説明

位相差フィルム、その製造方法及び複合偏光板

【課題】耐湿熱性の向上、低価格化、及びコントラスト低下の抑制を実現できる、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂フィルムからなり、延伸されて光学異方性軸を有する位相差フィルムであって、その樹脂フィルムは、延伸前に3%以下の内部ヘイズを有し、それを延伸することにより内部ヘイズが0.5%以下となっており、互いの偏光軸を直交させて対向配置された一対の偏光板の間に、当該位相差フィルムをその光学異方性軸が上記一対の偏光板のうち一方の偏光軸と一致するように配置したときに、一方の偏光板の外側に配置された検査用光源から出射され、上記一方の偏光板、位相差フィルム及び他方の偏光板の順に通過する光の透過率が3×10-3%以下である、位相差フィルム、及びその製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に用いられる位相差フィルム及びその製造方法に関するものである。本発明はまた、その位相差フィルムを用いた複合偏光板にも関係している。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力が少なく、低電圧で動作し、軽量で薄型である等の特徴を生かして、各種の表示用デバイスに用いられている。液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、位相差フィルム、集光シート、拡散フィルム、導光板、光反射シートなど、多くの材料から構成されている。そのため、構成フィルムの枚数を減らしたり、フィルム又はシートの厚さを薄くしたりすることで、生産性の向上や軽量化、明度の向上などを目指した改良が盛んに行われている。
【0003】
一方、液晶表示装置は、用途によっては厳しい耐久条件に耐える製品が必要とされる。例えば、カーナビゲーションシステム用の液晶表示装置は、それが置かれる車内の温度や湿度が高くなることがあり、通常のテレビやパーソナルコンピュータ用のモニターと比べると、温度及び湿度条件が厳しい。そのような用途には、偏光板や位相差フィルムも高い耐久性を示すものが求められる。
【0004】
偏光板は通常、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面又は片面に、透明な保護フィルムが積層された構造を有する。偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに縦一軸延伸と二色性色素による染色とを行った後、ホウ酸処理して架橋反応を起こさせ、次いで水洗、乾燥する方法により製造されている。二色性色素としては、ヨウ素又は二色性有機染料が用いられる。このようにして得られる偏光フィルムの両面又は片面に保護フィルムを積層して偏光板とされ、液晶表示装置に組み込まれて使用される。
【0005】
上記の保護フィルムには、トリアセチルセルロースに代表されるセルロースアセテート系樹脂フィルムが多く使用されており、その厚みは通例30〜120μm 程度の範囲内である。また、保護フィルムの積層には、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を用いることが多い。
【0006】
しかしながら、二色性色素が吸着配向している偏光フィルムの両面又は片面に、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを積層した偏光板は、湿熱条件下で長時間使用した場合に、偏光性能が低下したり、保護フィルムと偏光フィルムとが剥離しやすくなったりするという問題がある。
【0007】
そこで、少なくとも一方の保護フィルムを、セルロースアセテート系以外の樹脂で構成することも提案されている。例えば、特開平 8-43812号公報(特許文献1)には、偏光フィルムの両面に保護フィルムを積層した偏光板において、その保護フィルムの少なくとも一方を、同時に位相差フィルムの機能を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂で構成することが開示されている。特開 2002-174729号公報(特許文献2)には、ヨウ素又は二色性有機染料が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの一方の面に、非晶性ポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムが貼合され、他方の面には、セルロースアセテート系樹脂の如き、上記の非晶性ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂からなる保護フィルムが貼合された偏光板が開示されている。特開 2004-334168号公報(特許文献3)には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムに、ウレタン系接着剤とポリビニルアルコール系樹脂とを含有する接着剤を介して、シクロオレフィン系樹脂からなる保護フィルムを積層し、偏光板とすることが開示されている。また、特開 2007-65452 号公報(特許文献4)には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムに接着剤を介して、特定の位相差特性を有するシクロオレフィン系樹脂フィルムを接合し、偏光板とすることが開示されている。
【0008】
しかし、ノルボルネン系樹脂を代表例とする非晶性ポリオレフィン系樹脂(シクロオレフィン系樹脂とも呼ばれる)は、近年実用化された樹脂であって、トリアセチルセルロースよりも高価であり、そのため、単なる保護フィルムとしてよりは、位相差フィルムとして用いられることが多かった。
【0009】
そこで、安価な樹脂材料を偏光板の保護フィルムに適用することも提案されており、例えば、特開 2009-75471 号公報(特許文献5)には、結晶性ポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂を保護フィルムとすること、又は保護フィルムを兼ねる位相差フィルムとすることが開示されている。
【0010】
しかしながら、ポリプロピレン系樹脂を偏光板の保護フィルムとする場合、特にそのポリプロピレン系樹脂フィルムを液晶セル側に配置する構成では、トリアセチルセルロースや非晶性ポリオレフィン系樹脂のフィルムを液晶セル側保護フィルムとする構成に比べ、正面コントラストが低下しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−43812号公報
【特許文献2】特開2002−174729号公報
【特許文献3】特開2004−334168号公報
【特許文献4】特開2007−65452号公報
【特許文献5】特開2009−75471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の問題点を解決し、偏光板の耐湿熱性の向上及び低価格化を実現するとともに、液晶表示装置に適用したときのコントラストの低下を抑制するため、本出願人の出願に係る特願 2010-257937号では、ポリプロピレン系樹脂からなる保護フィルムのヘイズ値を1%以下とし、それを偏光フィルムの一方の面に配置して偏光板とし、そのポリプロピレン系保護フィルムを液晶表示装置における液晶セル側に配置する構成が提案されている。
【0013】
本発明者らは、上記特願 2010-257937号の提案をもとに、偏光フィルムと液晶セルの間にポリプロピレン系樹脂フィルムを配置する構成、特にそのポリプロピレン系樹脂フィルムを、延伸されて光学異方性軸を有する位相差フィルムとする構成について、さらに研究を重ねてきた。その結果、特願 2010-257937号で提案されているように、ポリプロピレン系樹脂フィルムのヘイズ値を1%以下、とりわけ内部ヘイズ値を 0.5%以下とするのが重要であることが確認されたが、その他に延伸前の原反フィルムの内部ヘイズ値も、液晶表示装置に適用したときの正面コントラストに影響することが明らかになってきた。
【0014】
そこで本発明の課題は、耐湿熱性の向上、低価格化、及びコントラスト低下の抑制を実現できる、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムを提供し、さらにはその製造方法を提供することにある。本発明のもう一つの課題は、この位相差フィルムを偏光フィルムと組み合わせ、耐湿熱性の向上、低価格化、及びコントラスト低下の抑制を実現できる複合偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂フィルムからなり、延伸されて光学異方性軸を有する位相差フィルムであって、そのポリプロピレン系樹脂フィルムは、延伸前に3%以下の内部ヘイズを有し、それを延伸することにより内部ヘイズが 0.5%以下となっており、互いの偏光軸を直交させて対向配置された一対の偏光板の間に、当該位相差フィルムをその光学異方性軸が上記一対の偏光板のうち一方の偏光軸と一致するように配置したときに、一方の偏光板の外側に配置された検査用光源から出射され、上記一方の偏光板、位相差フィルム及び他方の偏光板の順に通過する光の透過率が3×10-3%以下である、位相差フィルムが提供される。
