説明

低ステロール且つ高トリグリセライドの微生物性油を得るための極性溶媒によるステロール抽出

【課題】微生物由来の油の処理方法を提供する。
【解決手段】ヘキサンを用いて発酵ブロスまたはその濾液のいずれかから抽出される微生物由来油(該油は、アラキドン酸のような炭素数が18、20または22のω-3またはω-6の脂肪酸のような多不飽和脂肪酸を含むことができる)を極性溶媒(5%までの水を含むエタノール)と接触させて溶媒に可溶な少なくとも1種の化合物(通常はステロールまたはジグリセライドである)を抽出し、次いで該処理油から該化合物を含む溶媒を分離することを含む、油の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製された(例えば抽出)多不飽和脂肪酸(PUFA)含有(微生物性)油、特にトリグリセライド含量が少なくとも97%および/またはステロール含量が1.5%より低いかまたは10%より高い油に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の発酵工程から得られる多不飽和脂肪酸を含む脂質製品を食材中に含有するものの傾向が増加しつつある。これは、乳児食処方にある種の多不飽和脂肪酸を組み込むという最近設定された要求にとって重要なことである。
【0003】
多不飽和脂肪酸を含有する脂質または油の発酵による製造に関する種々のプロセスが記載されてきた。例えば、特許文献1にはモルティエレラ(Mortierella)由来のγ-リノレン酸(GLA)含有脂質の生産について、特許文献2、特許文献3および特許文献4にはモルティエレラおよび/またはピシウム(Pythium)由来のアラキドン酸(ARA)含有油の生産について、特許文献5および特許文献6にはクリプテコディニウム・コーニイ(Crypthecodinium cohnii)またはトラウストキトリウム(Thraustochytrium)由来のドコサヘキサエン酸(DHA)含有油の生産について、および特許文献7にはニツィア(Nitzschia)由来のエイコサペンタエン酸(EPA)含有油の生産が記載されている。代表的には,必要とする多不飽和脂肪酸を含有する脂質を産生する微生物種は好適な媒体中で培養され、そのバイオマスは必要な脂質が得られる前に収穫される。
【0004】
トリグリセライド含有量の比較的高い脂質濃縮物を得るために、代表的には抽出工程で脂質用の非極性溶媒(例えばヘキサン)または超臨界COが用いられる。例えば、特許文献8には、極性または非極性(中性)のどちらかの脂質に富んだそれぞれの抽出物を得るために、モルティエレラ由来の脂質を単離するための分別抽出方法が記載されている。しかし、中性脂質抽出物はなお比較的トリグリセライド含量が低く(89.3%)、ステロール含量が高い(9.4%)。特許文献9にはモルティエレラバイオマス由来の中性脂質を選択的に溶離するために超臨界COを用いることを含む抽出方法が記載されている。しかし、脂質抽出物のトリグリセライド含量は86%を超えていない。
【0005】
非特許文献1にはヘキサンを用いたモルティエレラ・アルピナ(alpina)バイオマスから抽出したアラキドン酸を含有する油が記載されている。精製した油はトリグリセライド含量が90%である。
【0006】
このように、目下のところ従来の発酵および抽出技術を用いて高トリグリセライド含量、即ち95%またはそれ以上の含有量の微生物性トリグリセライド油は得られていない。またステロール含量が特に低い(例えば1.5%より低い)かまたは特に高い(例えば少なくとも10%)の油を調製することもできていない。
【特許文献1】EP-A-155,420
【特許文献2】EP-A-223,960
【特許文献3】EP-A-276,541
【特許文献4】WO-A-92/13086
【特許文献5】WO-A-91/07498
【特許文献6】WO-A-91/11918
【特許文献7】WO-A-91/14427
【特許文献8】EP-A-246,324
【特許文献9】米国特許第4,857,329号明細書
【非特許文献1】ヤマダ他著、「インダストリアル・アプリケーション・オブ・シングル・セル・オイル」第118-138頁(1992)、カイル(Kyle)およびラトレッジ(Ratledge)編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、微生物性油の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、一般に、微生物バイオマスから抽出され、得られまたは由来する油を極性溶媒で処理するトリグリセライドを高含有量でおよび「非鹸化性物」を低含有量で含む(微生物性)油の製造方法に関する。
【0009】
本発明は、したがって、トリグリセライドを例えば、95%以上のような高含量で含む微生物性(または微生物由来の)油を提供することができる。しかし、この油はトリグリセライド含量が少なくとも97%、好ましくは98%以上、最適には99%以上であってもよい。この(微生物性)油は、その代わりにまたはそれに加えて、ステロール含量が低い(例えば1.5%以下)かまたは高い(例えば10%以上)ものであってもよい。ステロールが含量は好ましくは1%以下、例えば0.6%以下、最適には0.3%以下であってもよい。
