説明

伸長α鎖を有するフィブリノーゲンが濃縮されたフィブリノーゲン調製物

本発明は、α伸長フィブリノーゲンが濃縮されたフィブリノーゲン調製物に関する。このような調製物を含む組成物は、典型的にはα伸長フィブリノーゲンを全く含まないか、またはごく少量含むHMW Fibに基づく調製物と比較して改善された凝固特性を示す。具体的には、α伸長フィブリノーゲンによって作成されるクロットのクロット形成時間、およびクロット強度は改善される。さらに、α伸長フィブリノーゲンのプラスミン媒介性の変性は、血漿由来のフィブリノーゲンに比較して低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリノーゲン調製物および医学的適用におけるフィブリノーゲン調製物の使用に関する。具体的には、本発明は、伸長α鎖を有するフィブリノーゲンが濃縮されたフィブリノーゲン調製物に、この調製物を作製するための方法に、およびその適用に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノーゲンは、主に肝実質細胞によって人体で合成される可溶性の血漿糖タンパク質である。フィブリノーゲンは、二量体分子であって、ジスルフィド架橋によって接続される、Aα、Bβおよびγと命名された3つのポリペプチド鎖のうち2つの対から構成される。この3つのポリペプチド鎖は、3つの別々の遺伝子によってコードされる。優勢な形態(HMW fib)は、Aα鎖を保有し、Aα鎖は、625個のアミノ酸前駆体として合成され、かつ610個のアミノ酸のポリペプチド鎖として、血漿中に見出されるフィブリノーゲン中に存在し、Bβ鎖は、461アミノ酸を含み、γ鎖は411アミノ酸を含む。この3つのポリペプチドは、3つのmRNAから個々に合成される。3成分の鎖(Aα、Bβおよびγ)の6鎖の二量体(Aα、Bβ、γ)としてのその最終形態へ組み立て(アセンブリ)は、小胞体(ER)の内腔で生じる。
【0003】
フィブリノーゲンは、血中で高濃度(1〜2g/L)で循環し、かつ示す異質性の程度が高い。各々の個体において、約100万の異なるフィブリノーゲン分子が循環すると推定される。フィブリノーゲン全体のうちほんのわずかな割合しか占めない(ほとんどの場合、せいぜい2〜3パーセント)、これらの改変体のほとんどが、機能および構造において異なる。
【0004】
Aα鎖のカルボキシ末端部分のタンパク質分解は、3つの主要な循環型の明確に異なる分子量を有するフィブリノーゲンを生じる。フィブリノーゲンは、高分子量型(HMW;分子量340kDa;循環中のAα鎖の優勢な型は610アミノ酸を含む)で合成される。Aα鎖のうちの1つの分解は、LMW型(MW=305kDa)を生じ、LMW型(270kDa)は、両方のAα鎖がカルボキシ末端で部分的に分解されている改変体である。健常個体の血中では、フィブリノーゲンの50〜70%は、HMWであって、20〜50%は、1または2個のAα鎖が分解されたフィブリノーゲンである(de MaatおよびVerschuur(2005)Curr.Opin.Hematol.12,377)。このHMWおよびLMWの改変体は、凝固時間およびフィブリノーゲンのポリマー構造において別個の相違を示す(Hasegawa N,Sasaki S.(1990)Thromb.Res.57,183)。
【0005】
選択的スプライシングの結果である周知の改変体は、いわゆるガンマプライム(γ’)改変体およびα−ext FibまたはFib420改変体である。
【0006】
α−ext FibまたはFib420改変体(420kDaの分子量を有する)は、総循環フィブリノーゲンの1〜3%を占める(de MaatおよびVerschuur(2005)Curr.Opin.Hematol.12,377)。伸長α−ext Fibイソ型は、選択的スプライシングに起因して追加の236残基のC末端球状ドメインの存在によってフィブリノーゲンの従来のα鎖とは識別される。Fib420の機能および特徴に対して矛盾するデータが文献に示される。血漿由来のα−ext Fibでの研究に基づいて、Applegateら、Blood(2000)95:2297は、α−ext Fibの重合化および架橋特性が、血漿由来のHMW Fibと大きく異なることはないと結論付けた。彼らは、追加のCドメインが血液凝固に対して影響がないと結論付けており、かつ彼らは、このドメインの機能が、インテグリン媒介性の細胞接着を支持することであり得ると示唆している。欧州特許1495051号では、Fib420は、分解に対して感受性が劣る場合があり、クロット構造に対して影響を有し得ることが示唆される。しかし、実証化はされておらず、この効果がクロットの構造または強度における増強または悪化であり得るか否かに関する示唆はない。Mosessonら(Biophys.Chem.112,209:2044)は、臍帯血漿由来のα−ext Fibに基づくクロットの超微細構造を研究した。彼らは、α−ext Fibクロットの線維がHMWフィブリノーゲンに基づくクロットの線維よりも薄くかつ分岐していること、ただしそれらは、全てのフィブリン線維を特徴付ける同じ周期性を有することを報告した。著者らは、α−ext Fibにおける伸長されたα鎖についての機能がおそらく、細胞のインテグリンとの相互作用のための部位を提供することであるということを示唆する。
【0007】
詳細な説明
本発明は、少なくとも95%(w/w)のフィブリノーゲンを含むフィブリノーゲン調製物であって、ここでこのフィブリノーゲンのうち少なくとも10%がFib420の形態であるフィブリノーゲン調製物に関する。
【0008】
