説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】位相差フィルムを簡便に且つ量産性よく製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】保持リール1からフィルム2を繰り出し、矢印の方向に搬送する。まず、塗布部3において、フィルム2の一方の主面に、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する。次いで、乾燥部4で溶剤を除去した後、遠赤外線ヒータが設けられた加熱部5の中にフィルム2を送って、感光性層を感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する。その後、加熱部5から出たフィルム2に対して、加熱部5の側から斜めに気体を吹き付けることにより、感光性層を感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、屈折率異方性によって入射偏光を変換する光学素子であり、互いに垂直な主軸方向に振動する直線偏光成分を透過して、これらの間に所定の位相差を与えるものである。このような位相差フィルムは、液晶ディスプレイを高性能化する上で必須の要素である。最近では、液晶ディスプレイの薄型化、軽量化、大型化および高精細化が進み、それに伴って液晶ディスプレイの使用量が増大している。このため、位相差フィルムに対する生産量増大の要求も高まっている。
【0003】
位相差フィルムの製造方法としては、従来より、高分子フィルムを延伸することにより光学的異方性を付与するものや、基材上に光学的異方性層を形成するものなどがある。例えば、特許文献1には、基材上に液晶性化合物を含む層を形成した後、この層に液晶配向能を有する配向基板を接触させて、層中の液晶性化合物を配向させることにより、位相差フィルムを製造する方法が記載されている。ここで、配向基板としては、基材上に液晶配向能を有する配向膜を設けたものが用いられる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−258613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、光学的異方性層を形成するために、配向基板を準備することが必要となる。また、配向基板を接触させることにより液晶性化合物を配向させるので、接触によって配向膜が剥がれると、剥がれた配向膜が異物となるおそれがある。さらに、配向処理の方法としては、従来より、配向膜表面をラビング布で擦るラビング法が用いられているが、この方法では、ラビング布の損傷などによって部分的に配向不良が起こって配向ムラが発生しやすい。こうした異物や配向ムラの発生は、位相差フィルム製造工程における歩留まり低下の原因となる。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、位相差フィルムを簡便に且つ量産性よく製造することのできる方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、基材の少なくとも一方の面に、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層を前記感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する工程と、
前記感光性層を前記加熱をした状態から前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷する工程と、
前記急冷後の感光性層に対して偏光を照射して光学的異方性膜とする工程と、
前記光学的異方性膜を加熱処理する工程とを有する。
【0009】
本発明において、前記感光性層を急冷する工程における冷却速度は、5℃/秒以上であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明においては、前記光学的異方性膜を加熱処理した後で偏光または非偏光を照射することが好ましい。
【0011】
本発明では、加熱部および冷却部を備えた装置内で前記基材を移動させながら、前記加熱部で前記感光性層を前記等方相転移温度以上に加熱した後、前記冷却部において、前記加熱部の側から前記基材に対し斜めに気体を吹き付けることにより、前記感光性層を前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷することが好ましい。
【0012】
前記気体は、前記基材の両面から吹き付けることが好ましい。
