説明

位相物体の可視化方法とその顕微鏡システム

【課題】本発明では、明視野顕微鏡における位相物体の観察像から位相分布の情報を再生する。そして、この位相分布の情報を用いて、微分干渉画像や位相差画像等を再現する。
【解決手段】本発明の上記課題は、位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置付近の前後2枚の画像を取得し、前記画像から差画像と和画像を計算し、差画像を和画像で割ることによって正規化画像を計算し、この正規化画像を光学系の光学的応答特性でデコンボリューションすることによって位相分布像を再生することによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡による位相物体の可視化方法に関わり、特に正確な位相情報の再現に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の生体細胞は実質的に無色透明であり、明視野顕微鏡では観察することが困難であった。そのため、生体細胞を観察する際には細胞を染色する等の工夫をする。あるいは、生体細胞が持つ位相的性質を検出する特別な装置を組み入れた顕微鏡が使われてきた。その例として位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡が挙げられる。
【0003】
また、半導体基板や金属表面に形成された微小な凹凸も、表面反射光の位相差を使って観察される微分干渉顕微鏡の代表的な実用例である。微小な凹凸によって作られた反射光の位相差は微分干渉顕微鏡によって可視化される。
【0004】
しかし、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡は特別な装置を顕微鏡に組み込まなくてはならず、通常の明視野観察によって位相差を観察したいという欲求があった。その解決法として特許文献1に挙げられるような焦点ずらしによる位相物体の可視化法がある。特許文献1では合焦位置から焦点位置をずらす事によって、位相物体の持つ位相分布に相関したコントラストが生じ、位相物体が可視化される方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−173288号公報
【0005】
しかし、上記の特許文献1では、位相物体が可視化されるものの、位相物体の持つ位相分布の情報を復元する方法が示されなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、明視野顕微鏡における位相物体の観察像から位相分布の情報を再生する。そして、この位相分布の情報を用いて、微分干渉画像や位相差画像等を再現する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置付近の前後2枚の画像を取得し、前記画像から差画像と和画像を計算し、差画像を和画像で割ることによって正規化画像を計算し、この正規化画像を光学系の光学的応答特性でデコンボリューションすることによって位相分布像を再生することによって達成される。
【0008】
また、位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置とその前後2ヶ所で画像を取得し、合焦位置の前後2ヶ所で取得した前記画像から差画像を計算し、前記差画像を合焦位置画像で割ることによって正規化画像を計算し、前記正規化画像を前記光学系の光学的応答特性でデコンボリューションすることによって位相分布像を再生することによっても達成される。
【0009】
この時の光学的応答特性は以下の式で与えられることが望ましい。
【0010】
【数5】