この分野では、Fib420はまた、「α−ext fib」、「伸長α鎖を有するフィブリノーゲン」、または「フィブリノーゲン420」とも呼ばれる。本発明の状況では、これらの用語は交換可能に用いられる。これらの用語全てが、対称的な分子構造(Aαext、Bβ、γ)を指し、ここではHMW fibで見出されるような両方の従来のフィブリノーゲンα鎖は、伸長α鎖によって置き換えられている。
【0009】
本発明の状況では、「フィブリノーゲン調製物」という用語は、単離型のフィブリノーゲン、例えば、フィブリノーゲンの血漿単離物または細胞上清単離物を指す。これは、またフィブリノーゲンの合成調製物とも呼ばれる。本発明によるフィブリノーゲン調製物は好ましくは、総タンパク質あたり、少なくとも65%(w/w)、少なくとも70%(w/w)、少なくとも75%(w/w)、少なくとも80%(w/w)または少なくとも85%(w/w)のフィブリノーゲンを含む。さらに好ましくは、これは、他のタンパク質などの混入物を実質的に含まない純粋な調製物であり、総タンパク質あたり、少なくとも90%(w/w)、少なくとも95%(w/w)、少なくとも96%(w/w)、少なくとも97%(w/w)または少なくとも98%(w/w)のフィブリノーゲンであって、これを含む。最も好ましくは、本発明によるフィブリノーゲン調製物は、総タンパク質あたり、少なくとも99%(w/w)、または少なくとも99.5%(w/w)のフィブリノーゲンを含む。このような純粋なフィブリノーゲン調製物は特に、創傷治療および外科的修復のための組成物などの医学的適用において用いられる組成物を製剤するために適切である。
【0010】
本発明によれば、調製物中のフィブリノーゲンのうち少なくとも10%(w/w)が、Fib420の形態である。好ましくは、フィブリノーゲンのうち少なくとも15%(w/w)、少なくとも20%(w/w)、少なくとも25%(w/w)または少なくとも30%(w/w)が、Fib420の形態である。さらに好ましくは、少なくとも40%(w/w)、少なくとも50%(w/w)、少なくとも60%(w/w)、少なくとも70%(w/w)、少なくとも80%(w/w)または少なくとも90%(w/w)が、Fib420の形態である。最も好ましくは、フィブリノーゲンのうち少なくとも95%(w/w)、少なくとも99%(w/w)または全てが、Fib420の形態である。
【0011】
本発明による、フィブリノーゲン調製物の1つの利点は、フィブリノーゲン調製物の血漿媒介性の消化が、血漿由来のフィブリノーゲンよりも遅いということである。プラスミン消化に対してその抵抗性が増強されれば、後天性の凝血障害の場合に高頻度に見られる過剰線維素溶解に罹患する患者の処置のために有益である可能性が高い。
【0012】
本発明による、フィブリノーゲン調製物を用いれば、クロットがより速く形成され、形成されるクロットは、血漿由来のフィブリノーゲンまたはHMWフィブリノーゲンで形成されるクロットよりもクロットの硬度が高い。このことは、フィブリンクロットの安定性が、本発明によるフィブリノーゲン調製物を用いる場合に増強されること、および本発明によるフィブリノーゲン調製物が、当該分野の調製物の状態よりも強力であることを意味する。さらに強力なフィブリノーゲン調製物によって、投与されるべき液体の量および治療タンパク質の量の両方とも減少することが可能になる。これは、希釈性凝固障害を処置するための静脈内の使用のために有利である。現在、低い血液凝固活性を補償するためのフィブリノーゲンの静脈内(i.v.)注射のためには、高用量のフィブリノーゲンが必要とされる(1処置あたり約5グラムのフィブリノーゲン)。これは、70mg/kgという用量で直接注射によって投与される。フィブリノーゲンは一般には、20mg/mlという最大濃度で溶解され得るので、このことは、約250mlの液体を、成人に静脈内投与しなければならないことを意味する。さらに強力なフィブリノーゲンを提供することによってこの用量を低下することが有益であろう。
【0013】
さらに別の利点は、本発明のフィブリノーゲン調製物を用いるクロット形成が、血漿由来のフィブリノーゲンまたはHMWフィブリノーゲンの調製物よりも第XIII因子依存性が少ないということである。α伸長Fibによって緩衝液中で(すなわち第XIII因子の非存在下で)作製されるクロットの強度は、ある程度の第XIII因子を含む血漿由来のフィブリノーゲンについてよりも高い。固いクロットを形成するのに第XIII因子は必要ない。従って、一実施形態では、本発明によるフィブリノーゲン調製物は、第XIII因子を含まない。
【0014】
α−ext rhFibおよび血漿由来フィブリノーゲンの凝固時間(CT)、クロット形成時間(CFT)およびクロットの硬度は、ROTEM分析を用いて測定され得る。ROTEM(登録商標)(Pentapharm GmbH,Munich,Germany)とは、ROtation ThromboElastoMetryを表す。この技術は、使い捨てキュベット中の(血液)サンプル中に浸漬された回転軸を利用する。異なる凝固条件下の弾力性の変化は、軸の回転の変化を生じ、この変化が、機械的なクロットのパラメーターを反映しているトロンボエラストグラムで可視化される(例えば、Luddington R.J.(2005)Clin Lab Haematol.2005 27(2):81を参照のこと)。
【0015】
