説明

低免疫原性および長時間循環性タンパク質−脂質複合体の組成物

ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびコレステロールを含む脂質粒子を提供する。また、前記脂質粒子を含み、当該脂質粒子とペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質等の治療薬が会合している組成物を提供する。これらの組成物において、治療薬は低減された免疫原性および/または増大した循環時間を有する。これらの組成物は、ペプチド、ポリペプチドおよび/またはタンパク質の治療的投与のために使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
疾病状態の処置において、治療的に有利な効果を有する外来分子の投与を伴う治療的介入がしばしば行われる。しかしながら、かかる投与はしばしば身体の免疫応答の活性化の結果である望ましくない副作用を招き得る。治療薬の投与に続く抗体の形成は重篤な臨床誘発をもたらす。抗体は治療用分子の活性を無効にし、そして/または薬物動態を改変させ得る。
【0002】
これは特にペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質のような抗原性の強い分子を投与する場合に関係する。かかるポリペプチドの多くは治療用分子として日常的に使用される。例えば第VIII因子(FVIII)は内在性の凝固経路において必須の補助因子である。FVIIIの欠損または機能障害は血友病Aとして特徴付けられる出血性障害を招く。組換えFVIII(rFVIII)または血漿由来FVIII(pdFVIII)での補充療法は出血エピソードを制御するための一般的な方法である。FVIIIは6個のドメイン(A1−A2−B−A3−C1−C2)を含む多ドメイン糖タンパク質である。血漿への分泌の前に、FVIIIはタンパク質溶解性切断に供され、170以下から300kDa以下の範囲の分子量を有するヘテロ二量体の作成に至る。Bドメインレベルでの複数のタンパク質溶解部位の存在は、FVIII調製の高度な異種性の原因である。FVIIIの最も大きなドメイン(908個のアミノ酸残基またはアミノ酸残基の全数の40%以下)であるにもかかわらず、Bドメインは補助因子凝固活性に必須の機能を全く欠いている。Bドメインの欠失はpdFVIII(例えば−170kDa)の最短形態に相当する、あまり異種性でない、遺伝子操作されたrFVIIIに至る。Bドメイン欠失rFVIII(BDDrFVIII)はrFVIIIよりも高い特異活性を特徴とし、そして血友病の治療に使用することもできる。
【0003】
別の治療用分子は第VIIa因子(FVIIa)である。これは外因性凝固カスケードの活性化において重要な役割を果たすトリプシン様セリンプロテアーゼである。FVIIaはArg152およびIle153の間の活性化切断の後の第VII因子の触媒性の弱い形態である。循環性FVIIaは外傷時に、血管の外側で見出されるそのアロステリック調節因子である組織因子(TF)と複合体を形成した場合に有効な触媒になる。FVIIa−TF複合体はさらに凝血の引き金となる少量のトロンビンの作成を誘起する。第VIIa因子は交代凝固因子である第VIII因子および第IX因子に対して阻止抗体を発達させた血友病AおよびB患者における制御不能な出血を米国食品医薬品局により承認されている。組換えヒト第VIIa因子(rHu−FVIIa)の静脈内投与はその他の代替治療計画よりも副作用が少ないために、および血漿由来FVIIaの調製の困難を回避するために導入されている。しかしながらFVIIaは循環半減期が短く望ましい効果を達成するためには繰り返しボーラス注射を必要とすることが問題になり得る。
【0004】
加えて多くのその他のタンパク質が治療薬として使用される。これにはエリスロポエチン、VEG−F、その他の血液凝固タンパク質、ホルモン(例えばインスリンおよび成長ホルモン)等が含まれる。免疫系によるプロセシングを阻止し、そしてまた循環時間を延長する(投与の回数を減らす)ことができる戦略がタンパク質の有効性を改善するであろう。したがって治療薬の分野では、タンパク質の免疫原性を少なくし、循環時間または有効性に有意に影響することのない処方の開発が必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は薬剤の免疫原性が低下し、そしてその循環時間が増大するような治療薬を含む組成物を提供する。組成物はホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびコレステロールを含む脂質粒子(本明細書では脂質構造体とも称される)を含む。送達組成物(delivery compositions)を形成するためにペプチド、ポリペプチドおよび/またはタンパク質のような治療薬を脂質粒子と会合させることができる。
【0006】
これらの組成物では、治療薬は免疫原性の低下および長い循環時間を示す。
【0007】
種々の実施態様では、第VIII因子、Bドメイン欠失第VIII因子、第VII因子、リゾチームおよびエリスロポエチンのようなタンパク質をそこに会合させている脂質粒子が開示される。
明細書において、PIを含む脂質粒子と会合した治療薬は時に治療薬−PIと称される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は治療薬を送達するための低免疫原性および長時間循環性脂質処方のための方法および組成物を提供する。処方(製剤)はホスファチジルコリン(PC)およびホスファチジルイノシトール(PI)およびコレステロールを含む脂質構造体と会合した治療薬を含む。治療薬はペプチド(一般的に50個以下のアミノ酸)、ポリペプチド(一般的に100個以下のアミノ酸)またはタンパク質(100個のアミノ酸より大きい)でよい。
【0009】
任意の特定の理論に縛られることは意図しないが、低免疫原性および/またはより長い循環時間は少なくともある程度、独特な構造を有する脂質粒子のためであると考えられる。高い拡大率の下で見られるように、本発明の脂質粒子はリポソームラメラ(liposomal lamellarity)に典型的なドーナツ様構造を有していないと思われる。相当数の脂質粒子はディスク様構造を示し(実施例2参照)、それは水容量の低下に寄与し、それにより電子顕微鏡写真における低コントラストを提供する。したがってその形態は、おそらくは脂質構造および組織の改変、ならびに内部水容量の低下のために、リポソームのものとは異なるようである。脂質構造および組織をさらに調査するために、プローブとしてラウルダン(Laurdan)を使用して蛍光研究を実施した。プローブは界面領域を区分化し、そしてその発光は水分子の存在および動力学ならびにリポソームのラメラ構造(層状構造)を感知できる。本発明のラウルダン標識脂質粒子に関して、およびまたリポソームに関して蛍光発光スペクトルを獲得し、後者は対照として提供された。ゲルから液体結晶相に転移するリポソームに関して、440nmから490nmの最大発光の赤色シフトが観察される(図1)。組成物に基づいて、液体結晶相に相当する発光スペクトルが予期される。しかしながら本発明のラウルダン標識脂質粒子はゲル様でも液体結晶様でもないスペクトルを示した。故にデータにより、おそらくはこの粒子の水濃度および動力学が改変されているために、この粒子のラメラ組織がリポソームのものと異なることが示される。不連続デキストラン勾配で実施された遠心研究により、リポソームよりも容易に浮遊する粒子が示された。故に本発明の脂質構造体は典型的なリポソームと比較して、改変された脂質組織および動力学、内部水容量、頭部基付近の水濃度および/または動力学を有すると思われる。加えて粒子はラメラリポソームよりも軽いかもしれない。
