説明

低いゲル化温度を有する電解質組成物及びそれを用いた電子デバイスの製造方法

【課題】低いゲル化温度を有する電解質組成物の提供。
【解決手段】アクリロニトリル系共重合体である電解質ゲル化剤;及びニトリル系溶媒を含む液体電解質を含み、更に好ましくは金属ヨウ化物塩、ヨウ素、添加剤又はそれらの組み合わせを含む低いゲル化温度を有する電解質組成物。該電解質組成物を用いた電子部品、該電子部品が色素増感太陽電池である、の製造方法。低いゲル化温度は、電解質組成物が加熱行程なしでゲル化できることを意味し、得られる太陽電池中で良好な光起電力性能が維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物及びそれを用いた電子デバイスの製造方法に関し、さらに詳しくは、低い温度でゲル化するのに適した電解質組成物及びそれを用いた電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造コスト及び価格が比較的に安価であるため、工業界及び研究者らは、最近、液体電解質を含む色素増感太陽電池(DSSC)に焦点を当てている。しかしながら、そのような太陽電池は、シールのための技術的困難性及び適用された液体電解質のオーバーフローなど多くの欠点を有する。
【0003】
現在、研究者らはゲル電解質の応用の可能性を報告している。しかしながら、そのイオン導電度を促進するためのDSSCにおけるゲル電解質の応用の際の障壁が克服されなければならない。一般に、ポリマーがゲル化剤として使用される。しかしながら、ポリマー中の架橋度が増すにつれ、単量体間の結合の回転及び捩じれが困難になる。従って、ゲル電解質のイオン導電度は液体電解質のそれよりはるかに低い。
【0004】
最近、ゲル電解質において通常使用される、3−メトキシアセトニトリルのような溶媒は高い沸点及び低い揮発性を有する。それにも拘わらず、溶媒及びゲル化剤の間の相互作用は弱く、従って、その中にゲル化剤を溶解するために電解質の加熱が実行されなければならない(80℃以上で)。加えて、電解質中にゲル化剤を溶解し、そして混合物を良好な流動性に保持するために高温は役に立つため、高温は電解質を電池内に注入するためにも役立ち、ここで注入された電解質は次いでゲル電解質に変換される。
【0005】
しかしながら、電池が高温に予熱される場合、染料が脱着し又は劣化する可能性がある。また、高い沸点を有する溶媒は一般に高い粘度を有し、そのため生産された電解質が電池内部の多孔質ナノフィルムの孔内へ浸透することを非常に困難にする。これは電解質及び電極の間の接触を劣化させる結果となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、適切な電解質ゲル化剤及び適切な有機溶媒が液体電解質中に組込まれた、低いゲル化温度を有する電解質組成物を提供することである。例えば、電解質ゲル化剤として働くアクリロニトリル系共重合体が、液体電解質の溶媒として使用されるニトリル系溶媒と組み合わされ、その結果、共重合体のアクリロニトリル及びニトリル系溶媒の間で相互作用が起こる。この組成物がDSSCの電解質として適用される場合、この電解質は良好な流動性を示すことができ、そして液体電解質中の溶質は加熱工程なしで望ましい溶解度を示すことができる。更に、この電解質はゲル電解質を形成するためにしばらく放置することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本目的を達成するために、本発明は、アクリロニトリル系共重合体である電解質ゲル化剤;及びニトリル系溶媒を含む液体電解質;を含む、低いゲル化温度を有する電解質組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記電解質組成物はDSSCの電解質として用いることができる。低いゲル化温度は、電解質組成物が加熱工程なしでゲル化できることを意味する。一般に、低いゲル化温度は、室温又は0度以下の室温をも意味する。例えば、低いゲル化温度は、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃及び45℃のような0〜50℃の範囲にあり得る。
【0009】
電解質ゲル化剤の選択について述べると、本試薬には以下の特性が要求される:(1)液体電解質中に溶解できること;(2)本試薬の分子間で十分に相互作用してゲル化を誘起すること;及び(3)低い抵抗又は荷電輸送のよい助けにさえなること。本発明は加熱工程なしで低温にて電解質組成物をゲル化させようとするため、電解質ゲル化剤として働くアクリロニトリル系共重合体は、液体電解質の溶媒として働くニトリル系溶媒と組合わされて、共重合体のアクリロニトリルとニトリル系溶媒の間の相互作用を誘導してニトリル系溶媒の揮発性を低減する。従って、上述の性能を達成するために、電解質は十分な量のアクリロニトリル系共重合体を含有することが必要となる。また、アクリロニトリル系共重合体は、液体電解質中でその本来のニトリル基を保持できて、塩をよりよくイオン化させて高いイオン伝導性を提供する。従って、得られる太陽電池中で良好な光起電力性能が維持することができる。