同様の条件下のROTEM(登録商標)システムでは、本発明によるフィブリノーゲン調製物は典型的には、フィブリノーゲン調製物または組成物と少なくとも同じかまたはそれよりも優れて機能し、ここではフィブリノーゲン改変体の分布は、ヒト血漿における改変体分布と似ており、すなわち、フィブリノーゲンの5%(w/w)未満がFib420型のフィブリノーゲンである。これは例えば、血漿由来のフィブリノーゲンに基づく、フィブリノーゲン濃縮物についての場合である。このような濃縮物は市販されている。具体的には、そのクロット形成時間は、フィブリノーゲンの5%(w/w)未満がFib420型のフィブリノーゲンであるフィブリノーゲン調製物のクロット形成時間よりも短い。好ましくは、本発明によるフィブリノーゲン調製物のクロット形成時間は、血漿由来のフィブリノーゲン調製物のように、フィブリノーゲンのうち5%(w/w)未満がFib420型であるフィブリノーゲン調製物のクロット形成時間の最大で80%、最大で60%、最大で50%、最大で40%、最大で30%、最大で20%、最大で10%である。この実施例に示されるα−ext rhFibでのROTEM実験によって、本発明によるフィブリノーゲン調製物は、静脈内への適用のために製造された精製血漿由来フィブリノーゲンのCFTよりも短いクロット形成時間(CFT)を有することが示される。
【0016】
別の局面では、本発明は、本発明によるフィブリノーゲン調製物を含む組成物に関する。フィブリノーゲンに加えて、この組成物は、活性化因子、例えば、トロビンまたはトロンビン様タンパク質、例えば、レプチラーゼを含んでもよい。この組成物はまた、注射用調製物での使用に適切である賦形剤も含んでもよい。この調製物は、乾燥型であって、その後に例えば、緩衝生理食塩水などで再構成されてもよいし、または懸濁液もしくは溶液のいずれかとして液体型であってもよい。適切な賦形剤の物質としては、溶媒および共溶媒、例えば、エタノール、グリセリン、PEG類、油類など;可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤、乳化剤または増粘剤類、例えば、カルボキシメチルセルロース、加水分解ゼラチン、プルロニック類、ポリソルベート類など;キレート剤、例えば、EDTAカルシウム、DTPAなど;抗酸化剤類および還元剤類、例えば、BHT、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウムなど;抗菌性保存剤類、例えば、ベンジルアルコール、フェノール、パラベン類など;緩衝液類およびpH調節剤類、例えば、トロメタミン、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなど;増量剤類、保護剤類および等張化剤類、例えば、アラニン、アルブミン、デキストラン、ラクトース、ソルビトール、塩化ナトリウム、ヒスチジンなど;専門的な添加物、例えば、消泡剤としてのシメチコン、タンパク質凝集の軽減のためのトレハロースを挙げることができる。
【0017】
この組成物は、血漿由来または組み換えのフィブリノーゲンが用いられる任意の適用で用いられ得る。この主要な適用は、止血および組織のシーリングである。本発明の一実施形態では、この組成物は、薬学的組成物である。この薬学的組成物は、本発明によるフィブリノーゲン調製物および薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される担体」とは、本発明のフィブリノーゲン調製物とともに投与される、ビヒクル、補助剤、アジュバント、希釈剤、賦形剤または担体を指す。薬学的に許容される担体の例としては、限定するものではないが、水、緩衝生理食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、油類、界面活性剤類、懸濁剤類またはそれらの適切な混合物類が挙げられる。適切な薬学的に許容される担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第19版(Mack Publishing Co.,Easton,1995)および「Remington:The Sciences and Practice Of Pharmacy」,Alfonso R.Gennaro(Lippincott Williams & Wilkins,2005)に記載される。
【0018】
薬学的組成物は局所的に適用されてもよいし、水溶性、吸水性、水不溶性または水膨潤性である担体を含んでもよい。適切な材料としては、糖類、例えば、単糖類および二糖類、例としては、ラクトース、マンニトールおよびトレハロース、またはデキストランおよびデキストランポリマー類、例としては、例えば、Sephadex(種々の粒径で利用可能である)、デンプン類、プルラン誘導体類、ヒアルロン酸エステル類などが挙げられる。セルロース製品、例えば、微結晶性セルロース(Avicelの領域)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、超微粒セルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース、および他の物質、例えば、架橋ポリビニルピロリドン(PVP)を単独で、または混合して用いてもよい。また、適切な担体としては、ポリエチレングリコール(PEG)(好ましくは、約1000という分子量を有する);ポリビニルピロリドン(PVP)(好ましくは、約50,000という平均分子量を有する);ポリ(アクリル酸)、PVA、ポリ(メチルビニルエーテルco−マレイン酸無水物)、ポリ(エチレンオキシド)、およびデキストラン(典型的には約40,000という平均分子量を有する)が挙げられる。
【0019】
錠剤分解物質が含まれてもよい。これらの物質は、傷口から水分を吸収し、急速に膨らんで、それによって粉末混合物の止血成分の水和性を増強する。適切な例としては、35〜55μmの範囲の平均粒径を有するデンプングリコール酸ナトリウム(Explotab(登録商標)またはPrimojel(登録商標))が挙げられる。約25%のグルコース単位が、カルボキシメチル化され;架橋ポリビニルピロリドン(Polyplasdone(登録商標));アルギン酸塩およびアルギン酸;架橋カルボキシルメチル・セルロース・ナトリウム(Ac−Di−Sol)である。用いられ得るゴムおよびゲル化剤としては、例えば、トラガカント、カラヤゴム、可溶性デンプン、ゼラチン、ペクチン、グアーガム、およびジェランガムが挙げられる。