【0010】
本発明の油は、医薬(または治療薬)品、化粧品、家畜の飼料または食品の組成物(ヒトまたは動物の消費用)のような種々の組成物、特に乳児食処方または栄養補給組成物中に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
したがって、本発明の第1の面は、微生物的に誘導される油(微生物に由来する油)の処理方法に関するもので、この方法は、溶媒中に可溶な少なくとも1種の化合物を抽出するために油を極性溶媒と接触させること、および(このように処理された)油から化合物を含む少なくとも数種類の溶媒を分離することを含む。
【0012】
微生物由来の油は1種類以上の微生物によって抽出され、得られまたは産生される。多くの場合これは同種の微生物であろうが、本発明では2種類以上の異なる微生物の混合物も想定されている。したがって、本発明の方法は油そのものの産生に続くものであってよい。油は微生物によって産生されたものでもよいし、微生物内部(例えば細胞内部に)存在するものでもよい。あるいはまた、(微生物の)発酵から得られるまたは発酵の結果である組成物(通常水性)から得てもよい。この(水性)組成物には微生物そのものが含まれていてもよい:その場合には通常それは発酵ブロスである。微生物(または当業者にバイオマスと呼ばれているもの)は(発酵後)多くの方法、例えば、濾過、遠心分離または傾斜法によって除くことができる。油はこのバイオマスから抽出または得ることができる。
【0013】
微生物性油は通常抽出によって得られることになろう。この場合には好ましくは、非極性または好ましくは水と非混和性の溶媒、または少なくとも油状成分を抽出することができる溶媒を用いて抽出することを含んでいるであろう。このような溶媒は炭素数が6〜10のアルカン、例えばヘキサン、または(超臨界)二酸化炭素であってもよい。
【0014】
異なる微生物は異なる油を産生するであろう。これらは多不飽和脂肪酸の量および他の成分が異なることがありうるし、実際、多不飽和脂肪酸類は異なる形、例えばジグリセライド、トリグリセライドおよび/またはホスホリピドであってもよい。それはそれとして、微生物由来の油でさえ、他の原料(例えば、動物、魚または植物)から得られた1種以上のこれら多不飽和脂肪酸を含有する油とはかなり異なることがありうる。
【0015】
考慮されている微生物は、好ましくは1種以上の多不飽和脂肪酸を、例えば発酵の際に、産生することができるが、広範囲に異なるものである。微生物はバクテリア、藻類、真菌類または酵母でありうる。好適な発酵工程、微生物および多不飽和脂肪酸含有油は同時係属の国際出願、PCT/EP97/01448〔ギスト-ブロケイズ ビーブイ(Gist-brocades B.V.)の名前で1997.3.21に出願〕に記載されており、その内容は本発明の一部とする。
【0016】
好ましい藻類は、クリプテコジニウム(Crypthecodinium)、ポリフィリジニウム(Porphyridium)またはニツィア(Nitzschia)属である。好ましい真菌類は、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)、モルティエレラピシウムムコラレス(Mucorales)またはエントモフトラ(Entomophthora)属、特にモルティエレラ・アルピナ種のものである。
【0017】
抽出されるべき化合物は、必要とする化合物であってもよいし、その場合には化合物は精製または単離をもする必要があるし、または油から除去したい不純物であってもよい。一般的に言えば、抽出されるべき化合物は後者の範疇に属する。したがって、化合物は「非鹸化性物」、言い換えればアルカリ(例えば苛性ソーダ)で処理した後(水に)可溶化されない、したがって塩を形成しない(したがってそれはケン化することができないかもしれない)化合物であってもよい。他の化合物にはステロール類が含まれ、それらは4個の共役した環状骨格、3個の芳香族C環および1個のシクロペンタン環を有する脂環式アルコール類(例えば、デスモステロール、コレステロール)、脂肪族およびテルペンアルコール類(トコフェロール)、ワックスおよびポリプロピレングリコールのような消泡剤であってもよくこれらは発酵媒体中に含まれていてもよい。
【0018】
本発明の第2の面は、少なくとも1種のステロールを含む油の処理方法に関するものであり、この方法には油を極性溶媒と接触させて溶媒に可溶な少なくとも1種のステロールを抽出すること、およびステロールを含む溶媒の少なくとも数種のものを油から分離することが含まれる、
【0019】
好ましいステロールとしては、デスモステロール、例えば5-デスモステロールが含まれる。2種以上のステロールが存在する場合は、ステロールの70〜90%、例えば80〜85%がデスモステロールであること(例えばモルティエレラにより産生された油の場合)が好ましい。
【0020】
