説明

位相差層形成用塗工液、位相差光学積層体、および、位相差光学積層体の製造方法

【課題】本発明は、任意の光学基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成することが可能な位相差層形成用塗工液を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成するために用いられる位相差層形成用塗工液であって、光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物と、上記樹脂および上記棒状化合物を溶解する溶媒とを含むことを特徴とする位相差層形成用塗工液を提供することにより、上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等に用いられる位相差光学積層体の位相差層を形成するために用いられる位相差層形成用塗工液に関するものであり、より詳しくは任意の基材上に塗布することにより光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差層を形成することができる位相差層形成用塗工液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、その省電力、軽量、薄型等といった特徴を有することから、従来のC
RTディスプレイに替わり、近年急速に普及している。一般的な液晶表示装置としては、図3に示すように、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものを挙げることができる。偏光板102Aおよび102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光(図中、矢印で模式的に図示)のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102Aと102Bとの間に配置されている。
【0003】
液晶表示装置は、液晶セルを構成する液晶分子の配列形態により種々の方式のものが実用化されているが、近年ではVA(Vertical Alignment)方式が主流となってきている。このようなVA方式の液晶表示装置は、主として液晶テレビ用途に広く用いられるに至っている。
【0004】
上記VA方式の液晶表示装置に用いられる液晶セルにおいては、液晶分子が垂直配向していることから、液晶セル全体としては正のCプレートとして作用する光学特性を備えることになる。例えば、図3に示す液晶表示装置100の液晶セル104がこのような光学特性を備えるとすると、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光は、液晶セル104のうち非駆動状態のセル部分を透過する際に、位相シフトされずに透過し、出射側の偏光板102Bで遮断される。これに対し、液晶セル104のうち駆動状態のセル部分を透過する際には、直線偏光が位相シフトされ、この位相シフト量に応じた量の光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される。したがって、液晶セル104の駆動電圧をセル毎に適宜制御することにより、出射側の偏光板102B側に所望の画像を表示することができる。なお、液晶表示装置100としては、上述したような光の透過および遮断の態様をとるものに限らず、液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分から出射された光が出射側の偏光板102Bを透過して出射される一方で、駆動状態のセルの部分から出射された光が出射側の偏光板102Bで遮断されるように構成された液晶表示装置も考案されている。
【0005】
ところで、上述したようなVA方式の液晶セル104のうち非駆動状態のセルの部分を直線偏光が透過する場合を考えると、液晶セル104は上述したような正のCプレートとして作用する光学特性を有しているので、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光のうち液晶セル104の法線に沿って入射した光は位相シフトされずに透過するものの、入射側の偏光板102Aを透過した直線偏光のうち液晶セル104の法線から傾斜した方向に入射した光は液晶セル104を透過する際に位相差が生じて楕円偏光となる。なお、液晶セル104を透過する光(透過光)に対して生じる位相差の大きさは、液晶セル104内に封入された液晶分子の複屈折値や、液晶セル104の厚さ、透過光の波長等にも影響される。
【0006】
以上の現象により、液晶セル104内のあるセルが非駆動状態であり、本来的には直線偏光がそのまま透過され、出射側の偏光板102Bで遮断されるべき場合であっても、液晶セル104の法線から傾斜した方向に出射された光の一部が出射側の偏光板102Bから洩れてしまうことになる。このため、上述したような従来の液晶表示装置100においては、正面から観察される画像に比べて、液晶セル104の法線から傾斜した方向から観察される画像の表示品位が低下することが原因で悪化するという問題(視野角依存性の問題)があった。
【0007】
このような液晶表示装置における視野角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その代表的な方法として所定の複屈折率を有する位相差フィルムを用いる方法がある。このような位相差フィルムを用いて視野角依存性の問題を改善する方法は、液晶セルの種類に応じて位相差フィルムの複屈折率を変更することにより、様々の光学特性を有する液晶セルを用いた液晶表示装置の視野角依存性の問題を改善できる点において有用である。なかでも、上記VA方式の液晶セルを有する液晶表示装置の視野角依存性を改善する方法としては、光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムを用いることにより、上記VA方式の液晶セルが有する光学的に正のCプレートとしての性質を相殺する方法が、簡便に上記視野角依存性の問題を改善できる方法として広く用いられている。
【0008】
上記光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムとしては、例えば特許文献1または特許文献2に開示されているような、コレステリック規則性の分子構造を有する位相差層(複屈折性を示す位相差層)を配向層を有する基材上に形成した位相差フィルムや、特許文献3には開示されているような、円盤状化合物からなる位相差層(複屈折性を示す位相差層)を配向層を有する基材上に形成した位相差フィルムが広く用いられている。
【0009】
このような状況において、近年、上記液晶表示装置の視野角依存性の改善に用いられる位相差フィルムには、単一の光学的性質を有するものではなく、複数の光学的性質を有するものが求められている。例えば、上記VA方式の液晶セルを採用した液晶表示装置においては、光学的に負のCプレートとしての性質と、光学的にAプレートとしての性質を併有するものが求められている。しかしながら、上述したように従来の光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムは、コレステリック規則性を有する液晶性化合物や、円盤状化合物を規則的に配列することにより光学的に負のCプレートとしての性質を発現するものであるため、上記液晶性化合物や円盤状化合物を規則的に配列させるための配向層を必須の構成としていた。このため、配向層を形成することができない基材上には、光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成できなかった。したがって、従来の位相差フィルムでは、使用可能な基材の種類に制約があり、任意に複数の光学的性質を有する位相差フィルムを形成することができないという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特開平3−67219号公報
【特許文献2】特開平4−322223号公報
【特許文献3】特開平10−312166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、任意の基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成することが可能な位相差層形成用塗工液を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成するために用いられる位相差層形成用塗工液であって、光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物と、上記樹脂および上記棒状化合物を溶解する溶媒とを含むことを特徴とする位相差層形成用塗工液を提供する。
【0013】
本発明の位相差層形成用塗工液によれば、任意の基材上に塗布した際に、上記樹脂がランダムに分布するため、上記棒状化合物が光学的に負のCプレートとしての性質を発現する配列状態を形成することができる。このため、本発明の位相差層形成用塗工液は、上記棒状化合物を配列させるための配向膜を有さない基材に塗布された場合であっても、上記棒状化合物が光学的に負のCプレートとしての性質を発現する配列状態を形成することができる。したがって、本発明によれば任意の基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差層を形成することができる。
