説明

位相差フィルム

【課題】波長分散性に優れ、耐熱性が高く、光弾性係数が小さいコントラスト、視野角特性が良好な位相差フィルムを提供する。
【解決手段】脂環構造を有するカルボン酸成分のトランス比率を60%以上とすることで、耐熱性が高く、低光弾性係数の位相差フィルムを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学補償用途に好適な非晶性ポリエステル樹脂からなる位相差フィルムおよびこれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、液晶セルや偏光板、位相差フィルムなどで構成されており、その中で位相差フィルムは、視野角補償、外光の反射防止、色補償、直線偏光の円偏光への変換などの役割を負っている。近年、液晶ディスプレイの用途の多様化や大画面化、高精細化、高視野角化などが求められているため、位相差フィルムの高機能化は特に重要な課題となっている。位相差フィルムには、ポリカーボネートやセルロースエステル、ポリエステル、環状ポリオレフィンといった樹脂が提案されている。ポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムとして、特定のフルオレン構造単位を含有するものが開示されている。(特許文献1、2)しかし、ポリカーボネートは光弾性係数が大きいために表示装置に組み込む時に発生する応力やバックライトや使用環境においてフィルムにかかる熱の為に位相差が変化し額縁漏れが生じるという問題があった。また、セルロース系樹脂からなる位相差フィルムとしては、光の波長が短くなるほど位相差値が小さくなる位相差フィルムが開示されている。(特許文献3、4)しかし、セルロース系樹脂は吸水率が高いため、湿熱環境下で寸法変化や位相差変化が生じやすいことや、位相差調整剤を含有させているためブリードアウトが生じることがあり、実用には適さないという問題があった。また、ポリエステル樹脂を用いたものとしては、光の波長が短くなるほど位相差値が小さくなる位相差フィルムが開示されている。(特許文献5)しかし、光弾性係数の低減と耐熱性の向上を両立することが困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−253960号公報
【特許文献2】特開2003−167121号公報
【特許文献3】特開2002−090544号公報
【特許文献4】特開2004−051563号公報
【特許文献5】特開2007−004143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述した従来技術における課題問題点の解決を課題とした結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、光弾性係数が小さく、ガラス転移温度が高く、好ましく波長分散性が下記式(1)の範囲で示されるものであり、光学補償の用途に好適な位相差フィルムを提供することにある。
0.80≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(1)
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明によれば、下記に記載する位相差フィルムが提供される。
[1]フィルムを構成する樹脂が、下記化学式(A)で示される構造単位を含む非晶性ポリエステル樹脂からなり、下記化学式(A)の脂環構造である式中Rのトランス比率が60%以上である。
【0005】
【化1】

【0006】
(ただし、式中のRは炭素数が6〜10の脂環構造を有する二価の基である)
[2]波長450nmにおける面内位相差Re(450)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比が下記式(1)を満たす前記[1]に記載の位相差フィルム。
0.80≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(1)
[3]波長450nmにおける面内位相差Re(450)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比および、波長650nmにおける面内位相差Re(650)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比が下記式(2)、(3)を満たす前記[1]または[2]に記載の位相差フィルム。
0.82≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(2)
1.02≦Re(650)(nm)/Re(550)(nm)≦1.07・・・(3)
[4]ジカルボン酸成分が下記化学式(B)で示す構造単位である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0007】
【化2】

【0008】
[5]フィルムを構成する樹脂が上記化学式(A)および下記化学式(C)、(D)で表される構造単位を含み、化学式(A)、(C)、(D)のモル分率(mol%)をそれぞれa、b、cとしたとき、下記式(4)〜(6)を満たす前記[1]〜[4]のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0009】
【化3】

【0010】
(ただし、式中のRは炭素数が6〜10の二価の芳香族基、または、炭素数が6〜10の脂環構造を有する二価の基である。)
【0011】
【化4】

【0012】
a=50 ・・・(4)
b+c=50 ・・・(5)
30<b≦45 ・・・(6)
[6]フィルムを構成する樹脂が上記化学式(A)、(C)および下記化学式(E)で表される構造単位を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0013】
【化5】

