説明

位相差フィルム

【課題】着色むらやコントラストむらの発生が抑制された液晶表示装置を与えることのできる、位相差むらの小さい位相差フィルムを提供すること。
【解決手段】PVA系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルムであって、当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め、当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた際に、
(1)測定地点(C)における面内位相差値が50〜1000nmであり、
(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり、
(3)隣接する2つの測定地点(T)における面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下である、位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置が広く用いられている。液晶表示装置の動作方式として、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Alignment)モード、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensated Bend)モード等、主に液晶分子の配向形態によって定義される様々な方式が提案されている。これらは何れも液晶分子のもつ電気光学特性を利用して表示を行うものであるが、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高める目的で、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。中でも、液晶が本来有する複屈折性に起因する着色を防ぐために位相差フィルムを用いることが知られている。このような液晶表示装置は、多くの場合、液晶分子を封入した電極を有する液晶セルに位相差フィルムおよび偏光板が貼り合わされて構成される。
【0003】
位相差フィルムは複屈折性を有するフィルムであり、位相差フィルムを透過した光では、振動方向が互いに直交する光成分に対する屈折率の差により、これらの光成分の電場ベクトルに位相差が生じる。ところで、位相差フィルムは樹脂フィルムを一軸延伸することにより製造することができるが、位相差フィルムの面内において樹脂の分子主鎖が一定方向に均一に配向していない場合には位相差むらが発生し、それを液晶表示装置の製造に用いると着色むらやコントラストむらが発生するため、樹脂の分子主鎖を一定方向に均一に配向させて位相差むらを抑える種々の延伸方法が研究されている。
【0004】
例えば、ポリカーボネート樹脂等を用いた位相差フィルムの製造において、位相差値の振れ幅およびその変化率を小さくするために延伸前後のネックインを抑える方法が提案されており、実質的にネックインが生じない延伸方法としてテンター法による横一軸延伸法が提案されている(例えば、特許文献1および2等を参照)。しかしながら、テンター法特有の現象として、フィルムの中心部の延伸がその端部に対して同期せず先行または遅延することが知られており、その結果として延伸方向(幅方向)の位相差むらが大きくなりやすい。さらに、端部がテンターによって不連続に支持されるために、延伸方向に対して垂直な方向(縦方向)の位相差むらも大きくなりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−42406号公報
【特許文献2】特開平2−59703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の従来技術の問題を解決し、着色むらやコントラストむらの発生が抑制された液晶表示装置を与えることのできる位相差むらの小さい位相差フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成すべく本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の膨潤度を有するポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料(原反)に用いるとともに、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組が3組以上連続して配置され、かつ隣接する当該延伸ロール間の最短距離が全ての隣接する延伸ロール間において2cm以下である構造を有する延伸装置によりポリビニルアルコール系重合体フィルムを気相下で一軸延伸すると、幅方向および一軸延伸方向のいずれの方向においても位相差むらが小さい位相差フィルムが得られることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を単に「PVA」と略記することがある)系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルムであって、当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め、当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた際に(但し、位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする)、
(1)測定地点(C)における以下の面内位相差値が50〜1000nmであり、
(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり、
(3)隣接する2つの測定地点(T)における以下の面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下である、
位相差フィルム、
面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である波長540nmの光で測定した位相差値。
[2]前記測定地点(T)のうち、最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように、一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に、
(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(M)において10nm以下である、
上記[1]の位相差フィルム、
[3]膨潤度が210〜225%のPVA系重合体フィルムを原料に用いて製造される位相差フィルムである、上記[1]または[2]の位相差フィルム、
[4]厚さが8〜20μmである、上記[1]〜[3]のいずれか1つの位相差フィルム、
[5]厚さが15〜120μmのPVA系重合体フィルムを原料に用いて製造される位相差フィルムである、上記[1]〜[4]のいずれか1つの位相差フィルム、
[6]130℃で10分間熱処理した後の前記測定地点(C)における面内位相差値と、当該熱処理後、さらに80℃、70%RHの雰囲気下に20分間静置した後の前記測定地点(C)における面内位相差値との差の絶対値が10nm以下である、上記[1]〜[5]のいずれか1つの位相差フィルム、
[7]位相差フィルムがホウ素化合物を含み、ホウ素化合物の含有量がホウ素換算で0.7〜2.0質量%である、上記[1]〜[6]のいずれか1つの位相差フィルム、
[8]膨潤度が210〜225%のPVA系重合体フィルムを原料に用いる位相差フィルムの製造方法であって、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組が3組以上連続して配置され、かつ隣接する当該延伸ロール間の最短距離が全ての隣接する延伸ロール間において2cm以下である構造(U)を少なくとも有する延伸装置によりPVA系重合体フィルムを気相下で一軸延伸する工程を有し、構造(U)における一軸延伸の延伸倍率が延伸前の長さに基づいて1.3〜3.0倍である、位相差フィルムの製造方法、
[9]前記原料に用いるPVA系重合体フィルムの厚さが15〜120μmである、上記[8]の製造方法、
[10]厚さが8〜20μmの位相差フィルムの製造方法である、上記[8]または[9]の製造方法、