【0014】
上記発明においては、上記棒状化合物の含有量が、上記樹脂100重量部に対して10重量部〜200重量部の範囲内であることが好ましい。上記棒状化合物の含有量が上記範囲内であることにより、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層の透明性を向上することができるからである。
【0015】
また上記発明においては、上記棒状化合物が重合性官能基を有するものであることが好ましい。上記棒状化合物が重合性官能基を有することにより、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層の機械強度を向上させることができるからである。
【0016】
また上記発明においては、上記棒状化合物が液晶性材料であることが好ましい。上記棒状化合物が液晶性材料であることにより、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層を、単位厚み当たりの光学特性の発現性に優れたものにできるからである。
【0017】
さらに上記発明においては、上記樹脂がトリアセチルセルロースであることが好ましい。上記樹脂がトリアセチルセルロースであることにより、上記棒状化合物が光学的に負のCプレートとしての性質を発現する配列状態を形成し易くなるからである。
【0018】
本発明は、光学基材と、上記光学基材上に形成された位相差層とを有する位相差光学積層体であって、上記位相差層が光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すことを特徴とする位相差光学積層体を提供する。
【0019】
本発明によれば、上記位相差層が光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すことにより、上記光学基材の種類に関わらず、光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差光学積層体を得ることができる。また、上記位相差層に上記樹脂が含まれることにより、上記基材と上記位相差層との密着性に優れた位相差光学積層体を得ることができる。
【0020】
上記発明においては、上記位相差層における上記棒状化合物の含有量が、上記樹脂100重量部に対して、10重量部〜200重量部の範囲内であることが好ましい。上記棒状化合物の含有量が上記範囲内であることにより、上記位相差層の透明性を向上することができるからである。
【0021】
また上記発明においては、上記位相差層が選択反射波長を有さないことが好ましい。上記位相差層が、選択反射波長を有さないことにより、例えば、本発明の位相差光学積層体を液晶表示装置用の視野角補償板として用いた場合に、位相差層の選択反射に起因する表示品質の低下を防止することができるからである。
【0022】
また上記発明においては、上記光学基材と、上記位相差層との間にハードコート層を有することが好ましい。上記光学基材と、上記位相差層との間に上記ハードコート層を有することにより、本発明に用いられる光学基材の種類に関わらず、ヘイズの少ない位相差光学積層体を作製することができるからである。
【0023】
さらに上記発明においては、上記光学基材が光学的にAプレートとしての性質を有することが好ましい。上記光学基材が光学的にAプレートとしての性質を有することにより、本発明の位相差光学積層体を光学的に負のCプレートとしての性質と、Aプレートとしての性質とを有するものにできるからである。
【0024】
本発明は、位相差層形成用塗工液を塗布することにより、光学基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成する位相差層形成工程を有する、位相差光学積層体の製造方法であって、
上記位相差層形成用塗工液が、上記本発明に係る位相差層形成用塗工液であることを特徴とする位相差光学積層体の製造方法を提供する。
【0025】
本発明によれば、上記位相差層形成用塗工液が、上記本発明に係る位相差層形成用塗工液であることにより、上記光学基材の種類を問わず、光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差光学積層体を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の位相差層形成用塗工液は、任意の光学基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の位相差層形成用塗工液、位相差光学積層体、および、位相差光学積層体の製造方法について詳細に説明する。
【0028】
A.位相差層形成用塗工液
まず、本発明の位相差層形成用塗工液について説明する。本発明の位相差層形成用塗工液は、光学的に負のCプレートとしての性質(以下、「マイナスC性」と称する場合もある。)を示す位相差層を形成するために用いられるものであって、光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物と、上記樹脂および上記棒状化合物を溶解する溶媒とを含むことを特徴とするものである。
【0029】
本発明の位相差層形成用塗工液は、光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物とを含むことを特徴とし、このような特徴を有することにより任意の基材上にマイナスC性を有する位相差層を形成することができるものである。本発明の位相差層形成用塗工液が光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物とを含むことにより、任意の基材上にマイナスC性を有する位相差層を形成することができる理由は明確ではないが、次のような理由に基づくものと考えられる。すなわち、本発明の位相差層形成用塗工液を任意の基材上に塗布することによって位相差層を形成した場合、形成された位相差層における上記樹脂の配列状態は、位相差層の平面方向においてはランダムに分布するが、位相差層の厚み方向においては位相差層の平面方向と平行な方向に配列し、いわゆる面内配向を形成していると考えられる。また、上記屈折率異方性を有する棒状化合物は、「棒状」であることから、分子形状に異方性を有するものであるため、分子形状の長軸方向が上記樹脂の配列方向に沿うように配列する傾向を有するものと考えられる。
したがって、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて位相差層を形成した場合、形成された位相差層において上記のように配列した上記樹脂に沿って、上記棒状化合物が配列することによりマイナスC性を示す位相差層を形成することができると考えられる。
【0030】
従来、液晶表示装置用光学補償板等に用いられてきた位相差フィルムは、位相差層において液晶性材料に代表される棒状化合物や、円盤状化合物を規則的に配列させることにより所望の光学的特性を発現してきた。このため、従来の位相差フィルムにおいては、上記棒状化合物や円盤状化合物を規則的に配列させるために、これらの化合物に対する配向能力を有する配向層を必須の構成としていた。これにより、例えば、上記配向層を形成することができない基材上に所望の光学的特性を発現する位相差層を形成することが困難であるという問題があった。
【0031】
本発明の位相差層形成用塗工液によれば、上記光学的等方性を有する樹脂が、上記屈折率異方性を有する棒状化合物を配列させる機能を有すると考えられるため、配向層と位相差層とが一体となった形態の位相差層を形成することが可能である。したがって、本発明の位相差層形成用塗工液によれば任意の基材上にマイナスC性を示す位相差層を形成することができる。
【0032】
ここで、本発明において、上記「光学的負のCプレートとしての性質(マイナスC性)」を有するとは、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成した位相差層の厚み方向のレターデーション(以下、「Rth」と称する場合もある。)が、10nm以上であることを意味するものである。上記Rthは、位相差層の面内における進相軸方向(屈折率が最も小さい方向)の屈折率Nx、および、遅相軸方向(屈折率が最も大きい方向)の屈折率Nyと、厚み方向の屈折率Nzと、位相差フィルムの厚みdとにより、Rth={(Nx+Ny)/2−Nz}×dの式で表される値である。なお、本発明に用いるRthは、上記式で表されるRthの絶対値を用いるものとする。また、本発明におけるRthは、特に説明をしない限りは、波長589nmにおける値を示すものとする。
【0033】
本発明の位相差層形成用塗工液は、光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物と、上記樹脂および上記棒状化合物を溶解する溶媒とを含むものである。以下、本発明の位相差層形成用塗工液の各構成について詳細に説明する。
【0034】
1.屈折率異方性を有する棒状化合物
