説明

位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板及び液晶表示装置

【課題】本発明の目的は、散乱光強度差が小さく、液晶表示装置に用いた際に湿熱サイクル試験による正面コントラストの低下の少ない位相差フィルムを提供することにある。更に、該位相差フィルムの製造方法、該位相差フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【解決手段】(メタ)アクリル系樹脂を含む層と、正の複屈折性樹脂を含む層とをそれぞれ少なくとも一層以上積層してなる位相差フィルムであって、ゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定において、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する場合に、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とする位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板及び液晶表示装置に関し、より詳しくは散乱光強度差が小さく、液晶表示装置に用いた際に湿熱サイクル試験によるコントラストの低下の少ない位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には光学補償用の位相差フィルムが使用されており、例えば一層の熱可塑性樹脂フィルムからなるものや、熱可塑性樹脂フィルム上に液晶層を形成させたもの、また複数の異なる樹脂を積層したフィルムなどが用いられている。複数の樹脂を積層する例として、基材フィルム上に正の複屈折樹脂層を積層したフィルムが提案されている。この基材フィルムとしては種々の樹脂が考えられるが、例えば特許文献1、2にはアクリル樹脂上に積層することが提案されている。しかし、一般的なアクリルであるPMMA(ポリメチルメタクリレート)や記載されている樹脂を用いて位相差フィルムを作成し、液晶表示装置に実装したところ、湿熱サイクル試験によるコントラストの低下が著しいという問題点があることがわかった。
【特許文献1】特開2004−212971号公報
【特許文献2】特開2005−55601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って本発明の目的は、散乱光強度差が小さく、液晶表示装置に用いた際に湿熱サイクル試験によるコントラストの低下の少ない位相差フィルムを提供することにある。更に、該位相差フィルムの製造方法、該位相差フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0005】
1.(メタ)アクリル系樹脂を含む層と、正の複屈折性樹脂を含む層とをそれぞれ少なくとも一層以上積層してなる位相差フィルムであって、ゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定において、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する場合に、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とする位相差フィルム。
【0006】
2.前記(メタ)アクリル系樹脂がラクトン環構造を有することを特徴とする前記1に記載の位相差フィルム。
【0007】
3.前記ラクトン環構造が、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造であることを特徴とする前記2に記載の位相差フィルム。
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;尚、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
4.前記正の複屈折性樹脂が、ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選択される少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする前記1に記載の位相差フィルム。
【0010】
5.前記1〜4のいずれか一項に記載の位相差フィルムを少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【0011】
6.前記5に記載の偏光板を液晶セルの少なくとも一方の面に有することを特徴とする液晶表示装置。
【0012】
7.前記1〜3のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル系樹脂を含むフィルム上に、前記4に記載の正の複屈折性樹脂を含む層を塗工してなる積層フィルムを、120℃以上で少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、散乱光強度差が小さく、液晶表示装置に用いた際に湿熱サイクル試験によるコントラストの低下の少ない位相差フィルムを提供することができ、且つ偏光板、液晶表示装置に組み込んだ際に安定で高い正面コントラストを付与可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の位相差フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂を含む層と、正の複屈折性樹脂を含む層とをそれぞれ少なくとも一層以上積層してなる位相差フィルムであって、ゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定において、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する場合に、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とし、該構成により散乱光強度差が小さく、液晶表示装置に用いた際に湿熱サイクル試験による正面コントラストの低下の少ない位相差フィルムを得るという本発明の目的を実現できるものである。
【0016】
本発明でいう湿熱サイクル試験とは位相差フィルムの経時保存中での光学特性の変動をモニターする為の試験である。該湿熱サイクル試験の手順は特に限定されるものではないが、例えば、湿度80%、温度60℃の環境に1時間、次いで温度−20℃の環境に1時間試料フィルムを部材として有する液晶表示装置を置くことを1サイクルとし、これを100〜300サイクル繰り返した液晶表示装置を用いて下記正面コントラストを測定することで、上記位相差フィルムの耐久性を評価することができる。上記環境試験は温度、湿度を自動制御できる市販の恒温恒湿機を用いて行う。
【0017】
正面コントラストの評価は、本発明に係る位相差フィルムを装着した偏光板を液晶表示装置に組み込み、23℃55%RHの環境で、ELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、該液晶表示装置の白表示と黒表示の表示画面の法線方向からの輝度を測定し、その比を正面コントラストとして求めることができる。
【0018】
正面コントラスト=(表示装置の法線方向から測定した白表示の輝度)/(表示装置の法線方向から測定した黒表示の輝度)
本発明者らは上記課題に対し鋭意検討した結果、位相差フィルムにおいて湿熱サイクル試験による正面コントラストの低下を生じる機構を以下のように推測した。
【0019】
1.位相差フィルムが、高温高湿下に置かれると延伸によって生じた空隙に水分を含み膨潤する。
【0020】
2.膨潤した状態で急冷され、分子間に微細な氷が発生し、空隙を広げる。
【0021】
3.再び高温高湿下に戻すと、氷は溶けるが空隙が残る。
【0022】
4.空隙ができると更に水を含みやすくなり、湿熱サイクル試験によってその空隙は大きくなりコントラスト低下の原因となる。
【0023】
本発明者らは更に検討を重ね、上記空隙が大きいことを散乱光強度差によって検出できるのではと仮定した。その結果、延伸による空隙の発生を抑制し散乱光強度差を小さくすれば湿熱サイクル試験による正面コントラストの低下を防止出来ることを見出したものである。本発明者らは、延伸による空隙の発生を抑制する手段として(メタ)アクリル系樹脂、特にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂からなる基材を用いて120℃以上の高温で延伸することが有効であることを見出したものである。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
〈ゴニオフォトメーターにより測定される散乱光〉
本発明の位相差フィルムは、延伸処理をしても、ゴニオフォトメーターによって測定された散乱光が、一定の範囲にあることを特徴とする。
【0026】
正面コントラストを改良するには、フィルムのヘイズを低下させることが必要であるとされてきたが、直進光に対応するヘイズを低減するだけでは、必ずしも正面コントラストを改良することはできないこと、むしろ異方性散乱を排除することが必要であることを見出した。異方性散乱とは、フィルムの遅相軸方向とそれに直行する方向での散乱光強度の差をいう。この異方性散乱は、ゴニオフォトメーターにより測定される。
【0027】
(異方性散乱の測定装置)
図1にゴニオフォトメーター(型式:GP−1−3D、オプテック(株)製)の概略を示す。G1.光源ランプ、G2.分光器、G3.試料台(ステージともいう)、G4.試料(不記載)、G5.受光部分である。
【0028】
光源は、12V50Wハロゲン球、受光部は、光電子増倍管(フォトマル 浜松フォトニクス R636−10)を用いている。
【0029】
(a)は基準光を測定するリファレンス測定或いは透過率測定時における、光源ランプ、分光器、試料台(ステージ)、光の強度を計測する積分球の配置を示す。
【0030】
(b)は測定サンプルを試料台に載せてその反射率測定時における、光源ランプ、分光器、試料台、積分球の配置を示す。
【0031】
試料台は通常は測定サンプル縦掛け式となっていて押え金具で測定サンプルを固定し、その台の下部は角度割出回転テーブルとなっており、試料面と入射面の角度を変えて透過率、反射率を測定することができる構造である。
【0032】
本発明に係る異方性散乱光強度は、(a)の配置で測定することができる。つまり、ゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定とは、ゴニオフォトメーターの光源からサンプルに対して垂直に光が与えられた時の散乱光強度をいう。
【0033】
光源から130°の位置における散乱光強度を検出する測定する場合とは、(a)の配置状態において、図1に示す、光源の法線方向と、サンプルの観察点と積分球とを結ぶ方向とがなす角θを130°とした場合に測定される散乱光強度をいう。
【0034】
本発明においては、このθが130°の位置における散乱光強度の測定において、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とする。
【0035】
水平及び垂直の条件をとるためには、通常の水準器を使用することができる。
【0036】
θとしては、色々な角度を選択することができるが、本発明では、液晶表示装置としての最終評価である正面コントラストとの相関が最も高かった130°とした。
【0037】
水平にした場合、垂直にした場合の各々の散乱光強度は0.01〜0.25であり、0.20以下が好ましく、0.10以下が更に好ましい。
【0038】
散乱光強度差は、小さければ小さい方がよい。
【0039】
本発明の散乱光強度を達成するためには、本発明の位相差フィルムが、(メタ)アクリル系樹脂を含む層と、正の複屈折性樹脂を含む層とをそれぞれ少なくとも一層以上積層してなる積層フィルムであることが必要である。
【0040】
〈(メタ)アクリル系樹脂〉
(メタ)アクリル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)などが挙げられる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1〜6アルキル、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
【0041】
上記(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、例えば、三菱レイヨン社製のアクリペットVHやアクリペットVRL20A、特開2004−70296号公報に記載の分子内に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高Tg(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0042】
〈ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂〉
本発明の位相差フィルムは、好ましくはラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂(以下ラクトン環含有重合体ともいう)を含む層を有し、該ラクトン環構造は好ましくは下記一般式(1)で表される化合物である。
【0043】
【化2】