【0014】
(ただし、式中のRは炭素数が2〜4の二価の脂肪族炭化水素である。)
[7] 波長550nmにおける複屈折をΔNとした時、ΔNが下記式(7)を満たす前記[1]〜[6]のいずれかに記載の位相差フィルム。
0.8×10−3≦ΔN=Re(550)(nm)/厚み(nm)≦2.9×10−3 ・・・(7)
[8] 光弾性係数が−25×10−12/Pa以上25×10−12/Pa以下である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の位相差フィルム。
[9] ガラス転移温度(以下Tgとも表記する)が135℃以上である前記[1]〜[8]のいずれかに記載の位相差フィルム。
[10]フィルム厚みが1μm以上400μm以下である前記[1]〜[9]のいずれかに記載の位相差フィルム。
[11] 前記[1]〜[10]のいずれかに記載の位相差フィルムを用いた表示装置。
[12] 前記[1]〜[11]のいずれかに記載の位相差フィルムを用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に説明する通り、波長分散性および耐熱性に優れ、光弾性係数が小さい位相差フィルムおよびこれを用いた表示装置を提供することができる。そのため、液晶セルや偏光板に貼り合わせた時の貼りムラや、バックライトや外部環境からの熱を受けることによる構成材料間の熱膨張差、偏光フィルムの収縮などにより発生する応力による位相差変化を小さくすることができ、光の額縁漏れや色ムラを無くすことができる。さらに、本発明によればコントラストが高く、視野角特性が良好な表示を実現できる表示装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0017】
本発明の位相差フィルムは、上記化学式(A)で示される構造単位を含む非晶性ポリエステル樹脂からなり、化学式(A)中に示される脂環構造はシス体、トランス体の2つの異性体を持ちうるが、化学式(A)の脂環構造におけるトランス比率が60%以上であることが必要である。
【0018】
【化6】

【0019】
(ただし、式中Rは炭素数が6〜10の脂環構造を有する二価の基である)
トランス体比率が60%以上であることにより光弾性係数の低減に効果があり、また重合性が良好となる。より好ましくは75%以上であり、最も好ましくは85%以上である。トランス比率が60%より低い場合、光弾性係数が大きくなり加工時や液晶ディスプレイに組み込んだ際にバックライトや使用環境においてフィルムにかかる熱や応力による位相差ムラの発生によりコントラストの低下や色相変化が生じることがある。
【0020】
本発明のフィルムに用いる樹脂は化学式(A)以外のジカルボン酸構造単位を実質的に含まないことが望ましいが、本発明の目的を阻害しない限り、全ジカルボン酸単位の20モル%以下、望ましくは10モル%以下含むことができる。この場合において、下式(4)〜(6)、(11)および(12)においては化学式(A)を含むポリエステルの構造単位のみを対象として解釈するものとする。
【0021】
本発明の位相差フィルムは波長450nmにおける面内位相差Re(450)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比が下記式(1)を満足することが好ましい。
0.80≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(1)
より好ましくは、波長450nmにおける面内位相差Re(450)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比および、波長650nmにおける面内位相差Re(650)(nm)とRe(550)(nm)の比が下記式(2)および(3)を満足することである。
0.82≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(2)
1.02≦Re(650)(nm)/Re(550)(nm)≦1.07・・・(3)
さらに好ましくは、下記式(8)および(9)を満たすことで、本発明の位相差フィルムを液晶ディスプレイに組み込んだ際に、光漏れが少なく、コントラストが良好となり、また視野角特性が改善される。
0.84≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96 ・・・(8)
1.02≦Re(650)(nm)/Re(550)(nm)≦1.06 ・・・(9)
波長分散性が上記式(1)に示す範囲を満たさない場合は、液晶ディスプレイに組み込んだ際に光漏れが生じたり、視野角特性の悪化による黒表示が青みを帯びることによるコントラスト低下や色相変化が生じることがある。
【0022】
波長分散性を上記式(1)とするためには、後述するように位相差フィルムを構成する高分子の分子構造およびそのモル分率を特定の範囲とし、さらに延伸後のΔNを特定の範囲とすることで達成することができる。
【0023】
本発明でいう非晶性とは、示差走査型熱量計にて本発明の位相差フィルムの熱特性を評価したときに融点を示す吸熱ピークが観察されないことを指す。
【0024】
本発明の位相差フィルムを構成する樹脂のうち、ジカルボン酸成分が下記化学式(B)で示す構造単位であることが、光弾性係数の低減や耐熱性向上の点から好ましい。
【0025】
【化7】

