説明

伝送装置

【課題】所定の帯域の信号について、バイアス線路への漏出を防止しつつバイアス電圧の低下を防止する伝送装置を提供することを課題とする。
【解決手段】バイアス線路20の幅W2は、整合部11の幅W3よりも狭いため、相対的に整合部11より抵抗が大きくなる。従来の構成に比べ、整合部11を設けることで、接続点Cから見たバイアス線路20のインピーダンスが相対的に高くなる。したがって、従来よりもバイアス線路20に漏出する高周波信号が減少する。このように、バイアス線路20を細くして線路インピーダンスを高くすることなく、広帯域に渡って信号線路から見たバイアス線路の反射係数の低減を図ることができる。また、バイアス線路20の線幅を従来と同じにできる。そのために、大きなバイアス電流を流してもバイアス電圧が大きく低下することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の周波数の信号を伝送する信号線路を備える伝送装置に関し、特に、信号をバイアスするためのバイアス線路を含む伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波の信号を伝送する場合等には、信号が伝送される信号線路の抵抗成分、容量成分、インダクタンス成分が伝送される信号に影響を与えるので、それらを考慮した分布定数回路を用いる必要がある。分布定数回路では、信号をバイアスするためのバイアス線路についても、長さや形状による信号への影響を無視できない。バイアス線路は、信号線路から分岐して設けられる。したがって、信号線路からバイアス線路に漏出する高周波信号を考慮する必要がある。バイアス線路に漏出する高周波信号を抑えるための工夫の1つとしてオープンスタブがある。オープンスタブは、図8に示すように、オープンスタブの電気長と信号線路からオープンスタブまでの電気長を適宜調整することで、バイアス線路に信号線路から高周波信号が漏出しないようする。
しかし、信号線路を伝送される高周波信号の周波数の変動が大きくなると、バイアス線路の線路インピーダンスが低くなり、バイアス線路の反射係数が増加する。これを防止するために、図9に示すように、バイアス線路の幅を狭くして線路インピーダンスを高くすることで、広帯域の高周波信号に対して反射係数を小さくする方法がある。しかし、バイアス線路の幅を狭めると、バイアス線路の抵抗成分が増加する。その場合、バイアス電流が大きくなるにつれてバイアス電圧が低下してしまい、バイアスの機能をはたさなくなる。従来は、反射係数の増加をある程度許容して、バイアス線路の抵抗を減少させるために、バイアス線路の線路インピーダンスを下げたまま用いている。
【0003】
特許文献1には、線路インピーダンスを向上させ、信号の漏出を防止するための従来技術が記載されている。これは、バイアス線路を、基盤上に直接載置せずに、空気、もしくはテフロン(登録商標)等の低誘電率体を介して基板上に支持することにより、線路インピーダンスを向上させ、信号の漏洩を防止している。
【特許文献1】特開平11−186801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、所定の帯域の高周波信号について、バイアス線路への漏出を防止しつつバイアス電圧の低下を防止する伝送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、上述の課題を解決するために、以下のような伝送装置を提案する。
【0006】
本発明の伝送装置は、所定の信号を伝送するための信号線路と、前記信号線路に接続されており、前記信号をバイアスするためのバイアス線路と、前記バイアス線路から分岐して設けられているオープンスタブと、を備えており、前記信号線路は、前記バイアス線路が接続される接続部分に、前記信号線路の他の部分より線幅が広くなっている整合部を備えている。
この発明では、信号線路とバイアス線路の接続部分に整合部を設け、この部分の線幅を信号線路の他の部分よりも広くしている。整合部では、線幅が広いために、抵抗が信号線路の他の部分の抵抗よりも小さくなる。そのため、信号線路から見ると低インピーダンスになる。従来の信号線路とバイアス線路とのインピーダンスの比にくらべて、接続部分周辺での信号線路とバイアスの線路のインピーダンスの比は大きくなる。つまり、従来の構成に比べると、接続部分から見たバイアス線路のインピーダンスが高くなる。したがって、従来の構成に比べて、バイアス線路に漏出する高周波信号が減少する。これにより、従来の構成でバイアス線路の線幅を狭くしてバイアス線路を高インピーダンスにするのと同じ効果を得ることができる。バイアス線路の線幅は変わらないため、バイアス線路の抵抗は増加せず、大きなバイアス電流を流してもバイアス電圧が大きく低下することはない。また、バイアス電圧の低下を防止するためにバイアス線路の線路インピーダンスを信号線路の線路インピーダンスと同等にしても、バイアス線路に漏出する高周波信号の増加や、バイアス線路の反射係数の増加を抑えることができる。
