位置推定装置及び位置推定方法
【課題】移動物体の位置推定精度の向上を図る位置推定装置及び位置推定方法を提供する。
【解決手段】運動パラメータ選択部202が移動物体のID情報に対応する移動物体の属性情報と、位置情報に対応するフロアの属性情報とをデータベース部112から取得し、取得した属性情報に基づいて、最適な運動パラメータを選択する。分布更新部203は、分布パラメータ保持部204に保持された一つ前の時刻における移動物体の位置の分布パラメータ、位置情報、選択された運動パラメータを用いて、現在の時刻における移動物体の位置の分布パラメータを算出し、最尤位置算出部205は、算出された移動物体の位置の分布パラメータから移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する。
【解決手段】運動パラメータ選択部202が移動物体のID情報に対応する移動物体の属性情報と、位置情報に対応するフロアの属性情報とをデータベース部112から取得し、取得した属性情報に基づいて、最適な運動パラメータを選択する。分布更新部203は、分布パラメータ保持部204に保持された一つ前の時刻における移動物体の位置の分布パラメータ、位置情報、選択された運動パラメータを用いて、現在の時刻における移動物体の位置の分布パラメータを算出し、最尤位置算出部205は、算出された移動物体の位置の分布パラメータから移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動物体の位置を推定する位置推定装置及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス空間や公共空間において不審者の追跡や行動を監視するセキュリティ管理システムや、工場、工事現場又は災害現場等において危険区域への侵入者を検知する安全管理システム等の要望が高まっている。このようなシステムの実現においては、監視対象(以下、「観測対象」という)の位置を高精度に推定することが重要である。
【0003】
観測対象の位置を高精度に推定するとは、観測対象が刻々と移動し、移動に伴って観測対象の周辺状況が様々に変化する状況においても、位置推定の精度を著しく劣化させることなく、移動する観測対象の位置を連続的に推定することを指す。
【0004】
観測対象の周辺状況への対応は、観測対象に関する複数のモーダル情報から物体位置の確率密度分布を各々算出し、これらの確率密度分布を重み付き線形和として結合し、得られる尤度分布から観測対象の位置を得る方法が提案されている。また、過去の観測データを用いて、観測対象の位置推定精度の向上を図る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、特許文献1は、尤度分布を用いた位置推定方法について記載されたもので、以下に説明する。特許文献1には、精度の異なる複数のセンサを用いる方法において、外部要因により一時的にセンサの精度が悪くなる、又は観測対象を観測できない場合でも、移動物体の位置を推定する技術が開示されている。特に、特許文献1では、観測結果から得られた確率密度分布と、前時刻の確率密度分布とを重み付け線形和として統合して、現時刻の確率密度分布を得ることを特徴としている。
【0006】
つまり、特許文献1では、観測結果に基づく確率密度分布を単純に積算するのではなく、センサの信頼性等によって重み付け線形和している。これにより、特許文献1では、外的な要因によって観測精度が劣化したセンサがあった場合でも、観測精度を著しく劣化させることなく継続して位置推定を行うことができる。
【0007】
特許文献1に記載の位置推定方法は、ベイズの定理を用いて位置の推定を行っているが、物体が移動することによって位置推定精度は劣化している。すなわち、移動物体の位置推定を行ったときの観測精度の劣化は、ベイズの定理を用いただけでは十分ではない。ちなみに、ベイズの基本定理を以下に示す。
【0008】
P(X|Y)∝ P(X)×P(X|Y)
ベイズの基本定理において、P(X)は事象Yが起こる前のXの確信度、P(X|Y)は事象Yが起こった後のXの確信度、P(Y|X)はXが発生した条件下で事象Yが起こる条件付確率を示す。ベイズにおいては、事象Yが起こった時のXの尤もらしさ(尤度)と定義している。位置推定への応用においては、事象の数を増やして連続関数として一般化することにより、分布(位置)の母数推定を行っている。ただし、ここでは、正規分布と仮定している。
【0009】
f(μ)∝ g(X|μ)×f(μ)
上記式において、g(x|μ)は位置がXであった場合の確率密度であり、位置Xであることの尤もらしさ(尤度)を表している。観測対象が移動するということは、観測誤差(尤度分布)の分散が結果として広がった状態となり、このような状態の尤度分布が事前分布と掛け合わされるため、位置推定精度は劣化する。
【特許文献1】特開2005―141687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、移動物体の位置推定のために単純に尤度分布を適用した場合、位置推定の精度を向上させるために過去の観測データを用いると、逆に位置推定精度の劣化が生じるという課題を有している。この精度劣化に対して、尤度分布の分散を広げることにより、極端な精度劣化を抑止することができるが、観測データの精度を下げることになり、結果として位置推定精度が劣化してしまう。このため、移動物体の位置推定において、過去の観測データを用いた場合は、静止物体の位置推定と比べて位置推定精度の向上を図ることが困難である。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、移動物体の位置推定精度の向上を図る位置推定装置及び位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の位置推定装置は、移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択部と、選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新部と、算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出部と、を具備する構成を採る。
【0013】
