説明

位相差フィルムおよびそれらを用いた偏光板、液晶表示装置

【課題】湿度に依存性及び正面コントラストに優れ、カラーシフトが改良された液晶表示装置を提供することであり、更にはそれらを高品位に実現するために必要な光学特性を有するフィルムを提供すること。
【解決手段】以下のa)〜c)の関係を満たす位相差フィルム。
a)フィルム厚み方向の位相差Rthが測定波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少する。
b)フィルム面内の位相差Reの遅相軸の平均の方位がフィルム製膜時の搬送方向に対して0.05°から4°の範囲内にある。
c)測定波長λ=548nmで測定した面内のレターデーションRe(548)及び厚さ方向のレターデーションRth(548)が以下の(式1)及び(式2)の関係を満たす。
40nm<Rth(548)≦200nm (式1)
0nm<Re(548)≦20nm (式2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルムおよびそれらを用いた偏光板、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は消費電力の小さい省スペースの画像表示装置として年々その用途が広がっている。従来、画像の視野角依存性が大きいことが液晶表示装置の大きな欠点であった。しかし近年ではVAモードによる高視野角液晶モードが実用化されており、これによってテレビ等の高品位の画像が要求される市場でも液晶表示装置の需要が急速に拡大している。VAモード液晶表示装置は他の液晶表示モードに比べて一般にコントラストが高いというメリットがあるが、視野角による色味の変化(カラーシフト)が大きいという問題を有していた。これに対し、例えば、正面方向と厚み方向のレターデーションの波長分散特性が異なる光学補償フィルムを使用することが有効であることが知られており、特許文献1および2には測定波長が短波になるほどレターデーションが減少するいわゆるレターデーションが逆波長分散性を示すフィルムと測定波長が短波になるほどレターデーションが増加するいわゆるレターデーションが正の波長分散性を示すフィルムを用いる方法が開示されているがカラーシフトは完全には解決されていない。特許文献3には光学軸の制御について開示されているがカラーシフトについては何ら開示も示唆もされていない。
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/032060号パンフレット
【特許文献2】特開2007−17958号公報
【特許文献3】特開2002−82225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、湿度に依存性及び正面コントラストに優れ、カラーシフトが改良された液晶表示装置を提供することであり、更にはそれらを高品位に実現するために必要な光学特性を有するフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、前述した波長分散特性を有する光学補償フィルムのうち、特に測定波長が短波になるほどレターデーションが増加するいわゆるレターデーションが正の波長分散性を示すフィルムの遅相軸を制御することが液晶表示装置のカラーシフトを改良するために重要であることを新たに見出した。具体的には以下の手段により達成された。
【0006】
〔1〕
以下のa)〜c)の関係を満たす位相差フィルム。
a)フィルム厚み方向の位相差Rthが測定波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少する。
b)フィルム面内の位相差Reの遅相軸の平均の方位がフィルム製膜時の搬送方向に対して0.05°から4°の範囲内にある。
c)測定波長λ=548nmで測定した面内のレターデーションRe(548)及び厚さ方向のレターデーションRth(548)が以下の(式1)及び(式2)の関係を満たす。
40nm<Rth(548)≦200nm (式1)
0nm<Re(548)≦20nm (式2)
(ここでフィルム面内の遅相軸、進相軸、厚み方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとしたときにRth={(nx+ny)/2−nz}×d、 Re=(nx−ny)×d で表され、dはフィルムの厚みを表す。)
〔2〕
測定波長λ=446nm、548nm、629nmで測定したRth(λ)が(式3)及び(式4)を満たす〔1〕に記載の位相差フィルム。
Rth(446)/Rth(548)≧1.03 (式3)
Rth(629)/Rth(548)≦1.00 (式4)
〔3〕
測定波長λ=548nmで測定したRth(λ)、Re(λ)が(式1’’)及び(式2’’)を満たす〔1〕または〔2〕に記載の位相差フィルム。
90nm<Rth(548)≦130nm (式1’’)
5nm<Re(548)≦10nm (式2’’)
〔4〕
(式5)で表される漏光率(%)が0.00005%〜0.003%であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の位相差フィルム。
漏光率(%)=Sin2(2θ)×Sin2(πRe/λ)×100 (式5)
(ここでθは各々の測定点におけるフィルム製膜時の搬送方向に対するフィルム遅相軸角度(ラジアン)、λは測定波長(nm)、πは円周率、Re=(nx−ny)×dで表され、フィルム面内の遅相軸、進相軸方向の屈折率をそれぞれnx、nyとし、dはフィルムの厚みを表す。)
〔5〕
セルロースエステル系ポリマーからなり、位相差発現剤を該ポリマーに対して3質量%以上含有することを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の位相差フィルム。
〔6〕
位相差発現剤が可視光領域に吸収極大を持たず、長波にUV吸収を有する化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする〔5〕に記載の位相差フィルム。
〔7〕
実質的に残留溶媒を含まないフィルムのガラス転移点温度が140℃未満であることを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の位相差フィルム。
〔8〕
フィルムの膜厚が80μm未満であることを特徴とする〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の位相差フィルム。
〔9〕
〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の位相差フィルムを保護フィルムとして含み、該フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が実質的に平行であることを特徴とする偏光板。
〔10〕
第一の偏光板として〔9〕に記載の偏光板を該位相差フィルムが液晶セル側となるように配置し、該液晶セルの反対側に二軸性である位相差フィルムの少なくとも1枚を液晶セル側に有し、該位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が実質的に直交する第二の偏光板を該第一の偏光板と該第二の偏光板の吸収軸が実質的に直交するように配置したことを特徴とする液晶表示装置。
〔11〕
VAモードである〔10〕に記載の液晶表示装置。
【0007】
以下に本発明の好ましい態様を記載する。
〔12〕
セルロースエステルと溶媒を含むドープを製造する工程、該セルロースエステルドープを金属支持体上にキャストする工程、該キャストされたドープを生乾きに乾燥する工程、該セルロースエステル膜を金属支持体から剥離する工程、該生乾きに乾燥されたセルロースエステル膜を乾燥する工程、をこの順に含み、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が10質量%以上50質量%以下の範囲であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005以上1.03未満であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が80℃〜100℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われること、
を特徴とする、
Rthが、波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少するセルロースエステルフィルムの製造方法。
〔13〕
セルロースエステルと溶媒を含むドープを製造する工程、該セルロースエステルドープを金属支持体上にキャストする工程、該キャストされたドープを生乾きに乾燥する工程、該セルロースエステル膜を金属支持体から剥離する工程、該生乾きに乾燥されたセルロースエステル膜を乾燥する工程、をこの順に含み、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が10質量%以上50質量%未満であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.03以上1.10以下であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が100℃〜120℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われること、
を特徴とする、
Rthが、波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少するセルロースエステルフィルムの製造方法。
〔14〕
セルロースエステルと溶媒を含むドープを製造する工程、該セルロースエステルドープを金属支持体上にキャストする工程、該キャストされたドープを生乾きに乾燥する工程、該セルロースエステル膜を金属支持体から剥離する工程、該生乾きに乾燥されたセルロースエステル膜を乾燥する工程、をこの順に含み、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が50質量%以上100質量%以下であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005以上1.03未満であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が100℃〜120℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われること、
を特徴とする、
Rthが、波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少するセルロースエステルフィルムの製造方法。
〔15〕
セルロースエステルと溶媒を含むドープを製造する工程、該セルロースエステルドープを金属支持体上にキャストする工程、該キャストされたドープを生乾きに乾燥する工程、該セルロースエステル膜を金属支持体から剥離する工程、該生乾きに乾燥されたセルロースエステル膜を乾燥する工程、をこの順に含み、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が50質量%以上100質量%以下であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.03以上1.10以下であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が120℃〜140℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われること、
を特徴とする、
Rthが、波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少するセルロースエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿度に依存性及び正面コントラストに優れ、カラーシフト(色味視野角依存性)が改良された液晶表示装置、特にVAモードの液晶表示装置を提供できる。また、本発明は液晶表示装置の視野角の拡大及び視野角に依存した、湿度依存性及び正面コントラストの改良、カラーシフトの軽減に寄与する位相差フィルム及び偏光板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<位相差フィルム>
本発明の位相差フィルムは以下のa)〜c)の関係を満たす。
a)フィルム厚み方向の位相差Rthが測定波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少する。
b)フィルム面内の位相差Reの遅相軸の平均の方位がフィルム製膜時の搬送方向(以下MD方向と記載)に対して0.05°から4°の範囲内にある。
c) 測定波長λ=548nmで測定したRe(548)及びRth(548)が以下の(式1)及び(式2)の関係を満たす。
40nm<Rth(548)≦200nm (式1)
0nm<Re(548)≦20nm (式2)
(ここでフィルム面内の遅相軸、進相軸、厚み方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとしたときにRth={(nx+ny)/2−nz}×d、 Re=(nx−ny)×d で表され、dはフィルムの厚みを表す。)
上記のa)〜c)の関係を満たすことにより、湿度依存性及び正面コントラストを改良し、視野角のカラーシフトを低減することができる。
【0010】
以下にフィルムのレターデーションについて説明する。
【0011】
[フィルムのレターデーション]
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
【0012】
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(21)および式(22)よりRthを算出することもできる。
【0013】
【数1】