【0044】
[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;尚、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
で示されるラクトン環構造を有する。
【0045】
ラクトン環含有重合体の構造中における上記一般式(1)で示されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、更に好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。この範囲内であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性及び表面硬度が優れており好ましい。
【0046】
ラクトン環含有重合体は、上記一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、ラクトン環含有重合体の製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステルと、ヒドロキシ基含有単量体と、不飽和カルボン酸と、下記一般式(2)で示される単量体とからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰返し構造単位)が好ましい。
【0047】
【化3】

【0048】
[式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、または−CO−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
ラクトン環含有重合体の構造中における上記一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される重合体構造単位(繰返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%であり、ヒドロキシ基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される重合体構造単位(繰返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。更に、上記一般式(2)で示される単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0049】
ラクトン環含有重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、重合工程によって分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
【0050】
重合工程においては、例えば、下記一般式(3)で示される単量体を配合した単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体が得られる。
【0051】
【化4】

【0052】
[式中、R7及びR8は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
上記一般式(3)で示される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0053】
重合工程に供する単量体成分中における上記一般式(3)で示される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、更に好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。上記一般式(3)で示される単量体の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性及び表面硬度が低下することがある。逆に、上記一般式(3)で示される単量体の含有割合が90質量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程においてゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。
【0054】
重合工程に供する単量体成分には、上記一般式(3)で示される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸、及び、上記一般式(2)で示される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記一般式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである限り、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0056】
上記一般式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。
【0057】
ヒドロキシ基含有単量体としては、上記一般式(3)で示される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらのヒドロキシ基含有単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0058】
上記一般式(3)で示される単量体以外のヒドロキシ基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0059】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
【0060】
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0061】
上記一般式(2)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、本発明の効果を充分に発揮することから、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0062】
上記一般式(2)で示される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0063】
単量体成分を重合して分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0064】
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
【0065】
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
【0066】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0067】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑制するために、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。尚、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0068】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中に生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより充分に抑制することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中のヒドロキシ基とエステル基との割合を高めた場合であっても、ゲル化を充分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0069】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0070】
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中にヒドロキシ基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1000〜2000000、より好ましくは5000〜1000000、更に好ましくは10000〜500000、特に好ましくは50000〜500000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
【0071】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する。
【0072】
測定条件は以下の通りである。
【0073】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0074】
重合体(a)にラクトン環構造を導入するための反応は、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であり、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不充分であると、耐熱性が充分に向上しないことや、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在することがある。
【0075】
ラクトン環化縮合工程において得られるラクトン環含有重合体は、好ましくは、上記一般式(1)で示されるラクトン環構造を有する。
【0076】
重合体(a)を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。或いは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。或いは、揮発成分を除去するための真空装置或いは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出し機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
【0077】
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。更に、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0078】
或いは、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物を用いてもよい。使用可能な有機リン酸化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)及びこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
【0079】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、更に好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量%を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
【0080】
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
【0081】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、及び、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0082】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
【0083】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置やベント付き押出し機、また、脱揮装置と押出し機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置またはベント付き押出し機を用いることがより好ましい。
【0084】
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0085】
熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜66.5hPa(600〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0086】
ベント付き押出し機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0087】
ベント付き押出し機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化縮合反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
【0088】
ベント付き押出し機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは798〜13.3hPa(600〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0089】
尚、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがあるので、前述した脱アルコール反応の触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出し機などを用いて行うことが好ましい。
【0090】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体(a)を溶剤と共に環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出し機などの環化縮合反応装置に通してもよい。
【0091】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体(a)を製造した装置を、更に加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0092】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体(a)を、二軸押出し機を用いて、250℃付近、或いはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、即ち、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出し機などで、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0093】
前述したように、重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、例えば、実施例に示すダイナッミクTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0094】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、更に、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出し機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出し機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0095】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体(a)と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、及び、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
【0096】
尚、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体(a)と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、或いは、いったん溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加して得られた混合物を意味する。
【0097】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。
【0098】
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体(a)の質量に対して、好ましくは0.001〜5質量%、より好ましくは0.01〜2.5質量%、更に好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜180℃、より好ましくは50〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、或いは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度180℃を超えるか、或いは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0099】
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは100〜150℃であり、加熱時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、或いは、加熱時間が1時間未満であると、環化縮合反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が180℃を超えるか、或いは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
【0100】
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
【0101】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0102】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、即ち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が劣化することがある。尚、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0103】
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基との少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0104】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することには限らず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0105】
ラクトン環含有重合体の重量平均分子量は、好ましくは1000〜2000000、より好ましくは5000〜1000000、更に好ましくは10000〜500000、特に好ましくは50000〜500000である。
【0106】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下である。
【0107】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。更に、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体が充分に高い耐熱性を有している。
【0108】
ラクトン環含有重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できないことがある。
【0109】
ラクトン環含有重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
【0110】
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、更に好ましくは130℃以上、特に好ましくは140℃以上である。
【0111】
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が1,500ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となる。
【0112】
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないことがある。
【0113】
本発明では、(メタ)アクリル系樹脂を含む層、好ましくはラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む層(ラクトン環含有重合体を含む層)とは熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。
【0114】
熱可塑性樹脂フィルムにおける(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体の含有割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。熱可塑性樹脂フィルム中の(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮できないことがある。
【0115】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムには、その他の成分として、(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ということがある。)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。
【0116】
熱可塑性樹脂フィルムにおけるその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、更に好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜20質量%である。
【0117】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムには、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
【0118】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルム中における添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、更に好ましくは0〜0.5質量%である。
【0119】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、従来公知の混合方法で充分に混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、これをフィルム成形することができる。或いは、(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体と、その他の重合体や添加剤などを、それぞれ別々の溶液にしてから混合して均一な混合液とした後、フィルム成形してもよい。
【0120】
まず、熱可塑性樹脂組成物を製造するには、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で上記のフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出し機、二軸押出し機などの押出し機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。
【0121】
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
【0122】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0123】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0124】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0125】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出し機や二軸押出し機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
【0126】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、その他の熱可塑性樹脂を混合することにより、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持することができる。
【0127】
延伸温度は、フィルム原料である熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、樹脂組成物の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
【0128】
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
【0129】
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20000%/min、より好ましく100〜10000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
【0130】
尚、(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とするフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0131】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、その厚さが好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満であると、フィルムの強度が低下するだけでなく、偏光板の耐久性試験を行うと捲縮が大きくなることがある。逆に、厚さが200μmを超えると、フィルムの透明性が低下するだけでなく、透湿性が小さくなり、水系接着剤を用いた場合、その溶剤である水の乾燥速度が遅くなることがある。
【0132】
(メタ)アクリル系樹脂、またはラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、更に好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂フィルムと偏光子との接着強度が更に向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
【0133】
〈正の複屈折性樹脂を含む層〉
本発明では、正の複屈折性樹脂を含む層が、ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドの少なくとも1種を含有することが好ましい。ポリエーテルケトンは特にポリアリールエーテルケトンであることが好ましい。
【0134】
前記したポリエーテルケトン、特にポリアリールエーテルケトンの具体例としては、例えば下記の一般式(4)で表される繰返し単位を有するものなどが挙げられる(特開2001−49110号公報)。
【0135】
【化5】

