説明

位相差板の製造方法

【課題】R450<R550<R650の関係または0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす広い面積の位相差板を簡便に高精度で製造する方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、
該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸と熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸とを略直角に交わらせることを含む、位相差板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差板の製造方法に関する。より詳しくは液晶表示装置の複屈折補償に好適な位相差板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置における、表示のコントラストを高め、色調を整えるためには、液晶表示装置に用いられる位相差板が、可視光領域の全ての入射光に対して、その機能が充分に発揮されること、すなわち、短波長の光におけるレターデーションが小さく、長波長の光におけるレターデーションが大きくなること、具体的には、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たすことが求められている。
【0003】
450<R550<R650の関係を満たすフィルムとして、特許文献1には、位相差が大きい小アッベ数の延伸フィルムと、位相差が小さい大アッベ数の延伸フィルムとを、光軸が略直交するように貼り合わせてなる位相差板が開示されている。
特許文献2には、450nmにおけるレターデーションと波長550nmにおけるレターデーションとの比が1.00〜1.05の延伸フィルム、および450nmにおけるレターデーションと波長550nmにおけるレターデーションとの比が1.05〜1.20の延伸フィルムを貼り合わせてなる位相差板が記載されている。
この特許文献1や特許文献2では、貼り合わせ時に正確な軸合わせを要する。
【0004】
特許文献3および特許文献4には、正の固有複屈折を有する樹脂の層と負の固有複屈折を有する樹脂の層とからなる積層体を一軸延伸して、正の固有複屈折を有する樹脂の層および負の固有複屈折を有する樹脂の層の分子配向方向が平行になっている位相差板が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−285304号公報
【特許文献2】特開平5−27119号公報
【特許文献3】特開2002−40258号公報
【特許文献4】特開2002−156525号公報
【0006】
また、液晶表示装置における、色調の角度依存性を小さくするために、入射角0度におけるレタデーションReと、入射角40度におけるレタデーションR40が、0.92≦R40/Re≦1.08の関係を満たす位相差板や、面内の遅相軸方向の屈折率nxと、それに面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、nx>nz>nyの関係を満たす位相差板が提案されている。
【0007】
特許文献5には、ポリカーボネート樹脂のフィルムを一軸延伸し第一の異方性フィルムを得、一方でポリスチレン樹脂フィルムを一軸延伸し第二の異方性フィルムを得、第一の異方性フィルムと第二の異方性フィルムとを延伸方向が直角となるように重ね合わせることによって、nx>nz>nyの関係を満たす位相差板を得たことが記載されている。
また特許文献6には、ポリカーボネート樹脂のフィルムを一軸延伸し第一の異方性フィルムを得、一方でポリスチレン樹脂フィルムを一軸延伸し第二の異方性フィルムを得、第一の異方性フィルムと第二の異方性フィルムとを延伸方向が直角となるように重ね合わせることによって、(Re−Re40)/Re≦0.07となった位相差板を得たことが記載されている。
この特許文献5や特許文献6の製法は、貼り合わせ時に正確な軸合わせを要する。
【0008】
特許文献7には、樹脂フィルムを延伸処理する際に、その樹脂フィルムの片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理して前記樹脂フィルムの延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することによって、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす位相差板を得たことが記載されている。
特許文献7の製法は収縮力の正確な制御を要する。
【0009】
特許文献8には、ポリカーボネート樹脂を溶融押出してロッド棒を得、該ロッド棒を輪切りして円板を得、該円板から直方形の板を切り出し、該直方形板を一軸延伸することによって、0.92≦Re40/Re≦1.08の位相差板を得たことが記載されている。 特許文献8の製法は広い面積の位相差板の製造が困難である。
【0010】
【特許文献5】特開平3−24502号公報
【特許文献6】特開平3−141303号公報
【特許文献7】特開平5−157911号公報
【特許文献8】特開平2−160204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、複数の層が分子配向軸が直交するように積層されてなる位相差板を、軸合わせの為の貼り合わせ工程を必要とすることなく、生産性よく製造する方法を提供する事である。
更に、本発明の目的は波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たす位相差板または面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす位相差板を、簡便に、広い面積で、精度良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記目的を達成するために検討した結果、
熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって、熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸と熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸とを略直角に交わらせると、R450<R550<R650の関係を満たす位相差板、または0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす位相差板を、広い面積で、高精度で、容易に製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討を進め、完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、