式(21)
【0014】
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
式(21)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d −−− 式(22)
【0015】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0016】
本発明の位相差フィルムは、フィルム厚み方向の位相差(レターデーション)Rthが測定波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少する、いわゆる正の波長分散特性を有する。
【0017】
〔位相差Reの遅相軸の平均の方位〕
本発明の位相差フィルムは、
b)フィルム面内の位相差Reの遅相軸の平均の方位がフィルム製膜時の搬送方向に対して0.05°から4°の範囲内にある。
位相差フィルムを液晶表示装置に適用した場合に正面コントラストを最大にするために理想的には位相差Reの遅相軸の平均の方位は0°であることが好ましいことは一般的に知られているが、本発明者らは前記の正の波長分散特性を有するフィルムの遅相軸の平均の方位が0°でない上記の範囲において、正面コントラストの僅かな低下を伴うものの視野角のカラーシフトが大幅に改良されることを見出し本発明に到ったものである。本発明の位相差フィルムは元来正面コントラストが有利なVAモード液晶表示装置に適用するとその効果が特に顕著に現れる。
ここで、位相差Reの遅相軸の平均の方位は前述したKOBRA 21ADHまたはWRと同メーカー(王子計測機器(株))製のオンライン位相差計KOBRA−WIDで測定することができる。具体的には、フィルムの幅方向について3点(中央での測定値。中央から両端部までの各々の70%の位置での測定値で、右測定値と左測定値と言う、の3点)を測定し、中央値に対して、右測定値と左測定値の絶対値の平均値を方位1とする。同様にしてフィルムの搬送方向について0.3m間隔で15点の測定を行い、方位2〜方位16求め、方位1〜方位16の平均値を本発明における遅相軸の平均値の方位とする。
本発明において遅相軸の平均の方位0.05°から4°の範囲内であるが、0.1°から2°であることが好ましく、0.5°から1°であることがより好ましい。
【0018】
本発明の位相差フィルムは、測定波長λ=446nm、548nm、629nmで測定したRth(λ)が(式3)及び(式4)を満たすことが好ましい。
Rth(446)/Rth(548)≧1.03 (式3)
Rth(629)/Rth(548)≦1.00 (式4)
【0019】
また、(式3’)及び(式4’)を満たすことがより好ましく、(式3’’)及び(式4’’)を満たすことがさらに好ましい。
【0020】
Rth(446)/Rth(548)≧1.05 (式3’)
Rth(629)/Rth(548)≦0.99 (式4’)
【0021】
Rth(446)/Rth(548)≧1.07 (式3’’)
Rth(629)/Rth(548)≦0.98 (式4’’)
【0022】
(式3)及び(式4)を満たすことで、該位相差フィルムは測定波長λが増加するにつれてRthが減少するいわゆる正の波長分散特性を示し、液晶表示装置に適用した場合にカラーシフトを低減させるものであり、好ましい。
【0023】
本発明の位相差フィルムは、測定波長λ=548nmで測定したRth(λ)、Re(λ)が(式1)及び(式2)を満たす。
40nm<Rth(548)≦200nm (式1)
0nm<Re(548)≦20nm (式2)
【0024】
また、(式1’)及び(式2’)を満たすことが好ましく、(式1’’)及び(式2’’)を満たすことがより好ましい。
【0025】
70nm<Rth(548)≦150nm (式1’)
0nm<Re(548)≦15nm (式2’)
【0026】
90nm<Rth(548)≦130nm (式1’’)
5nm<Re(548)≦10nm (式2’’)
【0027】
(式1)及び(式2)を満たすことで、該位相差フィルムはいわゆる負のCプレートに限りなく近い二軸性を示すものであり、好ましい。
【0028】
レターデーションはレターデーション発現剤、製膜時の乾燥方法、剥離時のライン速度、延伸等様々な方法により調節可能である。このうち、後述するレターデーション発現剤による調節、および製膜時の乾燥方法、剥離時のライン速度による調節を好ましく用いることができる。
【0029】
本発明の位相差フィルムは、(式5)で表される漏光率(%)が0.00005%〜0.003%であることが好ましい。より好ましくは0.0001%〜0.002%であり、更に好ましくは0.0001%〜0.001%である。
漏光率(%)=Sin2(2θ)×Sin2(πRe/λ)×100 (式5)
ここでθは各々の測定点におけるフィルムMD方向に対するフィルム遅相軸角度(ラジアン)、λは測定波長(nm)、πは円周率、Re=(nx−ny)×dで表されるものとする。
漏光率は、レターデーション発現剤、製膜時の乾燥方法、剥離時のライン速度、延伸等様々な方法により調節可能である。このうち、後述するレターデーション発現剤による調節、および製膜時の乾燥方法、剥離時のライン速度による調節を用いることができる。
【0030】
フィルムのヘイズは0.1%〜2%であることが好ましい。より好ましくは0.1%〜1%であり、更に好ましくは0.1%〜0.5%である。
ヘイズの測定は、例えば、セルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)等を用いてJIS K−6714に従って測定することができる。
【0031】
実質的に残留溶媒を含まないフィルムのガラス転移点温度が140℃未満であることが好ましい。より好ましくは100℃〜135℃であり、更に好ましくは120℃〜135℃である。
ガラス転移温度の測定は、例えば、セルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))を用いて、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に観察される貯蔵弾性率の急激な減少に対して、JIS K7121-1987の図3に記載の方法により求めることができる。
【0032】
本発明の位相差フィルムは膜厚が80μm未満であることが好ましい。より好ましくは30μm〜70μmであり、更に好ましくは40μm〜60μmである。
【0033】
〔レターデーション発現剤〕
本発明ではレターデーション値を調整するため、レターデーション発現剤を用いることが好ましい。レターデーション発現剤としては、棒状又は円盤状化合物からなるものを挙げることができる。棒状又は円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。
【0034】
本発明の位相差フィルムは、セルロースエステル系ポリマーからなり、位相差発現剤(レターデーション発現剤)を該ポリマーに対して少なくとも3質量%以上含有することが好ましい。3質量%〜20質量%含有することがより好ましい、更に好ましくは5質量%〜10質量%含有することが更に好ましい。
【0035】
本発明における位相差フィルムにおいては、位相差発現剤が可視光領域に吸収極大を持たず、長波にUV吸収を有する化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。高い透明性と位相差の正の波長分散特性を両立するためである。
長波にUV吸収を有するレターデーション発現剤としては、250nm〜380nmの波長範囲に吸収極大を有する分極率異方性の大きい化合物が好ましい。
【0036】
本発明における位相差発現剤としては、下記一般式(II)で表される化合物を特に好ましく使用できる。
【0037】
【化1】

【0038】
(式中、X1は、単結合、−NR4−、−O−または−S−であり;X2は、単結合、−NR5−、−O−または−S−であり;X3は、単結合、−NR6−、−O−または−S−である。また、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、芳香族環基または複素環基であり;R4、R5およびR6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基である。)
【0039】
以下に、一般式(II)で表される化合物について詳しく説明する。
【0040】
まず、R1、R2、およびR3はについて説明する。
一般式(II)において、R1、R2、およびR3は、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、芳香族環基または複素環基を表すが、芳香族環または複素環がより好ましい。R1、R2、およびR3がそれぞれ表す芳香族環は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。
【0041】
1、R2、およびR3は芳香族環または複素環に置換基を有していてもよい。該置換基の例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル基、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が挙げられる。
【0042】
1、R2、およびR3が複素環基を表す場合、複素環は芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環とは、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記に挙げた置換基の例と同様である。これらの置換基は、上記置換基でさらに置換されていてもよい。
【0043】
一般式(II)中、X1は単結合、−NR4−、−O−または−S−を表し、X2は単結合、−NR5−、−O−または−S−を表し、X3は単結合、−NR6−、−O−または−S−を表す。R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基を表す。
【0044】
4、R5およびR6がそれぞれ表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらに好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ)およびアシルオキシ基(例、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ)が含まれる。
【0045】
4、R5およびR6がそれぞれ表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基がより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。
【0046】
4、R5およびR6がそれぞれ表す芳香族環基(アリール基)および複素環基は、R1、R2およびR3がそれぞれ表す芳香族環および複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基および複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR1、R2およびR3の芳香族環および複素環の置換基と同様である。
【0047】
以下に前記一般式(II)で表される化合物の好ましい例(I−(1)〜IV−(10))を下記に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
【化4】