【0136】
前記の一般式(4)において、Xはハロゲン、アルキル基又はアルコキシ基であり、ベンゼン環へのXの結合数q、即ちp−テトラフルオロベンゾイレン基とオキシアルキレン基が結合しない、残る位置での水素原子の置換数qの値は、0〜4の整数である。またR1は下記の一般式(2)で表される化合物(基)であり、mは0又は1である。更にnは、重合度を表し、2〜5000が好ましく、特に5〜500が好ましい。
【0137】
【化6】

【0138】
尚、前記一般式(4)におけるXとしてのハロゲンとしては、例えばフッ素原子や臭素原子、塩素原子やヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子が好ましい。またアルキル基としては、例えばメチル基やエチル基、プロピル基やイソプロピル基、ブチル基の如き炭素数が1〜6、中でも1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基などが挙げられ、中でもメチル基やエチル基、それらのトリフルオロメチル基の如きハロゲン化アルキル基が好ましい。
【0139】
更にアルコキシ基としては、例えばメトキシ基やエトキシ基、プロポキシ基やイソプロポキシ基、ブトキシ基の如き炭素数が1〜6、中でも1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基などが挙げられ、中でもメトキシ基やエトキシ基、それらのトリフルオロメトキシ基の如きハロゲン化アルコキシ基が好ましい。前記において特に好ましいXは、フッ素原子である。
【0140】
一方、前記一般式(5)で表される基において、X’はハロゲン、アルキル基又はアルコキシ基であり、ベンゼン環へのX’の結合数q’の値は、0〜4の整数である。X’としてのハロゲン、アルキル基又はアルコキシ基としては、前記したXと同じものが例示できる。
【0141】
好ましいX’は、フッ素原子、メチル基やエチル基、それらのトリフルオロメチル基の如きハロゲン化アルキル基、メトキシ基やエトキシ基、それらのトリフルオロメトキシ基の如きハロゲン化アルコキシ基であり、中でもフッ素原子が好ましい。
【0142】
尚、前記の一般式(4)においてXとX’は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また一般式(4)、(5)においてq又はq’が2以上であることに基づいて分子中に2個以上存在するX又はX’は、それぞれ独立に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0143】
特に好ましいR1は、下記の一般式(6)で表される基である。
【0144】
【化7】

【0145】
前記の一般式(5)、(6)においてR2は、2価の芳香族基であり、Pは0又は1である。その2価の芳香族基としては、例えば(o,m又はp−)フェニレン基、ナフタレン基、ビフェニル基、アントラセン基、(o,m又はp−)テルフェニル基、フェナントレン基、ジベンゾフラン基、ビフェニルエーテル基、ビフェニルスルホン基、下記の式で表される2価の芳香族基などが挙げられる。尚当該2価の芳香族基は、その芳香環に直接結合する水素が前記したハロゲン、アルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0146】
【化8】

【0147】
前記において好ましい2価の芳香族基(R2)は、下記の式で表されるものである。
【0148】
【化9】

【0149】
前記した一般式(4)で表されるポリアリールエーテルケトンは、同じ繰返し単位からなっていてもよいし、異なる繰返し単位の2種又は3種以上を有するものであってもよい。後者の場合、各繰返し単位は、ブロック状に存在していてもよいし、ランダムに存在していてもよい。
【0150】
上記を踏まえて一般式(4)で表されるポリアリールエーテルケトンの内の好ましいものは、下記の一般式(7)で表されるものである。
【0151】
【化10】

【0152】
また分子末端の基を含めた場合の好ましいポリアリールエーテルケトンは、一般式(4)に対応して下記の一般式(8)で表されるものであり、一般式(7)に対応するものは下記の一般式(9)で表されるものである。これらは分子内のp−テトラフルオロベンゾイレン基側にフッ素原子が結合し、オキシアルキレン基側に水素原子が結合したものである。
【0153】
【化11】