【0013】
前記気体は冷却された気体とすることができる。
【0014】
前記気体は、前記基材に対して5度〜65度の角度で吹き付けることが好ましい。
【0015】
前記加熱部では、前記感光性層を輻射熱によって加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層をこの化合物の等方相転移温度以上に加熱した後、ガラス相−液晶相転移温度以下に急冷するので、等方相にある化合物の分子配列を不規則な状態に固定できる。そして、この状態で偏光を照射することによって、特定方向の光反応を誘起し、これを契機として複屈折性を発現させるので、簡便に且つ量産性よく位相差フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による位相差フィルムの製造方法は、
(1)基材の表面および裏面のうちの少なくとも一方の面に、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する工程と、
(2)感光性層を前記感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する工程と、
(3)感光性層を加熱した状態から前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷する工程と、
(4)急冷後の感光性層に対して偏光を照射して光学的異方性膜とする工程と
(5)偏光が照射された光学的異方性膜を加熱処理する工程と
を有する。
【0018】
尚、本発明において偏光とは、次式で表わされる偏光度が50%を超えるものをいう。
偏光度={完全偏光成分/(完全偏光成分+非偏光成分)}×100(%)
【0019】
本発明においては、さらに、この光学的異方性膜の加熱処理を行った後で偏光または非偏光を照射することがより好ましい。
【0020】
基材としては、例えば、ガラス基板または高分子フィルムなどを用いることができる。量産性の点からは、ロール状に巻回された状態で保持でき、繰り出しや巻き取りが可能な高分子フィルムが好ましく用いられる。
【0021】
高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースおよびトリアセチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系ポリマー、ポリスチレンおよびアクリロニトリル・スチレン共重合体などのスチレン系ポリマー、ビスフェノールA・炭酸共重合体などのポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびエチレン・プロピレン共重合体などの直鎖または分枝状ポリオレフィン、ポリノルボネンなどのシクロ構造を含むポリオレフィン、塩化ビニル系ポリマー、脂肪族および芳香族ポリアミドなどのアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、または、エポキシ系ポリマーなどが挙げられる。
【0022】
基材の厚さは、特に限定されないが、通常、ガラス基板であれば0.1mm〜3mm、高分子フィルムであれば10μm〜300μmである。
【0023】
基材は、位相差フィルムを作製した後に剥離して除去してもよく、また、基材自身が透明で光学的に等方性であれば剥離しないでそのまま使用することもできる。尚、高分子フィルムにおいては、後述の液晶性を発現しうる感光性組成物に侵されないようにするために、表面に保護層を設けてもよい。
【0024】
液晶性を発現し得る感光性化合物(以下、単に「感光性化合物」ということがある。)は、感光性基を有する液晶性重合体若しくは液晶性低分子化合物またはこれらの混合体などが挙げられる。尚、感光性基を有さない液晶性化合物や、液晶性を損なわない程度の非液晶性低分子化合物を併用してもよい。非液晶性低分子化合物としては、具体的には、配向性を向上させるための配向助剤や、耐熱性を向上させるための架橋剤などを用いることができる。さらに、感光性基を有する液晶性重合体には液晶性を損なわない程度に、非液晶性の単量体を共重合させてもよい。尚、感光性基とは光照射により他の分子と結合する官能基をいう。
【0025】
感光性基を有する液晶性重合体としては、例えば、液晶性高分子のメソゲン成分として多用されているビフェニル基、ターフェニル基、フェニルベンゾエート基またはアゾベンゼン基などの置換基と、シンモナイル基、カルコン基、シンナミリデン基、β−(2−フリル)アクリロイル基、ケイ皮酸基またはこれらの誘導体基などの感光性基とを結合した構造を含む側鎖を有し、アクリレート、メタクリレート、マレイミド、N−フェニルマレイミドまたはシロキサンなどの構造を主鎖に有する高分子を用いることができる。この重合体は、同一の繰り返し単位からなる単一の重合体であってもよく、構造の異なる側鎖を有する単位の共重合体であってもよい。さらには、感光性基を含まない側鎖を有する単位を含む共重合体とすることもできる。
