説明

位置教示システム

【課題】対象物及び携帯端末の構成が簡易であるとともに、携帯端末の大型化が抑制された位置教示システムを提供する。
【解決手段】カーファインダシステム3は、電子キー1に設けられた複数のアンテナ14a,14b,14cから車両2側で各発信アンテナの信号が区別可能に発信された探索信号Sseを、車両2に設けられたアンテナが受信することで、車両2のアンテナから発信された探索信号Sseを電子キー1が同時受信したかのように取り扱うとともに、探索信号Sseから到来方向推定法によって電子キー1に対する車両2の位置を推定演算する位置推定部21bを備える。そして、カーファインダシステム3は、位置推定部21bが演算した位置情報を車両2から発信し、位置情報を電子キー1が受信して表示部19によって使用者に教示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯端末に対する対象物の位置又は方向をユーザに教示する位置教示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各地において郊外型の大型商業施設が建設され、多数の客が訪れるために広大な駐車場を備えているところが多い。このため、このような商業施設に車両で訪れた客の中には、買い物を終えて車両に戻る際に、駐車しておいた車両の位置を忘れてしまう人がいる。そこで、このような状況なっても簡単に車両を見つけ出せるようにするために、駐車車両の位置を教えるカーファインダシステムが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の位置教示システムでは、ユーザが所持する携帯端末として車両キーや携帯電話等が使用される。そして、カーファインダシステムを動作させる要求操作が携帯端末において行われると、その操作に対応した操作信号が携帯端末から車両に無線発信され、車両がこの操作信号を受信すると、車両と携帯端末との間の位置関係を割り出し、携帯端末に車両の駐車位置を表示させる。よって、ユーザは携帯端末の表示位置を見れば車両の駐車位置が確認可能となるので、広大な駐車場において自車両の位置が分からなくなっても、携帯端末によって自車両を簡単に発見することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載のカーファインダシステムでは、車両にアレーアンテナ、推定装置、及びコンパスを設けるとともに、携帯端末にコンパスを設けている。このカーファインダシステムは、携帯端末から発信された電波を車両のアレーアンテナによって受信することで推定装置が車両に対する携帯端末の相対位置を推定する。その上で、カーファインダシステムは、この相対位置情報を車両から携帯端末へ発信して携帯端末上で相対位置と携帯端末の絶対位置とを組み合わせることで携帯端末に対する車両の相対位置を推定する。このようなカーファインダシステム(位置教示システム)ではコンパスを車両及び携帯端末のそれぞれに設けなければならないため、他の構成も含めた全体構成が簡易である位置教示システムが望まれていた。
【0006】
また、コンパスを使用しないために、車両には通常のアンテナを設けるとともに、携帯端末にアレーアンテナと推定装置とを設けた位置教示システムも開発されている。このような位置教示システムでは、携帯端末において車両位置の推定演算を行うので、演算処理のためにハードウェアを大型化しなければならないので、大型化を抑制した携帯端末が望まれていた。
【0007】
また、位置教示システムの対象物は車両に限らず、ユーザが無くしたり、場所が分からなくなったりするものであれば同様に適応可能である。
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、対象物及び携帯端末の構成が簡易であるとともに、携帯端末の大型化が抑制された位置教示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、携帯端末から見た対象物の位置又は方向を到来方向推定法により推定して、当該位置又は方向を前記携帯端末でユーザに教示する位置教示システムにおいて、前記携帯端末に設けられた複数のアンテナから、前記到来方向推定法の演算に必要な各電波を分割送信させる端末側送信手段と、前記対象物において前記電波を、前記対象物から前記携帯端末が同時受信したかのように取り扱うとともに、当該電波から前記到来方向推定法によって該電波の位置又は方向を推定演算する演算手段と、前記演算手段の演算結果を前記対象物から前記携帯端末に送信する対象物側送信手段と、前記対象物側送信手段から送信された演算結果を基に、前記携帯端末において前記位置又は方向をユーザに教示する教示手段とを備えたことをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、対象物に設けられた演算手段が携帯端末の各アンテナから送信された電波を対象物で区別できるので、対象物から送信された電波を携帯端末に設けられたアレーアンテナが同時受信したときと同様に取り扱うことで到来方向推定法によって位置又は方向推定が可能である。