位置算出方法及び位置算出システム
【課題】ドップラー周波数の変動を考慮して、相関処理を適切に行うことを可能にすること。
【解決手段】INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度と、速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度とが統合されて位置算出システム1の速度が算出される。また、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度誤差とを用いてドップラー誤差が決定される。そして、GPA15により決定された速度を用いてドップラー周波数が決定されるとともに、決定されたドップラー誤差を用いて相関積算時間が決定される。そして、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された位置が統合されて、位置算出システム1の位置が算出される。
【解決手段】INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度と、速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度とが統合されて位置算出システム1の速度が算出される。また、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度誤差とを用いてドップラー誤差が決定される。そして、GPA15により決定された速度を用いてドップラー周波数が決定されるとともに、決定されたドップラー誤差を用いて相関積算時間が決定される。そして、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された位置が統合されて、位置算出システム1の位置が算出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置算出方法及び位置算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された位置算出装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から位置算出装置までの擬似距離等の情報に基づいて位置算出装置の位置座標と時計誤差とを求める位置算出計算を行う。
【0003】
GPS衛星から送出されるGPS衛星信号は、CA(Coarse and Acquisition)コードと呼ばれるGPS衛星毎に異なる拡散符号で変調されている。位置算出装置は、受信信号と、CAコードのレプリカであるレプリカCAコードとの相関演算を行い、その相関値に基づいてGPS衛星信号を捕捉する。この場合、微弱な受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉する場合に、相関値のピークの検出を容易にするため、相関演算で取得された相関値を所定の積算時間に亘って積算する手法が用いられる。
【0004】
しかし、GPS衛星信号を拡散変調するCAコード自体が航法メッセージによって20ミリ秒毎にBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調されているため、20ミリ秒毎にCAコードの極性が反転し得る。従って、この反転タイミングを跨いで相関値を積算する場合には、符号の異なる相関値を積算する可能性がある。この問題を解決するための技術として、例えば特許文献1に開示されているように、外部から取得した極性反転タイミングの情報に基づいて相関値を積算する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、相関積算時間を20ミリ秒よりも長くすることができる。しかし、相関積算時間を長くすることによって別の問題が生じる。ドップラーがその1つである。例えば、位置算出装置の移動速度が変化するとドップラー周波数が変動する。その結果、長時間の相関積算の間に、サーチ周波数が徐々に変動していき、当初の周波数サーチ範囲から外れてしまう場合がある。例えば、1[G]の加速度で位置算出装置が移動している場合、ドップラー周波数の変動量は50[Hz/s]になる。すなわち、移動速度が変動すると、実際のサーチ周波数が、本来想定していたサーチ周波数から乖離していくことになる。
【0007】
理論上は、ドップラー周波数が変動しなければ、相関値を積算すればするほど、ある特定の周波数の相関積算値が大きくなっていき、その相関積算値のピークでもって特定周波数(=受信周波数)を容易に判別できるようになるはずである。しかし、現実にはドップラー周波数が変動することによって、実際のサーチ周波数と本来想定していた周波数との間にズレが生じ、その特定周波数自体も変動してしまう。その結果、一定時間以上の相関積算をすると、逆に相関積算値のピークが判別しにくくなる事態が生じる。
このことは、相関積算時間を長くしても、衛星信号を捕捉できないことに繋がる。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ドップラー周波数の変動を考慮して、相関処理を適切に行うことを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットとを用いて位置を算出する位置算出方法であって、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出することと、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出することと、前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定することと、前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定することと、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0010】
また、他の形態として、衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットと、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出する判定速度算出部と、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出する誤差算出部と、前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定するドップラー周波数決定部と、前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定する相関積算時間決定部と、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出する位置算出部と、を備えた位置算出システムを構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、衛星信号を利用して位置及び速度を算出する位置算出ユニットによる算出結果と、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットによる検出結果とを用いて判定速度を算出する。また、位置算出ユニットによる算出誤差とセンサーユニットによる検出誤差とを用いて、判定速度の誤差を算出する。そして、位置算出ユニットがサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、判定速度を用いて決定するとともに、位置算出ユニットが相関処理を行う際の相関積算時間を、判定速度の誤差を用いて決定する。そして、位置算出ユニットによる算出結果とセンサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出する。
【0012】
位置算出ユニットの移動に起因するドップラー周波数は、センサーユニットにより検出されている速度を用いて予想することができる。しかし、想定されるドップラー周波数は、位置算出ユニットの移動状態等に応じて変動し得る。この場合のドップラー周波数の誤差(=ドップラー周波数の変動量)は、速度の誤差に基づいて近似可能である。そのため、位置算出ユニットによる算出結果とセンサーユニットによる検出結果とを用いて算出した判定速度に含まれ得る誤差(判定速度の誤差)を用いることで、ドップラー周波数の変動を考慮した適切な相関積算時間を決定することができる。
【0013】
また、第2の形態として、第1の形態の位置算出方法であって、前記判定速度の誤差を算出することは、前記衛星信号を発信する測位用衛星への視線方向に対する前記判定速度の誤差を算出することを含む、位置算出方法を構成してもよい。
【0014】
この第2の形態によれば、衛星信号を発信する測位用衛星への視線方向に対する判定速度の誤差を算出する。測位用衛星への視線方向に対する判定誤差を算出することで、ドップラー周波数の誤差を適切に求めることができる。
【0015】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の位置算出方法であって、前記判定速度の誤差を算出することは、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを加重平均することを含む、位置算出方法を構成してもよい。
【0016】
この場合において、第4の形態として、第3の形態の位置算出方法における前記加重平均することが、移動状態に応じて前記加重平均の重みを変更することを含むように位置算出方法を構成することも可能である。
【0017】
この第4の形態によれば、移動状態に応じて、位置算出ユニットによる算出誤差とセンサーユニットによる検出誤差との何れを重視・信頼して加重平均するかを決定することで、判定速度の誤差をより正確に求めることができる。
【0018】
また、第5の形態として、第3又は第4の形態の位置算出方法における前記加重平均することが、前記位置算出ユニットが位置算出可能な状態か否か、及び、前記センサーユニットが検出可能な状態か否か、に応じて前記加重平均の重みを変更することを含むように位置算出方法を構成することも可能である。
【0019】
この第5の形態によれば、位置算出ユニットが位置算出可能な状態か否か、及び、センサーユニットが検出可能な状態か否か、に応じて加重平均の重みを変更することで、衛星信号の受信環境やセンサーユニットの検出状態等に応じた適切な判定速度の誤差の算出を実現し得る。例えば、トンネル内等においては一時的に衛星信号を受信できない場合もあり、そのような状態に適切に対応し得る。
【0020】
さらに、第6の形態として、第3〜第5の何れかの形態の位置算出方法における前記加重平均することが、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差との相対値に応じて前記加重平均の重みを変更することを含むように位置算出方法を構成することも可能である。
【0021】
この第6の形態によれば、位置算出ユニットによる算出誤差とセンサーユニットによる検出誤差との相対値に応じて加重平均の重みを変更することで、求められる判定速度の誤差の正確性が一層向上する。
【0022】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の位置算出方法であって、前記位置算出ユニットは、前記相関積算時間が経過する毎に相関積算値を合算していくことで前記相関処理を行い、且つ前記相関処理を行って位置を算出する処理を所定の時間間隔で行うユニットであり、前記所定の時間間隔と前記相関積算時間とに基づいて、1回の前記相関処理における前記相関積算値の合算の終了タイミングを調整することと、を更に含む位置算出方法を構成してもよい。
【0023】
この第7の形態によれば、位置算出ユニットは、相関積算時間が経過する毎に相関積算値を合算していくことで相関処理を行う。そして、相関処理を行って位置を算出する処理を所定の時間間隔で行い、所定の時間間隔と相関積算時間とに基づいて、1回の相関処理における相関積算値の合算の終了タイミングを調整する。
【0024】
相関積算時間は判定速度の誤差を用いて決定されるため、常に一定であるとは限らない。しかし、第7の形態によれば、相関積算時間がばらばらであっても、各相関積算時間が経過する毎に相関積算値が適切に合算されるように、1回の相関処理における相関積算値の合算の終了タイミングが調整される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】位置算出システムの機能構成の一例を示すブロック図。
【図2】GPSユニットの機能構成の一例を示すブロック図。
【図3】速度/速度誤差データのデータ構成の一例を示す図。
【図4】出力タイプ判定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図5】加重平均重みパターンデータのデータ構成の一例を示す図。
【図6】ドップラー誤差決定処理の流れを示すフローチャート。
【図7】速度誤差算出処理の流れを示すフローチャート。
【図8】速度誤差算出の原理の説明図。
【図9】位置/速度算出処理の流れを示すフローチャート。
【図10】衛星信号捕捉処理の流れを示すフローチャート。
【図11】相関積算処理の流れを示すフローチャート。
【図12】相関積算時間決定の原理の説明図。
【図13】位置/速度統合処理の流れを示すフローチャート。
【図14】変形例における位置算出システムの機能構成の一例を示すブロック図。
【図15】変形例における加重平均重みパターンデータの一例を示す図。
【図16】変形例における相関積算時間決定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。尚、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0027】
1.システム構成
図1は、本実施形態における位置算出システム1(位置算出装置)の機能構成を示すブロック図である。位置算出システム1は、位置算出装置の一種であり、本実施形態においては、自動車やバスといった移動体に搭載されるナビゲーション装置を想定することとして説明する。但し、スマートフォンを含む携帯型電話機やノート型パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)といった他の電子機器に適用することも可能である。
【0028】
位置算出システム1は、移動体に対する相対位置を固定して設置され、方位センサーユニット80により、移動体の進行方向を位置算出システム1の進行方向として検出可能に構成されている。
【0029】
位置算出システム1は、処理部10と、入力部20と、表示部30と、通信部40と、INS(Inertial Navigation System)ユニット50と、GPS(Global Positioning System)ユニット60と、速度センサーユニット70と、方位センサーユニット80とを備えて構成されるコンピューターシステムである。
【0030】
処理部10と、入力部20と、表示部30と、通信部40とは、第1データバス45を介して接続されている。また、処理部10と、INSユニット50と、GPSユニット60と、速度センサーユニット70と、方位センサーユニット80とは、第2データバス90を介して接続されている。
【0031】
処理部10は、位置算出システム1を統括的に制御する制御装置であり、その機能部として、ドップラー誤差決定部11と、位置/速度統合処理部(以下、「GPA(Generic Position Algorithm)」と称す。)15とを備えて構成されている。
【0032】
ドップラー誤差決定部11は、位置算出システム1の移動により生ずるドップラー周波数の想定される変動量(以下、「ドップラー誤差」と称す。)を決定する処理回路ブロックである。位置算出システム1の移動によりドップラーが発生するが、その場合のドップラー周波数は、位置算出システム1の移動状態等によって変動する。ドップラー誤差決定部11は、このドップラー周波数の変動量を、各ユニットからのユニット情報を用いてドップラー誤差として算出する。
【0033】
ドップラー誤差決定部11は、デジタルシグナルプロセッサー(DSP(Digital Signal Processor))等のプロセッサーとメモリとを備え、後述するドップラー誤差決定処理をデジタル信号処理として実行する。ドップラー誤差決定部11は、各種のデータを格納するメモリとしての記憶部12を備えている。
【0034】
記憶部12は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、処理部10が位置算出システム1を制御するためのシステムプログラムや、ドップラー誤差決定部11がドップラー誤差を決定するためのプログラムやデータ等を記憶している。また、ドップラー誤差決定部11により実行される各種プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0035】
記憶部12には、例えば、各ユニットから出力されたユニット情報のデータであるユニットデータ121と、ユニット情報を用いて算出される位置算出システム1の速度及び速度誤差のデータである速度/速度誤差データ123と、各ユニットのユニット情報の出力タイプを判定するための出力タイプ判定用テーブル125と、各ユニットのユニット情報を加重平均する際の重みのパターンが定められた加重平均重みパターンデータ127とが記憶される。
【0036】
