説明

位置センサ

【課題】ロータリートランスを不要とし、位置センサ全体を小型化すること。
【解決手段】位置センサは、ステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18が形成されたステータ固定板と、ステータ固定板と対向しながら回転し、ロータコイル14が形成されたロータ可動板とを備える。ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18は、所定ピッチでジグザグに折り返され、互いに同じ位相で重ねて配置される。サーチコイル18には、コンデンサ22が並列に接続される。ロータコイル14は、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18と対向して配置され、所定ピッチで短絡された複数のショートコイル14A〜14G等を含む。コントローラは、ステータ励磁コイル17へ励磁信号を出力し、ステータサーチコイル18の出力電圧の変化に基づきロータ可動板の回転角度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可動体の動作位置を検出するために使用される位置センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、各分野で広く用いられている回転角センサを挙げることができる。自動車用エンジンでは、その回転速度や回転位相を検出するために、回転角センサの一つであるクランク角センサが採用されている。
【0003】
この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載されたロータリー形スケールが知られている。このスケールは、互いに対向して配置されたロータとステータとを備える。ロータには、ロータ側コイルパターン(サーチコイル)が設けられ、ステータには、サーチコイルと向かい合わせになるように対向して配置されたステータ側コイルパターン(励磁コイル)が設けられる。また、ロータには、ロータ側ロータリートランスが設けられ、ステータには、ロータ側ロータリートランスと向かい合わせになるようにステータ側ロータリートランスが設けられる。ロータは、例えば、モータ等の回転軸上に取り付けられて同軸と一体回転可能に設けられ、ステータは、モータ等のケースに固定される。ここで、励磁コイル及びサーチコイルは、それぞれジグザグ状に折り返され且つ全体が円環状に形成される。そして、このロータリー形スケールでは、励磁コイルに交流電流を流すことにより、励磁信号を発生させ、ロータ(サーチコイル)の回転角度に対して(すなわち励磁コイルとサーチコイルの相対位置関係の変化に応じた電磁結合度の変化に応じて)、周期的(周期=サーチコイルのパターンピッチ)に変化する誘導電圧がサーチコイルに発生する。この誘導電圧はロータ側ロータリートランスからステータ側ロータリートランスに伝達され、この誘導電圧の変化量から、ロータ(すなわちロータが結合されたモータ等の回転軸)の回転角度を検出するようになっている。
【0004】
ここで、従来のクランク角センサの分解能は、10度程度で十分であったが、近年、環境問題に関する排ガス規制に伴い、エンジンにより精確な制御が求められており、クランク角センサの分解能も、1度程度を必要とされつつある。例えば、エンジンを「6000rpm」の回転速度で駆動しているときには、1度毎にパルスを出力しようとすると、「36kHz」の信号を必要とする。
【0005】
一方、本出願人は、特許文献5において、(1)「300〜500kHz」の高周波の励磁信号を用いて、コイルの巻線数を減らすこと、(2)レゾルバステータ平板上に励磁コイルを印刷により形成し、レゾルバロータ平板上に検出コイルを印刷により形成し、レゾルバステータ平板とレゾルバロータ平板とを対向させて配置することを提案している。これにより、レゾルバの径方向寸法を小さくすると共に、レゾルバのロータの軸心方向の長さも短くでき、モータ軸に取り付けたときに、モータ全体の大きさを小さくできる効果を奏する。
【0006】
特許文献5のように、高周波の搬送波を用いて、信号波形を得ようとすると、「36kHz」の信号波形を得るためには、1信号当たり10個程度の搬送波を必要とするため、「360kHz」の搬送波を必要とする。「360kHz」の搬送波を用いることにより、コイルの巻き数を減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−216154号公報
【特許文献2】特開2000−292205号公報
【特許文献3】特表2001−520743号公報
【特許文献4】特開平4−276517号公報
【特許文献5】特開2008−256486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のロータリー形スケール及び特許文献5に記載のレゾルバでは、ロータリートランスを用いているため、ロータ及びステータにロータリートランスを配置するスペースが必要となり、全体を小型化することが難しいという課題があった。
【0009】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ロータリートランスを不要とし、全体を小型化することを可能とした位置センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の位置センサは、次の構成を有する。
(1)励磁信号が入力されるステータ励磁コイルと、検出信号を出力するステータサーチコイルとが形成されたステータ固定板と、ステータ固定板と隙間を介して対向しながら動作可能に設けられ、ロータコイルが形成されたロータ可動板とを備えた位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルが、それぞれ所定のピッチでジグザグに折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で重ねて配置されることと、ステータサーチコイルと並列に接続された容量素子と、ロータコイルが、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルと隙間を介して対向して配置され、所定のピッチで短絡された複数のショートコイルを含むことと、ステータ励磁コイルに入力される励磁信号を出力する励磁信号出力手段と、ステータサーチコイルの出力電圧の変化に基づいて、所定のピッチ分、ロータ可動板が移動したことを検出する移動検出手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
(2)(1)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルに対し、位相が半ピッチずれた所定のピッチでジグザグに折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で重ねて配置された第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルと、第2ステータサーチコイルと並列に接続された容量素子と、移動検出手段が、ステータサーチコイルの出力電圧と、第2ステータサーチコイルの出力電圧の差分に基づいて、所定のピッチ分、ロータ可動板が移動したことを検出することとを備えたことを特徴とする。
【0012】
(3)(1)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルが、ステータ固定板の表面に形成され、ロータコイルが、ロータ可動板の表面に形成されることを特徴とする。
【0013】