このため、演算手段を携帯端末ではなく対象物に設けながら、コンパスを設けることなく、携帯端末に対する対象物の位置又は方向を算出して教示手段によって使用者に教示することが可能である。よって、対象物及び携帯端末の構成を簡易にすることが可能であるとともに、携帯端末の大型化を抑制することが可能である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の位置教示システムにおいて、前記携帯端末から前記対象物へ送信される電波は、前記各アンテナから時分割されて送信されることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、時分割によって対象物側で携帯端末の各アンテナの電波を区別可能に送信されるので、各アンテナから順番に電波を送信させる簡易な構成で実現可能である。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の位置教示システムにおいて、前記携帯端末から前記対象物へ送信される電波は、前記各アンテナから周波数分割されて送信されることをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、周波数分割によって対象物側で携帯端末の各アンテナの電波を区別可能に送信されるので、各アンテナから異なる周波数で電波を送信させることで実現可能である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の位置教示システムにおいて、前記対象物には受信用の複数のアンテナが設けられ、前記演算手段は前記対象物の複数のアンテナによって受信した電波を平均化処理することをその要旨としている。
【0014】
同構成によれば、対象物に複数のアンテナを備えることで携帯端末から送信された電波をそれぞれのアンテナで受信可能であって、受信した電波を平均化処理することで、波源相互相関値を低減することが可能である。よって、推定装置は、受信波にコヒーレント波が含まれていたとしても携帯端末に対する対象物の位置又は方向の推定が可能である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の位置教示システムにおいて、前記携帯端末には前記端末側送信手段の複数のアンテナを選択的に切り替えることで、各アンテナから電波を前記時分割で送信させる切替回路を備えることをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、切替回路によって携帯端末の複数のアンテナを選択的に切り替えるので、簡易な構成によって時分割で電波を送信可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象物及び携帯端末の構成が簡易であるとともに、携帯端末の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】カーファインダシステムの概略構成を示すブロック図。
【図2】探索信号のデータ構造を示すデータ概念図。
【図3】位置情報信号のデータ構造を示すデータ概念図。
【図4】車両位置を画面に表示した電子キーを示す図。
【図5】アレーアンテナと到来電波との位置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の位置教示システムを車両の電子キーシステムに適用した一実施形態について図1〜図5を参照して説明する。
図1に示されるように、車両2には、例えば運転者が実際に車両キーを操作しなくてもドアロックの施解錠やエンジンの始動及び停止等の車両動作を行うことが可能な電子キーシステムが搭載されている。電子キーシステムは、キー固有のIDコードを無線通信で発信可能な電子キー1が車両キーとして使用されている。電子キーシステムは、車両2からIDコード返信要求としてリクエスト信号Srqを発信させ、このリクエスト信号Srqを電子キー1が受信すると、それに応答する形で電子キー1が自身のIDコードを含ませたIDコード信号Sidを狭域無線通信により車両2に返信し、電子キー1のIDコードが車両2のIDコードと一致すると、ドアロックの施解錠が許可又は実行されるシステムである。なお、電子キー1が携帯端末に相当するとともに、車両2が対象物に相当する。
【0020】
電子キーシステムを以下に説明すると、車両2には、電子キー1との間で狭域無線通信(以下、スマート通信という)を行う際にID照合を行う照合ECU(Electronic Control Unit)21と、車両2の状態を管理するメインボディECU31と、エンジンの点火制御及び燃料噴射制御を行うエンジンECU32とが設けられている。これら照合ECU21、メインボディECU31、及びエンジンECU32は、車内LAN(Local Area Network)30を通じて接続されている。照合ECU21には、車両2の各ドアに埋設されて車外にLF(Low Frequency)帯の信号を発信可能な車外LF発信機22と、車内床下等に埋設されて車内にLF帯の無線信号を発信可能な車内LF発信機23と、車内後方の車体等に埋設されて低UHF(Ultra High Frequency)帯(約312MHz)の無線信号を受信可能な低UHF受信機24とが接続されている。照合ECU21は、固有のキーコードとしてIDコードが記憶されたメモリ21aを備えている。
