説明

低下した免疫原性を有する因子VIII変異タンパク質

本発明は、減少したN−結合グリコシル化および低下した免疫原性を有する改変された因子VIII分子に関する。本発明はまた、例えば、血友病にかかっている患者を処置するために、改変された因子VIII分子を使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年6月25日に出願した米国仮出願第61/075,494号の利益を主張し、その内容は出典明示により全体が本明細書に取り込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、変異型因子VIII分子(因子VIII変異タンパク質)であって、特定の非キャップ化N−結合グリコシル化部位に変異を有する分子に関する。これらの変異タンパク質は、治療に用いられる場合に、抗原提示樹状細胞による取り込みの減少および免疫原性の低下を示す。
【背景技術】
【0003】
天然物から単離されるか、または組み換え方法によって合成されたヒト治療用タンパク質(生物製剤)は、ヒト患者に投与した際に免疫応答を誘導することができる。これらの免疫応答は、わずかな皮膚の炎症ないし治療用薬物の有効性の減少に及ぶ効果を生じることがあり、重度の臓器不全または死を引き起こすこともあり得る。
【0004】
組み換え因子VIII(rFVIII)で処理した患者の約30%は、免疫応答を示す。これらの患者の約3人に1人は、因子VIII(FVIII)に対する中和抗体(nAb)を示し、そしてこれらの抗体は、FVIII療法の有効性を妨げうる(Ehrenforth, et al., Lancet 339:594-598, 1992;Gringeri, et al., Blood 102:2358-2363, 2003)。FVIIIの高用量投与がこの患者集団のnAbの効果を減少させることができる一方で、より高い用量の処置計画に付随するコンプライアンスの負担およびコストは望ましくない。
【0005】
免疫を誘発する抗原提示細胞(APC)の主なタイプは、樹状細胞(DC)である。DCは、異なるタイプの細胞表面受容体を介してタンパク質を取り込むことができる。エンドサイトーシスは、タンパク質のペプチドへのプロセッシング、MHCクラスII(MHCII)タンパク質における各ペプチドの積み込み(loading)、および細胞表面上のペプチドMHCII複合体の提示を引き起こす(Trombetta, et al., Annu Rev Immunol 23:975-1028, 2005)。Tヘルパー細胞によるこれらのペプチドの認識は、免疫原性および/または免疫毒性を生じ得る下流の事象を誘導する。
【0006】
最近の報告は、マンノース特異的受容体であるCD206がAPCによるFVIIIの取り込みにおいて役割を果たすことを示唆する。FVIIIとCD206間の相互作用は、FVIII/CD206複合体のエンドサイトーシスおよびrFVIIIタンパク質のペプチドへの分解を引き起こし、次いで、前記ペプチドがAPCの表面上のMHCクラスIIタンパク質により提示される(Dasgupta, et al., Proc Natl Acad Sci USA 104:8965-8970, 2007)。CD206は、様々な親和性を有する多くの異なる糖鎖構造(マンノース、フコース、およびN−アセチルグルコサミン)を認識することが示されている(Lee, et al., Science 295:1898-1901, 2002)。しかしながら、マンノース受容体ファミリーのメンバーのうち、CD206がマンノースに対して最も高い親和性を有するようである。FVIIIは、キャップされた(シアル化によりキャップされた)グリコシル化部位と、キャップされていない(シアル化されていない)グリコシル化部位の両方を含むことが示されている(Kaufman, et al., J Biol Chem 263:6352-6362, 1988;Medzihradszky, et al., Anal Chem 69:3986-3994, 1997)。非キャップ化部位はマンノース残基で終結しており、それゆえマンノース末端(mannose-ending)グリコシル化部位と呼ばれることもある。FVIIIにおいてキャップされていないグリコシル化はマンノース残基で終結することから、それらはCD206の認識部位として作用しうる。
【0007】
キャップされているか、またはキャップされていないグリコシル化のいずれかのための可能性のある部位は、FVIII分子上でN−結合グリコシル化部位で生じる。N−結合グリコシル化は、アミノ酸配列モチーフN−X−S/T(Xが、プロリン以外のいずれかのアミノ酸でありうる)内のアルパラギン残基上で起こる。全長成熟FVIIIは、24個の推定上のN−結合グリコシル化部位を含む。
【0008】
ヒトFVIIIは、構造ドメインA1−A2−B−A3−C1−C2を含む(Thompson, Semin Hematol 29:11-22, 2003)。B−ドメイン欠失FVIII(BDD)もA型血友病の補充療法として有効であることから、FVIIIのB−ドメインは不必要である。
【0009】
B−ドメイン内には19個の推定上のN−結合グリコシル化部位が存在しており、それゆえ、完全なB−ドメインの除去は、アミノ酸位置41、239、582、1810、および2118でBDD FVIII(BDD)に5個の残存N−結合グリコシル化部位を残す。アミノ酸位置239、1810、および2118のN−結合グリコシル化部位は、通常、アミノ酸位置41および582の該部位より高いレベルのN−結合グリコシル化を示す。
【0010】
変化したグリコシル化パターンを有する組み換えタンパク質の産生は、組み換え培養物からの産生収量における減少の可能性および/または組み換えタンパク質の活性の低下を含むいくつかの課題を提示する。
【0011】
FVIII免疫原性の課題は、当該技術分野で認められており、その治療効果を改善する目的で、FVIIIの免疫原性を低下させるための多くのアプローチが提案されてきた。
【0012】
FVIIIの免疫原性は、FVIIIをポリエチレングリコール(ペグ化)などのアルコールポリマーに抱合することによって低下されうる(米国特許第4,970,300号)。米国特許第7,351,688号は、FVIIIなどの治療用タンパク質と、リン脂質などの結合剤との複合体を形成させることを開示する。ヒト/動物のFVIIIハイブリッド分子であって、ヒトFVIII分子の特定の免疫原性部分がブタFVIII配列で置換された分子は、ヒトFVIIIよりヒトにおいて低い免疫原性を示すものとして記載される(例えば、米国特許第5,364,771号;第6,180,371号;第6,458,563号;および第7,012,132号を参照のこと)。FVIIIの免疫原性は、N−結合グリコシル化のためのさらなる部位を、抗FVIII抗体と反応することが知られているFVIIIエピトープに導入することによって低下させることができる(米国特許第6,759,216号)。
【0013】
提案されている別の方策は、抗FVIII抗体と結合するFVIII分子の領域に変異を導入することによってFVIIIの免疫原性を低下させることである(例えば、米国特許第7,211,559号;第7,122,634号;第7,033,791号;第6,770,744号;および第6,376,463号を参照のこと)。
【0014】
位置239、1810、1812、および2118を含むFVIII分子中のいくつかのアミノ酸位置においてシステイン残基を導入する変異を含むFVIII変異タンパク質であって、前記導入されたシステイン残基がFVIII変異タンパク質のペグ化のための部位を提供するFVIII変異タンパク質(米国公開特許出願第20060115876 A1号)。
【0015】
それゆえ、抗原提示樹状細胞による取り込みの減少および免疫原性の低下を示すFVIIIなどの治療用タンパク質は、FVIII療法を必要とする患者、例えば、血友病のための有用な治療を提供するであろう。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、組み換えFVIII分子であって、FVIII分子のアミノ酸位置41〜43、239〜241、582〜584、1810〜1812、および2118〜2120で生じる、1つまたはそれ以上の天然に存在する非キャップ化N−結合グリコシル化配列モチーフ内の変異を含む組み換えFVIII分子を提供する。一つの具体例において、変異は、アミノ酸位置41、239、1810、1812、または2118においてシステイン残基を導入していない。これらの変異は、rFVIII分子がグリコシル化能力のある宿主細胞において発現される際に、変異が導入された部位をグリコシル化から防ぐ。一つの具体例において、変異は、アミノ酸位置239〜241、1810〜1812、および2118〜2120の1箇所またはそれ以上で生じる。
【0017】
別の具体例において、FVIII分子は、B−ドメイン欠失FVIII変異タンパク質(BDD変異タンパク質)である。非キャップ化N−結合グリコシル化部位における置換を有するBDD変異タンパク質は、組み換え技術により比較的高いレベルで発現されることが見出されており、それらは、変異が入っていないBDDと比較して同等のまたは増加した活性レベルを示す。
【0018】
さらなる具体例において、本発明は、rFVIII分子をコードする単離された核酸を含む。
【0019】
別の具体例において、本発明は、本発明の核酸を含む発現ベクターを含む。