【0011】
ここで、
【0012】
【数6】

【0013】
はTCC(Transmission Cross Coefficient)である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、明視野顕微鏡における位相物体の観察像から位相分布の情報を再生することができる。
そしてこの位相分布像を利用して、試料の凹凸の高さを計算することができる。つまり、本発明は、通常の明視野顕微鏡を使って凹凸の測定が行える。
【0015】
さらに、この位相分布の情報を用いて、微分干渉画像や位相差画像等を生成することができる。このことは、微分干渉顕微鏡や位相差顕微鏡のような特別な顕微鏡を使わなくても、微分干渉観察や位相差観察を行えることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず以下では、焦点ずらしによる位相物体や基板表面の凹凸の可視化方法に関して理論的説明をして、この方法の問題点に関して説明する。その後、本発明におけるこの問題点の解決方法に関して説明をする。
【0017】
図1は原理説明図であり、物点、結像光学系入射瞳、射出瞳、結像面を模式的に示した図である。図1に示すように、合焦位置に観察物体を配置すると、観察物点から出た光は実線で示すように球面波状に広がり、結像光学系の入射瞳に入る。入射瞳に入った光は、結像光学系の射出瞳から球面波状の収束光になり、結像面に集光して像を形成する。このとき、結像光学系を透過する各光線の間に光路(位相)差は生じないので、像にボケは生じない。
【0018】
しかし、物点を点線に示す位置に移動させると、物点からの光は入射瞳に球面波状に入射する。入射瞳に入射した光は、射出瞳から移動後の像面に向かう球面波状の光に変わる。移動後の像面で観察すれば、光に光路(位相)差は発生しないが、観察点を移動させずに当初の結像面で観察すると、各光線に光路(位相)差が発生する。
【0019】
本発明においては、この点を利用して、観察物体を結像光学系の合焦位置からずらした位置に配置することにより、結像光学系を透過する各々の光線に位相差を発生させている。
【0020】
また、図1において、結像光学系の光軸上光線と、最大NA(開口数)光線との位相の差が最も大きくなる。
したがって、観察物体を結像光学系の合焦位置から外れた位置で観察することにより、観察物体を透過した光と回折した光の間に合焦位置からのずれ量(デフォーカス量)に対応した位相差量を発生させることができる。
【0021】
その結果、この位相差量が位相差観察法等で用いている位相膜と等価な機能をして、位相分布に比例した像コントラストを与えることができ、位相物体や基板上の凹凸を可視化することができる。
【0022】
位相物体を観察する場合、位相物体の位相分布に比例した像コントラストは、観察物体の位相量と透過光と回折光の間に与える位相差量とに比例する。観察物体で回折される光と透過光の間の角度は、観察物体の形状に依存して変わる。回折光と透過光の間の角度が変わると、同じデフォーカス量でも2つの光束の間に発生する位相差量が異なってくる。そのため、観察する例えば細胞毎にデフォーカス量を変えることにより、より良い像コントラストを得ることができる。
【0023】
また、デフォーカスによって生じる各光線の位相差は、観察物体が結像光学系の合焦位置から近点側にずれた場合と遠点側にずれた場合で符号が変わる。つまり、位相物体等の観察物体を結像光学系の合焦位置から近点側にずらして観察した画像と遠点側にずらして観察した画像は、観察物体の位相分布に相当して得られる像コントラストも反転している。
【0024】
そのため、近点側にずらして撮像した画像と遠点側にずらして撮像した画像を画像間演算することにより、デフォーカスによって与えられる位相差に影響されない画像成分を分離することができる。さらに、2つの画像の画素毎に差演算を行うことにより、観察物体の位相分布に相当する画像成分の像コントラストは2倍になる。
【0025】
以下では、上述の現象の論理的な背景を説明する。
顕微鏡の照明方法は部分コヒーレント照明であるので、その結像強度分布は以下の式で表される。
【0026】
【数7】

【0027】
ここで
【0028】
【数8】

【0029】
はTCC(Transmission Cross Coefficient)であり、以下で与えられる。
【0030】
【数9】

【0031】
ここで
【0032】
【数10】

【0033】
は物体の複素振幅分布のフーリエ変換を表し、
【0034】
【数11】

【0035】
は照明光学系の瞳の強度分布を表し、
【0036】
【数12】

【0037】
は結像光学系の瞳関数を表す。
以下では、説明を簡単にするためにy軸方向には変化がない1次元モデルを考える。つまり、像強度分布は
【0038】
【数13】

【0039】
であり、TCCは
【0040】
【数14】

【0041】
と簡略化される。
いま、位相物体の位相分布をφ(x)とし、簡単のために透過率を1としたとき、物体の複素振幅分布o(x)とそのフーリエ変換O(f)は、弱位相近似により以下で表される。
【0042】
【数15】

【0043】
ここでΦ(f)は位相分布のφ(x)フーリエ変換である。
これを式(3)に代入することにより、近似的に以下を得る。
【0044】
【数16】

【0045】
を得る。
ここで上式の第一項がデフォーカスによって符号が変わらない項であり、第二項がデフォーカスによって符号が変わる項である。そのことを示すために、デフォーカスによるT(f,0)+T(0,-f)とT(f,0)-T(0,-f)への影響を考える。
【0046】
一般にデフォーカス等の理由により収差W(ξ)が発生した場合の瞳関数は、
【0047】
【数17】