【0016】
この位相差フィルムは、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とする他のモノマーとの共重合体で構成することもできる。後者の好適な例として、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンの共重合体からなるフィルムが挙げられる。これらの位相差フィルムは、波長590nmにおける面内レターデーションを20nmから400nmまでの範囲とすることが好ましい。
【0017】
また本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂フィルムを延伸して、位相差フィルムを製造する方法であって、そのポリプロピレン系樹脂フィルムは、延伸前に3%以下の内部ヘイズを有し、それを延伸することによって内部ヘイズが 0.5%以下の位相差フィルムを得る方法も提供される。
【0018】
さらに本発明によれば、上記いずれかの位相差フィルムと、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムとが積層されており、液晶表示装置において、上記の位相差フィルムが液晶セル側となるように配置して用いられる複合偏光板も提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の位相差フィルムは、ポリプロピレン系樹脂で構成されるので、耐熱性に優れるとともに、安価に製造できる。また、この位相差フィルムを偏光フィルムと組み合わせた複合偏光板は、液晶表示装置に適用したときに、正面コントラストの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】互いの偏光軸を直交させて対向配置された一対の偏光板の間に、位相差フィルムをその光学異方性軸が一対の偏光板のうち一方の偏光軸と一致するように配置して、透過率を測定するときの配置例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、ポリプロピレン系樹脂フィルムに延伸を施して、光学異方性軸を発現させ、位相差フィルムとする。
【0022】
[位相差フィルムを構成する材料]
ポリプロピレン系樹脂自体でこの位相差フィルムを構成することができるほか、ポリプロピレン系樹脂を主体とし、それに相溶するか又は均一に分散する他の樹脂が配合された樹脂組成物でこの位相差フィルムを構成することもできる。
【0023】
〈ポリプロピレン系樹脂〉
位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂であってもよいし、プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。これらを併用してもよい。プロピレンの単独重合体は、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体に比べて、結晶化度がより高くなるため、フィルム剛性と降伏強度をより高くすることができる点において有利である。したがって、ポリプロピレン系樹脂として、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂を用いることにより、フィルム作製工程での取り扱い性をより向上させることが可能となる。ここで、実質的にプロピレンの単独重合体とは、プロピレンユニットの含有量が100重量%である重合体のほか、フィルムの生産性向上などを目的として 0.6重量%程度以下の範囲でエチレンユニットを含有するプロピレン/エチレン共重合体も包含するものとする。
【0024】
プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーの1種又は2種以上を少量共重合させたものであることが好ましい。具体的には、このような共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、例えば10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、少なくとも 0.6重量%を超え、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させることがある。一方、コモノマーユニットの含有量が10重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲内となるようにすることが好ましい。
【0025】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、例えば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンの如き不飽和炭化水素であることができる。
【0026】
炭素原子数4〜20のα−オレフィンとして、具体的には例えば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4 );1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5 );1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6 );1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7 );1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8 );1−ノネン(C9 );1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)などが挙げられる。
【0027】
これらα−オレフィンの中でも、炭素原子数4〜12のものが好ましく、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン及び1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテン及び1−ヘキセンがより好ましい。
【0028】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含有量や1−ブテンユニットの含有量は、例えば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行い、求めることができる。
【0029】
位相差フィルムとしての透明度や加工性を上げる観点から、共重合体は、プロピレンを主体とし、それと上記不飽和炭化水素とのランダム共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体であることがより好ましい。プロピレン/エチレンランダム共重合体におけるエチレンユニットの含有量は、上述のとおり、1〜10重量%であることが好ましく、3〜7重量%であることがより好ましい。
【0030】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのいずれであってもよいが、位相差フィルムの耐熱性向上の点から、シンジオタクチック又はアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0031】
位相差フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂は、 JIS K 7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイトI(MVR)の試験方法」に準拠して、温度230℃、荷重 21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、樹脂組成及び膜厚が均一な原反フィルムを作製することができる。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて重合された重合体又は共重合体であってよく、重合用触媒としては、例えば、次のようなものを挙げることができる。
(1)マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物を組み合わせ、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分を組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
【0033】