【0021】
一方、電子キー1には、車両2との間で電子キーシステムに準じた無線通信を行う際のコントロールユニットとして通信制御部11が設けられている。通信制御部11は、固有のキーコードとしてIDコードが記憶されたメモリ11aを備えている。通信制御部11には、外部で発信されたLF帯の信号を受信可能なLF受信部12と、通信制御部11の指令に従い低UHF帯(約312MHz)の信号を発信可能な低UHF発信部13とが接続されている。
【0022】
照合ECU21は、車外LF発信機22又は車内LF発信機23から電子キー1へリクエスト信号SrqをLF帯の電波で送信し、いわゆるスマート通信の成立可否を試みる。照合ECU21は、リクエスト信号Srqに対する応答として電子キー1からIDコード信号Sidを受信すると、ID照合としてスマート照合を実行する。照合ECU21は、車外の電子キー1とスマート照合、即ち車外照合が成立することを確認すると、メインボディECU31を介してドアロック装置33によるドアロックの施解錠を許可又は実行する。また、照合ECU21は、車内の電子キー1とスマート照合、即ち車内照合が成立することを確認すると、エンジンスイッチ34による電源遷移操作及びエンジン始動操作を許可する。
【0023】
電子キーシステムには、ドアロック施解錠を電子キー1のボタン操作により行うワイヤレスキーシステムがある。このワイヤレスキーシステムは、電子キー1に設けられた施錠スイッチ16や解錠スイッチ17が操作されると、各操作スイッチに応じた信号内容を持つ施錠信号Slや解錠信号Sulが狭域無線通信(ワイヤレス通信)により低UHF発信部13から車両2に低UHF帯の信号で発信される。これら施錠信号Slと解錠信号Sulには、電子キー1のキーコードであるIDコードと、施錠又は解錠の機能コードとが含まれている。
【0024】
電子キー1で解錠スイッチ17が操作されると、電子キー1から解錠信号Sulが低UHF帯の信号で発信される。照合ECU21は、この解錠信号Sulを低UHF受信機24で受信すると、解錠信号Sulに含まれるIDコードが正しければ、メインボディECU31を介してドアロック装置33によるドアロックの解錠を許可又は実行する。また、電子キー1で施錠スイッチ16が操作されると、電子キー1から施錠信号Slが低UHF帯の信号で発信される。照合ECU21は、この施錠信号Slを低UHF受信機24で受信すると、施錠信号Slに含まれるIDコードが正しければ、メインボディECU31を介してドアロック装置33によるドアロックの施錠を許可又は実行する。
【0025】
車両2には、電子キー1を携帯する車両2のユーザに車両2の位置(駐車位置)を教示するシステムとしてカーファインダシステム3が設けられている。このカーファインダシステム3では、車両2にカーファインダシステム3のコントロールユニットとして照合ECU21が設けられている。この照合ECU21は、高UHF帯(数GHz)の信号を受信可能な高UHF受信機25と、高UHF帯(数GHz)の信号を発信可能な高UHF発信機26とが接続されている。高UHF受信機25には、複数のアンテナ25a,25b,25cが設けられている。
【0026】
一方、電子キー1には、カーファインダシステム3のカーファインダ機能を動作させるときに操作する探索スイッチ18が設けられている。探索スイッチ18は、通信制御部11に接続されている。通信制御部11は、高UHF帯(数GHz)の信号を発信可能な高UHF発信部14と、高UHF帯(数GHz)の信号を受信可能な高UHF受信部15とが接続されている。高UHF発信部14には、複数のアンテナ14a,14b,14cが設けられるとともに、これらのアンテナ14a,14b,14cから時分割で発信するようアンテナを切り替える切替部14dが設けられている。なお、高UHF発信部14が端末側送信手段として機能する。
【0027】
電子キー1には、車両2の位置をユーザに教示する教示手段としての表示部19が設けられている。表示部19は、通信制御部11によって表示が管理され、電子キー1から見た車両2の位置(方向や距離)を画面表示する。
【0028】
通信制御部11は、探索スイッチ18が操作されたことを検出すると、車両2に伝える通知として探索信号Sseを高UHF発信部14から高UHF帯の信号で発信させる。高UHF発信部14は、切替回路としての切替部14dによって各アンテナ14a,14b,14cから探索信号Sseを時分割で発信する。すなわち、切替部14dが各アンテナ14a,14b,14cを順番に切り替えることで、各アンテナ14a,14b,14cから発信された探索信号Sseを車両2が区別して受信することができる。なお、図2に示されるように、探索信号Sseには、電子キー1のIDコードと、カーファインダ機能の実行を要求するカーファインダ機能実行要求と、車両2が電子キー1に対する車両2の位置を推定するときに使用する位置推定信号とが含まれている。また、位置推定信号は、特に決められたデータ内容を持つものではなく、車両2が電子キー1に対する車両2の位置推定を行うときに使用するための電波である。カーファインダ機能で使用する車両2及び電子キー1の間の無線通信の通信エリアは、スマート通信やワイヤレス通信よりも広い例えば数十メートルの狭域通信となっている。