【0010】
脂質粒子におけるタンパク質の会合効率およびPIを含む脂質粒子と会合したタンパク質の免疫原性の低下は、PIがPS、PAまたはPGと置き換えられた類似の組成物に関するものよりも大きかった。PI、PS、PAおよびPGは全て陰イオン性リン脂質であるので、PIを使用することにより得られた有利性は驚くべきものであった。さらに試験したタンパク質の一つであるFVIIIはPIよりもPSにより貪欲に結合することが知られているので、PI含有脂質構造体に関するFVIIIの会合効率がPS含有リポソームに関するものよりも高かったことは驚くべきことであった。
【0011】
本発明はまた脂質構造体を調製するための方法をも提供する。適当なバッファー中適切なモル比のPC、PIおよびコレステロールを使用する薄い脂質フィルムの水和により脂質構造体を調製することができる。脂質をクロロホルムに溶解し、そして溶媒を乾燥させる。得られた多重膜ベシクル(MLV)を高圧下、望ましい大きさのフィルター(定寸装置:sizing device)を通して押し出して本発明の脂質構造体が得られる。粒子が細網内皮系(RES)で濾去されずに、免疫系反応に利用できるようになるために、脂質粒子径は140nm未満(顕微鏡写真および動的光散乱測定値から計算されるように)にすべきであるのが一般的に好ましい。故に少なくとも50%の粒子を140nm未満にするのが好ましい。さらに好ましくは、粒子は120nm未満、そしてなおさらに好ましくは40nmと100nmの間であるべきである。種々の実施態様では、50、60、70、80および90%の粒子が140nm未満であり、そしてさらに好ましくは40nmと100nmの間である。
【0012】
タンパク質を脂質構造体と会合させるために、適当なバッファー中のタンパク質を脂質構造体に加える。次いで密度勾配遠心法のような日常的な遠心方法により遊離タンパク質を脂質構造体から分離する。種々の実施態様では、タンパク質の脂質粒子との会合効率は少なくとも30、40、50、55、60、65、70、75、80、85、90および95%である。望ましくは、会合した治療薬を伴う脂質粒子を将来使用するために凍結乾燥することができる。
【0013】
一つの実施態様では、タンパク質との会合の前に本発明の脂質構造体を凍結乾燥し、そして保存することができる。必要な場合、使用前に脂質構造体を再構成し、そして次にタンパク質を脂質構造体と会合させるタンパク質との組み合わせのために使用することができる。
【0014】
本発明を、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのような治療薬と、脂質構造体との会合のために使用することができる。広い生化学的特性を有するタンパク質およびペプチドを粒子に負荷することができる。タンパク質は中性または(負または正に)荷電していてよい。かかるタンパク質には第VIII因子(FVIII)、第VII因子(FVII)、第IX因子(FIX)、第V因子(FV)および フォンウィルブランド因子(vWF)、フォンヘルデブラント因子(von Heldebrant Factor)、組織プラスミノーゲンアクチベーター、インスリン、成長ホルモン、エリスロポエチンアルファ、VEG−F、トロンボポエチン、リゾチーム等を含む血液凝固カスケードに関与するタンパク質が含まれる。
【0015】
PCの対PI対コレステロール比率は30:70:1から70:30:33までの間でよい。故にPCのPIに対する比率は30:70から70:30の間で変化し得る。一つの実施態様では、それは40:60から60:40の間であり、そして別の実施態様では45:55から55:45の間である。別の実施態様では、それは50:50である。33%よりも高いコレステロール比率(PCおよびPIを合わせたもののパーセンテージ)で形成された構造は安定性を欠くので、コレステロールは1%と33%の間である。一つの実施態様では、コレステロールは5−15%である。
【0016】
タンパク質の脂質構造体との会合は、タンパク質の脂質に対するモル比が1:200(タンパク質:脂質)から1:30000(タンパク質:脂質)の間であるようにできる。一つの実施態様では、それは約1:10000(タンパク質:脂質)である。その他の実施態様では、比率は約1:2000または1:4000である。
【0017】
リン脂質PCおよびPIは2本のアシル鎖を有する。グリセロールバックボーンに結合するアシル鎖の長さは12から22個の炭素原子の長さで変化する。アシル鎖は飽和または不飽和でよく、そして長さは同一であっても異なっていてもよい。12から22個の炭素原子の飽和および不飽和アシル鎖のいくつかの非限定例を表1Aおよび1Bに示す:
【0018】
【表1】

【0019】
PCに結合するアシル鎖は好ましくは12から22である。これらは飽和または不飽和でよく、そして同一または異なる長さでよい。PIに結合するアシル鎖は12から22で形成されてよく、そして飽和または不飽和でよい。PCおよびPIの鎖は同一または異なる長さでよい。
【0020】
PCおよびPIを天然および合成の双方の種々の供給源から入手することができる。例えば大豆PIおよび卵PCは市販により入手可能である。加えて、合成PCおよびPIもまた市販により入手可能である。
【0021】
静脈内、筋肉内、腹腔内、粘膜、皮下、経皮、皮内、経口等のような任意の標準的な経路により組成物を送達することができる。
【0022】
本発明を以下の実施例により記載する。それは説明を意図し、いかなる制限をも意図しない。
【0023】
実施例1
この実施例は脂質粒子の調製について記載する。
材料:アルブミン不含全長rFVIII(Baxter Health Care Glendale、カリフォルニア州)を抗原として使用した。Advateは西ニューヨーク血友病財団から寄贈された。ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)および大豆ホスファチジルイノシトール(Soy PI)をAvanti Polar Lipids(アラバスター、アラバマ州)から購入した。コレステロール、IgG不含ウシ血清アルブミン(BSA)およびジエタノールアミンをSigma(セントルイス、ミズーリ州)から購入した。ヤギ抗マウスIgおよび抗ラットIg、アルカリ性ホスファターゼ抱合体をSouthern Biotechnology Associates社(バーミングハム、アラバマ州)から入手した。p−ニトロフェニルリン酸二ナトリウム塩をPierce(ロックフォード、イリノイ州)から購入した。モノクローナル抗体ESH4、ESH5およびESH8をAmerican Diagnostica社(グリニッチ、コネチカット州)から購入した。モノクローナル抗体N77210MをBiodesign International(サコ、メイン州)から購入した。正常凝固対照血漿およびFVIII欠損血漿をTrinity Biotech(ウィックローカウンティー、アイルランド)から購入した。DiaPharma Group(ウェストチェスター、オハイオ州)のCoamatic第VIII因子キットを使用して血漿試料中のrFVIII活性を測定した。
