説明

伝送路特性推定方法、補間法推定方法、伝送路特性推定装置、補間法推定装置、ポリフェーズDFT比計算装置、行列計算装置、インパルス応答計算装置

【課題】伝送路特性のブラインド推定を精度よく、かつ効率的に実現したい。
【解決手段】一定長の情報シンボル系列をブロック単位とし、各情報シンボルをある時間間隔Tごとに送信するディジタル通信を対象とする。短時間間隔サンプル部20は、受信側でMを2以上の整数として、T/Mの時間間隔でサンプルして受信信号を生成する。補間法推定装置22は、短時間間隔サンプル部20で求められた受信信号から、送受信フィルタを含めた伝送路インパルス応答を短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと、補間公式を利用してそのインパルス応答を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送路特性推定技術に関し、特に情報をブロック単位で送信を行うディジタル通信において、受信信号のみから伝送路特性を推定する伝送路特性推定方法、補間法推定方法、伝送路特性推定装置、補間法推定装置、ポリフェーズDFT比計算装置、行列計算装置、インパルス応答計算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのディジタル通信において、情報はブロックやフレームという単位にまとめて送信される。ブロック通信として、誤り訂正符号などを組み込みブロックごとに送信する方式やOFDMなどがある。OFDMでは、情報系列をIDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)によって時間領域の系列に変換して送信し、受信側では、受信信号のDFT(Discrete Fourier Transform)を計算し、元の情報系列を復元する。
【0003】
無線通信などの通信システムにおいて、伝送路の歪を補正するために等化器などが使われるが、その等化器を設計するためには送信側から受信側までの伝送路特性を知る必要がある。伝送路特性を推定するために、通常、予め決めたパイロット信号を送信し、受信側でそのパイロット信号を観測することによって、伝送路で受けた歪から伝送路特性を推定する。しかしながら、この方式には、パイロット信号を送信することによる伝送効率の低下をもたらす問題がある。
【0004】
最近、パイロット信号を使わずに、受信信号のみから伝送路特性を推定するブラインド推定の研究が盛んになっている。ブロック通信に対するブラインド推定法として、分数間隔部分空間法(非特許文献2)やボードレート部分空間法(非特許文献3)などの部分空間法がある。部分空間法では、受信信号からその自己相関行列を求め、その行列を特異値分解して信号部分空間と雑音部分空間に分離する。雑音部分空間と信号部分空間が直交することと伝送路のインパルス応答が張る部分空間が信号部分空間に一致することから、伝送路のインパルス応答が張る部分空間と雑音部分空間は直交する。この直交性と自己相関行列の特異値分解で得られた雑音部分空間を使って、インパルス応答に対する線形方程式を作ることができる。この線形方程式を解くことによってインパルス応答は推定される。
【0005】
自己相関行列などの統計処理を必要とする統計的手法に対し、統計処理を必要としないブラインド推定方法として、剰余多項式法(非特許文献1)や符号化法(非特許文献4)がある。このような、統計処理を使わない方法は決定論的方法と呼ばれている。剰余多項式法では、インパルス応答の長さが有限と仮定し、その長さ以降のインパルス応答の値がゼロになることと剰余多項式を利用して、推定を行っている。統計的手法では、受信信号の自己相関行列を、多量の受信信号を蓄積し数値平均法により近似する必要がある。一方、決定論的方法は、短い受信信号からブラインド推定が可能で、フェージングがあり伝送路の特性が時間によって変化する場合などに特に有用である。
【非特許文献1】H. Murakami、「Blind estimation of a fractionally−sampled FIR channel for OFDM transmission using residue polynomials」、IEEE Tr. Signal Processing、Jan. 2006、54、1、p.225−234
【非特許文献2】S.Roy and C.Li、「A subspace blind channel estimation method for OFDM systems without cyclic prefix」、IEEE Trans. Wireless Communications、Oct. 2002、1、4、p.572−579
【非特許文献3】S.Barbarossa、A.Scaglione、G.B.Giarmakis、「Performance analysis of a deterministic channel estimator for block transmission systems with null guard intervals」、IEEE Tr. Signal Processing、March 2002、50、3、p.684−695