【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
【化9】

【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
【化12】

【0059】
【化13】


【0060】
【化14】

【0061】
(紫外線吸収剤)
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは紫外線吸収剤を位相差発現剤として含むことも好ましい。
本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。本発明におけるセルロースアシレートフィルムを偏光板の保護フィルムとして用いる場合、紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0062】
本発明に有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を好ましく使用できる。
【0063】
本発明のセルロースアセテートフィルムには前記の位相差発現剤および紫外線吸収剤をセルロースアセテートに対して2質量%以上含むことが好ましいが5質量%以上含むことが特に好ましく、7質量%以上含むことが最も好ましい。
【0064】
〔セルロースアシレート〕
本発明に用いることのできるセルロースアシレートについて説明する。
セルロースアシレートの置換度は、セルロースの構成単位((β)1,4−グリコシド結合しているグルコース)に存在している、3つの水酸基がアシル化されている割合を意味する。置換度(アシル化度)は、セルロースの構成単位質量当りの結合脂肪酸量を測定して算出することができる。測定方法は、「ASTM D817−91」に準じて実施する。
【0065】
本発明におけるセルロースアシレートは、アシル化度が2.00〜2.95であるセルロースアセテートが好ましい。前記アシル化度は2.45〜2.93がさらに好ましい。さらに全アシル化度に対する6位のアシル化度の比率は0.25以上が好ましく、0.3以上がさらに好ましい。また、本発明におけるセルロースアシレートは、2種以上のアシル基を含むことが好ましい。
【0066】
本発明において、もう一つの好ましいセルロースアシレートとしては、アシル化度が2〜2.9であり、アセチル基の炭素数が3〜4のアシル基を有する混合脂肪酸エステルである。前記混合脂肪酸エステルのアシル化度は2.2〜2.85がさらに好ましく、2.4〜2.8が最も好ましい。また、アセチル化度は2.5未満が好ましく、1.9未満がさらに好ましい。
【0067】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、350〜800の質量平均重合度を有することが好ましく、370〜600の質量平均重合度を有することがさらに好ましい。また本発明で用いられるセルロースアシレートは、70000〜230000の数平均分子量を有することが好ましく、75000〜230000の数平均分子量を有することがさらに好ましく、78000〜120000の数平均分子量を有することが最も好ましい。
【0068】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。前記アシル化剤が酸無水物である場合は、反応溶媒として有機酸(例えば、酢酸)や塩化メチレンが使用される。また、触媒として、硫酸のようなプロトン性触媒を用いることができる。アシル化剤が酸塩化物である場合は、触媒として塩基性化合物を用いることができる。工業的に最も一般的な合成方法では、セルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。
【0069】
この方法においては、綿花リンターや木材パルプのようなセルロースは、酢酸のような有機酸で活性化処理した後、硫酸触媒の存在下で、上記のような有機酸成分の混合液を用いてエステル化する場合が多い。有機酸無水物成分は、一般にセルロース中に存在する水酸基の量に対して過剰量で使用する。このエステル化処理では、エステル化反応に加えてセルロース主鎖(β)1,4−グリコシド結合)の加水分解反応(解重合反応)が進行する。主鎖の加水分解反応が進むとセルロースエステルの重合度が低下し、製造するセルロースエステルフィルムの物性が低下する。そのため、反応温度のような反応条件は、得られるセルロースエステルの重合度や分子量を考慮して決定することが好ましい。
【0070】
重合度の高い(分子量の大きい)セルロースエステルを得るためには、エステル化反応工程における最高温度を50℃以下に調節することが重要である。最高温度は、好ましくは35〜50℃、さらに好ましくは37〜47℃に調節する。反応温度が35℃以上であれば、エステル化反応が円滑に進行するので好ましい。また、反応温度が50℃以下であれば、セルロースエステルの重合度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。
【0071】
エステル化反応の後、温度上昇を抑制しながら反応を停止すると、さらに重合度の低下を抑制でき、高い重合度のセルロースエステルを合成できる。すなわち、反応終了後に反応停止剤(例えば、水、酢酸)を添加すると、エステル化反応に関与しなかった過剰の酸無水物は、加水分解して対応する有機酸を副成する。この加水分解反応は激しい発熱を伴い、反応装置内の温度が上昇する。反応停止剤の添加速度が大きすぎることがなければ、反応装置の冷却能力を超えて急激に発熱して、セルロース主鎖の加水分解反応が著しく進行し、得られるセルロースエステルの重合度が低下するなどの問題が生じることはない。また、エステル化の反応中に触媒の一部はセルロースと結合しており、その大部分は反応停止剤の添加中にセルロースから解離する。このとき反応停止剤の添加速度が大きすぎなければ、触媒が解離するために充分な反応時間が確保され、触媒の一部がセルロースに結合した状態で残るなどの問題は生じにくい。強酸の触媒が一部結合しているセルロースエステルは安定性が非常に悪く、製品の乾燥時の熱などで容易に分解して重合度が低下する。これらの理由により、エステル化反応の後、好ましくは4分以上、さらに好ましくは4〜30分の時間をかけて反応停止剤を添加して、反応を停止することが望ましい。なお、反応停止剤の添加時間が30分以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題が生じないので好ましい。
【0072】
反応停止剤としては、一般に酸無水物を分解する水やアルコールが用いられている。ただし、本発明では、各種有機溶媒への溶解性が低いトリエステルを析出させないために、水と有機酸との混合物が、反応停止剤として好ましく用いられる。以上のような条件でエステル化反応を実施すると、質量平均重合度が500以上である高分子量セルロースエステルを容易に合成することができる。
【0073】
〔セルロースアシレートフィルムの製造〕
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することができる。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
【0074】
前記有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
前記エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。また、前記エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−およびCOO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、前記有機溶媒として用いることができる。前記有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する溶媒の上述の好ましい炭素原子数範囲内であることが好ましい。
【0075】
前記炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
前記炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
前記炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
また、2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
【0076】
炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
また、2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0077】
セルロースアシレート溶液(ドープ)は、0℃以上の温度(常温または高温)で処理することからなる一般的な方法で調製することができる。セルロースアシレート溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
【0078】
セルロースアシレート溶液中におけるセルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0079】
セルロースアシレート溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを撹拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で撹拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、且つ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら撹拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0080】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は撹拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
【0081】
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
【0082】
撹拌は、容器内部に撹拌翼を設けて、これを用いて行うことが好ましい。撹拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。撹拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
【0083】
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0084】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造する。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40%となるように濃度を調整することが好ましく、18〜35%であることがより好ましい。
【0085】
セルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率が以下に述べる範囲であることが、流延しやすく好ましい。これらの値は、試料溶液1mLをレオメーター“CLS 500”に、直径4cm/2°の“Steel Cone”(共にTA Instruments社製)を用いて測定する。測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、40℃の静的非ニュートン粘度n*(Pa・s)及び−5℃の貯蔵弾性率G'(Pa)を求める。なお試料溶液は、予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始する。
【0086】
本発明では、40℃での粘度が1〜400Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が500Pa以上であることが好ましく、より好ましくは40℃での粘度が10〜200Pa・sで、15℃での動的貯蔵弾性率が100〜100万であるのがよい。さらには、低温での動的貯蔵弾性率は大きいほど好ましく、例えば流延支持体が−5℃の場合は、動的貯蔵弾性率が−5℃で1万〜100万Paであることが好ましく、支持体が−50℃の場合は、−50℃での動的貯蔵弾性率が1万〜500万Paであることが好ましい。
【0087】
ドープ溶液は、流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。セルロースアシレート溶液の濾過には、絶対濾過精度が0.1〜100μmのフィルターを用いることが好ましく、さらには絶対濾過精度が0.5〜25μmであるフィルターを用いることが好ましい。フィルターの厚さは、0.1〜10mmが好ましく、更には0.2〜2mmが好ましい。その場合、濾過圧力は1.6MPa以下が好ましく、より好ましくは1.2MPa以下、更には1.0MPa以下、特に0.2MPa以下で濾過することが好ましい。濾材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂等の従来公知である材料を好ましく用いることができ、特にセラミックス、金属等が好ましく用いられる。
【0088】
バンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下、特に好ましくは20℃以下のバンド上に流延する。
【0089】
本発明においてはキャスト直前の支持体温度T1(℃)とキャスト点から剥離までの略中間地点の支持体温度T2(℃)は18≦T1≦T2≦40であることがブリードアウトとレターデーション発現性の点で特に好ましく、20≦T1≦T2≦35であることが最も好ましい。
【0090】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許第2,336,310号、同2,367,603号、同2,492,078号、同2,492,977号、同2,492,978号、同2,607,704号、同2,739,069号および同2,739,070号の各明細書、英国特許第640731号および同736892号の各明細書、並びに特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号および同62−115035号の各公報に記載がある。バンドまたはドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0091】
また、得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取ることで剥離させ、さらに100℃〜160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して、残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥離までの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0092】
図2の21で示される流延直後から1分未満の膜厚が300μm以上の時は乾燥直後から1分以内は膜面に対して5m/sec以上の風速の乾燥風を吹き付けることが好ましい。
また、流延直後から1分未満膜厚が300μm以下の時は乾燥直後から1分以内は膜面に対して実質的に無風状態とすることが好ましい。
【0093】
本発明は、セルロースエステルと溶媒を含むドープを製造する工程、該セルロースエステルドープを金属支持体上にキャストする工程、該キャストされたドープを生乾きに乾燥する工程、該セルロースエステル膜を金属支持体から剥離する工程、該生乾きに乾燥されたセルロースエステル膜を乾燥する工程、をこの順に含み、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が10〜100質量%の範囲であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005〜1.10であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が80℃〜140℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われること、
を特徴とする、
Rthが、波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少するセルロースエステルフィルムの製造方法にも関する。
【0094】
上記製造方法における一態様として、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が10質量%以上50質量%未満であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005〜1.10であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が80℃〜120℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われる製造方法を挙げることができる。
【0095】
また、上記製造方法における一態様として、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が50質量%以上100質量%以下の範囲であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005〜1.10であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が100℃〜140℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われる製造方法を挙げることができる。
【0096】
上記製造方法における好ましい一態様として、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が10質量%以上50質量%以下の範囲であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005以上1.03未満であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が80℃〜100℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われる製造方法を挙げることができる。
【0097】
上記製造方法における好ましい一態様として、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が10質量%以上50質量%未満であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.03以上1.10以下であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が100℃〜120℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われる製造方法を挙げることができる。
【0098】
上記製造方法における好ましい一態様として、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が50質量%以上100質量%以下であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.005以上1.03未満であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が100℃〜120℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われる製造方法を挙げることができる。
【0099】
上記製造方法における好ましい一態様として、
該剥離工程における剥離時のセルロースエステル膜中の残留溶媒量が50質量%以上100質量%以下であり、
該剥離時のバンドの速度を(a)、剥離後の該膜の搬送速度を(b)とした時に(b)/(a)が1.03以上1.10以下であり、
該剥離後の乾燥工程における乾燥風温度が120℃〜140℃であり、
該乾燥工程における乾燥がセルロースエステルフィルムの幅を固定して行われる製造方法を挙げることができる。
【0100】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)を用いて2層以上の流延を行いフィルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10〜40質量%の範囲となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0101】
2層以上の複数のセルロースアシレート液を流延する場合、複数のセルロースアシレート溶液を流延することが可能であり、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよい。これらは、例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および特開平11−198285号の各公報に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによっても、フィルム化することもできる。これは、例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を用いることができる。さらに特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高・低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押し出すセルロースアシレートフィルムの流延方法を用いることもできる。
