説明

位置推定装置、位置推定方法及びプログラム

【課題】高い精度で移動局の位置を推定する。
【解決手段】位置が既知である複数の基地局20と位置推定対象である移動局10との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、複数の基地局20と移動局10との観測距離を計測する距離計測部32と、距離計測部32により計測された複数の基地局20の観測距離に基づき、予め定められた移動局の推定初期位置40の方向に各基地局20の観測座標を決定する観測座標決定部34と、観測座標決定部34により決定された複数の基地局20の観測座標から移動局10の代表位置を移動局10の推定位置50として算出する推定位置算出部36と、を有する位置推定装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局の位置を推定する位置推定装置、位置推定方法及びプログラムに関する。より詳細には、本発明は、移動局と複数の基地局で通信を行い、その通信結果である無線信号の受発信時刻や、基地局側での受信時刻に基づいて移動局の位置を推定する位置推定装置、位置推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動局と複数の基地局で通信を行い、その通信結果である無線信号や受発信時刻などに基づいて移動局の位置を推定する測位システムが提案されている。たとえば、特許文献1〜3には、複数の無線基地局と移動局との間で無線信号を送受信し、移動局の位置を推定するシステムが提案されている。
【0003】
無線信号としては、電波、音波、光、磁気などを用いたものがある。それらを用いて位置を求める方式のうち主要なものを大別すると、信号の受信強度を用いるRSSI(Received Signal Strength Indicator)方式(特許文献1参照)、信号の伝播時間を用いるTOA(Time Of Arrival)方式(特許文献2参照)、信号の伝播時間差を用いるTDOA(Time Difference Of Arrival)方式、信号の受信方位を用いるAOA(Angle Of Arrival)方式(特許文献3参照)の4方式が挙げられる。
【0004】
RSSI方式は、特許文献1に示したように、信号の受信強度から距離を推定し、そこから3辺測量で位置を推定する方式である。この方式は、高精度に距離を推定することが難しい一方で、厳密かつ高精度な時刻管理が不要で、様々な機器に造りこみやすいといった特徴がある。受信強度から距離を推定することが難しいため、複数の受信信号の強弱のパターンの学習と識別により位置を推定するものもあるが、これには付近に学習済のエリアがなければ位置を推定できないといった課題がある。
【0005】
TOA方式は、信号の伝播時間から距離を計測し、そこから3辺測量で位置を推定する方式である。例えば、移動局から基地局に向かって信号を送信した際の信号の伝播時間をtとし(通信方向が逆の場合や、双方向通信のものもある)、信号の伝播速度をcとすると、基地局と移動局間の距離lは、l=c×tで求めることができる。無線信号の一例として電波を媒体としたものの場合、一般に空気中の電波の伝播速度は一定(約30万km/秒)のため、時計の精度が十分に高ければ安定した位置精度を実現しやすい。例えば移動局と基地局の全ての時計が同期している場合、伝播時間tの計測は1回の通信で行なえる。他にも同期なしで距離を求める方法もあるが、その場合には、移動局から発信した電波が基地局に到着し、更に基地局から移動局にて受信した電波を検出する必要があるため処理の負荷が高くなる。
【0006】
例えばTOA方式で用いられる測距の一方式であるTWR(Two Way Ranging)方式では、移動局から基地局に信号を送出し、信号を受信した基地局は直ちに移動局に返信を行ない、移動局は、自局が信号を送出してから基地局からの信号を受信するまでの往復伝播時間から、基地局で折り返しに必要な処理時間を減算して2で割ることにより、片道にかかった伝播時間を求めることができる。いずれにしても、信号の伝播時間を計測するため、高精度な内部時計は必要である。たとえば電波を用いた場合、約1nsの時刻誤差で約30cmの距離誤差が生じる。
【0007】
TDOA方式は、TOA方式と同様に信号の伝播時間をベースとしているが、基地局と移動局の距離を計測せずに、移動局からマルチキャスト発信した信号を同時に複数の基地局にて受信し、その受信時間差に基づいて位置を求める。2つの基地局で受信した信号の受信時刻差は、信号の伝播速度を掛け合わせると、移動局から見た距離差となる。2つの基地局から同一の距離差を発生し得る位置は双曲線を描くため、基地局3局以上で同時に信号を受信すると、複数の双曲線が得られ、それらの交点を求めることにより位置が決定する。この方式は、TOA方式と比較し、移動局が信号を受信する必要がない点、1回の測位に必要な信号の送信回数が少ない(通常、移動局からの1回の信号発信で位置が確定する)といった利点がある一方、基地局間で時刻を厳密に同期しなければならず、また基地局に内蔵する時計には必ず誤差があるため、時計の精度にあわせて逐次時刻同期を行なう必要がある。
【0008】
AOA方式は、複数の基地局が移動局から信号を受信した際の信号の到達角度に基づき、三角測量を行なう方式である。信号の到達角度は、例えば電波の場合は、アレイアンテナ、音波の場合はマイクロフォンアレイなどを用い、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法などを用いることで推定できる。距離的に非常に近いアンテナ(マイクロフォン)間の受信時刻差を用いるため、非常に高い精度で個々の受信信号をサンプリングする必要があるといった難しさがある。
【0009】
このように、各方式には様々な状況により得手、不得手があり、すべてのケースにおいて常に最良となる方式は存在しない。特に、これら無線信号を用いる方式の共通の課題として、反射波による影響がある。
【0010】
