説明

位相差フィルム及び位相差フィルムの製造方法

【課題】入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たし、高いハンドリング性を有する位相差フィルムを提供する。
【解決手段】固有複屈折値が正の樹脂からなるA層と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂からなるB層と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる無配向のC層とを、この順に設けて、入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす位相差フィルムを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶表示装置の光学補償などに用いられる位相差フィルムは、観察角度による表示装置の色調の変化を少なくできるものが求められ、従来から、様々な技術が開発されてきた。例えば特許文献1では、固有複屈折値が負の樹脂からなる層の少なくとも片面に、透明な樹脂からなる実質的に無配向の層を設けた位相差フィルムが提案されている。また、特許文献2では、固有複屈折値が正の樹脂からなる層と、固有複屈折値が負の樹脂からなる層とを積層したフィルムを適切に延伸することにより、入射角0°におけるレタデーションReと入射角40°におけるレタデーションR40とが0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす位相差フィルムを製造する技術が提案されている。ReとR40とが上記の関係を満たすことにより、液晶表示装置の色調の角度依存性を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−274725号公報
【特許文献2】特開2009−192845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術により得られる0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす位相差フィルムは、ハンドリング性が低かった。具体的には、従来の技術では前記の位相差フィルムに固有複屈折値が負の樹脂からなる層を設けているが、この固有複屈折値が負の樹脂は通常は強度が低く、脆い。そのため、固有複屈折値が負の樹脂からなる層が位相差フィルムの表面に露出していると、位相差フィルムを取り扱う際に固有複屈折値が負の樹脂からなる層が容易に破損する。
【0005】
また、特許文献2のように、固有複屈折値が正の樹脂からなる層と固有複屈折値が負の樹脂からなる層とを備える位相差フィルムにおいては、強度が弱い層である固有複屈折値が負の樹脂からなる層を、固有複屈折値が正の樹脂からなる一対の層で挟み込むことで保護することも考えられる。しかし、そうすると固有複屈折値が正の樹脂からなる層が複数になり、レターデーション(位相差)の制御が複雑になって、位相差フィルム全体としての厚みが厚くなる。さらに、そのような位相差フィルムは耐衝撃性等が十分ではなく、ハンドリング性の点でも改善が望まれる。
【0006】
本発明は前記の課題に鑑みて創案されたもので、入射角0°におけるレタデーションReと入射角40°におけるレタデーションR40とが0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たし、高いハンドリング性を有する位相差フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、固有複屈折値が正の樹脂からなる層と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂からなる層と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる無配向の層とを、この順に設けることにより、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たし、且つハンドリング性に優れる位相差フィルムを実現できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔4〕を要旨とする。
【0008】
〔1〕 固有複屈折値が正の樹脂からなるA層と、
スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂からなるB層と、
アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる無配向のC層とを、この順に備え、
入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす、位相差フィルム。
〔2〕 前記固有複屈折値が正の樹脂がポリカーボネートを含む、〔1〕記載の位相差フィルム。
〔3〕 前記固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度及び前記スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度よりも、前記アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂のガラス転移温度が低い、〔1〕又は〔2〕記載の位相差フィルム。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
固有複屈折値が正の樹脂と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂とを共押し出しして、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、延伸前フィルムを得る工程と、
前記延伸前フィルムを、温度T1またはT2のいずれかの温度で一方向に一軸延伸処理を行う第一延伸工程と、
前記第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、前記と異なる温度T2またはT1で一軸延伸処理を行う第二延伸工程とを有する、位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の位相差フィルムは、入射角0°におけるレタデーションReと入射角40°におけるレタデーションR40とが0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たし、高いハンドリング性を有する。
本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、本発明の位相差フィルムを効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、a層を形成する樹脂のガラス転移温度Tgが高く、b層を形成する樹脂のガラス転移温度Tgが低いと仮定した場合に、延伸前フィルムのa層及びb層をそれぞれ延伸したときのレターデーションΔの温度依存性と、延伸前フィルムを延伸したときのレターデーションΔの温度依存性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
なお、以下の説明において、「A層」の符号「A」、「B層」の符号「B」、「C層」の符号「C」、「a層」の符号「a」、「b層」の符号「b」および「c層」の符号「c」は、当該符号が付された要素を他の要素と区別するための符号であり、要素の区別以外の意味を有するものではない。
【0012】
〔1.位相差フィルム〕
本発明の位相差フィルムは、固有複屈折値が正の樹脂からなるA層と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂からなるB層と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる無配向のC層とを、この順に備える。
ここで、固有複屈折値が正であるとは、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味する。また、固有複屈折値が負であるとは、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折値は、誘電率分布から計算することもできる。
【0013】
〔1−1.A層〕
A層は、固有複屈折値が正の樹脂からなる。固有複屈折値が正の樹脂は、少なくとも一種類の重合体を含む。固有複屈折値が正の樹脂に含まれる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;ノルボルネン重合体;棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、レターデーションの発現性、低温での延伸性、および他層との接着性の観点から、ポリカーボネートが好ましい。
【0014】
ポリカーボネートとしては、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)による繰り返し単位(以下、適宜「カーボネート成分」という。)を有する重合体であれば任意のものを使用できる。また、ポリカーボネートは、1種類の繰り返し単位からなるものを用いてもよく、2種類以上の繰り返し単位を任意の比率で組み合わせてなるものを用いてもよい。さらに、ポリカーボネートは、カーボネート成分以外の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。ポリカーボネートが共重合体である場合、ポリカーボネートはランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体でもよく、グラフト共重合体でもよい。ただし、ポリカーボネートがカーボネート成分以外の繰り返し単位を有する場合でも、ポリカーボネートが含むカーボネート成分の含有率が高いことが好ましく、具体的には、80重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましい。
【0015】
ポリカーボネートの例を挙げると、ビスフェノールAポリカーボネート、分岐ビスフェノールAポリカーボネート、o,o,o’,o’−テトラメチルビスフェノールAポリカーボネートなどが挙げられる。
【0016】