まず、本発明に用いられる屈折率異方性を有する棒状化合物(以下、単に「棒状化合物」と称する場合もある。)について説明する。本発明において上記「屈折率異方性を有する」とは、棒状化合物の分子形状の長軸方向と短軸方向とで屈折率が異なることにより複屈折率を示すことを意味するものである。また、上記「棒状化合物」とは棒状の主骨格を有する化合物であることを意味するものである。
【0035】
本発明の位相差層形成用塗工液における棒状化合物の含有量としては、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて、所望のマイナスC性を発現できる位相差層を形成できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては上記棒状化合物の含有量が、後述する光学的等方性を有する樹脂100重量部に対して、10重量部〜200重量部の範囲内であることが好ましく、なかでも、30重量部〜170重量部の範囲内であることが好ましく、特に30重量部〜150重量部の範囲内であることが好ましい。棒状化合物の含有量が上記範囲よりも少ないと、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて所望のマイナスC性を有する位相差層を形成できない場合があるからである。また、上記範囲よりも多いと、棒状化合物の種類によっては、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成した位相差層の機械強度を所定の範囲にすることができない可能性があるからである。
【0036】
本発明に用いられる棒状化合物は、棒状の主骨格を有する化合物であって、上記複屈折率を有するものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、分子量が比較的小さい化合物が好適に用いられる。具体的には、分子量が200〜1200の範囲内、特に400〜800の範囲内の化合物が好適に用いられる。分子量が上記範囲内であることにより、例えば、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて、任意の基材上に位相差層を形成した場合に、樹脂の構造にはまりやすく、位相差性を発現しやすくなるからである。
なお、後述する上記棒状化合物が重合性官能基を有する材料に関する上記分子量については、重合前の分子量を示すものとする。
【0037】
また、本発明に用いられる棒状化合物としては、液晶性を示す液晶性材料であることが好ましい。棒状化合物が液晶性材料であることにより、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される上記位相差層を、単位厚み当たりの光学特性の発現性に優れたものにできるからである。また、本発明に用いられる棒状化合物は、上記液晶性材料の中でもネマチック相を示す液晶性材料であることが好ましい。ネマチック相を示す液晶性材料は、配向させることが比較的容易だからである。
【0038】
さらに、上記ネマチック相を示す液晶性材料は、メソゲン両端にスペーサを有する分子であることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有する液晶性材料は、柔軟性に優れるため、本発明における位相差層が白濁することを効果的に防止することができるからである。
【0039】
本発明に用いられる棒状化合物は、分子内に重合性官能基を有するものが好適に用いられ、なかでも3次元架橋可能な重合性官能基を有するものが好ましい。上記棒状化合物が重合性官能基を有することにより、上記棒状化合物を重合して硬化することが可能になるため、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成した位相差層の機械強度を向上することが可能になるからである。本発明においては上記重合性官能基を有する棒状化合物と、上記重合性官能基を有さない棒状化合物とを混合して用いても良い。
なお、上記「3次元架橋」とは、液晶性分子を互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることを意味する。
【0040】
上記重合性官能基としては、紫外線、電子線等の電離放射線、或いは熱の作用によって重合する各種重合性官能基が用いられる。これら重合性官能基の代表例としては、ラジカル重合性官能基、或いはカチオン重合性官能基等が挙げられる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例としては、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。又、カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等が挙げられる。その他、重合性官能基としては、例えば、イソシアネート基、不飽和3重結合等が挙げられる。これらの中でもプロセス上の点から、エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。
【0041】
本発明における棒状化合物は、液晶性を示す液晶性材料であって、末端に上記重合性官能基を有するものが特に好ましい。例えば両末端に重合性官能基を有するネマチック液晶性材料を用いれば、互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができ、配列安定性を備え、かつ、光学特性の発現性に優れた位相差層を得ることができる。また、片末端に重合性官能基を有するものであっても、他の分子と架橋して配列安定化することができる。このような棒状化合物として、下記式(1)〜(6)で表される化合物を例示することができる。
【0042】
【化1】

【0043】
ここで、化学式(1)、(2)、(5)および(6)で示される液晶性材料は、D.J.Broerら、Makromol.Chem.190,3201−3215(1989)、またはD.J.Broerら、Makromol.Chem.190,2250(1989)に開示された方法に従い、あるいはそれに類似して調製することができる。また、化学式(3)および(4)で示される液晶性材料の調製は、DE195,04,224に開示されている。
【0044】
また、末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性材料の具体例としては、下記化
学式(7)〜(17)に示すものも挙げられる。
【0045】
【化2】

【0046】
なお、本発明において上記棒状化合物は、1種類のみを用いてもよく、または、2種類以上を混合して用いても良い。2種類以上を混合して用いる態様としては、例えば、両末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶性材料と、片末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶性材料とを混合して用いる態様を挙げることができる。このような態様は両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び光学特性を任意に調整できる点から好ましい。
【0047】
2.光学的等方性を有する樹脂
次に、本発明に用いられる光学的等方性を有する樹脂(以下、単に「樹脂」と称する場合もある。)について説明する。本発明に用いられる樹脂は光学的等方性を有するものである。
【0048】
本発明に用いられる樹脂は、上記光学的等方性を有するものであれば特に限定されるものではなく、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて位相差層が形成される基材との密着性等を考慮して任意に決定すればよい。また、本発明に用いられる樹脂は、1種類のみでも良く、または、2種類以上を混合して用いても良い。
【0049】
本発明においては上記樹脂としてセルロース誘導体を用いることが好ましい。セルロース誘導体は光学等方性に優れるからである。本発明に用いられるセルロース誘導体としては、セルロースエステル類を用いることが好ましく、さらに、セルロースエステル類の中では、セルロースアシレート類を用いることが好ましい。セルロースアシレート類は工業的に広く用いられていることから、入手容易性の点において有利だからである。
【0050】
上記セルロースアシレート類としては、炭素数2〜4の低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸エステルとしては、例えばセルロースアセテートのように、単一の低級脂肪酸エステルのみを含むものでもよく、また、例えばセルロースアセテートブチレートやセルロースアセテートプロピオネートのように複数の脂肪酸エステルを含むものであっても良い。
【0051】
本発明においては、上記低級脂肪酸エステルの中でもセルロースアセテートを特に好適に用いることができる。セルロースアセテートとしては、平均酢化度が57.5〜62.5%(置換度:2.6〜3.0)のトリアセチルセルロースを用いることが好ましい。酢化度がこのような範囲内であることにより、トリアセチルセルロースをより光学的等方性に優れたものにできるからである。ここで、上記酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味し、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算により求めることができる。