例えば特許文献2では、TOA方式で位置を推定するシステムにおいて、反射波の影響を低減する方式が提案されている。通常、基地局と移動局の間に見通し(LOS: Line of sight)があり、直線で結ばれる経路を通る直接波で通信が行なわれる場合には、直線距離を求めることが可能である。しかしながら、現実には経路途中の構造物などにより反射が発生することがあり、このような反射波を用いて距離を計測すると、直線距離よりも長い距離が得られてしまう。これは、基地局と移動局を最短で結ぶ経路がお互いを直線で結ぶ直接波の通る経路であり、それ以外の反射波の通る経路はすべて直線よりも長くなるためである。しかし、この関係を逆に利用することで、なるべく直接波の経路に近いものを選ぶことができる。例えば1回の通信の中で直接波と反射波が混在する合成波の場合は、一番初めに到達した成分が直接波による成分であり、この成分により伝播時間を求めることができれば、直線距離を算出することができる。また例えば複数回、信号の伝播時間を計測でき、その中に反射波と直接波による計測値が混在している場合は、最小の計測値を選ぶことで直接波による計測結果を選ぶことができ、それに基づき直線距離を得ることができる。また、この最小値を選ぶという処理は、たとえ直接波による計測結果がなく、すべて反射波によるものであったとしても、直接波と比較して最も差の少ない反射波を選ぶことになり、距離計測の誤差を低減するような直線距離に近い値を選ぶことができる。通信の受信品質をあわせて用いると、多重反射波などの品質の悪い通信を排除でき、より直接波に近いものを選ぶことも可能かもしれない。長期間にわたって継続して計測を行なう場合、移動局の基地局から見た平均移動速度を算出することで、よりもっともらしい位置を算出することも可能である。
【0011】
特許文献3では、TDOA方式とAOA方式を組み合わせることで、位置精度を高めようとする技術が開示されている。AOA方式は、角度の分解能が一定の場合、基地局と移動局の距離が離れるに従い、位置の分解能が低下する。一方で基地局と距離が十分に近い場合は、高い位置分解能を有する。かかる特徴により、信号の受信時刻が早いものが、移動局に最も近い基地局であり、位置分解能が高いとし、高い重み付けを行なう。このように時刻により重みを変えて加重平均をとることで、よりもっともらしい位置の推定を行なう。また、特許文献3では、受信時刻を得るため、TDOA方式の測位もあわせて行い、それらを重み付けによって加重平均を取ることにより、もっともらしい位置を計測する方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−85780号公報
【特許文献2】特開2001−275148号公報
【特許文献3】特開2007−13500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、従来の位置推定方法では、基地局と移動局の距離を、電波等を利用して基地局毎に観測し、複数の基地局から得られる観測距離を用いて移動局の位置を推定していた。
【0014】
しかし、上記従来手法では、例えば基地局と移動局の間に見通しがなく(このような状態を以下、NLOS(Non−Line−Of−Sight)と呼ぶ。)、直接波が届かずに反射波で伝播経路が構成されるとき等、直接波による測定が十分に行なえない場合や、劣悪な伝播環境等の影響で異常な観測値を出力する基地局がある場合に、位置推定の精度が大きく劣化していた。
【0015】
例えば特許文献2の方法では、NLOSの状態にあったとしても、時間的な経過により移動局の移動や環境の変化などで、NLOSの状態が一時的にでも解消し、直接波が到達すると仮定している。例えば屋外で移動局が道路上を継続的に移動しており、ビルなどの建築物の影響で一時的にNLOS状態となっている場合は、時間的経過によってLOS状態(Line of sight:見通しがある状態)とNLOS状態が交互に遷移し、長期的にみれば直接波による距離計測が可能な場合も多くある。このような場合では、文献2でもある程度正しく位置を推定可能である。しかし、たとえばオフィス空間などの屋内環境で人や物体を対象とした位置検知を行う場合では、室内の壁や棚などの構造物によりNLOS状態になると、検知対象が継続的に移動しない場合が多いため、なかなかNLOS状態が解消しないといった課題がある。特許文献2の方法では、このような課題に対処できない。たとえば電波の場合、電波暗室でない屋内など周囲に電波を良く反射する壁面のある環境などでは、直接波と反射波が複雑に混在することになるが、このような場合に電波の強度や雑音などの問題で、直接波を取り逃がす場合がよく起こり得る。このような場合、直接波を受信できる頻度が問題となり、頻度が低い場合には、十分な精度で位置測位が出来ないといった問題も生じていた。
【0016】
また、特許文献3の方法では、特にAOA方式の分解能が高い基地局近くに移動局がある場合に反射波を拾ってしまうと、移動局が遠方にある場合よりも信号の入射角が大きく変わり、位置精度を大きく低下させる原因となっていた。
【0017】
上記問題に鑑み、本発明は、NLOSの状態の場合や直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、高い精度で移動局の位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する位置推定装置であって、計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定部と、前記観測座標決定部により決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出部と、を備えることを特徴とする位置推定装置が提供される。
【0019】
かかる構成によれば、移動局の推定位置を予め適当な推定初期位置(座標)に仮決めし、観測した複数の基地局の観測距離に基づき、仮決めした推定初期位置(座標)の方向に各基地局の観測座標を決定する。
【0020】
たとえば、各基地局と前記移動局の推定初期位置とを結ぶ直線上であって、計測された観測距離だけ各基地局から離れた位置に各基地局の観測座標を算出する。
【0021】
このようにして、個々の基地局の観測距離に基づき推定初期位置の誤差成分を表すために観測座標を基地局毎に算出する。推定位置算出部は、複数の基地局の観測座標の集合から移動局の代表位置を算出し、その値を移動局の推定位置とする。