(4)(2)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイル、並びに第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルが、ステータ固定板の表面に形成され、ロータコイルが、ロータ可動板の表面に形成されることを特徴とする。
【0014】
(5)(1)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルが、ステータ固定板の内周面に形成され、ロータコイルが、ロータ可動板の外周面に形成されることを特徴とする。
【0015】
(6)(2)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイル、並びに第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルが、ステータ固定板の内周面に形成され、ロータコイルが、ロータ可動板の外周面に形成されることを特徴とする。
【0016】
(7)(3)又は(5)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルが、ロータコイルの全周に対して、一部のみ配置されることを特徴とする。
【0017】
(8)(4)又は(6)に記載する位置センサにおいて、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイル、並びに第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルが、ロータコイルの全周に対して、一部のみ配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記構成を有することにより、次のような作用、効果を奏する。
上記(1)の構成によれば、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルに対するロータコイルの位置が、所定のピッチの半ピッチ分ずれているときには、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルのインダクタンスは変化せず(ロータコイルの影響を受けず)、共振周波数は励磁信号の周波数(NMHz)と一致する。よって、ステータサーチコイルの出力信号の振幅は最大となる。
【0019】
一方、上記の位置関係から、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルに対するロータコイルの位置が変化するに従い、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルのインダクタンスは、ロータコイルの影響を受けて小さくなっていき、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルとロータコイルの位置が一致するときには、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルのインダクタンスは最小となり、このとき、共振周波数と励磁信号の周波数のずれが最大となる。したがって、ステータサーチコイルの出力信号の振幅は最小となる。このステータサーチコイルの出力電圧(振幅)の変化に基づいて、移動検出手段は所定ピッチ分、ロータ可動板が移動したことを検出できる。
【0020】
例えば、この位置センサを、クランクシャフトの回転角度を検出するために使用した場合には、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルのジグザグ(九十九折り)のピッチを1度とし、ロータコイルのピッチを1度としておけば、ロータ可動板がステータ固定板に対して、1度ずれる毎に、パルス信号を出力することができ、それをエンジン制御手段に送信することができる。
【0021】
すなわち、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルに対するロータコイルの位置が、所定のピッチの半ピッチ分ずれているとき、例えば、ロータコイルに隣り合う2つのステータ励磁コイル及びステータサーチコイルの導体パターン(A,B)の半分ずつが対向しているときには、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイル(A)により発生しロータコイル内を通過する磁束GXAと、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイル(B)により発生しロータコイルを通過する磁束GXBとは、逆向きの磁束で同じ量の磁束であり、ロータコイルを通過する磁束は実質的にゼロとなり、ロータコイルに起電力は発生しない。したがって、磁束GXAと磁束GXBを打ち消すような磁束は発生せず、インダクタンスの低下はない。よって、共振周波数は、励磁信号の周波数(NMHz)と同じである。
【0022】
一方、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルとロータコイルの位置が一致しているときには、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルで発生する磁束GXにより、ロータコイルに起電力が発生し、起電力により発生した電流により、磁束GXとは逆向きの磁束GYが発生する。磁束GYの発生により、磁束GXが弱められ、その結果ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルのインダクタンスは最小となり、共振周波数は最大となり、このとき共振周波数と励磁信号の周波数(NMHz)のずれは最大となる。
【0023】
ステータサーチコイルの出力電圧は、励磁周波数(NMHz)における出力波形の振幅であり、共振周波数が変化していなければ、最大振幅Hとなるのに対して、共振周波数が高くなった場合には、励磁周波数(NMHz)における出力波形の振幅Haは最大振幅Hと比較して明らかに小さくなる。したがって、ステータサーチコイルの出力電圧(振幅)の低下を検出することにより、共振周波数の変化を検出し、それにより、インダクタンスの変化、つまりロータ可動板の移動を検出することができる。
【0024】
したがって、上記(1)の構成によれば、ロータ可動板の移動を検出するために、ロータリートランスを不要とすることができ、これによって全体を小型化することができる。
【0025】
ステータ励磁コイルとステータサーチコイルが、互いに同じ位相で重ねて配置されるので、ステータ励磁コイルに励磁信号が供給されることで、同コイルで磁束が発生し、その磁束によりステータサーチコイルに起電力が発生し、ステータ励磁コイルとステータサーチコイルはトランスとして作用する。このとき、ロータコイルパターンとステータコイルパターンが一致すると、ステータ励磁コイルで発生した磁束によりロータ可動板上のロータコイルのショートコイルに起電力が発生し、ステータ励磁コイルで発生した磁束を打ち消す方向に電流が流れ、ステータ励磁コイルとステータサーチコイルとの間の相互誘導を弱める。また、ロータコイルパターンとステータコイルパターンが不一致の場合、特にステータコイルパターンに対して、ロータコイルパターンが所定のピッチの半ピッチ分ずれている場合には、ロータ可動板上のロータコイルのショートコイルにはステータ励磁コイルの磁束を打ち消す方向の電流が流れないため、ステータ励磁コイルとステータサーチコイルとの間の相互誘導に影響を与えない。
【0026】
上記(2)の構成によれば、例えば、ステータ固定板とロータ可動板との隙間の変動により、共振周波数の振幅の変化に誤差が生じた場合でも、誤差をキャンセルすることができる。