【0154】
【化12】

【0155】
一方、上記したポリアミド又はポリエステルの具体例としては、例えば下記の一般式(10)で表される繰返し単位を有するものなどが挙げられる。
【0156】
【化13】

【0157】
前記の一般式(10)において、Bは、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基若しくはそのハロゲン化物、それらの1種若しくは2種以上で置換されたフェニル基、又は非置換のフェニル基である。zは0〜3の整数である。
【0158】
Eは、共有結合、炭素数2のアルケニル基若しくはそのハロゲン化物、CH2基、C(CX32基、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(R)2基、又はNR基である。前記のC(CX32基におけるXは、水素原子又はハロゲンであり、Si(R)2基及びNR基におけるRは、炭素数1〜3のアルキル基又はそのハロゲン化物である。尚Eは、カルボニル基又はY基に対してメタ位又はパラ位にある。またハロゲンは、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子又は臭素原子である(以下、一般式(7)において同じ)。
【0159】
更にYは、O原子又はNH基である。Aは、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基若しくはそのハロゲン化物、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜3のチオアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基若しくはそのハロゲン化物、アリール基若しくはそのハロゲン化物、炭素数1〜9のアルキルエステル基、炭素数1〜12のアリールエステル基若しくはその置換誘導体、又は炭素数1〜12のアリールアミド基若しくはその置換誘導体である。
【0160】
またnは0〜4の整数、pは0〜3の整数、qは1〜3の整数、rは0〜3の整数である。好ましいポリアミド又はポリエステルは、前記のrとqが1であり、そのビフェニル環の少なくとも1個が2位及び2’位で置換されてなる下記の一般式(11)で表される繰返し単位を有するものである。
【0161】
【化14】

【0162】
前記の一般式(11)においてmは0〜3の整数、好ましくは1又は2であり、x及びyは0又は1で、かつ共に0であることはない。尚他の記号は前記の一般式(10)の場合と同義であるが、Eはカルボニル基又はY基に対してパラ配向の共有結合である。
【0163】
前記の一般式(10)、(11)において、B、E、Y又はAが分子中に複数存在する場合、それらは同じであってもよいし、異なっていてもよい。z、n、m、x、yも同様に同じであってもよいし、異なっていてもよい。尚その場合、B、E、Y、A、z、n、m、x、yは、それぞれ独立に判断される。
【0164】
前記の一般式(10)で表されるポリアミド又はポリエステルは、同じ繰返し単位からなっていてもよいし、異なる繰返し単位の2種又は3種以上を有するものであってもよい。後者の場合、各繰返し単位は、ブロック状に存在していてもよいし、ランダムに存在していてもよい。
【0165】
他方、上記したポリイミドの具体例としては、例えば9,9−ビス(アミノアリール)フルオレンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との縮合重合生成物を含み、下記の一般式(12)で表される繰返し単位を1単位以上有するものなどが挙げられる。
【0166】
【化15】

【0167】
前記一般式(12)において、Rは、水素原子、ハロゲン、フェニル基、1〜4個のハロゲン若しくは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基で置換されたフェニル基、又は1〜10個の炭素原子を有するアルキル基である。4個のRは、各々独立に決定でき、0〜4個の範囲で置換することができる。その置換基は、前記のものであることが好ましいが、一部に異なるものを含んでいてもよい。尚ハロゲンは、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子又は臭素原子である(以下、一般式(12)において同じ)。
【0168】
Zは、6〜20個の炭素原子を有する三置換芳香族基である。好ましいZは、ピロメリット基、或いはナフチレン基やフルオレニレン基、ベンゾフルオレニレン基やアントラセニレン基の如き多環式芳香族基若しくはその置換誘導体、又は下記の一般式(13)で表される基である。尚前記多環式芳香族基の置換誘導体における置換基としては、ハロゲン、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基又はそのフッ素化物などが挙げられる。
【0169】
【化16】

【0170】
前記の一般式(13)において、Dは、共有結合、C(R22基、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(C252基、N(R32基又はそれらの組合せであり、mは1〜10の整数である。尚前記のR2は各々独立に、水素原子又はC(R43基である。またR3は独立に、水素原子、1〜約20個の炭素原子を有するアルキル基、又は約6〜約20個の炭素原子を有するアリール基である。R4は各々独立に、水素原子、フッ素原子又は塩素原子である。
【0171】
また前記以外のポリイミドとして下記の一般式(14)、(15)で表される単位を有するものなども挙げることができる。また、一般式(16)で表される単位を有するポリイミドが好ましい。
【0172】
【化17】