【0052】
本発明の位相差層形成用塗工液の固形分中における上記樹脂の含有量としては、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層の機械強度を所望の範囲にできれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、3質量%〜15質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも3質量%〜12質量%の範囲内であることが好ましく、特に3質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。上記樹脂の含有量が上記範囲よりも少ないと、上記棒状化合物の配向性が低下し、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層に所望光学的特性を付与できない可能性があるからである。また、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて基材上に位相差層を形成した場合に、基材と位相差層との密着性が低下する可能性があるからである。一方、上記樹脂の含有量が上記範囲よりも多いと、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層に所望の光学的性質を付与できない可能性があるからである。
【0053】
3.溶媒
次に、本発明に用いられる溶媒について説明する。本発明に用いられる溶媒は、上記棒状化合物と、上記樹脂とを所望の濃度に溶解できるものであれば特に限定されるものではない。本発明においては、上記溶媒として1種類のみを用いても良く、または、2種類以上を混合した混合溶媒を用いても良い。
【0054】
本発明に用いられる溶媒は、本発明の位相差層形成用塗工液を用いて位相差層を形成する基材の種類に応じて、上記基材を溶解しないものを用いることが好ましい。
【0055】
本発明に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、シクロヘキサン等のアノン系溶媒、メタノール、エタノール、およびプロパノール等のアルコール系溶媒を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0056】
4.位相差層形成用塗工液
本発明においては、上記棒状化合物、上記樹脂、および、上記溶媒以外の他の構成を有しても良い。本発明に用いられる上記他の構成としては、例えば、重合開始剤、重合禁止剤等を挙げることができる。
【0057】
上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。本発明では、これらの光重合開始剤を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
さらに、上記光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始助剤を併用することができる。このような光重合開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の3級アミン類や、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミド安息香酸エチル等の安息香酸誘導体を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0059】
上記重合禁止剤としては、例えば、ジフェニルピクリルヒドラジド、トリ−p−ニトロフェニルメチル,p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、ピクリン酸、塩化銅、メチルハイドロキノン、メトキノン、tert−ブチルハイドロキノン等の反応の重合禁止剤を用いることができるが、なかでも保存安定性の点からハイドロキノン系重合禁止剤が好ましく、メチルハイドロキノンを用いるのが特に好ましい。
【0060】
本発明の位相差層形成用塗工液には、本発明の目的を損なわない範囲内で、下記に示すような化合物を添加することができる。添加できる化合物としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸を縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミノ基エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物等が挙げられる。上記位相差層形成用塗工液に対するこれら化合物の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で決定することができる。上記のような化合物を添加することにより本発明の位相差層形成用塗工液を用いて形成される位相差層の機械強度が向上し、安定性が改善される場合がある。
【0061】
さらに、本発明の位相差層形成用塗工液には、上記以外にレベリング剤、シランカップリング剤等を含んでも良い。
【0062】
本発明の位相差層形成用塗工液の固形分含有量としては、本発明の位相差層形成用塗工液の粘度を所望の範囲内にできれば特に限定されないが、通常、5質量%〜30質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも5質量%〜25質量%の範囲内であることが好ましく、特に5質量%〜20質量%の範囲内であることが好ましい。
ここで、上記固形分含有量は、例えば、加熱乾燥重量測定法等により測定することができる。
【0063】
5.位相差層形成用塗工液の製造方法
本発明の位相差層形成用塗工液の製造方法としては、上記構成を有する光学機能層形成用組成物を製造できる方法であれば特に限定されず、一般的な有機溶媒系塗工液の製造方法として用いられる方法を適用することができる。具体的な方法としては、上記溶媒に、上記棒状化合物および上記樹脂等をそれぞれ所定の濃度で溶解する方法を例示することができる。このような方法においては、上記棒状化合物および上記樹脂を溶解させる順序は上位棒状化合物が先であっても良く、上記樹脂が先であっても良く、または、これらを同時に溶解させても良い。
【0064】
6.位相差層形成用塗工液の用途
本発明の位相差層形成用塗工液の用途は、マイナスC性を有する位相差層を形成することを目的とする用途であれば、特に限定されるものではない。なかでも、液晶表示装置に用いられる光学補償板を構成する位相差層を形成するために好ましく用いられる。特に、本発明の位相差層形成用塗工液は、任意の基材上にマイナスC性を有する位相差層を形成できるという特徴を有することから、VA方式の液晶表示装置用の視野角補償板の位相差層を形成するために好適に用いられる。また、光学的にAプレートとしての性質(以下、単に「A性」と称する場合がある。)を有する光学基材上に、マイナスC性位相差層を形成し、A性とマイナスC性とを併有する位相差フィルムを形成する用途にも用いることができる。
【0065】
B.位相差光学積層体
次に、本発明の位相差光学積層体について説明する。本発明の位相差光学積層体は、光学基材と、上記光学基材上に形成された位相差層とを有する位相差光学積層体であって、
上記位相差層が、光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すことを特徴とするものである。
【0066】
本発明の位相差光学積層体について図を参照しながら説明する。図1は、本発明の位相差光学積層体の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように本発明の位相差光学積層体10は、光学基材1上に、位相差層2が形成されており、上記光学基材1と上記位相差層2との間に、ハードコート層3を有するものである。また、本発明の位相差光学積層体10は、上記位相差層2が光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すものである。
【0067】
本発明の位相差光学積層体によれば、上記位相差層が光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すことにより、上記光学基材の種類に関わらず、光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差光学積層体を得ることができる。また、上記位相差層に上記樹脂が含まれることにより、上記基材と上記位相差層との密着性に優れた位相差光学積層体を得ることができる。
【0068】
本発明の位相差光学積層体は、光学基材、および、位相差層を有するものである。以下、本発明の位相差光学積層体の各構成について詳細に説明する。
【0069】
1.位相差層
まず、本発明の位相差光学積層体における位相差層について説明する。本発明に用いられる位相差層は、光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すことを特徴とするものである。