上記(1)のTi−Mg系固体触媒成分としては、例えば、特開昭 61-218606号公報、特開昭 61-287904号公報、特開平 7-216017 号公報などに記載の触媒系が挙げられる。また、上記(2)の触媒系における有機アルミニウム化合物の好ましい例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが挙げられ、電子供与性化合物の好ましい例としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが挙げられる。さらに、上記(3)のメタロセン系触媒としては、例えば、特許第 2587251号公報、特許第 2627669号公報、特許第 2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、又はキシレンの如き炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0035】
〈他の樹脂成分〉
先述のとおり、ポリプロピレン系樹脂を主体とし、それに相溶するか又は均一に分散する他の樹脂が配合された樹脂組成物で、本発明の位相差フィルムを構成してもよい。そのような樹脂の例として、石油樹脂、とりわけ脂環族飽和炭化水素樹脂を挙げることができる。石油樹脂とは、石油類の熱分解により生成する分解油留分を重合し、固化させた熱可塑性樹脂であって、例えば、C5留分を原料とした脂肪族系石油樹脂;C9留分を原料とした芳香族系石油樹脂;C5留分とC9留分の2種を共重合して得られる共重合系石油樹脂;脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、又は共重合系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂などが挙げられる。
【0036】
上記石油樹脂の中でも、ポリプロピレン系樹脂に配合してヘイズ値の小さい原反フィルムとするためには、脂環族飽和炭化水素樹脂が好ましく用いられる。脂環族飽和炭化水素樹脂は典型的には、芳香族系石油樹脂を水素化して得られる水素化系石油樹脂である。脂環族飽和炭化水素樹脂の添加により、得られる原反フィルム又はそれを延伸して得られる位相差フィルムのヘイズが抑制され、液晶表示装置に配置した場合に、正面コントラストの低下が効果的に抑制される。また脂環族飽和炭化水素樹脂は、無色透明であり、耐候性に優れるという位相差フィルム原料として有利な特性を兼備している。
【0037】
脂環族飽和炭化水素樹脂を配合する場合、その軟化点は110℃以上145℃以下の範囲にあることが好ましい。より好ましい軟化点は、115℃以上135℃以下である。軟化点が110℃より低いと、得られる樹脂フィルムの耐熱性が低下する傾向にあり、また軟化点が145℃を超えると、得られる樹脂フィルムの可撓性が低下する傾向にある。
【0038】
脂環族飽和炭化水素樹脂として、市販品を用いることもできる。このような市販品としては、荒川化学工業(株)から販売されている「アルコン」シリーズが挙げられる。「アルコン」シリーズは、芳香族系石油樹脂を水素化した水素化系石油樹脂である。
【0039】
例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂を 0.1〜30重量%の範囲内で含有するポリプロピレン系樹脂組成物で位相差フィルムを構成することができる。脂環族飽和炭化水素樹脂を配合する効果をより一層発現させるためには、その配合量を3〜20重量%の範囲内とすることが好ましい。先にも述べたとおり、脂環族飽和炭化水素樹脂の配合によりヘイズを抑制する効果を発現することがあるが、その含有量が30重量%を超えると、樹脂フィルムに脂環族飽和炭化水素樹脂の経時的なブリードアウトを生じる懸念がある。
【0040】
以上のとおり、ポリプロピレン系樹脂を主体とし、それに相溶するか又は均一に分散する他の樹脂が配合された樹脂組成物で位相差フィルムを構成する形態も、本発明に包含される。本明細書において、特にことわらずに「ポリプロピレン系樹脂」というときは、このように少量の他の樹脂が配合された組成物の状態も包含するものとする。
【0041】
〈他の任意成分〉
ポリプロピレン系樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。これらの添加剤はそれぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中に例えば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤を用いることもできる。紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドの如き高級脂肪酸アミド、ステアリン酸の如き高級脂肪酸及びその塩などが挙げられる。アンチブロッキング剤は、球状又はそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。
【0043】
造核剤は、無機系造核剤、有機系造核剤のいずれでもよい。無機系造核剤としては、タルク、クレイ、炭酸カルシウムなどが挙げられる。有機系造核剤としては、芳香族カルボン酸の金属塩類や芳香族リン酸の金属塩類の如き金属塩類、高密度ポリエチレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリシクロペンテン、ポリビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも有機系造核剤が好ましく、さらに好ましくは上記の金属塩類及び高密度ポリエチレンである。造核剤の添加量は、位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂(他の樹脂が配合されている場合はその中のポリプロピレン系樹脂自体)の100重量部あたり、 0.01〜3重量部の範囲内であることが好ましく、0.05〜1.5重量部の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
[原反フィルムの製造方法]
以上説明したポリプロピレン系樹脂を任意の方法で製膜することにより、位相差フィルム製造用の原反フィルムとすることができる。このフィルムは、透明で実質的に面内レターデーションのないものである。製膜方法としては、例えば、溶融状態から押出成形する溶融押出法、有機溶剤に溶解させた樹脂溶液を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法、樹脂の板状成形体をプレス成形する方法などを挙げることができる。これらの方法によって、面内レターデーションが実質的にない樹脂フィルムを得ることができる。原反フィルムの厚さは、5〜200μm 程度であることが好ましい。より好ましくは10μm以上であり、またより好ましくは150μm以下である。
【0045】
ポリプロピレン系樹脂に脂環族飽和炭化水素樹脂が配合された樹脂組成物からフィルムを製膜する場合、その樹脂組成物の調製方法は、少なくとも、得られる樹脂組成物中に脂環族飽和炭化水素樹脂が均一に分散される方法であればよい。例えば、ポリプロピレン系樹脂を調製する重合工程における重合反応途中又は重合反応直後の重合反応混合物に脂環族飽和炭化水素樹脂を添加する方法を挙げることができる。脂環族飽和炭化水素樹脂は、溶剤に溶解した溶液の形で添加してもよいし、容易に分散し得るように粉末状に粉砕し、粉体の形で添加してもよいし、加熱して溶融状態で添加してもよい。
【0046】
また、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練しながら脂環族飽和炭化水素樹脂を添加し、さらに溶融混練する方法によっても上記の樹脂組成物を得ることができる。これらの溶融混練は、例えば、リボンブレンダー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ロール、各種ニーダー、単軸押出機、又は二軸押出機の如き混練機を用いて行うことができる。このようにして得られる樹脂組成物は、溶融混練後、冷却することなく溶融状態のままフィルムへの成形加工に供してもよいし、冷却してペレット等の成形物にした後、これを再度加熱してフィルムへの成形加工に供してもよい。また、冷却した後、冷却状態のままプレス成形などの方法によりフィルムに成形することもできる。
【0047】
原反フィルムを製造する好ましい方法の一例として、溶融押出による製膜法について、詳しく説明する。この方法において、ポリプロピレン系樹脂は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融樹脂シートの温度は、180〜300℃程度である。このときの溶融樹脂シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られるフィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、その温度が300℃を超えると、ポリプロピレン系樹脂又はそれを主体とする樹脂組成物が劣化や分解を起こしやすく、シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
【0048】