該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸と熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸とを略直角に交わらせることを含む、位相差板の製造方法。
(2)熱可塑性樹脂Aの荷重たわみ温度TsAと、熱可塑性樹脂Bの荷重たわみ温度TsBとの差の絶対値が、5℃以上である、(1)に記載の位相差板の製造方法。
(3)温度TsBにおける熱可塑性樹脂Aの破断伸度、および温度TsAにおける熱可塑性樹脂Bの破断伸度が共に、50%以上である、(1)または(2)に記載の位相差板の製造方法。
(4)熱可塑性樹脂Aが正または負の固有複屈折を有するものであり、熱可塑性樹脂Bが熱可塑性樹脂Aと同じ符号の固有複屈折を有するものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の位相差板の製造方法。
(5)位相差板が、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たすものである(4)に記載の位相差板の製造方法。
(6)熱可塑性樹脂Aが正または負の固有複屈折を有するものであり、熱可塑性樹脂Bが熱可塑性樹脂Aと異なる符号の固有複屈折を有するものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の位相差板の製造方法。
(7)位相差板が、面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たすものである(6)または(7)に記載の位相差板の製造方法。
(8)各回の一軸延伸における延伸温度が異なる温度である、(1)〜(7)のいずれかに記載の位相差板の製造方法。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法によって得られた位相差板。
【発明の効果】
【0014】
本発明の位相差板の製造方法によれば、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たす位相差板または面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす位相差板を、簡便に、広い面積で、精度良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の位相差板の製造方法は、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、
該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって、熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸と熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸とを略直角に交わらせることを含むものである。
略直角とは、熱可塑性樹脂Aの層の分子が配向している方向と、熱可塑性樹脂Bの層の分子が配向している方向が成す角度がおよそ直角である事をさす。該角度は70度〜110度である事が好ましく、80度〜100度がより好ましく、85度〜95度が最も好ましい。
【0016】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bは、正または負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂である。なお、正の固有複屈折とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味し、負の固有複屈折とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折は誘電率分布から計算することもできる。
【0017】
正の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンサルファイドなどのポリアリーレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリルサルホン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノルボルネン樹脂、棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。これらは、一種単独でまたは二種以上を組合せて使用してもよい。本発明においては、これらの中でも、位相差発現性、低温での延伸性、および他層との接着性の観点からポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0018】
負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂としては、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体または他のモノマーとの共重合体を含むポリスチレン樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、あるいはこれらの多元共重合ポリマーなどが挙げられる。これらは、一種単独でまたは二種以上を組合せて使用してもよい。ポリスチレン樹脂に含まれる他のモノマーとしては、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、およびブタジエンが好ましいものとして挙げられる。本発明においては、これらの中でも、位相差発現性が高いという観点から、ポリスチレン樹脂が好ましく、さらに耐熱性が高いという点で、スチレン又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体が特に好ましい。
【0019】
前記熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度Tsは、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。荷重たわみ温度が前記下限値よりも低いと、配向緩和しやすくなる。
【0020】
熱可塑性樹脂Aの荷重たわみ温度TsAと、熱可塑性樹脂Bの荷重たわみ温度TsBとの差の絶対値は、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは5〜40℃であり、特に好ましくは8〜20℃である。荷重たわみ温度の差が小さすぎると、位相差発現の温度依存性が小さくなる。荷重たわみ温度の差が大きすぎると、軟化点の高い熱可塑性樹脂の延伸がし難くなり、位相差板の平面性が低下しやすい。