【0173】
【化18】

【0174】
【化19】

【0175】
前記の一般式(14)、(15)、(16)において、T及びLは、ハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基若しくはそのハロゲン化物、それらの1種若しくは2種以上で置換されたフェニル基、又は非置換のフェニル基である。前記のハロゲンは、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子又は臭素原子である(以下、一般式(14)、(15)、(16)において同じ)。zは0〜3の整数である。
【0176】
またG及びJは、共有結合若しくは結合ボンド、CH2基、C(CX32基、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(C252基、又はN(CH3)基である。前記C(CX32基におけるXは、水素原子又はハロゲンである(以下、一般式(14)、(15)、(16)において同じ)。
【0177】
Aは、水素原子、ハロゲン、アルキル基若しくはそのハロゲン化物、ニトロ基、シアノ基、チオアルキル基、アルコキシ基若しくはそのハロゲン化物、アリール基若しくはそのハロゲン化物、又はアルキルエステル基若しくはその置換誘導体である。
【0178】
Rは、水素原子、ハロゲン、フェニル基若しくはそのハロゲン化物等の置換フェニル基、又はアルキル基若しくはそのハロゲン化物等の置換アルキル基である。nは0〜4の整数、pは0〜3の整数、qは1〜3の整数である。
【0179】
尚、前記の一般式(14)、(15)、(16)においてT、A、R又はLは、それぞれ独立に分子中に複数存在する場合、それらは同じであってもよいし、異なっていてもよい。z、n、mも同様に同じであってもよいし、異なっていてもよい。尚その場合、T、A、R、L、z、n、mは、それぞれ独立に判断される。
【0180】
前記した一般式(12)、(14)、(15)、(16)で表されるポリイミドは、同じ繰返し単位からなっていてもよいし、異なる繰返し単位の2種又は3種以上を有するものであってもよい。その異なる繰返し単位は、前記以外の酸二無水物又は/及びジアミンの1種又は2種以上を共重合させて形成したものであってもよい。ジアミンとしては特に芳香族ジアミンが好ましい。後者の異なる繰返し単位を有する場合、各繰返し単位は、ブロック状に存在していてもよいし、ランダムに存在していてもよい。
【0181】
前記した異なる繰返し単位を形成するための酸二無水物としては、例えばピロメルト酸二無水物、3,6−ジフェニルピロメルト酸二無水物、3,6−ビス(トリフルオロメチル)ピロメルト酸二無水物、3,6−ジブロモピロメルト酸二無水物、3,6−ジクロロピロメルト酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボフェニル)メタン二無水物が挙げられる。
【0182】
またビス(2,5,6−トリフルオロ−3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(4,4’−オキシジフタル酸無水物)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物(3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物)、4,4’−〔4,4’−イソプロピリデン−ジ(p−フェニレンオキシ)〕ビス(フタル酸無水物)も前記酸二無水物の例としてあげられる。
【0183】
更にN,N−(3,4−ジカルボキシフェニル)−N−メチルアミン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジエチルシラン二無水物、2,3,6,7−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物や1,2,5,6−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロ−ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物の如きナフタレンテトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物やピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物の如き複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物なども前記酸二無水物の例としてあげられる。
【0184】
好ましく用いうる酸二無水物は、2,2’−ジブロモ−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物や2,2’−ジクロロ−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−トリハロ置換二無水物の如き2,2’−置換二無水物などであり、特に2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0185】
一方、前記した異なる繰返し単位を形成するためのジアミンとしては、例えば(o,m又はp−)フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、1,4−ジアミノ−2−フェニルベンゼン、1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼンの如きベンゼンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられる。
【0186】
また4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,8−ジアミノナフタレンや1,5−ジアミノナフタレンの如きナフタレンジアミン、2,6−ジアミノピリジンや2,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノ−S−トリアジンの如き複素環式芳香族ジアミンなども前記したジアミンの例としてあげられる。
【0187】
好ましく用いうるポリイミドは、例えば2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物や4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−2,2−ジフェニルプロパン二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物やビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物などの芳香族系酸二無水物を用いて調製された、耐熱性で溶媒可溶性のポリイミドである。
【0188】
またジアミンとして、例えば4,4−(9−フルオレニリデン)−ジアニリンや2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンや2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジンや2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンや1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンや1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンなどの芳香族系ジアミンを用いて調製された、耐熱性で溶媒可溶性のポリイミドも好ましく用いうる。
【0189】
他方、上記したポリアミドイミド又はポリエステルイミドとしては、特に限定はなく適宜なものを1種又は2種以上用いうる。中でも、特開昭61−162512号公報に記載されたポリアミドイミドや、特開昭64−38472号公報に記載されたポリエステルイミドなどが好ましく用いうる。
【0190】
ポリマー層形成用の固体ポリマーの分子量は、特に限定はないが溶剤に可溶であることが好ましい。塗工膜の厚さ精度や表面精度ないし表面平滑性、膜強度、フィルム化した場合の伸縮や歪等によるクラック発生の防止性、溶剤に対する溶解性(ゲル化防止)などの点より重量平均分子量に基づいて1万〜100万、好ましくは2万〜50万、特に5万〜20万が好ましい。尚重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイドを標準試料とし、ジメチルホルムアミド溶媒を使用してゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した値である。
【0191】
ポリマー層の形成には上記のポリアリールエーテルケトンやポリアミド、ポリエステルやポリイミド等の固体ポリマーを単独で用いてもよいし、同種物を2種以上混合して用いてもよい。また例えばポリアリールエーテルケトンとポリアミドの混合物の如く、異なる官能基を持つ2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。
【0192】
またポリマー層を形成する上記固体ポリマーの配向性が著しく低下しない範囲で、上記以外の適宜なポリマーの1種又は2種以上を併用してもよい。ちなみにその併用ポリマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂及びAS樹脂、ポリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリイミド、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリマー(光重合性液晶モノマーを含む)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0193】
またエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂の如き熱硬化性樹脂なども前記併用ポリマーの例としてあげられる。併用ポリマーの使用量は、配向性が著しく低下しない範囲であれば特に制限されないが、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0194】
ポリマー層を形成する固体ポリマーの液状化には、固体ポリマーが熱可塑性ポリマーであれば加熱して溶融させる方式や、固体ポリマーを溶媒に溶解させて溶液とする方法などの適宜な方式を採ることができる。従って当該ポリマー層の固体化は、前者の溶融液ではそのポリマー層を冷却させることにより、また後者の溶液ではそのポリマー層より溶媒を除去して乾燥させることにより行うことができる。ポリマー層の形成に際しては、安定剤や可塑剤や金属類等からなる種々の添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0195】
前記ポリマー層塗設後の乾燥は自然乾燥(風乾)方式や加熱乾燥方式、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波などで行うことができる。簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。乾燥温度は、次工程であるテンター等による延伸処理温度に鑑み、40〜180℃の範囲でゾーン乾燥方法で3〜5段階の温度に分けて、徐々に高くしていくことが好ましく、80〜170℃の範囲で行うことがポリマー層の耐傷性や寸法安定性等の物性を良くするためにより好ましい。
【0196】
前記の溶媒としては、例えばクロロホルムやジクロロメタン、四塩化炭素やジクロロエタン、テトラクロロエタンやトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンやクロロベンゼン、オルソジクロロベンゼンの如きハロゲン化炭化水素類、フェノールやパラクロロフェノールの如きフェノール類、ベンゼンやトルエン、キシレンやメトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼンの如き芳香族炭化水素類、アセトンやメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンやシクロヘキサノン、シクロペンタノンや2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンの如きケトン類、酢酸エチルや酢酸ブチルの如きエステル類が挙げられる。