【0024】
rFVIII−PI脂質粒子の調製:
トリスバッファー(TB)(25mMトリスおよび300mM NaCl、pH=7.0)を用いる適切なモル比のDMPC、大豆PIおよびコレステロール(50:50:5)の薄い脂質フィルムの水和により粒子を調製した。必要量の脂質をキマックス(kimax)管中でクロロホルムに溶解し、そしてBuchi−R200ロータエバポレーター(Fisher Scientific、ニュージャージー州)を用いて溶媒を乾燥させた。脂質分散物をボルテックスにより、37℃で20分間混合して多重膜ベシクル(MLV)を形成した。得られたMLVを高圧押出機(Mico社、ミドルトン、ウィスコンシン州)中250psi以下の圧力で孔径80nmの二重ポリカーボネート膜(GE Osmonics Labstore、ミネトンカ、ミネソタ州)を通して押し出し、そして次に0.22μm MillexTM−GPフィルターユニット(Millipore Corporation、ベッドフォード、マサチューセッツ州)を通して滅菌濾過した。リン酸塩アッセイを用いてリン脂質濃度を推定した。Nicomp Model CW380粒子径分析器(Particle Sizing Systems、サンタバーバラ、カリフォルニア州)を用いて粒子径をモニタリングした。37℃で脂質粒子にタンパク質を添加し、そしてこの過程の間にTB中のCa2+イオン濃度を5mM CaClから0.2mM CaClに低下させて、最適な脂質−Ca2+相互作用を確実にし、そして脂質相変化を可能にした。特記しない限り、全実験に関して、タンパク質の脂質に対する比率を1:10000に維持した。
【0025】
rFVIII−PIからの遊離rFVIIIの分離:
不連続デキストラン密度勾配遠心技術を用いて脂質粒子から遊離タンパク質を分離した。手短にいえば、5mlポリプロピレン遠心管中でインキュベートしたrFVIII−PI混合物0.5mlを20(重量/容量)%デキストラン(Ca+2不含TB中)1.0mlと混合した。次いで10(重量/容量)%デキストラン3ml、続いてCa+2不含TB0.5mlを混合物の上部に注意深く添加した。Beckman SW50.1ローター中45000rpmで、4℃で30分間遠心した後、結合タンパク質および遊離脂質粒子はデキストラン帯の上部まで浮遊し、非結合rFVIIIは勾配の底部に留まる。一段階活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイを用いてrFVIII−PIのタンパク質会合効率を推定した。この手順により会合効率72±9%を生じ、これはホスファチジルセリン(PS)含有リポソームで観察されたもの(45±16.8%)よりも非常に高い(Purohitら、Biochim Biophys Acta 1617:31−38(2003)、Kemball−Cookら、Thromb Res 67:57−71(1992))。
【0026】
実施例2
この実施例は、実施例1で調製された脂質構造体の特徴付けについて記載する。フォームバールコーティングしたグリッド上で空気乾燥し、そして2%酢酸ウラニルでおよそ1分間ネガティブ染色することにより顕微鏡分析用の脂質分散試料を調製した。Hitachi H500 TEMを使用し、75kVで操作して試料を写真撮影した。Agfa Duoscan T1200スキャナを用いて陰画を300dpiでスキャンした。透過型電子顕微鏡研究を用いて測定された粒子の形態は以下を示した。粒子径はほぼ100nmであり、動的光散乱研究と合致することが見出された(データは示していない)。顕微鏡写真の分析により、リポソームラメラに典型的なドーナツ様構造は観察されず、代わりにディスク様構造の粒子が示され(図2a)、そしてリポソームと区別される、高いモル%のFVIIIを収容できる独特な脂質組織を形成することが可能である。
【0027】
実施例3
この実施例はrFVIIIおよびrFVIII−PIの蛍光分析について記載する。rFVIIIの三次構造に及ぼすPIの影響を、280nmまたは265nmのいずれかでの試料の励起により測定し、そして300−400nmの範囲の波長で発光をモニタリングした。PTI−Quantamaster蛍光分光光度計(Photon Technology International、ローレンスビル、ニュージャージー州)でスペクトルを獲得した。タンパク質濃度は5μg/mlであり、そしてスリット幅を4nmに設定した。この粒子に負荷されたFVIIIの蛍光発光スペクトルは遊離タンパク質と比較して最大発光の青色シフトを示し、これはFVIIIが疎水性環境に置かれていることを示唆している(図2b)。この観察は、蛍光特性の変化が観察されなかった(Purohitら、2003)PS含有リポソームと会合したFVIIIに関して観察された蛍光スペクトルと対照的であり、そして結晶学的および生物物理学的研究に基づいて提示される分子モデルに合致する。FVIIIはC2ドメインのC末端領域(2303−2332)を介してのみPS含有リポソームと会合し、そして分子の残りはバルク水に接近可能である(Purohitら、2003)。しかしながらFVIII−PI微粒子では、FVIIIの分子表面のほとんどが脂質粒子の疎水性アシル鎖領域に埋没している、および/または、PI粒子に対し、そのタンパク質は脂質界面での水濃度がより少ない脂質−水界面に位置する可能性がある。
【0028】
実施例4
この実施例はサンドイッチELISAおよびrFVIII−PI会合に関与するrFVIIIエピトープの検出について記載する。PIと会合したrFVIIIエピトープを測定するためにサンドイッチELISAを実施した。手短にいえば、Nunc−Maxisorb96ウェルプレートを炭酸塩バッファー(0.2M、pH9.6)中の適切な濃度の捕捉モノクローナル抗体で、4℃で一晩コーティングした。次いでプレートをTween−PBS(2.7mM KCl、140mM NaCl、1.8mM KHPO、10mM NaHPO・2HO、0.05(重量/容量)%Tween20、pH7.4)で洗浄し、そして次に1%BSA(PBS中で調製)で、室温で2時間遮断した。0.5μg/mlの種々の希釈のrFVIII−PI(1:0、1:5000、10000、および50000)または遮断バッファー中のPI含有リポソーム100μlを37℃ で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、そして次に遮断バッファー中1:1000希釈のヤギ抗ラットIg−アルカリ性ホスファターゼ抱合体を含有する1:500希釈のラットポリクローナル抗体100μlと共に室温で1時間インキュベートした。最後の洗浄の後、ジエタノールアミンバッファー(1Mジエタノールアミン、0.5mM MgCl)中1mg/ml p−ニトロフェニルリン酸溶液200μlを添加し、そして室温で30分間インキュベートした。3N NaOH100μlを添加して反応を停止させた。プレートリーダーを用いて405nmで光学密度を測定した。
【0029】