【0020】
特に好ましい添加物は、Emedex(登録商標)、すなわち、デクストレート(dextrate)(少量のデンプンオリゴ糖類を含む噴霧結晶化デキストロース)の水和型である。これは、190〜220μmの中央粒径を有する、白色、自由流動性、噴霧結晶化多孔性球体から構成される極めて微細な製品である。
【0021】
最も好ましい添加物は、NON−PAREIL SEEDS(登録商標):(Sugar Spheres)である。これらは、含量均一性の改善、一貫してかつ制御された薬物放出および高い薬物安定性、200〜2000nmのサイズ範囲のために複数の薬物単位で用いられる。
【0022】
薬学的に許容される担体は、発泡性の対を含んでもよい。発泡性の反応の後に生じるガスは、フィブリンシーラントを「泡状物」に膨らませるか、および/またはフィブリンシーラントを含む粉末の水和性を増大し得る。粉末が創傷に適用されれば、発泡性の成分は、溶解し、反応して、例えば、二酸化炭素を放出し、それによって止血成分の水和性を増大し、従って、クロット形成までの時間を増大し得る。このフィブリンシーラントは、一旦完全に反応されてクロットが形成されれば、安定な泡状物として出現する。
【0023】
発泡性の対は典型的には、クエン酸またはクエン酸水素ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むが、ただし、他の生理学的に許容される酸/アルカリまたはアルカリ土類金属炭酸塩混合物、例えば、酒石酸、アジピン酸、フマル酸またはマレイン酸、およびナトリウム、カリウムまたはカルシウム(重)炭酸塩またはグリシン炭酸ナトリウムを用いてもよい。
【0024】
一般には、化学的な分子当量に基づく発泡性の対の成分の相対的な割合が、酸性成分対塩基性成分の分子当量の比として表して、4:3〜1:3、より好ましくは約2:3の範囲である場合に、好ましい風味の特徴が示されることが見出された。クエン酸および重炭酸ナトリウムの好ましい組み合わせに関して、これらの値は、重量あたりで、酸性成分対塩基性成分の比として表して、1:1〜0.3:1、好ましくは0.5:1の範囲である。
【0025】
本発明による薬学的組成物は、組織接着を容易にするか、創傷治癒を改善するか、または静脈内投与のために適切である。
【0026】
一実施形態では、本発明による薬学的組成物は、フィブリンシーラントである。本発明によるフィブリンシーラントは典型的には、トロンビンを含む。このシーラントは、任意の従来の形態であってもよく、乾燥されても液体であってもよい。本発明によるフィブリノーゲン調製物が用いられ得る乾燥シーラントの適切な例は、Fibrocaps(登録商標)粉末シーラントであり、これはWO97/44015に記載されており、フィブリノーゲンおよびトロンビンのマイクロ粒子に基づく。別々の成分が、噴霧乾燥、フィブリノーゲンとトレハロースおよびトロンビンとトレハロースによって調製される。各々の粉末成分は、直径で最大でほぼ50μmの優勢な粒径を有する。これらの成分の混合物であるFibrocaps(登録商標)フィブリンシーラントは、使いやすく、安定かつ有効な局所止血であることが示された。この製品は、再構成することなく直ちに用いられ、創傷治療において、外科的修復において、および血管外ステントとして有用である。血液などの水性の液体との接触の際、露出された活性トロンビンは、露出されたフィブリノーゲンを不溶性のフィブリンポリマーに変換する。本発明によるフィブリノーゲン調製物は、さらに改善された血液凝固特性を示す。
【0027】
本発明の組成物は、創傷、縫合、切開および出血が生じ得る他の開口に適用され得る。創傷としては、生きている生物体における任意の組織に対する障害が挙げられる。組織は、内部組織(例えば、臓器)または外部組織(例えば、眼または皮膚)であってもよく、硬組織(例えば、骨)であっても、または軟組織(例えば、肝臓または脾臓)であってもよい。創傷は、感染、外科的介入、火傷または外傷を含む任意の因子によって生じた場合もある。本発明の組成物は、胃腸系、例えば、食道、胃、小腸、大腸、直腸において、実質器官、例えば、肝臓、膵臓、脾臓、肺、腎臓、副腎、リンパ腺および甲状腺に対するなどのような外科的介入;耳、鼻および咽頭領域(ENT)における外科的介入、例としては、歯科手術、心血管系手術、美顔成形手術、神経学的手術、リンパ、胆管および脳脊髄(CSF)瘻孔、胸腔および肺の手術の間の空気漏れ、胸部手術、例としては、気管、気管支および肺の手術、婦人科、血管、泌尿器、骨(例えば、海綿骨切除)および緊急の手術のために用いられ得る。
【0028】
血管外ステントまたは支持体として、本発明の組成物は、静脈移植血管のセグメントまたは全体の外側に適用され得る。適切な血管外ステント組成物は、本発明によるフィブリノーゲン調製物およびトロンビンの組成物である。この組成物は、任意の適切な形態であっても、液体であってもまたは乾燥型であってもよい。一実施形態では、乾燥粉末組成物、例えば、上記のような組成物が、血管外ステントとして用いられる。乾燥粉末組成物は、血管壁の外側に通常存在する限られた量の体液中で重合化し、これによって血管外ステントを形成する。
【0029】
本発明による血管外ステント組成物でコーティングされた血管(静脈)もまた本発明の一部である。この血管(静脈)は、過伸展から保護される必要があるか、または支持を必要とする任意の種類の血管、例えば、静脈瘤であり得る。好ましい実施形態では、この血管(静脈)は、静脈グラフトである。一実施形態では、この組成物は、静脈グラフトがヒトまたは動物の体に導入される前に適用される。別の実施形態では、この組成物は、静脈グラフトがヒトまたは動物の体に導入された後に適用される。