【0048】
で与えられる。ここで
【0049】
【数18】

【0050】
である。これを式(4)に代入する。このとき、収差W(ξ)が回転対称であることを仮定すると(例えばデフォーカスによる収差は回転対称である)、
【0051】
【数19】

【0052】
を得る。
一方、デフォーカス量zのデフォーカスによる波面収差は瞳の座標ξを使って、
【0053】
【数20】

【0054】
と表される。つまり、T(f,0)+T(0,-f)とはデフォーカス量zに関して偶関数であり、T(f,0)-T(0,-f)はデフォーカス量zに関して奇関数である。このことにより、式(5)の第一項がデフォーカスによって符号が変わらない項であり、第二項がデフォーカスによって符号が変わらない項であることが示された。
【0055】
また、この性質により、デフォーカス量zとデフォーカス量-zの像強度分布をそれぞれI(x;z)とI(x;-z)とすると、差画像の像強度分布は
【0056】
【数21】

【0057】
となり、位相分布に比例する要素が2倍に強調される画像が得られる。
図2は上述の方法による位相分布の可視化例である。この画像はシリコンウェハー上に半導体製造技術を用いて製作された同じ高さの溝で構成された格子パターンのデフォーカス像(図2(a),(b))とそのデフォーカスの差画像I(x;z)-I(x;-z)である。撮影条件は、対物レンズが20倍、焦点距離9mm、NA0.45であり、σ=開口絞り径/対物レンズの瞳径=0.3のときに、8μmのデフォーカス量で撮影された。
【0058】
図2(c)から理解されるように、溝の幅によって溝の高さに関する可視化の具合が異なる。特に、格子の幅が狭い部分ではコントラストが強く出ており、そのために溝の高さが異なっているように見えてしまっている。
【0059】
このような問題が起こる理由は式(6)におけるT(f,0;z)-T(0,-f;z)が空間周波数に依存する係数となって位相分布(のフーリエ変換)Φ(f)に掛かっているからである。その結果、図2の例においては溝の幅に依存した可視化がなされてしまったのである。
【0060】
本発明は上記の問題を解決するために式(6)から位相分布φ(x)のみを復元する方法を考える。
ここで、
【0061】
【数22】

【0062】
とおき、その逆フーリエ変換をotf(x,z)とすると、
【0063】
【数23】

【0064】
となる。
ここで、
【0065】
【数24】

【0066】
は光学系の特性(対物レンズのNA、焦点距離、照明の波長)と焦点ずらし量によって決まる。
つまり、画像取得に使われる光学系のOTFを前もって計算しておけば、位相物体の位相分布φ(x)はotf(x,z)によるデコンボルーション
【0067】
【数25】

【0068】
によって、位相分布
【0069】
【数26】

【0070】
が計算される。
上記の説明では試料の位相分布変化が1次元に限定されたモデルを使って説明したが、試料の位相分布変化が2次元のときも同様の議論が成り立つ。このときは、
【0071】
【数27】

【0072】
を利用すればよい。
なお、上記の議論から解る様に、本発明はOTFを精度よく取得することが位相分布の復元精度に係わっている。そこで、照明光学系の瞳の強度分布Q(ξ)は一定であることが望ましい。さらに、照明光は単波長あるいは、狭い波長域の光を使うことが望ましい。もちろん、各3原色の照明において上記の発明を実施し、得られた画像からカラー画像を復元する方法も考えられる。
【0073】
以下では、上記の理論に基づいた位相物体の可視化方法を具体例を挙げて説明する。図3は本発明の実施の例をフローチャートにしたものである。
まず、合焦位置付近の前後2枚の画像I(x;z),I(x;-z)を取得する(S1)。このとき、合焦位置からのデフォーカス量は等しいことが望ましい。
【0074】
次に2枚の画像から差画像I(x;z)-I(x;-z)と和画像I(x;z)+I(x;-z)を計算する(S2、S3)。そして差画像を和画像で正規化する(S4)。つまり、
【0075】
【数28】

