説明

位相グリップ

【課題】 電線への装着時に、誰でも簡単かつ確実に装着することができる位相グリップを提供する。
【解決手段】 略円形状に湾曲して一部が切り欠かれて開口Aが形成されたC字状の板ばね部1aと、この板ばね部1aの開口A端部から各々外側にV字状に広がって設けられた一対の把持部1bと、を備え、この把持部1bを把持して電線10の上方から板ばね部1aの開口Aを近づけて引き下げることで、板ばね部1aが電線10に嵌合するように、板ばね部1aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、3つの位相に区別される電線に装着されて電線の位相を外観の色などにより識別可能とする、位相グリップに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧電線等の電線は、位相が異なった3つの電線、具体的には、R相の電線、S相の電線、及びT相の電線に種別されている。また、このような電線は、外観上その殆どが同一色(黒色)であるため、電線の各位相を外観で識別することは非常に困難である。そこで、従来、電線の位相識別表示となる位相グリップを電線に装着し、この位相グリップに位相識別のための色(例えば、赤・白・青)を付け、この位相グリップの色によって電線の各位相を識別する方法がよく知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この従来の位相グリップは、例えば、略円形状に湾曲する板ばね部を有し、この板ばね部の周方向の一部が不連続となっており、その不連続部分から各々一対に延在して電線を把持可能な装着部が形成され、この板ばね部を把持して変形させることで装着部に電線を装着できる構造に形成されている(特許文献1(第3頁、第6及び7図)参照。)。
【0004】
このような位相グリップを電線に取り付ける装着作業は、高所での作業であって、かつ間接活線作業などの活線状態での作業となるため、作業者による遠隔操作が可能な活線操作工具(特許文献1(第3図)参照。)を用いて作業することで、作業事故を防いで安全に作業していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−74824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在使用されている従来の位相グリップは、間接活線工法が確立する以前からあり、間接活線の相当な熟練者でなければ、例えば、活線操作工具(例えば、ヤットコ等)で板ばね部を把持して潰すように変形させて装着する作業において、上手く把持できなかったり、落としたりと、間接活線による取付けが困難であるという不具合があった。
【0007】
また、従来の位相グリップは、電線を挟み込んで装着する装着部がプラスチックのため滑りやすく、装着位置によっては、電線が傾斜していると装着位置から移動してしまうことが多々見受けられた。
【0008】
そこでこの発明は、電線への装着時に、誰でも簡単かつ確実に装着することができる位相グリップを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、略円形状に湾曲して一部が切り欠かれて開口が形成されたC字状の板ばね部と、板ばね部の開口端部から各々外側にV字状に広がって設けられた一対の把持部と、を備え、把持部を把持して電線の上方から前記板ばね部の開口を近づけて引き下げることで、前記板ばね部が前記電線に嵌合するように、前記板ばね部が形成されている、ことを特徴とする位相クリップ。
【0010】
この発明によれば、把持部を把持して電線の上方から板ばね部の開口端部を近づけて引き下げるだけで、電線が収納されて装着することができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の位相クリップにおいて、前記開口に対向する前記板ばね部の背面部から、外側に突出する第2把持部が設けられ、この第2把持部を把持して前記電線の下方から前記開口を近づけて押し上げることで、前記板ばね部が前記電線に嵌合する、ことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、第2把持部を把持して電線に対して下方から板ばね部の開口を近づけて押し上げることで、板ばね部内に電線を収納でき、電線の装着状況に応じて引き下げる構造に加えて押し上げる構造も同時に使用可能になる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の位相クリップにおいて、前記板ばね部の内周面に滑り止め部材が設けられている、ことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、電線に装着した際に滑り止め部材により、装着位置から滑ることなく確実に固定することが可能になる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1から3に記載の位相クリップにおいて、前記板ばね部は、軸心に対してねじれるように形成されている、ことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、板ばね部が軸心に対してねじれるように形成されるため、電線に装着する際に付勢する力で把持力を与えることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、位相グリップの把持部を把持して電線の上方から板ばね部の開口を近づけて引き下げるだけで、位相グリップを電線に装着できるため、従来のように把持して変形させる必要がない。このため、間接活線工法での取付け及び取外しが容易に可能で、落下する危険性も低減し、特に、作業者の熟練度による作業時間の差がなくなる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、板ばね部に第2把持部を形成することで、把持部の引き下げ装着に加えて押し上げ装着も可能になるため、現場の状況によって使い分けることで、間接活線工法での作業性が向上し、作業時間の短縮が可能になる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、板ばね部の内周に滑り止め部材が設けられているため、電線が傾斜した取り付け位置などにおいても、位相グリップの移動を抑制でき、位相グリップを所定の位置に確実に取り付けることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、板ばね部が軸心に対してねじれるように形成され、電線に付勢する力で把持力を与えることが可能なため、その把持力によりずれることがなく強固に装着可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1に係る位相グリップを示す側面断面図である。
【図2】図1の位相グリップに第2把持部を設けた変形例を示す斜視図である。
【図3】図1の板ばね部内に滑り止め部材を装着した変形例を示す側面図である。
【図4】図1または2の位相グリップを各々電線に装着する動作を示す動作説明図であり、(a)は図1の位相グリップを、(b)は図2の位相グリップを各々示している。
【図5】図1の位相グリップを2人の作業員で装着する動作を示す動作説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る位相グリップを示す図であり、(a)は装着前の状態を、(b)は装着時の状態を各々示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係る位相グリップ1を示す斜視図である。また、図2は、図1の位相グリップ1に第2把持部2cを設けた変形例を示す斜視図である。この位相グリップ1は、図1に示すように、電線10(図4及び5参照)の外周に装着される略円形状に湾曲して一部が切り欠かれて開口Aが形成された板ばね部1aと、この板ばね部1aの開口A端部から各々外側にV字状に広がって設けられた一対の把持部1bと、を一体に備えている。
【0024】
ここで、開口Aは、電線の直径より若干幅狭に形成され、後述するようにして引き下げ、または押し上げられた際に、開口Aが広がって板ばね部1aが電線に嵌合するように、板ばね部の内径が設定されている。また、把持部1bの外側面には、複数の溝Bが形成されており、把持した際の滑り止めの役割をする。
【0025】
すなわち、本実施形態による位相グリップ1は、従来技術のような活線操作工具(例えば、ヤットコ等)で板ばね部を把持して潰すように変形させて装着する複雑な構造ではなく、図4(a)に示すように、把持部1bを把持して電線に開口Aを近づけて引き下げるだけで、誰でも(相当な熟練者でなくても)容易に板ばね部1a内に電線を把持させて装着できる構造にすることを目的としている。
【0026】
一方、このような実施の形態に係る位相グリップ1に対し、引き下げるための把持部1bだけでなく、それに加えて押し上げるための第2把持部2cを形成した変形例がある。この位相グリップ2は、図2に示すように、図1の位相グリップ1と同様に、電線の外周に装着される略円形状に湾曲して一部が切り欠かれて開口Aが形成された板ばね部2aと、この板ばね部2aの開口A端部から各々外側にV字状に広がって設けられた一対の把持部2bと、を一体に備えている。また、開口Aは電線の直径より若干幅狭に形成され、把持部2bの外側面には複数の溝Bが形成されて把持した際の滑り止めの役割をする。
【0027】