【0030】
さらに別の局面では、本発明は、医薬としての本発明によるフィブリノーゲン調製物の使用に関する。これは、急性出血の症状、過剰線維素溶解症、フィブリノーゲン欠損症(後天性であっても先天性であってもよい)、または他の出血障害の処置のための医薬の調製のために用いられ得る。
【0031】
一実施形態では、本発明による組成物は、出血部位での出血を軽減するための方法で用いられる。好ましくは、本発明による組成物の止血に有効な量が用いられる。局所止血剤として用いられる場合、約10分以下、約5分以下、または約3分以下という止血時間(time to hemostasis)(TTH)が達成され得る。本発明の状況では、TTHは、出血が停止するのにかかる時間である。圧迫シートを用いる場合、TTHの測定は典型的には、圧迫シートを出血部位に適用した時点で開始し、包帯を観て出血が停止するまで、および/または包帯を通じてもしくは包帯の周囲に出血が観察されなくなるまで行う。
【0032】
さらに別の局面では、本発明は、本発明によるフィブリノーゲン調製物を調製するための方法に関する。このような調製物は、当該分野で利用可能な技術を用いて任意の適切な方式で調製され得る。経済的に実現可能な方法でα−ext Fibを生成するために、高発現レベルのインタクトな機能的なフィブリノーゲンが必要であり、従って組み換え生成が好ましい。本発明の状況では、フィブリノーゲンまたはフィブリノーゲン鎖は、アミノ酸配列が、必要に応じて、正常な細胞(分泌)プロセシングの間に除去されるアミノ酸なしに、ヌクレオチド配列によってコードされた全てのアミノ酸を含む場合に、「インタクトな形態」である。従って、866または847個のアミノ酸を有するα−ext鎖は、インタクトな形態のアミノ酸の例である。
【0033】
フィブリノーゲンの組み換え生成は、血漿由来の物質の使用を上回る多くの利点を有する。これらとしては、その好ましい安全性プロフィール、任意の他の血液由来混入物のない改変体の純粋な均一な調製物を作製する能力、および制限のない供給が挙げられる。さらに、特定の適用(例えば、静脈内止血剤としてのフィブリノーゲンの使用)に関しては、適切な翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)が必要である。従って、真核生物における、特定の哺乳動物系における、さらに詳細にはヒトの系における発現が好ましい。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明によるフィブリノーゲン調製物は、以下の工程:
−核酸配列であってフィブリノーゲンのα伸長ポリペプチド鎖をコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供する工程と;
−この発現ベクターを用いて真核生物細胞を形質転換する工程と;
−フィブリノーゲンのα伸長ポリペプチド鎖をコードする核酸配列の発現を可能にするような条件下でこの形質転換された真核生物細胞を維持する工程と;
を包含する方法によって調製される。
【0035】
真核生物宿主の発現ベクターは、当該分野で公知であり、真核生物細胞での発現に従来用いられる任意のベクターが用いられてもよい。発現ベクターは典型的には、発現されるべき核酸配列に対して作動可能に連結されたプロモーター、およびリボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル、転写終止配列、上流調節性ドメインおよびエンハンサーを含む。一実施形態では、哺乳動物細胞における発現のため、例えば、CHOまたはPER.C6(登録商標)細胞のための発現ベクターが用いられる。このようなベクターは、当該分野で公知であり、適切な例としては、pcDNA3.1プラスミド、GATEWAY(Invitrogen)、pCMV/Bsd(Invitrogen)、pFNベクター(Promega)および多数の他のベクター系が挙げられる。
【0036】
本発明の状況では、「フィブリノーゲンのα伸長ポリペプチド鎖」とは、シグナル配列を有する866アミノ酸のフィブリノーゲンα鎖、またはシグナル配列なしのフィブリノーゲンα鎖、ならびに遺伝的多型性またはグリコシル化およびリン酸化における相違を通じて生じたそれらの任意の改変体を指す場合がある。α伸長鎖アミノ酸配列の適切な例は、配列番号1に示される。「α鎖」および「Aα鎖」という用語は、本発明の状況では交換可能に用いられる。
【0037】
当業者は、真核生物細胞がまた、フィブリノーゲン分子を生成できるためには、フィブリノーゲンのβ鎖およびγ鎖をコードする核酸配列を含まなければならないということを理解する。α、βおよびγ鎖由来のフィブリノーゲンの組み換え生成は、以前に記載されており、例えば、PCT/EP2009/058754、米国特許第6,037,457号またはWO95/023868号を参照のこと。
【0038】
本発明の状況では、「β鎖」および「Bβ鎖」という用語は、交換可能に用いられる。それらの鎖は、シグナル配列の有無がある、β鎖の野生型および改変体の両方を指す場合がある。フィブリノーゲンβ鎖のアミノ酸配列の適切な例は、配列番号2に示される。
【0039】
本発明の状況では、「ガンマ鎖」および「γ鎖」という用語は交換可能に用いられる。それらは、シグナル配列の有無の、γ鎖の野生型および改変体の両方を指す場合がある。フィブリノーゲンγ鎖アミノ酸配列の適切な例は、配列番号3および配列番号4に示される。
【0040】