図3は、速度/速度誤差データ123のデータ構成の一例を示す図である。速度/速度誤差データ123には、各ユニットのユニット情報を用いて算出される速度/速度誤差1233が、時刻1231と対応付けて時系列に記憶されている。ドップラー誤差決定部11は、ユニットデータ121に記憶されているユニット情報に基づいて、位置算出システム1の地球基準直交座標系における速度及び速度誤差を算出して、速度/速度誤差データ123に記憶させる。INSユニット50、GPSユニット60、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80の各ユニットが出力する情報を「ユニット情報」と呼ぶ。
【0037】
本実施形態において、GPSユニット60は、ECEF(Earth Centered Earth Fixed)座標系における位置,速度及びこれらの誤差を算出する。一方、INSユニット50はENU(East North Up)座標系における位置,速度及びこれらの誤差を算出する。また、速度センサーユニット70は、位置算出システム1の進行方向に対する速度及びその誤差を検出し、方位センサーユニット80は、位置算出システム1の進行方向を示す方位及びその誤差を検出する。ドップラー誤差決定部11は、第2データバス90を介して各ユニットから取得したユニット情報に基づいて、ECEF座標系における位置算出システム1の速度及び速度誤差を算出する処理を行う。
【0038】
ECEF座標系は、地球中心地球固定座標系として知られ、地球の中心(地球重心)を原点とし、地球自転軸をZ軸、グリニジ子午面と赤道面とが交わる軸をX軸、これらの2軸と直交する軸をY軸とする3軸直交座標系である。また、ENU座標系は、東北上座標系として知られ、地表面付近のある点を原点として、天頂方向(地表面に対する垂直線の上方向)をU軸、東方向をE軸、北方向をN軸とする3軸直交座標系である。
ENU座標系とECEF座標系との座標変換自体は、行列演算等によって変換することが可能である。
【0039】
図4は、出力タイプ判定用テーブル125のテーブル構成の一例を示す図である。出力タイプ判定用テーブル125には、各ユニットのユニット情報の出力状態1251と、各出力状態1251に一対一に対応付けられた出力タイプ1253とが記憶されている。
【0040】
出力状態1251は、各ユニットからユニット情報が出力されているか否かを示す情報であり、ユニット情報が出力されている状態にあるユニットには「○」、ユニット情報が出力されていないユニットには「×」が記憶される。尚、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80については、両方のセンサーユニットからの検出結果を用いて速度誤差を算出するため、纏めて「速度/方位」と図示しており、両方のセンサーユニットからユニット情報が出力されている場合にのみ「○」が記憶される。従って、出力状態1251は、各ユニットの現在の状態が、ユニット情報を算出又は検出可能な状態か否かを示す情報と言える。
【0041】
例えば、INSユニット50、GPSユニット60及び速度/方位センサーユニット70,80の全てのユニットがユニット情報を出力している状態は「タイプA」となる。例えば、天空が開けた場所に位置算出システム1が位置し、各ユニットともに問題なく作動している場合には、タイプAが選択されることとなる。
【0042】
INSユニット50及びGPSユニット60は出力している状態にあるが、速度/方位センサーユニット70,80が出力していない状態の場合は「タイプB」となる。例えば、GPS衛星からの衛星信号を受信できる受信環境にあるが、速度/方位センサーユニット70,80が何らかの原因で故障している場合等が、このタイプBに該当する。
【0043】
INSユニット50及び速度/方位センサーユニット70,80は出力している状態にあるがGPSユニット60が出力していない状態の場合は「タイプC」となる。例えば、トンネル内や建物内といった、GPS衛星からのGPS衛星信号を受信できず、GPSユニット60のみがユニット情報を出力していない(出力できない)状態にある場合がこのタイプCである。
【0044】
ドップラー誤差決定部11は、各ユニットからのユニット情報の出力状況に基づいて、出力状態1251を識別する。そして、出力タイプ判定用テーブル125を参照し、識別した出力状態1251に対応付けられた出力タイプ1253を判定する。
【0045】
図5は、加重平均重みパターンデータ127のデータ構成の一例を示す図である。加重平均重みパターンデータ127には、出力タイプ1271と、移動状態1273と、加重平均重みパターン1275とが対応付けて記憶されている。
【0046】
出力タイプ1271は、図4の出力タイプ判定用テーブル125の出力タイプ1253に対応している。移動状態1273は、位置算出システム1の現在の移動状態であり、例えば停止状態にあることを示す「停止」、等速移動状態にあることを示す「等速」、加速状態又は減速状態にあることを示す「加速/減速」などの複数の移動状態が記憶されている。
【0047】
加重平均重みパターン1275は、INSユニット50の速度誤差と、GPSユニット60の速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80の速度誤差とを加重平均計算する際の各速度誤差の重みのパターンである。すなわち、INSユニット50の速度誤差に対する重み「α」と、GPSユニット60の速度誤差に対する重み「β」と、速度/方位センサーユニット70,80の速度誤差に対する重み「γ」との値の組合せが、加重平均重みパターンとして定められている。但し、「α+β+γ=1」である。
【0048】
移動状態が「停止」である場合は、速度/方位センサー70,80のユニット情報を信頼することとし、速度/方位センサー70,80の速度誤差に対する重み「γ」が大きくなるように定められている。停止状態では、速度/方位センサー70,80の検出精度は高いが、INSユニット50やGPSユニット60の算出精度は低下すると考えられるためである。
【0049】
移動状態が「等速」である場合は、GPSユニット60のユニット情報を信頼することとし、GPSユニット60の速度誤差に対する重み「β」が大きくなるように定められている。等速状態では、GPSユニット60の算出精度が特に向上すると考えられるためである。
【0050】
また、移動状態が「加速/減速」である場合は、INSユニット50のユニット情報を信頼することとし、INSユニット50の速度誤差に対する重み「α」が大きくなるように定められている。加減速状態では、INSユニット50の算出精度は向上するが、GPSユニット60は追従性が悪くなり、算出精度が低下すると考えられるためである。
尚、これらの重みの定め方はあくまでも一例であり、適宜設定変更可能である。
【0051】
ドップラー誤差決定部11は、各ユニットの現在の出力状態1251を判定するとともに、ユニットデータ121に記憶されているユニット情報の履歴に基づいて、位置算出システム1の現在の移動状態1273を判定する。そして、判定した現在の各ユニットの出力状態1251に対応する出力タイプ1253(1271)を、出力タイプ判定用テーブル125に基づいて決定する。そして、出力タイプ1271及び移動状態1273に対応する加重平均重みパターン1275を、加重平均重みパターンデータ127に基づいて決定する。そして、速度誤差算出処理で算出した各ユニットの速度誤差を、読み出した加重平均重みパターン1275を用いて加重平均することで、平均速度誤差を算出する。平均速度誤差は、位置算出システム1の判定速度の誤差に相当する値である。
【0052】
また、ドップラー誤差決定部11は、第2データバス90を介してGPSユニット60からGPS衛星の衛星位置、衛星速度等の情報(以下、「衛星情報」と称す。)を取得するとともに、GPA15により求められた位置算出システム1の最終的な統合情報(以下、「統合端末情報」と称す。)を取得する。そして、取得した衛星情報と統合端末情報とを用いて、位置算出システム1からGPS衛星への視線方向を求め、求めた視線方向に対する平均速度誤差をドップラー誤差として算出する。
【0053】
GPA15は、各種のセンサーユニットから出力された位置及び速度を、例えばカルマンフィルターを利用して統合演算することで、最終的な位置算出システム1の位置及び速度である統合位置及び統合速度を算出する処理部である。この統合位置及び統合速度が統合端末情報である。このGPA15の機能は、例えばCPUやDSP等のプロセッサーにより実現される。GPA15は、得られた統合端末情報を表示部30に表示させるとともに、ドップラー誤差決定部11に出力する。統合速度は、位置算出システム1の判定速度に相当する値である。
【0054】
入力部20は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーにより押下されたキーやボタンの信号を処理部10に出力する。この入力部20からの操作入力により、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0055】
表示部30は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部10から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部30には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0056】
通信部40は、処理部10の制御に従って、位置算出システム1が外部装置との間で通信を行うための通信装置である。この機能は、例えば、有線通信用のモジュールや、IEEE802.11による無線LANやスペクトラム拡散方式による無線通信モジュール等により実現される。また、位置算出システム1を携帯型電話機に適用するケースでは、通信部40は携帯電話用の通信装置でもよい。
【0057】
INSユニット50は、センサーユニットの一種であり、IMU(Inertial Measurement Unit)51により計測された加速度及び角速度に基づいて公知の慣性航法演算処理を行って、INSユニット50の位置及び速度を算出・検出する慣性航法システム(位置算出システム)である。また、IMU51により計測された加速度誤差及び角速度誤差に基づいて、算出した位置及び速度に含まれ得る誤差を算出する。本実施形態では、INSユニット50は、ENU座標系における位置及び速度とともに、それらの誤差である位置誤差及び速度誤差を随時算出する。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0058】
IMU51は、例えば、加速度センサーやジャイロセンサーを備え、ENU座標系の直交3軸それぞれの軸方向の加速度及び各軸の軸回りの角速度を検出可能に構成される。加速度センサー及びジャイロセンサーは、それぞれ加速度及び角速度を計測するセンサーである。また、IMU51は、計測した加速度及び角速度に含まれ得る誤差を随時算出等して出力するよう構成されている。例えば、計測開始からの経過時間と、計測値に含まれ得る誤差とが対応付けて記憶されており、計測開始からの経過時間に応じた誤差が出力される構成や、計測環境の温度と、計測値に含まれ得る誤差とが対応付けて記憶されており、現在の環境温度に応じた誤差が出力される構成等が考えられる。尚、加速度センサー及びジャイロセンサーは、それぞれが独立したセンサーであってもよいし、一体型のセンサーであってもよい。また、加速度センサーの検出結果に基づいて速度を検出・出力することとしてもよい。
【0059】
GPSユニット60は、位置算出ユニットの一種であり、測位用衛星の一種であるGPS衛星から発信されているGPS衛星信号を利用した公知の位置算出計算及び速度算出計算を行う。本実施形態では、GPSユニット60は、ECEF座標系における位置及び速度と、それらの算出結果に含まれ得る誤差である位置誤差及び速度誤差とを算出する。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0060】
速度センサーユニット70は、センサーユニットの一種であり、位置算出システム1の移動速度を検出するセンサーを備えた速度検出ユニットであり、例えばドップラー効果を利用したものや空間フィルターを利用したものなど、何れの方式のものであってもよい。例えば、位置算出システム1が自動車に適用される場合は、自動車に搭載される車速計を速度センサーユニット70としてもよい。
【0061】
本実施形態では、速度センサーユニット70は、位置算出システム1(移動体)の進行方向に対する移動速度及び移動速度に含まれ得る速度誤差を出力する。速度誤差は、例えば計測開始からの経過時間に応じて定められていたり、計測環境温度と対応付けて定められ、経過時間や環境温度に応じて出力される構成が考えられる。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0062】
方位センサーユニット80は、センサーユニットの一種であり、例えば磁場の強さによって抵抗値やインピーダンス値が増減する素子等で構成される2軸の地磁気センサーを備えた方位検出ユニットである。
【0063】
本実施形態では、方位センサーユニット80は、位置算出システム1(移動体)の進行方向を方位として検出するとともに、検出方位に含まれ得る方位誤差を出力する。方位誤差は、速度センサーユニット70と同様、例えば計測開始からの経過時間に応じて定められていたり、計測環境温度と対応付けて定められ、経過時間や環境温度に応じて出力される構成が考えられる。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0064】
2.GPSユニットの構成
図2は、GPSユニット60の機能構成の一例を示すブロック図である。GPSユニット60は、GPSアンテナ61と、RF(Radio Frequency)受信回路部63と、ベースバンド処理回路部65とを備えて構成される。
【0065】
GPSアンテナ61は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF信号を受信するアンテナであり、受信信号をRF受信回路部63に出力する。
【0066】
RF受信回路部63は、RF信号の処理回路ブロックであり、受信したRF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部65に出力する。
【0067】
RF受信回路部63とベースバンド処理回路部65とで、GPS受信部が構成される。尚、RF受信回路部63と、ベースバンド処理回路部65とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0068】
ベースバンド処理回路部65は、RF受信回路部63から出力されたIF信号に対して相関演算処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出す回路部である。ベースバンド処理回路部65は、衛星信号捕捉部651と、位置/速度算出部653と、記憶部655とを備えて構成される。
【0069】
衛星信号捕捉部651は、RF受信回路部63から出力されたIF信号である受信信号からGPS衛星信号を捕捉する回路部であり、相関器6511と、レプリカ信号発生部6513とを備えて構成される。
【0070】
相関器6511は、RF受信回路部63から入力したIF信号に変換された受信信号と、レプリカ信号発生部6513から入力したレプリカ信号との相関演算を行う相関器(コリレーター)である。相関器6511は、相関演算を行うことで求められた相関値を位置/速度算出部653に出力する。
【0071】
レプリカ信号発生部6513は、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードのレプリカ信号を生成する回路部である。レプリカ信号発生部6513は、相関積算時間決定部6533から出力される相関積算時間に従って、レプリカ信号の位相を変更して生成し、相関器6511に出力する。
【0072】
位置/速度算出部653は、衛星信号捕捉部651により捕捉されたGPS衛星信号を利用して、公知の位置/速度算出計算を行ってGPSユニット60の位置及び速度を算出する回路部であり、処理回路ブロックとして、相関積算処理部6531と相関積算時間決定部6533とを備えて構成される。
【0073】
相関積算処理部6531は、衛星信号捕捉部651の相関器6511から出力される相関値を、相関積算時間決定部6533により決定された相関積算時間に従って積算する相関積算処理を行う処理部である。この処理部は、CPUやDSP等のプロセッサーによって実現される。
【0074】
相関積算時間決定部6533は、相関積算処理部6531が相関積算処理を行う際の相関積算時間を決定する処理部である。相関積算時間決定部6533も、CPUやDSP等のプロセッサーによって実現される。
【0075】
相関積算時間決定部6533は、ドップラー誤差決定部11により決定されたドップラー誤差を、第2データバス90を介して処理部10から取得する。そして、取得したドップラー誤差を用いて相関積算時間を算出・決定し、相関積算処理部6531に出力する。
【0076】
記憶部655は、ROMやフラッシュROM、RAM等の記憶装置によって構成され、ベースバンド処理回路部65のシステムプログラムや、相関積算処理機能、位置/速度算出機能等を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0077】
記憶部655には、例えば、ビット反転パターンデータ6551と、衛星軌道データ6553と、ドップラー誤差6555とが記憶される。
【0078】
ビット反転パターンデータ6551は、受信信号のCAコードのビット反転のパターンが記憶されたデータである。ビット反転パターンデータ6551は、例えば位置算出システム1のアシストサーバーからアシストデータとして取得することができる。位置算出システム1を携帯型電話機に適用した場合は、携帯型電話機の基地局からアシストデータとして取得することもできる。
【0079】
