説明

伸度差混繊糸

【課題】 ふくらみ感、ソフト感、反発感といった風合いに優れ、更に深色性と行った独特な外観をなす布帛を形成できる、伸度差混繊糸を提供する。
【解決手段】 低伸度糸Aと高伸度糸Bからなる伸度差混繊糸であって、下記(1)〜(5)を満足することを特徴とする伸度差混繊糸。
(1)低伸度糸Aが高収縮性を示す共重合ポリエステルよりなること。
(2)高伸度糸Bが低収縮性を示す芯鞘糸であって、鞘部に表面改質剤を含有するポリエステルが配され、芯部にポリスチレンポリマーが配された芯鞘糸であること。
(3)破断伸度差 20%≦DE(B)−DE(A)≦20%
(4)沸騰水収縮率差 7%≦BWS(A)−BWS(B)≦13%
(5)単糸繊度差 2.0≦D(A)/D(B)≦5.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふくらみ感、ソフト感、反発感といった風合いに優れ、さらに深色性に優れた布帛を提供できる伸度差混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレートをはじめとする芳香族系ポリエステル繊維は、機械的特性と各種堅牢度に優れるため、主に衣料用途に広く用いられている。衣料用途では天然素材をターゲットとして品質の改良が行われてきており、ポリマーの種類や添加物等の条件を変えることで、絹やウール等といった天然繊維に近似した様々な形態を、低コストで提供することができる。
【0003】
特にふくらみ、ソフト感のある風合いの実現のための手段として熱による収縮特性の異なる糸を混繊する、いわゆる収縮差混繊糸が広く用いられている。混繊方法は大きく2種類に分けられ、互いに収縮差を有する2種以上のポリエステル未延伸糸を、別工程で紡糸し、延伸時もしくは延伸後に混繊させるいわゆる後混繊と、紡糸あるいは巻き取り段階で混繊させるいわゆる紡糸混繊の2種類の方法がある。
【0004】
後混繊は少なくとも2種以上の未延伸糸を別工程で紡糸するため、用途が幅広く、安定して製糸可能であるが、生産性は大きく劣り、紡糸混繊に比べコストが非常にかかるため、実用性に欠けるものであった。
【0005】
一方、紡糸混繊は、後混繊の欠点であるコストを低減化できる混繊方法であり、後混繊に比べ実用性が高い。しかし、その分、用途が限られるが、近年、ポリエステル製造法の発達により、紡糸混繊法でも安定して混繊糸が製造できるようになった。
【0006】
その一例として、特許文献1には低収縮成分としてホモポリエチレンテレフタレートを用い、高収縮成分として共重合ポリエステルを使用して混繊紡糸を行い、未延伸糸を一旦巻き取った後延伸するという非常に簡略なポリエステル収縮差混繊糸の製造方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献2では、高収縮性を示す共重合ポリエステル単独糸と、鞘部にポリエステルが配され、芯部にポリスチレン系ポリマーが配された芯鞘糸である自発伸長糸とを、同一口金より同時に紡糸する方法が開示されている。この方法を用いれば、ポリスチレン系ポリマーの配向抑制効果により、芯鞘糸側が低収縮性となり、ふくらみ、ソフト感の優れた布帛を得ることができる。
【0008】
しかしながら、この方法で得られる糸は、自発伸長糸によりループや毛羽が発生し易く、解舒性や工程通過性が劣り、染色性においても不十分なものであった。
【0009】
ところで、ポリエステル繊維は先述の通り、機械的特性や各種堅牢度に優れてはいるものの、絹やウールなどの天然繊維と比較して染色布の発色性に劣り、さらに繊維表面のなめらかさのため特有の鏡面光沢があり、天然繊維のような色の深みが得られないといった欠点を有する。特に黒色の深みは天然繊維と比較して大幅に劣るため、ブラックフォーマル分野などでは黒色の発色性向上が強く望まれている。
【0010】
このような問題を解決する手段として、特許文献3では、無機微粒子を含有した2種以上のフィラメント群からなる混繊糸が提案されているが、黒色発色性は十分であるものの、このような混繊糸を製造した場合、無機微粒子を含有するフィラメント群を2種以上混繊するため、ガイド等の削れが大きく発生し、工程安定性が悪く、さらに布帛のふくらみ感、ソフト感、反発感が不十分なものであった。
【0011】
すなわち、従来の技術ではふくらみ感、ソフト感、反発感といった風合いと高い黒発色性を両立することができなかった。