好ましくは、フィブリノーゲン鎖をコードする核酸配列は最適化される。最適化された核酸配列は、組み換えフィブリノーゲンの効果的な発現をインタクトな形態で可能にする。好ましくは、それらの配列は、真核生物細胞培養系での発現のために、例えば、COS細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、CHO細胞、PER.C6細胞、HEK293細胞または昆虫細胞培養系における発現のために最適化される。さらに好ましくは、それらは、哺乳動物細胞培養系における発現のために最適化される。最も好ましくは、この核酸配列は、ヒト細胞培養系における発現のために、例えば、PER.C6細胞またはHEK293細胞培養系のために最適化される。最適化されるヌクレオチド配列は、DNAであってもまたはRNAであってもよい。好ましくは、これはcDNAである。
【0041】
フィブリノーゲンα伸長のβ鎖またはγ鎖をコードする最適化ヌクレオチド配列は、そのそれぞれの非最適化対応物に対して少なくとも70%の同一性を示す。一実施形態では、フィブリノーゲンα−ext Fib、Bβおよびγ鎖をコードする最適化ヌクレオチド配列は、そのそれぞれの非最適化配列に対して70〜80%の同一性を示す。好ましくは、フィブリノーゲンα伸長のβ鎖またはγ鎖をコードするこの最適化ヌクレオチド配列は、cis作用性部位、例えば、スプライス部位およびポリ(A)シグナルを含まない。
【0042】
本発明による方法で用いられ、フィブリノーゲンα伸長鎖をコードする、最適化ヌクレオチド配列は、ヒトフィブリノーゲンのα鎖をコードする遺伝子中に正常には存在する39塩基対の直接反復配列を含まない。反復性配列は、コードされたタンパク質配列を変化することなく変化されなければならない。
【0043】
好ましい実施形態では、配列番号5による最適化されたヌクレオチド配列、またはシグナルなしのこの配列の一部(ヌクレオチド60〜2598)が、α伸長鎖を発現するために用いられる。
【0044】
別の好ましい実施形態では、配列番号6による最適化されたヌクレオチド配列、またはシグナルなしのこの配列の一部(ヌクレオチド93〜1473)が、β鎖を発現するために用いられる。
【0045】
別の好ましい実施形態では、配列番号7または8による最適化されたヌクレオチド配列、またはシグナル配列なしのこれらの配列の一部(配列番号7のヌクレオチド51〜1311および配列番号8のヌクレオチド51〜1359)が、γ鎖を発現するために用いられる。
【0046】
本発明による核酸配列は、任意の種類のフィブリノーゲン鎖をコードし得る。好ましくはそれらの配列は、哺乳動物フィブリノーゲン鎖をコードしており、さらに好ましくは、それらは、霊長類のフィブリノーゲン鎖をコードしており、最も好ましくは、それらは、ヒトフィブリノーゲン鎖をコードしている。また組み合わせ、例えば、2つまたは1つのげっ歯類のフィブリノーゲン鎖と組み合された1つまたは2つの哺乳動物フィブリノーゲン鎖なども可能である。本発明の方法による組み換え発現によって、組み換えHMW Fibの発現レベルと同様であるFib420の発現レベルが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ウエスタンブロット分析。レーン1は、血漿由来の野生型フィブリノーゲン(FIB3,Enzyme Research Laboratories)を含むコントロールである。レーン2は、α−ext rhFibを発現するPER.C6クローンであるクローンW115の培養上清を含む。分子量マーカー(MW)は左側に示される。
【図2】ROTEM分析。凝固時間、クロット形成時間およびクロット硬度は、ROTEM分析によって決定した。左側のパネルは、緩衝液中のフィブリノーゲン調製物を示し、右のパネルは、フィブリノーゲン調製物と1:1混合された血漿を示す。2A:緩衝液中の血漿由来のフィブリノーゲン(Haemacomplettan,CSL Behring,Marburg,Germany);2B:緩衝液中のPER.C6由来の組み換えHMWフィブリノーゲン(α−625);2C:緩衝液中のPER.C6由来のrhFib−extフィブリノーゲン(α−847);2D:血漿と混合された血漿由来のフィブリノーゲン(Haemacomplettan,CSL Behring,Marburg,Germany);2E:血漿と混合されたPER.C6由来の組み換えHMWフィブリノーゲン(α−625);2F:血漿と混合されたPER.C6由来のrhFib−extフィブリノーゲン(α−847);
【図3】この図は、プラスミン分解の血漿由来の物質由来の物質(ERL FIB3;上部パネル、およびα−ext Fib(下部パネル)をロードされたクーマシー染色されたタンパク質ゲルを示す。この条件は、ゲルの上に示しており;インキュベーションの時間(0、1、5、30、60および120分およびo/n(一晩))も同様に示される。ゲルの右側には、MWマーカーを示す。
【0048】
実施例
実施例1
最適化cDNA構築物の調製
α−ext Fib(Fib420)、Bβおよびγのヒトフィブリノーゲンポリペプチド鎖をコードするcDNAを、GeneArt(Regensburg,Germany)によるコドン最適化形式で合成した:(i)cis−作用性部位(スプライス部位、ポリ(A)シグナル)を取り除いた;(ii)Aα鎖の反復配列を改変した;(iii)GC含量をmRNA半減期の伸長のために増大した;(iv)コドン用法は、CHO(コドン適応指数(codon adaption index)−CAI−>0.95)に適合した。
α−ext Fib(配列番号5)、Bβ(配列番号6)およびγ(配列番号6)鎖のコドン最適化cDNAを、pcDNA3.1誘導体中にサブクローニングした。pcDNA3.1(+)neo中のAα伸長(Fib420)、pcDNA3.1(+)hygro中のBβ鎖およびpcDNA3.1(−)hygro中のγ鎖(Invitrogen,Carsbad,USA)。
【0049】
実施例2
組み換えヒトα−extFibを発現するPER.C6細胞株