【0020】
別の具体例において、本発明は、本発明の発現ベクターを含むグリコシル化能力のある宿主細胞を含む。
【0021】
別の具体例において、本発明は、本発明のグリコシル化能力のある宿主細胞を含む細胞培養物を含む。
【0022】
別の具体例において、本発明は、本発明の組み換えFVIII分子および医薬上許容される担体を含む医薬組成物を含む。この組成物は、当該技術分野で慣用されているように、保存のために凍結乾燥され、投与のために液体中に再構成され得る。
【0023】
なお別の具体例において、本発明は、FVIII療法を必要とする患者を処置する方法であって、前記患者に、治療上有効な量の本発明の組み換えFVIII分子を投与することを含む方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、樹状細胞(DC)によるインビトロにおける全長rFVIIIおよび脱グリコシル化された全長rFVIII(FVIII Degly)の取り込みを示す。脱グリコシル化前に、FACS解析による検出のために蛍光イソチオシアネート(FITC)でrFVIIIを標識した。Endo−F1を用いて60分間、rFVIIIを脱グリコシル化し、DCと共に30分間共培養し、次いで洗浄した。次に、DCによるFVIIIおよびFVIII Deglyの取り込みをFACSにより解析した。FVIIIの取り込みを100%として、FVIII Deglyの取り込みをFVIIIの取り込みと比較して示す。FVIII DeglyとFVIIIとを比較して、独立スチューデントT−検定を行った;FVIIIについて、**p<0.01。
【図2】図2は、B−ドメイン欠失FVIII(BDD)ならびに3つのBDD変異タンパク質(N239Q、N2118Q、N239Q/N2118Q)の活性(図2A)および濃度(図2B)を示す。用いられる名称は、指示する位置でのアミノ酸置換を表し、例えば、N239Qは、当該分子のアミノ酸位置239におけるグルタミンからアスパラギンへの置換を示す。N239Q、N2118Q、およびN239Q/N2118QをコードするBDD変異体構築物により、HKB11細胞を別々にトランスフェクトさせた。タンパク質の発現後、トランスフェクションの96時間後に、条件培地を発色アッセイによる活性についてアッセイし(図2A)、濃度をELISAによりアッセイした(2B)。
【図3】図3は、樹状細胞(DC)による全長rFVIII、B−ドメイン欠失FVIII(BDD)、およびN−グリコシル化部位BDD単独(N2118Q)、および二重変異タンパク質(N239Q/N2118Q)の取り込みを示す。DCを、FVIII、BDD、BDDN2118Q、またはBDD N239Q/N2118Qと共に4℃(4C)および37℃(37C)で30分間共培養した。次いで、細胞を洗浄し、細胞抽出物中のFVIII、BDD、BDD N2118QおよびBDD N239Q/N2118Qの濃度(pM)をELISAにより測定した。N2118QおよびN239Q/N2118Qと、FVIIIおよびBDDとを比較して、独立スチューデントT検定を行った;FVIIIおよびBDDの両方について、**p<0.01。
【図4】図4は、N2118Qに対するFVIII−特異的T細胞クローンBO1−4のIFNγ(図4A)および増殖性(図4B)応答の減少を示す。簡単に説明すると、FVIII、BDD、またはN2118QをDCと共に24時間インキュベートし、その後、FVIII−特異的T細胞クローンと共培養した。24時間後に、INFγ応答をELISAにより測定した。6日後に、3H−チミジン取り込みを調べることにより増殖性応答を測定した。N2118Qと、FVIIIおよびBDDとを比較して独立スチューデントT検定を行った;FVIIIおよびBDDの両方について、**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法、プロトコル、細胞株、動物種または属、構築物、および試薬に限定されるものではないと理解されるべきであり、それら自体は変更されてもよい。また、本明細書で用いる専門用語は、特定の実施形態について記載するだけの目的で使用されており、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0026】
単数形「a」、「and」、および「the」は、本明細書および添付の特許請求の範囲で用いるとき、文中が異なることを明確に示していない限り、複数についての記載を含むことに留意しなければならない。それゆえ、例えば、「アミノ酸」との記載は、1個またはそれ以上のアミノ酸についての記載であり、当業者に知られているその同等物などを含む。
【0027】
異なることが定義されていない限り、本明細書で用いる全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野で当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似または同等の方法、装置および材料が本発明の実施または試験に使用可能であるが、好ましい方法、装置および試験が本明細書に記載される。
【0028】
本明細書に記載される全ての刊行物および特許文献は、例えば、本発明に関連して使用可能な刊行物に記載の構築物および方法を記載および説明する目的で、出典明示により本明細書に取り込まれる。上記および本明細書を通じて記載される刊行物は、単に、本願の出願日前の開示を提供する。本明細書において、本発明者らが先願発明を理由にそのような開示に先行する資格がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0029】
定義
便宜上、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で用いられる一定の用語および成句の意味は、以下に提供される。
【0030】
因子VIII(FVIII)は、肝臓で合成され、血流中に放出される糖タンパク質である。トロンビンによる活性化によって、それは複合体から解離して凝固カスケード中のその他の凝固因子と相互作用し、最終的に血栓の形成を生じる。ヒト全長FVIIIは、配列番号:1のアミノ酸配列を有するが、対立遺伝子多型が可能である。この定義は、FVIIIの元々の形態ならびに組み換えの形態を含むと理解されるべきである。本願のポリペプチドを記載する場合、用語「変異タンパク質」および「変異型」は、生物学的機能または活性を保持する、当該ポリペプチドの変異タンパク質および変異型を意味する。
【0031】
本明細書で用いるとき、Bドメイン欠失FVIII(BDD)は、FVIIIのB−ドメインの14アミノ酸を除いた全ての欠失を含むアミノ酸配列を有することにより特徴付けられる。Bドメインの最初の4アミノ酸(SFSQ、配列番号:2)は、B−ドメインの10個の最後の残基(NPPVLKRHQR、配列番号:3)に連結されている(Lind, et al, Eur. J. Biochem. 232:19-27, 1995)。本明細書で用いられるBDDは、配列番号:4のアミノ酸配列を有する。BDDポリペプチドの例は、出典明示により本明細書に取り込まれる米国公開特許第20060115876 A1号に記載されている。
【0032】
FVIII分子を記載するために本明細書で用いられる「変異」は、N−結合グリコシル化配列モチーフをコードする核酸における少なくとも1つの置換であって、コードされる変異タンパク質において少なくとも1つのアミノ酸の差異を生じ、グリコシル化モチーフを除去し、それにより該変異分子の当該モチーフでN―結合グリコシル化が生じるのを防ぐ置換を意味する。用語「変異」はまた、変異核酸から生じた変化したモチーフを含む。
【0033】
下記の実施例において、変異タンパク質は、当該技術分野で慣用的な方法で名付けられる。変異体を命名する方法は、配列番号:1として提供される成熟全長FVIIIのアミノ酸配列に基づく。例えば、変異N239Qは、アミノ酸位置239におけるアスパラギンがグルタミンに変化されることを示す。
【0034】
一例として、FVIII変異タンパク質は、アミノ酸の保存的置換を含んでもよい。保存的置換は、あるアミノ酸から同様の特性を有する別のアミノ酸への置換として当該技術分野で認識されており、例えば、アラニンからセリン;アルギニンからリジン;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジン;アスパラギン酸からグルタミン酸;グルタミンからアスパラギン;グルタミン酸からアスパラギン酸;グリシンからプロリン;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミン;イソロイシンからロイシンまたはバリン;ロイシンからバリンまたはイソロイシン;リジンからアルギニン;メチオニンからロイシンまたはイソロイシン;フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニン;セリンからスレオニン;スレオニンからセリン;トリプトファンからチロシン;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニン;ならびにバリンからイソロイシンまたはロイシンへの変化を含む。
【0035】
