説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】より簡単かつ簡便な位相差フィルムの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】基板に,光反応性基を有する液晶性ポリマーと溶媒とを含んでなる組成物を塗布する工程と,該組成物を減圧乾燥するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥することにより,該組成物中の溶媒を留去して,光反応性層を形成する工程と,該光反応性層に直線偏光を照射して,熱配向性層を形成する工程と,該熱配向性層を加熱処理する工程とを含むことを特徴とする,位相差フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,ディスプレー(液晶ディスプレーの他,フレキシブルディスプレーなども含む)分野では,位相差フィルムが様々な形で利用されている。かかる位相差フィルムは,通常,基板上に液晶配向能を有する層(液晶配向層)を形成させた後,該液晶配向層の上に液晶性化合物を塗布,配向させて製造される。この場合において,基板に液晶配向層を付与する方法として,例えば,基板の表面にポリイミドなどの高分子樹脂膜を被覆し,これを一方向に布などで擦るラビング処理が知られているが,かかる方法においては,微細な埃の発生による液晶製造ラインの汚染や,静電気によるTFT(薄膜トランジスタ)素子の破壊などが,液晶パネルの製造工程における歩留まりの低下を引き起こす原因となったり,定量的な配向制御が困難であることなどの問題があった。また,ラビング処理に代わり,光反応性化合物を用いて,これを基板に被覆し,光照射により,液晶配向能を有する光配向膜を形成させる方法も種々提案されている(特許文献1〜3)。しかし,これらいずれの方法においても,液晶を配向させるための膜を別に作製する必要があり,煩雑であった。
【0003】
そこで,液晶配向層を別途形成させることなく位相差フィルムを直接得る方法が検討されている。例えば,特許文献4には,基材上に形成した,液晶性を発現し得る感光性化合物を含む感光性層を,等方相転移温度以上に加熱した後,かかる状態からガラス相−液晶相転移温度以下に急冷し,偏光を照射し,加熱処理することによって,位相差フィルムを得る製造方法が記載されている。しかし,かかる方法においては,速やかな冷却が達成できないと,位相差フィルムの品質が低下するなどの問題があり,より簡便かつ確実な方法の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−015681号
【特許文献2】特開2007−304215号
【特許文献3】特開2008−276149号
【特許文献4】特開2009−109757号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景において,本発明は,より簡単かつ簡便な位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また,本発明は,かかる位相差フィルムの製造に使用できる新規位相差フィルム用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,鋭意検討を行った結果,光反応性基を有する液晶性ポリマーと溶媒とを含んでなる組成物を基板に塗布し,該塗膜から溶媒を留去するに際し,減圧乾燥するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥すれば,その後直線偏光照射,加熱処理を経て,直接位相差フィルムを製造できることを見出し,さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち,本発明は,
〔1〕基板に,光反応性基を有する液晶性ポリマーと溶媒とを含んでなる組成物を塗布する工程と,
該組成物を減圧乾燥するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥することにより,該組成物中の溶媒を留去して,光反応性層を形成する工程と,
該光反応性層に直線偏光を照射して,熱配向性層を形成する工程と,
該熱配向性層を加熱処理する工程とを含むことを特徴とする,位相差フィルムの製造方法,
〔2〕光反応性層を形成する工程が,該組成物を減圧乾燥することにより,該組成物中の溶媒を留去するものである,上記〔1〕の製造方法,
〔3〕一般式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,環A及び環Bはそれぞれ独立して,
【0010】
【化2】

【0011】
〔但し,X1〜X38の各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基である。〕
で示される基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物,
〔4〕一般式(I−a)
【0012】
【化3】

【0013】
〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,X1A〜X4Aの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,環Bは,
【0014】
【化4】

【0015】
〔但し,X1B〜X4B及びX31B〜X38Bの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基である。〕
で示される基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物,
〔5〕一般式(I−b)
【0016】
【化5】

【0017】
〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,X1A〜X4A及びX31B〜X38Bの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物,
〔6〕一般式(I−c)
【0018】
【化6】