【0070】
(1)屈折率異方性を有する棒状化合物
本発明における位相差層に含まれる屈折率異方性を有する棒状化合物について説明する。本発明において、位相差層に含まれる棒状化合物の含有量は、位相差層に所望のマイナスC性を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては上記棒状化合物の含有量が、後述する光学的等方性を有する樹脂100重量部に対して、10重量部〜200重量部の範囲内であることが好ましく、なかでも30重量部〜170重量部の範囲内であることが好ましく、特に30重量部〜150重量部の範囲内であることが好ましい。棒状化合物の含有量が上記範囲よりも少ないと、位相差層に所望のマイナスC性を付与できない場合があるからである。また、上記範囲よりも多いと、棒状化合物の種類によっては、位相差層の機械強度を所定の範囲にすることができない可能性があるからである。
【0071】
本発明に用いられる棒状化合物は、1種類のみを用いても良く、または、2種類以上を混合して用いても良い。本発明に用いられる棒状化合物としては、上記「A.位相差層形成用塗工液」の項において説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0072】
(2)光学的等方性を有する樹脂
本発明における位相差層に含まれる光学的等方性を有する樹脂について説明する。本発明の位相差層における樹脂の含有量は、位相差層の機械強度を所望の範囲にできれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、20質量%〜90質量%の範囲内であることが好ましく、なかでも、30質量%〜80質量%の範囲内であることが好ましく、特に40質量%〜70質量%の範囲内であることが好ましい。上記樹脂の含有量が上記範囲よりも少ないと、上記棒状化合物の配向性が低下し、位相差層に所望光学的特性を付与できない可能性があるからである。また、後述する光学基材と位相差層との密着性が低下する可能性があるからである。一方、上記樹脂の含有量が上記範囲よりも多いと、平面性に優れた位相差層を形成することが困難となる場合があるからである。
【0073】
本発明に用いられる樹脂は、1種類のみを用いても良く、または、2種類以上を混合して用いても良い。本発明に用いられる樹脂のとしては、上記「A.位相差層形成用塗工液」の項において説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0074】
(3)位相差層
本発明の位相差光学積層体における位相差層は、光学的に負のCプレートとしての性質(マイナスC性)を有するものである。ここで、本発明の位相差光学積層体において位相差層が「光学的負のCプレートとしての性質(マイナスC性)」を有するとは、位相差層の厚み方向のレターデーション(以下、「Rth」と称する場合もある。)が、10nm以上であることを意味するものである。本発明におけるRthの定義は、上記「A.位相差層形成用塗工液」の項において説明した内容と同様であるためここでの説明は省略する。
【0075】
本発明における位相差層のRthの測定方法としては、例えば、本発明の位相差光学積層体と、本発明の位相差光学積層体から位相差層を除去したものとについて、それぞれのRthを測定し、前者のRthから後者のRthを差し引くことにより求めることができる。本発明の位相差光学積層体から位相差層を除去する方法としては、例えば、切削することにより物理的に除去する方法や、溶媒に溶解することにより化学的に除去する方法を挙げることができる。また、本発明の位相差光学積層体を構成する基材およびその他の層を特定し、別途準備することができる場合は、本発明の位相差光学積層体のRthから、別途測定した基材およびその他の層のRthを差し引くことによっても、本発明における位相差層のRthを求めることができる。Rthの値は、自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)により測定することができる。
【0076】
本発明における位相差層のRthは上述したとおり10nm以上を示すものであるが、本発明においては、50nm〜400nmの範囲内が好ましく、なかでも100nm〜300nmの範囲内が好ましく、特に100nm〜200nmの範囲内が好ましい。
【0077】
また、本発明における位相差層は、Rth(nm)を位相差層の厚み(d(μm))で除した値(Rth/d)が、0.5〜13の範囲内であることが好ましく、なかでも0.5〜10の範囲内であることが好ましく、特に0.5〜7の範囲内であることが好ましい。
【0078】
また、本発明における位相差層のRthの波長分散は、正分散型、フラット型、および、逆分散型のいずれの波長分散であっても良い。なかでも本発明においては、位相差層のRthが正分散型の波長分散を示すことが好ましい。ここで、上記正分散とは、Rthの波長依存性が、Rthの測定波長が短くなるほど増加する傾向にあるものをいう。上記逆分散とは、上記正分散とは逆に、Rthの波長依存性が、Rthの測定波長が短くなるほど減少する傾向にあるものをいう。また、上記フラット型とは、Rthの波長依存性が、Rthの測定波長によって変化しない傾向にあるものをいう。
【0079】
本発明における位相差層の面内レターデーション(以下、「Re」と称する場合がある。)は0nm〜5nmの範囲内が好ましく、なかでも0nm〜3nmの範囲内が好ましく、特に0nm〜1nmの範囲内が好ましい。Reがこのような範囲内であることにより、本発明における位相差層をマイナスC性の発現性に優れたものにできるからである。ここで、上記Reは、位相差層の面内における進相軸方向(屈折率が最も小さい方向)の屈折率Nx、および、遅相軸方向(屈折率が最も大きい方向)の屈折率Nyと、位相差層の厚みdとにより、Re=(Nx−Ny)×dの式で表される値である。上記位相差層のReの測定方法は、上述した位相差層のRthの測定方法と同様であるためここでの説明は省略する。なお、本発明におけるReは、特に説明をしない限りは波長589nmにおける値を指すものとする。
【0080】
また、本発明における位相差層は、Re(nm)を位相差層の厚み(d(μm))で除した値(Re/d)が、0〜0.2の範囲内であることが好ましく、なかでも0〜0.1の範囲内であることが好ましく、特に0〜0.05の範囲内であることが好ましい。
【0081】
本発明における位相差層のヘイズは、0%〜5%の範囲内が好ましく、なかでも0%〜1%の範囲内が好ましく、特に0%〜0.5%の範囲内が好ましい。本発明における位相差層のヘイズの測定方法としては、例えば、本発明の位相差光学積層体と、本発明の位相差光学積層体から位相差層を除去したものとについて、それぞれのヘイズを測定し、前者のヘイズ値から後者のヘイズ値を差し引くことにより求めることができる。本発明の位相差光学積層体から位相差層を除去する方法としては、例えば、切削することにより物理的に除去する方法や、溶媒に溶解することにより化学的に除去する方法を挙げることができる。また、本発明の位相差光学積層体を構成する基材およびその他の層を特定し、別途準備することができる場合は、本発明の位相差光学積層体のヘイズから、別途測定した基材およびその他の層のヘイズを差し引くことによっても、本発明における位相差層のRthを求めることができる。なお、ヘイズは、JIS K7105に準拠して測定した値を用いるものとする。
【0082】
また本発明においては、上記位相差層が選択反射波長を有さないことが好ましい。ここで、本発明において、上記位相差層が「選択反射波長を有さない」とは、本発明における位相差層において上記棒状化合物がコレステリック配列を形成していないことと同義である。上記棒状化合物がコレステリック配列を形成する場合には、配向膜を必要とすることが多いが、このような配向膜は光学基材との密着性に劣るという欠点がある。したがって、コレステリック配列を形成しないことにより、本発明の位相差光学積層体において上記位相差層と、後述する光学基材との接着性を向上することができるからである。本発明における位相差層が選択反射波長を有さないことは、例えば、株式会社島津製作所製紫外可視金赤外分光光度計(UV−3100等)を用いることにより評価できる。
【0083】
本発明における位相差層の厚みは、上記棒状化合物の種類に応じて、位相差層に所望のマイナスC性を付与できる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本発明においては位相差層の厚みが0.5μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、なかでも0.5μm〜5μmの範囲内であることが好ましく、特に1μm〜3μmの範囲内であることが好ましい。ここで、本発明の位相差光学積層体において、位相差層と後述する光学基材との接着部に両者が「混合」した混合領域を有する場合、上記位相差層に厚みに、上記混合領域の厚みは含まないものとする。
【0084】
本発明における位相差層の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されても良い。
