説明

位置推定サーバ、位置推定方法および位置推定プログラム

【課題】特別なデバイスを搭載しない端末から収集した精度にばらつきのある情報を用いて、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる位置推定サーバ、位置推定方法および位置推定プログラムを提供する。
【解決手段】無線LANのアクセスポイント30の位置を推定する位置推定サーバ100であって、端末20の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイント30に対応付けて端末20により報告された報告データを保持するデータベースと、データベースを参照し、報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路変動の小さいデータを重視して、特定のアクセスポイント30を推定する位置推定部と、を備える。これにより、特別なデバイスを搭載しない端末20による精度にばらつきのある位置情報を用いて、アクセスポイント30の位置を簡素かつ高精度に推定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末から収集したデータを用いて、無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定サーバ、位置推定方法および位置推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末の普及や家庭内やオフィス内、公共施設、飲食店などへの無線LANの普及を背景に、その利便性、アクセスポイント(AP)の設置の容易さから、無線LANを用いた位置推定および得られた位置情報を用いたサービスに注目が集まっている。
【0003】
これに伴い、膨大な数のAPが様々な場所に配置されつつあり、APの位置情報を正確に把握することで(1)高精度なユーザの位置推定(2)無線LAN干渉発生状況の把握等に役立つことが期待できる。しかし、一方で無線LANのAPは利用者が自由に設置、撤去することが可能であり、携帯電話基地局やその他無線ブロードバンド用基地局とは異なり、事業者が全てのAPの設置箇所を正確に把握することはできない。
【0004】
このような環境において、無線LANのAP位置を把握するためのシステムとして、Locky.jp project(非特許文献1参照)が知られている。Locky.jpでは「Locky Stumbler」と呼ばれるソフトウェアをインストールしたPCが受信したAPのBSSID(Basic Service Set Identifier)、RSSI(Received Signal Strength Indicator)を記録し、記録した情報をその場所の位置情報と共にサーバに報告する。そして、サーバはこれらの情報を基にAPの位置を推定している。
【0005】
一方、特別なデバイスを搭載した端末を用いて高精度に位置を推定しようとする技術も提案されている。非特許文献2によれば、APの位置情報を確率密度関数として捉え、指向性アンテナを搭載したユーザ端末から収集した情報を基にParticle Filterを用いることで、より高精度な位置推定を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Locky.jp project”、[on line]、平成17年12月16日試験公開、[平成23年6月20日検索]、インターネット<URL:http://locky.jp/>
【非特許文献2】鈴木啓之、伊藤誠悟、川口信夫、「Particle Filterを用いた複数無線LAN基地局の位置推定手法」、社団法人情報処理学会、研究報告、2006年11月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような手法を用いてAP位置推定を行なうためには、ユーザの移動方向情報が最終的な位置推定の精度を左右するため、ユーザ端末がGPSの他に光センサや指向性アンテナを搭載している必要がある。GPSデバイスなどは携帯電話機などにも既に広く搭載されているものの、光センサや指向性アンテナを搭載したデバイスは現状では希であり、一般的な端末でAPの位置推定を行なうのは困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、特別なデバイスを搭載しない端末から収集した精度にばらつきのある情報を用いて、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる位置推定サーバ、位置推定方法および位置推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の位置推定サーバは、無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定サーバであって、端末の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイントに対応付けて端末により報告された報告データを保持するデータベースと、前記データベースを参照し、前記報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定する位置推定部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