用いる押出機は、単軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。例えば、単軸押出機を用いる場合は、スクリューの長さLと直径Dの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比(V1/V2)である圧縮比が 1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ又はバリアタイプ、さらにマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点からは、L/Dが28〜36で、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。
【0049】
また、樹脂の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気又は真空にすることが好ましい。さらに、樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下程度のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも有効である。オリフィスを設置して押出機先端部分の樹脂圧力を高めることは、その先端部分での背圧を高めることを意味しており、これによって押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。
【0050】
押出に使用されるTダイは、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融樹脂との摩擦係数が小さい材料でめっき又はコーティングされ、さらにリップ先端が 0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料として、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインの発生を抑制できるので、外観の均一性に優れる樹脂フィルムが得られる。このTダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(A)又は(B)を満たすことが好ましく、さらには条件(C)又は(D)を満たすことがより好ましい。
【0051】
(A)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(B)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(C)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(D)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
【0052】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融樹脂の流れを整えることができ、かつリップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、レターデーションのより均一な樹脂フィルムを得ることができる。
【0053】
樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることも好ましい。また、樹脂中にある異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることも好ましい。
【0054】
Tダイから押出された溶融樹脂シートを、金属製冷却ロール(チルロール又はキャスティングロールとも呼ばれる)に接触させて冷却固化させることにより、所望の樹脂フィルムを得ることができる。この際、Tダイから押出された溶融体と金属製冷却ロールとの密着性を向上させることによって、溶融体の冷却を促進させることができる。そのような方法として、エアーチャンバーなどを用いてフィルム状溶融体をエアで金属製冷却ロールに密着させる方法、ワイヤー状、針状又はバンド状の金属製電極を用いて、フィルム状溶融体を静電的に金属製冷却ロールに密着させる方法、金属製冷却ロールとタッチロールにより挟圧する方法、金属製冷却ロールとその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法などが採用できる。透明性に一層優れる位相差フィルムを得る観点から、原反フィルムを製造するときの金属製冷却ロールの表面温度は、0〜30℃とすることが好ましい。
【0055】
タッチロールを用いる場合、そのタッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合、通常は金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融樹脂シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、溶融樹脂シートとタッチロールとの間に別の熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0056】
溶融樹脂シートを、上記のような冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるにあたり、冷却ロールとタッチロールの表面温度を低くしておき、溶融樹脂シートを急冷することが好ましい。例えば、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融樹脂シートの冷却固化に時間がかかるため、溶融樹脂シート中の結晶成分が成長して、得られるフィルムの透明性を低下させることがある。両ロールの表面温度は、より好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃以下である。一方、ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露が生じて水滴が付着し、フィルムの外観を悪化させる傾向にある。
【0057】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態がフィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸がある場合には、得られるフィルムの厚み精度を低下させる可能性がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は、可能な限り鏡面状態であることが好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して 0.4S以下であることが好ましく、さらには0.1S〜0.2Sであることがより好ましい。
【0058】
金属製冷却ロールに対してニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、旧 JIS K 6301:1995「加硫ゴム物理試験方法」に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であること、さらには70〜80であることが好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融樹脂シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融樹脂のバンク(樹脂溜り)を作ることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0059】
溶融樹脂シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とすることが好ましく、さらには100N/cm以上250N/cm以下とすることがより好ましい。線圧を上記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながらフィルムを製造することが容易となる。
【0060】
金属製冷却ロールとタッチロールの間に、溶融樹脂シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を主体とする溶融樹脂シートと強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルなどを用いることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。このために用いる二軸延伸フィルムの厚さは、通常5〜50μm 程度であり、好ましくは10〜30μm である。
【0061】
この方法においては、Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)を200mm以下とすることが好ましく、160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融樹脂シートは、リップからロールまでの間に引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを上記のように短くすることで、配向のより小さいフィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、及び使用するリップの先端形状により決定され、通常50mm以上である。