また、固有複屈折値が正の樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、重合体以外の成分を含んでいてもよい。例えば、固有複屈折値が正の樹脂は、配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例を挙げると、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。中でも、滑剤及び紫外線吸収剤は、可撓性や耐候性を向上させることができるので好ましい。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、位相差フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲とすればよい。
【0017】
滑剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム等の無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等の有機粒子などが挙げられる。中でも、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0018】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げられる。
【0019】
固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、固有複屈折値が正の樹脂の配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0020】
B層を形成する固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度Tgにおける、固有複屈折値が正の樹脂の破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。破断伸度がこの範囲にあれば、延伸により安定的に本発明の位相差フィルムを作製することができる。なお破断伸度は、JISK7127記載の試験片タイプ1Bの試験片を用いて、引っ張り速度100mm/分によって求める。
【0021】
本発明の位相差フィルムのA層では、固有複屈折値が正の樹脂が配向することにより、屈折率異方性が生じる。本発明の位相差フィルムでは、このようなA層の屈折率異方性により発現するA層のレターデーションと、B層で発現するレターデーションとが合成されて、本発明の位相差フィルムの全体としてのレターデーションが生じる。したがって、A層の厚みは、本発明の位相差フィルムに発現させようとする具体的なレターデーションに応じて適切な値を設定すればよい。
【0022】
通常、A層は、本発明の位相差フィルムの一方の主面に露出して設けられる。すなわち、A層は、通常、本発明の位相差フィルムの最外層のうちの一層となる。このようにA層が露出していても、通常はA層の強度が強いため、取り扱いの際に破損し難く、ハンドリング性を低下させることは無い。
また、A層は2層以上設けてもよいが、レターデーションの制御を簡単にする観点及び本発明の位相差フィルムの厚みを薄くする観点から、1層だけ設けることが好ましい。
【0023】
〔1−2.B層〕
B層は、固有複屈折値が負の樹脂からなる。固有複屈折値が負の樹脂は、スチレン系重合体と、必要に応じてその他の成分を含む。
スチレン系重合体とは、スチレン系単量体に由来する繰り返し構造を有する重合体である。前記のスチレン系単量体とは、スチレン及びスチレン誘導体のことをいう。また、スチレン誘導体としては、例えば、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシスチレン、p−フェニルスチレン等が挙げられる。なお、スチレン系単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また、スチレン系重合体は、スチレン系単量体のみからなる単独重合体又は共重合体であってもよく、スチレン系単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。スチレン系単量体と共重合できる他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。なお、他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。他の単量体の具体的な量は、例えばスチレン系重合体100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、28重量部以下がより好ましく、26重量部以下が更に好ましい。
これらの中でも、耐熱性が高いという点でスチレン系単量体と無水マレイン酸との共重合体が特に好ましい。なお、スチレン系重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、固有複屈折値が負の樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、スチレン系重合体以外の成分を含んでいてもよい。例えば、固有複屈折値が負の樹脂は、スチレン系重合体以外に他の重合体を含んでいてもよい。B層を構成する樹脂の固有複屈折値を負にする観点からは、他の重合体は負の固有複屈折値を有する重合体であることが好ましい。その具体例を挙げると、ポリアクリロニトリル重合体、セルロースエステル系重合体、あるいはこれらの多元共重合ポリマーなどが挙げられる。また、その他の重合体の構成成分は、スチレン系重合体の一部に繰り返し単位として含有されていてもよい。ただし、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、B層において他の重合体の量は少ないことが好ましい。他の重合体の具体的な量は、例えばスチレン系重合体100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、その他の重合体は含まないことが特に好ましい。
【0026】
また、固有複屈折値が負の樹脂は、例えば配合剤などを含んでいてもよい。配合剤の例としては、固有複屈折値が正の樹脂が含んでいてもよい配合剤と同様の例が挙げられる。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、位相差フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲とすればよい。
【0027】
固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、固有複屈折値が負の樹脂の配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0028】
固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度Tgにおける固有複屈折値が負の樹脂の破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。なお、固有複屈折値が負の樹脂の破断伸度の上限に特に制限は無いが、通常は200%以下である。破断伸度がこの範囲にあれば、延伸により安定的に本発明の位相差フィルムを作製することができる。
【0029】
固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度Tgと、固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度Tgとの差の絶対値は、好ましくは5℃より大きく、より好ましくは8℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは20℃以下である。前記のガラス転移温度の差の絶対値が小さすぎるとレターデーション発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。一方、前記のガラス転移温度の差の絶対値が大きすぎるとガラス転移温度の高い樹脂の延伸がし難くなり、位相差フィルムの平面性が低下しやすくなる可能性がある。なお、前記のガラス転移温度Tgは、ガラス転移温度Tgよりも高いことが好ましい。よって、固有複屈折値が正の樹脂と固有複屈折値が負の樹脂とは、通常はTg>Tg+5℃の関係を満足することが好ましい。
【0030】
本発明の位相差フィルムのB層では、固有複屈折値が負の樹脂が配向することにより、屈折率異方性が生じる。本発明の位相差フィルムでは、このようなB層の屈折率異方性により発現するB層のレターデーションと、A層で発現するレターデーションとが合成されて、本発明の位相差フィルムの全体としてのレターデーションが生じる。したがって、B層の厚みは、本発明の位相差フィルムに発現させようとする具体的なレターデーションに応じて適切な値を設定すればよい。
【0031】
通常、A層とB層とは、他の層を介さずに直接に接するが、本発明の効果を著しく損なわない限り、例えば接着層等の層を介して間接的に接するようになっていてもよい。
また、B層は2層以上設けてもよいが、レターデーションの制御を簡単にする観点及び本発明の位相差フィルムの厚みを薄くする観点から、1層だけ設けることが好ましい。
【0032】
〔1−3.C層〕
C層は、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる無配向の層である。
アクリル重合体とは、アクリル酸又はアクリル酸誘導体の重合体を意味し、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルなどの重合体及び共重合体が挙げられる。C層がアクリル重合体を含むことにより、スチレン系重合体を含むB層との接着性を高めることができる。また、アクリル重合体は強度が高く硬いため、B層を適切に保護し、本発明の位相差フィルムの強度を高めることができる。
【0033】
アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位を含む重合体が好ましい。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸のことを意味する。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜15のアルカノール又はシクロアルカノールから誘導される構造のものが好ましく、炭素数1〜8のアルカノールから誘導される構造のものがより好ましい。炭素数を前記のように小さくすることにより、位相差フィルムの破断時の伸びを小さくすることができる。
【0035】