【0007】
前記信号は所定の周波数で伝送されており、前記整合部は、前記信号線路の長さ方向に、前記信号の波長の半分の長さで形成される。
このような構成により、整合部による反射損失を低減させることができる。
【0008】
前記オープンスタブは、例えば放射状である。矩形形状のスタブより、放射形状のスタブの方がバイアス線路に漏出する高周波信号の抑圧効果を、より広帯域にできる。
【0009】
前記信号線路の線幅は、前記バイアス線路の幅以上であってもよい。整合部から見て、これに続く信号線路よりバイアス線路の方が高インピーダンスであればよい。
【0010】
前記整合部の一端には、例えば能動素子が接続される。これにより、回路の小型化と伝送損失の低減を図ることができる。
【0011】
前記接続部分から前記分岐までの電気長を、前記信号の波長の4分の1であり、前記オープンスタブの電気長を、前記信号の波長の4分の1にすると、バイアス線路に漏れ出す高周波信号を最も抑えることができることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、この実施形態における伝送装置1の構成図である。
伝送装置1は、マイクロ波又はミリ波帯の高周波信号(波長λ)を伝送するための信号線路10、信号線路10で伝送される高周波信号をバイアスするためのバイアス電流を信号線路に供給するためのバイアス線路20、及びバイアス線路20への高周波信号の漏出を防止するためのオープンスタブ30を備えている。
信号線路10の線幅は、後述する整合部を除き、幅W1である。この実施形態では、信号Xはマイクロ波やミリ波といった高周波信号であるが、伝送される信号の波長と線路の長さが大きくてもそれらの比が同じであれば、高周波信号以外の信号でもかまわない。
バイアス線路20は、接続点Cで信号線路10に接続されている。バイアス線路20の線幅は、幅W2で表される。バイアス線路20の先には、例えば、DC電源といったバイアス電源が接続されている。バイアス電源によりバイアス電流が供給される。
オープンスタブ30は、バイアス線路20の接続点Cから電気長でλ/4の距離にある分岐Bに接続されている。オープンスタブ30は、電気長がλ/4である。
信号線路10は、接続点Cの前後にλ/2の電気長になるように、線幅が幅W3となっている整合部11を有する。この実施形態では、整合部11のほぼ中央にバイアス線路20が接続されているが、整合部11の範囲内であればバイアス線路20は、どこに接続されていてもよいこの実施形態では、幅W3は幅W1よりも広く、幅W1と幅W2は同じである。整合部11から見て、これに続く信号線路10よりバイアス線路20の方が高インピーダンスであればいいので、幅W2は、幅W1以下であればよい。整合部11の線路インピーダンスは、信号線路10及びバイアス線路20の各々の線路インピーダンスよりも低い。
【0014】
バイアス線路20に漏出する高周波信号は、分岐Bでオープンスタブ30にも漏出する。オープンスタブ30に漏出した高周波信号は、オープンスタブ30の先端Aで反射する。オープンスタブ30の電気長がλ/4であるので、オープンスタブ30の先端Aで反射された高周波信号と、バイアス線路20に漏出した高周波信号とが逆位相になって打ち消しあう。したがって、バイアス線路20に漏出した高周波信号は分岐Bより先に漏れない。
バイアス線路20に漏出した高周波信号は、接続部分Cから分岐Bを介してオープンスタブ30の先端Aまで進んで反射される。接続部分Cから先端Aまでの電気長はλ/2なので、反射して戻ってきた高周波信号は、接続部分Cでちょうど1波長分周期がずれる。そのために、信号線路10で伝送される高周波信号は、バイアス線路20による影響を受けることがない。したがって、信号線路10から見たバイアス線路20の線路インピーダンスが高くなるため、信号線路10を伝送される高周波信号のバイアス線路20への漏出を防止することができる。
このように、インピーダンス整合の取れた周波数(以下、「中心周波数」という)の高周波信号がバイアス線路20に漏出することはない。
【0015】
中心周波数以外の周波数の高周波信号では、その波長が中心周波数の波長λから離れるに従って、バイアス線路の線路インピーダンスが低くなるので、信号線路から見た反射係数が増加する。