【0022】
前記推定位置算出部により算出された移動局の推定位置と前記移動局の推定初期位置との変化量が予め定められた停止条件を満たすまで、前記距離計測部、前記観測座標決定部及び前記推定位置算出部の動作を繰り返す繰返し判定部をさらに有していてもよい。
【0023】
前記繰返し判定部は、前記推定位置算出部により算出された移動局の推定位置と前記移動局の推定初期位置との変化量が予め定められた停止条件を満たしたとき、前記移動局の推定位置を前記移動局の位置と判定してもよい。
【0024】
このようにして移動局の推定位置の変化量が十分に小さくなれば、処理が収束したとして最後に算出された移動局の推定位置を移動局の位置と判定する。これにより、異常な基地局が存在する場合やNLOS状態の場合、又は直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、少ない処理量で効率よく、かつ精度良く移動局の位置を推定することができる。
【0025】
前記算出された移動局の推定位置を前記移動局の推定初期位置として再帰的に用いて、上記繰返し動作を繰り返してもよい。
【0026】
前記推定位置算出部は、前記複数の基地局の観測座標の中央値を前記移動局の代表位置として算出してもよい。
【0027】
前記推定位置算出部は、前記複数の基地局の観測座標の平均値を前記移動局の代表位置として算出してもよい。
【0028】
前記推定位置算出部は、前記複数の基地局の観測座標の重み付き平均値を前記移動局の代表位置として算出してもよい。
【0029】
前記推定位置算出部は、前記重み付き平均値の重みを前記観測距離の長さに対応して決定してもよい。
【0030】
前記予め定められた移動局の推定初期位置は、前記複数の基地局に囲まれた範囲内の位置、又は前記複数の基地局から選択された一基地局から所定の範囲内の位置をデフォルト値として最初の繰返し処理に使用され、2回目以降の繰返し処理では、前回の繰返し処理で算出された移動局の推定位置を今回の繰返し処理の前記移動局の推定初期位置として再帰的に用いてもよい。
【0031】
前記位置推定装置は、前記各基地局、前記移動局、前記複数の基地局及び前記移動局と通信可能なサーバ、又は前記移動局の位置を検知する位置検知装置のいずれかであってもよい。
【0032】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、距離計測部により前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する位置推定方法であって、計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、観測座標決定部により予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定ステップと、前記観測座標決定ステップにより決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出ステップと、を含むことを特徴とする位置推定方法が提供される。
【0033】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、距離計測部により前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する処理をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、観測座標決定部により予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定処理と、前記観測座標決定処理により決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように本発明によれば、NLOS状態の場合や直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、精度良く移動局の位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1及び第2実施形態に係る位置推定システムの全体構成図である。
【図2】第1及び第2実施形態に係る位置検知装置の機能構成図である。
【図3】図3(a)〜図3(d)は繰り返し回数が0〜3回、観測データが1個の場合の第1実施形態に係る位置推定の状態遷移図である。
【図4】図4(a)〜図4(d)は繰り返し回数が0〜3回、観測データが複数個の場合の第1実施形態に係る位置推定の状態遷移図である。
【図5】第2実施形態に係る加重平均値の重みを説明するための図である。
【図6】TOAによる一般的な位置推定方法を説明するための図である。
【図7】観測誤差のヒストグラムを示した図である。
【図8】図8(a)は第1の基地局、図8(b)は第12の基地局での観測誤差のヒストグラムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0037】
まず、本発明の第1実施形態に係る位置推定システムについて説明する前に、本実施形態にて位置を推定する際の環境、及び位置推定に使用する観測データの性質について説明する。その後、本実施形態に係る位置推定システムによる観測データを用いた移動局の位置推定について説明する。
【0038】
(位置推定が行われる環境)
屋内環境で便利なサービスを提供しようと考える場合、対象とする人や物の位置を正確に知る技術は重要である。その際、対象と一緒に持ち運べる無線センサ技術が注目されている。無線センサを用いた位置推定の実用例としては、カーナビ等で利用されるGPS(Global Positioning System)がある。しかし、精度としては、推定位置に約10m以上の誤差が存在しており、屋内でのサービス提供への利用には適していない。
【0039】
これに対して、超音波を用いて距離を測定する手法もある。この手法では、約数cm〜約十数cmの精度を実現している。ただし、バッテリーの寿命が3日間から1週間と短く、伝播距離も短い。このように、屋内において高精度で安定した位置推定方法は、未だ確立されていないといえる。