【0026】
本発明における位相差フィルムを構成する樹脂は、前記化学式(A)、および次に示す(C)、(D)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0027】
【化8】

【0028】
(ただし、式中Rは炭素数が6〜12の芳香族基、または、炭素数が6〜10の脂環構造を有する基である。)
【0029】
【化9】

【0030】
化学式(A)、(C)、(D)で表される構造単位を含まない場合、目的とする波長分散の制御や光弾性係数の低減、耐熱性の向上が困難となることがある。
【0031】
ここで、化学式(A)のR中、炭素数が6〜10の脂環構造を有する基としては、例えばシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基などがある。この中でも、耐熱性を向上させる点からデカヒドロナフチル基であることが好ましい。また、上記化学式(A)で示される構造単位を与える化合物としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1、2−デカリンジカルボン酸ジメチル、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、およびそれらのエステル形成性誘導体などがあり、重合性や波長分散性の制御、また光弾性係数を低減や耐熱性の向上の点から2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0032】
また、化学式(C)のRについて、炭素数が6〜12の二価の芳香族基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などがあり、炭素数が6〜10の脂環構造を有する基としては、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基などがある。この中でも、耐熱性向上の点からフェニル基であることが好ましく、光弾性係数を低減するためにはシクロへキシル基であることが好ましい。
【0033】
本発明における位相差フィルムを構成する樹脂は、上記化学式(A)、(C)、(D)で表される構造単位のモル分率をそれぞれa、b、cとしたとき下記式(4)〜(6)を満たしている樹脂からなることが好ましい。
a=50 ・・・(4)
b+c=50 ・・・(5)
30≦b≦45 ・・・(6)
bで表される構造単位のモル分率が30mol%より小さい場合は上記式(1)で表される目的の波長分散への制御が困難であることや、耐熱性が低下することがある。また、bで表される構造単位のモル分率が45mol%より大きい場合は目的の波長分散への制御が困難あることや、製膜性が悪化すること、光弾性係数が大きくなることがある。
より好ましくは、下記式(10)に示される範囲であり
35<b≦45 ・・・(10)
さらに好ましくは下記式(11)となる範囲である。
38≦b≦43 ・・・(11)
また一方、本発明における位相差フィルムを構成する樹脂は、前記化学式(A)、(C)、及び次に示す化学式(E)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0034】
【化10】