【0021】
温度TsBにおける熱可塑性樹脂Aの破断伸度、および温度TsAにおける熱可塑性樹脂Bの破断伸度が共に、50%以上であることが好ましく、80%以上であることが特に好ましい。破断伸度がこの範囲にある熱可塑性樹脂であれば延伸により安定的に位相差フィルムを作成することができる。破断伸度は、JIS K7127記載の試験片タイプ1Bの試験片を用いて、引張速度100mm/分によって求める。
【0022】
熱可塑性樹脂Aおよび/または熱可塑性樹脂Bには、1mm厚での全光線透過率80%以上を維持できるものであれば、配合剤が添加されていてもよい。
添加される配合剤は特に限定されず、例えば、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤などの安定剤;可塑剤;染料や顔料などの着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。配合剤の量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜定めることができる。特に滑剤や紫外線吸収剤を添加することで可撓性や耐候性を向上させることができるので好ましい。
【0023】
滑剤としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどの無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどの有機粒子が挙げられる。本発明では、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0024】
紫外線吸収剤としては、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤としては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げられる。
【0025】
(積層フィルム)
積層フィルムは、熱可塑性樹脂Aの層(A層)と熱可塑性樹脂Bの層(B層)とを含む。該積層フィルムは、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して得ることができる。
製造効率や、フィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、共押出成形法が好ましい。共押出成形法の中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、層Aの厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0026】
積層フィルムを得る方法として、共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂材料の溶融温度は、各樹脂材料に用いた熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも80〜180℃高い温度にすることが好ましく、ガラス転移温度よりも100〜150℃高い温度にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと、樹脂材料の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと、樹脂が劣化する可能性がある。
【0027】
押出温度は、使用する熱可塑性樹脂に応じて適宜選択すればよい。押出機内の温度で、樹脂投入口はTg〜(Tg+100)℃、押出し機出口は(Tg+50)℃〜(Tg+170)℃、ダイス温度は(Tg+50)℃〜(Tg+170)℃とするのが好ましい。ここでTgは樹脂材料に用いた熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度である。
【0028】
押出成形法ではダイスの開口部から押出されたシート状溶融樹脂材料を冷却ドラムに密着させる。溶融樹脂材料を冷却ドラムに密着させる方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
【0029】
冷却ドラムの数は特に制限されないが、通常は2本以上である。また、冷却ドラムの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイスの開口部から押出された溶融樹脂の冷却ドラムへの通し方も特に制限されない。
【0030】
本発明においては、冷却ドラムの温度により、押出されたシート状樹脂材料の冷却ドラムへの密着具合が変化する。冷却ドラムの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状樹脂材料が冷却ドラムから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生する恐れがある。そのため、冷却ドラム温度は、好ましくはダイスから押し出す熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度をTgとすると、(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0031】
また、フィルム中の残留溶剤の含有量を少なくすることが好ましい。そのための手段としては、(1)原料となる熱可塑性樹脂の残留溶剤を少なくする;(2)フィルムを成形する前に樹脂材料を予備乾燥する;などの手段が挙げられる。予備乾燥は、例えば樹脂材料をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。乾燥温度は100℃以上が好ましく、乾燥時間は2時間以上が好ましい。予備乾燥を行うことにより、フィルム中の残留溶剤を低減させる事ができ、さらに押し出されたシート状樹脂材料の発泡を防ぐことができる。
【0032】
位相差板製造用の積層フィルムの総厚は、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは20〜200μmであり、特に好ましくは30〜150μmである。10μmより薄いと、十分な位相差を得難くなり機械的強度も弱くなる。500μmより厚いと、柔軟性が悪化し、ハンドリングに支障をきたす恐れがある。
【0033】
A層およびB層の厚さは、市販の接触式厚さ計を用いて、フィルムの総厚を測定し、次いで厚さ測定部分を切断し断面を光学顕微鏡で観察して、各層の厚さ比を求めて、その比率よりA層およびB層の厚さを計算する。以上の操作をフィルムのMD方向及びTD方向において一定間隔毎に行い、厚さの平均値およびばらつきを求めた。