【0102】
また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取ることで剥離させ、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0103】
流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアシレート溶液を2種以上用いてもよい。複数のセルロースアシレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。さらに本発明におけるセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0104】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0105】
セルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン等)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。また、前記劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%以上であれば、劣化防止剤の効果が十分に発揮されるので好ましく、添加量が1質量%以下であれば、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)などが生じにくいので好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0106】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明におけるセルロースアシレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は、一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0107】
〔鹸化処理〕
本発明におけるセルロースアシレートフィルムはアルカリ鹸化処理することによりポリビニルアルコールのような偏光子の材料との密着性を付与し、偏光板保護フィルムとして用いることができる。
【0108】
本発明におけるセルロースアシレートフィルムのアルカリ鹸化処理は、フイルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。前記アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの濃度は0.1〜5.0mol/Lの範囲にあることが好ましく、0.5〜4.0mol/Lの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温〜90℃の範囲にあることが好ましく、40〜70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
【0109】
<偏光板の作製>
本発明における偏光板は、位相差フィルムを保護フィルムとして含み、該フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が実質的に平行である。
(偏光子)
次に本発明における偏光板に用いられる偏光子について説明する。
本発明における偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)と二色性分子から構成することが好ましいが、特開平11−248937号公報に記載されているようにPVAやポリ塩化ビニルを脱水、脱塩素することによりポリエン構造を生成し、これを配向させたポリビニレン系偏光子も使用することができる。
【0110】
前記PVAとしては、ポリ酢酸ビニルをケン化したポリマー素材が好ましいが、例えば不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、オレフィン類、ビニルエーテル類のような酢酸ビニルと共重合可能な成分とを含有しても構わない。また、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等を含有する変性PVAも用いることができる。
PVAのケン化度は特に限定されないが、溶解性等の観点から80〜100mol%が好ましく、90〜100mol%が特に好ましい。またPVAの重合度は特に限定されないが、1000〜10000が好ましく、1500〜5000が特に好ましい。
PVAのシンジオタクティシティーは、特許第2978219号公報に記載されているように耐久性を改良するため55%以上が好ましいが、特許第3317494号公報に記載されているように45〜52.5%であることも好ましく用いることができる。
【0111】
PVAをフィルム化した後、二色性分子を導入して偏光子を構成することが好ましい。PVAフィルムの製造方法は、PVA系樹脂を水または有機溶媒に溶解した原液を流延して成膜する方法が一般に好ましく用いられる。原液中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、通常5〜20質量%であり、この原液を流延法により製膜することによって、膜厚10〜200μmのPVAフィルムを製造できる。PVAフィルムの製造は、特許第3342516号明細書、特開平09−328593号公報、特開2001−302817号公報、特開2002−144401号公報等を参考にして行うことができる。
PVAフィルムの結晶化度は、特に限定されないが、特許第3251073号、に記載されている平均結晶化度(Xc)50〜75質量%や、面内の色相バラツキを低減させるため、特開2002−236214号公報に記載されている結晶化度38%以下のPVAフィルムを用いることができる。
【0112】
PVAフィルムの複屈折(△n)は小さいことが好ましく、特許第3342516号公報に記載されている複屈折が1.0×10-3以下のPVAフィルムを好ましく用いることができる。但し、特開2002−228835号公報に記載されているように、PVAフィルムの延伸時の切断を回避しながら高偏光度を得るため、PVAフィルムの複屈折を0.002〜0.01としてもよいし、特開2002−060505号公報に記載されているように(nx+ny)/2−nzの値を0.0003〜0.01としてもよい。PVAフィルムのRe(1090)は0nm〜100nmが好ましく、0nm〜50nmがさらに好ましい。また、PVAフィルムのRth(1090)は0nm〜500nmが好ましく、0nm〜300nmがさらに好ましい。
【0113】
この他、本発明における偏光板には、特許第3021494号公報に記載されている1、2−グリコール結合量が1.5モル%以下のPVAフィルム、特開2001−316492号公報に記載されている5μm以上の光学的異物が100cm2当たり500個以下であるPVAフィルム、特開2002−030163号公報に記載されているフィルムのTD方向の熱水切断温度斑が1.5℃以下であるPVAフィルム、さらにグリセリンなどの3〜6価の多価アルコ−ルを1〜100質量部混合したり、特開平06−289225号公報に記載されている可塑剤を15質量%以上混合した溶液から製膜したPVAフィルムを好ましく用いることができる。
【0114】
PVAフィルムの延伸前のフィルム膜厚は特に限定されないが、フィルム保持の安定性、延伸の均質性の観点から、1μm〜1mmが好ましく、20〜200μmが特に好ましい。特開2002−236212号に記載されているように水中において4倍から6倍の延伸を行った時に発生する応力が10N以下となるような薄いPVAフィルムを使用してもよい。
【0115】
二色性分子はI3-やI5-などの高次のヨウ素イオンもしくは二色性染料を好ましく使用することができる。本発明では高次のヨウ素イオンが特に好ましく使用される。高次のヨウ素イオンは、「偏光板の応用」永田良編、CMC出版や工業材料、第28巻、第7号、p.39〜p.45に記載されているようにヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶解した液および/またはホウ酸水溶液にPVAを浸漬し、PVAに吸着・配向した状態で生成することができる。
【0116】
二色性分子として二色性染料を用いる場合は、アゾ系色素が好ましく、特にビスアゾ系とトリスアゾ系色素が好ましい。二色性染料は水溶性のものが好ましく、このため二色性分子にスルホン酸基、アミノ基、水酸基などの親水性置換基が導入され、遊離酸、あるいはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン類の塩として好ましく用いられる。
【0117】
このような二色性染料の具体例としては、例えば、C.I.Direct Red 37、 Congo Red(C.I. Direct Red 28)、C.I.Direct Violet 12、 C.I.Direct Blue 90、 C.I.Direct Blue 22、 C.I.Direct Blue 1、 C.I.Direct Blue 151、 C.I.Direct Green 1等のベンジジン系、C.I.Direct Yellow 44、 C.I.Direct Red 23、 C.I.Direct Red 79等のジフェニル尿素系、C.I.Direct Yellow 12等のスチルベン系、C.I.Direct Red 31等のジナフチルアミン系、C.I.Direct Red 81、 C.I.Direct Violet 9、 C.I.Direct Blue 78等のJ酸系を挙げることができる。
【0118】
これ以外にも、C.I.Direct Yellow 8、C.I.Direct Yellow 28、C.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 87、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Orange 26、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 106、C.I.Direct Orange 107、C.I.Direct Red 2、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Direct Red 240、C.I.Direct Red 242、C.I.Direct Red 247、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 51、C.I.Direct Violet 98、C.I.Direct Blue 15、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 71、C.I.Direct Blue 98、C.I.Direct Blue 168、C.I.Direct Blue 202、C.I.Direct Blue 236、C.I.Direct Blue 249、C.I.Direct Blue 270、C.I.Direct Green 59、C.I.Direct Green 85、C.I.Direct Brown 44、C.I.Direct Brown 106、C.I.Direct Brown 195、C.I.Direct Brown 210、C.I.Direct Brown 223、C.I.Direct Brown 224、C.I.Direct Black 1、C.I.Direct Black 17、C.I.Direct Black 19、C.I.Direct Black 54等が、さらに特開昭62−70802号、特開平1−161202号、特開平1−172906号、特開平1−172907号、特開平1−183602号、特開平1−248105号、特開平1−265205号、特開平7−261024号、の各公報記載の二色性染料等も好ましく使用することができる。各種の色相を有する二色性分子を製造するため、これらの二色性染料は2種以上を配合してもかまわない。二色性染料を用いる場合、特開2002−082222号公報に記載されているように吸着厚みが4μm以上であってもよい。
【0119】
フィルム中の該二色性分子の含有量は、少なすぎると偏光度が低く、また、多すぎても単板透過率が低下することから通常、フィルムのマトリックスを構成するポリビニルアルコール系重合体に対して、0.01〜5質量%の範囲に調整される。
前記偏光子の好ましい膜厚としては、5μm〜40μmが好ましく、さらに好ましくは10μm〜30μmである。また、偏光子の厚さと上述する保護フィルムの厚さの比を、特開2002−174727号公報に記載されている0.01≦A(偏光子膜厚)/B(保護フィルム膜厚)≦0.16範囲とすることも好ましい。
さらに、保護フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸との交差角は、任意の値でよいが、平行もしくは45±20゜の方位角であることが好ましい。
【0120】
<偏光板の製造工程>
次に、本発明における偏光板の製造工程について説明する。
本発明における偏光板の製造工程は、膨潤工程、染色工程、硬膜工程、延伸工程、乾燥工程、保護フィルム貼り合わせ工程、貼り合わせ後乾燥工程から構成されることが好ましい。染色工程、硬膜工程、延伸工程の順序を任意に変えること、また、いくつかの工程を組み合わせて同時に行っても構わない。また、特許第3331615号明細書に記載されているように、硬膜工程の後に水洗することも好ましく行うことができる。
【0121】
本発明では、膨潤工程、染色工程、硬膜工程、延伸工程、乾燥工程、保護フィルム貼り合わせ工程、貼り合わせ後乾燥工程を記載の順序で遂次行うことが特に好ましい。また、前述の工程中あるいは後にオンライン面状検査工程を設けても構わない。
【0122】
前記膨潤工程は、水のみで行うことが好ましいが、特開平10−153709号公報に記載されているように、光学性能の安定化および、製造ラインでの偏光板基材のシワ発生回避のために、偏光板基材をホウ酸水溶液により膨潤させて、偏光板基材の膨潤度を管理することもできる。
また、膨潤工程の温度、時間は、任意に定めることができるが、10℃〜60℃、5秒〜2000秒が好ましい。
【0123】
前記染色工程は、特開2002−86554号公報に記載の方法を用いることができる。また、染色方法としては浸漬だけでなく、ヨウ素あるいは染料溶液の塗布あるいは噴霧等、任意の手段が可能である。また、特開2002−290025号公報に記載されているように、ヨウ素の濃度、染色浴温度、浴中の延伸倍率、および浴中の浴液を攪拌させながら染色させる方法を用いてもよい。
【0124】
二色性分子として高次のヨウ素イオンを用いる場合、高コントラストの偏光板を得るためには、染色工程はヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶解した液を用いることが好ましい。この場合のヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液のヨウ素は0.05〜20g/l、ヨウ化カリウムは3〜200g/l、ヨウ素とヨウ化カリウムの質量比は1〜2000が好ましい範囲である。染色時間は10〜1200秒が好ましく、液温度は10〜60℃が好ましい。さらに好ましくは、ヨウ素は0.5〜2g/l、ヨウ化カリウムは30〜120g/l、ヨウ素とヨウ化カリウムの質量比は30〜120がよく、染色時間は30〜600秒、液温度は20〜50℃がよい。
また、特許第3145747号明細書に記載されているように、染色液にホウ酸、ホウ砂等のホウ素系化合物を添加してもよい。
【0125】
前記硬膜工程は、架橋剤溶液に浸漬、または溶液を塗布して架橋剤を含ませるのが好ましい。また、特開平11−52130号公報に記載されているように、硬膜工程を数回に分けて行うこともできる。
【0126】
前記架橋剤としては米国再発行特許第232897号明細書に記載のものが使用でき、特許第3357109号明細書に記載されているように、寸法安定性を向上させるため、架橋剤として多価アルデヒドを使用することもできるが、ホウ酸類が最も好ましく用いられる。硬膜工程に用いる架橋剤としてホウ酸を用いる場合には、ホウ酸−ヨウ化カリウム水溶液に金属イオンを添加しても良い。金属イオンとしては塩化亜鉛が好ましいが、特開2000−35512号公報に記載されているように、塩化亜鉛の変わりに、ヨウ化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛などの亜鉛塩を用いることもできる。
【0127】
本発明では、塩化亜鉛を添加したホウ酸−ヨウ化カリウム水溶液を作製し、PVAフィルムを浸漬させて硬膜を行うことが好ましく行われる。ホウ酸は1〜100g/l、ヨウ化カリウムは1〜120g/l、塩化亜鉛は0.01〜10g/l、硬膜時間は10〜1200秒が好ましく、液温度は10〜60℃が好ましい。さらに好ましくは、ホウ酸は10〜80g/l、ヨウ化カリウムは5〜100g/l、塩化亜鉛は0.02〜8g/l、硬膜時間は30〜600秒がよく、液温度は20〜50℃がよい。
【0128】
前記延伸工程は、米国特許2,454,515号明細書などに記載されているような、縦一軸延伸方式、もしくは特開2002−86554号公報に記載されているようなテンター方式を好ましく用いることができる。好ましい延伸倍率は2倍〜12倍であり、さらに好ましくは3倍〜10倍である。また、延伸倍率と原反厚さと偏光子厚さの関係は特開2002−040256号公報に記載されている(保護フィルム貼合後の偏光子膜厚/原反膜厚)×(全延伸倍率)>0.17としたり、最終浴を出た時の偏光子の幅と保護フィルム貼合時の偏光子幅の関係は特開2002−040247号公報に記載されている0.80≦(保護フィルム貼合時の偏光子幅/最終浴を出た時の偏光子の幅)≦0.95とすることも好ましく行うことができる。
【0129】
前記乾燥工程は、特開2002−86554号公報で公知の方法を使用できるが、好ましい温度範囲は30℃〜100℃であり、好ましい乾燥時間は30秒〜60分である。また、特許第3148513号公報に記載されているように、水中退色温度を50℃以上とするような熱処理を行ったり、特開平07−325215号公報や特開平07−325218号公報に記載されているように温湿度管理した雰囲気でエージングすることも好ましく行うことができる。
【0130】
保護フィルム貼り合わせ工程は、乾燥工程を出た前述の偏光子の両面を2枚の保護フィルムで貼合する工程である。貼合直前に接着液を供給し、偏光子と保護フィルムとを重ね合わせるように、一対のロールで貼り合わせる方法が好ましく使用される。また、特開2001−296426号公報および特開2002−86554号公報に記載されているように、偏光子の延伸に起因するレコードの溝状の凹凸を抑制するため、貼り合わせ時の偏光子の水分率を調整することが好ましい。本発明では0.1%〜30%の水分率が好ましく用いられる。
【0131】
偏光子と保護フィルムとの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜5μmが好ましく、0.05〜3μmが特に好ましい。
【0132】
また、偏光子と保護フィルムとの接着力を向上させるために、保護フィルムを表面処理して親水化してから接着することが好ましく行われる。表面処理の方法は特に制限は無いが、上述のようにアルカリ溶液を用いてケン化する方法、コロナ処理法など公知の方法を用いることができる。また、表面処理後にゼラチン下塗り層等の易接着層を設けてもよい。特開2002−267839号公報に記載されているように保護フィルム表面の水との接触角は50°以下が好ましい。
貼り合わせ後乾燥条件は、特開2002−86554号公報に記載の方法に従うが、好ましい温度範囲は30℃〜100℃であり、好ましい乾燥時間は30秒〜60分である。また、特開平07−325220号公報に記載されているように温湿度管理をした雰囲気でエージングすることも好ましい。
【0133】
偏光子中の元素含有量は、ヨウ素0.1〜3.0g/m2、ホウ素0.1〜5.0g/m2、カリウム0.1〜2.00g/m2、亜鉛0〜2.00g/m2であることが好ましい。また、カリウム含有量は特開2001−166143号公報に記載されているように0.2質量%以下であってもよいし、偏光子中の亜鉛含有量を特開2000−035512号公報に記載されている0.04質量%〜0.5質量%としてもよい。
【0134】
特許第3323255号公報に記載されているように、偏光板の寸法安定性を上げるために、染色工程、延伸工程および硬膜工程のいずれかの工程において有機チタン化合物および/または有機ジルコニウム化合物を添加使用し、有機チタン化合物および有機ジルコニウム化合物から選ばれた少なくとも一種の化合物を含有することもできる。また、偏光板の色相を調整するために二色性染料を添加してもよい。
【0135】
<偏光板の特性>
(1)透過率および偏光度
本発明における偏光板の好ましい単板透過率は42.5%〜49.5%であるが、さらに好ましくは42.8%〜49.0%である。下記式1で定義される偏光度の好ましい範囲は99.900%〜99.999%であり、さらに好ましくは99.940%〜99.995%である。平行透過率の好ましい範囲は36%〜42%であり、直交透過率の好ましい範囲は、0.001%〜0.05%である。
【0136】
【数2】