【0010】
本発明において、もし電解質組成物においてより多くのニトリル系溶媒が使用されるならば、より多くのアクリロニトリル系共重合体、又はアクリロニトリルのより高い比率を有するアクリロニトリル系共重合体を使用する必要がある。例えば、もし、電解質組成物中で電解質ゲル化剤の量が3〜9重量パーセントであれば、アクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリル量は85重量パーセント以上かつ100重量パーセント未満であり得る。電解質ゲル化剤の量は、電解質組成物において、例えば、3.5重量パーセント、4重量パーセント、4.5重量パーセント、5重量パーセント、5.5重量パーセント、6重量パーセント、6.5重量パーセント、7重量パーセント、7.5重量パーセント、8重量パーセント、及び8.5重量パーセントであり得て、好ましくは5〜9重量パーセント、そしてより好ましくは7〜9重量パーセントである。アクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリルの量は、例えば、87重量パーセント、91重量パーセント、94重量パーセント、97重量パーセント、99重量パーセントであり得て、好ましくは87〜97重量パーセント、そしてより好ましくは89〜95重量パーセントである。加えて、使用されるアクリロニトリル系共重合体の数平均分子量は約250,000〜750,000の範囲にある。例えば、その数平均分子量は200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、及び800,000であり得る。
【0011】
従って、本発明に適するアクリロニトリル系共重合体は、実質的に、主単量体として用いられるアクリロニトリル及びマイナー単量体として働く他のものによって構成される。アクリロニトリルが主要成分として働く場合、重合によって形成される共重合体は多くのニトリル基(高い電気陰性度)を有し得て、そのためニトリル基及びリチウムカチオンは容易に結合して複合ポリマーを形成し、その結果、溶媒中へのポリマーの溶解が促進される。一方、アニオンの解離もその電荷輸送を増大させるために向上される。
【0012】
本発明において使用されるマイナー単量体のポリマーは、ポリアクリロニトリルのそれよりも低いガラス転移温度(Tg)を有する。従って、共重合体全体のTgをゲル化に利するように下げることができる。例えば、マイナー単量体は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ビス(メトキシエトキシエトキシド) ホスファゼン、ジメチルシロキサン、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、又はそれらの共重合体があり得る。
【0013】
本発明の一つの態様において、ポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)は上述の電解質組成物のアクリロニトリル系共重合体として使用される。ポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)において、アクリロニトリル単量体の量は87〜97重量パーセントであり、そして酢酸ビニルのそれは3〜13重量パーセントである。しかしながら、もし、上述の他の単量体がマイナー単量体として使用されるならば、主単量体及びマイナー単量体の間の比率は、当業界の常識に基づいて調節することができ、前述の範囲において限定されるものではない。
【0014】
前述の電解質組成物において、本発明は、低粘度(つまり、良好な流動性又は浸透性)、低蒸気圧(つまり、低揮発性)、適切なドナー数(DN、つまり溶媒と電解質におけるイオン濃度の間のバランス能力)、染料の高い脱着困難性(つまり、電極の安定性維持)などの特性を有するニトリル系溶媒を選択する。
【0015】
ニトリル系溶媒はR−CNとして表すことができ、ここでRはC1−5アルキル、C2−4アルケニル、C2−4アルキニル、又は−R−O−Rであり、ここでR及びRは独立してC1−4アルキル、C2−3アルケニル、又はC2−3アルキニルであり、そしてR及びRの合計炭素数は6未満である。加えて、RがCアルキルであるとき、Cアルキル中の炭素原子の一つは第三級であり得る。
【0016】