PIと会合した分子表面部分を調査するために、サンドイッチELISA研究を実施した(図2cおよび2d)。この実施例の理論的根拠は、脂質粒子と会合したドメインは遮蔽され、そしてそれ故にモノクローナル抗体結合に利用できないということである。したがって、サンドイッチELISAはバルク水性区画に接近可能なタンパク質表面に対する洞察を提供する間接的な定量的方法である。種々の抗体の結合親和性の差異を説明するために、PI不在下でのFVIIIの結合を100%に正規化し、そしてPI存在下での抗体結合の低下を、PI結合に関与するFVIIIのドメインとして解釈した。ホスファチジルコリン(PC)ベシクルにおけるFVIIIの会合効率がほぼ10±4%であるので、PCベシクル(PC小胞)を陰性対照として使用した(Purohitら、Biochim Biophys Acta 1617:31−38(2003))。結晶学的および生物物理学的/生化学的研究に基づいてPSリポソームをC2ドメイン抗体の結合に関する陽性対照として使用した。2303−2332を伴うC2ドメインのC末端領域は脂質結合に関与し、そしてA2ドメインはリポソーム表面からさらに離れていることが示されている(Stoilova−McPhieら、Blood 99:1215−1223(2002))。この分子トポロジーに基づいて、C2およびA2ドメインは空間的に十分に隔てられており、そしてC2ドメインの脂質結合領域のみがリポソーム会合により抗体結合から遮蔽され得る(Purohitら(2003)、Stoilova−McPhieら(2002))。PS含有リポソームに結合するFVIIIのこの分子モデルに基づいて、C2およびA2ドメインに対して指向するモノクローナル抗体を選択した。その結果により、PIに接触しているFVIIIの分子表面はPSに関して観察されたものとは異なることが示された。PCリポソームでは、抗体結合における脂質濃度依存性変化は観察されず、それはFVIIIとPCとの間の特異的結合がないことを示しており、一方PSベシクルに関しては、脂質結合ドメイン(ESH4)に対して指向する抗体に関してのみ脂質濃度依存性変化が観察され、それは結晶学研究に基づいて提示されたモデルに合致する。しかしながらFVIII−PIに関しては、この研究において使用された全てのモノクローナル抗体が結合の低下を示し、そしてPI濃度に依存した(図2d)。その結果は、C2およびA2ドメインの双方が、おそらくは立体障害のために、抗体結合できるほど近づけないか、および/またはFVIII分子の実質的な表面部分がPI粒子に埋没していることを示した。
【0030】
実施例5
この実施例はrFVIIIおよびrFVIII−PIのCD分析について記載する。d−10カンファースルホン酸で較正されたJASCO−715分光偏光計でCDスペクトルを獲得した。タンパク質の脂質に対する比率は、用いられたタンパク質濃度が20μg/ml(98.6IU/ml)である時1対2500であった。10mm石英キュベットを使用して255から208nmの範囲にわたって二次構造分析に関するスペクトルが得られた。加熱速度60℃/時を用いて20から80℃で、215nmでの楕円率をモニタリングすることによりrFVIIIおよびrFVIII−PIの熱変性を測定した。脂質粒子の存在による光散乱効果を前述のように補正した(Balasubramanianら、Pharm Res 17:344−350(2000))。
【0031】
CD研究により、タンパク質のCDスペクトルはPI会合により変化しなかったので、かかる分子トポロジーはタンパク質の二次構造を改変しないことが示された(図2e)。しばしば熱アンフォールディングを使用して固有の安定性を調査する。PIナノ粒子と会合したFVIIIは、FVIIIに関して観察されたものよりわずかに高いTmを有してより浅い溶融を示し、それはFVIIIのPIとの会合がFVIIIの固有の安定性を高めることを示している(図2f)。
【0032】
実施例6
表2A−2Cで示されるようないくつかのバッファー系でタンパク質の会合を実施した。全例でタンパク質の脂質に対する比率は1:10000であった。次いで密度勾配遠心法により脂質構造体から遊離タンパク質を分離し、そして活性および分光アッセイを用いて各分画と会合したタンパク質を測定した。
【0033】
表2Aは様々なバッファー組成物を用いて37℃で50%DMPC:50%SPI:5%Chol(100nm)と会合したrFVIIIのパーセンテージを示す。表2Bは様々なバッファー組成物を用いて37℃で50%DMPC:50%SPI(100nm)と会合したrFVIIIのパーセンテージを示す。表2C:様々なバッファー組成物を用いて37℃で50%DMPC:50%SPI:15%Chol(100nm)と会合したrFVIIIのパーセンテージ。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例7
この実施例は免疫原性研究について記載する。すなわちFVIII遺伝子のエクソン16に標的欠失を有する血友病Aマウス(C57BL/6J)の雌雄対を使用した。血友病Aマウスのコロニーを確立し、そして8−12週齢の動物をインビボ研究で使用した。マウスの性別は免疫応答に影響力を有さないので、雄および雌双方のマウスを研究に使用した。
【0036】
遊離rFVIIIおよびrFVIII−PIの相対免疫原性を血友病Aマウスにおいて測定した。FVIIIに対する抗体応答パターンは血友病患者において観察されるものに非常に類似するので、このマウスモデルはFVIIIの免疫原性を調査するのに適当である。マウス雄8匹および雌10匹にFVIII(400IU/kg)10IUを各々静脈内注射(陰茎静脈を介して)および皮下注射で4回毎週投与した。最後の注射の2週間後に血液試料をクエン酸デキストロース(ACD)バッファー(85mMクエン酸ナトリウム、110mM D−グルコースおよび71mMクエン酸)中に10:1(容量/容量)の比率で心穿刺により収集した。5000rpm、4℃で5分間遠心して血漿を分離した。遠心後直ぐに試料を−80℃で保存した。 ELISA研究により全力価を測定し、そして前述のようなベセスダアッセイ変法を用いて(verbruggenら、Thromb Haemost 73:2470251(1995))阻止力価を測定した。
【0037】
その結果により、PIは血友病マウスにおける抗体応答を低下させることが示された(図3)。rFVIII−PIで処置された動物は、rFVIII単独で処置された動物と比較して有意に低い全抗体力価を示した(図3aおよび3c)。rFVIII単独で処置された動物に関する値13167±2042(n=15)と比較して、皮下経路により与えられたFVIII−PIに関する力価は2379+556(±S.E.M;n=10)であった。これらの差異はp<0.05で有意であった。静脈内注射によりrFVIII−PIで処置された動物もまたより低い平均抗体力価を示しており、FVIII−PIに関する抗体力価は3321±874(n=8)になることが見出され、そしてrFVIIIで処置されたものは4569±1021(n=8)の力価を有したが、この差異は有意ではなかった。しかしながら、タンパク質の活性を抑制する阻止力価は皮下および静脈内の双方の経路により与えられたFVIII−PIに関して有意に低下した(図3bおよび3d)。皮下投与に関して、阻止力価は70%を超えて低下した。FVIII単独で静脈内経路により与えられた動物に関して、阻止力価は675±71であり、そしてそれはFVIII−PIに関しては385±84まで低下し、そしてこの低下は p<0.05で統計的に有意である。これらの結果は合わせて、PI含有脂質粒子が抗rFVIII抗体力価全体を低下させるのみならず、タンパク質の活性を抑制する抗体の力価をも低下させることを示している。