【0027】
すなわち、ステータサーチコイルから出力される第1電圧信号と、第2ステータサーチコイルから出力される第2電圧信号に対しては、例えば、ステータ固定板とロータ可動板との隙間の変動の誤差は、等しく加減算される。したがって、同じタイミングにおいて、第1電圧信号と第2電圧信号との差分を算出することにより、発生した誤差をキャンセルすることができる。
【0028】
上記(3)の構成によれば、位置センサの軸心方向における寸法を小さくすることができる。
【0029】
上記(4)の構成によれば、位置センサの軸心方向における寸法を小さくすることができる。
【0030】
上記(5)の構成によれば、位置センサの径方向における寸法を小さくすることができる。また、(3)と比較して、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイルとロータコイルとの位置関係の精度を保つことが容易であり、製造コストを低減できる。
【0031】
上記(6)の構成によれば、位置センサの径方向における寸法を小さくすることができる。また、(4)と比較して、ステータ励磁コイル及びステータサーチコイル、並びに第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルとロータコイルとの位置関係の精度を保つことが容易であり、製造コストを低減できる。
【0032】
上記(7)の構成によれば、全周に設けた場合と比較して、取り付け箇所が限られている場合に、有利に適用可能となる。
【0033】
上記(8)の構成によれば、全周に設けた場合と比較して、取り付け箇所が限られている場合に、有利に適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係り、ロータリーエンコーダを示す概略構成図。
【図2】同実施形態に係り、ロータコイルとステータコイルの関係を示す斜視図。
【図3】同実施形態に係り、ステータコイルの導体パターンとロータコイルのショートコイルの位置が、所定ピッチの半ピッチ分ずれている状態等を示す説明図。
【図4】同実施形態に係り、ステータコイルの導体パターンとロータコイルのショートコイルの位置が一致している状態等を示す説明図。
【図5】同実施形態に係り、共振周波数と出力電圧との関係を示すグラフ。
【図6】同実施形態に係り、コントローラの構成の一部を示すブロック図。
【図7】同実施形態に係り、ステータ固定板の表面に形成されたステータコイルの詳細な構成を示す正面図。
【図8】同実施形態に係り、ロータ可動板の表面に形成されたロータコイルの詳細な構成を示す正面図。
【図9】第2実施形態に係り、一対のステータコイルの一部とロータコイルの一部を展開して概略的に示す説明図。
【図10】同実施形態に係り、一対のステータコイルの一部とロータコイルの一部を展開して概略的に示す説明図。
【図11】同実施形態に係り、コントローラの構成の一部を示すブロック図。
【図12】第3実施形態に係り、ロータコイルとステータコイルの関係を示す斜視図。
【図13】第4実施形態に係り、ロータコイルとステータコイルの関係を示す斜視図。
【図14】第5実施形態に係り、ロータコイルとステータコイルの関係を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<第1実施形態>
以下、この発明の位置センサを「クランクシャフトの回転角センサであるロータリーエンコーダ」に具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
図1に、本実施の形態のロータリーエンコーダ1を概略構成図により示す。ロータリーエンコーダ1は、一例として、エンジン2のクランクシャフト3の端部に接続して設けられ、クランクシャフト3の動作位置(回転角度)を検出するために使用される。ロータリーエンコーダ1は、ステータ4と、ステータ4と隙間5を介して対向しながら回転可能に設けられるロータ6と、コントローラ7と、これらの部品4,6,7を収容するハウジング8とを備える。ステータ4は、ステータ固定板11と、ステータ固定板11のロータ6との対向面側に設けられるステータコイル12とを含む。ロータ6は、ロータ可動板13と、ロータ可動板13のステータ4との対向面側に設けられるロータコイル14とを含む。すなわち、ロータ可動板13は、ステータ固定板11t隙間5を介して対向しながら動作可能に設けられる。
【0037】
ステータ固定板11及びロータ可動板13は、互いにほぼ同じ大きさの円板形状に形成される。ステータ固定板11を含むステータ4は、ハウジング8に固定され、ロータ可動板13を含むロータ6は、ハウジング8に回転可能に支持される。ロータ可動板13には、ロータコイル14が設けられる側面と反対の側面の中央に入力軸15が一体に設けられる。この入力軸15がハウジング8から突出して設けられる。入力軸15は、カップリング16を介してクランクシャフト3に連結される。
【0038】
図2に、1°周期のパルス列を出力する場合のロータコイル14とステータコイル12の関係を斜視図により示す。図2において、ステータコイル12は、励磁信号が入力されるステータ励磁コイル17と、検出信号を出力するステータサーチコイル18とから構成される。ステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18は、ステータ固定板11の表面の外周近くにて、絶縁層(図示略)を介して積層されて形成される。本実施形態では、ステータ固定板11及びロータ可動板13の円板の外形寸法を、例えば、「70mm」としている。ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18は、それぞれ所定のピッチP(約0.6mm)でジグザグに360回折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で絶縁層(図示略)を介して重ねて配置される。ステータ励磁コイル17は、折り返された複数の導体パターン17A,17B等を含む。ステータサーチコイル18は、ステータ励磁コイル17と同じ形状及び同じ寸法により形成される。各コイル17,18の導体パターン17A,17B,18A等は、実際には細かくて見えにくいので、図2では、導体パターン17A,17B,18A等の個数を省略して記載している。図7には、ステータ固定板11の表面に形成されたステータコイル12の詳細な構成を正面図により示す。図7において、ステータコイル12は、全周で180組のジグザグ、すなわち、180個の外周側部分と、180個の内周側部分の計360個の径方向パターンを備える。図7において、ステータコイル12は、端子24,25を備えている。図7において、端子24,25に接続された配線は記載を省略している。
【0039】
一方、ロータコイル14は、ロータ可動板13の表面にて、円環状かつ梯子状に並べられた複数のショートコイル14A,14B等を含む。各ショートコイル14A,14B等は、円周方向に、1度に1箇所ずつ計360個形成される。ロータコイル14は、ロータ可動板13の表面の外周近くにて、ステータコイル12の各導体パターン17A,17B,18A等と同じピッチP(「約0.6mm」)で複数のショートコイル14A,14B等が形成される。各ショートコイル14A,14B等は、実際には細かくて見えにくいので、図2では、ショートコイル14A,14B等の個数を省略して記載している。図8には、ロータ可動板13の表面に形成されたロータコイル14の詳細な構成を正面図により示す。図8において、複数のショートコイル14A,14B等の数は、360個となっている。
【0040】