【0085】
2.光学基材
次に、本発明の位相差光学積層体に用いられる光学基材について説明する。本発明に用いられる光学基材は、本発明の位相差光学積層体の用途等に応じて、本発明の位相差光学積層体に所望の光学的特性を付与することができる光学的性質を有するものであれば特に限定されない。上記光学的性質としては、例えば、特定の振動方向の光のみを透過させる直線偏光性、光を屈折させる屈折性、平面または厚み方向において異なる複数の屈折率を示す複屈折性(円偏光性、楕円偏光性)、および、複屈折率を有さない光学的等方性等を挙げることができる。上記「複屈折率を有さない」とは、光学基材のReが0nm〜30nmの範囲内であり、かつ、Rthが0nm〜10nmの範囲内であることを指すものである。また、本発明に用いられる光学基材は、単に光を透過させる光透過性を有するものであっても良い。
【0086】
本発明に用いられる光学基材は、光学的にAプレートとしての性質(A性)を有することが好ましい。基材がA性を有することにより、本発明の位相差光学積層体にマイナスC性とA性とを併有させることができるため、例えば、位相差光学積層体を液晶表示装置用の光学補償板として用いた場合に、液晶表示装置の薄型化に寄与することができるという利点を有するからである。
【0087】
本発明において、上記「光学的にAプレートとしての性質を有する」とは、光学基材のReが30nm以上であることを意味するが、本発明においては30nm〜250nmの範囲内であることが好ましく、なかでも30nm〜200nmの範囲内であることが好ましく、特に30nm〜150nmの範囲内であることが好ましい。ここで、上記Reの定義および測定方法については「1.位相差層」の項において説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
本発明に用いられる光学基材のRthは、本発明の位相差光学積層体に付与するマイナスC性の程度に応じ、上記位相差層が示すマイナスC性等を考慮して任意に決定すればよい。なかでも本発明においては、上記光学基材のRthが20nm〜100nmの範囲内であることが好ましく、特に25nm〜80nmの範囲内であることが好ましく、なかでも30nm〜60nmの範囲内であることが好ましい。なお、Rthの定義および測定方法については、上記「A.位相差層形成用塗工液」の項において説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0089】
上記光学基材のRthの波長分散は、正分散型、フラット型、および、逆分散型のいずれの態様であっても良い。なかでも本発明においては、上記基材のRthが正分散型、または、フラット型の波長分散を示すことが好ましく、特にフラット型の波長分散を示すことが好ましい。
【0090】
本発明に用いられる光学基材の透明度は、本発明の位相差光学積層体に求める透明性等に応じて任意に決定すればよいが、通常、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ここで、基材の透過率は、JIS K7361−1(プラスチックー透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0091】
本発明に用いられる光学基材の厚みは、本発明の位相差光学積層体の用途等に応じて、必要な自己支持性を得ることができるものであれば特に限定されないが、通常、10μm〜188μmの範囲内が好ましく、特に20μm〜125μmの範囲内が好ましく、特に30μm〜80μmの範囲内であることが好ましい。光学基材の厚みが上記の範囲よりも薄いと、本発明の位相差光学積層体が必要な自己支持性を付与できない場合があるからである。また、厚みが上記の範囲よりも厚いと、例えば、本発明の位相差光学積層体を裁断加工する際に、加工屑が増加したり、裁断刃の磨耗が早くなってしまう場合があるからである。
ここで、本発明の位相差光学積層体において、位相差層と光学基材との接着部に両者が「混合」した混合領域を有する場合、上記光学基材の厚みは、上記混合領域の厚みを含むものとする。
【0092】
本発明に用いられる光学基材は所望の光学的性質を具備するものであれば、可撓性を有するフレキシブル材でも、可撓性のないリジッド材でも用いることもできるが、フレキシブル材を用いることが好ましい。フレキシブル材を用いることにより、本発明の位相差光学積層体の製造工程をロールトゥロールプロセスとすることができ、生産性に優れた位相差光学積層体を得ることができるからである。
【0093】
上記フレキシブル材を構成する材料としては、セルロース誘導体、ノルボルネン系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン、変性アクリル系ポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル類などを例示することができるが、本発明においてはセルロース誘導体およびノルボルネン系ポリマーを好適に用いることができる。
【0094】
なかでも本発明においては、ノルボルネン系ポリマーを用いることが好ましい。また、上記ノルボルネン系ポリマーとしては、シクロオレフィンポリマー(COP)、および、シクロオレフィンコポリマー(COC)を挙げることができるが、本発明においては、シクロオレフィンポリマーを用いることが好ましい。シクロオレフィンポリマーは、水分の吸収性および透過性が低いため、本発明に用いられる光学基材がシクロオレフィンポリマーから構成されることにより、本発明の位相差光学積層体を光学特性の経時安定性に優れたものにできるからである。
【0095】
本発明に用いられる上記シクロオレフィンポリマーの具体例としては、例えば、JSR株式会社製、商品名:ARTONを挙げることができる。
【0096】
本発明に用いられる光学基材は、延伸処理が施されていても良い。このような延伸処理としては、1軸延伸処理と、2軸延伸処理とを例示することができる。
【0097】
本発明における光学基材の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されても良い。複数の層が積層された構成としては、例えば、直線偏光性を有する偏光子と上記材料からなる樹脂フィルムを積層したものを挙げることができる。
【0098】
3.位相差光学積層体
本発明の位相差光学積層体は、上記位相差層および上記光学基材以外に他の構成を有していても良い。このような他の構成としては、例えば、ハードコート層、反射防止層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、および帯電防止層等を挙げることができる。
【0099】
本発明においては、上記他の構成としてハードコート層を有することが好ましく、特に上記光学基材と、上記位相差層との間にハードコート層を有することが好ましい。本発明の位相差光学積層体がこのような態様でハードコート層を有することにより、上記位相差層と、上記光学基材との密着性を向上することができるからである。また、上記態様によりハードコート層を有することにより、例えば、位相差層形成用塗工液を上記光学基材上に塗布することによって位相差光学積層体を製造する場合において、上記光学基材が、位相差層形成用塗工液に含まれる溶媒に侵食されてしまうことを防止できるからである。
【0100】
本発明に用いられるハードコート層に用いられる材料としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸を縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミノ基エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物等が挙げられる。本発明においてはこれらの材料を1種類のみ用いても良く、または、2種類以上を混合して用いても良い。
【0101】
本発明に用いられるハードコート層の厚みは、1μm〜30μmの範囲内が好ましく、なかでも1μm〜25μmの範囲内が好ましく、特に1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0102】
本発明に用いられる反射防止層としては、特に限定されないが、例えば、透明基材フィルム上に、該透明基材よりも低屈折率の物質からなる低屈折率層を形成したもの、或いは透明基材フィルム上に、該透明基材よりも高屈折率の物質からなる高屈折率層、及び該透明基材よりも低屈折率の物質からなる低屈折率層とを、この順に、交互に、各1層ずつ以上積層したものなどが挙げられる。これら高屈折率層、及び低屈折率層は、層の幾何学的厚と屈折率との積で表される光学厚みが反射防止すべき光の波長の1/4となるように、真空蒸着、塗工等により形成される。高屈折率層の構成材料としては、酸化チタン、硫化亜鉛等が、低屈折率層の構成材料としては、弗化マグネシウム、氷晶石等が用いられる。
【0103】
また、本発明に用いられる紫外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等のフィルム中に、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物等から成る紫外線吸収剤を添加して成膜したものが挙げられる。