【0019】
〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,X1A〜X4A及びX1B〜X4Bの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物,に関する。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明の製造方法によれば,液晶配向層を別途形成させることなく,基板上に形成した,光反応性基を有する液晶性ポリマーを含む層から,位相差フィルムを直接得ることができる。また,このことが,基板に塗布された組成物を減圧乾燥するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥して,該組成物中から溶媒を留去することにより達成できる。したがって,本発明の製造方法は,簡単かつ簡便に,引いては低コストで,位相差フィルムを提供することができる,優れた製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に用いる基板としては,例えば,アルカリガラス,無アルカリガラスなどのガラス材料,ポリイミド,ポリアミド,アクリル樹脂,ポリビニルアルコール,トリアセチルセルロース,ポリエチレンテレフタレート,シクロオレフィンポリマー,ポリエチレン,ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリ三フッ化塩化エチレンなどの樹脂材料,鉄,アルミニウム,銅などの金属材料などからなる基板が挙げられ,このうちガラス材料からなる基板が好ましい。
基板の厚さは,特に限定されないが,通常,ガラス材料からなる基板であれば,0.1mm〜3mm,樹脂材料からなる基板であれば,10μm〜300μm,金属材料からなる基板であれば,1〜100μmである。
基板は,位相差フィルムを作成した後に剥離してもよく,また,基板自身が透明で光学的に等方性であれば剥離せず,そのまま使用することもできる。
【0022】
本発明に係る光反応性基を有する液晶性ポリマー(以下,単に「液晶性ポリマー」ということがある。)としては,例えば,液晶性高分子のメソゲン成分として多用されているビフェニル基,ターフェニル基,ナフタレン基,フェニルベンゾエート基,アゾベンゼン基,これらの誘導体などの置換基(メソゲン基)と,シンナモイル基,カルコン基,シンナミリデン基,β−(2−フェニル)アクリロイル基,桂皮酸基,これらの誘導体などの光反応性基を併せ有する構造の側鎖を有し,アクリレート,メタクリレート,マレイミド,N−フェニルマレイミド,シロキサンなどの構造を主鎖に有するポリマーを挙げることができる。かかるポリマーは,単一の繰り返し単位からなるホモポリマーであってもよく,側鎖の構造の異なる2以上の繰り返し単位からなるコポリマーであってもよい。かかるコポリマーとしては,交互型,ランダム型,クラフト型などのいずれをも含むものである。また,かかるコポリマーにおいては,少なくとも一の繰り返し単位に係る側鎖は,上記の如きメソゲン基と光反応性基を併せ有する構造の側鎖であるが,他の繰り返し単位に係る側鎖は,かかるメソゲン基や光反応性基を有さないものであってよい。
【0023】
本発明に係る液晶性ポリマーの好ましい具体例を以下に示す。これらは新規化合物である。
一般式(I)
【化7】

〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマー。
一般式(I−a)
【0024】
【化8】

【0025】
〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマー。
一般式(I−b)
【0026】
【化9】

【0027】
〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマー。
一般式(I−c)
【0028】
【化10】

【0029】
〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマー。
【0030】
本発明の一般式(I)(一般式(I−a),一般式(I−b)及び一般式(I−c)を含む。以下同様。)において,R1としては,メチル基が好ましい。R2としては,アルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる1の基で置換されたフェニル基が好ましく,このうちアルキル基,又はアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されたフェニル基が好ましく,更に,アルキル基,又はアルコキシ基で置換されたフェニル基が最も好ましい。X1〜X38としては,いずれも,水素原子又はハロゲン原子が好ましく,すべて水素原子である場合が最も好ましい。p及びqとしては,いずれも,3〜9のいずれかの整数が好ましく,このうち5〜7のいずれかの整数が好ましく,6が最も好ましい。mについては,好ましくは約0.75≦m≦約0.85の範囲であり,最も好ましいのは約0.8である。対応するnの好ましい範囲は,m+n=1から自ずと定まる範囲である。すなわち,好ましくは約0.15≦n≦約0.25の範囲であり,最も好ましいのは約0.2である。
本発明の一般式(I−a),(I−b)又は(I−c)において,X1A〜X4Aとしては,水素原子又はハロゲン原子が好ましく,特に,X1A〜X4Aのいずれか一つがハロゲン原子であって,その他が水素原子である場合,又はすべてが水素原子である場合が好ましい。また,本発明の一般式(I−b)において,X31B〜X38Bとしては,水素原子又はハロゲン原子が好ましく,すべてが水素原子である場合が最も好ましい。また,本発明の一般式(I−c)において,X1B〜X4Bとしては,水素原子又はハロゲン原子が好ましく,すべてが水素原子である場合が最も好ましい。
【0031】
2のアルキル基又はR2のフェニル基の置換基のアルキル基としては,炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ,そのうち,好ましくは炭素数1〜6のものが,更に好ましくは炭素数1〜4のものが,最も好ましくはメチル基が挙げられる。R2のフェニル基の置換基のアルコシキ基としては,炭素数1〜12のアルコキシ基が挙げられ,そのうち,好ましくは炭素数1〜6のものが,更に好ましくは炭素数1〜4のものが,最も好ましくはメトキシ基が挙げられる。R2のフェニル基の置換基のハロゲン原子としては,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子が挙げられ,このうち,フッ素原子が好ましい。X1〜X38において,アルキル基としては,炭素数1〜4のものが挙げられ,そのうちメチル基が最も好ましく,アルコキシ基としては,炭素数1〜4のものが挙げられ,そのうちメトキシ基が最も好ましく,ハロゲン原子としては,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子が挙げられ,このうち,フッ素原子が好ましい。
なお,本明細書において,X1A〜X38Aは,環A又は環B上の置換基であるX1〜X38について,それらが環A上の置換基である場合を表し,X1B〜X38Bは,それらが環B上の置換基である場合を表すものである。したがって,X1〜X38についての説明は,そのままX1A〜X38A及びX1B〜X38Bに対しても適用し得るものである。
【0032】
本発明のポリマー(I)は,一般式(II)
【0033】
【化11】