【0040】
本実施形態では、CSS(Chirp Spread Spectrum)と呼ばれる無線技術を用いる。これは、屋内及び屋外のどちらでも利用可能であり、バッテリーの寿命は数年である。伝播距離も超音波より長い。精度は、約2m〜5mである。しかしながら、統計的なアプローチを加えることにより、屋内や構内で利用可能な数十cm単位という高精度な位置推定の実現も可能である。
【0041】
本実施形態では、基地局から観測ポイント(すなわち、移動局)までの距離をToA(Time of Arrival)方式でリアルタイムに測定する。ToA方式では、移動局と1台又は複数台の基地局との間で、無線信号の伝播遅延時間に基づいて距離を測定する。ここでは、図6に示したように、移動局10と3台の基地局20a、20b、20cとの間で、移動局と各基地局間の距離を観測する。時刻tに移動局10から送られた無線信号が、時刻tに基地局20aに到達した場合を考える。この場合、移動局10から基地局20aまでの観測距離dは、無線信号の伝達速度vを用いて次の式にて求められた距離であると測定される。
=v(t−t
【0042】
移動局10から基地局20b、20cまでの観測距離d2、d3も同様にして次の式にて表される。
=v(t−t
=v(t−t
【0043】
推定したい位置に移動局10を配置し、基地局20a、20b、20cを実験対象となる部屋の指定位置に設置する。これにより、部屋の様々な場所から計った観測距離値を取得することができる。もし、どの基地局から得られた観測距離値にも誤差が含まれない場合、従来の位置推定方法では、三点測量の原理により移動局10の位置を特定することができる。図6に示した移動局と各基地局との位置関係の場合、三点測量では、基地局20a、20b、20cの座標から観測距離を半径とする円を描き、すべての点が交わった位置を移動局10の推定位置とする。
【0044】
しかしながら、実際には観測距離には観測誤差が含まれるため、図6に示したように各基地局20a、20b、20cを中心とした半径d、d、dの円が1箇所で交わることはほとんどない。このような場合、交点の直線の式や重心、最小自乗法の考え方を用いて幾何学的に位置を求める方法も考案されているが、観測誤差の影響を考えていないため、屋内でも使える程の高精度は期待できない。
【0045】
よって、本実施形態では、実際の観測データから観測値の性質を見出し、それに応じた位置推定方法を提供する。観測値の性質については、実験結果から以下のことがわかっている。
(1)観測誤差は正の偏りを示す。
(2)観測誤差は移動局と基地局との位置関係で決まる。
【0046】
(1)については、各基地局から移動局までの観測距離と実際の距離の差を調べると、99%以上の観測データにおいて実際の距離より観測距離の方が大きい値を持つという結果が出た。それを示したグラフが図7である。図7は、サンプル数Nが294274個の場合の観測距離から実際の距離を引いた観測距離の誤差ヒストグラムである。この結果を見ると、大部分の誤差が0mよりも大きくなっていることが分かる。観測データを算出する観測装置の内部の計算時間や、空気等の媒体が要因であると考えられる。
【0047】
次に、大きな測定誤差が出現する原因について考察すると、NLOS(見通し外)による誤差が主要因ではないかと考えられる。たとえばオフィス空間などの屋内環境で人や物体を対象とした位置検知を行う場合では、室内の壁や棚などの構造物により、移動局から基地局までの直接波の経路が構成されない場合等が起こりえる。そのため、直接波の代わりに壁等に反射した反射波が観測されて観測誤差が大きく測定されてしまうことが考えられる。
【0048】
また、図8(a)の第1の基地局における、サンプル数N=198個の場合、及び図8(b)の第12の基地局、サンプル数N=157個の場合の観測距離から実際の距離を引いた観測距離の誤差ヒストグラムを見ると、第1及び第12の基地局に対して常に同じ程度の誤差が生じており、NLOSによる誤差が定常的に発生していることが分かる。実験から、移動局がわずか10cm以下だけ動いた場合でも、観測誤差が大きく変わることも確認されている。
【0049】
<第1実施形態>
(位置推定システム)
さて、以上の観測環境や観測値の性質を考慮した本実施形態の位置推定について説明する。ここでは、図1に示した位置推定システム100を例に挙げて説明する。位置推定システム100には、位置推定対象である移動局10と、位置が既知である複数の基地局20と、位置検知装置30とを有する。移動局10、複数の基地局20及び位置検知装置30は、一方向又は双方向通信可能である。
【0050】
複数の基地局20は、例えば屋内の無線LANの基地局や携帯電話の基地局等と同様に設置されている。複数の基地局20の位置は、既知である。基地局20は、各基地局の位置を知る方法があれば固定される必要はなく、移動局10と同様に可動式の形態としてもよい。
【0051】
移動局10としては、PC(Personal Computer)やセンサーネットワークのノード、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)、アクティブタグなど、様々な形態への適用が可能である。ここでは、移動局が1局、基地局を8局の例をあげて説明するが、移動局は複数でも良く、また、基地局も2局以上であれば何局であっても良い。
【0052】
各基地局20と移動局10との観測距離は、位置検知装置30により測定される。なお、位置検知装置30は、移動局の位置を推定する位置推定装置の一例であり、位置推定システム100には、必ずしも位置検知装置30が基地局20や移動局10と別体で存在していなくてもよい。つまり、位置検知装置30は単独で存在していてもよいし、基地局20に内蔵されていてもよいし、移動局10に内蔵されていてもよい。位置検知装置30は、複数の基地局20及び移動局10と通信可能な図示しないサーバに内蔵されていてもよい。したがって、位置推定装置は、位置検知装置30として存在していてもよく、基地局20として存在していてもよく、移動局10として存在していてもよく、図示しないサーバとして存在していてもよい。
【0053】
