説明

低アウトガス性塗料

【課題】従来の低アウトガス性塗料と比較して、アウトガスの放出量が同量以下であり、かつ、取り扱いが簡単な硬化剤を用いて生成される低アウトガス性塗料を提供すること。
【解決手段】液状の基材に硬化剤を添加することによって硬化塗膜を形成するエポキシ樹脂系の低アウトガス性塗料であって、基材は、液状エポキシ樹脂と、硬化剤と反応する反応性希釈剤と、を含み、基材を硬化させるための硬化剤は、脂環式ポリアミンと、脂肪族ポリアミンと、脂環式ポリアミンまたは脂肪族ポリアミンをエポキシアダクトによって変性させたエポキシアダクト変性ポリアミン、芳香族アミン、および芳香族アミンを有機成分で変性した変性アミンのうち2種以上のアミンを含むことを特徴とする低ガスアウト性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の基材に硬化剤を添付することによって硬化塗膜を形成するエポキシ樹脂系の低アウトガス性塗料に関し、詳しくは高集積度半導体デバイス製造用クリーンルームなどの建造物における構成材料から放出されるアンモニアガス等のアウトガスの放出を抑制する低アウトガス性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体や液晶デバイスの製造用または開発用のクリーンルームにおいては、作業雰囲気中に浮遊する微小粒子のみでなく、クリーンルームの建造物の構成材料等から放出されるアンモニアや有機系ガス等のガス状汚染物質(アウトガス)の室内濃度の低減が求められており、アウトガス対策として様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、エポキシ樹脂系塗料を構成材料の表面に塗布し、構成材料の表面をエポキシ樹脂の緻密な膜でコーティングすることによって、構成材料からのアウトガスの放出を抑える技術が実用化されている。発明者らはこの技術の実用化に際し、塗料自体からのアウトガスの放出を抑えた低アウトガス性塗料を開発した(特許文献1、2)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−43643号公報
【特許文献2】特開2005−47965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の低アウトガス性塗料は、エポキシ樹脂を含む基材とアミンを含む硬化剤とを混合することによって生成される。従来の硬化剤は、塗膜の硬化特性や耐食性などが優れたメタキシレンジアミンおよびメタキシレンジアミンを有機成分によって変性した変性アミンを主成分としているものが多く、また粘度を調整するためや耐食性の向上を目的としてメタキシレンジアミンを多く含む場合がある。
【0006】
しかしながら、硬化剤中にメタキシレンジアミンを8%以上含有する製品は、毒物および劇物取締法等によって劇物に指定されており、劇物に指定されている物質を取り扱う場合には厳重な管理が必要となる。このため、従来の硬化剤および低アウトガス性塗料は、施工現場等での取り扱いが煩雑であるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来の低アウトガス性塗料と比較して、低アウトガスの放出量が同量以下であり、かつ、取り扱いが簡単な硬化剤を用いて生成される低アウトガス性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる低アウトガス性塗料は、液状の基材に硬化剤を添加することによって硬化塗膜を形成するエポキシ樹脂系の低アウトガス性塗料であって、前記基材は、液状エポキシ樹脂と、前記硬化剤と反応する反応性希釈剤と、を含み、かつ前記基材を硬化させるための硬化剤は、脂環式ポリアミンと、脂肪族ポリアミンと、脂環式ポリアミンまたは脂肪族ポリアミンのエポキシアダクト変性物とのうち2種以上のアミンを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる低アウトガス性塗料は、上記の発明において、前記硬化剤は、さらに、芳香族アミンおよび芳香族アミンを有機成分で変性した変性アミンを含めた前記アミンのうち2種以上のアミンを含み、かつ、メタキシレンジアミンの配合量が8%未満であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる低アウトガス性塗料は、上記の発明において、前記反応性希釈剤は、末端にエポキシ環を1以上有する有機物を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる低アウトガス性塗料は、上記の発明において、当該低アウトガス性塗料に含まれるベンジルアルコールの配合量は前記硬化剤中の0.1%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる低アウトガス性塗料は、上記の発明において、前記基材に導電性粉末が含まれることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる低アウトガス性塗料は、上記の発明において、前記導電性粉末は、導電性酸化亜鉛、錫アンチモンドーブ型導電性酸化チタン、錫アンチモンドーブ型導電性ウィスカー、カーボン繊維からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる低アウトガス性塗料は、液状の基材に硬化剤を添加することによって硬化塗膜を形成するエポキシ樹脂系の低アウトガス性塗料であって、前記基材が、液状エポキシ樹脂と反応性希釈剤とを含み、かつ硬化剤が、脂環式ポリアミンと、脂肪族ポリアミンと、これらのエポキシアダクト変性物、芳香族アミン、および芳香族アミンを有機成分で変性した変性アミンのうち2種以上のアミンを含むことにより、硬化剤中にアンモニアに分解するアミンをほとんど含まず、かつ、硬化剤中のメタキシレンジアミンの配合量が劇物指定基準未満となるので、アウトガスの放出量が従来の低アウトガス性塗料と同量以下であり、かつ取り扱いが簡単な硬化剤を用いて生成できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる低アウトガス性塗料の実施形態について説明する。