【0034】
〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示される(メタ)アクリル酸モノマー(M1)の所定量と,一般式(III)
【0035】
【化12】

【0036】
〔式中,記号は前期と同一意味を有する。〕
で示される(メタ)アクリル酸モノマー(M2)の所定量を,無溶媒又は溶媒中混合して,重合させることにより,製造することができる。重合は光又は熱を用いて実施することができる。重合工程において,材料や溶媒等を仕込む方法は特に限定されず,重合前に反応容器へ予め全材料を投入した後に重合を開始してもよいし,M1とM2を混合したのち,かかる混合物や溶媒等の一部について重合開始した後に,残りを滴下又は分割投入などの方法により段階的に追加してもよい。
【0037】
また,M1及びM2の重合に際して,必須ではないが,他のモノマーを,含有させてもよく,そのようなモノマーは,重合性のエチレン性不飽和結合を有する化合物である限り,それ以外の点では特に限定されず,液晶性を有するものでなくてもよい。
【0038】
そのようなモノマーとしては,例えば,メチル(メタ)アクリレート,t−ブチル(メタ)アクリレート,ステアリル(メタ)アクリレート,シクロヘキシル(メタ)アクリレート,エトキシエチル(メタ)アクリレート,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,フェニル(メタ)アクリレート,N,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルモノマー,スチレン,α-メチルスチレン,p-スチレンスルホン酸,エチルビニルエーテル,N−ビニルイミダゾール,ビニルアセテート,ビニルピリジン,2−ビニルナフタレン,塩化ビニル,フッ化ビニル,N−ビニルカルバゾール,ビニルアミン,ビニルフェノール,N−ビニル−2−ピロリドンなどのビニル系モノマー,4−アリル−1,2−ジメトキシベンゼン,4−アリルフェノール,4−メトキシアリルベンゼンなどのアリル系モノマー,フェニルマレイミド,シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類が挙げられる。
【0039】
溶液中で重合する場合には,汎用の有機溶媒を特に限定なく用いることができる。溶媒の具体例としては,エタノール,プロパノール,ブタノール等のアルコール系溶媒,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン,シクロペンタノン等のケトン系溶媒,酢酸エチル,ブチルアセテート,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒,ジエチルエーテル,ジグリム等のエーテル系溶媒,ヘキサン,シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン,トルエン,キシレン等の炭化水素系溶媒,アセトニトリル等のニトリル系溶媒,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。これら溶媒は,いずれかを単独で用いてもよく,2種以上を併せて用いてもよい。
【0040】
上記の重合に際しては,重合開始剤を用いることができる。重合開始剤は,一般的に使用されているものでよく,具体例としては,アゾビスイソブチロニトリル(AIBN),ジエチル−2,2´−アゾビスイソブチレート(V−601),2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル),ジメチルアゾビスメチルプロビオネート等のアゾ系重合開始剤,過酸化ベンゾイル,過酸化水素,過酸化ラウロイル等の過酸化物系重合開始剤,過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤は,何れかを単独で用いてもよく,また2種以上を併用することもできる。
【0041】
上記重合の際の温度は,モノマーであるM1及びM2の種類,重合溶媒種,開始剤種などにより異なるが,好ましくは40〜150℃,より好ましくは50〜120℃の範囲である。
【0042】
なお,上記一般式(I)は,原料モノマーであるM1とM2がm:nのモル比で含まれていることを模式的に表したものであり,M1とM2が必ずしも交互に結合してコポリマーを構成しているわけではない。したがって,一般式(1)は,M1とM2をm:nのモル比で重合させたコポリマー,例えば,交互型,ランダム型,グラフト型などのいずれをも含むものである。また,一般式(I)において,モノマー同士を繋ぐ破線は,通常は単結合手であるが,M1とM2の重合に際して,他のモノマーも含有させる場合には,そのようなモノマーが該波線部分に取り込まれて,存在し得る。
【0043】
本発明に係る液晶性ポリマーは,溶媒に溶解して,位相差フィルム用組成物とすることができる。さらに,当該組成物には,光重合開始剤,界面活性剤等の他,光及び熱により重合を起こさせる重合性組成物に通常含まれる成分を適宜添加してもよい。溶媒の含有量は,液晶性ポリマーが溶解する限り特に制限はないが,通常,液晶性ポリマーの総重量に対し,約70〜約99重量%である。また,その他の任意成分の含有量も特に制限はないが,通常,液晶性ポリマーの総重量に対し,例えば,光重合開始剤は約1〜約10重量%,界面活性剤は約0.1〜約5重量%含まれていることが好ましい。
【0044】
溶媒としては,トルエン,エチルベンゼン,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル,プロピレングリコールメチルエーテル,ジブチルエーテル,アセトン,メチルエチルケトン,エタノール,プロパノール,シクロヘキサン,シクロペンタノン,メチルシクロヘキサン,テトラヒドロフラン,ジオキサン,シクロヘキサノン,n−ヘキサン,酢酸エチル,酢酸ブチル,プロピレングリコールメチルエーテルアセテート,メトキシブチルアセテート,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。このうち,毒性や環境負荷の観点及び/又は樹脂基材(例えば,ポリエチレンテレフタレート(PET),シクロオレフィンポリマー(COP)など)に対する耐溶解性の観点から,メチルエチルケトン,シクロヘキサノンが好ましい。これらは何れかを単独で用いることもでき,2種以上を併用することもできる。特に,本発明のポリマー(I)は,メチルエチルケトン,シクロヘキサノンにも溶解するという優れた特長を有する。