移動局の推定初期位置40は、予め定められたデフォルト値であり、本実施形態では、移動局の推定初期位置40は、各基地局20の重心位置である。
【0054】
(位置検知装置の機能構成)
図2に、本実施形態に係る位置検知装置30の機能構成を示す。位置検知装置30は、距離計測部32、観測座標決定部34、推定位置算出部36及び繰返し判定部38を有している。
【0055】
距離計測部32は、複数の基地局20と移動局10との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、複数の基地局20と移動局10との観測距離をそれぞれ計測する。所定の信号は、例えば、一方向又は双方向通信の通信結果である無線信号の受発信時刻や基地局側での受信時刻の情報を含み、各基地局20と移動局10との観測距離の計測にこれらの情報を利用してもよい。ただし、各基地局20もしくは移動局10にて受発信時刻を特定できれば、必ずしも時刻情報を前記所定の信号に含ませる必要はない。
【0056】
観測座標決定部34は、距離計測部32により計測された各基地局20の観測距離に基づき、予め定められた移動局の推定初期位置40の方向に各基地局20の観測座標を決定する。
【0057】
具体的には、観測座標決定部34は、各基地局20と移動局10の推定初期位置40とを結ぶ直線上であって、計測された基地局毎の観測距離だけ各基地局20から離れた位置に各基地局の観測座標(a、b)を決定する。
【0058】
たとえば、図3(a)に示したように、右上に配置された基地局20と移動局10の推定初期位置40とを結ぶ直線l上であって、計測された基地局20の観測距離dだけ基地局20から離れた位置に右上に配置された基地局20の観測座標(a、b)を定める。他の基地局20についても同様にして、図3(a)にそれぞれ黒丸で示した観測座標が決定される。
【0059】
推定位置算出部36は、観測座標決定部34により決定された複数の基地局20の観測座標(a、b)から移動局10の代表位置を算出し、これを移動局10の推定位置50とする。本実施形態では、推定位置算出部36は、8つの基地局20の8つの観測座標の中央値を移動局の代表位置として算出し、移動局10の推定位置50とする。
【0060】
繰返し判定部38は、推定位置算出部36により算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との変化量が予め定められた停止条件を満たすまで、ここで算出された移動局の推定位置50を移動局の推定初期位置40として置き換えることにより再帰的に用いて、観測座標決定部34、前記推定位置算出部36及び繰返し判定部38の動作を繰り返す。
【0061】
このように、予め定められた移動局の推定初期位置40は、本実施形態では複数の基地局20の重心位置がデフォルト値として設定され、最初の繰返し処理(s=0)に使用され(図3(a))、2回目以降の繰返し処理(図3(b)〜図3(d))では、前回の繰返し処理で算出された最も新しい移動局の推定位置50を今回の繰返し処理の移動局の推定初期位置40として再帰的に用いる。
【0062】
繰返し判定部38は、推定位置算出部36により算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との変化量が予め定められた停止条件を満たしたとき、最新の移動局の推定位置50を移動局の位置と判定する。停止条件については後述する。
【0063】
なお、位置検知装置30の各部への指令は、専用の制御デバイスあるいはプログラムを実行する図示しないCPUにより実行される。推定初期位置や各種プログラムは、図示しないROMや不揮発性メモリに予め記憶されている。CPUが、これらのメモリから各プログラムやデータを読み出し実行することにより、距離計測部32、観測座標決定部34、推定位置算出部36及び繰返し判定部38の各機能が実行される。
【0064】
(位置推定方法)
次に、本実施形態に係る位置検知装置30において移動局10の位置を推定する方法について説明する。前述したように、移動局の推定初期位置40は、移動局10の推定位置の初期値であり、本実施形態の位置推定方法が実行される前に予め決められている。本実施形態では、移動局の推定初期位置40は、複数の基地局20の重心位置であるが、これに限られず複数の基地局20から選択された一基地局から所定の範囲内(例えば信頼性の高い基地局から1m以内)の任意の位置であってもよいし、複数の基地局20に囲まれた範囲A内の任意の位置であってもよい。予め定められた移動局の推定初期位置40は、後述する最初(1回目)の繰返し処理に使用される。
【0065】
(入力/出力)
推定に用いる基地局の数をK、各基地局の二次元座標を(x,y)、i=1、・・・、K、各基地局からの観測距離d、i=1、・・・、Kを入力とし、推定した位置の二次元座標(x,y)を出力とする。本実施形態に係る位置推定方法では、以下のステップ1〜ステップ4を逐次的に行う。
【0066】
(ステップ1:初期値の設定)
繰返しカウンタSを0に設定し、下記式(1)、式(2)に基づき、すべての基地局の座標からの重心位置(x(0)、y(0))を、移動局の推定初期位置40として算出する。
【数1】



【0067】
(ステップ2:観測座標の算出)
下記式(3)、式(4)に基づき、基地局の座標(x、y)から移動局の推定位置の座標(x(s)、y(s))の方向に観測距離d分離れた位置にある観測座標(a、b)を求める。
【数2】



【0068】
(ステップ3:推定座標の更新)
下記式(5)、式(6)に基づき、求めた観測座標(a、b)の中央値を算出し、移動局の推定位置50とする。
【数3】



【0069】
(ステップ4:収束判定)
算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との変化量が予め定められた停止条件を満たしたとき、算出された移動局の推定位置50を移動局の位置と判定し、その推定位置50の座標(x、y)=(x(S+1)、y(S+1))として出力座標を生成し、繰返し処理を終了する。
【0070】