そして、この位相グリップ2は、図1の位相グリップ1と異なり、板ばね部2aに、開口Aと対向する板ばね部2aの背面から外側に突出する第2把持部2cが設けられている。この把持部2cは、図2に示されていないが、滑り止め用に把持部2b外側面のように複数の溝Bを形成してもよい。このように位相グリップ2は、図4(a)の位相グリップ1のように把持部2bを把持して電線の上方から板ばね部2aの開口Aを引き下げて装着する方法に加え、図4(b)に示すように、第2把持部2cを把持して電線の下方から板ばね部2aの開口Aを押し上げて装着する方法の2種類の装着を可能とするものである。
【0028】
なお、図1及び図2いずれの位相グリップ1、2においても、把持部1b、2bはV字状に広がって電線を開口Aに誘導するために必要であって、図2の位相グリップ2では把持部2bを有して更に第2把持部2cを備えることを特徴としている。
【0029】
ところで、このような構成による位相グリップ1、2は、プラスチックなどの弾性を有した電気絶縁材からなり、電線に装着した際に、電線からずれないようになっている。すなわち、従来技術の構造では滑り易く装着位置がずれる可能性があるが、本発明による位相グリップ1、2では、板ばね部1a、2aが弾性変形して電線を把持した状態となるため、電線からずれにくいものである。
【0030】
しかし、樹脂材かなる位相グリップは、経時変化などによりその弾性力も低下するため、板ばね部1a、2a内に滑り止め部材を装着する更なる変形例がある。この滑り止め部材を用いた変形例について、図3を参照して説明する。図3は、図1の板ばね部1a内に滑り止め部材3を装着した変形例を示す側面図である。なお、図1の板ばね部1aを便宜上用いて説明するが、これに限定するものではなく、図2の板ばね部2aにも適用可能である。この滑り止め部材3は、図3に示すように、板ばね部1aの内周面に沿って装着されて、電線に装着した際に、滑りを防止して強固に固定可能にしたものである。
【0031】
ここで滑り止め部材3は、滑り止め用の少し柔らかい弾性を有したゴム材を用いることが好ましい。また、滑り止め部材3は、板ばね部1aの内周に装着した内径が、例えば、電線外径が10.3mmである場合、10mm程度と電線より少し小さい径で形成することが好ましい。
【0032】
次に、このような構成の位相グリップ1、2を電線に装着する方法などについて、図4を参照して説明する。図4は、図1または2の位相グリップ1、2を各々電線10に装着する動作を示す動作説明図であり、(a)は図1の位相グリップ1を、(b)は図2の位相グリップ2を各々示している。まず、図1の位相グリップ1は、図4(a)に示すように、作業者12による遠隔操作が可能な活線操作工具11を用いて、活線状態での作業となる。その際、作業者12が活線操作工具11により、位相グリップ1の把持部1bの片方を把持して電線10の上方に近づける。そして、図1に示す位相グリップ1の開口Aを電線10に近づけて引き下げるだけで、板ばね部1a内に電線10が収納されて簡単に装着できる。なお、電線10から位相グリップ1を外す場合、把持部1bを把持して上方に押し上げることで容易に外すことが可能である。
【0033】
一方、図2の位相グリップ2は、図4(b)に示すように、作業者12が活線操作工具11により、位相グリップ2の第2把持部2cを把持して電線10の下方に近づける。そして、図2に示す位相グリップ2の開口Aを電線10に近づけて押し上げるだけで、板ばね部2a内に電線10が収納されて簡単に装着できる。なお、電線10から位相グリップ2を外す場合、第2把持部2cを把持して下方に引き下げることで容易に外すことが可能である。
【0034】
このように、この実施の形態による位相グリップ1、2は、間接活線工法で、押し上げまたは引き下げる動作だけで簡単に装着できる。また、図3に示す滑り防止部材3を、図4に示す位相グリップ1、2の各々に採用することで、より効果的に電線に装着することが可能になる。
【0035】
ところで、図4では位相グリップ1、2を1人の作業員12が装着する動作を説明したが、通常、2人の作業員12で作業することが一般的である。図5は、図1の位相グリップ1を2人の作業員12で装着する動作を示す動作説明図である。図5に示すように、2人の作業者12がお互い対向した状態で、活線操作工具11により位相グリップ1の一対の把持部1bを各々把持して電線10の上方に近づける。その後、図4(a)の動作と同様に、位相グリップ1を引き下げることで、電線10に装着することができる。この際、2人の作業者12が、一対の把持部1bを左右に引っ張って開口A(図1参照)を広げた状態で引き下げることで、電線10に容易に装着することができる。
【0036】
ここで、図5では、図4(a)の位相グリップ1の引き下げ動作について説明したが、図4(b)の位相グリップ2の押し上げ動作についても適用可能である。具体的には、図4(b)の位相グリップ2では、第2把持部2cを2人の作業員12で把持することは不可能であるが、一対の把持部2bを下方から各々把持して押し上げることは可能である。この際、作業員12は前述した動作のように、一対の把持部2bを左右に引っ張って開口A(図2参照)を広げた状態で押し上げることで、電線10に容易に装着できる。