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸n−ドデシルなどが挙げられる。
【0036】
また、メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ドデシルなどが挙げられる。
【0037】
さらに、前記の(メタ)アクリル酸エステルは、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、例えば水酸基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。そのような置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、アクリル重合体は、アクリル酸又はアクリル酸誘導体のみの重合体であってもよいが、アクリル酸又はアクリル酸誘導体とこれに共重合可能な単量体との共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、およびオレフィン単量体などが挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどが挙げられる。
【0040】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、モノカルボン酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸の部分エステル及び多価カルボン酸無水物のいずれでもよい。その具体例としては、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0041】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0042】
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0043】
非共役ジエン単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。
【0044】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0045】
オレフィン単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどが挙げられる。
【0046】
アクリル重合体が共重合可能な単量体を含む場合、当該アクリル重合体のおけるアクリル酸又はアクリル酸誘導体に共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位の含有量は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0047】
これらのアクリル重合体のうち、ポリメタクリレートが好ましく、中でもポリメチルメタクリレートがより好ましい。
【0048】
C層を形成する樹脂は、ゴム粒子を含む。ゴム粒子を含むことにより、C層を形成する樹脂の可撓性を高め、本発明の位相差フィルムの耐衝撃性を向上させることができる。また、ゴム粒子によってC層の表面に凹凸が形成され、当該C層の表面における接触面積が減少するので、通常は、C層の表面の滑り性を高めることができる。
【0049】
ゴム粒子を形成するゴムとしては、例えば、アクリル酸エステル重合体ゴム、ブタジエンを主成分とする重合体ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム等が挙げられる。アクリル酸エステル重合体ゴムとしては、例えば、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を単量体単位の主成分とするものが挙げられる。これらの中でも、ブチルアクリレートを主成分としたアクリル酸エステル重合体ゴム及びブタジエンを主成分とする重合体ゴムが好ましい。
【0050】
また、ゴム粒子には、2種類以上のゴムが含まれていてもよい。また、それらのゴムは、均一に混ぜ合わせられていてもよいが、層状になったものであってもよい。ゴムが層状になったゴム粒子の例としては、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレートとスチレンとをグラフト化したゴム弾性成分からなるコアと、ポリメチルメタクリレート及びメチルメタクリレートの一方又は両方とアルキルアクリレートとの共重合体からなる硬質樹脂層(シェル)とが、コア−シェル構造で層を形成している粒子が挙げられる。
【0051】
ゴム粒子は、数平均粒子径が、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、また、0.3μm以下であることが好ましく、0.25μm以下であることがより好ましい。数平均粒子径を前記範囲の下限以上とすることにより、C層の表面に凹凸を形成して表面の滑り性を向上させることができる。また、数平均粒子径を前記範囲の上限以下とすることにより、本発明の位相差フィルムのヘイズを低く抑えて光線透過率を高くできる。
【0052】
ゴム粒子は、波長380nm〜780nmにおける屈折率n(λ)が、マトリックスとなるアクリル重合体の波長380nm〜780nmにおける屈折率n(λ)との間に、|n(λ)−n(λ)|≦0.05の関係を満たすことが好ましい。特に、|n(λ)−n(λ)|≦0.045であることがより好ましい。なお、n(λ)及びn(λ)は、波長λにおける主屈折率の平均値である。|n(λ)−n(λ)|の値を前記のような範囲に収めることにより、アクリル重合体とゴム粒子との界面での反射を抑えて本発明の位相差フィルムの透明性を高くすることができる。
【0053】
ゴム粒子の量は、アクリル重合体100重量部に対して、好ましくは5重量部以上であり、好ましくは50重量部以下である。ゴム粒子の量を前記範囲の下限値以上とすることにより本発明の位相差フィルムの耐衝撃性を高めてハンドリング性を向上させることができる。また、ゴム粒子の量を前記範囲の上限値以下とすることにより、本発明の位相差フィルムの透明性を高くできる。
【0054】
また、C層を形成する樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、アクリル重合体及びゴム粒子以外の成分を含んでいてもよい。例えば、C層を形成する樹脂は、アクリル重合体以外に他の重合体を含んでいてもよい。ただし、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、C層においてアクリル重合体以外の重合体の量は少ないことが好ましい。アクリル重合体以外の重合体の具体的な量は、例えばアクリル重合体100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、その他の重合体は含まないことが特に好ましい。
【0055】
また、C層を形成する樹脂は、例えば配合剤などを含んでいてもよい。配合剤の例としては、固有複屈折値が正の樹脂が含んでいてもよい配合剤と同様の例が挙げられる。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、位相差フィルムの1mm厚換算での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲とすればよい。
【0056】
C層は、無配向の層である。ここで無配向の層とは、本発明の位相差フィルムの光学性能に実用上の影響を与えない程度に屈折率異方性が小さいことを意味する。具体的には、C層が無配向であるとは、C層における面内の遅相軸方向の屈折率nxと、C層における面内の遅相軸方向に面内で直交する方向の屈折率nyとの差が小さいことをいう。通常は、本発明の位相差フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を「nx」、本発明の位相差フィルムの面内の遅相軸方向に面内で直交する方向の屈折率「ny」、本発明の位相差フィルムの厚みを「d」、C層の厚みを「d」としたときに、|(nx−ny)×d|の値が|(nx−ny)×d|の値の0.1倍以下であれば、無配向である。
【0057】
C層が無配向であるため、C層には、レターデーションは発現しないか、発現するとしても小さい値しか発現しない。例えばC層のレターデーションRe(C)の具体的範囲を示すと、その絶対値|Re(C)|の値で、通常20nm以下、好ましくは5nm以下であり、理想的には0nmである。なお、C層が複数層ある場合には、|Re(C)|は、各C層のレターデーションの絶対値の総和とする。
【0058】
ここで、レターデーションとは、面内の遅相軸方向の屈折率と、面内の遅相軸方向に直交する方向の屈折率との差に、厚みを乗じて求められる値である。したがって、前記の(nx−ny)×dは本発明の位相差フィルムのレターデーションを表し、(nx−ny)×dはC層のレターデーションを表す。また、厚み方向のレターデーションとは、面内の遅相軸方法の屈折率と、面内の遅相軸方向に直交する方向の屈折率との和を2で割った商から、厚み方向の屈折率を引いた差に、厚みを乗じて求められる値である。したがって、本発明の位相差フィルムの厚み方向のレターデーションは、{(nx+ny)/2−nz}×dで表される。
本発明の位相差フィルム並びにC層のレターデーション及び厚み方向のレターデーションは、市販の自動複屈折計を用いて測定することができ、例えば王子計測機器社製「KOBRA−21ADH」又はメトリコン社製「プリズムカプラ」により測定できる。なお、特に断らない限り、レターデーション及び厚み方向のレターデーションの測定波長は590nmとする。
【0059】
