42b及び上面42c、下面42dを備えている。蓋板42の高さH’と熱媒体用管20の外径との和は、凹溝43の深さC’と略同等に形成されている。また、蓋板42の幅は、凹溝43の幅A’と略同等に形成されている。したがって、熱媒体用管20及び蓋板42を凹溝43に挿入すると、上面42cとベース部材2の表面Zaとが面一になるとともに、蓋板42の側面42a,42bは、凹溝43の側壁43a,43bとそれぞれ面接触するか又は微細な隙間をあけて対向する。
【0070】
次に、第四実施形態に係る製造方法について説明する。
第四実施形態に係る伝熱板の製造方法は、(1)溝形成工程、(2)熱媒体用管挿入工程、(3)蓋板挿入工程、(4)接合工程、(5)矯正工程、(6)焼鈍工程を含むものである。
【0071】
(1)溝形成工程
溝形成工程では、図15及び図16に示すように、ベース部材2の表面Zaに所定の幅及び深さで凹溝43を形成する。溝形成工程は、例えば、公知のエンドミル等を用いて行う。
【0072】
(2)熱媒体用管挿入工程
熱媒体用管挿入工程では、図15及び図16に示すように、溝形成工程で形成された凹溝43に熱媒体用管20を挿入する。
【0073】
(3)蓋板挿入工程
蓋板挿入工程では、図15及び図16に示すように、凹溝43に蓋板42を挿入して凹溝43を閉塞する。ここで、凹溝43と蓋板42との突き合わせ面において、凹溝43の一方の側壁43aと、蓋板42の一方の側面42aとで突き合わされた部分を突合部J3とし、凹溝43の他方の側壁43bと、蓋板42の他方の側面42bとで突き合わされた部分を突合部J4とする。
【0074】
(4)接合工程
接合工程では、蓋板42(凹溝43)に沿って接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う。接合工程は、本実施形態ではタブ材を配置するタブ材配置工程と、摩擦攪拌を行う接合工程とを含む。
【0075】
タブ材配置工程では、図17の(a)に示すように、ベース部材2の一方の側面Zc及び他方の側面Zdに一対のタブ材33,34をそれぞれ配置する。タブ材33,34とベース部材2とは溶接によって仮接合する。
【0076】
接合工程では、図17の(a)及び(b)に示すように、蓋板42(凹溝43)に沿って摩擦攪拌を行う。即ち、タブ材33に設定した開始位置SM4に接合用回転ツールFを押し込んで、ショルダ部F1がベース部材2に接触したら、蓋板42に沿って接合用回転ツールFを相対移動させ、タブ材34に設定した終了位置EM4まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0077】
図17の(b)に示すように、接合用回転ツールFのショルダ部F1の外径Xは、凹溝43の幅A’よりも大きく設定しているため、蓋板42の幅方向の中心に沿って接合用回転ツールFを移動させると、突合部J3,J4が塑性化される。このように、本実施形態によれば、一のルートを設定するだけで、突合部J3,J4を摩擦攪拌することができるため、第一実施形態に比べて作業手間を大幅に省略することができる。また、摩擦攪拌を行う際に、接合用回転ツールFが蓋板42を押し込むため、熱媒体用管20も押圧されて凹溝43と熱媒体用管20を密接させることができる。これにより、熱媒体用管20の周囲に形成される空隙部22を低減することができるため、伝熱板41の熱交換効率を高めることができる。なお、接合工程が終了したら、ベース部材2からタブ材を切除する。
【0078】
ここで図18は、本実施形態の本接合工程後を示した伝熱板41を示した斜視図である。伝熱板41には、接合工程によって、表面塑性化領域W3が形成される。表面塑性化領域W3は、熱収縮によって縮むため、伝熱板41が表面Za側に凹状となるように反って撓んでしまう可能性がある。特に、伝熱板41の表面Zaに示す地点a〜地点jのうち、伝熱板41の四隅に係る地点a,c,f,hに関しては、その反りが顕著に見られる傾向がある。なお、地点jは、伝熱板41の中心地点を示す。
【0079】
(5)矯正工程
矯正工程は、前記した接合工程で発生した反りを解消するために行う工程である。矯正工程は、第一実施形態で示したプレス矯正、衝打矯正又はロール矯正のいずれかを行えばよいため、説明を省略する。
【0080】
(6)焼鈍工程
焼鈍工程では、伝熱板41を焼鈍することにより、伝熱板41の内部応力を除去する。本実施形態では、熱媒体用管20に、例えば、マイクロヒーターを通電させて焼鈍を行う。これにより、伝熱板41の内部応力を除去することができ、伝熱板41の使用時の変形を防止することができる。
【0081】
以上説明した第四実施形態に係る伝熱板41によれば、矯正工程を行うことにより、伝熱板41の平坦性を高めることができる。また、本実施形態においては凹溝43を幅狭に形成することにより、一条の摩擦攪拌のみで接合工程を行うことができるため、作業手間を省くことができる。
【0082】
[第五実施形態]
第五実施形態は、第四実施形態の変形例である。第五実施形態に係る伝熱板の製造方法は、図19に示すように、熱媒体用管を有さない点で第四実施形態と相違する。即ち、第四実施形態において、熱媒体用管を用いずに、凹溝43に直接熱媒体を流動させてもよい。
【0083】
凹溝43の下部は、円弧上に切り欠かれているため、凹溝43に蓋板42を挿入すると、蓋板42が隙間44をあけて凹溝43に係止される。そして、第四実施形態と同様に、接合工程を行って、ベース部材2と蓋板42の上部とを摩擦攪拌により一体化させてもよい。