停止条件としては、算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との変化量との差分や比が挙げられる。本実施形態では、算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との変化量が、次の式(7)で示した停止条件を満たしたとき、算出された移動局の推定位置50を移動局の位置と判定し、繰返し処理を終了する。
<停止条件>
【数4】

なお、δは十分小さい数で、ここではδ=0.05mとする。

【0071】
上記ステップ1〜4の実行に伴う状態変化を図3(a)〜図3(d)を用いて視覚的に説明する。図3(a)〜図3(d)は、繰返しカウンタS(StepNum)が0回〜3回の場合の移動局の推定位置50の状態遷移を示す。
【0072】
図3(a)に示したように、まず、ステップ1では、すべての基地局20の重心位置がs=0のときの移動局の推定初期位置40となる。続いて、ステップ2により各基地局20から推定初期位置40の方向に観測距離分伸ばした点(図3では各黒丸)を求める。なお、ここでは1個の基地局につき1個の観測データ(1個の黒丸)を使った場合を示している。
【0073】
次に、ステップ3では、すべての黒丸の座標について中央値を取り、この中央値を推定位置50とする。ステップ4で「繰返し処理を行う(ステップ2に戻る)」と判定された場合、推定位置50は、次時点(次の繰返し処理)の推定初期位置40となる。つまり、図3(a)の推定位置50が、図3(b)の推定初期位置40となる。
【0074】
次に、ステップ4では、算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との距離を計算し、上記停止条件を満たすように十分短くなれば処理を終了する。上記停止条件を満たさない間は、繰返しカウンタSに1を加算して(繰返しカウンタS=1)、ステップ2に戻る。
【0075】
次にステップ2〜4を実行した結果、図3(b)に示したように、算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との距離は短くなるが、上記停止条件を満たさないため、さらに繰返しカウンタSに1を加算して(繰返しカウンタS=2)、ステップ2に戻る。
【0076】
次にステップ2〜4を実行した結果、図3(c)に示したように、算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との距離はさらに短くなるが、上記停止条件を満たさないため、さらに繰返しカウンタSに1を加算して(繰返しカウンタS=3)、ステップ2に戻る。
【0077】
次にステップ2〜4を実行した結果、図3(d)に示したように、算出された移動局の推定位置50と移動局の推定初期位置40との距離は十分に短くなり、上記停止条件を満たす。この結果、最後に算出された移動局の推定位置50の座標(x、y)=(x(S+1)、y(S+1))として出力座標を生成し、繰返し処理を終了する。
【0078】
以上の説明では1個の基地局につき1個の観測データ(1個の黒丸)を使った場合について説明したが、図4(a)〜図4(d)に示したように、1個の基地局につき複数個の観測データ(複数個の黒丸)を使った場合についても、本実施形態に係る位置推定方法を用いることができる。1個の基地局につき複数個の観測データを使う場合、1個の観測データを使う場合より、移動局の推定位置の精度を高めることができる。
【0079】
以上に説明したように、本実施形態に係る位置検知装置30によれば、移動局の推定位置を予め適当な推定初期位置(座標)に仮決めし、観測した複数の基地局20の観測距離に基づき、仮決めした推定初期位置(座標)の方向に各基地局20の観測座標を算出する。算出された観測座標の集合から移動局10の代表位置を算出し、その値を移動局の推定位置50とする。
【0080】
このようにして求められた最新の移動局の推定位置50の変化量が十分に小さくなれば、移動局の推定位置として収束したと判定する。以上の位置推定方法により、NLOS状態の場合や直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、精度良く移動局10の位置を推定することができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、三角測量をする必要も生じないため、少ない処理量で効率よく移動局10の位置を推定することができる。
【0082】
(中央値の効果)
特に、本実施形態では、複数の基地局20の観測座標の中央値を移動局の代表位置(推定位置50)として算出する。この効果について説明する。本実施形態では、移動局10の観測座標を基地局数に応じて複数求め、その複数の観測座標の分布から推定座標(移動局の推定位置50)を求め、さらに推定座標を用いて基地局毎に求める観測座標(a,b)を更新する処理を繰返し、再帰的に推定座標に含まれる誤差の収束を図っている。
【0083】
本実施形態では、複数の観測座標から推定座標を求める基準として中央値を求めることが容易にできる。そして、誤差を収束させる繰返し処理の過程で、常に基地局数分の観測座標サンプルが得られるため、複数の観測座標の中央値を用いて絶対的な誤差を低減させることができる。言い換えると、誤差の収束過程では、中央値は絶対誤差を最小化する基準ということができ、再帰的な誤差の収束過程に中央値を使えるということは、異常値等の影響を常に排除しながら誤差の収束を図ることができるということである。
【0084】
一方、複数の観測座標から推定座標を求める基準として平均値を求め、求められた平均値を用いて誤差の収束を行うと、異常な値等すべてを含めた上での2乗誤差を最小化することとなり、最終的に得られる推定位置50に、異常値が大きな影響を及ぼすこととなる。
【0085】
また、収束前にどの基地局の値が異常値なのかを決めることは難しく、例えば別のやり方で複数の観測座標の分布から、例えば平均値と標準偏差を用いた分布を仮定してそこから大きく外れるものを異常値と定め、異常値以外の観測座標から平均値を求めて推定座標とするといった処理も考えられるが、誤差収束の過程では、前提としている誤差の分布が既知ではないため、誤ってただしいものと正しくないものを取り違えてしまう可能性が高い。