【特許文献1】特開平02−019528号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−003234号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−200438号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記の問題点を解決しようとするものであり、ふくらみ感、ソフト感、反発感といった風合いに優れ、更に深色性に優れた布帛を形成できる伸度差混繊糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、低伸度糸Aと高伸度糸Bからなる伸度差混繊糸であって、下記(1)〜(5)を満足することを特徴とする伸度差混繊糸。
(1)低伸度糸Aが高収縮性を示す共重合ポリエステルよりなること。
(2)高伸度糸Bが低収縮性を示す芯鞘糸であって、鞘部に表面改質剤を含有するポリエステルが配され、芯部にポリスチレンポリマーが配された芯鞘糸であること。
(3)20%≦DE(B)−DE(A)≦70%
(4)7%≦BWS(A)−BWS(B)≦13%
(5)2.0≦D(A)/D(B)≦5.0
DE(A):低伸度糸Aの破断伸度
DE(B):高伸度糸Bの破断伸度
BWS(A):低伸度糸Aの沸騰水収縮率
BWS(B):高伸度糸Bの沸騰水収縮率
D(A):低伸度糸Aの単糸繊度
D(B):高伸度糸Bの単糸繊度
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ふくらみ感、ソフト感、反発感といった風合いに優れ、更に深色性に優れた布帛を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明でいうポリエステルとはポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、PETが最も汎用的であり好ましい。また、これらは艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料などの添加物を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の伸度差混繊糸は、低伸度糸Aが高収縮性を示す第3成分が共重合されたポリエステルからなり、高伸度糸Bが鞘部に表面改質剤を含有するポリエステルが配され、芯部にポリスチレンポリマーが配された芯鞘複合糸から構成されたものである。
【0018】
低伸度糸Aは高収縮性を示す第3成分が共重合されたポリエステルから形成されていることが重要である。第3成分を共重合したポリエステルを用いることにより、熱収縮性が向上し、高伸度糸Bとの収縮差が拡大し、布帛のふくらみ感が向上する。第3成分としてはイソフタル酸(以下IPAと略す)を採用することが好ましく、IPAの共重合率は3〜12mol%であれば十分に収縮性の高い繊維を得ることができる。IPAに加えて、2,2ビス{4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン(以下BHPPと略す)を共重合率1〜5mol%で共重合すると、より高収縮化することも可能である。
【0019】
高伸度糸Bは、鞘部に表面改質剤を含有するポリエステルが配され、芯部にポリスチレンポリマーが配された芯鞘複合糸であることが重要である。ポリスチレンポリマーを芯部に配することにより、配向抑制効果が得られ、高伸度糸Bをより低収縮化でき、低伸度糸Aとの収縮差が拡大し、布帛のふくらみ感が向上する。また、ポリエステル単独糸で構成された糸よりも初期ヤング率が小さく、曲げ剛性も小さくなるため、織編物としたときソフトでしなやかな風合いを発現することができる。
【0020】
本発明では、高伸度糸Bの鞘部ポリエステル中に表面改質剤が含有されていることが重要である。表面改質剤の平均一次粒径は0.02〜0.1μmが好ましい。平均粒径一次粒径が0.02〜0.1μmの範囲であると、十分な表面改質効果が得られ染色性が良く、また十分な切断強度が保たれるため、安定して紡糸・延伸することが可能である。より好ましくは0.03〜0.09μmである。
【0021】
また、高伸度糸Bの鞘部に含有する表面改質剤の含有量は鞘部ポリマーに対して0.4〜5重量%が好ましい。表面改質剤の含有量が0.4〜5重量%の範囲であると、十分な表面改質効果が得られ深色性が良く、十分な耐光性、耐熱性が得られ、また工程通過性も良好なため、断糸を抑制することができる。より好ましくは1〜4重量%である。
【0022】
表面改質剤の種類としては、ポリエステルに対して実質的に劣化作用をもたず、それ自体で安定性に優れるものであればいずれも使用できる。かかる無機微粒子の代表例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機微粒子が挙げられるが、これらの内、発色性向上の観点からシリカが好ましく、シリカの形態としては、分散性が良好であるコロイダルシリカが最も好ましい。