【0029】
車両2は、この探索信号Sseを高UHF受信機25で受信する。高UHF受信機25は、複数のアンテナ25a,25b,25cによって探索信号Sseを同時に受信する。照合ECU21は、高UHF受信機25でこの探索信号Sseを受信すると、まずこの探索信号Sseに含まれるIDコードに関してID照合を行い、このID照合が成立することを確認する。
【0030】
照合ECU21には、電子キー1に対する車両2の位置を推定する位置推定部21bが設けられている。照合ECU21は、ID照合成立を確認すると、カーファインダ機能実行要求を指令として、カーファインダ機能の実行を開始し、電子キー1から見た車両2の現在位置を求める動作に入る。このとき、位置推定部21bは、高UHF受信機25で受信する探索信号Sseにおいて位置推定信号の取り込み動作に入り、電子キー1から見た車両2の現在位置を割り出す車両位置算出を開始する。なお、位置推定部21bが演算手段として機能する。
【0031】
このキー位置算出として、位置推定部21bは、高UHF受信機25で受信した各アンテナ14a,14b,14cからの位置推定信号を基に、通常であれば探索信号Sseの電波到来方向、即ち車両2から見た電子キー1の方向(相対方向)を演算するところを、車両2から見た電子キー1の方向(相対方向)を演算する。位置推定部21bは、高UHF発信部14の各アンテナ14a,14b,14cをアレーアンテナと見たてて、高UHF受信機25から発信された探索信号Sseを各アンテナ14a,14b,14cが受信したとものと同様に受信電波の電波到来方向を演算する。位置推定部21bには、各アンテナ14a,14b,14cの配列が予め登録されている。そして、位置推定部21bは、各アンテナ14a,14b,14cから発信された電波を高UHF受信機25の各アンテナ25a,25b,25cが受信して、これらアンテナ25a,25b,25cが受信した電波を平均化処理し、受信電波の振幅と位相の差により、受信電波の電波到来方向を算出する。
【0032】
また、照合ECU21の位置推定部21bは、電子キー1に対する車両2の相対方向を算出すると、高UHF受信機25で受け付けた探索信号Sseを基に、電子キー1と車両2との距離も演算する。この距離演算は、受信電波を逆フーリエ変換することによって算出されている。
【0033】
照合ECU21は、車両2の相対方向と、電子キー1及び車両2の距離とを算出すると、これら相対方向及び距離を電子キー1に伝える通知として位置情報信号Sliを高UHF発信機26から車両2に向けて発信する。なお、図3に示されるように、位置情報信号Sliには、車両2に登録された電子キー1に対応したIDコードと、相対方向及び距離の位置情報とが含まれている。この位置情報信号Sliは、例えば約数GHzの高UHF帯の信号により、高UHF発信機26から電子キー1に向けて発信される。また、位置情報には、相対方向に関連する情報として相対方向情報と、距離に関連する情報として距離情報とが含まれている。なお、高UHF発信機26が対象物側送信手段として機能する。
【0034】
通信制御部11は、高UHF発信機26から発信された位置情報信号Sliを高UHF受信部15で受信すると、まずこの位置情報信号Sliに含まれるIDコードについてID照合を行う。通信制御部11は、このID照合が成立したことを認識すると、続いてこの位置情報信号Sli内に含まれる位置情報を読み取る。なお、本実施形態で算出された方向情報は、電子キー1から見た車両2の方向として算出されるので、車両2から見た電子キー1の相対方向を読み替える必要はない。
【0035】
通信制御部11は、電子キー1から見た車両2の相対方向を取得すると、この相対方向を表示部19に矢印で表示する。また、通信制御部11は、位置情報の読み取りの際、位置情報信号Sliの位置情報に含まれる距離情報を基に、車両2と電子キー1との距離も確認し、この距離も表示部19に数字で表示する。これにより、表示部19には、図4に示されるように、電子キー1から見た車両2の方向と、車両2と電子キー1との距離とが表示されることから、ユーザは車両2の位置を見失っても、表示部19の案内により車両2を簡単に見つけることが可能となる。
【0036】
次に、照合ECU21の位置推定部21bによる位置推定方法について図5を参照して説明する。本発明では、到来方向推定法としてMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法により位置推定を行い、前処理として空間平均法を行う。よって、MUSIC法、空間平均法の順番で説明する。なお、本発明では、高UHF発信部14の各アンテナ14a,14b,14cから発信された位置推定信号を高UHF受信機25の各アンテナ25a,25b,25cで受信するが、高UHF受信機25のアンテナから発信された電波を高UHF発信部14の仮想アレーアンテナが受信したときと同様に位置推定を行う。
【0037】
<リニアアレーにおけるMUSIC法>
図5に示されるように、アレーアンテナからの入力ベクトルXは、素子数がKで、1波の到来波(平面波)が到来する場合、次のように表される。
【0038】
【数1】