【0037】
以上のように、この位相グリップ1によれば、把持部1bを把持して電線10の上方から板ばね部1aの開口Aを近づけて引き下げるだけで、電線10に装着できるため、従来のように把持して変形させる必要がなく、間接活線工法での取付け及び取外しが容易にでき、落下する危険性も低減し、特に、作業者の熟練度による作業時間の差がなくなる。
【0038】
また、位相グリップ2によれば、第2把持部2cが形成されているため、把持部2bの引き下げ装着に加えて押し上げ装着も可能になり、現場の状況によって使い分けることで、間接活線工法での作業性が向上し、作業時間の短縮が可能になる。
【0039】
また、板ばね部1a、2aの内周に滑り止め部材3が装着されているため、電線10が傾斜した取り付け位置などにおいても、位相グリップ1、2の移動を抑制でき、位相グリップ1、2を所定の位置に確実に取り付けることができる。
【0040】
(実施の形態2)
次に、板ばね部を効果的に電線10に固定させるための他の実施形態について説明する。図6は、板ばね部の他の実施形態を示す図であり、(a)は通常の状態を、(b)は付勢した状態を各々示している。この板ばね部4aは、軸心(電線10が延びる方向)に対してねじれるように形成されており、開口Aで対向する一対の把持部4bが軸心方向に各々離れるようにずれた状態にねじられている。すなわち、板ばね部4aは、ずれた一対の把持部4bを、図6(a)に示すように軸心方向にお互いを合わせる方向の力F1、F2を加えることで、図6(b)に示すように通常の位相グリップ(図1、2に示す位相グリップ1、2)の状態になる。
【0041】
このような板ばね部4aを用いた位相グリップ4を電線に装着する場合、図6(a)に示す軸心方向の力F1、F2を加えて、図6(b)に示すように、実施の形態1の位相グリップ1、2と同等の形体に保持する。その後、図5で説明した通り、開口Aを広げて電線10に装着することで、図6(b)に示すように、板ばね部4aが戻ろうとする力X1、X2を電線10に加えることができるため、この電線10に食い込むように装着されて強固に固定することができる。
【0042】
このように本実施の形態に係る位相グリップ4は、板ばね部4aが軸心に対してねじれるように形成され、元に戻ろうとする把持力X1、X2が電線10に加えられるため、その把持力X1、X2によって位相グリップ4がずれることがない。また、前述した種々の変形例を組み合わせることで、現場での各種問題点に対して、適宜対処することが可能になり、安全で簡単に、かつより確実に電線10に取り付けることができる。
【0043】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、実施の形態1の位相グリップ2では、1つの第2把持部2cを設けているが、V字状に2つの第2把持部2cを設けてもよく、これにより、2人の作業員12による作業が容易となる。
【符号の説明】
【0044】
1 位相グリップ
1a 板ばね部
1b 把持部
10 電線
11 活線操作工具
12 作業員
A 開口
B 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形状に湾曲して一部が切り欠かれて開口が形成されたC字状の板ばね部と、
前記板ばね部の開口端部から各々外側にV字状に広がって設けられた一対の把持部と、を備え、
前記把持部を把持して電線の上方から前記板ばね部の開口を近づけて引き下げることで、前記板ばね部が前記電線に嵌合するように、前記板ばね部が形成されている、
ことを特徴とする位相クリップ。
【請求項2】
前記開口に対向する前記板ばね部の背面部から、外側に突出する第2把持部が設けられ、この第2把持部を把持して前記電線の下方から前記開口を近づけて押し上げることで、前記板ばね部が前記電線に嵌合する、
ことを特徴とする請求項1に記載の位相クリップ。
【請求項3】
前記板ばね部の内周面に滑り止め部材が設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の位相クリップ。
【請求項4】
前記板ばね部は、軸心に対してねじれるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の位相クリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−90522(P2013−90522A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231503(P2011−231503)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】