【0026】
上記の感光性基を有する液晶性重合体には、感光性基を有する液晶性低分子化合物を混合することができる。例えば、メソゲン成分として多用されているビフェニル基、ターフェニル基、フェニルベンゾエート基またはアゾベンゼン基などの置換基を有し、このメソゲン成分と、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基若しくはケイ皮酸基またはこれらの誘導体などの官能基を、屈曲性成分を介して、または、屈曲性成分を介さずに結合した液晶性化合物を混合することができる。
【0027】
液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を基材の上に形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、感光性化合物に、所望により溶剤やその他の成分を加えた塗布液を塗布する方法が挙げられる。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、グラビア印刷法、ディップコート法、ナイフコート法またはスプレーコート法などを挙げることができる。これらの方法により、塗布液は、基材の片面にのみ塗布されてもよく、基材の両面に塗布されてもよい。尚、塗布性を向上させるために、溶剤を用いた場合には、塗布後に乾燥させて溶剤をある程度まで除去しておくことが好ましい。但し、この工程は必ずしも独立した工程である必要はなく、次に述べる等方相転移温度以上に加熱する工程と一緒にしてもよい。また、塗布膜の厚さ(乾燥後)は、0.3〜30μmが好ましく、0.5〜20μmがより好ましい。
【0028】
基材の上に感光性層を形成した後は、液晶相から等方相に転移する温度(等方相転移温度)以上に加熱して、感光性化合物を等方性の相にする。例えば、感光性基を有する液晶性重合体と液晶性低分子化合物との混合体からなる組成物の場合、等方相にすると、重合体の側鎖部や低分子化合物は、特定の方向を向かずに各々が無秩序な方向を向いた状態となる。
【0029】
続いて、等方性の相の温度を下げていくと、組成物は、等方相から液晶相を経てガラス相へと変化する。すなわち、組成物の温度が、等方相転移温度より低くなると液晶相になり、さらに、ガラス相−液晶相転移温度以下になるとガラス相になる。このとき、等方相である組成物をガラス相−液晶相転移温度以下まで急冷すると、組成物を構成する重合体や低分子化合物は、分子配列に明確な規則性を有しない状態で動きが固定される。例えば、100℃で等方相にある組成物を、6秒以内に50℃まで急冷してガラス相にすると、分子配列を不規則な状態で固定することができる。本発明においては、冷却速度を5℃/秒以上とすることが好ましく、10℃/秒以上とすることがより好ましい。冷却速度が5℃/秒より小さくなると、所定の方向以外の局所的に規則的な分子配列が存在し、位相差フィルムの品質が低下することがある。
【0030】
急冷は、冷却された気体を組成物に吹き付けることによって行うことが好ましい。気体は吹き付けられる際に冷却されていることが好ましく、あらかじめ冷却されたものであってもよいし、冷却された雰囲気下で気体を吹き付けてもよい。冷却された気体を組成物に吹き付ける具体的な例としては、例えば、−20℃〜20℃の温度雰囲気下において、雰囲気温度より低温(例えば、−30℃〜15℃)の気体を組成物に吹き付けて行う。吹き付ける気体は、特に制限はないが、空気、窒素またはアルゴンなどの不活性気体を用いることが好ましい。
【0031】
図1は、加熱部および冷却部を備えた装置内で基材を搬送しながら位相差フィルムを製造する方法を示している。この図の例では、基材として、ロール状に巻回された高分子のフィルム2を用い、保持リール1からフィルム2を繰り出して矢印の方向に搬送する。まず、塗布部3において、フィルム2の上に、液晶性を発現し得る感光性化合物を塗布する。この場合の塗布方法としては、例えば、グラビア印刷法を挙げることができる。次いで、乾燥部4で溶剤を除去した後、遠赤外線ヒータ(図示せず)が設けられた加熱部5の中にフィルム2を送って、感光性層を加熱する。このとき、加熱部5の温度は、感光性化合物の等方相転移温度以上に設定しておく。一方、加熱部5の出口付近には、気体を吹き出す機構を備えた冷却部6を設けておく。加熱部5から送り出されたフィルム2に気体があたることにより、感光性層を急冷することができる。