【0035】
(ただし、式中のRは炭素数が2〜4の脂肪族炭化水素である。)
化学式(A)、(C)、(E)で表される構造単位を含まない場合、目的とする波長分散の制御や光弾性係数の低減、耐熱性の向上が困難となることがある。
【0036】
ここで、化学式(A)のR中、炭素数が6〜10の脂環構造を有する基としては、例えばシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基などがある。この中でも、耐熱性を向上させる点からデカヒドロナフチル基であることが好ましい。また、上記化学式(A)で示される構造単位を与える化合物としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1、2−デカリンジカルボン酸ジメチル、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルおよびそれらのエステル形成性誘導体などがあり、重合性や波長分散性の制御、また光弾性係数を低減や耐熱性の向上の点から2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルが好ましい。
【0037】
また、化学式(C)のRについて、炭素数が6〜12の二価の芳香族基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などがあり、炭素数が6〜10の脂環構造を有する基としては、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基などがある。この中でも、耐熱性向上の点からフェニル基であることが好ましく、光弾性係数を低減するためにはシクロへキシル基であることが好ましい。
【0038】
また、化学式(E)のRについて、炭素数が2〜4の脂肪族炭化水素としては、エチル基、プロピル基、ブチル基などがある。その中でも、波長分散性の制御の点からエチル基が好ましい。
【0039】
この化学式(A)、(C)、(E)で表される構造単位を含む樹脂において、上記化学式(C)、(E)で表される構造単位以外のジオール残基は含まれないことが望ましいが、本発明の目的を阻害しない限り、全ジオール残基の20モル%以下、望ましくは10モル%以下含むことができる。
【0040】
本発明の位相差フィルムは波長550nmにおける複屈折をΔNとした時、ΔNが下記式(7)を満たすことが好ましく、下記式(12)の範囲内であることがより好ましい。ΔNが0.8×10−3よりも小さい場合、コントラスト低下や色相変化が生じることがある点から好ましくない。また、ΔNを2.9×10−3よりも大きくする場合、延伸倍率を高くする必要がありその際にフィルムの白化が生じ、全光線透過率が低下することがある点から好ましくない。
0.8×10―3≦ΔN=Re(550)(nm)/厚み(nm)≦2.9×10―3・・・(7)
1.0×10−3≦ΔN=Re(550)(nm)/厚み(nm)≦2.9×10−3・・・(12)
ΔNを上記式(7)の範囲あるいは式(12)の範囲とするためには、例えば、フィルムを構成する樹脂として上記に例示するものを用い、(Tg−15)℃以上(Tg+15)℃以下の温度範囲において1.1倍〜5.0倍の延伸倍率で延伸することによって達成することができる。
【0041】
本発明の位相差フィルムは、光弾性係数が−25×10−12/Pa以上25×10−12/Pa以下であることが好ましい。より好ましくは、−23×10−12/Pa以上23×10−12/Pa以下であり、−20×10−12/Pa以上20×10−12/Pa以下であることが特に好ましい。光弾性係数が−25×10−12/Paより小さく、または25×10−12/Paより大きいと加工時や液晶ディスプレイに組み込んだ際にかかる応力やバックライトや使用環境においてフィルムにかかる熱による位相差ムラの発生によりコントラストの低下や色相変化に影響を及ぼす点から好ましくない。
【0042】
光弾性係数が−25×10−12/Pa以上25×10−12/Pa以下とするためには、ジカルボン酸成分の脂環構造におけるトランス比率を60%以上とすることで達成することができる。
【0043】
本発明の位相差フィルムは、Tgが135℃以上であることが、耐熱性の点から好ましい。より好ましくは138℃以上であり、より好ましくは140℃以上である。Tgが135℃より低い場合、液晶ディスプレイに組み込んだ際にバックライトが熱源となって生じる熱などにより配向緩和等の問題が発生し、長期の位相差安定性を保てないことがある点から好ましくない。一方、フィルムの延伸はTg付近で行うため、Tgが高すぎるとフィルムの延伸に必要な温度が高くなる。そのため、コストが高くなり生産性が低下することがあるので上限は特にないが300℃以下であればよい。
【0044】
フィルムのTgを135℃以上とするためには、ジカルボン酸成分およびジオール成分の構造単位を前記した好ましい構造単位で用いることにより達成することができる。
【0045】
本発明の位相差フィルムの厚みは、1μm以上400μm以下であることがハンドリング性を高くする点から好ましい。より好ましくは20〜350μmであり、30〜300μmであることが延伸後の位相差制御の点から特に好ましい。フィルム厚みが1μmより小さくなると、ハンドリング性の低下や、必要な位相差を得られないことがある。また、フィルム厚みが400μmより大きくなるとディスプレイに組み込んだ際の薄型化や軽量化をはかりにくくなることがある。
【0046】
フィルムの厚みを、1μm以上400μm以下とするためには、(Tg−15)℃以上(Tg+15)℃以下の温度範囲において1.1倍〜5.0倍の範囲で延伸することによって達成することができる。
【0047】
本発明において、上記化学式(A)〜(C)の構造単位を、上記式(4)〜(6)のモル分率で有する非晶性ポリエステルを重合するための方法は特に限定されず、公知の重合方法を用いることができ、例えばエステル交換法、直接重合法、酸クロライド法等の溶融重合法、溶液重合法、界面重合法等の重合方法により、非晶性ポリエステルを得ることができる。その中でも、エステル交換反応の場合、例えば2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、スピログリコールを用いる場合、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、スピログリコールを所定のポリマー組成となるように反応容器へ仕込む。これらを150℃で溶融後、触媒として酢酸マンガンを添加し攪拌する。150℃でこれらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。ついで、235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。エステル交換反応終了後、トリメチルリン酸を加え、攪拌後に水を蒸発させる。さらに、二酸化ゲルマニュウムのエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を徐々に重合温度の285℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇。所定の攪拌トルクになった時点で反応を終了し、重合装置から樹脂を水槽へストランド状に吐出する。吐出された樹脂は水槽で急冷し、巻き取り後カッターでチップとする。得られた樹脂は95℃の温水が満たされた水槽に投入し5時間水処理を行う。水処理後、脱水機を用いて樹脂から水分を除去する。このようにして本発明の樹脂を得ることができるが、上記に限定されるわけではない。
【0048】