ただし、F(t),θ’はそれぞれ波源の複素振幅(波形)と到来方向で、Ψ(θ’)はi番目素子における波源の受信位相である。
【0039】
【数2】

ここで、λは波長、dは基準点から各素子位置までの距離である。
【0040】
このときの相関行列は次式で表される。
【0041】
【数3】

ここで、σは熱雑音電力である。また、Sは信号(波源)電力を表す。
【0042】
ここで、相関行列Rxxの固有値をλiと表すと、以下の関係式を得る。
【0043】
【数4】

ここで、熱雑音電力に等しい固有値に対応する固有ベクトルに着目すると、以下のように表される。
【0044】
【数5】

よって、次の式が導かれる。
【0045】
【数6】

これらは、熱雑音電力に等しい固有値に対応する固有ベクトルは到来波の方向ベクトルと直交することを意味している。
【0046】
ここで、固有ベクトルと方向ベクトルの関係を幾何学的に考えると、固有ベクトル{e,e,…e}は互いに直交するので、K次元のエルミート空間の正規直交基底ベクトルとして扱われる。このK次元空間は性質上以下の二つの部分空間に分けることができ、SとNとは互いに直交補空間の関係にある。
【0047】
【数7】

一方、式(10)より
【0048】
【数8】

も部分空間Nと直交する空間を張る。よって、部分空間SとS’は共にNと直交する補空間を作るので、
【0049】
【数9】

であると言える。すなわち、固有ベクトル{e}と方向ベクトル{a(θ’)}は同じ空間にあり互いに他方のベクトルの線形結合で表現できる。なお、部分空間SとNはそれぞれ信号部分空間、雑音部分空間と呼ばれている。
【0050】
上述のようにK−1個の固有ベクトルは各々が最小ノルム法のウエイトベクトルである。それ故、
【0051】
【数10】

というように、K−1個の最小ノルム法による角度スペクトラムの偽像をできるだけ排除し、共通の真の到来方向を指し示すスペクトラムのみを取り出すために、これらをそのまま平均するのではなく、
【0052】
【数11】

とし、あたかも抵抗素子の並列接続のように合成する。抵抗の並列接続と考えれば、ある一つの抵抗(最小ノルムスペクトラム関数の一つ)が偶然大きくなっても全体の合成抵抗はあまり影響を受けず、すべての抵抗が同時に大きくなったときに合成抵抗が大きくなる。
【0053】
式(17)を整理し、a(θ)a(θ)を掛けて正規化すると、以下のように表される。
【0054】
【数12】

