説明

位相差フィルムの製造方法、位相差フィルム、複合偏光板及び偏光板

【課題】簡便に、Nz係数を0.5に近づけることができる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも第1の方向に延伸する延伸工程と、延伸されたフィルムを、延伸された上記第1の方向に収縮させて、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得る収縮工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶表示装置のコントラスト及び視野角を改善するために用いられる位相差フィルムの製造方法及び位相差フィルムに関する。また、本発明は、該位相差フィルムを用いた複合偏光板及び偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)は、パーソナルコンピューターの表示装置及び液晶テレビ等の用途で広く普及している。
【0003】
上記液晶表示装置として、TN(Twisted Nematic)モードの液晶表示装置がある。このTNモードの液晶表示装置は、視野角が狭く、応答速度が遅いという問題点がある。
【0004】
そこで、TNモードの液晶表示装置のような旋光モードではなく、複屈折モードを利用したVA(Vertical Alignment)モードの液晶表示装置が提案されている。また、VAモードの液晶表示装置として、MVA(Multi−domain Vertical Alignment)モードの液晶表示装置が提案されている。
【0005】
上記MVAモードの液晶表示装置では、液晶セルを構成する基板の内面に、傾斜面を有する突起等のドメイン規制手段が設けられている。このドメイン規制手段によって液晶分子の配向方向が2方向以上に分割され、液晶セルを通過する光量が均一化される。これによって見込み角度による表示輝度の差異が抑制され、視野角依存性がある程度改善される。
【0006】
しかし、上記MVAモードの液晶表示装置でも、液晶表示面の法線に対して斜め45°から液晶表示面を見ると、コントラストが低下するという問題がある。従って、上記MVAモードの液晶表示装置では、視野角依存性をより一層改善するために、一般に位相差フィルムが用いられている。
【0007】
また上記VAモードの液晶表示装置とともに、IPS(In−Plane Switching)モードの液晶表示装置も現在広く用いられている。IPSモードの液晶表示装置は、TNモードの液晶表示装置及びVAモードの液晶表示装置と比べて、視野角性能に優れている。従って、IPSモードの液晶表示装置は、パーソナルコンピューターのモニター及びテレビ用途等で用いられている。
【0008】
上記IPSモードの液晶表示装置では、VAモードの液晶表示装置と比較すると、黒表示時における斜めから漏れた光の着色現象及びカラーシフトがわずかに生じる。このため、IPSモードの液晶表示装置でも、視野角依存性を改善するために位相差フィルムが用いられている。
【0009】
上記位相差フィルムの機能を十分発揮するためには、液晶パネルの複屈折との合わせ込みが必要があり、位相差フィルムの面内に均一な位相差値を適切に設計する必要がある。それによって、VAモード、MVAモード及びIPSモードの各種の液晶表示装置の視野角性能をより一層改善できる。
【0010】
また、特に偏光板の斜視時の光漏れを抑制するためには、位相差フィルムのNz係数を0.5に近づけることが望ましい。
【0011】
上記位相差フィルムの製造方法の一例として、例えば、下記の特許文献1には、樹脂を押出し、該樹脂のロット棒を板状に切り取った後に延伸することにより、位相差フィルムのNz係数を0.5に近づける方法が開示されている。
【0012】
下記の特許文献2には、樹脂フィルムに収縮性フィルムを接着した積層体を加熱して、収縮性フィルムの収縮力によって樹脂フィルムを収縮させることにより、位相差フィルムのNz係数を0.5に近づける方法が開示されている。
【0013】
下記の特許文献3には、固有複屈折値が正の樹脂と負の樹脂とを共押出し、延伸することにより、位相差フィルムのNz係数を0.5に近づける方法が開示されている。
【0014】
下記の特許文献4には、延伸フィルムの表面にホメオトロピック液晶層を形成することにより、Nz係数を0.5に近づける方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平2−160204号公報
【特許文献2】特開平5−157911号公報
【特許文献3】特開2005−77450号公報
【特許文献4】特開2007−17637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1に記載の位相差フィルムの製造方法では、バッチ生産となるため、生産性がかなり悪く、かつ大面積の位相差フィルムを得ることが困難である。
【0017】
特許文献2に記載の位相差フィルムの製造方法では、製造プロセスが複雑で生産性が非常に低く、かつ収縮性フィルムが必要であるため、位相差フィルムの製造コストが高くつくという問題がある。
【0018】
特許文献3に記載の位相差フィルムの製造方法では、2種類以上の樹脂が必要なため、位相差フィルムの製造プロセスが複雑で、かつ製造コストが高くなる。また多層の位相差フィルムとなるために薄膜化が困難であったり、樹脂間の線膨張係数の違いによって位相差フィルムにカールが生じたりするという問題がある。
【0019】
特許文献4に記載の位相差フィルムの製造方法では、ホメオトロピック液晶が非常に高価であるので、位相差フィルムの製造コストが高くなる。また、ホメオトロピック液晶を均一に塗工すること及びホメオトロピック液晶を均一に配向させることは難しい。この結果、位相差のばらつき及びNz係数のばらつきが生じやすい。
【0020】
本発明の目的は、簡便に、Nz係数を0.5に近づけることができる位相差フィルムの製造方法及び位相差フィルム、並びに該位相差フィルムを用いた複合偏光板及び偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の広い局面によれば、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも第1の方向に延伸する延伸工程と、延伸されたフィルムを、延伸された上記第1の方向に収縮させて、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得る収縮工程とを備える、位相差フィルムの製造方法が提供される。