本発明の位置推定方法は、移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択工程と、選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新工程と、算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出工程と、を具備するようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動物体の位置推定精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る位置推定システムの構成を示すブロック図である。図1において、位置推定システムは、フロアに設置された複数の検出部101、通信部111、データベース部112、位置推定部113、及び位置表示部114から構成される。
【0017】
検出部101は、フロアに一台以上設置され、フロア上に存在する移動物体を観測し、移動物体に付されたタグID(以下、「ID情報」という)及び移動物体の位置を含む移動体情報を検出する。検出されたID情報と位置情報とを含む移動体情報は、位置推定装置110の通信部111に出力される。
【0018】
通信部111は、直接又はネットワーク経由で複数の検出部101と接続されており、各検出部101から出力されたID情報と位置情報とを含む移動体情報を位置推定部113に出力する。
【0019】
データベース部112は、移動物体の属性情報とフロアの属性情報とを管理する。なお、移動物体の属性情報、及びフロアの属性情報については後述する。
【0020】
位置推定部113は、検出部101から出力されたID情報及び位置情報と、データベース部112に記憶されている属性情報に基づき、移動物体の位置を推定し、推定した位置情報を位置表示部114に出力する。
【0021】
位置表示部114は、位置推定部113から出力された位置情報に基づいて、移動物体の移動の軌跡(動線)を実時間でモニタに表示する。なお、位置情報は、動線以外の方法でモニタに表示してもよい。例えば、位置表示部114は、特定の領域に移動物体が進入した場合に、モニタにメッセージを表示してもよい。また、位置表示部114は、モニタ以外の外部出力装置(例えばプリンタ等)を介して提示してもよい。例えば、位置表示部114は、特定の領域に移動物体が進入した場合に、警報音を鳴らしてもよい。
【0022】
このような位置推定システムは、オフィス等のセキュリティシステムとして、不審者の位置、不審者の移動履歴の把握(監視)に用いられる。また、位置推定システムは、公共施設や展示会場等における人や物の動線解析などに用いられる。
【0023】
図2は、図1に示した位置推定部113の内部構成を示すブロック図である。図2において、位置推定部113は、情報分離部201、運動パラメータ選択部202、分布更新部203、分布パラメータ保持部204、及び、最尤位置算出部205から構成される。
【0024】
情報分離部201は、検出部101から出力されたID情報及び位置情報を通信部111を介して取得し、取得したID情報及び位置情報を運動パラメータ選択部202に出力し、位置情報を分布更新部203に出力する。
【0025】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201から出力されたID情報及び位置情報をそれぞれ分離し、ID情報に対応する移動物体の属性情報と、位置情報に対応するフロアの属性情報とをデータベース部112から取得する。運動パラメータ選択部202は、取得した属性情報に基づいて、最適な運動パラメータを選択して分布更新部203に出力する。運動パラメータは、移動物体がどのような運動を行っているかを表すパラメータであり、ここでは、移動物体の移動速度の平均と、移動速度の分散を意味する。なお、ここで分離されたID情報は、移動物体を識別するための最終的なIDである必要はなく、最終的なIDに一意に変換可能な情報であればどのような値であってもよい。
【0026】
分布更新部203は、分布パラメータ保持部204から一つ前の時刻における移動物体の位置の確率分布を表す分布パラメータ(移動物体の位置の分布の平均及び分散)と、情報分離部201から出力された位置情報(座標位置)と、運動パラメータ選択部202から出力された運動パラメータ(移動物体の速度の分布の平均及び分散)とを取得する。分布更新部203は、取得した移動物体の位置の確率分布を表す分布パラメータ、位置情報及び運動パラメータに基づいて、現在時刻における移動物体の位置の確率分布を表す分布パラメータを求め、分布パラメータ保持部204に出力する。つまり、分布更新部203は、正規分布に基づいて、移動物体の位置の分布の平均及び分散を更新する。なお、時刻t=0における移動物体の位置の分布パラメータは、分布パラメータ保持部204に初期値としてあらかじめ格納されているとする。
【0027】
分布パラメータ保持部204は、移動物体の位置の分布パラメータを保持し、分布更新部203及び最尤位置算出部205に出力する。また、分布パラメータ保持部204は、分布更新部203の出力を受け取り、保持している分布パラメータ(移動物体の位置の分布の平均及び分散)を置き換える。また、初期状態においては、分布パラメータの初期値を保持している。
【0028】
最尤位置算出部205は、分布パラメータ保持部204から移動物体の位置の分布パラメータを取得し、移動物体の位置として最も確率が高い位置(座標位置)を求め、最尤位置として算出し、位置表示部114に出力する。
【0029】
ここからの説明は、運動パラメータ選択部202の運動パラメータの選択方法についてである。各パラメータの値は、観測対象となるモデルを複数設定し、モデル毎に事前に決めておき、変換テーブルとして運動パラメータ選択部202が保持する。
【0030】
運動パラメータの選択方法は、主に次の3つが考えられる。1つには、移動物体の属性情報に基づいて選択する方法、2つには、移動物体が移動するフロアの属性情報に基づいて選択する方法、3つには、移動物体の移動履歴に基づいて選択する方法である。以下、これら3つの選択方法についてそれぞれ説明する。
【0031】