ニトリル系溶媒は、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、 2−メトキシプロピオニトリル、ペンタノニトリル、 ヘキサノニトリル、又はそれらの組み合わせであり得る。また、ニトリル系溶媒は溶媒混合物であり得る。例えば、ニトリル基を有する溶媒が主要溶媒として用いられ、そしてマイナー溶媒として働く別の溶媒と組み合わされる。それらの組み合わせにおいて、主要溶媒は80容量パーセント以上100容量パーセント未満の量で使用することができ、そしてマイナー溶媒は0容量パーセントより多く20容量パーセント以下の量で使用することができる。好ましくは、主要溶媒は90容量パーセント以上100容量パーセント未満の量で使用され、そしてマイナー溶媒は0容量パーセントより多く10容量パーセント以下の量で使用することができる。マイナー溶媒は、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフィド、テトラヒドロフラン、炭酸ジエチル、 3−メトキシプロピオニトリル又はそれらの組み合わせであり得る。もし、溶媒の混合物が使用されるならば、混合物中の溶媒の比率は、電解質組成物のゲル化に対して要求される放置時間を制御するために調節することができる。
【0017】
上述の電解質組成物がDSSCsに適用されるとき、それは金属ヨウ化物塩、ヨウ素、添加剤又はそれらの組み合わせを更に含む。I/Iのレドックス対を形成するためのLiI及びIの組合せは、金属ヨウ化物塩として例示することができるが、上記レドックス対を形成するためにヨウ素と組合すことができるヨウ化物は、ヨウ化リチウムに制限されるものではない。添加剤は、4−tert−ブチルピリジン(TBP)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・チオシアナート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ジシアナミド、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム・トリシアノメタニド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム・ヨージド(DMPII)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ヨージド(EMII)、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム・ヨージド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヨージド、1−ヘキシル−3−プロピルイミダゾリウム・ヨージド、1−ブチル−1−メチルイミダゾリウム・ヨージド、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0018】
更に、本発明の別の目的は電子部品の製造方法を提供することである。本方法においては、上述の電解質組成物が使用される。全ての製造において、加熱工程は実施されず、そして電解質組成物は良好な流動性を維持でき、かつ容易に電子部品内に注入することができる。続いて電解質のゲル化が成功裏に起こり得る。
【0019】
本発明の方法は以下の工程を含む:第一基板及び第二基板を提供すること、ここで第一電極が第一基板の表面上に配置され、そして第二電極が第二基板の表面上に配置される;低いゲル化温度を有する電解質組成物を、第一及び第二基板の間に注入して、電子部品を形成すること、ここで低いゲル化温度を有する電解質組成物が第一及び第二電極の間に挿入され、そして0〜50℃の温度でゲル化する;及び電子部品をシールすること、ここで低いゲル化温度を有する電解質組成物が、アクリロニトリル系共重合体である電解質ゲル化剤及びニトリル系溶媒を含む液体電解質を含む。
【0020】
前述の方法において、電子部品は色素増感太陽電池(DSSC)である。一般に、DSSCのような電子デバイスにおいて従来のゲル電解質が適用される場合、電解質がDSSC中の酸化チタンの孔内に好ましく浸透できるように、ポリマーの全ての溶解及び高流動性(低粘度)を確保するために、加熱工程を実施することが必要である。加熱工程は通常80〜140℃で実行することができる。もし、加熱工程における温度が高すぎる場合、電解質中に使用される溶媒が容易に蒸発するであろう。しかしながら、もし、加熱温度が十分でないと、電解質の十分な流動性が保証されないであろう。加えて、熱撹拌、ドクターブレード法、真空下での架橋などによってゲル電解質を作ることができる。それにも拘わらず、そのような方法は複雑であり、かつ長い時間及び高コストを要し、かつあまりにも高い温度のため溶媒の蒸発も生じるかもしれない。
【0021】