ここで、本発明の非晶性ポリエステルの製造方法について、例を挙げて説明する。本発明の位相差フィルムは、例えば、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法などの方法によって製造することができる、その中でも特に、T−ダイ法、流延法によって製造することが、厚みや位相差のムラを防ぐために好ましい。以下、T−ダイ法によって製造する場合の製造法について例を挙げて説明する。T−ダイ法による製造法の場合単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダー型溶融押出装置等が使用できる。溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色を防ぐ点からベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。押出し温度としては200℃〜300℃の範囲であればいずれかの温度で押出すことができる。キャスト方法は溶融した樹脂をギアポンプで計量した後にT−ダイ口金から吐出させ、冷却されたドラム上に密着手段であるニップキャスト法、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体に密着させて室温まで冷却し、フィルムを得ることができる。また、本発明のポリエステル樹脂フィルムにおいては均一な厚み、良好な平面性を得る点からニップキャスト法が好ましい。
【0049】
このような方法で製造した未延伸フィルムは、縦または/および横に一軸もしくは二軸に延伸することにより、本発明の位相差フィルムを得ることができる。延伸の方法としては、縦または横方向に一軸延伸を行う方法、縦および横方向に逐次二軸延伸または同時二軸延伸を行う方法、逐次二軸延伸後にさらに縦または横方向に再延伸を行う方法などの方法を用いることができる。この中でも、縦または横方向に一軸延伸、もしくは逐次二軸延伸を行う方法が、厚みや位相差および分子の配向度を制御する点から好ましい。ここで、延伸温度は、本発明の位相差フィルムのTgを基準とし、(Tg−15)℃以上(Tg+15)℃以下の温度範囲とすることが、位相差の発現性と延伸性の両立の点から好ましい。より好ましくは(Tg−10)℃以上(Tg+10)℃以下の温度範囲であり、波長分散性の制御の点から、(Tg−5)℃以上(Tg+5)℃以下の温度範囲であることが特に好ましい。延伸温度を(Tg−15)℃よりも低くするとフィルム破れが生じやすくなり、延伸温度を(Tg+15)℃より高くすると分子鎖の配向緩和によりΔNが0.8×10−3よりも低くなることがあり均一な波長分散を持つ位相差フィルムを得られずディスプレイに組み込んだ際に光漏れ、コントラスト低下や色相変化が生じることがある点から好ましくない。このような延伸の方法について説明すると、例えばまず得られた未配向フィルムをテンタークッリプに該フィルムの端部を噛ませテンター内の雰囲気温度を上記温度範囲のいずれかに昇温し、幅方向に1.1〜5倍のいずれかの延伸倍率で延伸する。延伸速度は50〜10000%/minが好ましい。延伸速度は遅すぎると配向緩和が生じΔNが0.80×10−3より小さくなることがあり、また延伸速度が早すぎると破れが生じることがある点から好ましくない。
【0050】
また、本発明の位相差フィルムには、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理、ハードコート処理といった各種表面処理を行うことができる。
【0051】
以上のような方法で得られた本発明の位相差フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等の各種表示装置に用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角補償フィルム等の液晶光学補償フィルム等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて、本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。なお、各種物性の測定は次の方法に従って行った。
【0053】
(1)面内位相差
測定装置:王子計測器機器(株)製の自動複屈折計(KOBRA−21ADH/DSP)
サンプルホルダー:ADH−05−5
測定径:φ5mm
測定モード:波長分散特性測定
測定波長:480.4nm、548.3nm、628.2nm、752.7nm
入射角:0°
Re(450)(nm)、Re(550)(nm)、Re(650)(nm)の算出方法:
上記測定波長で求めた面内位相差を用いて以下のコーシーの分散式から各a〜dの係数を求め、求めたa〜dの係数を用いて各波長(450nm、550nm、650nm)に対応する面内位相差を計算して求めた。なお、波長λnmに対するフィルムの面内位相差をR(λ)(nm)と表記する。
(R(λ)(nm)=a+b/λ+c/λ+d/λ) 。
【0054】
(2)ΔN
上記(1)に示す測定方法により求めた波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)を用いて下記式によりΔNを算出した。厚みはフィルム厚みである。
ΔN=Re(550)(nm)/厚み(nm) 。
【0055】
(3)トランス比率
測定装置:Agilent社製のガスクロマトグラフ(HP6890)
質量分析:Agilent社製MessSensitiveDetector 5973N
測定方法は位相差フィルム10gをエチレングリコールとともに還流冷却器を備えたガラス製の耐圧容器に供給し、次に230℃、加圧下で反応させ、容器内の位相差フィルムをエチレングリコールに溶解させた。次に反応系を冷却しながら常圧に戻し、メタノールを反応系に供給し、常圧で反応させながら予めエチレングリコールに溶解させた1モル濃度の水酸化ナトリウム溶液を1mlずつ15分間かけて滴下供給し、脂環構造を有するジカルボン酸誘導体(α)の結晶が析出した所で添加を中止し、さらに反応を続けた。反応終了後内容物を冷却し、次に濾別により結晶を採取して単蒸留により精製することでジカルボン酸誘導体(α)のサンプルを得た。次にトランス比率が既知であるジカルボン酸誘導体の検定試料を用いて、検定を行った。さらに、サンプルであるジカルボン酸誘導体(α)を100mg秤量しヘリウムの気流下において熱処理し発生ガスを捕集しガスクロマトグラフによりクロマトグラフ法を用いて分析した。ピークの同定は、検定試料の分析によって観察された保持時間および質量分析により測定したマススペクトルと、ジカルボン酸誘導体(α)の分析によって観察された保持時間およびマススペクトルとの比較により確認した。マススペクトルより帰属したシス由来のピーク面積をAとし、トランス由来のピーク面積をBとし、下記式によりトランス比率を求めた。
トランス比率(%)=B/(A+B)×100 。
【0056】
(4)光弾性係数
測定装置:大塚電子(株)製のセルギャップ検査装置(RETS−1200)
測定径:φ5mm
光源:589nm
サンプルサイズ:30mm×50mm
測定方法はフィルム厚みがd(nm)であるサンプルを支持具に挟み長手方向に9.81×10の応力σ(Pa)をかけた。この応力下での位相差R(nm)を測定した。応力をかける前の位相差をR(nm)とし下記式に代入し光弾性係数Cσ(Pa−1)を求めた。
Cσ(Pa−1)=(R−R)/(σ×d) 。
【0057】
(5)ガラス転移温度
測定装置:セイコー電子工業(株)製の示差走査熱量計(RDC220 ロボットDSC)
測定条件:窒素雰囲気下
測定温度:25℃から300℃
昇温速度:20℃/min
測定パン:Alパン
測定方法はJIS−K7121−1987の9.3項の各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とする、中間点ガラス転移温度を用いてガラス転移温度を求めた。
【0058】