【0034】
なお、厚さのばらつきは、上記で測定した測定値の算術平均値Taveを基準とし、測定した厚さTの内の最大値をTmax、最小値をTminとして、以下の式から算出する。
厚さのばらつき(μm)=Tave−Tmin、及び
max−Tave のうちの大きい方。
【0035】
A層およびB層の厚さのばらつきが全面で1μm以下であることにより、色調のばらつきが小さくなる。また、長期使用後の色調変化も均一となる。
【0036】
A層およびB層の厚さのばらつきを全面で1μm以下とするためには、(1)押出機内に目開きが20μm以下のポリマーフィルターを設ける;(2)ギヤポンプを5rpm以上で回転させる;(3)ダイス周りに囲い手段を配置する;(4)エアギャップを200mm以下とする;(5)フィルムを冷却ロール上にキャストする際にエッジピニングを行う;および(6)押出機として二軸押出機又はスクリュー形式がダブルフライト型の単軸押出機を用いる;を行う。
【0037】
位相差板製造用の積層フィルムは、A層およびB層以外の層を有しても良い。例えばA層とB層とを接着する接着層、フィルムの滑り性を良くするマット層や、耐衝撃性ポリメタクリレート樹脂層などのハードコート層や、反射防止層、防汚層等が挙げられる。
【0038】
位相差板製造用の積層フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。85%未満であると光学部材に適さなくなる。上記光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定した。
【0039】
位相差板製造用の積層フィルムのヘイズは好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズが高いと、表示画像の鮮明性が低下傾向になる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0040】
位相差板製造用の積層フィルムは、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性がよくなる。ΔYIはASTM E313に準拠して、日本電色工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて測定する。同様の測定を五回行い、その算術平均値にして求める。
【0041】
位相差板製造用の積層フィルムは、JIS鉛筆硬度でHまたはそれ以上の硬さを有することが好ましい。このJIS鉛筆硬度の調整は、樹脂の種類の変更や、樹脂層厚の変更などによって行うことができる。JIS鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に準拠して、各種硬度の鉛筆を45度傾けて、上から500g重の荷重を掛けてフィルム表面を引っ掻き、傷が付きはじめる鉛筆の硬さである。
【0042】
位相差板製造用の積層フィルムの外表面は、MD方向に伸びる不規則に生じる線状凹部や線状凸部(いわゆるダイライン)を実質的に有さず、平坦であることが好ましい。ここで、「不規則に生じる線状凹部や線状凸部を実質的に有さず、平坦」とは、仮に線状凹部や線状凸部が形成されたとしても、深さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凹部、および高さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凸部であることである。より好ましくは、深さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凹部であり、高さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凸部である。このような構成とすることにより、線状凹部や線状凸部での光の屈折等に基づく、光の干渉や光漏れの発生を防止でき、光学性能を向上できる。なお、不規則に生じるとは、意図しない位置に意図しない寸法、形状等で形成されるということである。
【0043】
上述した線状凹部の深さや、線状凸部の高さ、及びこれらの幅は、次に述べる方法で求めることができる。位相差板製造用の積層フィルムに光を照射して、透過光をスクリーンに映し、スクリーン上に現れる光の明又は暗の縞の有る部分(この部分は線状凹部の深さ及び線状凸部の高さが大きい部分である。)を30mm角で切り出す。切り出したフィルム片の表面を三次元表面構造解析顕微鏡(視野領域5mm×7mm)を用いて観察し、これを3次元画像に変換し、この3次元画像から断面プロファイルを求める。断面プロファイルは視野領域で1mm間隔で求める。
【0044】
この断面プロファイルに、平均線を引き、この平均線から線状凹部の底までの長さが線状凹部深さ、また平均線から線状凸部の頂までの長さが線状凸部高さとなる。平均線とプロファイルとの交点間の距離が幅となる。これら線状凹部深さ及び線状凸部高さの測定値からそれぞれ最大値を求め、その最大値を示した線状凹部又は線状凸部の幅をそれぞれ求める。以上から求められた線状凹部深さ及び線状凸部高さの最大値、その最大値を示した線状凹部の幅及び線状凸部の幅を、そのフィルムの線状凹部の深さ、線状凸部の高さ及びそれらの幅とする。
【0045】
積層フィルムを延伸する前に、積層フィルムを予め加熱する工程(予熱工程)を設けても良い。積層フィルムを加熱する手段としては、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。予熱工程における加熱温度は、通常、延伸温度−40℃〜延伸温度+20℃、好ましくは延伸温度−30℃〜延伸温度+15℃である。延伸温度は、加熱装置の設定温度を意味する。
【0046】
本発明における、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たす位相差板〔1〕の製造方法では、熱可塑性樹脂Aとして正または負の固有複屈折を有するものを用い、熱可塑性樹脂Bとして熱可塑性樹脂Aと同符号の固有複屈折を有するものを用いることが好ましい。熱可塑性樹脂Aの層および熱可塑性樹脂Bの層は、それぞれ1層または2層以上有していてもよい。
【0047】
位相差板〔1〕の製造方法では、熱可塑性樹脂Aまたは熱可塑性樹脂Bのうち、一方のアッベ数が40以上であるのが好ましく、もう一方のアッベ数が30以下であるのが好ましい。
ここで、アッベ数とは、光の波長の違いによる屈折率の違い(分散)の現れやすさをしめすもので、下記式で表される。
νD=(nD−1)/(nF−nC
ここで、νDはアッベ数。、nC、nD、nFは、それぞれC線(波長656nm)、D線(589nm)波長およびF線(波長486nm)に対する屈折率である。