最初に説明する方法は、移動物体の属性情報に基づいて、運動パラメータを選択する方法である。図3は、移動物体の属性情報の一例を示す図である。ここでは、移動物体が人であることを想定する。図3に示すように、移動物体の属性情報は、ID情報に性別、年齢及び分類がそれぞれ対応付けられたものである。なお、分類は、例えば、一般的な統計手法(例えばクラスタリング分析、主成分分析等)による値を用いる。
【0032】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201からID情報を取得し、取得したID情報に基づいて、データベース部112に記憶された移動物体の属性情報を検索して対応する属性情報を取得する。
【0033】
運動パラメータ選択部202は、予め保持している変換テーブルを用いて、取得した属性情報から移動物体の速度の平均と速度の分散を取得する。運動パラメータ選択部202は、取得した値を用いて移動物体の現在の時刻の運動パラメータを更新し、分布更新部203に出力する。なお、変換テーブルとしては、図4に示すように、性別、年齢を軸とした二次元テーブルで個々の要素に運動パラメータが設定されたものである。例えば、お年寄りの場合は、移動速度の平均が低く(移動速度が遅い)、分散も狭い。また、子供の場合は、移動速度の平均が速く、分散も広い。変換テーブルは、このような値が経験則や履歴などから事前に設定されている。
【0034】
次に、移動物体が移動するフロアの属性情報に基づいて運動パラメータを選択する方法について説明する。図5は、フロアの属性情報の一例を示す図である。ここでは、フロアを一定の区画(ブロック毎)に分割し、分割した個々の領域を識別するフロア領域情報によってフロア内の領域を特定する。図5に示すように、フロアの属性情報は、フロア領域情報に平均滞留時間、移動速度の平均、フロアタイプ(ここでは分類)、移動速度の分散がそれぞれ対応付けられたものである。なお、平均滞留時間は、過去にこの領域を通過した移動物体の平均滞留時間を示す。また、移動速度の平均は、過去にこの領域を通過した移動物体の平均通過速度を示す。また、フロアタイプは、この領域の特徴を表す情報であり、ここでは一例として図3に示した分類によって表す。この場合、フロアタイプは、この領域を通過又は長時間滞留した全移動物体のうち、最も多い分類が設定される。さらに移動速度の分散は、この領域を通過した移動物体の通過速度の分散を示す。
【0035】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201から位置情報を取得し、取得した位置情報に基づいて、データベース部112に記憶されたフロア領域情報を検索して対応するフロアの属性情報を取得する。
【0036】
運動パラメータ選択部202は、取得した移動速度の平均と分散とに基づいて、移動物体の現在の時刻の運動パラメータを更新し、分布更新部203に出力する。
【0037】
なお、運動パラメータ選択部202は、移動速度の平均と分散と同時に取得したID情報に基づいてデータベース部112から取得した移動物体の分類と、フロアのタイプとが一致しない場合がある。このとき、運動パラメータ選択部202は、位置推定部112が、分類に対応する運動パラメータ、または事前に保持しているデフォルトの運動パラメータを適用する。これにより、運動パラメータ選択部202は、予め運動パターンが予測可能な移動物体や分散を大きく外れることが予想される移動物体に対して、適切な運動パラメータを適用することができる。
【0038】
次に、移動物体の移動履歴に基づいて運動パラメータを選択する方法について説明する。図6は、移動物体の移動履歴の一例を示す図である。図6に示すように、移動物体の移動履歴としては、ID情報にフロア位置情報、移動先、確度がそれぞれ対応付けられている。なお、ID情報は、過去にこの領域を通過した移動物体を示す。また、フロア位置情報は、フロア内の特定位置を識別する情報である。また、移動先は、移動物体がフロア内の特定位置を通過した速度と移動方向を示す。さらに、確度は、移動物体がフロア内の特定位置を通過した回数を100としたとき、移動先が示す速度で移動した回数を示す。
【0039】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201から取得した位置情報に基づいて、データベース部112に記憶された移動物体の移動履歴のフロア位置情報を検索して、履歴から算出した移動先の確率分布を表すパラメータを取得する。運動パラメータ選択部202は、取得したパラメータから現時点での速度の平均と分散を運動パラメータとして更新し、分布更新部203に出力する。
【0040】
なお、移動物体の移動履歴は、特定の移動物体の情報ではなく、過去の複数の移動物体の平均であってもよい。
【0041】
運動パラメータ選択部202は、上記3つの選択方法のうちいずれを用いるかは、位置推定方法の利用ケースによって予めいずれかを選択してもよい。例えば、移動に関するフロアの制約(例えば、階段や動く歩道等の進行方向や進行速度)がない場合は、移動物体の属性に基づいて運動パラメータを選択することが考えられる。また、展示会などにおいて、人の移動速度(滞留、停滞時間)などに関する履歴がある場合は、属性情報やフロア情報に優先して、履歴に基づいて運動パラメータを選択することが考えられる。また、運動パラメータ選択部202は、上記3つの選択方法を動的に切り替えてもよく、この場合は、選択方法を適用する優先順位を場所や移動物体毎に設定する方法がある。ちなみに、運動パラメータ選択部202は、上記3つの方法を組み合わせてもよい。
【0042】
以下の説明は、移動物体の位置推定処理についてである。ここでは、上記第1の運動パラメータの選択方法を例に、図4〜図13を用いて説明する。
【0043】
分布更新部203は、分布パラメータ保持部204から一つ前の時刻における移動物体の位置の分布に関するパラメータと、情報分離部201から移動物体の現在の観測値と、運動パラメータ選択部202から運動パラメータとを取得する。続いて、分布更新部203は、それらを用いて移動物体の現在の時刻における位置の分布を表すパラメータを計算し、分布パラメータ保持部204に出力する。
【0044】
分布更新部203は、運動パラメータ選択部202から運動パラメータである移動物体の速度の平均と速度の分散を取得する。さらに、分布更新部203は、時刻t=tにおいて、対象となる移動物体の位置の分布パラメータとして、移動物体の位置の平均μt、分散λt2を分布パラメータ保持部204から取得する。