特定のアミノ酸、その対応するアミノ酸の一文字表記、および三文字表記は、以下の通りである:A、アラニン(Ala);C、システイン(Cys);D、アスパラギン酸(Asp);E、グルタミン酸(Glu);F、フェニルアラニン(Phe);G、グリシン(Gly);H、ヒスチジン(His);I、イソロイシン(Ile);K、リジン(Lys);L、ロイシン(Leu);M、メチオニン(Met);N、アスパラギン(Asn);P、プロリン(Pro);Q、グルタミン(Gln);R、アルギニン(Arg);S、セリン(Ser);T、スレオニン(Thr);V、バリン(Val);W、トリプトファン(Trp);Y、チロシン(Tyr);およびノルロイシン(Nle)。
【0036】
本明細書で用いるとき、タンパク質とポリペプチドは同義語である。
【0037】
ポリペプチドのグリコシル化は、典型的に、N−結合またはO−結合である。N−結合は、糖部分とアスパラギン残基の側鎖との結合を意味する。トリペプチド配列Asn−X−SerおよびAsn−X−Thr(「N−X−S/T」)(ここで、Xは、プロリンを除くいずれかのアミノ酸である)は、糖部分とAsn側鎖との酵素的結合のための認識配列である。それゆえ、ペプチド中のこれらのトリペプチド配列(またはモチーフ)のいずれかの存在は、潜在的なN−結合グリコシル化部位を作り出す。
【0038】
これらの配列モチーフ(N−X−S/T)がN−結合グリコシル化に必要であることから、いくつかの異なるタイプの変異は、これらの部位においてN−結合グリコシル化を防ぐことができる。これらの変異は、例えば、アスパラギン残基(N)の別の残基による置換、第二残基(X)のプロリンによる置換、あるいは第三残基(S/T)のセリンまたはスレオニンを除くいずれかのアミノ酸による置換を含む。
【0039】
N−結合されたグリコシル化配列モチーフにおける特定の置換、例えば、第三位置におけるセリンのスレオニンへの置換は、モチーフ内のグリコシル化を防げないであろう。当業者は、置換が、変異の入ったグリコシル化部位でのグリコシル化を防ぐか、または防げないかを容易に調べることができる。
【0040】
一つの具体例において、変異は、モチーフ(N−X−S/T)のうちの1つの位置におけるアスパラギン残基のグルタミンなどの同様のアミノ酸残基による置換であってもよい。N−結合グリコシル化部位においてアスパラギン残基をグルタミン残基で置換することにより、一般に、これらの位置における元々の分子の極性およびハイドロパシーを維持する一方で、これらの部位でのグリコシル化を阻害することができる。
【0041】
別の具体例において、変異は、位置239におけるアスパラギンのグルタミン残基による置換(N239Q)である。別の具体例において、変異は、位置2118におけるアスパラギンのグルタミン残基による置換(N2118Q)である。さらなる具体例において、変異は、位置239および2118におけるアスパラギンのグルタミン残基による置換(N239Q/N2118Q)である。
【0042】
本発明のrFVIII分子は、全長FVIII分子またはその機能的な変異型のいずれかであり得る。ただし、当該分子はFVIII分子のアミノ酸位置41〜43、239〜241、582〜584、1810〜1812、および2118〜2120で生じる配列モチーフの1個でのグリコシル化を防ぐ変異を含むものとする。FVIII分子は、任意選択的に、その他のアミノ酸位置において変異が導入されてもよいが、活性が保持されることを条件とする。FVIII分子における変異は、システイン残基がシステイン結合を含む望ましくない反応の形成を生じ得るため、システイン残基を変異タンパク質に導入すべきではない。
【0043】
一つの具体例において、FVIII分子は、Bドメインが、部分的にまたは全体として欠失されているB−ドメイン欠失変異型(BDD)である。BDDは、Bドメインで見出される1つまたはそれ以上のN−結合グリコシル化部位を保持しうる(例えば、米国特許第4,868,112号およびEP294910を参照のこと)。別の具体例において、BDDは、本質的に全てのB−ドメインを欠失する。「本質的に全ての」は、少なくともBドメイン内の公知のグリコシル化部位の全てを含む領域を意味する。BDDのこの具体例の一例は、FVIIIのB−ドメインの14アミノ酸を除く全てが欠失されているアミノ酸配列を有するBDD FVIII分子である。B−ドメインの最初の4アミノ酸は、B−ドメインの10個の最後の残基に連結されている(例えば、米国特許第20060115876号を参照のこと)。あるいは、BDDは、B−ドメイン全体を欠いていてもよい(例えば、米国特許第6,130,203号)。
【0044】
アミノ酸配列の変化は、様々な技術、例えば、部位特異的変異導入による対応する核酸配列の改変により達成されてもよい。部位特異的変異導入のための技術は、当該技術分野でよく知られており、例えば、Zollerら(DNA 3:479-488, 1984)またはHortonら(Gene 77:61-68, 1989, pp. 61-68)に記載されている。例えば、FVIIIヌクレオチド配列は、Stratagene cQuickChange(商標)II部位特異的変異導入キット(カリフォルニア州、ラ・ホーヤのStratagene社)を用いて変異を導入することができる。成功した変異導入は、DNA配列決定法により確認することができ、変異を含む好適なフラグメントは、例えばハイグロマイシンB(Hyg B)に対する抵抗性を付与する哺乳類発現ベクター中のFVIII骨格に移すことができる。移した後、変異は、再度、配列により確認することができる。それゆえ、FVIIIのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を用いて、選択した変化(複数でもよい)を導入してもよい。同様に、特異的なプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応を用いてDNA構築物を調製するための手法は、当業者によく知られている(例えば、PCR Protocols, 1990, Academic Press, San Diego, California, USAを参照のこと)。
【0045】
FVIIIをコードする核酸構築物はまた、確立された一般的な方法、例えば、Beaucageら(Gene Amplif. Anal. 3:1-26, 1983)により記載されるホスホラミダイト法により合成的に調製されてもよい。ホスホラミダイト法によると、オリゴヌクレオチドは、例えば、自動DNA合成機中で合成され、精製され、アニール化され、連結され、適切なベクターにクローン化される。FVIIIをコードするDNA配列はまた、例えば、米国特許第4,683,202号;またはSaikiら(Science 239:487-491, 1988)に記載されるように、特異的なプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応によって調製してもよい。さらに、核酸構築物は、一般的な技術に従って、全体の核酸構築物の様々な部分に対応する、合成、ゲノム、またはcDNAの複製起点のフラグメントを(必要に応じて)連結することによって調製された、混合された合成およびゲノム、混合された合成およびcDNA、または混合されたゲノムおよびcDNAの複製起点のものであってもよい。
【0046】
FVIIIをコードするDNA配列は、組み換えDNA法を用いて組み換えベクターに挿入されてもよい。ベクターの選択は、多くの場合、ベクターが導入される宿主細胞に依存する。ベクターは、自律的に複製するベクターまたは組み込みベクターであってもよい。自律的に複製するベクターは、染色体外のものとして存在し、その複製は、染色体の複製とは独立し、例えば、プラスミドである。組み込みベクターは、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるベクターである。
【0047】
ベクターは、改変されたFVIIIをコードするDNA配列が、プロモーター、ターミネーター、およびポリアデニル化部位などのDNAの転写、翻訳、またはプロセッシングに必要とされるさらなる断片に作動可能に連結される発現ベクターであってもよい。一般に、発現ベクターは、プラスミドまたはウイルスDNAに由来してもよく、あるいはその両方のエレメントを含んでもよい。用語「作動可能に連結される」は、断片がそれらの意図する目的に合わせて機能するように、例えば転写がプロモーターで開始し、ポリペプチドをコードするDNA配列を通るように配置されることを意味する。
【0048】
FVIIIを発現させるのに用いるための発現ベクターは、クローン化された遺伝子またはcDNAの転写を指示することができるプロモーターを含んでもよい。プロモーターは、選んだ宿主細胞において転写活性を示すDNA配列のいずれかであってもよく、宿主細胞に対して同種性または異種性のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子に由来してもよい。哺乳類細胞におけるDNAの転写を指示するためのプロモーターの例は、例えば、SV40プロモーター(Subramani, et al., Mol. Cell Biol. 1:854-864, 1981)、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター(Palmiter, et al., Science 222:809-814, 1983)、CMVプロモーター(Boshart, et al., Cell 41:521-530, 1985)、またはアデノウイルス2主要後期プロモーター(Kaufman et al., Mol. Cell Biol, 2:1304-1319, 1982)である。