【0023】
本発明でいうコロイダルシリカとは、ケイ素酸化物を主成分とし、単粒子状で存在する微粒子が水または単価のアルコール類またはジオール類またはこれらの混合物を分散媒としてコロイドとして存在するものをいう。
【0024】
コロイダルシリカをポリマー中に添加する方法としては、コロイダルシリカをエチレングリコールによく分散させたスラリーで添加する方法が好ましい。スラリーの添加時期はポリエステルのエステル化あるいはエステル交換反応、重縮合反応のいずれの時期でも良く適宜選択可能である。
【0025】
高伸度糸Bは、芯部ポリスチレンポリマーが繊維表面に露出していないことが重要である。これを満たしていれば、芯鞘複合形態は、芯部が偏心していても、同心円であってもかまわないが、複合安定性を考えると同心円であることが好ましい。
【0026】
また、芯部ポリスチレンポリマーの粘度は、粘度の指標であるメルトマスフローレート(以下MFRと略す。値が小さいほど高粘度であることを示す)が3.0〜10.0g/10minの範囲であることが複合安定性が良好となり好ましい。
【0027】
芯部ポリスチレンポリマーの芯鞘複合糸全体に対する複合比は7〜20重量%とすると十分な配向抑制効果が得られ、また糸切れが少なく安定に紡糸することができ好ましい。より好ましくは8〜15重量%である。
【0028】
本発明では、低伸度糸Aと高伸度糸Bの単糸繊度比{D(A)/D(B)}が2.0〜5.0であることが重要である。2.0未満であると、布帛としたときに高伸度糸Bのミクロループが少なくなり、ソフト感、ふくらみ感が不足する。一方、5.0を超えると、製糸性の低下をきたし、さらに布帛としたとき、荒れ感が出るほか、良好な深色性が得られない。より好ましくは、2.0〜3.5である。なお、本発明で言う繊度とは、延伸・熱処理後の繊度のことを言うものである。
【0029】
また、本発明では、低伸度糸Aと高伸度糸Bの糸断面形状は、三葉断面や四角断面、または多葉断面形状等の異形断面形状とするとドライタッチとすることができる。
【0030】
単糸繊度範囲については、低伸度糸Aと高伸度糸Bの単糸繊度比{D(A)/D(B)}が2.0〜5.0の範囲であれば、一般衣料として用いる場合、低伸度糸Aは2.0〜6.0dtex、高伸度糸Bは0.5〜2.0dtexとなるように定めると優れた工程安定性が得られ好ましい。また、トータル繊度は30〜110dtexであれば、布帛とした時に軽量感に優れた布帛が得られ、好ましい。
【0031】
本発明では、低伸度糸Aと高伸度糸Bの伸度差が20〜70%の範囲であることが重要である。低伸度糸Aと高伸度糸Bの伸度差が20%未満であると十分な糸長差が得られず、布帛とした時のソフト感、深色性が悪く、70%を超えると、工程通過性が悪いうえに、布帛とした時のふくらみ感、反発感が不足し、満足のいく風合いが得られない。より好ましくは30〜60%、さらに好ましくは35〜55%である。
【0032】
また、本発明では、低伸度糸Aと高伸度糸Bの沸騰水収縮率差{BWS(A)−BWS(B)}が7〜13%であることが重要である。低伸度糸Aと高伸度糸Bの沸騰水収縮率差が7%未満であると、布帛の精錬(湿熱弛緩処理)過程で発生するクリンプが小さくなり、反発感が低く、深色性も低いものとなり、13%を超えると、クリンプが大きくなり、布帛の表面にシワやスジによる凹凸や、染色斑が発生し、満足のいく風合いが得られない。より好ましくは8〜12%である。
【実施例】
【0033】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
(1)メルトマスフローレート(MFR)
JIS K7210(1999)にしたがい、200℃、5kg荷重で測定した。
(2)繊度
1回転当たり1m巻き取れる検尺器を用い、100回巻き取った糸条の重さを測定し、その値を100倍し、繊度(dtex)を求めた。
(3)破断伸度(DE)
初期試料長=20cm、引っ張り速度=20cm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求め、ポリエステル繊維の切断時の伸びを初期試料長で割り破断伸度とした。
(4)沸騰水収縮率(BWS)
BWS(%)=[(L−L)/L]×100
:延伸糸をかせ取りし初荷重0.03cN/dtex(0.03gf/d)下で測定したかせの原長
:Lを測定したかせを荷重フリーの状態にて沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.03cN/dtex(0.03gf/d)下でのかせ長
(5)製糸性評価
伸度差混繊糸を1ton紡出し、4錘建紡糸機にて6kg巻に巻き取り後、3kg巻に延伸した時の収率を以下の基準で判断した。