【0022】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のある特定の局面では、上記延伸工程において、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸し、上記収縮工程において、上記延伸されたフィルムを、MD方向に収縮させて、遅相軸方向がMD方向である位相差フィルムを得る。
【0023】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法の他の特定の局面では、正面レターデーションR0が50nm以上である位相差フィルムを得る。
【0024】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のさらに他の特定の局面では、上記延伸工程において、上記フィルムの延伸間距離の上記フィルムの幅に対する比(延伸間距離/フィルムの幅)を1以上とし、上記収縮工程において、上記収縮間距離の上記フィルムの幅に対する比(収縮間距離/フィルムの幅)を1以下とする。
【0025】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のさらに他の特定の局面では、上記延伸工程において、上記フィルムの延伸倍率を1.05倍以上とし、上記収縮工程において、上記フィルムの収縮率を99.9%以下とする。
【0026】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法の別の特定の局面では、上記延伸工程において、第1のロールと該第1のロールと距離を隔てた第2のロールとの間で、該第1,第2のロールによる搬送速度を異ならせて、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを延伸する。
【0027】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のさらに別の特定の局面では、上記収縮工程において、第3のロールと該第3のロールと距離を隔てた第4のロールとの間で、該第3,第4のロールによる搬送速度を異ならせて、上記延伸されたフィルムを収縮させる。
【0028】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法の他の特定の局面では、上記収縮工程において、上記延伸されたフィルムに他のフィルムを積層せずに、上記延伸されたフィルムを単体で収縮させる。
【0029】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法のさらに他の特定の局面では、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出しされた上記非晶性熱可塑性樹脂を冷却し、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを得る冷却工程とがさらに備えられる。
【0030】
また、本発明の広い局面によれば、非晶性熱可塑性樹脂により形成された単層の位相差フィルムであって、遅相軸方向がMD方向であり、Nz係数が0.05以上、0.95以下である、位相差フィルムが提供される。
【0031】
本発明に係る位相差フィルムのある特定の局面では、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸した後、延伸されたフィルムを、MD方向に収縮させることにより得られている。
【0032】
本発明に係る位相差フィルムの他の特定の局面では、正面レターデーションR0が50nm以上である。
【0033】
本発明に係る複合偏光板は、上記位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の表面に積層された偏光板とを備える。
【0034】
本発明に係る偏光板は、上記位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の表面側に配置された偏光子とを備える。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも第1の方向に延伸した後、延伸されたフィルムを、延伸された上記第1の方向に収縮させるので、簡便にNz係数を0.5に近づけて、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、溶融押出成形法により、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図2は、フィルムを延伸する方法を説明するための模式的な概略構成図である。
【図3】図3は、フィルムを収縮させる方法を説明するための模式的な概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0038】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも第1の方向に延伸する延伸工程と、延伸されたフィルムを、延伸された上記第1の方向に収縮させて、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得る収縮工程とを備える。上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムは、非晶性熱可塑性樹脂により形成されたフィルムである。上記収縮工程では、延伸されたフィルムを、延伸された上記第1の方向に選択的に収縮させる。
【0039】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、簡便に、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得ることができる。
【0040】