このように、本発明の位置推定サーバは、精度や信頼性を参照して、情報を処理しアクセスポイントの位置を推定している。これにより、特別なデバイスを搭載しない端末による精度にばらつきのある位置情報を用いて、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる。
【0011】
(2)また、本発明の位置推定サーバは、前記位置推定部が、前記特定のアクセスポイントに対応付けられた報告データのうち、受信電波強度が異常値の範囲にないことを基準とし、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴としている。これにより、受信電波強度が異常値の範囲にない報告データを重視してアクセスポイントの位置を推定するため、推定位置の精度を向上させることができる。
【0012】
(3)また、本発明の位置推定サーバは、前記位置推定部が、前記特定のアクセスポイントに対応付けられた報告データのうち、受信電波強度の一定期間の変動を織り込んだ予測値と瞬時値の差分が所定範囲内であることを基準とし、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴としている。これにより、受信電波強度の変動の小さいデータを重視してアクセスポイントの位置を推定するため、推定位置の精度を向上させることができる。
【0013】
(4)また、本発明の位置推定サーバは、前記報告データが、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視する基準で設けられた条件を満たすか否かを判定する判定部と、前記条件を満たすと判定された報告データを抽出する抽出部と、前記抽出された報告データを用いて、前記特定のアクセスポイントの推定位置を算出する推定位置算出部と、を備えることを特徴としている。このように、条件を満たすデータだけを用いるため、アクセスポイントの位置の簡素かつ高精度な推定が可能になる。
【0014】
(5)また、本発明の位置推定サーバは、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視する基準で前記報告データへの重み付けを算出する重み付け算出部と、前記算出された重み付けを用いて、前記特定のアクセスポイントの推定位置を算出する推定位置算出部と、を備えることを特徴としている。このように、重み付けを用いてアクセスポイントの位置の推定の精度を向上させている。また、得られたサンプルをすべて利用することができ、位置推定の精度を向上できる。
【0015】
(6)また、本発明の位置推定サーバは、前記重み付け算出部が、受信電波強度の一定期間の変動を織り込んだ予測値と瞬時値の差分を算出し、所定の閾値との比率により、伝搬路の変動状況を定量的に評価して、各端末位置および受信電波強度のデータへの重み付けを算出することを特徴としている。このように受信電波強度の変動の大小に応じて重み付けを算出するため、高精度な位置推定が可能になる。
【0016】
(7)また、本発明の位置推定サーバは、前記重み付け算出部が、各報告データの端末位置の精度および伝搬路の変動状況のデータを用いて重み付け行列を算出し、前記推定位置算出部は、前記各報告データの前記端末位置および受信電波強度のデータと前記算出された重み付け行列とを用いて、前記特定のアクセスポイントの推定位置を算出することを特徴としている。このように重み付け行列を利用して、アクセスポイントの推定位置を算出することで、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる。
【0017】
(8)また、本発明の位置推定方法は、無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定方法であって、端末の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイントに対応付けて端末により報告された報告データを保持するデータベースを参照し、前記報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴としている。これにより、特別なデバイスを搭載しない端末による精度にばらつきのある位置情報を用いて、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる。
【0018】