ビット反転パターンデータ6551を用いることで、相関積算時間を長くして相関積算処理を行うことが可能となる。GPS衛星信号を変調するCAコードは、航法メッセージによって20ミリ秒毎にBPSK変調されている。そのため、相関積算時間が20ミリ秒を超える場合は、航法メッセージの極性反転に起因してCAコードの値が反転し、相関値の符号が変化することで、相関積算処理において相関値が相殺される問題がある。しかし、受信信号のビット反転パターンが既知であれば、相関値の符号を揃えて(調整して)積算することが可能となり、相関値が相殺することを防止することができる。
【0080】
衛星軌道データ6553は、全てのGPS衛星の概略の衛星軌道情報を記憶したアルマナックや、各GPS衛星それぞれについて詳細な衛星軌道情報を記憶したエフェメリス等のデータである。衛星軌道データ6553は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号をデコードすることで取得したり、携帯型電話機の基地局やアシストサーバーから取得することができる。
【0081】
ドップラー誤差6555は、第2データバス90を介してドップラー誤差決定部11から取得されるドップラー誤差である。
【0082】
3.処理の流れ
3−1.ドップラー誤差決定部11の処理
図6は、処理部10のドップラー誤差決定部11が実行するドップラー誤差決定処理の流れを示すフローチャートである。
【0083】
先ず、ドップラー誤差決定部11は、ユニット情報を出力しているユニットを判定する(ステップA1)。そして、記憶部12の出力タイプ判定用テーブル125を参照して、各ユニットからの出力状態1251に対応付けられた出力タイプ1253を判定する(ステップA3)。
【0084】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、記憶部12のユニットデータ121に記憶されている各ユニット情報の履歴に基づいて、位置算出システム1の移動状態1273を判定する(ステップA5)。例えば、各ユニット情報の速度が停止相当速度(“0”又はこれに近い値)となっている場合は「停止」、等速速度条件(速度の時間変化が小さい状態が所定時間以上続く)を満たす場合は「等速」、加減速条件(速度の時間変化が急激である場合)を満たす場合は「加速/減速」と判断することができる。
【0085】
尚、各ユニット情報の履歴による判断が、互いに異なる判断結果となる場合は、前述した加重平均重みパターン1275と同様に、「停止」判断は、速度/方位センサー70,80のユニット情報を、「等速」判断は、GPSユニット60のユニット情報を、「加速/減速」判断は、INSユニット50のユニット情報を重視して行なうことも可能である。
【0086】
そして、ドップラー誤差決定部11は、記憶部12の加重平均重みパターンデータ127を参照し、ステップA3で選択した出力タイプ1271と、ステップA5で判定した移動状態1273とが対応付けられた加重平均重みパターン1275を選択する(ステップA7)。そして、ドップラー誤差決定部11は、速度誤差算出処理を行う(ステップA9)。
【0087】
図7は、速度誤差算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、ドップラー誤差決定部11は、ステップA1で判定した各ユニットそれぞれについてループAの処理を実行する(ステップB1〜B19)。ループAの処理では、ドップラー誤差決定部11は、当該ユニットの種別を判定し(ステップB3)、当該ユニットがGPSユニット60である場合は(ステップB3;GPS)、次のユニットへと処理を移行する。本実施形態では、GPSユニット60はECEF座標系における速度及び速度誤差を出力するため、座標変換を行う必要はない。
【0088】
一方、当該ユニットが速度センサーユニット70である場合は(ステップB3;速度センサー)、ドップラー誤差決定部11は、方位センサーユニット80からの出力があるか否かを判定し(ステップB5)、あると判定した場合は(ステップB5;Yes)、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80の検出結果を用いて、ECEF座標系における速度誤差を算出する(ステップB7〜B15)。
【0089】
図8は、ECEF座標系における速度誤差を算出する原理を説明するための図である。図8において、横軸は東方向を正とする東西方向、縦軸は北方向を正とする南北方向を示している。位置算出システム1が搭載された移動体の進行方向の速度は速度センサーユニット70により検出され、その進行方向の方位は方位センサーユニット80により検出される。そこで、速度センサーユニット70により検出された速度を速度ベクトルの長さ(大きさ)とし、方位センサーユニット80により検出された検出方位を速度ベクトルの向きとする速度ベクトルを定義する。図8における速度ベクトルVがそれである。
【0090】
速度センサーユニット70から出力される検出速度の誤差は、この速度ベクトルVの向きに沿った方向の誤差であり、方位センサーユニット80から出力される検出方位の誤差は、この速度ベクトルVの向き(図8の座標原点を中心とする中心角、或いは、東西方向に対する成す角度)に対する誤差である。
【0091】
そこで、先ず、速度ベクトルVの終点を基準として、速度センサーユニット70から出力された検出速度の誤差の範囲L1を算出する(図7のステップB7)。この範囲L1は、位置算出システム1が搭載された移動体の前後方向(移動前方/後方方向)の誤差の範囲であるため、以下「前後方向の速度誤差範囲」と称する。
【0092】
次に、速度ベクトルVの向きを基準として、方位センサーユニット80から出力された検出方位の誤差の範囲に相当する速度ベクトルVの向きのズレ幅を算出する。このズレ幅は、速度ベクトルVの終点から速度ベクトルVの向きに直交する方向の範囲L2として算出される(図7のステップB9)。この範囲L2は、位置算出システム1が搭載された移動体の移動方向に対する左右方向の誤差の範囲であるため、以下「左右方向の速度誤差範囲」と称する。
【0093】
次いで、前後方向の速度誤差範囲「L1」と、左右方向の速度誤差範囲「L2」とのうち、値が大きい方の速度誤差範囲を対角線とする正方形の速度誤差領域Sを算出する(図7のステップB11)。図8においては、L1の方がL2よりも大きいため、L1を対角成分とする速度誤差領域Sが算出される。そして、算出した速度誤差領域Sの東西方向の長さを速度誤差の東西方向成分(E成分)、南北方向の長さを速度誤差の南北方向成分(N成分)として算出する(図7のステップB13)。尚、速度誤差の上下方向成分(U成分)については、例えば固定値を設定する。以上により、ENU座標系における速度誤差が求まる。
【0094】
このようにしてENU座標系における速度誤差を求めたら、座標変換演算を行って、ECEF座標系における速度誤差を算出する(図7のステップB15)。そして、次のユニットへと処理を移行する。
【0095】
一方、センサーユニットがINSユニット50であると判定した場合は(ステップB5;INS)、ドップラー誤差決定部11は、座標変換演算を行って、INSユニット50により検出されたENU座標系における速度誤差を、ECEF座標系における速度誤差に変換する(ステップB17)。そして、ドップラー誤差決定部11は、次のユニットへと処理を移行する。
【0096】
全てのユニットについてステップB3〜B17の処理を行った後、ドップラー誤差決定部11は、ループAの処理を終了する(ステップB19)。その後、ドップラー誤差決定部11は、各ユニットについて取得したECEF座標系における速度誤差を速度/速度誤差データ123として、記憶部12に記憶させる(ステップB21)。そして、ドップラー誤差決定部11は、速度誤差算出処理を終了する。
【0097】
図6のドップラー誤差決定処理に戻って、速度誤差算出処理を行った後、ドップラー誤差決定部11は、ステップA9で算出した速度誤差を用いて、ステップA7で選択した加重平均重みパターンに従って、(「INSユニット50の速度誤差」×α+「GPSユニット60の速度誤差」×β+「速度/方位センサーユニット70,80から求めた速度誤差」×γ)を計算することで、平均速度誤差を算出する(ステップA11)。
【0098】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、第2データバス90を介してGPSユニット60から衛星情報を取得するとともに、GPA15から統合端末情報を取得する(ステップA13)。そして、ドップラー誤差決定部11は、取得した衛星情報及び統合端末情報を用いて、位置算出システム1からGPS衛星への視線方向を算出する(ステップA15)。
【0099】
具体的には、位置算出システム1の統合端末位置(XU,YU,ZU)と、捕捉対象衛星の衛星位置(XSV,YSV,ZSV)とを用いて、次式(1)に従って観測行列「H」を算出する。観測行列は、位置算出システム1からGPS衛星への視線方向を表す行列である。
【数1】
【0100】
式(1)において、「range」は、位置算出システムの統合端末位置(XU,YU,ZU)と、GPS衛星の衛星位置(XSV,YSV,ZSV)との間の幾何学的距離であり、次式(2)で表される。
【数2】
【0101】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、ステップA15で算出した視線方向に対する平均速度誤差を求めることでドップラー誤差を算出する(ステップA17)。具体的には、ステップA15で算出した観測行列「H」を用いて、ドップラー誤差「σ」を次式(3)に従って算出する。
【数3】
式(3)において、「(Uσ,Vσ,Wσ)」は、それぞれECEF座標系における各軸方向の平均速度誤差である。
【0102】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、ステップA17で算出したドップラー誤差「σ」をGPSユニット60に出力する(ステップA19)。そして、ドップラー誤差決定部11は、ドップラー誤差決定処理を終了する。
【0103】
3−2.GPSユニット60の処理
図9は、GPSユニット60の位置/速度算出部653が実行する位置/速度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0104】
先ず、位置/速度算出部653は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップC1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、記憶部655の衛星軌道データ6553を用いて判定して、捕捉対象衛星とする。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによってアシストサーバーから取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、最新の統合端末位置とする等の方法で設定できる。
【0105】
次いで、位置/速度算出部653は、ステップC1で判定した各捕捉対象衛星について、ループBの処理を実行する(ステップC3〜C11)。ループBの処理では、位置/速度算出部653は、衛星信号捕捉処理を行う(ステップC5)。
【0106】
図10は、衛星信号捕捉処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、位置/速度算出部653は、記憶部655に記憶されている衛星軌道データ6553に基づいて、当該捕捉対象衛星の衛星情報(衛星位置、衛星速度)を算出する(ステップD1)。また、位置/速度算出部653は、GPA15から統合端末情報(統合端末位置、統合端末速度)を取得する(ステップD3)。
【0107】
次いで、位置/速度算出部653は、ステップD1及びD3で取得した衛星情報及び統合端末情報をドップラー誤差決定部11に出力する(ステップD5)。これは、ドップラー誤差決定部11が当該捕捉対象衛星への視線方向を算出することを可能にするためである。
【0108】
また、位置/速度算出部653は、GPSユニット60に内蔵されたクロックのドリフトを取得する(ステップD7)。そして、位置/速度算出部653は、衛星速度と統合端末速度とクロックのドリフトとを用いて、当該捕捉対象衛星のドップラー周波数を決定する(ステップD9)。尚、ドップラー周波数の算出方法については従来公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0109】
次いで、位置/速度算出部653は、ステップD9で決定したドップラー周波数を考慮して、当該捕捉対象衛星の周波数サーチに使用するサーチ周波数を決定する(ステップD11)。具体的には、GPS衛星信号の搬送波周波数にドップラー周波数を加味した周波数をサーチ周波数に決定する。
【0110】
そして、位置/速度算出部653は、決定したサーチ周波数で衛星信号捕捉部651に当該捕捉対象衛星のGPS衛星信号の捕捉を実行させる(ステップD13)。そして、位置/速度算出部653は、衛星信号捕捉処理を終了する。
【0111】
図9の位置/速度算出処理に戻って、衛星信号捕捉処理を行った後、相関積算処理部6531が相関積算処理を行う(ステップC7)。
【0112】
図11は、相関積算処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、相関積算処理部6531は、相関積算値の次回出力時刻を設定する(ステップE1)。次回出力時刻は、任意の時刻(例えば、相関積算を開始してから4秒経過後の時刻)を設定することができる。そして、相関積算処理部6531は、内部のタイマーをリセット・スタートさせる(ステップE3)。
【0113】
次いで、相関積算時間決定部6533は、第2データバス90を介してドップラー誤差決定部11からドップラー誤差を取得する(ステップE5)。そして、相関積算時間決定部6533は、相関積算時間決定処理を行う(ステップE7)。
【0114】
ここで、本実施形態における相関積算時間を決定する方法の原理について説明する。本願発明者は、ドップラー誤差と、相関積算値と、相関積算時間との関係を求める実験を行った。
【0115】
図12は、実験結果から得られたドップラー誤差と、相関積算値と、相関積算時間との関係を示す図であり、相関積算時間をt(ミリ秒)として相関値を積算する処理を行った場合の相関積算値の変化を示すグラフである。ドップラー誤差Δfが無い(「0」である)場合は、ドップラー周波数fdに変動が生じないため、実際のサーチ周波数(=搬送波周波数fc+ドップラー周波数fd)も変動しない。しかし、ドップラー誤差Δfが有る(≠0)場合は、ドップラー周波数fdが想定していた周波数と異なるため、実際のサーチ周波数は、想定しているサーチ周波数から変動した周波数となる。
【0116】
相関値を積算する際には、周波数に対応する相関値を積算していく。ドップラー誤差Δfが有る(≠0)場合に積算していくと、積算の際に基準としている周波数が誤ってしまう。その結果、積算によって得られる最終的な相関積算値のピークの値は期待していた値よりも低い値となる。この相関積算値のピーク値の低減は、ドップラー誤差Δfの大きさが大きいほど、大きく低減する。図12のグラフが示す通りである。
【0117】
一方、相関積算時間tについても同様である。ドップラー誤差Δfが有る(≠0)場合、相関積算時間tが長ければ長いほど、最終的な相関積算値のピーク値は低減する。図12では分かり難いが、相関積算値(ピーク値)が「0」になってしまう場合のドップラー誤差Δfと、相関積算時間tとの関係から明らかである。
【0118】
すなわち、相関積算値が「0」になってしまう場合のドップラー誤差Δfは、1000/tで求められる。相関積算時間tが長いほど、ドップラー誤差Δfは小さくなる。このことは、相関積算時間tが長くなればなるほど、求められる最終的な相関積算値のピーク値は急激に低減してしまう(早期に「0」になってしまう)ことを意味する。従って、相関積算時間tを長く設定して相関積算を行うと、僅かなドップラー誤差であっても、相関積算値のピークの検出が困難になる。
【0119】
このことから、ドップラー誤差Δfが小さい場合は、相関積算時間tを長く設定し、ドップラー誤差Δfが大きい場合は、相関積算時間tを短く設定することが適切であると考えられる。そこで、本実施形態では、ドップラー誤差Δfを用いて、次式(4)に従って相関積算時間tを算出する。
【数4】
【0120】
式(4)によれば、ドップラー誤差Δfが大きいほど、相関積算時間tは短くなる。ドップラー誤差を2倍した値2Δfを用いて相関積算時間tを算出することにしたのは、図12に示したように、相関積算値(ピーク値)の山が観測されなくなるドップラー誤差の境界はΔf=1000/tであるため、相関積算時間をt=1000/Δfとして求めたのでは、相関積算値のピークの検出が困難になると考えられるためである。
【0121】
図11の説明に戻って、このようにして相関積算時間を決定したら、相関積算処理部6531は、相関器6511から出力される相関値を、決定した相関積算時間tで積算する相関積算を実行する(ステップE9)。そして、相関積算処理部6531は、今回の相関値を積算した時刻(以下、「今回積算時刻」と称す。)が出力時刻を越えているか否かを判定する(ステップE11)。
【0122】
ステップE11において越えていないと判定した場合は(ステップE11;No)、相関積算処理部6531は、今回積算時刻の相関積算値を最新の相関積算値(以下、「最新相関積算値」と称す。)に加算することで最新相関積算値を更新する(ステップE13)。そして、今回積算時刻で最新積算時刻を更新した後(ステップE15)、ステップE5に戻る。
【0123】
一方、ステップE11において今回積算時刻が出力時刻を越えていると判定した場合は(ステップE11;Yes)、相関積算処理部6531は、今回積算時刻と出力時刻との時刻差が最新積算時刻と出力時刻との時刻差よりも小さいか否かを判定する(ステップE17)。