【非特許文献4】A. Petropulu、R.Zhang、R.Lin、「Blind OFDM channel estimation through simple linear precoding」、IEEE Trans. Wireless Communications、March 2004、3、2、p.647−655
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の部分空間法や決定論的方法では、伝送路のインパルス応答の長さが知られているかあるいは少なくともその長さが明確に定義できることを前提としている。しかしながら、実際の伝送路では、インパルス応答の成分は徐々に減衰し、その長さが明確に定義されない場合が多い。このような場合には、インパルス応答の長さを主要な成分を含む範囲と定義して推定する必要があるが、十分な推定精度が得ることが難しい。また、部分空間法では特異値分解する際に行列の固有値と固有ベクトルを求める必要であり、一般的に、その計算に要する期間が長くなる。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、インパルス応答長が不明確な場合にも高い精度が得られるブラインド推定技術を提供することである。また、必要とする受信信号が少なくてすむ決定論的手法で、計算効率のよい技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の伝送路特性推定装置は、一定長の情報シンボル系列をブロック単位とし、かつ情報シンボル間の時間間隔をTとして送信された信号を受信する受信部と、受信部において受信した信号に対して、Mを2以上の整数として、T/Mの時間間隔でサンプルすることによってディジタル信号を生成する短時間間隔サンプル部と、短時間間隔サンプル部において生成したディジタル信号から、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、送受信フィルタを含めた伝送路のインパルス応答を推定する推定部と、を備える。
【0009】
この態様によると、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、伝送路のインパルス応答を推定するので、インパルス応答長が不明確な場合にも精度を向上できる。
【0010】
本発明の別の態様は、補間法推定装置である。この装置は、ブロック単位の受信信号に対して、ブロック単位よりも長さの短いサブブロック受信信号に変換する手段と、変換したサブブロック受信信号をポリフェーズ分解して各ポリフェーズ成分のDFTを計算する手段と、計算したDFT値の比を計算する手段とを含むポリフェーズDFT比計算部と、ポリフェーズDFT比計算部において計算したDFT値の比をもとに、波形が滑らかなことを補間法によって取り入れて推定されるインパルス応答が、縦ベクトルをHとしたときに、HΦHの値を最小にするような縦ベクトルHを求める問題として定式化できる性質を有した行列Φを導出する行列導出部と、行列導出部において導出した行列ΦからHΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出し、導出した縦ベクトルHからインパルス応答を計算するインパルス応答計算部と、を備える。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、ポリフェーズDFT比計算装置である。この装置は、ブロック単位の受信信号を複数のサブブロックに分割した後に、複数のサブブロックの和を計算することによって、元の受信信号より短い受信信号を生成する入力信号短縮部と、入力信号短縮部において短縮した受信信号をポリフェーズ分解することによって、ポリフェーズ成分を導出するポリフェーズ分解部と、ポリフェーズ分解部において導出したポリフェーズ成分に対して、DFTを計算するDFT部と、DFT部において計算したDFT値について、所定のDFT値と他のDFT値との比を計算するDFT比部と、を備える。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、行列計算装置である。この装置は、DFT比計算装置と、各サンプル値とその近傍のサンプル値から補間して得られる値との差を抽出するための補間誤差抽出行列を導出して記憶する補間誤差抽出行列記憶部と、補間誤差抽出行列記憶部において記憶した補間誤差抽出行列を使って、インパルス応答が滑らかである条件を推定に取り入れるための応答誤差行列を導出して記憶する応答誤差行列記憶部と、補間誤差抽出行列記憶部において記憶した補間誤差抽出行列と、DFT比計算装置において計算したポリフェーズDFT比とを使って、インパルス応答の各ポリフェーズ成分に対してインパルス応答が滑らかである条件を推定に取り入れるためのポリフェーズ誤差行列を導出するポリフェーズ誤差行列部と、ポリフェーズ誤差行列部において導出したポリフェーズ誤差行列と、応答誤差行列記憶部において記憶した応答誤差行列との和を計算する行列加算部と、を備える。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、インパルス応答計算装置である。