C層を形成するアクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂のガラス転移温度Tgは、A層を形成する固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度Tg、及び、B層を形成するスチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度Tgよりも、低くすることが好ましい。さらに、前記のガラス転移温度Tg及びTgは、Tg>Tg+20℃であることがより好ましく、Tg>Tg+35℃であることが特に好ましい。また、前記のガラス転移温度Tg及びTgは、Tg>Tg+15℃であることがより好ましく、Tg>Tg+18℃であることが特に好ましい。固有複屈折値が正の樹脂からなる層と、固有複屈折値が負の樹脂からなる層と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる層とを共延伸する場合、Tg又はTg付近の温度で延伸すると、固有複屈折値が正の樹脂からなるA層及び固有複屈折値が負の樹脂からなるB層の複屈折特性を十分かつ均一に発現させることができる。このとき、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる層は、そのガラス転移温度Tgよりも例えば20℃以上も高い温度で延伸されることになるので、アクリル重合体はほとんど配向せず、無配向の状態となる。したがって、ガラス転移温度Tgを、ガラス転移温度Tg及びガラス転移温度Tgよりも低くすることにより、C層を容易に無配向にでき、また、A層及びB層において樹脂を配向させて適切なレターデーションを発現させることができる。またTgの下限は、好ましくは20℃、より好ましくは25℃、さらに好ましくは30℃である。
【0060】
固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度Tg及び固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度Tgのいずれか低い温度において、C層を形成する樹脂の破断伸度は、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、特に好ましくは50%以上であり、好ましくは180%以下、より好ましくは170%以下である。破断伸度がこの範囲にあれば、延伸における冷却時の破断を抑制でき、より安定的に本発明の位相差フィルムを作製することができる。
【0061】
本発明の位相差フィルムのC層は無配向であるため、C層の厚みは通常は本発明の位相差フィルムのレターデーションに大きな影響を与えない。したがって、C層の厚みは、A層及びB層の厚みとは異なり、レターデーションの発現性に制限されること無く設定できる。したがって、C層の厚みは、本発明の位相差フィルムのハンドリング性を損なわない範囲であれば、任意の値を設定すればよい。具体的な範囲を挙げると、C層の厚みは、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、通常15μm以下、好ましくは13μm以下、より好ましくは9μm以下である。
【0062】
C層は、本発明の位相差フィルムにおいてA層、B層及びC層がこの順になるように設けられる。通常、B層とC層とは、他の層を介さずに直接に接するが、本発明の効果を著しく損なわない限り、例えば接着層等の層を介して間接的に接するようになっていてもよい。
また、C層は2層以上設けてもよいが、本発明の位相差フィルムの厚みを薄くする観点から、1層だけ設けることが好ましい。
【0063】
また、C層の表面は、必要に応じて、さらに粗面化してもよい。C層の表面に粗面化処理を施すことにより、他のフィルムと接着する際の接着性を向上させることができる。粗面化の手段としては、例えば、コロナ放電処理、エンボス加工、サンドブラスト、エッチング、微粒子の付着などを挙げることができる。
【0064】
〔1−4.その他の層〕
本発明の位相差フィルムは、本発明の効果を著しく損なわない限り、A層、B層及びC層以外にも、層を設けてもよい。
例えば、A層とB層との間、及び、B層とC層との間に、接着層を設けてもよい。接着層は、接着させるA層とB層、または、B層とC層の双方に対して親和性がある接着剤により形成できる。接着剤の例を挙げると、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−スチレン共重合体などのエチレン系共重合体;他のオレフィン系重合体が挙げられる。また、これらの重合体を酸化、ケン化、塩素化、クロルスルホン化などにより変性した変性物を用いてもよい。なお、接着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
接着層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
接着剤のガラス転移温度Tgは、前記Tg及びTgよりも低いことが好ましく、Tg及びTgよりも15℃以上低いことがさらに好ましい。接着剤層において延伸によるレターデーションを発現させないようにして、本発明の位相差フィルムのレターデーションの制御を簡単にするためである。
【0066】
また、本発明の位相差フィルムは、その表面に、例えば、フィルムの滑り性を良くするマット層、ハードコート層、反射防止層、防汚層等を備えていてもよい。
【0067】
〔1−5.位相差フィルムの物性等〕
本発明の位相差フィルムは、入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす。なおR40/Reは0.95以上であることが好ましく、また1.05以下であることが好ましい。ReとR40とがこのような関係を有することにより、本発明の位相差フィルムを液晶表示装置などの表示装置に適用した際、装置の表示の色調の角度依存性を特に良好に低減することができる。ここで、入射角0°とは位相差フィルムの法線方向であり、入射角40°とは位相差フィルムの法線方向から40°傾いた角度である。R40の測定にあたり、観察角度を傾ける方向は特に限定されず、どれか一の方向に傾けた場合のR40の値が当該要件を満たせばよい。
また、レターデーションReとR40との対比をする波長は、可視光線領域内のいずれかの波長とすることができ、好ましくは590nmとすることができる。
前記の入射角0°及び40°におけるレターデーションRe及びR40は、王子計測器社製KOBRA−WRを用いて、平行ニコル回転法により測定することができる。ReとR40とが前記の関係を満たすことにより、位相差フィルムの面内の主軸方向の屈折率nx及びny並びに厚さ方向の屈折率nzをnx>nz>nyとすることができる。ここで、屈折率nx、nzおよびnyは、本発明の位相差フィルムに含まれる各層の各方向の屈折率の加重平均naveであり、i層の樹脂の屈折率をni、i層の厚みをLiとして、次式により決定される。
ave=Σ(ni×Li)/ΣLi
【0068】
本発明の位相差フィルムでは、A層及びC層によってB層を挟み込み、B層を保護している。このため、B層の強度が低くても、本発明の位相差フィルム全体としては高い強度を有することになる。このため、取り扱い時にB層が破損し難くなるので、本発明の位相差フィルムのハンドリング性を向上させることができる。
また、C層を形成する樹脂がゴム粒子を含むため、C層の表面には微小な凹凸が形成される。このため、C層の表面粗さが大きくなるのでC層の表面の滑り性が向上し、これによっても本発明の位相差フィルムのハンドリング性を向上させることができる。
さらに、C層を形成する樹脂がゴム粒子を含むので、C層の可撓性は高い。このため、例えば一対のA層によってB層を挟みこむ3層構成の位相差フィルムと比べて、本発明の位相差フィルム全体の可撓性が向上するので、この可撓性の向上の作用によっても、本発明の位相差フィルムのハンドリングを向上させることができる。
また、C層を形成する樹脂がゴム粒子を含むので、仮に本発明の位相差フィルムに衝撃が与えられた場合でも、前記ゴム粒子が衝撃エネルギーを吸収する。したがって、本発明の位相差フィルムは、通常、従来よりも耐衝撃性を改善することができ、この耐衝撃性の向上の作用によっても、ハンドリング性を向上させることができる。
【0069】
さらに、本発明の位相差フィルムでは、C層が無配向であるので、C層にはレターデーションは発現しないか、発現するとしても小さい値しか発現しない。したがって、本発明の位相差フィルムのレターデーションは、A層とB層との組み合わせにより発現することになる。前記ReとR40との関係を満たすようにするには、A層及びB層の厚さを適切に調整すればよい。例えば、後述する製造方法で本発明の位相差フィルムを製造する場合、A層の厚さ/B層の厚さの比を、延伸による、それぞれの層の位相差発現性により決定することができる。この際、位相差が発現しにくい層を厚くすることで、本発明の位相差フィルムが前記ReとR40との関係を満たすようにすることができる。本発明の位相差フィルムは、入射角0°におけるレターデーションReが、波長590nmにおいて、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、また、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましい。ここで、本発明の位相差フィルムは、A層及びB層をそれぞれ少なくとも1層備えていればよいのであるから、レターデーションの制御を簡単にして、位相差フィルム全体としての厚みを薄くすることができる。本発明の位相差フィルムの具体的な厚みは、発現させるレターデーションの大きさに応じて設定すればよいが、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、また、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0070】
本発明の位相差フィルムは、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0071】
本発明の位相差フィルムのヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、本発明の位相差フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0072】
本発明の位相差フィルムは、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性が良好となる。ΔYIは、ASTM E313に準拠して、日本電色工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて測定する。同様の測定を五回行い、その算術平均値にして求める。
【0073】
本発明の位相差フィルムは、A層及びB層の厚みのばらつきが、全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、本発明の位相差フィルムを備える表示装置の色調のばらつきを小さくできる。また、長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。これを実現するには、後述する延伸前フィルムにおいて、固有複屈折値が正の樹脂からなる層及び固有複屈折値が負の樹脂からなる層の厚みのばらつきを全面で1μm以下にすればよい。