【0045】
なお、時刻t=0における移動物体の位置の分布パラメータは、分布パラメータ保持部204に初期値としてあらかじめ格納されているとする。分布パラメータの初期値として、好適には、μt=0,λ02=+∞とする。
【0046】
このとき、分布更新部203は、時刻t=t+1で、観測値yt+1を情報分離部201から取得する。次に、分布更新部203は、時刻t=t+1における移動物体の位置xt+1の分布のパラメータとして、移動物体の位置の平均μt+1、分散λt+12を次式(1)により計算する。
【数1】
【0047】
ただし、σ2は、観測モデルにおける分散、vt、τt2は、運動パラメータ選択部202において選択された時刻tでの対象の移動速度の平均及び分散である。(なお、観測値は、真の値の周りに平均0、分散σ2の分布に従って観測されるとする)
【0048】
分布更新部203は、上式で得られたパラメータである移動物体の位置の平均μt+1と、分散λt+12とを分布パラメータ保持部204に格納する。
【0049】
最尤位置算出部205は、分布パラメータ保持部204から移動物体の位置の分布パラメータを取得し、移動物体の位置として最も確率が高い位置を求め、最尤位置として算出し、位置表示部114に出力する。具体的には、最尤位置算出部205は、分布パラメータ保持部204に保持されたパラメータである時刻t=t+1における移動物体の位置の分布の平均μt+1と、分散λt+12を取得する。次に、最尤位置算出部205は、μt+1を時刻t=t+1における移動物体の位置の最尤値として計算し、求めた最尤位置μt+1を位置表示部114に出力する。
【0050】
以下、急いで歩く人の位置のシミュレーション例において、IDパラメータを利用して選択される運動モデルを利用した位置推定例を示す。図4は、人が急いで歩くときの速度の平均値及び標準偏差を性別、年齢別に示し、運動パラメータとしてデータベース部112に格納されているとする。
【0051】
今、60歳の男性の時刻t=tにおける真の位置が、図7のように得られているとする(図7は、サンプル数1000のシミュレーション結果)。このとき、図4の表によれば、60歳男性の移動速度は、平均1.92(m/s)、標準偏差0.21であり、時刻t=t+1の真の位置は、シミュレーションにより、例えば図8のように得られる。
【0052】
観測モデルとして、観測値が真の値の周りに平均0、分散636の正規分布に従って分布するというモデルを仮定すると、このときの観測値は、例えば図9のように得られる。このとき、60歳男性の移動速度モデルに基づいて、各観測値をもとに上記更新式から得られる時刻t=t+1のときの位置の最尤値の分布は、図10のようになる。
【0053】
本実施の形態により得られた最尤値と、この最尤値に対応する真の位置とを比較して得られる誤差の分布は、図11のようになり、平均は16.1となる。
【0054】
一方、従来技術による一般的な移動速度モデルに基づいて、各観測値を基に上記更新式から得られる時刻t=t+1のときの最尤値の分布は、図12のようになり、誤差の分布は、図13のようになり、平均は18.4である。なお、一般的な移動速度モデルは、平均2.24m/s、標準偏差0.69と仮定する。
【0055】
以上のように、本実施の形態によれば、移動物体のID情報に基づいて、運動パラメータを選択し、選択した前記運動パラメータを用いて、移動物体の異なる時点における複数の観測データから移動物体の位置の尤度分布を算出し、算出した尤度分布から移動物体の位置を算出することにより、移動物体の位置を高精度に推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる位置推定装置及び位置推定方法は、セキュリティ管理システム、安全管理システム等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1に係る位置推定システムの構成を示すブロック図
【図2】図1に示した位置推定部の内部構成を示すブロック図
【図3】移動物体の属性情報の一例を示す図
【図4】変換テーブルの一例を示す図
【図5】フロアの属性情報の一例を示す図
【図6】移動物体の移動履歴の一例を示す図
【図7】時刻t=tにおける真の位置のシミュレーション結果を示す図
【図8】時刻t=t+1における真の位置のシミュレーション結果を示す図
【図9】時刻t=t+1における位置の観測値のシミュレーション結果を示す図
【図10】時刻t=t+1における位置の最尤値の分布を示す図
【図11】時刻t=t+1における位置の最尤値と真の位置との誤差の分布を示す図
【図12】一般的な移動速度モデルに基づく、時刻t=t+1における位置の最尤値の分布を示す図
【図13】一般的な移動速度モデルに基づく、時刻t=t+1における位置の最尤値と真の位置との誤差の分布を示す図
【符号の説明】
【0058】
101 検出部
111 通信部
112 データベース部
113 位置推定部
114 位置表示部
201 情報分離部
202 運動パラメータ選択部
203 分布更新部
204 分布パラメータ保持部
205 最尤位置算出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動物体の位置を推定する位置推定装置及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス空間や公共空間において不審者の追跡や行動を監視するセキュリティ管理システムや、工場、工事現場又は災害現場等において危険区域への侵入者を検知する安全管理システム等の要望が高まっている。このようなシステムの実現においては、監視対象(以下、「観測対象」という)の位置を高精度に推定することが重要である。
【0003】
観測対象の位置を高精度に推定するとは、観測対象が刻々と移動し、移動に伴って観測対象の周辺状況が様々に変化する状況においても、位置推定の精度を著しく劣化させることなく、移動する観測対象の位置を連続的に推定することを指す。
【0004】