【0104】
また、本発明に用いられる赤外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂等のフィルム基材上に赤外線吸収層を塗工等により形成したものが挙げられる。赤外線吸収層としては、例えば、ジインモニウム系化合物、フタロシアニン系化合物等から成る赤外線吸収剤を、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等から成るバインダー樹脂中に添加して成膜したものが用いられる。
【0105】
また、本発明に用いられる帯電防止層としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1〜3級アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性帯電防止剤;スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性基を有するアニオン系帯電防止剤;アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性帯電防止剤;アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性の帯電防止剤;、上記帯電防止剤を高分子量化した高分子型帯電防止剤;第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有し、電離放射線により重合可能なモノマーやオリゴノマー、例えば、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマー、それらの第4級化合物等の重合性帯電防止剤等の帯電防止剤を添加して成膜したものが挙げられる。
【0106】
本発明の位相差光学積層体のRthは、本発明の位相差光学積層体の用途等に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されるものではない。なかでも本発明においてはRthが
60nm〜450nmの範囲内であることが好ましく、なかでも70nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、特に80nm〜350nmの範囲内であることが好ましい。Rthが上記範囲内であることにより、本発明の位相差光学積層体をVA(Vertical Alignment)方式の液晶表示装置の視野角特性を改善するのに好適に用いることができるからである。
【0107】
また、本発明の位相差光学積層体のReは、本発明の位相差光学積層体の用途等に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されるものではない。なかでも本発明においてはReが、20nm〜150nmの範囲内であることが好ましく、なかでも30nm〜130nmの範囲内であることが好ましく、特に40nm〜110nmの範囲内であることが好ましい。Reが上記範囲内であることにより、本発明の位相差光学積層体を、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示装置の視野角特性を改善するのに好適に用いることができるからである。
【0108】
本発明の位相差光学積層体の厚みは、所望の光学特性を発現できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、通常、20μm〜150μmの範囲内が好ましく、特に25μm〜130μmの範囲内が好ましく、なかでも30μm〜110μmの範囲内であることが好ましい。
【0109】
また本発明の位相差光学積層体は、JIS K7105に準拠して測定したヘイズ値が0%〜2%の範囲内であることが好ましく、特に0%〜1.5%の範囲内であることが好ましく、なかでも0%〜1%の範囲内であることが好ましい。
【0110】
4.位相差光学積層体の製造方法
本発明の位相差光学積層体の製造方法としては、上記光学基材上に、均質な位相差層を形成できる方法であれば特に限定されず、例えば、後述する「C.位相差光学積層体の製造方法」の項において説明する方法を用いることができる。
【0111】
5.位相差光学積層体の用途
本発明の位相差光学積層体の用途としては、例えば、液晶表示装置に用いられる光学補償板(例えば、視角補償板)、楕円偏光板、輝度向上板等を挙げることができる。なかでも本発明の位相差光学積層体は、液晶表示装置の視野角依存性改善のための光学補償板として好適に用いることができる。さらに、本発明の位相差光学積層体は上記位相差層がマイナスC性を備えることから、VA方式の液晶表示装置用の光学補償板として最も好適に用いることができる。
【0112】
本発明の位相差光学積層体を液晶表示装置の光学補償板として用いる態様としては、所望の視野角特性が得られる態様であれば特に限定されない。本発明の位相差光学積層体を液晶表示装置の光学補償板として用いる態様について図を参照しながら具体的に説明する。図2は、本発明の位相差光学積層体を液晶表示装置の光学補償板として用いる態様を説明する概略図である。図2(a)は、本発明の位相差光学積層体を使用していない、一般的な液晶表示装置の一例を示す概略断面図である。図2(a)に示すように、一般的な液晶表示装置は、液晶セル104が2枚の偏光板20で挟持された構成を有する。上記偏光板20は、偏光子22の両面に偏光板保護フィルム21が積層された形成を有するものである。
図2(b)は、本発明の位相差光学積層体を用いた液晶表示装置の一例を示す概略断面図である。図2(b)に示すように、本発明の位相差光学積層体を光学補償板として用いる態様としては、液晶セル104とバックライト側の偏光板との間に、本発明の位相差光学積層体10を積層する態様を挙げることができる。このような態様によれば、従来の液晶表示装置に用いられてきた部材をそのまま用いることができるという利点を有する。
図2(c)は、本発明の位相差光学積層体を用いた液晶表示装置の他の例を示す概略断面図である。図2(c)に示すように、本発明の位相差光学積層体を光学補償板として用いる態様としては、本発明の位相差光学積層体10をバックライト側の偏光板20’を構成する偏光板保護フィルムに代替して用いる態様を挙げることができる。このような態様によれば、本発明の位相差光学積層体が、視野角依存性改善のための光学補償板としての機能と、偏光板保護フィルムとしての機能とを担うことができるため、液晶表示装置をさらに薄型化することができる。
【0113】
また本発明の位相差光学積層体は、上記光学基材として直線偏光性を有する偏光板を用いることにより、偏光フィルムとしての用途にも用いることができる。
【0114】
C.位相差光学積層体の製造方法
次に、本発明の位相差光学積層体の製造方法について説明する。本発明の位相差光学積層体の製造方法は、位相差層形成用塗工液を塗布することにより、光学基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成する位相差層形成工程を有するものであって、前記位相差層形成用塗工液が上記「A.位相差層形成用塗工液」の項において説明した位相差層形成用塗工液であることを特徴とするものである。
【0115】
本発明によれば、上記位相差層形成用塗工液が、上記「A.位相差層形成用塗工液」の項において説明した位相差層形成用塗工液であることにより、任意の光学基材上に、光学的に負のCプレートとしての性質を有する位相差光学積層体を製造することができる。
【0116】
本発明の位相差光学積層体の製造方法は、位相差層形成用塗工液を塗布することにより、光学基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成する位相差層形成工程を有するものである。以下、本発明の位相差光学積層体の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明に用いられる上記「位相差層形成用塗工液」および上記「光学基材」については、それぞれ上記「A.位相差層形成用塗工液」および上記「B.位相差光学積層体」の項において説明した内容と同様であるためここでの説明は省略する。
【0117】
1.位相差層形成工程
本発明における位相差層形成工程について説明する。本発明における位相差層形成工程において、上記位相差層形成用塗工液を上記光学基材上に塗布する塗布方法としては、位相差層形成用塗工液の粘度や塗布量等に応じて、所望の平面性を達成できる方法であれば、特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法、E型塗布方法などを例示することができる。なかでも本発明においては、リバースコート法、ダイコート法、スピンコート法、および、バーコート法が好適に用いられる。
【0118】
上記位相差層形成用塗工液の塗膜の厚みについても、所望の平面性を達成できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、通常、0.1μm〜50μmの範囲内が好ましく、特に0.5μm〜30μmの範囲内が好ましく、中でも0.5μm〜10μmの範囲内が好ましい。位相差層形成用塗工液の塗膜の厚みが上記範囲より薄いと、位相差層形成工程において形成される位相差層の平面性が損なわれてしまう場合があり、また厚みが上記範囲より厚いと、溶媒の乾燥負荷が増大し、生産性が低下してしまう可能性があるからである。