【0038】
実施例8
この実施例は薬物動態研究について記載する。rFVIIIまたはrFVIII−PI(10IU/25g)を雄血友病Aマウスに陰茎静脈を介して単回静脈内ボーラス注射として投与した。注射後0.08、0.5、1、2、4、8、16、24、36および48時間後に心穿刺により血液試料をACDバッファー(10:1容量/容量)の入ったシリンジに収集した(n=3マウス/時点)。直ちに遠心により血漿を収集し(5000rpm、5分間、4℃)、そして分析まで−70℃で保存した。発色アッセイを用いて血漿試料中のrFVIIIの活性を測定した。各時点のrFVIII活性の平均値を用いて基本的な薬物動態パラメーター(半減期、MRTおよび血漿活性曲線下面積)をノンコンパートメント分析(NCA)20(WinNonlin Pharsight Corporation、マウンテンビュー、カリフォルニア州)により計算した。0から、活性が測定可能な最後の時点までの血漿活性下面積(AUC)対時間曲線を、対数線形台形法により測定した。消失速度定数(ラムダz)を最終相濃度の対数線形回帰により推定した。消失半減期(t1/2)をln2/ラムダzとして計算し、そしてMRTをAUMC/AUC(ここでAUMCは濃度と時間の積対時間の曲線プロット下の面積である)から計算した。
【0039】
Minitab(Minitab社、ステートカレッジ、ペンシルバニア州)を用いてANOVAによりデータを分析した。スチューデント非依存t検定および一元配置ANOVA、続いてDunnetteの事後多重比較検定により統計的な差異(p<0.05)を検出した。PK研究に関しては、反復測定ANOVAを用いて、二つの処置により作成されたプロフィールを比較した。Bailer−Satterthwaite法を用いて二つの処置間の全身暴露における差異を比較した。
【0040】
MRTおよびAUCはFVIIIに比較してFVIII−PIに関してより高いことが見出され、そしてまた最終排出相の延長も示された。PI脂質粒子と会合したFVIIIの循環半減期(7.6時間)は遊離FVIIIに関して観察されたもの(2.3時間)よりも長い。FVIII−PI粒子を与えられた動物に関して注射の48時間後に実質的なタンパク質活性が検出され;対照的にFVIII単独を投与された動物においては48時間後に検出可能なFVIII活性は観察されなかった(図4)。さらにタンパク質活性は、PS含有リポソームの投与に続く24時間のみ検出可能であった(データは示していない)。これはRESによるPSリポソームの迅速な取り込みに起因する。しかしながらPIの存在下では細胞の取り込みが低下し、そしてPIのステルス様特性に合致する。
【0041】
実施例9
この実施例はrFVIIIおよびトランケートされた(切断)FVIII,BDDrFVIIIに関する会合効率について記載する。FVIIIまたはBDDrFVIIIを有する脂質構造体を上述の方法により調製した。これらのタンパク質に関する会合パーセントを表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
上述のように、rFVIIIおよびBDDrFVIIIの双方に関して、DMPC:SPI:コレステロール(50:50:5)処方はその他の処方よりも最も高い会合効率を示した。コレステロールは血漿中のリポソーム安定性を高めるために処方に含められるのが好ましい。リポソームの大きさおよび会合温度、ならびに脂質濃度の全てが会合において重要な役割を果たす。DMPC:SPI:コレステロール(50:50:5)処方は驚くべきことに、BDDrFVIIIがより低い分子量および大きさを有しているにもかかわらず、BDDrFVIIIよりもrFVIIIに関してより高い会合を有する。Bドメイン欠失の結果としての立体構造の変化は、PI含有脂質粒子に対するBDDrFVIII結合親和性の低下の原因となり得る。
【0044】
薬物動態研究
雄血友病マウス(20−24g、22−25週齢)に脂質構造体と会合したrBDDFVIII(PI−BDDrFVIIIと称される)10IU/25gを単回静脈内ボーラス注射として陰茎静脈を介して与えた。投与後0.08、0.5、1、2、4、8、16、24、36および48時間に心穿刺により血液試料を収集し(n=1/時点)、そしてクエン酸デキストロース(ACD)に10:1(容量/容量)の比率で加えた。5000g、4℃で5分間遠心して血漿を分離し、そして分析まで−70℃で保存した。発色アッセイによりタンパク質の活性に関して血漿試料を分析した。次いで各時点で測定されたBDDrFVIIIの活性を利用して基本PKパラメーターを推定した(半減期、t1/2および血漿活性曲線下面積/暴露、AUAC)。
【0045】
遊離BDDrFVIIIおよびPI−BDDrFVIII処方に関するPK正規化PKプロフィール(n=1)を図5に示す。曲線下面積AUC(時×IU/ml)または遊離BDDrVIIIは955.1であり、そして脂質構造体と会合したBDDFVIIIに関しては1058.7であった。
【0046】
実施例10
この実施例はその他の実施例においてPI含有脂質構造体との比較のために用いられたPS含有リポソームの調製について記載する。最終タンパク質濃度が3μg/mlで一定となるような方法で様々な濃度のO−ホスホ−L−セリン(OPLS)またはホスホコリンを含有する溶液とBDDrFVIIIを混合した。OPLSまたはホスホコリン濃度は0と100μMの間で変動した。各混合物はさらなる分析に供する前に5分間インキュベートする。漸増濃度のリン脂質頭部基の存在下でのBDDrFVIIIの固有の蛍光をQuanta Master PTI装置で測定した。励起を285nmに設定し、そして最大ピーク(例えば330nm)で発光を記録した。正規化された蛍光(F/F)データを[脂質]に対してプロットし、そして脂質頭部基−BDDrFVIII相互作用に関する解離定数の決定のために使用した。
【0047】
OPLSおよびPC頭部基の存在下および不在下でのBDDrFVIIIの凝集過程をモニタリングするために、電動偏光プリズムを装着したQuanta Master PTI蛍光分光光度計を使用して、試料蛍光異方性を温度の関数として測定した。データを異方性対温度としてプロットし、そしてシグモイド曲線に適合させた。各曲線の屈折点が得られた。
【0048】
OPLSに関する解離定数(Kd(μM))は70.2であり、そしてホスホコリンに関しては24.2であった。遊離BDDrFVIIIに関する屈折点は71.6であり、OPLSリポソーム中のBDDrFVIIIに関しては79.4であり、そしてホスホコリンリポソーム中のBDDrFVIIIに関しては72.2であった。
【0049】
BDDrFVIII−OPLS複合体の免疫学的特性を研究するために、8から12週齢の血友病マウスに異なるBDDrFVIII処方(遊離BDDrFVIIIおよびBDDrFVIII−OPLS複合体(前述のように調製)であり、[OPLS]=10mM)を含有する注射を4回毎週投与した。各注射のための用量は10IU/動物である。最後の注射の2週後に血液試料を収集し、そしてベセスダアッセイ変法を用いて阻止抗体の存在に関して分析した。その結果、BDDrFVIII−OPLS複合体に関する免疫応答は遊離BDDrFVIIIと比較して統計的に有意に低下することが示された(p<0.05)。
【0050】