【0016】
本発明にかかる低アウトガス性塗料は、エポキシ樹脂系塗料である。このエポキシ樹脂系塗料は、施工現場等で基材に硬化剤を添加することによって生成され、基材に配合されているエポキシ樹脂と硬化剤に配合されているアミンとが反応して3次元化し、硬化塗膜を生成する。以下に、基材および硬化剤の詳細について説明する。
【0017】
(A)基材
基材の主成分はエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は、エポキシ基を有するポリマーの集合体であり、本発明においては硬化剤としてのアミンと反応し、硬化塗膜を形成するものであれば用いることができる。
【0018】
また、基材には、施工時の作業性を確保するために塗料の粘度を低減する目的で、希釈剤を配合する。本発明では、希釈剤として、硬化剤であるアミンと反応する反応性希釈剤を配合する。このため、本発明にかかる低アウトガス性塗料中では、硬化剤のアミンとエポキシ樹脂、反応性希釈剤とが反応し硬化塗膜を形成する。したがって、希釈剤自体がアウトガスとして塗膜外に放出することを防止でき、かつ、塗料中の未反応のアミン、すなわちアンモニア発生の原因物質(低分子アミン)の残留量を低減できる。
【0019】
反応性希釈剤としては、具体的には、末端にエポキシ環を1以上有する1,6−ヘキサグリシジルエーテルやネオペンテルグリシジルエーテル等があげられる。このエポキシ環が、硬化剤のアミンと反応する。
【0020】
また、希釈剤に、エポキシ樹脂系塗料で一般に希釈剤として用いられるベンジルアルコールを配合してもよいが、本発明ではベンジルアルコールの配合量は、低アウトガス性塗料中の0.1%以下とする。ベンジルアルコールの酸化によって、アウトガスとして塗料外に放出されるベンズアルデヒドおよびベンジルアルコールは、シリコンウエハ上に吸着し、デバイスの回路製造に悪影響を与える。しかし、本発明ではベンジルアルコールの配合量を低減したことによって、アウトガスであるベンズアルデヒドやベンジルアルコールの発生を防止することができる。なお、ベンジルアルコールを完全に除去すれば、ベンズアルデヒドの発生を、さらに確実に防止できる。
【0021】
また、基材には、硬化塗膜に導電性を付与するために導電性粉末が配合される。導電性粉末として好ましくは、導電性酸化亜鉛、錫アンチモンドープ型導電性酸化チタン、錫アンチモンドープ型導電性ウィスカー、カーボン繊維などが挙げられる。導電性粉末は1種単独で配合してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
導電性粉末の配合量は、下塗り材の導電塗料との複合で、硬化塗膜の表面抵抗値が105〜108Ωとなるように配合することが好ましい。より具体的な配合量は、導電性粉末の種類などによって異なるが、目安として硬化塗膜100重量部に対して好ましくは20〜50重量部、より好ましくは30重量部以下とすることが好適である。
【0023】
上記のように導電性粉末を配合することによって、帯電防止が要求される建材におけるコーティング塗料として好ましい塗料とすることができる。また、上記のように導電性粉末を配合することによって、塗装時の作業性も損なわれず、アウトガスや微小粒子などの拡散抑制という、本発明にかかる塗料に本来求められる特性についても問題を生じさせない。
【0024】
また、基材には本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分、例えば着色料、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどを配合してもよい。
【0025】
(B)硬化剤
硬化剤はアミンを主成分とする。硬化剤として用いられるアミンは、アウトガス発生の抑制という点から、経時的に分解してアンモニア等に変化することの少ないアミンであることが好ましい。
【0026】
本発明にかかる硬化剤に含まれるアミンとして、従来から硬化剤のアミンとして用いられていたメタキシレンジアミンおよびメタキシレンジアミンの有機成分による変性物に替えて、イソホロンジアミンやビス(4−アミノシクロへキシル)メタン等の脂環式ポリアミンおよび脂肪族ポリアミンが挙げられる。
【0027】
また、硬化剤に含まれるアミンとしては、上記の脂環式アミンおよび脂肪族アミンを有機成分によって変性させたアミン、特にエポキシアダクト変性ポリアミンが挙げられる。エポキシアダクト変性ポリアミンは、未変性のポリアミンに比べて分子量が大きく、蒸気圧が低くなるので、低揮発性となる。したがって、エポキシアダクト変性ポリアミンは、エポキシ樹脂等と反応せずに塗料中に残留してもアウトガスとして塗料から放出されず、分解してアンモニアガスを発生しない。なお、エポキシアダクトとは、エポキシとアミンの重合物であり、両末端がアミンとなる。
【0028】
そこで、本実施の形態にかかる硬化剤のアミンは、脂環式ポリアミンと、脂肪族ポリアミンと、脂環式ポリアミンまたは脂肪族ポリアミンのエポキシアダクト変性物とのうち2種以上のアミンを含むものとし、好ましくは、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン等の脂環式ポリアミンと、脂肪族ポリアミンと、イソホロンジアミンのエポキシアダクト変性物とを含む混合物とする。
【0029】