【0124】
そして、小さいと判定した場合は(ステップE17;Yes)、今回積算時刻の相関積算値を最新相関積算値に加算することで最新相関積算値を更新する(ステップE19)。そして、相関積算処理部6531は、出力する相関積算値(以下、「出力相関積算値」と称す。)を最新相関積算値で更新する(ステップE21)。そして、出力相関積算値を記憶部655に記憶させて(ステップE23)、相関積算処理を終了する。
【0125】
図9の位置/速度算出処理に戻って、相関積算処理を行った後、位置/速度算出部653は、相関積算処理で求めた出力相関積算値に基づいて受信周波数及びコード位相を検出する(ステップC9)。そして、位置/速度算出部653は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0126】
全ての捕捉対象衛星についてステップC5〜C9の処理を行った後、位置/速度算出部653は、ループBの処理を終了する(ステップC11)。その後、位置/速度算出部653は、位置/速度算出計算を実行して、位置算出システム1の位置及び速度と、位置誤差及び速度誤差とを算出する(ステップC13)。
【0127】
位置算出計算は、例えば位置算出システム1と捕捉対象衛星間の擬似距離を利用して、例えば最小二乗法やカルマンフィルターを用いた公知の収束演算を行うことで実現することができる。また、速度算出計算は、例えば捕捉対象衛星から受信したGPS衛星信号の受信周波数の時間変化を利用して同様に公知の手法に基づいて実現することができる。
【0128】
そして、位置/速度算出部653は、算出した位置、位置誤差、速度及び速度誤差を、第2データバス90を介して処理部10に出力する(ステップC15)。そして、位置/速度算出部653は、処理を終了するか否かを判定し(ステップC17)、まだ処理を終了しないと判定した場合は(ステップC17;No)、ステップC1に戻る。
【0129】
また、処理を終了すると判定した場合は(ステップC17;Yes)、位置/速度算出部653は、位置/速度算出処理を終了する。
【0130】
3−3.GPA15の処理
図13は、GPA15が実行する位置/速度統合処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、GPA15は、第2データバス90を介して、INSユニット50及びGPSユニット60から位置を取得する(ステップF1)。また、ドップラー誤差決定部11から、各ユニットの速度を取得する(ステップF3)。
【0131】
次いで、GPA15は、ステップF1及びF3で取得した位置及び速度に対するフィルター処理を行う(ステップF5)。本実施形態では、カルマンフィルターを利用した位置及び速度の統合処理をフィルター処理として実行する。
【0132】
具体的には、INSユニット50の位置及び速度を、カルマンフィルターにおける状態(状態ベクトル)「X」として設定する。また、カルマンフィルターにおける外部観測量とする観測値「Z」を、GPSユニット60から取得した位置及び速度と、速度/方位センサーユニット70,80から求めた速度とする。そして、状態「X」を予測する予測演算と、予測された状態「X」を観測値「Z」を用いて補正する補正演算とを行う。そして、補正演算で補正された状態「X」に含まれる位置及び速度を、統合された端末位置及び端末速度に決定する。
【0133】
次いで、GPA15は、フィルター処理で統合された統合端末位置及び統合端末速度を統合端末情報として、ドップラー誤差決定部11に出力するとともに、第2データバス90を介してGPSユニット60に出力する(ステップF7)。そして、GPA15は、位置/速度統合処理を終了する。
【0134】
4.作用効果
位置算出システム1において、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度と、センサーユニットの一種である速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度とがGPA15により統合されて、位置算出システム1の速度が算出される。また、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度誤差とを用いて、ドップラー誤差決定部11によりドップラー誤差が決定される。
【0135】
そして、GPSユニット60において、GPA15により決定された速度を用いてドップラー周波数が決定されるとともに、ドップラー誤差決定部11により決定されたドップラー誤差を用いて、相関処理を行う際の相関積算時間が決定される。そして、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された位置がGPA15により統合されて、位置算出システム1の位置が算出される。
【0136】
位置算出システム1は移動するため、その移動に伴うドップラーの影響を無視することはできない。この場合のドップラー周波数は、位置算出システム1の速度を用いて予想することができるが、位置算出システム1の移動状態等により、想定されるドップラー周波数は変動する。本実施形態では、このドップラー周波数の変動量を、位置算出システム1の速度誤差を用いてドップラー誤差として算出する。そして、算出したドップラー誤差を用いて相関積算時間を決定する。これにより、ドップラー周波数の変動を考慮した適切な相関積算時間を決定して相関処理を行うことが可能となる。
【0137】
より具体的には、各ユニットからのユニット情報の出力状態と、位置算出システム1の移動状態とに基づいて、各ユニットの速度誤差を加重平均する際の重みのパターンである加重平均重みパターンを選択する。そして、選択した加重平均重みパターンを用いて各ユニットからの速度誤差を加重平均して、平均速度誤差を算出する。そして、GPS衛星信号を発信するGPS衛星への視線方向を求め、求めた視線方向に対する平均速度誤差をドップラー誤差として算出する。
【0138】
各ユニットがユニット情報を検出・出力可能な状態であるか否かといった要素や、位置算出システム1の移動状態といった要素に応じて、何れのユニットから出力されたユニット情報を重視・信頼すべきであるかが変化する。そのため、これらの要素に応じて各ユニットの速度誤差の重みを可変にして加重平均を行うことで、ドップラー誤差をより正確に求めることが可能となる。
【0139】
例えば、トンネル内等のGPS衛星信号を受信することができない環境下に位置算出システム1が位置している場合は、GPSユニット60のユニット情報を利用することができないため、速度の算出精度は低下し、速度誤差は次第に大きくなっていく。この場合、ドップラー誤差が大きくなるため、式(4)により相関積算時間は短くなる。しかし、図12で示したように、相関積算時間を短くすると、ドップラー誤差が大きな値であっても相関積算値のピークの検出が可能になる。そのため、位置算出システム1がトンネルを抜けてGPS衛星信号を受信可能な状態に復帰した場合に、GPS衛星信号の捕捉を迅速且つ適切に行うことが可能となる。
【0140】
また、GPSユニット60は、相関積算処理において、相関積算時間が経過する時刻を積算時刻とし、各積算時刻において相関積算値を合算していくことで相関処理を行う。そして、今回の積算時刻が相関積算値の出力時刻(例えば4秒毎の時刻)を越えている場合は、今回の積算時刻と出力時刻との時刻差と、前回の積算時刻と出力時刻との時刻差の大小を判定し、時刻差の小さい方の積算時刻を、相関積算値の合算の終了時刻に決定する。
【0141】
本実施形態では、ドップラー誤差を用いて相関積算時間が決定されるため、相関積算時間は一定の値ではなく、ばらばらの値となる。そのため、予め定められた相関積算値の出力タイミングと、相関積算時間の積算タイミングとが必ずしも一致するとは限らない。そこで、相関積算値の出力時刻に最も近い積算時刻が相関積算値の合算の終了タイミングとなるように調整することとした。
【0142】
尚、本実施形態では、ドップラー周波数の変動量を「ドップラー誤差」と定義して説明を行ったが、ドップラー周波数の変動量をドップラー周波数の精度という意味で「ドップラー精度」と定義することにしてもよい。他の「誤差」も同様に「精度」ということもできる。
【0143】
5.変形例
5−1.ユニットの種類
位置算出システム1に搭載可能なユニットは、上述したユニットに限られるわけではない。例えば、位置や速度の算出に利用可能な物理的事象を検出可能なユニットとして、加速度センサーユニット、ジャイロセンサーユニット等のセンサーユニットを組み込むことも可能である。また、RFID(Radio Frequency IDentification)を用いて位置を検出するユニットを位置検出ユニットとして組み込むことも可能である。
【0144】
図14は、この変形例における位置算出システム2の構成の一例を示すブロック図である。位置算出システム2は、INSユニット50の代わりにIMU51を搭載したシステムである。尚、図14において、先に説明した実施形態と同様の構成部分については、先に説明した図1と同様の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0145】
位置算出システム2では、INSユニット50の代わりに、IMU51が具備されている。また、処理部10には、IMU51から出力されるユニット情報を用いて位置及び速度と、位置誤差及び速度誤差とを算出するIMU位置/速度算出部13が設けられている。この場合、ドップラー誤差決定部11は、IMU位置/速度算出部13により算出された速度誤差と、GPSユニット60により算出された速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80の検出結果から算出される速度誤差とを用いてドップラー誤差を算出・決定する。また、位置/速度統合処理部15は、GPSユニット60から出力される位置及び速度と、速度/方位センサーユニット70,80から出力される速度と、IMU位置/速度算出部13により算出される位置及び速度とを統合して統合端末情報を算出する。
【0146】
尚、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80を省略し、IMU位置/速度算出部13により算出された速度誤差と、GPSユニット60により算出された速度誤差とを用いてドップラー誤差を算出することとしてもよい。また、この場合は、IMU位置/速度算出部13により算出された位置及び速度と、GPSユニット60により算出された位置及び速度とを統合して統合端末情報を算出する。
【0147】
5−2.ユニットの座標系
また、上述した実施形態では、INSユニット50には算出座標系としてENU座標系が割り当てられており、GPSユニット60には算出座標系としてECEF座標系が割り当てられているものとして説明したが、この座標系の割り当ては適宜設定変更可能である。例えば、ECEF座標系における位置及び速度を算出するようにINSユニット50を設計することも可能である。何れにしても、座標変換演算を行うことで、座標系を統一して位置及び速度を算出することができる。
【0148】
5−3.速度誤差の相対値に応じた加重平均の重みの変更
INSユニット50の速度誤差と、GPSユニット60の速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80の速度誤差との相対値に応じて、速度誤差を加重平均する際の重みを変更することにしてもよい。
【0149】
図15は、この場合における加重平均重みパターンデータのデータ構成の一例を示す図である。尚、説明の簡明化のため、各ユニットの出力タイプについては図示を省略し、移動状態別の加重平均重みパターンを図示している。
【0150】
この加重平均重みパターンデータでは、予め各ユニットに定められた値に、各ユニットの速度誤差で正規化されたパラメーター値を乗算した値を重みとするパターンが定められている。但し、INSユニット50の速度誤差を「σi」、GPSユニット60の速度誤差を「σg」、速度/方位センサーユニット70,80の重みを「σs」として図示している。各ユニットの速度誤差の相対値を加味して加重平均の重みを設定することで、ドップラー誤差をより正確に求めることができる。
【0151】
5−4.ドップラー誤差の算出
上述した実施形態では、各ユニットの速度誤差を加重平均して平均速度誤差を算出し、この平均速度誤差を用いてドップラー誤差を算出するものとして説明したが、このドップラー誤差の算出方法はあくまでも一例である。
【0152】
例えば、加重平均ではなく、単純な算術平均を用いて平均速度誤差を算出し、この平均速度誤差を用いてドップラー誤差を算出してもよい。また、各ユニットから出力された速度誤差のうち値が最も小さい速度誤差を選択し、選択した速度誤差を用いてドップラー誤差を算出してもよい。
【0153】
5−5.相関積算時間の決定
上述した実施形態では、式(4)に従って相関積算時間を算出するものとして説明したが、例えば図16に示すように、ドップラー誤差と相関積算時間との対応関係を定めたテーブルを用意しておいてもよい。そして、ドップラー誤差決定部11により決定されたドップラー誤差に対応付けられた相関積算時間をテーブルから読み出して、相関積算時間を決定することとしてもよい。
【0154】
5−6.位置/速度統合処理
上述した実施形態では、GPA15が実行する位置/速度統合処理において、GPSユニット60の算出結果を観測値として利用してカルマンフィルターを利用したフィルター処理を行うものとして説明したが、INSユニット50の算出結果を観測値としてカルマンフィルターを利用したフィルター処理を行ってもよい。
【0155】
5−7.フィルター処理
また、上述した実施形態では、カルマンフィルター処理によって位置を算出する例を説明したが、使用するフィルターとして、Particleフィルター(粒子フィルター)、Sigmaポイントフィルター(シグマポイントフィルター)、最小二乗法によるフィルター等を採用し、これらのフィルターを用いたフィルター処理を行って位置/速度を統合してもよい。
【0156】
5−8.位置算出ユニット
また、上述した実施形態では、位置算出ユニットとしてGPSユニットを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムを利用した位置算出ユニットであってもよい。
【符号の説明】
【0157】
1 位置算出システム、 10 処理部、 11 ドップラー誤差決定部、 13 IMU位置/速度算出部、 15 位置/速度統合処理部(GPA)、 20 入力部、 30 表示部、 40 通信部、 45 第1データバス、 50 INSユニット、 51 IMU、 60 GPSユニット、 70 速度センサーユニット、 80 方位センサーユニット、 90 第2データバス
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置算出方法及び位置算出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された位置算出装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から位置算出装置までの擬似距離等の情報に基づいて位置算出装置の位置座標と時計誤差とを求める位置算出計算を行う。
【0003】
GPS衛星から送出されるGPS衛星信号は、CA(Coarse and Acquisition)コードと呼ばれるGPS衛星毎に異なる拡散符号で変調されている。位置算出装置は、受信信号と、CAコードのレプリカであるレプリカCAコードとの相関演算を行い、その相関値に基づいてGPS衛星信号を捕捉する。この場合、微弱な受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉する場合に、相関値のピークの検出を容易にするため、相関演算で取得された相関値を所定の積算時間に亘って積算する手法が用いられる。
【0004】
しかし、GPS衛星信号を拡散変調するCAコード自体が航法メッセージによって20ミリ秒毎にBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調されているため、20ミリ秒毎にCAコードの極性が反転し得る。従って、この反転タイミングを跨いで相関値を積算する場合には、符号の異なる相関値を積算する可能性がある。この問題を解決するための技術として、例えば特許文献1に開示されているように、外部から取得した極性反転タイミングの情報に基づいて相関値を積算する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、相関積算時間を20ミリ秒よりも長くすることができる。しかし、相関積算時間を長くすることによって別の問題が生じる。ドップラーがその1つである。例えば、位置算出装置の移動速度が変化するとドップラー周波数が変動する。その結果、長時間の相関積算の間に、サーチ周波数が徐々に変動していき、当初の周波数サーチ範囲から外れてしまう場合がある。例えば、1[G]の加速度で位置算出装置が移動している場合、ドップラー周波数の変動量は50[Hz/s]になる。すなわち、移動速度が変動すると、実際のサーチ周波数が、本来想定していたサーチ周波数から乖離していくことになる。
【0007】
理論上は、ドップラー周波数が変動しなければ、相関値を積算すればするほど、ある特定の周波数の相関積算値が大きくなっていき、その相関積算値のピークでもって特定周波数(=受信周波数)を容易に判別できるようになるはずである。しかし、現実にはドップラー周波数が変動することによって、実際のサーチ周波数と本来想定していた周波数との間にズレが生じ、その特定周波数自体も変動してしまう。その結果、一定時間以上の相関積算をすると、逆に相関積算値のピークが判別しにくくなる事態が生じる。