バイアス線路20の幅W2は、整合部11の幅W3よりも狭いため、相対的に整合部11より抵抗が大きくなる。従来の構成に比べ、整合部11を設けることで、接続点Cから見たバイアス線路20のインピーダンスが相対的に高くなる。つまり、バイアス線路20を細くして線路インピーダンスを高くした図7と同じ効果を得ることができる。したがって、従来よりもバイアス線路20に漏出する高周波信号が減少する。このように、バイアス線路20を細くして線路インピーダンスを高くすることなく、広帯域に渡って信号線路から見たバイアス線路の反射係数の低減を図ることができる。
また、バイアス線路20の線幅を従来と同じにできる。そのために、大きなバイアス電流を流してもバイアス電圧が大きく低下することを防止することができる。
【0016】
図2および図3は、図1の伝送装置1のシミュレーション結果である。従来のこの種の伝送装置のシミュレーション結果も併せて表示される。図2は、信号線路10から見た反射係数の周波数特性を示している。図3は、バイアス線路20に漏出する信号の透過係数を示している。いずれも、実線で表示される本実施形態の伝送線路1の方が、破線で表示される従来のものよりも広帯域に良好な特性を示している。
【0017】
<変形例1>
図4は、図1の伝送装置1の変形例である。図4の伝送装置1’では、オープンスタブ40が放射状に形成される。伝送装置1のような矩形状のスタブより、伝送装置1’の放射状のスタブの方がバイアス線路20に漏出する高周波信号の抑圧効果を、より広帯域に取ることができる。伝送装置1’のシミュレーションの結果は、図5及び図6のようになる。図5はバイアス線路20への漏出量、図6は伝送損失を示す。バイアス線路への漏出量及び伝送損失は、伝送装置1に比べて伝送装置1’の方が良好な結果が得られる。
【0018】
<変形例2>
図7は、図1の伝送装置1の整合部11の一端に高周波の能動素子50を接続した伝送装置1’’の構成図である。能動素子50側の信号線路10が不要となるため、回路全体の小型化と伝送損失の低減が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の伝送装置の構成を示す図。
【図2】図1の伝送装置の反射係数についてのシミュレーション結果を示す図。
【図3】図1の伝送装置の透過係数についてのシミュレーション結果を示す図。
【図4】変形例1における伝送装置の構成を示す図。
【図5】変形例1の伝送装置のバイアス線路への漏出量についてのシミュレーション結果を示す図。
【図6】変形例1の伝送装置の伝送損失についてのシミュレーション結果を示す図。
【図7】変形例2における伝送装置の構成を示す図。
【図8】従来の伝送装置の構成を示す図。
【図9】従来の伝送装置の構成を示す図。
【符号の説明】
【0020】
1 伝送装置
10 信号線路
11 整合部
20 バイアス線路
30 オープンスタブ
40 放射形状のスタブ
50 高周波能動素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の信号を伝送するための信号線路と、
前記信号線路に接続されており、前記信号をバイアスするためのバイアス線路と、
前記バイアス線路から分岐して設けられているオープンスタブと、
を備えており、
前記信号線路は、前記バイアス線路が接続される接続部分に、前記信号線路の他の部分より線幅が広くなっている整合部を備えている、
伝送装置。
【請求項2】
前記信号は所定の周波数で伝送されており、
前記整合部は、前記信号線路の長さ方向に、前記信号の波長の半分の電気長で形成される、
請求項1記載の伝送装置。
【請求項3】
前記オープンスタブは、放射状である、
請求項1もしくは2記載の伝送装置。
【請求項4】
前記信号線路の線幅は、前記バイアス線路の線幅以上である、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の伝送装置。
【請求項5】
前記整合部の一端に能動素子が接続されている、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の伝送装置。
【請求項6】
前記接続部分から前記分岐までの電気長は、前記信号の波長の4分の1であり、
前記オープンスタブの電気長は、前記信号の波長の4分の1である、
請求項2記載の伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−284120(P2009−284120A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132692(P2008−132692)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】