説明

位相アレイアンテナおよび素子間相互結合制御方法

位相アレイアンテナ400が、第1アレイ素子402および第2アレイ素子404、ならびに誘電体セパレータ408を備える。第1アレイ素子および第2アレイ素子402、404のそれぞれは、検出素子およびまたはエミッタ素子である。誘電体セパレータ408は、第1アレイ素子と第2アレイ素子402、404との間で、かつ第1アレイ素子402と第2アレイ素子404との間の素子間相互結合IMC信号の経路内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相アレイアンテナおよび相互結合制御方法に関する。より具体的には、排他的ではないが、本発明は、相互結合の位相制御を使用する相互結合制御装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相アレイアンテナ(PAA)は、所定の通常は一様なパターンまたは無作為分布パターンで分布するいくつかのアレイ素子を通常備える。PAAは、線形または平面またはコンフォーマルの性質とすることができる。
【0003】
送信モードにおいて、平面波面(102)が、アレイ素子から伝播する球面波面(103a〜c)から生成される。平面波面は、各アレイ素子(104a〜c)において加えられた個々の入力信号に複素(位相および振幅)重みを加えることによって操作される。たとえば、図1を参照されたい。
【0004】
受信モードにおいて、複素重みが、個々のアレイ素子において受信された信号に加えられ、次いで、信号処理が、組合わせ受信信号を分析するために適用される。
【0005】
ここで図2および3を参照すると、これらは、ボアサイトからそれぞれ0°および30°に向けられた操作アレイビームについて、和ビーム(202、302)および差ビーム(204、304)を示す。したがって、PAAにより、アレイまたはその素子を物理的に移動させることを必要とせずに、ビームを操作することが可能になる。
【0006】
PAAは、機械操作アンテナと比較して高いビーム可変能力を提示するが、その理由は、PAAは、機械操作アンテナに関連する慣性制限の悪影響を受けず、PAAは、複素重みを使用して振幅または位相の入力信号を調節することによって操作されるからである。また、位相アレイアンテナは、機械操作アンテナと比較して有利であるが、その理由は、位相アレイアンテナは、干渉効果を抑制し、またレードーム(radome)の存在など、他の影響を補正するために、航空交通管制など、適合ナリングと組み合わされた複数対象物の追跡を可能にするデジタルビーム形成能力を提供するからである。
【0007】
PAAは、アレイの実際の動眼視野(FOR)を限定する格子ローブなど、PAAに関連するいくつかの制限を有する。格子ローブは、最大走査角度範囲および所与の周波数について過度に大きい素子間アレイ間隔を使用することにより生じる付加的な主要ビームである。格子ローブは、また、対象物から入力信号を受信し、これにより、対象物戻り方向があいまいになる。アレイ素子間間隔が増大するにつれ、格子ローブは、ボアサイト方向により近い走査角度において明瞭になり、したがって、アレイの動作のFORをさらに低減する。
【0008】
PAAのさらなる制限は、素子間相互結合(IMC)である。これは、アレイ素子間の電磁(EM)干渉効果である。この効果は、アレイに埋め込まれるとき、各アレイ素子のゆがみ放射パターンをもたらす。特定素子の埋込み放射パターンに対する効果IMCは、すべての他のアレイ素子に対するそのアレイ素子の位置(EM環境)に依拠する。PAAの埋込み放射パターンの結果的な多様性は、望ましくないビーム操作の不精密さをもたらす。
【0009】
2つの隣接アレイ素子を考慮し、第1素子から放出されたEM場が、それ自体は動作または放射している必要がない第2素子に入射する。第2素子は、第2素子からの電磁場が第1素子に入射するように、第1素子からの場に影響を与え、またそれを吸収して、再放射することができる。次いで、第1素子も、第2素子からの場を吸収して、再放射することができる。このプロセスは、定常状態に達するまで続行される。したがって、信号が第1素子に加えられるとき、両素子とも放射することができ、それぞれからの放射は、いくつかの相互作用の結果とすることができる。この干渉の性質、したがって埋込み素子パターンのゆがみは、素子間における全結合の振幅および位相に依拠する。
【0010】
特定のアレイ素子、したがってその埋込み放射パターンに影響を与えるIMC信号の振幅および位相は、他のアレイ素子のすべてに対するその位置に依拠する。
【0011】
したがって、アレイの素子間間隔を増大させることが、アレイ素子間におけるIMCの大きさを低減するために望ましい。それを実施することにより、アレイにわたる埋込み放射パターンのゆがみの量を低減することが可能である。しかし、上記において詳述されたように、素子間のアレイ間隔を増大させることにより、格子ローブのために動作のFORが低減する。