(9)また、本発明の位置推定プログラムは、データ管理するサーバに実行させることで、無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定プログラムであって、端末の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイントに対応付けて端末により報告された報告データを保持するデータベースを参照し、前記報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴としている。これにより、特別なデバイスを搭載しない端末による精度にばらつきのある位置情報を用いて、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特別なデバイスを搭載しない端末から収集した精度にばらつきのある情報を用いて、アクセスポイントの位置を簡素かつ高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る無線LANシステムを示す概略図である。
【図2】第1の実施形態に係る管理サーバ(位置推定サーバ)の機能的構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る無線LANシステムの動作を示すシーケンスチャートである。
【図4】RSSIの統計的分布に基づいて異常値を排除する動作を示す概略図である。
【図5】RSSIの時間的変動を示すグラフである。
【図6】第2の実施形態に係る管理サーバ(位置推定サーバ)の機能的構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態に係る無線LANシステムの動作を示すシーケンスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
[無線LANシステム]
図1は、無線LANシステム10を示す概略図である。図1に示す例では、ユーザ端末20、アクセスポイント30、基地局40および管理サーバ(位置推定サーバ)100で無線LANシステム10が構成されている。無線LANシステム10では、ユーザ端末20から、センシング結果として受信したアクセスポイントのID(SSID)、受信電波強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を、ユーザ端末20が報告データとして送信し、管理サーバ100が収集し、各アクセスポイントの位置推定を行なう。
【0023】
ユーザ端末20は、無線LANインタフェースを搭載しており、各アクセスポイントと通信可能である。また、ユーザ端末20は、GPSを搭載しており、自機の位置を検知することができる。図1中のユーザ端末20に付随する吹き出しは、報告データを表わしており、報告データには、SSID、RSSI、端末位置、時刻等が含まれることが示されている。ユーザ端末20は、基地局40を介して管理サーバ20へ報告データを送信する。報告データを受信した管理サーバ20は、報告データを記憶し、保持する。
【0024】
管理サーバ100は、ユーザ端末20から収集したデータを用いて、無線LANのアクセスポイントの位置を推定する。管理サーバ100は、特定のアクセスポイントに対するデータのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さい端末位置および伝搬損失のデータを重視して、特定のアクセスポイントの位置を推定する。その際に、推定位置を算出するために用いられる各データに含まれる誤差要因を参照して位置を推定する。誤差要因には、(1)GPSによるユーザ位置の測位誤差、(2)RSSIの変動が挙げられる。
【0025】
これら誤差要因の度合いを参照することで、信頼できる報告データを重視して位置を推定する。その結果、誤差をより多く含んだ情報により最終的な解となるアクセスポイントの推定位置が変動することを防ぎ、より精度良く解を導出することが可能となる。
【0026】
得られたアクセスポイントの位置情報を用いることで、たとえば、図1に示すようなアクセスポイントのマッピング結果を位置情報サービスとして低コストに提供できる。マッピング結果として、ユーザ端末20の画面に近辺の地図とともにアクセスポイントのIDとその位置を表示することができる。
【0027】
[第1の実施形態]
(管理サーバの構成)
図2は、管理サーバ100の機能的構成を示すブロック図である。管理サーバ100は、データベース110、位置推定部115およびマッピング部150を備えている。また、位置推定部115は、判定部120、抽出部130および推定位置算出部140を備えている。
【0028】
データベース110は、ユーザ端末20から報告された報告データを保持する。すなわち、報告データとして、特定のアクセスポイント30に対して、端末の位置、その位置精度、端末へのRSSIのデータを対応付けて記憶する。なお、RSSIと伝搬損失とは等価であり、いずれを用いてもよい。
【0029】
位置推定部115は、データベース110を参照し、報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、特定のアクセスポイント30の位置を推定する。たとえば、特定のアクセスポイント30に対応付けられた報告データのうち、RSSIが異常値の範囲にないことを基準として特定のアクセスポイント30の位置を推定できる。これにより、RSSIが異常値の範囲にない報告データを重視してアクセスポイント30の位置を推定するため、推定位置の精度を向上させることができる。
【0030】