【0197】
また、t−ブチルアルコールやグリセリン、エチレングリコールやトリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルやジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールやジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールの如きアルコール類、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドの如きアミド類、アセトニトリルやブチロニトリルの如きニトリル類、ジエチルエーテルやジブチルエーテル、テトラヒドロフランの如きエーテル類、その他、塩化メチレンや二硫化炭素、エチルセロソルブやブチルセロソルブなども前記溶媒の例としてあげられる。
【0198】
溶媒は、単独で、或いは2種以上を適宜な組合せで混合して用いることができる。溶液は、塗工粘度等の点より、溶媒100質量部に対して固体ポリマーを2〜100質量部、好ましくは5〜50質量部、特に10〜40質量部溶解させたものが好ましい。
【0199】
熱可塑性樹脂フィルム上への展開には、例えばスピンコート法やロールコート法、フローコート法やプリント法、ディップコート法や、バーコート法やグラビア印刷法等のキャスティング法、押出法、インクジェット法などの適宜な塗布層形成方式を採ることができる。中でも、厚さムラや配向歪ムラ等の少ないフィルムの量産性などの点より、押出法が好ましい。
【0200】
ポリマー層は、上記のように溶媒に溶解させて液状化したポリマー溶液を前記熱可塑性樹脂フィルム上に塗布して乾燥させ、支持体ごと後述する延伸処理を行う。延伸処理はテンター方式による延伸が好ましい。この方式によれば、ポリマー層を基材で支持した状態で処理できて製造効率や処理精度などに優れており、連続製造も可能である。
【0201】
(延伸操作)
本発明の位相差フィルムに好ましい延伸操作について説明する。
【0202】
本発明の位相差フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂を含む層、好ましくはラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む層(熱可塑性樹脂フィルム)と、正の複屈折性樹脂を含む層(ポリマー層)とをそれぞれ少なくとも一層以上積層した後、下記延伸操作により延伸して位相差の制御を行うことが好ましい。また、ポリマー層を設ける前に熱可塑性樹脂フィルム単独で位相差を制御する為に延伸されていてもよい。
【0203】
延伸は、位相差フィルムの一方向に1.0〜2.0倍に延伸し、もう一方は0.7〜1.5倍程度に延伸することが好ましい。
【0204】
例えばフィルムの長手方向及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に延伸することができるが、このとき少なくとも1方向に対しての延伸倍率が小さ過ぎると十分な位相差が得られず、大き過ぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
【0205】
位相差フィルムとして、面内方向若しくは厚み方向のリターデーションを制御するため、製膜方向に自由端一軸延伸、若しくは幅方向に延伸し流延方向に収縮させるアンバランス二軸延伸を行ってもよい。
【0206】
ポリマー層を塗布された位相差フィルムは、延伸に先だって50〜180℃以下、より好ましくは60〜160℃以下、更に好ましくは70〜150℃以下で、5秒以上3分以下、より好ましくは10秒以上2分以下、更に好ましくは15秒以上90秒以下熱処理(前熱処理)するのが好ましい。この熱処理はテンターでフィルムを把持する直前から把持してから延伸が始まる直前までの間に実施することが好ましい。特に好ましくはテンターでフィルムを把持してから延伸が始まる直前までの間に実施することがよい。
【0207】
延伸は5〜300%/分、より好ましくは10〜200%/分、更に好ましくは15〜150%/分で実施することが好ましい。延伸にはテンターを用いてフィルム両端を把持して行うのが好ましい。
【0208】
延伸角度としては、2°〜10°が好ましく、3°〜7°が更に好ましく、3°〜5°が最も好ましい。延伸速度は、一定で行っても良いし、変化させても良い。
【0209】
延伸時の温度は、40〜250℃が好ましく、70〜180℃がより好ましい。
【0210】
テンター工程内の雰囲気温度は分布が少ないことが好ましく、幅手方向で±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が更に好ましく、±0.5℃以内が最も好ましい。テンター工程内では、熱伝達係数20J/m2hr〜130×103J/m2hrで熱処理を行うのが好ましい。更に好ましくは、40J/m2hr〜130×103J/m2hrの範囲であり、最も好ましくは42J/m2hr〜84×103J/m2hrの範囲である。
【0211】
テンター内などの製膜工程でのフィルム搬送張力は温度にもよるが、120N/m〜200N/mが好ましく、140N/m〜200N/mが更に好ましい。140N/m〜160N/mが最も好ましい。
【0212】
製膜工程内での意図しないフィルムの伸びを防止する目的で、テンターの前或いは後ろにテンションカットロールを設けることが好ましい。
【0213】
本発明に係る位相差フィルムは延伸後、熱処理して残存する歪を緩和することが好ましい。熱処理は110〜150℃、好ましくは100〜180℃で行うことが好ましく、更に好ましくは130〜160℃で行うことである。このとき、熱伝達係数20J/m2hr〜130×103J/m2hrで熱処理を行うのが好ましい。更に好ましくは、40J/m2hr〜130×103J/m2hrの範囲であり、最も好ましくは42J/m2hr〜84×103J/m2hrの範囲である。これによって、残存する歪が低減され、90℃などの高温条件、或いは80℃、90%RHなどの高温高湿条件における寸法安定性が改善される。
【0214】
延伸されたフィルムは、延伸後室温まで冷却される。延伸されたフィルムは、テンターで幅保持されたまま冷却し始めることが好ましく、この間にテンターによって把持している幅を延伸後のフィルム幅に対し1〜10%、より好ましくは2〜9%、更に好ましくは2%以上8%以下縮め、弛緩させるのが好ましい。冷却速度は10〜300℃/分で実施するのが好ましく、より好ましくは30〜250℃/分、更に好ましくは50〜200℃/分である。テンターで把持したまま室温まで冷却してもよいが、途中で把持をやめて、ロール搬送に切り替えることが好ましく、この後ロール状に巻取られる。
【0215】
以上のようにして製造された本発明の位相差フィルムは以下の特性を有している。
【0216】
(光学特性)
本発明の位相差フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂を含む層、特にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む層と、正の複屈折性樹脂を含む層とをそれぞれ少なくとも一層以上積層してなる状態で、下記式により定義されるリターデーション値Roが20〜300nmでかつリターデーション値Rtが−600〜600nmの範囲にあることが好ましい。また、より好ましい範囲はRo値が20〜120nm、Rt値が−400〜400nmの範囲であり、特に好ましい範囲はRo値が40〜100nm及びRt値が−300〜300nmの範囲である。
【0217】
式(a) Ro=(nx−ny)×d
式(b) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、Roはフィルム面内リターデーション値、Rtはフィルム厚み方向リターデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
リターデーションは、自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−21ADH)を用いて23℃、55%RHの環境下で、590nmの波長において10カ所測定し、式(a)で表される面内方向のリターデーションRoを、また、式(b)で表される厚み方向のリターデーションRtを求める。それぞれ10カ所測定しその平均値で示す。尚、平均屈折率はアッベの屈折率計により求めることができる。
【0218】
本発明の位相差フィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムとして特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる位相差フィルムはRo値を20〜150nmとし、Rt値を70〜400nmとすることが好ましい。Ro値は、30〜100nmであることが更に好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の位相差フィルムを使用する場合、フィルムのRt値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の位相差フィルムを使用する場合、フィルムのRt値は150〜400nmであることが好ましい。
【0219】
リターデーション値を上記範囲にすることで、特に偏光板用位相差フィルムとしての光学性能を十分に満足することができる。
【0220】
(偏光板)
本発明の偏光板、それを用いた本発明の液晶表示装置について説明する。
【0221】
本発明の偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明の位相差フィルムの裏面側をアルカリ鹸化処理し、処理したフィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に、各々完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0222】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜25μmである。該偏光子の面上に、本発明の位相差フィルムを貼り合わせて偏光板を形成する。
【0223】
位相差フィルムは、完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせたり、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することができる。
【0224】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸と垂直方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護用フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光子の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板保護用フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護用フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑える事が重要である。本発明で用いられる位相差フィルムは寸法安定に優れる為、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0225】
偏光板のもう一方の面にも本発明の位相差フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明の位相差フィルム対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムに特に限定はないが、例えば、トリアセチルセルロースフィルム、セルロースアセテートプロピオネートオネートフィルム、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム等のセルロースエステル系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ノルボルネン樹脂系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムまたはアクリルフィルム等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。これらの内、セルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタックKC8UX2M、KC4UX2M、KC4UY、KC8UT、KC5UN、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4(以上、コニカミノルタオプト(株)製))、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリエステルフィルムが好ましく、本発明においては、特にセルロースエステル系フィルムが、製造上、コスト面、等方性、接着性、及び本発明の目的効果が好適に得られることから好ましい。