【0012】
反対に、素子間アレイ間隔を低減することにより、PAAの動作のFORは増大するが、IMC効果も増大する。
【0013】
これまで、アレイ素子間において信号の振幅成分を低減することによって、IMC効果を低減する試行が行われてきた。これらは、近距離場が1つのアレイ素子を隣接アレイ素子に結合するのを防止することを試行してアレイ構造が変更される近距離場閉込めを含む。近距離場閉込めは、通常、アレイ素子間に規則的な間隔で配置された薄い金属プレート、バフル、またはフェンスを使用することによって、IMCの振幅を低減する。これらの構造は、近距離場のシンクとして作用するように設計される。
【0014】
他の技術は、無作為にまばらに配置されたアレイを使用する。これらのアレイは、大きな素子間アレイ間隔を使用することにより、IMC効果を低減することができるということを利用する。格子ローブの制限は、アレイ間隔を増大させる結果として、アレイ素子の無作為分布によって回避される。このタイプのアレイを使用する結果、アレイ間隔は大きいことが必要であり、通常、100を超える素子を含む。
【0015】
数学的な技術も、IMC効果を補償するために使用されてきた。そのような技術は、複素重みがアレイ素子間におけるIMC信号の測定から決定される行列反転方法を含む。次いで、これらの複素重みは、結果的な信号が、IMCが存在しない場合に送信または受信された信号と等価であるような方式で、ゆがみ信号に加えられる。この技術は、各アレイ素子についてIMC較正測定が実施されることを必要とするという欠点を有する。また、この方法において複素重みを加えることは、極度にプロセッサ集約的であり、すでにプロセッサ集約的な環境においては望ましくない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1態様によれば、第1アレイ素子および第2アレイ素子、ならびに誘電体セパレータを備える位相アレイアンテナが提供され、誘電体セパレータは、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の素子間相互結合(IMC)信号の経路内において、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間に挿入される。
【0017】
誘電体セパレータは、第1アレイ素子の動作の結果であるIMCのために生じた、第2アレイ素子において受信された信号の位相成分を修正する手段を提供する。アレイ素子および誘電体セパレータのこの構成により、埋込み素子放射パターンに対するIMC効果を制御することが可能になる。また、格子ローブおよびアレイの動作のFORについて、アレイ設計に課される設計上の制約の緩和も提供する。相互結合アレイ素子間の位相関係が、振幅より、アレイ素子の埋込み放射パターンのゆがみについて影響が大きいことが理解され、利用されてきた。この位相関係の制御は、従来の技術の近距離場の技術より、埋込み放射パターンに対するIMC効果に対して制御を与える。また、この構成により、格子ローブを最小限に抑え、一方アレイの動作のFORを増大させることに関して、アレイ設計に課される設計上の制約を緩和することが可能になる。この構成は、素子間アレイ間隔を低減し、一方IMC効果を最小限に抑える能力をある程度提供するという点で、アレイ設計にも有益である。これは有利であるが、その理由は、素子間隔および格子ローブに関連する、以前に議論された問題を抑制することによって、より優れた動作のFOR性能を有するより小さいアレイの可能性が提供されるからである。
【0018】
第1アレイ素子および第2アレイ素子のいずれかまたは両方は、エミッタ素子および/または検出器素子とすることが可能である。
【0019】
誘電体セパレータは、以下のいずれか1つ、または組合わせとすることが可能である:平滑平坦壁、環状壁、複数の平滑平坦壁の連接、または複数の環状壁の連接。これらの構造のいずれかは、特定のプロファイルを有し、およびまたは変動誘電率を使用して作成される壁を含むことが可能である。したがって、セパレータは、個々のアレイ素子を他の個々のアレイ素子から分離し、または、単一アレイ素子もしくは複数のアレイ素子を複数のアレイ素子から分離する。
【0020】
誘電体セパレータは、2〜40の範囲の誘電率εを有することが可能である。誘電体セパレータは、3と12との間の誘電率を有することが可能である。誘電体セパレータは、約4の誘電率を有することが可能である。
【0021】