【0137】
上述の透過率はJIS Z8701に基づいて、下記式により定義される。
【0138】
【数3】

【0139】
ここで、K、S(λ)、y(λ)、τ(λ)は以下の通りである。
【0140】
【数4】

【0141】
S(λ):色の表示に用いる標準光の分光分布
y(λ):XYZ系における等色関数
τ(λ):分光透過率
【0142】
また、下記式5で定義される二色性比の好ましい範囲は48〜1215であるが、さらに好ましくは53〜525である。
【0143】
【数5】

【0144】
ヨウ素濃度と単板透過率とは特開2002−258051号公報の〔0017〕に記載されている範囲であってもよい。
平行透過率は、特開2001−083328号公報や特開2002−022950号公報に記載されているように波長依存性が小さくてもよい。偏光板をクロスニコルに配置した場合の光学特性は、特開2001−091736号公報の〔0007〕に記載されている範囲であってもよく、平行透過率と直交透過率との関係は、特開2002−174728号公報の〔0006〕に記載されている範囲内であってもよい。
【0145】
また、特開2002−221618号公報に記載されているように、光の波長が420〜700nmの間での10nm毎の平行透過率の標準偏差が3以下で、且つ、光の波長が420〜700nmの間での10nm毎の(平行透過率/直交透過率)の最小値が300以上であってもよい。
偏光板の波長440nmにおける平行透過率と直交透過率、平行透過率、波長550nmにおける平行透過率と直交透過率、波長610nmにおける平行透過率と直交透過率が、特開2002−258042号公報の〔0012〕や特開2002−258043号公報の〔0012〕に記載された範囲とすることも好ましく行うことができる。
【0146】
(2)色相
本発明における偏光板の色相は、CIE均等知覚空間として推奨されているL***表色系における明度指数L*およびクロマティクネス指数a*とb*を用いて好ましく評価される。
*、a*、b*の定義は、例えば、東京電機大学出版局刊、色彩光学等に記載されている。
【0147】
偏光板単枚の好ましいa*の範囲は−2.5〜0.2であり、さらに好ましくは−2.0〜0である。偏光板単枚の好ましいb*の範囲は1.5〜5であり、さらに好ましくは2〜4.5以下である。2枚の偏光板の平行透過光のa*の好ましい範囲は−4.0〜0であり、さらに好ましくは−3.5〜−0.5である。2枚の偏光板の平行透過光のb*の好ましい範囲は2.0〜8であり、さらに好ましくは2.5〜7である。2枚の偏光板の直交透過光のa*の好ましい範囲は−0.5〜1.0であり、さらに好ましくは0〜2である。2枚の偏光板の直交透過光のb*の好ましい範囲は−2.0〜2であり、さらに好ましくは−1.5〜0.5である。
【0148】
色相は、前述のX、Y、Zから算出される色度座標(x,y)で評価しても良く、例えば、2枚の偏光板の平行透過光の色度(xp、yp)と直交透過光の色度(xc、yc)は、特開2002−214436号公報の〔0017〕、特開2001−166136号公報の〔0007〕や特開2002−169024号公報の〔0005〕〜〔0008〕に記載されている範囲にしたり、色相と吸光度との関係を特開2001−311827号公報の〔0005〕〜〔0006〕に記載されている範囲内にすることも好ましく行うことができる。
【0149】
(3)視野角特性
偏光板をクロスニコルに配置して波長550nmの光を入射させる場合の、垂直光を入射させた場合と、偏光軸に対して45度の方位から法線に対し40°の角度で入射させた場合の、透過率比やxy色度差を特開2001−166135号公報や特開2001−166137号公報に記載された範囲とすることも好ましい。また、特開平10−068817号公報に記載されているように、クロスニコル配置した偏光板積層体の垂直方向の光透過率(T0)と、積層体の法線から60°傾斜方向の光透過率(T60)との比(T60/T0)を10000以下としたり、特開2002−139625号公報に記載されているように、偏光板に法線から仰角80°までの任意な角度で自然光を入射させた場合に、その透過スペクトルの520〜640nmの波長範囲において波長域20nm以内における透過光の透過率差を6%以下としたり、特開平08−248201号公報に記載されている、フィルム上の任意の1cm離れた場所における透過光の輝度差が30%以内とすることも好ましい。
【0150】
(4)耐久性
(4−1)湿熱耐久性
60℃、相対湿度95%の雰囲気に500時間放置した場合のその前後における光透過率および偏光度の変化率が絶対値に基づいて3%以下であることが好ましい。特に光透過率の変化率は2%以下、また、偏光度の変化率は絶対値に基づいて1.0%以下であることが好ましい。また、特開平07−077608号公報に記載されているように80℃、相対湿度90%、500時間放置後の偏光度が95%以上、単体透過率が38%以上であることも好ましい。
【0151】
(4−2)ドライ耐久性
80℃、ドライ雰囲気下に500時間放置した場合のその前後における光透過率および偏光度の変化率も絶対値に基づいて3%以下であることが好ましい。特に、光透過率の変化率は2%以下、また、偏光度の変化率は絶対値に基づいて1.0%以下、更には0.1%以下であることが好ましい。
【0152】
(4−3)その他の耐久性
さらに、特開平06−167611号公報に記載されているように80℃で2時間放置した後の収縮率を0.5%以下としたり、ガラス板の両面にクロスニコル配置した偏光板積層体を69℃の雰囲気中で750時間放置した後のx値およびy値を特開平10−068818号公報に記載されている範囲内としたり、80℃、相対湿度90%の雰囲気中で200時間放置処理後のラマン分光法による105cm-1および157cm-1のスペクトル強度比の変化を、特開平08−094834号公報や特開平09−197127号公報に記載された範囲とすることも好ましく行うことができる。
【0153】
(5)配向度
PVAの配向度は高い程良好な偏光性能が得られるが、偏光ラマン散乱や偏光FT−IR等の手段によって算出されるオーダーパラメーター値として0.2〜1.0が好ましい範囲である。また、特開昭59−133509号公報に記載されているように、偏光子の全非晶領域の高分子セグメントの配向係数と占領分子の配向係数(0.75以上)との差を少なくとも0.15としたり、特開平04−204907号公報に記載されているように偏光子の非晶領域の配向係数を0.65〜0.85としたり、I3-やI5-の高次ヨウ素イオンの配向度を、オーダーパラメーター値として0.8〜1.0とすることも好ましく行うことができる。
【0154】
(6)その他の特性
特開2002−006133号公報に記載されているように、80℃で30分加熱したときの単位幅あたりの吸収軸方向の収縮力を4.0N/cm以下としたり、特開2002−236213号公報に記載されているように、偏光板を70℃の加熱条件下に120時間置いた場合に、偏光板の吸収軸方向の寸法変化率および偏光軸方向の寸法変化率を、共に±0.6%以内としたり、偏光板の水分率を特開2002−090546号公報に記載されているように3質量%以下とすることも好ましく行うことができる。さらに、特開2000−249832号公報に記載されているように延伸軸に垂直な方向の表面粗さを中心線平均粗さに基づいて0.04μm以下としたり、特開平10−268294号公報に記載されているように透過軸方向の屈折率n0を1.6より大きくしたり、偏光板の厚みと保護フィルムの厚みの関係を特開平10−111411号公報の〔0004〕に記載された範囲とすることも好ましく行うことができる。
【0155】
<液晶表示装置>
次に本発明における液晶表示装置について説明する。
本発明における液晶表示装置は第一の偏光板として前記偏光板を該位相差フィルムが液晶セル側となるように配置し、該液晶セルの反対側に二軸性である位相差フィルムの少なくとも1枚を液晶セル側に有し、該位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が実質的に直交する第二の偏光板を該第一の偏光板と該第二の偏光板の吸収軸が実質的に直交するように配置したことを特徴とする。
【0156】
図1は、本発明の液晶表示装置の例を示す概略図である。図1において、液晶表示装置10は、液晶層7とこの上下に配置された液晶セル上電極基板5および液晶セル下電極基板8とを有する液晶セル、液晶セルの両側に配置された上側偏光板1および下側偏光板12からなる。液晶セルと各偏光板との間にカラーフィルターを配置してもよい。前記液晶表示装置10を透過型として使用する場合は、冷陰極あるいは熱陰極蛍光管、あるいは発光ダイオード、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネッセント素子を光源とするバックライトを背面に配置する。
【0157】
上側偏光板1および下側偏光板12は、それぞれ2枚の保護フィルムで偏光子を挟むように積層した構成を有しており、本発明の液晶表示装置10は、一方の偏光板の液晶セル側の保護フィルムが上記の式(1)〜(5)の特性を有し、他方の偏光板の液晶セル側の保護フィルムが上記の式(6)〜(10)の特性を有する。本発明の液晶表示装置10は、装置の外側(液晶セルから遠い側)から、透明保護フィルム、偏光子、本発明におけるセルロースアシレートフィルムの順序で積層することが好ましい。液晶表示装置10には、画像直視型、画像投影型や光変調型が含まれる。TFTやMIMのような3端子または2端子半導体素子を用いたアクティブマトリックス液晶表示装置が本発明は有効である。もちろん時分割駆動と呼ばれるSTNモードに代表されるパッシブマトリックス液晶表示装置でも有効である。
【0158】
(VAモード)
本発明の液晶表示装置はVAモードであることが好ましい。
VAモードでは上下基板間に誘電異方性が負で、Δn=0.0813、Δε=−4.6程度の液晶をラビング配向により、液晶分子の配向方向を示すダイレクタ、いわゆるチルト角を、約89°で作製する。図1における液晶層7の厚さdは3.5μmに設定してある。ここで厚さdと屈折率異方性Δnとの積Δndの大きさにより白表示時の明るさが変化する。このため最大の明るさを得るためには液晶層の厚みを0.2μm〜0.5μmの範囲になるように設定する。
【0159】
液晶セルの上側偏光板1の吸収軸2と下側偏光板12の吸収軸13は略直交に積層する。液晶セル上電極基板5および液晶セル下電極基板8のそれぞれの配向膜の内側には透明電極(図示せず)が形成されるが、電極に駆動電圧を印加しない非駆動状態では、液晶層7中の液晶分子は、基板面に対して概略垂直に配向し、その結果液晶パネルを通過する光の偏光状態はほとんど変化しない。すなわち、液晶表示装置では、非駆動状態において理想的な黒表示を実現する。これに対し、駆動状態では、液晶分子は基板面に平行な方向に傾斜し、液晶パネルを通過する光はかかる傾斜した液晶分子により偏光状態を変化させる。換言すると、液晶表示装置では、駆動状態において白表示が得られる。なお図1において、符号6および9は、配向制御方向である。
【0160】
ここでは上下基板間に電界が印加されるため、電界方向に垂直に液晶分子が応答するような、誘電率異方性が負の液晶材料を使用した。また電極を一方の基板に配置し、電界が基板面に平行の横方向に印加される場合は、液晶材料は正の誘電率異方性を有するものを使用する。
またVAモードの液晶表示装置では、TNモードの液晶表示装置で一般的に使われているカイラル剤の添加は、動的応答特性の劣化させるため用いることは少ないが、配向不良を低減するために添加されることもある。
【0161】
VAモードの特徴は、高速応答であることと、コントラストが高いことである。しかし、コントラストは正面では高いが、斜め方向では劣化する課題がある。黒表示時に液晶分子は基板面に垂直に配向している。正面から観察すると、液晶分子の複屈折はほとんどないため透過率は低く、高コントラストが得られる。しかし、斜めから観察した場合は液晶分子に複屈折が生じる。さらに上下の偏光板吸収軸の交差角が、正面では90°の直交であるが、斜めから見た場合は90°より大きくなる。この2つの要因のために斜め方向では漏れ光が生じ、コントラストが低下する。これを解決するために光学補償シートを配置する。
【0162】
また白表示時には液晶分子が傾斜しているが、傾斜方向とその逆方向では、斜めから観察した時の液晶分子の複屈折の大きさが異なり、輝度や色調に差が生じる。これを解決するためには、液晶表示装置の一画素を複数の領域に分割するマルチドメインと呼ばれる構造にする。
【0163】
[マルチドメイン]
例えば、VA方式では液晶分子が電界印加により、一つの画素内で異なる複数の領域に傾斜することで視角特性が平均化される。一画素内で配向を分割するには、電極にスリットを設けたり、突起を設け、電界方向を変えたり電界密度に偏りを持たせる。全方向で均等な視野角を得るにはこの分割数を多くすればよいが、4分割、あるいは8分割以上することでほぼ均等な視野角が得られる。特に8分割時は偏光板吸収軸を任意の角度に設定できるので好ましい。
【0164】
また配向分割の領域境界では、液晶分子が応答しずらい。そのためノーマリーブラック表示では黒表示が維持されるため、輝度低下が問題となる。そこで液晶材料にカイラル剤を添加して境界領域を小さくすることが可能である。
【実施例】
【0165】
以下本発明を実施例を用いて説明するが本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
〔実施例1〕
(セルロースアセテートフィルム試料101の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃〜45℃で4時間撹拌して、各成分を溶解し、以下のセルロースアセテート溶液を調製した。
(セルロースアセテート溶液101)
・セルロースアセテート(置換度2.87) 100.0質量部
・トリフェニルフォスフェート 6.3質量部
・ビフェニルフォスフェート 5.0質量部
・メチレンクロライド 366.5質量部
・メタノール 54.8質量部
【0166】
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃〜40℃で2時間撹拌して、各成分を溶解し、添加剤溶液を調製した。
(添加剤溶液101)
・例示化合物I−(2)(特開2007-17958号公報〔化17〕記載) 5.9質量部
・メチレンクロライド 36.8質量部
・メタノール 5.5質量部
・セルロースアセテート溶液101 12.8質量部
【0167】