【0074】
本発明の位相差フィルムは、60℃、90%RH、100時間の熱処理によって、MD方向(machine direction;製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、長尺のフィルムの長尺方向。縦方向ともいう。)およびTD方向(traverse direction;フィルム面に平行な方向でありMD方向に直交する方向。横方向又は幅方向ともいう。)において収縮するものであってもよいが、その収縮率は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。収縮率がこのように小さいことにより、高温高湿環境下でも本発明の位相差フィルムが収縮応力によって変形して、表示装置から剥離することを防止できる。
【0075】
本発明の位相差フィルムは、そのTD方向の寸法を、例えば1000mm〜2000mmとしてもよい。また、本発明の位相差フィルムは、そのMD方向の寸法に制限は無いが、長尺のフィルムであることが好ましい。ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0076】
〔2.位相差フィルムの製造方法〕
本発明の位相差フィルムの製造方法に制限は無いが、通常は、延伸前フィルムを用意し(延伸前フィルム準備工程)、用意した延伸前フィルムを所定の温度で一方向に一軸延伸処理をし(第一延伸工程)、その後で、前記の一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、所定の温度で一軸延伸処理を行って(第二延伸工程)、本発明の位相差フィルムを製造する。以下、この製造方法に詳しく説明する。
【0077】
〔2−1.延伸前フィルム準備工程〕
当該延伸前フィルムに延伸処理を施すことにより本発明の位相差フィルムを製造するのであるから、延伸前フィルムは、固有複屈折値が正の樹脂からなる層(以下、適宜「a層」という。)と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂からなる層(以下、適宜「b層」という。)と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる層(以下、適宜「c層」という。)とを、この順に備える。当該延伸前フィルムに延伸処理を施して本発明の位相差フィルムとするときには、前記の層のうち、a層は本発明の位相差フィルムではA層となり、b層は本発明の位相差フィルムではB層となり、c層は本発明の位相差フィルムではC層となる。
【0078】
ただし、延伸処理によって所望の位相差を有する位相差フィルムを製造する観点から、本発明に係る延伸前フィルムは、一軸延伸方向をX軸、前記一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光(以下、適宜「XZ偏光」という。)の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光(以下、適宜「YZ偏光」という。)に対する位相が、
温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、
温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む
ようにする。
【0079】
すなわち、延伸前フィルムは、固有複屈折値が正の樹脂からなるa層と、固有複屈折値が負の樹脂からなるb層とを備え、温度T1及びT2という異なる温度で互いに略直交する異なる角度に延伸することにより、a層及びb層それぞれにおいて各温度T1及びT2並びに延伸方向に応じて屈折率異方性が生じるようになっている。したがって、a層を延伸することにより生じる屈折率異方性と、b層を延伸することにより生じる屈折率異方性とが合成され、本発明の位相差フィルムでは、位相差フィルム全体として、入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たすことができるようになっている。この際、c層では延伸しても重合体等の分子が配向しないようにすることで、本発明の位相差フィルムにおいてC層は無配向となっている。このため、C層における屈折率異方性は本発明の位相差フィルム全体の屈折率異方性には影響せず、したがって位相差フィルムのレターデーションにも影響しない。
【0080】
前記の要件(即ち、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が、温度T1及びT2の一方でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1及びT2の他方でX軸方向に一軸延伸したときには進む、という要件)は、延伸前フィルムの面内の様々な方向のうち、少なくとも一の方向をX軸とした場合に満たせばよい。通常、延伸前フィルムは等方な原反フィルムであるので、面内の一の方向をX軸としたときに前記の要件を満たせば、他のどの方向をX軸としたときも前記の要件を満たすことができる。
【0081】
一軸延伸によってX軸に遅相軸が現れるフィルムでは、通常、XZ偏光はYZ偏光に対して位相が遅れる。逆に一軸延伸によってX軸に進相軸が現れるフィルムでは、通常、XZ偏光はYZ偏光に対して位相が進む。本発明に係る延伸前フィルムは、これらの性質を利用した積層体であり、遅相軸または進相軸の現れ方が延伸温度に依存するフィルムである。このような屈折率異方性及びレターデーションの発現の温度依存性は、例えば、a層及びb層における樹脂の光弾性係数並びに各層の厚み比などの関係を調整することで調整できる。
【0082】
レターデーションは、延伸方向であるX軸方向の屈折率nxと延伸方向に直交する方向であるY軸方向の屈折率nyとの差(=nx−ny)に厚みdを乗じて求められる値である。また、A層とB層とを積層したときの積層体のレターデーションは、A層のレターデーションとB層のレターデーションとから合成される。そこで、例えば、高い温度Tおよび低い温度Tにおける延伸によってフィルム全体に発現するレターデーションの符号が逆になるようにするために、(i)低い温度Tにおける延伸で、ガラス転移温度の高い樹脂が発現するレターデーションの絶対値がガラス転移温度の低い樹脂が発現するレターデーションの絶対値よりも小さくなり、(ii)高い温度Tにおける延伸で、ガラス転移温度の低い樹脂が発現するレターデーションの絶対値がガラス転移温度の高い樹脂が発現するレターデーションの絶対値よりも小さくなるように、a層及びb層の厚みを調整することが好ましい。
このように、A層およびB層を構成する樹脂として、一方向への延伸(即ち、一軸延伸)によってa層およびb層のそれぞれにX軸方向の屈折率とY軸方向の屈折率との差を生じ得る樹脂の組み合わせを選択し、さらに延伸条件を考慮してA層の厚みと、B層の厚みとを調整することで、前記の要件(即ち、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が、温度T1及びT2の一方でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1及びT2の他方でX軸方向に一軸延伸したときには進む、という要件)を満たす延伸前フィルムを得ることができる。
なお、温度T1は、TまたはTのいずれか一方の温度であり、温度T2は、T1とは異なるTまたはTのいずれか一方の温度である。
【0083】
前記の要件を満たす延伸前フィルムを延伸した場合のレターデーションの発現について、図を参照して具体的に説明する。図1は、a層を形成する樹脂のガラス転移温度Tgが高く、b層を形成する樹脂のガラス転移温度Tgが低いと仮定した場合に、延伸前フィルムのa層及びb層をそれぞれ延伸したときのレターデーションΔの温度依存性と、延伸前フィルム(ここでは、a層+b層)を延伸したときのレターデーションΔの温度依存性の一例を示すものである。図1に示すような延伸前フィルムでは、温度Tにおける延伸ではa層において発現するプラスのレターデーションに比べb層において発現するマイナスのレターデーションの方が大きいので、a層+b層ではマイナスのレターデーションΔを発現することになる。一方、温度Tにおける延伸ではa層において発現するプラスのレターデーションに比べb層において発現するマイナスのレターデーションの方が小さいので、a層+b層ではプラスのレターデーションΔを発現することになる。したがって、このような異なる温度T及びTの延伸を組み合わせることにより、各温度での延伸で生じるレターデーションを合成して、所望のレターデーションを有する位相差フィルムを製造できる。
【0084】
延伸前フィルムの構成の例を挙げると、例えば固有複屈折値が正の樹脂がポリカーボネートを含む樹脂であり、樹脂Bがスチレン−無水マレイン酸共重合体を含む樹脂である場合には、a層の厚みと、b層の厚みとの比(a層の厚み/b層の厚み)は、通常1/15以上、好ましくは1/12以上であり、また、通常1/5以下、好ましくは1/7以下である。a層が厚くなり過ぎても、b層が厚くなり過ぎても、レターデーション発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。
【0085】
延伸前フィルムの総厚は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下、特に好ましくは200μm以下である。延伸前フィルムが前記範囲の下限よりも薄いと十分なレターデーションを得難くなり機械的強度も弱くなる傾向があり、前記範囲の上限よりも厚いと柔軟性が悪化し、ハンドリングに支障をきたす可能性がある。
【0086】
また、延伸前フィルムにおいて、a層およびb層の厚みのばらつきは全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、本発明の位相差フィルムの色調のばらつきを小さくできる。また、本発明の位相差フィルムの長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。
【0087】
a層およびb層の厚みのばらつきを全面で1μm以下とするためには、例えば、(1)押出機内に目開きが20μm以下のポリマーフィルターを設ける;(2)ギヤポンプを5rpm以上で回転させる;(3)ダイス周りに囲い手段を配置する;(4)エアギャップを200mm以下とする;(5)フィルムを冷却ロール上にキャストする際にエッジピニングを行う;および(6)押出機として二軸押出機又はスクリュー形式がダブルフライト型の単軸押出機を用いる;を行うようにすればよい。
【0088】