rFVIIIおよびBDDrFVIII−ホスファチジルセリン含有リポソームに関する会合効率を測定した。ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC):脳ホスファチジルセリン(BPS)リポソーム(モル比70:30)。必要とされる量のDMPCおよびBPSをクロロホルムに溶解した。Buchi−R200ロトエバポレーター(rotoevaporator)(Fisher Scientific)中で溶媒を除去することにより、ガラス管の壁面に薄い脂質フィルムが形成された。脂質フィルムを37℃でトリスバッファー(TB 25mm トリス、300mM NaCl、5mM CaCl pH=7.4)と再水和することによりリポソームを調製した。高圧押出機(Lipex Biomembranes社)を用いて200psi以下の圧力で、二重積層された100nmまたは200nmのポリカーボネート膜を通してリポソームを8回押し出した。リポソームの粒子径分布をNicomp Model CW380粒子径分析器(Particle Sizing Systems)を用いてモニタリングした。
【0051】
リポソームタンパク質調製
リポソームの存在下タンパク質を37℃で30分間、時折穏やかに旋回しながらインキュベートすることにより、予め形成されたリポソームとタンパク質との会合を実施した。全調製物に関してタンパク質を同一のモル比に維持した(1:10000)。
【0052】
予め形成されたタンパク質−リポソーム混合物のPEG化(PEGylation)
1,2ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)2000](DMPC−PEG2000)または1,2ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)2000](DSPE−PEG2000)の乾燥粉末にリポソーム調製物を添加することにより予め形成されたリポソームのPEG化を達成した。室温で45分間インキュベーションを実施した。DMPC−PEG2000の予め形成された脂質二重層への移動を促進するために、DMPC−PEG2000濃度が臨海ミセル濃度を下回った状態を維持するように注意を払った。
【0053】
リポソーム会合タンパク質からの遊離タンパク質の分離
リポソームと会合したタンパク質の量を推定するために、不連続デキストラン密度勾配での浮遊によりリポソーム会合タンパク質から遊離タンパク質を分離した。手短にいえば、5mlポリプロピレン遠心管中でリポソーム−タンパク質混合物0.5mlを20(重量/容量)%デキストラン(カルシウム不含トリスバッファー中)1mlと混合し、そして10(重量/容量)%デキストラン3mlおよびカルシウム不含トリスバッファー0.5mlをリポソーム含有帯に積層した。勾配を、Beckman SW50.1ローター中45000rpmで30分間超遠心に供した。リポソームおよびその会合タンパク質はバッファー/10%デキストラン帯の界面に浮遊し、そして会合していないタンパク質は底部に留まった。一段階活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイを用いてリポソームと会合したタンパク質の活性を測定した。結果を表4Aおよび4Bに示す。
【0054】
【表4】

【0055】
BDDrFVIIIは、ホスファチジルセリン(PS)含有脂質膜に対する結合特性およびその活性を含む、親分子の全ての重要な構造的特徴を保持する。BDDrFVIIIの会合効率は全長rFVIIIに関して観察されたものよりも高かった。
【0056】
BDDrFVIII−PS含有リポソームの免疫学的特性もまた試験した。8から12週齢の血友病マウスにBDDrFVIII−PS含有リポソーム(実施例3に記載されるように調製)10IUを含有する注射を4回毎週投与した。最後の注射に続く2週間血液試料を収集し、そしてベセスダアッセイ変法を用いて阻止抗体の存在に関して分析した。
【0057】
実施例11
この実施例は、比較目的で使用されたPSおよびホスファチジルエタノールアミン(PE)含有リポソームと会合したBDDrFVIIIの会合効率について記載する。
【0058】
リポソーム調製
DMPC:BPS:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)(モル比70:10:20)を以下に記載するように調製した:必要とされる量のDMPC、BPSおよびDOPEをクロロホルムに溶解した。Buchi−R200ロトエバポレーター(Fisher Scientific)中で溶媒を除去することにより、ガラス管の壁面に薄い脂質フィルムが形成された。脂質フィルムを37℃でトリスバッファー(TB 25mm トリス、300mM NaCl、5mM CaCl pH=7.4)と再水和することによりリポソームを調製した。高圧押出機(Lipex Biomembranes社)を用いて200psi以下の圧力で二重積層された100nmのポリカーボネート膜を通してリポソームを8回押し出した。粒子の粒子径分布をNicomp Model CW380粒子径分析器(Particle Sizing Systems)を用いてモニタリングした。
【0059】
リポソームタンパク質調製
リポソームの存在下タンパク質を37℃で30分間、時折穏やかに旋回しながらインキュベートすることにより、予め形成されたリポソームとタンパク質との会合を達成した。全調製物に関してタンパク質を同一のモル比に維持した(1:10000)。
【0060】
予め形成されたタンパク質−リポソーム混合物のPEG化
1,2ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)2000](DMPC−PEG2000)または1,2ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)2000](DSPE−PEG2000)の乾燥粉末にリポソーム調製物を添加することにより予め形成されたリポソームのPEG化を達成した。室温で45分間インキュベーションを実施した。DMPC−PEG2000の、予め形成された脂質二重層への移動を促進するために、DMPC−PEG2000濃度が臨海ミセル濃度を下回った状態を維持するように注意を払った。
【0061】
リポソーム会合タンパク質からの遊離タンパク質の分離
リポソームと会合したタンパク質の量を推定するために、不連続デキストラン密度勾配での浮遊により、リポソーム会合タンパク質から遊離タンパク質を分離した。手短にいえば、5mlポリプロピレン遠心管中でリポソーム−タンパク質混合物0.5mlを20(重量/容量)%デキストラン(カルシウム不含トリスバッファー中)1mlと混合し、そして10(重量/容量)%デキストラン3mlおよびカルシウム不含トリスバッファー0.5mlをリポソーム含有帯に積層した。勾配を、Beckman SW50.1ローター中45000rpmで30分間超遠心に供した。リポソームおよびその会合タンパク質はバッファー/10%デキストラン帯の界面に浮遊し、そして会合していないタンパク質は底部に留まった。一段階活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイを用いてリポソームと会合したタンパク質の活性を測定した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