ロータコイル14のショートコイル14A,14B等のショートコイル14A,14B等の径方向の長さ、線の太さは、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18のそれと同じである。導体パターン17A,17B,18A等とショートコイル14A,14B等とで相違しているのは、ショートコイル14A,14B等が環状に閉じているのに対して、導体パターン17A,17B,18A等が、ジグザグで外側の辺が交互に存在しない点のみである。すなわち、ステータコイル12を構成するステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18は、全体が何度もジグザグ(九十九折り状)に折り返されて円環状に形成されているのに対して、ロータコイル14は、複数のショートコイル14A,14B等が環状に並べられて形成されている。この点を除いて、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18とロータコイル14は、数も同じであり、寸法も同じであり、各板11,13上の位置も同じである。ステータコイル12の製造方法は、ステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18を絶縁層(図示略)を介して積層する以外は、ロータコイル14のそれてと同じである。
【0041】
この実施形態で、ステータコイル12(ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18)及びロータコイル14は、例えば、導電性インクをステータ固定板11又はロータ可動板13の上にインクジェットプリンタにより描画して、乾燥固定することにより形成される。また、ステータコイル12及びロータコイル14として、半導体製造工程で用いられているエッチング等により微細線パターンを形成し、ステータ固定板11及びロータ可動板13に貼り付けても良い。また、ステータコイル12及びロータコイル14として、プレス成形により打ち抜いたパターンを、ステータ固定板11又はロータ可動板13に貼り付けても良い。ただし、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18を形成するジグザグな導体パターンの線の太さは、ロータコイル14のショートコイルの線の太さと異なってもよい。また、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターンの径方向の長さは、ロータコイル14のショートコイルの径方向の長さよりも長くてもよく、また、短くてもよい。
【0042】
次に、回転角度の測定原理について説明する。図3(a)に、ステータコイル12を構成するステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の一部と、ロータコイル14の一部をそれぞれ展開して概略図により示す。ジグザグに折り返されて形成されたステータサーチコイル18は、複数の導体パターン18A,18B,18C,18D,18E,18F,18G等を含む。各導体パターン18A〜18G等を構成する折り返された外周の1辺の長さは、円周において、中心角が1度に対応する長さで形成される。ステータ励磁コイル17は、ステータサーチコイル18と同様に形成される。梯子状に形成されたロータコイル14は、複数のショートコイル14A,14B,14C,14D,14E,14F,14G等を含む。各ショートコイル14A〜14G等も各導体パターン18A〜18G等と同様に、円周において、中心角が1度に対応する長さで形成される。
【0043】
図3(a)は、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等に対する、ロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が、所定のピッチPの半ピッチP/2分ずれている状態を示す。例えば、一つのショートコイル14Cに対して、ステータサーチコイル18の隣り合う2つの導体パターン18B,18Cの半分ずつ、つまり導体パターン18Bの後半分18Bb、導体パターン18Cの前半分18Caが互いに対向している。ステータ励磁コイル17についても同様である。
【0044】
このときには、導体パターン18Bと導体パターン18Cとでは、発生する磁束の方向が反対向きとなる。すなわち、導体パターン18Bの後半分18Bbにより発生しショートコイル14C内を通過する磁束G(18Bb)と、導体パターン18Cの前半分18Caにより発生しショートコイル14C内を通過する磁束G(18Ca)とは、逆向きの磁束で同じ量の磁束であり、ショートコイル14Cを通過する磁束は実質的にゼロとなり、ショートコイル14Cに起電力は発生しない。
【0045】
同様に、導体パターン18Cの後半分18Cbにより発生しショートコイル14D内を通過する磁束G(18Cb)と、導体パターン18Dの前半分18Daにより発生しショートコイル14D内を通過する磁束G(18Da)とは、逆向きの磁束で同じ量の磁束であり、ショートコイル14Dを通過する磁束は実質的にゼロとなり、ショートコイル14Dに起電力は発生しない。同様に、ロータコイル14の全てのショートコイル14A〜14G等において、起電力が発生しない。
【0046】
したがって、ステータ励磁コイル18の全ての導体パターン18A〜18G等から発生する磁束Gを打ち消すような磁束は発生せず、インダクタンスの低下はない。よって、共振周波数は、励磁信号の周波数(NMHz)と同じである。
【0047】
図3(b)に、図3(a)の等価回路を示す。検出部21は、2つの端子26,27に接続されたステータ励磁コイル17と、2つの端子24,25に並列に接続されたステータサーチコイル18及びコンデンサ22とを備える。コンデンサ22は、本発明の容量素子に相当する。2つの端子24,25の間には、図示しない電圧計が接続されている。一方、ロータコイル14は、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18に対して、移動可能に保持されている。ステータ励磁コイル17には、端子26,27を介して、コントローラ7から励磁信号が供給される。この実施形態では、コントローラ7が、ステータ励磁コイル17に入力される励磁信号を出力する本発明の励磁信号出力手段を構成する。そして、励磁信号として、「0.65MHz(650kHz)」の信号が、ステータ励磁コイル17に供給されるようになっている。また、この実施形態では、ステータサーチコイル18から、端子24,25を介して、コントローラ7へ出力電圧の信号が出力されるようになっている。図3(c)に、2つの端子24,25の間で検出したステータサーチコイル18の出力電圧の波形を示す。
【0048】
図5に、共振周波数と出力電圧との関係をグラフに示す。図5において、横軸が共振周波数(単位MHz)であり、縦軸が出力電圧(単位V)である。図中の「N」は、励磁信号の周波数「0.65MHz(650kHz)」を示している。図3(a)に示すように、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等に対するロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が、所定のピッチPの半ピッチP/2の分だけずれている場合は、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の全ての導体パターン17A,17B,18A〜18G等から発生する磁束Gを打ち消すような磁束は発生せず、インダクタンスの低下はない。よって、共振周波数は、励磁信号の周波数(NMHz)と同じである。すなわち、共振周波数は、インダクタンスLの関数であり、Lが小さくなると共振周波数は大きくなり、Lが大きくなると共振周波数は小さくなる。このときには、ステータサーチコイル18の出力電圧は、図5に示すように、最大値VH(V)となる。