この装置は、行列計算装置と、行列計算装置において導出した行列をΦとし、縦ベクトルをHとするとき、HΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出する最適解部と、最適解部において導出した縦ベクトルHを複数のブロックに分解し、分解した複数のブロックのそれぞれに対して、IDFTを計算することによって、インパルス応答のポリフェーズ成分を導出するIDFT部と、を備える。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、伝送路特性推定方法である。この方法は、一定長の情報シンボル系列をブロック単位とし、かつ情報シンボル間の時間間隔をTとして送信された信号を受信するステップと、受信した信号に対して、Mを2以上の整数として、T/Mの時間間隔でサンプルすることによってディジタル信号を生成するステップと、生成したディジタル信号から、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、送受信フィルタを含めた伝送路のインパルス応答を推定するステップと、を備える。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、補間法推定方法である。この方法は、ブロック単位の受信信号に対して、ブロック単位よりも長さの短いサブブロック受信信号に変換し、変換したサブブロック受信信号をポリフェーズ分解して各ポリフェーズ成分のDFTを計算し、計算したDFT値の比を計算するステップと、計算したDFT値の比をもとに、波形が滑らかなことを補間法によって取り入れて推定されるインパルス応答が、縦ベクトルをHとしたときに、HΦHの値を最小にするような縦ベクトルHを求める問題として定式化できる性質を有した行列Φを導出するステップと、導出した行列ΦからHΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出し、導出した縦ベクトルHからインパルス応答を計算するステップと、を備える。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インパルス応答長が不明確な場合にも高い精度を得ることができる。また、必要とする受信信号が少なくてすむ決定論的手法で、計算効率のよい技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の説明の前に、まず対象とする通信システムの概要を説明する。無線通信においては、通常、利用者ごとに周波数帯域が割り当てられ、利用可能な周波数帯域が制限されている。このような状況においては、送信側と受信側に低域通過フィルタを備える必要がある。送信側の低域通過フィルタは送信波形を所定の帯域幅に収まるように帯域制限する機能を持つ。また、受信側の低域通過フィルタは、そのフィルタ出力に於ける信号対雑音比(SNR;Signal−to−noise power ratio)を向上させる機能を持つ。
【0019】
送信側と受信側に低域通過フィルタにより、これらのフィルタとベースバンド伝播路を含めた伝送路は帯域制限され、そのインパルス応答は滑らかな波形になる。したがって、十分に狭い時間間隔でサンプルして得られたインパルス応答の各サンプル値は、それと隣接したサンプル値から補間した値にほぼ一致する。すなわち、補間された値と実際のサンプル値との差は非常に小さな値となることが期待される。本発明のブラインド推定法では、補間された値と実際のサンプル値との差が最小になるように、インパルス応答を決める。ここでは、この方法を補間法と呼ぶことにする。
【0020】
1.前提
図1は、本発明の実施例に係る通信システム80の構成を示す。通信システム80は、データ提供部10、送信フィルタ12、ベースバンド伝播路14、受信フィルタ16、伝送路特性推定装置18を含む。データ提供部10は、長さがNの情報系列s(n)、0≦n≦N-1、の各シンボルを時間間隔Tごとに供給する。送信フィルタ12は送信波形を帯域に制限する。送信波形は変調されてから送信される。ベースバンド伝播路14は送信側の変調から受信側の復調までの経路を示す。受信側では、無線回線を介して受けた波形を復調してベースバンドの波形を得る。受信フィルタ16はその出力のSNRを向上させる機能を持つ。本実施例では、送信フィルタ12から受信フィルタ16までの経路を伝送路と呼ぶ。伝送路特性推定装置18は補間法により受信フィルタ16の出力のみから伝送路特性を推定する。
【0021】
受信フィルタ16の出力波形を送信側のシンボル供給時間間隔Tの1/Mの間隔、すなわち時間間隔T/Mごとにサンプルして得られた信号をr(n)とする。つまり、ra(t)を受信フィルタ16出力のアナログ波形とすると、r(n)=ra(nT/M)で与えられる。想定しているブロック通信では、1ブロックに情報を送信した後、次のブロックを送信する前に一定時間のガードインターバルを設けてあるものとする。このガードインターバルの時間は伝送路のインパルス応答の長さよりも大きくし、ブロック間の干渉が生じないように設定されているものとする。
【0022】
通常、インパルス応答の長さは、ブロックサイズNよりも小さい。そこで、ガードインターバルの長さKをインパルス応答の長さよりも大きくかつ、Nの因数になるような整数として選ぶこととする。受信信号を長さKのN/K+1個のサブブロックに分割し、次のように、サブブロックの和が計算される。
【数1】