また、特定のアクセスポイント30に対応付けられた報告データのうち、RSSIの一定期間の変動を織り込んだ予測値と瞬時値の差分が所定範囲内であることを基準として特定のアクセスポイントの位置を推定してもよい。これにより、RSSIの変動の小さいデータを重視してアクセスポイント30の位置を推定するため、推定位置の精度を向上させることができる。このような基準の具体例については後述する。
【0031】
判定部120は、報告データが、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視する基準で設けられた条件を満たすか否かを判定する。たとえば、端末の位置精度および伝搬路状況のデータの少なくとも一方が所定の条件を満たすか否かを判定する。
【0032】
抽出部130は、条件を満たすと判定された報告データを抽出する。推定位置算出部140は、抽出されたデータを用いて、特定のアクセスポイント30の推定位置を算出する。このように、条件を満たすデータだけを抽出して用いるため、アクセスポイント30の位置の簡素かつ高精度な推定が可能になる。
【0033】
マッピング部150は、推定されたアクセスポイントの位置を地図情報に反映させて、出力する。たとえば、端末から周囲のアクセスポイントを検索するリクエストを受けたときに、アクセスポイントをその特定情報とともに表示した地図データを端末へ返す。
【0034】
なお、上記のような位置推定の処理は、三点測量の一種であり、この場合には、ユーザ端末とアクセスポイント間の距離が重要である。計測したRSSIから伝搬損を算出し、周知のモデルを適用することで伝搬距離を算出できる。しかし、無線環境は常に変動するため、現実の距離とは乖離した伝搬損が計測されるおそれがある。そこで、計測されたRSSI(すなわち伝搬損失)の統計的分布を管理サーバ100で算出し、著しく現実と乖離したと判断されるRSSIを含むデータは位置推定の処理に使用しない。
【0035】
(管理サーバの動作)
次に、上記のように構成された管理サーバ100の動作を説明する。図3は、管理サーバ100の動作を示すシーケンスチャートである。図3に示すように、ユーザ端末20は、アクセスポイント30に対応付けたセンシングを行ない、センシング結果を報告データとして管理サーバ100に報告する(ステップS101)。
【0036】
報告データを受信した管理サーバ100は、報告データをデータベース110に記憶する(ステップS102)。このような、報告データの送受信および記憶は、繰り返し行なわれる(ステップS103〜S106)。たとえば、時間の経過、場所の移動、処理の完了等があったときに報告データを送信することとしてもよい。
【0037】
次に、何らかの事象を契機として、管理サーバ100は、アクセスポイント30の位置の推定処理を開始する(ステップS111)。管理サーバ100は、データベース110に保持されている各データが所定の条件を満たすか否かを判定する(ステップS112)。所定の条件を満たす場合には、その報告データを抽出し(ステップS113)、条件を満たさない場合には、データは抽出しない。
【0038】
そして、抽出されたデータを用いてアクセスポイント30の推定位置を算出し(ステップS114)、位置推定の処理を完了する(ステップS115)。このようにして得られたアクセスポイント30の推定位置は、マッピング等の処理に利用される。
【0039】
以上のように、特別なデバイスを搭載しない端末による精度にばらつきのある位置情報を用いて、アクセスポイント30の位置を簡素かつ高精度に推定できる。なお、上記の動作は、プログラムにより実行できる。
【0040】
(RSSIの異常値検出)
図4は、RSSIの統計的分布に基づいて異常値を排除する動作を示す概略図である。図4は、管理サーバにおけるデータベースおよびヒストグラムを示している。報告されたデータを、RSSIを基準としてヒストグラム化し、異常値を排除している。
【0041】
管理サーバ100ではデータベース110において、アクセスポイントのID「AP1」に対応付けて、端末の位置「Xi,Yi,Zi」、受信電波強度「Ri」(または伝搬損失「Li」)のデータを保持している。そして、管理サーバ100は、位置推定を行なう際に、データベース110を参照し、位置推定対象となる特定のアクセスポイント30について得られたRSSIをヒストグラム化する。そして、ヒストグラムにおいて、たとえば90%以内に含まれないデータは異常値として位置推定の処理には用いない。これにより、信頼できるRSSIのデータのみを用いてアクセスポイントの位置を推定できる。
【0042】
(長区間変動からの異常値検出)
RSSI値は周辺環境が静止した状態であっても高速に変動するが、ユーザが移動した場合にはさらに大きく変動する。一方で、瞬時的ではなく、ある程度の長区間でRSSIを観測した場合には変動が低減され、周辺環境に即した変動を安定して捉えることが可能である。図5は、RSSIの時間的変動を示すグラフである。図5では、RSSIの瞬時変動とそれをある一定の区間で平滑化した変動をグラフで示している。
【0043】
図5に示すように、ある一定の期間で平滑化した値に対して瞬時変動の値を比較することで、瞬時的に大きな変動が発生したかどうかを判定できる。このようにして、平滑化した値RSSIaveから許容範囲±R内に含まれるデータのみを信頼出来る値として採用する。その結果、大きく変動したデータを位置推定処理用のデータから排除できる。