PS含有リポソームは細網内皮系(RES)により循環から迅速に排除される。ホスファチジルエタノールアミン(PE)はPS含有脂質に対するFVIIIの親和性を上昇させる。本実施例では、PSの消費でPEが組成物に添加される。PE濃度の上昇に伴って会合効率が上昇することが見出される(実験番号IおよびIIを比較)。PEGの不在下では、DOPEの不在下よりもDOPE含有粒子に関して会合効率は高くなることが見出される(実験番号IIおよびIII)。処方中のPS含量は低下するが、高い会合効率を達成することが、BDDrFVIIIの薬理学的特性の観点からより有利である。
【0064】
実施例12
この実施例はこの方法の別のタンパク質、第VII因子への適用について記載する。この実施例ではFVIIを含む脂質構造体を調製した。必要とされる量のDMPC、SPIおよびChol(ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC):大豆ホスファチジルイノシトール(SPI):コレステロール(Chol)(モル比50:50:5)をクロロホルムに溶解した。Buchi−R200ロトエバポレーター(Fisher Scientific)中で溶媒を除去することにより、ガラス管の壁面に薄い脂質フィルムが形成された。脂質フィルムを37℃で25mMトリスバッファー(300mM NaCl、pH=7.0;カルシウム不含)と再水和することにより脂質粒子(LP)を調製した。高圧押出機(Lipex Biomembranes社)を用いて200psi以下の圧力で二重積層された80nmのポリカーボネート膜を通してLPを20回押し出した。粒子の粒子径分布をNicomp Model CW380粒子径分析器(Particle Sizing Systems)を用いてモニタリングした。
【0065】
LPの存在下タンパク質を37℃で30分間インキュベートすることにより、タンパク質のLPとの会合を達成した。最初の2回の試験の調製に関しては、タンパク質の脂質に対するモル比を維持した(1:10000)。加えてまた1回の試験はタンパク質:脂質の比率1:2000を用いて調査した。
【0066】
LPと会合したタンパク質の量を推定するために、不連続デキストラン密度勾配での浮遊によりLP会合タンパク質から遊離タンパク質を分離した。手短にいえば、5mlポリプロピレン遠心管中でLP−タンパク質混合物0.5mlを20(重量/容量)%デキストラン(カルシウム不含トリスバッファー中)1mlと混合し、そして10(重量/容量)%デキストラン3mlおよびカルシウム不含トリスバッファー0.5mlをLP含有帯に積層した。勾配を、Beckman SW50.1ローター中45000rpmで30分間超遠心に供した。LPおよびその会合タンパク質はバッファー/10%デキストラン帯の界面に浮遊し、そして会合していないタンパク質は底部に留まった。分光学的アッセイを用いてLPと会合したタンパク質の濃度を測定した。タンパク質:脂質の比率が1:10000である時の会合パーセントは63.9±9.6%(n=3)であり、そしてタンパク質:脂質が1:2000である時の会合パーセントは40.1±1.1%(n=3)であった。
【0067】
実施例13
この実施例はこの方法の別のタンパク質、リゾチームへの適用について記載する。必要とされる量のDMPC、SPIおよびChol(ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC):大豆ホスファチジルイノシトール(SPI):コレステロール(Chol)(モル比50:50:5)をクロロホルムに溶解した。Buchi−R200ロトエバポレーター(Fisher Scientific)中で溶媒を除去することにより、ガラス管の壁面に薄い脂質フィルムが形成された。脂質フィルムを37℃で25mMトリスバッファー(300mM NaCl、pH=7.0;カルシウム不含)と再水和することにより脂質粒子(LP)を調製した。高圧押出機(Lipex Biomembranes社)を用いて200psi以下の圧力で二重積層された80nmのポリカーボネート膜を通してLPを20回押し出した。粒子の粒子径分布をNicomp Model CW380粒子径分析器(Particle Sizing Systems)を用いてモニタリングした。
【0068】
LPの存在下、リゾチームを37℃で30分間インキュベートすることにより、タンパク質のLPとの会合を達成した。タンパク質の脂質に対するモル比を1:2000に維持して調査した。
【0069】
LPと会合したタンパク質の量を推定するために、不連続デキストラン密度勾配での浮遊によりLP会合タンパク質から遊離タンパク質を分離した。手短にいえば、5mlポリプロピレン遠心管中でLP−タンパク質混合物0.5mlを20(重量/容量)%デキストラン(カルシウム不含トリスバッファー中)1mlと混合し、そして10(重量/容量)%デキストラン3mlおよびカルシウム不含トリスバッファー0.5mlをLP含有帯に積層した。Beckman SW50.1ローター中勾配を45000rpmで30分間超遠心に供した。LPおよびその会合タンパク質はバッファー/10%デキストラン帯の界面に浮遊し、そして会合していないタンパク質は底部に留まった。分光学的アッセイを用いてLPと会合したタンパク質の濃度を測定した。
【0070】
【表6】

【0071】
このように調製された粒子は粒子の内側にタンパク質を詰め込み、そして周囲環境から遮蔽する。これは図6に示されるようにアクリルアミドクエンチングデータにより支持される。これはプロテアーゼ分解からタンパク質を遮蔽し得るので、インビボ安定性を提供しうる。
【0072】
実施例14
この実施例は別のタンパク質、エリスロポエチン(EPO)の本発明の脂質粒子との会合について記載する。DMPC、SPIおよびChol[(ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC):大豆ホスファチジルイノシトール(SPI):コレステロール(Chol)(モル比50:50:5)]をクロロホルムに溶解した。Buchi−R200ロトエバポレーター(Fisher Scientific)中で溶媒を除去することにより、ガラス管の壁面に薄い脂質フィルムが形成された。脂質フィルムを37℃で25mMトリスバッファー(300mM NaCl、pH=7.0;カルシウム不含)と再水和することにより脂質粒子(LP)を調製した。高圧押出機(Lipex Biomembranes社)を用いて200psi以下の圧力で二重積層された80nmのポリカーボネート膜を通してLPを20回押し出した。粒子の粒子径分布をNicomp Model CW380粒子径分析器(Particle Sizing System)を用いてモニタリングした。
【0073】
LPの存在下、EPOを37℃で30分間インキュベートすることにより、タンパク質エリスロポエチンのLPとの会合を達成した。タンパク質の脂質に対するモル比を1:10000(3試験)および1:2000(1試験)に維持した。
【0074】