ここで、r(n)=[r(nM) r(nM+1) … r(nM+M-1)]Tであり、上付きの添え字記号「T」は行列の転置を示す。したがって、x(n)はM次元の縦ベクトルである。提案する推定法では、この長さの短い受信信号x(n)のみを使うので、今後この信号を単に受信信号と呼ぶ。
【0023】
伝送路のアナログインパルス応答を短時間間隔T/Mでサンプルしたインパルス応答をKM次元のベクトルh=[h(0) h(1) … h(KM-1)]Tで示す。これ以外として、h(n)=[h(nM) h(nM+1) … h(nM+M-1)]T、0≦n≦K−1、および、hm=[h(m) h(M+m) … h((K-1)M+m)]T、0≦m≦M−1の表記も用いる。hmはhのm番目のポリフェーズ成分と呼ばれている。ポリフェーズ成分hmに対する長さがKのDFTをベクトルとしてHm=[Hm(0) Hm(1) … Hm(K-1)]T、0≦m≦M−1、と表記する。また、別のDFT領域の表記としてH(k)=[H0(k) H1(k) … HM-1(k)]Tも使う。
【0024】
すると、伝送路で雑音が発生しないものとすると、通信システム80はDFT領域で式(2)のように表現できる。
【数2】

ここでSred(k)はsred(n) =s(iK+n) 、0≦n≦K−1に対する長さKのDFTである。
【0025】
2.補間法
式(2)からXm(k)=Hm(k)Sred(k), 0≦m≦M−1, 0≦k≦K−1,を得る。そこで、Sred(k)=Xm(k)/Hm(k)を式(2)に代入すると、H(k)=Am(k)Hm(k)の関係が成立する。ここで、Am(k)は、次のように示される。
【数3】

H(k)のIDFTを計算して、上記の関係をインパルス応答に関する式に変換すると、次のようになる。
【数4】

【0026】
ここで、K次元縦ベクトルHmは式(5)で与えられる。
【数5】

受信信号からAm(k)を計算しておけば、式(4)は各ポリフェーズ成分からインパルス応答を求めることができることを示している。
【0027】
伝送路の低域通過特性より、短時間間隔でサンプルされたインパルス応答は滑らかな信号となり、その各サンプル値h(n)は式(6)で与えられるような形式で隣接する2L個のサンプル値から補間できる。
【数6】

ここでp(n)は式(7)で与えられる重みである。
【数7】

【0028】
各サンプル値h(n)とその補間の差を式(8)のように定義する。
【数8】

ここでw(n)は、L≦n≦KM−L−1のときw(n)=1、0≦n≦L−1あるいはKM−L≦n≦KM−1のときw(n)=0で与えられる窓関数である。すると、式(6)の条件はd(n)=0、0≦n≦KM−1と示される。
【0029】
インパルス応答のポリフェーズ成分のDFTHmに関する拘束条件は、式(8)のh(n)に式(4)で与えられるh(n)を代入し、d(n)=0、0≦n≦KM−1とすることで得られる。しかし、この拘束条件には重複がある。この重複を避けるために、各ポリフェーズ成分のDFTHmに対しては、d(n)のポリフェーズ成分dm=[d(m) d(M+m) … d((K-1)M+m)]Tのみに焦点をあて、dm=0の拘束条件に置き換える。
【0030】
ポリフェーズ成分のDFTHmのすべてをまとめて式(9)のように一つのベクトルとして表現する。
【数9】

式(4)と式(8)、およびdmがd(n)のポリフェーズ成分であることより決まる各Hmからdmへの関係をまとめて、式(10)のように一つの式で表現する。
【数10】

インパルス応答を式(10)の関係において、dA=0を満たすように決める。
【0031】
上記の要件に加えて、インパルス応答そのものがd(n)=0の条件を満足する必要がある。Hがインパルス応答のポリフェーズ成分のDFTである関係からh(n)をHで表現した式を求め、その表現を式(8)のh(n)に代入して、d(n)とHの関係は次式の形式で示される。
【数11】

この場合、Qは受信信号に依存せず、p(n)とw(n)のみで決まる。
【0032】
この発明の補間法では、||d||+||d||を最小にするようなHを求め、このHからインパルス応答を決めることで、ブラインド推定問題を解く。
【0033】
3.表記
実施の形態を説明する際に必要となる表記をここで紹介する。EをK×Kの行列として、これらの行列を対角ブロックとして持つKM×KM行列を次式で表記する。
【数12】