このことは、相関積算時間を長くしても、衛星信号を捕捉できないことに繋がる。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ドップラー周波数の変動を考慮して、相関処理を適切に行うことを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットとを用いて位置を算出する位置算出方法であって、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出することと、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出することと、前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定することと、前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定することと、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出することと、を含む位置算出方法である。
【0010】
また、他の形態として、衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットと、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出する判定速度算出部と、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出する誤差算出部と、前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定するドップラー周波数決定部と、前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定する相関積算時間決定部と、前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出する位置算出部と、を備えた位置算出システムを構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、衛星信号を利用して位置及び速度を算出する位置算出ユニットによる算出結果と、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットによる検出結果とを用いて判定速度を算出する。また、位置算出ユニットによる算出誤差とセンサーユニットによる検出誤差とを用いて、判定速度の誤差を算出する。そして、位置算出ユニットがサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、判定速度を用いて決定するとともに、位置算出ユニットが相関処理を行う際の相関積算時間を、判定速度の誤差を用いて決定する。そして、位置算出ユニットによる算出結果とセンサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出する。
【0012】
位置算出ユニットの移動に起因するドップラー周波数は、センサーユニットにより検出されている速度を用いて予想することができる。しかし、想定されるドップラー周波数は、位置算出ユニットの移動状態等に応じて変動し得る。この場合のドップラー周波数の誤差(=ドップラー周波数の変動量)は、速度の誤差に基づいて近似可能である。そのため、位置算出ユニットによる算出結果とセンサーユニットによる検出結果とを用いて算出した判定速度に含まれ得る誤差(判定速度の誤差)を用いることで、ドップラー周波数の変動を考慮した適切な相関積算時間を決定することができる。
【0013】
また、第2の形態として、第1の形態の位置算出方法であって、前記判定速度の誤差を算出することは、前記衛星信号を発信する測位用衛星への視線方向に対する前記判定速度の誤差を算出することを含む、位置算出方法を構成してもよい。
【0014】
この第2の形態によれば、衛星信号を発信する測位用衛星への視線方向に対する判定速度の誤差を算出する。測位用衛星への視線方向に対する判定誤差を算出することで、ドップラー周波数の誤差を適切に求めることができる。
【0015】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の位置算出方法であって、前記判定速度の誤差を算出することは、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを加重平均することを含む、位置算出方法を構成してもよい。
【0016】
この場合において、第4の形態として、第3の形態の位置算出方法における前記加重平均することが、移動状態に応じて前記加重平均の重みを変更することを含むように位置算出方法を構成することも可能である。
【0017】
この第4の形態によれば、移動状態に応じて、位置算出ユニットによる算出誤差とセンサーユニットによる検出誤差との何れを重視・信頼して加重平均するかを決定することで、判定速度の誤差をより正確に求めることができる。
【0018】
また、第5の形態として、第3又は第4の形態の位置算出方法における前記加重平均することが、前記位置算出ユニットが位置算出可能な状態か否か、及び、前記センサーユニットが検出可能な状態か否か、に応じて前記加重平均の重みを変更することを含むように位置算出方法を構成することも可能である。
【0019】
この第5の形態によれば、位置算出ユニットが位置算出可能な状態か否か、及び、センサーユニットが検出可能な状態か否か、に応じて加重平均の重みを変更することで、衛星信号の受信環境やセンサーユニットの検出状態等に応じた適切な判定速度の誤差の算出を実現し得る。例えば、トンネル内等においては一時的に衛星信号を受信できない場合もあり、そのような状態に適切に対応し得る。
【0020】
さらに、第6の形態として、第3〜第5の何れかの形態の位置算出方法における前記加重平均することが、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差との相対値に応じて前記加重平均の重みを変更することを含むように位置算出方法を構成することも可能である。
【0021】
この第6の形態によれば、位置算出ユニットによる算出誤差とセンサーユニットによる検出誤差との相対値に応じて加重平均の重みを変更することで、求められる判定速度の誤差の正確性が一層向上する。
【0022】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の位置算出方法であって、前記位置算出ユニットは、前記相関積算時間が経過する毎に相関積算値を合算していくことで前記相関処理を行い、且つ前記相関処理を行って位置を算出する処理を所定の時間間隔で行うユニットであり、前記所定の時間間隔と前記相関積算時間とに基づいて、1回の前記相関処理における前記相関積算値の合算の終了タイミングを調整することと、を更に含む位置算出方法を構成してもよい。
【0023】
この第7の形態によれば、位置算出ユニットは、相関積算時間が経過する毎に相関積算値を合算していくことで相関処理を行う。そして、相関処理を行って位置を算出する処理を所定の時間間隔で行い、所定の時間間隔と相関積算時間とに基づいて、1回の相関処理における相関積算値の合算の終了タイミングを調整する。
【0024】
相関積算時間は判定速度の誤差を用いて決定されるため、常に一定であるとは限らない。しかし、第7の形態によれば、相関積算時間がばらばらであっても、各相関積算時間が経過する毎に相関積算値が適切に合算されるように、1回の相関処理における相関積算値の合算の終了タイミングが調整される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】位置算出システムの機能構成の一例を示すブロック図。
【図2】GPSユニットの機能構成の一例を示すブロック図。
【図3】速度/速度誤差データのデータ構成の一例を示す図。
【図4】出力タイプ判定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図5】加重平均重みパターンデータのデータ構成の一例を示す図。
【図6】ドップラー誤差決定処理の流れを示すフローチャート。
【図7】速度誤差算出処理の流れを示すフローチャート。
【図8】速度誤差算出の原理の説明図。
【図9】位置/速度算出処理の流れを示すフローチャート。
【図10】衛星信号捕捉処理の流れを示すフローチャート。
【図11】相関積算処理の流れを示すフローチャート。
【図12】相関積算時間決定の原理の説明図。
【図13】位置/速度統合処理の流れを示すフローチャート。
【図14】変形例における位置算出システムの機能構成の一例を示すブロック図。
【図15】変形例における加重平均重みパターンデータの一例を示す図。
【図16】変形例における相関積算時間決定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。尚、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0027】
1.システム構成
図1は、本実施形態における位置算出システム1(位置算出装置)の機能構成を示すブロック図である。位置算出システム1は、位置算出装置の一種であり、本実施形態においては、自動車やバスといった移動体に搭載されるナビゲーション装置を想定することとして説明する。但し、スマートフォンを含む携帯型電話機やノート型パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)といった他の電子機器に適用することも可能である。
【0028】
位置算出システム1は、移動体に対する相対位置を固定して設置され、方位センサーユニット80により、移動体の進行方向を位置算出システム1の進行方向として検出可能に構成されている。
【0029】
位置算出システム1は、処理部10と、入力部20と、表示部30と、通信部40と、INS(Inertial Navigation System)ユニット50と、GPS(Global Positioning System)ユニット60と、速度センサーユニット70と、方位センサーユニット80とを備えて構成されるコンピューターシステムである。
【0030】
処理部10と、入力部20と、表示部30と、通信部40とは、第1データバス45を介して接続されている。また、処理部10と、INSユニット50と、GPSユニット60と、速度センサーユニット70と、方位センサーユニット80とは、第2データバス90を介して接続されている。
【0031】
処理部10は、位置算出システム1を統括的に制御する制御装置であり、その機能部として、ドップラー誤差決定部11と、位置/速度統合処理部(以下、「GPA(Generic Position Algorithm)」と称す。)15とを備えて構成されている。
【0032】
ドップラー誤差決定部11は、位置算出システム1の移動により生ずるドップラー周波数の想定される変動量(以下、「ドップラー誤差」と称す。)を決定する処理回路ブロックである。位置算出システム1の移動によりドップラーが発生するが、その場合のドップラー周波数は、位置算出システム1の移動状態等によって変動する。ドップラー誤差決定部11は、このドップラー周波数の変動量を、各ユニットからのユニット情報を用いてドップラー誤差として算出する。
【0033】
ドップラー誤差決定部11は、デジタルシグナルプロセッサー(DSP(Digital Signal Processor))等のプロセッサーとメモリとを備え、後述するドップラー誤差決定処理をデジタル信号処理として実行する。ドップラー誤差決定部11は、各種のデータを格納するメモリとしての記憶部12を備えている。
【0034】
記憶部12は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、処理部10が位置算出システム1を制御するためのシステムプログラムや、ドップラー誤差決定部11がドップラー誤差を決定するためのプログラムやデータ等を記憶している。また、ドップラー誤差決定部11により実行される各種プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0035】
記憶部12には、例えば、各ユニットから出力されたユニット情報のデータであるユニットデータ121と、ユニット情報を用いて算出される位置算出システム1の速度及び速度誤差のデータである速度/速度誤差データ123と、各ユニットのユニット情報の出力タイプを判定するための出力タイプ判定用テーブル125と、各ユニットのユニット情報を加重平均する際の重みのパターンが定められた加重平均重みパターンデータ127とが記憶される。
【0036】
図3は、速度/速度誤差データ123のデータ構成の一例を示す図である。速度/速度誤差データ123には、各ユニットのユニット情報を用いて算出される速度/速度誤差1233が、時刻1231と対応付けて時系列に記憶されている。ドップラー誤差決定部11は、ユニットデータ121に記憶されているユニット情報に基づいて、位置算出システム1の地球基準直交座標系における速度及び速度誤差を算出して、速度/速度誤差データ123に記憶させる。INSユニット50、GPSユニット60、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80の各ユニットが出力する情報を「ユニット情報」と呼ぶ。
【0037】
本実施形態において、GPSユニット60は、ECEF(Earth Centered Earth Fixed)座標系における位置,速度及びこれらの誤差を算出する。一方、INSユニット50はENU(East North Up)座標系における位置,速度及びこれらの誤差を算出する。また、速度センサーユニット70は、位置算出システム1の進行方向に対する速度及びその誤差を検出し、方位センサーユニット80は、位置算出システム1の進行方向を示す方位及びその誤差を検出する。ドップラー誤差決定部11は、第2データバス90を介して各ユニットから取得したユニット情報に基づいて、ECEF座標系における位置算出システム1の速度及び速度誤差を算出する処理を行う。
【0038】
ECEF座標系は、地球中心地球固定座標系として知られ、地球の中心(地球重心)を原点とし、地球自転軸をZ軸、グリニジ子午面と赤道面とが交わる軸をX軸、これらの2軸と直交する軸をY軸とする3軸直交座標系である。また、ENU座標系は、東北上座標系として知られ、地表面付近のある点を原点として、天頂方向(地表面に対する垂直線の上方向)をU軸、東方向をE軸、北方向をN軸とする3軸直交座標系である。
ENU座標系とECEF座標系との座標変換自体は、行列演算等によって変換することが可能である。
【0039】
図4は、出力タイプ判定用テーブル125のテーブル構成の一例を示す図である。出力タイプ判定用テーブル125には、各ユニットのユニット情報の出力状態1251と、各出力状態1251に一対一に対応付けられた出力タイプ1253とが記憶されている。
【0040】
出力状態1251は、各ユニットからユニット情報が出力されているか否かを示す情報であり、ユニット情報が出力されている状態にあるユニットには「○」、ユニット情報が出力されていないユニットには「×」が記憶される。尚、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80については、両方のセンサーユニットからの検出結果を用いて速度誤差を算出するため、纏めて「速度/方位」と図示しており、両方のセンサーユニットからユニット情報が出力されている場合にのみ「○」が記憶される。従って、出力状態1251は、各ユニットの現在の状態が、ユニット情報を算出又は検出可能な状態か否かを示す情報と言える。
【0041】
例えば、INSユニット50、GPSユニット60及び速度/方位センサーユニット70,80の全てのユニットがユニット情報を出力している状態は「タイプA」となる。例えば、天空が開けた場所に位置算出システム1が位置し、各ユニットともに問題なく作動している場合には、タイプAが選択されることとなる。
【0042】
INSユニット50及びGPSユニット60は出力している状態にあるが、速度/方位センサーユニット70,80が出力していない状態の場合は「タイプB」となる。例えば、GPS衛星からの衛星信号を受信できる受信環境にあるが、速度/方位センサーユニット70,80が何らかの原因で故障している場合等が、このタイプBに該当する。
【0043】
INSユニット50及び速度/方位センサーユニット70,80は出力している状態にあるがGPSユニット60が出力していない状態の場合は「タイプC」となる。例えば、トンネル内や建物内といった、GPS衛星からのGPS衛星信号を受信できず、GPSユニット60のみがユニット情報を出力していない(出力できない)状態にある場合がこのタイプCである。
【0044】
ドップラー誤差決定部11は、各ユニットからのユニット情報の出力状況に基づいて、出力状態1251を識別する。そして、出力タイプ判定用テーブル125を参照し、識別した出力状態1251に対応付けられた出力タイプ1253を判定する。
【0045】
図5は、加重平均重みパターンデータ127のデータ構成の一例を示す図である。加重平均重みパターンデータ127には、出力タイプ1271と、移動状態1273と、加重平均重みパターン1275とが対応付けて記憶されている。
【0046】
出力タイプ1271は、図4の出力タイプ判定用テーブル125の出力タイプ1253に対応している。移動状態1273は、位置算出システム1の現在の移動状態であり、例えば停止状態にあることを示す「停止」、等速移動状態にあることを示す「等速」、加速状態又は減速状態にあることを示す「加速/減速」などの複数の移動状態が記憶されている。
【0047】