また、本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、上記延伸工程において、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸し、上記収縮工程において、上記延伸されたフィルムを、MD方向に収縮させて、遅相軸方向がMD方向である位相差フィルムを得ることが好ましい。上記MD方向は、フィルムの流れ方向であり、縦方向である。
【0041】
また、本発明に係る位相差フィルムは、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に溶融押出しする溶融押出工程と、溶融押出しされた上記非晶性熱可塑性樹脂を冷却し、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを得る冷却工程とをさらに備えることが好ましい。このような溶融押出法を用いることで、より一層簡便に、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得ることができる。
【0042】
本発明に係る位相差フィルムは、非晶性熱可塑性樹脂により形成された単層の位相差フィルムであり、位相差フィルムの遅相軸方向がMD方向であり、位相差フィルムのNz係数が0.05以上、0.95以下である。
【0043】
本発明に係る位相差フィルムは、例えば、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸した後、延伸されたフィルムを、該MD方向に収縮させることにより得ることができる。本発明に係る位相差フィルムは、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸した後、延伸されたフィルムを、該MD方向に収縮させることにより得られていることが好ましい。
【0044】
(非晶性熱可塑性樹脂)
上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムは、非晶性熱可塑性樹脂により形成されたフィルムである。また、上記位相差フィルムは、非晶性熱可塑性樹脂を用いて形成されている。
【0045】
上記位相差フィルムを構成する非晶性熱可塑性樹脂の透明性は、高いことが好ましい。透明性が高い上記非晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系、ポリスルホン系、ポリエーテルスルホン系、ポリスチレン系、環状オレフィン系、ポリビニルアルコール系、酢酸セルロース系、ポリ塩化ビニル系、ポリ(メタ)アクリル系、ポリアリレート系又はポリアミド系などの高分子が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル系高分子としては、ポリメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。非晶性熱可塑性樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
上記非晶性熱可塑性樹脂は、環状オレフィン系高分子であることが好ましく、ノルボルネン系樹脂であることがより好ましい。ノルボルネン系樹脂は、光弾性係数が小さく、外部応力に対するレターデーション安定性に優れている。
【0047】
上記ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加(共)重合体及びこれらの誘導体等が挙げられる。ノルボルネン系樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
開環を伴う(共)重合体では、必然的に、不飽和結合が残留することがある。さらに、付加(共)重合体であっても、モノマーの種類によっては不飽和結合が残留することがある。熱履歴による酸化劣化の抑制又は紫外線等による着変色の抑制などの耐久性を重視する観点からは、不飽和二重結合の量を少なくするために、上記ノルボルネン系樹脂は、水素添加により飽和されていることが好ましい。
【0049】
位相差フィルムの機能を阻害しない範囲において、フィルム成形中における非晶性熱可塑性樹脂の劣化防止並びに位相差フィルムの耐熱性及び耐紫外線性等を向上させるために、上記非晶性熱可塑性樹脂に各種の添加剤が添加されてもよい。該添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤及び帯電防止剤等が挙げられる。上記添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤等が挙げられる。上記熱劣化防止剤としては、ラクトン系熱劣化防止剤等が挙げられる。上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びアクリロニトリル系紫外線吸収剤等が挙げられる。上記滑剤としては、脂肪族アルコールのエステル系滑剤、多価アルコールの部分エステル系滑剤及び部分エーテル系滑剤等が挙げられる。上記帯電防止剤としては、アミン系帯電防止剤等が挙げられる。
【0051】
(位相差フィルムの製造方法及び位相差フィルムの詳細)
上記非晶性熱可塑性樹脂を用いて、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムである延伸前フィルム(原反フィルム)を得る方法としては、従来から汎用されている方法を用いることができる。延伸前フィルムは、実質的に無延伸のフィルムである。
【0052】
延伸前フィルムを得る方法としては、具体的には、非晶性熱可塑性樹脂を溶解した溶液を適宜の担持体上に流延した後、溶剤を乾燥により除去し、更に担持体から剥離してフィルムを得る溶液キャスト法、並びに非晶性熱可塑性樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、押出機の先端に取り付けた金型からフィルム状に押し出してフィルムを得る溶融押出法等が挙げられる。コストが安く、かつ環境負荷が小さいことから、溶融押出法が好ましい。延伸前フィルムは、溶融押出法により成膜されていることが好ましく、溶融押出フィルムであることが好ましい。
【0053】
図1に、溶融押出成形法により、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する装置の一例を示す概略構成図を示す。
【0054】