a層およびb層の厚みは、市販の接触式厚み計を用いて、フィルムの総厚を測定し、次いで厚み測定部分を切断し断面を光学顕微鏡で観察して、各層の厚み比を求めて、その比率より計算できる。また以上の操作をフィルムのMD方向及びTD方向において一定間隔毎に行い、厚みの平均値Taveおよびばらつきを求めることができる。
なお、厚みのばらつきは、上記で測定した測定値の算術平均値Taveを基準とし、測定した厚みTの内の最大値をTmax、最小値をTminとして、以下の式から算出する。なお、厚みのばらつき(μm)は、Tave−Tmin、及びTmax−Taveのうちの大きい方をいう。
【0089】
延伸前フィルムの全光線透過率、ヘイズ、ΔYI及びJIS鉛筆硬度は、本発明の位相差フィルムと同様の規定に収まる範囲であることが好ましい。ただし、延伸前フィルムは、延伸される工程を経て本発明の位相差フィルムとなるものであるので、通常は本発明の位相差フィルムと同様のレターデーションを有するものではない。
【0090】
また、延伸前フィルムの外表面は、MD方向に伸びる不規則に生じる線状凹部や線状凸部(いわゆるダイライン)を実質的に有さず、平坦であることが好ましい。ここで、「不規則に生じる線状凹部や線状凸部を実質的に有さず、平坦」とは、仮に線状凹部や線状凸部が形成されたとしても、深さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凹部、および高さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凸部であることである。より好ましくは、深さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凹部であり、高さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凸部である。このような構成とすることにより、線状凹部や線状凸部での光の屈折等に基づく、光の干渉や光漏れの発生を防止でき、光学性能を向上できる。なお、不規則に生じるとは、意図しない位置に意図しない寸法、形状等で形成されるということである。
【0091】
上述した線状凹部の深さや、線状凸部の高さ、及びこれらの幅は、次に述べる方法で求めることができる。延伸前フィルムに光を照射して、透過光をスクリーンに映し、スクリーン上に現れる光の明又は暗の縞の有る部分(この部分は線状凹部の深さ及び線状凸部の高さが大きい部分である。)を30mm角で切り出す。切り出したフィルム片の表面を三次元表面構造解析顕微鏡(視野領域5mm×7mm)を用いて観察し、これを3次元画像に変換し、この3次元画像から断面プロファイルを求める。断面プロファイルは視野領域で、1mm間隔で求める。
この断面プロファイルに、平均線を引き、この平均線から線状凹部の底までの長さが線状凹部深さ、また平均線から線状凸部の頂までの長さが線状凸部高さとなる。平均線とプロファイルとの交点間の距離が幅となる。これら線状凹部深さ及び線状凸部高さの測定値からそれぞれ最大値を求め、その最大値を示した線状凹部又は線状凸部の幅をそれぞれ求める。以上から求められた線状凹部深さ及び線状凸部高さの最大値、その最大値を示した線状凹部の幅及び線状凸部の幅を、そのフィルムの線状凹部の深さ、線状凸部の高さ及びそれらの幅とする。
【0092】
本発明の延伸前フィルムは、その製法によって特に制限されない。製法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出成形法;ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形法;共流延法;及び樹脂フィルム表面に樹脂溶液をコーティングする等のコーティング成形法;などの方法が挙げられる。中でも、共押出成形法は、製造効率や、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、好ましい。
共押出成形法を採用する場合、延伸前フィルムは、例えば、固有複屈折値が正の樹脂と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂とを共押し出しすることにより得られる。共押出成形法には、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられるが、なかでも共押出Tダイ法が好ましい。また、共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0093】
共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度は、各樹脂に用いた熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも、80℃高い温度以上にすることが好ましく、100℃高い温度以上にすることがより好ましく、また、180℃高い温度以下にすることが好ましく、150℃高い温度以下にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと、樹脂の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと、樹脂が劣化する可能性がある。
【0094】
押出成形法ではダイスの開口部から押出されたシート状の溶融樹脂を冷却ドラムに密着させる。溶融樹脂を冷却ドラムに密着させる方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
冷却ドラムの数は特に制限されないが、通常は2本以上である。また、冷却ドラムの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイスの開口部から押出された溶融樹脂の冷却ドラムへの通し方も特に制限されない。
【0095】
冷却ドラムの温度により、押出されたシート状の樹脂の冷却ドラムへの密着具合が変化する。冷却ドラムの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状の樹脂が冷却ドラムから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生するおそれがある。そのため、冷却ドラムの温度は、好ましくはダイスから押し出されてドラムに接触する層の樹脂のガラス転移温度をTgとすると、(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0096】
延伸前フィルム中の残留溶剤の含有量は少なくすることが好ましい。そのための手段としては、(1)原料となる樹脂の残留溶剤を少なくする;(2)延伸前フィルムを成形する前に樹脂を予備乾燥する;などの手段が挙げられる。予備乾燥は、例えば樹脂をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。乾燥温度は100℃以上が好ましく、乾燥時間は2時間以上が好ましい。予備乾燥を行うことにより、フィルム中の残留溶剤を低減させる事ができ、さらに押し出されたシート状の樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0097】
また、延伸前フィルムとしては、通常、等方性の原反フィルムを用いるが、一旦延伸処理を施したフィルムを延伸前フィルムとし、これにさらに延伸処理を施してもよい。
【0098】
〔2−2.第一延伸工程〕
本発明の製造方法では、まず、延伸前フィルムを温度T1またはT2のいずれかの温度で一方向に一軸延伸処理を行う第一延伸工程を行う。温度T1で延伸すると、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が遅れる。一方、温度T2で一軸延伸したときには、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が進む。
【0099】
ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき、温度T1は、好ましくはTg+3℃以上かつTg+10℃以下であり、より好ましくはTg+5℃以上かつTg+8℃以下である。また温度T2は、好ましくはTg+3℃以下であり、より好ましくはTg以下である。この場合、第一延伸工程においては温度T1で行うことが好ましい。
一方、Tg>Tgであるとき、温度T2は、好ましくはTg+3℃以上かつTg+10℃以下であり、より好ましくはTg+5℃以上かつTg+8℃以下である。また温度T1は、好ましくはTg+3℃以下であり、より好ましくはTg以下である。この場合、第一延伸工程においては温度T2で行うことが好ましい。
延伸温度T1及びT2を前記の範囲に収めることにより、A層及びB層の屈折率を容易に所望の範囲に調整することができる。
【0100】
一軸延伸処理は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、ロール間の周速の差を利用してMD方向に一軸延伸する方法や、テンターを用いてTD方向に一軸延伸する方法等が挙げられる。MD方向に一軸延伸する方法としては、例えば、ロール間でのIR加熱方式や、フロート方式等が挙げられる。中でも光学的な均一性が高い位相差フィルムが得られる点からフロート方式が好適である。一方、TD方向に一軸延伸する方法としては、テンター法が挙げられる。
一軸延伸処理では、延伸ムラや厚さムラを小さくするために、延伸ゾーンにおいてTD方向に温度差がつくようにすることができる。延伸ゾーンにおいてTD方向に温度差をつけるには、例えば、温風ノズルの開度をTD方向で調整したり、IRヒーターをTD方向に並べて加熱制御したりするなど、公知の手法を用いることができる。
【0101】
〔2−3.第二延伸工程〕
第一延伸工程を行った後で、第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、第一延伸工程とは異なる温度T2またはT1で一軸延伸処理を行う第二延伸工程を行う。第二延伸工程においては、ガラス転移温度の関係がTg>Tgであるとき温度T2で一軸延伸処理を行うことが好ましく、Tg>Tgであるとき温度T1で一軸延伸処理を行うことが好ましい。
第二延伸工程での一軸延伸処理は、第一延伸工程での一軸延伸処理で採用できる方法と同様の方法が適用できる。ただし第二延伸工程での一軸延伸処理は、第一延伸工程での一軸延伸処理よりも小さい延伸倍率で行うことが好ましい。具体的には、第一延伸倍率は2倍〜4倍、第二延伸倍率は1.1倍〜2倍であることが好ましい。
【0102】