なお、硬化剤の減粘、塗膜性状の向上等を目的として硬化剤にメタキシレンジアミンおよびメタキシレンジアミンを有機成分で変性した変性アミンを配合してもよいが、硬化剤中のメタキシレンジアミンの配合量は、硬化剤が劇物指定の対象物とならないように、硬化剤中の8%未満とする。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.低アウトガス性帯電防止型塗料の配合
実施例の基材及び硬化剤からなる低アウトガス性帯電防止型塗料の配合を以下に示す。
【0032】
[基材]
液状エポキシ樹脂(「エピコート828」商品名;ジャパンエポキシレジン株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂);45重量部
反応性希釈剤(「エピクロン720」商品名;ネオペンチルグリシジルエーテル、大日本インキ化学工業株式会社製);15重量部
導電性粉末(導電性酸化亜鉛ほか);35重量部
添加剤、体質顔料ほか;5部
小計;100重量部
【0033】
[硬化剤]
脂環式ポリアミンおよび脂肪族ポリアミン;60重量部
フェノール類;30重量部
エポキシアダクト変性ポリアミン;8重量部
その他アミン;2重量部
小計;100重量部
【0034】
[基材と硬化剤の配合比]
上記組成の基材と硬化剤を下記の配合比で混合する。
基材:硬化剤=100:25(重量比)
【0035】
2.硬化塗膜からのアンモニアガス等の発生量測定
次に実施例にかかる低アウトガス性塗料と、従来から使用されている低アウトガス性塗料(従来例)とを用いて各塗膜からのアウトガス放出量の比較実験をおこなった。表1は、比較実験の実験結果を示す表である。
【0036】
なお、従来例の混合は以下の通りである。
【0037】
[従来例の基材]
液状エポキシ樹脂(「エピコート828」商品名;ジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールAタイプエポキシ樹脂);45重量部
反応性希釈剤(「エピクロン720」商品名;大日本インキ化学工業社製のネオペンチルグリシジルエーテル);10重量部
無機質充填フィラー(「硫酸バリウム」);15重量部
導電粉末;30重量部
小計;100重量部
【0038】
[従来例の硬化剤]
ケミクリートEX硬化剤(活性水素当量76)商品名;エービーシー商会株式会社製の変性脂肪酸ポリアミン;100重量部
【0039】
[従来例の基材と硬化剤の混合比]
上記組成の基材と硬化剤を下記の混合比で混合する。
基材:硬化剤=100:20(重量比)
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、本実施例にかかる低アウトガス性塗料は、従来例と比較して、硬化塗膜から発生するアンモニアガスの量を低減でき、有機ガスの放出量を同量程度に抑えることができるという効果を有する。さらに、本実施例にかかる硬化剤は、イソホロンジアミン等を含み、メタキシレンジアミンの配合量が劇物指定対象基準以下に抑えられているので、本実施例にかかる低アウトガス性塗料および硬化剤は、取り扱いが簡単であるという効果を有する。
【0042】
3.表面抵抗値の測定
次に、実施例に示す低アウトガス性塗料の電導値を測定した。表2は、電導値の測定結果を示す表である。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すように、本実施例にかかる低アウトガス性塗料は、基材中に配合されている導電性粉末によって、硬化塗膜の表面抵抗値を低くできるという効果を有する。
【0045】
このように、本実施例によれば、従来品と同等以上の低アウトガス性および帯電防止効果を有し、かつ、取り扱いが簡単な塗料を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の基材に硬化剤を添加することによって硬化塗膜を形成するエポキシ樹脂系の低アウトガス性塗料であって、
前記基材は、液状エポキシ樹脂と、前記硬化剤と反応する反応性希釈剤と、を含み、かつ前記基材を硬化させるための硬化剤は、脂環式ポリアミンと、脂肪族ポリアミンと、脂環式ポリアミンまたは脂肪族ポリアミンのエポキシアダクト変性物とのうち2種以上のアミンを含むことを特徴とする低アウトガス性塗料。
【請求項2】
前記硬化剤は、さらに、芳香族アミンおよび芳香族アミンを有機成分で変性した変性アミンを含めた前記アミンのうち2種以上のアミンを含み、かつ、メタキシレンジアミンの配合量が8%未満であることを特徴とする請求項1に記載の低アウトガス性塗料。
【請求項3】
前記反応性希釈剤は、末端にエポキシ環を1以上有する有機物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の低アウトガス性塗料。
【請求項4】
当該低アウトガス性塗料に含まれるベンジルアルコールの配合量は前記硬化剤中の0.1%以下であることを特徴とする請求項3に記載の低アウトガス性塗料。
【請求項5】
前記基材に導電性粉末が含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の低アウトガス性塗料。
【請求項6】
前記導電性粉末は、導電性酸化亜鉛、錫アンチモンドーブ型導電性酸化チタン、錫アンチモンドーブ型導電性ウィスカー、カーボン繊維からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の低アウトガス性塗料。

【公開番号】特開2009−51977(P2009−51977A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221694(P2007−221694)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(598108412)株式会社エービーシー建材研究所 (13)
【出願人】(000127639)株式会社エービーシー商会 (28)
【Fターム(参考)】