誘電セパレータは、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間のIMC効果を低減する、理想的には最小限に抑えるように決定される誘電率および幅の組合わせを有することが可能である。「幅」によって、放射が通過するセパレータの経路長を意味する。セパレータの材料の誘電率および幅の適切な組合わせを選択することによって、埋込み放射パターンに対するゆがみが制御されるように、アレイ素子間のIMCの位相成分を制御することができる。
【0022】
誘電体セパレータは、たとえば、>1である可変誘電率の材料にアレイを埋め込むことによって、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の電気経路長を増大または低減するように構成されることが可能である。誘電体セパレータは、第1アレイ素子および第2アレイ素子の埋込み放射パターンに影響を与えるために、IMC信号の位相成分を制御するように構成されることが可能である。
【0023】
アレイは、アレイ素子の2次元アレイ、アレイ素子の線形アレイ、またはアレイ素子の共形アレイを備えることが可能である。アレイ素子のすべては、ほぼ単一面にあることが可能である。アレイ素子は、矩形格子または正方形格子など、格子に構成されることが可能である。アレイ素子は、以下のパターンのいずれか1つにおいて分布されることが可能である:六角形パターン、食違いパターン、または径方向円形パターン。各アレイ素子は、それぞれの誘電体セパレータによって少なくとも1つの隣接アレイ素子から分離されることが可能である。それぞれの誘電体セパレータは、離散している、または、誘電体の格子など、誘電体のより大きな連続部分の一部などとして形成されることが可能であり、アレイ素子は、格子の領域によって結合される空間に位置する。第1アレイ素子および第2アレイ素子の少なくとも一方が、誘電体セパレータによって完全に囲まれることが可能である。誘電体セパレータの異なる部分、または異なる誘電体セパレータが、異なる厚さおよび/または比誘電率を有することが可能である。したがって、2次元位相アレイアンテナは、可能であれば等価でない隣接アレイ素子に対して調整されるアレイ素子間において誘電体セパレータを有することができる。代替として、2次元アレイのアレイ素子間に挿入された誘電体セパレータの格子が存在することが可能である。
【0024】
本発明の第2態様によれば、第1アレイ素子と、第1アレイ素子から間隔をおいて配置される第2アレイ素子との間におけるIMC効果を低減する方法が提供され、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の電磁経路に誘電体セパレータを挿入することを備える。
【0025】
方法は、誘電体セパレータを使用することによって、IMC信号の位相成分を制御することを備えることが可能である。
【0026】
「アレイ素子」という用語の使用は、電磁放射の相反定理による検出素子および/またはエミッタ素子の両方を包含することが理解されるであろう。
【0027】
本発明の第3態様によれば、位相アレイアンテナの性能を向上させる方法が提供され、
i)第1アレイ素子と第2アレイ素子との間におけるIMCの程度を決定するステップと、
ii)前記相互結合の制御を低減するように、誘電体セパレータの幅、プロファイル、および誘電率のうちの少なくとも2つの組合わせを最適化するステップと、
iii)ステップ(ii)において最適化されたものにほぼ等しい幅、プロファイル、および/または誘電率を有する誘電体セパレータを生成するステップと、
iv)第1アレイ素子と第2アレイ素子との間に誘電体セパレータを挿入するステップとを含む。
【0028】
方法は、誘電体セパレータを使用することによって、IMC信号の位相成分を制御することを備えることが可能である。
【0029】
「アレイ素子」という用語の使用は、電磁放射の相反定理による検出素子および/またはエミッタ素子の両方を包含することが理解されるであろう。
【0030】
ここで、本発明は、添付の図面を参照して、例としてのみ記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
ここで図4、5aおよび5bを参照すると、位相アレイアンテナ400の第1実施形態が、2つの円形パッチアレイ素子402、404を備え、パッチアレイ素子402、404は、誘電体基板406およびアレイ素子402、404の間に挿入された誘電体セパレータ408の上において支持される。この構成により、誘電体セパレータ408に平行に位置合わせされる放射Eベクトル409a、および誘電体セパレータ408に直交する放射Hベクトル409bが得られる。アレイ素子402、404は、円形パッチアレイ素子である必要はなく、双極子など、スロットアレイ素子または実際に非円形のアレイ素子とすることが可能であることが理解されるであろう。
【0032】
供給構造および適合ビーム形成制御回路が、明瞭化のために省略されている。
【0033】
アレイ素子は、位相アレイアンテナの応用例に応じて、検出器素子および/またはエミッタ素子とすることが可能である。