また、温度T1と温度T2との差は、通常5℃以上、好ましくは10℃以上である。温度T1と温度T2との差を前記のように大きくすることで、本発明の位相差フィルムに所望のレターデーションを安定して発現させることができる。なお、温度T1と温度T2との差の上限に制限は無いが、工業生産性の観点からは100℃以下である。
【0103】
第一延伸工程及び第二延伸工程における延伸方向の組み合わせは、例えば、第一延伸工程でMD方向に延伸し第二延伸工程でTD方向に延伸したり、第一延伸工程でTD方向に延伸し第二延伸工程でMD方向に延伸したり、第一延伸工程で斜め方向に延伸し第二延伸工程でそれに略直交する斜め方向に延伸したりすればよい。中でも、第一延伸工程でTD方向に延伸し、第二延伸工程でMD方向に延伸することが好ましい。延伸倍率が小さい第二延伸工程での延伸をMD方向に行うようにすることで、得られる位相差フィルムの全幅にわたって光軸の方向のバラツキを小さくできるからである。
【0104】
上述したように延伸前フィルムに対して第一延伸工程と第二延伸工程とを行うことにより、第一延伸工程及び第二延伸工程のそれぞれにおいてa層及びb層に延伸温度、延伸方向及び延伸倍率等に応じたレターデーションが生じる。このため、第一延伸工程と第二延伸工程とを経て得られる本発明の位相差フィルムでは、第一延伸工程及び第二延伸工程のそれぞれにおいてA層及びB層に発現したレターデーションが合成されることにより、所望のレターデーションが生じることになる。この際、第一延伸工程及び第二延伸工程において、通常はC層を形成する樹脂のガラス転移温度よりも大幅に高い温度において延伸がなされるので、C層にはレターデーションは発現しない。したがって、本発明の位相差フィルムでは、レターデーションの制御に影響する要素を減らすことができるので、レターデーションの制御を容易に行うことができる。
【0105】
また、a層、b層及びc層を備える延伸前フィルムを共延伸することにより、別々に延伸したA層、B層及びC層を貼り合せて本発明の位相差フィルムを製造する場合に比べて、製造工程を短縮し、製造コストを低減することができる。また、固有複屈折値が負の樹脂からなるb層は、単独では延伸しにくく、延伸ムラや破断などが生ずる場合があるが、他の層(a層及びc層)と積層することにより、安定して共延伸することが可能となり、かつB層の厚さむらを小さくすることができる。
【0106】
〔2−4.その他の工程〕
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、上述した延伸前フィルム準備工程、第一延伸工程及び第二延伸工程以外にその他の工程を行うようにしてもよい。
例えば、延伸前フィルムを延伸する前に、延伸前フィルムを予め加熱する工程(予熱工程)を設けてもよい。延伸前フィルムを加熱する手段としては、例えば、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。予熱工程における加熱温度は、通常は延伸温度−40℃以上、好ましくは延伸温度−30℃以上であり、通常は延伸温度+20℃以下、好ましくは延伸温度+15℃以下である。なお延伸温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。
【0107】
また、例えば第一延伸工程及び/又は第二延伸工程の後に、延伸したフィルムを固定処理してもよい。固定処理における温度は、通常は室温以上、好ましくは延伸温度−40℃以上であり、通常は延伸温度+30℃以下、好ましくは延伸温度+20℃以下である。
【0108】
さらに、例えば、得られた位相差フィルムの表面に、例えばマット層、ハードコート層、反射防止層、防汚層等を設ける工程を行ってもよい。
【0109】
[3.その他]
本発明の位相差フィルムは、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独で用いてもよく、他の部材と組み合わせて用いてもよく、例えば液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに適用してもよい。
【0110】
液晶表示装置は、通常、光入射側偏光板と液晶セルと光出射側偏光板とがこの順で配置された液晶パネルを備える。本発明の位相差フィルムを、例えば液晶セルと光入射側偏光板との間、及び/又は、液晶セルと光出射側偏光板との間に配置することで、液晶表示装置の視認性を大幅に向上させることができる。
【0111】
液晶セルの駆動方式としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどが挙げられる。
20℃以下である。
【0112】
本発明の位相差フィルムは、液晶セルまたは偏光板に貼り合わせてもよい。例えば、位相差フィルムを偏光板の両面に貼り合わせてもよいし、片面にのみ貼り合わせてもよい。また、位相差フィルムを2枚以上用いてもよい。貼り合わせには公知の接着剤を用い得る。
偏光板は、通常、偏光子とその両面に貼り合わせられた保護フィルムとを備える。この際、保護フィルムに代えて、本発明の位相差フィルムを偏光子に直接貼り合わせ、位相差フィルムを保護フィルムとして用いてもよい。この場合、保護フィルムが省略されるので、液晶表示装置の薄型化、軽量化、低コスト化を実現できる。
【実施例】
【0113】
以下に実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。なお、以下の説明において、量を表す「部」及び「%」は、別に断らない限り重量基準である。
【0114】
[評価方法]
実施例及び比較例において、位相差フィルムの評価は、下記の方法により行った。
(1)フィルム及び各層の厚みの測定
フィルムの厚みは、接触式の厚さ計を用いて測定した。
また、フィルムを構成する各層の厚みは、フィルムをエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトーム(大和工業社製「RUB−2100」)を用いてスライスし、走査電子顕微鏡を用いて断面を観察し、測定した。
【0115】
(2)入射角0°におけるレターデーションReおよび入射角40°におけるレターデーションR40の測定
入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40は、自動複屈折計(王子計測機器社製「KOBRA−21ADH」)を用いて、測定波長590nmで測定した。
【0116】
(3)破壊エネルギーの測定
延伸前フィルムの上に、ある高さから重量0.0055kgの球を落とし、延伸前フィルムが破壊したときの高さ(破壊高さ)から、次式に従って破壊エネルギーを算出した。なお、延伸前フィルムが破壊されたか否かは、球が落とされることによりフィルムに変形があったか否かを目視で確認することにより、行った。
破壊エネルギー(mJ) = 球重量(kg)×破壊高さ(cm)×9.8
【0117】
(4)屈折率の測定
面内の遅相軸方向の屈折率と、面内の遅相軸方向に面内で直交する方向の屈折率と、厚さ方向の屈折率とを、屈折率膜厚測定装置(メトリコン社製「プリズムカプラ」)を使用して、測定波長532nmで測定した。
【0118】
[実施例1]
3種3層(3種類の樹脂により3層からなるフィルムを形成するタイプのもの)の共押出成形用のフィルム成形装置を準備した。
固有複屈折値が正の樹脂であるポリカーボネート樹脂(旭化成社製「ワンダーライトPC−115」、ガラス転移温度145℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
また、固有複屈折値が負の樹脂であるスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製「DylarkD332」、無水マレイン酸単位含有量17重量%、ガラス転移温度128℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
さらに、アクリル重合体およびゴム粒子を含むアクリル樹脂(住友化学社製「HT55Z」、ガラス転移温度108℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0119】
溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、マルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa=0.1μm)の第一のマニホールドに供給した。また、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、第二のマニホールドに供給した。さらに、溶融された260℃のアクリル樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、第三のマニホールドに供給した。
【0120】
ポリカーボネート樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリル樹脂を、前記マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。このようにフィルム状に共押出しされた溶融樹脂を、表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(a層に相当:厚み15μm)、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(b層に相当:厚み140μm)およびアクリル樹脂層(c層に相当:厚み25μm)をこの順に備える、厚さ180μmの3層構造の延伸前フィルムを得た。
この延伸前フィルムを、ポリカーボネート樹脂層を鉛直上向きにして置き、そこに上述した要領で球を落として破壊エネルギーを測定した。測定された破壊エネルギーは70.3444mJであった。
【0121】
この延伸前フィルムを、テンター延伸機を用いて、延伸温度150℃、延伸倍率3.0倍で一軸延伸を行った。延伸後のフィルムについて、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対するレターデーションReを測定したところ、46nmであり、位相が遅れることが分かった。
また、前記延伸前フィルムについて延伸温度を128℃とする以外は同様にして、延伸後のフィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対するレターデーションReを測定したところ、−706nmであり、位相が進むことが分かった。
【0122】