[11]前記構造(U)における一軸延伸の前に、PVA系重合体フィルムをホウ酸濃度3質量%以下のホウ酸水溶液に浸漬させる工程をさらに有する、上記[8]〜[10]のいずれか1つの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の位相差フィルムは位相差むらが小さく光学的均質性に優れていて、着色むらやコントラストむらの発生が抑制された液晶表示装置を与えることができる。また本発明の位相差フィルムの製造方法によれば、上記の位相差フィルムを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の位相差フィルムの製造方法に用いることのできる延伸装置の一例を示す構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の位相差フィルムはPVA系重合体フィルムを一軸延伸することで得られ、当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め、当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた際に(但し、位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする)、
(1)測定地点(C)における面内位相差値が50〜1000nmであり、
(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり、
(3)隣接する2つの測定地点(T)における面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下である。
【0012】
〔PVA系重合体フィルム〕
本発明の位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムを構成するPVA系重合体としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステル系重合体をけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVA系重合体の製造の容易性、入手の容易性、コスト等の点から、分子中にビニルオキシカルボニル基(HC=CH−O−CO−)を有する化合物が好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
【0013】
上記のポリビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0014】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸またはその塩などを挙げることができる。上記のポリビニルエステル系重合体は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0015】
上記のポリビニルエステル系重合体に占める上記他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
特に上記他の単量体が(メタ)アクリル酸またはその塩、不飽和スルホン酸またはその塩などのように、得られるPVA系重合体の水溶性を促進する単量体単位となり得る単量体である場合には、当該PVA系重合体を用いて製造したPVA系重合体フィルムから位相差フィルムを製造する際などにおける水溶液中での処理時に、フィルムが溶解したり溶断したりするのを防止するために、ポリビニルエステル系重合体におけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0016】
上記のPVA系重合体としてはグラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができるが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、PVA系重合体は1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合は、ポリビニルエステル系重合体およびそれをけん化することにより得られるPVA系重合体のうちの少なくとも一方に対して行うことができる。上記グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体におけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0017】
上記のPVA系重合体はその水酸基の一部が架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。また上記のPVA系重合体はその水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0018】
上記のPVA系重合体の重合度は特に制限されないが、2000以上であることが好ましい。PVA系重合体の重合度が2000以上であることにより得られる位相差フィルムの耐湿熱性を向上させることができる。PVA系重合体の重合度はあまりに高すぎるとPVA系重合体の製造コストの上昇や製膜時における工程通過性の不良につながる傾向があるのでPVA系重合体の重合度は2000〜10000の範囲内であることがより好ましく、2000〜8000の範囲内であることがさらに好ましく、2200〜5000の範囲内であることが特に好ましい。なお本明細書でいうPVA系重合体の重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0019】
PVA系重合体のけん化度は得られる位相差フィルムの耐湿熱性が良好になることから、99.0モル%以上であることが好ましく、99.9モル%以上であることがより好ましい。なお本明細書におけるPVA系重合体のけん化度とはPVA系重合体が有するけん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0020】
本発明においてPVA系重合体フィルムは上記したPVA系重合体と共に可塑剤を含んでいてもよい。PVA系重合体フィルムが可塑剤を含むことによりPVA系重合体フィルムから位相差フィルムを製造する際の延伸性の向上等を図ることができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、PVA系重合体フィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらのうちでもPVA系重合体フィルムの延伸性がより良好になることからグリセリンが好ましい。
【0021】
PVA系重合体フィルムにおける可塑剤の含有量はPVA系重合体100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましく、7〜12質量部であることがさらに好ましい。PVA系重合体フィルムにおける可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して3質量部以上であることによりPVA系重合体フィルムの延伸性が向上する。一方、PVA系重合体フィルムにおける可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して20質量部以下であることによりPVA系重合体フィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVA系重合体フィルムの取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0022】
またPVA系重合体フィルムを後述するPVA系重合体フィルムを製造するための製膜原液を用いて製造する場合には、製膜性が向上してフィルムの厚さ斑の発生が抑制されると共に、製膜に金属ロールやベルトを使用した際、これらの金属ロールやベルトからのPVA系重合体フィルムの剥離が容易になることから、当該製膜原液中に界面活性剤を配合することが好ましい。界面活性剤が配合された製膜原液からPVA系重合体フィルムを製造した場合には、当該PVA系重合体フィルム中には界面活性剤が含有され得る。PVA系重合体フィルムを製造するための製膜原液に配合される界面活性剤、ひいてはPVA系重合体フィルム中に含有される界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点から、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0023】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0024】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
PVA系重合体フィルムを製造するための製膜原液中に界面活性剤を配合する場合、製膜原液中における界面活性剤の含有量、ひいてはPVA系重合体フィルム中における界面活性剤の含有量は製膜原液またはPVA系重合体フィルムに含まれるPVA系重合体100質量部に対して0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.01質量部以上であることにより製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、PVA系重合体フィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0026】