○○:収率95%以上
○ :収率90%以上95%未満
× :収率90%未満
(6)加工工程通過性
得られた伸度差混繊糸に撚り係数2600のS撚りを施し、経糸および緯糸に用いて、平織りとして幅112cm、長さ200m製織し、その時の糸切れ回数から以下の基準で判断した。
○○:糸切れ0回
○ :糸切れ1〜2回
× :糸切れ3回以上
(7)風合い
得られた伸度差混繊糸に撚り係数2600のS撚りを施し、経糸および緯糸に用い平織りを製織し、98℃で精錬を施した。その後180℃で中間セットを行い、常法により20%のアルカリ減量を施した布帛を、染料としてDiaiax Black BG−FS(三菱化成社製、分散染料)15%owf水分散液を使用し、浴比1:30、130℃で60分染色し、最終セットを行った。得られた布帛と、[η]=0.63、表面改質剤を含有しないホモPET単独糸を、先程用いた伸度差混繊糸と同様の方法で製糸し形成・最終セットした布帛とを、10人の評価者により同時に官能評価を行い、ホモPET単独糸を用いた布帛に対し伸度差混繊糸を用いた布帛のふくらみ感、ソフト感、反発感の優れ具合を、評価者一人当たり10点満点で採点し、10人の平均点を以下の基準で判断した。
○○:8点以上 (ホモPET糸対比、極めて優れる)
○ :5点以上、8点未満 (ホモPET糸対比、優れる)
× :5点未満 (ホモPET糸と同等)
(8)染色性
得られた伸度差混繊糸に撚り係数2600のS撚りを施し、経糸および緯糸に用い平織りを製織し、98℃で精錬を施した。その後180℃で中間セットを行い、常法により20%のアルカリ減量を施した布帛を、染料としてDiaiax Black BG−FS(三菱化成社製、分散染料)15%owf水分散液を使用し、浴比1:30、130℃で60分染色し、最終セットを行った。得られた布帛を蛍光灯下で肉眼で目視し、染め斑を感じるかを10人の評価者が判定し、染め斑を感じた人数によって、以下の基準で判断した。
○○:0〜1人
○ :2〜4人
× :5人以上
(9)L値
得られた伸度差混繊糸に撚り係数2600のS撚りを施し、経糸および緯糸に用い平織りを製織し、98℃で精錬を施した後180℃で中間セットを行い、常法により20%のアルカリ減量を施した布帛を、染料としてDiaiax Black BG−FS(三菱化成社製、分散染料)15%owf水分散液を使用し、浴比1:30、130℃で60分染色し、最終セットし、測色計(ミノルタ社製CM−3700D)によりL値を布帛一枚につき3回測定し、平均値を求め、以下の基準で判断した。
○○:L≦14
○ :14<L≦16
× :16<L
実施例1
低伸度糸Aに、第3成分として高収縮性を示すIPAを全グリコール成分に対して4mol%を共重合し、酸化チタンを0.05重量%含有した[η]=0.66である高収縮ポリエステル糸を用い、高伸度糸Bを、鞘部に平均一次粒径が0.05μmであるコロイダルシリカ微粒子を2.5重量%含有するポリエステルを配し、芯部に東洋スチレン社製の“トーヨースチロールG15L”(MFR=4.0g/10min)を、芯鞘糸全体に対して10重量%の割合で配した芯鞘糸(以下PST/PET複合糸と略す)として、両フィラメントを同一口金から紡糸混繊糸として紡糸温度295℃、紡糸速度3000m/分で一旦伸度差混繊POY(中間配向糸)を巻き取った後、一対のホットローラーを有する延伸機を用いて延伸倍率1.81倍、熱セット温度116℃で延伸した後、延伸糸を巻き取り速度500m/分でボビンに巻き取り、84dtex−48fの延伸糸を得た。得られた伸度差混繊糸は、表1に示す通り製糸操業性が良好であり、得られた布帛は表2に示す通り、極めて優れたふくらみ感、ソフト感、染色性、L値を示した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
実施例2,3、比較例1,2
延伸倍率を表1に示すように変更して低伸度糸Aと高伸度糸Bの伸度差{DE(B)−DE(A)}を変化させた以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ感、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表2に示す。
【0037】
実施例2は実施例1に比べ、ソフト感、L値がやや劣るものであったが、製糸性、加工工程通過性は非常に良好であった。実施例3は加工工程通過性、ふくらみ感がやや劣るものの、ソフト感が非常に良好なものとなった。
【0038】