【0034】
誘電体セパレータ408は、通常、3と10との間の範囲の誘電率を有する材料で作成され、そのような材料には、たとえば、ドュロイド(Duroid)RT5880ε=2.2、エポキシケブラε=3.6、FR4エポキシε=4.4、ガラスε=5.5、マイカε=6.0、アルミナε=9.2、およびヒ化ガリウムε=12.9がある。
【0035】
誘電体セパレータ408を使用することにより、隣接素子402、404間の誘電率、したがって、IMCの位相成分が修正されるが、その理由は、異なる媒体における電気長が、
【数1】

に比例して変化するからである。上式で、εは、誘電体セパレータの比誘電率である。
【0036】
これは、誘電体セパレータ408における光速が、以下のように変化するからである。
【数2】

上式で
c’は、誘電体セパレータにおける光速
μは、誘電体セパレータの比透磁率
μは、自由空間の透磁率
εは、自由空間の誘電率
である。
【0037】
ほとんどの誘電体の比誘電率は、真空の誘電率に近く、したがって、比誘電率の変化が、異なる比誘電率を有する2つの材料間の境界を横断する光速の変化を支配する。
【0038】
光の周波数は、媒体に関係なく不変であるので、通常は空気または真空である第1媒体と誘電体セパレータ408との間の境界を横断する際に光速の変化に対応するように変化するのは、放射信号の波長λである。したがって、IMC信号の波長は、比誘電率εr1を有する第1媒体から、比誘電率εr2、(εr2>εr1)を有する第2媒体に入る際に実質的に短くなる。反対に、放射の波長は、第2媒体から第1媒体に入る際に実質的に長くなる。たとえば、4の誘電率、比誘電率を有する誘電体セパレータは、空気または真空における放射の波長に対して、放射の波長を2分の1に短くする。
【0039】
PAA全体を誘電体材料に埋め込むことができ、セパレータは、埋込み誘電体の比誘電率より小さい比誘電率を有することが可能であることが考察される。これは、誘電体セパレータが隣接素子間において放射の電気経路長を実質的に低減する効果を有する。
【0040】
ここで図4、5aおよび5bに関連して図6を参照すると、誘電体セパレータ408の誘電率(比誘電率)および厚さを制御することにより、誘電体セパレータ408を出るIMC放射の位相を制御することが可能になる。たとえば誘電率ε=4および厚さdを有する誘電体セパレータ408に入射するIMC放射602は、空中において波長λを有する。セパレータ408に入射する際に、IMC放射602は、波長が半分のλ/2になる。したがって、空中では、IMC放射602は、距離dにおいてd/λの位相周期を完成するが、セパレータ408では、2d/λの位相周期を完成する。したがって、セパレータの厚さを調整することによって、セパレータから放射されるIMC放射603の位相は、通常はアレイ素子402、404間におけるIMC効果を最小限に抑えるように修正することができる。したがって、他のアレイ素子402を動作することにより、アレイ素子404に入射するIMC放射の望ましい位相を達成することが可能である。セパレータ408の誘電率を変化させることによって、同様の効果を達成することができ、実際、2つの効果は、互いに相補的である。
【0041】
ここで添付の図面の図7を参照すると、3つの素子を有する線形位相アレイアンテナ700の代替実施形態が示されている。これは、中央アレイ素子702、2つの周辺アレイ素子704、706、および中央アレイ素子702とそれぞれの周辺アレイ素子704、706との間に挿入された誘電体セパレータ708、710を備える。
【0042】
ここで図8を参照すると、これは、誘電体セパレータが存在しない状態で、位相アレイアンテナ素子のそれぞれについて、磁場ベクトル(H)の面における埋込み放射パターンを示す。2つの周辺アレイ素子704、706に関する放射パターン(プロット802、804)は、θ=0°を中心とする最大値を有さない。中央アレイ素子702は、最大値がθ=0°を中心とする放射パターン(プロット806)を提示する。2つの周辺アレイ素子704、706は、θ=0°に関して非対称な放射パターン(プロット802、804)を有する。最左素子704のみが動作している場合、最左素子704と中央素子702との間、および最左素子704と最右素子706との間のIMCは、最左素子からの通常の放射場と干渉する。これは、非対称埋込み放射パターン(プロット802)となる。同様の議論が、それぞれ最右706および中央アレイ素子702の埋込み放射パターン(プロット804、806)の生成に当てはまる。アレイが中央素子702に関して対称であることは、この素子の結果的な非対称でない埋込み放射パターン(プロット806)が、最右アレイ素子706および最左アレイ素子704の両方からの等しい効果および反対の効果から得られることを意味する。