(6)光漏れ耐久性試験
以下の方法で光漏れ耐久性試験を行った。
位相差フィルムを15cm×15cmのサイズに切り出し、偏光板(1)、ガラス、位相差フィルム、偏光板(2)の順に積層し試験サンプルを作成した。この時、ガラスの対角線と偏光板(1)の吸収軸が平行になるように貼合し、偏光板(1)の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が平行になるように貼合した。さらに、位相差フィルムの遅相軸と偏光板(2)の吸収軸が直行するように貼合した。各層間は粘着シート(総研化学社製 SK−1478)を用いて接着した。貼り合わせ構成を図1、図2に示す。これを80℃の環境の中に100時間保管し、試験前後で光漏れに変化が生じているかを目視により確認した。確認方法は、HAKUBA社製 LIGHT VIEWER 5700をバックライトとして用い、その上にサンプルを載せバックライト、上記サンプル(偏光板(1)の面が下側)を設置し、この状態で光漏れ耐久性試験前後のバックライトの光漏れの変化を目視で確認することで評価を行った。目視により耐熱性試験前後のサンプルで光漏れ変化が確認できない場合を○、光漏れ変化が確認できる場合は×とし評価した。
【0059】
(実施例1)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部、スピログリコール30質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガン0.06質量部添加し攪拌した。30分かけて200℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。所定のメタノール量が留出した後、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸0.02質量部を含んだ水溶液を加え、5分間攪拌して水を蒸発させ、エステル交換反応を停止した。その後、二酸化ゲルマニュウム0.06質量部含んだエチレングリコール溶液を加え、装置内温度を90分かけて235℃〜290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧しエチレングリコールを留出させる。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、所定の攪拌トルクとなった時点で反応を終了とする。反応終了後は重合装置を窒素ガスにて常温に戻し、水槽へ吐出した。吐出されたポリエステルチップは水槽で急冷後、カッターにてカッティングしポリマーチップとした。
【0060】
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし270μmのフィルムを得た。得られたフィルムを145℃で2.6倍に1軸延伸を行い、厚み135μmで、Re(550)(nm)=163の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は98%であった。得られた位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0061】
(実施例2)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部、スピログリコール30質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし280μmのフィルムを得た。得られたフィルムを145℃で2.7倍に1軸延伸を行い、厚み125μmで、Re(550)(nm)=145の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は71%であった。得られた位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0062】
(実施例3)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン154質量部、スピログリコール46質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし270μmのフィルムを得た。得られたフィルムを145℃で2.9倍に1軸延伸を行い、厚み115μmで、Re(550)(nm)=161の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は69%であった。位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0063】
(実施例4)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン197質量部、スピログリコール15質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし300μmのフィルムを得た。得られたフィルムを145℃で3.3倍に1軸延伸を行い、厚み130μmで、Re(550)(nm)=209の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は71%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0064】
(実施例5)
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル93質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部、スピログリコール30質量部、エチレングリコール186質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし250μmのフィルムを得た。得られたフィルムを130℃で2.4倍に1軸延伸を行い、厚み142μmで、Re(550)(nm)=219の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は69%%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0065】
(実施例6)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部、スピログリコール30質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。リップ間隙が1.0mmのTダイ(設定温度240℃)によりシート状に押し出した。このフィルムを120℃に加温したドラムに片面をニップキャスト法によりキャストし、未延伸のフィルムを得た。未延伸フィルムを145℃で横1軸に延伸し、位相差フィルムを得た。得られたフィルムは145℃で2.3倍に1軸延伸を行い、厚み37μmで、Re(550)(nm)=65.6の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は71%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0066】
(実施例7)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン143質量部、エチレングリコール237質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。リップ間隙が1.0mmのTダイ(設定温度240℃)によりシート状に押し出した。このフィルムを120℃に加温したドラムに片面をニップキャスト法によりキャストし、未延伸のフィルムを得た。得られたフィルムは127℃で2.3倍に1軸延伸を行い、厚み55μmで、Re(550)(nm)=150.3の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は73%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0067】