【0045】
光重合開始剤としては,少量の光照射により均一な膜を形成させるために一般に知られている汎用の光重合剤をいずれも用いることができる。具体例としては,例えば,2,2’−アゾビスイソブチロニトリル,2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾニトリル系光重合開始剤,イルガキュア907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製),イルガキュア369(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等のα−アミノケトン系光重合開始剤,4−フェノキシジクロロアセトフェノン,4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン,ジエトキシアセトフェノン,1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン,1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン系光重合開始剤,ベンゾイン,ベンゾインメチルエーテル,ベンゾインエチルエーテル,ベンゾインイソプロピルエーテル,ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系光重合開始剤,ベンゾフェノン,ベンゾイル安息香酸,ベンゾイル安息香酸メチル,4−フェニルベンゾフェノン,ヒドロキシベンゾフェノン,アクリル化ベンゾフェノン,4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン系光重合開始剤,2−クロルチオキサンソン,2−メチルチオキサンソン,イソプロピルチオキサンソン,2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系光重合開始剤,2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン,2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−ピペロニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2,4−−ビス(トリクロロメチル)−6−スチリル−s−トリアジン,2−(ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2,4−トリクロロメチル−(ピペロニル)−6−トリアジン,2,4−トリクロロメチル(4’−メトキシスチリル)−6−トリアジン等のトリアジン系光重合開始剤,カルバゾール系光重合開始剤,イミダゾール系光重合開始剤等;更には,α−アシロキシエステル,アシルフォスフィンオキサイド,メチルフェニルグリオキシレート,ベンジル,9,10−フェナンスレンキノン,カンファーキノン,エチルアンスラキノン,4,4’−ジエチルイソフタロフェノン,3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン,4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン,チオキサンソン等の光重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤は,何れかを単独で用いてもよいし,2種以上を併せて用いてもよい。
【0046】
界面活性剤としては,均一な膜を形成させるために一般に用いられている界面活性剤をいずれも用いることができる。具体例としては,例えば,ラウリル硫酸ソーダ,ラウリル硫酸アンモニウム,ラウリル硫酸トリエタノールアミン,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩,アルキルエーテルホスフェート,ナトリウムオレイルスクシネート,ミリスチン酸カリウム,ヤシ油脂肪酸カリウム,ナトリウムラウロイルサルコシネート等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールモノラウレート,ステアリン酸ソルビタン,ミリスチン酸グリセリル,ジオレイン酸グリセリル,ソルビタンステアレート,ソルビタンオレエート等のノニオン性界面活性剤;ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド,塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム,塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム,セチルトリメチルアンモニウムクロリド等のカオチン性界面活性剤;ラウリルベタイン,アルキルスルホベタイン,コカミドプロピルベタイン,アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルベタイン,アルキルイミダゾリン,ラウロイルサルコシンナトリウム,ココアンホ酢酸ナトリウム等の両性界面活性剤;更には,BYK−361,BYK−306,BYK−307(ビックケミージャパン社製),フロラードFC430(住友スリーエム社製),メガファックF171,R08(大日本インキ化学工業社製)等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は,何れかを単独で用いてもよいし,2種以上を併用することもできる。
【0047】
本発明に係る位相差フィルム用組成物のうち,液晶性ポリマーとして,新規化合物である共重合性(メタ)アクリル酸ポリマー(I)を含む位相差フィルム用組成物は,新規組成物である。
【0048】
このようにして得られる本発明の位相差フィルム用組成物を,基板に塗布する。位相差フィルム用組成物の塗布方法としては,当該分野において一般的に知られている何れの方法でもよく,例えば,スピンコート法,バーコート法,ダイコーター法,スクリーン印刷法,スプレーコーター法などがある。位相差フィルム用組成物は,基板の片面のみに塗布してもよく,基板の両面に塗布してもよい。塗布量は,目的とする位相差フィルムの膜厚に応じて,適宜決定することができる。
【0049】