【0049】
次に、ロータ可動板13が、ステータ固定板11に対して、半ピッチP/2だけ回転した場合について説明する。
【0050】
図4(a)に、ステータコイル12を構成するステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の一部と、ロータコイル14の一部をそれぞれ展開して概略図により示す。図4(a)は、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,8A〜18G等に対する、ロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が、一致している状態を示す。例えば、ロータコイル14の一つのショートコイル14Aに対してステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,18Aが一致し、他の一つのショートコイル14Bに対して導体パターン17B,18Bが一致している。
【0051】
図4(a)において、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等と、ロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が一致しているときは、導体パターン17A,17B,18A〜18G等で発生する磁束GXにより、ショートコイル14A〜14G等に起電力が発生し、その起電力により発生した電流により、磁束GXとは逆向きの磁束GYが発生する。磁束GYの発生により、磁束GXが弱められ、その結果、ステータサーチコイル18のインダクタンスは最小となり、共振周波数は最大となり、このとき共振周波数と励磁信号の周波数(NMHz)のずれは最大となる。
【0052】
図3と同様に、図4(b)に、図4(a)の等価回路を示す。図4(c)に、2つの端子24,25の間で検出した出力電圧の波形を示す。図4(a)において、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等に対するロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が、一致しているときは、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の全ての導体パターン17A,17B,18A〜18G等から発生する磁束GXを打ち消すような磁束GYが発生するため、インダクタンスは大きく低下する。よって、図5において、共振周波数Haは、「約0.9MHz」まで大きくなり、励磁信号の共振周波数Hから大きくずれる。これにより、励磁コイルの共振周波数(NMHz)において、共振周波数Haが発生する出力電圧は、最小値VHa(V)へと低下する。図4(c)には、2つの端子24,25の間で検出したステータサーチコイル18の電圧波形を示す。
【0053】
なお、この実施形態では、ステータコイル12が、互いに同じ位相で重ねて配置されたステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18により構成される。したがって、ステータ励磁コイル17に励磁信号が供給されることにより、同コイル17で磁束が発生し、その磁束によりステータサーチコイル18に起電力が発生し、ステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18はトランスとして作用する。このとき、ロータコイルパターンとステータコイルパターンが一致すると、ステータ励磁コイル17で発生した磁束によりロータ可動板13上のロータコイル14のショートコイル14A〜14G等に起電力が発生し、ステータ励磁コイル17で発生した磁束を打ち消す方向に電流が流れ、ステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18との間の相互誘導を弱める。また、ロータコイルパターンとステータコイルパターンが不一致の場合、特にステータコイルパターンに対して、ロータコイルパターンが所定のピッチPの半ピッチP/2分ずれている場合には、ロータ可動板13上のロータコイル14のショートコイル14A〜14G等には、ステータ励磁コイル17の磁束を打ち消す方向の電流が流れないため、ステータ励磁コイル17とステータサーチコイル18との間の相互誘導に影響を与えない。
【0054】
図6に、本実施形態のロータリーエンコーダ1のコントローラ7の構成の一部をブロック図により示す。コントローラ7は、アンプ31、同期検出器32、ローパスフィルタ33及びコンパレータ34を含む。これらの部品31〜34は、コントローラ7の一部を構成するものであるが、ステータサーチコイル18の出力電圧の変化に基づいてロータ可動板13の回転角度の変化を検出するために機能することから、本発明の移動検出手段を構成する。ステータサーチコイル18は、アンプ31に接続される。アンプ31は、同期検波器32に接続される。同期検波器32は、ローパスフィルタ33に接続される。ローパスフィルタ33は、コンパレータ34に接続される。
【0055】
図6における「S1」は、端子24,25(図3(b),図4(b)参照)におけるステータサーチコイル18の出力電圧信号を示す。この信号S1は、励磁信号である(NMHz(0.65MHz))の搬送波に対して、信号波が重ねられている。すなわち、励磁信号は、高周波であり、図3(c)や図4(c)に示す出力電圧は、信号波として、搬送波に重ねられている。つまり、ステータサーチコイル18の出力電圧は、搬送波が振幅変調された信号波となっている。
【0056】
図6において、アンプ31は、出力電圧信号S1を増幅して信号S2とする。同期検波器32は、励磁信号(NMHz)により、信号S2を同期検波し、信号S3を出力する。ローパスフィルタ33は、信号S3を平滑化し、波形信号S4を出力する。すなわち、同期検波器32及びローパスフィルタ33により、信号S2から高周波である搬送波を除去して、信号波のみの波形信号S4とする。コンパレータ34は、波形信号S4がしきい値以上か否かを判断して、パルス信号S5に変換する。1つのパルス信号S5が出ると、ロータ可動板13が、所定のピッチPだけ回転したことがわかる。このパルス信号S5をエンジン制御装置へ出力することにより、パルス信号S5を受けたエンジン制御装置は、クランクシャフト3の回転角度を、1度の分解能で正確に得ることができる。
【0057】
ここで、図6のローパスフィルタ33の波形信号S4は、出力レベルMが変動する場合がある。例えば、励磁信号の振幅が変動した場合や、ステータ固定板11とロータ可動板13との隙間5が微小量変化したような場合である。
【0058】
以上説明したこの実施形態のロータリーエンコーダ1は、励磁信号が入力されるステータ励磁コイル17と、検出信号を出力するステータサーチコイル18とが形成されたステータ固定板11と、ステータ固定板11と隙間5を介して対向しながら動作可能に設けられ、ロータコイル14が形成されたロータ可動板13とを備える。そして、このロータリーエンコーダ1は、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18が、それぞれ所定のピッチPでジグザグに折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で重ねて配置されることと、ステータサーチコイル18と並列に接続されたコンデンサ22と、ロータコイル14が、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18と隙間5を介して対向して配置され、所定のピッチPで短絡された複数のショートコイル14A〜14G等を含むことと、ステータ励磁コイル17に入力される励磁信号を出力すると共に、ステータサーチコイル18の出力電圧の変化に基づいて、所定のピッチP分だけ、ロータ可動板13が回転したことを検出するコントローラ7とを備える。