組み換えヒトフィブリノーゲンを産生するPER.C6細胞株の生成は、PCT/EP2009/058754において以前に記載されるのと同様である。要約すれば、細胞をMAb培地中において懸濁物中で培養して、AMAXAヌクレオフェクションデバイス(promegaA−27)を用い、そしてヒトフィブリノーゲンタンパク質の3つの異なる鎖(Aα−ext、Bβおよびγ鎖)をコードしており、かつ最適化cDNA鎖(それぞれ、配列番号5、配列番号6および配列番号7)を含んでいる3つのベクターを備える、NucleofectorキットTを用いて、トランスフェクトした。
【0050】
96ウェルプレート中でのトランスフェクションおよびプレートの後、325個のクローンを48ウェルプレート中にトランスファーして、スクリーニングした。増殖経路の終わりに、24個のクローンを振盪フラスコに移して、そのうちの8つを、連続バッチ培養試験において、安定性および発現分析のために選択した。
【0051】
バッチ培養における収率は、610または625のアミノ酸のフォーマットにおいてAα鎖を発現する細胞株で得られた収率と同様であって、このことは、Aα鎖の伸長が発現レベルを損なわないことを示す。これは、事前には予想されなかった。なぜなら血漿由来のフィブリノーゲンは、610/625Aα鎖含有のフィブリノーゲンに比較して伸長Aα鎖を1〜3%しか含まないからである。SDS−PAGEおよびウエスタンブロット分析を用いるタンパク質分析によって、組み換えフィブリノーゲンが、予想の大きさのα鎖を有するインタクトな形式で生成されることが示される(図1)。
【0052】
実施例3
PER.C6細胞培養培地からのα伸長フィブリノーゲンの精製
組み換えヒトα伸長フィブリノーゲンは、標準的方法によって細胞培養上清から精製した。要するに、(NHSOを培養上清に対して40%飽和まで添加して、沈殿物を遠心分離によって収集した。引き続き、沈殿物を、TMAEローディング緩衝液(5mM Tris−HCl pH8.5、0.01% Tween−20)中に溶解し、続いて同じ緩衝液に対して透析した。次いで、このタンパク質溶液を、Fractogel EMD TMAE(m)40〜90μm(3ml)(Merck KGaA,Darmstadt,Germany)Ion Exchange Column上にロードした。組み換えヒトα伸長フィブリノーゲンをその後に、20カラム容積中で0〜1MのNaClの連続塩勾配を用いて溶出した。ピーク画分中の組み換えヒトフィブリノーゲンを、40%飽和まで(NHSOを添加することによって再度沈殿し、遠心分離によって収集した。最後に、その物質をTBS(50mM Tris−HCl、pH7.4、100mM NaCl)に溶解し、TBSに対して透析して、残留する(NHSOを除いた。
【0053】
実施例4
ROTEM分析
α−ext rhFibおよび血漿由来フィブリノーゲンの凝固時間(CT)、クロット形成時間(CFT)およびクロット硬度を、ROTEM分析を用いて測定した。ROTEM(登録商標)(Pentapharm GmbH,Munich,Germany)とは、ROtation ThromboElastoMetryを表す。この技術は、使い捨てキュベット中の(血液)サンプル中に浸漬された回転軸を利用する。異なる凝固条件下の弾力性の変化は、軸の回転の変化を生じ、この変化が、機械的なクロットのパラメーターを反映しているトロンボエラストグラムで可視化される(例えば、Luddington R.J.(2005)Clin Lab Haematol.2005 27(2):81を参照のこと)。
【0054】
プールした正常な(クエン酸塩)血漿を、血漿由来のフィブリノーゲン(Haemocomplettan,CSL Behring GmbH,Marburg,Germany)またはPER.C6フィブリノーゲン(HMW rhFibまたはα−ext rhFib)と、全て2mg/mlでTBST(TBS+0.001%Tween−20)中で、1:1混合した。またフィブリノーゲン調製物(TBST中で2mg/ml)を直接用いた。CaClを、17mM(血漿中の測定値)または1.7mM(緩衝液中の測定値)という最終濃度まで添加した。凝固を開始するため、αトロンビンを1IU/mlという最終濃度まで添加した。凝固を開始するために、αトロンビンを1IU/mlという最終濃度まで添加した。緩衝液中のまたは血漿と1:1混合したフィブリノーゲン調製物についてのROTEM(登録商標)分析グラフを図2に示す。A10、A20、CFTおよびMCFの値(mm)を表1に示す。A10およびA20は、α−トロンビン添加後10分および20分のクロットの硬度に相当する。CFTは、凝固の開始から20mmというクロット硬度が検出されるまでの時間に相当する。MCFは、最大クロット硬度に相当する。
【0055】
この結果、緩衝液中のα−ext rhFibの凝固は、HMW rhFibで観察される(A10=4mm)よりも強力なクロット(A10=12mm)を生じることが示される。血漿由来のフィブリノーゲンは、15mmというA10を有し;緩衝液中のこのさらに強力なクロット形成は、フィブリン単量体を(部分的に)架橋する、同時精製された血液由来の第XIII因子の活性によって説明され得る。精製された組み換えフィブリノーゲンでは、第XIII因子が存在し、従って架橋は生じ得ない。これは、希釈された血漿(第XIII因子を含む)中で実験を行うことによって補償され得る。この場合、より強力なクロットが形成される。興味深いことに、この状況では、α−ext rhFibはより強力なクロットを形成し、HMW rhFibまたは血漿由来のFibよりも速くクロットを形成し、これは、それぞれ21、18および17mmというA20値である。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例5