PVA系重合体フィルムはPVA系重合体のみからなっていても、あるいはPVA系重合体と上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤など、上記したPVA系重合体、可塑剤および界面活性剤以外の他の成分を含有していてもよい。
PVA系重合体フィルムにおける、PVA系重合体、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合は50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムの製造方法は特に限定されず、製膜後のフィルムの厚さおよび幅がより均一になる製造方法を好ましく採用することができ、例えば、PVA系重合体フィルムを構成する上記したPVA系重合体、および必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤、他の成分が溶剤中に溶解した製膜原液を用いて製造することができる。当該製膜原液が可塑剤、界面活性剤および他の成分の少なくとも1種を含有する場合には、それらの成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0028】
製膜原液の調製に使用される上記溶剤としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
【0029】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される溶媒などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は製膜方法、製膜条件等によって異なるが、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることがさらに好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVA系重合体フィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVA系重合体フィルムの製造が容易になる。
【0030】
上記した製膜原液を用いてPVA系重合体フィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、乾式による流延製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが挙げられ、乾式による流延製膜法、押出製膜法が好ましい。これらの製膜方法は1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜方法の中でも押出製膜法が、厚さおよび幅が均一で物性の良好なPVA系重合体フィルムが得られることからより好ましい。PVA系重合体フィルムには必要に応じて乾燥や熱処理を行うことができる。
【0031】
PVA系重合体フィルムを製膜する具体的な方法としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いたり、キャスト製膜法を採用したりするなどして、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いて吐出または流延された膜の他方の面を回転する加熱した第2ロール(あるいは乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、その下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
PVA系重合体フィルムを製造するための装置には、PVA系重合体フィルムを適切な状態に調整するために、熱処理装置;調湿装置;各ロールを駆動するためのモータ;変速機等の速度調整機構などが付設されることが好ましい。
【0032】
PVA系重合体フィルムの製造工程での乾燥処理における乾燥温度は50〜150℃の範囲内であることが好ましく、60〜120℃の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
本発明の位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムの厚さはあまりに薄すぎると位相差フィルムを製造するための一軸延伸の際に延伸切れが発生しやすくなったり所望の位相差値を有する位相差フィルムを得ることができなくなったりする傾向があり、またあまりに厚すぎるとやはり所望の位相差値を有する位相差フィルムを得ることができなくなる傾向があることから、15〜120μmの範囲内であることが好ましく、20〜100μmの範囲内であることがより好ましく、20〜80μmの範囲内であることがさらに好ましい。なお、PVA系重合体フィルムの厚さは任意の5箇所の厚さを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0034】
本発明の位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムの幅は特に制限されないが、位相差フィルムを製造するための一軸延伸機を用いる場合には、幅が30cm〜2mの範囲内であることが好ましく、40cm〜1.5mの範囲内であることがより好ましく、50cm〜1mの範囲内であることがさらに好ましい。
また本発明の位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムは、連続して位相差フィルムを製造することができることから長尺のフィルムであることが好ましい。このような長尺のフィルムは通常、ロールに巻かれて保管または使用することができる。PVA系重合体フィルムの長さに特に制限はないが、例えば、100〜5000mの範囲内であることが好ましく、500〜2000mの範囲内であることがより好ましい。
【0035】
本発明の位相差フィルムの原料に用いるPVA系重合体フィルムはその膨潤度が210〜225%の範囲内であることが好ましく、215〜220%の範囲内であることがより好ましい。当該PVA系重合体フィルムの膨潤度が低すぎるとフィルムが硬くなって位相差フィルムを製造する際における一軸延伸時の延伸槽での破断が発生しやすくなる。一方、膨潤度があまりに高すぎると一軸延伸をする前に当該PVA系重合体フィルムを膨潤させる場合に膨潤槽で拡幅してしわが発生して外観が不良になるとともに、光学的均質性に優れた位相差フィルムを得ることが困難になる傾向がある。PVA系重合体フィルムの膨潤度はPVA系重合体フィルムを製造する際の熱処理温度および熱処理時間を変更することで適宜調整することができ、通常、熱処理温度を高くして熱処理時間を長くすることにより膨潤度を低下させることができる。なお、PVA系重合体フィルムの膨潤度は、3mm幅に裁断した質量約3gのPVA系重合体フィルムの裁断片(試験片)を、30℃の温水中に15分間浸漬した後、3000rpmで5分間遠心脱水した後の試験片の質量(W1)と、該遠心脱水後の試験片を105℃で16時間乾燥した後の試験片の質量(W2)とから、次式により求めることができる。
膨潤度(%)=(W1)/(W2)×100
【0036】
〔位相差フィルム〕
本発明の位相差フィルムは、その幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定めた際に、当該測定地点(C)における面内位相差値が50〜1000nmの範囲内にあり、これらの範囲内で位相差フィルムの各用途に応じて適切な面内位相差値が選択される。例えば、液晶表示装置用の位相差フィルムとして、測定地点(C)における面内位相差値が150〜350nmの範囲内にあるもの、および475〜625nmの範囲内にあるものなどを挙げることができる。位相差フィルムの幅方向中央部における面内位相差値は、当該位相差フィルム全体の面内位相差値の程度を示す代表値として理解することができる。
【0037】
ここで上記面内位相差値は進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である波長540nmの光で測定した位相差値を意味し、具体的には実施例の欄において後述する方法により測定することができる。
【0038】