【0059】
したがって、ステータコイル12を構成する、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等に対するロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が、所定のピッチPの半ピッチ分P/2ずれているときには、ステータサーチコイル18のインダクタンスは変化せず(ロータコイル14の影響を受けず)、共振周波数は励磁信号の周波数(NMHz)と一致する。よって、ステータサーチコイル18の出力信号の振幅は最大となる。
【0060】
一方、上記の位置関係から、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等に対するロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が変化するにしたがい、ステータサーチコイル18のインダクタンスは、ロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の影響を受けて小さくなる。そして、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18の導体パターン17A,17B,18A〜18G等と、ロータコイル14のショートコイル14A〜14G等の位置(位相)が一致するときは、ステータサーチコイル18のインダクタンスは最小となり、このとき、共振周波数と励磁信号の周波数(NMHz)のずれが最大となる。したがって、ステータサーチコイル18の出力信号の振幅は最小となる。このステータサーチコイル18の出力電圧(振幅)の変化に基づいて、コントローラ7は、所定ピッチP分、ロータ可動板13が回転したことを検出できる。
【0061】
例えば、クランクシャフト3の回転角度を検出する場合には、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18を構成する導体パターン17A,17B,18A〜18G等のジグザグ(九十九折り)のピッチPを1度とし、ロータコイル14を構成するショートコイル14A〜14G等のピッチPを1度としておけば、ロータ可動板13がステータ固定板11に対して、1度ずれる毎に、パルス信号を出力することができ、それをエンジン制御装置に送信することができる。
【0062】
この実施形態のロータリーエンコーダ1は、上記のように機能することから、ロータ可動板13の回転を検出するために、ロータリートランスを不要とすることができ、これによってロータリーエンコーダ1の全体を小型化することができる。
【0063】
また、この実施形態では、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18が、ステータ固定板11の表面に平面的に形成され、ロータコイル14が、ロータ可動板13の表面に平面的に形成されるので、ロータリーエンコーダ1の軸心方向における寸法を小さくすることもできる。
【0064】
<第2実施形態>
次に、この発明の位置センサを、上記と同様に「ロータリーエンコーダ」に具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0065】
なお、これ以降の説明では、前記第1実施形態と同等の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0066】
第1実施形態では、コンパレータ34が波形信号S4をしきい値によりパルス化しているため、出力レベルMの変動に応じて、しきい値を調整する必要があり、しきい値が最適でなければ、コンパレータ34でのパルス化に誤差が生じ、正確に角度検出を行えないおそれがあった。そこで、第2実施形態では、上記問題点を解決できるようにしている。
【0067】
図9及び図10には、この実施形態における一対のステータコイル121,122の一部と、ロータコイル14の一部をそれぞれ展開して概略的に説明図により示す。この実施形態では、ロータコイル14の構成は、第1実施形態のそれと同じである。第1実施形態では、ステータ励磁コイル17及びステータサーチコイル18から構成される1組みステータコイル12を備えていたが、この実施形態では、2組のステータコイル121,122を備える点で第1実施形態と構成が異なる。すなわち、第1ステータコイル121は、第1ステータ励磁コイル171及び第1ステータサーチコイル181を含む。また、第2ステータコイル122は、第2ステータ励磁コイル172及び第2ステータサーチコイル182を含む。2組のステータコイル121,122の形状、大きさ、すなわち、ステータ励磁コイル171,172及びステータサーチコイル181,182の形状、大きさは、第1実施形態のステータコイル12のそれと同じである。図9及び図10に示すように、第1ステータコイル121と第2ステータコイル122は、半ピッチP/2だけずれてステータ固定板の表面に形成される。この場合、円板状のステータ固定板の表面にて、第1ステータコイル121は、外周寄りに円環状に形成され、第2ステータコイル122は、第1ステータコイル122の内側にて同心円をなすように円環状に形成される。
【0068】
図9には、第1ステータコイル121を構成する第1ステータ励磁コイル171及び第1ステータサーチコイル181の導体パターンに対する、ロータコイル14のショートコイルの位置(位相)が、一致している状態を示す。このとき、第2ステータコイル122を構成する第2ステータ励磁コイル172及び第2ステータサーチコイル182の導体パターンに対する、ロータコイル14のショートコイルの位置(位相)は、半ピッチP/2ずれている。この状態では、図9の(b)に示すように、第2ステータコイル122の出力電圧、すなわち第2ステータサーチコイル182の出力電圧は、最大値VH(V)となる。また、図9の(a)に示すように、第1ステータコイル121の出力電圧、すなわち第1ステータサーチコイル181の出力電圧は、最小値VHa(V)となる。
【0069】
図10には、第1ステータコイル121を構成する第1ステータ励磁コイル171及び第1ステータサーチコイル181の導体パターンに対する、ロータコイル14のショートコイルの位置(位相)が、半ピッチP/2ずれている状態を示す。このとき、第2ステータコイル122を構成する第2ステータ励磁コイル172及び第2ステータサーチコイル182の導体パターンの位置(位相)は、ロータコイル14のショートコイルと一致している。この状態では、図10の(b)に示すように、第2ステータコイル122の出力電圧、すなわち第2ステータサーチコイル182の出力電圧は、最小値VHa(V)となる。また、図10の(a)に示すように、第1ステータコイル121の出力電圧、すなわち第1ステータサーチコイル181の出力電圧は、最大値VH(V)となる。
【0070】