観測対象の周辺状況への対応は、観測対象に関する複数のモーダル情報から物体位置の確率密度分布を各々算出し、これらの確率密度分布を重み付き線形和として結合し、得られる尤度分布から観測対象の位置を得る方法が提案されている。また、過去の観測データを用いて、観測対象の位置推定精度の向上を図る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、特許文献1は、尤度分布を用いた位置推定方法について記載されたもので、以下に説明する。特許文献1には、精度の異なる複数のセンサを用いる方法において、外部要因により一時的にセンサの精度が悪くなる、又は観測対象を観測できない場合でも、移動物体の位置を推定する技術が開示されている。特に、特許文献1では、観測結果から得られた確率密度分布と、前時刻の確率密度分布とを重み付け線形和として統合して、現時刻の確率密度分布を得ることを特徴としている。
【0006】
つまり、特許文献1では、観測結果に基づく確率密度分布を単純に積算するのではなく、センサの信頼性等によって重み付け線形和している。これにより、特許文献1では、外的な要因によって観測精度が劣化したセンサがあった場合でも、観測精度を著しく劣化させることなく継続して位置推定を行うことができる。
【0007】
特許文献1に記載の位置推定方法は、ベイズの定理を用いて位置の推定を行っているが、物体が移動することによって位置推定精度は劣化している。すなわち、移動物体の位置推定を行ったときの観測精度の劣化は、ベイズの定理を用いただけでは十分ではない。ちなみに、ベイズの基本定理を以下に示す。
【0008】
P(X|Y)∝ P(X)×P(X|Y)
ベイズの基本定理において、P(X)は事象Yが起こる前のXの確信度、P(X|Y)は事象Yが起こった後のXの確信度、P(Y|X)はXが発生した条件下で事象Yが起こる条件付確率を示す。ベイズにおいては、事象Yが起こった時のXの尤もらしさ(尤度)と定義している。位置推定への応用においては、事象の数を増やして連続関数として一般化することにより、分布(位置)の母数推定を行っている。ただし、ここでは、正規分布と仮定している。
【0009】
f(μ)∝ g(X|μ)×f(μ)
上記式において、g(x|μ)は位置がXであった場合の確率密度であり、位置Xであることの尤もらしさ(尤度)を表している。観測対象が移動するということは、観測誤差(尤度分布)の分散が結果として広がった状態となり、このような状態の尤度分布が事前分布と掛け合わされるため、位置推定精度は劣化する。
【特許文献1】特開2005―141687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、移動物体の位置推定のために単純に尤度分布を適用した場合、位置推定の精度を向上させるために過去の観測データを用いると、逆に位置推定精度の劣化が生じるという課題を有している。この精度劣化に対して、尤度分布の分散を広げることにより、極端な精度劣化を抑止することができるが、観測データの精度を下げることになり、結果として位置推定精度が劣化してしまう。このため、移動物体の位置推定において、過去の観測データを用いた場合は、静止物体の位置推定と比べて位置推定精度の向上を図ることが困難である。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、移動物体の位置推定精度の向上を図る位置推定装置及び位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の位置推定装置は、移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択部と、選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新部と、算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出部と、を具備する構成を採る。
【0013】
本発明の位置推定方法は、移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択工程と、選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新工程と、算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出工程と、を具備するようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動物体の位置推定精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る位置推定システムの構成を示すブロック図である。図1において、位置推定システムは、フロアに設置された複数の検出部101、通信部111、データベース部112、位置推定部113、及び位置表示部114から構成される。
【0017】
検出部101は、フロアに一台以上設置され、フロア上に存在する移動物体を観測し、移動物体に付されたタグID(以下、「ID情報」という)及び移動物体の位置を含む移動体情報を検出する。検出されたID情報と位置情報とを含む移動体情報は、位置推定装置110の通信部111に出力される。
【0018】
通信部111は、直接又はネットワーク経由で複数の検出部101と接続されており、各検出部101から出力されたID情報と位置情報とを含む移動体情報を位置推定部113に出力する。
【0019】
データベース部112は、移動物体の属性情報とフロアの属性情報とを管理する。なお、移動物体の属性情報、及びフロアの属性情報については後述する。
【0020】
位置推定部113は、検出部101から出力されたID情報及び位置情報と、データベース部112に記憶されている属性情報に基づき、移動物体の位置を推定し、推定した位置情報を位置表示部114に出力する。
【0021】
位置表示部114は、位置推定部113から出力された位置情報に基づいて、移動物体の移動の軌跡(動線)を実時間でモニタに表示する。なお、位置情報は、動線以外の方法でモニタに表示してもよい。例えば、位置表示部114は、特定の領域に移動物体が進入した場合に、モニタにメッセージを表示してもよい。また、位置表示部114は、モニタ以外の外部出力装置(例えばプリンタ等)を介して提示してもよい。例えば、位置表示部114は、特定の領域に移動物体が進入した場合に、警報音を鳴らしてもよい。
【0022】