図1に示す溶融押出装置11を用いて、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する際には、先ず、押出機12から溶融状態の非晶性熱可塑性樹脂を押出し、金型13に供給する。
【0055】
金型13に供給された非晶性熱可塑性樹脂を金型13の開口から押出し、排出し、非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に成膜する。排出されたフィルムAを、冷却ロール14に接触させ、冷却する。冷却ロール14にフィルムAを押圧するために、タッチロール15が設けられている。
【0056】
冷却ロール14により冷却されたフィルムAを、冷却ロール16,17により更に冷却して、固化し、巻き取り、ロール状の原反フィルムを得る。該ロール状の原反フィルムは、長尺状の非晶性熱可塑性樹脂フィルムである。
【0057】
金型13の開口から、フィルムAが冷却ロール14に接する接点までの距離、すなわちエアギャップは短いほうが好ましい。エアギャップが短いと、外乱による厚みばらつきを低減できる。すなわち、適正な厚みプロファイルを有するフィルムを安定的に製造できる。エアギャップは、70mm以下であることが好ましい。
【0058】
フィルムAが冷却ロール14に接触する際に、冷却ロール14とフィルムAとの間に空気が入らないことが望ましく、かつ冷却速度がフィルムAの全面で均一であることが望ましい。従って、フィルムAと冷却ロール14との接点の下流側近傍において、タッチロール15などの押圧手段により、フィルムAを冷却ロール14側に押圧することが望ましい。
【0059】
押圧手段は、タッチロール15に限定されない。該押圧手段として、エアナイフ又は静電ピニング等を用いてもよい。安定性に優れており、かつフィルムAを均一に冷却ロール14に圧接させ得るため、弾性材料により形成された表面を有するタッチロールが好適に用いられる。
【0060】
冷却ロール14の温度は、フィルムAを構成する非晶性熱可塑性樹脂の種類によって適宜変更され得る。非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)としたとき、冷却ロール14の温度は、(Tg−10)℃〜(Tg−100)℃の範囲内であることが望ましい。
【0061】
フィルムAの平滑性と透明性とを確保するためには、冷却ロール14の表面の表面粗さは、JIS B 0601に定義されているRy値で、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0062】
冷却ロール14は様々な材料で構成され得る。冷却ロール14の表面は、金属により形成されていることが好ましく、炭素鋼又はステンレス鋼により形成されていることがより好ましい。金属表面を有する冷却ロール14を用いた場合、冷却ロール14の温度を速やかに一定温度に維持することができ、かつフィルムAを効率よく冷却できる。
【0063】
フィルムAの長さ方向の厚み精度を高めるために、冷却ロール14の偏心振れは小さい方が望ましい。冷却ロール14の偏心振れは、30μm以下であることが望ましく、10μm以下であることがより望ましい。
【0064】
金型13の温度がばらつくと非晶性熱可塑性樹脂の流動性が変化するので、金型13の温度は安定していることが望ましい。金型13のフィルムAを構成する溶融樹脂に接触する部分の温度は、設定温度±0.5℃以内であることが望ましく、設定温度±0.2℃以内であることがより望ましい。
【0065】
一般に、冷却ロール14の温度は、非晶性熱可塑性樹脂の固化点に大きく影響する。従って、冷却ロール14を様々な温度に温度調節できる構造を有するように、冷却ロール14は軸芯部に、温度調節手段を有することが望ましい。好ましい温度調節手段としては、シーズヒーターが軸芯部に組み込まれており、冷却ロール14を適当な温度に設定するように加熱する電気加熱方式の温度調節手段、誘導発熱コイルによる電磁誘導作用による温度調節手段、並びに軸芯部に設けられた流路に温度制御用の熱媒体を循環させて冷却ロールを設定温度に加熱する熱媒体循環加熱方式などの温度調節手段等が挙げられる。なかでも、熱媒体循環加熱方式が好ましい。該熱媒体循環方式に用いられる熱媒体として、気体を用いてもよく、水又は油などの液体を用いてもよい。上記熱媒体として、熱容量が大きい水又は油などの液体を用いることが望ましい。熱媒体流路の好適な例としては、内部に二条スパイラル構造又は四条スパイラル構造を有するものが挙げられる。
【0066】
次に、上記長尺状の非晶性熱可塑性樹脂フィルムを用いて延伸工程及び収縮工程を行い、位相差フィルムを製造する方法の詳細を述べる。
【0067】
上記長尺状の非晶性熱可塑性樹脂フィルムを用いて位相差フィルムを製造するには、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、該非晶性熱可塑性樹脂フィルムを構成する非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg近傍の温度で延伸する。それによって、ポリマー分子を所定方向に配向させる。
【0068】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも第1の方向に延伸する。該第1の方向は、延伸方向である。該フィルムは、MD方向に延伸することが好ましく、縦方向に延伸することが好ましく、フィルムの流れ方向に延伸することが好ましい。
【0069】
フィルムを延伸する手法としては、フィルムの長さ方向(縦方向とも記載する)に延伸を行う縦延伸法、フィルムの幅方向(以下、横方向とも記載する)に延伸を行う横延伸法、縦延伸後に横延伸を行う逐次二軸延伸法、横延伸後に縦延伸を行う逐次二軸延伸法、並びに縦方向と横方向とに同時に延伸を行う同時二軸延伸法等が挙げられる。本発明に係る位相差フィルムを得るための延伸法は特に限定されない。付与したい位相差値によって延伸方法は適宜使い分けられる。
【0070】
縦延伸法としては、例えば、ロール間ネックイン延伸法及び近接ロール延伸法等を適用できる。レターデーションを制御しやすく、フィルムに傷及び皺等の不良が発生しにくいという利点があるので、ロール間ネックイン延伸法が望ましい。ロール間ネックイン延伸法とは、フィルム幅に比して十分に長い延伸ゾーンを挟んで位置する二対のニップロールで搬送中のフィルムを挟んで保持するとともに、上流側のニップロールの周速に対して下流側のニップロールの周速を大きくすることによって、所望の延伸倍率を得る方法である。なお、このとき、フィルムの幅方向の両端は拘束されない自由端であり、縦方向の延伸に伴って幅方向にネックイン現象を呈する。