一方、比較例1は製糸性、加工工程通過性は良好であったが、低伸度糸Aと高伸度糸Bの糸長差が小さくなるため、ソフト感、反発感が不十分となり、L値も16を超え、黒発色性に劣るものとなった。また、比較例2は糸長差が大きくなるため、ソフト感に優れていたが、加工工程通過性が悪く、ふくらみ感、反発感といった風合いが劣り、さらにL値が16を超え、黒発色性の悪いものとなった。
【0039】
実施例4,5、比較例3,4
第2ホットローラー4(以下、2HRと略す)の温度を表1に示すように変更して低伸度糸Aと高伸度糸Bの沸騰水収縮率差{BWS(A)−BWS(B)}を変化させた以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表2に示す。
【0040】
実施例4は加工工程通過性、ふくらみ感、反発感、染色性がやや劣るものの、製糸性に優れていた。実施例5は製糸性、加工工程通過性、ソフト感がやや劣るものであったが、ふくらみ感、反発感が非常に優れていた。
【0041】
一方、比較例3は低伸度糸Aと高伸度糸Bの沸騰水収縮差が低く、染色後の布帛のふくらみ感、反発感が不足し、風合いに劣るものとなった。また、比較例4は低伸度Aと高伸度糸Bの沸騰水収縮率が高く、ふくらみ感が非常に良好であったが、製糸性、加工工程通過性が著しく悪く、染め斑も多かった。
【0042】
実施例6,7、比較例5,6
低伸度糸Aと高伸度糸Bの単糸繊度比{D(A)/D(B)}を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表2に示す。
【0043】
実施例6はふくらみ感、ソフト感がやや劣るものとなったが,製糸性、加工工程通過性が非常に良好であった。実施例7は製糸性および加工工程通過性、反発感、染色性についてやや劣るものであったが、ふくらみ感、ソフト感は非常に優れていた。
【0044】
一方、比較例5は反発感が良好であったものの、低伸度糸Aと高伸度糸Bの単糸繊度比が低いため、ソフト感が悪く、満足のいく風合いが得られなかった。比較例6は低伸度糸Aと高伸度糸Bの繊度比が高く、ソフト感が非常に良好であったが、加工工程通過性が悪く、L値も16を超え、黒発色性に劣るものであった。
【0045】
実施例8,9
高伸度糸Bの芯部に配されるポリスチレンポリマーの芯鞘複合糸全体に対する複合比を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0046】
実施例8はふくらみ感、ソフト感がやや劣るものであったが、製糸性、加工工程通過性は非常に良好であった。実施例9は製糸性および加工工程通過性、反発感、染色性がやや劣るものの、布帛のふくらみ感、ソフト感は非常に良好であった。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
実施例10
高伸度糸Bの鞘部に含有する表面改質剤の種類を表3に示すように酸化カルシウムに変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果4を表に示す。
【0050】
実施例10は製糸性、染色性がやや劣るものの、加工工程通過性が良好であった。
【0051】
実施例11,12
低伸度糸Aと高伸度糸Bからなる伸度差混繊糸のトータル繊度を表3に示すように33T−16f、106T−58fにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0052】
実施例11は製糸性、加工工程通過性、ふくらみ感、反発感がやや劣るものであったが、ソフト感が非常に良好であった。また、実施例12はソフト感がやや劣るものの、製糸性、ふくらみ感が非常に良好であった。
【0053】
実施例13,14
高伸度糸Bの鞘部に含有するコロイダルシリカ微粒子の平均一次粒径を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0054】
実施例13は製糸性、染色性がやや劣るものであったが、加工工程通過性が非常に良好であった。実施例14は製糸性、加工工程通過性がやや劣るものであったが、染色性、特にL値が低く、黒発色性が非常に良好であった。
【0055】
実施例15,16
高伸度糸Bの鞘部に含有するコロイダルシリカ微粒子の含有量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0056】
実施例15は製糸性、加工工程通過性、染色性がやや劣るものの、ソフト感が良好であった。実施例16は製糸性、加工工程通過性がやや劣るものの、染色性が非常に良好であった。
【0057】
比較例7
低伸度糸Aのポリマーを[η]=0.63、酸化チタンを含有しないホモPETに変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0058】