下記の組成物を分散機に投入し、30℃〜45℃で6時間撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
(マット剤分散液101)
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロライド 76.3質量部
・メタノール 11.4質量部
・セルロースアセテート溶液101 10.3質量部
【0168】
(製膜)
上記セルロースアセテート溶液、添加剤溶液、マット剤分散液をそれぞれ以下に示した割合でインラインでスタチックミキサーにより混合し、製膜用ドープを調製した。
(製膜用ドープ101)
・セルロースアセテート溶液101 100.0質量部
・添加剤溶液101 7.7質量部
・マット剤分散物溶液101 1.3質量部
【0169】
(流延)
40℃に保持した上述の製膜用ドープをキャスト直前の支持体温度22℃、キャストから剥離までの中間地点の支持体温度35℃、キャスト直後の支持体上での流延膜厚が280μmとなるようにキャストした。キャストから剥離までの中間地点以前の乾燥風速は膜面に対して0±0.3m/sec、乾燥風温度120℃、キャスト中間地点以降の乾燥風速は膜面に対して5±0.5m/sec、乾燥風温度60℃でバンド流延機を用いて流延した。得られたウェブをバンドから剥離する際にウェブ中に残留する有機溶剤が30±5質量%となるようにバンド速度(a)m/minを調整した。剥離後のフィルムの搬送速度(b)m/minはバンド速度(a)m/minに対して(b)/(a)=1.01となるように調整した。剥離後に100℃に温度を設定した初期乾燥ゾーン中をテンタークリップでウェブの両端を固定したまま3分間搬送後にテンタークリップを外して後続する乾燥ゾーンで110℃20分間乾燥させた後に巻き取ってセルロースアセテートフィルム試料100を作製した。得られたフィルムの膜厚は50μmで遅相軸はフィルムの搬送方向であり、遅相軸の平均の方位は0.5°、それぞれ548nmで測定したReは7nm、Rthは100nm、446nmおよび629nmで測定したRthはそれぞれ107nm、98nmであった。フィルムの残留有機溶剤量は0.1質量%以下でフィルムガラス転移点温度は133℃であった。
【0170】
〔比較例1〕
(セルロースアセテートフィルム試料201の作製)
剥離後の初期乾燥ゾーンの温度を150℃に設定した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料201を作製した。
【0171】
〔比較例2〕
(セルロースアセテートフィルム試料202の作製)
剥離後の初期乾燥ゾーンの温度を70℃に設定した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料202を作製した。
【0172】
〔実施例2〕
(セルロースアセテートフィルム試料102の作製)
剥離する際のウェブ中に残存する有機溶剤が60±5質量%となるようにバンド速度(a)m/minを調整し、剥離後の初期乾燥ゾーンの温度を120℃に設定した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料102を作製した。
【0173】
〔実施例3〕
(セルロースアセテートフィルム試料103の作製)
剥離後のフィルムの搬送速度(b)m/minはバンド速度(a)m/minに対して(b)/(a)=1.05となるように調整し、剥離後の初期乾燥ゾーンの温度を120℃に設定した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料103を作製した。
【0174】
〔実施例4〕
(セルロースアセテートフィルム試料104の作製)
セルロースアセテート溶液101に添加した化合物I−(2)を特開2007-65617号公報〔化17〕記載の化合物I−(4)に等重量で置き換え、剥離する際のウェブ中に残存する有機溶剤が60±5質量%となり、剥離後のフィルムの搬送速度(b)m/minはバンド速度(a)m/minに対して(b)/(a)=1.06となるように調整し、剥離後の初期乾燥ゾーンの温度を140℃に設定した以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料104を作製した。
【0175】
〔実施例5〕
(セルロースアセテートフィルム試料105の作製)
下記の組成物を耐圧力性のミキシングタンクに投入し、70℃〜80℃で6時間撹拌して、各成分を溶解し、以下のセルロースアセテート溶液を調製した。
(セルロースアセテート溶液105)
・セルロースアセテート(置換度2.93) 100.0質量部
・トリフェニルフォスフェート 6.3質量部
・ビフェニルフォスフェート 5.0質量部
・メチレンクロライド 366.5質量部
・メタノール 54.8質量部
【0176】
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃〜45℃で3時間撹拌して、各成分を溶解し、添加剤溶液を調製した。
(添加剤溶液105)
・化合物I−(2)(特開2007-17958号公報〔化17〕記載) 3.0質量部
・化合物UV−104(特開2007-65617号公報〔化115〕記載) 1.2質量部
・メチレンクロライド 36.8質量部
・メタノール 5.5質量部
・セルロースアセテート溶液105 12.8質量部
【0177】
下記の組成物を分散機に投入し、30℃〜45℃で7時間撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
(マット剤分散液105)
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロライド 76.3質量部
・メタノール 11.4質量部
・セルロースアセテート溶液105 10.3質量部
(製膜)
上記セルロースアセテート溶液、添加剤溶液、マット剤分散液をそれぞれ以下に示した割合でインラインでスタチックミキサーにより混合し、製膜用ドープを調製した。
(製膜用ドープ105)
・セルロースアセテート溶液105 100.0質量部
・添加剤溶液105 7.7質量部
・マット剤分散物溶液105 1.3質量部
【0178】
(流延)
40℃に保持した上述の製膜用ドープをキャスト直前の支持体温度22℃、キャストから剥離までの中間地点の支持体温度30℃、キャスト直後の支持体上での流延膜厚が440μmとなるようにキャストした。キャストから剥離までの中間地点以前の乾燥風速は膜面に対して10±1m/sec、乾燥風温度120℃、キャスト中間地点以降の乾燥風速は膜面に対して5±0.5m/sec、乾燥風温度60℃でバンド流延機を用いて流延した。得られたウェブをバンドから剥離する際にウェブ中に残留する有機溶剤が30±5質量%となるようにバンド速度(a)m/minを調整した。剥離後のフィルムの搬送速度(b)m/minはバンド速度(a)m/minに対して(b)/(a)=1.02となるように調整した。剥離後に100℃に温度を設定した初期乾燥ゾーン中をテンタークリップでウェブの両端を固定したまま3分間搬送後にテンタークリップを外して後続する乾燥ゾーンで110℃20分間乾燥させた後に巻き取ってセルロースアセテートフィルム試料105を作製した。得られたフィルムの膜厚は66μmで遅相軸はフィルムの搬送方向であり、遅相軸の平均の方位は0.6°、それぞれ548nmで測定したReは6nm、Rthは102nm、446nmおよび629nmで測定したRthはそれぞれ110nm、100nmであった。フィルムの残留有機溶剤量は0.1質量%以下であった。フィルムのガラス転移点温度は135℃であった。
【0179】
〔比較例3〕
(セルロースアセテートフィルム試料203の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃〜45℃で2時間撹拌して、各成分を溶解し、以下のセルロースアセテート溶液を調製した。
(セルロースアセテート溶液203)
・セルロースアセテート(置換度2.87) 100.0質量部
・トリフェニルフォスフェート 6.6質量部
・ビフェニルフォスフェート 4.7質量部
・メチレンクロライド 411.0質量部
・メタノール 61.2質量部
【0180】
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃〜40℃で2時間撹拌して、各成分を溶解し、添加剤溶液を調製した。
(添加剤溶液203)
・化合物UV−103(特開2007-65617号公報〔化114〕記載)10.7質量部
・化合物UV−104(特開2007-65617号公報〔化115〕記載) 5.3質量部
・メチレンクロライド 54.6質量部
・メタノール 8.1質量部
・セルロースアセテート溶液203 20.9質量部
【0181】
下記の組成物を分散機に投入し、30℃〜45℃で6時間撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
(マット剤分散液203)
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロライド 74.3質量部
・メタノール 11.1質量部
・セルロースアセテート溶液203 12.2質量部
【0182】
(製膜)
上記セルロースアセテート溶液、添加剤溶液、マット剤分散液をそれぞれ以下に示した割合でインラインでスタチックミキサーにより混合し、製膜用ドープを調製した。
(製膜用ドープ203)
・セルロースアセテート溶液203 100.0質量部
・添加剤溶液203 1.3質量部
・マット剤分散物溶液203 1.3質量部
【0183】
(流延)
乾燥後の膜厚が160μmとなるように支持体上に流延してセルロースアセテートフィルム試料203を作製した。遅相軸はフィルムの搬送方向であり、遅相軸の平均の方位は2.0°、それぞれ548nmで測定したReは7nm、Rthは100nm、446nmおよび629nmで測定したRthはそれぞれ98nm、101nmであった。フィルムの残留有機溶剤量は0.1質量%以下でフィルムガラス転移点温度は144℃であった。
試料203と同様にして遅相軸の平均の方位が1.0°、0.5°、0.0°となるように制御したそれぞれの試料204から試料206を作製した。
【0184】
〔実施例6〕
(セルロースアセテートフィルム試料106の作製)
(製膜)
実施例1と同様に調製したセルロースアセテート溶液、添加剤溶液、マット剤分散液をそれぞれ以下に示した割合でインラインでスタチックミキサーにより混合し、製膜用ドープを調製した。
(製膜用ドープ106)
・セルロースアセテート溶液101 100.0質量部
・添加剤溶液101 7.7質量部
(流延)
【0185】
フィードブロックを備えた3層共流延ダイのコア層に製膜用ドープ106用い、コア層を挟むように上層/下層(エア面層/バンド面層)に実施例1と同様に調製した製膜用ドープ101を用いて40℃に保持した上述の製膜用ドープ群をキャスト直前の支持体温度22℃、キャストから剥離までの中間地点の支持体温度35℃、キャスト直後の支持体上での流延膜厚エア面層/コア層/バンド面層がそれぞれ15μm/250μm/15μmとなるようにキャストした以外は実施例1と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料106を作製した。得られたフィルムの膜厚は50μmで遅相軸はフィルムの搬送方向であり、遅相軸の平均の方位は0.5°、それぞれ548nmで測定したReは6nm、Rthは98nm、446nmおよび629nmで測定したRthはそれぞれ106nm、97nmであった。フィルムの残留有機溶剤量は0.1質量%以下であった。
【0186】
〔実施例7〕
(セルロースアセテートフィルム試料107の作製)
キャストから剥離までの中間地点以前の乾燥風速は膜面に対して10±1m/secにした以外は実施例6と同様にしてセルロースアセテートフィルム試料107を作製した。
得られたフィルムは試料106に略同等であったがクロスニコルに配置した偏光板中に置いてフィルム面状を観察したところ、風ムラ起因のフィルム搬送方向のムラとフィルム搬送方向に対して斜めに目立つ位相差ムラが明らかに試料106に対して悪化していた。
【0187】
〔比較例4〕
(セルロースアセテートフィルム試料108の作製)
実施例1と同様にしてフィルムを作製するに当たり、遅相軸の平均の方位が0℃となるように剥離後のフィルムの搬送速度(b)m/minとバンド速度(a)m/minを(b)/(a)=1.00~1.01、剥離後の初期乾燥ゾーンの温度を90℃〜100℃の間で遅相軸の遅相軸の平均の方位をフィードバックしながらセルロースアセテートフィルム試料108を作製し、遅相軸の遅相軸の平均の方位が0°となっている領域をサンプリングした。
【0188】
<フィルムの面状>
フィルムの面状はバックライト上にクロスニコルに配置した1組の偏光板の間に34cm×26cmの大きさの位相差フィルムを挿入し、その位相差フィルムの遅相軸が偏光板の吸収軸に直交もしくは平行する配置で置いてバックライトの光を通してフィルム面状を目視で観察し、風ムラや段ムラ、斜めに目立つ位相差ムラ等のムラを評価した。
クロスニコル下で、一見してムラが認められる:×
クロスニコル下で、正面、斜めと視角を変えて観察するとムラが見える:△
クロスニコル下で、正面、斜めと視角を変えて観察してもムラが認められない:○
【0189】
<フィルムのヘイズ>
ヘイズの測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。
【0190】
<フィルムのガラス転移点温度(Tg):動的粘弾性法>
ガラス転移温度の測定は、本発明のセルロースアシレートフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、25℃60%RHで2時間以上調湿した後に動的粘弾性測定装置(ハ゛イフ゛ロン:DVA-225(アイティー計測制御株式会社製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜200℃、周波数1Hzで測定し、縦軸に対数軸で貯蔵弾性率、横軸に線形軸で温度をとった時に、貯蔵弾性率が固体領域からガラス転移領域へ移行する際に観察される貯蔵弾性率の急激な減少に対して、JIS K7121-1987の図3に記載の方法によりガラス転移温度Tgを求めた。
【0191】
得られたフィルム試料は試料101同様の評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0192】
【表1】