【0226】
(液晶表示装置)
本発明の偏光板を表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた本発明の液晶表示装置を作製することができる。特にVA型(MVA型、PVA型)の液晶表示装置で好ましく適用される。
【0227】
本発明の偏光板を用いた液晶表示装置は、特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮することができる。
【0228】
マルチドメイン化とは、1画素を構成する液晶セルを更に複数に分割する方式であり、視野角依存性の改善・画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されており、これらに限定される訳ではない。
【0229】
表示セルの表示品質は、人の観察において左右対称であることが好ましい。従って、表示セルが液晶表示セルである場合、実質的に観察側の対称性を優先してドメインをマルチ化することができる。ドメインの分割は、公知の方法を採用することができ、2分割法、より好ましくは4分割法によって、公知の液晶モードの性質を考慮して決定出来る。
【0230】
本発明の偏光板は垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モードに効果的に用いることができる。
【0231】
特に本発明の位相差フィルムを用いた偏光板は大画面の液晶表示装置に使用した場合に優れた耐久性を発揮する。画面が17型以上、特に画面が30型以上の大画面の液晶表示装置では、本発明の効果以外にも、色ムラや波打ちムラ等の歪みがないため、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0232】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0233】
(リターデーションの測定)
リターデーションは、自動複屈折率計(王子計測機器(株)製、KOBRA−21ADH)を用いて23℃、55%RHの環境下で、590nmの波長において10カ所測定し、式(a)で表される面内方向のリターデーションRoを、また、式(b)で表される厚み方向のリターデーションRtを求めた。それぞれ10カ所測定しその平均値で示す。尚、平均屈折率はアッベの屈折率計により求めた。
【0234】
式(a) Ro=(nx−ny)×d
式(b) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、Roはフィルム面内リターデーション値、Rtはフィルム厚み方向リターデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
実施例1
〈基材フィルムA1の作製〉
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた30L反応釜に、8000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2000gの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、10000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤として10.0gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルパゾール570)を添加すると同時に、20.0gの開始剤と100gのトルエンからなる溶液を4時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行った。
【0235】
得られた重合体溶液に、10gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−18)を加え、還流下(約90〜110℃)で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なラクトン環含有アクリル系樹脂ペレットを得た。
【0236】
ラクトン環含有アクリル系樹脂ペレットのラクトン環化率は97.0%、質量平均分子量は147700、メルトフローレートは11.0g/10分、Tg(ガラス転移温度)は130℃であった。
【0237】
得られたペレットを押出し機供給し、250℃で溶融混錬後、Tダイから押出して、冷却ロールで水冷して引取り、厚み55μmのラクトン環含有アクリル系樹脂フィルムA1を得た。
【0238】
〈位相差フィルム1の作製〉
2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンと、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニルから合成された重量平均分子量5.9万のポリイミドB1の15質量%シクロヘキサノン溶液を、基材フィルムA1の上に塗布してポリイミド層を形成し、乾燥後、150℃でテンターでTD方向(フィルム搬送方向と直交する方向、幅手方向)に1.2倍に延伸し位相差フィルム1を得た。位相差はRo50nm、Rt120nmであった。
【0239】
〈位相差フィルム2〜5の作製〉
延伸温度を表1に従って変えた以外は、位相差フィルム1と同様にして位相差フィルム2〜5を得た。位相差はRo50nm、Rt120nmであった。
【0240】
〈基材フィルムA2の作製〉
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた容量30Lの釜型反応器に、8,000gのメタクリル酸メチル(MMA)、2,000gの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、10,000gの4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン、MIBK)、5gのn−ドデシルメルカプタンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、重合開始剤として5.0gのt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−7、化薬アクゾ(株)製)を添加すると同時に、10.0gのt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートと230gのMIBKからなる溶液を4時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜120℃で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行った。得られた重合体溶液に、30gのリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)を加え、還流下、約90〜120℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で、2.0kg/hの処理速度で導入し、この押出し機内で、更に環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、ラクトン環含有重合体の透明なペレットを得た。
【0241】
得られたラクトン環含有重合体について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.17質量%の質量減少を検知した。また、このラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が133,000、メルトフローレートが6.5g/10min、ガラス転移温度が131℃であった。
【0242】
得られたペレットと、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂(トーヨーAS AS20、東洋スチレン(株)製)とを、質量比90/10で、単軸押出し機(スクリュー30mmφ)を用いて混練押出することにより、透明なペレットを得た。得られたペレットのガラス転移温度は127℃であった。
【0243】
得られたペレットを押出し機供給し、250℃で溶融混錬後、Tダイから押出して、冷却ロールで水冷して引取り、厚み60μmのラクトン環含有アクリル系樹脂フィルムA2を得た。
【0244】
〈位相差フィルム6の作製〉
4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−2,2−ジフェニルプロパン二無水物と、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニルから合成された重量平均分子量6.2万のポリイミドB2をシクロペンタノンに溶解して得た20質量%溶液を、基材フィルムA2に塗布し、その乾燥過程でテンターにて130℃でTD方向に1.25倍に延伸し、位相差フィルム6を得た。位相差はRo60nm、Rt210nmであった。
【0245】
〈基材フィルムA3の作製〉
アクリル樹脂BR88(三菱レイヨン製) 80質量部
メチレンクロライド 250質量部
エタノール 10質量部
上記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内温度を70℃まで加熱し、撹拌しながら、アクリル樹脂を完全に溶解し、アクリル樹脂溶液(ドープ)を得た。その後、攪拌を停止し、液温を43℃まで下げた。このドープを濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープを得た。次いでベルト流延装置を用い、2m幅でステンレスバンド支持体(表面温度35℃)に均一に流延した。残留溶媒量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したウェブを55℃で溶媒を蒸発させ、その後、テンターでクリッピングしてTD方向に110℃で1.01倍(1%)に延伸した。その後、100℃でロール搬送させながら乾燥を終了させ、1500mm幅にスリットし、フィルム両端に幅15mm、平均高さ12μmのナーリング加工を施し、基材フィルムA3を得た。フィルム平均膜厚は55μm、膜厚変動は幅手方向、長手方向とも±1μm以内であり、巻長は5000mであった。
【0246】
〈位相差フィルム7の作製〉
位相差フィルム1と同様にして、基材フィルムA3上にポリイミドB1を塗布、乾燥させて、ポリイミド層を形成し、テンターにて110℃でTD方向に1.2倍延伸を行い位相差フィルム7を得た。位相差はRo50nm、Rt120であった。
【0247】
〈位相差フィルム8の作製〉
市販のアクリル系フィルム(アクリプレン 三菱レイヨン社製)上に位相差フィルム1と同様にして、ポリイミドB1を塗布、乾燥させて、ポリイミド層を形成し、テンターにて100℃でTD方向に1.2倍延伸を行い位相差フィルム4を得た。位相差はRo50nm、Rt120であった。
【0248】
〈位相差フィルム9の作製〉
延伸温度を130℃にした以外は位相差フィルム8と同様にして位相差フィルム9を作製しようとしたが、基材フィルムが溶けてしまいフィルムがしわだらけになり評価できなかった。
【0249】
《位相差フィルムの評価》
得られた各々のサンプルについて、以下の要領で各波長でのリターデーション値、散乱光強度を測定した。結果を表1に示す。
【0250】
(散乱光強度)
ゴニオフォトメーター型式:GP−1−3D、オプテック(株)製(光源は、12V50Wハロゲン球、受光部は、光電子増倍管(フォトマル 浜松フォトニクス R636−10))を用いて測定した。
【0251】
尚、測定時の光量は、θ=180°での光量にて補正し(フォトマル受光感度:−185V)、この光量での測定値を散乱光強度とした。サンプルは、フィルムの遅相軸を水平、垂直に試料台に固定してそれぞれ測定した。
【0252】
【表1】