油は少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。通常この多不飽和脂肪酸はマイクローブまたはマイクロオーガニズムのような微生物によって産生されているであろう。
【0021】
本発明の第3の面は、少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含有する油の製造方法に関するものであり、この方法には、少なくとも1種の多不飽和脂肪酸と少なくとも1種のステロールを含む油を極性溶媒で処理して少なくとも数種の多不飽和脂肪酸および少なくとも数種のステロールを(溶媒中に)抽出する(多不飽和脂肪酸もステロールも少なくとも部分的には溶媒に可溶である)こと、油(相)から溶媒(相)を分離すること、および溶媒のいくつかを蒸発または除去してステロール含量が少なくとも10%の(残留)油を得ることが含まれる。
【0022】
このステロール含量は、例えば少なくとも11%、例えば14%のように、もっと高くてもよい。
【0023】
本発明で考慮している多不飽和脂肪酸類は炭素数が20および炭素数が22のω-3および炭素数が18、20および22のω-6多不飽和脂肪酸類である。特に、これらはγ-リノレン酸(GLA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DLA)、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)を含むことができる。DHAは、例えばクリプテコジニウム属の渦鞭毛性藻類のような藻類または真菌類、または例えばトラウストキトリウム属の真菌によって産生される。GLA、DLAまたはARAはモルティエレラピシウムまたはエントモフトラ属のような真菌類によって産生され得る。EPAはポリフィリジニウムまたはニツィア属のような藻類によって産生され得る。油類には例えば1種またはそれ以上の多不飽和脂肪酸がより少量含まれ得るが、代表的には、油には1種類の多不飽和脂肪酸が支配成分として含まれるか、1種類の多不飽和脂肪酸だけが含まれる。
【0024】
本発明の方法では、溶媒を油に加えた後、通常2相(油および溶媒)に分離する。それから一方の相を他の相から容易に除去することができる。
【0025】
本発明の第2の面では、油からステロールを抽出することは実施できるであろう。これにより低ステロール、例えば1.5%以下のステロール含量の油を得ることができる。第3の面は、いくらかの油およびステロールが溶解している溶媒の処理に関する。この溶媒は比較的ステロールに富んでいるであろう:ある程度の溶媒を除去した後、ステロール含量が少なくとも10%の「残留」油が残る。
【0026】
したがって、本発明の第4の面は第1から第3のいずれかの方法によって処理されまたは製造された油に関する。
【0027】
第5の面は、微生物により産生され、ステロール含量が1.5%以下である少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含む油に関する。(全)ステロール含量は現実には1%以下、例えば0.6%未満であってよい。本発明の方法を用いることにより、ステロール含量0.3%以下が達成され得る。
【0028】
第6の面は、微生物により産生され、ステロール含量が少なくとも10%の少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含む油に関する。
【0029】
第5の面の油がこの第2の面の方法を用いて製造することができ、一方第6の面の油が第3の面の方法を用いて製造することができるようになろう。
【0030】
本発明のそれぞれの油は、例えば、後述するように、異なる溶媒を用い、異なる温度で製造することができる。
【0031】
したがって、本発明は、1種以上の極性溶媒によって油を処理する(例えば微生物性の)油の製造方法を提供する。したがって、これらの溶媒により、溶媒に可溶な1種以上の化合物を除去することができる。これにより、濃縮されたまたは高濃度の油が得られる。したがって、油がトリグリセライドを含有するなら、油中のトリグリセライドの含量を濃くしまたは増すことができる。即ち少なくとも97%、例えば少なくとも98%、そして究極的には少なくとも99%になり得る。
【0032】
トリグリセライド含量の増加とともに、溶媒処理により好ましいことに油から1種以上の不純物を除くことができる。特に、この処理により、「非鹸化性物」の量を減少させることができる。溶媒処理により除去できる非鹸化性物には上記したステロール類、脂肪属およびテルペンアルコール類、ワックス類および消泡剤類が含まれ得る。通常、溶媒処理を行っても多不飽和脂肪酸のプロフィルまたはそのように処理した油を変えないであろう。
【0033】
極性溶媒としては、好ましくは炭素数が1〜6のアルカノール、例えばエタノールが含まれる。しかし、溶媒は水性溶媒であってもよい。したがって、好ましくは溶媒にはアルコール(例えばエタノール)および水が含まれる。しかし、溶媒には他の液体が含まれてもよく、これらはアセトンおよび/またはイソプロパノールであることもできる。
【0034】