このような位置推定システムは、オフィス等のセキュリティシステムとして、不審者の位置、不審者の移動履歴の把握(監視)に用いられる。また、位置推定システムは、公共施設や展示会場等における人や物の動線解析などに用いられる。
【0023】
図2は、図1に示した位置推定部113の内部構成を示すブロック図である。図2において、位置推定部113は、情報分離部201、運動パラメータ選択部202、分布更新部203、分布パラメータ保持部204、及び、最尤位置算出部205から構成される。
【0024】
情報分離部201は、検出部101から出力されたID情報及び位置情報を通信部111を介して取得し、取得したID情報及び位置情報を運動パラメータ選択部202に出力し、位置情報を分布更新部203に出力する。
【0025】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201から出力されたID情報及び位置情報をそれぞれ分離し、ID情報に対応する移動物体の属性情報と、位置情報に対応するフロアの属性情報とをデータベース部112から取得する。運動パラメータ選択部202は、取得した属性情報に基づいて、最適な運動パラメータを選択して分布更新部203に出力する。運動パラメータは、移動物体がどのような運動を行っているかを表すパラメータであり、ここでは、移動物体の移動速度の平均と、移動速度の分散を意味する。なお、ここで分離されたID情報は、移動物体を識別するための最終的なIDである必要はなく、最終的なIDに一意に変換可能な情報であればどのような値であってもよい。
【0026】
分布更新部203は、分布パラメータ保持部204から一つ前の時刻における移動物体の位置の確率分布を表す分布パラメータ(移動物体の位置の分布の平均及び分散)と、情報分離部201から出力された位置情報(座標位置)と、運動パラメータ選択部202から出力された運動パラメータ(移動物体の速度の分布の平均及び分散)とを取得する。分布更新部203は、取得した移動物体の位置の確率分布を表す分布パラメータ、位置情報及び運動パラメータに基づいて、現在時刻における移動物体の位置の確率分布を表す分布パラメータを求め、分布パラメータ保持部204に出力する。つまり、分布更新部203は、正規分布に基づいて、移動物体の位置の分布の平均及び分散を更新する。なお、時刻t=0における移動物体の位置の分布パラメータは、分布パラメータ保持部204に初期値としてあらかじめ格納されているとする。
【0027】
分布パラメータ保持部204は、移動物体の位置の分布パラメータを保持し、分布更新部203及び最尤位置算出部205に出力する。また、分布パラメータ保持部204は、分布更新部203の出力を受け取り、保持している分布パラメータ(移動物体の位置の分布の平均及び分散)を置き換える。また、初期状態においては、分布パラメータの初期値を保持している。
【0028】
最尤位置算出部205は、分布パラメータ保持部204から移動物体の位置の分布パラメータを取得し、移動物体の位置として最も確率が高い位置(座標位置)を求め、最尤位置として算出し、位置表示部114に出力する。
【0029】
ここからの説明は、運動パラメータ選択部202の運動パラメータの選択方法についてである。各パラメータの値は、観測対象となるモデルを複数設定し、モデル毎に事前に決めておき、変換テーブルとして運動パラメータ選択部202が保持する。
【0030】
運動パラメータの選択方法は、主に次の3つが考えられる。1つには、移動物体の属性情報に基づいて選択する方法、2つには、移動物体が移動するフロアの属性情報に基づいて選択する方法、3つには、移動物体の移動履歴に基づいて選択する方法である。以下、これら3つの選択方法についてそれぞれ説明する。
【0031】
最初に説明する方法は、移動物体の属性情報に基づいて、運動パラメータを選択する方法である。図3は、移動物体の属性情報の一例を示す図である。ここでは、移動物体が人であることを想定する。図3に示すように、移動物体の属性情報は、ID情報に性別、年齢及び分類がそれぞれ対応付けられたものである。なお、分類は、例えば、一般的な統計手法(例えばクラスタリング分析、主成分分析等)による値を用いる。
【0032】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201からID情報を取得し、取得したID情報に基づいて、データベース部112に記憶された移動物体の属性情報を検索して対応する属性情報を取得する。
【0033】
運動パラメータ選択部202は、予め保持している変換テーブルを用いて、取得した属性情報から移動物体の速度の平均と速度の分散を取得する。運動パラメータ選択部202は、取得した値を用いて移動物体の現在の時刻の運動パラメータを更新し、分布更新部203に出力する。なお、変換テーブルとしては、図4に示すように、性別、年齢を軸とした二次元テーブルで個々の要素に運動パラメータが設定されたものである。例えば、お年寄りの場合は、移動速度の平均が低く(移動速度が遅い)、分散も狭い。また、子供の場合は、移動速度の平均が速く、分散も広い。変換テーブルは、このような値が経験則や履歴などから事前に設定されている。
【0034】
次に、移動物体が移動するフロアの属性情報に基づいて運動パラメータを選択する方法について説明する。図5は、フロアの属性情報の一例を示す図である。ここでは、フロアを一定の区画(ブロック毎)に分割し、分割した個々の領域を識別するフロア領域情報によってフロア内の領域を特定する。図5に示すように、フロアの属性情報は、フロア領域情報に平均滞留時間、移動速度の平均、フロアタイプ(ここでは分類)、移動速度の分散がそれぞれ対応付けられたものである。なお、平均滞留時間は、過去にこの領域を通過した移動物体の平均滞留時間を示す。また、移動速度の平均は、過去にこの領域を通過した移動物体の平均通過速度を示す。また、フロアタイプは、この領域の特徴を表す情報であり、ここでは一例として図3に示した分類によって表す。この場合、フロアタイプは、この領域を通過又は長時間滞留した全移動物体のうち、最も多い分類が設定される。さらに移動速度の分散は、この領域を通過した移動物体の通過速度の分散を示す。
【0035】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201から位置情報を取得し、取得した位置情報に基づいて、データベース部112に記憶されたフロア領域情報を検索して対応するフロアの属性情報を取得する。