【0032】
上記の例において、加熱部5と冷却部6とは隣接して設けられている。この場合、加熱部5と冷却部6の間には、温度が連続的に変化する中間領域7が形成される。この領域について、図2を用いて説明する。
【0033】
図2では、図1でフィルム2の搬送に伴って経過する時間を横軸にとり、フィルム2の上に形成された感光性層の温度を縦軸にとっている。図2に示すように、加熱部と冷却部の間には、これらの温度の間の温度となる中間領域が生じる。加熱部を出たフィルムは、外気に触れることによって温度が低下する。次いで、冷却部で冷却されると、温度は急速に低下するようになる。ここで、中間領域の占める面積が大きくなると、フィルムの温度が緩やかに低下する時間が長くなる。このため、感光性層は急冷され難くなり、等方相から液晶相を経てガラス相へと変化する過程が比較的ゆっくりと進むようになる。このような状態では、感光性層を構成する重合体や低分子化合物の分子配列に規則性が生じてしまい、分子配列を不規則な状態で固定することができなくなるおそれがある。
【0034】
感光性層を急冷するには、中間領域を狭くして、すなわち、フィルムの搬送方向における中間領域の寸法を短くして、加熱部の温度と冷却部の温度とができるだけ不連続なものとなるようにすればよい。具体的には、図1において、加熱部5の側からフィルム2の搬送方向にフィルム2に対して斜めに気体を吹き付けることが好ましい。この方法によれば、気体加熱部5の温度低下を防げるとともに、加熱部5と冷却部6の間で熱交換が起こり難くなるので、中間領域を狭くすることが可能となる。尚、気体は、フィルム2の片面側からのみ吹き付けてもよいが、両面側から吹き付けてもよい。
【0035】
加熱部5の温度低下を効果的に防止する点からは、中間領域における冷却部側の端部、換言すると、冷却部6における加熱部5側の端部に気体があたるようにすることが好ましい。また、冷却部6の温度上昇を防ぐ点からは、加熱部5は、上記の例のように、赤外線ヒータなどの輻射熱によって加熱する機構を用いるのがよい。
【0036】
図3は、フィルムに気体を吹き付ける部分の拡大断面図である。この図に示すように、加熱部5から冷却部6に搬送されてきたフィルム2(基材)に気体を吹き付ける際、本実施の形態においては、フィルム2の表面の上方に所定の間隔をおいて遮蔽板9を設置し、遮蔽板9によってフィルム2を覆うとともに、遮蔽板9に設けた開口部10を通じて、ノズル11から気体をフィルム2に吹き付けるようにすることが好ましい。尚、ノズル11からは、例えば、コンプレッサ(図示せず)を用いて、圧縮空気が吹き出すようにすることができる。
【0037】
図3において、矢印は気体の進行方向を示している。遮蔽板9を設けることにより、フィルム2に吹き付けられた気体は、フィルム2の表面で反射して遮蔽板9にあたった後、再びフィルム2にあたる。これを繰り返すことにより、冷却部6の全体を効率的に冷やすことができる。尚、遮蔽板9は、フィルム2の搬送方向の少なくとも下流側に向かって延出していればよい。フィルム2から遮蔽板9までの距離Lが短いほど、冷却効果を高めることができる。また、ノズル11の形状は、図3の例に限られるものではないが、加熱部5の側からフィルム2の搬送方向にフィルム2に対して斜めに気体を吹き付けるのに効果的な形状であることが好ましい。さらに、ノズル11の吹出口の幅は、フィルム2の幅より大きいことが好ましい。
【0038】
気体を吹き付ける角度(吹付角度)θは、フィルム2に対して5度〜65度であることが好ましく、10度〜50度であることがより好ましい。θが65度より大きくなると、冷却に用いる気体が感光性層に吹き付けられた後に加熱部5の方に流出しやすくなる。一方、θが5度より小さくなると、気体のあたる個所が加熱部5から離れて、加熱部5と冷却部6の間の中間的な温度領域が拡がっていく。すなわち、フィルム2の搬送方向における中間領域7の寸法が長くなって、冷却に時間を要するようになる。尚、フィルム2の裏面(図3では下側)から気体を吹き付ける場合、フィルム2の裏面へ気体を吹き付ける角度(θ´)も同様に、フィルム2に対して5度〜65度であることが好ましく、10度〜50度であることがより好ましい。
【0039】
本実施の形態においては、気体の風速は、0.5m/分〜20m/分であることが好ましい。風速が小さくなりすぎると冷却に時間がかかり、風速が大きくなりすぎるとフィルム2の上に形成された感光性層の表面平滑性が低下することがある。また、フィルム2の1mあたりに吹き付けられる風量は、0.1m/分以上、2.0m/分以下であることが好ましい。気を吹き付ける幅は、フィルム2よりも大きい幅であることが好ましい。フィルム2よりも大きい幅であると幅方向において感光性層を均一に急冷することができる。