【0044】
[第2の実施形態]
(管理サーバの構成)
上記の実施形態では、条件を満たすか否かで報告データを選別してアクセスポイント30の位置の推定に用いているが、報告データに重み付けを行ない、アクセスポイント30の位置を推定してもよい。図6は、管理サーバ200の機能的構成を示すブロック図である。管理サーバ200は、データベース110、位置推定部215およびマッピング部150を備えている。また、位置推定部215は、重み付け算出部220および推定位置算出部240を備えている。このうち、データベース110およびマッピング部150は、上記の実施形態と同様の機能を有する。
【0045】
重み付け算出部220は、端末の位置精度および伝搬路状況のデータの少なくとも一方を用いた所定の基準で各端末位置およびRSSIのデータへの重み付けを算出する。たとえば、RSSIの一定期間の変動に対して統計処理を行なうことで得られた値と瞬時値の差分を算出し、別途設けた閾値との比率により、伝搬路の変動状況を定量的に評価して、各端末位置およびRSSIのデータへの重み付けを算出する。すなわち、後述のように、各測定に対する端末位置の精度および伝搬路の変動状況のデータを用いて重み付け行列を算出する。このように、重み付けを用いてアクセスポイント30の位置の推定の精度を向上できる。また、得られたサンプルをすべて利用することができ、位置推定の精度を向上できる。
【0046】
推定位置算出部240は、算出された重み付けを用いて、特定のアクセスポイントの推定位置を算出する。推定位置算出部240は、各報告データに対する端末位置およびRSSIと算出された重み付け行列とを用いて、特定のアクセスポイントの推定位置を算出する。
【0047】
(管理サーバの動作)
次に、上記のように構成された管理サーバ200の動作を説明する。図7は、管理サーバ200の動作を示すシーケンスチャートである。図7に示すように、ユーザ端末20は、アクセスポイント30に対応付けたセンシングを行ない、センシング結果を報告データとして管理サーバ200に報告する(ステップS201)。報告データを受信した管理サーバ200は、報告データをデータベース110に記憶する(ステップS202)。このような、報告データの送受信および記憶は、繰り返し行なわれる(ステップS203〜S206)。
【0048】
次に、何らかの事象を契機として、管理サーバ200は、アクセスポイント30の位置の推定処理を開始する(ステップS211)。管理サーバ200は、データベース110に保持されている各データを用いて重み付けを算出する(ステップS212)。重み付けは、たとえば重み付け行列として算出することができるが、詳細についは後述する。そして、得られた重み付けを用いてアクセスポイント30の推定位置を算出し(ステップS213)、位置推定の処理を完了する(ステップS214)。このようにして得られたアクセスポイント30の推定位置は、マッピング等の処理に利用される。なお、上記の動作は、プログラムにより実行できる。
【0049】
(重み付けの算出)
管理サーバ200へユーザから報告されたデータにおいて、ユーザ端末自身の位置情報の精度は高いにも関わらずRSSI値の信頼性が低い場合、またはその逆の場合が発生する。これらを総合的に考慮できるため、位置推定処理に用いるデータ量を必要以上に削減することなく、高精度に測位できる。
【0050】
管理サーバ200は、式(1)を用いてアクセスポイントの位置(x,y,z)を算出する。ここで(xi,yi,zi)はセンシングした場所の位置情報である。
【数1】

【0051】
式(1)の解を求めるため、行列を用いた式(2)を用いる。
【数2】

【0052】
ここで、Δx=[x,y,z]、Δr=[ri]であり、Gはデザイン行列である。利用するユーザからの報告データに対して、その信頼性に基づいて重み付けを行なうため、重み付け行列Wを導入し、式(3)を導いている。
【数3】

【0053】
ここで、行列Wを、式(4)で定義している。
【数4】

【0054】
DOPiはユーザの現在地でのDOP(Dilution Of Precision)、Siは捕捉衛星数である。DOPは、ユーザとGPS衛星との幾何学的な配置によって決定される値であり、その値が大きいほど誤差が大きい。捕捉衛星数Sは、ユーザ端末20において捕捉したGPS衛星の数であり、最低4つは必要である。
【0055】
捕捉衛星数Sが増加するに従い、それらより算出された位置情報の精度は向上する。なお、これら値は、一般的なGPS受信機より取得可能である。したがって、これらを式(4)の形式で反映させることで、誤差が多く含まれていると判断できる位置情報の重みを低下させることができる。
【0056】
一方、kiは次式で定義され、RSSIiと長区間変動で予測される値(RSSIave)との差と正常値を判断するために設定した閾値Rとの比率である。
【数5】

【0057】