対照的に、本発明の電解質組成物は、加熱工程なしでその高い流動性を維持することができ、そしてポリマーはその中に完全に溶解することができる。従って、電解質組成物中にポリマーの未溶解沈殿物は存在しない。結論として、本発明の電解質組成物は、関連するコストを削減するように、電子部品の製造方法を簡略化するために使用することができ、かつ従来の製造方法において要求される加熱装置を省くことができる。
【0022】
本発明の他の目的、利点及び新規特徴は、添付図面と関連させることで、以下の詳細な記述からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の応用実施例1において製造されたDSSCの構造の斜視図である。
【図2】本発明の実施例1及び応用実施例1〜3において製造されたDSSCのI−V曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施を説明する具体的な実施態様の故に、その中に開示された内容を通して、当業者は本発明のその他の利点及び有効性を容易に理解することができる。本発明は他の種々の実施態様によっても実施又は適用することができる。異なる見解及び適用に基づく、本明細書における如何なる詳細部分の多くの他の可能な修正及び変更も、本発明の精神を逸脱することなく行うことができる。
【0025】
本発明における実施態様の図は全て簡略化されたチャート又は図であり、そして単に本発明に関する要素を示すものである。図において示された要素は必ずしも実施の態様ではなく、そしてその量及び形は任意に設計される。更に、要素の設計態様はもっと複雑な物でもあり得る。
[実施例1]
【0026】
ポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)(poly(AN−co−VA))を電解質ゲル化剤として調製した。この共重合体における主単量体としての機能を果たすアクリロニトリル単量体は92重量パーセントの量であり、そしてマイナー単量体として用いられた酢酸ビニルは8重量パーセントの量であった。共重合体の数平均分子量は250,000であった。
【0027】
ヨウ化リチウム(LiI、0.1M)、ヨウ素 (I、0.05M)、イオン性液体(DMPII、0.6M)、及び添加剤(TBP、0.5M、96%)をそれぞれ適当量取り込み、アセトニトリルに溶解させ、その中でI/Iがレドックス対として働く液体電解質を形成した。
【0028】
上記調製された液体電解質中に、25℃でpoly(AN−co−VA)(7重量パーセント)を溶解させ、そして完全に溶解されるまで200rpmで均一に撹拌し続けた。低いゲル化温度を有するこの電解質組成物を室温で20日間放置し、次いでゲル電解質に変換させた。
[実施例2]
【0029】
本実施例においては、実施例1におけるアセトニトリルを、液体電解質の溶媒として働くプロピオニトリル(PN)に置き替えた。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[実施例3〜7]
【0030】
実施例1におけるアセトニトリルを、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)に対するアセトニトリルの容積比が各々70/30、60/40、50/50、30/70及び26/74である、実施例3〜7の溶媒混合物で置き替えた。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[実施例8及び9]
【0031】
実施例1におけるアセトニトリルを、バレロニトリル(VCN)に対するアセトニトリルの容積比が各々85/15及び70/30である、実施例8及び9の溶媒混合物で置き替えた。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[比較例1]
【0032】
この比較例においては、実施例1におけるアセトニトリルを、液体電解質の溶媒として働く3−メトキシプロピオニトリル(MPN)で置き替えた。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
【0033】
加熱工程を実行しなかったため、本比較例の液体電解質において多くの溶質が溶解されなかった。液体電解質を室温で長い時間放置したものの、それはゲル電解質に変換されなかった。
[比較例2]
【0034】
この比較例においては、液体電解質の溶媒としてアセトニトリルが使用されたが電解質ゲル化剤は添加されなかった。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[比較例3]
【0035】