【0071】
横延伸法としては、例えば、テンター延伸機を用いて、フィルムの幅方向の両端をテンタークリップ等の任意の把持手段によって把持し、この把持手段を互いに離間する方向に徐々に変位させながら走行させる方法が挙げられる。
【0072】
同時二軸法としては、例えばテンター延伸機を用いて、フィルムの幅方向の両端部をテンタークリップ等の任意の把持手段によって把持し、この把持手段を互いに離間する方向に徐々に変位させ、かつ同時にフィルムの長手方向にも把持手段を離間させ徐々に変位させながら走行させる方法が挙げられる。
【0073】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、第1のロールと該第1のロールと距離を隔てた第2のロールとの間で、該第1,第2のロールによる搬送速度を異ならせて、上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを延伸することが好ましい。上記第1のロールがフィルムの流れ方向における上流側に位置し、上記第2のロールがフィルムの流れ方向における下流側に位置する。
【0074】
ここでは縦延伸法により、位相差フィルムを製造する方法について詳細を述べる。図2は、非晶性熱可塑性樹脂フィルムをロール間ネックイン延伸法により縦延伸する延伸装置の一例を示す概略構成図である。
【0075】
図2に示すように、ロール状の原反フィルムから巻き出された長尺状の延伸前フィルムA1を縦方向に延伸する際には、インフィードニップロール1(第1のロール)及びアウトフィードニップロール2(第2のロール)でそれぞれ延伸前フィルムA1を挟んで保持するとともに、搬送する。インフィードニップロール1よりもアウトフィードニップロール2の周速を速くすることによって、延伸前フィルムA1を延伸し、延伸後フィルムA2が得られる。この際、延伸炉6内で加熱することにより、延伸時のフィルムの温度を高くし、フィルムを破断することなく延伸することができる。
【0076】
延伸時のフィルムの温度、すなわち上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを縦方向に延伸する際のフィルムの温度は、得られる位相差フィルムに付与したい補償位相差量によって適宜に調整される。フィルムを、該フィルムを構成する非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg近傍の温度で延伸することが好ましい。これによって、非晶性熱可塑性樹脂の分子を所定方向に配向させることができる。なお、本明細書において、ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計によって測定される。
【0077】
非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、延伸時のフィルムの温度T1は、好ましくは(Tg−20)℃以上、より好ましくは(Tg−10)℃以上、好ましくは(Tg+50)℃以下、より好ましくは(Tg+40)℃以下である。上記温度T1が上記下限以上であると、延伸時にフィルムがより一層破断し難くなる。上記温度T1が上記上限以下であると、位相差フィルムのレターデーションがより一層良好になる。
【0078】
フィルムの延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.1倍以上、好ましくは5.0倍以下である。図2に示す延伸装置の場合には、インフィードニップロール1とアウトフィードニップロール2との周速差によって、延伸倍率が調整される。延伸倍率が上記下限以上であると、付与したい所望の位相差値を得ることが容易であり、またフィルムの搬送張力が低下し難くなり、フィルムが蛇行するおそれが低下する。延伸倍率が上記上限以下であると、フィルムの破断が生じ難くなる。
【0079】
上記フィルムの延伸間距離の上記フィルムの幅に対する比(延伸間距離/フィルムの幅)は1以上であることが好ましい。上記比(延伸間距離/フィルムの幅)は、より好ましくは1.3以上である。上記比(延伸間距離/フィルムの幅)の上限は特に限定さない。
【0080】
上述の要領で延伸された延伸後フィルムA2は、延伸炉6を出た後に、延伸前フィルムA1のガラス転移温度Tg(℃)以下で一旦冷却固化されてもよいし、あるいはそのままガラス転移温度Tg(℃)以上を保持して次の収縮工程を連続して行ってもよい。
【0081】
次に、延伸後フィルムA2(収縮前フィルム)を収縮させることにより、位相差フィルムを得ることができる。
【0082】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、延伸されたフィルムを、延伸された上記第1の方向に収縮させる。すなわち、本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、延伸されたフィルムを特定の方向に選択的に収縮させる。該第1の方向は、収縮方向である。上記延伸されたフィルムを、MD方向に収縮させることが好ましく、縦方向に収縮させることが好ましく、フィルムの流れ方向に収縮させることが好ましい。
【0083】
本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、第3のロールと該第3のロールと距離を隔てた第4のロールとの間で、該第3,第4のロールによる搬送速度を異ならせて、上記延伸されたフィルムを収縮させることが好ましい。上記第3のロールがフィルムの流れ方向における上流側に位置し、上記第4のロールがフィルムの流れ方向における下流側に位置する。
【0084】
図3に示すように、延伸後フィルムA2を縦方向に収縮する際には、インフィードニップロール3(第3のロール)及びアウトフィードニップロール4(第4のロール)でそれぞれ延伸後フィルムA2を挟んで保持するとともに、搬送する。インフィードニップロール3よりもアウトフィードニップロール4の周速を遅くすることによって、延伸後フィルムA2を収縮させて、収縮後フィルムA3を得る。この際、収縮炉7内で加熱することにより、収縮時のフィルムの温度を高くし、フィルムを破断することなく収縮させることができる。