【0036】
運動パラメータ選択部202は、取得した移動速度の平均と分散とに基づいて、移動物体の現在の時刻の運動パラメータを更新し、分布更新部203に出力する。
【0037】
なお、運動パラメータ選択部202は、移動速度の平均と分散と同時に取得したID情報に基づいてデータベース部112から取得した移動物体の分類と、フロアのタイプとが一致しない場合がある。このとき、運動パラメータ選択部202は、位置推定部112が、分類に対応する運動パラメータ、または事前に保持しているデフォルトの運動パラメータを適用する。これにより、運動パラメータ選択部202は、予め運動パターンが予測可能な移動物体や分散を大きく外れることが予想される移動物体に対して、適切な運動パラメータを適用することができる。
【0038】
次に、移動物体の移動履歴に基づいて運動パラメータを選択する方法について説明する。図6は、移動物体の移動履歴の一例を示す図である。図6に示すように、移動物体の移動履歴としては、ID情報にフロア位置情報、移動先、確度がそれぞれ対応付けられている。なお、ID情報は、過去にこの領域を通過した移動物体を示す。また、フロア位置情報は、フロア内の特定位置を識別する情報である。また、移動先は、移動物体がフロア内の特定位置を通過した速度と移動方向を示す。さらに、確度は、移動物体がフロア内の特定位置を通過した回数を100としたとき、移動先が示す速度で移動した回数を示す。
【0039】
運動パラメータ選択部202は、情報分離部201から取得した位置情報に基づいて、データベース部112に記憶された移動物体の移動履歴のフロア位置情報を検索して、履歴から算出した移動先の確率分布を表すパラメータを取得する。運動パラメータ選択部202は、取得したパラメータから現時点での速度の平均と分散を運動パラメータとして更新し、分布更新部203に出力する。
【0040】
なお、移動物体の移動履歴は、特定の移動物体の情報ではなく、過去の複数の移動物体の平均であってもよい。
【0041】
運動パラメータ選択部202は、上記3つの選択方法のうちいずれを用いるかは、位置推定方法の利用ケースによって予めいずれかを選択してもよい。例えば、移動に関するフロアの制約(例えば、階段や動く歩道等の進行方向や進行速度)がない場合は、移動物体の属性に基づいて運動パラメータを選択することが考えられる。また、展示会などにおいて、人の移動速度(滞留、停滞時間)などに関する履歴がある場合は、属性情報やフロア情報に優先して、履歴に基づいて運動パラメータを選択することが考えられる。また、運動パラメータ選択部202は、上記3つの選択方法を動的に切り替えてもよく、この場合は、選択方法を適用する優先順位を場所や移動物体毎に設定する方法がある。ちなみに、運動パラメータ選択部202は、上記3つの方法を組み合わせてもよい。
【0042】
以下の説明は、移動物体の位置推定処理についてである。ここでは、上記第1の運動パラメータの選択方法を例に、図4〜図13を用いて説明する。
【0043】
分布更新部203は、分布パラメータ保持部204から一つ前の時刻における移動物体の位置の分布に関するパラメータと、情報分離部201から移動物体の現在の観測値と、運動パラメータ選択部202から運動パラメータとを取得する。続いて、分布更新部203は、それらを用いて移動物体の現在の時刻における位置の分布を表すパラメータを計算し、分布パラメータ保持部204に出力する。
【0044】
分布更新部203は、運動パラメータ選択部202から運動パラメータである移動物体の速度の平均と速度の分散を取得する。さらに、分布更新部203は、時刻t=tにおいて、対象となる移動物体の位置の分布パラメータとして、移動物体の位置の平均μt、分散λt2を分布パラメータ保持部204から取得する。
【0045】
なお、時刻t=0における移動物体の位置の分布パラメータは、分布パラメータ保持部204に初期値としてあらかじめ格納されているとする。分布パラメータの初期値として、好適には、μt=0,λ02=+∞とする。
【0046】
このとき、分布更新部203は、時刻t=t+1で、観測値yt+1を情報分離部201から取得する。次に、分布更新部203は、時刻t=t+1における移動物体の位置xt+1の分布のパラメータとして、移動物体の位置の平均μt+1、分散λt+12を次式(1)により計算する。
【数1】
【0047】
ただし、σ2は、観測モデルにおける分散、vt、τt2は、運動パラメータ選択部202において選択された時刻tでの対象の移動速度の平均及び分散である。(なお、観測値は、真の値の周りに平均0、分散σ2の分布に従って観測されるとする)
【0048】
分布更新部203は、上式で得られたパラメータである移動物体の位置の平均μt+1と、分散λt+12とを分布パラメータ保持部204に格納する。
【0049】
最尤位置算出部205は、分布パラメータ保持部204から移動物体の位置の分布パラメータを取得し、移動物体の位置として最も確率が高い位置を求め、最尤位置として算出し、位置表示部114に出力する。具体的には、最尤位置算出部205は、分布パラメータ保持部204に保持されたパラメータである時刻t=t+1における移動物体の位置の分布の平均μt+1と、分散λt+12を取得する。次に、最尤位置算出部205は、μt+1を時刻t=t+1における移動物体の位置の最尤値として計算し、求めた最尤位置μt+1を位置表示部114に出力する。
【0050】
以下、急いで歩く人の位置のシミュレーション例において、IDパラメータを利用して選択される運動モデルを利用した位置推定例を示す。図4は、人が急いで歩くときの速度の平均値及び標準偏差を性別、年齢別に示し、運動パラメータとしてデータベース部112に格納されているとする。
【0051】
今、60歳の男性の時刻t=tにおける真の位置が、図7のように得られているとする(図7は、サンプル数1000のシミュレーション結果)。このとき、図4の表によれば、60歳男性の移動速度は、平均1.92(m/s)、標準偏差0.21であり、時刻t=t+1の真の位置は、シミュレーションにより、例えば図8のように得られる。
【0052】