加重平均重みパターン1275は、INSユニット50の速度誤差と、GPSユニット60の速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80の速度誤差とを加重平均計算する際の各速度誤差の重みのパターンである。すなわち、INSユニット50の速度誤差に対する重み「α」と、GPSユニット60の速度誤差に対する重み「β」と、速度/方位センサーユニット70,80の速度誤差に対する重み「γ」との値の組合せが、加重平均重みパターンとして定められている。但し、「α+β+γ=1」である。
【0048】
移動状態が「停止」である場合は、速度/方位センサー70,80のユニット情報を信頼することとし、速度/方位センサー70,80の速度誤差に対する重み「γ」が大きくなるように定められている。停止状態では、速度/方位センサー70,80の検出精度は高いが、INSユニット50やGPSユニット60の算出精度は低下すると考えられるためである。
【0049】
移動状態が「等速」である場合は、GPSユニット60のユニット情報を信頼することとし、GPSユニット60の速度誤差に対する重み「β」が大きくなるように定められている。等速状態では、GPSユニット60の算出精度が特に向上すると考えられるためである。
【0050】
また、移動状態が「加速/減速」である場合は、INSユニット50のユニット情報を信頼することとし、INSユニット50の速度誤差に対する重み「α」が大きくなるように定められている。加減速状態では、INSユニット50の算出精度は向上するが、GPSユニット60は追従性が悪くなり、算出精度が低下すると考えられるためである。
尚、これらの重みの定め方はあくまでも一例であり、適宜設定変更可能である。
【0051】
ドップラー誤差決定部11は、各ユニットの現在の出力状態1251を判定するとともに、ユニットデータ121に記憶されているユニット情報の履歴に基づいて、位置算出システム1の現在の移動状態1273を判定する。そして、判定した現在の各ユニットの出力状態1251に対応する出力タイプ1253(1271)を、出力タイプ判定用テーブル125に基づいて決定する。そして、出力タイプ1271及び移動状態1273に対応する加重平均重みパターン1275を、加重平均重みパターンデータ127に基づいて決定する。そして、速度誤差算出処理で算出した各ユニットの速度誤差を、読み出した加重平均重みパターン1275を用いて加重平均することで、平均速度誤差を算出する。平均速度誤差は、位置算出システム1の判定速度の誤差に相当する値である。
【0052】
また、ドップラー誤差決定部11は、第2データバス90を介してGPSユニット60からGPS衛星の衛星位置、衛星速度等の情報(以下、「衛星情報」と称す。)を取得するとともに、GPA15により求められた位置算出システム1の最終的な統合情報(以下、「統合端末情報」と称す。)を取得する。そして、取得した衛星情報と統合端末情報とを用いて、位置算出システム1からGPS衛星への視線方向を求め、求めた視線方向に対する平均速度誤差をドップラー誤差として算出する。
【0053】
GPA15は、各種のセンサーユニットから出力された位置及び速度を、例えばカルマンフィルターを利用して統合演算することで、最終的な位置算出システム1の位置及び速度である統合位置及び統合速度を算出する処理部である。この統合位置及び統合速度が統合端末情報である。このGPA15の機能は、例えばCPUやDSP等のプロセッサーにより実現される。GPA15は、得られた統合端末情報を表示部30に表示させるとともに、ドップラー誤差決定部11に出力する。統合速度は、位置算出システム1の判定速度に相当する値である。
【0054】
入力部20は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、ユーザーにより押下されたキーやボタンの信号を処理部10に出力する。この入力部20からの操作入力により、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0055】
表示部30は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部10から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部30には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0056】
通信部40は、処理部10の制御に従って、位置算出システム1が外部装置との間で通信を行うための通信装置である。この機能は、例えば、有線通信用のモジュールや、IEEE802.11による無線LANやスペクトラム拡散方式による無線通信モジュール等により実現される。また、位置算出システム1を携帯型電話機に適用するケースでは、通信部40は携帯電話用の通信装置でもよい。
【0057】
INSユニット50は、センサーユニットの一種であり、IMU(Inertial Measurement Unit)51により計測された加速度及び角速度に基づいて公知の慣性航法演算処理を行って、INSユニット50の位置及び速度を算出・検出する慣性航法システム(位置算出システム)である。また、IMU51により計測された加速度誤差及び角速度誤差に基づいて、算出した位置及び速度に含まれ得る誤差を算出する。本実施形態では、INSユニット50は、ENU座標系における位置及び速度とともに、それらの誤差である位置誤差及び速度誤差を随時算出する。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0058】
IMU51は、例えば、加速度センサーやジャイロセンサーを備え、ENU座標系の直交3軸それぞれの軸方向の加速度及び各軸の軸回りの角速度を検出可能に構成される。加速度センサー及びジャイロセンサーは、それぞれ加速度及び角速度を計測するセンサーである。また、IMU51は、計測した加速度及び角速度に含まれ得る誤差を随時算出等して出力するよう構成されている。例えば、計測開始からの経過時間と、計測値に含まれ得る誤差とが対応付けて記憶されており、計測開始からの経過時間に応じた誤差が出力される構成や、計測環境の温度と、計測値に含まれ得る誤差とが対応付けて記憶されており、現在の環境温度に応じた誤差が出力される構成等が考えられる。尚、加速度センサー及びジャイロセンサーは、それぞれが独立したセンサーであってもよいし、一体型のセンサーであってもよい。また、加速度センサーの検出結果に基づいて速度を検出・出力することとしてもよい。
【0059】
GPSユニット60は、位置算出ユニットの一種であり、測位用衛星の一種であるGPS衛星から発信されているGPS衛星信号を利用した公知の位置算出計算及び速度算出計算を行う。本実施形態では、GPSユニット60は、ECEF座標系における位置及び速度と、それらの算出結果に含まれ得る誤差である位置誤差及び速度誤差とを算出する。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0060】
速度センサーユニット70は、センサーユニットの一種であり、位置算出システム1の移動速度を検出するセンサーを備えた速度検出ユニットであり、例えばドップラー効果を利用したものや空間フィルターを利用したものなど、何れの方式のものであってもよい。例えば、位置算出システム1が自動車に適用される場合は、自動車に搭載される車速計を速度センサーユニット70としてもよい。
【0061】
本実施形態では、速度センサーユニット70は、位置算出システム1(移動体)の進行方向に対する移動速度及び移動速度に含まれ得る速度誤差を出力する。速度誤差は、例えば計測開始からの経過時間に応じて定められていたり、計測環境温度と対応付けて定められ、経過時間や環境温度に応じて出力される構成が考えられる。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0062】
方位センサーユニット80は、センサーユニットの一種であり、例えば磁場の強さによって抵抗値やインピーダンス値が増減する素子等で構成される2軸の地磁気センサーを備えた方位検出ユニットである。
【0063】
本実施形態では、方位センサーユニット80は、位置算出システム1(移動体)の進行方向を方位として検出するとともに、検出方位に含まれ得る方位誤差を出力する。方位誤差は、速度センサーユニット70と同様、例えば計測開始からの経過時間に応じて定められていたり、計測環境温度と対応付けて定められ、経過時間や環境温度に応じて出力される構成が考えられる。そして、これらの情報をユニット情報として、第2データバス90を介して処理部10に出力する。
【0064】
2.GPSユニットの構成
図2は、GPSユニット60の機能構成の一例を示すブロック図である。GPSユニット60は、GPSアンテナ61と、RF(Radio Frequency)受信回路部63と、ベースバンド処理回路部65とを備えて構成される。
【0065】
GPSアンテナ61は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF信号を受信するアンテナであり、受信信号をRF受信回路部63に出力する。
【0066】
RF受信回路部63は、RF信号の処理回路ブロックであり、受信したRF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部65に出力する。
【0067】
RF受信回路部63とベースバンド処理回路部65とで、GPS受信部が構成される。尚、RF受信回路部63と、ベースバンド処理回路部65とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0068】
ベースバンド処理回路部65は、RF受信回路部63から出力されたIF信号に対して相関演算処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出す回路部である。ベースバンド処理回路部65は、衛星信号捕捉部651と、位置/速度算出部653と、記憶部655とを備えて構成される。
【0069】
衛星信号捕捉部651は、RF受信回路部63から出力されたIF信号である受信信号からGPS衛星信号を捕捉する回路部であり、相関器6511と、レプリカ信号発生部6513とを備えて構成される。
【0070】
相関器6511は、RF受信回路部63から入力したIF信号に変換された受信信号と、レプリカ信号発生部6513から入力したレプリカ信号との相関演算を行う相関器(コリレーター)である。相関器6511は、相関演算を行うことで求められた相関値を位置/速度算出部653に出力する。
【0071】
レプリカ信号発生部6513は、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードのレプリカ信号を生成する回路部である。レプリカ信号発生部6513は、相関積算時間決定部6533から出力される相関積算時間に従って、レプリカ信号の位相を変更して生成し、相関器6511に出力する。
【0072】
位置/速度算出部653は、衛星信号捕捉部651により捕捉されたGPS衛星信号を利用して、公知の位置/速度算出計算を行ってGPSユニット60の位置及び速度を算出する回路部であり、処理回路ブロックとして、相関積算処理部6531と相関積算時間決定部6533とを備えて構成される。
【0073】
相関積算処理部6531は、衛星信号捕捉部651の相関器6511から出力される相関値を、相関積算時間決定部6533により決定された相関積算時間に従って積算する相関積算処理を行う処理部である。この処理部は、CPUやDSP等のプロセッサーによって実現される。
【0074】
相関積算時間決定部6533は、相関積算処理部6531が相関積算処理を行う際の相関積算時間を決定する処理部である。相関積算時間決定部6533も、CPUやDSP等のプロセッサーによって実現される。
【0075】
相関積算時間決定部6533は、ドップラー誤差決定部11により決定されたドップラー誤差を、第2データバス90を介して処理部10から取得する。そして、取得したドップラー誤差を用いて相関積算時間を算出・決定し、相関積算処理部6531に出力する。
【0076】
記憶部655は、ROMやフラッシュROM、RAM等の記憶装置によって構成され、ベースバンド処理回路部65のシステムプログラムや、相関積算処理機能、位置/速度算出機能等を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0077】
記憶部655には、例えば、ビット反転パターンデータ6551と、衛星軌道データ6553と、ドップラー誤差6555とが記憶される。
【0078】
ビット反転パターンデータ6551は、受信信号のCAコードのビット反転のパターンが記憶されたデータである。ビット反転パターンデータ6551は、例えば位置算出システム1のアシストサーバーからアシストデータとして取得することができる。位置算出システム1を携帯型電話機に適用した場合は、携帯型電話機の基地局からアシストデータとして取得することもできる。
【0079】
ビット反転パターンデータ6551を用いることで、相関積算時間を長くして相関積算処理を行うことが可能となる。GPS衛星信号を変調するCAコードは、航法メッセージによって20ミリ秒毎にBPSK変調されている。そのため、相関積算時間が20ミリ秒を超える場合は、航法メッセージの極性反転に起因してCAコードの値が反転し、相関値の符号が変化することで、相関積算処理において相関値が相殺される問題がある。しかし、受信信号のビット反転パターンが既知であれば、相関値の符号を揃えて(調整して)積算することが可能となり、相関値が相殺することを防止することができる。
【0080】
衛星軌道データ6553は、全てのGPS衛星の概略の衛星軌道情報を記憶したアルマナックや、各GPS衛星それぞれについて詳細な衛星軌道情報を記憶したエフェメリス等のデータである。衛星軌道データ6553は、GPS衛星から受信したGPS衛星信号をデコードすることで取得したり、携帯型電話機の基地局やアシストサーバーから取得することができる。
【0081】
ドップラー誤差6555は、第2データバス90を介してドップラー誤差決定部11から取得されるドップラー誤差である。
【0082】
3.処理の流れ
3−1.ドップラー誤差決定部11の処理
図6は、処理部10のドップラー誤差決定部11が実行するドップラー誤差決定処理の流れを示すフローチャートである。
【0083】
先ず、ドップラー誤差決定部11は、ユニット情報を出力しているユニットを判定する(ステップA1)。そして、記憶部12の出力タイプ判定用テーブル125を参照して、各ユニットからの出力状態1251に対応付けられた出力タイプ1253を判定する(ステップA3)。
【0084】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、記憶部12のユニットデータ121に記憶されている各ユニット情報の履歴に基づいて、位置算出システム1の移動状態1273を判定する(ステップA5)。例えば、各ユニット情報の速度が停止相当速度(“0”又はこれに近い値)となっている場合は「停止」、等速速度条件(速度の時間変化が小さい状態が所定時間以上続く)を満たす場合は「等速」、加減速条件(速度の時間変化が急激である場合)を満たす場合は「加速/減速」と判断することができる。
【0085】
尚、各ユニット情報の履歴による判断が、互いに異なる判断結果となる場合は、前述した加重平均重みパターン1275と同様に、「停止」判断は、速度/方位センサー70,80のユニット情報を、「等速」判断は、GPSユニット60のユニット情報を、「加速/減速」判断は、INSユニット50のユニット情報を重視して行なうことも可能である。
【0086】
そして、ドップラー誤差決定部11は、記憶部12の加重平均重みパターンデータ127を参照し、ステップA3で選択した出力タイプ1271と、ステップA5で判定した移動状態1273とが対応付けられた加重平均重みパターン1275を選択する(ステップA7)。そして、ドップラー誤差決定部11は、速度誤差算出処理を行う(ステップA9)。
【0087】
図7は、速度誤差算出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、ドップラー誤差決定部11は、ステップA1で判定した各ユニットそれぞれについてループAの処理を実行する(ステップB1〜B19)。ループAの処理では、ドップラー誤差決定部11は、当該ユニットの種別を判定し(ステップB3)、当該ユニットがGPSユニット60である場合は(ステップB3;GPS)、次のユニットへと処理を移行する。本実施形態では、GPSユニット60はECEF座標系における速度及び速度誤差を出力するため、座標変換を行う必要はない。
【0088】
一方、当該ユニットが速度センサーユニット70である場合は(ステップB3;速度センサー)、ドップラー誤差決定部11は、方位センサーユニット80からの出力があるか否かを判定し(ステップB5)、あると判定した場合は(ステップB5;Yes)、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80の検出結果を用いて、ECEF座標系における速度誤差を算出する(ステップB7〜B15)。
【0089】
図8は、ECEF座標系における速度誤差を算出する原理を説明するための図である。図8において、横軸は東方向を正とする東西方向、縦軸は北方向を正とする南北方向を示している。位置算出システム1が搭載された移動体の進行方向の速度は速度センサーユニット70により検出され、その進行方向の方位は方位センサーユニット80により検出される。そこで、速度センサーユニット70により検出された速度を速度ベクトルの長さ(大きさ)とし、方位センサーユニット80により検出された検出方位を速度ベクトルの向きとする速度ベクトルを定義する。図8における速度ベクトルVがそれである。
【0090】
速度センサーユニット70から出力される検出速度の誤差は、この速度ベクトルVの向きに沿った方向の誤差であり、方位センサーユニット80から出力される検出方位の誤差は、この速度ベクトルVの向き(図8の座標原点を中心とする中心角、或いは、東西方向に対する成す角度)に対する誤差である。