また本発明の位相差フィルムは、上記測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた際に、測定地点(T)における上記面内位相差値のうちの最大値と最小値の差(最大値から最小値を引いたもの)が50nm以下である。当該最大値と最小値の差が50nm以下であると位相差フィルムの幅方向全体の位相差むらが小さいため、当該位相差フィルムを液晶表示装置へ配置した際に画面全体における着色むらやコントラストむらの発生を抑制することができる。当該最大値と最小値の差が小さいほど幅方向全体の位相差むらが小さくなることから、当該最大値と最小値の差は30nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。なお、当該最大値と最小値の差の下限に特に制限はないが、位相差フィルムの製造の容易さから、当該最大値と最小値の差は、例えば、2nm以上である。当該最大値と最小値の差は、位相差フィルムの幅方向全体における面内位相差のバラツキの程度を表す指標として理解することができる。
【0039】
ここで測定地点(T)には上記測定地点(C)が含まれるものとする。また位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点については、測定地点(T)としないこととする。測定地点(T)の定め方について、例えば、幅が75cmの位相差フィルムで説明すると、まず位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め、その測定地点(C)から一方の幅方向に5cm間隔で7点の地点を定めることができるが、この7点のうち一番端にある(測定地点(C)から35cmの距離にある)地点は、位相差フィルムの端からの距離が2.5cmであるので測定地点(T)とせず、それ以外の6点を測定地点(T)とし、さらに測定地点(C)から他方の幅方向にも同様に6点の測定地点(T)とし、最終的に測定地点(C)を含めた計13点を測定地点(T)とする。
【0040】
さらに本発明の位相差フィルムは、隣接する2つの測定地点(T)における上記面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下である。すなわち、当該差の絶対値の最大値が10nm以下である。当該差の絶対値の最大値が10nm以下であると位相差フィルムを液晶表示装置へ配置した際に着色むらやコントラストむらの発生を抑制することができる。当該差の絶対値の最大値が小さいほど位相差むらが小さくなることから、当該差の絶対値の最大値は8nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。なお、当該差の絶対値の最大値の下限に特に制限はないが、位相差フィルムの製造の容易さから、当該差の絶対値の最大値は、例えば、2nm以上である。当該差の絶対値の最大値は、位相差フィルムの幅方向における局所的な面内位相差のバラツキの程度を表す指標として理解することができる。
【0041】
本発明の位相差フィルムは、上記測定地点(T)のうち、最も端にある2つの測定地点(T)(両端にある測定地点(T))のうちの一方を含むように、一軸延伸方向(幅方向に対して垂直な方向)に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に、隣接する2つの測定地点(M)における上記面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(M)において10nm以下であることが好ましい。すなわち、当該差の絶対値の最大値が10nm以下であることが好ましい。当該差の絶対値の最大値が10nm以下であると位相差フィルムを液晶表示装置へ配置した際に着色むらやコントラストむらの発生を抑制することができる。当該差の絶対値の最大値が小さいほど位相差むらが小さくなることから、当該差の絶対値の最大値は8nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。なお、当該差の絶対値の最大値の下限に特に制限はないが、位相差フィルムの製造の容易さから、当該差の絶対値の最大値は、例えば、2nm以上である。当該差の絶対値の最大値は、位相差フィルムの一軸延伸方向における局所的な面内位相差のバラツキの程度を表す指標として理解することができる。
【0042】
ここで測定地点(M)には最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方(基準となった測定地点(T))が含まれるものとする。すなわち、基準となった当該測定地点(T)は測定地点(T)でもあり測定地点(M)でもある。測定地点(M)の定め方について、先に例示した幅が75cmの位相差フィルムで説明すると、まず、先に定めた13個の測定地点(T)のうちの最も端にある2つの測定地点(位相差フィルムの一方の端からの距離が7.5cmにある地点)のうちの一方を任意に選定して基準とし、当該基準とした測定地点(T)から、一方の一軸延伸方向に5cm間隔で、基準とした当該測定地点(T)を含めて10個の測定地点(M)を定めることができる。
【0043】
PVA系重合体フィルムを一軸延伸してなる本発明の位相差フィルムの製造方法に特に制限はなく、例えば、原料に用いるPVA系重合体フィルムを、膨潤および一軸延伸し、その後、乾燥処理をすることにより製造することができる。ここで、本発明の位相差フィルムを容易に製造することができることから、原料に用いるPVA系重合体フィルムの膨潤度は210〜225%の範囲内であることが好ましい。一軸延伸の前には、PVA系重合体フィルムをホウ酸水溶液に浸漬させてもよい。また、一軸延伸されたPVA系重合体フィルムを水等を用いて洗浄してもよい。
【0044】
上記のPVA系重合体フィルムの膨潤は一軸延伸前に行うことができ、PVA系重合体フィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水に浸漬する際の水の温度としては、20〜40℃の範囲内であることが好ましく、25〜35℃の範囲内であることがより好ましく、30〜35℃の範囲内であることがさらに好ましい。また、水に浸漬する時間としては、例えば、1〜5分間の範囲内であることが好ましく、2〜3分間の範囲内であることがより好ましい。また、膨潤の際にはしわが発生しないように適宜延伸することが望ましい。
【0045】
一軸延伸の前にPVA系重合体フィルムをホウ酸水溶液に浸漬させることにより、PVA系重合体フィルムにホウ酸架橋を導入することができる。このときのホウ酸水溶液の温度および浸漬時間は特に限定されないが、例えば、40〜50℃のホウ酸水溶液に1〜2分間程度浸漬する方法を好ましく例示することができる。ホウ酸架橋を導入しない場合でも、本発明の位相差フィルムの耐湿性は良好であるが、ホウ酸架橋を導入した方が、長期保管時の面内位相差値の変化量が少ない位相差フィルムを得ることができる。長期保管時の面内位相差値の安定性を向上させるためには、位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量がホウ素換算で0.7〜2.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.7〜1.8質量%の範囲内であることがより好ましく、0.8〜1.5質量%の範囲内であることがさらに好ましい。当該ホウ素化合物の含有量とするために、上記したホウ酸水溶液中のホウ酸濃度は3質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。ホウ酸水溶液中のホウ酸濃度があまりに高すぎると、その後の一軸延伸工程において破断が多発して位相差フィルムの製造が困難になる場合がある。また得られる位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量が多過ぎると、延伸方向に裂けやすくて取り扱い性が低下したり、高温下での耐湿性が悪化したりする場合がある。一方、ホウ酸水溶液中のホウ酸濃度があまりに低すぎたり、得られる位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量が少な過ぎると、上記した長期保管時の面内位相差値の安定性の向上効果を十分に発現することができない。
【0046】
PVA系重合体フィルムの一軸延伸方法としては本発明の位相差フィルムが得られる限りどのような一軸延伸方法であってもよく、例えば、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、周速の異なる複数のロールを使用する縦一軸延伸法などの公知の一軸延伸方法を採用することができるが、本発明の位相差フィルムを容易に製造することができ、しかも、幅方向および一軸延伸方向のいずれの方向においても位相差むらの小さい位相差フィルムを得ることができることから、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組が3組以上連続して配置され、かつ隣接する当該延伸ロール間の最短距離が全ての隣接する延伸ロール間において2cm以下である構造(U)を少なくとも有する延伸装置によりPVA系重合体フィルムを気相下で一軸延伸する方法が特に好ましい。ここで、構造(U)における一軸延伸の延伸倍率は、構造(U)において一軸延伸する直前の長さに基づいて1.3〜3.0倍であることが好ましい。