【0119】
上記位相差層形成用塗工液の塗膜の乾燥方法は、加熱乾燥方法、減圧乾燥方法、ギャップ乾燥方法等、一般的に用いられる乾燥方法を用いることができる。また、本発明における乾燥方法は、単一の方法に限られず、例えば残留する溶媒量に応じて順次乾燥方式を変化させる等の態様により、複数の乾燥方式を採用してもよい。
【0120】
上記棒状化合物として重合性官能基を有する重合性材料を用いる場合、上記重合性材料を重合する方法は、上記重合性材料が有する重合性官能基の種類に応じて任意に決定すればよい。なかでも本発明においては、活性放射線の照射により硬化させる方法が好ましい。活性放射線としては、重合性材料を重合することが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光を使用することが好ましく、中でも、波長が150〜500nm、好ましくは250〜450nm、さらに好ましくは300〜400nmの照射光を用いることが好ましい。
【0121】
この照射光の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが例示できる。中でも、メタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ灯等の使用が推奨される。また、照射強度は、光重合開始剤の含有量等によって適宜調整して照射することができる。
【0122】
2.その他
本発明の位相差光学積層体の製造方法は、上記位相差層形成工程以外に他の工程を有していても良い。このような他の工程としては、例えば、ハードコート層形成工程、反射防止層形成工程、紫外線吸収層形成工程、赤外線吸収層形成工程、および帯電防止層形成工程等を挙げることができる。本発明の位相差光学積層体の製造方法が、これらの他の工程を有する場合、これら他の工程を実施する時期は、上記位相差層形成工程よりも先であってもよく、または、後であってもよい。
【0123】
さらに、本発明の位相差光学積層体の製造方法は、上記位相差層形成工程の後に、位相差層が形成された光学基材を延伸する、延伸工程を有していていも良い。このような延伸工程を有することにより、本発明の位相差光学積層体の製造方法により製造される位相差光学積層体の光学的特性を事後的に所望の範囲内に調製することができるからである。
【0124】
本発明の位相差光学積層体により製造される位相差光学積層体としては、上記「B.位相差光学積層体」の項に記載したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0125】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0126】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
【0127】
(位相差層形成用塗工液)
棒状化合物として光重合性液晶化合物(下記化合物(I))を5質量%、樹脂としてセルロースアセテート(イーストマン社製、商品名:CA−398−3)を5質量%、光重合開始剤及び重合禁止剤を適量シクロヘキサノンに溶解させて位相差層形成用塗工液を作製した。
【0128】
【化3】

【0129】
(ハードコート層形成用塗工液)
ハードコート層形成用塗工液は、酢酸ブチル30質量%、MEK30質量%の混合溶媒にPET−30(日本化薬社製)20質量%、M−215(東亜合成社製)20質量%を溶解させて作製した。
【0130】
(位相差フィルムの作成)
一軸延伸COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム(JSR株式会社製、商品名:ARTON)にバーコーティングによりハードコート層形成用塗工液を塗工した。次いで90℃で2分間加熱して溶剤を除去し、紫外線を照射して硬化させてハードコート層を形成した。
次に上記ハードコート層上に位相差層形成用塗工液をバーコーティングにより塗工した。次いで、50℃で2分間加熱して溶剤を除去した。さらに、塗工面に紫外線を照射することにより、上記光重合性液晶化合物を固定化し、さらに90℃で2分間加熱して残留溶媒を除去して位相差層を形成した。得られた位相差フィルムをサンプルとして、以下の項目で評価した。
【0131】
<評価>
1.光学特性
サンプルの位相差性を自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製、商品名:KOBRA−21ADH)により測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射して、その光学位相差と測定光の入射角度のチャートから基材フィルムの位相差を増加させる異方性を確認した。また、同測定装置により、3次元屈折率を測定した。その結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

2.ヘイズ
サンプルの透明性を調べるため、濁度計(日本電色工業株式会社製、商品名:NDH2000)によりヘイズ値を測定した。その結果、塗工量3g/m2で0.5%以下と良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の位相差光学積層体の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の位相差光学積層体の使用態様一例を示す概略断面図である。
【図3】一般的な液晶表示装置の一例を表す概略図である。
【符号の説明】
【0134】
1 … 基材
2 … 位相差層
3 … ハードコート層
10 … 位相差光学積層体
20、20’ … 偏光板
21 … 偏光板保護フィルム
22 … 偏光子
100 … 液晶表示装置
102A、102B … 偏光板
104 … 液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成するために用いられる位相差層形成用塗工液であって、
光学的等方性を有する樹脂と、屈折率異方性を有する棒状化合物と、前記樹脂および前記棒状化合物を溶解する溶媒とを含むことを特徴とする、位相差層形成用塗工液。
【請求項2】
前記棒状化合物の含有量が、前記樹脂100重量部に対して10重量部〜200重量部の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の位相差層形成用塗工液。
【請求項3】
前記棒状化合物が重合性官能基を有するものであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の位相差層形成用塗工液。
【請求項4】
前記棒状化合物が液晶性材料であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の位相差層形成用塗工液。
【請求項5】
前記樹脂がトリアセチルセルロースであることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の位相差層形成用塗工液。
【請求項6】
光学基材と、前記光学基材上に形成された位相差層と、を有する位相差光学積層体であって、
前記位相差層が、光学的等方性を有する樹脂および屈折率異方性を有する棒状化合物を含み、かつ、光学的に負のCプレートとしての性質を示すことを特徴とする位相差光学積層体。
【請求項7】
前記位相差層における前記棒状化合物の含有量が、前記樹脂100重量部に対して、10重量部〜200重量部の範囲内であることを特徴とする、請求項6に記載の位相差光学積層体。
【請求項8】
前記位相差層が選択反射波長を有さないことを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の位相差光学積層体。
【請求項9】
前記光学基材と、前記位相差層との間にハードコート層を有することを特徴とする、請求項6から請求項8までのいずれかの請求項に記載の位相差光学積層体。
【請求項10】
前記光学基材が、光学的にAプレートとしての性質を有することを特徴とする、請求項6から請求項9までのいずれかの請求項に記載の位相光学積層体。
【請求項11】
位相差層形成用塗工液を塗布することにより、光学基材上に光学的に負のCプレートとしての性質を示す位相差層を形成する位相差層形成工程を有する、位相差光学積層体の製造方法であって、
前記位相差層形成用塗工液が、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の位相差層形成用塗工液であることを特徴とする、位相差光学積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−94271(P2007−94271A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286373(P2005−286373)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】