溶媒としてエタノールが含まれる場合、溶媒の水含量は0〜20%、例えば1〜7%、任意に2〜4%であってよい。溶媒としてメタノール、アセトンおよび/またはイソプロパノール(IPA)が含まれる場合、水含量はそれぞれ0〜2%、5〜50%および5〜15%である。したがって、溶媒は2種以上の液体の混合物を含んでもよい。少量の水を含むエタノール(例えば97%のエタノール、3%の水)は溶媒処理後のトリグリセライドの収量をかなり改善することができることが見つかっている。これはトリグリセライドがこれらの特定の溶媒に比較的不溶性であるためである。溶媒温度が15〜30℃、例えば20〜25℃の場合も、溶媒中に溶解するトリグリセライドの量は減少する。
【0035】
異なる溶媒を使用することにより、抽出されるステロール(または実際には多不飽和脂肪酸)の量を変えることができる。上記で説明したように、エタノールと水の混合物を使用することにより、この溶媒はステロールを溶解するであろうが、トリグリセライド類はそれに比較的不溶性であるため、トリグリセライドが高い収率で得られる。
【0036】
多不飽和脂肪酸は、一般にトリグリセライド類およびジグリセライド類のような種々の形で存在する。これらの化合物は実際上1種以上(通常は1種類だけであるが)の多不飽和脂肪酸がその骨格に付いたグリセロール分子である。トリグリセライドの形のものが支配的であるものが好ましい。第5の面の油(例えば第2の面の方法により得られる油)中では、存在するトリグリセライドの量は、好ましくは2.2%以下、好ましくは1%未満である。ここで使用される溶媒の温度は、好ましくは10〜40℃、例えば20〜30℃である。
【0037】
第6の面の油中では、トリグリセライド類とジグリセライド類の相対比率は変動し得る。この油の製造においては、溶媒は、ステロールだけでなく、元の油中に存在するトリグリセライド類およびジグリセライド類のいくつかをも抽出するように選択する。したがって、トリグリセライド類の含量は60%から90%の間で変動してもよい。ジグリセライド類の含量は5%から25%の間で、例えば12%から22%の間で変動してもよい。3%の水を含有するエタノールはジグリセライド類(およびトリグリセライド類)に対する溶媒であり得、したがってこの溶媒は第3の面の方法、例えば第3の面の油を製造する方法で使用するに好適である。この場合溶媒は、好ましくは50〜70℃、例えば55〜65℃の温度で使用する。
【0038】
抽出されるべき化合物の量、即ちトリグリセライド含量はいくつかのプロセスパラメータを変えることにより調整することができる。例えば、油に対する溶媒の割合、抽出温度および/または抽出工程を反復することにより調整することができる。2回以上の抽出を行う場合は、向流抽出法が好ましく、それによりトリグリセライドの損失を最小限にすることができる。
【0039】
通常、油は適当な溶媒により(例えば乾燥した)微生物性バイオマスから抽出され、その(水と非混和性の)溶媒を蒸発して得られる粗油であろう。油は本発明の方法を行うに先だって1回以上の精製工程にかけてもよい。
【0040】
本発明の油、または第1、第2または第3の方法により得られる油は、更なる加工を行うことなく種々の目的に使用することができ、あるいは更にひとつ以上の精製工程を受けることができる。油は添加剤または補充剤として、例えば乳児食のような食品組成物に使用することができる。しかし、また化粧用あるいは医薬用組成物中に使用することもできる。したがって、本発明は更なる面として、食料、飼料または医薬組成物や化粧組成物のような、本発明の油を含み、またはそれに本発明の油が添加される組成物に関する。好ましい組成物は乳児食または栄養補充剤のような食品である。
【0041】
したがって、本発明の油は低ステロール含量および/または低ジグリセライド含量である。またこれは高トリグリセライド含量であってもよい。このため、油は栄養目的において特に好適なものとなり、栄養補充剤として用いることができる。油は、油として用いてもよいし、または例えばゼラチンカプセル中にカプセル化してもよい。このように、油はヒトまたは動物の消費用に好適なように食品、飼料または食材に組み込むことができる。好適な例は健康飲料およびパンである。特に狙いとしているものは乳児食中、または化粧品中での使用である。
【0042】
本発明のひとつの面の好ましい性質および特徴は、必要であれば修正を加えて他の面に等しく適用できる点である。
【実施例】
【0043】
本発明は、以下の実施例によって更に記載するが、これは単に説明の手段として記載するものであり、発明を制限するものではない。
【0044】
比較実施例1
モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)バイオマス由来の粗アラキドン酸(ARA)油の回収
モルティエレラ・アルピナ発酵により得られた500リットルのブロスをメンブレンフィルタープレス(布タイプ:プロペックス 46K2)で濾過した。ブロスを0.2バールの圧力差で濾過した。平均流量が約230 l/mhとなるように、500リットルのブロスを6.3mの全濾過面積を使って21分以内に濾過した。フィルター上のケーキを、ケーキ体積の10倍の水道水で平均流速320 l/mhで30分水洗した。