(実施例8)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン175質量部、エチレングリコール232質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。リップ間隙が1.0mmのTダイ(設定温度240℃)によりシート状に押し出した。このフィルムを120℃に加温したドラムに片面をニップキャスト法によりキャストし、未延伸のフィルムを得た。得られたフィルムは140℃で1.8倍に1軸延伸を行い、厚み57μmで、Re(550)(nm)=98.1の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は73%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0068】
(実施例9)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部、エチレングリコール238質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。リップ間隙が1.0mmのTダイ(設定温度240℃)によりシート状に押し出した。このフィルムを120℃に加温したドラムに片面をニップキャスト法によりキャストし、未延伸のフィルムを得た。得られたフィルムは122℃で2.5倍に1軸延伸を行い、厚み50μmで、Re(550)(nm)=130の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は98%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0069】
(実施例10)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン154質量部、エチレングリコール235質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。リップ間隙が1.0mmのTダイ(設定温度240℃)によりシート状に押し出した。このフィルムを120℃に加温したドラムに片面をニップキャスト法によりキャストし、未延伸のフィルムを得た。得られたフィルムは127℃で2.5倍に1軸延伸を行い、厚み50μmで、Re(550)(nm)=80の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は73%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
(比較例1)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部、スピログリコール61質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
【0070】
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし290μmのフィルムを得た。得られたフィルムを135℃で2.1倍に1軸延伸を行い、厚み211μmで、Re(550)(nm)=217の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は57%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0071】
(比較例2)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン22質量部、スピログリコール137質量部、エチレングリコール226質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
【0072】
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし280μmのフィルムを得た。得られたフィルムを120℃で2.2倍に1軸延伸を行い、厚み130μmで、Re(550)(nm)=776の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は57%であった。得られた、位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0073】
(比較例3)
2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル113質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン132質量部、エチレングリコール238質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし280μmのフィルムを得た。得られたフィルムを130℃で2.4倍に1軸延伸を行い、厚み140μmで、Re(550)(nm)=404の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの2,6−デカリンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は57%であった。得られた位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0074】
(比較例4)
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル93質量部、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン88質量部、エチレングリコール245質量部の割合でそれぞれ計量し、実施例1と同様の方法でチップを得た。
【0075】
得られたポリマーチップを減圧乾燥した後、270℃、10Kgf/cmでホットプレスし280μmのフィルムを得た。得られたフィルムを110℃で2.0倍に1軸延伸を行い、厚み150μmで、Re(550)(nm)=201の位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムの1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルのトランス比率は55%であった。得られた位相差フィルムのΔN、Tg、光弾性係数、光漏れ耐久性試験を行いその結果を表2に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の位相差フィルムは、光弾性率が小さく、波長分散性に優れ、短波長側における位相差が小さいという優れた光学特性を持ち、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】光漏れ耐久性試験サンプルの構成を示した図である。
【図2】光漏れ耐久性試験サンプルの構成を示した図である。
【符号の説明】
【0080】
1:偏光板(1)
2:ガラス
3:位相差フィルム
4:偏光板(2)
5:接着層
6:接着層
7:接着層
8:偏光板(1)の吸収軸
9:位相差フィルムの遅相軸
10:偏光板(2)の吸収軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを構成する樹脂が下記化学式(A)で示される構造単位を含む非晶性ポリエステル樹脂からなり、下記化学式(A)の脂環構造である式中Rのトランス比率が60%以上であることを特徴とする位相差フィルム。
【化1】