【0048】
位相差板〔1〕製造用の積層フィルムは、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、いずれの延伸温度T1およびT2においても、X軸方向に一軸延伸したときには遅れるかまたは進むかの一方になるものであることが好ましい。
【0049】
位相差板〔1〕製造用の積層フィルムは、低い温度TLにおける延伸で、荷重たわみ温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値が荷重たわみ温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなり、高い温度THにおける延伸で、荷重たわみ温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値が荷重たわみ温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなるように、両樹脂層の厚さを調整することが好ましい。位相差板〔1〕製造用の積層フィルムは、位相差が大きく現れる樹脂層が延伸温度に依存するフィルムである。なお、温度T1は、THまたはTLのいずれか一方の温度であり、温度T2は、T1とは異なるTHまたはTLのいずれか一方の温度である。
【0050】
本発明における、面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす位相差板〔2〕の製造方法では、熱可塑性樹脂Aとして正または負の固有複屈折を有するものを用い、熱可塑性樹脂Bとして熱可塑性樹脂Aと異符号の固有複屈折を有するものを用いることが好ましい。熱可塑性樹脂Aの層および熱可塑性樹脂Bの層は、それぞれ1層または2層以上有していてもよい。
【0051】
位相差板〔2〕製造用の積層フィルムは、一軸延伸方向をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚さ方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、
温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、
温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進む、ものであることが好ましい。
【0052】
一軸延伸によってX軸に遅相軸が現れるフィルムでは、振動面がXZ面にある直線偏光は、振動面がYZ面にある直線偏光に対して位相が遅れる。逆に一軸延伸によってX軸に進相軸が現れるフィルムでは、振動面がXZ面にある直線偏光は、振動面がYZ面にある直線偏光に対して位相が進む。
位相差板〔2〕製造用の積層フィルムは、遅相軸または進相軸の現れる方向が延伸温度に依存するフィルムである。
【0053】
位相差は、延伸方向であるX軸方向の屈折率nXと延伸方向に直交する方向であるY軸方向の屈折率nYとの差(=nX−nY)に厚さdを乗じて求められる値である。A層とB層とを積層したときの位相差は、A層の位相差とB層の位相差との和になる。高い温度THおよび低い温度TLにおける延伸によって、A層とB層とからなる積層体の位相差の符号が逆になるようにするために、低い温度TLにおける延伸で、荷重たわみ温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値が荷重たわみ温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなり、高い温度THにおける延伸で、荷重たわみ温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値が荷重たわみ温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなるように、両樹脂層の厚さを調整することが好ましい。このように、一軸延伸によってA層およびB層のそれぞれに発現するX軸方向の屈折率nXとY軸方向の屈折率nYとの差と、A層の厚さの総和と、B層の厚さの総和とを、調整することで、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が、温度T1でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1とは異なる温度T2でX軸方向に一軸延伸したときには進むフィルムを得ることができる。なお、温度T1は、THまたはTLのいずれか一方の温度であり、温度T2は、T1とは異なるTHまたはTLのいずれか一方の温度である。
【0054】
図1は、位相差板〔2〕製造用の積層フィルムのA層(荷重たわみ温度が高い熱可塑性樹脂Aの層)およびB層(荷重たわみ温度が低い熱可塑性樹脂Bの層)をそれぞれ延伸したときの位相差の温度依存性と、位相差板〔2〕製造用の積層フィルム(A層+B層)を延伸したときの位相差の温度依存性を示すものである。温度Tbにおける延伸ではA層によって発現するプラスの位相差に比べB層によって発現するマイナスの位相差の方が大きいので、A層+B層ではマイナスの位相差Δを発現することになる。一方温度Taにおける延伸ではA層によって発現するプラスの位相差に比べB層によって発現するマイナスの位相差の方が小さいので、A層+B層ではプラスの位相差Δを発現することになる。
【0055】
例えば、A層がポリカーボネート系樹脂であり、B層がスチレン−無水マレイン酸共重合体である場合は、A層の厚さの総和と、B層の厚さの総和との比は、1:5〜1:15であることが好ましく、1:5〜1:10であることがより好ましい。A層が厚くなり過ぎても、B層が厚くなり過ぎても、位相差発現の温度依存性が小さくなる。
【0056】
(延伸処理)
本発明においては、次に、前記位相差板製造用の積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸する。各回における延伸温度は異なる温度とすることが好ましい。また延伸方向は、各回で異なる方向にする。そして、熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸と、熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸とを略直角に交わらせる。
【0057】
第一回目の一軸延伸では、温度T1またはT2のいずれかの温度で一軸延伸する。
位相差板〔1〕製造用の積層フィルムでは、いずれの温度で延伸しても、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が遅れるかまたは進むかの一方になる。