【0034】
ここで、0K×Kはすべての要素がゼロのK×Kの行列である。同様に、M×Mの行列Ekを対角ブロックとして持つKM×KMのブロック対角行列をD(Ek,0≦k≦K-1)と示す。
【数13】

次のように示されるKM×KM行列も導入する。
ここで、λ(n,m)はM×Kの行列であり、その(n,m)番目の要素のみ「1」で、他の要素は「0」である。
【0035】
インパルス応答の場合と同様に、補間フィルタp(n) のm番目のポリフェーズ成分に対するDFTをPm(k)と示し、窓関数w(n)のm番目のポリフェーズ成分に対するDFTをWm(k)と示す。これらのDFTを使って、次のM×M行列F(k)とK×K行列Ψを以下の式のように導入する。
【数14】

【数15】

【0036】
ここで、R(τ)は、次式で与えられる。
【数16】

上付文字「*」は、複素共役転置演算を示す。
【0037】
4.実施の方法
行列Φを式(17)で定義する。
【数17】

||d||+||d||=HΦHであり、推定問題はHΦHが最小になるようなHを探す問題になる。効率的な実施のためには、可能な限りΦとΦを予め計算することが好ましい。
【0038】
必要な計算をすると、Φは次式で与えられることが示される。
【数18】

ここで、Cmは、式(19)で与えられるK次元のベクトルであり、Diag(Cm)はCmの各要素を対角要素として持つ対角行列である。
【数19】

(k)は式(14)によって定義されるF(k)のm番目の行ベクトル、A(k)は式(3)によって定義される列ベクトルである。したがって、Cの各要素はスカラーになる。
【0039】
同様に、必要な計算をすると、Φは次式で与えられる。
【数20】

ここでFは式(21)で与えられるKM×KMの行列である。
【数21】

行列Φは上記で与えられる行列ΦとΦの和にて示される。
【0040】
ΦHを最小にするベクトルHを求める際に、Hの最初の要素がゼロでない場合には、この最初の要素を1と仮定して解いてもよい。つまり、HKM-1をHの最初の要素を除いた残りのKM-1次元ベクトルとして、解をH=[1 HKM-1T]Tの形に示せるものとする。すると、問題は、[1 HKM-1*]Φ[1 HKM-1T]Tを最小にするHKM-1を見つける問題になる。
【0041】
上記の設定で問題を解くために、式(22)と式(23)で与えられる(KM-1)×(KM-1)行列と(KM-1)次元ベクトルを導入する。
【数22】