【0049】
FVIIIをコードするDNA配列はまた、必要であれば、好適なターミネーターに作動可能に連結されてもよい(例えば、Palmiter, et al., Science 222:809-814, 1983;Alber et al., J. MoI. Appl. Gen. 1:419-434, 1982;McKnight, et al., EMBO J. 4:2093-2099, 1985を参照のこと)。発現ベクターはまた、挿入部位の下流に位置するポリアデニル化シグナルを含んでもよい。ポリアデニル化シグナルは、SV40に由来する初期または後期ポリアデニル化シグナル、アデノウイルス5Elb領域に由来するポリアデニル化シグナル、ヒト成長ホルモン遺伝子ターミネーターを含む(DeNoto, et al., Nucl. Acids Res. 9:3719-3730, 1981)。発現ベクターはまた、SV40エンハンサーのごときエンハンサー配列を含んでもよい。
【0050】
FVIIIまたはFVIII変異タンパク質をコードするDNA配列、プロモーター、ターミネーター、および任意選択的に他の配列を連結し、複製に必要な情報を含む好適なベクターにそれらを挿入するのに用いられる方法は、当業者に周知である(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York, 1989を参照のこと)。
【0051】
FVIII変異タンパク質をコードする核酸を含む好適な発現ベクターは、グリコシル化能力のある細胞に導入されてもよい。次いで、FVIII発現は、ELISAによりアッセイすることができ、活性は、Coatest色原体アッセイ(Coatest chromogenic assay)(オハイオ州、ウェストチェストのdiaPharma)などの常套のアッセイを用いてアッセイすることができる。
【0052】
哺乳類細胞にトランスフェクトさせ、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法は、例えば、Kaufmanら(J. Mol. Biol. 159:601-621, 1982);Southernら(J. Mol. Appl. Genet. 1:327-341, 1982);Loyterら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79:422-426, 1982);Wiglerら(Cell 14:725-731, 1978);Corsaroら(Somatic Cell Genetics 7:603-616, 1981)、Grahamら(Virology 52:456-467, 1973);およびNeumannら(EMBO J. 1:841-845, 1982)に記載されている。クローン化されたDNA配列は、例えば、リポフェクション、DEAE−デキストラン−介在トランスフェクション、マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈殿法、レトロウイルス送達、エレクトロポレーション、ソノポレーション(sonoporation)、レーザー照射、マグネトフェクション、自然形質転換、および遺伝子銃形質転換によって、培養された哺乳類細胞に導入してもよい(例えば、Mehier-Humbert, et al., Adv. Drug Deliv. Rev. 57:733-753, 2005を参照のこと)。外因性DNAを発現する細胞を同定し、選択するために、選択可能な表現形(選択マーカー)を付与する遺伝子は、一般に、目的の遺伝子またはcDNAと共に細胞に導入される。選択マーカーは、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン(ハイグロマイシンB、Hyg B)、およびメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与する遺伝子を含む。選択マーカーは、増幅可能な選択マーカーであってもよく、それは、該配列が連結されると、マーカーおよび外因性DNAの増幅を可能にする。典型的な増幅可能な選択マーカーは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)およびアデノシン脱アミノ酸酵素を含む。好適な選択マーカーを選択することは、当該技術分野の範囲内である(例えば、米国特許第5,238,820号を参照のこと)。
【0053】
細胞をDNAでトランスフェクトした後、目的の遺伝子を発現させるために、それらを適切な増殖培地中で増殖する。本明細書で用いるとき、用語「適切な増殖培地」は、細胞の増殖およびFVIIIまたはFVIII変異タンパク質の発現に必要な栄養素およびその他の構成成分を含有する培地を意味する(例えば、米国特許第5,171,844;5,422,250;5,422,260;5,576,194;5,612,213;5,618,789;5,804,420;6,114,146;6,171825;6,358,703;6,780,614;および7,094,574号を参照のこと)。
【0054】
培地は、一般に、例えば、炭素源、窒素源、必須アミノ酸、必要な糖、ビタミン、リン脂質、タンパク質、および増殖因子を含む。次に、薬物選択は、安定な様式にて選択マーカーを発現している細胞の増殖について選択するのに適用される。増幅可能な選択マーカーでトランスフェクトされた細胞に関して、クローン化された配列のコピー数の増加、それによる発現レベルの増加のために、薬物濃度を上昇させてもよい。次いで、安定にトランスフェクトされた細胞のクローンは、FVIIIまたはFVIII変異タンパク質の発現についてスクリーニングされる。
【0055】
例えば、トランスフェクトされた細胞は、5% FBSを補充した増殖培地において50μg/mLのHyg Bによる選択圧下に置かれてもよい。FVIII発現のために、Hyg B−耐性コロニーが選択され、スクリーニングされる。次に、安定な形質転換体は、組み換え発現のための培地に適用される。FVIII変異タンパク質の作成および発現は、いくつかの文献に記載されている(例えば、米国公開出願第20060115876号;Kaufman, et al., J Biol Chem 263:6352-6362, 1988;Hironaka, et al., J Biol Chem 267:8012-8020, 1992を参照のこと)。
【0056】
本発明に用いるための哺乳類細胞株の例は、COS−1(ATCC CRL 1650)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、HKB11細胞(Cho, et al., J. Biomed. Sci, 9:631-638, 2002)、およびHEK−293(ATCC CRL 1573;Graham, et al., J. Gen. Virol. 36:59-72, 1977)細胞株を含む。さらに、ラットHep1(ラット肝細胞腫;ATCC CRL 1600)、ラットHepII(ラット肝細胞腫;ATCC CRL 1548)、TCMK−1(ATCC CCL 139)、Hep−G2(ATCC HB 8065)、NCTC 1469(ATCC CCL 9.1)、CHO−K1(ATCC CCL 61)、およびCHO−DUKX細胞(Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220, 1980)を含む、多くのその他の細胞株が、本発明において用いられてもよい。
【0057】
一定の細胞株は、組み換えタンパク質をグリコシル化することができ、本明細書において「グリコシル化能力のある」細胞株と称される。グリコシル化能力のある細胞株の一例は、アメリカンタイプカルチャーセンターから入手可能なHKB11(ATCC番号CRL-12568)である。本発明で有用なその他のグリコシル化能力のある細胞株は、COS−1、CHO、HEK293、およびBHK細胞を含む。
【0058】
FVIII変異タンパク質をコードする核酸配列を含有する宿主細胞を含む組み換え培養物は、好適な条件下で増殖して、変異タンパク質を発現させ、回収する。一つの具体例において、FVIII変異タンパク質が、宿主細胞から分泌形態で発現され、増殖培地から回収され、次いで、任意選択的に、さらに精製して医薬品を製造してもよい。
【0059】
FVIIIポリペプチドは、細胞培養培地から回収されてもよく、次いで、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、疎水、等電点、およびサイズ排除)、電気泳動法(例えば、分取等電点(IEF)、異なる溶解度(例えば、硫酸アンモニウム沈殿))、抽出(例えば、Protein Purification, Janson and Lars Ryden, editors, VCH Publishers, New York, 1989を参照のこと)、またはそれらの様々な組み合わせを含むが、これらだけに限定されない当該技術分野で知られている様々な手法により精製してもよい。典型的な具体例において、ポリペプチドは、抗−FVIII抗体カラムにおけるアフィニティークロマトグラフィーによって精製してもよい。さらなる精製は、高速液体クロマトグラフィーなどの常套の化学的精製法により達成されてもよい。精製のその他の方法は、当該技術分野で既知であり、改変されたFVIIIポリペプチドの精製に適用できる(例えば、Scopes, R., Protein Purification, Springer-Verlag, N.Y., 1982を参照のこと)。