※対タック100質量部あたりの質量%
【0193】
表1の試料101と試料201および試料202の比較から本発明で見出した剥離時のフィルム残留溶媒量と剥離以降のフィルム搬送速度とバンド速度の比率、剥離後の初期乾燥温度を特定の範囲にすることでフィルム搬送方向に遅相軸を有し、薄膜であり遅相軸の平均の方位が特定の値を有し、Rthが測定波長の増加とともに減少するいわゆる正の波長分散のセルロースアセテートフィルムを得られることが分かる。また試料101と試料103、試料102と試料104の比較から本発明の範囲内においても目的とするReの範囲に応じたフィルム搬送速度とバンド速度の比率、剥離後の初期乾燥温度に適点が存在することが分かる。
【0194】
(第一の偏光板試料の作製)
上記で作製したフィルム試料の表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光膜を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各ポリマーフィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD60UL(富士フィルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光膜側となるようにして偏光膜を間に挟んで貼り合わせ、各フィルム試料とTD60ULが偏光膜の保護フィルムとなっている各々の偏光板試料を次表に示すように得た。この際、上記で得たセルロースアシレートフィルム試料のMD方向およびTD60ULの遅相軸が、偏光膜の吸収軸と平行になるように貼り付けた。更に次表に示したように試料101のMD方向が偏光膜の吸収軸と直交するようにバッチで貼り付けた偏光板試料もあわせて作製した。
【0195】
【表2】