【0085】
上記フィルムの収縮率を99.9%以下にすることが好ましく、95%以下であることがより好ましい。また収縮率が小さすぎるとフィルムの搬送張力が低下し、フィルムが蛇行するおそれがある。収縮後フィルムA3のMD方向の長さは、延伸前フィルムA1のMD方向の長さ以上となることが好ましく、よって収縮率は(1/付与した延伸倍率×100)%以上であることが好ましい。
【0086】
なお、収縮率は、下記式(X)で表される。
【0087】
収縮率(%)=(収縮後フィルムの収縮方向における寸法)/(収縮前フィルムの収縮方向における寸法)×100 ・・・式(X)
【0088】
上記収縮間距離の上記フィルムの幅に対する比(収縮間距離/フィルムの幅)は1以下であることが好ましい。上記比(収縮間距離/フィルムの幅)は、より好ましくは0.7以下である。上記比(収縮間距離/フィルムの幅)の下限は特に限定されない。
【0089】
上述の要領で収縮されたフィルムは、収縮炉7を出た後に、延伸前フィルムA1のガラス転移温度Tg(℃)以下で冷却固化されることが好ましい。
【0090】
また、本発明に係る位相差フィルムの製造方法では、延伸されたフィルムを収縮させる際に、延伸されたフィルムに他のフィルムを積層せずに、延伸されたフィルムを単体で収縮させることが好ましい。この場合には、収縮性フィルムなどの上記他のフィルムを用いる必要がないので、位相差フィルムの製造コストを低くすることができる。さらに、他のフィルムに付着していた異物が位相差フィルムに付着するのを抑制できる。また、収縮性フィルムを用いた場合には、フィルムの収縮方向を制御することは困難である。
【0091】
フィルム表面の濡れ性を改質するために、上記のようにして得られた位相差フィルムの表面は、コロナ処理、プラズマ処理又はアンカー層コーティング処理等が施されてもよい。表面保護のために、位相差フィルムの表面に、プロテクトフィルムを貼り付けてもよい。位相差フィルムの両端部にナーリング処理を施してもよい。所望の幅とするために、位相差フィルムの両端部をスリット加工により除去してもよい。これらの処理又は加工は、位相差フィルムの仕様に応じて適宜選択される。
【0092】
上記相差フィルムは、ロール状に巻かれた巻重体の状態であってもよい。
【0093】
上記位相差フィルムの下記式(1)で表されるNz係数は、0.05以上、0.95以下である。
【0094】
Nz係数=(nx−nz)/(nx−ny) ・・・式(1)
【0095】
上記式(1)中、nxは位相差フィルムの面内x方向の屈折率を表し、nyは位相差フィルムのx方向と直交するフィルム面内y方向の屈折率を表し、nzは位相差フィルムの厚み方向の屈折率を表す。
【0096】
上記位相差フィルムは、下記式(2)で定義される正面レターデーションR0(nm)が、50nm以上であることが好ましい。正面レターデーションR0(nm)は、好ましくは500nm以下である。このような正面レターデーションR0値を満たす位相差フィルムは、本発明に係る位相差フィルムの製造方法により提供できる。
【0097】
R0(nm)=|nx−ny|×d・・・式(2)
【0098】
上記式(2)中、nxは位相差フィルムの面内の最大屈折率を表し、nyは位相差フィルムのnx方向と直交する方向の屈折率を表し、dは位相差フィルムの平均厚み(nm)を表す。
【0099】
上記位相差フィルムは、下記式(3)で定義される厚みレターデーションRth(nm)の絶対値が、20nm以上であることが好ましい。該厚みレターデーションRth(nm)の絶対値は、より好ましくは50nm以上、好ましくは600nm以下である。
【0100】
Rth(nm)=((nx+ny)/2−nz)×d ・・・式(3)
【0101】
上記式(3)中、nxは位相差フィルムの面内の最大屈折率を表し、nyは位相差フィルムの面内のnx方向と直交する方向の屈折率を表し、nzはnx方向及びny方向と直交する方向の屈折率を表し、dは位相差フィルムの平均厚み(nm)を表す。
【0102】
正面レターデーションR0及び厚みレターデーションRthが上記下限以上及び上記上限以下であると、位相差フィルムを液晶表示装置に組み込んだときに、表示画像を高品位にすることができる。正面レターデーションR0が50〜500nmの範囲を逸脱したり、厚みレターデーションRthの絶対値が20〜600nmの範囲を逸脱したりすると、液晶を通過する際の複屈折を充分に補償できなくなる傾向があり、位相差フィルムとしての商品価値が低下する。
【0103】
(位相差フィルムの用途)
本発明に係る位相差フィルムは、必要に応じて所定の大きさに切断された後に、複合偏光板、偏光板及び液晶表示装置において、位相差フィルムの各機能を果たすために好適に用いられる。
【0104】
上記複合偏光板は、例えば、位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の表面に積層された偏光板とを備える。上記位相差フィルムと上記偏光板とは一体化されていることが好ましい。
【0105】
上記偏光板は、例えば、上記位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の表面側に配置された偏光子とを備える。上記偏光板は、好ましくは、上記位相差フィルムと、該位相差フィルムの一方の表面側に配置された接着剤層と、該接着剤層の上記位相差フィルムが積層された表面とは反対側の表面に積層された偏光子とを備える。上記位相差フィルムと上記偏光子とは、上記接着剤層を介して一体化されていることが好ましい。
【0106】
上記液晶表示装置は、例えば液晶セルを構成している一対の基板と、該一対の基板の少なくとも一方の外表面に、上記複合偏光板又は上記偏光板とを積層することにより得ることができる。この液晶表示装置は、液晶セルを構成している一対の基板と、該一対の基板の少なくとも一方の外表面に積層された上記複合偏光板又は偏光板とを備える。
【0107】
上記位相差フィルムは、液晶表示装置の部品として好適に用いられる。上記位相差フィルムは、単独で用いられてもよく、偏光板と積層されて複合偏光板として用いられてもよい。さらに、位相差フィルムは、偏光板の液晶セル側の保護フィルムのかわりとして、接着剤層を介して偏光子に積層されて偏光板として用いられてもよい。