【0047】
構造(U)について具体的に説明する。図1は、構造(U)を有する延伸装置の一例を示す構成概略図である。図1において、延伸槽1の底部には温水2を入れることが可能で、この温水は例えば45〜55℃になるよう制御されている。これにより、延伸エリア3の雰囲気(例えば、空気)は相対湿度が例えば50〜60%になるように維持されている。この延伸エリア3には、水平方向に並べられた、駆動装置により回転駆動される第1〜3の延伸ロール4、5、6が設けられ、第1〜3の延伸ロールのロール面にフィルムを介して密接するように、それぞれ第1〜3のニップロール7、8、9が設けられている。第1〜3のニップロール7、8、9は、それぞれフィルムを介して密接される第1〜3の延伸ロール4、5、6の回転によるフィルムの移動によって受動的に回転する構造となっている。第1の延伸ロール4と第1のニップロール7、第2の延伸ロール5と第2のニップロール8、第3の延伸ロール6と第3のニップロール9は、それぞれフィルムを挟んで送り出す一組のロールになっている。これらの延伸ロールの径はいずれも25〜35cmの範囲内にあることが好ましく、一方これらのニップロールの径はいずれも15〜25cmの範囲内にあることが好ましい。延伸ロールおよびニップロールの材質に特に制限はないが、例えば、金属製のロールにニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム等のライニングを施したもの;金属製のロールに硬質クロムメッキ等のメッキが施されたものなどを好ましく使用することができる。なお、第1〜3の延伸ロール4、5、6および第1〜3のニップロール7、8、9はいずれも温水2には接触していない。
【0048】
構造(U)においては、位相差むらの小さい位相差フィルムが容易に得られることから、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組は3組以上連続して配置されることが必要である。ここで連続して配置されるとは、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組の間に他のロールが介在していないことを意味する。また構造(U)を構成する隣接する延伸ロールはその間の最短距離が全ての隣接する延伸ロール間において2cm以下(好ましくは1.5cm以下、より好ましくは1cm以下)となるように配置されることが必要である。例えば、図1の構成概略図で説明すると、隣接している第1の延伸ロールと第2の延伸ロールの間の最短距離(各延伸ロールの周面間の最短距離)が2cm以下であるとともに、隣接している第2の延伸ロールと第3の延伸ロールの間の最短距離(各延伸ロールの周面間の最短距離)も2cm以下である。延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組が2組以下であるか、または3組が連続して配置されていたとしても隣接する延伸ロール間の最短距離の少なくとも一方が2cmよりも大きい場合には、フィルムにかかる張力が幅方向に均一にならず、得られる位相差フィルムにおいて位相差むらが大きくなる。
【0049】
構造(U)において、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組は3組以上連続して配置されていればよく、3〜7組が連続して配置されていることが好ましく、4組または5組が連続して配置されていることがより好ましい。そして構造(U)では、上記のとおり、連続して配置される上記3組以上の組において、隣接する延伸ロールはその間の最短距離が全ての隣接する延伸ロール間において2cm以下(好ましくは1.5cm以下、より好ましくは1cm以下)である。
【0050】
構造(U)を有する上記延伸装置においては、構造(U)よりも上流側および下流側の一方または両方に別のロールを有していてもよい。例えば、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組が5組連続して配置されていて、かつ隣接している第4の延伸ロールと第5の延伸ロールの間の最短距離(各延伸ロールの周面間の最短距離)のみが2cmを超えていて、その他の隣接している延伸ロール間の最短距離がいずれも2cm以下である場合には、第1〜4の延伸ロールおよびそれに付属された各ニップロールの部分が上記構造(U)に該当し、第5の延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールは構造(U)よりも下流側に配置されたロールに該当する。なお上記説明において、延伸ロールおよびニップロールのそれぞれは、上流側から下流側に向かって第1、第2・・・というように昇順に番号を付けるものとする。
【0051】
構造(U)における一軸延伸の一例について図1を基に説明する。図1において、フィルム10は構造(U)を有する延伸装置の延伸エリア3に導かれ、構造(U)を構成する各ロール(延伸ロールおよびニップロール)に以下のようにして掛け回す。すなわち、最初に、フィルム10を第1のニップロール7に約半周巻き付けながら、第1の延伸ロール4と第1のニップロール7によって挟み、そして第1の延伸ロール4に約4分の3周巻き付けた後に送り出す。次いで、フィルム10を引き出して第2の延伸ロール5に巻き付けて、第2の延伸ロール5と第2のニップロール8とで挟んだ後、再び第2の延伸ロール5に巻き付けながら下流に導く。そして、フィルム10を第3の延伸ロール6と第3のニップロール9に、S字状を呈するように巻き付けて送り出す。そして、フィルム10をフィルム導出口から送り出し、下流に送り出す。
【0052】
第1〜3の延伸ロール4、5、6は、それぞれ独立して周速度を制御して駆動することができ、第1の延伸ロール4よりも第2の延伸ロール5の周速度を大きくし、かつ第2の延伸ロール5よりも第3の延伸ロール6の周速度を大きくすることができる。これにより、フィルム10を、第1、2の延伸ロール4、5の間において一軸延伸し、第2、3の延伸ロール5、6の間でさらに一軸延伸することができる。
【0053】
上記構造(U)における一軸延伸の延伸倍率は、目的とする位相差フィルムの用途に応じて適宜調整することができる。すなわち、各用途において使用される光線の波長(λ)の1/4の値となるような位相差値を有する位相差フィルムは、1/4波長板の機能を有し、当該波長(λ)の1/2の値となるような位相差値を有する位相差フィルムは、1/2波長板の機能を有するため、目的とする位相差フィルムが得られるように延伸倍率を適宜調整すればよい。なお、一軸延伸による厚さの減少の程度にもよるが、通常は延伸倍率が高くなるほどPVA系重合体がより配向されて得られる位相差フィルムの位相差値も大きくなる。ここで、位相差値は、直交関係にある直線偏光が同位相で入射した場合の透過光の位相差を意味し、PVA系重合体フィルムの主延伸方向(MD)における屈折率(IIMD)および主延伸方向(MD)に垂直な方向(TD)における屈折率(IITD)の差(IIMD−IITD)と、位相差フィルムの厚さ(d)との積として求めることができる。
【0054】
上記構造(U)における一軸延伸の延伸倍率の具体的な値としては、構造(U)において一軸延伸する直前の長さに基づいて1.3〜3.0倍の範囲内であることが好ましく、1.4〜2.8倍の範囲内であることがより好ましく、1.3〜2.5倍の範囲内であることがさらに好ましい。当該延伸倍率が3.0倍を超える場合には、延伸時にPVA系重合体フィルムへかかる張力が幅方向で不均一になって、得られる位相差フィルムにおいて幅方向における位相差むらが大きくなる傾向があり、一方、当該延伸倍率が1.3倍未満の場合には、膨潤後のPVA系重合体フィルムが十分に配向せずに、得られる位相差フィルムにおいて延伸方向の位相差むらが大きくなる傾向がある。なお、構造(U)における一軸延伸の延伸倍率は、構造(U)において、最下流にある延伸ロールの周速度を最上流にある延伸ロール(第1の延伸ロール)の周速度で除することにより求めることができる。
【0055】
構造(U)における一軸延伸は気相下で行うことが好ましい。気相下で一軸延伸することにより位相差むらがより小さい位相差フィルムが得られる。この場合の気相を構成する気体としては、空気、窒素、酸素などが挙げられるが、さらなる設備を必要としないことから空気が好ましい。また、気相の相対湿度は40〜70%の範囲内であることが好ましく、50〜60%の範囲内であることがより好ましい。また、構造(U)における一軸延伸の際の温度は20〜40℃の範囲内であることが好ましく、25〜35℃の範囲内であることがより好ましい。