こうして基板上に塗布された位相差フィルム用組成物を減圧乾燥するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥して,該組成物中に含まれている溶媒を留去する。ここで,「溶媒を留去する」とは,溶媒を残溶媒が検出できない程度にまで除去することを意味し,例えば,ガスクロマトグラフィーでの測定で検出限界以下となるものである。ここで,「減圧乾燥」とは,減圧下に溶媒を蒸発させる乾燥方法をいう。また,「自然乾燥」とは,大気圧下に放置することにより溶媒を蒸発させる乾燥方法をいう。時間効率性の観点からは,減圧乾燥により溶媒を一気に留去するのが好ましい。減圧乾燥を行う場合,その前に自然乾燥の工程が入っても差し支えない。例えば,基板上に位相差フィルム用組成物を塗布後,減圧乾燥を実施するまでは,通常,自然乾燥の工程にある。また,本明細書において,「自然乾燥」とは,通常,そのまま放置して乾燥することを意味するが,乾燥時間をより短縮すべく,放置の間に,送風を伴わせるものであってもよい。送風を伴わせることにより,自然乾燥をより効率的に行うことができる。
【0050】
減圧乾燥を行う場合の条件は,組成物中に含まれる液晶性ポリマー及び溶媒の種類や量などにより変動するが,例えば,0.1〜1Torrの圧力の下,1分間乾燥すればよい。
また,自然乾燥は,室温下,放置することにより実施できる。その場合の時間は,塗布した組成物の厚さ,組成物中に含まれる液晶性ポリマー及び溶媒の種類や量などにより変動するが,通常,特に送風を伴わない場合は,1分以上であることが好ましく,より好ましくは3分以上,更に好ましくは5分以上,更により好ましくは10分以上である。
【0051】
本発明は,基板に塗布された位相差フィルム用組成物から,減圧乾燥により溶媒を留去する点,又は,加熱乾燥によって溶媒を留去する場合には予め自然乾燥により溶媒を減じておく点に特徴がある。メカニズムに拘束されることは意図しないが,液晶性ポリマーと溶媒とを含んでなる本発明の位相差フィルム用組成物において,液晶性ポリマーは,溶媒中で,不規則な分子配列をとっている。かかる位相差フィルム用組成物をそのまま加熱すると,ポリマー分子同士が会合を起こしてしまう。そこで,本発明の方法においては,減圧乾燥により溶媒を留去することにより,液晶性ポリマーの不規則な分子配列をそのままの状態で固定する。これにより,その後直線偏光を照射すれば,該直線偏光の偏光軸選択的に,液晶性ポリマーの側鎖中の一部の光反応性基のみが反応(二量化,異性化など)し,液晶配向能が付与された熱配向性層が得られるものと考える。
あるいは,予め自然乾燥により溶媒を減じて,液晶性ポリマー分子の組成物中における自由度を減じておけば,その後加熱乾燥により溶媒を留去するとしても,液晶性ポリマー分子同士の会合が妨げられるため,同様に,液晶性ポリマーの不規則な分子配列を固定することができる。溶媒を減じる場合において,どの程度まで減じるかは,液晶性ポリマー及び溶媒の種類により変動するが,特定の液晶性ポリマー及び溶媒についての当該程度は,実施例に示した如きに,減じた結果残る溶媒(残溶媒)の量を変化させて製造した其々の位相差フィルムについて,その複屈折を測定することにより,複屈折の低下の顕著な抑制を指標として,容易に求めることができる。例えば,実施例1の位相差フィルム用組成物について,好ましい残溶媒の量は,組成物に対する重量%で表示する場合,約12wt%であり,より好ましくは約10wt%,更に好ましくは約5wt%,更により好ましくは約2wt%である。また,実施例8の位相差フィルム用組成物については,好ましくは約20wt%であり,より好ましくは約5wt%,更に好ましくは約2wt%である。
【0052】
自然乾燥後に行う加熱乾燥の条件については,残溶媒を留去できる条件であれば,一般には十分である。但し,できる限り複屈折の低下を防ぐためには,乾燥温度は,液晶性ポリマーが液晶状態を示す温度(液晶相温度)未満であることが好ましく,液晶性ポリマーのガラス転移温度未満であることがより好ましい。そのような温度範囲としては,溶媒や液晶性ポリマーの種類にもよるが,例えば,15℃〜30℃が挙げられる。また,この場合,乾燥は,例えば,8分〜20分間行えばよい。
こうして基板上に形成される,本発明に係る液晶性ポリマーを含む層を,光反応性層という。
【0053】
該光反応性層に直線偏光を照射し,該直線偏光の偏光軸選択的に,液晶性ポリマーの側鎖中の光反応性基を反応(二量化,異性化など)させ,該層に液晶配向能を付与する。直線偏光は,該層に対して垂直方向から又は斜めの方向からのいずれからも照射することができるが,通常,垂直な方向から照射するのが好ましい。
本発明において,直線偏光とは,電場(又は磁場)の振動方向を含む面が一つに特定される光である。直線偏光は,光源からの光に,偏光フィルタや偏光プリズムを用いることで得るこができる。照射する光は,赤外線,可視光線,紫外線(近紫外線,遠紫外線など),X線,荷電粒子線(例えば,電子電など)など,照射により光反応性基に作用して,二量化,異性化などを生じさせることができる照射線であれば,特に限定されないが,通常,照射線は,200nm〜500nmの波長を有する場合が多く,中でも,350nmから450nmの近紫外線が好ましい。光源としては例えば,キセノンランプ,高圧水銀ランプ,超高圧水銀ランプ,メタルハライドランプなどが挙げられる。このような光源から得た紫外光や可視光は干渉フィルタや色フィルタなどを用いて,照射する波長範囲を制限してもよい。照射エネルギーは,液晶性ポリマーの種類や塗布量などに応じて異なるが,通常は,約5mJ/cm2〜50mJ/cm2である。
また,偏光を照射する際に,フォトマスクを使用すれば,2以上の異なった方向にパターン状に,液晶配向能を生じさせることができる。具体的には,本発明の位相差フィルム用組成物を塗布,乾燥した後に,その上にフォトマスクを被せて直線偏光を照射し,露光部分にのみ液晶配向能を与え,必要に応じて,方向を変えてこれを複数回繰り返すことにより,複数方向にパターン状に液晶配向能を生じさせることができる。
こうして形成される層を熱配向性層という。
【0054】