【0060】
一般に、「精製された」は、分画されて様々なその他の構成成分が除去され、実質的に、その発現された生物学的活性を保持するタンパク質またはペプチド組成物を意味する。用語「実質的に精製された」が用いられる場合、この表現は、タンパク質またはペプチドが、組成物中に約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、またはそれ以上のタンパク質を構成するような、組成物の主な構成成分を形成する組成物を意味する。
【0061】
ポリペプチドの精製の程度を定量するための様々な方法は、当業者に知られている。これらは、例えば、活性なフラクションの比活性を調べること、またはSDS/PAGE解析によりフラクション内のポリペプチド量を測定することを含む。フラクションの純度を測定するための典型的な方法は、フラクションの比活性を算出し、その活性を最初の抽出物の比活性と比較し、それにより純度を算出することであり、本明細書では「−比率純化数(fold purification number)」により測定した。活性量を表すのに用いられる実際の単位は、当然、具体的なアッセイ技術に依存している。
【0062】
組み換えFVIIIは、商業的規模において産生することができる。いずれかの好適な培養方法および培地が、本発明のプロセスにおいて細胞を培養するのに用いられてもよい。好適な培養方法、条件、および培地は、細胞培養分野においてよく知られている。バッチおよび連続的な発酵方法、懸濁および接着培養のいずれか、例えば、マイクロキャリア培養方法、ならびに撹拌槽および空気撹拌発酵槽が必要に応じて用いられてもよい。宿主細胞は、発酵容器などのいずれのタイプの培養装置で培養されてもよい。細胞は、接着細胞培養として、または懸濁細胞培養として培養されてもよい。組み換えタンパク質を発現する細胞の懸濁細胞培養のための装置は、当業者によく知られている(例えば、米国特許第7,294,484;7,157,276;6,660,501;および6,627,426号を参照のこと)。一般に、足場非依存性懸濁細胞培養のための原理、プロトコル、装置、および実施技術は、Chuら(Curr Opin Biotechnol 12:180-7, 2001)およびWarnockら(Biotechnol Appl Biochem 45:1-12, 2006)において見出すことができる。
【0063】
細胞を培養するのに用いる培地は、様々な公知かつ利用可能な増殖培地を含んでもよい。血清が補充されているか、または血清が含まれていない培地のいずれかを用いてもよい。治療用タンパク質の産生に関して、培地は、血清を含まないか、および/またはタンパク質を含まない培地であってもよい(例えば、米国特許第5,804,420および7,094,574号;WO97/05240;およびEP0872487を参照のこと)。
【0064】
医薬組成物
本発明はまた、治療上有効な量の本発明のFVIII変異タンパク質および医薬上許容される担体を含む非経口投与用医薬組成物に関する。医薬上許容される担体は、有効成分に添加されて調製物の製剤化、または安定化を補助し、患者に著しく有害な毒物学的な効果を生じ得ない物質である。用語「医薬上または薬理学上許容される」は、動物またはヒトに投与したときに、有害な、アレルギー性の、またはその他の所望されない反応を生じない分子および組成物を意味する。本明細書で用いるとき、「医薬上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤、ならびにこれらの類似物質のいずれかおよび全てを含む。医薬上活性な物質のためのかかる媒体および薬剤の使用は、当該技術分野においてよく知られている。補助的な有効成分もまた、当該組成物に取り込まれてもよい。
【0065】
本発明の組成物は、典型的な医薬調製物を含む。これらの本発明の組成物の投与は、一般的な経路のいずれを介してもよい。医薬組成物は、いずれかの常套の方法、例えば、静脈、皮内、筋肉内、皮下、または経皮送達によって患者に導入されてもよい。処置は、単回投与または長期間にわたる複数回投与からなってもよい。
【0066】
注射用途に適する医薬形態は、滅菌水溶液または分散剤、および滅菌注射用水溶液または分散剤の即時調製のための滅菌粉末を含む。形態は、無菌であるべきであり、容易な注入可能性(syringability)が存在する程度まで流動性であるべきである。製造および保存の条件下で安定である必要があり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から守られる必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、スクロース、L−ヒスチジン、ポリソルベート80、またはそれらの好適な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒であってもよい。好適な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散の場合に必要とされる粒子サイズの維持により、ならびに界面活性剤の使用により維持されてもよい。微生物の作用の防止は、様々な抗細菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、およびそれらの類似物質によりもたらされてよい。注射用組成物は、等張化剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含んでもよい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤の組成物、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらされてもよい。
【0067】
FVIII医薬組成物はまた、充填剤、安定化剤、緩衝化剤、界面活性剤、塩化ナトリウム、カルシウム塩、およびその他の賦形剤を含んでもよい。これらの賦形剤は、凍結乾燥された調製物中および液体製剤中で、FVIIIの安定性を最大にするように選択されうる。
【0068】
充填剤は、例えば、マンニトール、グリシン、アラニン、およびヒドロキシエチルデンプン(HES)を含むことができる。安定化剤は、スクロース、トレハロース、およびラフィノースなどの糖、ソルビトールおよびグリセロールなどの糖アルコール、またはアルギニンなどのアミノ酸を含んでもよい。
【0069】
FVIII分子が凍結乾燥時のpH変化によって悪影響を受けうることから、緩衝化剤がこれらの製剤中に存在してもよい。pHは、凍結乾燥の間、6から8の間の範囲、例えば、約7のpHで維持されてもよい。緩衝化剤は、ヒスチジン、トリス、BIS−トリスプロパン、1,4−ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、およびN−[カルバモイルメチル]−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)を含む緩衝化剤として作用する能力を有する、生理学的に許容される化学物質または化学物質の組み合わせのいずれかであり得る。
【0070】
滅菌注射液は、好適な溶媒に、必要に応じて上記の様々なその他の成分と共に、必要な量の活性化合物(例えば、FVIII変異タンパク質)を加え、次いでろ過滅菌することによって調製できる。
【0071】
一般に、分散剤は、基礎分散媒および上記の必要なその他の成分を含む滅菌ビヒクルに様々な滅菌された有効成分を加えることによって調製してもよい。滅菌注射液の調製のための滅菌粉末の場合、調製方法は、例えば、前もって滅菌ろ過された溶液から有効成分といずれかのさらなる所望の成分との粉末を得る真空乾燥および凍結乾燥技術を含む。
【0072】
剤形に応じて、溶液は、投薬剤形に適合する方法で、治療上有効とされるような量で投与してよい。本明細書で用いられる「治療上有効な量」は、血流において、または標的組織において、ポリペプチドの所望されるレベルを提供するのに必要とされるポリペプチドの量を意味する。正確な量は、多くの因子、例えば、具体的なFVIII変異タンパク質、治療用組成物の構成成分および物理的特性、意図される患者集団、送達様式、個々の患者の考慮事項などに依存し、本明細書で提供される情報に基づいて当業者によって容易に決定される。
【0073】
製剤は、注射液などの様々な投薬形態で容易に投与されてもよい。水溶液中の非経口投与のために、例えば、溶液は、必要ならば、適宜緩衝化し、液体希釈剤は、最初に十分な塩またはグルコースで等張化するべきである。これらの特定の水溶液は、静脈、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に好適である。
【0074】
皮下、静脈、筋肉内などに適する剤形;好適な医薬担体;ならびに剤形および投与のための技術は、当該技術分野でよく知られている方法のいずれかによって調製されてもよい(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 20th edition, 2000を参照のこと)。
【0075】