【0056】
構造(U)を少なくとも有する延伸装置などによって一軸延伸されたフィルムは、水等を用いて洗浄されることが好ましく、上記したように一軸延伸の前にPVA系重合体フィルムをホウ酸水溶液に浸漬した場合には当該洗浄を行うことが特に好ましい。洗浄は20〜25℃の水に30秒間浸漬させることにより行うのが好ましい。一軸延伸の前にホウ酸水溶液に浸漬した場合に当該洗浄を行うことでフィルム表層のホウ酸を取り除くことができ、例えば、その後の乾燥工程で使用される乾燥ロールにホウ酸が付着することを防ぐことができる。
【0057】
上記したような膨潤、ホウ酸水溶液への浸漬、一軸延伸、洗浄などの各工程を経た後、得られたフィルムを乾燥することにより位相差フィルムを得ることができる。乾燥の温度は40〜90℃の範囲内であることが好ましく、50〜80℃の範囲内であることがより好ましい。当該乾燥時間は2〜5分間の範囲内であることが好ましく、3〜4分間の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
上記した膨潤、ホウ酸水溶液への浸漬、洗浄、乾燥など、原料となるPVA系重合体フィルムから位相差フィルムを製造するまでに行う工程であって、上記した一軸延伸の工程以外の工程においては、位相差フィルムにしわが発生しないように適宜延伸を行うことができる。原料に用いたPVA系重合体フィルムが一軸延伸を経て位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率(これは位相差フィルムの長さを原料に用いたPVA系重合体フィルムの長さで除した値に相当する)は、2〜6倍の範囲内であることが好ましく、3〜5倍の範囲内であることがより好ましい。
【0059】
以上のようにして位相差むらが小さい位相差フィルムが得られる。得られた位相差フィルムの幅は原料に用いたPVA系重合体フィルムの幅や全体の延伸倍率などにもよるが25〜180cmの範囲内であることが好ましく、30〜140cmの範囲内であることがより好ましく、40〜90cmの範囲内であることがさらに好ましい。なお上記のようにして得られた位相差フィルムの両端部(耳部)は、他の部分に比べて厚くなっていることが多いため、ロール状に巻き取る際などにおいて、両端部(耳部)を3cm程度カットすることが好ましい。
【0060】
上記のようにして得られた位相差フィルムの厚さは8〜20μmの範囲内であることが好ましく、10〜15μmの範囲内であることがより好ましい。位相差フィルムの厚さが8μm未満の場合には取り扱い性が悪くなる傾向があり、20μmを超える場合には膜厚むらが相対的に大きくなって位相差むらが大きくなる傾向がある。なお、位相差フィルムの厚さは任意の5箇所の厚さを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0061】
本発明の位相差フィルムは、130℃で10分間熱処理した後の測定地点(C)における面内位相差値と、当該熱処理後、さらに80℃、70%RHの雰囲気下に20分間静置した後の測定地点(C)における面内位相差値との差の絶対値が10nm以下であることが好ましく、特に5nm以下であることがより好ましい。当該絶対値が上記範囲にあることにより高温高湿下での位相差変化をより低減させることができ、液晶画像の表示むらがより少ない液晶表示装置を得ることができる。当該絶対値を上記範囲とする観点からは位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量を低下させるのがよく、具体的にはホウ素換算で0.5質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以下とすることがより好ましい。但し、上述したように長期保管時の面内位相差値の安定性を向上させるためには位相差フィルムはホウ素化合物をある程度含有するのが好ましく、ホウ素化合物の含有量は位相差フィルムの用途に応じて適宜調整すればよい。
【0062】
本発明の位相差フィルムは、その機械的強度、耐久性をさらに向上させるために、その片面または両面に支持フィルムを積層して位相差板としてもよい。支持フィルムとしては光学異方性の小さなプラスチックフィルムを用いることができ、その例としては、例えば、酢酸セルロース系フィルム、アクリル系フィルム等が挙げられ、これらの中でも、表面を部分けん化した三酢酸セルロースフィルムが特に好ましい。
【0063】
本発明の位相差フィルムやそれから製造される位相差板の用途に特に制限はなく、例えば、電子卓上計算機、ワープロ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、立体メガネ、表示素子用反射低減層などに用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において採用された位相差フィルムの面内位相差むら、高温下での耐湿性、取り扱い性、長期保管時の面内位相差値の安定性、外観および位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量の各測定または評価方法を以下に示す。
【0065】
[面内位相差値]
大塚電子株式会社製 セルギャップ検査装置「RETS−1100」を用いて、540nmの単色光での面内位相差値を測定した。具体的には、以下の実施例または比較例で得られた位相差フィルムの幅方向中央部の任意の一点に測定地点(C)を定め、さらに当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた。但し、位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)とはしなかった。また、上記の測定地点(T)のうち、最も端にある2つの測定地点の一方を基準とし、当該基準とした測定地点(T)から一方の一軸延伸方向に5cm間隔で、基準とした当該測定地点(T)を含めて10個の測定地点(M)を定めた。そして、各測定地点における面内位相差値を測定した。なお、測定地点(C)における面内位相差値をRとし、測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における面内位相差値のうちの最大値と最小値の差をRaとし、隣接する2つの測定地点(T)における面内位相差値の差の絶対値のうちの最大値をRbとし、隣接する2つの測定地点(M)における面内位相差値の差の絶対値のうちの最大値をRcとした。
【0066】
[高温下での耐湿性]
以下の実施例または比較例で得られた位相差フィルムの幅方向の中央部から、一軸延伸方向12cm×幅方向2cmの長方形の試験用フィルムを切り出した。次に、ガラス等に貼り合わせた時の位相差変化を想定して、両端にクリップを用いて200gの重りをつけた後、130℃の乾燥機中に設置された曲率半径5cmで湾曲させた鉄板上(サイズ30cm×35cmの鉄板の長辺が曲線となるように曲げ、湾曲部(凸部)を上部とした)に試験用フィルムを密着させるように置いて10分間熱処理を行った。熱処理後の試験用フィルムの中央部(これは上記した測定地点(C)に対応する)の面内位相差値(R1)を上記したのと同様の方法により測定した。さらに、当該熱処理後の試験用フィルムを一軸延伸方向の長さが変化しないように幅方向の2辺のみを金属枠へ固定し、80℃、70%RHの雰囲気下に20分間静置した後、試験用フィルムの中央部の面内位相差値(R2)を上記したのと同様の方法により測定した。R1とR2の差の絶対値をR3とした。
【0067】
[取り扱い性]
上記の高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性を以下の基準により評価した。
○・・・問題なし
△・・・作業性が若干悪いが、実用上問題なし
×・・・延伸方向への裂けやしわが発生し、取り扱い性不良
【0068】
[長期保管時の面内位相差値の安定性]
以下の実施例または比較例で得られた位相差フィルムの上記測定地点(C)における面内位相差値と、20℃、65%RHの雰囲気下に6ヶ月間保管した後の上記測定地点(C)における面内位相差値との差の絶対値(長期保管時の面内位相差値の変化量)を求め、面内位相差値の安定性を評価した。
【0069】
[外観]
以下の実施例または比較例で得られた位相差フィルムを巻き取ったロールの外観を目視により観察し、以下の基準により外観を評価した。
○・・・しわがなく、問題なし
×・・・しわがあり、実用上問題あり
【0070】
[位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量]