【0062】
また、この方法でフィルムを製造するときの加工速度は、溶融樹脂シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融樹脂シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0063】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧された溶融樹脂シートは、ロールとの接触により冷却固化する。そして、必要に応じて端部をスリットした後、巻き取り機に巻き取られる。この際、得られるフィルムを使用するまでの間、その表面を保護するため、その片面又は両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。溶融樹脂シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧した場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0064】
金属製冷却ロールと、その周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法により、原反フィルムを製造する場合は、金属製冷却ロールの周方向に沿って金属製冷却ロールと平行に配置された複数のロールにより、その無端ベルトを保持した状態とすることが好ましい。より好ましくは、厚みが100〜500μm の範囲にある無端ベルトを、直径100〜300mmの2本のロールで保持した状態とされる。
【0065】
以上のようにして、ポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムを作製することができる。先に述べ、また後で詳しく説明するとおり、本発明において原反フィルムは、その内部ヘイズ値が3%以下となるようにする。原反フィルムの段階でヘイズ値を抑制するための方法として、(E)プロピレンとプロピレン以外の不飽和炭化水素とをランダム共重合させたポリプロピレン系樹脂を用いる方法、(F)ポリプロピレン系樹脂に造核剤を添加する方法、(G)溶融押出の際の金属製冷却ロールの冷却効率を高めて製膜する方法などが挙げられる。これらの方法を適宜組み合わせて、フィルムのヘイズ値が低くなるようにする。
【0066】
(E)ランダム共重合体を用いることによるヘイズ抑制
上記のランダム共重合体を用いることでヘイズ値を抑制する場合は、プロピレンを主体として任意の不飽和炭化水素とのランダム共重合体を用いればよい。ランダム共重合体の具体例として、プロピレン/エチレンランダム共重合体、プロピレン/1−ブテンランダム共重合体、プロピレン/1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/1−オクテンランダム共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテンランダム共重合体などが挙げられるが、その中でも特に、エチレンとの共重合体が好ましい。共重合体を用いる場合、プロピレン以外の不飽和炭化水素類は、その共重合割合を1〜10重量%程度の範囲内とすることが好ましく、さらには2〜8重量%の範囲内とすることがより好ましい。プロピレン以外の不飽和炭化水素類のユニットを1重量%以上とすることで、加工性や透明性が向上する傾向にある。ただし、その割合があまり多くなると、樹脂の融点が下がり、耐熱性が悪化する傾向にある。なお、2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含量が、上記範囲内となるようにすることが好ましい。
【0067】
(F)造核剤添加によるヘイズ抑制
ポリプロピレン系樹脂に造核剤を添加して製膜し、ヘイズ値の低いフィルムを製造する場合、そのために用いる造核剤は、先に任意成分として説明した各種の無機系造核剤又は有機系造核剤であることができ、もちろん複数種を併用することもできる。中でも有機系造核剤が好ましく、さらに好ましくは、芳香族カルボン酸の金属塩類や芳香族リン酸の金属塩類の如き金属塩類、又は高密度ポリエチレンである。またその添加量も、先に説明したとおりである。造核剤の添加方法は、均一に分散できるものであれば特に制限されず、通常の方法で添加することができる。例えば、ポリプロピレン系樹脂を製造する重合工程において、重合反応途中又は重合反応終了直後の重合反応混合物に造核剤を添加すればよい。造核剤は、溶剤に溶解した溶液の形で添加してもよいし、容易に分散し得るように粉末状に粉砕した状態で添加してもよいし、加熱して溶融状態で添加してもよい。
【0068】
(G)溶融押出の際の急冷によるヘイズ抑制
本発明に用いる原反フィルムは、先述のとおり、Tダイから押し出された溶融樹脂シートを、金属製冷却ロールと、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間で挟圧し、冷却固化させる方法により、製造することができる。この際、ヘイズ値を抑制する観点から、タッチロールの表面温度を低くしておき、溶融樹脂シートを急冷することが好ましい。例えば、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融樹脂シートの冷却固化に時間がかかるため、樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られるフィルムは透明性に劣るものとなることがある。一方、ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面が結露して水滴が付着し、得られるフィルムの外観を悪化させる傾向にある。
【0069】
さらに、上記溶融樹脂シートの膜厚を薄くすることも有効である。膜厚を薄く制御することによってヘイズ値が小さくなると同時に、金属製冷却ロールによる冷却効率を高めることができるからである。その際、上記溶融樹脂シートの押出量は任意に選択することができる。
【0070】
[位相差フィルムの光学特性]
本発明では、延伸後の位相差フィルムの内部ヘイズを 0.5%以下とすることが、その位相差フィルムを偏光フィルムと組み合わせて液晶表示装置に適用したときの正面コントラストの低下を抑制するうえで重要であるが、延伸前の原反フィルムの内部ヘイズも、同じく正面コントラストに影響することが見出された。
【0071】
すなわち、樹脂フィルムは一般に、延伸によって透明性が増し、全ヘイズ及び内部ヘイズとも低下する傾向にあり、後述する実施例及び比較例に示すとおり、延伸前に4%程度の内部ヘイズを示すフィルムであっても、延伸によってその内部ヘイズを 0.5%以下にまで下げられる場合がある。しかしこの場合には、3%以下の内部ヘイズを有する原反フィルムを延伸して内部ヘイズを 0.5%以下にしたフィルムに比べ、偏光フィルムと組み合わせて液晶表示装置に適用したときの正面コントラストを低下させる傾向にあることが明らかになった。また、全ヘイズよりも内部ヘイズのほうが、正面コントラストへの影響に直結することも明らかになってきた。そこで本発明では、延伸前の原反フィルムは内部ヘイズが3%以下のものとし、それを延伸することによって内部ヘイズが 0.5%以下となるようにする。延伸後の内部ヘイズが 0.5%を超えると、やはり正面コントラストを低下させる方向に働く。
【0072】
延伸前の原反フィルムの内部ヘイズが 0.5%以下であれば、延伸後も内部ヘイズは概ね0.5%以下となるが、延伸前原反フィルムの内部ヘイズが0.5%を超えていても、延伸によって内部ヘイズを 0.5%以下とすることができる。ただ、延伸前原反フィルムの内部ヘイズが3%を超えている場合には、たとえ延伸後に 0.5%以下の内部ヘイズを示すようになっても、正面コントラストが低下しやすくなる。
【0073】
この位相差フィルムはまた、互いの偏光軸を直交させて対向配置された一対の偏光板の間に、その光学異方性軸が上記一対の偏光板のうち一方の偏光軸と一致するように配置したときに、一方の偏光板の外側に配置された検査用光源から出射される光を、上記一方の偏光板、位相差フィルム及び他方の偏光板の順に通過させたときの透過率が3×10-3%以下となるようにする。一対の偏光板を互いの偏光軸が直交するように配置することは、クロスニコル配置とも呼ばれる。
【0074】
ここで、偏光板の偏光軸は、面内の吸収軸又は透過軸を意味するが、一対の偏光板について同じ軸を偏光軸とすべきであり、具体的には、吸収軸なら吸収軸が直交するように、また透過軸なら透過軸が直交するように配置する。そして、1枚の偏光板において吸収軸と透過軸は面内で直交する関係にあるので、2枚の偏光板の吸収軸を直交させて配置することと、透過軸を直交させて配置することは、同じ配置状態となる。一方、位相差フィルムの光学異方性軸は、面内の遅相軸又は進相軸を意味する。そして、1枚の位相差フィルムにおいて遅相軸と進相軸は面内で直交する関係にあるので、位相差フィルムの遅相軸を一方の偏光板の吸収軸と一致するように配置することは、位相差フィルムの進相軸を他方の偏光板の吸収軸と一致するように配置することと同じ意味になる。