【0196】
〔実施例9〕
セルロースアセテートフィルム試料301の作製
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、70℃〜80℃で6時間撹拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0197】
(セルロースアセテート溶液301)
・セルロースアセテート(置換度2.93) 100.0質量部
・トリフェニルフォスフェート 3.3質量部
・ビフェニルフォスフェート 2.0質量部
・メチレンクロライド 330.0質量部
・メタノール 49.3質量部
【0198】
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、30℃〜45℃で4時間撹拌して、各成分を溶解し、添加剤溶液を調製した。
(添加剤溶液301)
・一般式(I)の例示化合物(104) 7.0質量部
・一般式(a)の例示化合物(8) 5.8質量部
・メチレンクロライド 36.8質量部
・メタノール 5.5質量部
・セルロースアセテート溶液301 12.8質量部
【0199】
下記の組成物を分散機に投入し、撹拌して各成分を溶解し、マット剤分散液を調製した。
(マット剤分散液301)
・平均粒子サイズ20nmのシリカ粒子 2.0質量部
“AEROSIL R972”日本アエロジル(株)製
・メチレンクロリド 76.3質量部
・メタノール 11.4質量部
・セルロースアセテート溶液301 10.3質量部
(製膜)
【0200】
上記セルロースアセテート溶液、添加剤溶液をそれぞれ以下に示した割合でインラインミキサーで混合し、製膜用ドープを調製した。
(製膜用ドープ301)
・セルロースアセテート溶液301 100.0質量部
・添加剤溶液301 12.3質量部
・マット剤分散液301 1.3質量部
【0201】
(流延)
40℃に保持した上述の製膜用ドープをキャスト直前の支持体温度22℃、キャストから剥離までの中間地点の支持体温度30℃、キャスト直後の支持体上での流延膜厚が270μmとなるようにキャストした。キャストから剥離までの中間地点以前の乾燥風速は膜面に対して0±0.3m/sec、乾燥風温度120℃、キャスト中間地点以降の乾燥風速は膜面に対して10±1m/sec、乾燥風温度60℃でバンド流延機を用いて流延した。得られたウェブをバンドから剥離する際にウェブ中に残留する有機溶剤が20±5質量%となるようにバンド速度(a)m/minを調整した。剥離後のフィルムの搬送速度(b)m/minはバンド速度(a)m/minに対して(b)/(a)=1.005となるように調整した。剥離後に130℃に温度を設定したテンターゾーン中をテンタークリップでウェブの両端を端持して元のウェブの巾の128%になるまで延伸しながら3分間搬送後にテンタークリップを外して後続する乾燥ゾーンで110℃20分間乾燥させた後に巻き取ってセルロースアセテートフィルム試料301を作製した。得られたフィルムの膜厚は47μmで遅相軸はフィルムの延伸方向であり、遅相軸の平均の方位は0.4°、それぞれ548nmで測定したReは107nm、Rthは125nm、446nmおよび629nmで測定したReおよびRthはそれぞれReが91nm、112nm、Rthが105nm、135nmであった。フィルムの残留有機溶剤量は0.1質量%以下であった。
【0202】
(第二の偏光板試料の作製)
実施例8と同様にして試料301を用いて第二の偏光板試料を作製した。試料301の遅相軸が偏光膜の吸収軸と直交するように張り合わせた。
【0203】
〔実施例10〕
(液晶表示装置の作製)
上記の実施例で作製した第一の偏光板試料と第二の偏光板試料をVA液晶セルの上下に位相差フィルムが液晶セル側となるように、第一と第二の偏光板の吸収軸が互いに直交するように表3に示す組み合わせで配置して液晶表示装置をそれぞれ作成した。VA液晶セルはVAモードの液晶TV(KDL−J5000、SONY(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥して用いた。
【0204】
[液晶表示装置の評価]
(パネルの色味視野角評価)
上記作製方法のようにして作成したVAモードの液晶表示装置について、図1中の偏光板P1側にバックライトを設置し、各々について測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて、暗室内で黒表示および白表示の輝度および色度を測定し、黒表示におけるカラーシフトおよびコントラスト比を算出した。
【0205】
(極角方向の黒カラーシフト)
黒表示において、液晶セルの法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向(方位角45度)に視角を倒した場合の色度の変化Δxθ、Δyθは、極角0〜80度の間で、常に下記数式(X)および(Y)を満たすことが好ましい。
数式(X): 0≦Δxθ≦0.1
数式(Y): 0≦Δyθ≦0.1
[式中、Δxθ=xθ−xθ0、Δyθ=yθ−yθ0であり、(xθ0、yθ0)は黒表示における液晶セル法線方向で測定した色度、(xθ、yθ)は黒表示における液晶セル法線方向から一対の偏光板の透過軸の中心線方向に極角θ度まで視角を倒した方向で測定した色度]
【0206】
結果を以下の基準で評価し、表2に示した。
◎:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.02以下である。
○:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.03以下である。
△:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.05以下である。
×:極角0〜80度の間で常にΔxθおよびΔyθがともに0.1より大である。
【0207】
(正面コントラスト)
白表示の輝度/黒表示の輝度から正面コントラストを算出し、以下の基準で評価した。
◎:正面コントラストが2000以上
○:正面コントラストが1500以上2000未満
△:正面コントラストが1000以上1500未満
×:正面コントラストが1000未満
【0208】
(カラーシフトの湿度依存性)
上記液晶表示装置を25℃10%と25℃80%にそれぞれ72時間保存した際の各々の黒表示時のカラーシフトからの湿度変動を評価した。
○:極角80度の間での湿度変動がΔxθおよびΔyθがともに0.02以下である。
△:極角80度の間での湿度変動がΔxθおよびΔyθがともに0.05以下である。
×:極角80度の間での湿度変動がΔxθおよびΔyθがともに0.1より大である。
【0209】
【表3】

【0210】
表3より本発明のLCD表示装置401から407がコントラストおよびカラーシフトの両方とも優れる事が分かる。また401および421の結果から本発明のMD方向に遅相軸を有する試料が湿度変動を補償する上で優れている事が明らかである。特にLCD表示装置401はコントラストを僅かに犠牲にするだけで他では得られないカラーシフトの改良効果が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】本発明の液晶表示装置の例を示す概略図である。
【図2】本発明の位相差フィルム製造装置の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0212】
1 上側偏光板
2 上側偏光板吸収軸の方向
5 液晶セル上電極基板
6 上基板の配向制御方向
7 液晶層
8 液晶セル下電極基板
9 下基板の配向制御方向
10 液晶表示装置
12 下側偏光板
13 下側偏光板吸収軸の方向
20 ダイ
21 ステンレスベルト製支持体
22 ドラム
23 キャスト点
24 キャストから剥離までの中間地点
25 中間地点以前の乾燥風
26 中間地点以降の乾燥風
27 剥離点
28 剥離後の乾燥風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)〜c)の関係を満たす位相差フィルム。
a)フィルム厚み方向の位相差Rthが測定波長450nm〜700nmの波長域において長波長ほど減少する。
b)フィルム面内の位相差Reの遅相軸の平均の方位がフィルム製膜時の搬送方向に対して0.05°から4°の範囲内にある。
c)測定波長λ=548nmで測定した面内のレターデーションRe(548)及び厚さ方向のレターデーションRth(548)が以下の(式1)及び(式2)の関係を満たす。
40nm<Rth(548)≦200nm (式1)
0nm<Re(548)≦20nm (式2)
(ここでフィルム面内の遅相軸、進相軸、厚み方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとしたときにRth={(nx+ny)/2−nz}×d、 Re=(nx−ny)×d で表され、dはフィルムの厚みを表す。)
【請求項2】
測定波長λ=446nm、548nm、629nmで測定したRth(λ)が(式3)及び(式4)を満たす請求項1に記載の位相差フィルム。
Rth(446)/Rth(548)≧1.03 (式3)
Rth(629)/Rth(548)≦1.00 (式4)
【請求項3】
測定波長λ=548nmで測定したRth(λ)、Re(λ)が(式1’’)及び(式2’’)を満たす請求項1または2に記載の位相差フィルム。
90nm<Rth(548)≦130nm (式1’’)
5nm<Re(548)≦10nm (式2’’)
【請求項4】
(式5)で表される漏光率(%)が0.00005%〜0.003%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
漏光率(%)=Sin2(2θ)×Sin2(πRe/λ)×100 (式5)
(ここでθは各々の測定点におけるフィルム製膜時の搬送方向に対するフィルム遅相軸角度(ラジアン)、λは測定波長(nm)、πは円周率、Re=(nx−ny)×dで表され、フィルム面内の遅相軸、進相軸方向の屈折率をそれぞれnx、nyとし、dはフィルムの厚みを表す。)
【請求項5】
セルロースエステル系ポリマーからなり、位相差発現剤を該ポリマーに対して3質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
位相差発現剤が可視光領域に吸収極大を持たず、長波にUV吸収を有する化合物の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
実質的に残留溶媒を含まないフィルムのガラス転移点温度が140℃未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項8】
フィルムの膜厚が80μm未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の位相差フィルムを保護フィルムとして含み、該フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が実質的に平行であることを特徴とする偏光板。
【請求項10】
第一の偏光板として請求項9に記載の偏光板を該位相差フィルムが液晶セル側となるように配置し、該液晶セルの反対側に二軸性である位相差フィルムの少なくとも1枚を液晶セル側に有し、該位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸が実質的に直交する第二の偏光板を該第一の偏光板と該第二の偏光板の吸収軸が実質的に直交するように配置したことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項11】
VAモードである請求項10に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−54736(P2010−54736A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218749(P2008−218749)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】