この比較例においては、液体電解質の溶媒としてMPNが使用されたが電解質ゲル化剤は添加されなかった。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[比較例4]
【0036】
この比較例においては、実施例1におけるアセトニトリルを、VCNに対するアセトニトリルの容積比が50/50である溶媒混合物で置き替えた。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[比較例5]
【0037】
この比較例においては、実施例1におけるアセトニトリルを、VCNに置き替えた。他の成分及び製造プロセスは実施例1のものと同じであった。
[応用実施例1]
【0038】
従来技術に従って、図1を参照してDSSCを組み立てた。図1に示される通り、本DSSCは第一基板10及び第二基板20を含んでいた。第一基板10はその表面上に第一電極11を有していた。第一電極11の表面上に触媒層12が形成された。第二基板20はその表面上に第二電極21を有していた。第二電極21の表面上にTiOを塗布して多孔質ナノフィルム23を形成した。感光性染料24を多孔質ナノフィルム23上に張り付けた。本応用比較例においては、第一基板10及び第二基板20の両方がガラス基板であった。第一電極11及び第二電極12はフッ素がドーピングされた酸化チタン(FTO)膜であった。触媒層12は白金膜であった。また、TiOの粒子サイズは約25ナノメーター(通常の使用においては10〜50ナノメーター)であった。感光性染料24はN719であった。しかしながら、電極材料、TiOの粒子サイズ及び感光性染料の種類はこれらに制限されるものではない。
【0039】
実施例1の製造方法に従って、低いゲル化温度を有する電解質組成物を作成した。電解質組成物30を第一基板10及び第二基板20の間の隙間に注入し、そのようにして第一電極11及び第二電極12の間にそれを挿入した。DSSCが形成されそしてシールされた。本DSSCにおいては、電解質組成物が25℃で成功裏にゲル化できた。
【0040】
実施例1の電解質組成物30が良好な流動性を示したため、電解質組成物30の注入中に、第一基板10及び第二基板20の間に気泡は形成されなかった。
[応用比較例1]
【0041】
本応用比較例の方法は応用実施例1のものと同様であるが、実施例1の電解質組成物を比較例1のものに置き換えた。また、比較例1の電解質組成物を均一に撹拌するとき、その中の溶質が完全に溶解できるように、同時にそれを110℃に加熱した。更に、加熱された電解質が冷却されなかったとき、それを第一基板10及び第二基板20の間に注入した。比較例1の電解質組成物が完全に冷却された後、それはゲル電解質に変換された。
【0042】
比較例1の電解質組成物は高粘度かつ低流動性を示したため、比較例1の電解質組成物の注入中に、第一基板10及び第二基板20の間に多くの気泡が形成された。
[応用比較例2]
【0043】
本応用比較例の方法は応用実施例1のものと同様であるが、実施例1の電解質組成物を比較例2の液体電解質に置き換えた。
[応用比較例3]
【0044】
本応用比較例の方法は応用実施例1のものと同様であるが、実施例1の電解質組成物を比較例3の液体電解質に置き換えた。
[試験実施例1]
【0045】
実施例1及び2、並びに比較例1の電解質を、ゲル化に要する放置時間及びポリマーが溶解する温度について解析した。結果を下表1にまとめてある。
【0046】
【表1】

【0047】
上記に記載した表1に示される通り、溶媒の炭素数がゲル化のための放置時間に実際に影響する。溶媒の炭素数が2から4に増加すると、ゲル化のための放置時間が480時間から0.01時間に減少する。溶媒の炭素数が3のとき、ゲル化のための放置時間は、たった1.5時間しか必要としない。また、溶媒の炭素数はゲル化剤及び溶媒の間の相互作用にも影響する。従って、ポリマーが液体電解質中に溶解される温度は、溶媒の炭素数が増えるほど高くなる。
[試験実施例2]
【0048】
実施例1、3及び9、並びに比較例1,3及び4の電解質を、ゲル化に要する放置時間及び電解質が流動する温度について解析した。結果を下表2にまとめてある。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示される通り、アセトニトリル及びゲル化中のポリマーの間に比較的強い相互作用があるため、ゲル化のための放置時間は480時間までもの時間が必要になる。しかしながら、ゲル化のための放置時間は、電解質中の共溶媒として第二溶媒を添加することによって調整することができる。従って、バレロニトリル(VCN)及び3−メトキシプロピオニトリル(MPN)の両者を共溶媒として用い、そしてアセトニトリルと混合して、溶媒混合物を形成した。混合物中の溶媒の比率及び種類は、ゲル化のための放置時間及び電解質の流動温度に影響を与えることができる。MPN又はVCNの比率が増すと、ゲル化のための放置時間が低下し、従って流動温度が上昇する。