【0091】
そこで、先ず、速度ベクトルVの終点を基準として、速度センサーユニット70から出力された検出速度の誤差の範囲L1を算出する(図7のステップB7)。この範囲L1は、位置算出システム1が搭載された移動体の前後方向(移動前方/後方方向)の誤差の範囲であるため、以下「前後方向の速度誤差範囲」と称する。
【0092】
次に、速度ベクトルVの向きを基準として、方位センサーユニット80から出力された検出方位の誤差の範囲に相当する速度ベクトルVの向きのズレ幅を算出する。このズレ幅は、速度ベクトルVの終点から速度ベクトルVの向きに直交する方向の範囲L2として算出される(図7のステップB9)。この範囲L2は、位置算出システム1が搭載された移動体の移動方向に対する左右方向の誤差の範囲であるため、以下「左右方向の速度誤差範囲」と称する。
【0093】
次いで、前後方向の速度誤差範囲「L1」と、左右方向の速度誤差範囲「L2」とのうち、値が大きい方の速度誤差範囲を対角線とする正方形の速度誤差領域Sを算出する(図7のステップB11)。図8においては、L1の方がL2よりも大きいため、L1を対角成分とする速度誤差領域Sが算出される。そして、算出した速度誤差領域Sの東西方向の長さを速度誤差の東西方向成分(E成分)、南北方向の長さを速度誤差の南北方向成分(N成分)として算出する(図7のステップB13)。尚、速度誤差の上下方向成分(U成分)については、例えば固定値を設定する。以上により、ENU座標系における速度誤差が求まる。
【0094】
このようにしてENU座標系における速度誤差を求めたら、座標変換演算を行って、ECEF座標系における速度誤差を算出する(図7のステップB15)。そして、次のユニットへと処理を移行する。
【0095】
一方、センサーユニットがINSユニット50であると判定した場合は(ステップB5;INS)、ドップラー誤差決定部11は、座標変換演算を行って、INSユニット50により検出されたENU座標系における速度誤差を、ECEF座標系における速度誤差に変換する(ステップB17)。そして、ドップラー誤差決定部11は、次のユニットへと処理を移行する。
【0096】
全てのユニットについてステップB3〜B17の処理を行った後、ドップラー誤差決定部11は、ループAの処理を終了する(ステップB19)。その後、ドップラー誤差決定部11は、各ユニットについて取得したECEF座標系における速度誤差を速度/速度誤差データ123として、記憶部12に記憶させる(ステップB21)。そして、ドップラー誤差決定部11は、速度誤差算出処理を終了する。
【0097】
図6のドップラー誤差決定処理に戻って、速度誤差算出処理を行った後、ドップラー誤差決定部11は、ステップA9で算出した速度誤差を用いて、ステップA7で選択した加重平均重みパターンに従って、(「INSユニット50の速度誤差」×α+「GPSユニット60の速度誤差」×β+「速度/方位センサーユニット70,80から求めた速度誤差」×γ)を計算することで、平均速度誤差を算出する(ステップA11)。
【0098】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、第2データバス90を介してGPSユニット60から衛星情報を取得するとともに、GPA15から統合端末情報を取得する(ステップA13)。そして、ドップラー誤差決定部11は、取得した衛星情報及び統合端末情報を用いて、位置算出システム1からGPS衛星への視線方向を算出する(ステップA15)。
【0099】
具体的には、位置算出システム1の統合端末位置(XU,YU,ZU)と、捕捉対象衛星の衛星位置(XSV,YSV,ZSV)とを用いて、次式(1)に従って観測行列「H」を算出する。観測行列は、位置算出システム1からGPS衛星への視線方向を表す行列である。
【数1】
【0100】
式(1)において、「range」は、位置算出システムの統合端末位置(XU,YU,ZU)と、GPS衛星の衛星位置(XSV,YSV,ZSV)との間の幾何学的距離であり、次式(2)で表される。
【数2】
【0101】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、ステップA15で算出した視線方向に対する平均速度誤差を求めることでドップラー誤差を算出する(ステップA17)。具体的には、ステップA15で算出した観測行列「H」を用いて、ドップラー誤差「σ」を次式(3)に従って算出する。
【数3】
式(3)において、「(Uσ,Vσ,Wσ)」は、それぞれECEF座標系における各軸方向の平均速度誤差である。
【0102】
次いで、ドップラー誤差決定部11は、ステップA17で算出したドップラー誤差「σ」をGPSユニット60に出力する(ステップA19)。そして、ドップラー誤差決定部11は、ドップラー誤差決定処理を終了する。
【0103】
3−2.GPSユニット60の処理
図9は、GPSユニット60の位置/速度算出部653が実行する位置/速度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0104】
先ず、位置/速度算出部653は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップC1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、記憶部655の衛星軌道データ6553を用いて判定して、捕捉対象衛星とする。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによってアシストサーバーから取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、最新の統合端末位置とする等の方法で設定できる。
【0105】
次いで、位置/速度算出部653は、ステップC1で判定した各捕捉対象衛星について、ループBの処理を実行する(ステップC3〜C11)。ループBの処理では、位置/速度算出部653は、衛星信号捕捉処理を行う(ステップC5)。
【0106】
図10は、衛星信号捕捉処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、位置/速度算出部653は、記憶部655に記憶されている衛星軌道データ6553に基づいて、当該捕捉対象衛星の衛星情報(衛星位置、衛星速度)を算出する(ステップD1)。また、位置/速度算出部653は、GPA15から統合端末情報(統合端末位置、統合端末速度)を取得する(ステップD3)。
【0107】
次いで、位置/速度算出部653は、ステップD1及びD3で取得した衛星情報及び統合端末情報をドップラー誤差決定部11に出力する(ステップD5)。これは、ドップラー誤差決定部11が当該捕捉対象衛星への視線方向を算出することを可能にするためである。
【0108】
また、位置/速度算出部653は、GPSユニット60に内蔵されたクロックのドリフトを取得する(ステップD7)。そして、位置/速度算出部653は、衛星速度と統合端末速度とクロックのドリフトとを用いて、当該捕捉対象衛星のドップラー周波数を決定する(ステップD9)。尚、ドップラー周波数の算出方法については従来公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0109】
次いで、位置/速度算出部653は、ステップD9で決定したドップラー周波数を考慮して、当該捕捉対象衛星の周波数サーチに使用するサーチ周波数を決定する(ステップD11)。具体的には、GPS衛星信号の搬送波周波数にドップラー周波数を加味した周波数をサーチ周波数に決定する。
【0110】
そして、位置/速度算出部653は、決定したサーチ周波数で衛星信号捕捉部651に当該捕捉対象衛星のGPS衛星信号の捕捉を実行させる(ステップD13)。そして、位置/速度算出部653は、衛星信号捕捉処理を終了する。
【0111】
図9の位置/速度算出処理に戻って、衛星信号捕捉処理を行った後、相関積算処理部6531が相関積算処理を行う(ステップC7)。
【0112】
図11は、相関積算処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、相関積算処理部6531は、相関積算値の次回出力時刻を設定する(ステップE1)。次回出力時刻は、任意の時刻(例えば、相関積算を開始してから4秒経過後の時刻)を設定することができる。そして、相関積算処理部6531は、内部のタイマーをリセット・スタートさせる(ステップE3)。
【0113】
次いで、相関積算時間決定部6533は、第2データバス90を介してドップラー誤差決定部11からドップラー誤差を取得する(ステップE5)。そして、相関積算時間決定部6533は、相関積算時間決定処理を行う(ステップE7)。
【0114】
ここで、本実施形態における相関積算時間を決定する方法の原理について説明する。本願発明者は、ドップラー誤差と、相関積算値と、相関積算時間との関係を求める実験を行った。
【0115】
図12は、実験結果から得られたドップラー誤差と、相関積算値と、相関積算時間との関係を示す図であり、相関積算時間をt(ミリ秒)として相関値を積算する処理を行った場合の相関積算値の変化を示すグラフである。ドップラー誤差Δfが無い(「0」である)場合は、ドップラー周波数fdに変動が生じないため、実際のサーチ周波数(=搬送波周波数fc+ドップラー周波数fd)も変動しない。しかし、ドップラー誤差Δfが有る(≠0)場合は、ドップラー周波数fdが想定していた周波数と異なるため、実際のサーチ周波数は、想定しているサーチ周波数から変動した周波数となる。
【0116】
相関値を積算する際には、周波数に対応する相関値を積算していく。ドップラー誤差Δfが有る(≠0)場合に積算していくと、積算の際に基準としている周波数が誤ってしまう。その結果、積算によって得られる最終的な相関積算値のピークの値は期待していた値よりも低い値となる。この相関積算値のピーク値の低減は、ドップラー誤差Δfの大きさが大きいほど、大きく低減する。図12のグラフが示す通りである。
【0117】
一方、相関積算時間tについても同様である。ドップラー誤差Δfが有る(≠0)場合、相関積算時間tが長ければ長いほど、最終的な相関積算値のピーク値は低減する。図12では分かり難いが、相関積算値(ピーク値)が「0」になってしまう場合のドップラー誤差Δfと、相関積算時間tとの関係から明らかである。
【0118】
すなわち、相関積算値が「0」になってしまう場合のドップラー誤差Δfは、1000/tで求められる。相関積算時間tが長いほど、ドップラー誤差Δfは小さくなる。このことは、相関積算時間tが長くなればなるほど、求められる最終的な相関積算値のピーク値は急激に低減してしまう(早期に「0」になってしまう)ことを意味する。従って、相関積算時間tを長く設定して相関積算を行うと、僅かなドップラー誤差であっても、相関積算値のピークの検出が困難になる。
【0119】
このことから、ドップラー誤差Δfが小さい場合は、相関積算時間tを長く設定し、ドップラー誤差Δfが大きい場合は、相関積算時間tを短く設定することが適切であると考えられる。そこで、本実施形態では、ドップラー誤差Δfを用いて、次式(4)に従って相関積算時間tを算出する。
【数4】
【0120】
式(4)によれば、ドップラー誤差Δfが大きいほど、相関積算時間tは短くなる。ドップラー誤差を2倍した値2Δfを用いて相関積算時間tを算出することにしたのは、図12に示したように、相関積算値(ピーク値)の山が観測されなくなるドップラー誤差の境界はΔf=1000/tであるため、相関積算時間をt=1000/Δfとして求めたのでは、相関積算値のピークの検出が困難になると考えられるためである。
【0121】
図11の説明に戻って、このようにして相関積算時間を決定したら、相関積算処理部6531は、相関器6511から出力される相関値を、決定した相関積算時間tで積算する相関積算を実行する(ステップE9)。そして、相関積算処理部6531は、今回の相関値を積算した時刻(以下、「今回積算時刻」と称す。)が出力時刻を越えているか否かを判定する(ステップE11)。
【0122】
ステップE11において越えていないと判定した場合は(ステップE11;No)、相関積算処理部6531は、今回積算時刻の相関積算値を最新の相関積算値(以下、「最新相関積算値」と称す。)に加算することで最新相関積算値を更新する(ステップE13)。そして、今回積算時刻で最新積算時刻を更新した後(ステップE15)、ステップE5に戻る。
【0123】
一方、ステップE11において今回積算時刻が出力時刻を越えていると判定した場合は(ステップE11;Yes)、相関積算処理部6531は、今回積算時刻と出力時刻との時刻差が最新積算時刻と出力時刻との時刻差よりも小さいか否かを判定する(ステップE17)。
【0124】
そして、小さいと判定した場合は(ステップE17;Yes)、今回積算時刻の相関積算値を最新相関積算値に加算することで最新相関積算値を更新する(ステップE19)。そして、相関積算処理部6531は、出力する相関積算値(以下、「出力相関積算値」と称す。)を最新相関積算値で更新する(ステップE21)。そして、出力相関積算値を記憶部655に記憶させて(ステップE23)、相関積算処理を終了する。
【0125】
図9の位置/速度算出処理に戻って、相関積算処理を行った後、位置/速度算出部653は、相関積算処理で求めた出力相関積算値に基づいて受信周波数及びコード位相を検出する(ステップC9)。そして、位置/速度算出部653は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0126】
全ての捕捉対象衛星についてステップC5〜C9の処理を行った後、位置/速度算出部653は、ループBの処理を終了する(ステップC11)。その後、位置/速度算出部653は、位置/速度算出計算を実行して、位置算出システム1の位置及び速度と、位置誤差及び速度誤差とを算出する(ステップC13)。
【0127】
位置算出計算は、例えば位置算出システム1と捕捉対象衛星間の擬似距離を利用して、例えば最小二乗法やカルマンフィルターを用いた公知の収束演算を行うことで実現することができる。また、速度算出計算は、例えば捕捉対象衛星から受信したGPS衛星信号の受信周波数の時間変化を利用して同様に公知の手法に基づいて実現することができる。
【0128】
そして、位置/速度算出部653は、算出した位置、位置誤差、速度及び速度誤差を、第2データバス90を介して処理部10に出力する(ステップC15)。そして、位置/速度算出部653は、処理を終了するか否かを判定し(ステップC17)、まだ処理を終了しないと判定した場合は(ステップC17;No)、ステップC1に戻る。
【0129】
また、処理を終了すると判定した場合は(ステップC17;Yes)、位置/速度算出部653は、位置/速度算出処理を終了する。
【0130】
3−3.GPA15の処理
図13は、GPA15が実行する位置/速度統合処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、GPA15は、第2データバス90を介して、INSユニット50及びGPSユニット60から位置を取得する(ステップF1)。また、ドップラー誤差決定部11から、各ユニットの速度を取得する(ステップF3)。
【0131】
次いで、GPA15は、ステップF1及びF3で取得した位置及び速度に対するフィルター処理を行う(ステップF5)。本実施形態では、カルマンフィルターを利用した位置及び速度の統合処理をフィルター処理として実行する。
【0132】
具体的には、INSユニット50の位置及び速度を、カルマンフィルターにおける状態(状態ベクトル)「X」として設定する。また、カルマンフィルターにおける外部観測量とする観測値「Z」を、GPSユニット60から取得した位置及び速度と、速度/方位センサーユニット70,80から求めた速度とする。そして、状態「X」を予測する予測演算と、予測された状態「X」を観測値「Z」を用いて補正する補正演算とを行う。そして、補正演算で補正された状態「X」に含まれる位置及び速度を、統合された端末位置及び端末速度に決定する。
【0133】
次いで、GPA15は、フィルター処理で統合された統合端末位置及び統合端末速度を統合端末情報として、ドップラー誤差決定部11に出力するとともに、第2データバス90を介してGPSユニット60に出力する(ステップF7)。そして、GPA15は、位置/速度統合処理を終了する。
【0134】
4.作用効果
位置算出システム1において、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度と、センサーユニットの一種である速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度とがGPA15により統合されて、位置算出システム1の速度が算出される。また、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80により検出された速度誤差とを用いて、ドップラー誤差決定部11によりドップラー誤差が決定される。
【0135】
そして、GPSユニット60において、GPA15により決定された速度を用いてドップラー周波数が決定されるとともに、ドップラー誤差決定部11により決定されたドップラー誤差を用いて、相関処理を行う際の相関積算時間が決定される。そして、INSユニット50及びGPSユニット60により算出された位置がGPA15により統合されて、位置算出システム1の位置が算出される。
【0136】