これにより、RSSIaveからの乖離が大きいRSSI、すなわち異常値を示したRSSIを含む情報の重みを低下させることができる。以上より、DOP値が大きい場合、すなわち内包されるユーザの位置情報の信頼性が低い場合には低い重みを、またRSSIの変動がこれまでの変動と比べて大きく、信頼性が低い場合にも低い重みを与えることで、導出される解への影響を相対的に軽減できる。
【符号の説明】
【0058】
10 無線LANシステム
20 ユーザ端末
30 アクセスポイント
40 基地局
100 管理サーバ(位置推定サーバ)
110 データベース
115 位置推定部
120 判定部
130 抽出部
140 推定位置算出部
150 マッピング部
200 管理サーバ
215 位置推定部
220 重み付け算出部
240 推定位置算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定サーバであって、
端末の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイントに対応付けて端末により報告された報告データを保持するデータベースと、
前記データベースを参照し、前記報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定する位置推定部と、を備えることを特徴とする位置推定サーバ。
【請求項2】
前記位置推定部は、前記特定のアクセスポイントに対応付けられた報告データのうち、受信電波強度が異常値の範囲にないことを基準とし、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴とする請求項1記載の位置推定サーバ。
【請求項3】
前記位置推定部は、前記特定のアクセスポイントに対応付けられた報告データのうち、受信電波強度の一定期間の変動を織り込んだ予測値と瞬時値の差分が所定範囲内であることを基準とし、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴とする請求項1記載の位置推定サーバ。
【請求項4】
前記報告データが、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視する基準で設けられた条件を満たすか否かを判定する判定部と、
前記条件を満たすと判定された報告データを抽出する抽出部と、
前記抽出された報告データを用いて、前記特定のアクセスポイントの推定位置を算出する推定位置算出部と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の位置推定サーバ。
【請求項5】
端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視する基準で前記報告データへの重み付けを算出する重み付け算出部と、
前記算出された重み付けを用いて、前記特定のアクセスポイントの推定位置を算出する推定位置算出部と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の位置推定サーバ。
【請求項6】
前記重み付け算出部は、受信電波強度の一定期間の変動を織り込んだ予測値と瞬時値の差分を算出し、所定の閾値との比率により、伝搬路の変動状況を定量的に評価して、各端末位置および受信電波強度のデータへの重み付けを算出することを特徴とする請求項5記載の位置推定サーバ。
【請求項7】
前記重み付け算出部は、各報告データの端末位置の精度および伝搬路の変動状況のデータを用いて重み付け行列を算出し、
前記推定位置算出部は、前記各報告データの前記端末位置および受信電波強度のデータと前記算出された重み付け行列とを用いて、前記特定のアクセスポイントの推定位置を算出することを特徴とする請求項5または請求項6記載の位置推定サーバ。
【請求項8】
無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定方法であって、
端末の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイントに対応付けて端末により報告された報告データを保持するデータベースを参照し、前記報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴とする位置推定方法。
【請求項9】
データ管理するサーバに実行させることで、無線LANのアクセスポイントの位置を推定する位置推定プログラムであって、
端末の位置および伝搬路の情報を含み、特定のアクセスポイントに対応付けて端末により報告された報告データを保持するデータベースを参照し、前記報告データのうち、端末位置の精度が高く、伝搬路状況の変動の小さいデータを重視して、前記特定のアクセスポイントの位置を推定することを特徴とする位置推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15418(P2013−15418A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148684(P2011−148684)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599108264)株式会社KDDI研究所 (233)
【Fターム(参考)】