【0043】
2つの周辺アレイ素子704、706が中央アレイ素子702に関して対称に配置されていない場合、中央アレイ素子702に関する周辺アレイ素子704、706のそれぞれのIMC効果が不均等であることにより、やはりθ=0°に関して非対称になっている中央アレイ素子702の埋込み放射パターン(プロット806)が得られる可能性があることが理解されるであろう。また、周辺アレイ素子704、706の埋込み放射パターン(プロット802、804)間の対称性が低減されることになる。
【0044】
ここで図9を参照する。これは、図7に対応するアレイ素子の埋込み放射パターン(プロット902〜906)を示すが、中央アレイ素子702とそれぞれの周辺アレイ素子704、706との間に挿入された誘電体セパレータを含む。この例では、誘電体セパレータは、5mmの幅およびε=9.3の誘電率を有する。2つの周辺アレイ素子704、706の埋込み放射パターン(プロット902、904)の非対称さが、明らかである。周辺アレイ素子704、706の埋込み放射パターン(プロット902、904)が対称であるという対称性のために、中央アレイ素子702の埋込み放射パターン(プロット906)は、ゆがんでいる(distorted)が、θ=0°に関して非対称になってはいない。2つの周辺素子704、706の埋込み放射パターン(プロット902、904)は、PAAの物理的なレイアウトが依然として同じである場合でも、実際、図8に示された場合と比較して、θ=0°の上で交差している。
【0045】
ここで図10を参照すると、埋込み放射パターン(プロット1002〜1006)が、図9に関して議論されたのと同様の構成について示されるが、誘電体セパレータが、ε=4.0の誘電率および5mmの幅を有する点が異なる。周囲アレイ素子702、706の埋込み放射パターン(プロット1004、1002)は、ここでは、θ=0°からずれていないことがわかる。一方、中央アレイ素子702の埋込み放射パターン(プロット1006)は、依然としてゆがんでいるが、非対称になってはいない。したがって、この構成は、図8および9に関連して議論されたIMCによる埋込み放射パターンのゆがみおよび非対称さを補正することがわかる。
【0046】
これは、誘電体セパレータを使用してアレイ素子間のIMCの位相成分を修正することによって、個々のアレイ素子の埋込み放射パターンを操作することができることを示す。これにより、ビーム操作精度が向上し、アレイ素子間隔、格子ローブ、および動作のFORについて設計制約が緩和されることが可能である。
【0047】
上記の場合のすべてにおいて、方向が誘電体セパレータに平行である場ベクトル(この場合はEベクトル)は、この例では影響を受けない。
【0048】
2次元位相アレイアンテナの場合、各アレイ素子が、誘電体構造によって少なくとも部分的に囲まれることが可能であることが理解されるであろう。これは、所与のアレイ素子と、アレイの2つ以上の等価でない隣接アレイ素子との相互結合を補償するために、誘電体構造の各面の厚さ、プロファイル、および/または比誘電率を変更する能力をアンテナの設計者に与える。
【0049】
ここで図11aを参照すると、位相アレイアンテナ1100が、アレイ素子1102a〜nの2次元アレイ1101、および誘電体セパレータ1104を備える。通常はアンテナ1100の中心に向かうアレイ素子であるアレイ素子の一部の1102a〜bが、セパレータ1104によって完全に囲まれる。アレイの素子の他の一部である1102c〜fが、セパレータ1104によって部分的に囲まれ、これらのアレイ素子1102c〜fは、通常、アレイ1102の縁とそのアレイ1102の中心との間にある。アレイ1101の縁に隣接するアレイ素子1102g〜nは、通常、その間に離散した平面のまたは精確なセパレータ1104を有する。
【0050】
セパレータ1104のそのような構成の効果により、隣接非等価アレイ素子1102a〜n間における相互結合の低減を最適化するために、アレイ1101の設計者が、セパレータ1104の一部の幅および誘電率を変更することによって、セパレータ1104を「調整」することが可能になる。これは、レーダ、ナビゲーション、および宇宙空間の応用分野に使用されるアンテナなど、高品質アンテナに特に有用である。
【0051】
ここで図11bを参照すると、アンテナ1110が、環状セパレータ1114a〜cによって分離されたアレイ素子1112a〜cを備える。環状セパレータ1114a〜cを使用することにより、HおよびE場の両方のIMC効果が抑制されるが、その理由は、セパレータ1114a〜cが、IMCが主要Hベクトル面およびEベクトル面の両方において著しいH場およびE場の位置合わせ方向を張るからである。
【0052】