以下の実施例または比較例で得られた位相差フィルムのホウ素原子の含有量を酸素フラスコ燃焼法により前処理を行った後、ジャーレルアッシュ社製 ICP発光分析装置(IRIS−AP)を用いて測定し、位相差フィルム中のホウ素化合物の含有量をホウ素換算値(ホウ素原子換算値)として求めた。測定条件は、出力:1150W、補助ガス流量(Ar):0.5L/分、ネブライザー流量(Ar):26.00spi、ポンプ回転数:130rpmとした。
【0071】
[実施例1]
ポリ酢酸ビニルをけん化して得られたPVAとグリセリンとからなるPVAフィルム原反(PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、グリセリンの含有量12質量%、PVAフィルムの厚さ40μm、PVAフィルムの幅65cm、ロール形状(長さ1000m)、膨潤度218%)を35℃の水を入れた膨潤槽に2分間浸漬して膨潤させた。膨潤時の延伸倍率は1.8倍とした。次いで、図1に示したような3本の金属製の延伸ロール(直径はいずれも30cm)とそれらに付属された表面がゴム製のニップロール(直径はいずれも20cm)から構成される延伸装置によって、30℃、50%RHの空気中で延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)2.3倍で一軸延伸を行った後、50℃で3分間乾燥し、両端よりそれぞれ3cmずつ耳部を切り取った後ロール状に巻き取って、厚さ12μm、幅47cmの位相差フィルムを連続的に製造した。上記延伸装置において、第1の延伸ロールと第2の延伸ロールとの間の最短距離および第2の延伸ロールと第3の延伸ロールとの間の最短距離はいずれも1cmとした。また、延伸装置の延伸槽には50℃の温水を入れておいた。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は4.1倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは243nm、Raは38nm、Rbは9nm、Rcは4nm、R1は297nm、R2は294nm、R3は3nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は17nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0072】
[実施例2]
膨潤時の延伸倍率を1.5倍とし、膨潤後にホウ酸を2質量%含む40℃のホウ酸水溶液へ1分間浸漬した後、延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)2.5倍で一軸延伸を行い、その後25℃の水で20秒間洗浄したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ12μm、幅47cm、ホウ素化合物の含有量(ホウ素換算値)1.38質量%の位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は3.8倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは257nm、Raは21nm、Rbは10nm、Rcは5nm、R1は267nm、R2は292nm、R3は25nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は3nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0073】
[実施例3]
膨潤時の延伸倍率を1.9倍とし、延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)1.6倍で一軸延伸したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ15μm、幅49cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は3.0倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは198nm、Raは6nm、Rbは6nm、Rcは5nm、R1は222nm、R2は217nm、R3は5nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は11nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0074】
[比較例1]
膨潤時の延伸倍率を1.5倍とし、また延伸装置として第1〜3の延伸ロールとそれらに付属された第1〜3のニップロール、第1の延伸ロールおよび第2の延伸ロールの間に配置された2つのガイドロール(両ガイドロール間の最短距離は50cm)、ならびに第2の延伸ロールおよび第3の延伸ロールの間に配置された2つのガイドロール(両ガイドロール間の最短距離は50cm)を有する延伸装置によって、45℃の水中で延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)2.8倍で行い、その後の巻き取りまでの延伸倍率を1.1倍としたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ11μm、幅32cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は4.6倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは230nm、Raは114nm、Rbは72nm、Rcは12nm、R1は280nm、R2は268nm、R3は12nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は15nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0075】
[比較例2]
第1の延伸ロールと第2の延伸ロールとの間の最短距離および第2の延伸ロールと第3の延伸ロールとの間の最短距離をいずれも10cmにしたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ12μm、幅42cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は4.1倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは248nm、Raは52nm、Rbは13nm、Rcは12nm、R1は292nm、R2は281nm、R3は11nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は13nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0076】
[比較例3]
第3の延伸ロールと第3のニップロールとの間をあけて第3のニップロールがニップロールとして機能しないようにし、第1および2の延伸ロールおよびそれらに付属された第1および2のニップロールによって一軸延伸したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ12μm、幅44cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は4.1倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは248nm、Raは65nm、Rbは20nm、Rcは12nm、R1は288nm、R2は277nm、R3は11nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は15nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0077】
[比較例4]
空気中で一軸延伸する代わりに40℃の水中で一軸延伸したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ14μm、幅44cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は4.1倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは258nm、Raは50nm、Rbは22nm、Rcは11nm、R1は282nm、R2は268nm、R3は14nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は13nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0078】
[比較例5]