FVIIIの医薬組成物の例は、例えば、米国特許第5,047,249号、第5,656,289号、第5,665,700号、第5,690,954号、第5,733,873号、第5,919,766号、第5,925,739号、第6,835,372号、および第7,087,723号に開示される。
【0076】
処置方法
哺乳類において上記同定される状態の処置に対する有効性を調べるのに用いられる周知のアッセイに基づいて、ならびに、これらの結果を、これらの状態を処置するために用いられる公知の医薬の結果と比較することによって、各所望される適応症の処置についての本発明の変異タンパク質の有効な用量は容易に決定され得る。これらの状態のうちの1つの処置に投与される有効成分の量は、用いられる具体的なポリペプチドおよび単位用量、投与様式、処置期間、処置する患者の年齢および性別、ならびに処置する状態の性質および程度などの検討事項に従って広範囲に変化しうる。
【0077】
適切な用量は、関連する用量応答データと連動した血液凝固レベルを調べるための確立されたアッセイの使用によって確認されてもよい。最終的な投薬計画は、薬物の作用を変化させる因子、例えば、薬物の比活性、傷害の重症度、ならびに患者の応答性、年齢、状態、体重、性別および患者の食事、感染の重症度、投与時間、およびその他の臨床因子を考慮して、主治医により決定されてもよい。
【0078】
本明細書に記載される組成物は、FVIIIの結合特性の変化、FVIIIの遺伝子異常、およびFVIIIの血漿濃度の減少などのFVIIIの機能欠損またはFVIIIの欠乏に関連する出血性疾患のいずれかを処置するために用いることができる。FVIIIの遺伝子異常は、例えば、FVIIIをコードするヌクレオチド配列における塩基の欠失、付加、および/または置換を含む。一つの具体例において、出血性疾患は血友病であってもよい。かかる出血性疾患の症状は、例えば、重度の鼻血、口腔粘膜の出血、関節血症、血腫、持続性血尿、胃腸出血、後腹膜出血、舌/咽頭後出血、頭蓋内出血、および外傷に関連する出血を含む。
【0079】
本発明の組成物は予防のために用いられてもよい。いくつかの具体例において、FVIII変異タンパク質は、対象自身の凝固能力を高めるために、病状または損傷に感受性を有する、あるいはリスクの高い対象に投与されてもよい。かかる量は、「予防上有効な用量」であると定義されてもよい。予防のためのFVIII変異タンパク質の投与は、血友病にかかっている患者が外科手術を受けようとしており、ポリペプチドが外科手術の1〜4時間前に投与される状況を含む。さらに、ポリペプチドは、任意選択的に、血友病にかかっていない患者における、コントロール不良の出血に対する予防としての使用に好適である。それゆえ、例えば、本ポリペプチドは、外科手術前にコントロール不良の出血のリスクのある患者に投与されてもよい。
【0080】
本発明の一つの具体例において、患者にFVIII変異タンパク質の医薬組成物を静脈内点滴して、血友病患者におけるFVIII欠乏によるコントロール不良の出血(例えば、関節内、頭蓋内、または胃腸出血)を処置してもよい。
【0081】
一例として、インビトロにおけるFVIIIの凝固活性を用いて、ヒト患者における点滴のためのFVIIIの用量を算出してもよい(Lusher, et al., New Engl J Med 328:453-459, 1993;Pittman, et al., Blood 79:389-397, 1992;Brinkhous, et al., Proc Natl Acad Sci 82:8752-8755, 1985)。一つの具体例において、FVIII変異タンパク質の投与を介して患者で達成されるべき血漿FVIIIレベルは、通常の30〜100%の範囲内であってもよい。
【0082】
別の具体例において、本組成物は、約5から50単位/kg体重の範囲内の用量で、または10〜50単位/kg体重の範囲で、または20〜40単位/kg体重の用量で静脈内に投与してよい。処置は、必要に応じて、組成物の単回静脈内投与または長期間にわたる定期的もしくは連続的投与の形態であり得る。投薬間隔は(重症の血友病において)約8から24時間の範囲であり、処置期間は1から10日の範囲内であるか、または出血エピソードが解消されるまでである。
【0083】
本発明のFVIII変異タンパク質はまた、インビボで発現されてもよく、すなわち、これらの変異タンパク質は遺伝子療法に用いられてもよい。細胞は、エクスビボでFVIII変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)で改変されてもよく、次いで、改変された細胞は、ポリペプチドで処置されるべき患者に提供されてもよい。かかる方法は当該技術分野でよく知られている。例えば、細胞は、本発明のポリペプチドをコードするRNAを含むレトロウイルス粒子の使用により当該技術分野で知られる手法によって改変されてもよい。投与される遺伝子は、当該技術分野内の通常の分子生物学および組み換えDNA技術を用いて単離され、精製されてもよい。次いで、単離された遺伝子は、好適なクローニングベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニア、ヘルペスウイルス、バキュロウイルスおよびレトロウイルス、パルボウイルス、レンチウイルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター)に挿入されてもよい。送達される遺伝子のコード配列は、プロモーター、エンハンサー、転写および翻訳停止部位、ならびにその他のシグナル配列などの発現制御配列に作動可能に連結されてもよい。
【0084】
治療用ベクターの患者への送達は直接的であってよく、この場合患者がベクターまたは送達複合体に直接曝露され、あるいは間接的であってもよく、この場合細胞が最初にインビトロにてベクターで形質転換され、次いで患者に移植される。これらの2つのアプローチは、それぞれインビボおよびエクスビボ遺伝子療法として知られている。例えば、治療用ベクターは、裸のDNAの直接注入により、あるいは微粒子照射(例えば、遺伝子銃)の使用によりインビボで直接投与されてもよい。
【0085】
潜在的な治療用遺伝子を規定の細胞集団に移行させるためのいくつかの方法が知られている(例えば、Mulligan, Science 260:926-31, 1993を参照のこと)。これらの方法は、例えば、1)直接遺伝子トランスファー(例えば、Wolff, et al., Science 247:1465-68, 1990を参照のこと);2)リポソーム介在DNAトランスファー(例えば、Caplen, et al., Nature Med 3:39-46, 1995;Crystal, Nature Med. 1:15-17, 1995;Gao and Huang, Biochem Biophys Res Comm 179:280-85, 1991を参照のこと);3)レトロウイルス介在DNAトランスファー(例えば、Kay, et al., Science 262:117-19, 1993;Anderson, Science 256:808-13, 1992を参照のこと);4)DNAウイルス介在DNAトランスファーを含む。かかるDNAウイルスは、アデノウイルス(例えば、Ad−2またはAd−5を基礎としたベクター)、ヘルペスベクター(例えば、単純ヘルペスウイルスを基礎としたベクター)、およびパルボウイルス(例えば、AAV−2を基礎としたベクターのごとき、アデノ随伴ウイルスを基礎としたベクター)を含む(例えば、Ali, et al., Gene Therapy 1:367-84, 1994;米国特許第4,797,368号;米国特許第5,139,941号を参照のこと)。遺伝子療法のその他の方法は、Goldspielら(Clin Pharm 12:488-505, 1993);WuおよびWu(Biotherapy 3:87-95, 1991);Tolstoshev(Ann Rev Pharmacol Toxicol 32:573-596, 1993);ならびにMorganおよびAnderson(Ann Rev Biochem 62:191-217, 1993)により記載される。用いることができる組み換えDNA技術の分野で一般に知られる方法は、Ausubelら(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993);Kriegler(Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990);Dracopoliら(Current Protocols in Human Genetics, John Wiley & Sons, NY, 1994);およびColosimoら(Biotechniques 29:314-324, 2000)に記載される。
【0086】
目的の遺伝子を移行させるための特定のベクター系の選択は、様々な因子に依存する。当業者は、本発明のポリペプチドをコードする適切な遺伝子療法ベクターのいずれかがこの具体例に従って用いることができると認識するであろう。かかるベクターを構築するための技術は知られている(例えば、Anderson, Nature 392:25-30, 1998;Verma and Somia, Nature 389:239-242, 1998を参照のこと)。ベクターの標的部位への導入は、公知の技術を用いて達成されてもよい。
【0087】