【0076】
を計算する。
次に、和画像で正規化された差画像をフーリエ変換する(S5)。その後、フーリエ変換した結果を光学的応答特性の逆フーリエ変換otf(x,z)で割り算する(S6)。このとき、光学的応答特性OTFは、顕微鏡光学系の特性(対物レンズのNA、焦点距離、照明の波長)と焦点ずらし量によって決まるので、この量は前もって計算しておけばよい。
【0077】
最終的に、上記の結果を逆フーリエ変換することによって位相分布像が再生される(S7)。
また、本発明の実施には変形例が考えられる。上記の(S4)の正規化のステップにおいて、和画像I(x;z)+I(x;-z)の代わりに、合焦画像I(x;0)を使うことも出来る。つまり、
【0078】
【数29】

【0079】
を計算する代わりに、
【0080】
【数30】

【0081】
を計算する。
本発明の実施において和画像の代わりに合焦画像を利用することの影響は、位相物体以外の対象物(あるいは位相物体としての性質と位相物体以外の性質の両方を備えている対象物)が観察視野内にあるときに生じる。デフォーカス像I(x;z)とI(x;-z)は位相物体以外の対象物にとっては単なるボケ像である。例えば図2の(a)と(b)の標本上に見られる塵は単なるボケ像として写っている。これらはコントラストの反転などの位相物体に特有の現象を現さないので、図2の(c)では差画像I(x;z)-I(x;-z)を作ることによって見えにくくなっている。
【0082】
ところが、和画像I(x;z)+I(x;-z)においては、位相物体以外のとしての影響がボケ像として強調され可視化されてしまう。このとき、和画像I(x;z)+I(x;-z)の代わりに、合焦画像I(x;0)を利用することによって、ボケ像の影響を低減した正規化が出来る。
【0083】
上記の可視化方法の応用として、本発明によって得られる位相分布像からは、微分干渉像を生成することも可能である。ここでいう微分干渉像とは、対象の試料を微分干渉顕微鏡で撮影したとしたら得られる画像のことである。つまり本発明によれば、微分干渉顕微鏡を使わずに通常の明視野顕微鏡をつかって微分干渉像を作ることができる。
【0084】
位相分布像と微分干渉像の関係は、特許文献2や非特許文献1で説明されているように、微分干渉顕微鏡のMTFのコンボリューションによって結ばれる。ここで、微分干渉顕微鏡のMTFは
【0085】
【数31】

【0086】
であり、Δはシェア量、
【0087】
【数32】

【0088】
である。このMTFのフーリエ変換をpsfD(x)とおけば、微分干渉像は
【0089】
【数33】

【0090】
で与えられる。
【特許文献2】特許第3523725号
【非特許文献1】Optics Communications 260 (2006) 117-126 なお、式(9)においてM(f),M(0)は光学系(微分干渉顕微鏡)による因子であるので、微分干渉像への変換に本質的に寄与している因子は
【0091】
【数34】

【0092】
である。つまり、この因子を含む量(のフーリエ変換)で位相分布をコンボリューションすることによって微分干渉像が得られる。
図6は上記方法によって微分干渉像を生成したものである。同図も比較のため、本発明によるデコンボリューションをしたものと、そうでないものを並べてある。図6(a)は式(6)を位相分布とみなして、微分干渉像を生成したものであり、図6(b)は本発明のデコンボリューションを適用した結果の位相分布φ(x)から微分干渉像を生成したものである。両画像の比較をすると明確なように、本発明によるデコンボリューションを適用した微分干渉像では格子の凹凸が現実に近い形で再生されている。
【0093】
また、本発明による位相分布φ(x)は、位相差像を生成することにも応用することができる。ここでいう位相差像とは、対象の試料を位相差顕微鏡で撮影したとしたら得られる画像のことである。つまり本発明によれば、位相差顕微鏡を使わずに通常の明視野顕微鏡をつかって位相差像を作ることができる。
【0094】
位相分布像と位相差像の関係も、特許文献3で説明されているように、位相差顕微鏡のMTFのコンボリューションによって結ばれる。ここで、位相差顕微鏡のMTFは
【0095】
【数35】