【数23】

【0042】
ここで、Φn,kは、行列Φの(n,k)番目の要素である。上記の行列とベクトルを使って次の線形連立方程式を規定する。
【数24】

すると、[1 HKM-1*]Φ[1 HKM-1T]Tを最小にするベクトルHKM-1はこの方程式の解として求まる。
【0043】
5.実施の手順
図2は、伝送路特性推定装置18の構成を示す。伝送路特性推定装置18は、短時間間隔サンプル部20、補間法推定装置22を含む。短時間間隔サンプル部20は、一定長の情報シンボル系列をブロック単位とし、かつ情報シンボル間の時間間隔をTとして送信された信号を受信する。短時間間隔サンプル部20は、受信部において受信した信号に対して、Mを2以上の整数として、T/Mの時間間隔でサンプルすることによってディジタル信号を生成する。つまり、短時間間隔サンプル部20は、図1の受信フィルタ16からの出力波形を送信側のシンボル供給時間間隔Tの1/Mの間隔、すなわち時間間隔T/Mごとにサンプルする。サンプル間隔比Mを大きくするにつれて、その短時間間隔で記述される(ディジタル)インパルス応答は、帯域制限された伝送路の特徴が反映されて、滑らかになる。補間法推定装置22は、短時間間隔サンプル部20において生成したディジタル信号から、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、図1の送信フィルタ12および受信フィルタ16を含めた伝送路のインパルス応答を推定する。
【0044】
具体的には、補間法推定装置22は、前述の方法でブラインド推定を行うが、その手順を以下にまとめる。
(ステップ1)
式(14)およびに式(15)を使って行列F(k),0≦k≦K−1と、行列Ψm,0≦m≦M−1を求める。これらの行列から、式(20)と式(21)を使ってΦを求める。以上の計算には受信信号を必要としないので、予め求めておく。
【0045】
(ステップ2)
式(1)にしたがって、短時間間隔でサンプルされた信号から長さの短い受信信号x(n)を求める。この受信信号のポリフェーズ成分に対する長さKのDFTHm=[Hm(0) Hm(1) … Hm(K-1)]T、0≦m≦M−1、を求め、式(3)を使ってAm(k)を求める。さらに、Am(k)とステップ1で求めたF(k)を使い、式(18)と式(19)によってΦを求める。
【0046】
(ステップ3)
上記のステップ1と2で求めたΦとΦから、それらの和Φ=Φ+Φを求める。この行列Φを使って、式(22)、式(23)および式(24)により連立方程式を構成し、その解HKM-1を求める。
【0047】
(ステップ4)
上のステップで求めた解と、H=[1 HKM-1T]T=[H0T H1T … HM-1T]Tの対応関係から、Hm、0≦m≦M−1を特定する。Hmの長さKのIDFTを計算し、伝送路のインパルス応答のポリフェーズ成分hmを求める。
【0048】
6.構成
補間法推定装置22の具体的な実施例を説明する。図3は、補間法推定装置22の構成を示す。補間法推定装置22は、ポリフェーズDFT比計算装置24、行列計算装置26、インパルス応答計算装置28を含む。
【0049】
ポリフェーズDFT比計算装置24は、ブロック単位の受信信号に対して、ブロック単位よりも長さの短いサブブロック受信信号に変換する。また、ポリフェーズDFT比計算装置24は、変換したサブブロック受信信号をポリフェーズ分解して各ポリフェーズ成分のDFTを計算し、計算したDFT値の比を計算する。ポリフェーズDFT比計算装置24は、図4に示すように、入力信号短縮部30、ポリフェーズ分解部32、DFT部34、DFT比部36を含む。入力信号短縮部30は、ブロック単位の受信信号を複数のサブブロックに分割した後に、式(1)にしたがって、それらのサブブロックの和を計算する。その結果、入力信号短縮部30は、元の受信信号よりも、長さの短い受信信号x(n)を生成する。
【0050】
ポリフェーズ分解部32は、短縮した受信信号をポリフェーズ分解することによって、ポリフェーズ成分を導出する。DFT部34は、それぞれのポリフェーズ成分に対して、そのDFTを計算する。DFT比部36は、DFT部34において計算したそれぞれのDFT値について、所定のDFT値と他のDFT値との比を計算し、式(3)にしたがってAm(k) 、0≦k≦K-1、0≦m≦M-1を求める。図3に戻る。
【0051】
行列計算装置26は、ポリフェーズDFT比計算装置24において計算したDFT値の比をもとに、波形が滑らかなことを補間法によって取り入れて推定されるインパルス応答が、縦ベクトルをHとしたときに、HΦHの値を最小にするような縦ベクトルHを求める問題として定式化できる性質を有した行列Φを導出する。行列計算装置26は、図5に示すように、ポリフェーズ誤差行列部40、補間誤差抽出行列記憶部42、行列加算部44、応答誤差行列記憶部46を含む。補間誤差抽出行列記憶部42は、式(14)およびに式(15)を使って、行列F(k),0≦k≦K−1と、行列Ψm,0≦m≦M−1を導出し、それを記憶しておく。これらの行列はインパルス応答のサンプル値とその近傍から補間して得られる値との差を抽出するために使われる。
【0052】