位相差板〔2〕製造用の積層フィルムでは、温度T1で延伸すると、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が遅れる。一方、温度T2で一軸延伸したときにはフィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光に対する位相が進む。
【0058】
熱可塑性樹脂Aとして、正の固有複屈折率を有するものを用い、熱可塑性樹脂Bとして、負の固有複屈折率を有するものを用いる場合において、TsA>TsBであるとき、温度T1は、好ましくはTsB+3℃以上かつTsA+5℃以下であり、より好ましくはTsB+5℃以上かつTsA+3℃以下である。また温度T2は、好ましくはTsB+3℃以下であり、より好ましくはTsB以下である。第一回目の一軸延伸においては温度T1で行うことが好ましい。
TsB>TsAであるとき、温度T2は、好ましくはTsA+3℃以上かつTsB+5℃以下であり、より好ましくはTsA+5℃以上かつTsB+3℃以下である。また温度T1は、好ましくはTsA+3℃以下であり、より好ましくはTsA以下である。第一回目の一軸延伸においては温度T2で行うことが好ましい。
【0059】
第一回目の一軸延伸は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、ロール間の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法や、テンターを用いて横方向に一軸延伸する方法等が挙げられる。縦方向に一軸延伸する方法としては、ロール間でのIR加熱方式や、フロート方式等が挙げられる。光学的な均一性が高い位相差板が得られる点からフロート方式が好適である。横方向に一軸延伸する方法としては、テンター法が挙げられる。
【0060】
延伸ムラや厚さムラを小さくするために、延伸ゾーンにおいてフィルム巾方向に温度差がつくようにすることができる。延伸ゾーンにおいてフィルム巾方向に温度差をつけるには、温風ノズルの開度を巾方向で調整したり、IRヒーターを巾方向に並べて加熱制御したりするなど公知の手法を用いることができる。
【0061】
次に、前記第一回目の一軸延伸における温度とは異なる温度T2またはT1で、前記一軸延伸の方向と直交する方向に第二回目の一軸延伸する。第二回目の一軸延伸においてはTsA>TsBであるとき温度T2で行うことが好ましく、TsB>TsAであるとき温度T1で行うことが好ましい。第二回目の一軸延伸では、第一回目の一軸延伸で採用できる方法がそのまま適用できる。第二回目の一軸延伸は、第一回目の一軸延伸の延伸倍率よりも小さい延伸倍率で行うことが好ましい。
【0062】
熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸および熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸の方向は、次のようにして確認することができる。エリプソメトリを用い、位相差板の面内で屈折率が最大となる方向を求め、熱可塑性樹脂の固有複屈折値の符号との関係から以下の条件に従い配向軸を判断する。
熱可塑性樹脂の固有複屈折が正の場合:配向軸は、面内で屈折率が最大となる方向。
熱可塑性樹脂の固有複屈折が負の場合:配向軸は、面内で屈折率が最大となる方向と直交する方向。
【0063】
第一回目の一軸延伸および/または第二回目の一軸延伸の後に、延伸したフィルムを固定処理しても良い。固定処理における温度は、通常、室温〜延伸温度+30℃、好ましくは延伸温度−40℃〜延伸温度+20℃である。
【0064】
本発明の位相差板の製造方法によって、位相差板〔1〕製造用の積層フィルムを用いた場合には、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たす位相差板〔1〕が得られる。また、位相差板〔2〕製造用の積層フィルムを用いた場合には、面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす位相差板〔2〕が得られる。
【0065】
本発明の製造方法によって得られる位相差板は、そのレターデーションR550が、50〜400nmであることが好ましく、100〜350nmであることがより好ましい。レターデーションR450、R550およびR650は、平行ニコル回転法[王子計測機器社製、KOBRA−WR]を用いて測定した値である。屈折率nx、nz、およびnyは、エリプソメトリによって波長550nmにおいて測定した値である。
【0066】
本発明の製造方法によって得られた位相差板は、60℃、90%RH、100時間の熱処理によって、縦方向および横方向において、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下の収縮率を有する。収縮率がこの範囲を超えると、高温・高湿環境下で使用した際に、収縮応力によって位相差板の変形、表示装置からの剥離が生じる。
【0067】
本発明の製造方法によって得られた位相差板は、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独であるいは他の部材と組み合わせて、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに適用することができる。
【0068】
液晶表示装置は、光入射側偏光板と液晶セルと光出射側偏光板がこの順で配置された液晶パネルを備えるものである。本発明の製造方法によって得られた位相差板を液晶セルと光入射側偏光板との間および/または液晶セルと光出射側偏光板との間に配置することで液晶表示装置の視認性を大幅に向上させることができる。液晶セルの駆動方式としては、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどが挙げられる。
【0069】
本発明の製造方法によって得られた位相差板は液晶セルまたは偏光板に貼り合わせてもよい。該位相差板を偏光板の両面に貼り合わせてもよいし、片面にのみ貼り合わせてもよい。また該位相差板を2枚以上用いてもよい。貼り合わせには公知の接着剤を用い得る。
偏光板は、偏光子とその両面に貼り合わせられた保護フィルムとからなるものである。該保護フィルムに代えて、本発明の製造方法によって得られた位相差板を偏光子に直接貼り合わせて位相差板を保護フィルムとして用いることもできる。保護フィルムが省略されるので液晶表示装置を薄くすることができる。
【実施例】
【0070】
実施例を示しながら、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
【0071】
(配向軸の測定)