【0253】
実施例2
〈偏光板の作製〉
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0254】
ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂の水性エマルジョン(大日本インキ化学工業(株)製の商品名“ハイドラン AP−20”、固形分濃度30%、粘度30mPa・sec)100部に、ポリイソシアネート化合物(大日本インキ化学工業(株)製の商品名“ハイドラン アシスター C1”)3部を加えたものを接着剤として、位相差フィルム1〜8のMD方向(フィルム搬送方向、長手方向)と偏光子の延伸方向が一致するようにかつ基材フィルムが偏光子側になるように貼り合わせた。
【0255】
偏光子のもう一方をコニカミノルタタックフィルムKC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)を同様にアルカリケン化処理して貼り合わせて偏光板1〜8を作製した。
【0256】
同様にして、偏光子の両面にコニカミノルタタックフィルムKC4UYを貼り合わせて偏光板10とした。
【0257】
【表2】

【0258】
〈液晶表示装置の作製〉
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。SONY製40型ディスプレイKLV−40J3000の予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板1〜5、7、8をそれぞれ液晶セルのガラス面の両面に貼合した。
【0259】
その際、その偏光板の貼合の向きは、本発明の位相差フィルムの面が、液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置1〜5、7、8を各々作製した。
【0260】
また、偏光板6を視認側に、バックライト側に偏光板10を貼合した以外は同様にして液晶表示装置6を作製した。
【0261】
(湿熱サイクル試験)
この液晶表示装置について、湿度80%、温度60℃、1時間と、温度−20℃、1時間の湿熱サイクルテストを200サイクル繰返ししたときの、正面コントラストについて評価した。結果を表3に示す。
【0262】
(正面コントラストの評価)
23℃55%RHの環境で、ELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて測定を行った。液晶表示装置で白表示と黒表示の表示画面の法線方向からの輝度を測定し、その比を正面コントラストとした。
【0263】
正面コントラスト=(表示装置の法線方向から測定した白表示の輝度)/(表示装置の法線方向から測定した黒表示の輝度)
【0264】
【表3】

【0265】
表3より、本発明の位相差フィルム1〜4、6を用いた液晶表示装置1〜4、6は、比較の位相差フィルム5、7、8を用いた液晶表示装置5、7、8に比べて湿熱サイクル試験での正面コントラストの低下が少ない優れた位相差フィルムであることが明らかである。
【0266】
実施例3
下記式で表される重量平均分子量(Mw)110000のポリエーテルケトン(商品名ポリアリールエーテルケトンA、日本触媒社製)を、トルエン溶剤、酢酸エチル、2−メチルペンタノン溶剤溶剤にそれぞれ溶解し、10質量%のポリエーテルケトン液を調製した。前記ポリイミドB1液に代えてこのポリエーテルケトン液を使用した以外は、前記位相差フィルム1と同様にして基材フィルムA1上にポリエーテルケトンを含有する層を形成し、同様に延伸したところ、位相差はRo60nm、Rt140nm、散乱光強度差0.02の位相差フィルム11を得た。
【0267】
位相差フィルム1の替わりに位相差フィルム11を用いた以外は同様にして、偏光板11、液晶表示装置11を作製し、湿熱サイクル試験(正面コントラストの評価)を行ったところ、液晶表示装置1を再現し、湿熱サイクル試験での正面コントラストの低下が少ない優れた位相差フィルムであることが分かった。
【0268】
【化20】

【図面の簡単な説明】
【0269】
【図1】ゴニオフォトメーターの概略図である。
【符号の説明】
【0270】
G1 光源ランプ
G2 分光器
G3 試料台(ステージ)
G5 受光部分
G6 サンプル押さえバネ
G7 角度割り出し回転テーブル
θ 光源の法線方向と、サンプルの観察点と積分球とを結ぶ方向とがなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂を含む層と、正の複屈折性樹脂を含む層とをそれぞれ少なくとも一層以上積層してなる位相差フィルムであって、ゴニオフォトメーターの散乱光プロファイルの入射光90°のフィルムの散乱光強度測定において、光源から130°の位置における散乱光強度を検出する場合に、フィルム遅相軸を水平に試料台へ設置した場合と垂直に設置した場合の散乱光強度差が、0.05以下であることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂がラクトン環構造を有することを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記ラクトン環構造が、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造であることを特徴とする請求項2に記載の位相差フィルム。
【化1】

[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す;尚、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]
【請求項4】
前記正の複屈折性樹脂が、ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選択される少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の位相差フィルムを少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光板を液晶セルの少なくとも一方の面に有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル系樹脂を含むフィルム上に、請求項4に記載の正の複屈折性樹脂を含む層を塗工してなる積層フィルムを、120℃以上で少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−198658(P2009−198658A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38610(P2008−38610)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】