該熱配向性層を,加熱処理することにより,光反応を起こさなかった液晶性ポリマーの側鎖部分を一定の方向に配向させ,位相差フィルムとすることができる。加熱処理の条件は,当該配向が進行するのに十分であれば特に制限はなく,当該液晶性ポリマーの液晶相温度以上に加熱すればよい。但し,当該加熱温度は,液晶性ポリマーの等方相転移温度未満であることが好ましい。具体的な加熱温度としては,一般的には,80〜250℃程度が好ましく,100〜200℃程度がより好ましく,120〜170℃程度がさらに好ましい。加熱時間としては,5〜60分程度が好ましく,10〜40分程度がより好ましく,10〜20分程度が更に好ましい。
【0055】
このようにして得られる本発明の位相差フィルムについて,その膜厚は用途などに応じて異なるが,一般には,0.8〜3.0μmの範囲が好ましく,0.9〜2.0μmの範囲が更に好ましい。
【0056】
以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はもとより下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
1.共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーの合成
ポリ[1−[6−[4−[4−[(E)−2−メトキシカルボニルビニル]フェノキシカルボニル]フェノキシ]ヘキシルオキシカルボニル]−1−メチルエチレン−CO−1−[6−[4−カルボキシフェノキシ]ヘキシルオキシカルボニル]−1−メチルエチレン](M1:M2=80:20)
【0058】
4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸4−[(E)−2−メトキシカルボニルビニル]フェニルエステル8g(17ミリモル),4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸21g(69ミリモル)及び2,2’−アゾ−ビス−イソブチロニトリル0.28g(1.7ミリモル)をシクロヘキサノン116gに溶解した。この溶液に窒素を1時間通気した。次いで,80℃に加熱した。10時間後反応液を冷却し,激しく攪拌しつつ,ノルマルヘキサン346gに室温で滴下した。分離した重合体を濾取し,減圧下,50℃での乾燥により,ポリマー1を24g得た。
<重量平均分子量(MW)の測定>
上記で得られたポリマー1の重量平均分子量(MW)を,ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。得られた重量平均分子量(MW)は31700であった。
<酸価の測定>
上記で得られたポリマー1の酸価を以下の通り測定した。すなわち,100mL三角フラスコにTHF約60mLを採り,フェノールフタレインを指示薬として,0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で中和した。1.5gのポリマー1を精秤し,上記溶液に均一に溶解,攪拌し,0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行い,微赤色が約30秒間消えない点を滴定終点とした。
次式に従い,酸価を算出した。
酸価=(0.1×f×A×56.1/B)/(C/100)
A:滴定量(mL)
f:水酸化ナトリウム水溶液の力価
B:ポリマー組成物量(g)(ポリマーを含む,滴定終了後の溶液の量)
C:ポリマー濃度(%)(ポリマー量/ポリマー組成物量×100)
上記で得られたポリマー1の酸価は,130mgKOH/gであった。
<相転移温度の測定>
上記で得られたポリマー1の相転移温度を,示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定したところ,ガラス転移温度70℃,液晶相温度70〜152℃であった
【0059】
2.位相差フィルム用組成物の製造
5gのポリマー1を,シクロヘキサノン15gに溶解し,位相差フィルム用組成物1とした。
【0060】
3.位相差フィルムの製造
位相差フィルム用組成物1を,ガラス基板上に,スピンコーターを用いて,約0.93μmの厚みになるように塗布し,0.3Torrの減圧下1分間乾燥した(減圧乾燥)。
得られた光反応性層に,グランテーラープリズムを用いて直線偏光に変換した紫外線(10mW/cm)を,該層に対し垂直方向から3秒間照射した(照射エネルギー:30mJ/cm)。
こうして得た熱配向性層を,140℃で20分間加熱したのち,室温まで冷却した。
基板上に形成されたフィルムを,偏光顕微鏡で観察したところ,明暗が観察され,位相差フィルムが作製できていることが確認できた。
作製した位相差フィルムの複屈折を,偏光解析装置OPTIPRO(シンテック株式会社製)を用いて測定した(以下において同様)。その結果,複屈折は,Δn=0.125,Re=116.3nmの値を示した。
【実施例2】
【0061】
上記実施例1の位相差フィルムの製造において,減圧乾燥に代えて,自然乾燥を1分間行い,次いでホットプレートを用いて90℃5分間加熱乾燥を行った以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.096,Re=89.3nmの値を示した。
【実施例3】
【0062】
上記実施例2において,自然乾燥の時間を3分間,とした以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.105,Re=97.7nmの値を示した。
【実施例4】
【0063】
上記実施例2において,自然乾燥の時間を5分間とした以外は,同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.111,Re=103.2nmの値を示した。
【実施例5】
【0064】
上記実施例2において,自然乾燥の時間を7分間とした以外は,同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.112,Re=104.2nmの値を示した。
【実施例6】
【0065】
上記実施例2において,自然乾燥の時間を10分間とした以外は,同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.111,Re=103.2nmの値を示した。
【実施例7】
【0066】
上記実施例1の位相差フィルムの製造において,減圧乾燥後に,更にホットプレートを用いた90℃5分間の加熱乾燥を行った以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。なお,当該加熱乾燥は,既に減圧乾燥により溶媒が留去されているため本来不要であるが,ここでは,他の実施例等(特に,実施例1)との比較のため行ったものである。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.125,Re=116.3nmであり,実施例1と同じ値を示した。