これは通常、MUSICスペクトラムと呼ばれ、θに対するスペクトラムのピークを探すことにより{θ’}を求める。こうして到来方向θが求まる。
【0055】
さて、本実施例では、電子キー1の高UHF発信部14の複数のアンテナ14a,14b,14cから発信された探索信号Sseを車両2の高UHF受信機25が受信して、位置推定部21bが車両2から発信された信号を電子キー1のアレーアンテナが受信したときと同様に推定演算することで、電子キー1に対する車両2の位置を算出できる。このため、電子キー1と車両2とにコンパスを設ける必要がなく、車両2に位置推定装置を設けることで電子キー1に対する車両2の位置を算出できる。よって、簡易な構成によって位置推定ができるとともに、電子キー1が大型化することを抑制できる。
【0056】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)電子キー1から発信される信号は各アンテナで区別可能であって、車両2がこれらのアンテナから発信された探索信号Sseを受信するので、送受信のアンテナと信号との関係から、車両2から発信された信号を電子キー1のアレーアンテナが受信ときと見ることができる。このため、探索信号Sseは、電子キー1から車両2へ発信された信号でありながら、電子キー1に対する車両2の位置を算出することができる。よって、車両2及び電子キー1の構成を簡易にすることが可能であるとともに、電子キー1の大型化を抑制することができる。
【0057】
(2)電子キー1の高UHF発信部14の各アンテナ14a,14b,14cの信号を時分割によって車両2側で区別可能に発信されるので、各アンテナ14a,14b,14cから順番に信号を簡易な構成で発信させることができる。
【0058】
(3)車両2の高UHF受信機25に複数のアンテナ25a,25b,25cを備えることで電子キー1から発信された信号をそれぞれのアンテナ25a,25b,25cで受信して、受信した信号を平均化処理することで、波源相互相関値を低減することができる。よって、位置推定部21bは、受信波にコヒーレント波が含まれていたとしても電子キー1に対する車両2の位置推定ができる。
【0059】
(4)切替部14dによって高UHF発信部14の複数のアンテナ14a,14b,14cを選択的に切り替えるので、簡易な構成によって時分割で探索信号Sseを発信できる。
【0060】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態では、位置推定をMUSIC法により行ったが、MUSIC法に限らず、ESPRIT法等の他の位置推定方法により行ってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、初期位置推定を、周波数平均法を前処理としたMUSIC法により行ったが、ビームフォーマ法等の他の波源位置推定方法により行ってもよい。
・上記実施形態では、高UHF発信部14の切替部14dが各アンテナ14a,14b,14cを切り替えて時分割で探索信号Sseを発信したが、高UHF発信部14を各アンテナと一対となるように複数設けて、通信制御部11が発信タイミングを制御して時分割で探索信号Sseを発信してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、電子キー1から時分割で探索信号Sseを発信したが、周波数分割で探索信号Sseを発信してもよい。
・上記実施形態では、高UHF発信部14に複数のアンテナを設けたが、アンテナの数量は任意に設定可能である。
【0063】
・上記実施形態では、高UHF受信機25に複数のアンテナを設けたが、アンテナの数量は任意に設定可能である。
・上記実施形態では、高UHF発信部14に複数のアンテナを設けたが、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナとしてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、高UHF受信機25に複数のアンテナを設けたが、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナとしてもよい。
・上記構成において、電子キーシステムの低UHF発信部13と、カーファインダシステム3の高UHF発信部14とを別個としたが、1つに統合してもよい。
【0065】
・上記構成において、電子キーシステムの低UHF受信機24と、カーファインダシステム3の高UHF受信機25とを別個としたが、1つに統合してもよい。
・上記実施形態では、電子キーシステムとカーファインダシステム3との通信エリアは各々異なるようにしたが、これらが同じ領域としてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、カーファインダシステム3を電子キーシステムに属する一機能としたが、例えば電子キーシステムから独立したシステムとしてもよい。また、カーファインダシステムのみを備えるようにしてもよい。