【0075】
かかる配置状態で透過率を測定する場合の例を図1に模式的な斜視図で示した。この図では、偏光板の吸収軸が偏光軸を意味し、位相差フィルムの遅相軸が光学異方性軸を意味するものとして表示している。すなわち、一対の偏光板20,25(第一の偏光板20及び第二の偏光板25とする)を、それぞれの吸収軸(偏光軸)22,27が直交するように配置し、両者の間に位相差フィルム10をその遅相軸(光学異方性軸)12が第二の偏光板25の吸収軸(偏光軸)27と一致するように配置している。そして、第一の偏光板20の外側に配置された検査用光源30から出射される光が、第一の偏光板20、位相差フィルム10、及び第二の偏光板25の順に通過し、検出器40に達するようになっている。検出器40で検出される透過光の強度から、透過率が求められる。図1には、わかりやすくするため、第一の偏光板20、位相差フィルム10、及び第二の偏光板25をそれぞれ離間した状態で示しているが、実際の透過率測定は、位相差フィルム10の両面に第一の偏光板20及び第二の偏光板30をそれぞれ密着させた状態で行われることが多い。
【0076】
互いの偏光軸22,27を直交させて対向配置された一対の偏光板20,25の間に位相差フィルム10を配置したときの透過率は、その位相差フィルムの存在による偏光解消の度合いを意味する。位相差フィルム10の光学異方性軸12が、一方の偏光板の偏光軸とある角度をもって交わるように配置した場合には、第一の偏光板20を透過した直線偏光が、位相差フィルム10を透過するときに直線偏光以外の楕円偏光になるので、第二の偏光板25を透過しやすくなり、透過率が上がる。そのため、位相差フィルム10は、その光学異方性軸12が一方の偏光板20又は25の偏光軸と一致し、他方の偏光板25又は20の偏光軸とは直交するように配置される。
【0077】
このように、位相差フィルム10の光学異方性軸12が一方の偏光板20又は25の偏光軸と一致し、他方の偏光板25又は20の偏光軸とは直交するように配置しても、その位相差フィルムの存在によって多少の偏光解消が起こりうる。ただ、その偏光解消の度合いを小さくすることにより、その位相差フィルムを偏光フィルムと組み合わせて液晶表示装置に適用したときの正面コントラストの低下を抑えることができる。
【0078】
上述のとおり、図1に示す配置で測定される透過率が3×10-3%以下となる位相差フィルムであれば、正面コントラストの低下を抑えることができる。この透過率3×10-3%以下は、可視光の中心付近の波長、例えば500〜650nmの波長範囲にわたって満たされることが好ましいが、後述する実施例では、610nmの波長で測定した。この透過率測定に用いる一対の偏光板は、直交透過率、すなわち、図1に示す配置から位相差フィルム10を抜いた状態で、2枚の偏光板20,25をそれぞれの偏光軸が直交するように重ねて測定される透過率が、高くても10-4%程度となるような、偏光度の高いものとする必要がある。その偏光度は、99.99%以上、さらには99.995%以上であることが好ましい。
【0079】
延伸前の原反フィルムが、3%以下の内部ヘイズを示すものであれば、それを延伸して内部ヘイズが 0.5%以下となるようにすることにより、上記の透過率が概ね3×10-3%以下となる。
【0080】
また、互いの偏光軸を直交させて対向配置された一対の偏光板の透過率、すなわち直交透過率に対する、それら一対の偏光板の間に位相差フィルム10をその光学異方性軸が一方の偏光板の偏光軸と一致するように配置して測定される透過率、すなわち図1のように配置して測定される透過率の増加割合をもって、その位相差フィルム10の存在による偏光解消の度合いとすることもできる。この場合、上のように定義される透過率の増加割合が30倍以下、とりわけ25倍以下となるようにするのが好ましい。
【0081】
[位相差フィルムの製造方法]
次に、先述のようにして得られるポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを延伸して、位相差フィルムを製造する方法について説明する。この場合、延伸は、一軸延伸、二軸延伸など、公知の方法によって行うことができる。ただ本発明においては、延伸前に3%以下の内部ヘイズを有するものを原反フィルムとし、それを延伸することによって内部ヘイズが 0.5%以下となるようにする。
【0082】
ポリプロピレン系樹脂フィルムに延伸を施すことにより、延伸倍率の大きい方向に遅相軸を生じ、その面内レターデーションが大きくなる。ここで、面内レターデーションR0 は、フィルムの面内遅相軸方向(面内で屈折率が最大の方向)の屈折率をnx 、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny 、そして厚みをdとしたときに、下式:
0=(nx−ny)×d
で定義される。
【0083】
延伸によって得られる位相差フィルムは、その面内レターデーションが400nm以下であることが好ましく、さらには150nm以下、とりわけ100nm以下であることがより好ましい。また、位相差フィルムの面内レターデーションは、20nm以上とすることが好ましい。この範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、レターデーション値を適宜選択すればよい。面内のレターデーションは、より好ましくは40nmから150nmであり、さらに好ましくは40nmから100nmである。ここでいう面内レターデーションは、可視光の中心付近の波長、例えば500〜650nm程度の波長で測定される値でありうるが、後述する実施例では、波長590nmにおける値を採用した。
【0084】
ポリプロピレン系樹脂は、延伸により位相差が発現しやすく、したがって、上に示した式 R0=(nx−ny)×dにおけるnxとnyの差が大きくなりやすい。そこで、このようなポリプロピレン系樹脂フィルムを延伸したものは、厚みdを小さくしても、適度な延伸によって所望のレターデーション値を発現することができる。そのため、本発明で規定するポリプロピレン系樹脂からなり、延伸されて光学異方性軸が発現された位相差フィルムは、その厚みが60μm 以下でよい。ただし、あまり薄すぎるとハンドリング性の低下などが起こりやすいことから、5μm 以上であるのが好ましい。この位相差フィルムの厚みは、10μm以上、また40μm以下であるのがより好ましい。
【0085】
延伸によって、原反フィルムに比べ、ヘイズ値を顕著に低下させることができる場合がある。例えば、原反フィルムの内部ヘイズ値が5%前後であっても、延伸を施すことによって、得られるフィルムの内部ヘイズ値を 0.5%以下とすることができる。ただし本発明においては、先述したとおり、原反フィルムの内部ヘイズ値が3%を上回ると、たとえ延伸後の位相差フィルムが 0.5%以下の内部ヘイズ値を示すようになっても、それを偏光フィルムと組み合わせて液晶表示装置に適用したときの正面コントラストが低下しやすくなるので、原反フィルムは3%以下の内部ヘイズ値を与えるものとする。
【0086】
位相差フィルムは、先に説明した原反フィルムに、一軸延伸、二軸延伸など公知の延伸処理を施すことにより製造できる。二軸延伸は、二つの延伸方向(一般には面内で直交する方向)に同時に延伸する同時二軸延伸であってもよいし、所定方向に延伸した後で他の方向(一般には最初の延伸方向と面内で直交する方向)に延伸する逐次二軸延伸であってもよい。延伸方向は、例えば、原反フィルムの機械流れ方向(MD)、これに直交する方向(TD)、又は機械流れ方向(MD)に斜交する方向でありうる。
【0087】
〈固定端延伸〉
位相差フィルムは、先に説明した原反フィルムに直接、固定端延伸を施すことにより、あるいは、原反フィルムに対して、他の延伸処理と固定端延伸とを施すことにより、作製することができる。ここで固定端延伸とは、延伸されるべきフィルムの幅方向両端を固定しておき、固定された両端間の距離を広げながらフィルムに熱を与えることにより、広げた方向にフィルムを延伸する方法である。
【0088】
他の延伸処理と固定端延伸とを施す製造方法の好ましい例としては、原反フィルムに対して自由端延伸と固定端延伸とを逐次的に施す方法が挙げられる。ただし、この例に限定されるものではなく、後述する特定条件の固定端延伸処理がなされる限りにおいて、原反フィルムに対し任意の延伸処理を施すことができる。
【0089】
光学的に均一性の高い位相差フィルムが得られやすいことから、固定端延伸は、固定端横延伸によって行うことが好ましい。代表的な固定端横延伸の方法として、テンター法が挙げられる。テンター法は、フィルム幅方向の両端をチャックで固定し、そのチャック間隔を広げながらオーブン中で延伸する方法である。
【0090】
通常、固定端横延伸は、以下の工程をこの順に有する:
(i)樹脂フィルムの融点付近の温度でそのフィルムを予熱する予熱工程;