【実施例8】
【0067】
1.共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーの合成
ポリ[1−[6−[4−[(E)−2−(4−メトキシフェノキシ)カルボニルビニル]フェノキシ]ヘキシルオキシカルボニル]−1−メチルエチレン−CO−1−[6−[4−カルボキシフェノキシ]ヘキシルオキシカルボニル]−1−メチルエチレン](M1:M2=80:20)
【0068】
4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]桂皮酸4−メトキシフェニルエステル5g(11ミリモル),4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸14g(46ミリモル)及び2,2’−アゾ−ビス−イソブチロニトリル0.28g(1.7ミリモル)をシクロヘキサノン76gに溶解した。この溶液に窒素を1時間通気した。次いで,80℃に加熱した。10時間後反応液を冷却し,激しく攪拌しつつ,ノルマルヘキサン346gに室温で滴下した。分離した重合体を濾取し,減圧下,50℃での乾燥により,ポリマー2を15g得た。
実施例1と同様に測定して,重量平均分子量(MW)(27000),酸価(134mgKOH/g)及び相転移温度(ガラス転移温度75℃,液晶相温度75〜145℃)を得た。
【0069】
2.位相差フィルム用組成物の製造
5gのポリマー2を,シクロヘキサノン15gに溶解し,位相差フィルム用組成物2とした。
【0070】
3.位相差フィルムの製造
位相差フィルム用組成物2を,ガラス基板上に,スピンコーターを用いて,約1.1μmの厚みになるように塗布し,0.3Torrの減圧下1分間乾燥した(減圧乾燥)。
得られた光反応性層に,グランテーラープリズムを用いて直線偏光に変換した紫外線(10mW/cm)を,該層に対し垂直方向から1.5秒間照射した(照射エネルギー:15mJ/cm)。
こうして得た熱配向性層を,140℃で20分間加熱したのち,室温まで冷却した。
基板上に形成されたフィルムを,偏光顕微鏡で観察したところ,明暗が観察され,位相差フィルムが作製できていることが確認できた。
作製した位相差フィルムの複屈折を測定した。その結果,複屈折は,Δn=0.151,Re=166.1nmの値を示した。
【実施例9】
【0071】
上記実施例8の位相差フィルムの製造において,減圧乾燥に代えて,自然乾燥を1分間行い,次いでホットプレートを用いて90℃5分間加熱乾燥を行った以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.144,Re=158.4nmの値を示した。
【実施例10】
【0072】
上記実施例9において,自然乾燥の時間を5分間,とした以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.149,Re=163.9nmの値を示した。
(比較例1)
【0073】
上記実施例1の位相差フィルムの製造において,減圧乾燥に代えて,ホットプレートを用いて90℃5分間の加熱乾燥を行った以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.066,Re=61.4nmの値を示した。
(比較例2)
【0074】
上記実施例8の位相差フィルムの製造において,減圧乾燥に代えて,ホットプレートを用いて90℃5分間の加熱乾燥を行った以外は同様に処理して,位相差フィルムを作製した。
作製した位相差フィルムの複屈折は,Δn=0.080,Re=88.0nmの値を示した。
【0075】
<評価>
実施例1の結果から,減圧乾燥により溶媒を留去する本発明の製造方法によれば,ポリマー1を原料として,良好な複屈折の位相差フィルムを製造できることがわかる。一方,比較例1の結果からは,90℃5分間の加熱乾燥により溶媒を留去すると,十分な複屈折が得られないことがわかる。これらから,基板に塗布された位相差フィルム用組成物を乾燥するに際し,溶媒が存在する状態で加熱することが,複屈折に悪影響を与えるのではないかと推察される。
この点を明らかにすべく,さらに,ポリマー1を用いて,実施例2〜7を実施した。これらのうち,実施例2〜6においては,90℃5分間の加熱乾燥の前に,自然乾燥の工程を設け,自然乾燥の時間に応じて,基板に塗布された位相差フィルム用組成物中の溶媒量を段階的に減少させた。また,実施例7では,90℃5分間の加熱乾燥前に,減圧乾燥を行って溶媒を予め留去した。
比較例1及び実施例2〜7について,90℃5分間の加熱工程の前後における塗膜中の残溶媒の量を測定した。測定は,ガスクロマトグラフィー(SHIMADZU,GC-2014)を用いて行った。これらの結果を,複屈折(Δn)と併せて,表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
これらの結果から,90℃5分の加熱工程を行う場合,該加熱工程前における残溶媒量が多いほど,得られるフィルムの複屈折が低下する傾向にあることがわかる。即ち,加熱工程前に溶媒を予め留去した実施例7では,その後加熱工程を行っても,実施例1と同様良好な複屈折が得られる一方,加熱工程前に残溶媒が存在する比較例1や実施例2〜6においては,その量に応じて,残溶媒量が多いほど,複屈折が低下する傾向にある。
このことから,溶媒がある程度以上存在する状態での加熱が複屈折に悪影響を与えること,他方,本発明のとおり,減圧乾燥して溶媒を留去するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥して溶媒を留去することにより,良好な複屈折が得られ,位相差フィルムを製造できることがわかる。
【0078】
ポリマー2を原料として,上記と同様の趣旨,即ち,基板に塗布された位相差フィルム用組成物を乾燥するに際し,溶媒がある程度以上存在する状態で加熱することが,複屈折に悪影響を与えることを示すべく,実施例8〜10及び比較例2を実施した。その結果を,表2に示す。なお,実施例8において,減圧乾燥後の残溶媒量は0wt%であった。また,同実施例において,90℃5分間の加熱工程は実施していない。
【0079】
【表2】