高速分光エリプソメトリ(J.A.Woollam社製、製品名「M−2000U」)を用い、面内で屈折率が最大となる方向を求め、下記に示す固有複屈折値の符号との関係から配向軸を決定した。
固有複屈折が正の場合:配向軸は、面内で屈折率が最大となる方向
固有複屈折が負の場合:配向軸は、面内で屈折率が最大となる方向と直交する方向
なお、測定は、温度20℃±2℃、相対湿度60±5%の条件下で行い、面内で最大となる屈折率は、入射角度55度、60度および65度の3点における、波長領域400〜1000nmのスペクトルから算出したデータから、波長550nmにおける値とした。
【0072】
(透明フィルムの膜厚)
フィルムをエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトーム(大和工業社製、製品名「RUB−2100」)を用いてスライスし、走査電子顕微鏡を用いて断面を観察し、測定した。
【0073】
(屈折率)
屈折率nx、nz、およびnyは、分光エリプソメトリ(J.A.Woollam社製、製品名「M−2000U」)を用い、温度20℃±2℃、相対湿度60±5%の条件下で行い、屈折率は、入射角度55,60,65度の3点における、波長領域400〜1000nmのスペクトルから算出したデータから、波長550nmにおける値とした。
【0074】
(光線透過率)
JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定した。
【0075】
(荷重たわみ温度)
樹脂の荷重たわみ温度はJISK6717−2に準拠して試験片を作成し、測定した。
【0076】
(レターデーション、遅相軸角度)
平行ニコル回転法(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて各波長におけるレターデーション、およびフィルム長手方向に対する遅相軸の角度を測定した。同様の測定を、位相差板の幅方向に等間隔で10点測定し、平均値を算出した。
【0077】
(アッベ数)
アッベ屈折計(アタゴ社製、DR−M2)を用い、温度20℃±2℃、相対湿度60±5%の条件下で測定した。
【0078】
製造例1
二種三層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−110、荷重たわみ温度145度、固有複屈折が正、アッベ数30)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
ノルボルネン系重合体樹脂(日本ゼオン社製、ZEONOR1420R、荷重たわみ温度136℃、固有複屈折が正、アッベ数56)のペレットをダブルフライト型のスクリューを備えたもう一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0079】
接着剤としてスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)をダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の一方のマニホールドに、溶融された260℃のノルボルネン系重合体樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してもう一方のマニホールドにそれぞれ供給した。また接着剤層用のマニホールドに、溶融された260℃のSEBSを目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して供給した。
【0080】
ポリカーボネート樹脂、ノルボルネン系重合体樹脂およびSEBSを該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(A層:20μm)とSEBS層(5μm)とノルボルネン系重合体樹脂層(B層:160μm)からなる幅1350mmで且つ厚さ185μmの積層フィルム1を得た。
【0081】
実施例1
製造例1で得られた積層フィルム1を縦一軸延伸機に供給し、延伸温度145℃、延伸倍率1.5で縦方向に延伸した。続いて、延伸されたフィルムをテンター延伸機に供給し、延伸温度125℃、延伸倍率1.25で横方向に延伸して、位相差板1を得た。
位相差板1のA層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、A層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略平行に存在している事を確認し、同様にしてB層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、B層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略直交する方向に存在している事を確認した。R450<R550<R650の関係を示すものであった。評価結果を表1に示す。
【0082】
比較例1
実施例1において横方向延伸延伸温度を145℃に変更した以外は実施例1と同様にして位相差板2を得た。
位相差板2のA層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、A層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略平行に存在している事を確認し、同様にしてB層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、B層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略平行に存在している事を確認した。R450>R550>R650の関係を示すものであった。評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、同符号の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって熱可塑性樹脂A層の分子配向軸と熱可塑性樹脂B層の分子配向軸とを略直角に交わらせることによって、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たす広い面積の位相差板を容易に高精度で得ることができる。
【0085】
製造例2
二種二層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−110、荷重たわみ温度145度)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製、DylarkD332、荷重たわみ温度135℃、固有複屈折が負、アッベ数31)のペレットをダブルフライト型のスクリューを備えたもう一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の一方のマニホールドに、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してもう一方のマニホールドにそれぞれ供給した。