【0040】
上述したように、等方相にある感光性層を急冷すると、感光性層を構成する分子の配向を無秩序な状態に固定することができる。例えば、側鎖に感光性基を有する液晶性重合体と液晶性低分子化合物との混合体からなる組成物の場合、重合体の側鎖部や低分子化合物は、特定の方向を向かない状態で動きが固定される。以下では、この組成物を例にとり説明する。
【0041】
ガラス相において、無秩序に共存している感光性基を有する液晶性の重合体の中には、その長軸(感光性基の分極方向)が、照射光の光路軸および電界振動方向の双方に対してともに平行となっているものがあり、このような配置の重合体の側鎖は、他の配置にある感光性基に比べて高い光反応性を有する。それ故、急冷後の組成物の重合体の長軸に平行な偏光を照射すると、長軸が当該直線偏光に平行な重合体間で選択的に二量化反応が起こる。二量化反応により分子量が大きくなった重合体は配向が固定され、その結果、組成物は光学的異方性を有する膜(光学的異方性膜)となる。尚、この光反応を進めるには、感光性基の部分が反応し得る波長の光を照射することが必要となる。この波長は、感光性基の種類によっても異なるが、一般には、200nm〜500nmであり、中でも250nm〜400nmの領域の光に高い感光性を有する場合が多い。
【0042】
偏光を照射した後、光反応を起こさなかった重合体の側鎖部と、低分子化合物とは、光反応を起こした側鎖と同じ方向に分子運動によって配向する。これにより、膜全体において、未反応の感光性の重合体の液晶性側鎖部および低分子化合物が、光反応を起こした液晶性を有する側鎖と平行方向に配向して、位相差が誘起される。尚、位相差を効率よく誘起するには、感光性基を有しない側鎖を含有させ、光反応点の密度を下げることによって、再配向時の分子運動の自由度を上げてもよい。
【0043】
上記の偏光照射の際には、基材に対し斜め方向から偏光を照射することにより、光軸を任意に傾斜させて配向させることが可能となる。したがって、この方法によれば、光軸を所望の方向に設定した位相差フィルムが得られる。
【0044】
本発明においては、偏光を照射した後で、膜を加熱処理する。これにより、偏光を照射した後の分子運動による配向を促進できる。この場合の加熱温度は、光反応した部分の軟化点より低く、光反応しなかった側鎖と低分子化合物の軟化点より高いことが好ましい。
【0045】
さらに、本発明においては、配向を固定するために、偏光照射後の加熱処理を行った後に、偏光または非偏光を照射することが好ましい。
【0046】
図1では、冷却部6に連続して、偏光照射部12、加熱・徐冷部13および偏光または非偏光照射部14が連続して設けられている。偏光照射部12では、フィルム2に対して斜めの方向から偏光15が照射される。また、偏光または非偏光照射部14では、同じ方向から偏光または非偏光16が照射される。組成物は、これらの工程を経て位相差フィルムとなる。その後、巻取軸17にロール状に巻き付けられた状態となって回収される。尚、偏光および非偏光は、図1に示すように、フィルム2の片面側からのみ照射してもよいが、両面側から照射することもできる。
【0047】
以上述べたように、本発明は、偏光を照射することによって特定方向の光反応を誘起し、これを契機として複屈折性を発現させるので、配向基板を接触させて液晶性化合物を配向させる方法に比較して、簡便に且つ量産性よく位相差フィルムを製造することができる。
【0048】
高分子フィルムを延伸して光学的異方性を付与する方法では、分子が延伸方向に配向するため、光軸を傾斜することは実質的に不可能である。これに対して、本発明では、特定の振動方向を有する偏光を照射することにより、光軸を任意の方向に設定することが可能となる。
【0049】
本発明においては、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層をこの感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱した後、この状態からガラス相−液晶相転移温度以下に急冷するので、等方相にある化合物の分子配列を不規則な状態で固定することができる。この状態で偏光を照射すれば、偏光の振動方向に平行な重合体の側鎖の部分で選択的に二量化反応が起こる。一方、それ以外の感光性の低い配置にある側鎖や低分子化合物は、光反応を起こした側鎖と同じ方向に分子運動によって配向する。これにより、膜全体で複屈折性が発現して、所望の位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。これに対し、感光性層に対して、加熱処理および急冷を行わずに偏光を照射した場合には、所定の方向に分子を配向させることが困難となるため、所望の位相差を有する位相差フィルムは得られない。