(ii)予熱されたフィルムを横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸する延伸工程;及び
(iii)横方向に延伸されたフィルムを熱固定する熱固定工程。
【0091】
テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)は、予熱工程を行うゾーン、延伸工程を行うゾーン、及び熱固定工程を行うゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えることが好ましい。このようなテンター延伸機を用いて固定端横延伸を行うことにより、光学的に均一性の高い位相差フィルムを得ることができる。
【0092】
固定端横一軸延伸における延伸倍率は、 1.1〜10倍とすることが好ましい。この範囲の横延伸倍率を採用することにより、光学的な均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0093】
〈自由端延伸〉
上述した固定端延伸以外に、自由端延伸などの他の延伸処理を施して位相差フィルムを製造することもできる。自由端延伸としては、自由端一軸延伸が好ましく用いられ、より好ましくは自由端縦一軸延伸が用いられる。自由端縦一軸延伸とは、一対の延伸ローラ間に延伸されるべきフィルムを支持する方法など、延伸中のフィルムに接触して幅方向の動きを抑制する搬送ローラや支持用平板、支持用ベルト等の部材がなく、フィルムが幅方向に自由に収縮・拡張できる状態で縦延伸する方法である。
【0094】
自由端縦一軸延伸には、二つ以上のロールの回転速度差によりフィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法がある。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロールとその間に配置されたオーブンを有する縦延伸機を用い、このオーブン中でフィルムを加熱しながら、上記二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。これらの方法の中でも、光学的に均一性の高いフィルムが得られやすいことから、ロングスパン縦延伸法が好ましく、とりわけ、エアーフローティング方式のオーブンを用いたロングスパン縦延伸法がより好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、内部に導入されたフィルムの両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造を有するオーブンである。エアーフローティング方式のオーブンには通常、複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されており、フィルムは、上部ノズルと下部ノズルのいずれにも接触しない状態でオーブン内を通過することにより延伸される。
【0095】
自由端縦一軸延伸における延伸倍率は、 1.1〜2倍とすることが好ましい。この範囲の縦延伸倍率を採用することにより、その後の固定端横延伸工程を経て、光学的な均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0096】
〈斜め延伸〉
上述したように、原反フィルムを機械流れ方向(MD)に対して斜交する方向に斜め延伸する方法により、位相差フィルムを製造することもできる。この斜め延伸においても、上の固定端横延伸について説明したテンター延伸機などを使用することができる。斜め延伸では、フィルム幅方向の両端をチャックで固定したフィルムを、両端の移動速度や移動距離に差を設けることでフィルムをMDと斜交する方向に延伸する。
【0097】
この斜め延伸処理の一例を説明する。この例では、テンター法における延伸工程において、原反フィルムをMDと斜交する方向に延伸する。斜め延伸における延伸工程は、斜め延伸用のテンター延伸機により行われる。このテンター延伸機は、延伸工程におけるフィルム走行方向が予熱工程から送られるフィルムの走行方向から所定角度傾いた状態となっている。延伸工程では、そこを経て送り出される斜め延伸フィルムの送り出し速度を、その斜め延伸装置に送り込まれる原反フィルムの送り込み速度よりも大きくする。そして、斜め延伸装置内では、原反フィルムの送り方向に直交する方向(幅方向)における一端の移動速度を他端の移動速度よりも大きくする。斜め延伸処理の具体的な方法については、特開 2004-258508号公報や国際公開第 2007/061105号パンフレットなどに記載されている方法を参考にすることができる。
【0098】
〈位相差フィルムの製造方法のまとめ〉
本発明で規定する位相差フィルムは、必要とするレターデーション値が得られるよう、前記した延伸方法を適宜選択して作製すればよい。もちろん、これらを適宜組み合わせることもでき、例えば前述したとおり、自由端縦一軸延伸と固定端横一軸延伸を組み合わせて逐次二軸延伸する方法は、好ましいものの一つである。位相差フィルムにおいては、フィルムの横方向に遅相軸を発現させてもよいし、縦方向に遅相軸を発現させてもよい。
【0099】
[複合偏光板]
以上説明した本発明の位相差フィルムは、偏光フィルム又は偏光板と組み合わせて、液晶表示装置の構成要素に用いられる。偏光フィルムは一般に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、ヨウ素又は二色性有機染料からなる二色性色素を吸着配向させることにより、所定の偏光特性を付与したものであり、その配向は一軸延伸によって行われる。こうして得られる偏光フィルムだけでは、延伸方向に避けやすいため、その少なくとも片面に透明樹脂からなる保護フィルムを貼合して偏光板とされる。
【0100】
そして、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼合された状態の偏光板に、上で説明した位相差フィルムを積層し、複合偏光板、すなわち位相差フィルム付き偏光板とすることもできる。一方で、この位相差フィルムを、偏光板保護フィルムの役割も兼ねて、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムに直接貼合し、複合偏光板とすることもでき、この形態は複合偏光板を薄くするうえで有効である。この場合は、偏光フィルムの位相差フィルムが貼合される側と反対側の面には、別の保護フィルムを貼合することが多い。
【0101】
偏光フィルムへの位相差フィルムの貼合、また別の保護フィルムの貼合には、接着剤が用いられる。例えば、エポキシ化合物を硬化性成分とする光硬化型接着剤、特に紫外線硬化型接着剤は、好ましい接着剤の一つである。ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を接着剤とすることもできる。
【0102】
このように構成される複合偏光板は、液晶表示装置において、その位相差フィルムが液晶セル側となるように配置して用いられる。すなわち、その位相差フィルムは、液晶セルの光学補償又は液晶表示装置の視野角補償を目的として配置される。この複合偏光板は、液晶表示装置の液晶セルより視認側に配置して用いることもできるし、液晶セルよりバックライト側に配置して用いることもできる。液晶表示装置には、液晶セルに近い方から、ポリプロピレン系樹脂からなり、内部ヘイズ値が 0.5%以下の位相差フィルム、及び偏光フィルムがこの順で位置するように、複合偏光板が配置される。液晶セルの両側に本発明の複合偏光板を配置する構成、また、液晶セルの一方の側に本発明の複合偏光板を配置し、他方の側には本発明で規定する位相差フィルムとは異なる樹脂からなる保護フィルム又は位相差フィルムを有する偏光板を配置する構成も有効である。後者の場合、どちらが視認側になっても構わない。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。また、フィルムの面内レターデーション値及び内部ヘイズ値は、それぞれ次に示す方法で測定した。
【0104】
フィルムの面内レターデーション値:
位相差測定装置“KOBRA-WR”〔王子計測機器(株)製〕を用いて、測定波長590nmで面内のレターデーション値R0を測定した。
【0105】
フィルムの内部ヘイズ値:
直読ヘイズコンピューター“HGM-2DP”〔スガ試験機(株)製〕 を用いて、流動パラフィンにフィルムを浸した状態でヘイズ値を測定した。
【0106】
[実施例1]
(a)位相差フィルムの作製
マグネシウム、チタン及びハロゲンを必須成分とする固体のチーグラー・ナッタ系触媒を用いて気相重合法で連続的に重合されたプロピレン−エチレンランダム共重合体(プロピレン由来の構成単位を 95.4%含み、融点138℃、結晶化度52%のもの)をポリプロピレン系樹脂として用いた。シリンダー温度を250℃とした75mmφ押出機にこのポリプロピレン系樹脂を投入して溶融混練し、その押出機に取り付けられた1,250mm 幅Tダイより押出した。押出された溶融ポリプロピレン系樹脂を、20℃に温度調節した400mmφのキャスティングロールで冷却し、厚さ90μm の原反フィルムを作製した。得られたフィルムは、面内レターデーション値が0.7nmであり、内部ヘイズ値が0.3%であった。こうして得られた厚さ90μm の原反フィルムに逐次二軸延伸を施して、厚さ14μm の二軸性位相差フィルムを作製した。この位相差フィルムは、面内レターデーション値が55nmであり、内部ヘイズ値が0.1%であった。