比較例7は製糸性は良好であるものの、低伸度糸Aが高収縮PETでないため、沸騰水収縮率が大幅に低下し、高伸度糸Bとの沸騰水収縮率の差が縮まり、ふくらみ感、ソフト感、反発感といった風合いが大きく劣るものとなった。
【0059】
比較例8
高伸度糸Bの芯部ポリマーを[η]=0.63、酸化チタンを含有しないホモPETに変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0060】
比較例8は製糸性、加工工程通過性は良好であるものの、高伸度糸Bの芯部が配向抑制効果の低いホモPETとしたため、配向抑制が不十分となり、低伸度糸Aとの伸度差が低下することにより糸長差が小さくなり、ふくらみ感、ソフト感といった風合いが大幅に劣るものとなった。
【0061】
比較例9
高伸度糸Bの鞘部ポリマーを[η]=0.63、表面改質剤を含有しないホモPETに変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0062】
比較例9は製糸性、加工工程通過性が良好であったが、高伸度糸Bが表面改質剤を含有していないため、黒色染色後のL値が16を大幅に上回り、黒発色性が著しく悪いものとなった。
【0063】
比較例10
高伸度糸Bの鞘部ポリマーを[η]=0.63、表面改質剤を含有しないホモPETに変更し、芯部ポリスチレンポリマーの複合比を、芯鞘糸全体に対して5重量%に変更し、低伸度糸Aを48T−24f、高伸度糸Bを48T−24f、トータル繊度を96T−48fとした以外は、実施例1と同様の方法で得た、伸度差混繊糸を用いた布帛の評価を行った。実施例1と同様に製糸性、加工工程通過性、ふくらみ、ソフト感、染色性およびL値について評価した結果を表4に示す。
【0064】
比較例10は低伸度糸Aと高伸度糸Bの単糸繊度が全く同じであるため、布帛としたときのふくらみ感、ソフト感が劣るものとなった。また、高伸度糸Bに表面改質剤を含有しないため、染色性についても大幅に劣るものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】混繊紡糸、巻き取り装置を表す図である。
【図2】延伸装置を表す図である。
【符号の説明】
【0066】
1:スピンブロック
2:不織布フィルター
3:口金
4:チムニー
5a:低伸度糸側糸条
5b:高伸度糸側糸条
6:給油ガイド
7:第1ローラー
8:第2ローラー
9:巻取糸
10:供給糸
11:フィードローラー
12:第1ホットローラー
13:第2ホットローラー
14:コールドローラー
15:延伸糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低伸度糸Aと高伸度糸Bからなる伸度差混繊糸であって、下記(1)〜(5)を満足することを特徴とする伸度差混繊糸。
(1)低伸度糸Aが高収縮性を示す共重合ポリエステルよりなること。
(2)高伸度糸Bが低収縮性を示す芯鞘糸であって、鞘部に表面改質剤を含有するポリエステルが配され、芯部にポリスチレンポリマーが配された芯鞘糸であること。
(3)20%≦DE(B)−DE(A)≦70%
(4)7%≦BWS(A)−BWS(B)≦13%
(5)2.0≦D(A)/D(B)≦5.0
DE(A):低伸度糸Aの破断伸度
DE(B):高伸度糸Bの破断伸度
BWS(A):低伸度糸Aの沸騰水収縮率
BWS(B):高伸度糸Bの沸騰水収縮率
D(A):低伸度糸Aの単糸繊度
D(B):高伸度糸Bの単糸繊度
【請求項2】
高伸度糸Bが含有する表面改質剤が平均一次粒径0.02〜0.1μmの無機微粒子であることを特徴とする請求項1記載の伸度差混繊糸。
【請求項3】
高伸度糸Bが含有する表面改質剤がコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1または2記載の伸度差混繊糸。
【請求項4】
高伸度糸Bが含有する表面改質剤の含有量が鞘部ポリマーに対して0.4〜5重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の伸度差混繊糸。
【請求項5】
高伸度糸B中のポリスチレンポリマー含有量が7〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の伸度差混繊糸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−196093(P2008−196093A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35241(P2007−35241)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】