【0096】
であたえられる。ここでPa(ξ),Pb(ξ)は瞳関数P(ξ)とP(ξ)=Pa(ξ)+Pa(ξ)という関係を満たす光学系によって決まる量である。つまり、このMTFのフーリエ変換をpsfD(x)とおけば、位相差像は
【0097】
【数36】

【0098】
で与えられる。
【特許文献3】特許第3540352号 ここで、図4を使って、本発明の実施のための顕微鏡の説明をする。同図は落射照明型の正立顕微鏡の模式図であるが、本発明の実施にはこの顕微鏡構成に限らない。観測する試料に応じて、倒立方顕微鏡や透過照明型の顕微鏡などを自由に利用することが出来る。
【0099】
図4において、光源1から放出された照明光は照明光学系2を通り、ハーフミラー3によって光路を折り返し、対物レンズ4に入射され、試料(位相物体)5を照明する。位相物体である試料から放出される観察光は対物レンズ4によって拡大され、ハーフレンズ3を透過し、結像レンズ7によってCCDカメラなどの撮像素子8の受光面に結像される。この撮像された画像はコンピュータ9に受け渡され、ここで和画像の演算、正規化の演算、フーリエ変換の演算、OTFでのデコンボリューションなどの図3に示された一連の処理が行われる。その結果得られた、位相物体の可視化画像がコンピュータ9上のディスプレイに表示される。
【0100】
本発明の実施には合焦点前後の2枚の画像を取得する必要がある。そこで、撮像素子8による画像の取得と連動してステージ6または対物レンズ4を移動させて焦点位置を変えるように構成することが望ましい。
【0101】
なお、これらの一連の処理はコンピュータ上のソフトウェアによって実装されてもよいし、ハードウェアとして実装されてもよい。また、独立したコンピュータの形態で構成されずに、顕微鏡システムとして一体型に構成されてもよい。
【0102】
最後に上述の方法による効果を、実施例を元に説明する。
図5は、図2と同様にシリコンウェハー上に半導体製造技術を用いて製作された、段差が50nmの溝で構成された格子パターンを撮像したものである。撮像条件は、対物レンズが20倍、焦点距離9mm、NA0.45であり、σ=開口絞り径/対物レンズの瞳径=0.5であった。このとき、(a)は合焦位置での像、(b)は+2μmのデフォーカス像、(b)は−2μmのデフォーカス像である。
【0103】
図6に示されるグラフは、位相分布像を再生する際に使う光学的応答特性のグラフである。このグラフは、図5を撮影した条件である、焦点距離9mm、NA0.45、デフォーカス量2μmから式(8)などをつかって計算される。
【0104】
図7は本発明による位相分布情報の再生の効果を説明する。図7(a)は図5に示される画像の正規化した差画像のアークタンジェントを求めて、位相分布像として可視化したものである。一方、図7(b)は本発明に従いデコンボリューションを実行して位相分布像として可視化したものである。なお、このときに利用した正規化の方法は和画像による正規化である。
【0105】
図8は図7の位相分布像の違いを解りやすくするために、2つの位相分布情報から格子の高さを求め、その断面をグラフ化したものである。(a)は図7(a)の位相分布情報に対応し、(b)は図7(b)の位相分布情報に対応する。両図において、横軸は図7における断面のピクセルを表し、縦軸は位相分布を高さの単位(μm)に変換したもの(つまり、位相差を波長で表したもの)である。同図から読み取れるように、本発明に従いデコンボリューションを行った位相分布情報から格子の高さを計算したものの方が、実際の格子の高さに近い値と成っていることが読み取れる。
【0106】
図9は本発明の応用である、微分干渉像(DIC像)の生成の実施例である。(a)は図7(a)の位相分布像に微分干渉顕微鏡のMTFをコンボリューションすることによって得られたものであり、(b)は図7(b)の位相分布像に微分干渉顕微鏡のMTFをコンボリューションすることによって得られたものである。
【0107】
図10も段差が50nmの溝で構成された格子パターンを撮像したものである。撮像条件は、対物レンズが20倍、焦点距離9mm、NA0.45であり、σ=開口絞り径/対物レンズの瞳径=0.5であった。このとき、(a)は合焦位置での像、(b)は+4μmのデフォーカス像、(b)は−4μmのデフォーカス像である。
【0108】
図11に示されるグラフは、位相分布像を再生する際に使う光学的応答特性のグラフである。このグラフは、図10を撮影した条件である、焦点距離9mm、NA0.45、デフォーカス量4μmから式(8)などをつかって計算される。
【0109】
図12は本発明による位相分布情報の再生の効果を説明する。図12(a)は図10に示される画像の正規化した差画像のアークタンジェントを求めて、位相分布像として可視化したものである。一方、図12(b)は本発明に従いデコンボリューションを実行して位相分布像として可視化したものである。なお、このときに利用した正規化の方法は合焦画像による正規化である。
【0110】
図13は図12の位相分布像の違いを解りやすくするために、2つの位相分布情報から格子の高さを求め、その断面をグラフ化したものである。(a)は図12(a)の位相分布情報に対応し、(b)は図12(b)の位相分布情報に対応する。両図において、横軸は図12における断面のピクセルを表し、縦軸は位相分布を高さの単位(μm)に変換したもの(つまり、位相差を波長で表したもの)である。同図から読み取れるように、本発明に従いデコンボリューションを行った位相分布情報から格子の高さを計算したものの方が、実際の格子の高さに近い値と成っていることが読み取れる。