応答誤差行列記憶部46は、F(k)とΨmから式(20)と式(21)を使ってΦを導出し、それを記憶しておく。行列Φはインパルス応答が滑らかである条件をその推定に取り入れるために使われる。ポリフェーズ誤差行列部40は、ポリフェーズDFT比計算装置24の出力Am(k)と補間誤差抽出行列記憶部42で記憶されているF(k)を使い、式(18)と式(19)によってΦを求める。つまり、インパルス応答の各ポリフェーズ成分に対してインパルス応答が滑らかである条件を推定に取り入れるためのポリフェーズ誤差行列が導出される。行列加算部44は、ΦとΦの和Φ=Φ+Φを求め、それを出力する。図3に戻る。
【0053】
インパルス応答計算装置28は、行列計算装置26において導出した行列ΦからHΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出し、導出した縦ベクトルHからインパルス応答を計算する。インパルス応答計算装置28は、図6に示すように、最適解部50、IDFT部52を含む。最適解部50は、行列計算装置26で得られたΦを使って、式(22)、式(23)および式(24)により連立方程式を構成し、その解HKM-1を求める。このとき、H=[1 HKM-1T]TがH*ΦHの値を最小にするベクトルである。IDFT部52は、H=[1 HKM-1T]T=[H0T H1T … HM-1T]Tと対応させ、Hmの長さKのIDFTを計算し、インパルス応答のポリフェーズ成分hmを求め、これらの成分をポリフェーズ合成してインパルス応答を求める。つまり、IDFT部52は、最適解部50において導出した縦ベクトルHを複数のブロックに分解し、分解した複数のブロックのそれぞれに対して、IDFTを計算することによって、インパルス応答のポリフェーズ成分を導出する。
【0054】
7.シミュレーション結果
補間法の効果を確認するためのシミュレーションに用いる通信システム80を説明する。通信方式としてはOFDMを使用することとし、信号空間としては{1,j,−1,−j}を用いる。また、送信フィルタ12と受信フィルタ16としてはレイズドコサインスペクトル特性を持つ低域通過フィルタを用いることにする。伝送路のモデルとしては、図7(a)に示すようなインパルス応答が急激に減衰する急減衰伝送路モデルと、図7(b)に示すようなインパルス応答が緩やかに減衰する緩減衰伝送路モデルとを用いた。
【0055】
本実施例の補間法の性能は、剰余多項式法、分数間隔部分空間法、ボードレート部分空間法、および符号化法としての4種の従来法の推定法と比較される。図8は、通信システム80に対するシミュレーション結果を示す。ここでは、NMSE(正規化平均二乗誤差)がSNRの関数として示される。SNRが15dB以上のとき、補間法の性能は、他の従来法よりもよくなる。
【0056】
本発明の実施例によれば、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、伝送路のインパルス応答を推定するので、インパルス応答長が不明確な場合にも精度を向上できる。また、サブスペース法に於ける、行列の固有値や固有ベクトルなどの計算を必要とせず、DFTの計算と線形方程式の解法によって構成されるので、計算効率を向上できる。また、伝送路のインパルス応答長が不明確な場合にも適用できる。また、決定論的手法であるので、1ブロックの受信信号のみで伝送路のインパルス応答を推定できる。また、SNRが大きいときに、補間法は他の推定方法よりも推定精度を向上できる。
【0057】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例に係る通信システムの構成を示す図である。
【図2】図1の伝送路特性推定装置の構成を示す図である。
【図3】図2の補間法推定装置の構成を示す図である。
【図4】図3のポリフェーズDFT比計算部の構成を示す図である。
【図5】図3の行列計算部の構成を示す図である。
【図6】図3のインパルス応答計算装置の構成を示す図である。
【図7】図7(a)−(b)は、図1の通信システムに対するシミュレーションに対して使用される伝送路モデルを示す図である。
【図8】図1の通信システムに対するシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10 データ提供部、 12 送信フィルタ、 14 ベースバンド伝播路、 16 受信フィルタ、 18 伝送路特性推定装置、 20 短時間間隔サンプル部、 22 補間法推定装置、 24 ポリフェーズDFT比計算装置、 26 行列計算装置、 28 インパルス応答計算装置、 30 入力信号短縮部、 32 ポリフェーズ分解部、 34 DFT部、 36 DFT比部、 40 ポリフェーズ誤差行列部、 42 補間誤差抽出行列記憶部、 44 行列加算部、 46 応答誤差行列記憶部、 50 最適解部、 52 IDFT部、 80 通信システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定長の情報シンボル系列をブロック単位とし、かつ情報シンボル間の時間間隔をTとして送信された信号を受信する受信部と、
前記受信部において受信した信号に対して、Mを2以上の整数として、T/Mの時間間隔でサンプルすることによってディジタル信号を生成する短時間間隔サンプル部と、