[試験実施例3]
【0051】
実施例1及び比較例1〜3で得られた電解質の各イオン伝導度を測定した。更に、それらの光起電力特性も調べた。その結果を下表3及び図2に示す。図2は実施例1及び比較例1〜3のDSSCのI−V曲線を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3及び図2に示される通り、液体電解質が使用された応用比較例2(溶媒としてアセトニトリル)及び3(溶媒としてMPN)の光起電力変換効率は、各々9.04%及び8.36%であった。ゲル電解質が使用された、応用実施例1(溶媒としてアセトニトリル)及び応用比較例1(溶媒としてMPN)の光起電力変換効率は、各々9.03%及び8.23%であった。従って、ゲル電解質が使用された、応用実施例1及び応用比較例1の光起電力変換効率は、液体電解質が使用された応用比較例2及び3のそれらの約97%及び95%であった。
【0054】
更に、応用実施例1(溶媒としてアセトニトリル)のゲル電解質を応用比較例1(溶媒としてMPN)のゲル電解質と比較すると、応用実施例1のFFが、応用比較例1FFの0.65よりも高い0.73に達することが分かる。つまり、アセトニトリルの溶媒系におけるイオン拡散はMPN系の溶媒におけるそれよりも高いからである。また、アセトニトリルを使用した電解質の粘度が低いため、電解質が多孔質ナノフィルム23内に浸透して第二電極21に望ましく接触することが容易である。従って、DSSCの内部深くの染料を効率的に低減することができ、その結果DSSCが低い抵抗(つまり、高いFF)を示すことができる。従って、もしDSSCにおいて液体電解質がゲル電解質で置き換えられると、良好な光起電力変換効率及びイオン伝導率を保持することができる。更に、ゲル電解質を使用するDSSCの光起電力特性は、液体電解質を使用するDSSCのそれと見合い得る。
【0055】
一般に、DSSCの液体電解質は高いイオン伝導率及び拡散係数を有する。もし、異なる溶媒が使用されるならば、それに従って多孔質ナノフィルムへの浸透も変わる。本発明において使用されるニトリル系溶媒の中で、アセトニトリルは低い沸点(81.6℃)及び高い揮発性を有し、そして従来の溶媒、MPN(高い沸点165℃及び低い揮発性)とは異なる。従って、従来、アセトニトリルを液体電解質の溶媒として使用することは困難である。もし、低い沸点及び高い揮発性を有るアセトニトリルのような溶媒をゲル電解質において適用しようとしても、電解質中のゲル化剤の溶解に加熱工程が必要になるため、又は完全太陽光の下でのDSSCの操作の実際の温度が80〜90℃に達するため、この適用は達成することができない。しかしながら、本発明においては、低い沸点、高い揮発性、及び使用する困難性を有するそのような溶媒が、適切なアクリロトリル系ゲル化剤と共に利用され、その結果、加熱工程なしで室温にて液体電解質から変換されたゲル電解質が得られる。
【0056】
結論として、液体電解質の溶媒として働くアセトニトリル、及びアクリロトリル系ゲル化剤が電解質中に同時に存在するとき、液体電解質のゲル化を向上することができてゲル電解質が得られ、そしてアセトニトリルの揮発度も抑制することができる。従って、太陽電池を包装するための多くの制限が低減される。更に、ゲル化が加熱工程なしで室温にて実施することができる。
【0057】
本発明は、その好ましい実施態様に関して説明されたが、以下に請求された通りの本発明の範囲を逸脱することなく、多くの他の可能な修正及び変更をすることができると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低いゲル化温度を有する電解質組成物であって:
アクリロニトリル系共重合体である電解質ゲル化剤;及び
ニトリル系溶媒を含む液体電解質;を含む電解質組成物。
【請求項2】
アクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリルが85重量パーセント以上の量である、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
アクリロニトリル系共重合体の数平均分子量が250,000〜750,000の範囲内にある、請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
アクリロニトリル系共重合体がポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)である、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項5】
ポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)において、アクリロニトリルが87〜97重量パーセントの量であり、かつ酢酸ビニルが3〜13重量パーセントの量である、請求項4に記載の電解質組成物。
【請求項6】
ニトリル系溶媒がR−CNとして表され、ここでRがC1−5アルキル、C2−4アルケニル、C2−4アルキニル、又は−R−O−Rであり、ここでR及びRが独立してC1−4アルキル、C2−3アルケニル、又はC2−3アルキニルであり、そしてR及びRの合計炭素数が6未満である、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項7】
がCアルキルであるとき、Cアルキル中の炭素原子の一つが第三級である、請求項6に記載の電解質組成物。
【請求項8】
ニトリル系溶媒が、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリルから成るグループから選ばれる一つ又はそれより多くのものである、請求項6に記載の電解質組成物。
【請求項9】
金属ヨウ化物塩、ヨウ素、添加剤又はそれらの組合せを更に含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項10】
低いゲル化温度が0〜50℃の範囲にある、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項11】
以下の工程を含む電子部品の製造方法であって:
第一基板及び第二基板を提供すること、ここで第一電極が第一基板の表面上に配置され、そして第二電極が第二基板の表面上に配置されており;
低いゲル化温度を有する電解質組成物を、第一及び第二基板の間に注入して、電子部品を形成すること、ここで低いゲル化温度を有する電解質組成物が第一及び第二電極の間に挿入され、そして0〜50℃の温度でゲル化する;及び
電子部品をシールすること、
ここで低いゲル化温度を有する電解質組成物が、アクリロニトリル系共重合体である電解質ゲル化剤及びニトリル系溶媒を含む液体電解質を含む、電子部品の製造方法。
【請求項12】
アクリロニトリル系共重合体中のアクリロニトリルが85重量パーセント以上の量である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アクリロニトリル系共重合体の数平均分子量が250,000〜750,000の範囲内にある、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
アクリロニトリル系共重合体がポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
ポリ(アクリロニトリル−co−酢酸ビニル)において、アクリロニトリルが87〜97重量パーセントの量、そして酢酸ビニルが3〜13重量パーセントの量である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ニトリル系溶媒がR−CNとして表され、ここでRがC1−5アルキル、C2−4アルケニル、C2−4アルキニル、又は−R−O−Rであり、ここでR及びRが独立してC1−4アルキル、C2−3アルケニル、又はC2−3アルキニルであり、そしてR及びRの合計炭素数が6未満である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
がCアルキルであるとき、Cアルキル中の炭素原子の一つが第三級である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ニトリル系溶媒が、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリルから成るグループから選ばれる一つ又はそれより多くのものである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
金属ヨウ化物塩、ヨウ素、添加剤又はそれらの組み合わせを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
電子部品が色素増感太陽電池(DSSC)である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−25939(P2012−25939A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137198(P2011−137198)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(509053835)ナショナル・チェン・クン・ユニヴァーシティ (5)
【Fターム(参考)】