前記の延伸前フィルムを、横延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7倍でTD方向に延伸した。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度128℃、延伸倍率1.2倍でMD方向に延伸して、ポリカーボネート樹脂層(厚み5μm)、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(厚み47μm)およびアクリル樹脂層(厚み8μm)をこの順に備える位相差フィルム(厚み60μm)を、破断なく得た。
得られた位相差フィルムの入射角0°におけるレターデーションReは130.0nmであり、入射角40°におけるレターデーションR40は129.8nmであり、R40/Reは1.00であった。また、得られた位相差フィルムのC層の屈折率を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
[比較例1]
2種2層(2種類の樹脂により2層からなるフィルムを形成するタイプのもの)の共押出成形用のフィルム成形装置を準備した。
固有複屈折値が正の樹脂であるポリカーボネート樹脂(旭化成社製「ワンダーライトPC−115」、ガラス転移温度145℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
また、固有複屈折値が負の樹脂であるスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製「DylarkD332」、ガラス転移温度128℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0125】
溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、マルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa=0.1μm)の一方のマニホールドに供給した。また、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、もう一方のマニホールドに供給した。
【0126】
ポリカーボネート樹脂およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を、前記マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。このようにフィルム状に共押出しされた溶融樹脂を、表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(a層に相当:厚み15μm)およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(b層に相当:厚み140μm)を備える、厚さ155μmの2層構造の延伸前フィルムを得た。
この延伸前フィルムを、ポリカーボネート樹脂層を鉛直上向きにして置き、そこに上述した要領で球を落として破壊エネルギーを測定した。測定された破壊エネルギーは6.468mJであった。
【0127】
前記の延伸前フィルムを、横延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7倍でTD方向に延伸した。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度128℃、延伸倍率1.2倍でMD方向に延伸して、ポリカーボネート樹脂層(厚み5μm)およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(厚み47μm)を備える位相差フィルム(厚み52μm)を得た。しかし、延伸中に破断が多発し、サンプル採取が困難であった。
得られた位相差フィルムの入射角0°におけるレターデーションReは130.0nmであり、入射角40°におけるレターデーションR40は129.8nmであり、R40/Reは1.00であった。
【0128】
[比較例2]
2種3層(2種類の樹脂により3層からなるフィルムを形成するタイプのもの)の共押出成形用のフィルム成形装置を準備した。
固有複屈折値が正の樹脂であるポリカーボネート樹脂(旭化成社製「ワンダーライトPC−115」、ガラス転移温度145℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
また、固有複屈折値が負の樹脂であるスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製、DylarkD332、ガラス転移温度128℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0129】
溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、マルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa=0.1μm)の一方のマニホールドに供給した。また、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して、もう一方のマニホールドに供給した。
【0130】
ポリカーボネート樹脂及びスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を、前記マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。このようにフィルム状に共押出しされた溶融樹脂を、表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(a層に相当:厚み17μm)、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(b層に相当:厚み180μm)およびポリカーボネート樹脂層(a層に相当:厚み7μm)をこの順に備える、厚さ204μmの3層構造の延伸前フィルムを得た。
この延伸前フィルムを、厚み17μmのポリカーボネート樹脂層を鉛直上向きにして置き、そこに上述した要領で球を落として破壊エネルギーを測定した。測定された破壊エネルギーは20.482mJであった。
【0131】
前記の延伸前フィルムを、横延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7倍でTD方向に延伸した。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度128℃、延伸倍率1.2倍でMD方向に延伸して、ポリカーボネート樹脂層(厚み6μm)、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(厚み61μm)及びポリカーボネート樹脂層(厚み2μm)をこの順に備える位相差フィルム(厚み69μm)を、破断なく得た。
得られた位相差フィルムの入射角0°におけるレターデーションReは160.0nmであり、入射角40°におけるレターデーションR40は158.7nmであり、R40/Reは0.99であった。
【0132】
[検討]
実施例1で得られた位相差フィルムは、C層を形成するアクリル樹脂のガラス転移温度よりも大幅に高い温度で延伸を行っていることから、C層は無配向であり、これは表1からも確認された。
また、延伸前フィルムの破壊エネルギーは、このC層がゴム粒子を含む実施例1の方が、比較例1,2よりも大きい。このことから、当該延伸前フィルムを延伸して得られる位相差フィルムでも、実施例1の位相差フィルムの破壊エネルギーは、比較例1,2の破壊エネルギーよりも大きく、耐衝撃性に優れることが推認される。したがって、実施例1の位相差フィルムは、比較例1,2の位相差フィルムよりもハンドリング性に優れることが分かった。
また、C層が無配向であるため、実施例1の位相差フィルムではA層及びB層の屈折率を制御することにより位相差フィルム全体のレターデーションを調製できるので、レターデーションの制御が簡単である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折値が正の樹脂からなるA層と、
スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂からなるB層と、
アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂からなる無配向のC層とを、この順に備え、
入射角0°におけるレターデーションReと、入射角40°におけるレターデーションR40とが、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす、位相差フィルム。
【請求項2】
前記固有複屈折値が正の樹脂がポリカーボネートを含む、請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記固有複屈折値が正の樹脂のガラス転移温度及び前記スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂のガラス転移温度よりも、前記アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂のガラス転移温度が低い、請求項1又は2記載の位相差フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
固有複屈折値が正の樹脂と、スチレン系重合体を含む固有複屈折値が負の樹脂と、アクリル重合体及びゴム粒子を含む樹脂とを共押し出しして、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、延伸前フィルムを得る工程と、
前記延伸前フィルムを、温度T1またはT2のいずれかの温度で一方向に一軸延伸処理を行う第一延伸工程と、
前記第一延伸工程で一軸延伸処理を行った方向と直交する方向に、前記と異なる温度T2またはT1で一軸延伸処理を行う第二延伸工程とを有する、位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−150462(P2012−150462A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−284238(P2011−284238)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】