好適な遺伝子治療用ベクターは、1つまたはそれ以上のプロモーターを含む。用いられ得る好適なプロモーターは、ウイルスプロモーター(例えば、Miller, et al., Biotechniques 7:980-990, 1989に記載される、レトロウイルスLTR、SV40プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、呼吸器合胞体ウイルスプロモーター、B19パルボウイルスプロモーター、およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター)、細胞プロモーター(例えば、ヒストン、polIII、およびβ−アクチンプロモーター)、および誘導性プロモーター(例えば、MMTプロモーター、メタロチオネインプロモーター、および熱ショックプロモーター)を含むが、これらだけに限定されない。好適なプロモーターの選択は、本明細書に含まれる教示に基づいて当業者にとって明らかである。
【0088】
レトロウイルスプラスミドベクターが由来しうるレトロウイルスは、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病肉腫ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳癌ウイルスなどのレトロウイルスを含むが、これらだけに限定されない。レトロウイルスプラスミドベクターは、パッケージング細胞株を形質導入して産生細胞株を形成するために用いてもよい。トランスフェクトされ得るパッケージング細胞の例は、Miller(Human Gene Therapy, 1:5-14, 1990)に記載されるごとき、PE501、PA317、PA12、VT−19−17−H2、およびDAN細胞株を含むが、これらだけに限定されない。ベクターは、当該技術分野で知られるいずれかの手法を用いてパッケージング細胞を形質導入しうる。かかる手法は、エレクトロポレーション、リポソームの使用、およびCaPO沈殿を含むが、これらだけに限定されない。一つの別法において、レトロウイルスプラスミドベクターは、リポソーム中に封入されるか、または脂質に共役され、次いで、宿主に投与されてもよい。産生細胞株は、本発明の変異タンパク質をコードする核酸配列を含む感染性レトロウイルスベクター粒子を作成する。次いで、かかるレトロウイルスベクター粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかで真核細胞を形質導入するのに用いられてもよい。形質導入された真核細胞は、本発明の変異タンパク質をコードする核酸配列を発現する。導入され得る真核細胞は、胚性幹細胞、胚性癌細胞、ならびに造血幹細胞、肝細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、および気管支上皮細胞を含むが、これらだけに限定されない。
【0089】
一つの具体例において、本発明のFVIII変異タンパク質をコードするDNAは、血友病のごとき疾患のための遺伝子療法に用いられる。この具体例によると、本発明のFVIII変異タンパク質をコードするDNAを用いる遺伝子療法は、診断と同時に、または診断の直後に、それを必要とする患者に提供されてもよい。
【0090】
本明細書に記載される変異タンパク質、材料、組成物、および方法は、本発明の代表的な例とされ、本発明の範囲は、これらの例の範囲に限定されるものではないものと理解される。当業者は、本発明が、開示されるポリペプチド、材料、組成物および方法の変形で実施されてよく、かかる変形は本発明の範囲内とされると認識する。
【0091】
下記の実施例は、本明細書に記載される本発明を例示するために提示されるものであるが、決して、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0092】
実施例
本発明がより理解されうるために、下記の実施例を示す。これらの実施例は、例示のみを目的とするものであり、決して発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書で言及される全ての刊行物は、出典明示により全体が本明細書に取り込まれる。
【実施例1】
【0093】
実施例1.樹状細胞によるFVIIIのエンドサイトーシス
インビトロでのDCによる取り込みに対するFVIIIグリコシル化の効果を調べた。全長rFVIIIを、FACS解析のために最初に標識し、次いで脱グリコシル化した。FACS解析用のrFVIIIの標識のために、PBS中6μgの蛍光イソチオシアネート(FITC)(pH9)を、100μgの脱グリコシル化FVIIIに添加し、4℃で2時間混合した。20mMのHEPES、150mMのNaCl、2%のスクロース、および100ppmのTween(登録商標)−80(ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエート)のpH7.5の溶液中において50Kメンブレンを用い、4℃で2時間透析して、抱合されなかったFITCを取り除いた。FVIII濃度をブラッドフォードアッセイによって定量し、FVIII活性を発色アッセイにより調べた。次いで、タンパク質を変性させることなくN−結合オリゴ糖を特異的に切断するエンドグリコシダーゼF1(Endo−F1)を用いて、標識されたrFVIIIを酵素学的に脱グリコシル化した。rFVIIIを、Endo−F1と共に37℃で1時間インキュベートした。rFVIIIを50Kメンブレンに注入し、20mMのHEPES、150mMのNaCl、2%のスクロース、および100ppmのTween(登録商標)−80のpH9の溶液に対して4℃で2時間透析した。脱グリコシル化をウェスタンブロット解析により確認した。
【0094】
樹状細胞(DC)を作成するために、接着した単球を、3%のヒトAB血清、20ng/mLのGM−CSFおよび10ng/mLのIL−4を補充したRPMI1640培地(ユタ州、ローガンのHyclone/Thermo Scientific)中で5日間培養した。DC生存率をフローサイトメトリーにより確認した。全ての細胞を、5%のCOおよび95%の空気の加湿型細胞インキュベーター中にて37℃で培養した。DCによる取り込みに対するrFVIII脱グリコシル化の効果を調べるために、DCを、脱グリコシル化されたrFVIIIと共に30分間インキュベートし、インキュベート後、FACSによりDCによるFVIIIの取り込みを解析した。図1は、DCによるFVIIIの取り込みが、Endo−F1による脱グリコシル化後に著しく減少することを示す。これらの結果は、DCによるFVIIIの取り込みが、少なくとも部分的にN−グリコシル化に依存することを示し、さらに、取り込みがN−結合非キャップ化オリゴ糖を認識するCD206によって介在されることを示唆する。
【0095】
実施例2.HKB11細胞におけるFVIII変異タンパク質の発現
BDD FVIIIおよびこのFVIIIの3つの変異タンパク質を、HKB11細胞において発現させた。BDD FVIIIは、B−ドメインの最初の4アミノ酸がB−ドメインの10個の最後の残基に連結されるように、B−ドメインの14アミノ酸以外の欠失を含有した。1つのBDD FVIII変異タンパク質は、位置239におけるグルタミンのアスパラギンへの一置換(N239Q)を含有し、もう1つは、位置2118におけるグルタミンのアスパラギンへの一置換(N2118Q)を含有し、第3のものは、両方の変異(N239Q/N2118Q)を含有する。
【0096】
Lipofectamine(商標)2000(カリフォルニア州、カールズバッドのInvitrogen)を用い、製造業者の説明書に従って、HKB11細胞をBDD FVIIIおよびBDD FVIII変異タンパク質発現プラスミドで一過的にトランスフェクトした。HKB11細胞をBDDおよびBDD変異タンパク質プラスミドで一過的にトランスフェクトし、これらの細胞からの上澄み液を、発色アッセイによりFVIII活性について、およびELISAによりFVIII濃度について試験した。3つの変異タンパク質の比活性が、未変異形態の各グリコシル化部位を含有するBDDと同様であることを見出した(図2A)。N2118Q変異タンパク質がBDDと同様の発現レベルを示す一方で、N239QおよびN239Q/N2118Q変異タンパク質の発現レベルが、BDDよりそれぞれ約25%および50%低くなった(図2B)。したがって、この典型的な系においていくつかの変異タンパク質の収量は減少したが、それにもかかわらず、変異タンパク質は有効な量で回収された。
【0097】
実施例3.樹状細胞によるFVIII変異タンパク質の取り込みの減少
樹状細胞(DC)によるFVIIIの取り込みは、実施例1に記載されるように、FVIII上のマンノース−末端グリカンとのCD206相互作用によって介在されると考えられることから、N239Q/N2118Q BDD変異タンパク質を取り込むDCの能力をテストした。DCを上記のとおり調製した。2人のドナーに由来するDCをプールし、次いで、全長rFVIII、BDD FVIII(実施例2に記載)、またはN239Q/N2118Q BDD変異タンパク質と共に共培養した。細胞を96ウェルプレートのウェル中で30分間共培養した。1ウェルあたりの最終体積は100μlであり、rFVIII、BDD、または変異タンパク質の最終濃度は10nMであった。次に、プレートを37℃で30分間インキュベートした。コントロールとして、対応する取り込みアッセイもまた4℃で行った。4℃、300gで5分間プレートを遠心して、細胞を沈殿させた。培地を吸引し、1ウェルあたり25μLの氷冷PBS/10mMのEDTA/0.01%のTween(登録商標)−80で細胞を3回洗浄した。次いで、プロテアーゼ阻害剤を含有するCytobuster(商標)緩衝液(ウイスコンシン州、マディソンのNovagen)によって、細胞沈殿物を4℃で15分間溶解させた。ELISA前に、プレートを300gで10分間遠心した。ELISA(コネティカット州、スタンフォードのAmerican Diagnostica)用に、細胞抽出物を1/25で希釈した。FVIIIおよびBDDについての標準曲線(80から1.25μモル)を組み換えタンパク質から作成した。製造業者の説明書に従ってELISAを実施した。