【0086】
ポリカーボネート樹脂およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出しフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して、ポリカーボネート樹脂層(A層:20μm)とスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(B層:160μm)からなる幅1350mmで且つ厚さ180μmの積層フィルム2を得た。
【0087】
製造例3
DylarkD332に代えてポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社製、HF44、荷重たわみ温度73℃、固有複屈折が負、固有複屈折が負、アッベ数31)を用い、A層の厚さを80μm、B層の厚さを80μmにした以外は製造例2と同様にしてポリカーボネート樹脂層(A層:80μm)とポリスチレン樹脂層(B層:80μm)からなる幅1350mmで且つ厚さ160μmの積層フィルム3を得た。
【0088】
実施例2
実施例1で用いた積層フィルム1に代えて積層フィルム2を用いた以外は実施例1と同様にして位相差板3を得た。
位相差板3のA層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、A層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略平行に存在している事を確認し、同様にしてB層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、B層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略直交する方向に存在している事を確認した。(nx−nz)/(nx−ny)は0.6849であった。評価結果を表2に示す。
【0089】
比較例2
実施例1で用いた積層フィルム1に代えて積層フィルム3を用い、横方向延伸温度を70℃に変えた以外は実施例1と同様にして位相差板4を得た。
位相差板4のA層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、A層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略直交する方向に存在している事を確認し、同様にしてB層の屈折率をエリプソメトリで測定したところ、B層の配向軸がフィルムの長手方向に対して略直交する方向に存在している事を確認した。(nx−nz)/(nx−ny)は2.3815であった。評価結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
表2に示すように、異符号の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって熱可塑性樹脂A層の分子配向軸と熱可塑性樹脂B層の分子配向軸とを略直角に交わらせることによって、面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たす広い面積の位相差板を容易に高精度で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】A層及びB層並びにA層とB層との積層体の位相差の温度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとを共押出または共流延して、熱可塑性樹脂Aの層と熱可塑性樹脂Bの層とを含む積層フィルムを得、
該積層フィルムを少なくとも2回一軸延伸することによって熱可塑性樹脂Aの層の分子配向軸と熱可塑性樹脂Bの層の分子配向軸とを略直角に交わらせることを含む、位相差板の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂Aの荷重たわみ温度TsAと、熱可塑性樹脂Bの荷重たわみ温度TsBとの差の絶対値が、5℃以上である、請求項1に記載の位相差板の製造方法。
【請求項3】
温度TsBにおける熱可塑性樹脂Aの破断伸度、および温度TsAにおける熱可塑性樹脂Bの破断伸度が共に、50%以上である、請求項1または2に記載の位相差板の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂Aが正または負の固有複屈折を有するものであり、熱可塑性樹脂Bが熱可塑性樹脂Aと同じ符号の固有複屈折を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差板の製造方法。
【請求項5】
位相差板が、波長450nmの光における入射角0度でのレターデーションR450、波長550nmの光における入射角0度でのレターデーションR550、および波長650nmの光における入射角0度でのレターデーションR650が、R450<R550<R650の関係を満たすものである請求項4に記載の位相差板の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂Aが正または負の固有複屈折を有するものであり、熱可塑性樹脂Bが熱可塑性樹脂Aと異なる符号の固有複屈折を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差板の製造方法。
【請求項7】
位相差板が、面内遅相軸方向の屈折率nxと、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率nyと、厚さ方向の屈折率nzとが、0<(nx−nz)/(nx−ny)<1の関係を満たすものである請求項6または7に記載の位相差板の製造方法。
【請求項8】
各回の一軸延伸における延伸温度が異なる温度である請求項1〜7のいずれか1項に記載の位相差板の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた位相差板。

【図1】
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【公開番号】特開2009−192844(P2009−192844A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33781(P2008−33781)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】