【0086】
誤差収束の過程で、常に中央値が使えるということは、誤差増大の要因となりうる異常値除去等を用いず、すべての観測座標を用い、それらを繰り返し更新し続けることで、最終的に最も誤差の小さい値を抽出することができるようになる位置推定方法といえる。
【0087】
たとえば、NLOS等による異常に大きな誤差の混入した観測距離が得られる状態においても、異常な誤差値による影響を排除しやすく(中央値を基準に使った場合、大きな観測誤差を返すデータの重みを、平均値よりも小さくすることができる)、精度良く推定位置を求めることができる。
【0088】
このように、中央値を簡単に採用できるのも、移動局の推定位置を基地局数に応じて複数求めることができる本実施形態の特徴から得られるものである。
【0089】
ただし、複数の基地局の観測座標の平均値を移動局の代表位置(移動局の推定位置)として算出してもよい。この場合、2乗誤差を最小化する方法として機能でき、また別のフィルタ演算を用いることも可能である。また、複数の基地局の観測座標の重心位置を移動局の代表位置(移動局の推定位置50)として算出してもよい。
【0090】
また、複数の基地局の観測座標の重み付き平均値を移動局の代表位置(移動局の推定位置50)として算出してもよい。これについては、次の第2実施形態にて詳しく説明する。
【0091】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る移動局の位置推定方法ついて説明する。本実施形態では、上記ステップ1〜ステップ4までの基本処理は、第1実施形態と同様である。ステップ2で求めた観測座標(a、b)について、ステップ3にて以下のとおり加重平均を行い、次の(s+1)時点の推定座標とする点で、中央値を用いる第1実施形態と異なる。よって、この相違点を中心に第2実施形態について説明する。
【0092】
【数4】



ただし、

【0093】
また、重みWi(s)は、時刻sにおける観測距離dにより求まる値であり、以下の式(8)で定義する。
Wi(s)=f(d) ・・・(8)
【0094】
これは、例えば図5に示したような平均値0、分散が例えば全基地局の重心位置までの距離とした、ガウス分布の半分を2倍にしたようなものを用いてもよい。図5は、観測距離に応じた基地局の重み付けの一例を示す。これによれば、重み付き平均値の重みは、観測距離の長さに対応して決定される。
【0095】
図5に示した重みによれば、観測距離が短いほど重みが大きく、観測距離が長いほど重みが小さい。ここで、遠くの基地局による観測距離ほど、反射などの影響を受けやすく、誤差を多く含みやすい。よって、本実施形態によれば、このように重みをつけることにより、観測距離が長い場合に含まれる誤差をより低減しやすくすることができる。この結果、移動局の位置推定の精度をより向上させることができる。
【0096】
以上、各実施形態に係る位置推定によれば、NLOS状態の場合や直接波と反射波が混在して受信するような環境下であっても、精度良く移動局の位置を推定することができる。
【0097】
(応用例)
最後に各実施形態の応用例について述べる。通常、移動局10は複数存在することもあるが、このような場合、移動局10は移動局間でユニークなIDを発信することにより、基地局20はどの移動局10からの発信であるかを認識することができる。これにより、基地局20は、移動局10毎にデータを収集することができる。
【0098】
また、基地局20と移動局10の通信上の関係は、位置検知装置30の機能を複数の基地局20の少なくともいずれかに内蔵して、基地局20が移動局10との観測距離を収集し、基地局20が移動局10の位置を推定するようにしてもよいし、逆に移動局10が基地局20との観測距離を収集し、移動局10が自機の位置を推定するようにしてもよい。
【0099】
通信方法は、電波に限られず、例えば赤外線や超音波、画像処理等を用いて基地局20と移動局10間の観測距離を求めてもよい。
【0100】
時刻sにおけるステップ1の移動局の推定初期位置40は、時刻(s−1)で求まる推定位置としてもよいし、推定位置にランダム誤差を加えた座標としてもよい。
【0101】
なお、上記実施形態において、各部の動作は互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作及び一連の処理として置き換えることができる。これにより、位置推定装置の実施形態を、位置推定方法の実施形態とすることができる。また、位置推定装置の実施形態を、これらが有する機能をコンピュータに実現させるためのプログラムの実施形態とすることができる。
【0102】
これにより、位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、距離計測部により前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する位置推定方法であって、計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、観測座標決定部により予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定ステップと、前記観測座標決定ステップにより決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出ステップと、を含むことを特徴とする位置推定方法を提供することができる。
【0103】
また、これにより、位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、距離計測部により前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する処理をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、観測座標決定部により予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定処理と、前記観測座標決定処理により決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することができる。