【0108】
上記位相差フィルムを単独で用いた液晶表示装置を製造する方法としては、液晶セルを構成している一対の基板のそれぞれの外表面に偏光板を配設し、上記液晶セルの基板のうちの少なくとも一方の基板と該基板に対向する偏光板との間に上記位相差フィルムを配置し、更に、液晶セルにおける液晶表示面とは反対側の基板側に配設した偏光板上に、バックライト型又はサイドライト型の公知の照明システムを配設し、駆動回路を組み込む方法等が挙げられる。上記位相差フィルムは、液晶表示面側の基板の外表面に配置されることが好ましい。
【0109】
上記位相差フィルムはVAモード、MVAモード及びIPSモードの液晶表示装置の視野角を改善するのに十分に有効なフィルムである。上記位相差フィルムを用いた上記液晶表示装置では、色むら等の光学的な品質低下が生じ難い。
【0110】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例に限定されない。
【0111】
(無配向フィルムの製造例1)
非晶性熱可塑性樹脂として飽和ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア1420」)を用意した。この非晶性熱可塑性樹脂を一軸押出機に供給して溶融混練し、一軸押出機の先端に取り付けたTダイから溶融押出しして、長尺状の無配向フィルム(A−1)を得た。なお、得られた無配向フィルム(A−1)の平均厚みは100μm、幅は1500mm、ガラス転移温度Tgは135.5℃、平均屈折率は1.530であった。無配向フィルム(A−1)を構成する樹脂は、固有複屈折値が正の樹脂であった。
【0112】
(無配向フィルムの製造例2)
非晶性熱可塑性樹脂としてビスフェノールA骨格を有するポリカーボネート(帝人化成社製、商品名「パンライト」)を用意した。この非晶性熱可塑性樹脂をメチレンクロライドに溶解させて固形分濃度20重量%としたドープ溶液を用いて、溶液キャスト法により長尺状の無配向フィルム(B−1)を得た。なお、得られた無配向フィルム(B−1)の平均厚みは100μm、幅は1000mm、ガラス転移温度Tgは151.1℃、平均屈折率は1.585であった。無配向フィルム(B−1)を構成する樹脂は、固有複屈折値が正の樹脂であった。
【0113】
(無配向フィルムの製造例3)
非晶性熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレート系樹脂(メチルメタクリレート成分含有量55モル%、スチレン成分含有量30モル%、マレイン酸成分含有量15モル%、Tg:120℃、重量平均分子量:120000)90重量部、及びアクリロニトリル−スチレン−ブタジエン系共重合体(ブタジエン成分含有量50モル%、スチレン成分含有量25モル%、アクリロニトリル成分含有量18モル%、メチルメタクリレート成分含有量7モル%、重量平均分子量:48000)10重量部を混合した混合物を用意した。この混合物を、一軸押出機に供給して溶融混練し、一軸押出機の先端に取り付けたTダイから溶融押出しして、長尺状の無配向フィルム(C−1)を得た。なお、得られた無配向フィルム(C−1)の平均厚みは150μm、幅は1500mm、ガラス転移温度Tgは120.0℃、平均屈折率は1.510であった。無配向フィルム(C−1)を構成する樹脂は、固有複屈折値が負の樹脂であった。
【0114】
(実施例1〜5及び参考例1〜2)
上記製造例1〜3によって得られた無配向フィルムを連続的に巻き出し、ロール間ネックイン延伸機に供給し、無配向フィルムを加温された延伸ゾーン内にて、ロールの周速差を利用しその長さ方向(縦方向、流れ方向かつMD方向)に延伸を行った。更に連続して冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定し、その後、室温23℃にて巻取張力100Nで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻き取り、延伸フィルムを得た。
【0115】
無配向フィルムの種別、延伸ゾーンの温度、延伸倍率、延伸間距離/フィルム幅、及び得られた延伸されたフィルムの幅の測定結果は下記の表1に記載の通りである。なお、延伸間距離はロール間距離を指す。
【0116】
次に得られた延伸フィルム連続的に巻き出し、ロール間収縮装置に供給し、延伸フィルムを加温された収縮ゾーン内にて、ロールの周速差を利用しその長さ方向(縦方向、流れ方向、MD方向)に収縮を行った。更に連続して冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定し、その後室温23℃にて巻取張力100Nで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻き取り、位相差フィルムを得た。
【0117】
収縮ゾーンの温度、収縮率、収縮間距離/フィルム幅、並びに得られた位相差フィルムの正面レターデーションR0及びNz係数の測定結果は、下記の表1に記載の通りである。なお、収縮間距離はロール間距離を指す。
【0118】
(比較例1〜3)
上記製造例1〜3によって得られた無配向フィルムを連続的に巻き出し、ロール間ネックイン延伸機に供給し、無配向フィルムを加温された延伸ゾーン内にて、ロールの周速差を利用しその長さ方向(縦方向、流れ方向かつMD方向)に延伸を行った。更に連続して冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定し、その後、室温23℃にて巻取張力100Nで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻き取り、延伸フィルムを得た。
【0119】
無配向フィルムの種別、延伸ゾーンの温度、延伸倍率、延伸間距離/フィルム幅、及び得られた延伸されたフィルムの幅の測定結果は下記の表1に記載の通りである。なお、延伸間距離はロール間距離を指す。
【0120】
次に得られた延伸フィルム連続的に巻き出し、ロール間収縮装置に供給し、延伸フィルムを加温された収縮ゾーン内にて、ロールの周速差を利用しその長さ方向(縦方向、流れ方向、MD方向)に収縮を行った。更に連続して冷却ゾーンで80℃に冷却して配向固定し、その後室温23℃にて巻取張力100Nで塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻き取り、位相差フィルムを得た。