【0111】
図14は本発明の応用である、微分干渉像(DIC像)の生成の実施例である。(a)は図12(a)の位相分布像に微分干渉顕微鏡のMTFをコンボリューションすることによって得られたものであり、(b)は図12(b)の位相分布像に微分干渉顕微鏡のMTFをコンボリューションすることによって得られたものである。
【0112】
図15も段差が50nmの溝で構成された格子パターンを撮像したものである。撮像条件は、対物レンズが20倍、焦点距離9mm、NA0.45であり、σ=開口絞り径/対物レンズの瞳径=0.75であった。このとき、(a)は合焦位置での像、(b)は+4μmのデフォーカス像、(b)は−4μmのデフォーカス像である。
【0113】
図16に示されるグラフは、位相分布像を再生する際に使う光学的応答特性のグラフである。このグラフは、図15を撮影した条件である、焦点距離9mm、NA0.45、デフォーカス量4μmから式(8)などをつかって計算される。
【0114】
図17は本発明による位相分布情報の再生の効果を説明する。図17(a)は図15に示される画像の正規化した差画像のアークタンジェントを求めて、位相分布像として可視化したものである。一方、図17(b)は本発明に従いデコンボリューションを実行して位相分布像として可視化したものである。なお、このときに利用した正規化の方法は合焦画像による正規化である。
【0115】
図18は図17の位相分布像の違いを解りやすくするために、2つの位相分布情報から格子の高さを求め、その断面をグラフ化したものである。(a)は図17(a)の位相分布情報に対応し、(b)は図17(b)の位相分布情報に対応する。両図において、横軸は図17における断面のピクセルを表し、縦軸は位相分布を高さの単位(μm)に変換したもの(つまり、位相差を波長で表したもの)である。同図から読み取れるように、本発明に従いデコンボリューションを行った位相分布情報から格子の高さを計算したものの方が、実際の格子の高さに近い値と成っていることが読み取れる。
【0116】
図19は本発明の応用である、微分干渉像(DIC像)の生成の実施例である。(a)は図17(a)の位相分布像に微分干渉顕微鏡のMTFをコンボリューションすることによって得られたものであり、(b)は図17(b)の位相分布像に微分干渉顕微鏡のMTFをコンボリューションすることによって得られたものである。
【0117】
上記のように、本発明によれば特別な装置を組み込むことをせずに、位相物体の位相分布を取得することができ、それを基に微分干渉像や位相差像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】焦点ずらしを行った場合の位相差(光路差)を説明する図である。
【図2】焦点の前後のデフォーカス像とその差画像である。
【図3】本発明の実施例を表すフローチャートである。
【図4】本発明の実施に利用される顕微鏡の構成例である。
【図5】本発明の実施の例に使われる試料の合焦画像とデフォーカス像である(1)。
【図6】本発明の実施の例に使われる光学的応答関数である(1)。
【図7】本発明の実施の効果を示す位相分布像である(1)。
【図8】本発明の実施の効果を示す位相分布の断面像である(1)。
【図9】本発明の実施の応用例を示す微分干渉像である(1)。
【図10】本発明の実施の例に使われる試料の合焦画像とデフォーカス像である(2)。
【図11】本発明の実施の例に使われる光学的応答関数である(2)。
【図12】本発明の実施の効果を示す位相分布像である(2)。
【図13】本発明の実施の効果を示す位相分布の断面像である(2)。
【図14】本発明の実施の応用例を示す微分干渉像である(2)。
【図15】本発明の実施の例に使われる試料の合焦画像とデフォーカス像である(3)。
【図16】本発明の実施の例に使われる光学的応答関数である(3)。
【図17】本発明の実施の効果を示す位相分布像である(3)。
【図18】本発明の実施の効果を示す位相分布の断面像である(3)。
【図19】本発明の実施の応用例を示す微分干渉像である(3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置付近の前後2ヶ所で画像を取得し、
前記画像から差画像と和画像を計算し、
前記差画像を前記和画像で割ることによって正規化画像を計算し、
前記正規化画像を前記光学系の光学的応答特性でデコンボリューションする
ことによって位相分布像を再生することを特徴とした位相物体の可視化方法。
【請求項2】
位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置とその前後2ヶ所で画像を取得し、
合焦位置の前後2ヶ所で取得した前記画像から差画像を計算し、
前記差画像を合焦位置画像で割ることによって正規化画像を計算し、
前記正規化画像を前記光学系の光学的応答特性でデコンボリューションする
ことによって位相分布像を再生することを特徴とした位相物体の可視化方法。
【請求項3】
前記光学的応答特性は以下の式で与えられることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の位相物体の可視化方法。
【数1】