前記短時間間隔サンプル部において生成したディジタル信号から、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、送受信フィルタを含めた伝送路のインパルス応答を推定する推定部と、
を備えることを特徴とする伝送路特性推定装置。
【請求項2】
ブロック単位の受信信号に対して、ブロック単位よりも長さの短いサブブロック受信信号に変換する手段と、変換したサブブロック受信信号をポリフェーズ分解して各ポリフェーズ成分のDFTを計算する手段と、計算したDFT値の比を計算する手段とを含むポリフェーズDFT比計算部と、
前記ポリフェーズDFT比計算部において計算したDFT値の比をもとに、波形が滑らかなことを補間法によって取り入れて推定されるインパルス応答が、縦ベクトルをHとしたときに、HΦHの値を最小にするような縦ベクトルHを求める問題として定式化できる性質を有した行列Φを導出する行列導出部と、
前記行列導出部において導出した行列ΦからHΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出し、導出した縦ベクトルHからインパルス応答を計算するインパルス応答計算部と、
を備えることを特徴とする補間法推定装置。
【請求項3】
ブロック単位の受信信号を複数のサブブロックに分割した後に、複数のサブブロックの和を計算することによって、元の受信信号より短い受信信号を生成する入力信号短縮部と、
前記入力信号短縮部において短縮した受信信号をポリフェーズ分解することによって、ポリフェーズ成分を導出するポリフェーズ分解部と、
前記ポリフェーズ分解部において導出したポリフェーズ成分に対して、DFTを計算するDFT部と
前記DFT部において計算したDFT値について、所定のDFT値と他のDFT値との比を計算するDFT比部と、
を備えることを特徴とするポリフェーズDFT比計算装置。
【請求項4】
請求項3に記載のDFT比計算装置と、
各サンプル値とその近傍のサンプル値から補間して得られる値との差を抽出するための補間誤差抽出行列を導出して記憶する補間誤差抽出行列記憶部と、
前記補間誤差抽出行列記憶部において記憶した補間誤差抽出行列を使って、インパルス応答が滑らかである条件を推定に取り入れるための応答誤差行列を導出して記憶する応答誤差行列記憶部と、
前記補間誤差抽出行列記憶部において記憶した補間誤差抽出行列と、前記DFT比計算装置において計算したポリフェーズDFT比とを使って、インパルス応答の各ポリフェーズ成分に対してインパルス応答が滑らかである条件を推定に取り入れるためのポリフェーズ誤差行列を導出するポリフェーズ誤差行列部と、
前記ポリフェーズ誤差行列部において導出したポリフェーズ誤差行列と、前記応答誤差行列記憶部において記憶した応答誤差行列との和を計算する行列加算部と、
を備えることを特徴とする行列計算装置。
【請求項5】
請求項4に記載の行列計算装置と、
前記行列計算装置において導出した行列をΦとし、縦ベクトルをHとするとき、HΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出する最適解部と、
前記最適解部において導出した縦ベクトルHを複数のブロックに分解し、分解した複数のブロックのそれぞれに対して、IDFTを計算することによって、インパルス応答のポリフェーズ成分を導出するIDFT部と、
を備えることを特徴とするインパルス応答計算装置。
【請求項6】
一定長の情報シンボル系列をブロック単位とし、かつ情報シンボル間の時間間隔をTとして送信された信号を受信するステップと、
受信した信号に対して、Mを2以上の整数として、T/Mの時間間隔でサンプルすることによってディジタル信号を生成するステップと、
生成したディジタル信号から、T/Mの短時間間隔でサンプルして得られる波形が滑らかなことと補間公式とを利用して、送受信フィルタを含めた伝送路のインパルス応答を推定するステップと、
を備えることを特徴とする伝送路特性推定方法。
【請求項7】
ブロック単位の受信信号に対して、ブロック単位よりも長さの短いサブブロック受信信号に変換し、変換したサブブロック受信信号をポリフェーズ分解して各ポリフェーズ成分のDFTを計算し、計算したDFT値の比を計算するステップと、
計算したDFT値の比をもとに、波形が滑らかなことを補間法によって取り入れて推定されるインパルス応答が、縦ベクトルをHとしたときに、HΦHの値を最小にするような縦ベクトルHを求める問題として定式化できる性質を有した行列Φを導出するステップと、
導出した行列ΦからHΦHの値が最小になるような縦ベクトルHを導出し、導出した縦ベクトルHからインパルス応答を計算するステップと、
を備えることを特徴とする補間法推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−271296(P2008−271296A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112830(P2007−112830)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】