(ただし、式中のRは炭素数が6〜10の脂環構造を有する二価の基である)
【請求項2】
波長450nmにおける面内位相差Re(450)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比が下記式(1)を満たす請求項1に記載の位相差フィルム。
0.80≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(1)
【請求項3】
波長450nmにおける面内位相差Re(450)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比および、波長650nmにおける面内位相差Re(650)(nm)と波長550nmにおける面内位相差Re(550)(nm)の比が下記式(2)、(3)を満たす請求項1および2に記載の位相差フィルム。
0.82≦Re(450)(nm)/Re(550)(nm)≦0.96・・・(2)
1.02≦Re(650)(nm)/Re(550)(nm)≦1.07・・・(3)
【請求項4】
ジカルボン酸成分が下記化学式(B)で示す構造単位である請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【化2】

【請求項5】
フィルムを構成する樹脂が上記化学式(A)および下記化学式(C)、(D)で表される構造単位を含み、化学式(A)、(C)、(D)のモル分率(mol%)をそれぞれa、b、cとしたとき、下記式(4)〜(6)を満たす請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【化3】

(ただし、式中のRは炭素数が6〜10の二価の芳香族基、または、炭素数が6〜10の脂環構造を有する二価の基である。)
【化4】

a=50 ・・・(4)
b+c=50 ・・・(5)
30<b≦45 ・・・(6)
【請求項6】
フィルムを構成する樹脂が上記化学式(A)、(C)および下記化学式(E)で表される構造単位を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【化5】

(ただし、式中のRは炭素数が2〜4の二価の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項7】
波長550nmにおける複屈折をΔNとした時、ΔNが下記式(7)を満たす請求項1〜6のいずれかに記載の位相差フィルム。
0.8×10−3≦ΔN=Re(550)(nm)/厚み(nm)≦2.9×10−3 ・・・(7)
【請求項8】
光弾性係数が−25×10−12/Pa以上25×10−12/Pa以下である請求項1〜7のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項9】
ガラス転移温度が135℃以上である請求項1〜8のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項10】
フィルム厚みが1μm以上400μm以下である請求項1〜9のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の位相差フィルムを用いた表示装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の位相差フィルムを用いた液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−109996(P2009−109996A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261428(P2008−261428)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】