ここで、
【数2】

はTCC(Transmission Cross Coefficient)である。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の位相物体の可視化方法によって得られた前記位相分布像から試料の凹凸の高さを計算する方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載の位相物体の可視化方法によって得られた前記位相分布像から微分干渉像を生成する方法。
【請求項6】
請求項1から請求項3の何れかに記載の位相物体の可視化方法によって得られた前記位相分布像から位相差画像を生成する方法。
【請求項7】
位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置付近の前後2ヶ所で画像を取得する撮像手段と、
前記画像から差画像と和画像を計算する演算手段と
前記差画像を前記和画像で割ることによって正規化画像を計算する正規化手段と、
前記正規化画像を前記光学系の光学的応答特性でデコンボリューションするデコンボリューション手段を備えることを特徴とした顕微鏡システム。
【請求項8】
位相分布を持つ試料から光学系の合焦位置とその前後2ヶ所で画像を取得する撮像手段と、
合焦位置の前後2ヶ所で取得した前記画像から差画像を計算する演算手段と
前記差画像を合焦位置画像で割ることによって正規化画像を計算する正規化手段と、
前記正規化画像を前記光学系の光学的応答特性でデコンボリューションするデコンボリューション手段を備えることを特徴とした顕微鏡システム。
【請求項9】
前記光学的応答特性は以下の式で与えられることを特徴とする請求項7あるいは請求項8に記載の顕微鏡システム。
【数3】

ここで、
【数4】

はTCC(Transmission Cross Coefficient)である。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−102294(P2008−102294A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284383(P2006−284383)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)