α−ext rhFibおよび血漿由来のフィブリノーゲンのプラスミン消化
精製組み換えヒトα−ext rhFibの線維素原溶解を、プラスミンでのインキュベーションによって試験した。要するに、フィブリノーゲンをTBST(50mM Tris−HCl、pH7.4,100mM NaCl、0.01% Tween−20)中に希釈し、CaClまたはEDTAを添加し(5mMの最終濃度)、プラスミンを添加し(10nMの最終濃度)、続いて37℃でインキュベーションした。時間中のいくつかのポイントで、サンプルを採取して、SDS−PAGEサンプル緩衝液とただちに混合した(NuPAGE LDSサンプル緩衝液、Invitrogen,カタログ番号NP00007)。次いで、サンプルを、非還元SDS−PAGEゲル(NuPAGE3〜8% Tris−Acetate,Invitrogen,カタログ番号WG1602)上でサイズ分離に供した。タンパク質は、クーマシー染色(SimplyBlue SafeStain,Invitrogen,カタログ番号LC6060)によって可視化した。
【0058】
この結果、図4に示すとおり、α−ext rhFibのプラスミン媒介性消化が、血漿由来のフィブリノーゲンについてよりも有意に遅いことが示される。例えば、Ca2+の存在下では、60分後、全ての血漿由来フィブリノーゲンが、フラグメントDおよびEの種に分解される。α−ext rhFibについては、これには120分よりもかかり、わずか一晩のインキュベーションでさえ、30分後血漿由来のフィブリノーゲンの消化に既に存在する、実質的な量のフラグメントE生成が示される。
【表2】
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリノーゲン調製物であって、同様の条件下でROTEM(登録商標)トロンボエラストグラフィー試験中の血漿由来フィブリノーゲン調製物のクロット形成時間よりも短いクロット形成を有する、フィブリノーゲン調製物。
【請求項2】
少なくとも95%(w/w)のフィブリノーゲンを含み、前記フィブリノーゲンの少なくとも10%(w/w)がFib420の形態である、請求項1に記載のフィブリノーゲン調製物。
【請求項3】
第XIII因子を含まない、請求項1または2に記載のフィブリノーゲン調製物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のフィブリノーゲン調製物、および薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含んでいる、薬学的組成物。
【請求項5】
前記組成物が、組織付着を容易にするか、創傷治癒を改善するか、または静脈内投与のために適切である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記薬学的組成物が、フィブリンシーラントまたは局所止血薬である、請求項4または5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
さらにトロンビンを含む、請求項4〜6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
乾燥型の請求項4〜7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
医薬としての使用のための、請求項1〜3に記載のフィブリノーゲン調製物。
【請求項10】
急性出血症状、過剰線維素溶解、フィブリノーゲン欠損症または他の出血障害の処置ための方法における使用のための、請求項1〜3に記載のフィブリノーゲン調製物または請求項4〜8に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
急性出血症状、過剰線維素溶解、フィブリノーゲン欠損症または他の出血障害の処置ための医薬の調製のための、請求項1〜3に記載のフィブリノーゲン調製物または請求項4〜8に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項12】
Fib420フィブリノーゲン調製物を調製するための方法であって:
−フィブリノーゲンのα伸長ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供することと;
前記発現ベクターを用いて哺乳動物細胞を形質転換することと;
−フィブリノーゲンのα伸長ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列の発現を可能にするような条件下で前記哺乳動物細胞を維持することと、
を包含する、方法。
【請求項13】
フィブリノーゲンのα伸長ポリペプチド鎖をコードする前記ヌクレオチド配列が、最適化配列、好ましくは配列番号5による最適化配列である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞、好ましくはPER.C6細胞である、請求項12または13に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−516443(P2013−516443A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547516(P2012−547516)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050191
【国際公開番号】WO2011/083153
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(511006214)プロフィブリックス ビーブイ (3)
【Fターム(参考)】