【0050】
本発明における急冷は、等方相転移温度以上に加熱する加熱部の側から基材の搬送方向に基材に対して斜めに気体を吹き付けることにより行うのが好ましい。この方法によれば、加熱部の温度低下を防げるとともに、加熱部と冷却部の間で熱交換が起こり難くなる。したがって、組成物を効果的に急冷することが可能となる。また、この方法によれば、シワなどがなく、表面平滑性の良好な位相差フィルムが得られる。
【0051】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0052】
以下に、本発明の実施例を述べる。尚、位相差フィルム表面の平滑性は以下の基準で判定した。
○:目視で膜の表面に凹凸が全く観察されない
△:凹凸がわずかに見られるが、実用上問題のないレベル
【0053】
実施例1
基材として、光等方性の保護層を表面に設けたトリアセチルセルロースフィルム(リンテック株式会社製:商品名CHC−TAC80E1K、厚さ85μm)を、幅300mmで長さ100mとしてロール状に巻回されたものを用いた。保持リールから基材を繰り出しながら、グラビア印刷によって、液晶性を発現し得る感光性化合物として林テレンプ株式会社製の光配向材(商品名:HTA−20)を基材の上に塗布し110℃で1分間乾燥して、約2μmの厚さの塗布膜(感光性層)を形成した。尚、用いた光配向材の等方相転移温度は100℃、ガラス相−液晶相転移温度は40℃である。
【0054】
次に、遠赤外線ヒータを用いて、塗布膜を110℃で30秒間加熱した。その後、遠赤外線ヒータから出た基材の塗布膜側に、温度10℃の空気(冷却した気体)を吹き付け、11.8秒間かけて室温(25℃)まで冷却した。この急冷工程における空気の吹き付け角度は10度、風速は1m/分、風量は0.12m/分、吹きつけ幅は400mmであった。尚、塗布膜の温度は、塗布膜表面の温度を熱電対(チノー(株)製シートカップルC060−Kと、キーエンス(株)製NR−600データロガーを使用)を用いて測定した。
【0055】
次に、塗布膜に対しその表面の側から偏光を照射した。具体的には、ハリソン東芝ライティング株式会社製の紫外線照射装置(製品名:HCM−96011S−DM)を用い、ブリュースター角の原理を適用して、完全偏光成分と非偏光成分からなる偏光度85%の紫外線(90mJ/cm)を照射した。光路軸および電界振動方向は基材の流れ方向に平行になるように設定した。尚、ブリュースター角については、「初等物理シリーズ8、光と電波、培風館」に記載されている。
【0056】
偏光を照射した後は、塗布膜を110℃まで加熱し30秒間保持して加熱処理を行った後、10分間かけて室温(25℃)まで冷却した。得られた位相差フィルムを、再びロールに巻き取った。
【0057】
作製した位相差フィルムの位相差値の測定は、王子計測機器株式会社製の位相差測定装置(製品名:KOBRA−WR)を用いて行った。それによれば、589nmの測定波長に対して、位相差値は125nmであった。また、目視による外観検査では、位相差フィルムにシワは見られなかった。さらに、位相差フィルムの試験片をつや消し黒色に塗装した板上に静置し、蛍光灯下で反射法により目視観察して、塗膜表面の平滑性を評価した。その結果、得られた位相差フィルムの表面平滑性は良好で実用に耐え得るものであった。
【0058】
実施例2
実施例1において、さらに、配向を固定するために、得られた位相差フィルムに対しその表面の側(塗布膜の側)から、さらに非偏光を照射した以外は、実施例と同様にして位相差フィルムを作製した。具体的には、ハリソン東芝ライティング株式会社製の紫外線照射装置(製品名:HCM−96011S−DM)を用いて、500mJ/cmの非偏光性の紫外線を照射した。このようにして得られた位相差フィルムを、再びロールに巻き取った。
【0059】
作製した位相差フィルムの位相差値は、589nmの測定波長に対して、位相差値は100nmであった。また、目視による外観検査では、位相差フィルムにシワは見られなかった。さらに、位相差フィルムの試験片をつや消し黒色に塗装した板上に静置し、蛍光灯下で反射法により目視観察して、塗膜表面の平滑性を評価した。その結果、得られた位相差フィルムの表面平滑性は良好で実用に耐え得るものであった。
【0060】
実施例3〜25