【0104】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0105】
10 移動局
20 基地局
30 位置検知装置
32 距離計測部
34 観測座標決定部
36 推定位置算出部
38 繰返し判定部
40 移動局の推定初期位置
50 移動局の推定位置
100 位置推定システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する位置推定装置であって、
計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定部と、
前記観測座標決定部により決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出部と、を備えることを特徴とする位置推定装置。
【請求項2】
前記推定位置算出部により算出された移動局の推定位置と前記移動局の推定初期位置との変化量が予め定められた停止条件を満たすまで、前記観測座標決定部及び前記推定位置算出部の動作を繰り返す繰返し判定部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記繰返し判定部は、前記推定位置算出部により算出された移動局の推定位置と前記移動局の推定初期位置との変化量が予め定められた停止条件を満たしたとき、前記移動局の推定位置を前記移動局の位置と判定する請求項1又は2に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記算出された移動局の推定位置を前記移動局の推定初期位置として再帰的に用いて、上記繰返し動作を繰り返す請求項2または3に記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記推定位置算出部は、前記複数の基地局の観測座標の中央値を前記移動局の代表位置として算出する請求項1〜4のいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項6】
前記推定位置算出部は、前記複数の基地局の観測座標の平均値を前記移動局の代表位置として算出する請求項1〜4のいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記推定位置算出部は、前記複数の基地局の観測座標の重み付き平均値を前記移動局の代表位置として算出する請求項1〜4のいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項8】
前記推定位置算出部は、前記重み付き平均値の重みを前記観測距離の長さに対応して決定する請求項7に記載の位置推定装置。
【請求項9】
前記予め定められた移動局の推定初期位置は、前記複数の基地局に囲まれた範囲内の位置、又は前記複数の基地局から選択された一基地局から所定の範囲内の位置をデフォルト値として最初の繰返し処理に使用され、2回目以降の繰返し処理では、前回の繰返し処理で算出された移動局の推定位置を今回の繰返し処理の前記移動局の推定初期位置として再帰的に用いる請求項1〜8のいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項10】
前記観測座標決定部は、前記各基地局と前記移動局の推定初期位置とを結ぶ直線上であって、前記計測された基地局毎の観測距離だけ各基地局から離れた位置に前記各基地局の観測座標を決定する請求項1〜9のいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項11】
前記位置推定装置は、前記各基地局、前記移動局、前記複数の基地局及び前記移動局と通信可能なサーバ、又は前記移動局の位置を検知する位置検知装置のいずれかであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の位置推定装置。
【請求項12】
位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、距離計測部により前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する位置推定方法であって、
計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、観測座標決定部により予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定ステップと、
前記観測座標決定ステップにより決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出ステップと、を含むことを特徴とする位置推定方法。
【請求項13】
位置が既知である複数の基地局と位置推定対象である移動局との一方向又は双方向通信により取得した所定の信号に基づき、距離計測部により前記複数の基地局と前記移動局との観測距離を計測し、該移動局の位置を推定する処理をコンピュータに実現させるためのプログラムであって、
計測された前記複数の基地局の観測距離に基づき、観測座標決定部により予め定められた移動局の推定初期位置の方向に各基地局の観測座標を決定する観測座標決定処理と、
前記観測座標決定処理により決定された前記複数の基地局の観測座標から移動局の代表位置を前記移動局の推定位置として算出する推定位置算出処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−214920(P2011−214920A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81813(P2010−81813)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:日本計算機統計学会 刊行物名:日本計算機統計学会 第23回シンポジウム論文集 発行年月日:2009年11月7日
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】