観測モデルとして、観測値が真の値の周りに平均0、分散636の正規分布に従って分布するというモデルを仮定すると、このときの観測値は、例えば図9のように得られる。このとき、60歳男性の移動速度モデルに基づいて、各観測値をもとに上記更新式から得られる時刻t=t+1のときの位置の最尤値の分布は、図10のようになる。
【0053】
本実施の形態により得られた最尤値と、この最尤値に対応する真の位置とを比較して得られる誤差の分布は、図11のようになり、平均は16.1となる。
【0054】
一方、従来技術による一般的な移動速度モデルに基づいて、各観測値を基に上記更新式から得られる時刻t=t+1のときの最尤値の分布は、図12のようになり、誤差の分布は、図13のようになり、平均は18.4である。なお、一般的な移動速度モデルは、平均2.24m/s、標準偏差0.69と仮定する。
【0055】
以上のように、本実施の形態によれば、移動物体のID情報に基づいて、運動パラメータを選択し、選択した前記運動パラメータを用いて、移動物体の異なる時点における複数の観測データから移動物体の位置の尤度分布を算出し、算出した尤度分布から移動物体の位置を算出することにより、移動物体の位置を高精度に推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる位置推定装置及び位置推定方法は、セキュリティ管理システム、安全管理システム等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1に係る位置推定システムの構成を示すブロック図
【図2】図1に示した位置推定部の内部構成を示すブロック図
【図3】移動物体の属性情報の一例を示す図
【図4】変換テーブルの一例を示す図
【図5】フロアの属性情報の一例を示す図
【図6】移動物体の移動履歴の一例を示す図
【図7】時刻t=tにおける真の位置のシミュレーション結果を示す図
【図8】時刻t=t+1における真の位置のシミュレーション結果を示す図
【図9】時刻t=t+1における位置の観測値のシミュレーション結果を示す図
【図10】時刻t=t+1における位置の最尤値の分布を示す図
【図11】時刻t=t+1における位置の最尤値と真の位置との誤差の分布を示す図
【図12】一般的な移動速度モデルに基づく、時刻t=t+1における位置の最尤値の分布を示す図
【図13】一般的な移動速度モデルに基づく、時刻t=t+1における位置の最尤値と真の位置との誤差の分布を示す図
【符号の説明】
【0058】
101 検出部
111 通信部
112 データベース部
113 位置推定部
114 位置表示部
201 情報分離部
202 運動パラメータ選択部
203 分布更新部
204 分布パラメータ保持部
205 最尤位置算出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択部と、
選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新部と、
算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出部と、
を具備する位置推定装置。
【請求項2】
前記運動パラメータ選択部は、前記移動物体の属性に基づいて、運動パラメータを選択する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記運動パラメータ選択部は、前記移動物体が移動する場所の属性に基づいて、運動パラメータを選択する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記運動パラメータ選択部は、前記移動物体の移動履歴に基づいて、運動パラメータを選択する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項5】
移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択工程と、
選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新工程と、
算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出工程と、
を具備する位置推定方法。
【請求項1】
移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択部と、
選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新部と、
算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出部と、
を具備する位置推定装置。
【請求項2】
前記運動パラメータ選択部は、前記移動物体の属性に基づいて、運動パラメータを選択する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記運動パラメータ選択部は、前記移動物体が移動する場所の属性に基づいて、運動パラメータを選択する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記運動パラメータ選択部は、前記移動物体の移動履歴に基づいて、運動パラメータを選択する請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項5】
移動物体の移動速度の平均と移動速度の分散とを含む運動パラメータを選択する運動パラメータ選択工程と、
選択された前記運動パラメータを用いて、前記移動物体の異なる時点における複数の観測データから前記移動物体の位置の確率分布を算出する分布更新工程と、
算出された前記移動物体の位置の確率分布から前記移動物体の位置として最も確率が高い位置を算出する最尤位置算出工程と、
を具備する位置推定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−139325(P2010−139325A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314779(P2008−314779)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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