急冷工程における風温、風速、風量、吹き付け角度および室温までの冷却時間を変えた以外は、実施例2と同様にして位相差フィルムを作製した。実施例1および2と併せて、これらの冷却条件および評価結果を表1に示す。
【0061】
表1に示すように、実施例3〜25のいずれにおいても、実施例1と同様に、位相差フィルムは良好な位相差値を有したものであることが確認された。また、シワも見られず、塗膜表面の平滑性も実用上問題のないレベルであった。
【0062】
比較例
実施例1の遠赤外線ヒータを用いた加熱工程および急冷工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。得られたフィルムの位相差値は、589nmの測定波長に対して20nmであり、位相差フィルムとしての実用性を有するものではなかった。
【0063】
参考例
実施例1の急冷工程の操作を行わず、20℃に冷却した金属製のロールに接触させることにより塗布膜を冷却した以外は、実施例1と同様の操作を行なって位相差フィルムを作製した。作製したフィルムの位相差値は、589nmの測定波長に対して140nmであった。しかし、シワが発生しており、実用に耐え得るものとはならなかった。
【0064】
表1

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施の形態における位相差フィルムの製造方法を示す図である。
【図2】図1におけるフィルムの温度変化を示す図である。
【図3】本実施の形態において、フィルムに気体を吹き付ける部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 保持リール
2 フィルム
3 塗布部
4 乾燥部
5 加熱部
6 冷却部
7 中間領域
9 遮蔽板
10 開口部
11 ノズル
12 偏光照射部
13 加熱・除冷部
14 非偏光照射部
15 偏光
16 非偏光
17 巻取軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に、液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を形成する工程と、
前記感光性層を前記感光性化合物の等方相転移温度以上に加熱する工程と、
前記感光性層を前記加熱をした状態から前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷する工程と、
前記急冷後の感光性層に対して偏光を照射して光学的異方性膜とする工程と、
前記光学的異方性膜を加熱処理する工程とを有する位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記感光性層を急冷する工程における冷却速度は、5℃/秒以上である請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記光学的異方性膜を加熱処理した後で偏光または非偏光を照射する請求項2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
加熱部および冷却部を備えた装置内で前記基材を移動させながら、前記加熱部で前記感光性層を前記等方相転移温度以上に加熱した後、前記冷却部において、前記加熱部の側から前記基材に対し斜めに気体を吹き付けることにより、前記感光性層を前記感光性化合物のガラス相−液晶相転移温度以下に急冷する請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記気体を前記基材の両面から吹き付ける請求項4に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記気体は冷却された気体である請求項4または5に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記気体を前記基材に対して5度〜65度の角度で吹き付ける請求項4〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記加熱部では、前記感光性層を輻射熱によって加熱する請求項4〜7のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−109757(P2009−109757A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282157(P2007−282157)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】