LPと会合したタンパク質の量を推定するために、不連続デキストラン密度勾配での浮遊によりLP会合タンパク質から遊離タンパク質を分離した。手短にいえば、5mlポリプロピレン遠心管中でLP−タンパク質混合物0.5mlを20(重量/容量)%デキストラン(カルシウム不含トリスバッファー中)1mlと混合し、そして10(重量/容量)%デキストラン3mlおよびカルシウム不含トリスバッファー0.5mlをLP含有帯に積層した。Beckman SW50.1ローター中勾配を45000rpmで30分間超遠心に供した。LPおよびその会合タンパク質はバッファー/10%デキストラン帯の界面に浮遊し、そして会合していないタンパク質は底部に留まった。分光学的アッセイを用いてLPと会合したタンパク質の濃度を測定した。
【0075】
蛍光分光法により決定されるように会合効率はタンパク質:脂質比率1:10000に関して74.90%、68.60%および68.50%、ならびにタンパク質:脂質比率1:2000に関して51%であった。
【0076】
本発明を具体的な実施例により記載してきたが、日常的な修飾は当業者には明白であり、そしてかかる修飾は本発明の範囲内であると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】液体もしくはゲルとしてのPC含有リポソーム単独または会合rFVIIIを伴うPI含有脂質粒子のラウルダン研究の生物物理学的および生化学的特徴を表す。
【図2】rFVIII−PIの生物物理学的および生化学的特徴(a):rFVIII−PIの透過型電子顕微鏡写真(TEM);(b):遊離rFVIIIおよびrFVIII−PI(1:10000)の正規化蛍光発光スペクトル;(c):rFVIII分子における特異的エピトープを標的とするこの研究において利用される捕捉モノクローナル抗体の一覧表;(d):種々の脂質濃度でのrFVIII−PIに対するモノクローナル抗体の結合。対照はタンパク質不含リポソームである;(e):20℃で獲得されるPIの存在下(1:2500)および不在下でのrFVIIIの遠紫外CDスペクトル;ならびに(f):PIの存在下および不在下での温度の関数としてのrFVIIIの楕円率の変化パーセント。
【図3】rFVIIIの免疫原性に対するホスファチジルイノシトールの効果。(a、c)は全抗体力価の平均(水平棒線)を示し、そして個々の(白丸)抗体力価は皮下および静脈内投与の後に各々測定された。(b、d)は阻止力価の平均(水平棒線)を示し、そして個々の(白丸)阻止力価は皮下および静脈内投与の後に各々測定された。
【図4】rFVIIIの薬物動態に及ぼすホスファチジルイノシトールの影響。遊離rFVIIIおよびrFVIII−PIの静脈内投与の後のrFVIII凝血活性の平均血漿濃度。
【図5】BDDrFVIIIの薬物動態に対するホスファチジルイノシトールの影響。遊離BDDrFVIIIおよびBDDrFVIII−PIの静脈内投与の後のBDDrFVIII凝血活性の平均血漿濃度。
【図6】遊離リゾチームおよびPI含有脂質粒子と会合したリゾチームをクエンチングするアクリルアミド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトールおよびコレステロールを含む脂質粒子であって、
PCのPIに対する比率が70:30から30:70の間であり、且つコレステロールがPCおよびPIを合わせたものの1から33%の間で存在し、
前記粒子のサイズは40から140nmの間である、脂質粒子。
【請求項2】
PCのPIに対する比率が60:40から40:60の間である請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
PCのPIに対する比率が55:45から45:55の間である請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
PCのPIに対する比率が50:50であり、且つコレステロールはPCおよびPIを合わせたものの5−15%の間である請求項3に記載の粒子。
【請求項5】
PCおよびPIの各アシル鎖が独立して12個から22個の炭素原子を有し、且つ飽和または不飽和である請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
粒子が凍結乾燥形態で存在する請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
PIが大豆PIであり、そしてPCが卵PCである請求項1に記載の粒子。
【請求項8】
請求項1に記載の脂質粒子を含み、且つ、当該脂質粒子と会合した一以上の治療薬をさらに含む組成物であって、前記治療薬はペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であり、当該治療薬の免疫原性が低下している組成物。
【請求項9】
治療薬が血液凝固カスケードに関与するタンパク質である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
治療薬が第VIII因子、第VII因子、第IX因子、第V因子、ウィルブランド因子(vWF)およびフォンヘルデブラント因子(vHF)からなる群から選択される請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
治療薬が組織プラスミノーゲンアクチベーター、インスリン、成長ホルモン、エリスロポエチンアルファ、VEG−F、トロンボポエチンおよびリゾチームからなる群から選択される請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
脂質粒子の少なくとも50%が140nm以下のサイズである請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
脂質粒子の少なくとも60%、70%、80%または90%が140nm以下のサイズである請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
脂質粒子の少なくとも50%、60%、70%、80%または90%が40から100nmの間のサイズである請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
脂質粒子のサイズが80nmから100nmの間である請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質からなる群から選択される治療薬の免疫原性を低下させる方法であって
a)PC、PIおよびコレステロールを含む多重膜ベシクルを定寸装置を通して押し出して140nm未満の脂質粒子を形成することにより請求項1に記載の脂質粒子を調製する工程;ならびに
b)治療薬を工程a)で調製された脂質粒子と混合し、治療薬の免疫原性を低下させる工程
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−532371(P2009−532371A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503092(P2009−503092)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/008311
【国際公開番号】WO2007/117469
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(506194117)ザ リサーチ ファウンデイション オブ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】