図11に、この実施形態のロータリーエンコーダ1のコントローラ7の構成の一部をブロック図により示す。コントローラ7は、加算機35、同期検出器32、ローパスフィルタ33及びコンパレータ34を含む。これらの部品32〜35は、コントローラ7の一部を構成するものであるが、各ステータサーチコイル181,182の出力電圧の変化に基づいてロータ可動板13の回転角度の変化を検出するために機能することから、本発明の移動検出手段を構成する。第1ステータサーチコイル181は、差動アンプ35のプラス端子36に接続される。第2ステータサーチコイル182は、差動アンプ35のマイナス端子37に接続される。差動アンプ35は、同期検波器32に接続される。同期検波器32は、ローパスフィルタ33に接続される。ローパスフィルタ33は、コンパレータ34に接続される。
【0071】
図11に、第1ステータサーチコイル181から出力される出力電圧S11の波形と、第2ステータサーチコイル181から出力される出力電圧S12の波形をそれぞれ示す。これらの出力信号S11,S12には、励磁信号であるNMHz(0.65MHz)の搬送波に対して、信号波が重ねられている。すなわち、励磁信号は、高周波であり、各ステータサーチコイル181,182の出力電圧S11,S12は、信号波として、搬送波に重ねられている。つまり、各ステータサーチコイル181,182の出力電圧S11,S12は、搬送波が振幅変調された信号波となっている。
【0072】
差動アンプ35は、出力電圧S11と出力電圧S12との差分を算出して、信号S13として出力する。同期検波器32は、励磁信号NMHzにより、信号S13を同期検波し、信号S14を出力する。ローパスフィルタ33は、信号S14を平滑化し、波形信号S15を出力する。すなわち、同期検波器32及びローパスフィルタ33により、信号S13から高周波である搬送波を除去して、信号波のみの波形信号S15とする。コンパレータ34は、この波形信号S15を、しきい値以上か否かの判断により、パルス信号S16に変換する。1つのパルス信号S16が出ると、ロータ可動板13が、所定のピッチPだけ回転したことがわかる。
【0073】
このパルス信号S16をエンジン制御装置に出力することにより、パルス信号S16を受けたエンジン制御装置は、クランクシャフト3の回転角度を、1度の分解能で正確に得ることができる。
【0074】
以上説明したこの実施形態のロータリーエンコーダ1は、第1ステータコイル121を構成する第1ステータ励磁コイル171及び第1ステータサーチコイル181に対し、位相が半ピッチP/2だけずれた所定のピッチPでジグザグに折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で重ねて配置された第2ステータコイル122を構成する第2ステータ励磁コイル172及び第2ステータサーチコイル182と、第2ステータサーチコイル182と並列に接続された容量素子としてのコンデンサ(図示略)とを備え、移動検出手段を構成するコントローラ7が、第1ステータサーチコイル181の出力電圧と、第2ステータサーチコイル182の出力電圧の差分に基づいて、所定のピッチP分だけ、ロータ可動板13が回転したことを検出するように構成される。
【0075】
したがって、例えば、ステータ固定板11とロータ可動板13との隙間5の変動により、共振周波数の振幅の変化に誤差が生じた場合でも、誤差をキャンセルすることができる。すなわち、第1ステータサーチコイル181から出力される第1電圧信号S11と、第2ステータサーチコイル182から出力される第2電圧信号S12に対しては、例えば、ステータ固定板11とロータ可動板13との隙間5の変動の誤差は、等しく加減算される。このため、同じタイミングにおいて、第1電圧信号S11と第2電圧信号S12との差分を算出することにより、発生した誤差をキャンセルすることができる。
【0076】
その他、この実施形態のロータリーエンコーダ1によれば、第1実施形態に準ずる作用効果を得ることができる。
【0077】
<第3実施形態>
次に、この発明の位置センサを「ロータリーエンコーダ」に具体化した第3実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0078】
以下に説明する各実施形態では、ステータコイルとロータコイルの構成の変形例について説明する。これら変形例については、第1実施形態において、これから説明する構成のみを変形させれば、実施可能である。このため、以下の説明では、第1実施形態の構成と異なる点のみを説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0079】
図12に、この実施形態のロータコイル14とステータコイル123の関係を斜視図により示す。ロータ可動板13及びロータコイル14の構成は、第1実施形態又は第2実施形態のそれと同じである。この実施形態では、ステータ固定板111の表面上に、ステータコイル123を構成する、ステータ励磁コイル173とステータサーチコイル183が互いに同じ位相で絶縁層(図示略)を介して重ねて配置され、形成される。この実施形態のステータ固定板112及びステータコア123は、第1実施形態のステータ固定板11及びステータコイル12を、円周方向に8等分したうちの1つに相当する。
【0080】
この実施形態によれば、ステータコイル123が、ロータコイル14の全周に対して、一部のみ配置されているだけなので、ステータコイルを全周に設けた場合と比較して、取り付け箇所が限られている場合に、有利に適用可能となる。
【0081】
<第4実施形態>
次に、この発明の位置センサを「ロータリーエンコーダ」に具体化した第4実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0082】
図13に、この実施形態のロータコイル141とステータコイル124の関係を斜視図により示す。この実施形態では、円板形状のロータ可動板131の外周面131aに、ロータコイル141が形成される。ロータコイル141は、円環状かつ梯子形状に並べられた複数のショートコイルにより形成される。ステータ固定板112は、ロータ可動板131の外周面131aの周囲を、隙間を介して包囲するように短筒形状に形成される。このステータ固定板112の内周面112aに、ステータコイル124を構成する、ステータ励磁コイル174とステータサーチコイル184が互いに同じ位相で絶縁層(図示略)を介して重ねて配置され、形成される。ステータ励磁コイル174及びステータサーチコイル184は、それぞれ全体が何度もジグザグ(九十九折り状)に折り返されて円環状に形成される。
【0083】
この実施形態によれば、ステータ励磁コイル174とステータサーチコイル184がステータ固定板112の内周面112aに重ねて形成され、ロータコイル141が、ロータ可動板131の外周面131aに形成されるので、ロータリーエンコーダの径方向の寸法を小さくすることができる。また、第1実施形態と比較して、ステータコイル124を構成するステータ励磁コイル174及びステータサーチコイル184の導体パターンと、ロータコイル141のショートコイルとの位置関係の精度を保つことが容易であり、製造コストを低減できる。
【0084】
<第5実施形態>
次に、この発明の位置センサを「ロータリーエンコーダ」に具体化した第5実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0085】
図14に、この実施形態のロータコイル141とステータコイル125の関係を斜視図により示す。この実施形態において、ロータ可動板131とロータコイル141の構成は、第4実施形態のそれと同じである。この実施形態のステータ固定板113及びその上に形成されるステータコイル125(ステータ励磁コイル175及びステータサーチコイル185)は、第4実施形態のステータ固定板112及びステータコイル124(ステータ励磁コイル174及びステータサーチコイル184)を、円周方向に8等分したうちの1つに相当する。