このようにして形成された伝熱板51に対しても前記した矯正工程を行うことで伝熱板51の平坦性を高めることができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変形が可能である。例えば、本実施形態では、熱媒体用管を平面視略馬蹄状又は平面視蛇行状に配設したが、これに限定されるものではなく他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 伝熱板
2 ベース部材
6 蓋溝
8 凹溝
10 蓋板
20 熱媒体用管
22 空隙部
F 接合用回転ツール
J 突合部
P プレス装置
R1 ロール
R2 ロール
T1 第一補助部材
T2 第二補助部材
T3 第三補助部材
W 塑性化領域
Za 表面
Zb 裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材の表面側に開口する凹溝の周囲に形成された蓋溝に、蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、
前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、
前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、
前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項2】
ベース部材の表面側に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入する熱媒体用管挿入工程と、
前記蓋溝に蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、
前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、
前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、
前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項3】
前記接合工程において、前記熱媒体用管の周囲に形成された空隙部に、摩擦熱によって流動化された塑性流動材を流入させることを特徴とする請求項2に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項4】
ベース部材の表面側に開口する凹溝に蓋板を挿入する蓋板挿入工程と、
前記凹溝に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、
前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、
前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項5】
ベース部材の表面側に開口する凹溝に、熱媒体用管を挿入する熱媒体用管挿入工程と、
前記凹溝に蓋板を挿入する蓋板挿入工程と、
前記凹溝に沿って接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う接合工程と、
前記接合工程により形成された前記ベース部材の裏面側に凸となる反りを、前記ベース部材の表面側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることで矯正する矯正工程と、
前記矯正工程後に、一体形成された伝熱板に焼鈍を行う焼鈍工程と、を含むことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項6】
前記接合工程では、前記接合用回転ツールの押圧力によって前記蓋板が前記熱媒体用管の上部を押圧するとともに、前記蓋板の少なくとも上部と前記ベース部材とを摩擦攪拌することを特徴とする請求項5に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項7】
前記矯正工程では、前記ベース部材をプレス矯正、ロール矯正又は衝打具で衝打して矯正することにより、前記反りを矯正することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項8】
前記矯正工程では、前記ベース部材の裏面側の中央付近に当接する第一補助部材を配置するとともに、前記ベース部材の表面側の周縁付近に当接する第二補助部材及び第三補助部材を、前記第一補助部材を挟んで両側に配置した状態で、前記反りを矯正することを特徴とする請求項7に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項9】
前記各補助部材は、前記ベース部材よりも硬度が低い材料であることを特徴とする請求項8に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項10】
前記焼鈍工程では、前記熱媒体用管の内部にヒーターを配置しておき、前記矯正工程後に前記ヒーターに通電して、前記伝熱板を焼鈍することを特徴とする請求項2、請求項3、請求項5又は請求項6に記載の伝熱板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−99786(P2013−99786A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287774(P2012−287774)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−244565(P2008−244565)の分割
【原出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】