ここで図11cを参照すると、アンテナ1120が、平面壁1124a〜fによって単一方向において分離されるアレイ素子1122a〜hを備える。この構成において、セパレータは、この例ではセパレータ1124a〜fの方向に垂直である、単一次元においてのみ、IMC結合の効果を低減するように作用する。
【0053】
ここで図11dを参照すると、アンテナ1130が、相互直交垂直壁1134a〜dを交差することによって分離されるアレイ素子1132a〜fを備える。これは、水平面および垂直面の両方においてIMCの効果を低減する効果を有する。
【0054】
代替として、アレイのアレイ素子間におけるIMCを少なくとも部分的に補償するために、誘電体構造の簡単な格子を使用することができる。
【0055】
ここで図12を参照すると、位相アレイアンテナ1200が、この場合は3×3平方である矩形に構成されたアレイ素子1202a〜iの2次元アレイ1201、および隣接アレイ素子1202a〜i間の複数の水平および垂直に位置合わせされた誘電体セパレータ1204を備える。セパレータ1204は、この実施形態では離散平滑平坦壁の形態を取るが、任意の好都合で適切な形状または構成とすることが可能であることが理解されるであろう。
【0056】
通常、この構成は、各アレイ素子1202a〜iを最適化するために完全な設計演習をすることを必要とせずに、隣接アレイ素子1202a〜i間の相互結合を部分消去することを見込む。これは、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)の応用分野において使用されるアンテナなど、低コスト大量生産アンテナにおいて特に有用である。
【0057】
すべての場合において、あらゆる誘電体セパレータは、任意の形状または形態および任意の誘電率とすることができることが理解されるであろう。また、これらの誘電体セパレータをアレイ素子間に組み付ける目的は、アレイ素子間におけるIMCの位相成分を操作する方法をアンテナ設計者に提供することであることが理解されるであろう。これは、そのアレイの埋込み放射パターンを調節するように行われる。
【0058】
以上に記述された位相アレイアンテナは、具体的には宇宙空間応用分野におけるナビゲーションシステムや、たとえばGSM、GPRS、UTMS、および衛星データリンクである、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)、可動電話ベース局などのレーダおよび通信システムを含めて、広範な応用分野を有することが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】位相アレイアンテナ(PAA)を使用して複数の出力球面波面から生成される平面波面を示す図である。
【図2】主面のボアサイト(θ=0°)に向けられたPAAの和ビーム強度および差ビーム強度のプロットを示す図である。
【図3】主面のボアサイトから30°(θ=30°)に向けられたPAAの和ビーム強度および差ビーム強度のプロットを示す図である。
【図4】本発明の少なくとも1つの態様による、PAAの第1実施形態の概略的透視図である。
【図5a】図4のPAAの概略的側面図である。
【図5b】放射場の放射HベクトルおよびEベクトルの位置合わせを示す、図4および5のPAAの概略的部分平面図である。
【図6】図4および5のPAAの誘電体セパレータを通る放射場の伝播の概略図である。
【図7】本発明によるPAAの第2代替実施形態の概略的側面図である。
【図8】誘電体セパレータのない図7のPAAのアレイ素子のそれぞれについて、Hベクトル方向における埋込み放射パターンのプロットを示す図である。
【図9】ε=9.3の誘電体セパレータを有する、図6のPAAのアレイ素子のそれぞれについて、Hベクトル方向における埋込み放射パターンのプロットを示す図である。
【図10】ε=4.0の誘電体セパレータを有する、図6のPAAのアレイ素子のそれぞれについて、Hベクトル方向における埋込み放射パターンのプロットを示す図である。
【図11a】本発明の少なくとも1つの態様による、PAAの可能な2次元アレイの実施形態の概略図である。
【図11b】本発明の少なくとも1つの態様による、PAAの可能な2次元アレイの実施形態の概略図である。
【図11c】本発明の少なくとも1つの態様による、PAAの可能な2次元アレイの実施形態の概略図である。
【図11d】本発明の少なくとも1つの態様による、PAAの可能な2次元アレイの実施形態の概略図である。
【図12】本発明の少なくとも1つの態様による、PAAの2次元アレイの第2実施形態の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アレイ素子および第2アレイ素子、ならびに誘電体セパレータを備える位相アレイアンテナであって、誘電体セパレータが、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間のIMC信号の経路内において、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間に挿入されるアンテナ。