【0067】
・上記実施形態では、位置推定を位置推定信号で行うようにしたが、IDコードや機能コードの電波で行ってもよい。
・上記構成において、携帯端末は、電子キー1(要はキー部品)であることに限定されず、例えば携帯電話や携帯型パーソナルコンピュータを用いてもよい。
【0068】
・上記実施形態では、車両位置の教示形式を単なる矢印としたが、例えば地図画面により車両位置を表すものでもよい。
・上記実施形態において、表示部19における車両位置の表示(矢印及び距離表示)は、例えば一定時間において表示が行われた後に自動で消去されるものでもよいし、或いは例えば探索スイッチ18が押されるなどの所定操作が行われると消去されるものでもよい。
【0069】
・上記実施形態では、方向及び距離の両方を表示するようにしたが、一方のみが表示されるようにしてもよい。また、教示は、必ずしも画面表示をとることに限定されず、例えば音声報知を採用してもよい。
【0070】
・カーファインダシステム3は、必ずしも車両2に適用されることに限らず、使用時において照合を必要とする各種機器や装置に適用可能である。
・上記実施形態において、電子キーシステムで使用する各通信の周波数はどの周波数の電波を使用してもよい。
【0071】
・上記実施形態において、波源は電波を発信する装置であったが、これに限らず、例えばスピーカーのような音波を発信する装置であっても良い。
・上記実施形態において、受信素子は電波を受信する装置であったが、これに限らず、例えばマイクロホンのような音波を受信する装置であっても良い。
【0072】
・上記実施形態では、電波に適用したが、音波に適用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…電子キー、2…車両、3…カーファインダシステム、11…通信制御部、11a…メモリ、11b…位置推定信号発信制御部、12…LF受信部、13…低UHF発信部、14…高UHF発信部、14a,14b,14c…アンテナ、15…高UHF受信部、16…施錠スイッチ、17…解錠スイッチ、18…探索スイッチ、19…表示部、21…照合ECU、21a…メモリ、21b…位置推定部、21c…位置推定結果発信部、22…車外LF発信機、23…車内LF発信機、24…低UHF受信機、25…高UHF受信機、25a,25b,25c…アンテナ、26…高UHF発信機、30…車内LAN、31…メインボディECU、32…エンジンECU、33…ドアロック装置、34…エンジンスイッチ、Sli…位置情報信号、Sse…探索信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯端末から見た対象物の位置又は方向を到来方向推定法により推定して、当該位置又は方向を前記携帯端末でユーザに教示する位置教示システムにおいて、
前記携帯端末に設けられた複数のアンテナから、前記到来方向推定法の演算に必要な各電波を分割送信させる端末側送信手段と、
前記対象物において前記電波を、前記対象物から前記携帯端末が同時受信したかのように取り扱うとともに、当該電波から前記到来方向推定法によって該電波の位置又は方向を推定演算する演算手段と、
前記演算手段の演算結果を前記対象物から前記携帯端末に送信する対象物側送信手段と、
前記対象物側送信手段から送信された演算結果を基に、前記携帯端末において前記位置又は方向をユーザに教示する教示手段とを備えた
ことを特徴とする位置教示システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置教示システムにおいて、
前記携帯端末から前記対象物へ送信される電波は、前記各アンテナから時分割されて送信される
ことを特徴とする位置教示システム。
【請求項3】
請求項1に記載の位置教示システムにおいて、
前記携帯端末から前記対象物へ送信される電波は、前記各アンテナから周波数分割されて送信される
ことを特徴とする位置教示システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の位置教示システムにおいて、
前記対象物には受信用の複数のアンテナが設けられ、
前記演算手段は前記対象物の複数のアンテナによって受信した電波を平均化処理する
ことを特徴とする位置教示システム。
【請求項5】
請求項2に記載の位置教示システムにおいて、
前記携帯端末には前記端末側送信手段の複数のアンテナを選択的に切り替えることで、各アンテナから電波を前記時分割で送信させる切替回路を備える
ことを特徴とする位置教示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−68100(P2012−68100A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212446(P2010−212446)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】