【0086】
この実施形態によれば、ステータコイル125が、ロータコイル141の全周に対して、一部のみ配置されているだけなので、ステータコイルを全周に設けた場合と比較して、取り付け箇所が限られている場合に、有利に適用可能となる。
【0087】
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して以下のように実施することもできる。
【0088】
(1)前記第1実施形態では、ステータコイル12の導体パターン12A〜12G等と、ロータコイル14のショートコイル14A〜14G等のピッチを中心角で1度となるように形成したが、コストはかかるが、精度の高い製造法を用いて、より細密な導体パターン、ショートコイルを形成して、分解能を向上させても良い。
【0089】
(2)前記各実施形態では、角度検出用のロータリーエンコーダについて説明したが、ステータコイルの導体パターン及びロータコイルのショートコイルを直線状に配置することにより、直線の位置センサ(リニアエンコーダ)に具体化することもできる。
【0090】
(3)前記第3〜第5の実施形態では、第1実施形態に対する変形例を具体化したが、前記第3〜第5の実施形態における変形の趣旨を、第2実施形態に対する変形例として具体化することもできる。すなわち、第3〜第5の実施形態に対し、ステータ固定板111,112,113に、第1ステータ励磁コイル及び第1ステータサーチコイル、並びに第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルをそれぞれ形成するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0091】
1 ロータリーエンコーダ(位置センサ)
4 ステータ
5 隙間
6 ロータ
7 コントローラ(励磁信号出力手段、移動検出手段)
11 ステータ固定板
12 ステータコイル
13 ロータ可動板
14 ロータコイル
14A ショートコイル
14B ショートコイル
14C ショートコイル
14D ショートコイル
14E ショートコイル
14F ショートコイル
14G ショートコイル
17 ステータ励磁コイル
17A 導体パターン
17B 導体パターン
18 ステータサーチコイル
18A 導体パターン
18B 導体パターン
18C 導体パターン
18D 導体パターン
18E 導体パターン
18F 導体パターン
18G 導体パターン
22 コンデンサ(容量素子)
31 アンプ
32 同期検波器
33 ローパスフィルタ
34 コンパレータ
35 差動アンプ
111 ステータ固定板
112 ステータ固定板
112a 内周面
113 ステータ固定板
121 第1ステータコイル
122 第2ステータコイル
123 ステータコイル
124 ステータコイル
125 ステータコイル
131 ロータ可動板
131a 外周面
141 ロータコイル
171 第1ステータ励磁コイル
172 第2ステータ励磁コイル
173 ステータ励磁コイル
174 ステータ励磁コイル
175 ステータ励磁コイル
181 第1ステータサーチコイル
182 第2ステータサーチコイル
183 ステータサーチコイル
184 ステータサーチコイル
185 ステータサーチコイル
P ピッチ
P/2 半ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁信号が入力されるステータ励磁コイルと、検出信号を出力するステータサーチコイルとが形成されたステータ固定板と、
前記ステータ固定板と隙間を介して対向しながら動作可能に設けられ、ロータコイルが形成されたロータ可動板と
を備えた位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイルが、それぞれ所定のピッチでジグザグに折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で重ねて配置されることと、
前記ステータサーチコイルと並列に接続された容量素子と、
前記ロータコイルが、前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイルと前記隙間を介して対向して配置され、前記所定のピッチで短絡された複数のショートコイルを含むことと、
前記ステータ励磁コイルに入力される前記励磁信号を出力する励磁信号出力手段と、
前記ステータサーチコイルの出力電圧の変化に基づいて、前記所定のピッチ分、前記ロータ可動板が移動したことを検出する移動検出手段と
を備えたことを特徴とする位置センサ。
【請求項2】
請求項1に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイルに対し、位相が半ピッチずれた所定のピッチでジグザグに折り返されたコイルであり、互いに同じ位相で重ねて配置された第2ステータ励磁コイル及び第2ステータサーチコイルと、
前記第2ステータサーチコイルと並列に接続された容量素子と、
前記移動検出手段が、前記ステータサーチコイルの出力電圧と、前記第2ステータサーチコイルの出力電圧の差分に基づいて、前記所定のピッチ分、前記ロータ可動板が移動したことを検出することと
を備えたことを特徴とする位置センサ。
【請求項3】
請求項1に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイルが、前記ステータ固定板の表面に形成され、
前記ロータコイルが、前記ロータ可動板の表面に形成されること
を特徴とする位置センサ。
【請求項4】
請求項2に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイル、並びに前記第2ステータ励磁コイル及び前記第2ステータサーチコイルが、前記ステータ固定板の表面に形成され、
前記ロータコイルが、前記ロータ可動板の表面に形成されること
を特徴とする位置センサ。
【請求項5】
請求項1に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイルが、前記ステータ固定板の内周面に形成され、
前記ロータコイルが、前記ロータ可動板の外周面に形成されること
を特徴とする位置センサ。
【請求項6】
請求項2に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイル、並びに前記第2ステータ励磁コイル及び前記第2ステータサーチコイルが、前記ステータ固定板の内周面に形成され、
前記ロータコイルが、前記ロータ可動板の外周面に形成されること
を特徴とする位置センサ。
【請求項7】
請求項3又は請求項5に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイルが、前記ロータコイルの全周に対して、一部のみ配置されることを特徴とする位置センサ。
【請求項8】
請求項4又は請求項6に記載する位置センサにおいて、
前記ステータ励磁コイル及び前記ステータサーチコイル、並びに前記第2ステータ励磁コイル及び前記第2ステータサーチコイルが、前記ロータコイルの全周に対して、一部のみ配置されることを特徴とする位置センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−226874(P2011−226874A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95633(P2010−95633)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】