【0080】
これらの結果から,やはり,溶媒がある程度以上存在する状態での加熱が複屈折に悪影響を与えること(自然乾燥0分の場合,Δn=0.080),他方,本発明のとおり,減圧乾燥して溶媒を留去するか,又は自然乾燥(1分又は5分)した後加熱乾燥して溶媒を留去することにより,良好な複屈折が得られ,位相差フィルムを製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の製造方法によれば,位相差フィルムを簡単かつ簡便に,引いては低コストに製造することができる。こうして得られる位相差フィルムは,各種光学部材として,特に,コンピュータやファクシミリなどのOA機器,携帯電話,電子手帳,液晶テレビ,ビデオカメラなどの液晶表示装置の光学素子として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に,光反応性基を有する液晶性ポリマーと溶媒とを含んでなる組成物を塗布する工程と,
該組成物を減圧乾燥するか,又は自然乾燥した後加熱乾燥することにより,該組成物中の溶媒を留去して,光反応性層を形成する工程と,
該光反応性層に直線偏光を照射して,熱配向性層を形成する工程と,
該熱配向性層を加熱処理する工程とを含むことを特徴とする,位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
光反応性層を形成する工程が,該組成物を減圧乾燥することにより,該組成物中の溶媒を留去するものである,請求項1の製造方法。
【請求項3】
一般式(I)
【化1】

〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,環A及び環Bはそれぞれ独立して,
【化2】

〔但し,X1〜X38の各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基である。〕
で示される基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物。
【請求項4】
一般式(I−a)
【化3】

〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,X1A〜X4Aの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,環Bは,
【化4】

〔但し,X1B〜X4B及びX31B〜X38Bの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基である。〕
で示される基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物。
【請求項5】
一般式(I−b)
【化5】

〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,X1A〜X4A及びX31B〜X38Bの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物。
【請求項6】
一般式(I−c)
【化6】

〔式中,Rは水素原子又はメチル基であり,Rはアルキル基,又はアルキル基,アルコキシ基,シアノ基及びハロゲン原子から選ばれる基で置換されたフェニル基であり,X1A〜X4A及びX1B〜X4Bの各々はそれぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,p及びqはそれぞれ独立して,1〜12のいずれかの整数であり,m及びnは,0.65≦m≦0.95,0.05≦n≦0.35,m+n=1の関係を満たす共重合体に占める各モノマーのモル分率である。〕
で示される繰り返し単位を有する共重合性(メタ)アクリル酸ポリマーを含んでなる,位相差フィルム用組成物。


【公開番号】特開2012−173609(P2012−173609A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36906(P2011−36906)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】