ポリ酢酸ビニルをけん化して得られたPVAとグリセリンとからなるPVAフィルム原反(PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、グリセリンの含有量12質量%、PVAフィルムの厚さ40μm、PVAフィルムの幅65cm、ロール形状(長さ1000m)、膨潤度207%)を使用し、膨潤槽の水の温度を45℃にするとともに膨潤時の延伸倍率を1.5倍とし、延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)3.0倍で一軸延伸したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ9μm、幅48cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は4.5倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは248nm、Raは30nm、Rbは23nm、Rcは11nm、R1は280nm、R2は268nm、R3は12nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は11nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0079】
[比較例6]
ポリ酢酸ビニルをけん化して得られたPVAとグリセリンとからなるPVAフィルム原反(PVAの重合度2400、PVAのけん化度99.9モル%、グリセリンの含有量12質量%、PVAフィルムの厚さ40μm、PVAフィルムの幅65cm、ロール形状(長さ1000m)、膨潤度230%)を使用したこと以外は実施例1と同様に一軸延伸を行ったが、膨潤槽にて幅方向に拡幅し、しわのある外観に劣る位相差フィルムしか得ることができなかったため、その他の評価を実施しなかった。
【0080】
[比較例7]
延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)1.2倍で一軸延伸したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ36μm、幅52cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は2.2倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは236nm、Raは26nm、Rbは11nm、Rcは13nm、R1は252nm、R2は248nm、R3は4nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は11nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0081】
[比較例8]
延伸倍率(第3の延伸ロールの周速度を第1の延伸ロールの周速度で除して得られた倍率)4.0倍で一軸延伸したこと以外は実施例1と同様にして、厚さ8μm、幅40cmの位相差フィルムを連続的に製造した。使用したPVAフィルム原反が位相差フィルムになるまでの全体の延伸倍率は7.2倍であった。
得られた位相差フィルムのR、Ra、RbおよびRc、ならびにR1、R2およびR3を上記した方法により求めたところ、Rは273nm、Raは65nm、Rbは22nm、Rcは14nm、R1は290nm、R2は285nm、R3は5nmであった。また、高温下での耐湿性の評価において試験用フィルムを切り出した時の取り扱い性に問題はなかった。さらに、長期保管時の面内位相差値の変化量は11nmであり、位相差フィルムを巻き取ったロールはしわがなく外観に問題はなかった。
【0082】
以上の結果を表1にまとめた。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、位相差むらが小さく光学的均質性に優れた位相差フィルムが得られ、当該位相差フィルムを用いて着色むらやコントラストむらの発生が抑制された液晶表示装置を得ることができる。そのため、本発明の位相差フィルムは、これらの特性を活かして、光学フィルターや液晶表示装置をはじめとする各種光学用途に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 延伸槽
2 温水
3 延伸エリア
4 第1の延伸ロール
5 第2の延伸ロール
6 第3の延伸ロール
7 第1のニップロール
8 第2のニップロール
9 第3のニップロール
10 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系重合体フィルムを一軸延伸してなる位相差フィルムであって、当該位相差フィルムの幅方向中央部の一点に測定地点(C)を定め、当該測定地点(C)を含むように幅方向に5cm間隔で幅方向全体にわたり複数の測定地点(T)を定めた際に(但し、位相差フィルムの端から3cm以内の距離にある地点は測定地点(T)としないこととする)、
(1)測定地点(C)における以下の面内位相差値が50〜1000nmであり、
(2)測定地点(C)を含む全ての測定地点(T)における以下の面内位相差値のうちの最大値と最小値の差が50nm以下であり、
(3)隣接する2つの測定地点(T)における以下の面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(T)において10nm以下である、
位相差フィルム。
面内位相差値:進行方向が位相差フィルムの厚さ方向である波長540nmの光で測定した位相差値。
【請求項2】
前記測定地点(T)のうち、最も端にある2つの測定地点(T)のうちの一方を含むように、一軸延伸方向に5cm間隔で10個の測定地点(M)を定めた際に、
(4)隣接する2つの測定地点(M)における前記面内位相差値の差の絶対値が、全ての隣接する2つの測定地点(M)において10nm以下である、
請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
膨潤度が210〜225%のポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料に用いて製造される位相差フィルムである、請求項1または2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
厚さが8〜20μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
厚さが15〜120μmのポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料に用いて製造される位相差フィルムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
130℃で10分間熱処理した後の前記測定地点(C)における面内位相差値と、当該熱処理後、さらに80℃、70%RHの雰囲気下に20分間静置した後の前記測定地点(C)における面内位相差値との差の絶対値が10nm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
位相差フィルムがホウ素化合物を含み、ホウ素化合物の含有量がホウ素換算で0.7〜2.0質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項8】
膨潤度が210〜225%のポリビニルアルコール系重合体フィルムを原料に用いる位相差フィルムの製造方法であって、延伸ロールおよびそれに付属されたニップロールの組が3組以上連続して配置され、かつ隣接する当該延伸ロール間の最短距離が全ての隣接する延伸ロール間において2cm以下である構造(U)を少なくとも有する延伸装置によりポリビニルアルコール系重合体フィルムを気相下で一軸延伸する工程を有し、構造(U)における一軸延伸の延伸倍率が延伸前の長さに基づいて1.3〜3.0倍である、位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記原料に用いるポリビニルアルコール系重合体フィルムの厚さが15〜120μmである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
厚さが8〜20μmの位相差フィルムの製造方法である、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記構造(U)における一軸延伸の前に、ポリビニルアルコール系重合体フィルムをホウ酸濃度3質量%以下のホウ酸水溶液に浸漬させる工程をさらに有する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−203537(P2011−203537A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71325(P2010−71325)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】