【0098】
図3は、DCによるN2118Q変異タンパク質およびN239Q/N2118Q FVIII変異タンパク質の取り込みがrFVIIIおよびBDDのものより極めて低いことを示す。
【0099】
BDD 2118Qの薬物動態試験において、スプラーグドーリーラットにBDD N2118Q変異タンパク質を0.05mg/kgで血管内注入した(n=4)。血液サンプルを様々な時点で採取し、BDD N2118Qの濃度を、280nmの吸光度により測定した。ラットにおける単独変異体の半減期は、BDDと同様の4.4±0.7時間であった。
【0100】
実施例4.FVIII−特異的T細胞クローンのインビトロIFNγ応答の減少
N2118Qの取り込みの減少がFVIIIに対するT細胞活性の低下を生じるかどうかをテストするために、FVIII−特異的T細胞クローンBO1−4によるIFNγの分泌をテストした(図4A)。HLA−適合DCを、自己血漿中にてFVIII、BDD、またはN2118Qと共に、37℃において24時間インキュベートして、DCにより各タンパク質を取り込ませ、プロセッシングさせ、提示させた。次いで、DCを、FVIII−特異的T細胞クローン(T細胞:DCが10:1の比率)と共に、37℃にて24時間共培養させた。次に、上澄み液(50μL)を採取し、酵素免疫測定吸着法(ELISA)によるIFNγの測定のために2倍に希釈した。
【0101】
実施例5.FVIII−特異的T細胞クローンのインビトロ増殖性応答の減少
N2118Qの取り込みの減少が、FVIIIに反応してT細胞増殖の減少を生じるかどうかをテストするために、FVIII−特異的T細胞クローンBO1−4によるIFNγの分泌をテストした(図4B)。HLA−適合DCを、自己血漿中にてFVIII、BDD、またはN2118Qと共に37℃にて24時間インキュベートして、DCにより各タンパク質を取り込ませ、プロセッシングさせ、提示させた。次に、DCを、FVIII−特異的T細胞クローン(T細胞:DCが10:1の比率)と共に37℃にて共培養させた。3日目に20μCi 3H−チミジン(チミジン)をさらに36時間添加した。細胞を採取し、チミジン取り込みについてテストした。
【0102】
図4Aおよび4Bは、BO1−4 T細胞クローンによるN2118Qに対するIFNγおよび増殖性応答の顕著な減少を示す。これらのデータは、DCによるN2118Qの取り込みの減少が、DCによるFVIII−特異的T細胞クローンに対してFVIIIペプチドを提示する能力の低下を生じることを支持する。
【0103】
上記明細書で言及される全ての刊行物および特許文献は、出典明示により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載の方法の様々な改変および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者にとって明らかである。
【0104】
本発明は、特定の具体例に関して記載されているが、かかる特定の具体例に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、本発明を実施するための上記様式の様々な改変は、生化学またはその関連分野の当業者にとって明らかであり、以下の特許請求の範囲の範囲内であるものとされる。当業者は、本明細書に記載される発明の特定の具体例に対する多くの均等物を認識するか、または日常的な実験により確かめることができる。かかる均等物は、下記の特許請求の範囲により包含されるものとされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたはそれ以上の天然に存在するN−結合グリコシル化部位のアミノ酸配列内において1つまたはそれ以上のアミノ酸変異を導入することによって改変されたアミノ酸配列を含む、組み換え因子VIII分子であって、前記変異が、N−結合グリコシル化部位をグリコシル化から防ぐものである分子。
【請求項2】
N−結合グリコシル化部位のアミノ酸配列が、因子VIII分子のアミノ酸位置41〜43、239〜241、582〜584、1810〜1812、および2118〜2120からなる群から選択されるものである、請求項1記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項3】
アミノ酸位置が、239〜241、1810〜1812、および2118〜2120である、請求項2記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項4】
1つまたはそれ以上のアミノ酸変異が、239位、1810位、および2118位における1つまたはそれ以上のアミノ酸変異を含むものである、請求項2記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項5】
変異が、239位および1810位における変異を含むものである、請求項2記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項6】
変異が、239位および2118位における変異を含むものである、請求項2記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項7】
変異が、1810位および2118位における変異を含むものである、請求項2記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項8】
変異が置換を含むものである、請求項1から7のいずれか記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項9】
置換が、239位におけるアスパラギンのグルタミンへの置換を含むものである、請求項8記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項10】
置換が、1810位におけるアスパラギンのグルタミンへの置換を含むものである、請求項8記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項11】
置換が、2118位におけるアスパラギンのグルタミンへの置換を含むものである、請求項8記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項12】
置換が、N239QおよびN2118Qの置換を含むものである、請求項8記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項13】
因子VIII分子が、B−ドメイン欠失因子VIII分子である、請求項1から12のいずれか記載の組み換え因子VIII分子。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか記載の組み換え因子VIII分子をコードする、単離された核酸。
【請求項15】
請求項14記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項15記載の発現ベクターを含む、グリコシル化能力のある宿主細胞。
【請求項17】
請求項16記載のグリコシル化能力のある宿主細胞を含む、細胞培養物。
【請求項18】
請求項1から13のいずれか記載の組み換え因子VIII分子を含む、医薬組成物。
【請求項19】
保存のために凍結乾燥され、投与のために液体中で再構成することができる、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
因子VIII療法を必要とする患者を処置する方法であって、前記患者に、治療上有効な量の請求項1から13のいずれか記載の組み換え因子VIII分子または請求項18記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項21】
遺伝子療法による因子VIII療法を必要とする患者を処置する方法であって、前記患者に、因子VIII分子をコードする治療用ベクターを含む組成物を投与することを含む方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2011−526151(P2011−526151A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516667(P2011−516667)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/048680
【国際公開番号】WO2009/158511
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(503106111)バイエル・ヘルスケア・エルエルシー (154)
【Fターム(参考)】