【0045】
ケーキを5.5バールで30分間絞り、約45%の回収バイオマスを含む乾燥物を得た。得られたバイオマスケーキを、プロフィルを持ったバレルとユニバーサルスクリューを備えた1軸スクリュー押出機を用いて押出しにかけた。押出しに使用したダイプレートは直径2mmの穴が開けてある。
【0046】
押出し物の乾燥は、流動床乾燥機中で空気(8000Nm/mh)によって行った。床温度の設定は80℃とした。乾燥した押出しバイオマスの直径は2mmであり、乾燥後の乾燥物中のバイオマス含量は約96%であった。
次にアラキドン酸含有粗油(ARA油)を、溶媒としてヘキサンを用いて押出し物から抽出した。
【0047】
実施例2および3
100%エタノールによる微生物性ARA油の処理
実施例1の押出し物から1体積の100%エタノールを用いて1分間ハンドシェイク(手振り)することにより5mlの粗ARA油を抽出した。次いで5000rpmで5分間遠心分離して上層と下層を分離した。試料を(600MHz)NMRによって(トリグリセライド、ジグリセライド、ステロール(デスモステロール含量だけを測定した)および消泡剤について)解析した。
【0048】
粗ARA油を、9体積の100%エタノールで、異なる2つの温度で抽出して、ステロールとジグリセライド(DG)が低濃度でトリグリセライド(TG)が高濃度の油を得た(表1参照)。TGの収率は溶媒抽出後の油中に残留するトリグリセライドのパーセントである。また消泡剤は除去されており、抽出後のエタノール中に見出された。しかし、トリグリセライドの収率はTGのいくらかはエタノール中に溶解しているため低かった(したがってエタノール中に除去された)。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例4〜9
97%エタノールによる微生物性ARA油の処理
97%のエタノールを用い、油に対する体積比を変えた以外は実施例2および3と同様に行った。
1、3および9体積の97%エタノールにより粗ARA油を抽出してステロールとジグリセライド(DG)が低濃度でトリグリセライド(TG)が高濃度の油を得た(表2参照)。
【0051】
油があまり97%エタノール中に溶解しないため、トリグリセライドの収率は92%以上であった。環境温度(約20℃)では、より高いトリグリセライド収率およびジグリセライドとステロールのより良好な除去が観察された。注目すべきことに、処理後の油中にはエタノールはまったく認められなかった。
【0052】
【表2】

【0053】
エタノール層も抽出後解析し、ステロールがかなり増加していた。消泡剤(ポリプロピレングリコール)も抽出し、エタノール中に見出された(表3)。
【0054】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を極性溶媒と接触させて溶媒に可溶な少なくとも1種の化合物を抽出すること、および油から化合物を含む溶媒の少なくともいくらかを分離することを含む、微生物由来の油の処理方法。
【請求項2】
油が発酵により得られる組成物から得られまたは抽出される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物が発酵ブロスである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
油が、組成物中に存在する微生物から由来し、得られまたは抽出される請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
組成物から先ず微生物が除かれる請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
微生物が組成物を濾過することにより除かれる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
油を得る前に微生物を乾燥する請求項3〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
油がトリグリセライド用の溶媒を用いて抽出されている請求項2〜7のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項9】
溶媒がヘキサン、超臨界二酸化炭素またはイソプロパノールである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
油がバクテリア類、真菌類、酵母または藻類により産生される、または微生物がバクテリア類、真菌類、酵母または藻類である請求項1〜9のいずれかひとつに記載の方法。
【請求項11】
微生物がクリプテコディニウム(Crypthecodinium)、ムコラレス(Mucorales)、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)、モルティエレラ(Mortierella)、ピシウム(Pythium)、エントモフトラ(Entomophthora)、ポリフィリジニウム(Porphyridium)またはニツィア(Nitzschia)属である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
油がモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)由来である請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
化合物が微生物によって産生されるかまたは微生物内の細胞内で産生される請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
化合物がステロール、脂肪属またはテルペンアルコール、ジグリセライドまたはワックスである請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
化合物がデスモステロールまたはジグリセライドとして存在する多不飽和脂肪酸(PUFA)であり、および/またはトリグリセライドとして存在する多不飽和脂肪酸でない請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
油を極性溶媒と接触させて溶媒に可溶な少なくとも1種のステロールを抽出すること、およびステロールを含む溶媒の少なくともいくらかを油から分離することを含む少なくとも1種のステロールを含む油を処理する方法。
【請求項17】
油が少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含む請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1種の多不飽和脂肪酸および少なくとも1種のステロールを含む油を極性溶媒で処理して、溶媒に少なくとも部分的に溶解する多不飽和脂肪酸の少なくともいくらかおよびステロールの少なくともいくらかを抽出すること、溶媒を油から分離すること、および溶媒のいくらかを蒸発または除去してステロール含量が少なくとも10%の(残留)油を得ることを含む、少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含む油の製造方法。
【請求項19】
ステロールがデスモステロールである請求項16〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
多不飽和脂肪酸が炭素数18、20または22のω-3またはω-6の多不飽和脂肪酸である請求項16〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
多不飽和脂肪酸がγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
溶媒が炭素数1〜6のアルカノールまたはアセトンを含む請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
溶媒がエタノールまたはイソプロパノールである請求項18〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
溶媒がエタノールおよび1〜5%の水を含む請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
抽出に使用される溶媒の量が処理される油の体積の1〜9倍である請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれかに記載の方法により処理または製造される油。
【請求項27】
微生物により産生された、少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含み、ステロール含量が1.5%以下である油。
【請求項28】
ステロール含量が1%以下である請求項26または27に記載の油。
【請求項29】
微生物によって産生された、少なくとも1種の多不飽和脂肪酸を含み、ステロール含量が少なくとも10%である油。
【請求項30】
請求項26〜29のいずれかに記載の油の、医薬、化粧、飼料または(ヒトまたは動物が消費するための)食材組成物中への利用。
【請求項31】
請求項26〜29のいずれかに記載の油を含み、またはその油が添加されている組成物。
【請求項32】
食材、飼料または医薬組成物、またはヒトまたは動物の消費用の栄養補充剤である請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
乳児食処方である請求項31または32に記載の組成物。
【請求項34】
化粧組成物である請求項31に記載の組成物。

【公開番号】特開2009−120840(P2009−120840A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321226(P2008−321226)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【分割の表示】特願平9−540537の分割
【原出願日】平成9年5月15日(1997.5.15)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】