位置算出システム1は移動するため、その移動に伴うドップラーの影響を無視することはできない。この場合のドップラー周波数は、位置算出システム1の速度を用いて予想することができるが、位置算出システム1の移動状態等により、想定されるドップラー周波数は変動する。本実施形態では、このドップラー周波数の変動量を、位置算出システム1の速度誤差を用いてドップラー誤差として算出する。そして、算出したドップラー誤差を用いて相関積算時間を決定する。これにより、ドップラー周波数の変動を考慮した適切な相関積算時間を決定して相関処理を行うことが可能となる。
【0137】
より具体的には、各ユニットからのユニット情報の出力状態と、位置算出システム1の移動状態とに基づいて、各ユニットの速度誤差を加重平均する際の重みのパターンである加重平均重みパターンを選択する。そして、選択した加重平均重みパターンを用いて各ユニットからの速度誤差を加重平均して、平均速度誤差を算出する。そして、GPS衛星信号を発信するGPS衛星への視線方向を求め、求めた視線方向に対する平均速度誤差をドップラー誤差として算出する。
【0138】
各ユニットがユニット情報を検出・出力可能な状態であるか否かといった要素や、位置算出システム1の移動状態といった要素に応じて、何れのユニットから出力されたユニット情報を重視・信頼すべきであるかが変化する。そのため、これらの要素に応じて各ユニットの速度誤差の重みを可変にして加重平均を行うことで、ドップラー誤差をより正確に求めることが可能となる。
【0139】
例えば、トンネル内等のGPS衛星信号を受信することができない環境下に位置算出システム1が位置している場合は、GPSユニット60のユニット情報を利用することができないため、速度の算出精度は低下し、速度誤差は次第に大きくなっていく。この場合、ドップラー誤差が大きくなるため、式(4)により相関積算時間は短くなる。しかし、図12で示したように、相関積算時間を短くすると、ドップラー誤差が大きな値であっても相関積算値のピークの検出が可能になる。そのため、位置算出システム1がトンネルを抜けてGPS衛星信号を受信可能な状態に復帰した場合に、GPS衛星信号の捕捉を迅速且つ適切に行うことが可能となる。
【0140】
また、GPSユニット60は、相関積算処理において、相関積算時間が経過する時刻を積算時刻とし、各積算時刻において相関積算値を合算していくことで相関処理を行う。そして、今回の積算時刻が相関積算値の出力時刻(例えば4秒毎の時刻)を越えている場合は、今回の積算時刻と出力時刻との時刻差と、前回の積算時刻と出力時刻との時刻差の大小を判定し、時刻差の小さい方の積算時刻を、相関積算値の合算の終了時刻に決定する。
【0141】
本実施形態では、ドップラー誤差を用いて相関積算時間が決定されるため、相関積算時間は一定の値ではなく、ばらばらの値となる。そのため、予め定められた相関積算値の出力タイミングと、相関積算時間の積算タイミングとが必ずしも一致するとは限らない。そこで、相関積算値の出力時刻に最も近い積算時刻が相関積算値の合算の終了タイミングとなるように調整することとした。
【0142】
尚、本実施形態では、ドップラー周波数の変動量を「ドップラー誤差」と定義して説明を行ったが、ドップラー周波数の変動量をドップラー周波数の精度という意味で「ドップラー精度」と定義することにしてもよい。他の「誤差」も同様に「精度」ということもできる。
【0143】
5.変形例
5−1.ユニットの種類
位置算出システム1に搭載可能なユニットは、上述したユニットに限られるわけではない。例えば、位置や速度の算出に利用可能な物理的事象を検出可能なユニットとして、加速度センサーユニット、ジャイロセンサーユニット等のセンサーユニットを組み込むことも可能である。また、RFID(Radio Frequency IDentification)を用いて位置を検出するユニットを位置検出ユニットとして組み込むことも可能である。
【0144】
図14は、この変形例における位置算出システム2の構成の一例を示すブロック図である。位置算出システム2は、INSユニット50の代わりにIMU51を搭載したシステムである。尚、図14において、先に説明した実施形態と同様の構成部分については、先に説明した図1と同様の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0145】
位置算出システム2では、INSユニット50の代わりに、IMU51が具備されている。また、処理部10には、IMU51から出力されるユニット情報を用いて位置及び速度と、位置誤差及び速度誤差とを算出するIMU位置/速度算出部13が設けられている。この場合、ドップラー誤差決定部11は、IMU位置/速度算出部13により算出された速度誤差と、GPSユニット60により算出された速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80の検出結果から算出される速度誤差とを用いてドップラー誤差を算出・決定する。また、位置/速度統合処理部15は、GPSユニット60から出力される位置及び速度と、速度/方位センサーユニット70,80から出力される速度と、IMU位置/速度算出部13により算出される位置及び速度とを統合して統合端末情報を算出する。
【0146】
尚、速度センサーユニット70及び方位センサーユニット80を省略し、IMU位置/速度算出部13により算出された速度誤差と、GPSユニット60により算出された速度誤差とを用いてドップラー誤差を算出することとしてもよい。また、この場合は、IMU位置/速度算出部13により算出された位置及び速度と、GPSユニット60により算出された位置及び速度とを統合して統合端末情報を算出する。
【0147】
5−2.ユニットの座標系
また、上述した実施形態では、INSユニット50には算出座標系としてENU座標系が割り当てられており、GPSユニット60には算出座標系としてECEF座標系が割り当てられているものとして説明したが、この座標系の割り当ては適宜設定変更可能である。例えば、ECEF座標系における位置及び速度を算出するようにINSユニット50を設計することも可能である。何れにしても、座標変換演算を行うことで、座標系を統一して位置及び速度を算出することができる。
【0148】
5−3.速度誤差の相対値に応じた加重平均の重みの変更
INSユニット50の速度誤差と、GPSユニット60の速度誤差と、速度/方位センサーユニット70,80の速度誤差との相対値に応じて、速度誤差を加重平均する際の重みを変更することにしてもよい。
【0149】
図15は、この場合における加重平均重みパターンデータのデータ構成の一例を示す図である。尚、説明の簡明化のため、各ユニットの出力タイプについては図示を省略し、移動状態別の加重平均重みパターンを図示している。
【0150】
この加重平均重みパターンデータでは、予め各ユニットに定められた値に、各ユニットの速度誤差で正規化されたパラメーター値を乗算した値を重みとするパターンが定められている。但し、INSユニット50の速度誤差を「σi」、GPSユニット60の速度誤差を「σg」、速度/方位センサーユニット70,80の重みを「σs」として図示している。各ユニットの速度誤差の相対値を加味して加重平均の重みを設定することで、ドップラー誤差をより正確に求めることができる。
【0151】
5−4.ドップラー誤差の算出
上述した実施形態では、各ユニットの速度誤差を加重平均して平均速度誤差を算出し、この平均速度誤差を用いてドップラー誤差を算出するものとして説明したが、このドップラー誤差の算出方法はあくまでも一例である。
【0152】
例えば、加重平均ではなく、単純な算術平均を用いて平均速度誤差を算出し、この平均速度誤差を用いてドップラー誤差を算出してもよい。また、各ユニットから出力された速度誤差のうち値が最も小さい速度誤差を選択し、選択した速度誤差を用いてドップラー誤差を算出してもよい。
【0153】
5−5.相関積算時間の決定
上述した実施形態では、式(4)に従って相関積算時間を算出するものとして説明したが、例えば図16に示すように、ドップラー誤差と相関積算時間との対応関係を定めたテーブルを用意しておいてもよい。そして、ドップラー誤差決定部11により決定されたドップラー誤差に対応付けられた相関積算時間をテーブルから読み出して、相関積算時間を決定することとしてもよい。
【0154】
5−6.位置/速度統合処理
上述した実施形態では、GPA15が実行する位置/速度統合処理において、GPSユニット60の算出結果を観測値として利用してカルマンフィルターを利用したフィルター処理を行うものとして説明したが、INSユニット50の算出結果を観測値としてカルマンフィルターを利用したフィルター処理を行ってもよい。
【0155】
5−7.フィルター処理
また、上述した実施形態では、カルマンフィルター処理によって位置を算出する例を説明したが、使用するフィルターとして、Particleフィルター(粒子フィルター)、Sigmaポイントフィルター(シグマポイントフィルター)、最小二乗法によるフィルター等を採用し、これらのフィルターを用いたフィルター処理を行って位置/速度を統合してもよい。
【0156】
5−8.位置算出ユニット
また、上述した実施形態では、位置算出ユニットとしてGPSユニットを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムを利用した位置算出ユニットであってもよい。
【符号の説明】
【0157】
1 位置算出システム、 10 処理部、 11 ドップラー誤差決定部、 13 IMU位置/速度算出部、 15 位置/速度統合処理部(GPA)、 20 入力部、 30 表示部、 40 通信部、 45 第1データバス、 50 INSユニット、 51 IMU、 60 GPSユニット、 70 速度センサーユニット、 80 方位センサーユニット、 90 第2データバス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットとを用いて位置を算出する位置算出方法であって、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出することと、
前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出することと、
前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定することと、
前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定することと、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
前記判定速度の誤差を算出することは、前記衛星信号を発信する測位用衛星への視線方向に対する前記判定速度の誤差を算出することを含む、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記判定速度の誤差を算出することは、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを加重平均することを含む、
請求項1又は2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記加重平均することは、移動状態に応じて前記加重平均の重みを変更することを含む、
請求項3に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記加重平均することは、前記位置算出ユニットが位置算出可能な状態か否か、及び、前記センサーユニットが検出可能な状態か否か、に応じて前記加重平均の重みを変更することを含む、
請求項3又は4に記載の位置算出方法。
【請求項6】
前記加重平均することは、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差との相対値に応じて前記加重平均の重みを変更することを含む、
請求項3〜5の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項7】
前記位置算出ユニットは、前記相関積算時間が経過する毎に相関積算値を合算していくことで前記相関処理を行い、且つ前記相関処理を行って位置を算出する処理を所定の時間間隔で行うユニットであり、
前記所定の時間間隔と前記相関積算時間とに基づいて、1回の前記相関処理における前記相関積算値の合算の終了タイミングを調整することと、
を更に含む請求項1〜6の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項8】
衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、
少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットと、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出する判定速度算出部と、
前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出する誤差算出部と、
前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定するドップラー周波数決定部と、
前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定する相関積算時間決定部と、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出する位置算出部と、
を備えた位置算出システム。
【請求項1】
衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットとを用いて位置を算出する位置算出方法であって、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出することと、
前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出することと、
前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定することと、
前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定することと、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出することと、
を含む位置算出方法。
【請求項2】
前記判定速度の誤差を算出することは、前記衛星信号を発信する測位用衛星への視線方向に対する前記判定速度の誤差を算出することを含む、
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記判定速度の誤差を算出することは、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを加重平均することを含む、
請求項1又は2に記載の位置算出方法。
【請求項4】
前記加重平均することは、移動状態に応じて前記加重平均の重みを変更することを含む、
請求項3に記載の位置算出方法。
【請求項5】
前記加重平均することは、前記位置算出ユニットが位置算出可能な状態か否か、及び、前記センサーユニットが検出可能な状態か否か、に応じて前記加重平均の重みを変更することを含む、
請求項3又は4に記載の位置算出方法。
【請求項6】
前記加重平均することは、前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差との相対値に応じて前記加重平均の重みを変更することを含む、
請求項3〜5の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項7】
前記位置算出ユニットは、前記相関積算時間が経過する毎に相関積算値を合算していくことで前記相関処理を行い、且つ前記相関処理を行って位置を算出する処理を所定の時間間隔で行うユニットであり、
前記所定の時間間隔と前記相関積算時間とに基づいて、1回の前記相関処理における前記相関積算値の合算の終了タイミングを調整することと、
を更に含む請求項1〜6の何れか一項に記載の位置算出方法。
【請求項8】
衛星信号を受信した受信信号に対する相関処理を行って前記衛星信号を捕捉して位置及び速度を算出する位置算出ユニットと、
少なくとも速度を検出可能なセンサーユニットと、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて判定した速度である判定速度を算出する判定速度算出部と、
前記位置算出ユニットによる算出誤差と前記センサーユニットによる検出誤差とを用いて、前記判定速度の誤差を算出する誤差算出部と、
前記位置算出ユニットが前記衛星信号をサーチするサーチ周波数を決定する際に用いるドップラー周波数を、前記判定速度を用いて決定するドップラー周波数決定部と、
前記位置算出ユニットが前記相関処理を行う際の相関積算時間を、前記判定速度の誤差を用いて決定する相関積算時間決定部と、
前記位置算出ユニットによる算出結果と前記センサーユニットによる検出結果とを用いて位置を算出する位置算出部と、
を備えた位置算出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−128138(P2011−128138A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220171(P2010−220171)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2009−288180(P2009−288180)の分割
【原出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2009−288180(P2009−288180)の分割
【原出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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