【請求項2】
誘電体セパレータが、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の相互結合効果を低減するように決定される誘電率、プロファイル、および/または幅の組合わせを有する請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
誘電体セパレータが、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の電気経路長を増大または低減するように構成される請求項1または2のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項4】
誘電体セパレータが、第1アレイ素子および第2アレイ素子の埋込み放射パターンに影響を与えるように、IMC信号の位相成分を制御するように構成される請求項1から3のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項5】
誘電体セパレータが、以下の平滑平坦壁、環状壁、複数の平滑平坦壁の連接、環状壁、複数の環状壁の連接のいずれか1つまたは組合わせである請求項1から4のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項6】
誘電体セパレータが、3と12との間の誘電率を有する請求項1から5のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項7】
アレイが、2次元アレイ、アレイ素子の線形アレイ、またはアレイ素子の共形アレイを備える請求項1から6のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項8】
すべてのアレイ素子が、ほぼ単一平面にある請求項7に記載のアンテナ。
【請求項9】
第1アレイ素子および第2アレイ素子の少なくとも一方が、誘電体セパレータによって完全に囲まれる請求項7または8のいずれかに記載のアンテナ。
【請求項10】
誘電体セパレータの異なる部分が、異なる厚さおよび/または比誘電率を有する請求項9に記載のアンテナ。
【請求項11】
アンテナが、2次元アレイのアレイ素子間に挿入された誘電体セパレータの格子をさらに備える請求項7に記載のアンテナ。
【請求項12】
アレイ素子が、格子に構成される請求項7から11のいずれか一項に記載のアンテナ。
【請求項13】
各アレイ素子が、それぞれの誘電体セパレータによって少なくとも1つの隣接アレイ素子から分離される請求項12に記載のアンテナ。
【請求項14】
それぞれの誘電体セパレータが、離散しており、または誘電体のより大きな連続格子の一部として形成され、アレイ素子が、格子の領域によって制約された空間に配置される請求項13に記載のアンテナ。
【請求項15】
第1検出器/エミッタ素子から間隔をおいて配置される第1アレイ素子および第2アレイ素子が、第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の電磁経路に誘電体セパレータを挿入することを備えるIMC効果を低減する方法。
【請求項16】
誘電体セパレータを使用することによって、IMC信号の位相成分を制御することを備える請求項15に記載の方法。
【請求項17】
位相アレイアンテナの性能を向上させる方法であって、
i)第1アレイ素子と第2アレイ素子との間の相互結合の程度を決定するステップと、
ii)前記相互結合の効果を最小限に抑えるように、誘電体セパレータの幅、プロファイル、および誘電率のうちの少なくとも2つの組合わせを最適化するステップと、
iii)ステップ(ii)において最適化されたのとほぼ同様の幅、プロファイル、および/または誘電率を有する誘電体セパレータを生成するステップと、
iv)第1アレイ素子と第2アレイ素子との間に誘電体セパレータを挿入するステップとを含む方法。
【請求項18】
誘電体セパレータを使用することによって、IMC信号の位相成分を制御することを備える請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−517073(P2006−517073A)
【公表日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502216(P2006−502216)
【出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000368
【国際公開番号】WO2004/068633
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】