【0121】
得られた位相差フィルムの正面レターデーションR0及びNz係数の測定結果は、下記の表1に記載の通りである。
【0122】
(評価方法)
位相差フィルムの平均厚み、正面レターデーションR0、及びNz係数の測定方法は以下の通りである。
【0123】
[位相差フィルムの平均厚みの測定方法]
フィルム幅方向は全幅で帯状フィルム片を採取した。フィルム厚さ測定器(セイコーEM社製、商品名「Millitron1240」を用いて、フィルム片の幅方向に平行に10mm間隔で測定し、測定値の総平均を算出し、位相差フィルムの平均厚み(μm)とした。
【0124】
[位相差フィルムの正面レターデーション値R0、及びNz係数の測定方法]
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−WR」を用いて、測定光の波長を590nmとして、位相差フィルムを幅方向に50mm間隔で測定して、平均値を算出し、位相差フィルムの正面レターデーションR0とした。また、測定結果と平均屈折率より、位相差フィルムのNz係数を算出した。
【0125】
結果を下記の表1に示す。
【0126】
【表1】

【符号の説明】
【0127】
1…インフィードニップロール
2…アウトフィードニップロール
3…インフィードニップロール
4…アウトフィードニップロール
6…延伸炉
7…収縮炉
11…溶融押出装置
12…押出機
13…金型
14…冷却ロール
15…タッチロール
16,17…冷却ロール
A…フィルム
A1…延伸前フィルム
A2…延伸後フィルム
A3…収縮後フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも第1の方向に延伸する延伸工程と、
延伸されたフィルムを、延伸された前記第1の方向に収縮させて、Nz係数が0.05以上、0.95以下である位相差フィルムを得る収縮工程とを備える、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記延伸工程において、前記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸し、
前記収縮工程において、前記延伸されたフィルムを、MD方向に収縮させて、遅相軸方向がMD方向である位相差フィルムを得る、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
正面レターデーションR0が50nm以上である位相差フィルムを得る、請求項1又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記延伸工程において、前記フィルムの延伸間距離の前記フィルムの幅に対する比(延伸間距離/フィルムの幅)を1以上とし、
前記収縮工程において、前記収縮間距離の前記フィルムの幅に対する比(収縮間距離/フィルムの幅)を1以下とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程において、前記フィルムの延伸倍率を1.05倍以上とし、
前記収縮工程において、前記フィルムの収縮率を99.9%以下とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記延伸工程において、第1のロールと該第1のロールと距離を隔てた第2のロールとの間で、該第1,第2のロールによる搬送速度を異ならせて、前記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを延伸する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記収縮工程において、第3のロールと該第3のロールと距離を隔てた第4のロールとの間で、該第3,第4のロールによる搬送速度を異ならせて、前記延伸されたフィルムを収縮させる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記収縮工程において、前記延伸されたフィルムに他のフィルムを積層せずに、前記延伸されたフィルムを単体で収縮させる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
非晶性熱可塑性樹脂をフィルム状に溶融押出しする溶融押出工程と、
溶融押出しされた前記非晶性熱可塑性樹脂を冷却し、前記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを得る冷却工程とをさらに備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項10】
非晶性熱可塑性樹脂により形成された単層の位相差フィルムであって、
遅相軸方向がMD方向であり、
Nz係数が0.05以上、0.95以下である、位相差フィルム。
【請求項11】
前記非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、MD方向に延伸した後、延伸されたフィルムを、MD方向に収縮させることにより得られている、請求項10に記載の位相差フィルム。
【請求項12】
正面レターデーションR0が50nm以上である、請求項10又は11に記載の位相差フィルム。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、
前記位相差フィルムの一方の表面に積層された偏光板とを備える、複合偏光板。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法により得られた位相差フィルムと、
前記位相差フィルムの一方の表面側に配置された偏光子とを備える、偏光板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−215623(P2012−215623A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79168(P2011−79168)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】