【0107】
(b)紫外線硬化型接着剤の調製
ジャパンエポキシレジン(株)から入手した水素化エポキシ樹脂である商品名“エピコート YX8000” (核水添ビスフェノールAのジグリシジルエーテルであって、約205g/当量のエポキシ当量を有するもの)10部、及び日本曹達(株)から入手した光増感剤である商品名“CS7001”1部を混合し、脱泡して、エポキシ樹脂を含有する硬化性樹脂組成物からなる紫外線硬化型接着剤を調製した。
【0108】
(c)複合偏光板の作製
まず、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素を吸着配向させた偏光フィルムの片面に、上記(b)に示した紫外線硬化型接着剤を介してトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを貼合した。別途、上記(a)に示したポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムの片面に、積算照射量1,680J/m2 の条件でコロナ放電処理を施し、このコロナ放電処理から30秒以内に、そのコロナ処理面を、偏光フィルムのトリアセチルセルロースフィルムが貼合された側と反対側の面に、上記(b)に示した紫外線硬化型接着剤を介して貼合した。位相差フィルムは、その遅相軸を偏光フィルムの吸収軸と直交させて配置した。その後、紫外線照射システム(Fusion UV Systems 社製)を用いて、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム側から、出力1,000mW/cm2、照射量500mJ/cm2 の条件で紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。こうして、偏光フィルムの片面にトリアセチルセルロースからなる保護フィルムが、他面にはポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムが、それぞれ上記紫外線硬化型接着剤を介して積層された複合偏光板を得た。
【0109】
[実施例2]
キャスティングロールの温度を23℃に調節し、その他は実施例1の(a)前半に準じて原反フィルムを作製した。得られたフィルムは、面内レターデーション値が10nmであり、内部ヘイズ値が2.3%であった。こうして得られた厚さ90μmの原反フィルムに、実施例1の(a)後半に準じて逐次二軸延伸を施し、厚さ14μm の二軸性位相差フィルムを作製した。この位相差フィルムは、面内レターデーション値が68nmであり、内部ヘイズ値が 0.1%であった。この位相差フィルムを用いる以外は、実施例1の(c)と同様にして複合偏光板を作製した。
【0110】
[比較例1]
キャスティングロールの温度を28℃に調節し、その他は実施例1の(a)前半に準じて原反フィルムを作製した。得られたフィルムは、面内レターデーション値が13nmであり、内部ヘイズ値が4.2%であった。こうして得られた厚さ90μmの原反フィルムに、実施例1の(a)後半に準じて逐次二軸延伸を施し、厚さ14μm の二軸性位相差フィルムを作製した。この位相差フィルムは、面内レターデーション値が59nmであり、内部ヘイズ値が 0.1%であった。この位相差フィルムを用いる以外は、実施例1の(c)と同様にして複合偏光板を作製した。
【0111】
[評価試験]
(a)クロスニコル配置された一対の偏光板間に位相差フィルムを置いたときの透過率
日本分光(株)製の“V-7100”型紫外可視分光光度計に連結した試料室の光路上に、2枚の偏光板をクロスニコル状態となるように設置した。このとき、この分光光度計に標準装備されている偏光プリズムは設置しなかった。この状態で2枚の偏光板を通過した光の透過率(偏光板の直交透過率に相当する)は、波長610nm において1.0×10-4%であった。ここで用いた2枚の偏光板は、いずれも波長610nm において99.998%の偏光度を与えるものである。
【0112】
次に、2枚の偏光板の間に、各例で作製した位相差フィルムのサンプルを挿入し、位相差フィルムの遅相軸が光の出口側偏光板の吸収軸と平行となるように配置した。この状態で、波長610nmにおける光の透過率を測定し、その結果を表1の「透過率」の欄に示した。また、位相差フィルムを配置せず、2枚の偏光板をクロスニコル配置しただけの状態における透過率(1.0×10-4%=直交透過率) に対する、位相差フィルムを配置したときの透過率の増加割合を、表1の「透過率増加割合」の欄に示した。
【0113】
(b)液晶表示装置に複合偏光板を実装したときの評価
ソニー(株)製の液晶表示装置“BRAVIA KDL-40F1 ”(対角寸法40インチ)から視認側及びバックライト側の偏光板を剥がし、それらの代わりに、実施例1及び2並びに比較例1で作製したそれぞれの複合偏光板を、液晶セルに近い側から順に、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム、偏光フィルム及びトリアセチルセルロース保護フィルムとなるように、オリジナルの偏光板と同じ軸方向で貼り付けた。そして、ディスプレイ正面から見たときの白輝度及び黒輝度(単位はそれぞれcd/m2)を、(株)トプコン製の輝度計“SR-UL1”により測定し、それらに基づいてコントラスト比(=白輝度/黒輝度)を求めた。その結果を表1に示した。なお、コントラスト比は有効数字3桁で表示した。
【0114】
【表1】

【0115】
表1からわかるように、実施例1及び2で作製した複合偏光板は、液晶表示装置に適用したときの正面のコントラスト比が約3700という高い値を与えた。すなわち、実施例1及び2の複合偏光板は、液晶表示装置に適用したときに黒表示時の光散乱が少なく、黒輝度が低いために、正面コントラスト低下を抑えることができる。一方、比較例1で作製した複合偏光板からは、高い値のコントラスト比が得られなかった。
【符号の説明】
【0116】
10……位相差フィルム、
12……位相差フィルムの遅相軸(光学異方性軸)、
20,25……偏光板、
22,27……偏光板の吸収軸(偏光軸)、
30……検査用光源、
40……検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂フィルムからなり、延伸されて光学異方性軸を有する位相差フィルムであって、
前記ポリプロピレン系樹脂フィルムは、延伸前に3%以下の内部ヘイズを有し、それを延伸することにより内部ヘイズが0.5%以下となっており、
互いの偏光軸を直交させて対向配置された一対の偏光板の間に、前記位相差フィルムをその光学異方性軸が前記一対の偏光板のうち一方の偏光軸と一致するように配置したときに、一方の偏光板の外側に配置された検査用光源から出射され、前記一方の偏光板、前記位相差フィルム及び他方の偏光板の順に通過する光の透過率が3×10-3%以下であることを特徴とする、
位相差フィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂フィルムは、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンの共重合体からなる、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
面内レターデーションが20nmから400nmまでの範囲にある、請求項1又は2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂フィルムを延伸して、位相差フィルムを製造する方法であって、
前記ポリプロピレン系樹脂フィルムは、延伸前に3%以下の内部ヘイズを有し、
それを延伸することによって内部ヘイズが 0.5%以下の位相差フィルムを得ることを特徴とする、
位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルムと、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムとが積層されており、液晶表示装置において、前記位相差フィルムが液晶セル側となるように配置して用いられることを特徴とする、複合偏光板。

【図1】
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【公開番号】特開2013−11799(P2013−11799A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145485(P2011−145485)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】